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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】滑水性膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 153/00 20060101AFI20230405BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
C09D153/00
C08F293/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019179976
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021054960
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】竹井 工貴
【審査官】宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-030763(JP,A)
【文献】特開2007-291315(JP,A)
【文献】特開2000-230060(JP,A)
【文献】国際公開第2018/097012(WO,A1)
【文献】特開2010-077172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
B05D1/00-7/26
C09K3/18
C08F251/00-283/00
C08F283/02-289/00
C08F291/00-297/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性領域及び親水性領域を含む滑水性膜であって、
(1)疎水部としてシリコーン(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸メチルとの共重合体セグメントに、親水部として下記一般式(A)
【化8】
(但し、R、及びRは、互いに同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。)で表される(メタ)アクリルアミド化合物が結合されてなる疎水-親水ブロックコポリマーから構成され、
(2)前記疎水部が前記疎水性領域を形成し、前記親水部は前記親水性領域を形成している相分離構造を有する、
ことを特徴とする滑水性膜。
【請求項2】
疎水-親水ブロックコポリマー中において、疎水部が80~90体積%であり、親水部が10~20体積%である、請求項1に記載の滑水性膜。
【請求項3】
膜に対する水滴(20μl)の転落角が50度以下である、請求項1又は2に記載の滑水性膜。
【請求項4】
シリコーン(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸メチルとのモル比が1:5~95である、請求項1~3のいずれかに記載の滑水性膜。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の滑水性膜が物品の表面に形成されてなる滑水性物品。
【請求項6】
滑水性膜を製造する方法であって、
(1)シリコーン(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸メチルとの共重合物に下記一般式(A)
【化9】
(但し、R、R及びRは、互いに同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。)で表される(メタ)アクリルアミド化合物を反応させることによって、疎水-親水ブロックコポリマーを得る工程、
(2)前記疎水-親水ブロックコポリマーを溶媒に溶解させることによって、溶液を調製する工程、
(3)前記溶液の膜を形成した後、前記塗膜を相分離させることによって、疎水性領域及び親水性領域を含む滑水性膜を形成する工程
を含む、滑水性膜の製造方法。
【請求項7】
シリコーン(メタ)アクリレートの数平均分子量が800~5000である、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な滑水性膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば信号機カバー、自動車ヘッドランプ・リアランプ用カバー(レンズ)、建築物の窓ガラス、ドアミラー等の各種の製品においては、その表面に滑水性を付与するための処理が施されている。このように処理された表面は、水分を吸収することなく、水滴を滑落させやすい性質を有しているので、結果として水滴がその表面に残留しにくくなっている。このため、これらの各種の製品が例えば雨、雪等にさらされても、水滴又は雪が付着しにくいので、製品の本来の機能をより確実に発揮させることができる。
【0003】
このような滑水性は、一般的には滑水性処理剤を表面にコーティングすることによって付与されている。
【0004】
例えば、1種または2種以上のベース樹脂とOH基を2個以上含む含フッ素アルコール系化合物とを含有し、塗膜を形成する滑水性コート材料が知られている(特許文献1)。
【0005】
また例えば、加水分解性シリル基を有する含フッ素重合体(A)を必須成分とする、風力発電機のブレードの表面塗布用塗料組成物が知られている(特許文献2)。
【0006】
また例えば、炭化水素系ビニルモノマーを共重合成分として含有する共重合体を含有し、且つ、下記に定義する滑落速度が0.5cm/秒より大きいことを特徴とする、基材上に形成された滑水性被膜が提案されている(特許文献3)。
【0007】
さらに、ポリアルキレンエーテルを主鎖あるいは側鎖に有するポリマーを被膜中の全ポリマーに対し50質量%以上含有し、且つ、15°の傾斜面で30μlの水滴が斜面に沿って3cm以上転落することを特徴とする、基材上に形成された滑水性被膜が提案されている(特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-52195
【文献】特開2011-219653
【文献】特開2007-291315
【文献】特開2008-279363
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~2の滑水性コート材料は、フッ素系であることから比較的高価になるうえ、一般に基材との密着性が低いという欠点がある。また、特許文献3~4の滑水性被膜は、滑水性という点でさらなる改善の余地がある。
【0010】
従って、本発明の主な目的は、より優れた滑水性を発揮できる滑水性膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の構造からなる膜を形成することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記の滑水性膜及びその製造方法に係る。
1. 疎水性領域及び親水性領域を含む滑水性膜であって、
(1)疎水部としてシリコーン(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸メチルとの共重合体セグメントに親水部として下記一般式(A)
【化1】
(但し、R、R及びRは、互いに同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。)で表される(メタ)アクリルアミド化合物が結合されてなる疎水-親水ブロックコポリマーから構成され、
(2)前記疎水部が前記疎水性領域を形成し、前記親水部は前記親水性領域を形成している相分離構造を有する、
ことを特徴とする滑水性膜。
2. 疎水-親水ブロックコポリマー中において、疎水部が80~90体積%であり、親水部が10~20体積%である、前記項1に記載の滑水性膜。
3. 前記膜に対する水滴(20μl)の転落角が50度以下である、前記項1又は2に記載の滑水性膜。
4. シリコーン(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸メチルとのモル比が1:5~95である、前記項1~3のいずれかに記載の滑水性膜。
5. 前記項1~4のいずれかに記載の滑水性膜が物品の表面に形成されてなる滑水性物品。
6. 滑水性膜を製造する方法であって、
(1)シリコーン(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸メチルとの共重合物に下記一般式(A)
【化2】
(但し、R、R及びRは、互いに同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。)で表される(メタ)アクリルアミド化合物を反応させることによって、疎水-親水ブロックコポリマーを得る工程、
(2)前記疎水-親水ブロックコポリマーを溶媒に溶解させることによって、溶液を調製する工程、
(3)前記溶液の膜を形成した後、前記膜を相分離させることによって、疎水性領域及び親水性領域を含む滑水性膜を形成する工程
を含む、滑水性膜の製造方法。
7. シリコーン(メタ)アクリレートの数平均分子量が800~5000である、前記項6に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より優れた滑水性を発揮できる滑水性膜を提供することができる。すなわち、本発明の滑水性膜は、特定の構造を有する疎水-親水ブロックコポリマーを自己組織化させることによって得られる相分離構造を有することから、優れた滑水性を発揮することができる。特に、相分離構造として、疎水部が海状部分であり、親水部が島状部分である海島構造を有する場合は、より優れた滑水性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の疎水-親水ブロックコポリマーの一例を示す模式図である。
図2】本発明の疎水-親水ブロックコポリマーの一例と、それから得られる滑水性膜の表面性状のイメージ図である。
図3】滑水性膜の表面性状の別のイメージ図である。
図4】実施例1で得られた膜の表面を透過型電子顕微鏡で観察したイメージ図である。
図5】比較例2で得られた膜の表面を透過型電子顕微鏡で観察したイメージ図である。
【符号の説明】
【0015】
10 疎水-親水ブロックコポリマー
11a シリコーン(メタ)アクリレート
11b (メタ)アクリル酸メチル
12 (メタ)アクリルアミド化合物(本発明化合物)
20 滑水性膜
a 疎水部
b 親水部
A 疎水性領域
B 親水性領域
B’ 孤立した疎水性領域を含んだ親水性領域
S 自己組織化
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.滑水性膜
本発明の滑水性膜は、疎水性領域及び親水性領域を含む滑水性膜であって、
(1)疎水部としてシリコーン(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸メチルとの共重合体セグメントに親水部として下記一般式(A)
【化3】
(但し、R、R及びRは、互いに同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。)で表される(メタ)アクリルアミド化合物(本発明化合物)が結合されてなる疎水-親水ブロックコポリマーから構成され、
(2)前記疎水部が前記疎水性領域を形成し、前記親水部は前記親水性領域を形成している相分離構造を有する、
ことを特徴とする。
なお、本発明では、以下において、特にことわりのない限り、アクリレート又はメタクリレートを「(メタ)アクリレート」と総称し、アクリル酸又はメタクリル酸を「(メタ)アクリル酸」と総称し、アクリルアミド又はメタクリルアミドを「(メタ)アクリルアミド」と総称する。
【0017】
本発明の滑水性膜は、上記のように、基本的に疎水-親水ブロックコポリマーを構成要素とする。そして、複数の疎水-親水ブロックコポリマーの疎水部どうしが集合して疎水性領域を形成することともに、その親水部どうしが集合して親水性領域を形成する。このように、自己組織化することで相分離構造を有する滑水性膜が形成されている。
【0018】
まず、滑水性膜の構成要素となる疎水-親水ブロックコポリマーは、疎水部としてシリコーン(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸メチルとの共重合体セグメントを基本骨格とし、この基本骨格に本発明化合物が共重合成分として導入されることにより親水部が形成されている。すなわち、疎水-親水ブロックコポリマーは、疎水性の共重合体セグメントに、本発明化合物が共重合成分として導入された構造を有する。
【0019】
本発明の疎水-親水ブロックコポリマーの一例を図1(イメージ図)に示す。図1では、シリコーン(メタ)アクリレート11aと(メタ)アクリル酸メチル11bとの共重合体との共重合体に本発明化合物12が共重合成分として導入されることにより、疎水部aと親水部bから構成されるa-b型疎水-親水ブロックコポリマー10が形成される。図1の疎水-親水ブロックコポリマー10は、コポリマーの片側の末端に親水部bが結合した構造であるが、自己組織化を妨げない限り、コポリマーの両側の末端に親水部bが結合した構造であっても良い。また、図1の疎水-親水ブロックコポリマー10は、1つの疎水部と1つ親水部から構成されているが、単数又は複数の疎水部と単数又は複数の親水部とが結合した構造であっても良い。例えば、a-b型、a-b-a型,b-a-b型等の疎水-親水ブロックコポリマーも包含される。これらの場合、疎水-親水ブロックコポリマーの片側の末端は親水部、他方の末端は疎水部となっていることが自己組織化をより促進できる点で望ましい。
【0020】
疎水-親水ブロックコポリマーにおける疎水部と親水部の割合は、所望の滑水性、疎水部及び親水部を構成する成分の種類等によって異なるが、体積分率で疎水部が80~90体積%であり、親水部が10~20体積%であることが好ましい。従って、例えば疎水部:親水部=84:16~87:13とすることもできる。なお、上記の体積分率は、各モノマーの分子量と密度からモル体積を求め、モル数から体積を算出し、それらの体積に基づいて体積分率を算出することができる。
【0021】
上記のような疎水-親水ブロックコポリマーは、自己組織化することにより相分離構造を与えることができる。すなわち、疎水部どうしが集合して疎水性領域を形成することともに、親水部どうしが集合して親水性領域を形成する。その一例を模式化した平面視図を図2に示す。図2には、自己組織化した滑水性膜20の表面状態のイメージを示す。疎水性領域Aは、主として、疎水-親水ブロックコポリマー10の疎水部aが集合することで形成されている。親水性領域Bは、主として、疎水-親水ブロックコポリマー10の親水部bが集合することで形成されている。
【0022】
疎水性領域及び親水性領域の形状、比率等は、所望の滑水性等に応じて適宜設定することができるが、特に図2の滑水性膜20に示すように海島構造を有していることが望ましい。すなわち、相分離構造の表面形状として、図2のように、海状の疎水性領域の中に島状に親水性領域が形成されていることが好ましい。これによって、より確実に良好な滑水性を得ることができる。海島構造は、図2に示すよう疎水性領域は連続した1つの領域からなることが好ましいが、本発明の効果を妨げない限り、図3に示すような孤立した疎水性領域が含まれていても良い。また、本発明の効果を妨げない限り、海島構造以外の構造(例えばラメラ構造等)が一部に含まれていても良い。なお、相分離構造は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)等によって確認することができる。
【0023】
また、本発明の滑水性膜が海島構造をとる場合、疎水性領域と親水性領域の面積割合は、所望の滑水性が得られる限り、特に限定されないが、海島構造を形成しやすいという観点から疎水性領域の面積割合の方が大きいことが好ましい。より具体的には、疎水性領域60~95%程度及び親水性領域5~40%程度の面積割合とすることができる。
【0024】
滑水性膜の厚みは、用途、使用部位等に応じて適宜変更することができる。例えば通常は1~1000μm程度とし、さらには10~700μmとすることができるが、これに限定されない。
【0025】
滑水性膜による滑水性は、用途、使用部位等に応じて適宜設定することができるが、通常は当該膜に対する水滴(20μl)の転落角が50度以下であることが好ましく、特に45度以下であることがより好ましい。これにより、実用面においてよりいっそう優れた滑水性を得ることができる。
【0026】
以下においては、本発明の滑水性膜の構成要素である疎水-親水ブロックコポリマーの各構成成分等について説明する。
【0027】
シリコーン(メタ)アクリレートとしては、ポリジメチルシロキサンの片側末端又は両側末端に有機基(官能基)が導入されたシリコーン化合物を使用することができる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0028】
特に、本発明では、ポリジメチルシロキサンの片側末端に有機基が導入されたシリコーン化合物が好ましい。
【0029】
前記の有機基としては、限定的ではないが、特にメタクリル基、アクリロイル基、スチリル基、ビニル基等の重合性官能基を含む有機基であることが好ましい。特に、前記の有機基として、メタクリル基又はアクリロイル基を含む有機基がより好ましい。このような有機基を有する化合物を反応させることによって、前記有機基をポリジメチルシロキサンに導入することができる。
【0030】
メタクリル基又はアクリロイル基を含む有機基を有する化合物としては、特に限定されず、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等が例示される。
【0031】
シリコーン(メタ)アクリレートの数平均分子量は、ブロックコポリマーが形成されやすいという見地から、通常は800~10000(好ましくは1000~5000)の範囲内で設定することができるが、これに限定されない。前記数平均分子量が大きすぎるとシリコーンオイルのように液状になり製膜しにくくなることがある。一方、前記数平均分子量が小さすぎると滑水性が低下するおそれがある。
【0032】
このようなシリコーン(メタ)アクリレートの好ましい具体例としては、下記一般式:
【化4】
(但し、nは0より大きい整数、R及びR’は、互いに同一又は異なって、炭素数1~10のアルキル基を示す。)で示される化合物を採用することができる。これらも1種又は2種以上で使用することができる。
【0033】
本発明では、シリコーン(メタ)アクリレートは、市販品を用いることもできる。例えば、製品名「サイラプレーン(登録商標)FM-0711」、製品名「サイラプレーン(登録商標)FM-0721」、製品名「サイラプレーン(登録商標)FM-0725」(いずれもJNC株式会社製)、製品名「KF-2012」、製品名「X-22-174ASX」、製品名「X-22-174BX」、製品名「X-22-2426」、製品名「X-22-2404」(いずも信越シリコーン社製、変性シリコーンオイル)等が挙げられる。
【0034】
(メタ)アクリル酸メチルは、アクリル酸メチル及びメタクリル酸メチルの少なくとも1種を用いることができる。これらは市販品を用いることもできる。
【0035】
親水性を有する共重合成分として導入される本発明化合物は、下記一般式(A):
【化5】
(但し、R、R及びRは、互いに同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。)で表される(メタ)アクリルアミド化合物を用いる。
【0036】
この中でも、R、R及びRは、互いに同じ又は異なって、水素原子又は炭素数2以下のアルキル基であるモノマーが好ましい。特に、Rは水素原子又はメチル基、R及びRは、互いに同じでメチル基又はエチル基であるモノマーがより好ましい。従って、例えばN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド又はN,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドを親水性ブロックのポリマーを構成するモノマーとして好適に用いることができる。
【0037】
2.滑水性物品
本発明の滑水性膜は、滑水性を施す対象の表面に設けることによって使用することができる。すなわち、本発明は、滑水性膜が物品の表面に形成されてなる滑水性物品も包含する。
【0038】
基材となり得る物品の材質は、特に限定されず、合成樹脂、セラミックス、ガラス、金属、コンクリート等のいずれにも適用することができる。
【0039】
物品の形態としても、特に限定されず、例えば信号機カバー、自動車ヘッドランプ・リアランプ用カバー(レンズ)、建築物の窓ガラス、ドアミラー等の各種の製品が挙げられる。特に、本発明の滑水性膜は、透明性を有することもできるので、透明性を有する製品の表面に好適に設けることができる。従って、例えば光学製品における透明部材の表面に本発明の滑水性膜を形成することもできる。
【0040】
滑水性物品の製造方法としては、特に制限されず、例えばa)別途に予め作製された滑水性膜を物品表面に貼着する方法、b)後記「3.滑水性膜の製造方法」に従って物品表面上に滑水性膜形成用溶液を塗布し、滑水性膜を物品表面上で形成させる方法等のいずれも採用することができる。上記a)の方法では、滑水性膜を物品に直接付与できるので、製造工程等の簡略化等を図ることができる。なお、前記a)の方法では、公知又は市販の接着剤又は粘着剤を用いて貼着することができる。
【0041】
3.滑水性膜の製造方法
本発明の滑水性膜は、例えば滑水性膜を製造する方法であって、
(1)シリコーン(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸メチルとの共重合物に下記一般式(A):
【化6】
(但し、R、R及びRは、互いに同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。)で表される(メタ)アクリルアミド化合物を反応させることによって、疎水-親水ブロックコポリマーを得る工程(第1工程)、
(2)前記疎水-親水ブロックコポリマーを溶媒に溶解させることによって、溶液を調製する工程(第2工程)、
(3)前記溶液の膜を形成した後、前記塗膜を相分離させることによって、疎水性領域及び親水性領域を含む滑水性膜を形成する工程(第3工程)
を含む、滑水性膜の製造方法によって好適に製造することができる。
【0042】
第1工程
第1工程では、シリコーン(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸メチルとの共重合物に下記一般式(A):
【化7】
(但し、R、R及びRは、互いに同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。)で表される(メタ)アクリルアミド化合物を反応させることによって、疎水-親水ブロックコポリマーを得る。
【0043】
シリコーン(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸メチルは、前記「1.滑水性膜」で説明したものをそれぞれ用いることができる。
【0044】
共重合物の製法は、溶媒の存在下において液相中で実施することが好ましい。溶媒としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒等の各種の有機溶剤を用いることができる。特に、本発明では、本発明のブロック共重合体を溶解できる有機溶剤(例えばケトン系溶媒及びエステル系溶媒の少なくとも1種)を好適に用いることができる。
【0045】
シリコーン(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸メチルの配合割合は、所定の疎水部が形成される限り、特に限定されないが、通常は重量比でシリコーン(メタ)アクリレート:(メタ)アクリル酸メチル=1:0.8~1:5程度とすれば良い。シリコーン(メタ)アクリレートが多すぎるとシリコーンオイルのような液状となり、製膜しにくくなることがある。また、シリコーン(メタ)アクリレートが少なすぎると、滑水性が低下することがある。
【0046】
また、重合に際しては、必要に応じて重合開始剤等の公知の添加剤を配合することもできる。重合開始剤としては、例えば2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル等のアゾ系化合物のほか、過酸化ベンゾイル等の過酸化物等を好適に用いることができる。
【0047】
液相中での重合反応条件としては、特に制限されないが、例えば反応温度は40~90℃程度の範囲内、反応時間は1~15時間程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0048】
また、重合反応は、RAFT試薬を用いるリビングラジカル重合も好適に採用することができる。この場合は、RAFT試薬として、例えばトリチオカルボネート型、ジチオカルバメート型等の公知又は市販の化合物を用いれば良い。RAFT試薬を用いる場合の使用量は、例えばモノマーの合計モル数に対して100ppm~10%の範囲内で適宜設定できるが、これに限定されない。
【0049】
このようにして、シリコーン(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸メチルとの共重合物を調製することができる。この場合、前記共重合物を含む反応生成物は、液状であり、前記共重合物を固液分離方法により単離しても良いが、その液状反応生成物を前記共重合物の供給原料として用いることもできる。この場合、液状反応生成物の濃度を適宜変更することもできる。
【0050】
次に、上記共重合物に上記(メタ)アクリルアミド化合物を反応させる。この場合も、上記と同様の溶媒中で反応させることができる。
【0051】
また、反応に際しては、必要に応じて重合開始剤等の公知の添加剤を配合することもできる。重合開始剤としては、例えば2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル等のアゾ系化合物のほか、過酸化ベンゾイル等の過酸化物等を好適に用いることができる。
【0052】
液相中での反応条件としては、特に制限されないが、例えば反応温度は40~90℃程度の範囲内、反応時間は1~15時間程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0053】
このようにして、疎水-親水ブロックコポリマーを得ることができる。疎水-親水ブロックコポリマーを含む反応生成物は、液状であるため、公知の固液分離方法を用いて疎水-親水ブロックコポリマーを回収すれば良い。
【0054】
第2工程
第2工程では、前記疎水-親水ブロックコポリマーを溶媒に溶解させることによって、溶液(滑水性膜形成用溶液)を調製する。
【0055】
溶媒は、第1工程で得られた疎水-親水ブロックコポリマーを溶解させることができる限り、特に限定されない。例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒等の各種の有機溶剤を用いることができる。特に、本発明では、本発明のブロック共重合体を溶解できる有機溶剤(例えばケトン系溶媒及びエステル系溶媒の少なくとも1種)を好適に用いることができる。
【0056】
溶液中の上記疎水-親水ブロックコポリマーの濃度(固形分濃度)は、通常は5~25重量%程度とすれば良いが、これに限定されない。
【0057】
第3工程
第3工程では、前記溶液の膜を形成した後、前記塗膜を相分離させることによって、疎水性領域及び親水性領域を含む滑水性膜を形成する。
【0058】
前記溶液の膜の形成方法は、特に限定されず、例えばa)基材上に溶液を塗布又は滴下する方法、b)容器に前記溶液を充填する方法等を採用することができる。膜は、乾燥した膜であっても良いが、未乾燥の膜(液膜)として形成されることが自己組織化を促進できる点で好ましい。塗布する場合の塗布方法は、例えば刷毛、ローラー、スプレー、ブレード、ディッピング等による各種の塗布方法を採用することができる。
【0059】
相分離させる方法は、疎水-親水ブロックコポリマーが自己組織化できる限り、特に制約されない。例えば、温度5~40℃程度で前記の膜を静置する方法を採用することができる。この場合の所用時間は、疎水-親水ブロックコポリマーの自己組織化が完了するのに十分な時間とすれば良く、例えば3~48時間程度とすることができるが、これに限定されない。ただし、前記溶液の溶媒の蒸発速度(乾燥速度)が速すぎると、自己組織化が十分になされないおそれがあるので、形成される滑水性膜に対する水滴(20μl)の転落角が50度以下(特に45度以下)となるような十分な時間をかけて乾燥させることが望ましい。従って、例えば、10~30℃の温度下で10~30時間静置する方法を好適に採用することができる。
【実施例
【0060】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0061】
なお、各実施例及び比較例において使用した疎水性モノマー(シリコーン(メタ)アクリレート)として表記されているものは、以下の市販品を用いた。
(1)FM-0711:製品名「サイラプレーン(登録商標)FM-0711」(Mn=1000,JNC株式会社製)
(2)KF-2012:製品名「KF-2012」(Mn=4600,信越シリコーン社製)
【0062】
実施例1
疎水部モノマーとしてFM-0711(3g,3mmol)、メタクリル酸メチル(MMA)(3.004g,30mmol)、RAFT試薬として2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボナート(0.1037g,0.30mmol)、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル(0.0863g,0.375mmol)及び溶媒として酢酸エチル(2g)をそれぞれ2口フラスコに入れ、反応混合物を窒素バブリングさせながら30分攪拌した。
反応混合物を80℃まで昇温し、7時間加熱撹拌した。反応途中、増粘を抑えるため、加温2時間後に酢酸エチル1g、3時間後に酢酸エチル1g、4時間後に酢酸エチル2gをそれぞれ追加し、固化しないように注意しながら反応を行った。
反応生成物についてH-NMRで反応転換率が99%以上であることを確認した後、親水部モノマーとしてN,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)(0.980g,9.90mmol)、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル(0.069g,0.3mmol)及び溶媒として酢酸エチル(1.049g)を追加し、反応混合物をさらに80℃で3時間撹拌した。撹拌終了後、減圧乾燥することにより溶媒を留去し、目的とするブロックコポリマーを得た。
次いで、得られたブロックコポリマーを用い、酢酸エチルに溶解させることで固形分濃度5重量%のキャスト溶液を調製した。一方、シャーレに離型剤を塗布し、室温で1日乾燥し、100℃で1時間乾燥させた。その後、このシャーレにスライドガラスを入れた。次いで、前記溶液を液高さが1cmとなるようにシャーレに注いだ。室温(約25℃)で24時間かけて緩やかに溶媒を留去した。このようにして、スライドガラス表面に膜厚500μmのブロックコポリマー膜(自己組織化膜)を形成した。得られた膜の構造を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した結果、自己組織化による相分離構造を有することが確認された。その結果を図4に示す。図4より、数十nmサイズのドメインが形成されていることから、ミクロ相分離構造となっていることが理解できる。
【0063】
実施例2
疎水部モノマーとしてKF-2012(1.517g,0.33mmol)、メタクリル酸メチル(2.971g,29.67mmol)、RAFT試薬として2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボナート(0.104g,0.30mmol)、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル(0.086g,0.375mmol)及び溶媒として酢酸エチル(2g)を2口フラスコに入れ、反応混合物を窒素バブリングさせながら30分攪拌した。反応混合物を80℃まで昇温し、7時間加熱撹拌した。反応途中、増粘を抑えるため、加温2時間後に酢酸エチル1g、3時間後に酢酸エチル1g、4時間後に酢酸メチル2gを追加し、固化しないように注意しながら反応を行った。
反応生成物について、H-NMRで反応転換率が99%以上であることを確認した後、親水部モノマーとしてN,N-ジメチルアクリルアミド(0.743g,7.5mmol)、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル(0.069g,0.30mmol)及び溶媒として酢酸エチル(0.812g)を追加し、反応混合物をさらに80℃で3時間撹拌した。撹拌終了後、減圧乾燥することにより溶媒を留去し、目的とするブロックコポリマーを得た。
次いで、得られたブロックコポリマーを用い、酢酸エチルに溶解させることで固形分濃度5重量%のキャスト溶液を調製した。一方、シャーレに離型剤を塗布し、室温で1日乾燥し、100℃で1時間乾燥させた。その後、このシャーレにスライドガラスを入れた。次いで、前記溶液を液高さが1cmとなるようにシャーレに注いだ。室温(約25℃)で24時間かけて緩やかに溶媒を留去した。このようにして、スライドガラス表面に膜厚500μmの膜を形成した。得られた膜の構造を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した結果、自己組織化による相分離構造を有することが確認された。
【0064】
比較例1
疎水部モノマーとしてFM-0711(3g,3mmol)、メタクリル酸メチル(3.004g,30mmol)、RAFT試薬として2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボナート(0.1037g,0.30mmol)、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル(0.0863g,0.375mmol)及び溶媒として酢酸エチル(2g)を2口フラスコに入れ、反応混合物を窒素バブリングさせながら30分攪拌した。反応混合物を80℃まで昇温し、7時間加熱撹拌した。反応途中、増粘を抑えるため、加温2時間後に酢酸エチル1g、3時間後に酢酸エチル1g、4時間後に酢酸エチル2gを追加し、固化しないように注意しながら反応を行った。
反応生成物について、H-NMRで反応転換率が99%以上であることを確認し、減圧乾燥により溶媒を留去することによって、目的とする疎水部のみのポリマーを得た。
次いで、得られたポリマーを用い、酢酸エチルに溶解させることで固形分濃度5重量%のキャスト溶液を調製した。一方、シャーレに離型剤を塗布し、室温で1日乾燥し、100℃で1時間乾燥させた。その後、このシャーレにスライドガラスを入れた。次いで、前記溶液を液高さが1cmとなるようにシャーレに注いだ。室温(約25℃)で24時間かけて緩やかに溶媒を留去した。このようにして、スライドガラス表面に膜厚500μmの膜を形成した。
【0065】
比較例2
疎水部モノマーとしてFM-0711(3g,3mmol)、メタクリル酸メチル(3.004g,30mmol)、親水部モノマーとしてN,N-ジメチルアクリルアミド(0.980g,9.90mmol)、RAFT試薬として2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボナート(0.104g,0.30mmol)、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル(0.086g,0.375mmol)及び溶媒として酢酸エチル(2g)を2口フラスコに入れ、反応混合物を窒素バブリングさせながら30分攪拌した。反応混合物を80℃まで昇温し、7時間加熱撹拌した。反応途中、増粘を抑えるため、加温2時間後に酢酸エチル1g、3時間後に酢酸エチル1g、4時間後に酢酸エチル2gを追加し、固化しないように注意しながら反応を行った。撹拌終了後、減圧乾燥することで溶媒を留去し、目的とするランダムコポリマーを得た。
次いで、得られたランダムコポリマーを用い、酢酸エチルに溶解させることで固形分濃度5重量%のキャスト溶液を調製した。一方、シャーレに離型剤を塗布し、室温で1日乾燥し、100℃で1時間乾燥させた。その後、このシャーレにスライドガラスを入れた。次いで、前記溶液を液高さが1cmとなるようにシャーレに注いだ。室温(約25℃)で24時間かけて緩やかに溶媒を留去した。このようにして、スライドガラス表面に膜厚500μmの膜を形成した。得られた膜の構造を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した結果、相分離構造は確認されなかった。その結果を図5に示す。図5より、実施例1のような数十nmサイズのドメインが確認されないことから、ミクロ相分離構造が形成されていないことが理解できる。
【0066】
比較例3
膜形成方法として、実施例1の方法(アズキャスト法)に代えてスピンコーターを用いて実施したほかは、実施例1と同様に実施した。より具体的には、得られたランダムポリマーを用い、酢酸エチルに溶解させることにより固形分濃度30重量%の溶液を調製した後、得られた溶液を全面が濡れるようにガラス基材の上に置いた状態で回転させ、塗工、乾燥させた。スピンコーターは市販の装置(製品名「MIKASA SPINCOATER 1H-D7」ミカサ株式会社製)を用い、塗工条件は回転速度2000rpm、回転時間30秒、温度25℃とした。このようにして得られた膜をマイクロスコープで測定した結果、膜厚6μmであった。
【0067】
比較例4
膜形成方法として、実施例1の方法(アズキャスト法)に代えてバーコーターを用いて実施したほかは、実施例1と同様に実施した。より具体的には、得られたランダムポリマーを用い、酢酸エチルに溶解させることで固形分濃度30重量%の溶液を調製した後、得られた溶液をアプリケーターを用いて、ウエット膜厚が200μmとなるようにガラス基材の上に塗工した後、50℃で15分乾燥させた。このようにして、スライドガラス表面に理論膜厚60μmの膜を形成した。
【0068】
比較例5
疎水部モノマーとしてKF-2012(1.517g,0.33mmol)、メタクリル酸メチル(2.971g,29.67mmol)、RAFT試薬として2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボナート(0.104g,0.30mmol)、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル(0.086g,0.375mmol)及び溶媒として酢酸エチル(2g)を2口フラスコに入れ、反応混合物を窒素バブリングさせながら30分攪拌した。反応混合物を80℃まで昇温し、7時間加熱撹拌した。反応途中、増粘を抑えるため、加温2時間後に酢酸エチル1g、3時間後に酢酸エチル1g、4時間後に酢酸エチル2gを追加し、固化しないように注意しながら反応を行った。
反応生成物について、H-NMRで反応転換率が99%以上であることを確認した後、減圧乾燥により溶媒を留去することで目的とする疎水部のみのポリマーを得た。
次いで、得られたポリマーを用い、酢酸エチルに溶解させることで固形分濃度5重量%のキャスト溶液を調製した。一方、シャーレに離型剤を塗布し、室温で1日乾燥し、100℃で1時間乾燥させた。その後、このシャーレにスライドガラスを入れた。次いで、前記溶液を液高さが1cmとなるようにシャーレに注いだ。室温(約25℃)で24時間かけて緩やかに溶媒を留去した。このようにして、スライドガラス表面に膜厚500μmの膜を形成した。
【0069】
比較例6
疎水部モノマーとしてKF-2012(1.517g,0.33mmol)、メタクリル酸メチル(2.971g,29.67mmol)、親水部モノマーとしてN,N-ジメチルアクリルアミド(0.743g,7.5mmol)、RAFT試薬として2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボナート(0.104g,0.30mmol)、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル(0.086g,0.375mmol)及び溶媒として酢酸エチル(2g)を2口フラスコに入れ、反応混合物を窒素バブリングさせながら30分攪拌した。反応混合物を80℃まで昇温し、7時間加熱撹拌した。反応途中、増粘を抑えるため、加温2時間後に酢酸エチル1g、3時間後に酢酸エチル1g、4時間後に酢酸エチル2gを追加し、固化しないように注意しながら反応を行った。撹拌終了後、減圧乾燥することで溶媒を留去し、目的とするランダムコポリマーを得た。
次いで、得られたランダムコポリマーを用い、酢酸エチルに溶解させることで固形分濃度5重量%のキャスト溶液を調製した。一方、シャーレに離型剤を塗布し、室温で1日乾燥し、100℃で1時間乾燥させた。その後、このシャーレにスライドガラスを入れた。次いで、前記溶液を液高さが1cmとなるようにシャーレに注いだ。室温(約25℃)で24時間かけて緩やかに溶媒を留去した。このようにして、スライドガラス表面に膜厚500μmの膜を形成した。
【0070】
比較例7
膜形成方法として、実施例2の方法(アズキャスト法)に代えてスピンコーターを用いて実施したほかは、実施例2と同様に実施した。より具体的には、得られたランダムポリマーを用い、酢酸エチルに溶解させることにより固形分濃度30重量%の溶液を調製した後、得られた溶液を全面が濡れるようにガラス基材の上に置いた状態で回転させ、塗工、乾燥させた。スピンコーターは市販の装置(製品名「MIKASA SPINCOATER 1H-D7」ミカサ株式会社製)を用い、塗工条件は回転速度2000rpm、回転時間30秒、温度25℃とした。このようにして得られた膜をマイクロスコープで測定した結果、膜厚6μmであった。
【0071】
比較例8
膜形成方法として、実施例2の方法(アズキャスト法)に代えてバーコーターを用いて実施したほかは、実施例2と同様に実施した。より具体的には、得られたランダムポリマーを用い、酢酸エチルに溶解させることで固形分濃度30重量%の溶液を調製した後、得られた溶液をアプリケーターを用いて、ウエット膜厚が200μmとなるようにガラス基材の上に塗工した後、50℃で15分乾燥させた。
【0072】
試験例1
実施例及び比較例で得られた膜の滑水性を調べた。滑水性は、温度25℃及び湿度60%の雰囲気下において、膜上に20μLの水を滴下し、水平面に対して0度からゆっくり角度を上げた場合に水滴が転がり落ちる時の角度(転落角)を測定した。その結果を表1に示す。なお、表1には、膜の組成等についても併せて表記する。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例1のBcPと比較例1の疎水部のみの転落角を比較すると、BcPの方が小さくなっており、BcPの方が高い滑水性をもつことがわかる。
実施例1のBcPと比較例2の転落角を比較すると、BcPの方が小さくなっており、同じ組成でも構造の違いで滑水性が異なることわかる。
実施例1のアズキャスト膜と比較例3のスピンコート膜を比較すると、アズキャスト膜は水が滑るがスピンコート膜では水は滑っておらず、その滑水性に違いがあることがわかる。 実施例1のアズキャスト膜と比較例4のバー塗工膜を比較すると、アズキャスト膜は水が滑るがバー塗工膜では水は滑っていないことがわかる。
実施例1と実施例2のBcPの転落角を比較すると、実施例2の方が小さくなっており、シリコーンの分子量が大きくなることで滑水性が高くなることがわかる。
実施例2のBcPと比較例5の疎水部のみの転落角を比較すると、BcPの方が小さくなっており、BcPの方が高い滑水性をもつことがわかる。
実施例2のBcPと比較例6の転落角を比較すると、BcPの方が小さくなっており、同じ組成でも構造の違いで滑水性が異なることがわかる。
実施例2のアズキャスト膜と比較例7のスピンコート膜を比較すると、アズキャスト膜の方が滑水性は高くなっていることがわかる。
実施例2のアズキャスト膜と比較例8のバー塗工膜を比較すると、アズキャスト膜の方が滑水性は高いことがわかる。
【0075】
このように、本発明の製造方法で得られた膜は、所望の疎水性領域及び親水性領域を含む膜が形成される結果、優れた滑水性を発揮することがわかる。特に、例えば実施例1と比較例3又は比較例4のように、実施例のアズキャスト法による膜と、スピンコート法又はバーコート法による膜との間では、同じBcPを用いても、その滑水性に違いが生じていることがわかる。その理由は、各実施例のアズキャスト法では自己組織化が完了するのに十分な時間が与えられていた結果、所望の疎水性領域及び親水性領域を含む滑水性膜が形成されたのに対し、スピンコート法又はバーコート法では自己組織化が完了するのに十分な時間が与えられていなかったので(たとえBcPを用いたとしても)所望の滑水性膜が形成されなかったためと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、膜表面に相分離構造を有する滑水性膜を提供することができることから、各種の物品(特に表面コート)に適用される滑水性膜として使用することができる。例えば、信号機カバー、自動車ヘッドランプ・リアランプ用カバー(レンズ)、建築物の窓ガラス、ドアミラー等の各種の製品の表面に滑水性を付与するための表面コート材(特に透明性表面コート材)として有利に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5