(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】iPSC由来細胞の臓器相当物への分化を確立する新規多臓器チップ
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0735 20100101AFI20230405BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230405BHJP
C12N 5/0797 20100101ALI20230405BHJP
C12N 5/074 20100101ALI20230405BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20230405BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20230405BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
C12N5/0735
C12N5/071
C12N5/0797
C12N5/074
C12N5/0775
C12M3/00 A
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2020531437
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(86)【国際出願番号】 EP2018086483
(87)【国際公開番号】W WO2019122291
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-10
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513277061
【氏名又は名称】ティスーゼ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】TissUse GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】マルクス,ウーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】ラム,アンヤ
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-533083(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0355298(US,A1)
【文献】国際公開第2019/107535(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/047132(WO,A1)
【文献】ILKA MASCHMEYER; ET AL,LAB ON A CHIP,英国,ROYAL SOCIETY OF CHEMISTORY,2015年,VOL:15, NR:12,PAGE(S):2688 - 2699,http://dx.doi.org/10.1039/C5LC00392J
【文献】MATERNE EVA-MARIA; ET AL,A MULTI-ORGAN CHIP CO-CULTURE OF NEUROSPHERES AND LIVER EQUIVALENTS FOR LONG-TERM SUBSTANCE TESTING,JOURNAL OF BIOTECHNOLOGY,NL,ELSEVIER,2015年02月09日,VOL:205,PAGE(S):36 - 46,http://dx.doi.org/10.1016/j.jbiotec.2015.02.002
【文献】YUKI IMURA; ET AL,ANALYTICAL CHEMISTRY,2010年12月15日,VOL:82, NR:24,PAGE(S):9983 - 9988,http://dx.doi.org/10.1021/ac100806x
【文献】MASCHMEYER ILKA; ET AL,EUROPEAN JOURNAL OF PHARMACEUTICS AND BIOPHARMACEUTICS,NL,ELSEVIER SCIENCE PUBLISHERS B.V.,2015年04月06日,VOL:95,PAGE(S):77 - 87,http://dx.doi.org/10.1016/j.ejpb.2015.03.002
【文献】BOOTH R; ET AL,LAB ON A CHIP,2014年,VOL:14, NR:11,PAGE(S):1880 - 1890,http://dx.doi.org/10.1039/C3LC51304A
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12M
C12Q
G01N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小流体デバイスであって、
(a)細胞培養コンパートメントであって、
(i)誘導多能性幹細胞(iPSC)由来肝実質細胞前駆細胞;
(ii)iPSC由来腸前駆細胞;
(iii)iPSC由来尿細管前駆細胞;及び
(iv)iPSC由来神経前駆細胞;
が別々に堆積され、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従う前記iPSC由来前駆細胞は、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、細胞培養コンパートメントと、
(b)栄養液をシステムに添加するよう機能する貯留コンパートメントと、
を含む、微小流体デバイス。
【請求項2】
微小流体デバイスであって、
(a)細胞培養コンパートメントであって、
(i)誘導多能性幹細胞(iPSC)由来肝実質細胞オルガノイド;
(ii)iPSC由来腸オルガノイド;及び
(iii)iPSC由来尿細管オルガノイド;
が別々に堆積され、(i)、(ii)及び(iii)に従う前記iPSC由来オルガノイドは、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、細胞培養コンパートメントと、
(b)栄養液をシステムに添加するよう機能する貯留コンパートメントと、
を含む、微小流体デバイス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の微小流体デバイスにおいて、
前記微小流体デバイスは、第1回路及び第2回路を含み、
(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)に従う前記iPSC由来前駆細胞、又は(i)、(ii)及び(iii)に従う前記iPSC由来オルガノイドをそれぞれ収容する前記細胞培養コンパートメントは、前記第1回路の一部を構成し、
前記第2回路は、濾過ユニット
及び再吸収ユニットを含み、
両回路は、前記濾過ユニット及び前記再吸収ユニットを介して互いに連結されている、微小流体デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の微小流体デバイスにおいて、
前記濾過ユニットは、分子のサイズ及び電荷に基づき前記第1回路から前記第2回路へ前記分子を選択的に通過させる濾過障壁を含む、微小流体デバイス。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の微小流体デバイスの、分析試験
、研究、標的検証、毒性試験、組織化工学、組織生産、創薬スクリーニング及び/又は薬物動態-薬力学解析における使用。
【請求項6】
診断に使用するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の微小流体デバイス。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の微小流体デバイスを利用する生体模倣システムにおいて分析物を検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微小流体デバイス上において誘導多能性幹細胞(iPSC)由来細胞から臓器相当物への分化を確立する新規多臓器チップと、臓器相当物を発生させる対応する方法とに関する。本開示はまた、ハイドロゲルにiPSC由来内皮細胞及び/又はオルガノイドをバイオプリント及び/又は播種することにより発生した、臓器バリアを模倣する、生体工学的に作製された新規組織構築物にも関する。更に本開示は、iPSC由来臓器前駆細胞及びiPSC由来線維芽細胞及び内皮細胞を共培養することを含む、臓器構築物を生体工学的に作製する方法にも関する。本開示は、具体的には:(i)iPSC由来肝実質細胞(hepatocyte cell)前駆細胞;(ii)iPSC由来腸前駆細胞;(iii)iPSC由来尿細管前駆細胞;及び(iv)iPSC由来神経前駆細胞を含む微小流体デバイスであって;(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来前駆細胞は、単一種(single type)の体細胞から再プログラム化された単一ドナーのiPSC(single donor iPSC)から分化させたものである、微小流体デバイスを提供する。
【背景技術】
【0002】
微小流体デバイスは、ヒト生物学を生物学的に許容される最小スケールでin vitroで模倣することができるものである。従来の(静置)細胞及び組織培養とは対照的に、生体模倣システムは、ヒトの細胞及び組織の使用を最小限にして臓器機能を模倣するための要素として、組織に生理学的栄養(physiological nutrition)を与えるための流体を動的に流動させるものである。多臓器チップの技術は、創薬及び毒性試験という観点で製薬業界から特に関心が寄せられている。多臓器チップモデルにより、複雑な生物学的プロセスの基礎的理解を高めることができると共に、医薬品のみならず化粧品についても、より短時間で、正確に、経済的に、且つ臨床的意義のある試験が行えると考えられている。したがって、当該技術分野において、微小流体デバイス上で実施される生体模倣システムを用いたin vitro試験は、in vivo 試験よりも有効であると共に、信頼性も高くなり得るという認識が高まっている。
【0003】
幹細胞は絶えず分裂する能力を有すると共に、様々な種類の細胞に分化する能力を有する。近年、幹細胞に基づく、特に、移植用臓器の不足に対処することを目的とした、機能的臓器を作製する手法が登場し、幹細胞を臓器チップデバイス上で培養することが当該技術分野において報告されている。特に、Giobbeら(Nat.Methods,2015,12(7),637-640)は、多能性幹細胞がチップ上で心筋細胞及び肝実質細胞に機能的分化することを記載しており、Zhangら(Future Sci.OA,2017,3(2),FS0197)は、微小流体デバイス内で間葉幹細胞を培養及び分化して臓器チップとすることを記載している。しかしながら、異なる幹細胞由来臓器前駆細胞を共培養して臓器機能を模倣する複数のモデルを有する多臓器チップを確立することに関する報告はなく、特に、微小流体デバイス上に臓器相当物を作製することを目的として、異なる誘導多能性幹細胞(iPSC)由来細胞を共培養することは報告されていない。
【0004】
当該技術分野においては、誘導多能性幹細胞(iPSC)由来細胞の臓器相当物への分化を確立する多臓器微小流体デバイスと、臓器相当物を作製する対応する方法とが必要とされている。特に本開示は:(i)iPSC由来肝実質細胞前駆細胞;(ii)iPSC由来腸前駆細胞;(iii)iPSC由来尿細管前駆細胞;及び(iv)iPSC由来神経前駆細胞;を含む新規微小流体デバイスであって;(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来前駆細胞は、単一種の体細胞から再プログラム化された単一ドナーのiPSCから分化したものである、デバイスを提供することにより、並びにiPSC由来臓器前駆細胞及びiPSC由来線維芽細胞及び内皮細胞を共培養することを含む、臓器構築物を生体工学的に作製する新規方法を提供することにより、この要求に対処するものである。
【発明の概要】
【0005】
とりわけ本開示は、誘導多能性幹細胞(iPSC)由来細胞の臓器相当物への分化を確立する新規な多臓器チップを提供する。特に本開示は、臓器機能を模倣する複数のモデルを有する多臓器チップを作製することを目的として異なるiPSC由来臓器前駆細胞を共培養するための新規微小流体デバイスを提供する。更に本開示は、臓器構築物を生体工学的に作製する方法であって、iPSC由来臓器前駆細胞及びiPSC由来線維芽細胞及び内皮細胞を共培養することを含む、方法を提供する。本開示はまた、ハイドロゲル内又はハイドロゲル上にiPSC由来一次内皮細胞(iPSC-derived primary endothelial cells)(例えば、HDMECを含む)及び/又はオルガノイドを作製した、臓器バリアを模倣する新規生体工学的に作製された組織構築物を提供する。
【0006】
更に本開示は、微小流体チップに血液回路及び尿回路を組み込み(implement)、臓器機能を模倣する複数のモデルの相互作用及びクロストークを模倣するシステムにおいて安定な微環境を維持するための生理的条件を支援する生体模倣システムを確立する。驚くべきことに、小型化されたヒトの腸、肝臓、脳及び腎臓相当物(これらは全て、同一ドナーからのiPSCをプレ分化させたものである)を有する4臓器チップ(four-organ chip)が、成長因子を欠乏させた培養培地における14日間の培養期間で、異なるiPSC由来臓器モデルへの更なる分化を示すことが見出された。この更なる分化は、臓器相当物間のクロストークに起因する。更に、異なる組織において、経時的に成熟が進行することを認めることができた。重大なことは、異なるiPSC由来臓器モデルは、ADME-N(=ADMEチップに神経相当物を追加したもの)で共存培養(co-cultivation)する間は安定であった、即ち、長時間に亘りそれらの表現型を維持し、標的とした組織のマーカー遺伝子の明確且つ一貫した(defined and consistent)発現を示した(実験7及び
図21)。本開示は、ADME(T)プロファイリングに関連する薬物動態-薬力学解析を行うための試験の確立に適した新規微小流体デバイスを提供する。具体的には、本開示は、単一ドナーからの自家iPSCに由来する4種の異なる臓器モデルを、生理学的薬物動態(PBPK)に対応する生体模倣システム(MPS)において余分な成長因子を添加することなく培養する、全身的な長時間の共存培養を上首尾に確立するものである。
【0007】
特に、本開示は、以下を提供する:
[1](i)誘導多能性幹細胞(iPSC)由来肝実質細胞前駆細胞;(ii)iPSC由来腸前駆細胞;(iii)iPSC由来尿細管前駆細胞;及び(iv)iPSC由来神経前駆細胞;を含み;(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来前駆細胞は、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、微小流体デバイス。したがって、本明細書に記載するように、iPSC由来前駆細胞は自家細胞と見なすことができる。
[2]:(i)誘導多能性幹細胞(iPSC)由来肝実質細胞オルガノイド;(ii)iPSC由来腸オルガノイド;及び(iii)iPSC由来尿細管オルガノイド;を含み;(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来オルガノイドは、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、微小流体デバイス。
[3](i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来前駆細胞又は(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来オルガノイドは、それぞれ別々の細胞培養コンパートメントに堆積される、[1]又は[2]に記載の微小流体デバイス。
[4]微小流体デバイスは、第1回路及び第2回路を含み、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来前駆細胞又は(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来オルガノイドをそれぞれ含む細胞培養コンパートメントは、第1回路の一部を構成し、第2回路は、濾過ユニット及び再吸収ユニットを含み、両回路は濾過ユニット及び再吸収ユニットを介して互いに連結されている、[1]~[3]のいずれか一つに記載の微小流体デバイス。
[5]濾過ユニットは、分子のサイズ及び電荷に基づき第1回路から第2回路へ分子を選択的に通過させる濾過障壁を含む、[4]に記載の微小流体デバイス。
[6]肝実質細胞オルガノイド、腸オルガノイド、及び腎臓尿細管オルガノイドを発生させる方法であって、(i)誘導多能性幹細胞(iPSC)由来肝実質細胞前駆細胞、(ii)iPSC由来腸前駆細胞及び(iii)iPSC由来腎前駆細胞を、互いに微小流体が連通している別々の細胞培養コンパートメント内で共培養することを含む、方法。
[7]iPSC由来内皮細胞を共培養することを更に含み、iPSC由来内皮細胞は、(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来前駆細胞/スフェロイドと同一の単一ドナーのiPSCから得られたものであり、iPSC由来内皮細胞は、細胞培養コンパートメントを連結している微小流体流路内に堆積される、[6]に記載の方法。
[8]iPSC由来肝実質細胞前駆細胞を含む細胞培養コンパートメントは、iPSC由来肝実質細胞前駆細胞と同一の単一ドナーのiPSCから得られたiPSC由来線維芽細胞を更に含む、[6]又は[7]に記載の方法。
[9][1]~[5]のいずれか一つに記載の微小流体デバイスの、分析試験、診断、研究、標的検証、毒性試験、組織化工学、組織生産、創薬スクリーニング及び/又は薬物動態-薬力学解析における使用。
[10][1]~[5]のいずれか一つに記載の微小流体デバイスを利用する生体模倣システムにおいて分析物を検出する方法。
[11]哺乳動物の臓器バリアを模倣する、(i)誘導多能性幹細胞(iPSC)由来オルガノイド;(ii)iPSC由来線維芽細胞;及び(iii)iPSC由来内皮細胞;を含む、生体工学的に作製された結合組織構築物であって、(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来オルガノイド及び細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、結合組織構築物。
[12]哺乳動物の臓器バリアを模倣する結合組織構築物を生体工学的に作製する方法であって:(i)誘導多能性幹細胞(iPSC)由来オルガノイド、(ii)iPSC由来線維芽細胞及び(iii)iPSC由来内皮細胞を、ハイドロゲル内にバイオプリントすること、及び/又はハイドロゲル上に播種することを含み、(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来オルガノイド及び細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、方法。
[13]組織修復、組織化工学及び/又は組織生産のいずれか一つに使用するための、[11]に記載の結合組織構築物。
[14]:(i)誘導多能性幹細胞(iPSC)由来ニューロスフェア及び(ii)iPSC由来内皮細胞を含む、哺乳動物血液脳関門を模倣する、生体工学的に作製された組織構築物であって、(i)及び(ii)に従うiPSC由来ニューロスフェア及び内皮細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、組織構築物。
[15](i)誘導多能性幹細胞(iPSC)由来ニューロスフェア;(ii)iPSC由来内皮細胞;及び(iii)iPSC由来線維芽細胞をハイドロゲル内にバイオプリントすること、及び/又はハイドロゲル上に播種することを含む、哺乳動物血液脳関門を模倣する組織構築物を生体工学的に作製する方法であって、(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来ニューロスフェア、内皮細胞及び線維芽細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、方法。
[16][11]に記載の結合組織構築物又は[14]に記載の組織構築物を含む微小流体システム。
[17](i)誘導多能性幹細胞(iPSC)由来臓器前駆細胞、(ii)iPSC由来線維芽細胞及び(iii)iPSC由来内皮細胞を単一の細胞培養コンパートメント内で共培養することを含む、成体臓器構築物を生体工学的に作製する方法であって、(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来臓器前駆細胞及びiPSC由来線維芽細胞及び内皮細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、方法。
[18]成体内皮細胞を生体工学的に作製する方法であって、誘導多能性幹細胞(iPSC)由来内皮前駆細胞を剪断応力に曝すことを含み、好ましくは、iPSC由来内皮前駆細胞を微小流体システムの微小流体流路内で培養することを含む、方法。
[19](i)誘導多能性幹細胞(iPSC)由来肝実質細胞前駆細胞;(ii)iPSC由来線維芽細胞;及び/又は(iii)iPSC由来内皮細胞を、単一の細胞培養コンパートメント内で共培養することを含む、成体肝臓臓器構築物を生体工学的に作製する方法であって、(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来肝実質細胞前駆細胞、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、方法。
本明細書に開示した微小流体デバイス、組織構築物、方法及び使用のいずれかを含む本開示の様々な実施形態において、iPSC由来前駆細胞及び/又はiPSC由来オルガノイドは、iPSC由来前駆細胞及び/又はiPSC由来オルガノイド用の余分な成長因子を含まない培地/栄養液で培養される。例えば、培地がヒト成人血清を含む場合、これは、余分な成長因子、具体的には、各iPSC由来前駆細胞及び/又はiPSC由来オルガノイド用の余分な成長因子を含まない、即ち、例えば、肝実質細胞の肝実質細胞増殖因子を含まない。したがって、様々な実施形態において、培地/栄養液は、本明細書に開示するiPSC由来前駆細胞及び/又はiPSC由来オルガノイドのいずれかに特異的な成長因子を含まない。本開示は、本明細書に開示する微小流体デバイス、組織構築物、方法及び使用のいずれかにおける、iPSC由来前駆細胞及び/又はiPSC由来オルガノイドの使用を包含し、iPSC由来前駆細胞及び/又はiPSC由来オルガノイドは、少なくとも2週間に亘り共培養される。好ましくは、このような共培養は、4種の異なるオルガノイド/臓器相当物の共存培養を包含する。好ましい実施形態において、4種の異なるオルガノイド/臓器相当物は、肝臓オルガノイド/相当物、腎臓(又は腎)オルガノイド/相当物、脳オルガノイド/相当物及び腸オルガノイド/相当物である。このような共培養において、培養培地/栄養液は、好ましくは、iPSC由来前駆細胞及び/又はiPSC由来オルガノイドの成長因子を含まない。
様々な好ましい実施形態において、本明細書に記載する任意のiPSC由来オルガノイドは、iPSC由来線維芽細胞及び/又はiPSC由来内皮細胞を集合させた(assembled from)/合わせた(together with)ものであり、iPSC由来線維芽細胞及び/又はiPSC由来内皮細胞は、iPSC由来オルガノイドと同一の単一ドナーのiPSC(単一種の体細胞から得られたもの)から得られたものである。より具体的には、様々な好ましい実施形態において、腸オルガノイドは、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞を集合させた/合わせたものである、即ち、様々な実施形態において、腸オルガノイドは、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞と共培養される。更に、様々な好ましい実施形態において、肝臓オルガノイドは、iPSC由来肝実質細胞及びiPSC由来線維芽細胞を集合させた/合わせたものとすることができる。同様に、様々な好ましい実施形態において、腎オルガノイドは、(iPSC由来)線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞を集合させた/合わせたものとすることができる。同様に、様々な好ましい実施形態において、脳オルガノイドは、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞を集合させた/合わせたものとすることができる。上記に従い、これらの好ましい実施形態において、iPSC由来線維芽細胞及び/又はiPSC由来内皮細胞は、iPSC由来オルガノイドと同一のiPSC(単一種の体細胞から得られたもの)の単一ドナーから得られたものである。
【0008】
本開示の他の態様及び実施形態は、以下を含む:
[1]1以上の細胞培養コンパートメントを有する第1回路と、濾過ユニット及び再吸収ユニットを含む第2回路と、を含み、両回路は濾過ユニット及び再吸収ユニットを介して互いに連結されている、微小流体デバイス。
[2]濾過ユニットは、分子のサイズ及び電荷に基づき第1回路から第2回路へ分子を選択的に通過させることができる濾過障壁を含む、[1]に記載の微小流体デバイス。
[3]濾過障壁は、機械的又は生物学的障壁、好ましくは有足細胞を含む生物学的障壁である、[2]に記載の微小流体デバイス。
[4]再吸収ユニットは、第2回路から第1回路への流体を再吸収することができる障壁を含む、[1]~[3]のいずれか一つに記載の微小流体デバイス。
[5]再吸収障壁は生物学的障壁であり、好ましくは、生物学的障壁は腎細管細胞を含む、[4]に記載の微小流体デバイス。
[6]第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも一つは、肝臓機能を模倣する臓器相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも一つは、腸機能を模倣する臓器相当物を含む、[1]~[5]のいずれか一つに記載の微小流体デバイス。
[7]分析試験、診断、研究、標的検証、毒性試験、組織化工学、組織生産、創薬スクリーニング及び/又は薬物動態-薬力学解析における、[1]~[6]のいずれか一つに記載の微小流体デバイス使用。
[8][1]~[6]のいずれか一つに記載の微小流体デバイスを利用する生体模倣システムを動作させる方法。
[9]胃腸管の上皮細胞を含み腸機能を模倣する臓器相当物又は組織を含む細胞培養コンパートメントを介して、栄養液を生体模倣システムに選択的に添加することを更に含む、[8]に記載の方法。本開示の様々な実施形態において、栄養液は、本明細書の他の箇所に記載する実施形態に従い、iPSC由来前駆細胞及び/又はiPSC由来オルガノイド用の余分な成長因子を含まない。例えば、栄養液がヒト成人血清を含む場合、これは、余分な増殖因子、具体的には、各iPSC由来前駆細胞及び/又はiPSC由来オルガノイドの増殖因子を含まない、即ち、例えば、肝実質細胞の肝実質細胞増殖因子を含まない。したがって、様々な実施形態において、栄養液は、本明細書に開示するiPSC由来前駆細胞及び/又はiPSC由来オルガノイドのいずれかに特異的な増殖因子を含まない。
[10][1]~[6]のいずれか一つに記載の微小流体デバイスを利用する生体模倣システムにおいて分析物を検出する方法であって、第1回路の細胞培養コンパートメントに供試サンプルを添加することを含み、好ましくは、細胞培養コンパートメントは、胃腸管、皮膚又は気道の上皮細胞を含む組織を含む、方法。
[11]1以上の細胞培養コンパートメントを有する第1回路と、濾過ユニット及び再吸収ユニットを含む第2回路と、を含む生体模倣システムを動作させることを含む、恒常性を模倣する方法であって、両回路は、濾過ユニット及び再吸収ユニットを介して互いに連結している、方法。
[12]胃腸管、皮膚又は気道の上皮細胞を含む細胞培養コンパートメントを介して栄養液を生体模倣システムに選択的に添加することを含む、[11]に記載の方法であって、好ましくは、上皮細胞は、胃腸管、好ましくは小腸の上皮細胞である、方法。
[13]細胞を培養及び/又は維持する方法であって、請求項[1]~[6]のいずれか一項に記載の微小流体デバイスに細胞を播種することを含む、方法。
[14]請求項[1]~[6]のいずれか一項に記載の微小流体デバイスと使用説明書とを含む、生体模倣システムを動作させるためのキット。
[15]請求項[1]~[6]のいずれか一項に記載の微小流体デバイスを含む、ADME(吸収、分布、代謝、排泄)試験又はADMET(吸収、分布、代謝、排泄、毒)試験。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、例示的なADME-Nチップの設置面積(footprint)(上段)及び別々の層の等角図(下段)を示すものである。等角図は、2つの回路(血液回路及び尿回路)の間の膜の配置を例示している。ADME-N=ADMEチップに神経相当物を追加したもの。
【
図2】
図2は、iPSCチップ及び初代組織チップの実験計画を示すものである。RPTEC=腎近位尿細管上皮細胞株。iPSC=誘導多能性幹細胞。2A:実験計画1.1及び1.2、2B:実験計画2。
【
図3】
図3は、グルコース濃度及びLDH活性の測定値を示すものである。3A:実験1.1(iPSCチップ)におけるグルコース濃度及びLDH活性測定;3B:実験1.2(初代組織チップ)におけるグルコース濃度及びLDH活性測定。測定は、腸相当物の頂端側コンパートメント、「血液」媒体貯留器(血液回路用)及び「尿」媒体貯留器(尿回路用)において毎日行った。
【
図4】
図4は、ヒトRPTECを完全播種(fully seeded)したADME-Nチップの尿細管相当物を示すものである(実験1.1、day7)。A:day7の培養物の明視野(BF)画像。B-D:day14のRPTECの免疫組織染色(実験1.2);B:DAPI(4’,6-ジアミジン-2-フェニルインドール)で染色した核;C:NaK-ATPaseで染色した細胞膜;D:サイトケラチン8/18で染色した細胞骨格。RPTEC=腎近位尿細管上皮細胞。
【
図5】
図5は、培地貯留器1の「血液」回路及び培地貯留器2の「尿」回路におけるアスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)濃度の測定を示すものである。
【
図6】
図6は、ADME-Nチップ培養(実験1.1)のday7における初代内皮細胞を有するiPSC由来腸相当物の例示的な免疫組織学的検査を示すものである。A:DAPIで染色した核;B:CD31で染色した初代内皮細胞;C:NaK-ATPaseで染色したiPSC由来腸オルガノイド;D:DAPIで染色した核;E:Cyp3A4で染色したiPSC由来腸オルガノイド;F:ビメンチンで染色したiPSC由来線維芽細胞。
【
図7】
図7は、ADME-Nチップで2週間培養した初代肝臓相当物(InSpheroから)(実験1.2)の例示的な免疫組織学的検査を示すものである。A:DAPI;B:アルブミン;C:Cyp3A4で染色した核。
【
図8】
図8は、ADME-Nチップで3週間培養したiPSC由来肝臓相当物(実験2)の例示的な免疫組織学的検査を示すものである。細胞は全て同一ドナーに由来する。A:DAPIで染色した核;B:ビメンチンで染色したiPSC由来線維芽細胞;C:サイトケラチン8/18で染色した肝実質細胞の細胞骨格;D:DAPIで染色した核;E:ZO-1;F:アルブミンで染色したタイトジャンクション。
【
図9】
図9は、ADME-Nチップで2週間培養したiPSC由来神経相当物(実験1.2)の例示的な免疫組織学的検査を示すものである。A:DAPIで染色した核;B:bチューブリンIIIで染色した神経細胞;C:vWF(フォン・ヴィレブランド因子)で染色した初代内皮細胞;D:初代内皮細胞を含む印刷されたハイドロゲル上に伸展している(lying)神経スフェロイドの明視野画像。
【
図10】
図10は、腸相当物の頂端側コンパートメント、培地貯留器1における血液回路及び培地貯留器2における尿回路のLDH濃度の測定値を示すものである(実験2)。腸相当物及び腎相当物のバリア機能は、3つのコンパートメント全てにおけるLDHの濃度が異なることにより示される。
【
図11】
図11は、多臓器チップの流路におけるiPSC由来内皮細胞の伸長を示すものである。day8のチップ培養物に内皮マーカーCD31が高発現している。
【
図12】
図12は本開示のADMEチップの横断面図を示すものである。A=投与、D=分布、M=代謝、E=排泄
【
図13】
図13は、iPSC由来肝実質細胞が分化し、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞と共に3Dスフェロイド(肝臓相当物)を形成した後の免疫蛍光画像を示すものである。ビメンチン:PSC由来線維芽細胞を含むiPSC由来肝実質細胞(ビメンチン染色)。CD31:iPSC由来内皮細胞を含むiPSC由来肝実質細胞(CD31染色)。細胞は全て同一のiPSCドナーに由来する。スケール=100μm。
【
図14】
図14は、iPSC由来肝臓相当物(iPSC由来肝実質細胞)における選択された肝マーカー遺伝子の転写量を示すものである。転写量はqPCRを用いて解析した。iPSC由来肝臓相当物を2日間培養することによりiPSC由来肝実質細胞、線維芽細胞及び内皮細胞を含む3D肝臓スフェロイドを作製した。データをハウスキーパーTBPに対し標準化した。
【
図15】
図15は、チップ上における単回の培養で、iPSC由来3D肝臓相当物がプロプラノロールをプロプラノロールのグルクロン酸抱合体及びα-ナフトキシ乳酸に代謝する代謝能力を示すものである。
【
図16】
図16は、腸インサートモデルの発達を示すものである。細胞は全て同一iPSCドナーに由来する。a):腸モデル構成の略図;b)及びc):2週間静置培養後のiPSC由来腸オルガノイド及びiPSC由来線維芽細胞の共培養物;d):インサートプラスチック縁部下側のインサート膜の真下に視認できるiPSC由来内皮細胞層;e)及びf):腸モデルをiPSC由来オルガノイド、線維芽細胞及び内皮細胞と共に更に3週間静置培養;g):3週間静置培養後のプラスチックのインサート縁部下側のiPSC由来内皮細胞層。スケール:500μm。
【
図17】
図17は、iPSC由来腸オルガノイド、iPSC由来線維芽細胞及び初代内皮細胞をバイオプリントしたハイドロゲルバリアを示すものである。
【
図18】
図18は、ニューロスフェア及び内皮細胞から構成されるiPSC由来血液脳関門を示すものである。細胞は全て同一iPSCドナーに由来する。
【
図19】
図19は、iPSCの腎臓オルガノイド、肝臓スフェロイド、ニューロスフェア及び腸オルガノイドへの分化、移し替え並びにADME-Nチップにおける共存培養の構成及び時系列を示すものである。細胞は全て同一iPSCドナーに由来する。DE:胚体内胚葉;TW:Transwell。
【
図20】
図20は、ADME-Nチップで14日間共存培養した肝臓、腸、腎及び神経モデル(実験2参照)の免疫染色による特性評価を示すものである。細胞は全て同一iPSCドナーに由来する。a)-c):肝臓モデル:a:アルブミン、ZO-1、b:HNF4a、SLC10A1、c:Ki67、TUNEL;d)-f):腸モデル:d:CDX2、Na
+/K
+-ATPase、e:サイトケラチン8/18、ビメンチン、f:Ki67、TUNEL;g)-i):腎モデル:g:サイトケラチン8/18、ビメンチン、h:アクアポリン1、Na
+/K
+-ATPase、i:Ki67、TUNEL;j)-l):神経モデル:j:TUBB3、PAX6、k:ネスチン、l:Ki67、TUNEL。スケール=50μm。点線は透過性インサート膜を示す。
【
図21】
図21は、ADME-Nチップで共培養したiPSC由来腸、肝臓、腎及び脳モデルのqPCR結果を示すものである。細胞は全て同一のiPSCドナーに由来する。データはハウスキーパーEF1(a、c)又はTBP(b、d)に対し標準化した。N=3~6(day0、7及び14);N=1~3(iPSC)、及びN=1(提示した陽性対照)。ND:シグナル検出せず。統計解析には通常の一元配置分散分析ANOVA及びTukeyの多重比較試験を用いた。a)~d)のそれぞれに関し:棒グラフは左から右に“iPSC”、“Day0”、“Day7”、“Day14”及びそれぞれの“陽性対照”を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、異なる誘導多能性幹細胞(iPSC)由来臓器前駆細胞及び/又はiPSC由来臓器相当組織の微小流体デバイスにおける共培養を確立するものである。本開示により提供される新規微小流体デバイスは、具体的には、単一ドナーのiPSC(これは、元々は、単一種の体細胞から再プログラム化されたものである)に由来する細胞の分化に基づく、複数の臓器相当物を有する多臓器チップを実現する。したがって、本開示において臓器相当物に分化させるために使用される使用されるiPSC由来細胞は、臓器前駆細胞、より具体的には、臓器特異的成体細胞の前駆細胞を含む。この種のiPSC由来細胞は、例えば、iPSC由来肝実質細胞前駆細胞を含む。
様々な態様において、本開示は、例えば、iPSC由来肝実質オルガノイドを含むiPSC由来オルガノイドの使用を包含する。更なる他の態様において、本開示は、具体的には、iPSC由来ニューロスフェアの使用を包含する。
【0011】
本開示の実験2(
図2の実験1.1、1.2及び2の実験構成参照)は、微小流体チップ上における異なるiPSC由来細胞又はオルガノイドの共培養を例示するものである。実施例2で使用する細胞の種類は、特許請求する「iPSC多臓器チップ」に関し記載する臓器の種類:肝実質細胞(肝臓)、腸細胞(腸)、尿細管細胞(腎臓)及び神経細胞(脳)を反映している。チップの組を7、14及び21日間培養した。終了時に、細胞サンプルを、免疫組織学的検査、qPCR及びRNAシーケンシング用に採取した。上清を、グルコース、ラクテート、LDH(乳酸脱水素酵素)、アルブミン、尿素、ALT(アラニンアミノ基転移酵素)及びAST(アスパラギン酸アミノ基転移酵素)の含有量に関し分析した。対照は、所与の臓器相当物の静置培養物から0、7及び14日目に採取した。
【0012】
本開示は:(i)iPSC由来肝実質細胞前駆細胞;(ii)iPSC由来腸前駆細胞;(iii)iPSC由来尿細管前駆細胞;及び(iv)iPSC由来神経前駆細胞;を含む微小流体デバイスであって;(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来前駆細胞は、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、デバイスを提供する。
【0013】
本明細書に記載するように、前駆細胞はiPSCに由来する、即ち、iPSCから分化したものである。このiPSCは、元々は、体細胞に由来する、即ち、体細胞を再プログラム化したものである。例えば、肝実質細胞前駆細胞はiPSCに由来する、即ち、iPSCから分化したものであり、これは、元々は、例えば、皮膚体細胞に由来する、即ち、皮膚体細胞を再プログラム化したものである。
本明細書に記載するように、細胞は、単一の(即ち、同一の)ドナーiPSCに由来(即ち、分化した)ものとすることができ、該iPSCは、元々は、単一種の体細胞から得られた(即ち、再プログラム化された)ものである。例えば、細胞は、単一の(即ち、同一の)iPSCに由来する(即ち、分化した)ものとすることができ、該iPSCは、例えば、皮膚体細胞、白血球、腎細胞、脂肪細胞等から得られた(即ち、再プログラム化された)ものである。
【0014】
本明細書に記載するように、前駆細胞、より具体的には、iPSC由来の臓器特異的前駆細胞は、定義としては、もはやiPSCではないが、依然として、1種以上のiPSC特異的マーカーの発現、例えば、OCT4、KLF4、SOX2及び任意選択的にC-MYC等の1種以上再プログラム化因子の発現を示すことができるものである。具体的には、本明細書に記載する前駆細胞は、iPSCから分化した臓器前駆細胞である。一層具体的には、本明細書に記載する臓器特異的前駆細胞は、iPSCから分化した臓器特異的前駆細胞である。したがって本明細書に記載する前駆細胞は、プレ分化臓器細胞又はプレ分化未成熟臓器細胞と見なすことができる。より具体的には、本明細書に記載する臓器特異的前駆細胞は、プレ分化した臓器特異的細胞又はプレ分化した未成熟臓器特異的細胞と見なすことができる。
様々な実施形態において、iPSCから分化した前駆細胞は、(iPSC由来)誘導臓器特異的前駆細胞と見なすことができる。
【0015】
好ましくは、本明細書に記載する前駆細胞、より具体的には、臓器特異的前駆細胞は、成熟機能性臓器細胞になる。例えば、本明細書に記載する肝実質細胞前駆細胞(即ち、iPSC由来肝実質細胞前駆細胞)は、好ましくは、成熟機能性肝実質細胞になるが、他の肝臓細胞(hepatic cell)にもなり得る。したがって、本明細書に記載する前駆細胞、より具体的には、臓器特異的前駆細胞は、臓器細胞に特異的な機能を示すか又は保持する成熟細胞になる。例えば、本明細書に記載する肝実質細胞前駆細胞は、好ましくは、肝実質細胞に特異的な機能を示すか又は保持する成熟細胞になる。様々な実施形態において、本明細書に記載する肝実質細胞前駆細胞は、肝実質細胞以外の肝臓細胞に特異的な機能を示すか又は保持する成熟細胞になる。
したがって、本明細書に記載するiPSC由来肝実質細胞前駆細胞から得られる成熟肝実質細胞は、特に、ヒト集団に見られる代謝表現型を反復することができ、初代ヒト肝実質細胞に匹敵する量の薬物代謝酵素を発現し、及び/又はin vitroで安定な機能を維持する。
様々な実施形態において、iPSCから分化した前駆細胞は、この種の前駆細胞が成熟機能性臓器細胞になるという点で、成熟臓器細胞を誘導する細胞と見なすことができる。例えば、本明細書に記載するiPSC由来肝実質細胞前駆細胞は、肝実質細胞を誘導する細胞と見なすことができる。
他の様々な実施形態において、iPSCから分化した前駆細胞は、成体型(adult-type)オルガノイドに発達することができるという点で、オルガノイドを誘導する細胞と見なすことができる。例えば、本明細書に記載するiPSC由来肝実質細胞前駆細胞は、肝実質細胞オルガノイドを誘導する細胞と見なすことができる。
様々な実施形態において、本明細書に記載する前駆細胞、より具体的には、臓器特異的前駆細胞は、1種以上の成熟臓器細胞特異的マーカー又はマーカータンパク質を発現することができる。例えば、本開示の様々な実施形態において、肝実質細胞前駆細胞は、1種以上の成熟肝実質細胞特異的マーカー又はマーカータンパク質を発現することができる。様々な実施形態において、肝実質細胞前駆細胞は、CD45及びCD109を含む細胞マーカーを発現することができる。様々な実施形態において、肝実質細胞前駆細胞は、アルブミン、HNF4A、α-1-アンチトリプシン(AAT)及びα-フェトプロテイン(AFP)、好ましくはアルブミン及び/又はAFPを含む細胞マーカーを発現することができる。
同様に、様々な実施形態において、本明細書に記載する成熟臓器細胞は、1種以上の成熟臓器細胞特異的マーカー又はマーカータンパク質を発現する。例えば、本開示の様々な実施形態において、肝実質細胞は、1種以上の肝実質細胞特異的マーカータンパク質を発現する。様々な実施形態において、成熟肝実質細胞マーカーとしては、アルブミン、PXR、H4抗原、α-1-アンチトリプシン(AAT)、サイトケラチン7(CK7)、サイトケラチン8(CK8)、肝細胞核内転写因子(HNF-3)、CAATエンハンサー結合タンパク質(CEBP)-α、CAATエンハンサー結合タンパク質(CEBP)-β、SLC10A1(ナトリウム/胆汁酸共輸送体-胆汁酸輸送体)、HNF4a(肝細胞核内因子4α)、サイトケラチン8/18、CYP2A6、CYP2E1及びCYP3A4(シトクロムP450)が挙げられる。好ましい成熟肝実質細胞マーカーとしては、アルブミン、SLC10A1、HNF4a、サイトケラチン8/18、CYP2A6、CYP2E1及び/又はCYP3A4が挙げられる。
【0016】
薬物代謝は肝実質細胞の中心的機能である。肝実質細胞の終末分化は、シトクロムP450(CYP)ファミリーの薬物代謝酵素の発現及び活性により評価することができる。したがって、様々な実施形態において、成熟肝実質細胞マーカーとしては、CYP1A1、CYP1A2、CYP1B1、CYP2A6、CYP2A7、CYP2A13、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C18、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP2F1、CYP2J2、CYP2R1、CYP2S1、CYP2U1、CYP2W1、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7、CYP3A43、CYP4A11、CYP4A22、CYP4B1、CYP4F2、CYP4F3、CYP4F8、CYP4F11、CYP4F12、CYP4F22、CYP4V2、CYP4X1、CYP4Z2、CYP5A1、CYP7A1、CYP7B1、CYP8A1、CYP8B1、CYP11A1、CYP11B1、CYP11B2、CYP17A1、CYP19A1、CYP20A1、CYP21A1、CYP21A2、CYP24A1、CYP26A1、CYP26B1、CYP26C1、CYP27A1、CYP27B1、CYP27C1、CYP39A1、CYP46A1及び/又はCYP51A1のいずれか一つが挙げられる。様々な実施形態において、成熟肝実質細胞マーカーとしては、CYP1A2、CYP2C9、CYP3A4、サイトケラチン8/18、CYP2A6及び/又はCYP2E1のいずれか一つが挙げられる。好ましい成熟肝実質細胞マーカーとしては、サイトケラチン8/18、CYP2A6、CYP2E1及び/又はCYP3A4が挙げられる。
【0017】
本明細書において更に記載するように、iPSC由来腸前駆細胞は、好ましくは、成熟機能性腸細胞になる。したがって、iPSC由来腸前駆細胞は、好ましくは、腸細胞特異的機能を示すか又は保持する成熟腸細胞になる。様々な実施形態において、本明細書に記載するiPSC由来腸前駆細胞は、1種以上の(成熟腸細胞特異的及び/又は腸前駆細胞特異的)マーカータンパク質を発現することができる。様々な実施形態において、この種の成熟腸細胞特異的及び/又は腸前駆細胞特異的マーカータンパク質としては、ABCB1、CDH1、CHGA、DPP4、KL5、LGR5、Lyz、SLC2A1、SLC2A3、SOX9及び/又はCXCR4が挙げられる。
様々な実施形態において、本明細書に記載する成熟腸細胞は、小腸の成熟細胞である。他の様々な実施形態において、本明細書に記載する成熟腸細胞は、腸の成熟上皮細胞を含む。更なる他の実施形態において、本明細書に記載する成熟腸細胞は、小腸の成熟上皮細胞を含む。
様々な実施形態において、本明細書に記載する成熟腸細胞は、1以上の成熟腸細胞特異的マーカー又はマーカータンパク質を発現する。様々な実施形態において、成熟腸細胞マーカーとしては、CD326、CDX2、サイトケラチン8/18及び/又はNaK-ATPase(上皮細胞)が挙げられる。
【0018】
本明細書において更に記載するように、iPSC由来尿細管前駆細胞は、好ましくは、成熟機能性尿細管細胞になるが、他の腎細胞にもなり得る。したがって、iPSC由来尿細管前駆細胞は、好ましくは、尿細管細胞特異的機能を示すか又は保持する成熟尿細管細胞になる。様々な実施形態において、本明細書に記載する尿細管前駆細胞は、尿細管細胞以外の腎細胞の特異的機能を示すか又は保持する成熟細胞になる。様々な実施形態において、本明細書に記載するiPSC由来尿細管前駆細胞は、1種以上の(成熟尿細管細胞特異的及び/又は尿細管前駆細胞特異的)マーカータンパク質を発現することができる。様々な実施形態において、この種の成熟尿細管細胞特異的及び/又は尿細管前駆細胞特異的マーカータンパク質としては、アクアポリン1、MRP2、サイトケラチン8/18及び/又はNaK-ATPaseが挙げられる。
様々な実施形態において、本明細書に記載する成熟尿細管細胞は、成熟尿細管上皮細胞である。他の様々な実施形態において、本明細書に記載する成熟尿細管細胞は、成熟近位尿細管細胞、好ましくは、成熟近位尿細管上皮細胞である。本開示の他の実施形態において、本明細書に記載する成熟尿細管細胞は、成熟尿細管上皮細胞、好ましくは成熟近位尿細管上皮細胞を含む。
様々な実施形態において、本明細書に記載する成熟尿細管細胞は、1種以上の成熟尿細管細胞特異的マーカー又はマーカータンパク質を発現する。様々な実施形態において、成熟尿細管細胞マーカーとしては、Megalin(近位尿細管細胞)、アクアポリン1、MRP2、サイトケラチン8/18、及び/又はNaK-ATPaseが挙げられる。
【0019】
本明細書において更に記載するように、iPSC由来神経前駆細胞は、好ましくは、成熟機能性神経細胞になるが、脳の他の細胞にもなり得る。したがって、iPSC由来神経前駆細胞は、好ましくは神経細胞特異的機能を示すか又は保持する成熟神経細胞になる。様々な実施形態において、本明細書に記載するiPSC由来神経前駆細胞は、1種以上の(成熟神経細胞特異的及び/又は神経前駆細胞特異的)マーカータンパク質を発現することができる。様々な実施形態において、この種の成熟神経細胞特異的及び/又は神経前駆細胞特異的マーカータンパク質としては、ネスチン(神経外胚葉性幹細胞マーカー)、TUBB3(チューブリンβ3)、神経細胞分化初期のバイオマーカー及び/又はPAX6(ペアードボックスタンパク質Pax-6、転写因子、眼及び脳の発達の主要な調節遺伝子)が挙げられる。他の様々な実施形態において、この種の成熟神経細胞特異的及び/又は神経前駆細胞特異的マーカータンパク質としては、GFAP、シナプトフィジン、NeuN及び/又はMAP2を挙げることができる。
様々な実施形態において、本明細書に記載する成熟神経細胞は、1種以上の成熟神経細胞特異的マーカー又はマーカータンパク質を発現することができる。様々な実施形態において、成熟神経細胞マーカーとしては、NSE(γ-エノラーゼ又はエノラーゼ-2;神経由来の成熟ニューロン及び細胞により発現される細胞質タンパク質)が挙げられる。様々な実施形態において、成熟神経細胞マーカーとしては、更に、ネスチン、TUBB3及び/又はPAX6が挙げられる。他の様々な実施形態において、成熟神経細胞マーカーとしては、GEAR、シナプトフィジン、NeuN及び/又はMAP2が挙げられる。
【0020】
体細胞の再プログラム化は、2006年に山中(Yamanaka)及び高橋(Takahashi)の研究により確立されている。本明細書に記載するように、iPSCの作製に使用される体細胞は、iPSCへの再プログラム化が可能な任意の種類の体細胞、更には、任意の種類の初代体細胞とすることができる。様々な実施形態において、線維芽細胞は、iPSCの作製に使用される種類の初代体細胞、好ましくは、皮膚由来線維芽細胞である。他の様々な実施形態において、(毛髪由来)ケラチン生成細胞は、iPSCの作製に使用される種類の初代体細胞である。様々な実施形態において、線維芽細胞は、皮膚細胞、白血球、腎細胞、脂肪細胞等を含む。
本明細書に記載するように、iPSCは、例えば、主要な再プログラム化因子であるOCT4、KLF4、SOX2及び任意選択的にC-MYCを含む再プログラム化因子を発現することを特徴とする。様々な(好ましい)実施形態において、発現を同定する再プログラム化因子は、SOX2、Nanog、OCT3/4、SSEA5及び/又はTRA-1-60を含む。
【0021】
本開示において、iPSCは、単一種の体細胞から、当業者に利用可能であり且つ知られている任意の再プログラム化方法により得られる。体細胞のiPSCへの再プログラム化に使用することができるiPSC再プログラム化方法の概説として、Menon et al.2016(Int.J.Mol.Sci.,Vol.17,141)を提供することができる。体細胞をiPSCに再プログラム化するためのキット及びプロトコルは文献に報告されており、市販されている。
本開示の様々な実施形態において、単一種の体細胞から得られるiPSCは、委託製造業者より入手可能である。しかしながら、様々な実施形態、特に、本明細書に記載する方法に関する実施形態において、本開示は(単一種の)体細胞をiPSCに再プログラム化する工程を包含する。
様々な実施形態における「(単一種の)体細胞から得られた(obtained from)iPSC」という語は、iPSCが、体細胞から再プログラム化されたものであることを意味し、該体細胞は、元々は、先にiPSCを分化させることにより得られたものであってもなくてもよい。
様々な実施形態において、本開示によるiPSCは、成体体細胞から得られたものである。
様々な実施形態において、「体細胞」及び/又は「成体体細胞」という語は、「体性幹細胞」及び/又は「成体体性幹細胞」及び/又は「成体幹細胞」を包含してもしなくてもよい。好ましくは、「体細胞」又は「成体体細胞」という語は、「体性幹細胞」及び/又は「成体体性幹細胞」及び/又は「成体幹細胞」を除外する。
【0022】
本開示におけるiPSC由来臓器前駆細胞は、当業者に利用可能且つ知られているiPSCを分化するための手段及び方法を用いてiPSCを分化することにより、iPSCから得られ得る。分化キット及びプロトコルは文献に報告されており、市販されている。表1にiPSC由来細胞の一覧を示す。ここに列挙する論文の分化プロトコルを適用した。 表1に列挙した科学論文に記載されている分化プロトコルを、具体的に,
本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
本開示の様々な実施形態において、iPSC由来臓器前駆細胞は委託製造業者より入手可能である。しかしながら、様々な実施形態において、本明細書に記載する方法に関する特定の実施形態において、本開示は、本明細書に記載するiPSCを臓器(特異的)前駆細胞に分化する工程を包含する。本明細書の他の箇所に記載するように、iPSCから分化したこの種の臓器(特異的)前駆細胞は、プレ分化臓器(特異的)細胞又はプレ分化未成熟臓器(特異的)細胞と見なすことができる。
【0023】
様々な実施形態において、微小流体デバイスは:(i)iPSC由来肝実質細胞;(ii)iPSC由来腸細胞;(iii)iPSC由来尿細管細胞;及び(iv)iPSC由来神経細胞;を含み;(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来細胞は、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである。
【0024】
様々な実施形態において、微小流体デバイスは:(i)iPSC由来肝実質細胞オルガノイド;(ii)iPSC由来腸オルガノイド;及び(iii)iPSC由来尿細管オルガノイド;を含み;(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来オルガノイドは、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである。様々な実施形態において、微小流体デバイスは、(i)、(ii)及び(iii)に従うオルガノイドとは異なる、(iv)更なる種類の臓器又は細胞のiPSC由来オルガノイドを更に含み、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来オルガノイドは、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである。好ましい実施形態において、(iv)に従う更なるiPSC由来オルガノイドは、iPSC由来神経オルガノイドであり、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来オルガノイドは、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである。
iPSC由来臓器前駆細胞に関する開示と同様に、iPSC由来オルガノイドとは、iPSCを分化させることにより得られ得る又は得られたオルガノイドを意味する。本明細書の他の箇所に記載するように、「オルガノイド」は、最小の機能的臓器又は組織単位を意味する又は表すと見なすことができる。したがって、iPSCを分化させることにより得られ得る又は得られたオルガノイドは、具体的には、単一ドナーiPSC(単一種の体細胞から得られたもの)を分化させ、分化した細胞をオルガノイドの原料(source)として使用することを意味する。より具体的には、前記分化した細胞は、臓器特異的な性質を有する細胞を含むオルガノイドに発達する。様々な実施形態において、前記分化した細胞は、臓器特異的(機能的)性質を有する細胞を含む成体型オルガノイドに発達する球状オルガノイドを形成する。
好ましくは、前記臓器特異的な性質は、臓器特異的な機能的性質である。
【0025】
様々な実施形態において、微小流体デバイスは:(i)成体型肝実質細胞オルガノイドに発達するiPSC由来球状オルガノイド;(ii)成体型腸オルガノイドに発達するiPSC由来球状オルガノイド;及び(iii)成体型尿細管オルガノイドに発達するiPSC由来球状オルガノイド;を含み、(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来球状オルガノイドは、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである。様々な実施形態において、微小流体デバイスは、(iv)(i)、(ii)及び(iii)に従う成体型オルガノイドとは異なる成体型オルガノイドに発達するiPSC由来球状オルガノイドを更に含み、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来球状オルガノイドは、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである。好ましい実施形態において、(iv)に従う更なるiPSC由来球状オルガノイドは、成体型神経オルガノイドに発達するiPSC由来球状オルガノイドであり、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来球状オルガノイドは、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである。
【0026】
本明細書に記載するように、本明細書に開示する臓器特異的前駆細胞と同様に、iPSCから分化し、上に記載したオルガノイドの原料として使用される細胞(臓器特異的な性質を有する細胞を含むオルガノイドに発達する分化した細胞)は、定義として、もはやiPSCではないが、依然として、1種以上のiPSC特異的マーカー、例えば、OCT4、KLF4、SOX2及び任意選択的にC-MYC等の1種又はそれ以上の再プログラム化因子を発現し得るものである。様々な(好ましい)実施形態において、発現を同定する再プログラム化因子としては、SOX2、Nanog、OCT3/4、SSEA5及び/又はTRA-1-60が挙げられる。具体的には、このような分化した細胞は、iPSCから分化した(臓器特異的)オルガノイド前駆細胞と見なすことができる。したがって、iPSCから分化した、上に記載したようにオルガノイドの原料として使用される細胞は、臓器特異的な性質を有する細胞を含むオルガノイドに発達するか、又は臓器特異的(機能的)性質を有する細胞を含む成体型オルガノイドに発達する球状オルガノイドを形成する、プレ分化細胞又はプレ分化未成熟細胞と見なすことができる。
様々な実施形態において、上に記載した、iPSCから分化した、オルガノイドの原料として使用される細胞は、(iPSC由来)誘導臓器特異的細胞と見なすことができる。
様々な実施形態において、上に記載した、iPSCから分化した、オルガノイドの原料として使用される細胞(臓器特異的性質を有する細胞を含むオルガノイドに発達する、分化した細胞)は、成体型オルガノイドに発達する能力又は成体型オルガノイドに発達する球状オルガノイドを形成する能力という点で、(iPSC由来)オルガノイド誘導細胞又は球状オルガノイド誘導細胞と見なすことができる。
【0027】
本明細書に記載するように、本開示によるiPSC由来オルガノイドは、特に、初代ヒト肝実質細胞に匹敵する量の薬物代謝酵素を発現する、及び/又はin vitroで安定な機能を維持する、ヒト集団に見られる代謝表現型を反復することが可能となり得る。
様々な実施形態において、オルガノイド細胞(即ち、オルガノイドを構成する細胞)は、1種以上の成熟臓器細胞特異的マーカー又はマーカータンパク質を発現することができる。例えば、本開示の様々な実施形態において、(iPSC由来)肝実質細胞オルガノイド細胞(即ち、肝実質細胞オルガノイドを構成する細胞)は、1種以上の成熟肝実質細胞特異的マーカータンパク質を発現することができる。様々な実施形態において、肝実質細胞オルガノイド細胞は、CD45及びCD109を含む細胞マーカーを発現することができる。他の様々な実施形態において、肝実質細胞オルガノイド細胞は、アルブミン、HNF4A、α-1-アンチトリプシン(AAT)及びα-フェトプロテイン(AFP)、好ましくはアルブミン及び/又はAFPを含む細胞マーカーを発現することができる。
更なる他の実施形態において、肝実質細胞オルガノイド細胞は、アルブミン、PXR、H4抗原、AAT、CK7、CK8、HNF-3、CEBP-α、CEBP-β、SLC10A1、HNF4a、サイトケラチン8/18、CYP2A6、CYP2E1及び/又はCYP3A4を含む細胞マーカーを発現することができる。好ましいマーカーとしては、アルブミン、SLC10A1、HNF4a、サイトケラチン8/18、CYP2A6、CYP2E1及びCYP3A4が挙げられる。
【0028】
本明細書において更に記載するように、本明細書に記載する(iPSC由来)腸オルガノイド細胞(即ち、腸オルガノイドを構成する細胞)は、1種以上の(成熟腸細胞特異的及び/又は腸前駆細胞特異的)マーカータンパク質を発現することができる。様々な実施形態において、この種の成熟腸細胞特異的及び/又は腸前駆細胞特異的マーカータンパク質としては、ABCB1、CDH1、CHGA、DPP4、KL5、LGR5、Lyz、SLC2A1、SLC2A3、SOXO及び/又はCXCR4が挙げられる。他の様々な実施形態において、本明細書に記載する腸オルガノイド細胞は、CD326、CDX2、サイトケラチン8/18及び/又はNaK-ATPaseを含む成熟腸細胞マーカーを発現することができる。
【0029】
本明細書に更に記載するように、本明細書に記載する(iPSC由来)尿細管オルガノイド細胞(即ち、尿細管オルガノイドを構成する細胞)は、1種以上(成熟尿細管細胞特異的及び/又は尿細管前駆細胞特異的)マーカータンパク質を発現することができる。様々な実施形態において、この種の成熟尿細管細胞特異的及び/又は尿細管前駆細胞特異的マーカータンパク質としては、アクアポリンl、MRP2、サイトケラチン8/18及び/又はNaK-ATPaseが挙げられる。
【0030】
本明細書において更に記載するように、本明細書に記載する(iPSC由来)神経オルガノイド細胞(即ち、神経オルガノイドを構成する細胞)は、1種以上の(成熟神経細胞特異的及び/又は神経前駆細胞特異的)マーカー又はマーカータンパク質を発現することができる。様々な実施形態において、この種の成熟神経細胞特異的及び/又は神経前駆細胞特異的マーカータンパク質としては、ネスチン、TUBB3及び/又はPAX6が挙げられる。他の様々な実施形態において、この種の成熟神経細胞特異的及び/又は神経前駆細胞特異的マーカータンパク質としては、GFAP、シナプトフィジン、NeuN及び/又はMAP2を挙げることができる。様々な実施形態において、本明細書に記載する神経オルガノイド細胞は、1種以上の成熟神経細胞特異的マーカータンパク質を発現することができる。様々な実施形態において、成熟神経細胞マーカーとしては、NSEが挙げられる。様々な実施形態において、成熟神経細胞マーカーとしては、更に、ネスチン、TUBB3及び/又はPAX6が挙げられる。他の様々な実施形態において、成熟神経細胞マーカーとしては、GFAP、シナプトフィジン、NeuN及び/又はMAP2が挙げられる。
【0031】
本開示において、上に記載したオルガノイドの原料として使用されるiPSC由来細胞(臓器特異的性質を有する細胞を含むオルガノイドに発達する分化した細胞)は、当業者に利用可能且つ知られている、iPSCを分化させるための手段及び方法を用いてiPSCを分化させることにより、iPSCから得ることができる。本開示の様々な実施形態において、iPSC由来オルガノイド誘導細胞(又はiPSC由来オルガノイド前駆細胞)は委託製造業者より入手可能である。しかしながら、様々な実施形態、特に、本明細書に記載する方法に関する実施形態において、本開示は、本明細書に記載する、iPSCをこの種のオルガノイド誘導細胞又はiPSC由来オルガノイド前駆細胞(即ち、オルガノイドの原料として使用される細胞)に分化する工程を包含する。
【0032】
本開示の様々な実施形態において、オルガノイドは、細胞外マトリックス、好ましくは細胞外ゲルマトリックス、より好ましくは基底膜様細胞外マトリックス抽出物(典型的には、組織細胞外環境様)に埋め込まれている。様々な実施形態において、基底膜様細胞外(ゲル)マトリックス抽出物は、ゼラチン質タンパク質混合物を含む。好ましくは、ゼラチン質タンパク質混合物は、Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞から分泌されるゼラチン質タンパク質混合物である。より好ましくは、基底膜様細胞外(ゲル)マトリックスは、Matrigel(登録商標)基底膜マトリックス(Corning)である。本開示の様々な実施形態において、細胞外(ゲル)マトリックスは、ハイドロゲルである。本開示の様々な実施形態において、細胞外(ゲル)マトリックスは、コラーゲン、アガロース、アジネート(aginate)又はMatrigel(登録商標)ハイドロゲルである。他の様々な実施形態において、ハイドロゲルは合成ハイドロゲルである。
【0033】
本開示の様々な実施形態において、iPSC由来前駆細胞又はiPSC由来オルガノイド又はオルガノイドの原料として使用されるiPSC由来細胞は、微小流体デバイス内の別々の細胞培養コンパートメント内に堆積される。
【0034】
様々な実施形態において、微小流体デバイスは、iPSC由来細胞及びiPSC由来オルガノイド又はスフェロイドの混合物を含むことができる。例えば、微小流体デバイスは、(i)iPSC由来肝実質細胞スフェロイド;(ii)iPSC由来腸オルガノイド;(iii)iPSC由来尿細管細胞又はiPSC由来尿細管前駆細胞;及び(iv)iPSC由来神経スフェロイド;を含むことができ;(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来スフェロイド、オルガノイド及び細胞は、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである。好ましくは、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来スフェロイド、オルガノイド及び細胞は、微小流体チップの別々の細胞培養コンパートメントに堆積されるか又は存在する。好ましくは、iPSC由来肝実質細胞スフェロイドを含む細胞培養コンパートメントは、線維芽細胞、好ましくはiPSC由来線維芽細胞を更に含む。したがって、iPSC由来肝臓相当物は、iPSC由来肝実質細胞のスフェロイドを(iPSC由来)線維芽細胞と共にそれぞれの細胞培養コンパートメントに配置することにより達成される。
他の好ましい実施形態において、iPSC由来腸オルガノイドは、本明細書の他の箇所に記載する細胞外マトリックス又はハイドロゲルに埋め込まれる。他の好ましい実施形態において、iPSC由来腸オルガノイドを含む細胞培養コンパートメントは、線維芽細胞及び内皮細胞、好ましくは、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞又はiPSC由来線維芽細胞及び初代微小血管内皮細胞を更に含む。初代微小血管内皮細胞又はiPSC由来内皮細胞は、好ましくは、細胞培養コンパートメントの側底側に播種される。
更に、iPSC由来神経スフェロイドを含む細胞培養コンパートメントは、好ましくは、バイオプリントされた血液脳関門を更に含む。より具体的には、iPSC由来神経スフェロイドを含む細胞培養コンパートメントは、細胞培養コンパートメントの側底側に播種された内皮細胞、好ましくはiPSC由来内皮細胞で富化されている。
【0035】
様々な実施形態において、iPSC由来前駆細胞又はiPSC由来オルガノイド又はオルガノイドの原料として使用されるiPSC由来細胞を含む細胞培養コンパートメントを含む微小流体デバイスは、第1回路及び第2回路を含み、iPSC由来前駆細胞又はiPSC由来オルガノイド又はオルガノイドの原料として使用されるiPSC由来細胞を含む細胞培養コンパートメントは、第1回路の一部を構成し、第2回路は、濾過ユニット及び再吸収ユニットを含み、両回路は、濾過ユニット及び再吸収ユニットを介して互いに連結している。好ましくは、濾過ユニットは、分子のサイズ及び電荷に基づき、分子を第1回路から第2回路へ選択的に通過させる濾過障壁を含む。より好ましくは、濾過障壁は生物学的障壁であり、一層好ましくは、生物学的障壁は、有足細胞を含む。他の好ましい実施形態において、再吸収ユニットは、第2回路から第1回路への流体を再吸収することができる障壁を含む。より好ましくは、再吸収障壁は生物学的障壁であり、一層好ましくは、生物学的障壁は、腎細管細胞を含む。
好ましい実施形態において、微小流体デバイスは、肝臓相当物又は肝臓機能を模倣する組織を含む第1回路内の少なくとも1つの細胞培養コンパートメントと、腸相当物又は腸機能を模倣する組織を含む第1回路内の少なくとも1の細胞培養コンパートメントと、を含む。
【0036】
様々な実施形態において、第2回路の濾過ユニット及び再吸収ユニットは、腎臓(kidney)又は腎(renal)相当物と見なすことができる。好ましくは、腎臓又は腎相当物は、腎臓又は腎オルガノイドを意味する。本明細書に記載するように、腎臓又は腎オルガノイドは、好ましくは、有足細胞及び尿細管細胞のオルガノイド、より好ましくは、iPSC由来有足細胞及びiPSC由来尿細管細胞のオルガノイドを意味する。同様に、肝臓オルガノイドは、好ましくは、肝実質細胞のオルガノイド、より好ましくは、iPSC由来肝実質細胞のオルガノイドを意味する。同様に、(小)腸オルガノイドは、好ましくは、(小)腸細胞のオルガノイド、より好ましくは、iPSC由来(小)腸細胞のオルガノイドを意味する。同様に、神経オルガノイドは、好ましくは、神経細胞のオルガノイド、より好ましくは、iPSC由来神経細胞のオルガノイドを意味する。同様に、気道(好ましくは肺)オルガノイドは、好ましくは、気道の細胞、好ましくは肺細胞、より好ましくは肺上皮細胞のオルガノイドを意味する。好ましくは、気道の細胞又は肺細胞は、それぞれ、気道のiPSC由来細胞又はiPSC由来肺細胞である。
【0037】
本開示の様々な実施形態において、新規微小流体デバイスの細胞培養コンパートメントの配置は、「肝臓相当物」を含む細胞培養コンパートメントが、「腸相当物」を含む細胞培養コンパートメントの下流に位置するものである(
図1に示す「血液回路」の配置図に従うが、これに限定されるものではない)。好ましくは、「肝臓相当物」及び「腸相当物」を含む細胞培養コンパートメントは、主微小流路構造の分岐である別々の微小流路に配置されている(
図1に示す「血液回路」の配置図に従うが、これに限定されるものではない)。好ましくは、腸相当物及び肝臓相当物の細胞培養コンパートメントの間に他の細胞培養コンパートメントは位置しない。様々な実施形態において、微小流体デバイスは、分岐した微小流体網(又は微小流体流路の分岐網)を含むことができる。他の好ましい実施形態において、新規微小流体デバイスの細胞培養コンパートメントの配置は、「神経相当物」を含む細胞培養コンパートメントが、「肝臓相当物」及び「腸相当物」を含む細胞培養コンパートメントと平行に配置されるものであり、より好ましくは、細胞培養コンパートメントの配置は、「神経相当物」が、「肝臓相当物」及び「腸相当物」を含む細胞培養コンパートメントを含む微小流路分岐と平行に配置された別の微小流路分岐に配置されるものである(
図1に示す「血液回路」の配置図に従うが、これに限定されるものではない)。
微小流体デバイスが別個の培地貯留器又はサンプル採取貯留器を含む場合、これは、好ましくは、主微小流路構造内に配置される、即ち、分岐微小流路構造内に配置されない(
図1に示す「血液回路」の配置図に従うが、これに限定されるものではない)。
更に、微小流体デバイスがマイクロポンプを含む場合、マイクロポンプは、好ましくは、主微小流路構造内に配置される、即ち、分岐微小流路構造内に配置されない(
図1に示す「血液回路」の配置図に従うが、これに限定されるものではない)。
様々な好ましい実施形態において、第2回路は、分岐した微小流体網ではなく、非分岐回路又は循環系である。「回路」及び「循環系」という語は、本明細書においては互換的に使用することができる。
【0038】
本開示の様々な実施形態において:(i)iPSC由来肝実質細胞前駆細胞;(ii)iPSC由来腸前駆細胞;(iii)iPSC由来尿細管前駆細胞;及び(iv)iPSC由来神経前駆細胞;を含み;(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来前駆細胞が、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、新規微小流体デバイスは、
図1に示す配置図に従う細胞培養コンパートメントの配置を有するが、これに限定されるものではない。微小流体デバイスがiPSC由来オルガノイド、又はオルガノイドの原料として使用されるiPSC由来細胞を含む、本開示に従う実施形態についても同様である。
本開示の他の様々な実施形態において:(i)iPSC由来肝実質細胞前駆細胞;(ii)iPSC由来腸前駆細胞;(iii)iPSC由来尿細管前駆細胞;及び(iv)iPSC由来神経前駆細胞;を含み;(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来前駆細胞が、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、新規微小流体デバイスは、
図1に示す「血液回路」の配置図に従う細胞培養コンパートメントの配置を有するが、これに限定されるものではない。この種の実施形態は、2つの回路の重複部となる、
図1に示す尿回路の尿細管及び/腎糸球体相当物に一致する、1以上のコンパートメントを有しても有していなくてもよい。微小流体デバイスがiPSC由来オルガノイド又はオルガノイドの原料として使用されるiPSC由来細胞を含む、本開示に従う実施形態についても同様である。
【0039】
本明細書に記載するように:(i)iPSC由来肝実質細胞前駆細胞;(ii)iPSC由来腸前駆細胞;(iii)iPSC由来尿細管前駆細胞;及び(iv)iPSC由来神経前駆細胞;を含み;(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来前駆細胞が、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、新規微小流体デバイスの新規生体模倣システムは、好ましくは、閉鎖流路系である。微小流体デバイスが、iPSC由来オルガノイド又はオルガノイドの原料として使用されるiPSC由来細胞を含む、本開示に従う実施形態についても同様である。
したがって、新規微小流体デバイスの血液及び/又は尿回路は、閉鎖回路、より具体的には、微小流体流路の閉鎖回路を形成する。より具体的には、新規生体模倣システムは、自立型又は自己完結型生体模倣システムと見なすことができる。2つの腎機能ユニット(濾過ユニット及び再吸収ユニット)を含む閉鎖流路系では、具体的には、試験薬の腎毒性を試験することが可能である。好ましい実施形態において、生体模倣システム又は微小流体デバイスは、第1回路内の血液模倣液体溶液及び/又は第2回路内の尿模倣液体溶液を用いて動作させる。
【0040】
(i)iPSC由来肝実質細胞前駆細胞;(ii)iPSC由来腸前駆細胞;(iii)iPSC由来尿細管前駆細胞;及び(iv)iPSC由来神経前駆細胞;を含み、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来前駆細胞が、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、新規微小流体デバイスは、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来前駆細胞のそれぞれに関し、1以上の細胞培養コンパートメントを含み得る。
同様に:(i)iPSC由来肝実質細胞オルガノイド;(ii)iPSC由来腸オルガノイド;及び(iii)iPSC由来尿細管オルガノイド;を含み、(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来前駆細胞が、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、新規微小流体デバイスは、(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来前駆細胞のそれぞれに関し、1以上の細胞培養コンパートメントを含み得る。様々な実施形態において、微小流体デバイスは、(iv)(i)、(ii)及び(iii)に従うオルガノイドとは異なる、更なる種類の臓器又は細胞のiPSC由来オルガノイドを更に含み、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来オルガノイドが、単一種の体細胞から得られる単一ドナーのiPSCから得られたものである。好ましい実施形態において、(iv)に従う更なるiPSC由来オルガノイドは、iPSC由来神経オルガノイドであり、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)に従うiPSC由来オルガノイドは、単一種の体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである。
【0041】
好ましい実施形態において、新規微小流体デバイスは、微小流体デバイス当たり(又は生体模倣システム当たり)各臓器相当物を1個という原則に従い、各臓器相当物を1個のみ含む。他方、例えば、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つが肝臓相当物を含む場合、これは、それぞれが肝臓相当物を含む少なくとも2つの細胞培養コンパートメントが存在し得ることを意味する。
様々な実施形態において、各細胞培養コンパートメント(又は単一の細胞培養コンパートメント)は、細胞培養コンパートメント当たり各臓器相当物を1個という原則に従い、1個のみの臓器相当物を含む。
更に、様々な実施形態において、細胞培養コンパートメントは、1個以上の臓器相当物、例えば、神経相当物を腸相当物と一緒に又は組み合わせて、含み得る。他の様々な実施形態において、各細胞培養コンパートメント(又は単一の細胞培養コンパートメント)は、細胞培養コンパートメント当たり1個の各臓器相当物という原則に従い、1個のみの臓器相当物を含む、即ち、1個の単一種の臓器に関係する相当物を含む。
【0042】
本開示は、肝実質細胞オルガノイド、腸オルガノイド及び尿細管オルガノイドを作製する方法であって、互いに(微小流体流路を介して)微小流体連通している別々の細胞培養コンパートメントにおいて、(i)iPSC由来肝実質細胞前駆細胞、(ii)iPSC由来腸前駆細胞及び(iii)iPSC由来腎前駆細胞を共培養することを含む、方法を提供する。
本開示はまた、成体型肝実質細胞オルガノイド、成体型腸オルガノイド及び成体型尿細管オルガノイドを作製する方法であって、互いに(微小流体流路を介して)微小流体連通している別々の細胞培養コンパートメントにおいて、(i)成体型肝実質細胞オルガノイドに発達するiPSC由来球状オルガノイド、(ii)成体型腸オルガノイドに発達するiPSC由来球状オルガノイド及び(iii)成体型腎オルガノイドに発達するiPSC由来球状オルガノイドを共培養することを含む、方法を提供する。
様々な実施形態において、この方法は、互いに(微小流体流路を介して)微小流体連通している別々の細胞培養コンパートメントを含む微小流体デバイスを用いて実施される。
様々な実施形態において、この方法は、好ましくは、iPSC由来内皮細胞を共培養することを更に含み、iPSC由来内皮細胞は、(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来前駆細胞と同一の単一ドナーのiPSCから得られたものであり、iPSC由来内皮細胞は、細胞培養コンパートメントを連結している微小流体流路内に堆積される。
好ましくは、iPSC由来肝実質細胞前駆細胞を含む細胞培養コンパートメントは、iPSC由来肝実質細胞前駆細胞と同一の単一ドナーのiPSCから得られたものである、iPSC由来線維芽細胞を更に含む。
【0043】
本開示により提供される新規微小流体デバイスは、オルガノイド又は組織工学に、iPSC由来臓器特異的前駆細胞若しくはiPSC由来臓器特異的オルガノイドを用いるin vitro生体模倣システムを提供することができる。更に本開示は、iPSC由来オルガノイドをハイドロゲル中に印刷(バイオプリント)すること、及び/又はハイドロゲル上に播種することにより作製された、臓器バリアを模倣する、生体工学的に作製された新規な組織構築物を提供する。特に本開示は、具体的には、iPSC由来オルガノイド、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞を含む、哺乳動物の臓器バリアを模倣する、生体工学的に作製された結合組織構築物と、iPSC由来ニューロスフェア及びiPSC由来内皮細胞を含む、血液脳関門を模倣する、生体工学的に作製された結合組織構築物と、を提供する。
【0044】
本開示の実験1.1及び実験2のiPSCチップは、腸バリアを模倣する生体工学的に作製された組織構築物を例証するものである。特に、前記実験の両方のiPSCチップの腸相当物は、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞も含むMatrigelハイドロゲルに埋め込まれたiPSC由来腸細胞のオルガノイドを含む。iPSC由来腸相当物モデルには、初代微小血管内皮細胞又はiPSC由来内皮細胞を、細胞培養インサートの側底側に播種する。
更に、実験1.2のiPSCチップは、血液脳関門を有する神経相当物を含み、細胞培養インサートは、iPSC由来神経スフェロイドを含み、該神経スフェロイドの下側に印刷された(バイオプリントされた)iPSC由来内皮細胞で富化されている。実験2のiPSCチップの血液脳関門を有する神経相当物において、iPSC由来神経スフェロイドを含む細胞培養インサートは、細胞培養インサートの側底側に播種されたiPSC由来内皮細胞で富化されている。
【0045】
具体的には、本開示は:(i)iPSC由来オルガノイド;(ii)iPSC由来線維芽細胞;及び(iii)iPSC由来内皮細胞;を含み、(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来オルガノイド及び細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、哺乳動物の臓器バリアを模倣する結合組織構築物を提供する。様々な実施形態において、該結合組織構築物は、生体工学的に作製された結合組織構築物である。更に、哺乳動物臓器バリアは、これらに限定されるものではないが、皮膚バリア、腸バリア、気道バリア、好ましくは肺バリア、眼バリア、口腔粘膜組織バリア及び生殖器粘膜組織バリアのいずれかとすることができる。したがって、iPSC由来オルガノイドは、iPSC由来皮膚オルガノイド、iPSC由来腸オルガノイド、iPSC由来気道、好ましくは肺のオルガノイド、iPSC由来眼オルガノイド、iPSC由来口腔粘膜組織オルガノイド及びiPSC由来生殖器粘膜組織オルガノイドのいずれかとすることができる。
様々な好ましい実施形態において、哺乳動物臓器バリアを模倣する、とは、哺乳動物の臓器バリア機能を模倣することを意味する。
様々な実施形態において、哺乳動物臓器バリアを模倣する結合組織構築物は、バリア臓器相当物と見なすことができる。
【0046】
様々な実施形態において、結合組織構築物は、哺乳動物腸バリアを模倣する。したがって、本明細書においては:(i)iPSC由来腸オルガノイド;(ii)iPSC由来線維芽細胞、好ましくはiPSC由来腸線維芽細胞;及び(iii)iPSC由来内皮細胞、好ましくはiPSC由来腸内皮細胞;を含む哺乳動物腸バリアを模倣する結合組織構築物であって(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来腸オルガノイド及び細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、結合組織構築物が提供される。
同様に、本明細書に記載する他の哺乳動物臓器バリアを模倣する結合組織構築物は、好ましくは、iPSC由来臓器特異的オルガノイド;(ii)iPSC由来線維芽細胞、より好ましくはiPSC由来臓器特異的線維芽細胞;及び(iii)iPSC由来内皮細胞、より好ましくはiPSC由来臓器特異的内皮細胞;を含み、(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来臓器特異的オルガノイド及び(iPSC由来)線維芽細胞及び内皮細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである。
【0047】
様々な実施形態において、哺乳動物臓器バリアを模倣する(生体工学的に作製された)結合組織構築物は、ハイドロゲル内に印刷された(バイオプリントされた)及び/又はハイドロゲル上に播種された、(i)iPSC由来オルガノイド;(ii)iPSC由来線維芽細胞;及び(iii)iPSC由来内皮細胞;を含み、(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来オルガノイド及び細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである。様々な実施形態において、ハイドロゲルは、細胞外マトリックス、好ましくは細胞外ゲルマトリックス、より好ましくは基底膜様細胞外マトリックス抽出物(典型的には、組織細胞外環境様)である。様々な実施形態において、基底膜様細胞外(ゲル)マトリックスは、ゼラチン質タンパク質混合物を含む。好ましくは、ゼラチン質タンパク質混合物は、Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞から分泌されたゼラチン質タンパク質混合物である。より好ましくは、基底膜様細胞外(ゲル)マトリックスは、Matrigel(登録商標)基底膜マトリックス(Corning)である。本開示の様々な実施形態において、細胞外(ゲル)マトリックスは、コラーゲン、アガロース、アジネート(aginate)又はMatrigel(登録商標)ハイドロゲルである。他の様々な実施形態において、ハイドロゲルは合成ハイドロゲルである。
【0048】
更に本開示は、哺乳動物有機バリアを模倣する結合組織構築物を生体工学的に作製する(bioengineering)か又は発生させる(generating)方法であって、(i)iPSC由来オルガノイド、(ii)iPSC由来線維芽細胞及び(iii)iPSC由来内皮細胞をハイドロゲルに印刷する(バイオプリントする)こと及び/又は播種することを含み:(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来オルガノイド及び細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、方法を提供する。ハイドロゲルは上に記載したいずれかのハイドロゲルとすることができる。
本開示は、本明細書に記載する哺乳動物臓器バリアを模倣する結合組織構築物を生体工学的に作製する又は発生させる方法により得られ得る又は得られた哺乳動物の臓器バリアを模倣する結合組織構築物を提供する。
【0049】
本開示は、組織修復、組織化工学及び/又は組織生産のいずれか一つに使用するための、本明細書に記載する、哺乳動物の臓器バリアを模倣する結合組織構築物を提供する。
【0050】
更に本開示は、哺乳動物の血液脳関門を模倣する組織構築物であって:(i)iPSC由来ニューロスフェア又はiPSC由来神経オルガノイド;及び(ii)iPSC由来内皮細胞を含み、(i)及び(ii)に従うiPSC由来ニューロスフェア又はiPSC由来神経オルガノイド及びiPSC由来内皮細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、組織構築物を提供する。様々な実施形態において、哺乳動物の血液脳関門を模倣する組織構築物は、哺乳動物の血液脳関門を模倣する生体工学的に作製された組織構築物と見なすことができる。他の様々な実施形態において、哺乳動物の血液脳関門を模倣する組織構築物は、(iii)iPSC由来線維芽細胞を更に含み;(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来ニューロスフェア又はiPSC由来神経オルガノイド、iPSC由来内皮細胞及びiPSC由来線維芽細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである。
【0051】
本開示はまた、哺乳動物の血液脳関門を模倣する組織構築物を生体工学的に作製する又は発生させる方法であって:(i)iPSC由来ニューロスフェア又はiPSC由来神経オルガノイド;(ii)iPSC由来内皮細胞;及び(iii)iPSC由来線維芽細胞をハイドロゲルに印刷する(バイオプリントする)こと及び/又は播種することを含み、(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来ニューロスフェア又はiPSC由来神経オルガノイド、iPSC由来内皮細胞及びiPSC由来線維芽細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、方法も提供する。ハイドロゲルは、哺乳動物の臓器バリアを模倣する組織構築物に関連して上に記載したいずれかのハイドロゲルとすることができる。
様々な好ましい実施形態において、哺乳動物の血液脳関門を模倣するとは、哺乳動物の血液脳関門の機能を模倣することを意味する。
様々な実施形態において、哺乳動物の血液脳関門を模倣する結合組織構築物は、バリア臓器相当物と見なすことができる。
本開示は、本明細書に記載する哺乳動物の血液脳関門を模倣する組織構築物を生体工学的に作製する又は発生させる方法により得られ得る又は得られた、哺乳動物の血液脳関門を模倣する組織構築物を提供する。
本開示は、本明細書に記載する哺乳動物の臓器バリア又は哺乳動物の血液脳関門を模倣する結合組織構築物を含む微小流体システムを提供する。
【0052】
更に本開示は、成体臓器構築物を生体工学的に作る又は作製する方法であって、(i)iPSC由来臓器前駆細胞、(ii)iPSC由来線維芽細胞及び(iii)iPSC由来内皮細胞を単一の細胞培養コンパートメント内で共培養することを含み、(i)、(ii)及び(iii)に従うiPSC由来臓器前駆細胞及びiPSC由来線維芽細胞及び内皮細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである、方法を提供する。
様々な実施形態において、該方法は、(i)iPSC由来肝実質細胞前駆細胞、(ii)iPSC由来線維芽細胞及び/又は(iii)iPSC由来内皮細胞を単一の細胞培養コンパートメント内で共培養することを含む、成体肝臓臓器構築物を生体工学的に作製する又は発生させる方法であり、(i)、(ii)及び/又は(iii)に従うiPSC由来肝実質細胞前駆細胞及びiPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞は、単一種の哺乳動物体細胞から得られた単一ドナーのiPSCから得られたものである。様々な好ましい実施形態において、iPSC由来線維芽細胞は、iPSC由来肝線維芽細胞である。他の様々な好ましい実施形態において、iPSC由来内皮細胞はiPSC由来肝内皮細胞である。
様々な実施形態において、成体臓器構築物を生体工学的に作製する又は発生させる方法は、(i)iPSC由来臓器前駆細胞、(ii)iPSC由来線維芽細胞及び(iii)iPSC由来内皮細胞を共培養するための細胞培養コンパートメントを含む微小流体デバイスを用いて実施することができる。
様々な実施形態において、成体臓器構築物は、成体臓器機能を模倣する成体臓器相当物と見なすことができる。
【0053】
本明細書に記載するように、成体臓器構築物は、成体臓器又は成体臓器機能を模倣する成体臓器相当物の指標となるマーカー又はマーカータンパク質を発現することにより特徴付けることができる。様々な実施形態において、成体臓器又は成体臓器機能を模倣する成体臓器相当物は、成熟臓器又は成体臓器機能を模倣する成熟臓器相当物と見なすことができる。成熟臓器又は成体臓器機能を模倣する成熟臓器相当物の指標となる、これらが発現するマーカータンパク質については、本明細書の他の箇所に記載する。
本開示は、本明細書に記載する成体臓器構築物を生体工学的に作製する又は発生させる方法により得られ得る又は得られた成体臓器構築物を提供する。本開示は、具体的には、本明細書に記載する成体肝臓(臓器)構築物を生体工学的に作製する又は発生させる方法により得られ得る又は得られた成体肝臓(臓器)構築物を提供する。
【0054】
更に本開示は、iPSC由来内皮前駆細胞を剪断応力に曝すことを含む、成体内皮細胞を生体工学的に作製する新規方法を提供する。この方法は、好ましくは、微小流体システムの微小流体流路内でiPSC由来内皮前駆細胞を培養することを含む。本開示の
図11は、iPSC由来内皮細胞の多臓器チップの流路内における伸長が剪断応力により促進されることを実証するものである。
本開示は、成体内皮細胞を生体工学的に作製する又は発生させる方法であって、iPSC由来内皮前駆細胞を剪断応力に曝すことを含む、方法を提供する。様々な実施形態において、この方法は、iPSC由来内皮前駆細胞を微小流体システムの微小流体流路内で培養することを含む。
本開示は、本明細書に記載する成体内皮細胞を生体工学的に作製する又は発生させる方法により得られ得る又は得られた成体内皮細胞を提供する。
【0055】
更に本開示は、微小流体チップに血液回路及び尿回路を組み込み、臓器機能を模倣する複数のモデルの相互作用及びクロストークを模倣する系において安定な微環境を維持するための生理的条件を支援する、生体模倣システムを確立する。本開示は、ADME(T)プロファイリングに関連する薬物動態-薬力学解析のための試験の確立に適した新規微小流体デバイスを提供する。本開示の
図1は、例示的なADME-N(ADME+神経相当物)チップの設置面積(上段)及び別々の層の等角図(下段)を示すものである。この等角図は、2つの回路(血液回路及び尿回路)の間の膜の配置を例示している。
図12に、本開示のADMEチップの部分横断面図を示す。
図3及び10に示すグルコース及びLDH測定から明らかなように、本明細書に記載する血液回路及び尿回路を組み込んだ新規微小流体デバイスにより、生体模倣システムの安定な恒常性が確立及び維持されることが示された。
【0056】
腎糸球体及び尿細管コンパートメント(濾過ユニット及び再吸収ユニット)は、ポリカーボネート膜及び腎細胞の高密度(tight)層を組み合わせることにより達成することができる(
図4)。前者は、分子量のより大きな培地構成成分を濾過し、それらの拡散を遅らせる技術的障壁となる。後者は、物質を再吸収し、「血液」及び「尿」回路全体に亘る濃度勾配を構築する。この勾配は、LDHのみならず、アスパラギン酸アミノ基転移酵(AST、
図5)に関しても確認できる。これらの両者の濃度が明確に異なることは、本開示により提供される新規微小流体ADMEチップの腎膜が機能していることを実証している。ASTは肝実質細胞内に見られる細胞内酵素であり、肝臓相当物に由来する。
全ての臓器相当物について、同一性、機能性及び生存力を決定するために免疫組織化学的試験を実施した(
図6~9)。
【0057】
代謝解析により、全ての臓器相当物間に再現可能な恒常性が確立されたことが判明した。本開示は、in vivoで観測される細胞の分極化、再編成、バリア機能及び輸送を実証することを可能にする。1つ以上の細胞培養コンパートメントを有する第1回路と、腎ユニット内で第1回路と重複する濾過及び再吸収ユニットを含む第2回路と、を組み合わせた新規微小流体デバイスにおいて、安定な微環境を達成することにより、例えば、創薬における反復投与試験の可能性が開ける。
【0058】
本開示は、1つ以上の細胞培養コンパートメントを有する第1回路と、濾過ユニット及び再吸収ユニットを有する第2回路と、を含む、新規微小流体デバイスであって、両回路が濾過ユニット及び再吸収ユニットを介して互いに連結しているデバイスを提供する。
図1に、次に示す臓器相当物:腸、肝臓、腎臓(糸球体及び尿細管に分離)及び神経組織を組み込むためのキャビティを含む、2つの回路(「血液回路」及び「尿回路」と称する)を有する新規微小流体デバイスの例示的な配置図を示す。前者の3種の組織は、いわゆるADMEプロファイル(吸着、分布、代謝、排泄)を得るために使用される。後者はこのプロファイルを補足する追加組織である。したがって、このチップをADME-Nチップ(ADME+神経相当物/組織)と称する。各回路内の1つの貯留コンパートメントにより、上清のサンプル採取が可能になる(「培地貯留器1及び2」)。培地は、組み込まれた2つの空気圧マイクロポンプ(各回路に1つずつ)により、微小流体網を通じて灌流される。回路は2つの腎ユニットコンパートメントが重複しており、ポリカーボネート製の多孔質膜で分離されている。
【0059】
単一臓器システム/チップと比較すると、本開示の生体模倣システム/微小流体チップは、微小流体デバイスが2つの回路を含み、それにより、少なくとも2つの細胞培養コンパートメントを含み、そのうちの一方が第1回路内に局在化しており、他方が、腎機能を模倣する第2回路のユニットの一方、特に再吸収ユニットであるということを考慮し、多臓器システム/チップと見なすことができる。
【0060】
様々な実施形態において、新規微小流体デバイスは、1以上の細胞培養コンパートメントを有する第1回路と、濾過ユニット及び再吸収ユニット有する第2回路と、を含み、両回路は濾過ユニット及び再吸収ユニットが重複していると見なすことができる。様々な好ましい実施形態において、2つの回路の重複部分(又は両回路を互いに連結している部分)は多孔質膜で分離されている。これらの重複/連結部分は、具体的には、濾過ユニット及び再吸収ユニットを意味する。
【0061】
様々な実施形態において、2つの回路の重複/連結部分を分離する前記多孔質膜は、合成又は生物学的多孔質膜である。様々な実施形態において、前記多孔質膜は、コラーゲン、フィブリン又は細胞外マトリックス(脱細胞化臓器マトリックスを含む)のいずれかから作製することができるが、これらに限定されるものではない。様々な実施形態において、多孔質膜は、Transwell(登録商標)インサートと同一の性質を示す。様々な実施形態において、多孔質膜は、細胞により再吸収可能である。他の様々な実施形態において、多孔質膜はポリカーボネート製である。他の様々な実施形態において、多孔質膜は、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)製の多孔質膜である。
【0062】
濾過ユニット及び再吸収ユニットは、腎臓細胞、特に、腎糸球体相当物(濾過ユニット)及び尿細管相当物(再吸収ユニット)を組み込むための別々の細胞培養コンパートメントである。
【0063】
本明細書に記載する、「細胞培養コンパートメント」及び「細胞培養チャンバ」又は「細胞培養キャビティ」という語は、本明細書においては互換的に使用することができる。本開示に従う細胞培養コンパートメントは、本開示に関連して使用及び記載される細胞及び組織の培養に特に好適なコンパートメント、チャンバ又はキャビティである。様々な実施形態において、細胞培養コンパートメントは、ウェルプレート形式、特に6、12、24、48、96及び384ウェル形式のいずれかの(マイクロ)ウェル細胞培養プレート(又はマルチウェル)を含む。好ましい実施形態は、24、48、96又は384ウェル形式のマルチウェルを包含する。マルチウェルは様々な材料から作製することができるが、最も一般的な材料はポリスチレン及びポリプロピレンであり、これは、本開示の様々な実施形態において使用することができる。他の様々な実施形態において、細胞培養コンパートメントは、Transwell(登録商標)(微小流体)インサート、より好ましくは、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル(PE)、コラーゲンコートされたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はPET(ポリエチレンテレフタレート)から作製されたTranswell(登録商標)(微小流体)インサートである。本明細書に記載するように、本開示に関連して使用される細胞培養コンパートメントは、細胞/組織培養及び増殖のための多孔質膜(表面)と表すことができる。
【0064】
本明細書に記載するように、多孔質膜は、具体的には、これらに限定されるものではないが、化学及び/又は生物学的分子の濾過、供給量調節(metering)及び/又は分離のみならず、細胞又は組織を培養及び増殖させるための表面としても使用することができる、多孔質構造を有する膜を意味する。本開示に関連して使用される細胞培養コンパートメントの多孔質膜は、具体的には、細胞培養コンパートメントに含まれる臓器相当物と微小流体網との間の流体連通を確立する役割を果たす。したがって、様々な実施形態において、本明細書に記載する細胞培養コンパートメントの多孔質膜は、多孔質膜表面上に配置された臓器相当物(細胞/組織)が微小流体デバイスの微小流体流路と流体連通するように配置されている。様々な実施形態において、多孔質膜は、膜の両側に細胞を播種することができる。好ましくは、内皮細胞は、多孔質膜の底側に播種される。
一般に、細孔サイズは製造プロセスにより数ナノメートルからマイクロメートルまで調整することが可能であり、それにより、標的の化学及び生物学的分子を濾過、供給量調節及び分離することが可能となると共に、細胞培養コンパートメント及び微小流体流路網内の臓器相当物の間に流体を流動させることも可能になる。様々な実施形態において、多孔質膜は、上に記載した多孔質膜である。したがって、多孔質膜は、合成又は生物学的多孔質膜とすることができる。様々な実施形態において、前記多孔質膜は、コラーゲン、フィブリン又は細胞外マトリックス(脱細胞化臓器マトリックスを含む)のいずれかから作製することができるが、これらに限定されるものではない。様々な実施形態において、多孔質膜は、Transwell(登録商標)インサートと同一の性質を示す。様々な実施形態において、多孔質膜は、細胞により再吸収可能である。他の様々な実施形態において、多孔質膜はポリカーボネート製である。他の様々な好ましい実施形態において、多孔質膜はポリ(ジメチルシロキサン(PDMS)製多孔質膜である。
【0065】
本明細書に記載する「第1回路」という語は、具体的には、哺乳動物の血管系を模倣する、より具体的には、ヒトの血管系を模倣する循環器系を意味する。本明細書において更に記載するように、「第1回路」及び「血液回路相当物」又は「生体模倣血液回路」という語は、本明細書においては互換的に使用することができる。同様に、本明細書に記載する「第2回路」という語は、具体的には、哺乳動物の泌尿器系を模倣する、より具体的には、ヒトの泌尿器系を模倣する循環器系を意味する。本明細書において更に記載するように、「第2回路」及び「尿回路相当物」又は「生体模倣尿回路」という語は、本明細書においては互換的に使用することができる。
【0066】
腎濾過は、受動的及び能動的濾過の両方を包含し、糸球体は、分子量のより大きな血清タンパク質がネフロンに侵入することを阻止する受動的濾過障壁として作用する。したがって、このような分子量のより大きな血清タンパク質は血流中を循環し続ける。本明細書に記載するように、本明細書に開示する新規微小流体デバイスの濾過ユニットは、分子のサイズ及び電荷に基づき第1回路(「血液回路」)から第2回路(「尿回路」)へ分子を選択的に通過させ、それにより、選択的な糸球体濾過障壁を模倣する、濾過障壁を含む。
【0067】
本開示の様々な実施形態において、濾過ユニットに含まれる濾過障壁は、濾過ユニット(及び再吸収ユニット)を血液回路から分離する(2つの回路の重複部分を分離する)多孔質膜により確立される。したがって、この種の実施形態によれば、濾過障壁は、(多孔質)機械的濾過障壁と見なすことができる。具体的には、(多孔質)機械的濾過障壁は、糸球体濾過障壁を模倣する。したがって、様々な実施形態において、濾過障壁は、多孔質膜を有する細胞培養コンパートメントにより確立することさえできる。好ましい実施形態において、機械的濾過障壁の細孔サイズは約8nmであるが、細孔サイズを≦8nmとすることもできる。他の好ましい実施形態によれば、機械的濾過障壁は、第2(尿)回路に侵入する血清タンパク質の上限を約69kDaに設定する細孔サイズを有する。様々な実施形態において、機械的濾過障壁は、第2(尿)回路に侵入するアルブミン、好ましくは血清アルブミン(又は血中アルブミン)の限界を設定する細孔サイズを有する。
【0068】
本開示の他の様々な実施形態において、濾過ユニットに含まれる濾過障壁は、生物学的濾過障壁である。好ましくは、生物学的濾過障壁は、第2(尿)回路に侵入する血清タンパク質の上限を約69kDaに設定する濾過スリットを有する障壁である。様々な実施形態において、生物学的濾過障壁は、有足細胞(臓側上皮細胞とも称される)を含む。より具体的には、生物学的濾過障壁は、血漿タンパク質が第2(尿)回路に侵入することを阻止する有足細胞(濾過)障壁である。有足細胞濾過障壁は、好ましくは、第2(尿)回路に侵入する血清タンパク質の上限を約69kDaに設定する濾過スリットを有する。様々な実施形態において、生物学的又は有足細胞濾過障壁は、第2(尿)回路に侵入するアルブミン、好ましくは血清アルブミン(又は血中アルブミン)の限界を設定する細孔サイズを有する。
【0069】
腎生理学において、再吸収(又は尿細管再吸収)は、ネフロンが尿細管液(尿前駆体(pre-urine))から水分及び溶質を除去し、それらを循環血に戻すプロセスである。糸球体の濾液は、尿を生成する段階の一つとして、一層濃縮される。再吸収により、多くの有用な溶質(主としてグルコース及びアミノ酸)、塩及び水分を血液循環に戻すことができる。本明細書に記載するように、本明細書に開示する新規微小流体デバイスの再吸収ユニットは、第2回路(尿回路)からの流体を第1回路(血液回路)に再吸収させることを可能にする障壁を含む。本開示の様々な実施形態において、再吸収ユニットに含まれる再吸収障壁は、再吸収障壁を模倣する(多孔質)機械的障壁とすることができる。好ましくは、再吸収障壁は、生物学的障壁、より好ましくは腎細管細胞(又は尿細管細胞)を含む生物学的再吸収障壁である。より具体的には、生物学的再吸収障壁は、水分、塩及び溶質(後者はタンパク質を含む)を第1回路(血液回路)に戻す尿細管細胞(再吸収)障壁である。本明細書に記載するように、再吸収は、再吸収障壁(具体的には尿細管細胞)から第1回路(血液回路)への腎糸球体濾液の流れと見なすことができ、それにより、特定の物質、特に水分、塩及び溶質を選択的に通過させ、第1回路(血液回路)に戻すことが可能になる。様々な実施形態において、尿細管細胞は、腎近位尿細管細胞と見なすことができる。
【0070】
本明細書に開示する新規微小流体デバイスの第2回路は、細胞培養コンパートメントとしての役割を果たさないが、(培地)貯留コンパートメントとしての役割を果たすコンパートメントを含むことができる。好ましくは、この種の(培地)貯留コンパートメントは、第2回路からサンプルを採取するための「サンプル採取用貯留器」又は「サンプル採取チャンバ/コンパートメント」としての役割のみを果たすことができ、及び/又は微小流体システムの第2回路に供試サンプルを添加するための「サンプル貯留器」又は「サンプルチャンバ/コンパートメント」としての役割のみを果たすことができる。したがって、好ましい実施形態において、第2回路は、濾過ユニット及び再吸収ユニットを構成する2つのコンパートメント/ユニット以外の細胞培養コンパートメントを含まないが、第2回路からサンプルを採取する(サンプル採取コンパートメント)役割を果たす、及び/又は供試サンプルを微小流体システムの第2回路に添加するための「サンプル貯留器」又は「サンプルチャンバ/コンパートメント」としの役割を果たす、別個の(更なる)貯留コンパートメントを含む。
貯留コンパートメントは、栄養液をシステムに添加するために使用することができ、これが、培地貯留コンパートメントとも称される理由である。したがって、貯留器コンパートメントは、サンプル採取並びに供試サンプルの供給及び添加の3種の機能を果たすことができるが、臓器相当物を保持する細胞培養コンパートメントの役割は果たさない。
【0071】
本明細書に開示する新規微小流体デバイスの第1回路も同様に、細胞培養コンパートメントとしての役割を果たさないが、(培地)貯留コンパートメントとしての役割を果たすコンパートメントを含むことができる。好ましくは、この種の(培地)貯留コンパートメントは、第1回路からサンプルを採取する役割のみを果たすことができる。同様に、この種の貯留コンパートメントは、栄養液をシステムに添加するために使用することもでき、これが培地貯留コンパートメントと称することができる理由である。したがって、第1回路の貯留コンパートメントは、サンプル採取及び栄養供給(feeding)の両方の役割を果たすことができるが、臓器相当物を保持する細胞培養コンパートメントの役割は果たさない。したがって、好ましい実施形態において、第1回路は、第1回路からサンプルを採取する(サンプル採取コンパートメント)及び/又は培地(栄養液)をシステムに添加する役割を果たす1つ以上の細胞培養コンパートメントに加えて、貯留コンパートメントも含むことができる。
【0072】
本開示の好ましい実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓機能を模倣する組織(「肝臓相当物」)を含む。
【0073】
本開示の他の好ましい実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含む。この種の実施形態は、微小流体チップが腸及び肝臓の臓器相当物(第1回路)及び腎臓の臓器相当物(第2回路)を含むことから、ADMEプロファイリングの達成に特に有用である。本明細書に記載するように、腸、肝臓及び腎臓の臓器相当物は、「ADME」臓器相当物と見なすことができる。様々な実施形態において、新規微小流体デバイスは、腸、肝臓及び腎臓の「ADME」臓器相当物とは異なる、1以上の更なる「非ADME」臓器相当物を含むことができる。様々な実施形態において、この種の更なる「非ADME」臓器相当物としては、これらに限定されるものではないが、神経相当物、皮膚相当物又は気道相当物(好ましくは肺相当物)が挙げられる。
【0074】
本開示の更なる他の好ましい実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは神経相当物を含み、それによりADME-Nチップが確立される。
【0075】
本開示の他の好ましい実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは皮膚相当物を含む。この種の実施形態は、微小流体チップが皮膚及び肝臓の臓器相当物(第1回路)と腎臓の臓器相当物(第2回路)とを含むため、ADMEプロファイリングの達成にも有用である。その場合、供試サンプル(試験薬)の投与は皮膚相当物を介して実施される。この種の実施形態は、クリーム等の化粧品及び/又は消費者製品の試験に特に有用である。
【0076】
本開示の他の好ましい実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは気道相当物、具体的には肺相当物を含む。この種の実施形態は、微小流体チップが気道/肺及び肝臓の臓器相当物(第1回路)と腎臓の臓器相当物(第2回路)とを含むため、ADMEプロファイリングの達成にも有用である。その場合、供試サンプル(試験薬)の投与は気道/肺相当物を介して実施される。この種の実施形態は、気道/肺を介して適用することが意図された薬物を含む物質の試験に特に有用である。
【0077】
本開示の他の様々な実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは皮膚相当物を含む。
【0078】
本開示の他の様々な実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは気道、好ましくは肺相当物を含む。
【0079】
本開示の更なる他の実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは皮膚相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは気道、好ましくは肺相当物を含む。
【0080】
本開示の更なる実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは皮膚相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは気道、好ましくは肺相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは神経相当物を含む。
【0081】
本開示の様々な実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは神経相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは皮膚相当物を含む。
【0082】
本開示の様々な実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは神経相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは気道、好ましくは肺相当物を含む。
【0083】
好ましい臓器相当物としては、腎臓相当物、肝臓相当物、腸相当物、好ましくは小腸相当物、神経(脳)相当物、気道/肺相当物、及び皮膚相当物が挙げられる。腎臓(又は腎)相当物の場合、相当物は、具体的には、糸球体及び尿細管相当物を意味する。より具体的には、この種の糸球体及び尿細管相当物は、本明細書において提供する新規微小流体デバイスの第2回路の別々のユニット(それぞれ濾過ユニット及び再吸収ユニット)に配置されている。
【0084】
本明細書に記載する「細胞培養コンパートメント」は、臓器機能を模倣する細胞及び組織を含む臓器相当物を含む(comprise)又は収容する(contain)。したがって、様々な実施形態において、「臓器相当物」及び「臓器機能を模倣する細胞/組織」は、本明細書において互換的に使用することができる。
様々な実施形態において、臓器機能を模倣する臓器相当物又は組織は、初代(primary)臓器組織、例えば、初代肝臓組織又は初代腸組織である。好ましくは、初代臓器組織は、各臓器の上皮細胞、即ち、例えば、胃腸管、皮膚又は気道の上皮細胞を含む。
様々な実施形態において、臓器機能を模倣する組織は各臓器の上皮細胞、即ち、例えば、胃腸管、皮膚又は気道の上皮細胞を含む組織とすることができる。他の様々な実施形態において、臓器機能を模倣する組織は、市販の細胞株から得られ得る細胞等の、細胞株の細胞を含む組織とすることができる。
他の様々な実施形態において、臓器機能を模倣する組織は、誘導多能性幹細胞(iPSC)由来の細胞を含む組織である。具体的には、細胞は、単一(即ち、同一)ドナーiPSCに由来する(即ち、分化した)ものとすることができ、該iPSCは、元々は、単一種の体細胞から得られた(即ち、再プログラム化された)ものである。例えば、細胞は、単一の(即ち、同一の)iPSCに由来する(即ち、分化した)ものであり、該iPSCは、例えば、皮膚体細胞、白血球、腎細胞、脂肪細胞等から得られた(即ち、再プログラム化された)ものである。
【0085】
本明細書における他の箇所に記載するように、臓器機能を模倣する細胞又は組織として、オルガノイド及びスフェロイドが挙げられる。したがって、様々な実施形態において、臓器相当物は、具体的には、特定の臓器機能を有するオルガノイド又はスフェロイド、例えば、腸細胞若しくは肝実質細胞のオルガノイド、又は腸細胞若しくは肝実質細胞のスフェロイドを意味する。
【0086】
本開示により提供される微小流体デバイスの細胞、組織及び/又は臓器は、二次元(2D)、三次元(3D)又は器官型の複雑さ(organotypic complexity)でモデル化することができる。2Dは、単層細胞培養懸濁液を意味し、一方、3Dは、例えば、異なる幾何学形状の多層培養物、例えば、オルガノイド及びスフェロイド等を含む。器官型は、in vivoの臓器構造という更なる特徴を獲得している点が3Dとは異なる。
【0087】
様々な実施形態において、臓器相当物を含む細胞培養コンパートメントは、オルガノイドを含む細胞培養コンパートメントである。本明細書に記載する「オルガノイド」という語は、最小の機能的臓器又は組織ユニットを意味する又は表すと見なすことができる。オルガノイド組織構造(いずれも該当する機能及び非常に変化に富む集合体形状(conglomerate geometry)を有する)の選択は、15の主要なヒトの臓器に関しMarxらにより発表されている(Marx et al.2012,Altern Lab Anim 40,235-257)。その開示を明示的に本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。本明細書において更に記載するように、本開示によるオルガノイドは、具体的には、iPSC由来細胞のオルガノイドを意味するが、これに限定されるものではない。本明細書において更に記載するように、オルガノイドは、臓器機能を模倣する細胞/組織培養物と見なすことができる。本明細書において更に記載するように、オルガノイドは、これらに限定されるものではないが、典型的には、次に示す特徴のいずれかにより特徴付けることができる:(i)(少なくとも)三次元の多細胞構築物又は構造物;(ii)臓器特異的な細胞種の集合;(iii)幹細胞(好ましくはiPSC)から作製された場合は、通常、発生における器官形成プログラムを反復している;(iv)自己組織化(細胞が自己集合又は/及び自己組織化して組織になる能力)。
【0088】
様々な実施形態において、臓器相当物を含む細胞培養コンパートメントは、臓器機能を模倣するスフェロイドを含む細胞培養コンパートメントである。本明細書に記載するように、本開示によるスフェロイドは、具体的には、iPSC由来細胞のスフェロイドを意味するが、これらに限定されるものではない。本明細書において更に記載するように、スフェロイドは、in vivoの臓器組織に非常に類似した、細胞の凝集体(aggregation)又は自己集合体(球状の集塊)と見なすことができる。スフェロイドは、オルガノイドと同様に、三次元に構築された構造(structural architecture)を有する。オルガノイドと比較すると、スフェロイド培養物とは対照的に、オルガノイドにはより高次の自己集合が存在すると見なされる。様々な実施形態において、オルガノイドは、臓器機能を模倣する細胞/組織培養物と見なすことができる。
【0089】
好ましいオルガノイドとしては、腎臓オルガノイド、肝臓オルガノイド、腸オルガノイド、好ましくは小腸オルガノイド、神経(脳)オルガノイド、気道/肺オルガノイド及び皮膚オルガノイドが挙げられる。腎臓(又は腎)オルガノイドにおいて、オルガノイドは、具体的には、糸球体及び尿細管のオルガノイドを意味する。より具体的には、この種の糸球体及び尿細管のオルガノイドは、本明細書において提供される新規微小流体デバイスの第2回路の別々のユニット(それぞれ濾過ユニット及び再吸収ユニット)に配置されている。
【0090】
本開示の様々な態様において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つはiPSC由来肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つはiPSC由来腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つはiPSC由来神経相当物を含み、新規微小流体デバイスの第2回路は腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)、より具体的には、再吸収ユニットに播種されたRPTECを含む。好ましくは、iPSC由来腸相当物を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントはiPSC由来腸細胞のオルガノイドを含む。より好ましくは、iPSC由来腸細胞のオルガノイドは、細胞外マトリックス中に、好ましくは細胞外ゲルマトリックス中に、より好ましくは基底膜様細胞外(ゲル)マトリックス抽出物中に(典型的には組織細胞外環境様)に埋め込まれている。様々な実施形態において、基底膜様細胞外(ゲル)マトリックス抽出物は、ゼラチン質タンパク質混合物を含む。好ましくは、基底膜様細胞外マトリックスは、Matrigel(登録商標)基底膜マトリックス(Corning)を含む。
他の好ましい実施形態において、iPSC由来腸相当物を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、具体的には、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞、又はiPSC由来線維芽細胞及び初代微小血管内皮細胞を更に含む、iPSC由来腸細胞のオルガノイドである。初代微小血管内皮細胞又はiPSC由来内皮細胞は、好ましくは細胞培養コンパートメントの側底側に播種される。
更に、iPSC由来神経相当物を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、好ましくは、iPSC由来神経スフェロイドを含む。より好ましくは、iPSC由来神経相当物、具体的にはiPSC由来神経スフェロイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、印刷された(バイオプリントされた)血液脳関門を含む。より具体的には、iPSC由来神経相当物、具体的にはiPSC由来神経スフェロイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、神経スフェロイドの下側に印刷された(バイオプリントされた)内皮細胞、好ましくはiPSC由来内皮細胞で富化されている。
更に、iPSC由来肝臓相当物を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、好ましくは、iPSC由来肝実質細胞のスフェロイドを含む。より好ましくは、iPSC由来肝臓相当物、具体的にはiPSC由来肝実質細胞のスフェロイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、線維芽細胞、好ましくはiPSC由来線維芽細胞を更に含む。好ましい実施形態において、iPSC由来肝臓相当物は、iPSC由来肝実質細胞のスフェロイドをiPSC由来線維芽細胞と共に、それぞれの細胞培養コンパートメントに配置することにより達成される。
様々な実施形態において、RPTECは、腎近位尿細管上皮細胞株を含む。
【0091】
本開示の様々な態様において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは、初代肝臓組織を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは初代腸組織、好ましくは初代小腸組織を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つはiPSC由来神経相当物を含み、新規微小流体デバイスの第2回路は腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)、より具体的には、再吸収ユニット及び/又は濾過ユニットに播種されたRPTECを含む。様々な実施形態において、初代肝臓組織は初代(ヒト)肝実質細胞を含む。初代肝臓組織は、市販の肝臓モデル、例えば、InSpheroの3D InSight(商標)Human Liver Microtissues XLとすることができる。様々な実施形態において、初代肝臓組織又は肝臓モデルは、それぞれ3000個の初代肝実質細胞を含む50個のスフェロイドを含み得る。更に、好ましい実施形態において、初代腸組織は初代(ヒト)細胞由来腸上皮及び内皮細胞を含み、より好ましくは(ヒト)線維芽細胞を更に含む。初代腸組織は、市販の腸モデル、例えば、3D Epilntestinal(登録商標)組織モデル(MatTek Corporation)とすることができる。更に、iPSC由来神経相当物を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、好ましくはiPSC由来神経スフェロイドを含む。より好ましくは、iPSC由来神経相当物、具体的にはiPSC由来神経スフェロイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、印刷された(バイオプリントされた)血液脳関門を含む。より具体的には、iPSC由来神経相当物、具体的にはiPSC由来神経スフェロイドを含む、少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、神経スフェロイドの下側に印刷された(バイオプリントされた)内皮細胞、好ましくはiPSC由来内皮細胞で富化されている。
様々な実施形態において、RPTECは腎近位尿細管上皮細胞株を含む。
【0092】
本開示の様々な態様において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つはiPSC由来肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つはiPSC由来腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つはiPSC由来神経相当物を含み、新規微小流体デバイスの第2回路は、iPSC由来腎相当物を含む。好ましくは、iPSC由来腸相当物を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、iPSC由来腸細胞のオルガノイドを含む。より好ましくは、iPSC由来腸細胞のオルガノイドは、細胞外マトリックス、好ましくは細胞外ゲルマトリックス、より好ましくは基底膜様細胞外(ゲル)マトリックス抽出物(典型的には、組織細胞外環境様)に埋め込まれている。様々な実施形態において、基底膜様細胞外(ゲル)マトリックス抽出物はゼラチン質タンパク質混合物を含む。好ましくは、基底膜様細胞外マトリックスはMatrigel(登録商標)基底膜マトリックス(Corning)である。
他の好ましい実施形態において、iPSC由来腸相当物、具体的には、iPSC由来腸細胞のオルガノイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞又はiPSC由来線維芽細胞及び初代微小血管内皮細胞を更に含む。初代微小血管内皮細胞又はiPSC由来内皮細胞は、好ましくは、細胞培養コンパートメントの側底側に播種される。
更に、iPSC由来神経相当物を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、好ましくは、iPSC由来神経スフェロイドを含む。より好ましくは、iPSC由来神経相当物、具体的にはiPSC由来神経スフェロイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、印刷された(バイオプリントされた)血液脳関門を含む。より具体的には、iPSC由来神経相当物、具体的にはiPSC由来神経スフェロイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、細胞培養コンパートメントの側底側に播種された内皮細胞、好ましくはiPSC由来内皮細胞で富化されている。
更に、iPSC由来肝臓相当物を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、好ましくは、iPSC由来肝実質細胞のスフェロイドを含む。より好ましくは、iPSC由来肝臓相当物、具体的には、iPSC由来肝実質細胞のスフェロイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、線維芽細胞、好ましくはiPSC由来線維芽細胞を更に含む。好ましい実施形態において、iPSC由来肝臓相当物は、iPSC由来肝実質細胞のスフェロイドをiPSC由来線維芽細胞と共にそれぞれの細胞培養コンパートメントに配置することにより達成される。
【0093】
本開示の様々な態様において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは初代肝臓組織を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは初代腸組織、好ましくは初代小腸組織を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは初代神経組織を含み、新規微小流体デバイスの第2回路は、初代腎組織、好ましくは再吸収ユニットに初代腎組織、より好ましくは、再吸収ユニットに初代尿細管(上皮細胞)組織を含み、濾過ユニットに初代腎糸球体組織を含む。好ましくは、初代腎組織は、腎上皮細胞、より具体的には、腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)を含み、腎上皮細胞又はRPTECは再吸収ユニットに播種することができ、初代腎糸球体組織は有足細胞を含み、これは濾過ユニットに播種することができる。様々な実施形態において、初代肝臓組織は、初代(ヒト)肝実質細胞を含む。初代肝臓組織は市販の肝臓モデル、例えば、InSpheroの3D InSight(商標)Human Liver Microtissues XLとすることができる。更に、好ましい実施形態において、初代腸組織は、初代(ヒト)細胞由来腸上皮及び内皮細胞を含み、より好ましくは、(ヒト)線維芽細胞を更に含む。初代腸組織は市販の腸モデル、例えば、3D Epilntestinal(登録商標)組織モデル(MatTek Corporation)とすることができる。
更に、初代神経組織は、好ましくは初代神経細胞を含む。更なる他の好ましい実施形態において、最小1つの細胞培養コンパートメントは、初代神経組織、具体的には初代神経細胞を含み、印刷された(バイオプリントされた)血液脳関門を含む。より具体的には、初代神経組織、具体的には初代神経細胞を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、細胞培養コンパートメントの側底側に播種されているか又は神経スフェロイドの下側に印刷されている(バイオプリントされている)かのいずれかとすることができる内皮細胞で富化されている。
【0094】
本開示の様々な態様において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓オルガノイドを含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸オルガノイド、好ましくは小腸オルガノイドを含み、新規微小流体デバイスの第2回路は、再吸収ユニット及び/又は濾過ユニットに腎オルガノイドを含む。様々な実施形態において、第1回路の少なくとも1つの更なる細胞培養コンパートメントは、肝臓オルガノイド、腸オルガノイド(小腸オルガノイドを含む)及び腎オルガノイドとは異なる更なるオルガノイドを更に含む。この種の更なるオルガノイドは「非ADME」オルガノイドと見なすことができ、一方、肝臓オルガノイド、腸オルガノイド(小腸オルガノイドを含む)及び腎オルガノイドは「ADME」オルガノイドと見なすことができる。様々な実施形態において、この種の更なる(非ADME)オルガノイドは、神経オルガノイド、皮膚オルガノイド又は気道(好ましくは肺)オルガノイドのいずれかとすることができる。様々な実施形態において、第1回路の少なくとも2つの更なる細胞培養コンパートメントは、肝臓オルガノイド、腸オルガノイド(小腸オルガノイドを含む)及び腎オルガノイドとは異なる2つの更なる「非ADME」オルガノイドを更に含む(更なる細胞培養コンパートメント当たり1種のオルガノイド)。様々な実施形態において、2つの更なる(非ADME)オルガノイドは、神経オルガノイド、皮膚オルガノイド及び/又は気道(好ましくは肺)オルガノイドのいずれかから選択することができる。更なる他の実施形態において、第1回路の少なくとも3つの更なる細胞培養コンパートメントは、3種の更なる「非ADME」オルガノイド(更なる細胞培養コンパートメント当たり1種のオルガノイド)を更に含む。様々な実施形態において、3種の更なる「非ADME」オルガノイドは、神経オルガノイド、皮膚オルガノイド及び/又は気道(好ましくは肺)オルガノイドである。好ましくは、オルガノイドは、iPSC由来臓器細胞のオルガノイドである。具体的には、肝臓オルガノイドは、好ましくは、iPSC由来肝実質細胞のオルガノイドであり、腸オルガノイドは、好ましくは、iPSC由来腸細胞のオルガノイド、より好ましくはiPSC由来小腸細胞のオルガノイドであり、神経オルガノイドは、好ましくは、iPSC由来神経細胞のオルガノイド、腎オルガノイドは、好ましくは、iPSC由来腎細胞のオルガノイドである。
【0095】
本開示の様々な態様において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓スフェロイドを含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸スフェロイド、好ましくは小腸オルガノイドを含み、新規微小流体デバイスの第2回路は、再吸収ユニット及び/又は濾過ユニットに腎スフェロイドを含む。様々な実施形態において、第1回路の少なくとも1つの更なる培養コンパートメントは、肝臓スフェロイド、腸スフェロイド(小腸スフェロイドを含む)及び腎スフェロイドとは異なる更なるスフェロイドを更に含む。この種の更なるスフェロイドは「非ADME」スフェロイドと見なすことができ、一方、肝臓スフェロイド、腸スフェロイド(小腸スフェロイドを含む)及び腎スフェロイドは「ADME」スフェロイドと見なすことができる。様々な実施形態において、この種の更なる(非ADME)スフェロイドは、神経スフェロイド、皮膚スフェロイド及び/又は気道(好ましくは肺)スフェロイドのいずれかとすることができる。様々な実施形態において、第1回路の少なくとも2つの更なる細胞培養コンパートメントは、肝臓スフェロイド、腸スフェロイド(小腸スフェロイドを含む)及び腎スフェロイドとは異なる2つの更なる「非ADME」スフェロイドを更に含む(更なる細胞培養コンパートメント当たり1種のスフェロイド)。様々な実施形態において、2つの更なる(非ADME)スフェロイドは、神経スフェロイド、皮膚スフェロイド及び/又は気道(好ましくは肺)スフェロイドのいずれかから選択することができる。更なる他の実施形態において、第1回路の少なくとも3つの更なる細胞培養コンパートメントは、3種の更なる「非ADME」スフェロイドを更に含む(更なる細胞培養コンパートメント当たり1種のスフェロイド)。様々な実施形態において、3種の更なる「非ADME」スフェロイドは、神経スフェロイド、皮膚スフェロイド及び/又は気道(好ましくは肺)スフェロイドである。好ましくは、スフェロイドは、iPSC由来臓器細胞のスフェロイドである。具体的には、肝臓スフェロイドは、好ましくは、iPSC由来肝実質細胞のスフェロイドであり、腸スフェロイドは、好ましくはiPSC由来腸細胞のスフェロイド、より好ましくは、iPSC由来小腸細胞のスフェロイドであり、神経スフェロイドは、好ましくはiPSC由来神経細胞のスフェロイドであり、腎スフェロイドは、好ましくはiPSC由来腎細胞のスフェロイドである。
【0096】
様々な実施形態において、細胞培養コンパートメントは、1種以上の臓器相当物、例えば、神経相当物を腸相当物と一緒に又は組み合わせて含むことができる。他の様々な実施形態において、各細胞培養コンパートメント(又は単一の細胞培養コンパートメント)は、細胞培養コンパートメント当たり1種の各臓器相当物という原則に従い、1種の臓器相当物のみを含むことができる。他方、例えば、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、これは、第1回路にそれぞれ肝臓相当物を含む2つの細胞培養コンパートメントが存在し得ることを意味する。しかしながら、好ましい実施形態において、新規微小流体デバイスは、微小流体デバイス当たり(又は生体模倣システム当たり)1種の各臓器相当物という原則に従い、各臓器相当物を1つのみ含む。
【0097】
本開示は、本明細書に記載する新規微小流体デバイスの、分析試験、診断、研究、標的検証、毒性試験、組織化工学、組織生産、創薬スクリーニング及び/又は薬物動態-薬力学解析、具体的にはADME(T)プロファイリングにおける使用を提供する。
【0098】
本開示は、生体模倣システムの動作を可能にし、本明細書において提供される新規微小流体デバイスに基づくいわゆるADMEプロファイリングを確立する。したがって本開示は、本明細書に記載する新規微小流体デバイスを利用する生体模倣システムを動作させる方法を提供し、本開示により提供される新規微小流体デバイスを含むADME(吸収、分布、代謝、排泄)試験を更に提供する。更に本明細書においては、本明細書に記載する新規微小流体デバイスを含むADMET(吸収、分布、代謝、排泄、毒性)試験を開示する。 具体的には、創薬プロセスにおいて、in vitroADMEプロファイリング(又はスクリーニング)は新規分子物質を選択するための基準を提供し、新薬候補の選択及び後期前臨床及び臨床開発に必要な、所望の薬物代謝、薬物動態又は安全性プロファイルを有する化合物を導く。薬剤(試験物質)のADME(T)プロファイル(又は特性)は、新薬開発者が規制当局の承認を受けるために必要な安全性及び有効性のデータを理解させるためのものである。
生体模倣システムを動作させる方法において、培養時間は数週間又は数ヵ月間続く可能性さえあり、疾患モデリング及び反復投与による物質曝露が可能となる。
【0099】
本開示は、本開示により提供される新規微小流体デバイスを利用してADME(吸収、分布、代謝、排泄)プロファイリングを実施する方法を提供する。本開示はまた、本明細書に記載する新規微小流体デバイスを利用してADMET(吸収、分布、代謝、排泄、毒性)プロファイリングを実施する方法も提供する。更に本明細書において、(試験)薬のADMEプロファイル又はADMETプロファイルを作成する方法であって、本開示により提供される新規微小流体デバイスを使用してADMEスクリーニング又はADMETスクリーニングをそれぞれ実施することを含む、方法を開示する。
【0100】
本明細書に開示する生体模倣システムを動作させる方法は、好ましくは、栄養液を生体模倣システムに、胃腸管相当物、好ましくは腸相当物、より好ましくは小腸相当物を含む細胞培養コンパートメントを介して選択的に添加することを含む。この臓器相当物は、好ましくは胃腸管の、好ましくは腸の、一層好ましくは小腸の上皮細胞を含む組織を含む。生理学的in vivo条件を忠実に反映するために、本開示は、好ましくは、生体模倣システムに、栄養液を、胃腸管相当物、好ましくは腸相当物、より好ましくは小腸相当物を含む細胞培養コンパートメントを介して選択的に添加して生体模倣システムを動作させる。
【0101】
様々な実施形態において、栄養液は、生体模倣システムに、皮膚相当物及び/又は気道相当物、より具体的には肺相当物を含む細胞培養コンパートメントを介して選択的に添加される。
【0102】
本明細書に記載するように、栄養液は、具体的には、細胞又は身体が成長又は回復するために必須の物質(栄養素)(アミノ酸、塩(電解質)及びグルコースを含む)及び糖質形態の熱量を含む。具体的には、本明細書に記載する栄養液は、細胞増殖のための栄養液である。本明細書に記載するように、「栄養液」及び「細胞培養培地」という語は本明細書において互換的に使用することができる。
【0103】
驚くべきことに、本明細書において提供する新規微小流体チップは、生体模倣システムに恒常性を確立することができることが見出された。これは、グルコース及びLDHの量が一定であることにより示された(
図3)。グルコース濃度が一定であることは、利用可能なグルコースの消費が一定であり、能動的に調節されることを示唆している。グルコース濃度は全てのコンパートメントで等しい濃度に到達した。更に驚くべきことに、腸相当物(腸相当物を通じて頂端的に)を通じて選択的に供給することが、「血液」回路及び「尿」回路の両方の必要を満たすのに十分であることが見出された。同様に、LDH活性は、実験全体を通して比較的一定であったことが示された。グルコースと比較して、LDH濃度は各コンパートメントで異なる。腸相当物及び腎相当物のバリア機能は、3つ全ての「コンパートメント」(即ち、血液回路->培地貯留器1;尿回路->培地貯留器2;及び腸コンパートメント)でLDH濃度が異なることにより示される。したがって、このバリアにより、横断する物質が区別される。他の物質を保持しながら、グルコースが能動又は受動的に透過されることは、チップシステムの部分集合間で実際的な相互作用があることを示唆している。
【0104】
したがって本開示は、恒常性を模倣する方法であって、1つ以上の細胞培養コンパートメントを含む第1回路と濾過ユニット及び再吸収ユニットを含む第2回路とを含む生体模倣システムを動作させることを含み、両回路は、濾過ユニット及び再吸収ユニットを介して互いに連結されている、方法を提供する。新規微小流体デバイスに関し、本明細書の他の箇所に記載されている(好ましい)実施形態によれば、生体模倣システムの第2回路に含まれる濾過ユニットは、好ましくは、分子のサイズ及び電荷に基づき第1回路から第2回路へ分子を選択的に通過させる濾過障壁を含む。より好ましくは、濾過障壁は生物学的障壁であり、一層好ましくは、生物学的障壁は有足細胞を含む。
【0105】
同じく新規微小流体デバイスに関し本明細書の他の箇所に記載されている(好ましい)実施形態によれば、生体模倣システムの第2回路に含まれる再吸収ユニットは、好ましくは、第2回路から第1回路への流体の再吸収を可能にする障壁を含む。より好ましくは、再吸収障壁は生物学的障壁であり、一層好ましくは、生物学的障壁は腎細管細胞を含む。
【0106】
恒常性を模倣する新規方法の様々な実施形態において、栄養液は、胃腸管相当物、より具体的には腸相当物、一層具体的には小腸相当物を含む細胞培養コンパートメント(第1回路の)を介して生体模倣システムに選択的に添加される。様々な実施形態において、臓器相当物は、胃腸管、好ましくは腸、一層好ましくは小腸の上皮細胞又は上皮細胞を含む組織を含む。
【0107】
新規微小流体デバイスに関する本明細書に記載する(好ましい)実施形態は、本明細書に記載する生体模倣システムを動作させることを含む、恒常性を模倣する新規方法にも適用される。したがって、新規微小流体デバイスに関連して本明細書の他の箇所に記載されている(好ましい)実施形態は、生体模倣システムを動作させることを含む、恒常性を模倣する新規方法に関連する好ましい実施形態でもある。より具体的には、新規微小流体デバイスに関連して本明細書の他の箇所に記載されている(好ましい)実施形態も、恒常性を模倣する新規方法に含まれる生体模倣システムの好ましい実施形態でもある。
【0108】
本開示はまた、本明細書に記載する微小流体デバイスを利用して生体模倣システム中の分析物を検出する方法も提供する。様々な実施形態において、この方法は、供試サンプルを第1回路の細胞培養コンパートメントに添加することを含み、好ましくは、前記細胞培養コンパートメントは、胃腸管相当物、より具体的には、腸相当物、皮膚相当物及び/又は気道相当物、より具体的には肺相当物のいずれかから選択される、臓器相当物を含む。この臓器相当物は、好ましくは、胃腸管、皮膚又は気道の上皮細胞を含む組織を含む。好ましい実施形態において、供試サンプルは、胃腸管相当物、より具体的には、腸相当物を含む細胞培養コンパートメントに添加される。より好ましくは、供試サンプルは、胃腸管相当物、具体的には腸相当物、より具体的には小腸相当物を含む細胞培養コンパートメントに選択的に添加される。
様々な実施形態において、供試サンプルは、皮膚相当物及び/又は気道相当物、より具体的には肺相当物を含む細胞培養コンパートメントを介して生体模倣システムに選択的に添加される。
他の様々な実施形態において、供試サンプルは、生体模倣システムに、臓器相当物を含む細胞培養コンパートメントとは異なるキャビティを介して選択的に添加される。この種のキャビティは血液回路及び/又は尿回路の「培地貯留器」とすることができる。本明細書の他の箇所に記載するように、この種の「培地貯留器」は、微小流体システムからサンプル又は培養物上清を採取する役割のみを果たす「サンプル採取貯留器」若しくは「サンプル採取チャンバ/コンパートメント」用である、及び/又は微小流体システムに供試サンプルを添加する役割のみを果たす「サンプル貯留器」若しくは「サンプルチャンバ/コンパートメント」用である。
様々な実施形態において、供試サンプルは液体供試サンプルであり、好ましくは、胃腸管相当物、具体的には腸相当物、より具体的には小腸相当物を含む細胞培養コンパートメントを介して生体模倣システムに添加される。様々な実施形態において、供試サンプルは、クリーム等の化粧品又は消費者製品であり、これは、好ましくは、皮膚相当物を含む細胞培養コンパートメントを介して生体模倣システムに添加される。
本開示による分析物を検出する方法は、血液回路及び/又は尿回路の「培地貯留器」からサンプルを採取することを含むことができる。本明細書の他の箇所に記載するように、この種の「培地貯留器」は、微小流体システムからサンプル又は培養物上清を採取する役割を果たす「サンプル採取貯留器」若しくは「サンプル採取チャンバ/コンパートメント」用とすることができ、及び/又は供試サンプルを微小流体システムに添加する役割を果たすが、臓器相当物用細胞培養コンパートメントとしての役割を果たさない「サンプル貯留器」若しくは「サンプル採取チャンバ/コンパートメント」用とすることができる。
本開示による分析物を検出する方法は、微小流体システムからサンプル採取チャンバを介して採取したサンプルを、代謝物、好ましくは毒性代謝物の有無に関し分析することを更に含むことができる。本開示による分析物を検出する方法は、具体的には、生体模倣システムに供試サンプルとして添加した薬剤の代謝物を検出することが可能である。
本開示による分析物を検出する方法は、第1回路及び/又は第2回路の流体の流れの中の分析物を検出することを更に含むことができる。
分析物を検出する方法の好ましい実施形態において、供試サンプルは、栄養液が添加される細胞培養コンパートメントと同一又は異なる第1回路の細胞培養コンパートメントに添加又は堆積される。
【0109】
更に、本明細書に記載する新規微小流体デバイスに細胞を播種することを含む、細胞を培養及び/又は維持する方法を本明細書に開示する。
【0110】
更に本明細書において、ここに記載した新規微小流体デバイス及び使用説明書を含む、生体模倣システムを動作させるためのキットを開示する。
【0111】
本開示により提供される微小流体デバイスは、プレート又はチップの形態とすることができる。プレートは、通常、マイクロタイタープレートの規模に基づき、受動的な重量式の微小流体流動(gravity-based microfluidic flow)又は搭載ポンプによる能動的な輸送(active on-board pumping)を利用する。スライドガラスサイズ又は他の形式のチップを能動的又は受動的微小流体流動により動作させ、それにより、毛細管内又は間質内の生理学的速度の剪断応力を模倣することができる。能動的微小流体流動の場合は、外部又はチップ上のマイクロポンプを使用することができる。好ましくは、本開示により提供される微小流体デバイスはチップの形態にある。
【0112】
本明細書に開示する新規微小流体デバイス又は新規生体模倣システムの様々な実施形態において、第1回路は、内皮細胞が内張りされた1以上の微小流体流路を含む。本明細書の他の箇所に記載するように、本開示は、多臓器チップの流路内のiPSC由来内皮細胞の伸長が剪断応力により促進されることを実証する(
図11)。
【0113】
様々な実施形態において、新規微小流体デバイス又は新規生体模倣システムは、マイクロポンプ、好ましくは蠕動マイクロポンプを含む。様々な実施形態において、2つの回路(第1及び第2回路)の一方は、マイクロポンプ(即ち、「血液回路マイクロポンプ」又は「尿回路マイクロポンプ」)を有することができる。好ましい実施形態においては、2つの回路(第1及び第2回路)の両方が専用のマイクロポンプ(即ち、「血液回路マイクロポンプ」及び「尿回路マイクロポンプ」)を有することができる。新規微小流体デバイス又は新規生体模倣システムが閉鎖流路系である好ましい実施形態によれば、マイクロポンプは好ましくは「チップ搭載型(on-chip)」マイクロポンプである。
【0114】
本明細書に記載するように、本明細書において提供する新規方法は、臓器相当物、好ましくは、それぞれの臓器の(上皮)細胞又はiPSC由来(上皮)細胞を含む組織を、第1回路の細胞培養コンパートメント内で堆積させる及び/又は培養する工程を包含することができる。
【0115】
様々な実施形態において、腸相当物は、線維芽細胞、特にiPSC由来線維芽細胞を(更に)含むことができる。好ましくは、腸相当物は、線維芽細胞、特に、iPSC由来線維芽細胞を更に含むiPSC由来腸相当物である。より好ましくは、腸相当物は、線維芽細胞、特に、iPSC由来線維芽細胞に覆われた細胞外マトリックスの層から形成されたiPSC由来の相当物である。細胞外マトリックスの層は、好ましくは細胞外マトリックスのゲルを基体とする層である。一層好ましくは、腸相当物は、iPSC由来腸細胞のオルガノイドである。好ましくは、腸相当物は、基底膜様細胞外マトリックス抽出物(典型的には、組織細胞外環境様)の層から形成された、iPSC由来の相当物、好ましくは、iPSC由来腸細胞のオルガノイドであり、この層は、線維芽細胞、特にiPSC由来線維芽細胞で覆われている。様々な実施形態において、基底膜様細胞外マトリックス抽出物はゼラチン質タンパク質混合物を含む。好ましくは、基底膜様細胞外マトリックスは、Matrigel(登録商標)基底膜マトリックス(Corning)である。
様々な実施形態において、好ましくはiPSC由来腸細胞のオルガノイドである腸相当物は、上述の細胞外マトリックスに混合されている(incorporated)か又は埋め込まれている。
【0116】
様々な実施形態において、好ましくはiPSC由来腸細胞のオルガノイドである腸相当物は、初代微小血管内皮細胞又はiPSC由来内皮細胞(後者が好ましい)等の内皮細胞の(閉じた)層を、細胞培養コンパートメントの側底側に含む。様々な実施形態において、好ましくはiPSC由来腸細胞のオルガノイドである腸相当物は、iPSC由来内皮細胞の(閉じた)層を、細胞培養コンパートメントの側底側に含む。
【0117】
様々な実施形態において、腸相当物は、上に記載した線維芽細胞及び内皮細胞、特に、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞を(更に)含むことができる。したがって、様々な実施形態において、腸相当物は、線維芽細胞、特にiPSC由来線維芽細胞に覆われた細胞外マトリックスの層により形成された、iPSC由来腸相当物であり、腸相当物は、内皮細胞、好ましくは初代微小血管内皮細胞の他の層を、細胞培養コンパートメント側底側に更に含む。或いは、様々な実施形態において、腸相当物は、線維芽細胞、特にiPSC由来線維芽細胞で覆われた、細胞外マトリックスの層により形成されたiPSC由来腸相当物であり、更に腸相当物は、iPSC由来内皮細胞の他の層を、細胞培養コンパートメントの側底側に更に含む。
様々な実施形態において、腸相当物は、上述の細胞外マトリックスに混合されているか又は埋め込まれている。
更に、上に記載したように、iPSC由来腸相当物は、好ましくは、iPSC由来腸細胞のオルガノイドである。同様に、細胞外マトリックスの層は、好ましくは、細胞外マトリックスのゲルを基体とする層、より好ましくは、基底膜様細胞外マトリックス抽出物の層(典型的には、組織細胞外環境様)である。基底膜様細胞外マトリックス抽出物は、ゼラチン質タンパク質混合物を含むことができる。好ましくは、基底膜様細胞外マトリックスはMatrigel(登録商標)基底膜マトリックス(Corning)である。
【0118】
様々な実施形態において、神経相当物は、内皮細胞、特にiPSC由来内皮細胞を(更に)含むことができる。好ましくは、神経相当物は、内皮細胞、特にiPSC由来内皮細胞を更に含む、iPSC由来相当物である。より好ましくは、内皮細胞、特にiPSC由来内皮細胞は、神経相当物を含む細胞培養コンパートメントの神経相当物の側底側に存在する。或いは、神経相当物は、神経相当物の下側に印刷された(バイオプリントされた)(したがって存在する)iPSC由来内皮細胞を更に含むiPSC由来神経相当物である。好ましくは、iPSC由来神経相当物は、iPSC由来神経細胞のスフェロイド又はオルガノイドを含み、iPSC由来内皮細胞は、iPSC由来神経細胞の神経スフェロイド又はオルガノイドの下側に印刷されている(バイオプリントされている)(したがって存在する)。好ましくは、iPSC由来神経相当物は、iPSC由来神経細胞のスフェロイド又はオルガノイドを含み、これは細胞外マトリックスの層に混合されているか又は埋め込まれている。好ましくは、iPSC由来内皮細胞は、iPSC由来神経細胞の神経スフェロイド又はオルガノイドの下側(側底)の細胞外マトリックスに印刷されている(バイオプリントされている)(したがって、存在する)。上に記載したように、細胞外マトリックスは、好ましくは、細胞外ゲルマトリックス、より好ましくは、基底膜様細胞外マトリックス抽出物(典型的には、組織細胞外環境様)である。基底膜様細胞外マトリックス抽出物は、ゼラチン質タンパク質混合物を含むことができる。好ましくは、基底膜様細胞外マトリックスは、Matrigel(登録商標)基底膜マトリックス(Corning)である。
【0119】
神経スフェロイド若しくはオルガノイドの下側に印刷された(バイオプリントされた)、又は神経相当物の側底側、特に、神経相当物を含む細胞培養コンパートメントの側底側に播種された内皮細胞は、血液脳関門に類似しており、その密集性は、チップで2週間培養した後のTEERが20~78W×cm2であるものとして示された。経上皮/経内皮電気抵抗(TEER)は、内皮及び上皮細胞層の細胞培養モデルのタイトジャンクションの動態の完全性を測定するための、広く受け入れられている定量化技法である。TEERは、例えば、薬物又は化学物質の輸送を評価する前の細胞バリアの完全性の有力な指標である。TEER測定は、細胞を損傷することなくリアルタイムで実施することができ、一般に、オーム性抵抗の測定又は幅広い周波数スペクトルに亘るインピーダンス測定に基づく。市販の測定システム以外にも、特注製作の微小流体的手段(microfluidic implementation)を用いた、様々な種類の細胞に関する測定が報告されている。TEERを用いて広く特徴付けられている幾つかのバリアモデルには、血液脳関門(BBB)、胃腸(Gl)管及び肺モデルが含まれる。
本開示の様々な実施形態において、神経スフェロイド若しくはオルガノイドの下側に印刷された(バイオプリントされた)、又は神経相当物の側底側、特に神経相当物を含む細胞培養コンパートメントの側底側に播種された内皮細胞は、具体的には、チップで2週間培養した後に20~78W×cm2のTEERを示す。
【0120】
本開示の様々な実施形態において、腸相当物の細胞は、スクラーゼ-イソマルターゼ、腸オリゴペプチドトランスポーターSLC15A1/ペプチドトランスポーター1(PEPT1)及び主要な代謝酵素であるCYP3A4等の腸上皮細胞の特異的マーカーの発現により特徴付けられる。
【0121】
本開示の様々な実施形態において、腸相当物及び/又は肝臓相当物の細胞は、主要な代謝酵素であるCYP3A4を含む特異的マーカーの発現により特徴付けられる。
【0122】
本開示の様々な実施形態において、肝臓相当物の細胞は、サイトケラチン8/18を含む特異的マーカーの発現により特徴付けられる。
【0123】
本開示の様々な実施形態において、肝臓相当物は、タイトジャンクションZO-1タンパク質の発現により特徴付けられる。
【0124】
本開示の様々な実施形態において、神経相当物の細胞は、βチューブリンIIIを含む特異的マーカーの発現により特徴付けられる。
【0125】
本開示の様々な実施形態において、(初代)内皮細胞は、CD31及び/又はフォン・ヴィレブランド因子(vWF)の発現により特徴付けられる。
【0126】
本開示の様々な実施形態において、(iPSC由来)線維芽細胞は、ビメンチンの発現により特徴付けられる。
【0127】
本明細書に記載するように、本開示において使用され、記載される任意の種類の細胞は、誘導多能性幹細胞(iPSC)由来のものとすることができる。具体的には、細胞は、単一の(即ち、同一の)ドナーiPSC(これは、元々は、単一種の体細胞から得られた(即ち、再プログラム化された)ものである)に由来する(即ち、分化した)ものとすることができる。例えば、細胞は、例えば、皮膚体細胞、白血球、腎細胞、脂肪細胞等から得られた(即ち、再プログラム化された)ものである単一の(即ち、同一の)iPSCに由来する(即ち、分化した)ものとすることができる。したがって、細胞が、iPSC由来細胞として既に同定されたものではない範囲で、本開示において使用され、記載されている細胞は、様々な実施形態に従うiPSC由来細胞、好ましくは、単一種の体細胞から得られた(即ち、再プログラム化された)単一の(即ち、同一の)ドナーiPSCから分化したiPSC由来細胞とすることができる。
【0128】
本明細書に記載する、「腸」を指す場合、好ましい実施形態によれば、「小腸」を指すことを意味する。例えば、「腸相当物」又は「腸の細胞」を指す場合、好ましい実施形態によれば、それぞれ「小腸相当物」又は「小腸の細胞」を指すことを意味する。
【0129】
本明細書に記載するように、「細胞」を指す場合、「哺乳動物細胞」を指すことを包含するが、「ヒト細胞」を指すことが好ましい。例えば、「内皮細胞」を指す場合は、「哺乳動物内皮細胞」を指すことを包含するが、「ヒト内皮細胞」を指すことが好ましい。
【0130】
本明細書において更に記載するように、「組織」を指す場合、「哺乳動物組織」を指すことを包含するが、「ヒト組織」を指すことが好ましい。例えば、「肝臓組織」を指す場合、「哺乳動物肝臓組織」を指すことを包含するが、「ヒト肝臓組織」を指すことが好ましい。
【0131】
本明細書において更に記載するように、様々な実施形態において、「組織」という語は、「組織培養物」と見なすことができる。
【0132】
更に、本明細書に記載するように、「細胞の培養」は、好ましくは「細胞の流動培養(fluidic culturing)」を意味する。
【0133】
様々な実施形態において、本開示は、流動(fluidic)(又は流体)剪断応力、具体的には生理学的に意味のある流動(又は流体)剪断応力を包含する。
【実施例】
【0134】
ADME-Nチップのチップ設計
ヒトの生理機能の制約を縮小することによりチップ設計を達成した。寸法データのみならず流動特性も考慮した。配置図は、次に示す臓器相当物:腸、肝臓、腎臓(糸球体及び尿細管に分離)及び神経組織(
図1)を組み込むためのキャビティを収容した2つの回路(「血液」及び「尿」と称する)を含む。前者の3種の組織は、いわゆるADMEプロファイル(吸着、分布、代謝、排泄)を得るために使用する。後者はこのプロファイルを補足する追加の組織である。したがって、このチップは、ADME-Nチップと称される。各回路の1つの貯留コンパートメントにより、上清をサンプル採取することが可能になる(培地貯留器1及び2)。培地は微小流体網を通じて、組み込まれた2つ(各回路に1つずつ)の空気圧マイクロポンプにより灌流される。回路は2つの腎臓コンパートメントが重複しており、ポリカーボネート製の多孔質膜で分離されている。
【0135】
腸コンパートメント
腸相当物は、24ウェル自立型細胞培養インサートをそれぞれのキャビティ(細胞培養コンパートメント)に配置することにより達成した。インサートは、市販の腸モデル(Epilntestinal(登録商標)、MatTek)を収容したもの、又はiPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞も含むMatrigelに埋め込まれたiPSC由来腸細胞のオルガノイドを収容したもののいずれかとした。iPSC由来腸相当物モデル上には、初代微小血管内皮細胞又はiPSC由来内皮細胞を、24ウェル自立型細胞培養インサートの側底側に播種した。栄養液(B.BraunのNutriflex(登録商標)peri)を毎日供給するためにインサートの頂端側を使用した。頂端側は、上清を合計250pL収容するものとした。
【0136】
神経コンパートメント
血液脳関門を有する神経相当物は、iPSC由来神経スフェロイドを含む96ウェル吊下型細胞培養インサートから構成されるものとし、96ウェル吊下型細胞培養インサートの側底側に播種された、又は神経スフェロイドの下側にバイオプリントされた、iPSC由来内皮細胞で富化したものとした。インサートの頂端側は75pLの量を収容するものとした。
【0137】
肝臓コンパートメント
肝臓相当物は市販の肝臓モデル(InSpheroの3D InSight(商標)Human Liver Microtissues XL)又はiPSC由来線維芽細胞を含むiPSC由来肝実質細胞のスフェロイドのいずれかをそれぞれのキャビティに配置することにより達成した。前者は、それぞれ3000個の初代肝実質細胞を含む50個のスフェロイドを1つのチップに配置した。後者は、それぞれ50000個の細胞を含む20個のスフェロイドを1つのチップに配置した。
【0138】
腎臓(腎)コンパートメント
腎臓コンパートメントには、腎近位尿細管上皮細胞株(RPTEC)又はiPSC由来腎細胞のいずれかを播種した。
使用したiPSC由来細胞の分化プロトコルは、表1に列挙した様々な論文のプロトコルを適合させた。
【0139】
表1:iPSC由来細胞の一覧。一覧の論文から分化プロトコルを適合させた。
【0140】
「血液」回路の総容量は約1.37mL(頂端部の容量を含まない)とした。「尿」回路の総容量は約0.58mLとした。最初は、チップは、グルコース及び血清を含む培地を含むものとした。サンプルを両培地貯留器及び腸相当物の頂端側から毎日採取した。採取した分の量を、「血液」培地貯留器はグルコース無添加培地に、「尿」培地貯留器はグルコース及び血清無添加培地に交換した。腸コンパートメントにはグルコースに富むNutriflex(登録商標)peri solutionを与えた。このようにして、1.0mgのグルコースを腸相当物を介してシステムに毎日供給した。
【0141】
チップの組を7、14及び21日間培養した(
図2)。終了時に、細胞サンプルを免疫組織学的検査、qPCR及びRNAシーケンシング用に採取した。上清を、グルコース、ラクテート、LDH、アルブミン、尿素、ALT及びAST含有量に関し分析した。day0、7及び14に所与の臓器相当物の静置培養物から対照を採取した。
【0142】
実験1.1:iPSCチップ-3チップ
・iPSC肝臓相当物
・iPSC腸相当物
・印刷された血液脳関門を含むiPSC神経相当物
・RPTEC腎臓
【0143】
腸コンパートメント
腸相当物のインサートは、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞も含むMatrigelにiPSC由来腸細胞のオルガノイドを埋め込んだものを含む。iPSC由来腸相当物モデル上には、24ウェル自立型細胞培養インサートの側底側に初代微小血管内皮細胞又はiPSC由来内皮細胞を播種する。
【0144】
神経コンパートメント
血液脳関門を含む神経相当物は、iPSC由来神経スフェロイドを含む細胞培養インサートから構成されるものとし、神経スフェロイドの下側をバイオプリントされたiPSC由来内皮細胞で富化した。
【0145】
肝臓コンパートメント
肝臓相当物は、iPSC由来線維芽細胞を含むiPSC由来肝実質細胞のスフェロイドをそれぞれのキャビティに配置することにより達成する。それぞれ50000個の細胞を含む20個のスフェロイドを1つのチップ上に配置する(肝実質細胞:線維芽細胞比24:1)。
【0146】
腎臓(腎)コンパートメント
腎臓コンパートメントに腎近位尿細管上皮細胞株(RPTEC)を播種する。
【0147】
実験1.2:初代組織チップ-10チップ
・初代肝臓組織
・初代小腸
・印刷された血液脳関門を有するiPSC神経相当物
・RPTEC腎臓
【0148】
腸コンパートメント
腸相当物のインサートは市販の腸モデル(Epilntestinal(登録商標)、MatTek)を含む。
【0149】
神経コンパートメント
血液脳関門を有する神経相当物は、iPSC由来神経スフェロイド細胞培養インサートから構成されるものとし、神経スフェロイドの下側をバイオプリントされたiPSC由来内皮細胞で富化する。
【0150】
肝臓コンパートメント
肝臓相当物は市販の肝臓モデル(InSpheroの3D InSight(商標)Human Liver Microtissues XL)をそれぞれのキャビティに配置することにより実現する。それぞれ3000個の初代ヘパトサイテス(hepatcytes)を含む50個のスフェロイドを1つのチップに配置する。
【0151】
腎臓(腎)コンパートメント
腎臓コンパートメントには腎近位尿細管上皮細胞株(RPTEC)を播種する。
【0152】
実験2:iPSCチップ-21チップ
・iPSC肝臓相当物
・iPSC腸相当物
・血液脳関門を有するiPSC神経相当物
・iPSC腎相当物
【0153】
腸コンパートメント
腸相当物のインサートは、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞も含むMatrigelに埋め込まれたiPSC由来腸細胞のオルガノイドを含むものとする。iPSC由来腸相当物モデル上には、24ウェル自立型細胞培養インサートの側底側に、初代微小血管内皮細胞又はiPSC由来内皮細胞を播種する。
【0154】
神経コンパートメント
血液脳関門を有する神経相当物は、iPSC由来神経スフェロイドを含む細胞培養インサートから構成されるものとし、細胞培養インサートの側底側に播種されたiPSC由来内皮細胞で富化する。
【0155】
肝臓コンパートメント
肝臓相当物は、iPSC由来線維芽細胞を含むiPSC由来肝実質細胞のスフェロイドをそれぞれのキャビティに配置することにより達成する。それぞれ50000個の細胞を含む20個のスフェロイドを1つのチップに配置する(肝実質細胞:線維芽細胞比24:1)。
【0156】
腎臓(腎)コンパートメント
腎臓コンパートメントにはiPSC由来腎細胞を播種する。
【0157】
結果
チップは恒常性を有していた。このことは、グルコース及びLDHの濃度が一定であることにより示された(
図3)。グルコース濃度が一定であったことは、利用可能なグルコースの消費が一定であり、能動的に調節されることを示唆している。グルコース濃度は全てのコンパートメントで等しい濃度に到達した。腸相当物の頂端側からの供給のみでも「血液」及び「尿」回路の両方の必要を満たすのに十分であった。同様に、LDH活性は、実験全体を通じて比較的一定であることが示された。グルコースと比較して、LDH濃度は各コンパートメントで異なっていた。腸相当物及び腎相当物のバリア機能は、3つのコンパートメント全てのLDH濃度が異なることにより示された(即ち、血液回路->培地貯留器1;尿回路->培地貯留器2;及び腸コンパートメント)。したがって、このバリアにより、横断する物質が区別される。他の物質を保持しながら、グルコースが能動又は受動的に透過されることは、チップシステムの部分集合間で実際的な相互作用があることを示唆している。
【0158】
腎糸球体及び尿細管コンパートメントは、ポリカーボネート膜及び腎細胞の密集層を組み合わせることにより達成した(
図4)。前者は、大きな培地構成成分を濾過し、それらの拡散を遅延させる技術的障壁を実現したものである。後者は、物質を再吸収し、「血液」及び「尿」回路全体に亘る濃度勾配を構築する。この勾配は、LDHのみならずアスパラギン酸アミノ基転移酵(AST、
図5)でも確認できる。これらの両方の濃度が明確に異なることは、ADME-Nチップの腎臓膜が機能していることを実証している。ASTは、肝実質細胞及び筋細胞に見られる細胞内酵素であることから、肝臓相当物のみに由来し得る。
【0159】
全ての臓器相当物を、同一性、機能性及び生存力を決定するために免疫組織化学的試験に付した(
図6~9)。iPSC由来腸相当物は、iPSC由来線維芽細胞で覆われたMatrigelの層から形成した。管腔を囲む腸オルガノイドをゲルに組み込んだ(
図6)。iPSC由来腸細胞はNaK-ATPase及びCyp3A4を発現した。実験1.2において、初代微小血管内皮細胞の閉じた層で、更に、細胞培養インサートの側底側に他の層を形成させた。
【0160】
初代肝臓相当物は、2週間の培養期間終了後に機能性マーカーを示した(
図7)。同様に、iPSC由来肝臓相当物の場合、機能性マーカーはADME-Nチップ内で3週間培養した後に確認された(
図8)。
【0161】
iPSC由来神経相当物は、2週間の培養期間終了後、βチューブリンIIIの機能性マーカーを発現した(
図9)。ハイドロゲルに印刷された内皮細胞は、チップで2週間培養した後にvWFを発現した(実験1.2)。チップで2週間培養した後の血液バリアの密集性は、TEER値で20~78W×cm
2を示した(実験2)。
【0162】
実験3:iPSC由来肝実質細胞、内皮細胞及び線維芽細胞を含む肝臓3D相当物
肝実質細胞細胞の分化は、Szkolnickaら(Szkolnicka et al.,2014)を改変して、実施した。線維芽細胞の分化は、Zou et al.,2013)を改変して、実施した。Hardingら(Harding et al.,2017)に従い、内皮分化させた後、超低接着プレートを使用してスフェロイドを形成させた。
図13はiPSC由来肝実質細胞を分化させ、3Dスフェロイドを形成させた後の免疫蛍光像を示すものである。
図14は、選択された肝マーカー遺伝子のiPSC由来肝臓相当物(iPSC由来肝実質細胞)における転写量を示すものである。転写量をqPCRにより解析した。iPSC由来肝臓相当物を2日間培養することにより、iPSC由来肝実質細胞、線維芽細胞及び内皮細胞を含む3D肝臓スフェロイドを作製した。データをハウスキーパーTBPに対し標準化した。
図15はチップ上の単一培養液中における3D肝臓相当物がプロプラノロールを代謝してプロプラノロール-グルクロン酸抱合体、及びα-ナフトキシ乳酸にする代謝能力を示すものである。
【0163】
実験4:iPSC由来腸オルガノイド及びiPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞から構成される腸相当物
StemUse101 iPSC(iPSC由来腸オルガノイド、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞)からのiPSC由来細胞のみを用いて腸モデルを構築した。iPSC由来線維芽細胞及びオルガノイドを共培養することにより2週間後に既に高密度のオルガノイドが認められた。3週間静置培養した後、オルガノイドを融合し、サイズを大きくした。インサート縁部の下側からiPSC由来内皮細胞を視認することができた。iPSC由来内皮細胞の単層は3週間静置培養した後も依然として視認できた。
図16に結果を示す。
【0164】
実験5:iPSC由来腸オルガノイド、線維芽細胞及びエンドセリア(endothelia)細胞を含むハイドロゲルバリア
ハイドロゲルに線維芽細胞をバイオプリントし、初代内皮細胞及び腸オルガノイドを播種した。
図17に結果を示す。
【0165】
実験6:チップ内のiPSC由来血液脳関門
iPSCからニューロスフェアと呼ばれる皮膚前駆(cortical progenitor)細胞スフェロイドへの分化をDASbox(登録商標)Mini Bioreactor System(Eppendorf)にて実施した。培養プロトコルは、Rigamonti et al、2016)のものを適合させた。血液-脳内皮細胞分化は、Lippmann et al、2014)のものを適合させた。ニューロスフェアをTranswellに移し、血液-脳内皮細胞を膜の真下に播種した。
図18に結果を示す。
【0166】
実験7:ADME-N共培養実験(ADME-N=ADMEチップに神経相当物を追加したもの)
概念実証実験において、StemUse 101 iPSC株からの4種の異なるiPSC由来臓器モデルの組合せをADME-Nチップにおいて2週間に亘り培養した。したがって、ADME-Nチップは4臓器チップとも称される。ADME-Nチップは、腸の自立型24ウェルインサートモデル、肝臓相当物、腎オルガノイド及びニューロスフェアをヒトの生理機能を模倣する配置で収容するように設計した。腸バリアモデルは24ウェルインサート上に構築した。腸オルガノイドは線維芽細胞と共培養し、iPSC由来内皮細胞の単層をインサート膜の真下に播種した。肝臓モデルは、iPSC由来肝実質細胞をiPSC由来線維芽細胞と共に集合させた。腎オルガノイドの単細胞溶液(single-cell solution)を使用して、ADME-N共培養を開始する6日前に両腎臓コンパートメントの膜に播種した。神経組織はバイオリアクターシステムで分化させ、スフェロイドとして96ウェルtranswellに装入した。この臓器の組合せは、化合物のADMEプロファイルを評価する研究が可能となるように選択した(=生理学的薬物動態(PBPK)に適合させたチップ/プロファイル)。この実験の複合的な構成を
図19に示す(実験2及び
図2の対応する部分参照)。
図20に肝臓、腸、腎及び神経モデルをADME-Nチップで14日間共培養した後の免疫染色による特性評価を示す。
図21に、iPSC由来腸、肝臓、腎及び脳モデルをADME-Nチップで共培養したqPCR結果を示す。
4種の異なるiPSC由来臓器モデルは、ADME-Nチップで2週間共存培養した後も安定性を示した、即ち、表現型を維持した。驚くべきことに、小型化したヒト腸、肝臓、脳及び腎臓相当物(全て同一ドナー由来のiPSCをプレ分化させたもの)の4臓器チップは、増殖因子を欠乏させた培地で14日間培養した異なるiPSC由来臓器モデルから更に分化したことが見出された。この更なる分化は、臓器相当物間のクロストークに起因する。更に、各種組織に成熟の経時的な進行が認められた。重要なことは、異なるiPSC由来臓器モデルがADME-N(=ADMEチップに神経相当物を追加したもの)における共存培養において安定である、即ち、それらの表現型を維持し、標的の組織に対する明確且つ一貫したマーカー遺伝子発現を示したことにある(実験7及び
図21)。
腸モデル(
図21a):NaKATPase(ナトリウム-カリウムアデノシントリホスファターゼ)(小腸内の栄養素輸送);CDX2-Caudal Type Homeobox 2(腸上皮の転写調節に重要)
肝臓モデル(
図21b):重要な上方制御される遺伝子は、Alb(アルブミン)(肝臓のみで産生される);MPR2(多剤耐性関連タンパク質2、MRP2)(肝実質細胞の細管部分で発現され、胆汁中移行時に機能する)及びAFP(アルファ・フェトプロテイン-胎児肝臓タンパク質(肝実質細胞の成熟)である。
脳モデル(
図21d):重要な上方制御される遺伝子は、TBR1-T-box、brain1(脳の発達に重要な転写因子)及びMAPR2(微小管結合タンパク質2)(神経形成に必須)である。
本開示は、生理学的薬物動態(PBPK)に対応する生体模倣システム(MPS)において、単一ドナーからの4種の異なる自家iPSC由来臓器モデルを、余分な増殖因子を添加することなく、上首尾に全身的に長時間共存培養することを確立するものである。
【0167】
参考文献リスト(特に表1に引用):
1.Szkolnicka,D.,Farnworth,S.L.,Lucendo-villarin,B.&Hay,D.C.Deriving Functional Hepatocytes from Pluripotent Stem Cells.1-12(2014).doi:10.1002/9780470151808.sc01g05s30
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5.Rigamonti,A.et al.Stem Cell Reports.Stem Cell Reports 6,993-1008(2016)
6.Lippmann Ethan S.et al.Human Blood-Brain Barrier Endothelial Cells Derived from Pluripotent Stem Cells.Nat.Biotechnol.30,783-791(2012)
7.Harding,A.et al.Highly Efficient Differentiation of Endothelial Cells from Pluripotent Stem Cells Requires the MARK and the PI3K Pathways.Stem Cells 35,909-919(2017)