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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】インジェクター
(51)【国際特許分類】
   A22C 17/00 20060101AFI20230405BHJP
   A22C 9/00 20060101ALI20230405BHJP
   A23L 13/70 20230101ALN20230405BHJP
【FI】
A22C17/00
A22C9/00
A23L13/70
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019154969
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021029200
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000113067
【氏名又は名称】プリマハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】高橋 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 茂明
【審査官】松井 裕典
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-89542(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/264164(US,A1)
【文献】特開2013-212094(JP,A)
【文献】特開2000-157216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A22C 5/00-29/04
A23L 13/00-17/00
A23L 17/10-17/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉塊に液状物質を注入するための、高圧液発生部、液状物質の直進水流噴射ノズルを備えた噴射部、該噴射部から食肉塊へ液状物質を注入するに際し、液状物質を注入しながら注入圧力の制御を行うことのできる圧力制御部及び食肉塊間欠搬送手段を備えたインジェクターであって、
前記噴射部が、間欠的に搬送されてくる食肉塊に対して複数方向から液状物質を注入できるように配設され、
各噴射部は、搬送されてくる食肉塊に当接する位置に若しくは一定の距離を置いて固定配設されて搬送されてきた食肉塊に対して液状物質を注入する工程を繰り返し、又は待機位置から間欠的に搬送されてくる食肉塊に当接するまで進出し、当接した状態で液状物質を注入した後、待機位置まで退出する工程を繰り返し、
液状物質を注入しながら注入圧力の制御を行うことのできる圧力制御部が、注入圧力をゼロ又は低圧から漸次上昇させうる圧力制御機構を有し、
圧力制御部において、注入圧力の最高値が800~1000kg/cm、注入圧力上昇速度が1000~3000kg/cm・秒及び注入時間が0.3~1.0秒に設定された前記インジェクター。
【請求項2】
複数方向が、複数方向からの直進水流の少なくも2つの直進水流の方向のなす角度が、30~180度である複数方向である請求項1に記載のインジェクター。
【請求項3】
複数方向が、搬送方向に対して上下方向である請求項1又は2に記載のインジェクター。
【請求項4】
直進水流噴射ノズルが、単流を複流にする分岐した配管が平行に複数本設けられたマニホールド内の、前記配管の先端に設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のインジェクター。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のインジェクターを用いて、液状物質を食肉塊に注入することを特徴とする液状物質が注入された食肉塊の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のインジェクターを用いて、液状物質を食肉塊に注入し、さらに得られた食肉塊をスライスすることを特徴とする液状物質が注入された食肉スライス片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚肉、牛肉、家禽肉等の食肉塊に、ピックル液や調味液等の液状物質を注入するインジェクターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食肉塊に、ピックル液や調味液等の液状物質を注入するインジェクターとして、具体的には、食肉塊に液状物質を注入する装置であって、高圧液発生部と、液状物質の噴射部と、該噴射部から食肉塊へ液状物質を注入するに際し、液状物質を注入しながら注入圧力の制御を行うことができる圧力制御部とを備えたことを特徴とするピックルインジェクターが知られており、中でも噴射部が、直進水流噴射ノズルであることが好ましいことが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、原料肉塊を搬送する原木載置台と、該原木載置台の上方及び下方にそれぞれ上下動可能に配設されたピックル液注入ヘッドと、前記各ピックル液注入ヘッドに設けられ、前記原料肉塊に打ち込まれる注入針とを備えたピックル液注入装置であって、前記原木載置台が、前記下方の注入針用の貫通穴を複数備えており、前記原料肉塊に注入針が打ち込まれて保持されているときに、後進し、前記原料肉塊から前記注入針が抜かれて原料載置台に戻されたときに、前進して元の位置に戻ることを特徴とするピックル液注入装置が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-89542号公報
【文献】特開2016-214150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のピックルインジェクターを用いることにより、食肉の厚みが薄いものばかりでなく、厚い原料肉に対しても、またその形状や大きさが種々異なる原料肉に対して、肉質を損なうことなく、効率良く、連続的にピックル液や調味液を食肉塊中に均一に分散させ、タンブリングマシンやマッサージマシン等を長時間使わなくても塩漬や調味を達成することができ、さらに肉質の注入抵抗の差があってもピックル液や調味液を均一に分散させることができるようになったが、ピックル液の有効率(実際に注入された液量/ノズルより噴射された液量×100で算出される。)が50%前後と低い点、有効率を上げるためにノズルからの直進水流の圧力を上げた場合に、食肉表面にダメージが残ること、上部一方向からのインジェクションだけでは、1工程の作業ではピックル液の食肉中への分散性において必ずしも満足の行く結果が得られないという問題に直面していた。
【0006】
また、特許文献1の段落番号[0060]に「また、X,Y,Z軸動に加えて、食肉塊のどの面からも注入可能なようにその先端部が全方位に向けることができるロボットハンドを用いることもできる。このようなロボットハンドを有するピックルインジェクターを用いると、食肉塊の形状を光センサー等により自動的に計測し、計測した肉塊の形状に応じて、肉塊の載置台を順次移動・回転することなく、2方向以上の方向から同時又は順次注入することができる。」とあるように任意の2方向以上から、肉塊中に液状物質を注入することができることが開示されているが、その具体的な注入条件については、開示されていない。
【0007】
特許文献2に記載の発明(以下引用発明2という。)は、食肉塊の搬送方向に対して上下方向からピックル液を注入する装置に関するものであるが、直進水流噴射ノズルを備えておらず、特許文献2の課題は、ピックル液の注入を効率よく行うことであり、上記した問題を解決できるとは言い難いものであった。
【0008】
本発明は、上記問題にかんがみ、ピックル液等の有効率が高く、食肉表面のダメージが少なく、ピックル液等をより良好に食肉塊中に分散できる食肉塊に液状物質を注入するインジェクターを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、搬送されてきた食肉塊に、ある特定の注入条件で、搬送方向に対して上下方向等の複数方向からピックル液等の液状物質を注入することで、課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の事項により特定される次のとおりのものである。
(1)食肉塊に液状物質を注入するための、高圧液発生部、液状物質の直進水流噴射ノズルを備えた噴射部、該噴射部から食肉塊へ液状物質を注入するに際し、液状物質を注入しながら注入圧力の制御を行うことのできる圧力制御部及び食肉塊間欠搬送手段を備えたインジェクターであって、
前記噴射部が、間欠的に搬送されてくる食肉塊に対して複数方向から液状物質を注入できるように配設され、
各噴射部は、搬送されてくる食肉塊に当接する位置に若しくは一定の距離を置いて固定配設されて搬送されてきた食肉塊に対して液状物質を注入する工程を繰り返し、又は待機位置から間欠的に搬送されてくる食肉塊に当接するまで進出し、当接した状態で液状物質を注入した後、待機位置まで退出する工程を繰り返し、
液状物質を注入しながら注入圧力の制御を行うことのできる圧力制御部が、注入圧力をゼロ又は低圧から漸次上昇させうる圧力制御機構を有し、
圧力制御部において、注入圧力の最高値が800~1000kg/cm、注入圧力上昇速度が1000~3000kg/cm・秒及び注入時間が0.3~1.0秒に設定された前記インジェクター。
(2)複数方向が、複数方向からの直進水流の少なくも2つの直進水流の方向のなす角度が、30~180度である複数方向である(1)に記載のインジェクター。
(3)複数方向が、搬送方向に対して上下方向である(1)又は(2)に記載のインジェクター。
(4)直進水流噴射ノズルが、単流を複流にする分岐した配管が平行に複数本設けられたマニホールド内の、前記配管の先端に設けられていることを特徴とする(1)~(3)のいずれか1つに記載のインジェクター。
(5)(1)~(4)のいずれか1つに記載のインジェクターを用いて、液状物質を食肉塊に注入することを特徴とする液状物質が注入された食肉塊の製造方法。
(6)(1)~(4)のいずれか1つに記載のインジェクターを用いて、液状物質を食肉塊に注入し、さらに得られた食肉塊をスライスすることを特徴とする液状物質が注入された食肉スライス片の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインジェクターを用いることにより、食肉塊にピックル液等の液状物質を有効率高く注入することができるので、使用するピックル液等の液状物質が少なくても同じ注入率[(食肉塊質量+注入液質量)/食肉塊質量×100で算出]を達成することができ、ピックル液等を節約することができ、それだけコストを削減できる。また、食肉塊に対して複数方向よりピックル液等の液状物質を注入するので、直進水流の圧力が小さくても、ピックル液等の液状物質を食肉塊中に均一に分散させることができ、さらに直進水流の圧力が抑えられることによって、食肉表面のダメージも少なくなり最終製品の歩留まりが向上する。また、分散性がよくなることによって、特に生ハム製造において乾燥歩留まりが向上し、いずれも大幅に生産性を向上させることができる。
本発明のインジェクターを用いると、製造工程が厳しく管理されている生ハムの製造において、従来よりも生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一態様のインジェクターを示す全体の斜視図である。
図2】本発明の一態様のインジェクターの上噴射部が下降して食肉塊に当接したときの正面図である。
図3】本発明の一態様のインジェクターの上噴射部が上昇したときの正面図である。
図4】本発明の一態様のインジェクターの上噴射部を省略した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、食肉塊の食肉としては、豚肉、牛肉、家禽肉、馬肉、羊肉、及びこれらの内臓肉、骨付き肉、皮付き肉、並びに魚肉を例示することができ、食用に供される肉塊であればどのような肉塊をも使用することができる。かかる食肉塊の大きさとしては、厚み(高さ)3~8cm、幅8~14cm、長さ30~70cmの棒状の食肉塊を好適に例示することができる。
【0014】
本発明において、液状物質としては、塩漬用のピックル液、調味用の調味液の他、脂質等の組織改良剤、天然保存剤、天然色素剤、酵素、微生物等の溶液、分散懸濁液を例示することができ、直進水流噴射ノズル等噴射部から食肉塊に注入しうる液状のものであれば、気体状のガスを含むものなど、いかなるものでも使用することができる。
【0015】
本発明における高圧液発生部は、上記液状物質を高圧、例えば7~3000kg/cm2にしうるものであれば、どのような機構のものでもよく、例えばプランジャーポンプや流体圧シリンダ等の往復ポンプ、回転ポンプ、渦巻ポンプなどのポンプ類を挙げることができるが、別に液状物質を高圧にできるものであればポンプ以外のものでもよい。プランジャーポンプ等のポンプをモータの回転数を制御することにより駆動してポンプの出力を制御する場合など、高圧液発生部と後述する圧力制御部とを一体的に構成することもできるし、高圧配管にバルブ等を設けて圧力の制御を行う場合など、高圧液発生部と圧力制御部とを別個に設けることもできる。
【0016】
本発明における噴射部は、上記高圧となった液状物質を食肉塊に注入しうる直進水流噴射ノズルを備えておればどのようなものでもよく、直進水流噴射ノズルを用いることにより、液状物質が同心円状に拡散して噴出することなく、直線状に収束して噴出する液状物質の流れ、すなわち直進水流を噴射することができる。
【0017】
また、高圧の液状物質は、高圧液発生部から高圧配管を経由して噴射部に移送されるが、高圧配管からの単流を複流に分岐するマニホールドと呼ばれる部材を有する噴射部を用いることが望ましい。マニホールドは噴射部の先端部に設けることが好ましいが、場合によっては配管途中に設けることもできる。また、マニホールド内の配管を分岐し、該配管を平行に並べた構造のものが好ましい。ここでいう平行とは、1列に平行に並べる場合ばかりでなく、千鳥形等多列に平行に並べる場合も含まれる。このように、ノズルを平行に並べることにより、ノズル間隔を10mm以下、例えば5mmと狭くして注入することができるので、高密度の均一な注入が可能となる。かかる平行に並べられた配管の先に直進水流噴射ノズルを取りつけることにより、多数の直進水流噴射ノズルを有するマニホールドとなり好ましい。
【0018】
直進水流噴射ノズルの構造は、直進水流を噴射できる構造であれば特に制限されず、ノズルに液を送る配管に接続することができ、噴射口が、小さい径の単一孔であれば特にノズルの形状そのものは制限されない。単一孔の直径は、注入圧力により適宜選択することができ、具体的には、0.05~0.5mmの範囲が好ましく、0.07~0.15mmの範囲がさらに好ましい。ノズル先端の材質は、食品に直接接触する場合があるので、硬度、耐衝撃性、耐圧性、コスト、安全性等が考慮されて、サファイアを好ましく例示することができる。
【0019】
このようなマニホールドを用いると、各配管の先端部のノズルからは、高圧の液状物質が直進水流として噴射され、平行に並んだ各ノズルから食肉塊に対し同時に液状物質が注入される。また、このように1つのマニホールドに多数のノズルを設けると、一回の注入処理で液状物質を効率良く注入することが可能となる。しかし、1つのマニホールドにあまりに多くのノズルを設けると、高圧液発生部に負荷がかかることから、そのような場合には、複数個のマニホールドを連結し、各マニホールドの上流部にそれぞれバルブを設けておき、各バルブを順次開閉していくことにより、各マニホールドから順次噴射するようにしておくことが好ましい。マニホールドを例えば3個連結したものをバルブ等による切り替えにより使用する場合は、1個のマニホールドで3回注入する場合に比べて、液状物質の圧力の上げ下げが2回節約でき、高速化が図れるという利点もある。
【0020】
本発明においては、噴射部は、間欠的に搬送されてくる食肉塊に対して複数方向から注入できるように配設されている。複数方向とは、2以上の方向であれば、その方向は特に制限されず、具体的には、搬送方向に対して上下方向、左右方向、右斜め方向と左斜め方向、上方向と左方向等が挙げられるが、複数方向の直進水流のうち、少なくも2つの直進水流の方向のなす角度が、30~180度であるのが好ましく、60~180度、70~180度、80~180度、90~180度、100~180度、110~180度、120~180度、130~180度、140~180度、150~180度、160~180、170~180度であるのがさらに好ましい。少なくも2つの直進水流の方向のなす角度とは、食肉塊の搬送方向に対して垂直の面に2つの直進水流を投影したときに、該2つ直進水流の影の直線がなす角度をいう。
【0021】
噴射部は、間欠的に搬送されてくる食肉塊に当接する位置に又は一定の距離を置いて配設される。一定の距離を置いて配設された場合に、間欠的に搬送されてくる食肉塊に当接するまで配設位置(待機位置)から進出(下降)し、当接した状態で液状物質を噴射・注入した後、元の配設位置(待機位置)まで退出(上昇)する工程を繰り返してもよく、また一定の距離を置いた配設位置から、間欠的に搬送されてくる食肉塊に離間した状態で液状物質を注入する工程を繰り返してもよいが、噴射部から食肉塊に液状物質を注入するときは、噴射部は、食肉塊に密着しているのが好ましい。噴射部が食肉塊に密着することで食肉塊を固定し注入を安定させることができ、結果として注入液の有効率もよくなる傾向にある。離間していると食肉塊表面が動き、噴射による穴(傷)が大きくなることがあるので好ましくない場合がある。
また複数の各噴射部の配設位置(待機位置)から進出(下降)、配設位置(待機位置)から進出(下降)等の諸工程は同期させて実施することが好ましい。さらに、複数の各噴射部から液状物質を噴射・注入する方向が食肉塊表面に対して垂直方向となるように、各噴射部を位置決めすることが好ましい。
【0022】
噴射部は、前述のマニホールドが末端に配置された構造が好ましく、マニホールドに備えられたノズルは、当該ノズルから噴射される直進水流が搬送される食肉塊の表面に対して垂直となる方向から噴射されるように配置するのが好ましい。
また、食肉塊の形状が、直方体ではなく幅方向(搬送方向と直交方向)周辺部に向かって丸みをおびるような場合に丸み部分の曲線の接線に対して垂直になるようにノズルを配置するのが好ましい。また、複数の直進水流ノズルを設けたマニホールドを高圧配管の先端部に設けた噴射部を、前記のように丸みを帯びた食肉塊に対して、搬送方向に対して垂直の上方向に設けた場合に、搬送方向に対して直交する幅方向周辺部において噴射部と食肉塊がより密着するように、マニホールドの幅方向両端部分の直進水流ノズルを食肉塊表面に対して直進水流が垂直になるように傾斜させて配設することが好ましい。そのように傾斜させた場合の角度として、具体的には、搬送面に対して垂直方向から8~24度が好ましく、10~24度、11~24度、12~24度の範囲がさらに好ましい。
【0023】
噴射部を一定の距離をおいて配設する場合には、食肉塊表面とノズル先端との間隔を一定に維持するために、噴射部上面上にスペーサーを設けるのが好ましい。スペーサーの形状は、特に限定されないが、一定の間隔を維持するための高さを有する板状が好ましく、それらは、並設されている直進水流ノズル間に複数枚設けるのが好ましく、搬送方向に対して平行に設けるのがさらに好ましい。
【0024】
本発明において、圧力制御部は、注入圧力の制御を行う機構を有しているものであればどのようなものでもよいが、高圧液発生部での圧力を制御する手段を有するもの、高圧配管中や噴出部の圧力を制御する手段を有するもの、及びこれらを組み合わせて制御するものに大別することができる。高圧液発生部での圧力を制御する手段を有するものとしては、例えばプランジャーポンプのプランジャーの駆動を、サーボモータ、ステッピングモータ、あるいはインバータを有する3相モータを使用してモータの回転数を制御することにより行い、高圧液発生部の出力、すなわち注入圧力の制御を行うものや、油圧シリンダ、水圧シリンダ、エアシリンダ等のピストンの駆動を、可変調節バルブ等を用いて流体圧を制御することにより行い、高圧液発生部の出力、すなわち注入圧力の制御を行うものを例示することができる。
【0025】
高圧配管中の圧力を制御する手段を有するものとしては、高圧液発生部の出力を一定にして、高圧配管の途中に1ないし2以上の圧力調整バルブを設けるもの、アクチュエーターを用いて高圧配管の途中の圧力調整バルブを可動させるもの、圧力を吸収するピストンシリンダ等のバッファーが高圧配管に連通する分岐管の端部に設けられたものなどを挙げることができ、また噴出部の圧力を制御する手段を有するものとしては、高圧液発生部の出力を一定にして、ノズルの孔径や噴射部に連結するノズル数を変化させるものを挙げることができる。
【0026】
また、必要に応じて、高圧液発生部での圧力を制御する手段と高圧配管中や噴出部の圧力を制御する手段とを組み合わせて制御することができるが、いずれにしても制御の簡便性・正確性及び多様な圧力制御を可能にする点から、サーボモータ等を用いて、モータの回転数を制御する方式が望ましい。例えば、モータとドライバとプログラマブルコントローラ(PLC)から構成されているサーボモータを用いる場合について説明すると、ドライバは、PLCと接続され、モータの運転状態のPLCへの出力とPLCの指令を受けてモータの駆動を行う。モータはドライバがPLCより受けたパルス数に比例して回転を行い、そのパルスの速さ(時間的密度)に応じて回転速度を変化させる。そして、サーボモータにより高圧ポンプを駆動する場合、概略、液体の流量はモータの回転数(位置決め)に比例し、液体の圧力はモータの回転数に比例することになる。
【0027】
本発明においては、直進水流噴射ノズルの噴射部から噴出された直後の液状物質の液圧を注入圧力といい、通常は高圧液発生装置と直進水流噴射ノズルの噴射部との間の配管中の液圧として、例えば圧力センサーにより測定される。圧力センサーを備えることにより、注入圧力をその設定値に一層正確に調整することができる。
【0028】
また、本発明においては、液状物質の注入の開始から終了までの間に、上記の注入圧力の制御を行う手段により、注入圧力の制御を行うことを「液状物質を注入しながら注入圧力の制御を行う」といい、高圧配管に設けられたバルブの単なる開閉により液状物質を一気に噴出・注入する場合や、注入に先立って孔径の異なるノズルに交換して注入圧を予め変更する場合は「液状物質を注入しながら注入圧力の制御を行う」とはいわない。
【0029】
本発明のインジェクターを用いて、直進水流噴射ノズルから液状物質を注入しながら、注入圧力を、ゼロ又は低圧から漸次上昇、好ましくは漸次連続的に上昇させるように変化させることが、液状物質を食肉塊へ均一に分散させる上で望ましい。直進水流噴射ノズルを用いると、食肉塊中への液状物質の注入及び分散の特性として、注入された液状物質は、肉組織の抵抗によりある一定の深度で横方向へ分散し、注入圧力が漸次上昇するとその注入圧力に見合った注入深度となり、その深度における肉組織の抵抗により、横方向に分散する。かかる現象が注入深度の増加と共に繰り返し生じ、食肉塊の表面から底部まで、及び食肉塊の底部から表面まで液状物質が均一に分散されていく。したがって、注入圧力をゼロ又は低圧から漸次上昇させると、注入した液状物質の均一分散性に優れた製品が得られる。なお、食肉塊の特定部位に液状物質を分散させる目的等の観点から、注入圧力を、ゼロ又は低圧から漸次連続的に上昇させることなく、段階的に上昇させることもできる。
【0030】
本発明のインジェクターによる食肉塊への液状物質の注入は、連続的に繰り返し行われる。より多くの食肉塊を加工しようとする場合、液状物質の単位時間当たりの注入回数を増加させる必要があるが、その場合、ゼロ又は低圧から漸次上昇させた注入圧力が、ゼロ又は低圧に復帰しないうち、次の注入操作が開始され、結果として注入圧力をゼロ又は低圧から漸次上昇させることができなくなる場合がある。かかる場合には、圧力制御部に残圧カット手段を設けることにより、ゼロ又は低圧から漸次上昇させた注入圧力を速やかにゼロ又は低圧に復帰させることができる。残圧カット手段としては、高圧配管の一部に設けられたリリーフバルブを例示することができ、噴射が終了した後、速やかにリリーフバルブを開放して噴射後の液状物質の圧力を速やかにゼロ又は低圧に復帰させることができる。その他の残圧カット手段としては、圧力を吸収するピストンシリンダ等のバッファーが高圧配管に連通する分岐管の端部に設けられたものを挙げることができる。この場合、噴射が終了した後、ピストンを後退させ、配管中の液状物質の圧力を吸収し、噴射後の液状物質の圧力を速やかにゼロ又は低圧に復帰させることができる。
【0031】
必要とされる注入最高圧力は、食肉塊の物性(赤身と脂肪の割合、肉の硬さ、骨の有無等)、食肉塊の肉厚・形状、液状物質の物性(溶質又は分散質の分子量、粘度、肉成分との反応性の有無等)、直進水流噴射ノズル先端と食肉塊との距離等によっても種々調整可能であるが、本発明のように、食肉塊に対して複数方向から液状物質を注入する場合には、注入圧力の最高値は、800~1000kg/cmであり、900~1000kg/cm、950~1000kg/cmが好ましい。注入圧力の最低値は特に限定されないが、10kg/cm以上が好ましく、300kg/cm以上がさらに好ましい。
【0032】
本発明のインジェクターを用いると、前記のように、直進水流噴射ノズルからの液状物質の注入最高圧力に到達するまでの注入時間を制御・調節することによって、液状物質の注入量を制御することができる。注入最高圧力に到達するまでの注入時間は、肉質、液状物質の物性等によって種々設定しうるが、本発明のように、食肉塊に対して複数方向から液状物質を注入する場合は、注入時間を0.3~1.0秒の間、好ましくは0.5~0.8秒の間に設定する。
【0033】
本発明のインジェクターを用いて、前記のように、直進水流噴射ノズルからの液状物質の圧力上昇速度を変化させて、食肉塊への液状物質の注入率を制御・調節することができる。本発明のインジェクターを用いた場合、圧力上昇速度を1000~3000kg/cm2・秒、好ましくは1500~2500kg/cm2・秒に設定する。このような値に設定することにより、液状物質を均一に食肉塊中に分散させることができる。
【0034】
液状物質の食肉塊への注入率を一定とするのに、直進水流の流量及び噴射時間を一定とした場合、注入圧力とはノズルのオリフィス径と個数によっても異なる。例えば、注入率を20~50%とし、各噴射部に備え付けられたノズルの個数を50~80個とした場合には、ノズルのオリフィス径を、0.07~0.15mmとするのが好ましい。
【0035】
本発明のインジェクターには、液状物質が食肉塊を通り越して食肉塊の外に噴出するのを防止するために、又は逆に液状物質が充分に末端まで注入分散しないのを防止するために、肉厚を予め一定にする肉厚調整部を設けることができる。肉厚調整部としては、食肉塊の肉厚を目的とする厚さに調整しうるものであればどのようなものでもよいが、押圧ローラーやプレスによって、あるいは型枠に強制的に充填することにより肉厚を調整するもの等を例示することができる。
【0036】
注入深度は注入最高圧力に比例し、注入量は注入到達時間に比例するので、例えば一定のノズル間隔で等密度に注入した場合、同一の圧力上昇速度であれば食肉塊が厚くなると注入最高圧力は高くなり、それに比例して注入時間が長くなるため、注入量は多くなる。逆に、食肉塊が薄くなると注入最高圧力は低くなり、それに比例して注入時間が短くなるため、注入量は少なくなる。
しかし、本発明のインジェクターを用いて、同じ圧力上昇速度で一定のノズル間隔で等密度に注入すれば、食肉塊の幅や厚み等の大きさが異なる場合にも、単位体積当たりの注入量は常に等しくなるので、同じ注入率が得られる。
【0037】
本発明の装置を用いて食肉塊に液状物質を注入する場合に、注入率を制御する手順として以下のような手順も考えられる。
(1)食肉塊の単位長さあたりの重量を求める。
(2)液状物質の目標注入率を設定する。
(3)有効率が一定であるとして、液状物質の打込み総重量が求められる。
(4)噴射時間と始動圧力(サーボモータで高圧ポンプを駆動させる場合にはサーボモータの始動速度(回転数))を一定として、注入最高圧力が求められる。
(5)注入最高圧力と噴射時間より、注入圧力上昇速度が決定される。
(6)以上のようにして決定された注入最高圧力、注入圧力上昇速度、注入時間を制御部において設定して注入を行う。
以上のような手順で行うことにより、より設定した目標注入率に近い液状物質を注入した食肉塊を得ることができる。
【0038】
上記のような手順で注入率を制御した場合には、食肉肉塊の単位長さ当たりの重量又は食肉塊の総重量に対して目標注入率に必要な注入量を設定できるので、食肉塊のサイズ(重量と長さ)の変動に応じて、設定した目標注入率に近い液状物質を注入した食肉塊を安定して製造することができる。
【0039】
また、ロース肉の食肉塊(長さ50cm~70cm)のように、食肉塊の両端のモモ側(硬い)とカタ側(柔らかい)とでは物性の違いから同じ設定条件で液状物質を注入しても部位によって食肉塊に吸収される液状物質の注入率が異なる場合がある。モモ側は吸収されにくく注入率が低くなり、カタ側は吸収され易く注入率が高くなる傾向があり、モモ側とカタ側の中間部分はその中間の物性でほぼ設定した目標注入率に近い値となる。このように、食肉塊の両端の注入率が異なったまま後工程に進んだ場合、最終製品の仕上がり状態にも影響を及ぼし、例えばモモ側は注入率が低目であるために目標とする水分活性を有する製品にすることができない場合があり、一方カタ側は塩分値が高めになり、塩辛い製品になる場合があり、製品の歩留まりに影響を及ぼすことがある。上記のような手順で注入率を制御した場合には、肉塊の長さを事前に計測するので、食肉塊の長さにバラつきがあっても、性質の異なる部位の正確な位置を把握でき、異なる部位ごとに設定を変更して液状物質を注入することができるので、製品の歩留まりを向上させることができる。
【0040】
また、上記手順で注入率を制御した場合には、不定形な食肉塊に対しても、食肉塊の総重量から液状物質の必要な注入率、注入量を設定することができ、複数方向から、同時に又は複数回に分けて注入することから、設定した目標注入率に近い液状物質を注入した食肉塊を安定して製造することができる。
【0041】
モータとドライバとプログラマブルコントローラ(PLC)から構成されているサーボモータを用いて、モータの回転数を制御する方式で注入圧力を制御し、さらに上記手順で液状物質の注入率を制御する場合には、例えば、食肉塊の総重量及び長さを測定する機器を備え、該機器での測定結果を、PLCに伝送し、PLCにおいて、あらかじめ設定された注入率、有効率、注入時間とともに、最高注入圧力、注入圧力上昇速度を設定し、PLCからドライバに送られるパルスの速さに応じて、モータの回転速度を変化させ、注入圧力を制御する。
【0042】
これらの制御は、圧力を調節する手段により行われるが、該圧力調節の作動は、人力はもとより、肉厚と注入率の情報をもとにコンピューター及びアクチュエーターで自動的に作動させることができることはいうまでもない。
【0043】
本発明のインジェクターを用いると、食肉塊中に分散しにくい物質であっても均一に注入分散させることができる。食肉塊中に分散しにくい物質としては、酵素、微生物(乳酸菌、酵母等)、高分子物質や食肉を構成する物質との反応性が高い物質等があり、食肉塊中に注入された後移動しにくく、力学的刺激や静置期間等の手段を設けても分散しにくいものである。しかし、本発明のインジェクターを用いた均一分散インジェクション処理では、注入最高圧力を、高く設定し、圧力上昇速度を制御することにより、これら分散しにくい物質をも食肉塊中に均一に分散させることができる。
【0044】
本発明のインジェクターは、食肉塊に液状物質を注入する場合の注入位置を決める機構、すなわち注入位置決め機構を有している。注入位置決め機構として、具体的には、食肉塊を噴射部のある所定位置まで間欠的に搬送してくる食肉塊間欠搬送手段を例示することができ、食肉塊が静止状態にあるときに液状物質を注入する。そして、肉厚が一定の場合は各噴射部を移動させる必要はないが、通常は食肉塊が所定位置まで搬送され静止状態にあるときに、各噴射部が移動して食肉塊に当接して液状物質を注入する。また、各噴射部が一定の位置に固定されている場合には、食肉塊の存在を感知して、他噴射部と連動して食肉塊に液状物質を注入する。
【0045】
食肉塊間欠搬送用手段として、一対の対向する食肉塊側面挟持板を備え、挟持板が互いに接近して食肉塊の側面を挟持し、挟持した状態で1ピッチ前進した後、挟持板が互いに離間して食肉塊の側面を解放し、その後1ピッチ後退する工程を繰り返す手段を挙げることができる。食肉塊の側面を挟持する方法としては、食肉塊側面挟持板をピストンロッドに固定したシリンダを挙げることができる。挟持板表面は平面であってもよいが、より確実に食肉塊を挟持するために、その表面は凹凸があるのが好ましく、さらに凸部分には、山型の凹凸があるのが好ましい。食肉塊を挟持した食肉塊側面挟持板を挟持した状態で1ピッチ前進及び後退を繰り返す手段としては、ボールネジを正逆回転しボールネジに螺着しているボールネジナットが前進後退することにより、ボールネジナットに固定されている食肉塊側面挟持板が食肉塊搬送方向に前進後退する機構を例示することができる。
【0046】
本発明のインジェクターの一態様について図1図4を用いて説明する。本発明のインジェクターは、高圧液発生部と圧力制御部とが一体的に構成され、かかる高圧液発生部・圧力制御部は、その中に液状物質が収容されている液体タンク1と、ダイヤフラムポンプ2と、サーボモータ3、高圧プランジャーポンプ4、耐圧4200kg/cm2のステンレス配管からなる高圧配管5、切替バルブ6及び耐圧3500kg/cm2のフレキシブルホース7とからなり、サーボモータ3により高圧プランジャーポンプ4を駆動させることにより、液体タンク1からの液圧をゼロ又は低圧から漸次上昇させることができる。また図1において、8は食肉塊を、9は上噴射部を、10は下噴射部を示している。
【0047】
図4は、上噴射部9を含む上噴射ステーション11が省略された本発明のインジェクターの平面図である。食肉塊8を、搬送台33上を間欠的に搬送する手段が示されている。食肉塊間欠搬送手段は、食肉塊挟持手段と食肉塊搬送手段からなる。食肉塊挟持手段は、食肉塊を側面から挟持するための食肉塊側面挟持板23を食肉塊方向に前後させるためのシリンダ25、及び食肉塊側面挟持板23を支持するピストンロッド24からなり、それらは、支持体26に固定されており、食肉塊両側に配置された食肉塊挟持手段同士は、同じ動作をするように連結板32で連結されている。食肉塊搬送手段は、食肉塊挟持手段支持体26を駆動するための搬送サーボモータ31、搬送サーボモータ31の駆動を伝えるタイミングベルト30、タイミングベルト30により正逆回転自在なボールネジ28、ボールネジ28に螺着されているボールネジナット27、支持体26を搬送方向にスムーズに進退自在にスライドさせるための水平スライドシャフト29と水平スライドベアリング34からなり、ボールネジナット27は、支持体26を駆動させるために支持体26に固着されている。
【0048】
搬送方向駆動機構は、タイミング制御部(図示せず)からの信号に基づき正逆自在に回転する搬送サーボモータ31の駆動がタイミングベル30を介してボールネジ28に伝えられ、ボールネジ28が正逆回転すると、ボールネジ28にボールネジナット27を介して螺着されている支持体26が水平スライドシャフト29にガイドされて搬送方向に進退自在に移動するようになっている。
【0049】
図2及び図3には、噴射手段が示されており、特に、上噴射ステーション11の動きに合わせた態様が示されている。
上噴射ステーション支持体13に設けられた垂直スライドベアリング19を介して昇降自在に嵌挿されている垂直スライド上部シャフト14と、これら垂直スライド上部シャフト14に固着されている上部連結板15にピストンロッド17の端部18が固着され、シリンダ16の下端部が噴射部支持体13に固定されているシリンダピストンと、垂直スライド上部シャフト14に固着されている下部連結板35の両端部近傍に設けられた垂直スライドベアリング20を介して昇降自在に嵌挿されている垂直スライド下部シャフト21と、これら垂直スライド下部シャフト21に固着されている噴射部固定板22と、この噴射部固定板22に固定されている下端に噴射ノズルを備えた噴射部(マニホールド)9とから構成されており、この噴射部(マニホールド)9に高圧の液状物質を導入するフレキシブルホース7が接続されている。
【0050】
また、噴射部(マニホールド)9の昇降は、図2に噴射部(マニホールド)9の下降時の状態、図3に上昇時の状態が示されている。図2~3に示ように、シリンダ16へのピストンロッド17の進退により行われるが、搬送されてくる食肉塊8の厚みが一定でないことや、また液状物質の噴射注入により食肉塊8が膨らんでその高さが増すので、噴射部(マニホールド)9が上方向に逃げられる構造、すなわち噴射部(マニホールド)9を固定している噴射部固定板22に固着されている垂直スライド下部シャフト21が垂直スライドベアリング20を介して昇降しうるようになっている。
【0051】
噴射部(マニホールド)9は、図2及び図3に示されているように、初期位置(待機位置)から下降、注入、上昇、というサイクルで移動することになる。又は、下噴射部10は下噴射ステーション12に固定されているが、下噴射部10上に食肉塊8が搬送されてきたのを検知し、上噴射部9が噴射すると同時に下噴射部10からも上向きに液状物質を噴射する。
【0052】
図2は、上噴射部9の下に食肉塊が載置されたのを検知し、上噴射部9が下降して食肉塊に当接して液状物質を噴射している状態である。この状態で、下噴射部10上にも食肉塊があることを検知し、下噴射部10からも液状物質が噴射される。噴射終了後上噴射部9は、シリンダピストン16により、ピストンロッド17が押し出されて上昇し、図3に示す上昇状態となる。上噴射部9が上昇すると共に、シリンダ25よりピストンロッド24が押し出され、食肉塊側面挟持板23が食肉塊方向に押し出されて食肉塊8を挟持し、それと同時に搬送サーボモータ31が回転することにより、タイミングベルト30を介してボールネジ28が回転し、ボールネジ28にボールネジナット27を通じて螺着されている支持体26が搬送方向に移動するのに伴って、食肉塊側面挟持板23で挟持されている食肉塊8がある一定距離を搬送される。食肉塊8が搬送されると同時に食肉塊側面挟持板23は、シリンダ25によって、ピストンロッド24が引き戻されることにより食肉塊が搬送台33上に解放されると同時に上噴射部9が下降して前と同じく食肉塊8に当接して噴射行う。また、食肉塊8を搬送後、食肉塊挟持手段を固着している支持体26は、搬送サーボモータ31が以前とは逆回転することにより、元の位置に引き戻される。
以上のような動作を繰り返し、食肉塊8全体に均質に液状物質を注入することができる。
【0053】
食肉塊間欠搬送手段が、1回の動作で移動する距離(1ピッチ)は適宜設定できるが、食肉塊全体に均質に注入するためには、噴射部9及び10の側面の長さと同じ距離であるのが好ましい。
上噴射部9と下噴射部10の位置は特に制限されないが、上下同じ位置でも、下噴射部10が、上噴射部9の位置に対して前後にずれていてもよい。前後にずれている場合に、食肉塊全体に均質に液状物質を注入するためには、上噴射部9と下噴射部10が、食肉間欠搬送手段により搬送される1ピッチ以上前後しているのが好ましく、さらに1~3ピッチ前後にずれているのが好ましく、さらに、1~3ピッチ前にずれているのが好ましく、さらに1ピッチ前にずれているのが好ましい。
【0054】
以上のようにして得られた液状物質が注入された食肉塊は、必要に応じて、乾燥、加熱、燻蒸等の工程経て、適当な大きさに切断された食肉ブロック、薄くスライスされた食肉スライス片等の形状で製品化される。本発明の食肉スライス片の製造方法において、「さらに得られた食肉塊をスライスする」工程は、液状物資が注入された食肉塊そのものをスライスする工程だけはなく、液状物質が注入された食肉塊に乾燥、加熱、燻蒸等の工程を行った後にスライスする工程をも含む。食肉塊をスライスする方法は、特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【実施例
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0056】
図1に示すインジェクターを用いて以下のようにピックル液の注入を行った。上噴射部(マニホールド)9の真下に食肉塊の長方向の一端を載置し、上噴射部の先端部が下降し、上噴射部(マニホールド)9の先端が食肉塊8を押し付けると同時に、設定された注入初期圧力、注入上昇速度、注入最高位圧力、注入時間でサーボモータ3により高圧プランジャーポンプ4が駆動し、食肉塊に当接している噴射ノズルの先端から液状物質を直進水流として噴射し、ピックル液を食肉塊に注入した後、圧力をゼロに戻した。次いで、コントローラ(図示せず)に組み込まれた食肉塊間欠搬送用手段のプログラムに応じて食肉塊を移動した。下噴射部上にも食肉塊が載置され、上噴射部と同様の条件で、一定距離を置いた下噴射部のノズルからも直進水流として噴射し、ピックル液を食肉塊に注入した。さらに上噴射部、下噴射部を用いて前記注入動作を繰り返し、食肉塊8全体にピックル液を注入した。
実施例1においては、サーボモータの始動回転数を10000pps(pulse per second)(注入圧力444kg/cmに相当)とし15000pps(注入圧力1000kg/cmに相当)まで500ミリ秒で回転数をあげてピックル液を注入した。
【0057】
[比較例1]
前記と同一の液状物質を用いて、同等の食肉塊に対し既存の無針型ピックルインジェクター(特許文献1に記載のピックルインジェクター)を用いてピックル液の注入を行った。
比較例1においてはサーボモータの始動回転数を5000pps(注入圧力111kg/cmに相当)として、15000ppsまで1300ミリ秒で回転数を上げてピックル液を注入した。
【0058】
両者を比較した場合、その注入率は、同じであった。同じピックル液注入率を達成するのに必要なピックル液の質量が、実施例1は、比較例1に比して、約10%程度少なかった。特に生ハム製造においては、注入されなかったピックル液を再利用することは認められないことから、本発明の装置を用いることでピックル液の有効率を向上させることができた。また、注入時間も従来の装置の半分以下となり、生産性を向上させることができた。
【0059】
また、実施例1の食肉塊表面と比較例1の食肉塊表面を比較した場合、実施例1では、ピックル液注入前の表面とほぼ同じように滑らかであったが、比較例1では、いくつかピックル液が注入された箇所を中心に割けた箇所があった。
【実施例2】
【0060】
実施例1と同様にピックル液を注入した12の食肉塊の各食肉塊中の塩分濃度を測定した。その結果と平均値及び標準偏差を表1に示す。
【0061】
[比較例2]
比較例1と同様にピックル液を注入した12の食肉塊の各食肉塊中の塩分濃度を測定した。その結果と平均値及び標準偏差を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1から、実施例1相当サンプルの方が、比較例1相当サンプルに比して、塩分濃度のばらつきが低減することがわかった。
【実施例3】
【0064】
実施例2で得られたピックル液を注入した原木を、温度18℃、湿度60%の条件で乾燥して生ハムを製造し、その歩留まりの平均値及び標準偏差を求めた。その結果を表2に示す。
【0065】
[比較例3]
比較例2で得られたピックル液を注入した原木を、温度18℃、湿度60%の条件で乾燥して生ハムを製造し、その歩留まりの平均値及び標準偏差を求めた。その結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2から、実施例2サンプルの方が、比較例2サンプルに比して、製品の歩留まりが向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のインジェクターを用いることにより、特に品質管理の厳しい生ハムの製造工程において、従来のインジェクターに比して、生産性を飛躍的に向上させることができる。したがって、本発明は、食肉加工分野での利用可能性がある。
【符号の説明】
【0069】
1 液体タンク
2 ダイヤフラムポンプ
3 サーボモータ3
4 高圧プランジャーポンプ
5 高圧配管
6 切替バルブ
7 フレキシブルホース
8 食肉塊
9 上噴射部(マニホールド)
10 下噴射部(マニホールド)
11 上噴射ステーション
12 下噴射ステーション
13 上噴射ステーション支持体
14 垂直スライド上部シャフト
15 上部連結板
16 シリンダ
17 ピストンロッド
18 ピストンロッド17の端部
19 垂直スライドベアリング
20 垂直スライドベアリング
21 垂直スライド下部シャフト
22 噴射部固定板
23 食肉塊側面挟持板
24 ピストンロッド
25 シリンダ
26 食肉塊挟持手段支持体
27 ボールネジナット
28 ボールネジ
29 水平スライドシャフト
30 タイミングベルト
31 搬送サーボモータ
32 連結板
33 搬送台
34 水平スライドベアリング
35 下部連結板
図1
図2
図3
図4