(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】微細なハイドロタルサイトを含有する吸着剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/30 20060101AFI20230405BHJP
B01J 20/08 20060101ALI20230405BHJP
C01F 7/00 20220101ALI20230405BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20230405BHJP
【FI】
B01J20/30
B01J20/08 C
C01F7/00
C02F1/28 E
(21)【出願番号】P 2019023189
(22)【出願日】2019-02-13
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2018023431
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505462714
【氏名又は名称】株式会社AZMEC
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【氏名又は名称】高橋 知之
(74)【代理人】
【識別番号】100188994
【氏名又は名称】加藤 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100194892
【氏名又は名称】齋藤 麻美
(74)【代理人】
【識別番号】100207653
【氏名又は名称】中村 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100121153
【氏名又は名称】守屋 嘉高
(74)【代理人】
【識別番号】100178445
【氏名又は名称】田中 淳二
(73)【特許権者】
【識別番号】506347517
【氏名又は名称】DOWAエコシステム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】正田 武則
(72)【発明者】
【氏名】吉 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】松方 正彦
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/087664(WO,A1)
【文献】特開2009-034564(JP,A)
【文献】特開2015-013283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
C01F 1/00-17/38
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウムと塩化アルミニウムを原料とし、原料中の結晶水を除いた固形分の質量の和を1としたときに、水の質量と原料中の結晶水の質量の和が
0.4-0.64になるように調整した水を加えて混合して混合物を得る混合工程と、この混合工程において得られた混合物を養生して吸着剤を得る養生工程を備えたことを特徴とする微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程において、原料中のマグネシウムとアルミニウムのモル比が3:1~13:1の範囲であることを特徴とする請求項1記載の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程において、消石灰、クリノプチロライト、モルデナイト、A型ゼオライト、X型ゼオライト、鉄粉、磁鉄鉱粉末のうちの少なくとも1種をさらに混合することを特徴とする請求項1又は2に記載の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤の製造方法。
【請求項4】
前記養生工程後に得られた吸着剤を水で洗浄した後、乾燥、粉砕することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒ素、セレン、フッ素、ホウ素、六価クロム、シアン、リン酸等の陰イオン形有害物質、塩素、臭素等ハロゲン物質を吸着除去するための微細なハイドロタルサイトを含有する吸着剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では、土壌汚染対策法が2003年から施行され、これ以降は、年間1万件を超える規模で土壌汚染調査が実施された。調査より発覚した土壌汚染は、殆どのケースにおいて、短期間で汚染を取り除くために、掘削除去による対策が実施されてきた。統計を見ると、汚染土壌の9割以上が掘削除去対策により敷地外に搬出され、その約半分がセメント工場で処理されている。このような汚染土壌の掘削除去対策の偏重が継続する中、2010年には土壌汚染対策法が改正され、環境リスク低減、経済合理性の観点から、掘削除去対策の抑制方針が盛り込まれた。
【0003】
この法改正に伴って、汚染土壌を原位置で処理するニーズが高まってきている。最近では、大型鉄道工事、オリンピック開催に伴う首都圏の高速道路ネットワーク整備等による大規模な土壌掘削工事が行われており、これに伴って、汚染土壌処理、地下水処理の需要が高まってきている。汚染土壌、地下水に含まれる有害物質の中では、環境中で陰イオンとして存在するフッ素、ホウ素、セレン等の効率的な処理が難しい。これらの有害物質に対する吸着性能が高く、経済性に優れた吸着剤製品の開発が求められている。
【0004】
アジア地域では、1980年代以降、工業生産の増加による経済拡大が生じており、これまで有害物質の排出抑制対策を十分行ってきていなかったため、土壌汚染、地下水汚染が深刻な状況となってきている。例えば、中国などの国では、有害物質の含有量が土壌1kgあたり数gの高濃度の土壌汚染を生じているケースが多い。このような事情により、アジア地域では、高濃度の有害物質を効率よく処理ができる吸着剤のニーズがある。
【0005】
次に、我が国の水質汚濁防止法では、2001年にホウ素・フッ素等に関する排水基準として、ホウ素及びその化合物10mg/L以下、フッ素及びその化合物8mg/L以下の一律排水基準が設定された。しかしながら、ホウ素、フッ素の経済的な水処理方法が未だ確立されていないために、実際の運用においては、技術的課題を有する業種に対して暫定排水基準の設定を行って、規制の緩和が行なわれた。その後も部分的に見直しが行われたが、一部の業種では、現在に至るまで、暫定排水基準による運用が行われている。
【0006】
以上に述べたように、ホウ素、フッ素等の陰イオン有害元素の処理を効率的に行う技術を確立することは、社会的意義が大きい。また、中国、タイ等のアジア地域においても、徐々に排水規制が強化されてきており、日本国内と同様に、ホウ素、フッ素等の陰イオン有害元素の水処理技術に対する需要が高まってきている状況である。
【0007】
ハイドロタルサイトは、構造式Mg2+
1-xAl3+
X(OH)2 (An-)X/n・zH2Oで表わされる層状の陰イオン交換体であることが知られており、従来から、吸着剤として利用する研究が行われてきている。しかしながら、ハイドロタルサイトは製造コストが高く、処理性能がコストに見合わないために、これまで、土壌処理剤、水処理剤として一般的に利用されるに至っていない。
【0008】
このような状況の中で、近年は、ハイドロタルサイトの吸着性能を向上させるための各種の研究開発が行われてきた。吸着性能が高いナノサイズハイドロタルサイト吸着剤及びこの製造方法に関する先行技術として、特許文献1~3が挙げられる。特許文献1には、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンを含む酸性溶液とアルカリ性溶液を混合し、熟成を行わずに水分を除去または中和することで合成され、結晶子サイズが20nm以下であることを特徴とするハイドロタルサイト様物質が示されている。特許文献2には、炭酸を含まない結晶子サイズが20nm以下の結晶質層状複水酸化物粉末が記載されており、これが炭酸を含まない条件下で、2価の金属陽イオンと3価の金属陽イオンとを含む酸性溶液とアルカリを含むアルカリ性溶液を一気に混合して沈殿を生成し、直ちに乾燥粉末化する工程により製造されることが示されている。また、特許文献3には、高いイオン交換能を有し、炭酸汚染が起こり難く、陰イオン吸着能力を長期間に渡り維持でき、安定性に優れていることを特徴とする層状複水酸化物が示されており、これが2価の金属陽イオン(M2+)ならびに3価の金属陽イオン(M3+)ならびにn価の陰イオンが存在する酸性溶液とアルカリ金属元素(A+)が存在するアルカリ性水溶液とを、反応系が常にpH8以下となるようにA+/M2+のモル比を2.5~3.0の範囲に調整して、一気に混合する製造方法により得られることが示されている。
【0009】
これらの先行技術によるハイドロタルサイトは、ナノサイズの結晶子から構成され大きな表面積をもつため、優れた吸着性能を有する特徴がある。しかしながら、これらの製造方法では、ナノサイズの結晶子を得るために、酸性液とアルカリ液を一気に混合し、ハイドロタルサイトの沈殿物を直ちに乾燥する凍結乾燥、凍結真空乾燥等の設備が必要となるために、製造コストが高価となる。また、これらの製造方法では、ハイドロタルサイト合成時にハイドロタルサイトの数倍質量にあたるナトリウム塩が同時に生成し、この分離・除去、乾燥、廃液処理のために製造コストが高価となる。さらに、残存ナトリウム塩により、合成されたハイドロタルサイトの吸着性能が低下するという問題があった。
【0010】
特許文献4には、酸化マグネシウム、溶解性アルミニウム塩を原料とする吸着剤の製造方法が記載されている。また、水溶液中で酸化マグネシウム、アルミニウム塩を長時間にわたり繰返し反応させて得られた、酸化マグネシウム粒子の周囲がハイドロサイトで被覆された吸着剤が示されている。この特許文献4の製造方法では、吸着剤の収率を向上させる目的で水溶液中で長時間撹拌を行って吸着剤の製造を行うため、合成されるハイドロタルサイトの結晶子は大きくなり、微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤を得ることはできない。さらに、この製造方法では、吸着剤を合成する工程において、固液分離、乾燥、水処理等、大きなエネルギーを要する問題がある。
【0011】
特許文献5には、反応場のクリアランスが1~30μmである薄膜式マイクロリアクター中で、マグネシウム塩とアルミニウム塩の混合水溶液、アルカリ物質および層間アニオンを反応させる、微細なハイドロタルサイト粒子の製造方法が示されている。
【0012】
このように、これまでに、種々の技術改良を行い、微細な結晶子をもつハイドロタルサイトの製造方法が研究されてきた。しかしながら、これらの技術では、塩化物、硝酸を多く含む原料を水溶液に溶解して合成を行うために、ハイドロタルサイトの数倍質量のナトリウム塩が同時に生成し、この副生物の洗浄・分離、廃液処理、乾燥等に大きなエネルギーを要することなり、製造は極めて難しくなるという問題がある。
【0013】
ハイドロタルサイトの合成時に生じた副生物であるナトリウム塩の分離除去を行うための方法として、先ず、フィルタープレスによる脱水が考えられる。しかしながら、フィルタープレスによる脱水では、通常、ナトリウム塩のおよそ40~50%が残留するため、十分な除去は難しい。
【0014】
ナトリウム塩の除去を確実に行う方法として、ハイドロタルサイトの3~5倍質量の水により、洗浄を数回繰り返す方法がある。この方法によればナトリウム塩の確実な除去が可能であるが、例えば、数トンの乾燥ハイドロタルサイトの製造に、数日~1週間の時間を要することになる。
【0015】
以上のように、従来技術では、固液分離、乾燥、副生物の除去、廃液処理等の工程により、ハイドロタルサイト製造を効率よく行うことは難しいため、製造コストが高くなり、また、製品の製造に長時間を要する。さらに、製造時に生じたナトリウム塩の残存により、ハイドロタルサイトの細孔の閉塞、残存した塩化物イオン、硝酸イオンの競合により吸着性能が低下する問題があった。残留イオンによる性能低下は、特に、吸着選択性が低いセレン、ホウ素等の有害物質の処理において影響が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】国際公開WO2005/087664号パンフレット
【文献】特開2005-306667号公報
【文献】特開2006-334456号公報
【文献】特開2012-106227号公報
【文献】国際公開WO2013/147285号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明が解決しようとする課題は、陰イオン形有害元素の吸着性能に優れたハイドロタルサイトを含む吸着剤の製造方法を提供することである。さらには、従来技術では処理が難しいフッ素、ホウ素、セレン等の有害元素の環境浄化に好適に使用できる、経済的かつ性能が高い吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、酸化マグネシウムと塩化アルミニウムを原料とし、原料中の結晶水を除いた固形分の質量の和を1としたときに、水の質量と原料中の結晶水の質量の和が1以下になるように調整した水を加えて混合した後に、養生を行うことで、微細なハイドロタルサイトを含む優れた吸着性能を有する吸着剤が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0019】
本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤の製造方法は、酸化マグネシウムと塩化アルミニウムを原料とし、原料中の結晶水を除いた固形分の質量の和を1としたときに、水の質量と原料中の結晶水の質量の和が1以下になるように調整した水を加えて混合して混合物を得る混合工程と、この混合工程において得られた混合物を養生して吸着剤を得る養生工程を備えたことを特徴とする。
【0020】
また、前記混合工程において、原料中のマグネシウムとアルミニウムのモル比が3:1~13:1の範囲であることを特徴とする。
【0021】
また、前記混合工程において、消石灰、クリノプチロライト、モルデナイト、A型ゼオライト、X型ゼオライト、鉄粉、磁鉄鉱粉末のうちの少なくとも1種をさらに混合することを特徴とする。
【0022】
また、前記養生工程後に得られた吸着剤を水で洗浄した後、乾燥、粉砕することを特徴とする。
【0023】
本発明の微細なハイドロタルサイト及び酸化マグネシウムを含む吸着剤は、本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤の製造方法により製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、吸着性能が優れた、微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤を効率よく製造することができる。本発明の吸着剤は、廃液、排水、地下水、浄水用の水処理、汚染土、焼却灰、廃棄物等の処理用の吸着剤、ハロゲン物質を除去するためのプラスチック用添加剤として、好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施例の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ハイドロタルサイトの一般式は、Mg2+
1-xAl3+
x (OH)2 (An-)X/n・zH2Oで表される。ここで、An-
X/nは、層間陰イオンを表す。ハイドロタルサイトの合成条件では、マグネシウムとアルミニウムのモル比を2:1~5:1の範囲とするのが一般的であり、この組成条件を採用することで、高い収率を得ることができる。ハイドロタルサイトは、水酸化物であり、マグネシウムイオンとアルミニウムイオンの混合塩水溶液とアルカリ溶液を混合すると、直ちに沈殿物として生成する。ハイドロタルサイトの製造方法としては、通常、この性質を利用して、マグネシウムイオン、アルミニウムイオンを溶かした水溶液を中和して合成する方法が採られている。
【0027】
以下、本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着及びその製造方法について、詳細に説明する。
【0028】
本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤の製造方法は、酸化マグネシウムと塩化アルミニウムを原料とし、原料中の結晶水を除いた固形分の質量の和を1としたときに、水の質量と原料中の結晶水の質量の和が1以下になるように調整した水を加えて混合して混合物を得る混合工程と、この混合工程において得られた混合物を養生して吸着剤を得る養生工程を備えたことを特徴とする。なお、以下、本明細書においては、原料中の結晶水を除いた固形分の質量の和と、水の質量と原料中の結晶水の質量の和との比を、固液比(質量比)として定義する。したがって、塩化アルミニウムとして、結晶水が含まれる塩化アルミニウム6水塩を使用する場合は、塩化アルミニウム6水塩に含まれる結晶水の質量を考慮して、添加する水の量を調整することになる。
【0029】
また、本発明では、好ましくは、前記混合工程において、原料中のマグネシウムとアルミニウムのモル比が3:1~13:1の範囲になるように調整を行う。得られた吸着剤は、微細なハイドロタルサイトと酸化マグネシウム等を含む複合組成をもつが、平均結晶子サイズが10nm以下の微細なハイドロタルサイトを含有しており表面積が大きいため、陰イオン有害物質の優れた吸着性能を有する。
【0030】
本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤の製造方法は、混合する水量を固液比(質量比)1:1以下に設定する。この条件は、マグネシウム、アルミニウムを溶解した水溶液中で合成する一般的なハイドロタルサイトの合成法とは異なり、固形分が十~数十倍レベルで多い特徴がある。このような特徴により、本発明の吸着剤の製造では、養生後の混合物は粉体状となり、従来の液相の中でハイドロサイトを合成する方法とは大きく異なっている。この新しい製造法を採用することで、本発明では、公知の粉体用ミキサー等の混合装置、混合造粒装置等を用いた簡易な方法により、経済的に性能が優れた吸着剤を製造することができる。
【0031】
本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤の製造では、原料として、酸化マグネシウム、塩化アルミニウムを使用し、マグネシウムとアルミニウムのモル比が3:1~13:1の範囲になるように調整を行うことが好ましい。また、マグネシウムとアルミニウムのモル比は、3:1~9:1とするのがより好ましい。この組成条件は、一般的なハイドロタルサイトの合成条件よりも、マグネシウム成分が多い組成となっている。これは、取り扱いに注意を要する苛性ソーダを使用せず、pHを中性~弱アルカリの範囲に調整し、また、吸着剤に残存する塩化物イオンの量を抑制するためである。
【0032】
本発明の吸着剤の製造方法では、酸化マグネシウムを使用する。ここで使用する酸化マグネシウムは、炭酸マグネシウムを700~900℃で焼成した軽焼マグネシアが好ましい。また、酸化マグネシウムは、粒径が200~325メッシュ、または、これより微細な粒径の製品を用いることが好ましい。
【0033】
本発明の吸着剤の製造方法で使用する塩化アルミニウムとしては、塩化アルミニウム6水塩が好適に用いられる。また、本発明の吸着剤の原料として、粉末状のポリ塩化アルミニウムを使用することも可能である。ポリ塩化アルミニウムは安価であるため、これを原料に用いることで本発明の吸着剤をより経済的に製造することができる。ただし、ポリ塩化アルミニウムは、塩基度を安定化するために硫酸根が含まれているため、これを用いると吸着剤の性能が低下する傾向がある。
【0034】
また、酸化マグネシウムの一部を塩化マグネシウム6水塩等に置き換えることも可能であるが、これを原料として使用すると残留塩化物の量が増加し、吸着剤の性能低下を引き起こすので好ましくない。なお、本発明の製造方法に原料として、水酸化ナトリウム、消石灰を添加することも可能であるが、pHが高くなるとアルミニウムはアルミン酸に変化してハイドロタルサイトの合成には適さなくなるため、pH10程度に調整を行う必要がある。
【0035】
本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤の製造方法では、前記のとおり、組成を整えた酸化マグネシウム、塩化アルミニウム6水塩および水を混合することでハイドロタルサイト生成に伴う発熱が生じ、混合組成物はおよそ90℃まで温度が上昇し、微細なハイドロタルサイトが合成される。この製造方法は、ハイドロタルサイトが凝集し加熱されるために吸着剤が固化する特徴をもつ。本発明の吸着剤の製造には、公知の粉体加工用ミキサー等の混合装置、混合造粒装置等を用いることができるが、これらの装置に水冷等冷却設備が付属していれば、装置の温度を制御して連続して製造が可能となるなどの利点が生まれる。
【0036】
本発明の吸着剤の製造方法における養生では、製造時に発熱を伴うため、混合物の加温を行う必要はない。合成反応による発熱は、通常20~30時間程度継続するため、混合物を混合装置から取出して、混合物を密閉して湿潤を保ちながら養生を行う。ここで、養生時間は、数時間~72時間が適切であり、養生時間が短いと十分な量のハイドロタルサイトの合成が行われないので好ましくない。また、混合物を混合装置から取出してから、水蒸気を1時間~数時間排出した後に、混合物を密閉して数時間~72時間養生を行なってもよい。さらに、本発明の吸着剤製造では、混合物を密閉して、200℃以下の温度条件で、数時間~72時間加温養生を行うこともできる。
【0037】
本発明の製造方法により製造される吸着剤は、後述のように、ハイドロタルサイト、未反応の酸化マグネシウムを主成分とし、このほか、アルミニウムの水酸化物、塩化マグネシウムからなる複合的な組成を有するが、平均結晶子サイズが10nm以下の微細なハイドロタルサイトを含有するため、陰イオン有害物質の優れた吸着性能を有する。
【0038】
本発明の吸着剤製造では、固液比(質量比)1:1以下の量の水を前記の原料に添加して、従来の製造方法より固形分が多い条件で混合して、ハイドロタルサイトを含む吸着剤を合成する。使用する水量は、固液比(質量比)が1:0.2~1:0.8の範囲にすることが好ましい。より好ましくは、1:0.4~1:0.7の範囲である。さらにより好ましくは、1:0.5~1:0.6の範囲である。水分量が少なすぎると混合物に均質に水を分散することが難しくなり、また、水分量が多すぎるとスラリー状となり、養生後に全体が固結するため取り扱いが困難となる。ここで固液比(質量比)とは、酸化マグネシウムと塩化アルミニウムのうち結晶水を除いた質量の合計値を、前記結晶水と添加する水の質量の合計値で除したものである。添加した水は、ハイドロタルサイトの合成に消費され、また、化学反応に伴う発熱により、一部が水蒸気として気化する。原料組成に応じて適切な量の水を加えれば、養生後に表面がドライな粉体を得ることができ、乾燥を行わずに吸着剤として使用に供することが可能である。本発明の吸着剤は、ハイドロタルサイトの凝集と合成時の発熱により固化する性質がある。固化した組成物は、公知の解砕機や粉砕装置を用いて粉砕して使用することができる。製造時に水分を多く添加した場合には、混合物が大きく固結して表面に水分が残ることがある。このような場合であっても、乾燥と粉砕を施せば、吸着剤として使用することができる。本発明の吸着剤の製造方法では、混合造粒装置等の造粒装置を用いることで、好適に粒状の吸着剤を製造することが可能である。
【0039】
次に、本発明の吸着剤の製造方法では、混合工程において、吸着剤の内部に各種の添加剤を均質に混合することが可能である。添加剤として、パーライト、ゼオライト、軽石、発泡ガラス粉砕物等の多孔質物質を混合すれば、製造される吸着剤の多孔質性を向上させることが可能である。また、クリノプチロライト、モルデナイト等の天然ゼオライト、A型ゼオライト、X型ゼオライト等の合成ゼオライトを添加すれば、陽イオンの吸着性能を付加することができる。消石灰を加えれば、吸着剤のpHをアルカリ側に調整することができる。
【0040】
さらに、鉄粉、磁鉄鉱(マグネタイト)等の磁性粉末を混合すれば、吸着剤に磁性を付与し、磁力選別を行うことができる。これにより、汚染土壌や排水等の中から有害物質を吸着、濃縮して分離除去することが可能となる。鉄粉、磁鉄鉱粉末の混合割合は結晶水を含む粉体原料合計質量の10~80質量%とすることが好ましく、20~60質量%とすることがより好ましい。鉄粉、磁鉄鉱粉末の混合量が少ないと、磁力選別が難しくなり、鉄粉、磁鉄鉱粉末の混合量が多すぎると陰イオン形有害物質の吸着性能が低下することになる。
【0041】
微細な鉄粉は空気中の酸素と発熱反応するため取扱いが難しい。磁鉄鉱と混合して使用することで、製造時の安全性を高めることができる。
【0042】
なお、消石灰、クリノプチロライト、モルデナイト、A型ゼオライト、X型ゼオライト、鉄粉、磁鉄鉱粉末などの添加剤をさらに混合する場合、これらの添加量に応じて混合工程において加える水の量を調整する必要はない。すなわち、混合工程においては、前述の固液比の定義に従って、酸化マグネシウムと塩化アルミニウムの質量にのみ着目して計算した量の水を加えればよい。
【0043】
以上に述べたように、本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤は、原料粉体に少量の水を加えて混合し、養生を行う簡易な工程で合成することができ、従来のマグネシウム、アルミニウムを溶解した水溶液中で合成するハイドロタルサイトの製造方法と比べて、極めて低エネルギーで製造することが可能である。また、本発明の製造方法によれば、基本的には、合成時に生成するナトリウム塩の分離・除去処理、廃液処理を行う必要がないため、効率よく吸着剤を製造することが可能である。
【0044】
さらに、本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤の吸着性能を向上させるために、前記の製造方法で得られた吸着剤を水で洗浄して残留塩化物イオンを除去した後に、乾燥、粉砕を行ってもよい。例えば、吸着選択性の低いセレン酸やホウ素の処理では、このような方法で阻害物質となる塩化物イオンを除去して改質する方法は有効となる。本発明により製造した吸着剤は、発熱を伴う化学反応を経てハイドロタルサイトが凝集、固化しているため、洗浄後の固液分離、脱水が容易となる優位性がある。また、本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤では、製造時に固化する性質を利用して、鉄粉、ゼオライト等と混合した粒状の複合吸着剤を製造することができる特徴をもつ。
【0045】
本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤は、平均結晶子サイズが10nm以下のハイドロタルサイトを含んでおり、優れた吸着性能を有するため、ヒ素、セレン、フッ素、ホウ素、六価クロム、シアン、リン酸、ケイ酸等の陰イオン形の様々な有害物質除去に利用することができる。利用分野としては、廃液、排水、地下水、浄水の水処理、汚染土壌、焼却灰、廃棄物等の溶出防止処理が挙げられる。また、粒状に加工した本発明の吸着剤は、カラム処理法に用いる水処理剤として、好適に利用することができる。
【0046】
本発明の吸着剤の粒度を0.1~数mmのサイズに調整して、布製のマットや袋等の中に充填して使用することができる。このように、布と組み合わせた製品に加工することで、吸着剤を通過する水流の流速をコントロールでき、また、流水で吸着剤が流亡することを防ぐことができる。このような製品は、汚染土処理用の吸着剤、地下水浄化用の吸着剤として用いることができる。
【0047】
さらに、本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤は、優れた吸着性能をもち、加熱や劣化により樹脂から発生する塩素、臭素などのハロゲン物質を除去するためのプラスチック用添加剤として利用することも可能である。
【実施例1】
【0048】
下記の方法により、本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤を試作した。
【0049】
(1)酸化マグネシウムと塩化アルミニウム6水塩の粉末原料合計700gを卓上ホバート型ミキサーに投入して3分間混合した後、イオン交換水を所定量加えて4分間混合を行なった。ここでは、原料をマグネシウムとアルミニウムのモル比 Mg/Al=8.6となるように配合調整し、固液比1.0:0.64の条件でイオン交換水を添加した。
【0050】
(2)混合後の温度を測定したところ68℃であった。1時間放置した後、ミキサー内の混合物を樹脂製容器に移し、上部に蓋を被せ密閉した。
【0051】
(3)混合物を上記のままで24時間静置して養生を行なった。養生後の混合物温度は室温20℃であった。
【0052】
(4)混合物100gを計り取り、粒径が1mm以下となるよう乳鉢で粉砕を行なった。
【0053】
ここで、上記試作では、マグネシウム、アルミニウム原料として、酸化マグネシウム(中国産、純度90%、粒径-325メッシュ)、塩化アルミニウム6水塩(日本軽金属(株)製、純度97%以上)を使用した。
【0054】
(株)リガク製 RINT ULTIMA3を用いて、試作吸着剤のX線回折による分析を行った。このX線回折図を
図1に示した。
【0055】
図1により、本発明の吸着剤は、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウムを主成分とし、そのほか、わずかなアルミニウム水酸化物、塩化マグネシウムを含む組成であることが分かる。
図1に示すように、合成されたハイドロタルサイトは、ブロードなピーク形状を示しており、シェラーの方法により結晶子のサイズを求めたところ、結晶子サイズは20nm以下、平均結晶子サイズは8.6nmであった。以上のように、本発明の製造方法により、微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤組成物が合成されることが確認された。
【実施例2】
【0056】
実施例1と同様の手順で、マグネシウムとアルミニウムのモル比 Mg/Al=5.7、固液比1.0:0.55の条件で、本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤を試作した。試作吸着剤のX線回折により、実施例1と同様の結晶子サイズのハイドロタルサイトの生成が確認された。
【実施例3】
【0057】
実施例2で試作した吸着剤100gをビーカーに投入し、精製水300gを加えて10分間ジャーテスターで撹拌した後に、アスピレータでろ過・脱水を行ったところ、脱水性は良好であった。脱水後の吸着剤を電気炉により120℃で乾燥し、乳鉢により軽く粉砕し粒径1mm以下とした。
【実施例4】
【0058】
原料として酸化マグネシウム、粉末ポリ塩化アルミニウムを用いて実施例1と同じ手順で、本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤を試作した。
【0059】
(1)酸化マグネシウムと粉末ポリ塩化アルミニウムの粉末原料合計500gを卓上ホバート型ミキサーに投入して3分間混合した後、イオン交換水を所定量加えて4分間混合を行なった。ここでは、原料をマグネシウムとアルミニウムのモル比 Mg/Al=3.8となるように配合調整し、固液比1.0:0.40の条件でイオン交換水を添加した。
【0060】
(2)混合物を上記のままで24時間静置して養生を行なった。
【0061】
(3)混合物10gを計り取り、粒径が1mm以下となるよう乳鉢で粉砕を行なった。
【0062】
ここで、上記試作では、マグネシウム、アルミニウム原料として、酸化マグネシウム(中国産、純度90%、粒径-325メッシュ)、粉末ポリ塩化アルミニウム(大明化学工業(株)製、Al2O330%)を使用した。
【比較例1】
【0063】
比較例1では、従来技術の合成方法で、純度の高いハイドロタルサイトが得られる組成で試作を行なった。下記の手順により、固液比=1:5、マグネシウムとアルミニウムのモル比 Mg/Al=2.0の水溶液中でハイドロタルサイトの合成を行った。ハイドロタルサイトを乾燥した後に、精製水で繰返し洗浄してナトリウム塩を除去した。
【0064】
(1)塩化マグシウム6水塩、塩化アルミニウム6水塩を精製水に添加し、マグネシウム濃度=0.88mol/L、アルミニウム濃度=0.43mol/Lを含む酸性水溶液を120g調製した。
【0065】
(2)上記の酸性液をジャーテスターで強く撹拌しながら48%水酸化ナトリウム液20.5gを滴定で添加し、pH=8.1に調整した後に1時間撹拌を行った。
【0066】
(3)混合したスラリー全てを電気炉に入れて、130℃で煮沸乾燥した。
【0067】
(4)乾燥粉末の4倍重量の精製水を加えて1時間撹拌した後に、1時間静置を行った。
【0068】
(5)凝集分離した上澄み液をチューブポンプを使って除去した。
【0069】
(6)上記(4)-(5)の操作を、さらに2回繰り返した。
【0070】
(7)上澄み液を除去したスラリーを、電気炉により120℃で煮沸乾燥した。
【0071】
(8)乾燥粉末を乳鉢で粉砕し、1mm以下の粒径とした。
【0072】
ここで、塩化マグネシウム6水塩(ナカライテスク(株)製試薬、純度97%)、塩化アルミニウム6水塩(日本軽金属(株)製、純度97%以上)を使用した。48%水酸化ナトリウム液は、水酸化ナトリウム試薬(ナカライテスク(株)製、純度97%)を希釈して調製した。
【比較例2】
【0073】
比較例2では、従来技術の合成方法で、酸化マグネシウム、塩化アルミニウム6水塩を用いて、アルミニウムを溶解した水溶液中でハイドロタルサイトを合成した。この比較例では、マグネシウムとアルミニウムのモル比を、実施例1と同一のMg/Al=8.6に設定し、固液比=1:10の条件とした。
【0074】
(1)精製水241gに塩化アルミニウム6水塩を添加してアルミニウム濃度0.23mol/Lに調整し、ジャーテスターを用いて撹拌して完全に溶解した。
【0075】
(2)上記水溶液に酸化マグネシウムを前記のモル比Mg/Al=8.6の条件で添加し、ジャーテスターで4時間撹拌してハイドロタルサイトを合成した。
【0076】
(3)混合液全てをアスピレータで脱水した。合成されたハイドロタルサイトを含む混合物の脱水性は悪く、1時間を要した。
【0077】
(4)電気炉により120℃で乾燥し、乳鉢で粉砕し粒径1mm以下とした。
【0078】
ここで、酸化マグネシウム、塩化アルミニウム6水塩は、酸化マグネシウム(中国産、純度90%、粒径-325メッシュ)、塩化アルミニウム6水塩(日本軽金属(株)製、純度97%以上)を使用した。
【0079】
合成したハイドロタルサイトをX線回折により分析したところ、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウム等の生成が確認された。ハイドロタルサイトのピーク形状より、平均結晶子は、20nmより大きいサイズとなっていた。
【実施例5】
【0080】
下記の手順で実施例1、比較例1で試作した吸着剤を用いて、ヒ酸、セレン酸の吸着試験を行った。
【0081】
(1)ヒ酸溶液試薬を用いて、As(V)濃度1mg/Lを目標とした試験液を調製した。
【0082】
(2)セレン酸ナトリウム試薬を用いて、Se(VI)濃度1mg/Lを目標とした試験液を調製した。
【0083】
(3)2種の試験液250mlを樹脂製ボトルに分取して、これに実施例1の吸着剤を固液比(質量比)1:1000の条件で添加して、24時間振とう(水平振とう)吸着試験を行った。
【0084】
(4)各樹脂製ボトルから、上澄み液を0.45μmのシリンジフィルターでろ過し、ICP-MSを使って濃度測定を行った。
【0085】
(5)比較例1のハイドロタルサイトを使用して、同様の吸着試験を行った。
【0086】
ここで、ヒ酸溶液試薬(関東化学(株)製、純度60%)、セレン酸ナトリウム試薬(ナカライテスク(株)製、純度98%)を使用した。
【0087】
2種の吸着剤を使用した吸着試験結果を、表1に示した。本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤は、従来技術により合成した純度の高いハイドロタルサイトと同様に、ヒ素、セレンの優れた吸着性能を有する結果となった。吸着選択性が低く処理が難しいSe(VI)の吸着試験では、本発明の吸着剤の性能が上回った。
【0088】
【実施例6】
【0089】
下記の手順で、実施例1、比較例1で試作した吸着剤を用いて、フッ素の水処理試験を行った。
【0090】
(1)フッ化ナトリウム試薬を用いて、フッ素濃度20mg/Lの試験液を調製した。
【0091】
(2)ビーカーに試験液200gを分取して、0.5質量%の2種の吸着剤を添加して、ジャーテスターにより1時間撹拌を行った。
【0092】
(3)静置を15分行った後、上澄み液を0.45μmのシリンジフィルターでろ過して検液を採取した。
【0093】
(4)分光光度計を用いて、フッ素濃度の測定を行った。
【0094】
ここで、本実施例においては、フッ化ナトリウム試薬(ナカライテスク(株)製、純度98%)を使用した。
【0095】
水処理試験の結果を表2に示した。両方の吸着剤とも、処理後のフッ素濃度は排水基準値以下となった。また、水処理効果は本発明の吸着剤の方が若干優れていた。
【0096】
【実施例7】
【0097】
下記の手順で、実施例2~4、比較例2で試作した吸着剤を用いて、六価クロムの吸着試験を行った。
【0098】
(1)二クロム酸ナトリウム試薬を用いて、クロム濃度100mg/Lの試験液を調製した。
【0099】
(2)樹脂製ボトルに試験液を200g分取して、各種吸着剤を1質量%添加して、24時間振とう吸着試験を行った。
【0100】
(3)静置を20分行った後、上澄み液を0.45μmのシリンジフィルターでろ過し、検液を採取した。
【0101】
(4)ICP-AESを用いて、クロムの濃度測定を行った。
【0102】
ここで、本実施例においては、二クロム酸ナトリウム試薬(ナカライテスク(株)製、純度97%)を使用した。
【0103】
吸着試験結果を表3に示した。実施例3では、排水基準値以下の結果となった。本発明の製造方法により試作した実施例2、3の吸着剤は、これらと同一の原料を用いて水溶液中で合成した比較例2のハイドロタルサイトを含む吸着剤より、六価クロムの吸着性能が優れている結果となった。実施例3は、実施例2で試作した吸着剤を水で洗浄、乾燥したものだが、この処理により吸着剤に含まれる塩化物イオンが除去されることで、吸着性能が向上していることが分かる。また、原料として粉末ポリ塩化アルミニウムを用いた実施例4も比較例2を上回る吸着性能を有している。
【0104】
【実施例8】
【0105】
下記の手順で、実施例2、実施例3、比較例2で試作した吸着剤を用いて、ホウ素の吸着処理試験を行った。
【0106】
(1)ホウ酸試薬を用いて、ホウ素濃度50mg/Lの試験液を調製した。これに水酸化ナトリウムを添加し、pH=11.5に調整を行った。
【0107】
(2)樹脂製ボトルに上記試験液を200g分取して、各種吸着剤を1質量%添加して、24時間振とう吸着試験を行った。
【0108】
(3)静置を20分行った後、上澄み液を0.45μmのシリンジフィルターでろ過し、ICP-AESを用いてホウ素濃度測定を行った。
【0109】
ここで、本実施例においては、ホウ酸試薬(ナカライテスク(株)製、純度99.5%)を使用した。
【0110】
吸着試験結果を表4に示した。本発明により試作した実施例2、3の吸着剤は、同一の原料を用いて水溶液中で合成した比較例2のハイドロタルサイトより、ホウ素の吸着性能が優れており、実施例3では、排水基準値以下の処理結果となった。実施例3は、実施例2で試作した吸着剤を水で洗浄、乾燥したものだが、この処理により塩化物イオンが除去されることで、吸着性能が向上することが確認された。
【0111】
【実施例9】
【0112】
下記の方法により、鉄粉を混合した本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤を試作した。
【0113】
(1)酸化マグネシウムと塩化アルミニウム6水塩の粉末原料合計630gと鉄粉70gを卓上ホバート型ミキサーに投入して3分間混合した後、イオン交換水を所定量加えて4分間混合を行なった。ここでは、原料をマグネシウムとアルミニウムのモル比 Mg/Al=8.6となるように配合調整し、固液比1.0:0.46の条件でイオン交換水を添加した。
【0114】
(2)混合後の温度を測定したところ83℃であった。ミキサー内の混合物を樹脂製容器に移し、密閉した。
【0115】
(3)樹脂製容器をインキュベータに入れ、温度80℃で24時間加温した。
【0116】
(4)混合物100gを計り取り、粒径が0.5mm以下となるよう乳鉢で粉砕を行ない、鉄粉を含有する粒状の吸着剤を得た。
【0117】
ここで、上記試作では、酸化マグネシウム、塩化アルミニウム原料として、実施例1と同様の原料を用いた。また、鉄粉として、DOWA IPクリエイション株式会社製、還元鉄粉E200(平均粒径45μm)を使用した。
【実施例10】
【0118】
下記の方法により、磁鉄鉱粉末を混合した本発明の微細なハイドロタルサイトを含む吸着剤を試作した。
【0119】
(1)酸化マグネシウムと塩化アルミニウム6水塩の粉末原料合計490gと磁鉄鉱粉末210gを卓上ホバート型ミキサーに投入して3分間混合した後、イオン交換水を所定量加えて4分間混合を行なった。ここでは、原料をマグネシウムとアルミニウムのモル比 Mg/Al=8.6となるように配合調整し、固液比1.0:0.46の条件でイオン交換水を添加した。
【0120】
(2)混合後の温度を測定したところ83℃であった。ミキサー内の混合物を樹脂製容器に移して密閉し、そのまま、室温で養生を行なった。
【0121】
(3)混合物100gを計り取り、粒径が0.5mm以下となるよう乳鉢で粉砕を行ない、磁鉄鉱を含有する粒状の吸着剤を得た。
【0122】
ここで、上記試作では、酸化マグネシウム、塩化アルミニウム原料として、実施例1と同様の原料を用いた。また、磁鉄鉱粉末として、DOWAエフテック株式会社製、フェライト粉(平均粒径12μm)使用した。
【実施例11】
【0123】
下記の手順で、実施例9、10で試作した吸着剤を用いて、フッ素の水処理試験を行った。
【0124】
(1)フッ化ナトリウム試薬を用いて、フッ素濃度5mg/Lの試験液を調製した。
【0125】
(2)500mL容量のポリ瓶に試験液200gを分取して、1.0質量%の2種の吸着剤をそれぞれ添加して、振とう機にて200rpmの条件で1時間振とうを行った。
【0126】
(3)静置を15分行った後、上澄み液を0.45μmのシリンジフィルターでろ過して検液を採取した。
【0127】
(4)分光光度計を用いて、フッ素濃度の測定を行った。
【0128】
ここで、本実施例においては、実施例6と同様のフッ化ナトリウム試薬を使用した。
【0129】
吸着試験結果を表5に示した。本発明により試作した実施例9、10の鉄粉、磁鉄鉱粉末を混合した吸着剤は、高いフッ素の吸着性能を有していることが確認された。
【0130】
【実施例12】
【0131】
下記の手順で、実施例9、10で試作した吸着剤の磁力選別による回収率を評価した。
【0132】
(1)500mL容量のポリ瓶にイオン交換水200gを分取して、5.0質量%の2種の吸着剤をそれぞれ添加して、振とう機により200rpmの条件で1時間振とうを行った。
【0133】
(2)振とう後の検液をステンレス製のバットに移液し、表面磁力0.4Tの棒磁石にて、検液上面を3回走査させ、磁着物を回収した。
【0134】
(3)回収した磁着物は、乾燥の上で、質量を測定し(1)での添加質量の差分より回収率を求めた。
【0135】
この結果を表6に示した。本発明により試作した実施例9、10の磁選回収率は高く、吸着剤としての性能と磁性体としての良好な特性を併せもっていることが確認された。また、これらの試作吸着剤は、吸着剤成分と鉄粉、磁鉄鉱粉末との分離も無く、十分な強度特性を有していることが分かった。
【0136】