(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/04 20060101AFI20230405BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20230405BHJP
H01B 11/18 20060101ALI20230405BHJP
H01B 7/08 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
H01B7/04
H01B7/02 Z
H01B11/18 D
H01B7/08
(21)【出願番号】P 2018237503
(22)【出願日】2018-12-19
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2017244560
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000145530
【氏名又は名称】株式会社潤工社
(72)【発明者】
【氏名】平松 重雄
【審査官】岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-507832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
H01B 7/02
H01B 11/18
H01B 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体上に複数の樹脂層からなる絶縁体とを備えたケーブルであって、
前記樹脂層は、いずれも同種のフッ素樹脂を含有し、
前記樹脂層は、最大の屈折率を有する樹脂層の屈折率と最小の屈折率を有する樹脂層との屈折率の差が0.03以下であり、
前記絶縁体の最外の樹脂層の層厚は0.03mm以下であり、
ケーブルの長手方向に垂直な断面における前記絶縁体の肉厚のばらつき(変動係数CV)が0.035以下であることを特徴とする絶縁ケーブル。
【請求項2】
前記絶縁体を構成するすべての樹脂層の中で、最外層に使用される樹脂のメルトフローレイト(MFR)が最大であることを特徴とする、請求項1に記載の絶縁ケーブル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の絶縁ケーブルを使用した、同軸ケーブル。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載のケーブルを使用した、丸型または平型の多芯ケーブル。
【請求項5】
請求項1または2に記載の絶縁ケーブル2本をペアとした、平衡ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルに関し、特にロボットケーブルなど摺動用に好適な、耐電圧特性に優れる絶縁ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、高い絶縁耐久性を持ち、耐熱性、耐油・耐薬品性に優れ、プラスチック絶縁体中で最小の誘電率を有するなど、優れた特徴を有する樹脂である。フッ素樹脂は、電気・電子機器の配線、とくにロボットケーブルなどに使用される絶縁電線の絶縁体として、好適に使用される。これらの用途として、機器の小型化、高性能化に伴い、絶縁ケーブルにはより柔軟で細径のケーブルが要求されている。しかしながら、細径化すると耐摩耗性などの機械的強度が低下する虞があった。
【0003】
ケーブルの柔軟性を高めるために、例えば、導体上に架橋含フッ素エラストマーを被覆し、その上に架橋フッ素樹脂を被覆して絶縁層とした絶縁電線がある。また、細径化を可能にするために、例えば特許文献1では、導体上に二種類の異なったフッ素樹脂、つまり、機械的特性及び耐油性に優れたETFEと、耐熱性に優れたFEPを組み合わせたものを、絶縁体として押出被覆した絶縁電線が提案されている。
【0004】
ケーブルを細径化すると導体上の絶縁層全体の厚さが薄くなることになり、耐摩耗性などの機械的強度だけではなく、耐電圧特性が低下してロボットケーブルとして必要とされる特性を十分に得られない虞がある。しかし、上述の絶縁電線は、ケーブルの絶縁層の耐摩耗性などの機械的特性と柔軟性を高めることを目的としており、細径化と耐電圧特性の向上を適えるものは検討されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、絶縁ケーブルにおいて、ケーブルの細径化に必要な耐電圧特性の向上を実現し、摺動用途に好適な絶縁ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、導体と、前記導体上に複数の樹脂層からなる絶縁体とを備えたケーブルであって、前記樹脂層はいずれも同種のフッ素樹脂を含有し、前記樹脂層は、最大の屈折率を有する樹脂層の屈折率と最小の屈折率を有する樹脂層との屈折率の差が0.03以下であり、前記絶縁体の最外の樹脂層の層厚は0.03mm以下であり、ケーブルの長手方向に垂直な断面における前記絶縁体の肉厚のばらつき(変動係数CV)が0.035以下であることを特徴とする絶縁ケーブルによって解決される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のケーブルは、耐電圧特性が向上し細径化が可能であり、柔軟性に優れ、摺動用途にも好適であるため、特にロボットケーブルなどに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態の絶縁電線の一例を示す断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下で、本発明に係るケーブルについて詳しく説明する。以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の成立に必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、本発明に係るケーブルの1例を示す模式図である。
図1に示すように、本発明のケーブル10は、導体1上に絶縁体2が被覆されて成る。該絶縁体は、少なくとも2層で構成され、絶縁体2を構成する樹脂層21~25の各層は、同等の屈折率を有するフッ素樹脂を主とする樹脂または樹脂組成物で構成される。その屈折率は、最大の屈折率を有する樹脂層の屈折率と、最小の屈折率を有する樹脂層との差が、0.03以下である。一般にフッ素樹脂は屈折率が1.34~1.46であり、その屈折率は一般的な着色ではほとんど変わらない。たとえば絶縁体2を構成する各樹脂層を同種のフッ素樹脂で構成したとき、絶縁体2の最大の屈折率を有する樹脂層の屈折率と、最小の屈折率を有する樹脂層との差は、0.03以下となる。フッ素樹脂とくにエチレンーテトラフルオロエチレン(ETFE)などは一般的な成形条件では薄肉に押出することが難しく、薄肉に被覆すると肉厚に偏りが生じる傾向があり、従来のケーブルでは、これを複数層に積層するとケーブルの肉厚のばらつきがさらに大きくなっていた。ケーブルの絶縁体肉厚にばらつきが生じると、絶縁破壊は絶縁体肉厚が薄い部分を起点に発生する。本発明のケーブルは溶融樹脂の金型内での流れを制御することで、絶縁体を複数の層で構成したときに絶縁体の肉厚のばらつきを小さく抑えることを可能とした。具体的には、絶縁体の偏肉や欠陥部分を生じる原因となる金型内での流れの方向性を制御するために、ダイ出口手前で樹脂圧を強くかけて押出方向と平行な方向以外の流れを抑え、ダイランドを通常の2倍の長さを設けて押出しをすることで、絶縁体の肉厚のばらつきを抑えている。ダイランドを長くすると絶縁体外観が悪くなる傾向が強いが、最外層の樹脂層を構成する樹脂を、流動性と溶融張力が高い樹脂で構成することで、外表面の表面状態が良好なケーブルとすることが可能である。ケーブルの絶縁体を複数の樹脂層の積層体で構成し、最外層を0.03mm以下とすることで、各樹脂層の欠陥部分が絶縁体全体として均一化されるとともに耐電圧特性が向上し、さらにケーブル特性のばらつきを小さくすることが可能となる。すなわち、本発明のケーブルは、絶縁体を構成する各樹脂層を積層したときに肉厚のばらつきを小さく抑え、ケーブルの長手方向に垂直な断面における絶縁体の肉厚のばらつき(変動係数CV)を0.035以下とすることで、絶縁体の肉厚を薄肉で成形し細径化しながら高い耐電圧特性に優れ、安定した耐電圧と機械特性を有するケーブルとした。
【0012】
本発明に係るケーブルの導体には、一般的な絶縁電線に用いられる導体を用いればよく、銅線、銀線、アルミ線、これらの合金線などの金属線で構成される。また、金属線は、銀メッキ、錫メッキ、ニッケルメッキ、アルミニウムメッキなどで被覆されたものであってもよい。導体は、単線または複数の導体が撚り合わされた撚り線のいずれでもよく、断面は丸線または平角線のいずれでもよい。
【0013】
本発明に係るケーブルの複数の樹脂層からなる絶縁体は、いずれの層も同種のフッ素樹脂を主とする樹脂で構成される。各樹脂層は、1種類または2種類以上の樹脂を混合して構成してもよいし、顔料またはその他の機能性フィラーなどを含有する樹脂混合物で構成してもよい。その場合、その樹脂層のなかで最も含有量が多い樹脂を、その樹脂層を構成する主とする樹脂とする。本発明に使用されるフッ素樹脂とは、エチレンーテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレンーヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などの溶融押出成形が可能な熱可塑性フッ素樹脂である。これらのフッ素樹脂は、それぞれの共重合体ごとに、押出成形のグレードなどがASTM規格に規定されている。絶縁体を構成する樹脂層のフッ素樹脂の種類が同種であるかどうかは、ASTM規格の規定に基づいて同じ規格番号に適合するものかどうかで判断される。絶縁体を構成する各樹脂層の主とする樹脂は、同種で、同一のグレードまたは異なるグレードの樹脂を使用できる。最外層に使用する樹脂のグレードは、内層と同等のMFRを有するグレードか、内層よりもMFRが大きいグレードを使用することが好ましい。
【0014】
本発明のケーブルは、絶縁体が少なくとも2つの樹脂層の積層で構成される。複数の樹脂層は、導体上に共押出で押し出して被覆することが好ましい。共押出することにより樹脂層間の密着強度が上がり、摺動させても樹脂層間の剥離が起きにくく、ロボットケーブルなどの摺動用途に使用することができる。また、絶縁体を複数の層で構成することで、層厚が薄い方が単位厚さあたりの絶縁破壊強度が高く、内層と外層の層間に欠陥がなければ、絶縁体全体としての耐電圧特性を高くすることができる。
【0015】
本発明のケーブルは、絶縁体を構成する各樹脂層を合わせた全肉厚のうち、少なくとも 50%以上の肉厚分の樹脂層は、機能性フィラーや顔料などのような、樹脂層を構成する主となるフッ素樹脂と誘電率が異なる物質を含まないことが好ましい。含有率として、0.05wt%以下であることが好ましい。誘電率が異なる物質を含まない樹脂層を配置することで、その樹脂層内では電気力線が集中する部分がなく高い耐電圧特性を有するため、ケーブル全体として耐電圧特性が向上し、絶縁体の薄肉化、細径化を図ることができる。また、機能性フィラーや顔料などを混合した樹脂混合物は、フィラーや顔料の種類およびその濃度によって誘電率が異なり絶縁破壊強度も異なるため、ケーブルの耐電圧にばらつき生じることが問題となっていたが、それらを含まない樹脂層を50%以上配置することで問題を解決することができる。本発明のケーブルを1本または複数本用いた丸型または平型の多芯ケーブルとしたときに、高い耐電圧を維持してケーブル全体を細径化することが可能であり、平衡ケーブルとしての使用にも有用である。
【0016】
本発明のケーブルの最外層の層厚は0.03mm以下である。最外層に使用する樹脂は、流動性が高く、溶融張力が高く均一な樹脂が好ましい。層厚が薄いため、流動性が高い樹脂を被覆しても、形状が維持される。また、溶融張力が高いことで内層の表面状態に影響されにくく、外層の表面状態がより平滑・均一になり、耐電圧が向上する。さらに、フィラーや顔料を混合した樹脂混合物を最外層に配置したとき、最外層の層厚が薄いことで、フィラーや顔料を高濃度に配合した場合でも耐電圧特性への影響を小さくすることができる。
【0017】
本発明のケーブルの複数の樹脂層で構成した絶縁体は、同軸ケーブルの誘電体層としても有用である。屈折率が同じ樹脂で構成しており、1層で構成した誘電体層と同等の誘電率が維持される。
【0018】
発明を、下記の実施例でより詳細に説明する。下記の実施例は、発明を例示するものであって、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
<絶縁体の肉厚の測定>
作成した試料ケーブルの長手方向と直行する断面の絶縁体の肉厚を、マイクロスコープを用いて測定する。測定箇所はケーブルの全長から出来るだけ均等に10箇所以上測定する。絶縁体の肉厚は、導体の中心を通る直線上で、導体と絶縁体の界面と、ケーブルの外表面との間の長さとして測定する。各樹脂層の厚さは、同じく導体の中心を通る直線上で、導体または樹脂層の界面と、樹脂層またはケーブル外表面との長さとして測定する。導体に平角線を使用した場合は、絶縁体の肉厚は、導体と絶縁体の界面と垂直に交わる直線上で、導体と絶縁体との界面と、ケーブルの外表面との間の長さとして測定する。各樹脂層の厚さは、同じく導体と絶縁体の界面と垂直に交わる直線上で、導体または樹脂層の界面と、樹脂層またはケーブル外表面との長さとして測定する。絶縁体の肉厚は、全樹脂層の厚さの合計と等しい。絶縁体の肉厚と各樹脂層の厚さは、1断面につき8箇所以上を測定し、断面における絶縁体の肉厚のばらつき(変動係数CV)を算出する。ケーブル全長での各測定箇所において算出した、断面における絶縁体肉厚のばらつき(変動係数CV)の平均値を算出し、絶縁体肉厚のばらつき CVとした。
<破壊電圧の測定>
1000mmに切断した試料ケーブルの両端末の絶縁層をストリップして水没させ、導体と水中電極間に500V/秒の速度で電圧を印加し、破壊した時の電圧を測定する。破壊電界強度は、次式により算出する。
【数1】
【0020】
実施例1
導体として直径0.65mmの軟銅線を使用した。その導体上に、0.22mmの厚さのETFE(MFR10g/10min(ASTM‐D3159(297℃×49N))と、0.03mmの厚さの白色の顔料を混合したETFE樹脂組成物(MFR10g/10min)とを、共押出で押出被覆し、肉厚0.25mmの絶縁体とした。
実施例2
導体として、直径0.65mmの軟銅線を使用した。その導体上に、0.37mmの厚さのETFE(MFR10g/10min)と、0.03mmの厚さの白色の顔料を混合したETFE樹脂組成物(MFR11g/10min)とを、押出被覆し、肉厚0.40mmの絶縁体とした。
実施例3
導体として直径0.65mmの軟銅線を使用した。その導体上に、0.12mmの厚さのETFE(MFR11g/10min)と、0.03mmの厚さのETFE(MFR11g/10min)とを、共押出で押出被覆し、肉厚0.15mmの絶縁体とした。
実施例4
導体として、直径0.18mmの銀メッキ軟銅線を7本撚り合わせて、直径0.54mmとした導体を使用した。その導体上に、0.37mmの厚さのETFE(MFR10g/10min)、0.058mmの厚さのETFE(MFR11g/10min)、及び0.045mmの厚さのETFE(MFR11g/10min)を共押出で被覆した。その外周に、0.018mmの厚さのETFE(MFR12g/10min)と、0.012mmの厚さの白色の顔料を混合したETFE樹脂組成物(MFR12g/10min)とを、押出被覆し、肉厚0.485mmの絶縁体とした。
比較例1
実施例1の被覆層を1層で構成したケーブルを作成した。導体として直径0.65mmの軟銅線を使用し、その導体上に、0.25mmの厚さの白色の顔料を混合したETFE樹脂組成物(MFR10g/10min)を押出被覆し、肉厚0.25mmの絶縁体とした。白色の顔料は、絶縁体全体での配合量が、実施例1の樹脂混合物層で配合した量と同じになるように調整した。
比較例2
実施例2の被覆層を1層で構成したケーブルを作成した。導体として直径0.65mmの軟銅線を使用し、その導体上に、0.40mmの厚さの白色の顔料を混合したETFE樹脂組成物(MFR11g/10min)を押出被覆し、肉厚0.40mmの絶縁体とした。白色の顔料は、絶縁体全体での配合量が、実施例2の樹脂混合物層で配合した量と同じになるように調整した。
比較例3
実施例3の被覆層を1層で構成したケーブルを作成した。導体として直径0.65mmの軟銅線を使用し、その導体上に、0.15mmの厚さのETFE(MFR11g/10min)を押出被覆し、肉厚0.15mmの絶縁体とした。
【0021】
各実施例、比較例について、各測定を行った結果を表1に示す。
【表1】
【0022】
実施例の絶縁体を複数の層で構成したケーブルの絶縁体肉厚は、絶縁体肉厚のばらつきCVが0.035以下であり、同じ絶縁体肉厚を1層で構成した比較例のケーブルと比較して、破壊電界強度が19.6%~7.9%向上した。また、破壊電解強度のばらつき(標準偏差)σも小さくなり、耐電圧特性のばらつきが大幅に低減されている。
【0023】
実施例5
実施例4のケーブルの絶縁体の外周に、0.12mmの銀メッキ軟銅線の編組で外部導体を設けた。その外部導体上に0.2mmの厚さのFEPを押出被覆し、同軸ケーブルとした。
【0024】
実施例5の同軸ケーブルの絶縁体の誘電率を測定した。実施例5の絶縁体は複数の樹脂層で構成されているが、その樹脂層はいずれも同等の屈折率の樹脂で構成されており、絶縁体を1層で構成したケーブルと誘電率が同等であることが確認された。
【符号の説明】
【0025】
10:絶縁ケーブル、 1:導体、 2:絶縁体