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特許7256701表面保護剤組成物および端子付き被覆電線
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  • 特許-表面保護剤組成物および端子付き被覆電線 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】表面保護剤組成物および端子付き被覆電線
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/00 20060101AFI20230405BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20230405BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20230405BHJP
   H01B 7/28 20060101ALI20230405BHJP
   H01B 3/20 20060101ALI20230405BHJP
   C10M 137/04 20060101ALI20230405BHJP
   C10M 129/40 20060101ALI20230405BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20230405BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20230405BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20230405BHJP
【FI】
C23F11/00 E
C23F11/00 B
H01B7/00 306
H01B7/02 Z
H01B7/28 F
H01B3/20 B
C10M137/04
C10M129/40
C10N20:02
C10N30:12
C10N20:04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019115065
(22)【出願日】2019-06-21
(65)【公開番号】P2021001365
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鴛海 直之
(72)【発明者】
【氏名】細川 武広
(72)【発明者】
【氏名】溝口 誠
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-151614(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199569(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104018161(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00- 11/18
C23F 14/00- 17/00
C10M 101/00- 177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)が、組成物全量基準で、リン元素換算量として0.1~10質量%、
下記の(b-1)および下記の(b-2)から選択される少なくとも1種が、組成物全量基準で、5.0~60質量%、
下記の(c)が、組成物全量基準で、金属元素換算量として0.1~10質量%、
下記の(d)、
が配合されてなる、表面保護剤組成物。
(a)下記一般式(1)で表されるリン化合物
(b-1)下記一般式(2)で表されるリン化合物
(b-2)下記一般式(3)で表されるカルボン酸化合物
(c)含金属化合物
(d)潤滑油基油
【化1】
上記一般式(1)において、Rは水素原子を示し、Rは1以上の分岐鎖または1以上の炭素-炭素二重結合を有する炭素数4~30の炭化水素基を示し、Rは水素原子または炭素数4~30の炭化水素基を示す。
【化2】
上記一般式(2)において、Rは水素原子を示し、Rは炭素数12~22の直鎖の炭化水素基を示し、 は水素原子または炭素数12~22の炭化水素基を示す。
【化3】
上記一般式(3)において、Rは炭素数11~21の直鎖の炭化水素基を示す。
【請求項2】
前記(a)と、前記(b-1)および前記(b-2)の合計と、の質量比が、(a):((b-1)+(b-2))=5:95~95:5の範囲内である、請求項1に記載の表面保護剤組成物。
【請求項3】
前記(c)の金属が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛から選択される少なくとも1種である、請求項1または請求項2に記載の表面保護剤組成物。
【請求項4】
前記(d)が、組成物全量基準で、5.0~90質量%配合されてなる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の表面保護剤組成物。
【請求項5】
前記(d)が、100℃における動粘度10mm/s以上で数平均分子量400以上の潤滑油基油である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の表面保護剤組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の表面保護剤組成物により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われている、端子付き被覆電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、表面保護剤組成物および端子付き被覆電線に関し、さらに詳しくは、金属腐食を防止する防食性能に優れる表面保護剤組成物およびこれを用いて防食性能に優れる端子付き被覆電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属機器や金属部品において、潤滑目的や防食目的などで、グリースなどが用いられている。例えば特許文献1には、パーフルオロエーテル基油、増稠剤、硫酸バリウムまたは酸化アンチモンが含まれるグリースが機械部品に用いられることが記載されている。また、例えば特許文献2には、金属表面を保護するための組成物として、潤滑油基油にゲル化剤が添加されたものが用いられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4811408号公報
【文献】特開平06-33272号公報
【文献】特開2018-90690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2の組成物は、金属吸着成分が含まれていないため、金属表面への吸着力に劣り、金属表面に塗布された場合において、金属腐食を防止する防食性能に劣る。また、グリースは、潤滑油基油に増稠剤が分散されて半固体化または固体化されたものである。グリースは、加熱すると粘度が大きく低下するので、加熱によって塗布しやすくなるが、熱が加わると流出しやすくなるため、耐熱性に劣る。また、特許文献2の組成物も、潤滑油基油にゲル化剤が添加されて寒天状に固化されたものであり、加熱すると容易に液状になるため、加熱によって塗布しやすい。特許文献2の組成物は、ゲル化剤の選択によって、高温条件下でも流出されにくくできることはあるが、高温条件下でも流出されにくい構成であると、金属表面に塗布される際の加熱温度も高温になり、塗布されにくくなる。一方、ゲル化剤を含まない組成物は、流動性が高く均一に塗布しやすいものの、高温条件下において流出されにくくすることは困難であった。
【0005】
本開示の解決しようとする課題は、金属腐食を防止する防食性能に優れるとともに、均一塗布性および耐熱性にも優れる表面保護剤組成物およびこれを用いた端子付き被覆電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本開示に係る表面保護剤組成物は、 下記の(a)が、組成物全量基準で、リン元素換算量として0.1~10質量%、下記の(b-1)および下記の(b-2)から選択される少なくとも1種が、組成物全量基準で、5.0~60質量%、下記の(c)が、組成物全量基準で、金属元素換算量として0.1~10質量%、下記の(d)、が配合されてなることを要旨とするものである。
(a)下記一般式(1)で表されるリン化合物
(b-1)下記一般式(2)で表されるリン化合物
(b-2)下記一般式(3)で表されるカルボン酸化合物
(c)含金属化合物
(d)潤滑油基油
【化1】
上記一般式(1)において、Rは水素原子を示し、Rは1以上の分岐鎖または1以上の炭素-炭素二重結合を有する炭素数4~30の炭化水素基を示し、Rは水素原子または炭素数4~30の炭化水素基を示す。
【化2】
上記一般式(2)において、Rは水素原子を示し、Rは炭素数12~22の直鎖の炭化水素基を示し、 は水素原子または炭素数12~22の炭化水素基を示す。
【化3】
上記一般式(3)において、Rは炭素数11~21の直鎖の炭化水素基を示す。
【0007】
本開示に係る表面保護剤組成物は、前記(a)と、前記(b-1)および前記(b-2)の合計と、の質量比が、(a):((b-1)+(b-2))=5:95~95:5の範囲内であることが好ましい。また、前記(c)の含金属化合物の金属が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、前記(d)が、組成物全量基準で、5.0~90質量%配合されてなることが好ましい。また、前記(d)が、100℃における動粘度10mm/s以上で数平均分子量400以上の潤滑油基油であることが好ましい。
【0008】
そして、本開示に係る端子付き被覆電線は、本開示に係る表面保護剤組成物により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われていることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る表面保護剤組成物によれば、(a)のリン化合物と、(c)の含金属化合物と、が配合されていることで、塗布された金属表面に吸着される。そして、(a)のリン化合物が、分岐鎖または炭素-炭素二重結合を有する炭素数4~30の炭化水素基を有するリン化合物であり、これに加えて(d)が配合されていることで、金属表面に均一な塗膜が形成される。さらに、(b-1)および(b-2)から選択される少なくとも1種が配合されており、これらは比較的長鎖で直鎖状の炭化水素基を有する化合物であることで、高温環境下でも流動が抑えられる。したがって、金属腐食を防止する防食性能に優れるとともに、均一塗布性および耐熱性にも優れる。
【0010】
そして、本開示に係る端子付き被覆電線によれば、上記の表面保護剤組成物により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われていることから、金属腐食を防止する防食性能に優れるとともに、均一塗布性および耐熱性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一実施形態に係る端子付き被覆電線の斜視図である。
図2図2は、図1におけるA-A線縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本開示の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本開示に係る表面保護剤組成物(以下、本保護剤組成物ということがある。)は、下記の(a)、下記の(b-1)および下記の(b-2)から選択される少なくとも1種、下記の(c)、下記の(d)、が特定割合で配合されてなる。
【0014】
(a)は、下記一般式(1)で表されるリン化合物である。下記一般式(1)で表されるリン化合物は、炭化水素基からなる極性の低い部分(親油性部分)と、リン酸基を含む極性の高い部分を有している。
【化4】
上記一般式(1)において、Rは水素原子を示し、Rは1以上の分岐鎖または1以上の炭素-炭素二重結合を有する炭素数4~30の炭化水素基を示し、Rは水素原子または炭素数4~30の炭化水素基を示す。
【0015】
(a)は、炭素数4~30の炭化水素基を有することで、長鎖アルキル化合物などである(d)潤滑油基油との相溶性に優れる。これにより、(d)潤滑油基油が分離しないように本保護剤組成物中に(d)潤滑油基油を保持することができる。この炭化水素基の炭素数が4未満であると、(a)が結晶化しやすくなり、(d)潤滑油基油との相溶性が悪くなって、(d)潤滑油基油が分離しやすくなる。一方、この炭化水素基の炭素数が30超であると、(a)の粘性が高くなりすぎて、(d)潤滑油基油が配合されても表面保護剤組成物の均一塗布性が低下する。そして、(d)潤滑油基油との相溶性の観点から、上記炭化水素基の炭素数は、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上である。また、本保護剤組成物の均一塗布性の観点から、上記炭化水素基の炭素数は、より好ましくは26以下、さらに好ましくは22以下である。また、(a)は、1以上の分岐鎖または1以上の炭素-炭素二重結合を有することで、結晶化しにくくなり、(d)潤滑油基油との相溶性が確保される。
【0016】
上記一般式(1)において、Rは、Rと同じ炭化水素基であってもよいし、同じでなくてもよい。Rは、水素原子またはRと同じ炭化水素基であることが好ましい。
【0017】
における1以上の分岐鎖を有する炭素数4~30の炭化水素基としては、1以上の分岐鎖を有する炭素数4~30のアルキル基、炭素数4~30のシクロアルキル基、炭素数4~30のアルキル置換シクロアルキル基、1以上の分岐鎖を有する炭素数4~30のアルケニル基などが挙げられる。1以上の分岐鎖を有する炭素数4~30の炭化水素基としては、好ましくは、イソブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、2-エチルヘキシル基、イソデシル基、イソステアリル基、ブチルオクチル基、イソミリスチル基、イソセチル基、ヘキシルデシル基、イソベヘニル基、オクチルデシル基、オクチルドデシル基などが挙げられる。
【0018】
における1以上の炭素-炭素二重結合を有する炭素数4~30の炭化水素基としては、炭素数4~30のアルケニル基、炭素数4~30のシクロアルケニル基などが挙げられる。1以上の炭素-炭素二重結合を有する炭素数4~30の炭化水素基としては、好ましくは、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、オレイル基などが挙げられる。
【0019】
における炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキル置換アリール基、アリールアルキル基などが挙げられる。これらのうちでは、脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基であるアルキル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アルケニル基が好ましい。Rにおける炭化水素基が脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基であると、(a)と(d)潤滑油基油の相溶性が向上する。
【0020】
アルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アルキル基としては、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、イソステアリル基、ブチルオクチル基、ミリスチル基、イソミリスチル基、イソセチル基、ヘキシルデシル基、オクチルデシル基、オクチルドデシル基、ベヘニル基、イソベヘニル基などが挙げられる。
【0021】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基などが挙げられる。アルキル置換シクロアルキル基としては、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロへプチル基、ジメチルシクロへプチル基、メチルエチルシクロへプチル基、ジエチルシクロへプチル基などが挙げられる。アルキル置換シクロアルキル基の置換位置は、特に限定されない。
【0022】
アルケニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アルケニル基としては、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、オレイル基などが挙げられる。
【0023】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。アルキル置換アリール基としては、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、へプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基などが挙げられる。アルキル置換アリール基の置換位置は、特に限定されない。アルキル置換アリール基のアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アリールアルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基などが挙げられる。アリールアルキル基のアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0024】
上記一般式(1)で表される具体的なリン化合物としては、分岐鎖を有するものとして、イソブチルアシッドホスフェイト、2-エチルヘキシルアシッドホスフェイト、イソデシルアシッドホスフェイト、ブチルオクチルアシッドホスフェイト、イソミリスチルアシッドホスフェイト、イソセチルアシッドホスフェイト、ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、イソステアリルアシッドホスフェイト、イソベヘニルアシッドホスフェイト、オクチルデシルアシッドホスフェイト、オクチルドデシルアシッドホスフェイト、ジ-ブチルオクチルアシッドホスフェイト、ジ-イソミリスチルアシッドホスフェイト、ジ-イソセチルアシッドホスフェイト、ジ-ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、ジ-イソステアリルアシッドホスフェイト、ジ-イソベヘニルアシッドホスフェイト、ジ-オクチルデシルアシッドホスフェイト、ジ-オクチルドデシルアシッドホスフェイト、ジ-イソブチルアシッドホスフェイト、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェイト、ジ-イソデシルアシッドホスフェイトなどが挙げられる。また、炭素-炭素二重結合を有するものとして、オレイルアシッドホスフェイト、ジ-オレイルアシッドホスフェイト、パルミトレイルアシッドホスフェイト、ジ-パルミトレイルアシッドホスフェイト、エライジルアシッドホスフェイト、ジ-エライジルアシッドホスフェイトなどが挙げられる。
【0025】
(a)は、組成物全量基準で、リン元素換算量として0.1~10質量%配合される。組成物全量基準で、(a)の量がリン元素換算量として0.1質量%未満であると、表面保護剤組成物の金属表面への吸着力が弱く、金属表面の腐食を抑える効果が低い。組成物全量基準で、(a)の量がリン元素換算量として10質量%超であると、相対的に(b-1)および(b-2)から選択される少なくとも1種の量が少なくなりすぎて、高温環境下で流動を抑える効果が低下し、表面保護剤組成物の耐熱性が低い。そして、金属表面への吸着力の観点から、(a)は、組成物全量基準で、リン元素換算量として、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上である。また、耐熱性の観点から、(a)は、組成物全量基準で、リン元素換算量として、より好ましくは8.0質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下である。ここで、高温環境下とは、155℃の温度環境下をいう。
【0026】
(b-1)および(b-2)から選択される少なくとも1種は、長鎖で直鎖の炭化水素基を有する。(b-1)および(b-2)から選択される少なくとも1種は、その炭化水素基において分岐鎖および炭素-炭素二重結合を有しておらず、比較的長鎖で直鎖の炭化水素基を有するため、結晶性が高く、本保護剤組成物において結晶化することで、本保護剤組成物が高温環境下でも流動しにくく、耐熱性に優れたものとなる。この観点から、(b-1)および(b-2)は、以下のような所定の長さの炭化水素鎖を有する。(b-1)および(b-2)のうちでは、高軟化温度、および高温化での低流動性などの観点から、(b-1)がより好ましい。
【0027】
(b-1)は、下記一般式(2)で表されるリン化合物である。下記一般式(2)で表されるリン化合物は、炭化水素基からなる極性の低い部分(親油性部分)と、リン酸基を含む極性の高い部分を有している。
【化5】
上記一般式(2)において、Rは水素原子を示し、Rは炭素数12~22の直鎖の炭化水素基を示し、Rは水素原子または炭素数12~22の炭化水素基を示す。Rは、水素原子またはRと同じ炭化水素基であることが好ましい。
【0028】
の炭化水素基の炭素数が12未満であると、(b-1)の結晶性が低下し、表面保護剤組成物が高温環境下で流動し、耐熱性が低下する。一方、Rの炭化水素基の炭素数が22超であると、分散性に劣る。
【0029】
における炭素数12~22の直鎖の炭化水素基としては、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基(ミリスチル基)、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(パルミチル基)、ヘプタデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基(ベヘニル基)などが挙げられる。
【0030】
における炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキル置換アリール基、アリールアルキル基などが挙げられる。これらのうちでは、脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基であるアルキル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アルケニル基が好ましい。Rにおける炭化水素基が脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基であると、(b-1)と(d)潤滑油基油の相溶性が向上する。
【0031】
アルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アルキル基としては、ラウリル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ステアリル基、イソステアリル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ベヘニル基、イソベヘニル基、ブチルオクチル基、ミリスチル基、イソミリスチル基、イソセチル基、ヘキシルデシル基、オクチルデシル基、オクチルドデシル基などが挙げられる。
【0032】
アルケニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アルケニル基としては、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、オレイル基などが挙げられる。
【0033】
アルキル置換アリール基としては、ヘキシルフェニル基、へプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基などが挙げられる。アルキル置換アリール基の置換位置は、特に限定されない。アルキル置換アリール基のアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アリールアルキル基としては、フェニルヘキシル基などが挙げられる。アリールアルキル基のアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0034】
上記一般式(2)で表される具体的なリン化合物としては、ラウリルアシッドホスフェイト、トリデシルアシッドホスフェイト、ステアリルアシッドホスフェイト、ミリスチルアシッドホスフェイト、パルミチルアシッドホスフェイト、ベヘニルアシッドホスフェイト、ジ-ラウリルアシッドホスフェイト、ジ-トリデシルアシッドホスフェイト、ジ-ステアリルアシッドホスフェイト、ジ-ミリスチルアシッドホスフェイト、ジ-パルミチルアシッドホスフェイト、ジ-ベヘニルアシッドホスフェイトなどが挙げられる。
【0035】
(b-2)は、下記一般式(3)で表されるカルボン酸化合物である。下記一般式(3)で表されるカルボン酸化合物は、炭化水素基からなる極性の低い部分(親油性部分)と、カルボン酸基を含む極性の高い部分を有している。
【化6】
上記一般式(3)において、Rは炭素数11~21の直鎖の炭化水素基を示す。
【0036】
の炭化水素基の炭素数が11未満であると、(b-2)の結晶性が低下し、表面保護剤組成物が高温環境下で流動し、耐熱性が低下する。一方、Rの炭化水素基の炭素数が21超であると、分散性に劣る。
【0037】
における炭素数11~21の直鎖の炭化水素基としては、ウンデシル基、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基(ミリスチル基)、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(パルミチル基)、ヘプタデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基などが挙げられる。
【0038】
上記一般式(3)で表される具体的なカルボン酸化合物としては、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イコサン酸、ヘンイコシル酸、ドコサン酸(ベヘン酸)などが挙げられる。
【0039】
(b-1)および(b-2)から選択される少なくとも1種は、組成物全量基準で、5.0~60質量%配合される。組成物全量基準で、上記の量が5.0質量%未満であると、表面保護剤組成物が高温環境下で流動し、耐熱性が低下する。組成物全量基準で、上記の量が60質量%超であると、(b-1)や(b-2)の高い結晶性の影響で表面保護剤組成物が常温で固化し、加熱しても流動しにくく、金属表面に均一な塗膜が形成されない。これにより、金属表面の腐食を抑える効果が低い。また、相対的に(a)の量が少なくなりすぎるので、表面保護剤組成物の金属表面への吸着力が弱く、金属表面の腐食を抑える効果が低い。そして、耐熱性の観点から、上記の量は、組成物全量基準で、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、特に好ましくは20質量%以上である。また、均一塗布性、金属表面への吸着力の観点から、上記の量は、組成物全量基準で、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。
【0040】
(a)と、(b-1)および(b-2)の合計と、の質量比は、(a):((b-1)+(b-2))=5:95~95:5の範囲内であることが好ましい。上記質量比において、(a)が5以上であると、あるいは、(b-1)および(b-2)の合計が95以下であると、本保護剤組成物の金属表面への吸着力が強く、金属表面の腐食を抑える効果が高い。また、上記質量比において、(a)が95以下であると、あるいは、(b-1)および(b-2)の合計が5以上であると、本保護剤組成物が高温環境下で流動しにくい。そして、同様の観点から、(a)と、(b-1)および(b-2)の合計と、の質量比は、より好ましくは(a):((b-1)+(b-2))=10:90~90:10の範囲内、さらに好ましくは(a):((b-1)+(b-2))=30:70~70:30の範囲内である。
【0041】
(c)は、含金属化合物である。本保護剤組成物が塗布された金属表面において、(c)により金属表面の金属のイオン化が促進され、(a)のリン化合物が金属表面に吸着することができる。これにより、本保護剤組成物が金属表面に吸着することができる。
【0042】
含金属化合物としては、金属水酸化物、金属酸化物などが挙げられる。含金属化合物の金属としては、Li,Na,Kなどのアルカリ金属、Mg,Caなどのアルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛などが挙げられる。(c)は、これらのいずれか1種の金属からなる含金属化合物の1種のみで構成されていてもよいし、2種以上で構成されていてもよい。これらの金属は、イオン化傾向が比較的高いため、本保護剤組成物において共存することにより金属表面の金属のイオン化が促進され、(a)のリン化合物が金属表面に強く吸着することができる。
【0043】
含金属化合物の金属としては、親水性の観点から、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛などの価数が2価以上のものが好ましい。また、耐水性などの観点から、Ca,Mgがより好ましい。
【0044】
(c)は、組成物全量基準で、金属元素換算量として0.1~10質量%配合される。組成物全量基準で、(c)の量が金属元素換算量として0.1質量%未満であると、(a)のリン化合物が金属表面にイオン結合を形成し金属表面に吸着する吸着力が弱く、表面保護剤組成物による金属表面の腐食を抑える効果が低い。また、組成物全量基準で、(c)の量が金属元素換算量として10質量%超であると、余剰の含金属化合物の影響が大きくなり、保護効果が得られない。また、(a)のリン化合物の吸着力の観点から、(c)は、組成物全量基準で、金属元素換算量として、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上である。また、(c)は、組成物全量基準で、金属元素換算量として、より好ましくは8.0質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下である。
【0045】
(d)は、潤滑油基油である。本保護剤組成物は、(a)とともに(d)が配合されることで、常温で粘性の液体となることができる。(d)が配合されないと、(b-1)および(b-2)から選択される少なくとも1種が配合されるため、表面保護剤組成物は常温で固形になり、金属表面に均一な塗膜が形成されにくくなる。本保護剤組成物は、(d)を含むことで、金属表面に均一な塗膜が形成される。(d)は、組成物全量基準で、5.0~90質量%配合されることが好ましい。より好ましくは10~70質量%、さらに好ましくは20~70質量%である。
【0046】
潤滑油基油としては、通常の潤滑油の基油として用いられる任意の鉱油、ワックス異性化油、合成油の1種または2種以上の混合物を使用することができる。鉱油としては、具体的には、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱瀝、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱蝋、接触脱蝋、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の油やノルマルパラフィン等が使用できる。
【0047】
ワックス異性化油としては、炭化水素油を溶剤脱ろうして得られる石油スラックワックスなどの天然ワックス、あるいは一酸化炭素と水素との混合物を高温高圧で適用な合成触媒と接触させる、いわゆるFischer Tropsch合成方法で生成される合成ワックスなどのワックス原料を水素異性化処理することにより調製されたものが使用できる。ワックス原料としてスラックワックスを使用する場合、スラックワックスは硫黄と窒素を大量に含有しており、これらは潤滑油基油には不要であるため、必要に応じて水素化処理し、硫黄分、窒素分を削減したワックスを原料として用いることが望ましい。
【0048】
合成油としては、特に制限はないが、1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンオリゴマー等のポリα-オレフィンまたはその水素化物、イソブテンオリゴマーまたはその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。
【0049】
潤滑油基油の動粘度は、特に限定されるものではないが、通常、100℃において1~150mm/sの範囲内であることが好ましい。
【0050】
潤滑油基油は、100℃における動粘度が10mm/s以上、かつ数平均分子量が400以上のものを用いるとよい。潤滑油基油の上記動粘度が高くなることで、本保護剤組成物の動粘度が上昇するので、高温環境下で流動しにくくなり、耐熱性が向上する。そして、この観点から、上記動粘度は、より好ましくは15mm/s以上、さらに好ましくは20mm/s以上である。また、塗布しやすさなどの観点から、上記動粘度は、より好ましくは150mm/s以下、さらに好ましくは120mm/s以下である。動粘度は、JIS K2283に準拠して測定される。
【0051】
潤滑油基油は、数平均分子量が400以上であることで、分子量が高く、高温環境下で酸化劣化が抑えられ、これにより上記動粘度の低下が抑えられる。高温環境下で潤滑油基油の上記動粘度が高く維持されるので、高温環境下で流動しにくくなり、耐熱性が向上する。そして、この観点から、上記数平均分子量は、より好ましくは450以上である。また、塗布しやすさなどの観点から、上記数平均分子量は、より好ましくは10000以下、さらに好ましくは8000以下である。
【0052】
本保護剤組成物においては、本開示の機能を損なわない範囲において、安定化剤、腐食防止剤、色素、増粘剤、フィラーなどが配合されてもよい。
【0053】
本保護剤組成物は、(a)、(b-1)および(b-2)から選択される少なくとも1種、(c)、(d)がまとめて混合されることにより調製されてもよいし、(a)と(c)が混合された後、(b-1)および(b-2)から選択される少なくとも1種、(d)がさらに加えられて混合されることにより調製されてもよい。
【0054】
被塗布材の表面に本保護剤組成物が塗布されるか、本保護剤組成物中に被塗布材が浸漬されることにより、被塗布材の表面に本保護剤組成物が塗布される。被塗布材としては、金属材が挙げられる。金属材の金属種としては、Cu、Cu合金、Al、Al合金、これらに各種めっきが施された金属材など、端子金具や電線導体などにおいて好適に用いられる金属が挙げられる。本保護剤組成物は、被塗布材の表面に塗布されることで、塗膜となる。これにより、被塗布材の表面が本保護剤組成物の塗膜に覆われる。本保護剤組成物の塗膜の膜厚は、特に限定されるものではなく、0.5~100μm程度に調整されればよい。
【0055】
以上の構成の本保護剤組成物によれば、(a)のリン化合物と、(c)の含金属化合物と、が配合されていることで、塗布した金属表面に吸着される。そして、(a)のリン化合物が、分岐鎖または炭素-炭素二重結合を有する炭素数4~30の炭化水素基を有するリン化合物であり、これに加えて(d)が配合されていることで、塗布した金属表面に均一な塗膜が形成される。さらに、(b-1)および(b-2)から選択される少なくとも1種が配合されており、これらは直鎖状の炭化水素基を有する化合物であることで、高温環境下でも流動が抑えられる。しがたって、金属腐食を防止する防食性能に優れるとともに、均一塗布性および耐熱性にも優れる。本保護剤組成物は、(b-1)および(b-2)から選択される少なくとも1種が配合されることで耐熱性が高められており、(メタ)アクリル樹脂などの光硬化性樹脂が配合されていなくても耐熱性に優れる。
【0056】
本保護剤組成物は、防食用途などに用いることができる。例えば、表面保護対象の金属部材の表面に密着させて該金属表面を覆って金属腐食を防止する防食用として用いることができる。また、防食用途としては、例えば端子付き被覆電線の防食剤などとして用いることができる。
【0057】
次に、本開示に係る端子付き被覆電線について説明する。
【0058】
本開示に係る端子付き被覆電線は、絶縁電線の導体端末に端子金具が接続されたものにおいて、本保護剤組成物により端子金具と電線導体の電気接続部が覆われたものからなる。これにより、電気接続部での腐食が防止される。
【0059】
図1は、本開示の一実施形態に係る端子付き被覆電線の斜視図であり、図2図1におけるA-A線縦断面図である。図1図2に示すように、端子付き被覆電線1は、電線導体3が絶縁被覆(絶縁体)4により被覆された被覆電線2の電線導体3と端子金具5が電気接続部6により電気的に接続されている。
【0060】
端子金具5は、相手側端子と接続される細長い平板からなるタブ状の接続部51と、接続部51の端部に延設形成されているワイヤバレル52とインシュレーションバレル53からなる電線固定部54を有する。端子金具5は、金属製の板材をプレス加工することにより所定の形状に成形(加工)することができる。
【0061】
電気接続部6では、被覆電線2の端末の絶縁被覆4を皮剥ぎして、電線導体3を露出させ、この露出させた電線導体3が端子金具5の片面側に圧着されて、被覆電線2と端子金具5が接続される。端子金具5のワイヤバレル52を被覆電線2の電線導体3の上から加締め、電線導体3と端子金具5が電気的に接続される。又、端子金具5のインシュレーションバレル53を、被覆電線2の絶縁被覆4の上から加締める。
【0062】
端子付き被覆電線1において、一点鎖線で示した範囲が、本保護剤組成物の塗膜7により覆われる。具体的には、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち先端より先の端子金具5の表面から、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち後端より後の絶縁被覆4の表面までの範囲が、塗膜7により覆われる。つまり、被覆電線2の先端2a側は、電線導体3の先端から端子金具5の接続部51側に少しはみ出すように塗膜7で覆われる。端子金具5の先端5a側は、インシュレーションバレル53の端部から被覆電線2の絶縁被覆4側に少しはみ出すように塗膜7で覆われる。そして、図2に示すように、端子金具5の側面5bも塗膜7で覆われる。なお、端子金具5の裏面5cは塗膜7で覆われなくてもよいし、覆われていてもよい。塗膜7の周端は、端子金具5の表面に接触する部分と、電線導体3の表面に接触する部分と、絶縁被覆4の表面に接触する部分と、で構成される。
【0063】
こうして、端子金具5と被覆電線2の外側周囲の形状に沿って、電気接続部6が塗膜7により所定の厚さで覆われる。これにより、被覆電線2の電線導体3の露出した部分は塗膜7により完全に覆われて、外部に露出しないようになる。したがって、電気接続部6は塗膜7により完全に覆われる。塗膜7は、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとも密着性に優れるので、塗膜7により、電線導体3および電気接続部6に外部から水分等が侵入して金属部分が腐食するのを防止する。また、密着性に優れるため、例えばワイヤーハーネスの製造から車両に取り付けるまでの過程において、電線が曲げられた場合にも、塗膜7の周端で塗膜7と、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとの間にも隙間ができにくく、防水性や防食機能が維持される。
【0064】
塗膜7を形成する本保護剤組成物は、所定の範囲に塗布される。塗膜7を形成する本保護剤組成物の塗布は、滴下法、塗布法等の公知の手段を用いることができる。
【0065】
塗膜7は、所定の厚みで所定の範囲に形成される。その厚みは、0.1mm以下が好ましい。塗膜7が厚くなりすぎると、端子金具5をコネクタへ挿入しにくくなる。
【0066】
被覆電線2の電線導体3は、複数の素線3aが撚り合わされてなる撚線よりなる。この場合、撚線は、1種の金属素線より構成されていても良いし、2種以上の金属素線より構成されていても良い。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線などを含んでいても良い。なお、1種の金属素線より構成されるとは、撚線を構成する全ての金属素線が同じ金属材料よりなることをいい、2種以上の金属素線より構成されるとは、撚線中に互いに異なる金属材料よりなる金属素線を含んでいることをいう。撚線中には、被覆電線2を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていても良い。
【0067】
電線導体3を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラーなどを挙げることができる。電線導体3を構成する金属素線としては、軽量化の観点から、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料が好ましい。
【0068】
絶縁被覆4の材料としては、例えば、ゴム、ポリオレフィン、PVC、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。絶縁被覆4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていても良い。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0069】
端子金具5の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子金具5の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、錫、ニッケル、金などの各種金属によりめっきが施されていても良い。
【0070】
なお、図1に示す端子付き被覆電線1では、電線導体の端末に端子金具が圧着接続されているが、圧着接続に代えて溶接などの他の公知の電気接続方法であってもよい。
【実施例
【0071】
以下、実施例により本開示を説明するが、本開示は、実施例により限定されるものではない。
【0072】
<表面保護剤組成物の調製>
(試料1)
オレイルアシッドホスフェイト、ラウリルアシッドホスフェイトのメタノール溶液に水酸化カルシウムを加え、室温で攪拌後、メタノールを留去し、次いで、潤滑油基油(鉱物系基油)を配合し、表面保護剤組成物を調製した。配合組成(質量%)は表1の通りである。
・オレイルアシッドホスフェイト:炭素-炭素二重結合を有する炭素数18の炭化水素基を有するリン化合物
・ラウリルアシッドホスフェイト:炭素数12の直鎖の炭化水素基を有するリン化合物
【0073】
(試料2~10)
表1に記載の配合組成(質量%)で、試料1と同様にして、表面保護剤組成物を調製した。
・2-エチルヘキシルアシッドホスフェイト:分岐鎖を有する炭素数8の炭化水素基を有するリン化合物
・ラウリン酸:炭素数12の直鎖カルボン酸
・ベヘン酸:炭素数22の直鎖カルボン酸
【0074】
(試料11)
(b-1)(b-2)のいずれも配合しないで、表1に記載の配合組成(質量%)で表面保護剤組成物を調製した。
【0075】
(試料12)
(a)を配合しないで、表1に記載の配合組成(質量%)で表面保護剤組成物を調製した。
【0076】
(試料13)
(b-2)に代えて(x-1)を配合し、表1に記載の配合組成(質量%)で表面保護剤組成物を調製した。
・カプリル酸:炭素数8の直鎖カルボン酸
【0077】
(試料14)
(d)を配合しないで、表1に記載の配合組成(質量%)で表面保護剤組成物を調製した。
【0078】
(試料15~16)
表1に記載の配合組成(質量%)で表面保護剤組成物を調製した。試料15は、(b-1)の配合量が多い。試料16は、(b-1)の配合量が少ない。
【0079】
<評価>
(均一塗布性)
調製した各表面保護剤組成物を0.05gずつ2cm×2cmの銅板上に120℃でスポット塗布した後、膜の性状を目視で評価した。均一な塗膜となっているものを良好「○」、不均一な塗膜となっているものを不良「×」とした。
【0080】
(耐熱性)
調製した各表面保護剤組成物を0.05gずつ1cm×5cmの短冊状銅板の面の一方端側に120℃でスポット塗布した後、短冊状銅板の塗布した一方端側を上にして155℃のオーブン中に垂直に立てかけ、2時間放置後、目視で観察した。塗膜が塗布した一方端側から垂れ落ちなかったものは特に良好「◎」、一部が垂れ落ちたものは良好「○」、完全に垂れ落ちたものは不良「×」とした。温度等の測定条件は、JIS C60068-2-2に基づいた。
【0081】
(防食性能)
120℃に加熱した表面保護剤組成物に1cm×5cmの短冊状銅板を一方端から2cm浸漬し、短冊状銅板の塗布した一方端側を上にして155℃のオーブン中に垂直に2時間ぶら下げた後、常温まで戻した。これを測定用試験片とした。測定用試験片の塗膜で覆われた部分をカソード電極とし、別途準備したAl板をアノード電極とし、5%NaCl水溶液中に電極を浸し、電位差(腐食電流)を測定した。電位差が小さいほど、短冊状銅板上に塗膜が均一に存在し、かつ、短冊状銅板の表面に対する塗膜の吸着力が強いといえる。一方、電位差が大きいほど、短冊状銅板上の塗膜が不均一であるか、あるいは、短冊状銅板の表面に対する塗膜の吸着力が弱いといえる。なお、表面保護剤組成物に浸漬していない未処理の短冊状銅板は、155℃のオーブン中に垂直に2時間ぶら下げた後で、これをカソード電極とした場合、腐食電流値は80μAであり、これとの比較で、電流値がこの値の1/5未満であると、表面保護性(防食性能)の効果が高い「○」、電流値がこの値の1/10未満であると、表面保護性(防食性能)の効果が特に高い「◎」、電流値がこの値の1/5以上であると、表面保護性(防食性能)の効果が低い「×」と判断できる。
【0082】
【表1】
【0083】
試料1~10の表面保護剤組成物は、(a)、(b-1)および(b-2)から選択される少なくとも1種、(c)、(d)が特定割合で配合されてなる。このため、金属腐食を防止する防食性能に優れるとともに、均一塗布性および耐熱性にも優れる。
【0084】
試料11の表面保護剤組成物は、(b-1)(b-2)のいずれも配合されていないため、155℃の高温環境下で塗布された金属表面から垂れ落ち、耐熱性および防食性能に劣っている。試料12の表面保護剤組成物は、(a)が配合されていないため、塗布された金属表面に吸着しておらず、腐食電流が高く、金属腐食を防止する防食性能に劣っている。試料13の表面保護剤組成物は、(b-1)や(b-2)ではなく(x-1)が配合されている。(x-1)は、炭素数8の直鎖カルボン酸であり、直鎖の炭化水素鎖が短いため、(x-1)の結晶性が低く、155℃の高温環境下で塗布された金属表面から垂れ落ち、耐熱性および防食性能に劣っている。試料14の表面保護剤組成物は、(d)が配合されていないため、流動性がなく、もろくなり、均一な塗膜が形成されていない。試料15の表面保護剤組成物は、(b-1)の配合量が多いため、流動性がなく、もろくなり、均一な塗膜が形成されていない。試料16の表面保護剤組成物は、(b-1)の配合量が少ないため、(-1)の結晶化による耐熱性の向上効果が不十分で、155℃の高温環境下で塗布された金属表面から垂れ落ち、耐熱性および防食性能に劣っている。
【0085】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本開示は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 端子付き被覆電線
2 被覆電線
3 電線導体
4 絶縁被覆(絶縁体)
5 端子金具
6 電気接続部
7 塗膜
図1
図2