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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】冗長アクチュエータシステム
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/18 20060101AFI20230405BHJP
   H02P 25/22 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
H02P25/18
H02P25/22
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018232366
(22)【出願日】2018-12-12
(65)【公開番号】P2020096437
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】人見 敦
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-047777(JP,A)
【文献】特開2010-200404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/18
H02P 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の中心軸周りに複数配置され3個単位で前記中心軸周りに複数のグループに区分されている固定子巻線と、
前記グループの各々に対して設けられ、対応する前記グループ内の前記固定子巻線に電力を供給する電力変換部と、
前記グループの各々に対して設けられる第1バイパスコイルと、
前記グループの各々に対して設けられる第2バイパスコイルと、
前記グループの各々に対して設けられるスイッチ群と、
を備え
前記グループ内の前記固定子巻線のうち前記中心軸周りの一端側に位置する前記固定子巻線が、第1固定子巻線であり、
前記グループ内の前記固定子巻線のうち前記中心軸周りの他端側に位置する前記固定子巻線が、第2固定子巻線であり、
前記第1固定子巻線の一端は、前記電力変換部に接続されており、前記第1固定子巻線の他端は、前記スイッチ群に接続されており、
前記第2固定子巻線の一端は、前記電力変換部に接続されており、前記第2固定子巻線の他端は、前記スイッチ群に接続されており、
前記第1バイパスコイルの一端は、前記第1固定子巻線の前記電力変換部側端に接続されており、前記第1バイパスコイルの他端は、前記スイッチ群を介して前記第2固定子巻線の前記電力変換部とは反対側端に接続されており、
前記第2バイパスコイルの一端は、前記第2固定子巻線の前記電力変換部側端に接続されており、前記第2バイパスコイルの他端は、前記スイッチ群を介して前記第1固定子巻線の前記電力変換部とは反対側端に接続されており、
前記グループ内の前記固定子巻線が星形結線される状態が、正常状態であり、
前記グループ内において前記星形結線された際の中性点から前記第2固定子巻線が電気的に切り離され、前記第2固定子巻線の前記電力変換部とは反対側端と前記第1固定子巻線の前記電力変換部側端との間に前記第1バイパスコイルが電気的に接続される状態が、第1異常対応状態であり、
前記グループ内において前記中性点から前記第1固定子巻線が電気的に切り離され、前記第1固定子巻線の前記電力変換部とは反対側端と前記第2固定子巻線の前記電力変換部側端との間に前記第2バイパスコイルが電気的に接続される状態が、第2異常対応状態であり、
前記スイッチ群は、前記正常状態と、前記第1異常対応状態と、前記第2異常対応状態と、を切り替える冗長アクチュエータシステム。
【請求項2】
前記グループの各々に対して設けられる制御部をさらに備え、
前記制御部は、
自己の属する前記グループに対して前記第1固定子巻線側に隣接する前記グループ、および、前記第2固定子巻線側に隣接する前記グループの双方において異常がない場合、前記スイッチ群を前記正常状態にさせ、
自己の属する前記グループに対して前記第1固定子巻線側に隣接する前記グループに異常が生じた場合、前記スイッチ群を前記第1異常対応状態にさせ、
自己の属する前記グループに対して前記第2固定子巻線側に隣接する前記グループに異常が生じた場合、前記スイッチ群を前記第2異常対応状態にさせる請求項1に記載の冗長アクチュエータシステム。
【請求項3】
前記第1バイパスコイルは、非磁性材料で形成されたコアに巻回され、または、コアレスで巻回され、かつ、前記第1固定子巻線と等しい形状に形成され、
前記第2バイパスコイルは、非磁性材料で形成されたコアに巻回され、または、コアレスで巻回され、かつ、前記第2固定子巻線と等しい形状に形成される請求項1または2に記載の冗長アクチュエータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冗長アクチュエータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
1個のモータに3相巻線が複数グループ設けられるとともに、各グループの3相巻線に対応してインバータが複数設けられ、各インバータが3相巻線にそれぞれ電力を供給することで1個のモータを駆動させる冗長アクチュエータシステムがある(例えば、特許文献1)。かかる技術では、いずれかのグループに異常が生じても、他のグループの3相巻線に供給される電力によって回転子の回転を維持させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-174790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、いずれかのグループに異常が生じた場合、各3相巻線に電流が流れることにより発生する磁界の分布に乱れが生じることがある。磁界の分布に乱れが生じると、回転子の回転が妨げられるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、異常が生じても回転子を円滑に回転させることが可能な冗長アクチュエータシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の冗長アクチュエータシステムは、所定の中心軸周りに複数配置され3個単位で中心軸周りに複数のグループに区分されている固定子巻線と、グループの各々に対して設けられ、対応するグループ内の固定子巻線に電力を供給する電力変換部と、グループの各々に対して設けられる第1バイパスコイルと、グループの各々に対して設けられる第2バイパスコイルと、グループの各々に対して設けられるスイッチ群と、を備え、グループ内の固定子巻線のうち中心軸周りの一端側に位置する固定子巻線が、第1固定子巻線であり、グループ内の固定子巻線のうち中心軸周りの他端側に位置する固定子巻線が、第2固定子巻線であり、第1固定子巻線の一端は、電力変換部に接続されており、第1固定子巻線の他端は、スイッチ群に接続されており、第2固定子巻線の一端は、電力変換部に接続されており、第2固定子巻線の他端は、スイッチ群に接続されており、第1バイパスコイルの一端は、第1固定子巻線の電力変換部側端に接続されており、第1バイパスコイルの他端は、スイッチ群を介して第2固定子巻線の電力変換部とは反対側端に接続されており、第2バイパスコイルの一端は、第2固定子巻線の電力変換部側端に接続されており、第2バイパスコイルの他端は、スイッチ群を介して第1固定子巻線の電力変換部とは反対側端に接続されており、グループ内の固定子巻線が星形結線される状態が、正常状態であり、グループ内において星形結線された際の中性点から第2固定子巻線が電気的に切り離され、第2固定子巻線の電力変換部とは反対側端と第1固定子巻線の電力変換部側端との間に第1バイパスコイルが電気的に接続される状態が、第1異常対応状態であり、グループ内において中性点から第1固定子巻線が電気的に切り離され、第1固定子巻線の電力変換部とは反対側端と第2固定子巻線の電力変換部側端との間に第2バイパスコイルが電気的に接続される状態が、第2異常対応状態であり、スイッチ群は、正常状態と、第1異常対応状態と、第2異常対応状態と、を切り替える
【0007】
また、グループの各々に対して設けられる制御部をさらに備え、制御部は、複数の電力変換部の各々に対して設けられ、自己の属するグループに対して第1固定子巻線側に隣接するグループ、および、第2固定子巻線側に隣接するグループの双方において異常がない場合、スイッチ群を正常状態にさせ、自己の属するグループに対して第1固定子巻線側に隣接するグループに異常が生じた場合、スイッチ群を第1異常対応状態にさせ、自己の属するグループに対して第2固定子巻線側に隣接するグループに異常が生じた場合、スイッチ群を第2異常対応状態にさせるようにしてもよい。
【0008】
また、第1バイパスコイルは、非磁性材料で形成されたコアに巻回され、または、コアレスで巻回され、かつ、第1固定子巻線と等しい形状に形成され、第2バイパスコイルは、非磁性材料で形成されたコアに巻回され、または、コアレスで巻回され、かつ、第2固定子巻線と等しい形状に形成されてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、異常が生じても回転子を円滑に回転させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態による冗長アクチュエータシステムの構成を示すブロック図である。
図2】冗長アクチュエータの構成を示す断面図である。
図3】V相固定子巻線およびW相固定子巻線に電流を流した場合に発生する磁界を説明する図である。
図4】磁界の分布の乱れを説明する図である。
図5】冗長アクチュエータシステムにおける第1ボードの構成を説明する概略図である。
図6】第3グループに異常が生じた場合の第1グループの動作を説明するための概略図である。
図7】第3グループに異常が生じた場合の第1グループに関連する磁気回路を説明するための断面図である。
図8】第3グループに異常が生じた場合の第1グループの動作を説明するための概略図である。
図9】第3グループに異常が生じた場合の第1グループに関連する磁気回路を説明するための断面図である。
図10】第3グループに異常が生じた場合の第2グループの動作を説明するための概略図である。
図11】第3グループに異常が生じた場合の第2グループに関連する磁気回路を説明するための断面図である。
図12】第3グループに異常が生じた場合の第2グループの動作を説明するための概略図である。
図13】第3グループに異常が生じた場合の第2グループに関連する磁気回路を説明するための断面図である。
図14】第1ボードの制御部の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態の一態様について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
図1は、本実施形態による冗長アクチュエータシステム1の構成を示すブロック図である。冗長アクチュエータシステム1は、例えば、無人航空機(ドローン)の回転翼の駆動源に適用される。なお、冗長アクチュエータシステム1の適用先は、無人航空機に限らない。冗長アクチュエータシステム1は、冗長アクチュエータ10およびアクチュエータコントローラ12を含む。
【0013】
冗長アクチュエータ10は、例えば、回転子に永久磁石が設けられた同期電動機である。冗長アクチュエータ10は、第1モータ機能部20a、第2モータ機能部20bおよび第3モータ機能部20cを含む。第1モータ機能部20a、第2モータ機能部20bおよび第3モータ機能部20cは、それぞれU相固定子巻線22u、V相固定子巻線22vおよびW相固定子巻線22wを含む。つまり、冗長アクチュエータ10には、3相の固定子巻線が3グループ設けられている。
【0014】
以後、U相固定子巻線22u、V相固定子巻線22vおよびW相固定子巻線22wを総称して固定子巻線22と呼ぶことがある。また、第1モータ機能部20a、第2モータ機能部20bおよび第3モータ機能部20cを総称してモータ機能部20と呼ぶことがある。
【0015】
アクチュエータコントローラ12は、第1ボード30a、第2ボード30bおよび第3ボード30cを含む。第1ボード30aは、第1モータ機能部20aに接続され、第1モータ機能部20aを制御する。第2ボード30bは、第2モータ機能部20bに接続され、第2モータ機能部20bを制御する。第3ボード30cは、第3モータ機能部20cに接続され、第3モータ機能部を制御する。以後、第1ボード30a、第2ボード30bおよび第3ボード30cを総称してボード30と呼ぶことがある。
【0016】
第1ボード30a、第2ボード30bおよび第3ボード30cは、それぞれ電力変換部(インバータ)32、制御部34、第1バイパスコイル36、第2バイパスコイル38、スイッチ群40を含む。つまり、電力変換部32、制御部34、第1バイパスコイル36、第2バイパスコイル38およびスイッチ群40は、対応するモータ機能部20ごとに設けられている。各ボード30については、後に詳述する。
【0017】
図2は、冗長アクチュエータ10の構成を示す断面図である。図2では、第1モータ機能部20aに対応する領域を破線の矢印A1で示し、第2モータ機能部20bに対応する領域を破線の矢印A2で示し、第3モータ機能部20cに対応する領域を破線の矢印A3で示している。
【0018】
冗長アクチュエータ10は、固定子鉄心50を含む。固定子鉄心50は、鉄などの磁性材料で円筒状に形成される。固定子鉄心50の内周面には、径方向外側に向かって窪むスロット52が複数形成される。スロット52は、固定子鉄心50の中心軸周りに等間隔に9個形成される。スロット52は、中心軸方向に延びている。
【0019】
固定子鉄心50の内周面には、複数のスロット52が形成されることで、中心軸周りに隣接するスロット52の間において径方向内側に向かって突出するティース54が形成される。ティース54は、中心軸周りに等間隔に9個形成される。
【0020】
固定子巻線22は、隣接するスロット52にそれぞれ収容され、収容されたスロット52の間のティース54に巻回される。つまり、固定子巻線22は、固定子鉄心50に集中巻きで巻回される。固定子巻線22は、9個のティース54の各々に巻回される。なお、固定子巻線22の巻き数および層数は、図2に示す例に限らない。
【0021】
冗長アクチュエータ10では、9個の固定子巻線22が固定子鉄心50の中心軸周りに3個単位で3個のグループに区分されている。複数の固定子巻線22は、図2の反時計回りに、第1グループ、第2グループおよび第3グループの順に区分されている。具体的に説明すると、図2の右上側に位置する矢印A1内の3個の固定子巻線22は、第1モータ機能部20aに対応する第1グループに属する。図2の左上側に位置する矢印A2内の3個の固定子巻線22は、第2モータ機能部20bに対応する第2グループに属する。図2の下側に位置する矢印A3内の3個の固定子巻線22は、第3モータ機能部20cに対応する第3グループに属する。
【0022】
各グループ内において、3個の固定子巻線22のうち中央に位置する固定子巻線22は、U相固定子巻線22uである。U相固定子巻線22uに対して時計回り側に位置する固定子巻線22は、W相固定子巻線22wである。U相固定子巻線22uに対して反時計回り側に位置する固定子巻線22は、V相固定子巻線22vである。
【0023】
第2グループ(矢印A2内)のW相固定子巻線22wは、第1グループ(矢印A1内)のV相固定子巻線22vに対して反時計回り側に隣接する。第3グループ(矢印A3内)のW相固定子巻線22wは、第2グループ(矢印A2内)のV相固定子巻線22vに対して反時計回り側に隣接する。第1グループ(矢印A1内)のW相固定子巻線22wは、第3グループ(矢印A3内)のV相固定子巻線22vに対して反時計回り側に隣接する。
【0024】
矢印A1内のU相固定子巻線22u、V相固定子巻線22v、W相固定子巻線22wおよび固定子鉄心50は、第1モータ機能部20aの固定子として機能する。矢印A2内のU相固定子巻線22u、V相固定子巻線22v、W相固定子巻線22wおよび固定子鉄心50は、第2モータ機能部20bの固定子として機能する。矢印A3内のU相固定子巻線22u、V相固定子巻線22v、W相固定子巻線22wおよび固定子鉄心50は、第3モータ機能部20cの固定子として機能する。
【0025】
固定子鉄心50の内側には、円柱状に形成された回転子56が収容される。回転子56の中心軸は、固定子鉄心50の中心軸に重なる。回転子56の外周面には、複数の永久磁石58が設けられる。永久磁石58は、中心軸周りに等間隔に6極配置される。また、永久磁石58は、中心軸周りにN極およびS極が交互となるように配置される。
【0026】
図3は、V相固定子巻線22vおよびW相固定子巻線22wに電流を流した場合に発生する磁界を説明する図である。図3では、発生する磁界により形成される磁気回路を閉曲線B1、B2、B3で示している。
【0027】
V相固定子巻線22vに電流が流れると、V相固定子巻線22v内(V相固定子巻線22vが巻回されるティース54)を通る磁界が発生する。また、W相固定子巻線22wに電流が流れると、W相固定子巻線22w内(W相固定子巻線22wが巻回されるティース54)を通る磁界が発生する。
【0028】
ここで、第1グループ(矢印A1内)のV相固定子巻線22vは、第1グループ(矢印A1内)のW相固定子巻線22wよりも第2グループ(矢印A2内)のW相固定子巻線22wに近い。このため、第1グループのV相固定子巻線22v内を通る磁界は、第2グループのW相固定子巻線22w内を通る磁界とともに、閉曲線B1で示す略三角形状の磁気回路を形成する。
【0029】
また、第2グループ(矢印A2内)のV相固定子巻線22vは、第2グループ(矢印A2内)のW相固定子巻線22wよりも第3グループ(矢印A3内)のW相固定子巻線22wに近い。このため、第2グループのV相固定子巻線22v内を通る磁界は、第3グループのW相固定子巻線22w内を通る磁界とともに、閉曲線B2で示す略三角形状の磁気回路を形成する。
【0030】
また、第3グループ(矢印A3内)のV相固定子巻線22vは、第3グループ(矢印A3内)のW相固定子巻線22wよりも第1グループ(矢印A1内)のW相固定子巻線22wに近い。このため、第3グループのV相固定子巻線22v内を通る磁界は、第1グループのW相固定子巻線22w内を通る磁界とともに、閉曲線B3で示す略三角形状の磁気回路を形成する。
【0031】
そして、電流を流す固定子巻線22を中心軸周りに順に変えていくと、磁気回路が中心軸周りに回転する回転磁界が形成される。このように形成される回転磁界が永久磁石58を引き付けることで、回転子56は、回転磁界に同期して回転する。
【0032】
ところで、例えば、第3グループの固定子巻線22が劣化して断線や短絡などの異常が生じたとする。そうすると、第3グループの各固定子巻線22には、正常に電流が流れなくなり、第3グループの各固定子巻線22に基づく磁界が発生しなくなる。
【0033】
従来の冗長アクチュエータシステムでは、異常が生じたグループ以外のモータ機能部20によって回転子56の回転を維持させることができる。しかし、従来の冗長アクチュエータシステムでは、いずれかのグループに異常が生じた場合、磁界の分布に乱れが生じることがある。
【0034】
図4は、磁界の分布の乱れを説明する図である。図4では、第3グループの各固定子巻線22に電流が流れない状態で、第1グループおよび第2グループのV相固定子巻線22vおよびW相固定子巻線22wに電流を流した場合を示している。
【0035】
第1グループのV相固定子巻線22v内を通る磁界は、第2グループのW相固定子巻線22w内を通る磁界とともに、閉曲線B1で示す略三角形状の磁気回路を形成する。この点については、異常が生じる前と同様である。
【0036】
これに対し、第1グループのW相固定子巻線22wには、電流が流れるものの、第3グループのV相固定子巻線22vには、電流が流れない。このため、第1グループのW相固定子巻線22wと第3グループのV相固定子巻線22vとによる磁気回路(図3における閉曲線B3)は形成されない。同様に、第2グループのV相固定子巻線22vには、電流が流れるものの、第3グループのW相固定子巻線22wには、電流が流れない。このため、第2グループのV相固定子巻線22vと第3グループのW相固定子巻線22wとによる磁気回路(図3における閉曲線B2)は形成されない。
【0037】
つまり、第1グループのW相固定子巻線22wおよび第2グループのV相固定子巻線22vは、本来の磁気回路を形成する相手がいない。このため、第1グループのW相固定子巻線22w内を通る磁界は、第2グループのV相固定子巻線22v内を通る磁界とともに、一点鎖線の閉曲線B11で示す略半円形状の磁気回路を形成する。また、第1グループのW相固定子巻線22w内を通る磁界は、第1グループのV相固定子巻線22v内を通る磁界とともに、一点鎖線の閉曲線B12で示す略4分割円形状の磁気回路を形成する。また、第2グループのV相固定子巻線22v内を通る磁界は、第2グループのW相固定子巻線22w内を通る磁界とともに、一点鎖線の閉曲線B13で示す略4分割円形状の磁気回路を形成する。
【0038】
このように、従来の冗長アクチュエータでは、閉曲線B11、B12、B13で示すような磁気回路が形成されることで、磁界の分布に乱れが生じる。磁界の分布に乱れが生じると回転子56の回転が妨げられるおそれがある。
【0039】
そこで、本実施形態の冗長アクチュエータシステム1では、図1に示すように、第1バイパスコイル36、第2バイパスコイル38およびスイッチ群40が各ボード30に設けられる。
【0040】
第2ボード30bおよび第3ボード30cは、第1ボード30aと同様の構成となっている。このため、以下では、第1ボード30aの構成について説明し、第2ボード30bおよび第3ボード30cの構成についての説明を省略する。なお、第1ボード30aは第1グループに属し、第2ボード30bは第2グループに属し、第3ボード30cは第3グループに属する。
【0041】
図5は、冗長アクチュエータシステム1における第1ボード30aの構成を説明する概略図である。電力変換部32は、ブリッジ回路60およびPWMドライバ62を含む。ブリッジ回路60は、スイッチング素子70を6個含む。スイッチング素子70は、例えば、MOSFETなどの半導体スイッチである。
【0042】
ブリッジ回路60では、2個のスイッチング素子70が正側直流母線72と負側直流母線74との間に直列接続されてアームが形成されている。ブリッジ回路60は、3組のアームが正側直流母線72と負側直流母線74との間に並列接続されて構成される。正側直流母線72は、バッテリ(図示略)の正極に接続され、負側直流母線74は、バッテリの負極に接続される。
【0043】
図5の右側のアームはU相に対応し、図5の中央のアームはV相に対応し、図5の左側のアームはW相に対応する。U相アームにおけるスイッチング素子70間の接続ノードは、U相出力ノード76uとして機能する。V相アームにおけるスイッチング素子70間の接続ノードは、V相出力ノード76vとして機能する。W相アームにおけるスイッチング素子70間の接続ノードは、W相出力ノード76wとして機能する。
【0044】
U相出力ノード76uは、U相固定子巻線22uの一端に接続される。V相出力ノード76vは、V相固定子巻線22vの一端に接続される。W相出力ノード76wは、W相固定子巻線22wの一端に接続される。
【0045】
PWMドライバ62は、各スイッチング素子70の制御端子(ゲート)に接続される。PWMドライバ62は、制御部34から送信される指令にしたがって、パルス幅変調した信号(ゲート信号)をスイッチング素子70ごとに生成する。PWMドライバ62は、ゲート信号にしたがって各スイッチング素子70をオンオフさせる。
【0046】
このようにして、電力変換部32は、所望の周波数の3相交流電力を生成し、対応するモータ機能部20の各固定子巻線22に3相交流電力を供給する。
【0047】
第1バイパスコイル36は、W相固定子巻線22wと等しい形状に形成される。具体的には、第1バイパスコイル36は、合成樹脂などの非磁性材料で形成されたコアに巻回される。第1バイパスコイル36が巻回されるコアは、W相固定子巻線22wが巻回されるティース54と等しい形状に形成されている。第1バイパスコイル36の巻き数および層数は、W相固定子巻線22wの巻き数および層数と等しい。なお、第1バイパスコイル36は、非磁性材料のコアに巻回される態様に限らず、コアレスで巻回されてもよい。
【0048】
これにより、第1バイパスコイル36のインダクタンスおよび内部抵抗は、W相固定子巻線22wのインダクタンスおよび内部抵抗に等しくなる。その結果、第1バイパスコイル36に電流を流しても、3相交流電力の各相のバランスを維持させることができる。
【0049】
また、第1バイパスコイル36に電流が流れることで発生する磁界の強度は、W相固定子巻線22wで発生する磁界の強度よりも小さくなる。例えば、第1バイパスコイル36で発生する磁界の強度は、W相固定子巻線22wで発生する磁界の強度の千分の1程度となる。その結果、第1バイパスコイル36で発生する磁界によってボード30内の各部が影響を受けることを抑制できる。
【0050】
第2バイパスコイル38は、V相固定子巻線22vと等しい形状に形成される。具体的には、第2バイパスコイル38は、合成樹脂などの非磁性材料で形成されたコアに巻回される。第2バイパスコイル38が巻回されるコアは、V相固定子巻線22vが巻回されるティース54と等しい形状に形成されている。第2バイパスコイル38の巻き数および層数は、V相固定子巻線22vの巻き数および層数と等しい。なお、第2バイパスコイル38は、非磁性材料のコアに巻回される態様に限らず、コアレスで巻回されてもよい。
【0051】
これにより、第2バイパスコイル38のインダクタンスおよび内部抵抗は、V相固定子巻線22vのインダクタンスおよび内部抵抗に等しくなる。その結果、第2バイパスコイル38に電流を流しても、3相交流電力の各相のバランスを維持させることができる。
【0052】
また、第2バイパスコイル38に電流が流れることで発生する磁界の強度は、V相固定子巻線22vで発生する磁界の強度よりも小さくなる。例えば、第2バイパスコイル38で発生する磁界の強度は、V相固定子巻線22vで発生する磁界の強度の千分の1程度となる。その結果、第2バイパスコイル38で発生する磁界によってボード30内の各部が影響を受けることを抑制できる。
【0053】
第1バイパスコイル36の一端は、電力変換部32におけるW相出力ノード76wに接続される。換言すると、第1バイパスコイル36の一端は、W相固定子巻線22wにおけるW相出力ノード76w側端に接続される。
【0054】
第2バイパスコイル38の一端は、電力変換部32におけるV相出力ノード76vに接続される。換言すると、第2バイパスコイル38の一端は、V相固定子巻線22vにおけるV相出力ノード76v側端に接続される。
【0055】
スイッチ群40は、第1ノーマルスイッチ80、第1バイパススイッチ82、第2ノーマルスイッチ84および第2バイパススイッチ86を含む。第1ノーマルスイッチ80、第1バイパススイッチ82、第2ノーマルスイッチ84および第2バイパススイッチ86は、例えば、MOSFETなどの半導体スイッチである。
【0056】
第1ノーマルスイッチ80の一端は、W相固定子巻線22wにおけるW相出力ノード76wとは反対側端に接続される。第1ノーマルスイッチ80の他端は、U相固定子巻線22uにおけるU相出力ノード76uとは反対側端に接続される。
【0057】
第2ノーマルスイッチ84の一端は、V相固定子巻線22vにおけるV相出力ノード76vとは反対側端に接続される。第2ノーマルスイッチ84の他端は、U相固定子巻線22uにおけるU相出力ノード76uとは反対側端に接続される。
【0058】
U相固定子巻線22uにおけるU相出力ノード76uとは反対側端、第1ノーマルスイッチ80の他端および第2ノーマルスイッチ84の他端が互いに接続される接続ノードは、第1モータ機能部20aの中性点88として機能する。
【0059】
第1バイパススイッチ82の一端は、第1バイパスコイル36におけるW相出力ノード76wとは反対側端に接続される。第1バイパススイッチ82の他端は、V相固定子巻線22vと第2ノーマルスイッチ84との接続ノード(換言すると、V相固定子巻線22vにおける第2ノーマルスイッチ84側端)に接続される。
【0060】
第2バイパススイッチ86の一端は、第2バイパスコイル38におけるV相出力ノード76vとは反対側端に接続される。第2バイパススイッチ86の他端は、W相固定子巻線22wと第1ノーマルスイッチ80との接続ノード(換言すると、W相固定子巻線22wにおける第1ノーマルスイッチ80側端)に接続される。
【0061】
スイッチ群40は、正常状態と、第1異常対応状態と、第2異常対応状態とを切り替える。正常状態とは、U相固定子巻線22u、V相固定子巻線22vおよびW相固定子巻線22wが星形結線(スター結線)される状態である。なお、中性点88は、星形結線された際の中性点である。
【0062】
また、正常状態のとき、第1バイパスコイル36および第2バイパスコイル38は、中性点88から電気的に切り離される。具体的には、正常状態のとき、第1ノーマルスイッチ80および第2ノーマルスイッチ84はオン(閉)状態となっており、第1バイパススイッチ82および第2バイパススイッチ86はオフ(開)状態となっている。図5では、スイッチ群40が正常状態で示されている。
【0063】
第1異常対応状態とは、V相固定子巻線22vが中性点88から電気的に切り離され、かつ、V相固定子巻線22vとW相出力ノード76wとの間に第1バイパスコイル36が電気的に接続される状態である。また、第1異常対応状態のとき、W相固定子巻線22wは中性点88に電気的に接続され、第2バイパスコイル38は中性点88から電気的に切り離される。具体的には、第1異常対応状態のとき、第1ノーマルスイッチ80および第1バイパススイッチ82はオン(閉)状態となっており、第2ノーマルスイッチ84および第2バイパススイッチ86はオフ(開)状態となっている。
【0064】
第2異常対応状態とは、W相固定子巻線22wが中性点88から電気的に切り離され、かつ、W相固定子巻線22wとV相出力ノード76vとの間に第2バイパスコイル38が電気的に接続される状態である。また、第2異常対応状態のとき、V相固定子巻線22vは中性点88に電気的に接続され、第1バイパスコイル36は中性点88から電気的に切り離される。具体的には、第2異常対応状態では、第2ノーマルスイッチ84および第2バイパススイッチ86はオン(閉)状態となっており、第1ノーマルスイッチ80および第1バイパススイッチ82はオフ(開)状態となっている。
【0065】
制御部34は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路から構成される。制御部34は、PWMドライバ62を通じてモータ機能部20(第1モータ機能部20a)に供給する電力を制御する。具体的には、制御部34は、各固定子巻線22に流す電流を指示する電流指令などの各種の指令をPWMドライバ62に送信する。
【0066】
また、制御部34は、いずれかのグループにおいて異常が生じたか否かを判断する。制御部34は、異常の判断結果に基づいて、PWMドライバ62への指令およびスイッチ群40のオンオフを制御する。
【0067】
具体的に説明すると、制御部34は、他のボード30(グループ)の制御部34から電流指令を取得する。例えば、第1ボード30aの制御部34は、第2ボード30bの制御部34が第2ボード30bのPWMドライバ62に送信する電流指令を第2ボード30bの制御部34から取得する。また、第1ボード30aの制御部34は、第3ボード30cの制御部34が第3ボード30cのPWMドライバ62に送信する電流指令を第3ボード30cの制御部34から取得する。
【0068】
次に、制御部34は、自己の電流指令および他の制御部34から取得した電流指令の合計3個の電流指令をそれぞれ比較し、異なる電流指令があるか否かを判断する。
【0069】
ここで、各ボード30の制御部34は、通常、それぞれ共通の電流指令をPWMドライバ62に送信する。このため、各ボード30の電流指令を比較した結果、異なる電流指令がない場合、各グループにおいて異常は生じていない。
【0070】
この場合、制御部34は、スイッチ群40を正常状態に維持させる。つまり、制御部34は、第1ノーマルスイッチ80および第2ノーマルスイッチ84をオン状態に維持させ、第1バイパススイッチ82および第2バイパススイッチ86をオフ状態に維持させる。
【0071】
一方、各ボード30の制御部34の電流指令を比較した結果、異なる電流指令がある場合、異なる電流指令を送信するグループに異常が生じたとみなすことができる。例えば、第1ボード30aの制御部34は、自己の電流指令、第2ボード30bの電流指令および第3ボード30cの電流指令をそれぞれ比較する。この際、自己の電流指令と第2ボード30bの電流指令とが共通しており、第3ボード30cの電流指令が自己の電流指令および第2ボード30bの電流指令と異なる場合、第1ボード30aの制御部34は、第3グループに異常が生じたと判断する。
【0072】
このように、各ボード30の制御部34は、他のボード30から取得された電流指令を用いて比較を行う他者BIT(Built in test)により異常が生じたグループを判断する。
【0073】
なお、制御部34は、他者BITにより異常を判断する態様に限らず、自己BITにより異常を判断してもよい。この態様において、制御部34は、PWMドライバ62に送信する電流指令が、本来送信すべき電流指令と異なる場合、自己のグループに異常が生じたと判断する。
【0074】
また、制御部34は、自己のグループに異常が生じた場合、他者BITや自己BITによって自らその異常を認識してもよいし、他の制御部34による他者BITの判断結果が通知されることでその異常を認識してもよい。
【0075】
また、制御部34は、電流指令を比較することで異常を判断する態様に限らない。例えば、制御部34は、各ボード30における電圧指令や回転数指令など、各種の指令について比較することで異常を判断してもよい。
【0076】
自己のグループに異常があると判断された場合、制御部34は、自己のグループにおいて、電力変換部32からモータ機能部20に電力を供給させないような電流指令(電流停止指令)をPWMドライバ62に送信する。これにより、自己のグループの各固定子巻線22に基づく磁界が発生しなくなる。
【0077】
次に、自己のグループのモータ機能部20に対して時計回り側に隣接するモータ機能部20のグループに異常が生じた場合、制御部34は、スイッチ群40の状態を正常状態から第1異常対応状態に変化させる。
【0078】
図6および図8は、第3グループに異常が生じた場合の第1グループの動作を説明するための概略図である。図7および図9は、第3グループに異常が生じた場合の第1グループに関連する磁気回路を説明するための断面図である。図6および図7は、V相およびW相を通電させるVWフェーズを示しており、図8および図9は、W相およびU相を通電させるWUフェーズを示している。
【0079】
第1ボード30aの制御部34は、第3グループに異常が生じたと判断された場合、第1ボード30a内の第2ノーマルスイッチ84をオフさせ、第1バイパススイッチ82をオンさせる。この際、第1ボード30aの制御部34は、第1ボード30a内の第1ノーマルスイッチ80をオン状態に維持させ、第2バイパススイッチ86をオフ状態に維持させる。これにより、第1ボード30aのスイッチ群40は、第1異常対応状態となる。
【0080】
第1異常対応状態において、V相正側のスイッチング素子70およびW相負側のスイッチング素子70がオンすると、図6の一点鎖線の矢印C11で示すように、V相固定子巻線22vおよび第1バイパスコイル36を通じて電流が流れる。この際、W相固定子巻線22wは、V相固定子巻線22vおよび第1バイパスコイル36を通る電流経路から外れている。また、U相正側のスイッチング素子70はオフである。これらより、W相固定子巻線22wには電流が流れない。
【0081】
その結果、図7に示すように、第1グループのW相固定子巻線22w内を通る磁気回路は形成されない。つまり、冗長アクチュエータシステム1では、図4の閉曲線B11、B12、B13のような磁気回路が形成されない。
【0082】
さらに、第1グループのV相固定子巻線22vに電流が流れるとき、第2グループのW相固定子巻線22wにも電流が流れる。このため、図7の閉曲線D11で示すように、第1グループのV相固定子巻線22v内および第2グループのW相固定子巻線22w内を通る略三角形状の磁気回路が形成される。つまり、冗長アクチュエータシステム1では、VWフェーズにおいて、第1グループのW相固定子巻線22wに磁界を発生させないようにしつつ、第1グループのV相固定子巻線22vに磁界を発生させて磁気回路を形成させることができる。
【0083】
また、W相正側のスイッチング素子70およびU相負側のスイッチング素子70がオンすると、図8の一点鎖線の矢印C12で示すように、W相固定子巻線22wおよびU相固定子巻線22uを通じて電流が流れる。その結果、図9の閉曲線D12で示すように、第1グループにおいて、W相固定子巻線22w内およびU相固定子巻線22u内を通る略三角形状の磁気回路が形成される。
【0084】
なお、この際、第1バイパスコイル36は、W相固定子巻線22wおよびU相固定子巻線22uを通る電流経路から外れている。また、V相負側のスイッチング素子70はオフである。これらより、第1バイパスコイル36には電流が流れない。
【0085】
また、第1異常対応状態では、V相固定子巻線22vおよび第2バイパスコイル38が中性点88から電気的に切り離されている。このため、U相正側のスイッチング素子70およびV相負側のスイッチング素子70がオンしても、第1グループのU相固定子巻線22uおよびV相固定子巻線22vには電流が流れない。つまり、U相およびV相を通電させるUVフェーズでは、第1グループにおいてU相固定子巻線22u内およびV相固定子巻線22v内を通る磁気回路が形成されない。
【0086】
次に、自己のグループのモータ機能部20に対して反時計回り側に隣接するモータ機能部20のグループに異常が生じた場合、制御部34は、スイッチ群40の状態を正常状態から第2異常対応状態に変化させる。
【0087】
図10および図12は、第3グループに異常が生じた場合の第2グループの動作を説明するための概略図である。図11および図13は、第3グループに異常が生じた場合の第2グループに関連する磁気回路を説明するための断面図である。また、図10および図11は、V相およびW相を通電させるVWフェーズを示しており、図12および図13は、U相およびV相を通電させるUVフェーズを示している。
【0088】
第2ボード30bの制御部34は、第3グループに異常が生じたと判断された場合、第2ボード30b内の第1ノーマルスイッチ80をオフさせ、第2バイパススイッチ86をオンさせる。この際、第2ボード30bの制御部34は、第2ボード30b内の第2ノーマルスイッチ84をオン状態に維持させ、第1バイパススイッチ82をオフ状態に維持させる。これにより第2ボード30bのスイッチ群40は、第2異常対応状態となる。
【0089】
第2異常対応状態において、V相正側のスイッチング素子70およびW相負側のスイッチング素子70がオンすると、図10の一点鎖線の矢印C21で示すように、第2バイパスコイル38およびW相固定子巻線22wを通じて電流が流れる。この際、V相固定子巻線22vは、第2バイパスコイル38およびW相固定子巻線22wを通る電流経路から外れている。また、U相負側のスイッチング素子70はオフである。これらより、V相固定子巻線22vには電流が流れない。
【0090】
その結果、図11に示すように、第2グループのV相固定子巻線22v内を通る磁気回路は形成されない。つまり、冗長アクチュエータシステム1では、図4の閉曲線B11、B12、B13のような磁気回路が形成されない。
【0091】
さらに、第2グループのW相固定子巻線22wに電流が流れるとき、第1グループのV相固定子巻線22vにも電流が流れる。このため、図11の閉曲線D12で示すように、第1グループのV相固定子巻線22v内および第2グループのW相固定子巻線22w内を通る略三角形状の磁気回路が形成される。つまり、冗長アクチュエータシステム1では、VWフェーズにおいて、第2グループのV相固定子巻線22vに磁界を発生させないようにしつつ、第2グループのW相固定子巻線22wに磁界を発生させて磁気回路を形成させることができる。
【0092】
また、U相正側のスイッチング素子70およびV相負側のスイッチング素子70がオンすると、図12の一点鎖線の矢印C23で示すように、U相固定子巻線22uおよびV相固定子巻線22vを通じて電流が流れる。その結果、図13の閉曲線D23で示すように、第2グループにおいて、U相固定子巻線22u内およびV相固定子巻線22v内を通る略三角形状の磁気回路が形成される。
【0093】
なお、この際、第2バイパスコイル38は、U相固定子巻線22uおよびV相固定子巻線22vを通る電流経路から外れている。また、W相正側のスイッチング素子70はオフである。これらより、第2バイパスコイル38には電流が流れない。
【0094】
また、第2異常対応状態では、W相固定子巻線22wおよび第1バイパスコイル36が中性点88から電気的に切り離されている。このため、W相正側のスイッチング素子70およびU相負側のスイッチング素子70がオンしても、第2グループのW相固定子巻線22wおよびU相固定子巻線22uには電流が流れない。つまり、W相およびU相を通電させるWUフェーズでは、第2グループにおいてW相固定子巻線22w内およびU相固定子巻線22u内を通る磁気回路が形成されない。
【0095】
このように、冗長アクチュエータシステム1では、UVフェーズにおいて第2グループのU相固定子巻線22u内およびV相固定子巻線22v内を通る磁気回路を形成させ、VWフェーズにおいて第2グループのW相固定子巻線22w内および第1グループのV相固定子巻線22v内を通る磁気回路を形成させ、WUフェーズにおいて第1グループのW相固定子巻線22w内およびU相固定子巻線22u内を通る磁気回路を形成させる。これにより、冗長アクチュエータシステム1では、第3グループに異常が生じても、第1グループおよび第2グループによって冗長アクチュエータ10の回転を維持させる。
【0096】
次に、制御部34の動作の流れを説明する。第1ボード30aの制御部34、第2ボード30bの制御部34および第3ボード30cの制御部34は、それぞれ共通の流れで各処理を行う。このため、第1ボード30aの制御部34の動作の流れを説明し、第2ボード30bの制御部34および第3ボード30cの制御部34の動作の流れの説明を省略する。
【0097】
図14は、第1ボード30aの制御部34の動作を説明するフローチャートである。初期状態において、スイッチ群40は、正常状態となっている。
【0098】
まず、制御部34は、所定制御周期毎(例えば、1ms毎)に、比較対象の指令(具体的には、電流指令)を、他のボード30の制御部34からそれぞれ取得する(S100)。次に、制御部34は、比較対象の指令に基づいて異常が生じたか否かを判断する(S110)。具体的には、制御部34は、自己のボード30(例えば、第1ボード30a)における比較対象の指令(電流指令)、および、他のボード30(例えば、第2ボード30bおよび第3ボード30c)におけるそれぞれの比較対象の指令(電流指令)を互いに比較し、異なる比較対象の指令(電流指令)があるか否かを判断する。
【0099】
異常が生じていない場合、すなわち、異なる比較対象の指令(電流指令)がない場合(S110におけるNO)、制御部34は、ステップS100に戻り、所定制御周期毎に比較対象の指令(電流指令)の取得を繰り返す。つまり、制御部34は、自己の属するグループに対して時計回り側(W相固定子巻線22w側)に隣接するグループ、および、自己の属するグループに対して反時計回り側(V相固定子巻線22v側)に隣接するグループの双方に異常がないとみなし、スイッチ群40を正常状態に維持させる。
【0100】
異常が生じた場合、すなわち、異なる比較対象の指令(電流指令)がある場合(S110におけるYES)、制御部34は、異なる比較対象の指令(電流指令)が、自己の属するグループに対して時計回り側(W相固定子巻線22w側)に隣接するグループに属するボード30、すなわち、第3ボード30cにおける比較対象の指令(電流指令)であるか否かを判断する(S120)。
【0101】
異なる比較対象の指令(電流指令)が第3ボード30cにおける比較対象の指令(電流指令)である場合(S120におけるYES)、制御部34は、W相をバイパス相に決定する(S130)。その後、制御部34は、第2ノーマルスイッチ84をオフさせ(S140)、第1バイパススイッチ82をオンさせて(S150)、一連の処理を終了する。これにより、スイッチ群40の状態が、正常状態から第1異常対応状態に切り替わる。
【0102】
一方、異なる比較対象の指令(電流指令)が第3ボード30cにおける比較対象の指令(電流指令)ではない場合(S120におけるNO)、制御部34は、異なる比較対象の指令(電流指令)が、自己の属するグループに対して反時計回り側(V相固定子巻線22v側)に隣接するグループに属するボード30、すなわち、第2ボード30bにおける比較対象の指令(電流指令)であるか否かを判断する(S160)。
【0103】
異なる比較対象の指令(電流指令)が第2ボード30bにおける比較対象の指令(電流指令)である場合(S160におけるYES)、制御部34は、V相をバイパス相に決定する(S170)。その後、制御部34は、第1ノーマルスイッチ80をオフさせ(S180)、第2バイパススイッチ86をオンさせて(S190)、一連の処理を終了する。これにより、スイッチ群40の状態が、正常状態から第2異常対応状態に切り替わる。
【0104】
異なる比較対象の指令(電流指令)が第2ボード30bにおける比較対象の指令(電流指令)ではない場合(S160におけるNO)、制御部34は、自己のグループのモータ機能部20を停止させる停止指令(具体的には、電流停止指令)を自己のグループのPWMドライバ62に送信し(S200)、一連の処理を終了する。この場合、スイッチ群40の状態は正常状態に維持されてもよい。
【0105】
なお、第2ボード30bの制御部34では、ステップS120において、異なる比較対象の指令(電流指令)が第1ボード30aにおける比較対象の指令(電流指令)であるか否かを判断し、ステップS160において、異なる比較対象の指令(電流指令)が第3ボード30cにおける比較対象の指令(電流指令)であるか否かを判断してもよい。また、第3ボード30cの制御部34では、ステップS120において、異なる比較対象の指令(電流指令)が第2ボード30bにおける比較対象の指令(電流指令)であるか否かを判断し、ステップS160において、異なる比較対象の指令(電流指令)が第1ボード30aにおける比較対象の指令(電流指令)であるか否かを判断してもよい。
【0106】
以上のように、本実施形態の冗長アクチュエータシステム1では、グループ内の固定子巻線22のうち中心軸周りの一端側(時計回り側)に位置する第1固定子巻線(W相固定子巻線22w)に対応する第1バイパスコイル36、および、中心軸周りの他端側(反時計回り側)に位置する第2固定子巻線(V相固定子巻線22v)に対応する第2バイパスコイル38が設けられている。
【0107】
本実施形態の冗長アクチュエータシステム1では、第1固定子巻線(W相固定子巻線22w)側に隣接するグループに異常が生じた場合、第2固定子巻線(V相固定子巻線22v)が中性点88から切り離され、第2固定子巻線(V相固定子巻線22v)と電力変換部32(第1固定子巻線の電力変換部32側端)との間に第1バイパスコイル36が電気的に接続される。これにより、本実施形態の冗長アクチュエータシステム1では、第1固定子巻線の相と第2固定子巻線の相とを通電させる両端相フェーズ(VWフェーズ)において、異常が生じたグループとは反対側の第2固定子巻線(V相固定子巻線22v)に第1バイパスコイル36を通じて電流を流すことができるとともに、異常が生じたグループに隣接する第1固定子巻線(W相固定子巻線22w)内を通る磁界を発生させないようにすることができる。
【0108】
また、本実施形態の冗長アクチュエータシステム1では、第2固定子巻線(V相固定子巻線22v)側に隣接するグループに異常が生じた場合、第1固定子巻線(W相固定子巻線22w)が中性点88から切り離され、第1固定子巻線(W相固定子巻線22w)と電力変換部32(第2固定子巻線の電力変換部32側端)との間に第2バイパスコイル38が電気的に接続される。これにより、本実施形態の冗長アクチュエータシステム1では、両端相フェーズ(VWフェーズ)において、異常が生じたグループとは反対側の第1固定子巻線(W相固定子巻線22w)に第2バイパスコイル38を通じて電流を流すことができるとともに、異常が生じたグループに隣接する第2固定子巻線(V相固定子巻線22v)内を通る磁界を発生させないようにすることができる。
【0109】
これらにより、本実施形態の冗長アクチュエータシステム1では、異常が生じた際の磁界の分布の乱れを抑制することができる。したがって、本実施形態による冗長アクチュエータシステム1によれば、異常が生じても回転子56を円滑に回転させることが可能となる。
【0110】
なお、本実施形態の冗長アクチュエータシステム1では、従来の冗長アクチュエータシステムと同様に、異常が生じたグループ以外のモータ機能部20によって回転子56の回転を維持させることができる。
【0111】
また、本実施形態の冗長アクチュエータシステム1では、グループ内における各相の配列が、反時計回り方向に向かってW相、U相、V相の順となっていた。しかし、グループ内における各相の配列順は、この例に限らない。例えば、グループ内における各相の配列は、反時計回り方向に向かってU相、V相、W相の順であってもよい。この場合、第1バイパスコイル36は、時計回り側に位置するU相固定子巻線22uに対応するように設けられ、第2バイパスコイル38は、反時計回り側に位置するW相固定子巻線22wに対応するように設けられてもよい。
【0112】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0113】
例えば、上記実施形態の冗長アクチュエータシステム1では、冗長アクチュエータ10が3個のモータ機能部20に区分されていた。しかし、モータ機能部20の数は、3個に限らず、例えば4個でもよく、複数であればよい。
【0114】
また、上記実施形態の冗長アクチュエータ10は、6極9スロットの構成となっていた。しかし、冗長アクチュエータ10は、6極9スロットの構成に限らない。例えば、冗長アクチュエータ10は、2極3スロットの基本構成をモータ機能部20の数だけ倍増した構成となっていてもよい。
【0115】
また、上記実施形態のスイッチ群40は、第1ノーマルスイッチ80、第1バイパススイッチ82、第2ノーマルスイッチ84および第2バイパススイッチ86を含んでいた。しかし、スイッチ群40は、正常状態、第1異常対応状態および第2異常対応状態を切り替え可能であればよく、第1ノーマルスイッチ80、第1バイパススイッチ82、第2ノーマルスイッチ84および第2バイパススイッチ86を含む構成に限らない。例えば、スイッチ群40は、第1ノーマルスイッチ80および第2バイパススイッチ86に代えて、第1固定子巻線(W相固定子巻線22w)におけるW相出力ノード76wとは反対側端に対する接続先を、第1固定子巻線と第2固定子巻線との間に位置する第3固定子巻線(U相固定子巻線22u)と第2バイパスコイル38とで切り替える第1切替スイッチを含んでもよい。また、スイッチ群40は、第2ノーマルスイッチ84および第1バイパススイッチ82に代えて、第2固定子巻線(V相固定子巻線22v)におけるV相出力ノード76vとは反対側端に対する接続先を、第3固定子巻線(U相固定子巻線22u)と第1バイパスコイル36とで切り替える第2切替スイッチを含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、冗長アクチュエータシステムに利用できる。
【符号の説明】
【0117】
1 冗長アクチュエータシステム
22 固定子巻線
32 電力変換部
34 制御部
36 第1バイパスコイル
38 第2バイパスコイル
40 スイッチ群
88 中性点
図1
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