(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形体及び樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/26 20060101AFI20230405BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20230405BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20230405BHJP
C08F 8/44 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
C08L23/26
C08L23/06
C08L77/00
C08F8/44
(21)【出願番号】P 2019539502
(86)(22)【出願日】2018-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2018031618
(87)【国際公開番号】W WO2019044784
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2017163770
(32)【優先日】2017-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 重則
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 雅巳
(72)【発明者】
【氏名】高岡 博樹
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-287223(JP,A)
【文献】特開2002-146080(JP,A)
【文献】特開2004-018660(JP,A)
【文献】特開2008-285564(JP,A)
【文献】特開2016-176032(JP,A)
【文献】特開昭60-248765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00 - 23/36
C08L 77/00 - 77/12
C08F 8/00 - 8/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)25質量%~64質量%のアイオノマー樹脂と、
オレフィン系重合体(B)36質量%~75質量%と、を含有し、
金属イオンで中和された前記アイオノマー樹脂の中和度は52モル%以上であり(但し、樹脂組成物中の中和前の樹脂成分の合計を100質量%とする)、
前記オレフィン系重合体(B)は、エチレンの単独重合体であり、
ポリアミド(C)を更に含有し、前記ポリアミド(C)の含有率は、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)、前記オレフィン系重合体(B)及び前記ポリアミド(C)の合計含有率に対して0.1質量%~20質量%である、
樹脂組成物(但し、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有率、前記オレフィン系重合体(B)の含有率及び前記ポリアミド(C)の含有率の合計を100質量%とする)。
【請求項2】
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のメルトフローレートは、10g/10分~100g/10分である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)における不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有率は、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の全構成単位に対して、6質量%~20質量%である、請求項1
又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記不飽和カルボン酸は、(メタ)アクリル酸である請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記中和度は、75モル%以上である請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記金属イオンは、亜鉛イオンである請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
少なくとも、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)と前記オレフィン系重合体(B)と金属イオン源とを混合し、前記混合下で前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を前記金属イオンで中和させて得られた、請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含有する成形体。
【請求項9】
少なくとも、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と金属イオン源とを混合し、前記混合下で前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を前記金属イオンで中和して前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂を生成させることにより請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を得る工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物、成形体及び樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー樹脂を含む樹脂組成物は、金属・ガラス接着性、透明性、機械的強度、柔軟性、伸び、復元性などに優れていることから産業材、玩具、文具、雑貨等のフィルム、シート用途をはじめ、種々の用途に使用されている。
【0003】
例えば、特開昭60-127149号公報には、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体のカルボキシル基が金属イオンで中和されてなるアイオノマー樹脂は、そのイオン架橋に起因する特徴から、他のエチレン系コポリマーと比較して耐磨耗性や透明性に優れる性能が開示され、その性能を生かし、表面傷付き性を改良する用途に使用することが知られている。
【0004】
また、例えば、特開2011-42809号公報には、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー樹脂は用途や要求物性に応じて他の成分と組み合わせて用いられることが多いが、例えば非帯電性に優れたアイオノマー樹脂組成物を工業的に有利に製造することができる製造方法として、スクリュー押出機中、不飽和カルボン酸含量が15重量%以下で融点が90℃以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A-1)2~55重量%と不飽和カルボン酸含量が15重量%より多く融点が90℃未満のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A-2)98~45重量%からなり、両者の平均不飽和カルボン酸含量が13~20重量%、平均メルトフローレート(190℃、2160g荷重)が200~800g/10分である混合エチレン・不飽和カルボン酸共重合体成分70~98重量部と疎水性重合体(B)30~2重量部とを、溶融混練させながらイオン源となるカリウム化合物と反応させ、上記混合エチレン・不飽和カルボン酸共重合体成分のカルボキシル基の80%以上を中和することを特徴とするアイオノマー樹脂組成物の製造方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開昭60-127149号公報に記載のアイオノマー樹脂を含む積層体は、耐傷性には優れるものの耐熱性等の更なる改良が求められている。
また、特開2011-42809号公報に記載の製造方法より得られたアイオノマー組成物は、非帯電性に優れる一方、耐傷性及び耐熱性の検討がなされていないため、十分な耐傷性及び耐熱性を満たさない場合がある。
【0006】
本開示は、上記に鑑みなされたものであり、耐熱性及び耐傷性に優れる樹脂組成物、成形体並びに樹脂組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態には、以下の態様が含まれる。
<1> エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)25質量%~64質量%のアイオノマー樹脂と、
オレフィン系重合体(B)36質量%~75質量%と、を含有し、
金属イオンで中和された前記アイオノマー樹脂の中和度は52%以上である、樹脂組成物(但し、樹脂組成物中の中和前の樹脂成分の合計を100質量%とする)。
<2> 前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のメルトフローレートは、10g/10分~100g/10分である、<1>に記載の樹脂組成物。
<3> ポリアミド(C)を更に含有し、前記ポリアミド(C)の含有率は、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)、前記オレフィン系重合体(B)及び前記ポリアミド(C)の合計含有率に対して0.1質量%~25質量%である、<1>又は<2>に記載の樹脂組成物(但し、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有率、前記オレフィン系重合体(B)の含有率及び前記ポリアミド(C)の含有率の合計を100質量%とする)。
<4> 前記オレフィン系重合体(B)は、エチレンの単独重合体である<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5> 前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)における不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有率は、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の全構成単位に対して、6質量%~20質量%である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6> 前記不飽和カルボン酸は、(メタ)アクリル酸である<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7> 前記中和度は、75%以上である<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8> 前記金属イオンは、亜鉛イオンである<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9> 少なくとも、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)と前記オレフィン系重合体(B)と前記金属イオン源とを混合し、前記混合下で前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を前記金属イオンで中和させて得られた、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10> <1>~<9>のいずれか1つに記載の樹脂組成物を含有する成形体。
<11> 少なくとも、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と金属イオン源とを混合し、前記混合下で前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を前記金属イオンで中和して前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂を生成させることにより<1>~<9>のいずれか1つに記載の樹脂組成物を得る工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、耐熱性及び耐傷性に優れる樹脂組成物、成形体並びに樹脂組成物の製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の樹脂組成物及び成形体について詳細に説明する。
なお、本開示において、数値範囲における「~」は、「~」の前後の数値を含むことを意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する該複数の物質の構成単位を意味する。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0010】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の少なくとも一方を意味する。
【0011】
本明細書において、アイオノマー樹脂とは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)が有する酸性基の少なくとも一部が、金属イオンで中和された化合物を意味する。
【0012】
《樹脂組成物》
本開示の樹脂組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)25質量%~64質量%のアイオノマー樹脂と、オレフィン系重合体(B)36質量%~75質量%と、を含有し、金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂の中和度が52%以上である。但し、樹脂組成物中の中和前の樹脂成分の合計を100質量%とする。
すなわち、アイオノマー樹脂のベース樹脂であるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)、オレフィン系重合体(B)、及び必要に応じてその他の樹脂成分の合計を100質量%とする。
また中和後の樹脂成分の合計を100質量%とした場合には、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂及びオレフィン系重合体(B)の好ましい含有量は、それぞれ、アイオノマー樹脂が30質量%~64質量%、オレフィン系重合体(B)が36質量%~70質量%である。
樹脂組成物が上記構成を有することで、優れた耐熱性及び耐傷性を発揮する。この理由は、明らかではないが、以下のように推測される。
【0013】
耐熱性を付与するために、従来のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー樹脂にオレフィン系重合体を加えた場合、アイオノマーを含む樹脂組成物では十分な耐熱性を発揮できない場合があり、また、耐傷性も低下する場合があった。
これに対して、本開示の樹脂組成物は、所定量のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂と、所定量のオレフィン系重合体(B)とを含有し、かつ、金属イオンで中和されたアイオノマーの中和度が52%以上であるので、中和によって分子鎖中に得られた架橋点が微分散することで、優れた耐熱性及び耐傷性を発揮することができる。
すなわち、本開示の樹脂組成物は、耐傷性と耐熱性とを両立することができる。加えて、本開示の樹脂組成物は、耐折曲げ白化性及びフィルム成形性にも優れる傾向がある。
【0014】
<エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂>
本開示の樹脂組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂の少なくとも1種を含む。
アイオノマー樹脂に含まれるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)は、少なくとも、エチレンと、不飽和カルボン酸と、を共重合させて得られる共重合体であり、エチレンに由来する構成単位と、不飽和カルボン酸に由来する構成単位と、を有している。
【0015】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
工業的に入手可能な観点から、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)としては、ランダム共重合体であることが好ましい。
【0016】
不飽和カルボン酸に由来する構成単位としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の炭素数3~8の不飽和カルボン酸が挙げられる。
これらの中でも、不飽和カルボン酸に由来する構成単位としては、(メタ)アクリル酸であることが好ましく、メタクリル酸であることがより好ましい。
【0017】
エチレンに由来する構成単位の含有率としては、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の全構成単位に対して、40質量%~99質量%であることが好ましく、60質量%~99質量%であることがより好ましく、70質量%~99質量%であることが更に好ましい。
【0018】
不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有率としては、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の全構成単位に対し、6質量%~20質量%であることが好ましく、6質量%~18質量%であることがより好ましく、6質量%~15質量%であることが更に好ましい。
不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有率が6質量%以上であると、耐傷性により優れる傾向がある。また、不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量が20質量%以下であると、工業上入手しやすく、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の製造が容易となりやすい。
【0019】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の好ましい具体例としては、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体等が挙げられる。
【0020】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンに由来する構成単位と、不飽和カルボン酸に由来する構成単位に加えて、エチレン及び不飽和カルボン酸以外のモノマーに由来する構成単位(以下、「他の構成単位」ともいう。)を含んでいてもよい。
他の構成単位としては、例えば、不飽和カルボン酸エステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等)、不飽和炭化水素(例えば、プロピレン、ブテン、1,3-ブタジエン、ペンテン、1,3-ペンタジエン、1-ヘキセン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ビニル硫酸、ビニル硝酸等の酸化物、ハロゲン化合物(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等)、ビニル基含有1,2級アミン化合物、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0021】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)が他の構成単位を含む場合、他の構成単位としては、不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位及び不飽和炭化水素に由来する構成単位が好適に挙げられ、中でも、不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位であることが好ましい。
【0022】
不飽和カルボン酸エステルとしては、エチレン及び不飽和カルボン酸と共重合可能であれば特に制限はなく、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステルが挙げられる。
不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル等のアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル等のメタクリル酸アルキルエステル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸アルキルエステル等のアルキルエステルの炭素数が1~12である不飽和カルボン酸アルキルエステルが挙げられる。
【0023】
これらの中でも、不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソオクチル等のアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステルが好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸の低級アルキルエステル(炭素数2~5のアルキルエステル)がより好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸の炭素数4のアルキルエステルが更に好ましく、アクリル酸の炭素数4のアルキルエステル(最も好ましくはイソブチルエステル)が特に好ましい。
【0024】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A)が不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位を含む場合、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の好ましい具体例としては、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体(例えば、エチレン・(メタ)アクリル酸・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・アクリル酸n-ブチル共重合体等)が挙げられる。
【0025】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A)が不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位を含む場合、不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位の含有率としては、柔軟性確保の観点から、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A)の全構成単位に対して3質量%~25質量%が好ましく、5質量%~20質量%がより好ましい。不飽和カルボン酸エステルに由来の構成単位の含有量が、3質量%以上であると、柔軟性により優れる傾向があり、25質量%以下であると、ブロッキングの防止により優れる傾向がある。
【0026】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)としては、10g/10分~100g/10分であることが好ましく、10g/10分~90g/10分であることがより好ましく、10g/10分~80g/10分であることが更に好ましい。
メルトフローレートが10g/10分~100g/10分であると、より優れたフィルム成形性を付与することが可能となる。
なお、MFRは、JIS K7210(1999年)に準拠した方法により190℃、荷重2160gにて測定することができる。
【0027】
なお、樹脂組成物がエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を2種以上含む場合、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のMFRは、樹脂組成物に含まれるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体全体のMFR値が、上記範囲内であればよい。
【0028】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)としては、上市されている市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、三井・デュポンポリケミカル株式会社製のニュクレル(商品名)シリーズ等が挙げられる。
【0029】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有率は、25質量%~64質量%である。但し、樹脂組成物中の中和前の樹脂成分の合計は100質量%とする。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有率が、25質量%~64質量%であると、樹脂組成物は優れた耐傷性を発揮することができる。
上記観点から、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有率としては、35質量%~60質量%であることが好ましく、35質量%~55質量%であることがより好ましい。
【0030】
不飽和カルボン酸に由来する構成単位が含む酸基の中和に用いられる金属イオンとしては、特に制限はなく、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属イオン、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属イオン、亜鉛等の遷移金属イオン、アルミニウム等の各種金属イオンなどが挙げられる。
工業化製品を容易に入手可能な点から、金属イオンとしては、亜鉛イオン、マグネシウムイオン及びナトリウムイオンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、亜鉛イオン及びナトリウムイオンからなる群より選択される少なくとも一方であることがより好ましく、亜鉛イオンであることが更に好ましい。
金属イオンは、1種を単独で用いてもよく、又は、2種以上を併用してもよい。
【0031】
金属イオンは、金属化合物を金属イオン源として得たものであってもよい。
このような金属化合物としては、前記アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属及び各種金属の酸化物、水酸化物、重炭酸塩、酢酸塩、ギ酸塩等が挙げられる。
工業化製品を容易に入手可能な点から、金属化合物としては、酸化亜鉛又は炭酸ナトリウムであることが好ましい。
【0032】
金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂の中和度は、52%以上である。
中和度が52%以上であると、本開示の樹脂組成物は優れた耐傷性を発揮することができる。
中和度としては、55%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましい。中和度が55%以上であると、耐傷性を更に向上させることが可能となる。
なお、本明細書において「中和度」とは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)が有する酸基、特にカルボキシ基のモル数に対する、金属イオンの配合比率(モル%)を示す。
【0033】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)中の不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有比率をA質量%、アイオノマー樹脂の中和度をB%、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有比率をC質量%としたときに、不飽和カルボン酸に由来の構成単位の含有比率A質量%と、中和度B%と、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有比率C質量%と、の積(以下、最終配合中和率ともいう)A×B×C×10-4は、2.1~9.0の範囲であることが好ましい。
但し、樹脂成分の合計を100質量%とする。
A、B及びCの積が、上記範囲であると、樹脂組成物の耐傷性がより向上する傾向がある。
【0034】
本開示の樹脂組成物は、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)と前記オレフィン系重合体(B)と金属イオン源との混合物の、前記金属イオンによる前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の中和物であることが好ましい。
すなわち、本開示の樹脂組成物は、少なくとも、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)と前記オレフィン系重合体(B)と金属イオン源とを混合し、前記混合下で前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を前記金属イオンで中和させて得られたものであることが好ましい。
少なくとも、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と金属イオン源とを混合し、混合下でエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を金属イオンで中和することで、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)樹脂とオレフィン系重合体(B)とを十分に混合した状態で金属イオンによって中和されるので、アイオノマー樹脂とオレフィン系重合体(B)とが十分に混練された状態になり、耐傷性及び耐熱性等に優れた樹脂組成物をえることができると考えられる。
これに対して、例えば、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を金属イオンで中和させて得られたエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー樹脂と、オレフィン系重合体(B)と、を混合して調製した樹脂組成物では、前記方法に比べてアイオノマー樹脂とオレフィン樹脂(B)が十分に混合されない場合があり十分な耐熱性が得られない場合がある。
【0035】
本開示の樹脂組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と金属イオン源とが全て存在する系内で中和を進行させることによって、アイオノマー樹脂とオレフィン系重合体(B)とを単に混合した樹脂組成物とは、異なる微細構造(すなわち、モルフォロジー)が得られるものである。
本開示の樹脂組成物のモルフォロジーは、その構造又は特性について、例えば、走査型電子顕微鏡などを用いて特定することは不可能である。すなわち、本開示の樹脂組成物に係るアイオノマー樹脂組成物は、プロセス(工程)で特定せざる得ない不可能・非実際的事情がある。
【0036】
<オレフィン系重合体(B)>
本開示の樹脂組成物は、オレフィン系重合体(B)を含む。樹脂組成物が、オレフィン系重合体(B)を含むことで、優れた耐熱性等を発揮することができる。
なお、本明細書において「オレフィン系重合体(B)」とは、1種のオレフィンの単独重合体又は2種以上のオレフィンの共重合体を指す。
【0037】
オレフィン系重合体(B)としては、エチレンの単独重合体、プロピレンの単独重合体、ブテンの単独重合体、エチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの共重合体等が挙げられる。
耐熱性の観点から、オレフィン系重合体(B)としては、エチレンの単独重合体であることが好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)又は直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)であることがより好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)であることが更に好ましい。
【0038】
オレフィン系重合体(B)は、市販品を用いてもよい。オレフィン系重合体(B)の市販品としては、株式会社プライムポリマー製のポリプロピレン系樹脂「プライムポリプロ」、「ポリファイン」、「プライムTPO」の各シリーズ、株式会社プライムポリマー製の各種ポリエチレン樹脂「ハイゼックス」、「ネオゼックス」、「ウルトゼックス」、「モアテック」、「エボリュー」の各シリーズ及び東ソー株式会社製の低密度ポリエチレン「ペトロセン」シリーズ等が挙げられる。
【0039】
オレフィン系重合体(B)のメルトフローレート(MFR)としては、3.0g/10分~30.0g/10分の範囲が好ましく、5.0g/10分~25.0g/10分がより好ましい。メルトフローレートが前記範囲内であると、よりフィルム成形性が優れる傾向がある。
なお、MFRは、JIS K7210(1999年)に準拠した方法により、ポリエチレン樹脂は190℃、荷重2160g、ポリプロピレン系樹脂は230℃、荷重2160gにて測定することができる。
【0040】
オレフィン系重合体(B)の含有率は、36質量%~75質量%である。但し、樹脂組成物中の中和前の樹脂成分の合計を100質量%とする。
中和後の樹脂成分の合計を100質量%とした場合、オレフィン系重合体(B)の含有率としては、36質量%~70質量%が好ましい。
オレフィン系重合体(B)の含有率が、36質量%~75質量%であると、樹脂組成物は優れた耐熱性を発揮することができる。
上記観点から、オレフィン系重合体(B)の含有率としては、36質量%~70質量%であることが好ましく、36質量%~65質量%であることがより好ましい。
【0041】
<ポリアミド(C)>
本開示の樹脂組成物は、ポリアミド(C)を含んでいてもよい。樹脂組成物がポリアミド(C)を含む場合、より優れた耐傷性等を樹脂組成物に付与することが可能となる。
【0042】
ポリアミド(C)としては、特に制限はなく、例えば、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-シクロヘキシルジカルボン酸等のジカルボン酸と、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,4-シクロヘキシルジアミン、m-キシレンジアミン等のジアミンとの重縮合体、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムのような環状ラクタム開環重合体、6-アミノカプロン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重縮合体、及び上記環状ラクタムとジカルボン酸とジアミンとの共重合体などが挙げられる。
ポリアミド(C)は、1種を単独で用いてもよく、又は、2種以上を併用してもよい。
【0043】
ポリアミド(C)は、市販品を用いてもよい。ポリアミド(C)の市販品としては、例えば、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン11、ナイロン12、共重合体ナイロン(例えば、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/12、ナイロン6/66/610等)、ナイロンMXD6、ナイロン46などが挙げられる。
これらの中でも、耐傷性の向上及び安価に入手しやすい点から、ポリアミド(C)としては、ナイロン6及びナイロン6/12からなる群より選択される少なくとも一方であることが好ましい。
【0044】
ポリアミド(C)の含有率は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)、オレフィン系重合体(B)及びポリアミド(C)の合計含有率に対して0.1質量%~25質量%であることが好ましい。但し、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)の含有率、オレフィン系重合体(B)の含有率及びポリアミド(C)の含有率の合計を100質量%とする。
ポリアミド(C)の含有率は、耐傷性の観点から、3質量%~25質量%がより好ましく、7質量%~25質量%であることが更に好ましい。
中和後の樹脂成分の合計を100質量%とした場合、ポリアミド(C)の含有率は0.1質量%~25質量%が好ましい。
【0045】
<その他の添加剤>
本開示の樹脂組成物は、本開示の効果を損なわない範囲で、各種添加剤を配合してもよい。このような添加剤として、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、発泡剤、発泡助剤、無機充填剤、繊維強化材などを挙げられる。
添加剤は、樹脂組成物調製時又は調製後に配合することができ、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)、オレフィン系重合体(B)及びポリアミド(C)に予め配合しておいてもよい。
【0046】
《樹脂組成物の製造方法》
本開示の樹脂組成物の製造方法は、少なくとも、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と金属イオン源とを混合できれば、特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。
例えば、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂及びオレフィン系重合体(B)並びに、必要に応じて含むポリアミド(C)等を含有する混合物をニーダー等で混練混合する方法、少なくともエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と金属イオン源とを混合し、前記混合下で前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を金属イオンで中和してエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂を生成させることにより樹脂組成物を得る方法が挙げられる。
耐熱性及び耐傷性の観点から、少なくともエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と金属イオン源とを混合し、混合下でエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)を金属イオンで中和してエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂を生成させることにより、本開示の樹脂組成物を得る工程を含む、樹脂組成物の製造方法であることが好ましい。
その理由は明らかではないが、少なくとも、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と金属イオン源とを十分に混合したのち(又は混合しながら)金属イオンで中和されることで、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂とオレフィン系重合体(B)等とが十分に混練されるので、耐傷性及び耐熱性等に優れた樹脂組成物が得られると考えられる。
【0047】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と金属イオン源とを混合するときに用いられる、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)、オレフィン系重合体(B)及び金属イオン源は、既述のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)、オレフィン系重合体(B)及び金属イオン源と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0048】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)とオレフィン系重合体(B)と金属イオン源とを混合する方法は、特に制限はなく、公知の混合装置を用いて行うことができる。
混合装置としては、例えば、混練・押出成形評価試験装置、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練装置が挙げられる。
押出機中で、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)及びオレフィン系重合体(B)を溶融混練しながら、金属イオン源等を添加して、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂を生成させて、樹脂組成物を得ることがより好ましい。
【0049】
溶融混練の温度は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)及びオレフィン系重合体(B)のそれぞれの融点以上の温度、一般的には、150℃以上であることが好ましく、より好ましくは160℃~280℃の範囲で、好ましくは60秒以上の滞留時間を維持して融解混錬を行うのが好ましい。
【0050】
スクリュー押出機は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)及びオレフィン系重合体(B)を十分に混練することが可能な能力を有し、かつ、中和(イオン化反応)によって生じる副生物を除去するためのベント機構を有するものであることが好ましい。
【0051】
<積層体>
本開示の積層体は、本開示の樹脂組成物を含有する層を、少なくとも含有することが好ましい。積層体が本開示の樹脂組成物より形成された層を有すると、耐熱性及び耐傷性に優れる傾向がある。積層体において、特に、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂を積層させることによって、より優れた耐熱性及び耐傷性が得られる傾向にある。
耐熱性及び耐傷性の観点から、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー樹脂より形成された層の厚み(b)に対する本開示の樹脂組成物より形成された層の厚み(a)の比(a/b)は、0.05以上1.0未満であることが好ましい。
積層体は、樹脂組成物を含有する層に加えて、組成、形態の異なる複数の層を含有した積層体であってもよい。
【0052】
<成形体>
本開示の成形体は、本開示の樹脂組成物を含有してもよい。本開示の成形体は、上記樹脂組成物を含有するので、耐熱性及び耐傷性に優れる。
成形体は、押出成形、射出成形、圧縮成形、中空成形等の各種成形方法により、各種形状の成形体とすることが可能である。
例えば、インフレーションフィルム成形機及びキャストフィルム・シート成形機を用いて成形されるシート、フィルム等の成形体は、耐熱融着性及び耐ブロッキング性に優れ、高温環境下に曝された際の収縮性が小さい特徴を有する。
このようなシート、フィルム等の成形体は、単層であってもよい。
【0053】
また、成形体は、各種基材との接着性を向上させるために、共押出成形機により接着性樹脂との共押出積層体として形成されたものであってもよい。
本開示の樹脂組成物の表面の接着力を向上させるために、例えば、プラズマ処理、フレーム処理、コロナ放電処理、火炎処理、アンダーコート処理、紫外線照射処理などの公知の表面活性化処理を施してもよい。
【0054】
本開示の樹脂組成物と積層可能な接着性樹脂としては、例えば、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステルの共重合体及びそれらのアイオノマー、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、エチレン・酢酸ビニルエステルの共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素の共重合体、及びこれらの不飽和カルボン酸グラフト物、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンなどのポリエチレン樹脂から選ばれる、少なくとも1種を含むブレンド物が挙げられる。
【0055】
また、本開示の樹脂組成物の他の押出成形例として、押出コーティング成形機を用い、他の基材の表面に本開示の樹脂組成物を熱接着させることで重層体を形成する方法が挙げられる。このとき、基材と成形体とが重層された多層材料が得られる。
上記基材としては、印刷紙等の紙、各種金属箔、鋼板等の各種金属板、ポリオレフィンフィルム・シート、織布、不織布などが挙げられる。基材は、単層又は多層のいずれの構造を有するものでもよい。
【0056】
本開示の樹脂組成物を押出コーティング成形機により他の基材の表面に積層する場合、単層でもよく、また各種基材との接着性を向上させるために、共押出コーティング成形機により接着性樹脂層を介して形成されてもよい。
このような接着性樹脂としては、例えば、前述の各種エチレン共重合体、あるいはこれらの不飽和カルボン酸グラフト物から選ばれる、単体若しくは任意の複数からなるブレンド物が挙げられる。
【0057】
本開示の成形体は、耐熱性及び耐傷性に優れているため、例えば、産業材、食品包材、電子部品、電子部品包材、土木材料、ゴルフボール材料、雑貨等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下、本開示を実施例により更に具体的に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0059】
(実施例1)
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体1(エチレン・メタクリル酸共重合体)に、酸化亜鉛を配合して、イオン化マスターバッチを作製した。
65mmφのベント付きスクリュー押出機に、表1に示す樹脂割合(質量%)になるように(すなわち、マスターバッチ中の樹脂は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)に含めて割合を計算した)、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)と、オレフィン系重合体(B)と、上記で作製したイオン化マスターバッチを一括で供給し、樹脂温度240℃、押出量12kg/時間の条件にて押出した。ベント部では発生するガス及び水分を真空ポンプにて除去した。押出したストランドを水冷した後、カットして樹脂組成物のペレットを得た。
【0060】
-プレスシートの作製-
上記で得られた樹脂組成物を200℃に設定したプレス成形機にてプレス成形し、150mm×150mm、厚み2mmのプレスシートを作製した。
【0061】
-キャストフィルムの作製-
上記で得られた樹脂組成物を、キャストフィルム成形機(40mmφ)を用いて成形温度250℃の条件で押し出し、ニップロールに通して(ニップ成形)、厚み100μmのフィルムを成形した。
【0062】
[評価]
-耐傷性(学振式摩耗試験)-
下記条件にて、プレスシートの表面に綿帆布を取り付け、荷重をかけた状態で綿帆布を擦った。擦った後のプレスシート表面に傷が付かずに残存した表面の面積を目視で測定し、下記式より、傷が付かずに残存した表面の面積の割合(残存率(%))を算出し、下記の評価基準に従って耐傷性を評価した。
評価基準が「B」以上であれば、耐傷性に優れると判断した。評価結果は、表1に示す。
【0063】
-試験条件-
・綿帆布:10号
・荷重:450g
・往復回数:100往復
【0064】
残存率(%)=(傷が付かずに残存した表面の面積)/(擦った面積)×100
なお、残存率は、その値が大きいほど耐傷性に優れたプレスシートであることを示す。
【0065】
<評価基準>
AA:残存率が95%以上である。
A:残存率が90%以上95%未満である。
B:残存率が70%以上90%未満である。
C:残存率が70%未満である。
【0066】
-フィルム成形性-
上記で得られた樹脂組成物を、キャストフィルム成形機(40mmφ)を用いて成形温度250℃の条件でニップ成形法により厚み100μmのキャストフィルムの成形の可否について、以下の通りに評価した。評価結果を表1に示す。
【0067】
<評価基準>
A:厚み100μmのフィルムが成形可能である。
B:厚み100μmのフィルムが成形できない、又は、樹脂組成物が得られない。
【0068】
-耐熱性-
上記で作製したキャストフィルムを、長さ200mm×幅200mmに裁断し、評価用フィルムとした。ステンレス製の容器に沸騰水500mLを入れ、評価用フィルム上に置き、30分間放置した。放置後、評価用フィルムの外観の変化を目視で観察し、下記の評価基準に従って耐熱性を評価した。
評価基準が「B」以上であれば、耐熱性に優れると判断した。評価結果は、表1に示す。
【0069】
<評価基準>
A:変化が見られない。
B:フィルム外観に変化が見られるが、容器への融着はない。
C:容器へ融着する。
【0070】
-耐折曲げ白化性-
上記で作製したプレスシートを-15℃環境下で2時間保管した後、プレスシートを180度折曲げて、180度折曲げた時のプレスシートの白化有無を目視観察し、以下の通りに評価した。評価結果は、表1に示す。
【0071】
<評価基準>
A:白化が見られない。
B:白化が見られる。
【0072】
(実施例2~実施例12及び比較例1~比較例10)
実施例1において、樹脂組成物の組成を下記表1に示すように変更した以外は、同様にして実施例2~実施例12及び比較例1~比較例10の樹脂組成物のプレスシート及びキャストフィルムを作製し、実施例1と同様に各種評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0073】
【0074】
表1における略号は以下の通りである。なお、表1中の「-」は、該当の成分を含まないことを示す。ランダムPPのMFRの値は、230℃、2160g荷重にて測定したときの値を示す。
【0075】
・MAA;メタクリル酸
・オレフィン系重合体1;高密度ポリエチレン(HDPE)(商品名:ハイゼックス(登録商標)1300J、株式会社プライムポリマー製)
・オレフィン系重合体2;高密度ポリエチレン(HDPE)(商品名:ハイゼックス(登録商標)3600F、株式会社プライムポリマー製)
・エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体1;エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸に由来の構成単位の含有比率:8質量%、MFR(190℃、2160g荷重):23g/10分)
・エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体2;エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸に由来の構成単位の含有比率:10質量%、MFR(190℃、2160g荷重):35g/10分)
・エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体3;エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸に由来の構成単位の含有比率:11質量%、MFR(190℃、2160g荷重):100g/10分)
・エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体4;エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸に由来の構成単位の含有比率:15質量%、MFR(190℃、2160g荷重):60g/10分)
・ポリアミド1;6ナイロン(商品名;UBEナイロン6、宇部興産株式会社製)
【0076】
・アイオノマー樹脂1;エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー樹脂(メタクリル酸に由来の構成単位の含有比率:15質量%、金属イオン:亜鉛イオン、中和度:59%、MFR(190℃、2160g荷重):1g/10分)
・アイオノマー樹脂2;エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(メタクリル酸に由来の構成単位の含有比率:8質量%、金属イオン:亜鉛イオン、中和度:50%、MFR(190℃、2160g荷重):1.1g/10分)
・ランダムPP;ランダムポリプロピレン(商品名:F219DA、株式会社プライムポリマー製、中和度:0%、MFR(230℃、2160g荷重):8g/10分)
【0077】
(実施例13~実施例17並びに比較例11及び比較例12)
表2に示す組成の第1層用の樹脂組成物(実施例1と同様に調製)と、第2層用のアイオノマー樹脂1と、2種2層キャスト成形機(40mmφ)を用いて成形温度250℃の条件で共押し出しし、ニップロールに通して(ニップ成形)、総厚み100μmの2層フィルムを製膜した。
得られた2層フィルムを用いて、実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0078】
(比較例13)
実施例1において樹脂組成物の組成を、表2に示す組成の第2層用の樹脂組成物に変更した以外は、同様にして樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物をキャストフィルム成形機(40mmφ)を用いて成形温度250℃の条件で押し出し、ニップロールに通して(ニップ成形)、厚み100μmのフィルムを成形し、このフィルムを用いて実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0079】
【0080】
表2中の「-」は、該当の成分を含まないことを示す。
【0081】
表1及び表2に示すように、実施例1~17の樹脂組成物より形成されたプレスシート、キャストフィルム及び2層フィルムは、耐熱性及び耐傷性に優れ、更に、耐折曲げ白化性及びフィルム成形性にも優れていた。
【0082】
一方、中和度が52%未満である比較例1では、耐傷性に劣っていた。エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂を含まない比較例6、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂及びオレフィン系重合体(B)を含まず、ポリプロピレン樹脂を含む比較例11では、耐傷性に劣っていた。また、比較例6及び比較例9は、耐傷性に加えて、耐折曲げ白化性にも劣っていた。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)64質量%を超えるアイオノマー樹脂と、オレフィン系重合体(B)36質量%未満とを含む比較例2及びオレフィン系重合体(B)36質量%未満を含む比較例5は、樹脂組成物を調製することができず、フィルム成形性にも劣っていた。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)64質量%を超えるアイオノマー樹脂と、オレフィン系重合体(B)36質量%未満とを含む比較例3では、耐熱性に劣っていた。一方、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)25質量%未満のアイオノマー樹脂と、75質量%を超えるオレフィン系重合体(B)とを含む比較例4では、耐傷性に劣っていた。
さらに、オレフィン系重合体(B)を含まず、アイオノマー樹脂を含む比較例7及び比較例8並びに比較例13は、耐熱性に劣っていた。
また、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A)のアイオノマー樹脂及びオレフィン系重合体(B)及び金属イオン源を混合せずに、既に金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂と、オレフィン系重合体(B)と、を含む比較例10は、耐傷性に劣っていた。オレフィン系重合体(B)を含む第1層と、アイオノマー樹脂を含む第2層とを有する比較例12は、耐傷性に劣っていた。
【0083】
以上より、本開示の樹脂組成物及びそれを用いた積層体は、耐熱性及び耐傷性に優れ、加えて、耐折曲げ白化性及びフィルム成形性にも優れているため、産業材、雑貨、食品包材、電子部品、電子部品包材、土木材料、ゴルフボール材料等のフィルム、シート用途をはじめ、種々の用途に好適に用いることができる。
【0084】
2017年8月28日に出願された日本国特許出願2017-163770号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。