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  • 特許-農業害虫の逃避行動の誘発・捕殺方法 図1
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  • 特許-農業害虫の逃避行動の誘発・捕殺方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】農業害虫の逃避行動の誘発・捕殺方法
(51)【国際特許分類】
   A01M 5/06 20060101AFI20230405BHJP
   A01M 29/00 20110101ALI20230405BHJP
【FI】
A01M5/06
A01M29/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019145210
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021023233
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】505094984
【氏名又は名称】株式会社アグリ総研
(74)【代理人】
【識別番号】100069073
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 和保
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】弁理士法人小竹アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】手塚 俊行
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-10239(JP,A)
【文献】特開2007-289079(JP,A)
【文献】特開2011-212012(JP,A)
【文献】特開2012-191855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 5/06
A01M 29/00
F24F 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培する作物に定着する農業害虫に、湿度の高い空気を送風する工程を持つことにより、該定着する農業害虫に逃避行動を起こさせ、逃避行動を起こした農業害虫を粘着トラップにより捕殺する工程を持つことを特徴とする農業害虫の逃避行動の誘発・捕殺方法。
【請求項2】
湿度の高い空気とは、相対湿度(RH)で70%以上の値であることを特徴とする請求項1記載の農業害虫の逃避行動の誘発・捕殺方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は農業害虫を定着する作物からの逃避行動を誘発させ、そして捕殺方法及び逃避行動の誘発・捕殺装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コナジラミ、アブラムシ、アザミウマ等の有翅昆虫による農作物の被害は甚大で、その対策として、薬剤防除、生物的防除、物理的防除が提案されている。薬剤としては、有機リン剤、カーバメート剤、合成ピレスロイド剤などが使用されているが、薬剤は抵抗性の発達のリスクや人畜に有害な作用をするものがあるため、多用できない問題もあり、これに代わるものとして、害虫の忌避剤の使用が提案されている。
【0003】
忌避剤として、グリセリン脂肪酸エステルを有効成分として(特許文献1)、またプロビドジャスモンを有効成分としている(特許文献2)。
【0004】
生物的防除として、天敵昆虫を利用する生物農薬があり、害虫を捕食させるシステムである。その中の一つとして、バンカー法があり、作物に無害な昆虫を餌として用意し、天敵を維持・繁殖し、害虫の多寡にかかわらず、長期間継続的に捕食させ、天敵作用を機能させるものである(特許文献3)。
また物理的防除として、加振機によってキノコや果実などの作物に振動を与え、害虫を防除している(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5013329号公報
【文献】WO2017/159533号公報
【文献】特開2003-092962
【文献】特開2018-93831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
農業害虫を防除するため、前記のように、薬剤防除、生物的防除、物理的防除等が提案されているが、薬剤は抵抗性の発達や人畜に有害な作用を有するため、控えられる傾向にあり、そのため忌避剤が開発されてきたが、忌避剤が作物の成長に負の作用をするものがあり、また、物理的防除として、振動を与えるものにあっては、大きな栽培ハウスにおいて設置する場合に大きな装置となり、コスト高となる欠点を有していた。
【0007】
そこで、この発明は、作物に定着する農業害虫を農薬を用いずに逃避させてやること、そして逃避した農業害虫を捕捉捕殺する新しい技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、農業害虫へ忌避剤を用いることなく、また振動を与えることなく、定着する作物から逃避させることを発明し、そして逃避させられた農業害虫を捕殺させることを見出し、安全性の高い方法及びその装置を提供するものである。
【0009】
この発明は、栽培する作物に定着する農業害虫に、湿度の高い空気を送風する工程を持つことにより該定着する農業害虫に逃避行動を起こさせ、逃避行動を起こした農業害虫を粘着トラップで捕殺する工程を持つことにある(請求項1)。
このため、湿度の高い空気が送風されると、農作物に定着の農業害虫をその農作物から逃避行動を起こさせ、排除させることができる。
【0010】
湿度の高い空気とは、相対湿度(RH)で70%以上の値であることにあり(請求項2)、70%は下ではその作用効果は乏しい。
【0011】
湿度の高い空気の農作物への送風によって、農業害虫の逃避行動が起こり、農作物より離れた農業害虫は施設内に飛び回り、施設内に設置の粘着トラップに止まり、捕捉され、そして捕殺される(請求項1)。
【0012】
農業害虫の逃避行動の誘発・捕殺装置は、送風機と加湿器を少なくとも持つ構成の湿度発生送風機と、この湿度発生送風機から湿度の高い空気を作物に当てるに適する送風手段と、逃避行動を起こした農業害虫を捕殺する粘着トラップを備えたことよりなっている。
このため湿度発生送風機から送風手段を介して湿度の高い空気が農作物に当てられるため、作物に定着の農業害虫を逃避させられる。
【0013】
農業害虫の逃避行動の誘発・捕殺装置が設置される施設内では、粘着トラップが設置されているため、逃避害虫は飛翔して粘着トラップに捕捉される。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、栽培する作物に定着する農業害虫に湿度の高い空気を送風することで、定着の農業害虫が逃避行動を起こさせることができる。すなわち、例えば湿度70%RH以上で、温度30℃、風速0.5m/秒の微風を植物体に当てることで、アブラムシ類、コナジラミ(成虫)およびアザミウマ(成虫)を植物体上から逃避させることが可能となった。
また、湿度の高い空気を送風するための薬剤を使用しておらず、人畜無害であり受け入れやすい害虫の防除方法である(請求項1)。
【0016】
逃避行動を起こしていた農業害虫は、飛翔して粘着トラップに捕捉され、効率よく捕殺される(請求項1)
【0017】
湿度の高い空気とは、相対湿度(RH)の70%以上の値が最適である(請求項2)。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】この発明の概略の構成を示す斜視図である。
図2】同上の構成の概略の説明図である。
図3】同上の栽培施設内に送風手段となる導引パイプが張り廻らされている斜視図である。
【実施例1】
【0022】
図1にあって、逃避行動の誘発・捕殺装置(1)が示され、この装置(1)は、湿度発生送風機(2)と送風手段(3)とより構成されている。湿度発生送風機(2)はモータ(5)とファン(6)とより成る送風機(7)と、超音波振動子や、公知の遠心力式からなる加湿器または加熱式加湿器(8)とが上下に組み立てられもので、下面に車輪(9)有し、作物栽培施設(図示せず)内を移動可能に構成されている。なお図示はしないが、この送風機(7)、加湿器(8)を動かすためのスイッチなどの制御装置や、温度制御する加温器は図示していない。
【0023】
送風手段(3)は、湿度発生送風機(2)から湿度の高い空気を所望する場所へ送り出すもので導引パイプ(10)とその先端部に配されるノズル(11)とにより構成されている。この図示の例では、施設内を移動可能な例で、管理者が引き回して使用される。
【0024】
所望のところまで運んでから電源を入れ送風機(7)を駆動し、加湿器(8)で送風空気に加湿される。湿度の高い空気は導引パイプ(10)を通りノズル(11)より吹出される。管理者がノズル(11)の方向を所望する農作物に向けて噴射する。
【0025】
図2にあって、この発明の構成の概略が図示され、送風機(7)及び加湿器(8)は、制御装置(13)により回転数なり作動時間がコントロールされる。なお、送風される空気の温度が低い場合には、ノズル(11)へ接続の通風路(14)の途中に加温器(15)を設けておけば、温度のコントロールも可能となる。(16)は施設内に設けられた粘着トラップである。飛翔昆虫を表面に塗った粘着剤により捕捉する。
なお、大型施設内においては、導引パイプ(10a)を張り廻らし、適宜に湿度の高い空気を必要時にノズル11aより吹出させることができる。
【0026】
図3にあって、大規模な栽培施設内に、この発明の実施例が示されている。施設内ではトマトなどの作物18が栽培され、整然と植設されている。そして、送風手段3となる導引パイプ10aが畝に沿って多くの本数が平行して配置されている。この導引パイプ10aは、湿度発生送風機2(図2に示す。)の出口と接続され、湿度の高い空気が供給される。
【0027】
導引パイプ10aには、ノズル11aが多数設けられ、このノズル11aにより必要時に、湿度の高い空気が作物に向けて噴射される。
さらに、施設内に、粘着トラップ16が吊持されている。この粘着トラップ16は黄色で表面に接着剤が塗布されている公知構造のものであり、飛翔する害虫がたかり捕捉される。表13に試験例が示されている。
【0028】
次にこの発明の要部となる「湿度の高い空気」の湿度条件は、下記に示される試験により選択された。
試験例1として、湿度40%RH時の風速と湿度の組合せ(周辺温湿度は26℃70%RH)に対するオンシツコナジラミ成虫の逃避の有無を表1として示した。
【表1】
湿度が40%RHの乾燥した空気の場合は、風速(m/sec.)が増大しても、離脱はないが、温度が60℃の高温にするとオンシツコナジラミを逃避させることができるが、作物(植物体)に高温の影響が出る可能性がある。
【0029】
試験例2として、湿度60%RH時の風速と温度の組合せ(周辺温湿度は26℃70%RH)に対するオンシツコナジラミ成虫の逃避の有無を表2として示した。
【表2】
湿度60%RH程度の標準的な空気の場合は、高温または強風であれば、オンシツコナジラミを逃避させることができるが、作物(植物体)に強風の影響が出る可能性がある。
【0030】
試験例3として、湿度80%RH時の風速と温度の組合せ(周辺温湿度は26℃70%RH)に対するオンシツコナジラミ成虫の逃避の有無を表3として示している。
【表3】
高湿度(80%RH)の空気の場合は微風(0.2m/sec.以下)で且つ常温(30℃)で、オンシツコナジラミを逃避させることができ、作物(植物体)に影響が出る可能性が極めて低い。
【0031】
試験例4として、風速0.5m/sec.、30℃時における湿度別(70%RH,80%RH)の逃避率(%)(周辺温湿度は25℃60%RH)を表4として示している。
植物はタバコ、タバココナジラミを10匹放飼、定着確認後に湿風処置(湿度の高い空気の送風)を2秒間行なう。なお、湿風処置とは、湿度の高い空気の送風をいう。
【表4】
高湿度(70%RH,75%RH,80%RH)であれば、微風(0.5m/sec.)でも、タバココナジラミの多くをタバコ(植物体)上から逃避させることができた。
【0032】
試験例5として、風速0.5m/sec.,30℃時における湿度別(70%RH,75%RH,80%RH:周辺温湿度は20℃75%RH)の逃避率(%)を表として示している。
植物はソラマメヒゲナガアブラムシを10匹放飼、定着確認後に湿風処置を2秒間行なう。
【表5】
高湿度(70%RH,75%RH,80%RH)であれば、微風(0.5m/sec.)でも、ソラマメヒゲナガアブラムシの多くをソラマメ(植物体)上から逃避させることができた。
【0033】
試験例6として、湿度80%RH,風速0.5m/sec.,30℃時における(周辺温湿度は22℃55%RH)シロツメクサ上のコンドウヒゲナガアブラムシの逃避率を示す。湿風処置を3秒間行なう。
【表6】
コンドウヒゲナガアブラムシに湿風処置の効果が認められた。
【0034】
試験例7として、湿度80%RH,風速0.5m/sec.,30℃時における(周辺温湿度は25℃40%RH)オオムギ上のトウモロコシアブラムシの逃避率を示す。湿風処置を3秒間行なう。
【表7】
トウモロコシアブラムシに湿風処置の効果が認められなかった。
【0035】
試験例8として、湿度80%RH,風速0.5m/sec.,30℃時における(周辺温湿度は25℃40%RH)ソラマメ上のマメアブラムシの逃避率を示す。湿風処置を3秒間行なう。
【表8】
マメアブラムシに湿風処置の効果が認められなかった。
【0036】
試験例9として、風速0.5m/sec.,30℃時における湿度別(70%RH,75%RH,80%RH:周辺温湿度は25℃40%RH)のインゲン上のミナミキイロアザミウマ成虫の逃避率を示している。ミナミキイロアザミウマ10匹を放飼し、定着確認後に湿風処置を2秒間行なう。
【表9】
ミナミキイロアザミウマに湿風処置の効果が認められた。
【0037】
試験例10として、湿風処置によるキュウリ花内のヒラズハナアザミウマ成虫の逃避率を示す。試験1から10まで、寄生数と逃避数と逃避率を記する。湿風処置は湿度80%RH,風速0.5m/sec.,30℃で3秒間行った(周辺温湿度は17℃75%RH)。
キュウリは露地栽培でヒラズハナアザミウマは自然発生。
【表10】
ヒラズハナアザミウマに湿風処置の効果が認められた。
【0038】
試験例11として、湿風処置によるシロツメクサ花内のヒラズハナアザミウマ成虫の逃避率を示す。試験1から10まで、寄生数と逃避数と逃避率を記する。湿風処置は湿度80%RH,風速0.5m/sec.,30℃で3秒間行った(周辺温湿度は22℃55%RH)。
シロツメクサは露地に生息したものでヒラズハナアザミウマは自然発生。
【表11】
ヒラズハナアザミウマに湿風処置の効果が認められた。
【0039】
試験例12として、湿風処置によるイチゴ花内のミカンキイロアザミウマ成虫の逃避率を示す。試験1から7まで、寄生数と逃避数と逃避率を記する。湿風処置は湿度80%RH,風速0.5m/sec.,30℃で3秒間行った(周辺温湿度は25℃40%RH)。
イチゴは室内栽培したものでミカンキイロアザミウマは放飼した。
【表12】
ミカンキイロアザミウマに湿風処置の効果が認められた。
【0040】
試験例13として、タバコ上に10匹のオンシツコナジラミを放飼し、その後に黄色粘着トラップ設置1時間後のオンシツコナジラミのタバコ上残存数、トラップ捕殺数、他の場所への逃避数を示す。試験1から5まで、残存数、捕殺数、逃避数を湿風処理ありと湿風処理なしと比較して記する。
【表13】
湿風処置と粘着トラップの併用で、オンシツコナジラミを効率よく捕殺することができた。湿風処理はコナジラミ10匹に対し、粘着トラップ設置15分後に80%RH,0.5m/sec.,30℃で2秒間行なった(周辺温湿度は26℃,70%RH)。なお、湿風処理の多くの試験例では、70%,75%,80%(RH)で行なったが、記述していないけれど80%(RH)までの値でも、農業害虫を充分に逃避させる効果が得られている。
【符号の説明】
【0041】
1 逃避行動の誘発・捕殺装置
2 湿度発生送風機
3 送風手段
7 送風機
8 加湿器
10,10a 導引パイプ
11,11a ノズル
16 粘着トラップ
図1
図2
図3