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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】イオン生成装置およびイオン注入装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 27/08 20060101AFI20230405BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20230405BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20230405BHJP
   C23C 14/48 20060101ALI20230405BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
H01J27/08
H01J37/08
H01J37/317 Z
C23C14/48 Z
H01L21/265 603A
H01L21/265 Z
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019131070
(22)【出願日】2019-07-16
(65)【公開番号】P2021015758
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】室岡 博樹
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-512558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/08
H01J 37/08
H01J 37/317
C23C 14/48
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物元素の単体である第1固体材料と前記不純物元素を含む化合物である第2固体材料を混合した原料を加熱して、前記第1固体材料および前記第2固体材料から前記不純物元素を含む蒸気を生成するための蒸気生成室と、
前記蒸気を用いて前記不純物元素のイオンを含むプラズマを生成するプラズマ生成室と、を備えることを特徴とするイオン生成装置。
【請求項2】
前記不純物元素は、金属であることを特徴とする請求項1に記載のイオン生成装置。
【請求項3】
前記不純物元素は、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、アンチモン(Sb)、ガリウム(Ga)、スズ(Sn)、またはマグネシウム(Mg)のいずれかであることを特徴とする請求項2に記載のイオン生成装置。
【請求項4】
前記第2固体材料は、前記不純物元素を含むハロゲン化合物であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項5】
前記第2固体材料は、前記不純物元素を含むフッ素化合物であることを特徴とする請求項4に記載のイオン生成装置。
【請求項6】
前記第1固体材料は、顆粒状、粒状、ショット状またはバルク状であり、
前記第2固体材料は、粉末状、顆粒状または粒状であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項7】
前記原料に含まれる前記第1固体材料の重量割合は、5%以上95%以下であり、前記原料に含まれる前記第2固体材料の重量割合は、5%以上95%以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項8】
前記蒸気生成室の前記原料と接触する内面がグラファイトで構成されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項9】
前記蒸気生成室内での前記原料の加熱温度は、500℃以上1000℃以下であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項10】
前記不純物元素とは異なる元素の単体または前記不純物元素とは異なる元素を含む化合物であるアシストガスを前記プラズマ生成室に導入するガス導入部をさらに備え、
前記蒸気と前記アシストガスの混合ガスを用いて前記プラズマ生成室内で前記プラズマが生成されることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項11】
前記アシストガスは、希ガス、水素化合物ガスまたはハロゲン化合物ガスであることを特徴とする請求項10に記載のイオン生成装置。
【請求項12】
前記アシストガスは、フッ素化合物ガスであることを特徴とする請求項11に記載のイオン生成装置。
【請求項13】
前記アシストガスは、三フッ化ホウ素(BF)ガスであることを特徴とする請求項12に記載のイオン生成装置。
【請求項14】
前記第1固体材料はアルミニウムであり、前記第2固体材料は三フッ化アルミニウム(AlF)であることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項15】
前記プラズマ生成室内で生成される前記プラズマからビーム電流量が5mA以上のアルミニウムイオンビームが引出可能であることを特徴とする請求項14に記載のイオン生成装置。
【請求項16】
前記プラズマ生成室内で生成される前記プラズマから前記不純物元素の多価イオンのイオンビームが引出可能であることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項17】
前記プラズマ生成室を区画し、前記プラズマ生成室内で生成される前記プラズマから前記不純物元素のイオンビームを引き出すためのスリットを有するアークチャンバと、
前記アークチャンバ内に熱電子を放出して前記プラズマを生成させるカソードと、を備えることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載のイオン生成装置と、
前記イオン生成装置から引き出される前記不純物元素のイオンビームをウェハまで輸送するビームライン装置と、を備えることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項19】
請求項1から17のいずれか一項に記載のイオン生成装置と、
前記イオン生成装置から引き出される前記不純物元素のイオンビームをウェハまで輸送するビームライン装置と、を備え、
前記ビームライン装置は、前記イオン生成装置の下流に設けられる質量分析部を備え、
前記質量分析部は、前記イオン生成装置から引き出された前記不純物元素のイオンを含むイオンビームに磁場を印加する質量分析磁石と、前記質量分析磁石の下流に配置される質量分析スリットとを含み、前記不純物元素のイオンが前記質量分析スリットを選択的に通過するように前記磁場を調整し、前記ウェハまで輸送される前記不純物元素のイオンビームを生成することを特徴とするイオン注入装置。
【請求項20】
前記質量分析部は、前記イオン生成装置から引き出された前記不純物元素のイオンを含む種々のイオンを含むイオンビームに対して前記磁場を印加し、イオンの質量電荷比の値に応じて前記種々のイオンを異なる経路で偏向させることにより、前記不純物元素のイオンが前記質量分析スリットを選択的に通過するように前記磁場を調整することを特徴とする、請求項19に記載のイオン注入装置。
【請求項21】
前記第1固体材料および前記第2固体材料を混合した前記原料を加熱して生成された蒸気を用いた前記不純物元素のイオンビームのビーム電流量の最大値は、前記第1固体材料または前記第2固体材料のみを加熱して生成された蒸気を用いた前記不純物元素のイオンビームのビーム電流量の最大値よりも大きいことを特徴とする請求項19または20に記載のイオン注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン生成装置およびイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、半導体の導電性を変化させる目的、半導体の結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウェハにイオンを注入する工程(イオン注入工程ともいう)が標準的に実施されている。この工程で使用される装置は、一般にイオン注入装置と呼ばれる。このようなイオン注入装置では、ソースガスをプラズマ化してイオンを生成するためのイオン生成装置が用いられる。ソースガスとして、不純物元素を含む固体材料を加熱して生成される蒸気が用いられることがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-359985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ある種の不純物元素のイオンを取得する際に、単一種類の固体材料の加熱により生成される蒸気を用いてイオンを生成しようとすると、イオン生成装置から引き出されるイオンビームの電流量やイオン生成装置の寿命が不十分であった。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、固体材料の加熱により生成される蒸気を原料に用いるイオン生成装置の性能を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のイオン生成装置は、不純物元素の単体である第1固体材料と不純物元素を含む化合物である第2固体材料を混合した原料を加熱して蒸気を生成するための蒸気生成室と、蒸気を用いて不純物元素のイオンを含むプラズマを生成するプラズマ生成室と、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、イオン注入装置である。イオン注入装置は、ある態様のイオン生成装置と、イオン生成装置から引き出される不純物元素のイオンビームをウェハまで輸送するビームライン装置と、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固体材料の加熱により生成される蒸気を原料に用いるイオン生成装置の性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係るイオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
図2図1のイオン注入装置の概略構成を示す側面図である。
図3】実施の形態に係るイオン生成装置の構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0012】
実施の形態を詳述する前に概要を説明する。本実施の形態は、イオン生成装置を備えるイオン注入装置である。イオン生成装置は、固体材料の原料を加熱して蒸気を生成するための蒸気生成室と、蒸気を用いて不純物元素のイオンを含むプラズマを生成するプラズマ生成室と、を備える。本実施の形態では、蒸気を生成するための原料として、不純物元素の単体である第1固体材料と、不純物元素を含む化合物である第2固体材料を混合した原料を使用する。原料として2種類の固体材料を混合して使用することにより、イオン生成装置から取り出し可能なイオンビームの電流量を高めるとともに、イオン生成装置の寿命を改善できる。
【0013】
図1は、実施の形態に係るイオン注入装置10を概略的に示す上面図であり、図2は、イオン注入装置10の概略構成を示す側面図である。イオン注入装置10は、被処理物Wの表面にイオン注入処理を施すよう構成される。被処理物Wは、例えば基板であり、例えば半導体ウェハである。説明の便宜のため、本明細書において被処理物WをウェハWと呼ぶことがあるが、これは注入処理の対象を特定の物体に限定することを意図しない。
【0014】
イオン注入装置10は、ビームを一方向に往復走査させ、ウェハWを走査方向と直交する方向に往復運動させることによりウェハWの処理面全体にわたってイオンビームを照射するよう構成される。本書では説明の便宜上、設計上のビームラインAに沿って進むイオンビームの進行方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。イオンビームを被処理物Wに対し走査する場合において、ビームの走査方向をx方向とし、z方向及びx方向に垂直な方向をy方向とする。したがって、ビームの往復走査はx方向に行われ、ウェハWの往復運動はy方向に行われる。
【0015】
イオン注入装置10は、イオン生成装置12と、ビームライン装置14と、注入処理室16と、ウェハ搬送装置18とを備える。イオン生成装置12は、イオンビームをビームライン装置14に与えるよう構成される。ビームライン装置14は、イオン生成装置12から注入処理室16へイオンビームを輸送するよう構成される。注入処理室16には、注入対象となるウェハWが収容され、ビームライン装置14から与えられるイオンビームをウェハWに照射する注入処理がなされる。ウェハ搬送装置18は、注入処理前の未処理ウェハを注入処理室16に搬入し、注入処理後の処理済ウェハを注入処理室16から搬出するよう構成される。イオン注入装置10は、イオン生成装置12、ビームライン装置14、注入処理室16およびウェハ搬送装置18に所望の真空環境を提供するための真空排気系(図示せず)を備える。
【0016】
ビームライン装置14は、ビームラインAの上流側から順に、質量分析部20、ビームパーク装置24、ビーム整形部30、ビーム走査部32、ビーム平行化部34および角度エネルギーフィルタ(AEF;Angular Energy Filter)36を備える。なお、ビームラインAの上流とは、イオン生成装置12に近い側のことをいい、ビームラインAの下流とは注入処理室16(またはビームストッパ46)に近い側のことをいう。
【0017】
質量分析部20は、イオン生成装置12の下流に設けられ、イオン生成装置12から引き出されたイオンビームから必要なイオン種を質量分析により選択するよう構成される。質量分析部20は、質量分析磁石21と、質量分析レンズ22と、質量分析スリット23とを有する。
【0018】
質量分析磁石21は、イオン生成装置12から引き出されたイオンビームに磁場を印加し、イオンの質量電荷比M=m/q(mは質量、qは電荷)の値に応じて異なる経路でイオンビームを偏向させる。質量分析磁石21は、例えばイオンビームにy方向(図1および図2では-y方向)の磁場を印加してイオンビームをx方向に偏向させる。質量分析磁石21の磁場強度は、所望の質量電荷比Mを有するイオン種が質量分析スリット23を通過するように調整される。
【0019】
質量分析レンズ22は、質量分析磁石21の下流に設けられ、イオンビームに対する収束/発散力を調整するよう構成される。質量分析レンズ22は、質量分析スリット23を通過するイオンビームのビーム進行方向(z方向)の収束位置を調整し、質量分析部20の質量分解能M/dMを調整する。なお、質量分析レンズ22は必須の構成ではなく、質量分析部20に質量分析レンズ22が設けられなくてもよい。
【0020】
質量分析スリット23は、質量分析レンズ22の下流に設けられ、質量分析レンズ22から離れた位置に設けられる。質量分析スリット23は、質量分析磁石21によるビーム偏向方向(x方向)がスリット幅となるように構成され、x方向が相対的に短く、y方向が相対的に長い形状の開口23aを有する。
【0021】
質量分析スリット23は、質量分解能の調整のためにスリット幅が可変となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅方向に移動可能な二枚の遮蔽体により構成され、二枚の遮蔽体の間隔を変化させることによりスリット幅が調整可能となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅の異なる複数のスリットのいずれか一つに切り替えることによりスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。
【0022】
ビームパーク装置24は、ビームラインAからイオンビームを一時的に退避し、下流の注入処理室16(またはウェハW)に向かうイオンビームを遮蔽するよう構成される。ビームパーク装置24は、ビームラインAの途中の任意の位置に配置することができるが、例えば、質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間に配置できる。質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間には一定の距離が必要であるため、その間にビームパーク装置24を配置することで、他の位置に配置する場合よりもビームラインAの長さを短くすることができ、イオン注入装置10の全体を小型化できる。
【0023】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25(25a,25b)と、ビームダンプ26と、を備える。一対のパーク電極25a,25bは、ビームラインAを挟んで対向し、質量分析磁石21のビーム偏向方向(x方向)と直交する方向(y方向)に対向する。ビームダンプ26は、パーク電極25a,25bよりもビームラインAの下流側に設けられ、ビームラインAからパーク電極25a,25bの対向方向に離れて設けられる。
【0024】
第1パーク電極25aはビームラインAよりも重力方向上側に配置され、第2パーク電極25bはビームラインAよりも重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、ビームラインAよりも重力方向下側に離れた位置に設けられ、質量分析スリット23の開口23aの重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、例えば、質量分析スリット23の開口23aが形成されていない部分で構成される。ビームダンプ26は、質量分析スリット23とは別体として構成されてもよい。
【0025】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bの間に印加される電場を利用してイオンビームを偏向させ、ビームラインAからイオンビームを退避させる。例えば、第1パーク電極25aの電位を基準として第2パーク電極25bに負電圧を印加することにより、イオンビームをビームラインAから重力方向下方に偏向させてビームダンプ26に入射させる。図2において、ビームダンプ26に向かうイオンビームの軌跡を破線で示している。また、ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bを同電位とすることにより、イオンビームをビームラインAに沿って下流側に通過させる。ビームパーク装置24は、イオンビームを下流側に通過させる第1モードと、イオンビームをビームダンプ26に入射させる第2モードとを切り替えて動作可能となるよう構成される。
【0026】
質量分析スリット23の下流にはインジェクタファラデーカップ28が設けられる。インジェクタファラデーカップ28は、インジェクタ駆動部29の動作によりビームラインAに出し入れ可能となるよう構成される。インジェクタ駆動部29は、インジェクタファラデーカップ28をビームラインAの延びる方向と直交する方向(例えばy方向)に移動させる。インジェクタファラデーカップ28は、図2の破線で示すようにビームラインA上に配置された場合、下流側に向かうイオンビームを遮断する。一方、図2の実線で示すように、インジェクタファラデーカップ28がビームラインA上から外された場合、下流側に向かうイオンビームの遮断が解除される。
【0027】
インジェクタファラデーカップ28は、質量分析部20により質量分析されたイオンビームのビーム電流を計測するよう構成される。インジェクタファラデーカップ28は、質量分析磁石21の磁場強度を変化させながらビーム電流を測定することにより、イオンビームの質量分析スペクトラムを計測できる。計測した質量分析スペクトラムを用いて、質量分析部20の質量分解能を算出することができる。
【0028】
ビーム整形部30は、収束/発散四重極レンズ(Qレンズ)などの収束/発散装置を備えており、質量分析部20を通過したイオンビームを所望の断面形状に整形するよう構成されている。ビーム整形部30は、例えば、電場式の三段四重極レンズ(トリプレットQレンズともいう)で構成され、三つの四重極レンズ30a,30b,30cを有する。ビーム整形部30は、三つのレンズ装置30a~30cを用いることにより、イオンビームの収束または発散をx方向およびy方向のそれぞれについて独立に調整しうる。ビーム整形部30は、磁場式のレンズ装置を含んでもよく、電場と磁場の双方を利用してビームを整形するレンズ装置を含んでもよい。
【0029】
ビーム走査部32は、ビームの往復走査を提供するよう構成され、整形されたイオンビームをx方向に走査するビーム偏向装置である。ビーム走査部32は、ビーム走査方向(x方向)に対向する走査電極対を有する。走査電極対は可変電圧電源(図示せず)に接続されており、走査電極対の間に印加される電圧を周期的に変化させることにより、電極間に生じる電界を変化させてイオンビームをさまざまな角度に偏向させる。その結果、イオンビームがx方向の走査範囲全体にわたって走査される。図1において、矢印Xによりビームの走査方向及び走査範囲を例示し、走査範囲でのイオンビームの複数の軌跡を一点鎖線で示している。
【0030】
ビーム平行化部34は、走査されたイオンビームの進行方向を設計上のビームラインAの軌道と平行にするよう構成される。ビーム平行化部34は、y方向の中央部にイオンビームの通過スリットが設けられた円弧形状の複数の平行化レンズ電極を有する。平行化レンズ電極は、高圧電源(図示せず)に接続されており、電圧印加により生じる電界をイオンビームに作用させて、イオンビームの進行方向を平行に揃える。なお、ビーム平行化部34は他のビーム平行化装置で置き換えられてもよく、ビーム平行化装置は磁界を利用する磁石装置として構成されてもよい。
【0031】
ビーム平行化部34の下流には、イオンビームを加速または減速させるためのAD(Accel/Decel)コラム(図示せず)が設けられてもよい。
【0032】
角度エネルギーフィルタ(AEF)36は、イオンビームのエネルギーを分析し必要なエネルギーのイオンを下方に偏向して注入処理室16に導くよう構成されている。角度エネルギーフィルタ36は、電界偏向用のAEF電極対を有する。AEF電極対は、高圧電源(図示せず)に接続される。図2において、上側のAEF電極に正電圧、下側のAEF電極に負電圧を印加させることにより、イオンビームを下方に偏向させる。なお、角度エネルギーフィルタ36は、磁界偏向用の磁石装置で構成されてもよく、電界偏向用のAEF電極対と磁石装置の組み合わせで構成されてもよい。
【0033】
このようにして、ビームライン装置14は、ウェハWに照射されるべきイオンビームを注入処理室16に供給する。
【0034】
注入処理室16は、ビームラインAの上流側から順に、エネルギースリット38、プラズマシャワー装置40、サイドカップ42、センターカップ44およびビームストッパ46を備える。注入処理室16は、図2に示されるように、1枚又は複数枚のウェハWを保持するプラテン駆動装置50を備える。
【0035】
エネルギースリット38は、角度エネルギーフィルタ36の下流側に設けられ、角度エネルギーフィルタ36とともにウェハWに入射するイオンビームのエネルギー分析をする。エネルギースリット38は、ビーム走査方向(x方向)に横長のスリットで構成されるエネルギー制限スリット(EDS;Energy Defining Slit)である。エネルギースリット38は、所望のエネルギー値またはエネルギー範囲のイオンビームをウェハWに向けて通過させ、それ以外のイオンビームを遮蔽する。
【0036】
プラズマシャワー装置40は、エネルギースリット38の下流側に位置する。プラズマシャワー装置40は、イオンビームのビーム電流量に応じてイオンビームおよびウェハWの表面(ウェハ処理面)に低エネルギー電子を供給し、イオン注入で生じるウェハ処理面の正電荷のチャージアップを抑制する。プラズマシャワー装置40は、例えば、イオンビームが通過するシャワーチューブと、シャワーチューブ内に電子を供給するプラズマ発生装置とを含む。
【0037】
サイドカップ42(42R,42L)は、ウェハWへのイオン注入処理中にイオンビームのビーム電流を測定するよう構成される。図2に示されるように、サイドカップ42R,42Lは、ビームラインA上に配置されるウェハWに対して左右(x方向)にずれて配置されており、イオン注入時にウェハWに向かうイオンビームを遮らない位置に配置される。イオンビームは、ウェハWが位置する範囲を超えてx方向に走査されるため、イオン注入時においても走査されるビームの一部がサイドカップ42R、42Lに入射する。これにより、イオン注入処理中のビーム電流量がサイドカップ42R、42Lにより計測される。
【0038】
センターカップ44は、ウェハ処理面におけるビーム電流を測定するよう構成される。センターカップ44は、駆動部45の動作により可動となるよう構成され、イオン注入時にウェハWが位置する注入位置から待避され、ウェハWが注入位置にないときに注入位置に挿入される。センターカップ44は、x方向に移動しながらビーム電流を測定することにより、x方向のビーム走査範囲の全体にわたってビーム電流を測定することができる。センターカップ44は、ビーム走査方向(x方向)の複数の位置におけるビーム電流を同時に計測可能となるように、複数のファラデーカップがx方向に並んでアレイ状に形成されてもよい。
【0039】
サイドカップ42およびセンターカップ44の少なくとも一方は、ビーム電流量を測定するための単一のファラデーカップを備えてもよいし、ビームの角度情報を測定するための角度計測器を備えてもよい。角度計測器は、例えば、スリットと、スリットからビーム進行方向(z方向)に離れて設けられる複数の電流検出部とを備える。角度計測器は、例えば、スリットを通過したビームをスリット幅方向に並べられる複数の電流検出部で計測することにより、スリット幅方向のビームの角度成分を測定できる。サイドカップ42およびセンターカップ44の少なくとも一方は、x方向の角度情報を測定可能な第1角度測定器と、y方向の角度情報を測定可能な第2角度測定器とを備えてもよい。
【0040】
プラテン駆動装置50は、ウェハ保持装置52と、往復運動機構54と、ツイスト角調整機構56と、チルト角調整機構58とを含む。ウェハ保持装置52は、ウェハWを保持するための静電チャック等を含む。往復運動機構54は、ビーム走査方向(x方向)と直交する往復運動方向(y方向)にウェハ保持装置52を往復運動させることにより、ウェハ保持装置52に保持されるウェハをy方向に往復運動させる。図2において、矢印YによりウェハWの往復運動を例示する。
【0041】
ツイスト角調整機構56は、ウェハWの回転角を調整する機構であり、ウェハ処理面の法線を軸としてウェハWを回転させることにより、ウェハの外周部に設けられるアライメントマークと基準位置との間のツイスト角を調整する。ここで、ウェハのアライメントマークとは、ウェハの外周部に設けられるノッチやオリフラのことをいい、ウェハの結晶軸方向やウェハの周方向の角度位置の基準となるマークをいう。ツイスト角調整機構56は、ウェハ保持装置52と往復運動機構54の間に設けられ、ウェハ保持装置52とともに往復運動される。
【0042】
チルト角調整機構58は、ウェハWの傾きを調整する機構であり、ウェハ処理面に向かうイオンビームの進行方向とウェハ処理面の法線との間のチルト角を調整する。本実施の形態では、ウェハWの傾斜角のうち、x方向の軸を回転の中心軸とする角度をチルト角として調整する。チルト角調整機構58は、往復運動機構54と注入処理室16の内壁の間に設けられており、往復運動機構54を含むプラテン駆動装置50全体をR方向に回転させることでウェハWのチルト角を調整するように構成される。
【0043】
プラテン駆動装置50は、イオンビームがウェハWに照射される注入位置と、ウェハ搬送装置18との間でウェハWが搬入または搬出される搬送位置との間でウェハWが移動可能となるようにウェハWを保持する。図2は、ウェハWが注入位置にある状態を示しており、プラテン駆動装置50は、ビームラインAとウェハWとが交差するようにウェハWを保持する。ウェハWの搬送位置は、ウェハ搬送装置18に設けられる搬送機構または搬送ロボットにより搬送口48を通じてウェハWが搬入または搬出される際のウェハ保持装置52の位置に対応する。
【0044】
ビームストッパ46は、ビームラインAの最下流に設けられ、例えば、注入処理室16の内壁に取り付けられる。ビームラインA上にウェハWが存在しない場合、イオンビームはビームストッパ46に入射する。ビームストッパ46は、注入処理室16とウェハ搬送装置18の間を接続する搬送口48の近くに位置しており、搬送口48よりも鉛直下方の位置に設けられる。
【0045】
図3は、実施の形態に係るイオン生成装置12の構成を概略的に示す断面図である。イオン生成装置12は、蒸気生成装置60と、プラズマ生成装置70とを備える。蒸気生成装置60は、イオンビームIBの素となる不純物元素を含む蒸気を生成し、生成した蒸気をプラズマ生成装置70に供給する。プラズマ生成装置70は、蒸気生成装置60から供給される蒸気をイオン化させ、不純物元素のイオンを含むプラズマPを生成する。プラズマ生成装置70にて生成されるイオンは、引出電極88によりイオンビームIBとして引き出される。
【0046】
蒸気生成装置60は、外側容器61と、内側容器62と、蓋63と、電熱線66とを備える。外側容器61および内側容器62は、原料90を加熱して蒸気を生成するための蒸気生成室68を区画する。外側容器61および内側容器62は、筒状の二重構造となっており、外側容器61の内側に内側容器62が嵌め込まれている。蓋63は、内側容器62の開口端62aに取り付けられ、蒸気生成室68を塞ぐよう構成される。蓋63には蒸気導入管64が設けられる。蒸気導入管64は、蒸気生成室68で生成される蒸気をプラズマ生成装置70に導く。
【0047】
内側容器62は、外側容器61に対して着脱可能である。例えば、内側容器62の開口端62aの外周面に雄ねじが形成され、外側容器61の開口端61aの内周面に雌ねじが形成され、これらのねじ切り構造が互いに係合する。蓋63は、内側容器62に対して着脱可能である。例えば、内側容器62の開口端62aの内周面に雌ねじが形成され、蓋63の外周面に雄ねじが形成され、これらのねじ切り構造が互いに係合する。
【0048】
外側容器61は、例えば、ステンレス鋼などの金属材料で構成される。内側容器62および蓋63は、例えば、グラファイトで構成される。内側容器62および蓋63をグラファイトで構成することにより、加熱された原料90が内側容器62や蓋63のねじ切り構造に固着して蓋63を開けるのが困難となることを防ぐようにする。内側容器62は、蒸気生成室68において原料90と接触する内面を構成するライナーとして機能する。
【0049】
電熱線66は、外側容器61の外側に設けられ、例えば、外側容器61の外周面に巻き付けられている。電熱線66に電流を流すことで外側容器61が加熱され、外側容器61の昇温により内側容器62が加熱される。これにより、蒸気生成室68は、200℃~1000℃程度に加熱される。蒸気生成室68にて加熱された原料90は、気化して蒸気となり、蒸気導入管64を通じてプラズマ生成装置70に供給される。
【0050】
プラズマ生成装置70は、アークチャンバ72と、カソード74と、リペラー76とを備える。アークチャンバ72は、略直方体の箱形状を有する。アークチャンバ72は、プラズマPが生成されるプラズマ生成室78を区画する。アークチャンバ72の前面にはイオンビームIBを引き出すためのスリット80が設けられる。スリット80は、カソード74からリペラー76に向かう方向に延びる細長い形状を有している。
【0051】
カソード74は、プラズマ生成室78に熱電子を放出する。カソード74は、いわゆる傍熱型カソード(IHC;Indirectly Heated Cathode)であり、フィラメント74aと、カソードヘッド74bとを有する。カソードヘッド74bは、フィラメント74aで発生した1次熱電子により加熱され、プラズマ生成室78に2次熱電子を供給する。なお、カソード74は、いわゆる直熱型カソードであってもよい。
【0052】
リペラー76は、カソード74と対向する位置に設けられる。リペラー76は、プラズマ生成室78に供給される電子を跳ね返し、プラズマ生成室78に熱電子を滞留させてプラズマ生成効率を高める。
【0053】
アークチャンバ72の側壁には、ガス導入部82および蒸気導入部84が設けられる。ガス導入部82は、図示しないガスボンベ等からアシストガスをプラズマ生成室78に供給する。ガス導入部82は、例えば、プラズマ生成室78を挟んでスリット80とは反対側の位置に設けられる。蒸気導入部84は、蒸気生成装置60にて生成される蒸気をプラズマ生成室78に供給する。蒸気導入部84は、例えば、スリット80やガス導入部82が設けられる側壁とは異なるアークチャンバ72の側壁に設けられる。
【0054】
プラズマ生成室78には、カソード74からリペラー76に向かう方向に磁場Bが印加されている。プラズマ生成室78に供給される熱電子は、プラズマ生成室78に印加される磁場Bに束縛され、磁場Bに沿って螺旋状に運動する。プラズマ生成室78において電子を螺旋状に運動させることにより、プラズマ生成効率を高めることができる。
【0055】
本実施の形態において、イオン生成装置12は、アルミニウム(Al)のイオンビームIBを生成するために用いられる。Alイオンビームを生成する場合、従来、原料として純アルミニウム(金属アルミニウム)、三フッ化アルミニウム(AlF)、または、窒化アルミニウム(AlN)などの固体材料のいずれかが単独で用いられてきた。しかしながら、これらの固体材料を単独で用いる場合、イオンビームの電流量やイオン生成装置の寿命が不十分であった。本発明者は、二種類の固体材料を混合させた原料90を用いることで、イオンビームIBの電流量およびイオン生成装置12の寿命の双方を向上できることを見出した。
【0056】
蒸気生成装置60の蒸気生成室68に充填される原料90は、第1固体材料91と、第2固体材料92とを含む。第1固体材料91は、不純物元素の単体であり、例えば純アルミニウムである。第2固体材料92は、不純物元素の化合物であり、例えばアルミニウムのハロゲン化合物(AlF、AlCl、AlBr、AlI)である。第2固体材料92は、扱いやすさ等を考慮すると、アルミニウムのフッ素化合物(AlF)であることが好ましい。
【0057】
第1固体材料91は、顆粒状、粒状、ショット状またはバルク状である。一方、第2固体材料92は、粉末状、顆粒状または粒状である。ここで、粉末状、顆粒状、粒状、ショット状およびバルク状とは、材料のサイズまたは粒径により定義される。粉末状は粒径が0.1mm以下であり、顆粒状は粒径が0.1mm~1mm程度であり、粒状は粒径が1mm~5mm程度であり、ショット状は粒径が5mm~10mm程度であり、バルク状は粒径が10mm超である。したがって、第1固体材料91の粒径は0.1mm以上であり、第2固体材料92の粒径は5mm以下である。
【0058】
原料90に含まれる第1固体材料91の重量割合は、5%以上95%以下、25%以上75%以下、または、40%以上60%以下とすることができる。同様に、原料90に含まれる第2固体材料92の重量割合は、5%以上95%以下、25%以上75%以下、または、40%以上60%以下とすることができる。一例を挙げれば、第1固体材料91および第2固体材料92のそれぞれの重量割合は50%程度である。
【0059】
第1固体材料91をAlとし、第2固体材料92をAlFとする場合、蒸気生成室68の加熱温度は500℃~1000℃程度にすればよい。一例を挙げれば、蒸気生成室68の加熱温度を700℃~850℃程度にすることが好ましく、例えば800℃程度に設定すればよい。
【0060】
プラズマ生成装置70には、蒸気生成装置60からAlを含む蒸気を供給するだけでなく、ガス導入部82からアシストガスを供給することが好ましい。アシストガスを用いることにより、アシストガスを用いない場合に比べて、プラズマ生成室78におけるプラズマの生成を安定化できる。また、アシストガスの供給量を調整することにより、プラズマ生成室78にて生成されるプラズマ密度を調整することができ、プラズマ生成装置70から引き出されるイオンビームIBの電流量を調整しやすくなる。さらに、アシストガスの種類によっては、アークチャンバ72の内面への汚れの付着を抑制することができ、プラズマ生成装置70の寿命を向上させることができる。特に、フッ化物ガスをアシストガスとして用いることにより、アークチャンバ72の内面への汚れの付着を好適に抑制できる。
【0061】
アシストガスは、イオンビームIBとして引き出されるべき不純物元素とは異なる元素の単体または化合物で構成される。アシストガスは、例えば、希ガス、水素化合物ガス、ハロゲン化合物ガスである。アシストガスとして、例えば、窒素ガス(N)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)、アルシン(A)、ホスフィン(PH)、三フッ化ホウ素(BF)、三フッ化リン(PF)、三フッ化砒素(AsF)などを用いることができる。
【0062】
つづいて、実施例について説明する。実施例1では、第1固体材料91として粒状(粒径2~3mm)程度のアルミニウムを使用し、第2固体材料92として粉末状または顆粒状(粒径0.1mm~0.5mm程度)の三フッ化アルミニウムを使用し、第1固体材料91と第2固体材料92の重量割合を50%とした。アシストガスとして三フッ化ホウ素を使用した。引出電極88による引出電圧を10kV~90kVとした場合、5mA程度のアルミニウムの1価イオン(Al)のビームを100時間にわたって連続的に得ることができた。また、イオンビームの電流量が1mA程度であれば、アルミニウムの1価イオン(Al)のビームを300時間にわたって連続的に得ることができた。なお、アルミニウムの2価イオン(Al2+)や3価イオン(Al3+)の取得も可能であった。
【0063】
実施例2は、アシストガスとしてアルゴンガスを使用した点を除いて実施例1と共通である。実施例2では、最大で1mA程度のアルミニウムの1価イオン(Al)のビームを得ることができた。実施例3は、アシストガスとしてホスフィンを使用した点を除いて実施例1,2と共通である。実施例3においても、最大で1mA程度のアルミニウムの1価イオン(Al)のビームを得ることができた。実施例4では、アシストガスを使用していない点を除いて実施例1~3と共通である。実施例4においても、最大で1mA程度のアルミニウムの1価イオン(Al)のビームを得ることができたが、プラズマの安定性が低下する傾向が見られた。
【0064】
一方、比較例1として、純アルミニウムのみを原料として使用した場合、最大で0.2mA程度のビーム電流量しか得られなかった。また、比較例2として、三フッ化アルミニウムのみを原料として使用した場合、最大で0.5mA程度のビーム電流量しか得られなかった。なお、比較例1および比較例2では、Ar、BF、PH等のアシストガスを使用している。
【0065】
以上より、2種類の固体材料を混合させて使用することにより、1種類の固体材料を単独で使用する場合に比べて、得られるビーム電流量の最大値を高めることができる。また、連続的に高電流量のイオンビームを100時間または300時間にわたって引き出すことができ、1mA以上のビーム電流量とする場合であっても、イオン生成装置12の寿命を長くできる。なお、一般にビーム電流量と寿命は相反関係にあり、ビーム電流量を大きくするほど寿命が短くなる傾向にある。
【0066】
なお、2種類の固体材料を混合させることでプラズマ生成装置70から引き出し可能となるイオンビームの電流量が増えるメカニズムの詳細は分かっていない。発明者の仮説として、2種類の固体材料を混合して加熱することにより、蒸気生成室68にて不純物元素を含む中間化合物が生成されることが考えられる。蒸気生成装置60からプラズマ生成装置70に中間化合物を含む蒸気が供給されることで、単独の固体材料を用いる場合よりも蒸気に含まれる不純物元素の量が増加することが考えられる。純アルミニウムと三フッ化アルミニウムを用いる場合であれば、AlFやAlFといった中間化合物の蒸気が蒸気生成装置60により生成され、プラズマ生成装置70に供給されることが考えられる。
【0067】
本実施の形態によれば、アシストガスを併用することで、プラズマ生成装置70によるプラズマ生成を安定化させ、不純物元素のイオンを効率的に生成できる。アルミニウムなどの金属元素の場合、イオンの平均自由工程が短いためにイオン化したとしても安定な金属状態に戻りやすいため、イオンを継続して安定的に生成しにくい傾向にある。一方、本実施の形態によれば、アシストガスを併用することで、アシストガスのプラズマによりアルミニウムなどの金属元素をイオン化することができ、イオン状態を維持しやすくなる。その結果、プラズマ生成装置70からより多くの不純物元素のイオンを引き出すことができ、引き出されるイオンビームIBの電流量を高めることができる。
【0068】
本実施の形態によれば、アシストガスを併用することで、アークチャンバ72の温度を700℃~2000℃程度の高温に維持することができる。特に、アシストガスとしてBFを用いる場合、アークチャンバ72の温度を2000℃程度にできる。その結果、アークチャンバ72の内面に付着する汚れを高温の環境下で昇華させることができ、アークチャンバ72への汚れの付着を抑制できる。また、アークチャンバ72の内面に付着するAlやAlFなどの不純物元素を含む物質を昇華させ、プラズマ生成室78にて再度イオン化させることで、より多くの不純物元素のイオンを生成できる。
【0069】
本実施の形態によれば、アシストガスを併用することで、ビーム電流量の調整が容易となる。具体的には、アシストガスの流量を制御することにより、Alイオンビームの電流量を0.1mA~5mAの範囲において安定的に調整できる。
【0070】
本実施の形態により生成されるAlイオンビームは、例えば、炭化ケイ素(SiC)半導体へのイオン注入処理に用いることができる。
【0071】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれ得る。
【0072】
上述の実施の形態では、不純物元素がAlである場合を示した。別の実施の形態では、他の不純物元素を用いてもよく、例えば、インジウム(In)、アンチモン(Sb)、ガリウム(Ga)、スズ(Sn)、または、マグネシウム(Mg)といった金属元素を含む第1固体材料および第2固体材料を混合させた原料を用いてもよい。
【0073】
第1固体材料が純インジウムである場合、第2固体材料として三フッ化インジウム(InF)、三塩化インジウム(InCl)、三臭化インジウム(InBr)、一ヨウ化インジウム(InI)、三ヨウ化インジウム(InI)などを用いることができる。このような第1固体材料と第2固体材料を混合させた原料を用いることで、インジウムのイオンビームを生成できる。
【0074】
第1固体材料が純アンチモンである場合、第2固体材料として三フッ化アンチモン(SbF)、三塩化アンチモン(SbCl)、三臭化アンチモン(SbBr)、三ヨウ化アンチモン(SbI)などを用いることができる。このような第1固体材料と第2固体材料を混合させた原料を用いることで、アンチモンのイオンビームを生成できる。
【0075】
第1固体材料が純ガリウムである場合、第2固体材料として三フッ化ガリウム(GaF)、三塩化ガリウム(GaCl)、三臭化ガリウム(GaBr)、三ヨウ化ガリウム(GaI)などを用いることができる。このような第1固体材料と第2固体材料を混合させた原料を用いることで、ガリウムのイオンビームを生成できる。
【0076】
第1固体材料が純スズである場合、第2固体材料として二フッ化スズ(SnF)、四フッ化スズ(SnF)、二塩化スズ(SnCl)、二臭化スズ(SnBr)、二ヨウ化スズ(SnI)、四ヨウ化スズ(SnI)などを用いることができる。このような第1固体材料と第2固体材料を混合させた原料を用いることで、スズのイオンビームを生成できる。
【0077】
第1固体材料が純マグネシウムである場合、第2固体材料として二フッ化マグネシウム(MgF)、二塩化マグネシウム(MgCl)、二臭化マグネシウム(MgBr)、二ヨウ化マグネシウム(MgI)などを用いることができる。このような第1固体材料と第2固体材料を混合させた原料を用いることで、マグネシウムのイオンビームを生成できる。
【符号の説明】
【0078】
10…イオン注入装置、12…イオン生成装置、14…ビームライン装置、60…蒸気生成装置、68…蒸気生成室、70…プラズマ生成装置、72…アークチャンバ、74…カソード、76…リペラー、78…プラズマ生成室、80…スリット、82…ガス導入部、84…蒸気導入部、88…引出電極、90…原料、91…第1固体材料、92…第2固体材料、IB…イオンビーム。
図1
図2
図3