(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】油泥加温移送装置
(51)【国際特許分類】
B01D 17/04 20060101AFI20230405BHJP
C02F 11/13 20190101ALI20230405BHJP
F28D 7/02 20060101ALI20230405BHJP
F28D 20/02 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
B01D17/04 503B
C02F11/13 ZAB
F28D7/02
F28D20/02 D
(21)【出願番号】P 2022549203
(86)(22)【出願日】2022-08-15
(86)【国際出願番号】 JP2022030870
【審査請求日】2022-08-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599135695
【氏名又は名称】株式会社ティービーエム
(74)【代理人】
【識別番号】100167818
【氏名又は名称】蓑和田 登
(72)【発明者】
【氏名】佐原 邦宏
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特許第6918391(JP,B2)
【文献】特開平09-057021(JP,A)
【文献】特開平09-174060(JP,A)
【文献】特開2011-157937(JP,A)
【文献】特開2004-024767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00
C02F 1/40
C02F 11/00-11/20
B01D 21/00-21/34
E03F 1/00-11/00
B01D 17/00-17/12
C02F 1/20-1/26,1/30-1/38
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油泥を加温しながら移送可能な油泥加温移送装置であって、
中空空間を有して有底円筒形状に形成された熱交換窯と、
前記熱交換窯の中空空間に収容された円柱形状の断熱材と、
油泥を送るための配管であって、前記熱交換窯の内周面と前記断熱材の外周面との間に形成された収容空間に沿って配置された、螺旋状の油泥管と、
前記断熱材の外周面及び/又は前記熱交換窯の内周面に面状に張られた加熱手段と、を備え、
前記収容空間には潜熱蓄熱材が充填され、
前記熱交換窯の円筒軸及び前記断熱材の円柱軸が一致するように配置され、
前記断熱材は、前記熱交換窯と略同一の高さを有する一方、前記熱交換窯よりも小さな径を有することで前記収容空間が形成される、ことを特徴とする油泥加温移送装置。
【請求項2】
前記油泥加温移送装置は、さらに、
油泥を加圧しながら送り込むポンプ手段を備え、
前記螺旋状の油泥管の下端側には前記ポンプ手段で加圧された油泥が送り込まれる油泥入口が形成され、前記油泥管の上端側には加温された油泥が排出される油泥出口が形成される、ことを特徴とする請求項1記載の油泥加温移送装置。
【請求項3】
前記熱交換窯は、円形状の上蓋を有し、
前記上蓋には、前記潜熱蓄熱材の充填/交換のためのPCM注入口と、前記油泥出口が挿通可能な油泥管取出口と、が形成され、
前記熱交換窯の底面には、前記油泥入口が挿通可能な油泥管第二取出口が形成される、ことを特徴とする請求項2記載の油泥加温移送装置。
【請求項4】
前記加熱手段はシリコンラバーヒータであって、
前記油泥加温移送装置は、さらに、
前記熱交換窯の外周を被覆する保温ジャケットを備える、ことを特徴とする請求項1記載の油泥加温移送装置。
【請求項5】
前記油泥管と、前記熱交換窯の内周面及び前記断熱材の外周面と
の間には一定の隙間を有しており、この隙間にも潜熱蓄熱材が充填される、ことを特徴とする請求項1記載の油泥加温移送装置。
【請求項6】
油水分離槽からの回収汚泥を前記請求項1記載の油泥加温移送装置の油泥管を通して分離タンクに送る、ことを特徴とする油分回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油泥(含油廃水)を排出する食品工場などにオンサイトで設置される油泥加温移送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品工場などの製造廃水には、様々の水質汚濁物質(油分)が含まれている。このような廃水を何ら処理することなく排水すると、廃水中の油分などが排水管に付着して固まり、詰まらせたりする。その結果、合併処理槽や下水処理場での水の浄化処理を困難にし、また、環境に悪影響を及ぼし、法的規制を受けて、営業を続けることができなくなる事態ともなり得る。 そこで、油分や沈殿物、浮遊物などの固形分を含む廃水を排出事業所単位で処理する方法、装置が種々提案されている。
【0003】
その方法の一つとして、例えば含油廃水を油水分離槽はじめ、原水槽、調整槽などの大型タンクにプールし、多量に浮いている上層の浮上油脂を油分回収用タンクに定期的に汲み出し、油水分離槽内の油分などを物理的に除去する方法である。
【0004】
その他、最近の環境問題に対する社会の流れに対応して、含油廃水を排出する前記の各小規模事業所などにおいて採用可能な、効率的で経済的な処理技術として、含油廃水から油分や沈殿廃棄物を効率的に移送し除去して浄化する装置が開示されている(例えば特許文献1参照)。また、油センサやデータ送受信手段を有する制御装置を備え、含油廃水から油分を効率的に回収する油分離・管理装置も開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-7092号公報
【文献】実用新案登録第3216173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような油水分離槽から汲み出された浮上油脂が一時貯留タンクに貯留され、一時貯留タンクの上層分を分離タンクに汲み出す際に、浮上油脂が固まらないように50℃程度で加温保温して油分と水分との分離を促進させる必要性がある。このため、浮上油脂を汲み出した先の一時貯留タンクにプラグヒータなどの加温手段が必要となり多大な電力を要し、コストを要する。
【0007】
また、上記従来の油水分離槽に浮上した油分をポンプで汲み上げ、大型の一時貯留タンク内(50℃程度で加温保温)で油分を貯留・浮上させる方法では、一時貯留タンクの機能は、単に、油水分離槽から汲み出された油泥を集約化する機能にとどまっている。すなわち、油泥を油分、汚泥分、水分に効率的に比重分離するには、油泥を約65-75℃程度にまで加温して完全に溶解させる必要がある。しかしながら、従来の一時貯留タンクの加温手段では、油泥は50度程度までしか加温されないため、この一時貯留タンクから油分、汚泥分、水分を分離するための分離タンクに油泥を送ったとしても、油分、汚泥分、水分を効率的に分離して回収することができない。
【0008】
さらに、近年、地球温暖化の問題が深刻化しており、炭酸ガスやメタンガスのような温室効果ガスの削減が図られる共に、廃棄物を再利用した再生可能エネルギーが注目されている。食品工場等から排出されるバイオマス資源である廃水油脂は、日本全国で年間70万トン以上もの量になり、全世界を勘案するとさらに膨大な量となる。そして、近年、例えば、汚泥として産廃処分されるしかなかった廃水油脂から、独自のバイオマス燃料を製造し、ディーゼル発電機でバイオマス発電を行うシステムが開発されている。このバイオマス発電システムを提供することでCO2削減、リサイクル、水質浄化をもたらすことができる。すなわち、食品工場等から排出される廃水油脂から、再生利用可能な油分を効率よく回収する技術の確立は急務となっている。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、含油廃水を排出する食品工場などにオンサイトで設置され、油水分離槽などから回収された油泥を、ワンパスで65~75度程度にまで加温して分離タンクに送ることができる油泥加温移送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、油泥を加温しながら移送可能な油泥加温移送装置であって、前記熱交換窯の中空空間に収容された円柱形状の断熱材と、油泥を送るための配管であって、前記熱交換窯の内周面と前記断熱材の外周面との間に形成された収容空間に沿って配置された、螺旋状の油泥管と、前記断熱材の外周面及び/又は前記熱交換窯の内周面に面状に張られた加熱手段と、を備え、前記収容空間には潜熱蓄熱材が充填され、前記熱交換窯の円筒軸及び前記断熱材の円柱軸が一致するように配置され、前記断熱材は、前記熱交換窯と略同一の高さを有する一方、前記熱交換窯よりも小さな径を有することで前記収容空間が形成されることを特徴とする。
【0012】
この油泥加温移送装置において、前記油泥加温移送装置は、さらに、油泥を加圧しながら送り込むポンプ手段を備え、前記螺旋状の油泥管の下端側には前記ポンプ手段で加圧された油泥が送り込まれる油泥入口が形成され、前記油泥菅の上端側には加温された油泥が排出される油泥出口が形成されることが好ましい。
【0013】
この油泥加温移送装置において、前記熱交換窯は、円形状の上蓋を有し、前記上蓋には、前記潜熱蓄熱材の充填/交換のためのPCM注入口と、前記油泥出口が挿通可能な油泥管取出口と、が形成され、前記熱交換窯の底面には、前記油泥入口が挿通可能な油泥管第二取出口が形成されることが好ましい。
【0014】
この油泥加温移送装置において、前記加熱手段はシリコンラバーヒータであって、前記油泥加温移送装置は、さらに、前記熱交換窯の外周を被覆する保温ジャケットを備えることが好ましい。
【0015】
この油泥加温移送装置において、前記油泥管と、前記熱交換窯の内周面及び前記断熱材の外周面との間には一定の隙間を有しており、この隙間にも潜熱蓄熱材が充填されることが好ましい。
【0016】
上記目的を達成するために本発明は、油水分離槽からの回収汚泥を上記油泥加温移送装置の油泥管を通して分離タンクに送る、ことを特徴とする油分回収システムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は油泥を加温しながら移送可能な油泥加温移送装置であって、中空空間を有して有底円筒形状に形成された熱交換窯と、熱交換窯の中空空間に収容された円筒形状の断熱材と、油泥を送るための配管であって熱交換窯の内周面と断熱材の外周面との間に形成された収容空間に沿って配置された螺旋状の油泥管と、断熱材の外周面及び/又は熱交換窯の内周面に面状に張られたシリコンラバーヒータと、を備える。収容空間には潜熱蓄熱材が充填される。この構成により、本発明に係る油泥加温移送装置は、含油廃水を排出する食品工場などにオンサイトで設置され、油水分離槽などからの回収油泥を、ワンパスで65~75度程度にまで加温して分離タンクに送ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係る油泥加温移送装置を備える油分回収システムの配管の経路図を示す。
【
図2】(a)同上油泥加温移送装置の透過平面図、(b)同上油泥加温移送装置の透過正面図である。
【
図3】(a)同上油泥加温移送装置に備わる熱交換窯の平面図、(b)同上熱交換窯の底面図、(c)同上熱交換窯の正面図である。
【
図4】(a)同上油泥加温移送装置に備わる油泥管の平面図、(b)同上油泥管の正面図、(c)同上油泥管の右側面図、(d)同上油泥管を構成する油泥出口の拡大図、(e)同上油泥管を構成する油泥入口の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施の形態)
本発明の実施の形態に係る油泥加温移送装置について
図1乃至
図4を参照して説明する。油泥加温移送装置は、食品工場などの油水分離槽に多量に浮いている上層分(油泥)を汲み出して一時的に貯留する油泥回収用タンクと、回収した油泥を油分、汚泥分、水分に分離する分離タンクの間に配置される。この油泥加温移送装置は、油水分離槽から汲み出し、一次的に貯留した回収油泥を65-75℃程度にまで加温した後に分離タンクに直接送り込むものであり、製造廃水を排出する食品工場などにオンサイトで設置される。
【0020】
最初に、本実施の形態に係る油泥加温移送装置(以下、加温移送装置と称する)を含む油分回収システムの配管の主要な経路に関して
図1を参照しながら説明する。この油分回収システムSは、食品工場などに粗精製用のプラントとして設置される。
【0021】
最初に、油水分離槽の上層分の油泥を汲み出して一時貯留タンクに回収する。この回収油泥をギヤポンプなどの高粘度用のポンプPを介して加温移送装置1の油泥入口に、加圧状態で送る。ギヤポンプは、圧力上昇に伴う吐出量の変動が少なく、定量性があり、インバータなどを用いて回転速度を変化させることにより液体の吐出量を容易に制御できる。
【0022】
なお、回収油泥は油水分離槽の一時貯留タンクからの回収に限定されるものではなく、例えば、飲食料理店、ファーストフード店、レストラン、ホテルなどにおける厨房廃水(含油廃水)から油脂を分離するグリース阻集器(GT:Grease Trap)から回収された油泥でも良い。また、本実施の形態の説明において、油泥とは水分、汚泥分、油分が混合した残渣廃棄物一般を指すものとして説明を行う。
【0023】
次に、加温移送装置1に送られた油泥は、加温移送装置1の油泥入口から油泥出口までを通過する間に、約65~75度に加温されて、分離タンク2に流入される。ここで、加温移送装置1によって油泥が65~75度に加温されているため油泥は完全溶解され、比重の軽い順に沿って回収用タンク2の上層から油分21、特殊分離板22、浮上汚泥物23、水24、及び沈殿汚泥物25の順番に完全分離される。なお、特殊分離板22は必須の構成ではない。
【0024】
次に、分離タンク2に設けられた排出量の調整用の排出弁26の開閉状態を制御して、ゴミや浮遊物などの廃固形分(不純物)を取り除く粗濾過器3を通して、分離タンク2内で分離された上層の油分21が輸送コンテナ4に充填される。この輸送コンテナ4は、例えば、IBC(Intermediate Bulk Containers)コンテナ(1tタンク)であって、省スペース、軽量で強度の強いパレット付の液体輸送用に特化したコンテナ容器である。
【0025】
一方、分離タンク2の下側に設けられた排出口や手動バルブなどからは浮上汚泥物23、水24、沈殿汚泥物25が回収されて、水24は再度、回収油泥をプールしている油水分離槽などに返水される。浮上汚泥物23及び沈殿汚泥物25は、手動バルブなどを用いてメタン資源として回収用タンクなどに回収される。なお、
図1からも明らかなように、回収手順は、最初に、下側に設けられた排出口や手動バルブなどからは浮上汚泥物23、水24、沈殿汚泥物25が回収され、その後に下方に下がってきた油分21が排出弁26から輸送コンテナ4に回収される。
【0026】
なお、回収された浮上汚泥物23や沈殿汚泥物25などの汚泥分は、基本的にバイオガス化(メタン発電、クリーン水素)に用いられる。この未活用となっている汚泥分の資源化の第一歩は、メタン発酵を行うバイオガスプラントにおけるバイオガス化(メタン発電、グリーン水素)である。特に、メタン発電において、事業系食品廃棄物(残渣汚泥を含む)は、従来のメタンガス生産の主原料である家畜糞尿や下水汚泥に比べて、原料1トン当たりのバイオガス量が5~10倍大きいという利点がある。その為、食品残渣のメタン処理や家畜糞尿等との混合処理に基づくメタン発電が推奨されている。
【0027】
次に、本実施の形態に係る加温移送装置1の全体構造に関して
図2乃至
図4を参照して説明する。加温移送装置1は、油泥の温度を上昇・加温させながら移送可能な装置であって、
図3に示すように中空空間VSを有して有底円筒形状に形成された熱交換窯11と、熱交換窯11の中空空間VSに収容された円
柱形状の断熱材12と、油泥を送るための配管であって熱交換窯11の内周面と断熱材12の外周面との間に形成された収容空間CSに(上下方向に)沿って配置された螺旋状の油泥管と、断熱材12の外周面及び/又は熱交換窯11の内周面に面状に張られたシリコンラバーヒータ(加熱手段)14と、を備える。なお、図中における点線部は透視部を示し、一点鎖線は保温ジャケット15を示している。
【0028】
加熱手段14は、例えばニッケル合金をシリコンゴムシートで挟み込んだ面形状のシリコンラバーヒータ14(三相200V)である。
【0029】
熱交換窯11は、
図3に示すように、中空空間VSを有して有底円筒形状に形成された本体部11aと、円形状の上蓋11bと、円形状の開口部が形成された円形状の底面11cと、底面11cに一体形成された支持脚11d(本実施の形態では4本)と、を有する。ここで、上蓋11bには、潜熱蓄熱材の充填/交換のためのPCM注入口11baと、油泥菅13の油泥出口13bが挿通可能な油泥管取出口11bbと、が形成される。一方、底面11cには、油泥入口13aが挿通可能な油泥管第二取出口11caが形成される。これらのPCM注入口11ba、油泥管取出口11bb、油泥管第二取出口11caは例えば配管用ステンレス鋼管SUS、寸法25Aである。なお、
図3(b)に示すように、熱交換窯11の底面11cには、断熱材12を支持するための十字形状の補強材11eが掛け渡されている。
【0030】
熱交換窯11は、例えば高さ850mm(本体部11aが高さ780mm、支持脚11dが50mm角×高さ70mm)、上蓋11bの直径440mm、底面の直径430mm、断熱材の直径280mm、収容空間CSの径80mmのサイズを有する。そして、ジャケット部15を含んだサイズは、高さ900mm、直径530mmの円筒形状となる。
【0031】
油泥管13は、例えばSUS(ステンレス鋼)、寸法25Aを用いて、螺旋の全長18m、高さ717.4mm、傾斜3.032%で形成される。そして、油泥菅13と、熱交換窯11の内周面及び断熱材12の外周面と間には一定の隙間を有しており、この隙間にも潜熱蓄熱材が充填されることで熱効率を向上させている。
【0032】
断熱材12を熱交換窯11の中空空間VSに収容することによって、収容空間CSの温度を長時間維持することができ、その結果、油泥管13内を通過する油泥の効率的な加温を促進できる。なお、断熱材12の例としては、発泡系断熱材、繊維系断熱材である。
【0033】
図2に示すように、熱交換窯11
の円筒軸と断熱材12の円
柱軸が一致するように配置され、円筒形状の断熱材12は、熱交換窯11と略同一の高さを有する一方、熱交換窯11よりも小さな径を有することで収容空間CSが形成されている。
【0034】
この収容空間CSには、潜熱蓄熱材(PCM:Phase Change Material)が充填される蓄熱槽16が形成される。この収容空間CSに収容される蓄熱槽16は、例えば相変化温度90℃、重量55kgである。この構成により、油泥管13内を通過する油泥を素早く加温することができる。ここで潜熱蓄熱材とは、物質の相変化に伴う熱の放出/吸収を利用した物質であり、融解点・凝固点(相転移温度)を向かえて固体・液体の状態に変化しているときに潜熱蓄熱材はほぼ一定の温度を保つ。また、潜熱蓄熱材は、常温下では水やコンクリートよりも何倍も大きな蓄熱量を保持できるという特性を有する。
【0035】
特に、収容空間CSに充填される潜熱蓄熱材PCMは、主に90℃程度の範囲内で相変化する蓄熱材を用いることが好ましい。このことで、潜熱蓄熱材が加温移送装置1の油泥管13に流入した汚泥と熱交換し、油泥管13内を流れる油泥を素早く65~75℃に加温することができる。
【0036】
潜熱蓄熱材はそれぞれ固有の相変化温度を有しており、製造工程において目的の温度に合わせるよう潜熱蓄熱材の融点調整剤などを調合して、相変化温度を調整できる。本実施の形態に係る加温移送装置1に用いる潜熱蓄熱材組成物は、例えば、主原料(実際に相変化して吸放熱する)として、硫酸ナトリウム10水塩、塩化カルシウム6水塩、炭酸ナトリウム1水塩、リン酸水素二ナトリウム10水塩、チオ硫酸ナトリウム5水塩、酢酸ナトリウム3水塩などの無機水和塩系や、パラフィンワックス、ポリエチレングリコールなどの有機材系を用いることができる。また、融点調整材(主原料が目的の温度で相変化するように調整する材料)としては、例えば、水、尿素、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウムなどの1種若しくは2種以上を混合したものを用いることができる。さらに、過冷却防止材(確実に凝固点付近温度で結晶を析出させるための材料)としては、例えば、四ホウ酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、フッ化リチウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウムなどの1種若しくは2種以上を混合させたものを用いることができる。さらに、相分離防止材(比重差による相の分離を防止するための材料)としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、アタパルジャイト、セピオライトなどの1種若しくは2種以上を混合させたものを用いることができる。
【0037】
潜熱蓄熱材は、試験管レベルにおいて恒温器で応答実験を続けた場合、相変化10000回以上は劣化度合が1割未満となり、使用条件により異なるが、加温移送装置1に備わる収容空間CS内に充填される潜熱蓄熱材は30年使用可能であると想定される。
【0038】
また、油泥加温移送装置1は、
図1に示すように、油泥を加圧しながら送り込むポンプP(ポンプ手段)を備える。そして、螺旋状に形成された油泥菅13の下端側にはポンプPで加圧された油泥が送り込まれる油泥入口13aが形成され、油泥菅13の上端側に加温された油泥が排出される油泥出口13bが形成される。これら汚泥入口13a及び汚泥出口13bは、
図3(d)及び
図3(e)に示すように、接続配管に巻き回しながら接続が可能なネジ式の口金部を有している。
【0039】
保温ジャケット15は、熱交換窯11の外面を被覆して、例えば50mm程度の厚さを有し、クロス・縫糸・断熱材などを選定することで90~100度程度の温度を維持するためのものである。
【0040】
なお、図示はしていないが加温移送装置1が温度センサを備えても良い。この温度センサは、例えば半導体などの電気抵抗が温度で変化することを利用して潜熱蓄熱材の温度を測る温度センサである。加温移送装置1の作業開始時には、この温度センサが90度に達してからポンプPを作動開始しても良い。
【0041】
次に、本実施の形態に係る油分回収システムの油泥回収開示時の動作手順の一例を説明する。最初に、油泥の回収を開始する前に、油泥加温移送装置1のシリコンラバーヒータ14をオンにする。次に、温度センサで検知された潜熱蓄熱材の温度が90度程度に達したら後にポンプPをオンにする。すると、加温移送装置1の油泥管13の中を回収油泥が順次通過し、65~75度程度にまで加温された油泥が分離タンク2側に送出される。
【0042】
以上の説明のように、本発明は油泥を加温しながら移送可能な油泥加温移送装置1であって、中空空間VSを有して有底円筒形状に形成された熱交換窯11と、熱交換窯11の中空空間VSに収容された円柱形状の断熱材12と、油泥を送るための配管であって熱交換窯11の内周面と断熱材12の外周面との間に形成された収容空間CSに沿って配置された螺旋状の油泥管13と、断熱材12の外周面及び/又は熱交換窯11の内周面に面状に張られたシリコンラバーヒータ14と、を備える。収容空間CSには潜熱蓄熱材が充填されて蓄熱槽16となる。油泥加温移送装置1は、さらに、油泥を加圧しながら送り込むポンプP及び保温ジャケット15を備える。
【0043】
この構成により、加温移送装置1は、含油廃水を排出する食品工場などにオンサイトで設置され、油水分離槽などからの回収油泥を、ワンパスで65~75度程度にまで加温して分離タンク2に送ることができる。すなわち、水分、汚泥分、油分が混合した油泥などの残渣廃棄物をギヤポンプなどの強粘土用ポンプPで吸引し、汚泥入口13aから押し込んでいくと、汚泥出口13bで65~70℃程度まで加温される。この結果、加温移送装置1により、水分、汚泥分、油分の三相分離が短時間で達成できた状態で分離タンク2に送られるため、省エネと資源化作業の効率が飛躍的に向上する。
【0044】
また、加温移送装置1に接続された分離タンク2は、従来タンクと同様に、油水分離槽などから汲み上げた油泥を集約化する機能がある。これに加えて、油泥加温移送装置1で所定温度にまで加温された油泥が貯留するため、液温度を65~75℃に維持でき、油分、汚泥分、水分に分離させた後、油分を清浄化しながら回収できる。また、汚泥分は分離タンク2の下側に形成された手動バルブなどを介して効率よく回収できる。また更に、分離された水分はそのまま戻り配管などを介して油水分離槽へ戻すことができる。
【0045】
そして、近年、食品工場は、飲食店と違い、毎日数トンの油泥が発生している事業所もあり、本発明のような油泥加温移送装置1を工場敷地内にオンサイト型の設備を設置し、オンサイトで資源化するサービスを提供できる。すなわち、脱炭素社会の実現に向けて本発明に係る油泥加温移送装置1を活用できる。
【0046】
なお、本発明は、上記実施の形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、螺旋状の油泥管13を収容できる限り、油泥加温移送装置1を円筒形状以外の他の形状にしても上記実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0047】
S 油分回収システム
P ポンプ(ポンプ手段)
CS 収容空間
VS 中空空間
1 油泥加温移送装置
2 分離タンク
11 熱交換窯
11a 本体部
11b 上蓋
11ba PCM注入口
11bb 油泥菅取出口
11c 底面
11ca 油泥菅第二取出口
11d 支持脚
12 断熱材
13 油泥菅
13a 油泥入口
13b 油泥出口
14 シリコンラバーヒータ(加熱手段)
15 保温ジャケット
16 蓄熱槽
【要約】
油泥加温移送装置Tは、中空空間VSを有して有底円筒形状に形成された熱交換窯11と、熱交換窯11の中空空間VSに収容された円筒形状の断熱材12と、油泥を送るための配管であって熱交換窯11の内周面と断熱材12の外周面との間に形成された収容空間CSに沿って配置された螺旋状の油泥管13と、断熱材12の外周面及び/又は熱交換窯11の内周面に面状に張られたシリコンラバーヒータ14と、を備える。収容空間CSには潜熱蓄熱材が充填されて蓄熱槽16となる。この構成により、本発明では油水分離槽などからの回収油泥を、ワンパスで65~75度程度にまで加温して分離タンクに送ることができる。
【選択図】
図2