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  • 特許-磁気光学薄膜およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】磁気光学薄膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 10/16 20060101AFI20230405BHJP
   C01B 21/06 20060101ALI20230405BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20230405BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20230405BHJP
   H01F 10/14 20060101ALI20230405BHJP
   H01F 41/18 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
H01F10/16
C01B21/06 D
C01G51/00 B
C23C14/06 L
H01F10/14
H01F41/18
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019145116
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021027222
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸聖
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 忠義
(72)【発明者】
【氏名】荒井 賢一
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-133726(JP,A)
【文献】特開2010-067769(JP,A)
【文献】特開2014-175617(JP,A)
【文献】特開2019-165106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 15/00-23/00
C01G 25/00-99/00
C23C 14/00-14/58
G11B 11/00-13/08
H01F 10/00-10/32
H01F 41/14-41/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
B、Mg、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、Hf、In、Sn、ZnおよびTaからなる群から選択される少なくとも1つの元素としてのM成分とN、OおよびFの少なくとも1つの元素とからなる絶縁性マトリックスと、Fe、CoおよびNiの少なくとも1つの元素からなり、前記絶縁性マトリックスに分散している金属粒子とからなる磁気光学薄膜であって、
組成式FeCoNiで表わされ、組成比a、b、c、w、x、y、zは原子比率で、0.06≦a≦0.140.05≦b≦0.13、0≦c≦0.080.11≦a+b+c≦0.260.32≦w≦0.43、0≦x≦0.50、0≦y≦0.48、z=0、0.74≦w+x+y+z≦0.89、かつ、a+b+c+w+x+y+z=1であり、
前記金属粒子の平均粒子径が3.9~11.5[nm]の範囲に含まれ、かつ、平均粒子間隔が0.75~1.22[nm]の範囲に含まれ、粒子のアスペクト比が1.01~1.17の範囲に含まれることを特徴とする磁気光学薄膜。
【請求項2】
請求項1記載の磁気光学薄膜において、
B、Mg、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、Hf、In、Sn、ZnおよびTaからなる群から選択される少なくとも1つの元素としてのM成分とN、OおよびFの少なくとも1つの元素とからなる絶縁性マトリックスと、Fe、CoおよびNiの少なくとも1つの元素からなり、前記絶縁性マトリックスに分散している金属粒子とからなる磁気光学薄膜であって、
組成式FeaCobNicMwNxOyFzで表わされ、組成比a、b、c、w、x、y、zは原子比率で、0.06≦a≦0.14、0.06≦b≦0.13、0≦c≦0.08、0.12≦a+b+c≦0.26、0.32≦w≦0.43、0.38≦x≦0.50、0≦y≦0.48、z=0、0.74≦w+x+y+z≦0.89、かつ、a+b+c+w+x+y+z=1であり、
前記金属粒子の平均粒子径が3.9~11.5[nm]の範囲に含まれ、かつ、平均粒子間隔が0.75~1.22[nm]の範囲に含まれ、粒子のアスペクト比が1.01~1.15の範囲に含まれることを特徴とする磁気光学薄膜。
【請求項3】
請求項1~2のうちいずれか1つに記載の磁気光学薄膜の製造方法であって、
B、Mg、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、Hf、In、Sn、ZnおよびTaからなる群から選択される少なくとも1つの元素とN、OおよびFの少なくとも1つの元素とからなる絶縁性材料と、Fe、CoおよびNiの少なくとも1つの元素からなる金属と、の複合ターゲットまたは個別の複数のターゲットを用いて、基板の温度を300~800[℃]の範囲に制御しながら当該基板の上に前記磁気光学薄膜を成膜することを特徴とする磁気光学薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気光学薄膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本願出願人により、絶縁体マトリックスにナノメーターサイズの金属粒子が分散しているナノグラニュラー構造を有する磁気光学特性を示す薄膜が提案されている(特許文献1参照)。薄膜のファラデー回転角を向上させ、かつ、光透過率を確保する観点から金属含有量が適当に調節されている。金属および誘電体マトリックスの含有比率が調節されることによって、金属粒子の粒径および分布状態ならびに金属粒子間の誘電体マトリックスの厚みなどの薄膜構造が、磁気光学特性の向上の観点から最適化されることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-98423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、マトリックスの組成によっては光の透過率が高い一方で、屈折率が低いため、光導波路のコア材などの高屈折率材料に要求されるデバイスへの適用は困難であると考えられる。
【0005】
そこで、本発明は、磁気光学特性および透過率の向上を図りながら、屈折率の向上を図り得る磁気光学薄膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、B、Mg、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、Hf、In、Sn、ZnおよびTaからなる群から選択される少なくとも1つの元素としてのM成分と、N、OおよびFの少なくとも1つの元素とからなる絶縁性マトリックスと、Fe、CoおよびNiの少なくとも1つの元素からなり、前記絶縁性マトリックスに分散している金属粒子とからなる磁気光学薄膜に関する。
【0007】
本発明の磁気光学薄膜は、組成式FeCoNiで表わされ、組成比a、b、c、w、x、y、zは原子比率で、0.06≦a≦0.140.05≦b≦0.13、0≦c≦0.080.11≦a+b+c≦0.260.32≦w≦0.43、0≦x≦0.50、0≦y≦0.48、z=0、0.74≦w+x+y+z≦0.89、かつ、a+b+c+w+x+y+z=1であり、前記金属粒子の平均粒子径が3.9~11.5[nm]の範囲に含まれ、かつ、平均粒子間隔が0.75~1.22[nm]の範囲に含まれ、粒子のアスペクト比が1.01~1.17の範囲に含まれることを特徴とする。なお、NおよびFおよびOはそれぞれ単独で存在することが望ましいが、不純物として10at.%以下の比率で含有しても特性には大きな影響は及ぼさない。
【0008】
本発明の磁気光学薄膜の製造方法は、B、Mg、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、Hf、In、Sn、ZnおよびTaからなる群から選択される少なくとも1つの元素とN、OおよびFの少なくとも1つの元素とからなる絶縁性材料と、Fe、CoおよびNiの少なくとも1つの元素からなる金属と、の複合ターゲットまたは個別の複数のターゲットを用いて、基板の温度を300℃~800℃の範囲に制御しながら当該基板の上に前記磁気光学薄膜を成膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の磁気光学薄膜によれば、透過率の向上を図りながら、屈折率の向上が図られている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】成膜時の基板温度が相違するマトリックスとしてSiNを用いた薄膜のファラデー回転角の波長依存性に関する説明図。
図2】成膜時の基板温度が相違するマトリックスとしてSiNを用いた薄膜の透過率の波長依存性に関する説明図。
図3】FeおよびCoの合計原子比率a+bが相違するマトリックスとしてSiNを用いた薄膜のファラデー回転角の波長依存性に関する説明図。
図4】FeおよびCoの合計原子比率a+bが相違するマトリックスとしてSiNを用いた薄膜の透過率の波長依存性に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態としての磁気光学薄膜は、B、Mg、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、Hf、In、Sn、ZnおよびTaからなる群から選択される少なくとも1つの元素としてのM成分と、N、OおよびFの少なくとも1つの元素とからなる絶縁性マトリックスと、Fe、CoおよびNiの少なくとも1つの元素からなり、前記絶縁性マトリックスに分散している金属粒子とからなる磁気光学薄膜に関する。
【0012】
本発明の磁気光学薄膜は、組成式FeCoNiで表わされ、組成比a、b、c、w、x、y、zは原子比率で、0≦a≦0.35、0≦b≦0.35、0≦c≦0.35、0.10≦a+b+c≦0.35、0.10≦w≦0.50、0≦x≦0.60、0≦y≦0.60、0≦z≦0.10、0.65≦w+x+y+z≦0.90、かつ、a+b+c+w+x+y+z=1であり、前記金属粒子の平均粒子径が3.0~20.0[nm]の範囲に含まれ、かつ、平均粒子間隔が0.5~2.0[nm]の範囲に含まれ、粒子のアスペクト比が1.0~1.2の範囲に含まれる。
【0013】
(製造方法)
本発明の磁気光学薄膜は基板上に成膜される。基板としては、石英ガラスまたはコーニング社製♯7059(コーニング社の商品名)などのガラス基板、表面を熱酸化した単結晶SiウエハまたはMgO基板が採用される。
【0014】
磁気光学薄膜は、例えばFe、CoおよびNiのうち少なくとも1つを含む合金円板上に、M元素を含む窒化物、酸化物またはフッ化物の誘電体(絶縁体)のチップが配置された複合ターゲットが用いられ、スパッタリング法によって成膜される。複合ターゲットに代えて、金属ターゲットおよび誘電体ターゲットを用いて、スパッタリング法により、薄膜の組成比を調節するために各ターゲットのスパッタ電力およびスパッタ電力供給時間などの因子が調節されながら磁気光学薄膜が成膜されてもよい。
【0015】
スパッタ成膜に際して、Arガス、ArおよびN2の混合ガスまたはArおよびO2の混合ガスが雰囲気ガスとして用いられる。成膜時間の長短により膜厚が制御され、例えば0.3~3[μm]の磁気光学薄膜が製造される。成膜時における基板温度は300~800[℃]の範囲に収まるように基板が加熱された。成膜時のスパッタ圧力は0.2~2.0[Pa]に調節され、スパッタ電力は50~350[W]に調節された。
【0016】
(実施例・比較例)
基板の上に、スパッタリング法により実施例1~13および比較例1~10のそれぞれの薄膜が作製された。基板としては、約0.5mm厚のコーニング社製#7059(コーニング社の商品名)ガラス基板または石英基板が用いられた。表1には、各実施例および各比較例の薄膜の組成を表わす原子比率a、b、c、w、x、y、zの数値が、成膜時の基板温度とともに示されている。スパッタリングに際して用いられる複合ターゲットの組成が調節されることにより、薄膜の組成が調節された。
【0017】
【表1】
【0018】
ファラデー効果測定装置を用いて、複数の異なる波長の光における各実施例および各比較例の薄膜のファラデー回転角が測定された。表2には、各実施例および各比較例の薄膜の膜厚とともにこれらの測定結果が示されている。分光式エリプソメータを用いて、各実施例および各比較例の薄膜の屈折率nおよび消衰係数kが測定された。分光光度計を用いて、波長1550nmの光に対する各実施例および各比較例の薄膜の透過率が測定された。高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)を通じて得られた画像の解析により、薄膜を構成する金属粒子の平均粒子径、平均粒子間隔およびその粒子の平均アスペクト比が測定された。表3には、各実施例および各比較例の薄膜のこれらの測定結果が示されている。
【0019】
【表2】
【0020】
【表3】
【0021】
図1には、基板温度400℃で成膜された実施例4、基板温度500℃で成膜された実施例5、基板温度600℃で成膜された実施例6および基板温度700℃で成膜された実施例7のそれぞれの薄膜のファラデー回転角の波長依存性が示されている。図1から、基板温度の増加に応じて各波長のファラデー回転角の絶対値が増加する傾向にあることが分かる。また、FeCo組成にかかわらず波長の増加に応じてファラデー回転角の符号が正から負へと変化するナノグラニュラー構造に起因した特徴的な波長依存性を示す(参考文献「N.Kobayashi, K.Ikeda, B.Gu, S.Takahashi, H.Masumoto, and S.Maekawa, “Giant Faraday Rotation in Metal-Fluoride Nanogranular Films”,Sci. Rep.,8, 4978(2018).」参照)ことがわかる。
【0022】
図2には、実施例4~7のそれぞれの薄膜の膜厚1μmあたりの透過率の波長依存性が示されている。図2から、波長の増加に応じて透過率が増加すること、基板温度の増加に応じて透過率が高くなる傾向にあることがわかる。
【0023】
図3には、実施例1、実施例2および実施例6のそれぞれの薄膜のファラデー回転角の波長依存性が示されている。図3からFeCo組成に応じて各波長のファラデー回転角の絶対値が増加することが分かる。また、FeCo組成にかかわらず波長の増加に応じてファラデー回転角の符号が正から負へと変化するナノグラニュラー構造に起因した特徴的な波長依存性を示す(参考文献参照)ことがわかる。
【0024】
図4には、実施例1~3のそれぞれの薄膜の膜厚1μmあたりの透過率の波長依存性が示されている。図4から、波長の増加に応じて透過率が増加すること、磁性金属の含有量に反比例して透過率が高くなることがわかる。
図1
図2
図3
図4