(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】潤滑油組成物用分散剤
(51)【国際特許分類】
C10M 133/16 20060101AFI20230405BHJP
C10M 133/56 20060101ALI20230405BHJP
C08L 79/02 20060101ALI20230405BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20230405BHJP
C08F 8/32 20060101ALI20230405BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20230405BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20230405BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20230405BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20230405BHJP
【FI】
C10M133/16
C10M133/56
C08L79/02
C08L91/00
C08F8/32
C10N40:04
C10N30:06
C10N40:02
C10N40:25
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019237944
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-12-08
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500010875
【氏名又は名称】インフィニューム インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】キース アール ゴーダ
(72)【発明者】
【氏名】ローラ エイ カフサル
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0264665(US,A1)
【文献】米国特許第5384055(US,A)
【文献】特開昭49-130403(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3118285(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0287643(US,A1)
【文献】米国特許第9340746(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主要量の潤滑性粘性油、及び
潤滑油組成物の質量を基準として0.01~20質量%で構造(I):
【化1】
(I)
の非対称ビススクシンイミド、又は非対称ビススクシンイミドの混合物を含む、潤滑油組成物であって、
式中、R
1及びR
2のうちの1つは直鎖ポリスチレン標準物質を基準としてGPCにより決定される数平均分子量が400~5,000であるポリイソブチレン基であり、R
1及びR
2のうちの他方はα-オレフィン原料のメタロセン触媒重合により作製される炭化水素基であり、xは1~10であり、構造(I)のすべての分子について同一である又は構造(I)の分子の混合物中の構造(I)のすべての分子の平均である、潤滑油組成物。
【請求項2】
α-オレフィン原料が、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、及び1-オクタデセン、並びにこれらのα-オレフィンのうちの2つ以上の任意の混合物を含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
α-オレフィン原料が、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、又はそれらの任意の混合物から本質的に成る、請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
α-オレフィン原料のメタロセン触媒重合により作製される炭化水素基が、直鎖ポリスチレン標準物質を基準としてGPCにより決定される300~20,000の数平均分子量を有する、請求項1
~3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
xが1、2、3、
又は4
である、請求項1
~4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
xが5~8である、請求項1~4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
構造(I)の非対称ビススクシンイミドに加えて1つ又は複数の共添加剤をさらに含む、請求項1
~6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
潤滑油組成物によって潤滑化されている互いに対して動く2つ以上の接触面の間の疲労寿命を高めるための、請求項1~7のいずれか1項に記載の潤滑油組成物の使用。
【請求項9】
自動車用トランスミッション液としての、請求項1~7のいずれか1項に記載の潤滑油組成物の使用。
【請求項10】
潤滑油組成物が、異性化アルケニル置換無水コハク酸とポリアミンとの生成物をさらに含み、生成物が構造(II):
【化2】
を有し、式中、x及びyは独立に0又は1~30の整数であり、x+yは1~30であり、zは0又は1~10の整数である、請求項9に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物中の添加剤として使用するための改善された分散剤、分散剤を含有する潤滑油組成物、及び分散剤を作製する方法を提供する。この分散剤は自動車用トランスミッション液組成物における使用に特に適していることが分かっており、従来の分散剤と比較して良好な摩擦特性が見られている。さらに、従来の分散剤と比較してより長い疲労寿命が見られている。
【背景技術】
【0002】
長年の間、式:
【化1】
のビススクシンイミドが自動車用トランスミッション液組成物を含めた様々なタイプの潤滑性組成物における分散剤として使用されてきた。それらは従来は、無水マレイン酸を不飽和炭化水素と反応させてヒドロカルビル置換無水コハク酸を形成させ、次いでこれをポリアルキレンポリアミンと反応させてビススクシンイミドを形成させることにより得られる。最も一般的には、不飽和炭化水素はポリアルケン、典型的にはポリイソブチレン(PIB)である。意図する用途に応じて、PIBの分子量は約400~約5,000、典型的には約400~約2,300の範囲であってもよい。
PIB以外の不飽和炭化水素を使用することも公知である。例えば、米国特許第2012/0264665号は、ポリアルファオレフィン(PAO)、例えば好ましくは約8~12個の炭素原子を有するアルファオレフィンから形成されたものを使用して上記の構造のR基を得た分子を記載している。メタロセン触媒により形成されるポリアルファオレフィンを利用することによる利点が報告されている。これらは‘mPAO’と呼ばれる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの方法の両方に共通であるのは、上記の構造に関して、2つのR基が同一であることである。すなわち、ビススクシンイミドは対称である。本発明は、R基が同一ではない非対称的ビススクシンイミドが、潤滑性組成物において、特に自動車用トランスミッション液組成物において添加剤として使用される場合に、一定の有利な特性をもたらすという知見に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、第1の態様において、本発明は、主要量の潤滑性粘性油、及び少量の構造(I):
【化2】
(I)
の非対称ビススクシンイミド、又は非対称ビススクシンイミドの混合物を含む、潤滑油組成物であって、式中、R
1及びR
2のうちの1つは直鎖ポリスチレン標準物質を基準としてGPCにより決定される数平均分子量が400~5,000であるポリイソブチレン基であり、R
1及びR
2のうちの他方はα-オレフィン原料のメタロセン触媒重合により作製される炭化水素基であり、xは1~10であり、構造(I)のすべての分子について同一である又は構造(I)の分子の混合物中の構造(I)のすべての分子の平均である、潤滑油組成物を提供する。
【0006】
α-オレフィン原料のメタロセン触媒重合により作製される炭化水素基(以下‘mPAO’)は、例えば国際公開第2007/011462号に記載されるような活性化メタロセン触媒の存在下での重合により調製される。mPAOは3~24個の炭素原子を含有する任意の1つ又は2つ以上のα-オレフィンから調製することができる。単一のα-オレフィンを使用する場合、C3-C18直鎖α-オレフィン、好ましくはC6-C14直鎖α-オレフィン、より好ましくはC8-C12直鎖α-オレフィンを使用することが好ましい。α-オレフィンの混合物を使用する場合、C3-C18直鎖α-オレフィン、好ましくはC6-C14直鎖α-オレフィン、より好ましくはC8-C12直鎖α-オレフィンを含む混合物を使用することが好ましい。α-オレフィンの混合物は好ましくは混合物の平均炭素鎖長が4を超えるような組成を有する。例えば、存在する各化合物のモル数を計算することにより、50質量%の1-ブテン及び50質量%の1-ペンテンの混合物は平均炭素鎖長が4.4である。より好ましくは、混合物の平均炭素鎖長は4.5を超え、例えば6.5を超える。好ましくは、混合物の平均炭素鎖長は14以下、より好ましくは10.5以下である。適切には、混合物の平均炭素鎖長は4.5~10.5である。
【0007】
適切には、α-オレフィン原料は、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、及び1-オクタデセン、並びにこれらのα-オレフィンのうちの2つ以上の任意の混合物を含む。
好ましい実施形態において、α-オレフィン原料は、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、又はそれらの任意の混合物を含む。より好ましくは、α-オレフィン原料は、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、又はそれらの任意の混合物から本質的に成る。
好ましくは、α-オレフィン原料のメタロセン触媒重合により作製される炭化水素基は、直鎖ポリスチレン標準物質を基準としてGPCにより決定される数平均分子量が300~20,000、好ましくは400~5,000、より好ましくは500~3000である。
【0008】
好ましくは、ポリイソブチレン基は、直鎖ポリスチレン標準物質を基準としてGPCにより決定される数平均分子量が400~4,000、好ましくは400~2,500、例えば950である。
好ましい実施形態において、xは1、2、3、又は4である。別の好ましい実施形態において、xは5~8であり、好ましくは構造(I)の分子の混合物中の構造(I)のすべての分子の平均である。
ビススクシンイミド分散剤は、従来はまず不飽和炭化水素を無水マレイン酸と反応させてヒドロカルビル置換無水コハク酸を形成させることにより作製される。次いでヒドロカルビル置換無水コハク酸をポリエチレンポリアミンと反応させてビススクシンイミドを形成させる。本発明において、2つの異なるヒドロカルビル置換無水コハク酸が形成又は用意され、1つはヒドロカルビル置換基がポリイソブチレン基であり、もう1つはヒドロカルビル置換基がα-オレフィン原料のメタロセン触媒重合により作製される炭化水素基である。これは単に、各々がまず別々に合成されている各種類のヒドロカルビル置換無水コハク酸の混合物であってもよいが、より好ましくは、無水マレイン酸を、不飽和ポリイソブチレンとα-オレフィン原料のメタロセン触媒重合により形成されるポリマーとの混合物と反応させることにより形成される混合物である。不飽和ポリイソブチレン置換無水コハク酸とα-オレフィン原料のメタロセン触媒重合により形成されるポリマーで置換された無水コハク酸との得られる混合物を、次いでポリエチレンポリアミンと反応させる。したがって得られる生成物は、両方のヒドロカルビル置換基がPIBである対称ビススクシンイミド及び両方のヒドロカルビル置換基がmPAOである対称ビススクシンイミドと共に、構造(I)の非対称ビススクシンイミドを含有する混合物である。各種類の分子の相対量は、ポリエチレンポリアミンと反応させる、混合物中の各ヒドロカルビル置換無水コハク酸のそれぞれの量によって決まることになる。最終反応生成物中に存在する構造(I)の化合物の割合を最大化させるために、不飽和ポリイソブチレンとα-オレフィン原料のメタロセン触媒重合により形成されるポリマーとの混合物は、等モル量の各種類の分子を含有するべきであることが理解されることになる。非対称ビススクシンイミドは最終製品中の非対称分子及び対称分子の混合物から分離してもよいが、通常はこれは不要である。好ましくは、非対称ビススクシンイミドを含有する混合物はさらなる精製を行わずに使用される。
【0009】
第2の態様によれば、本発明は構造(I):
【化3】
(I)
の非対称ビススクシンイミド、又は非対称ビススクシンイミドの混合物(式中、R
1及びR
2のうちの1つは直鎖ポリスチレン標準物質を基準としてGPCにより決定される数平均分子量が400~5,000であるポリイソブチレン基であり、R
1及びR
2のうちの他方はα-オレフィン原料のメタロセン触媒重合により作製される炭化水素基であり、xは1~10であり、構造(I)のすべての分子について同一である又は構造(I)の分子の混合物中の構造(I)のすべての分子の平均である)
を作製する方法であって、
(a)(i)直鎖ポリスチレン標準物質を基準としてGPCにより決定されるポリイソブチレン基の数平均分子量が400~5,000である、ポリイソブテニル置換無水コハク酸と、(ii)ヒドロカルビル置換基がα-オレフィン原料のメタロセン触媒重合により作製される炭化水素基である、ヒドロカルビル置換無水コハク酸との混合物を形成させる、あるいは用意するステップと;
(b)ステップ(a)による混合物をポリエチレンポリアミン又はポリエチレンポリアミンの混合物と反応させるステップと
を含む方法を提供する。
【0010】
反応物(a)(ii)を形成させるのに使用される原料は第1の態様で定義される通りであり、好ましい原料は第1の態様に関して好ましいと定義されるものである。
好ましくは、α-オレフィン原料のメタロセン触媒重合により作製される炭化水素基は、直鎖ポリスチレン標準物質を基準としてGPCにより決定される数平均分子量が300~20,000、好ましくは400~5,000、より好ましくは500~3000である。
好ましくは、ポリイソブチレン基は、直鎖ポリスチレン標準物質を基準としてGPCにより決定される数平均分子量が400~4,000、好ましくは400~2,500、例えば950である。
【0011】
好ましくはステップ(a)において、成分(i)及び成分(ii)の混合物は等モル量の(i)及び(ii)を含有する。
好ましくはステップ(b)で使用されるポリエチレンポリアミンは、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、又はそれらの任意の混合物である。あるいは、ステップ(b)で使用されるポリエチレンポリアミンは、5~8個の窒素原子を有し、又は好ましくは混合物を形成する分子の窒素原子の平均数が5~8であるポリエチレンポリアミンの混合物である。そのような混合物は市販されており、一般にPAMと呼ばれる。窒素原子の平均数が8を超える混合物は、一般にH-PAMと呼ばれ、やはり入手可能であり代替として使用してもよい。
好ましくは、構造(I)の非対称ビススクシンイミドは、潤滑油組成物中に組成物の質量を基準として0.01~20質量%、より好ましくは0.05~10質量%、例えば0.5~5質量%の量で存在する。非対称ビススクシンイミドの混合物を使用する場合、これらの量は潤滑油組成物中に存在する構造(I)のすべての分子の質量による総量である。
【0012】
好ましい実施形態において、潤滑油組成物は自動車用トランスミッション液である。当技術分野において知られているように、自動車用変速機としては、従来の自動車用変速機、無段変速機、及びデュアルクラッチ変速機が挙げられる。この明細書において、自動車用トランスミッション液への言及はこれらのすべてのタイプの変速機を潤滑化するのに適したトランスミッション液を意味すると理解されることになる。さらに、電気自動車及びハイブリッド電気自動車に使用される変速機の潤滑化のための液体(EV液として知られる場合がある)も、本発明の文脈において自動車用トランスミッション液として理解されるべきである。別の実施形態において、潤滑油組成物はマニュアルトランスミッション液であり、これは任意の種類のマニュアルトランスミッションの潤滑化に適した潤滑剤である。
好ましい実施形態において、潤滑油組成物は、構造(I)の非対称ビススクシンイミドに加えて以下に記載される1つ又は複数の共添加剤を含む。
第3の態様によれば、本発明は互いに対して動く2つ以上の接触面の間の疲労寿命を高める方法であって、第1の態様による潤滑油組成物で接触面を潤滑化させるステップを含む方法を提供する。
【0013】
第4の態様によれば、本発明は、第1の態様に関して定義された、又は第2の態様の方法によって得られる非対称ビススクシンイミドの使用であって、潤滑油組成物によって潤滑化されている互いに対して動く2つ以上の接触面の間の疲労寿命を高めるための、潤滑油組成物中の添加剤としての使用を提供する。
好ましくは、第3及び第4の態様に関して、接触面は両方が又はすべてが金属であり、例えば鋼である。好ましくは互いに対して動く2つ以上の接触面は、軸受、レース、ギア、又は自動車用変速機、エンジン、若しくは機械の他の可動部品の表面である。
潤滑性粘性油は、当技術分野において知られている任意の適切な潤滑油であってもよい。適切な油は、天然潤滑油、合成潤滑油、及びそれらの混合物に由来するものである。
潤滑性粘性油は、任意の適切な粘性物であってもよいが、低粘度を有する油が好ましい。典型的には、潤滑性粘性油は40℃以下で20mm2/s(cSt)の動粘度を有することになる。好ましい潤滑性粘性油は、40℃で20~10mm2/s(cSt)、例えば40℃で14~15mm2/s(cSt)の範囲の動粘度を有する。
天然潤滑油としては、動物性油、植物油(例えば、ヒマシ油及びラード油)、石油、鉱油、及び石炭又は頁岩に由来する油が挙げられる。好ましい天然潤滑油は鉱油である。
適切な鉱油としては、あらゆる一般的な鉱油ベースストックが挙げられる。これは、化学構造においてナフテン系又はパラフィン系である油を含む。油は酸、アルカリ、及び粘土、又は他の薬剤、例えば塩化アルミニウムなどを使用して従来の方法により精製され、又はそれらは、例えば、フェノール、二酸化硫黄、フルフラール、ジクロロジエチルエーテルなどの溶媒を使用した溶媒抽出により製造される抽出油であってもよい。それらは水素化処理若しくは水添処理、冷却若しくは触媒での脱ワックス法による脱ワックス、又は水素化分解を行ってもよい。鉱油は、天然粗原料から製造されるか又は異性化ワックス材料若しくは他の精製法の残渣で構成されていてもよい。
【0014】
合成潤滑油としては、炭化水素油及びハロ置換炭化水素油、例えばオリゴマー化、重合、及び共重合オレフィンなど[例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン、イソブチレンコポリマー、塩素化ポリラクテン(polylactene)、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ-(1-デセン)など、及びそれらの混合物];アルキルベンゼン[例えば、ドデシル-ベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼンなど];ポリフェニル[例えば、ビフェニル、テルフェニル、アルキル化ポリフェニルなど];及びアルキル化ジフェニルエーテル、アルキル化ジフェニルスルフィド、並びにそれらの誘導体、類似物、及びそれらの同族体などが挙げられる。
このクラスの合成油に由来する好ましい油は、グループIVベースストック、すなわち、アルファオレフィンの水素化オリゴマーを含めた、ポリアルファオレフィン(PAO)、特に1-デセンのオリゴマー、とりわけフリーラジカル法、Ziegler触媒、又はカチオン性触媒により製造されるものである。それらは、例えば、2~16個の炭素原子を有する分岐又は直鎖アルファオレフィンのオリゴマーであってもよく、具体例はポリプロペン、ポリイソブテン、ポリ-1-ブテン、ポリ-1-ヘキセン、ポリ-1-オクテン、及びポリ-1-デセンである。ホモポリマー、インターポリマー、及び混合物が挙げられる。
【0015】
合成潤滑油としてはまた、末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化などにより修飾されている、アルキレンオキシドポリマー、インターポリマー、コポリマー、及びそれらの誘導体が挙げられる。このクラスの合成油としては、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドの重合により調製されるポリオキシアルキレンポリマー;これらのポリオキシアルキレンポリマーのアルキル及びアリールエーテル(例えば、平均分子量が1000であるメチルポリイソプロピレングリコールエーテル、分子量が1000~1500であるポリプロピレングリコールのジフェニルエーテル);並びにそれらのモノ及びポリカルボン酸エステル(例えば、テトラエチレングリコールの酢酸エステル、混合C3-C8脂肪酸エステル、及びC12オキソ酸ジエステル)が例示される。
【0016】
別の適切なクラスの合成潤滑油は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸(sebasic acid)、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸など)と様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコールなど)とのエステルを含む。これらのエステルの具体例としては、ジブチルアジペート、ジ(2-エチルヘキシル)セバケート、ジ-n-ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸ダイマーの2-エチルヘキシルジエステル、並びに1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸などとを反応させることにより形成される複合エステルが挙げられる。このクラスの合成油の、好ましい種類の油は、C4-C12アルコールのアジピン酸エステルである。
合成潤滑油として有用なエステルとしてはまた、C5-C12モノカルボン酸及びポリオール及びポリオールエーテル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトールなどから作製されるものが挙げられる。
【0017】
潤滑性粘性油は、未精製油、精製油、再精製油、又はそれらの混合物に由来していてもよい。未精製油は、天然原料又は合成原料(例えば、石炭、頁岩、又はタールサンドビチューメン)から、さらなる精製又は処理を行わずに直接得られる。未精製油の例としては、乾留操作により直接得られる頁岩油、蒸留により直接得られる石油、又はエステル化法により直接得られるエステル油が挙げられ、それらの各々は次いでさらなる処理を行わずに使用される。精製油は、1つ又は複数の特性を改善するように精製油が1つ又は複数の精製ステップで処理されていることを除いて、未精製油と同様である。適切な精製技術としては、蒸留、水素化処理、脱ワックス、溶媒抽出、酸又は塩基抽出、ろ過、及びパーコレーションが挙げられ、それらのすべては当業者に知られている。精製油は、精製油を得るのに使用されるものと同様の方法で使用済み油を処理することにより得られる。これらの精製油は、再生油又は再処理油としても知られており、多くの場合は使用済み添加剤及び油分解生成物を除去するための技術によりさらに処理される。
【0018】
別のクラスの適切な潤滑性粘性油は、天然ガス原料のオリゴマー化又はワックスの異性化により製造されるベースストックである。これらのベースストックは、様々に呼ばれることがあるが、一般に天然ガス液化(GTL)又はフィッシャー・トロプシュベースストックとして知られる。
潤滑性粘性油は、上記の油の1つ又は複数のブレンドであってもよく、天然及び合成潤滑油(すなわち、部分合成)のブレンドを本発明のもとで明示的に意図している。
好ましくは、潤滑油組成物は組成物の質量を基準として少なくとも55質量%、より好ましくは組成物を基準として少なくとも65質量%、例えば少なくとも75%、80%、又は90質量%の潤滑性粘性油を含む。
【0019】
この明細書において、以下の言葉及び表現は使用される場合に下記に示す意味を有する:
「活性成分」又は「(a.i.)」は、希釈剤又は溶媒ではない添加材を指す;
「含む」又は任意の同語源語は、述べられる特徴、ステップ、又は整数、又は成分の存在を明示するが、1つ又は複数の他の特徴、ステップ、整数、成分、又はそれらの群の存在又は追加を排除しない。「から成る」若しくは「から本質的に成る」という表現又は同語源語は、「含む」又は任意の同語源語の中に包含することができる。「から本質的に成る」という表現は、それが適用される組成物の特性に実質的に影響を与えない物質が含まれることを許容する。「から成る」という表現又は同語源語は、その表現が言及する述べられる特徴、ステップ、整数、成分、又はそれらの群のみが存在することを意味する;
「ヒドロカルビル」は水素及び炭素原子を含有する化合物の化学基を意味し、その基は化合物の残りの部分に炭素原子を介して直接結合している。その基は炭素及び水素以外の1つ又は複数の原子を含有していてもよいが、ただしその基のヒドロカルビル性に本質的に影響を与えないものとする。当業者は適切な基(例えば、ハロ、特にクロロ及びフルオロ、アミノ、アルコキシル、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、スルホキシなど)を認識することになる。好ましくは、別途指定されない限り、ヒドロカルビル基は水素及び炭素原子から本質的に成る。より好ましくは、別途指定されない限り、ヒドロカルビル基は水素及び炭素原子から成る。好ましくは、ヒドロカルビル基は脂肪族ヒドロカルビル基である。「ヒドロカルビル」という用語は、「アルキル」、「アルキレン」、「アルケニル」、「アリル」、及び「アリール」を含む;
「アルキル」は、化合物の残りの部分に1つの炭素原子を介して直接結合しているC1-C30アルキル基を意味する。別段の指定がない限り、アルキル基は、十分な数の炭素原子が存在する場合、直鎖(すなわち比分岐)又は分岐であってもよく、環状、非環状、又は部分環状/非環状であってもよい。好ましくは、アルキル基は直鎖又は分岐の非環状アルキル基を含む。アルキル基の代表例としては、限定はされないが、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ジメチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トシデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、及びトリアコンチルが挙げられる;
【0020】
「アルキレン」は「アルカンジイル」と同義であり、2つの異なる炭素原子から水素原子を除去することによりアルカンから得られる、C2-C20、好ましくはC2-C10、より好ましくはC2-C6二価飽和非環状脂肪族炭化水素基を意味し;直鎖又は分岐であってもよい。アルキレンの代表例としては、エチレン(エタンジイル)、プロピレン(プロパンジイル)、ブチレン(ブタンジイルジイル)、イソブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、1-メチルエチレン、1-エチルエチレン、1-エチル-2-メチルエチレン、1,1-ジメチルエチレン、及び1-エチルプロピレンが挙げられる;
「ポリ(アルキレン)」は「ポリ(アルケン)」と同義であり、適切なアルカンジイル反復基を含有するポリマーを意味する。そのようなポリマーは、適切なアルケンの重合により形成させてもよい(例えばポリイソブチレンはイソブテンの重合により形成させてもよい);
【0021】
「ポリ(アルキレニル)」は「ポリ(アルケニル)」と同義であり、適切なアルカンジイル反復基を含有するポリマー置換基を意味する。適切には、ポリ(アルキレニル)置換基は、対応するポリ(アルキレン)とポリ(アルキレン)上に無水コハク酸基を導入する反応物(無水マレイン酸など)とを反応させることにより形成させてもよい;
「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含み化合物の残りの部分に1つの炭素原子を介して直接結合しているC2-C30、好ましくはC2-C12基を意味し、別の定義では「アルキル」と定義される;
「アルキニル」は、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を含み炭素原子化合物の残りの部分に1つの炭素原子を介して直接結合している、C2-C30、好ましくはC2-C12基を意味し、別の定義では「アルキル」と定義される;
「アリール」は、1つ又は複数のアルキル、ハロ、ヒドロキシル、アルコキシ、及びアミノ基で置換されてもよい、C6-C18、好ましくはC6-C10芳香族基を意味し、化合物の残りの部分に1つの炭素原子を介して直接結合している。好ましいアリール基としては、フェニル及びナフチル基、並びにそれらの置換誘導体、特にフェニル及びそのアルキル置換誘導体が挙げられる;
【0022】
「アルカノール」は、アルキル鎖の炭素原子に結合している1つ又は複数のヒドロキシル官能基を有するアルキル鎖から成る、アルコールを意味する。「アルカノール」という用語は、一価アルカノール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、及びブタノールなどだけでなく、多価アルカノールも包含する;
「多価アルカノール」は、2つ以上のヒドロキシル官能基を含むアルカノールを意味する。より具体的には、「多価アルカノール」という用語は、ジオール、トリオール、テトロール、及び/又は関連する二量体、又はそのような化合物の鎖延長ポリマーを包含する。さらにより具体的には、「多価アルカノール」という用語は、グリセリン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトール、及びソルビトール、特にグリセリンを包含する;
「モノカルボン酸」は、1つのカルボン酸官能基を含む、有機酸、好ましくはヒドロカルビルカルボン酸を意味する;
【0023】
「脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸」は、脂肪族C5-C29、好ましくはC7-C29、より好ましくはC9-C27、最も好ましくはC11-C23ヒドロカルビル鎖を有する、モノカルボン酸を意味する。そのような化合物は本明細書において、脂肪族(C5-C29)、好ましくは(C7-C29)、より好ましくは(C9-C27)、最も好ましくは(C11-C23)ヒドロカルビルモノカルボン酸又はヒドロカルビル脂肪酸と呼ばれることがある(式中、Cx-Cyは脂肪酸の脂肪族ヒドロカルビル鎖における炭素原子の総数を示し、脂肪酸自体はカルボキシル炭素原子が存在するため合計でCx+1-Cy+1個の炭素原子を含む)。好ましくは、脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸は、カルボキシル炭素原子を含めて、偶数個の炭素原子を有する。脂肪酸の脂肪族ヒドロカルビル鎖は飽和又は不飽和であってもよく(すなわち少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む);好ましくは、脂肪族ヒドロカルビル鎖は不飽和であり、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む。そのような脂肪酸は天然原料(例えば動物性油又は植物油に由来する)から及び/又は対応する飽和脂肪酸の還元により得てもよい;
【0024】
「脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステル」は、本明細書において定義される脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸のモノカルボン酸官能基がエステル基に転化されているエステルを意味する。例えば、脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステルは、対応する脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸又はその反応性誘導体(例えば無水物又は酸ハロゲン化物)と本明細書において定義されるアルカノールとを反応させることにより得てもよい。あるいは、又はさらに、脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステルは、その天然形態で、例えば脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸グリセリンエステルとして得てもよい。したがって、「脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステル」という用語は、脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸グリセリンエステル、及びまた、脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸又はその反応性誘導体(例えば無水物又は酸ハロゲン化物)とアルカノールとの反応により得られる脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステルを包含する;
「サリチレート石けん」は、過塩基化材料を除いた1つ又は複数のアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチレート洗剤が寄与するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチレート塩の量を意味する;
「アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチレート洗剤」は、本明細書において定義されるサリチレート石けん及び任意の過塩基化材料を含む;
「ハロ」又は「ハロゲン」は、フルオロ、クロロ、ブロモ、及びヨードを含む;
【0025】
本明細書において使用される「油溶性」若しくは「油分散性」、又は同義語は、その化合物又は添加剤が油中にあらゆる比率で可溶性、溶解性、混和性である、又は油中にあらゆる比率で懸濁させることが可能であることを必ずしも示さない。しかしこれらは、例えば、油が使用される環境中でそれらの意図する効果を与えるのに十分な程度に、それらが油中に可溶性である又は安定に分散可能であることを意味する。さらに、他の添加剤をさらに加えることは、必要に応じてより高レベルの特定の添加剤を加えることも可能にする場合がある;
添加剤に関して、「無灰」は、添加剤が金属を含まないことを意味する;
添加剤に関して、「灰含有」は、添加剤が金属を含むことを意味する;
「主要量」は、成分について及び組成物の総質量について表現され、組成物の50質量%を超えることを意味する;
「少量」は、成分について及び組成物の総質量について表現され、組成物の50質量%未満であることを意味する。
「ppm」は、組成物の総質量を基準とした、質量百万分率を意味する;
組成物の又は添加剤成分の「金属含量」、例えば添加剤濃縮物のモリブデン含量又は総金属含量(すなわちすべての個々の金属含量の合計)は、ASTMD 5185により測定される;
添加剤成分又は組成物に関して、「TBN」は、ASTM D2896により測定される全塩基価(mgKOH/g)を意味する;
「KV40」及び「KV100」は、ASTM D445により測定される、40℃及び100℃それぞれにおける動粘度を意味する;
「リン含量」は、ASTMD 5185により測定される;
「硫黄含量」は、ASTM D2622により測定される;
「硫酸塩灰含量」は、ASTM D874により測定される;
Mnは、数平均分子量を意味し、ポリマー実体について直鎖ポリスチレン標準物質を基準としてゲル浸透クロマトグラフィーにより決定されてもよい;
Mwは、質量平均分子量を意味し、ポリマー実体について直鎖ポリスチレン標準物質を基準としてゲル浸透クロマトグラフィーにより決定されてもよい。
ここで本発明をさらに詳細に説明することとし、本明細書において以下に記載の特徴は本発明のあらゆる態様に適用可能であるものと理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
共添加剤
自動車用トランスミッション液を含めた潤滑油組成物中で一般に見られる添加剤は、本発明の潤滑油組成物中に含まれていてもよい。適切な共添加剤は当業者に知られている。
潤滑油組成物が自動車用トランスミッション液である好ましい実施形態において、組成物は異性化アルケニル置換無水コハク酸とポリアミンとの生成物をさらに含み、生成物は構造(II):
【化4】
を有し、式中、x及びyは独立に0又は1~30の整数であり、x+yは1~30であり、zは0又は1~10の整数である。
【0027】
好ましくは上記の構造(II)において、x+yは8~15であり、zは0又は1~5の整数である。特に好ましい実施形態において、x+y=13であり、zは1又は3である。
一実施形態において、反応生成物は、式中、zが3でありx+y=13である構造(II)の化合物と、zが1でありx+y=13である構造(II)の化合物との混合物である。
【0028】
好ましくは、構造(II)の反応生成物は、トランスミッション液中に液の質量を基準として0.5~10質量%の量で、より好ましくは1~7質量%、例えば2~5質量%の量で存在する。反応生成物が2つ以上の構造(II)の化合物の混合物である場合、存在する量は存在する構造(II)のすべての化合物の総量を指す。
構造(II)の反応生成物は有利な摩擦調整特性を自動車用トランスミッション液にもたらす。当技術分野において知られている他の摩擦調整剤も含まれていてもよい。
自動車用トランスミッション液を含めた潤滑油組成物中に存在していてもよい、他の共添加剤は、以下を含む。
【0029】
無灰分散剤
無灰分散剤として適切なのは、従来のポリイソブテニルスクシンイミド、例えば本明細書において上記で論じたものなど(すなわち対称ビススクシンイミド)である。本発明に関して記載したように、非対称ビススクシンイミドの形成は対称ビススクシンイミドの形成も生じさせるので、非対称ビススクシンイミドが使用前に単離されていない場合、さらなる従来のポリイソブテニルスクシンイミド分散剤の使用は不要である場合がある。しかしながら、さらなる従来のポリイソブテニルスクシンイミド分散剤を必要に応じて使用してもよい。他の無灰分散剤としては、ポリイソブテニルスクシンアミド、ポリイソブテニル置換コハク酸の混合エステル/アミド、ポリイソブテニル置換コハク酸のヒドロキシエステル、並びに及びヒドロカルビル置換フェノール、ホルムアルデヒド、及びポリアミンのマンニッヒ縮合生成物が挙げられる。これらの分散剤の混合物も使用することができる。これらの分散剤のホウ酸化類似物も適切である。
存在する場合、無灰分散剤は、好ましくは潤滑油組成物の質量を基準として0.1~10質量%、好ましくは0.1~5質量%、例えば0.5~3質量%の量で存在する。非対称ビススクシンイミドが使用前に単離されていない場合、明らかに、さらなる従来のポリイソブテニルスクシンイミド分散剤をより少量で使用することが可能である。
【0030】
油溶性又は油分散性モリブデン含有化合物
本発明の潤滑油組成物は、1つ又は複数の油溶性又は油分散性モリブデン含有化合物、好ましくは有機モリブデン化合物を含んでいてもよい。
モリブデンジチオカルバマート、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオホスフィネート、モリブデンキサンテート、モリブデンチオキサンテート、硫化モリブデンなど、及びそれらの混合物が例である。特に好ましいのは、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジアルキルジチオホスフェート、モリブデンアルキルキサンテート、及びモリブデンアルキルチオキサンテートである。特に好ましい有機モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメートである。本発明の実施形態において、任意の油溶性又は油分散性モリブデン化合物は、組成物中のモリブデン原子の唯一の原料として、モリブデンジチオカルバメート又はモリブデンジチオホスフェート又はそれらの混合物のいずれかから成る。
モリブデン化合物は、一核、二核、三核、又は四核であってもよい。二核及び三核モリブデン化合物が好ましい。
【0031】
適切な二核又は二量体モリブデンジアルキルジチオカルバメートは以下の式:
【化5】
により表され、式中、R
11~R
14は独立に、1~24個の炭素原子を有する直鎖、分岐鎖、又は芳香族ヒドロカルビル基を表し;X
1~X
4は独立に、酸素原子又は硫黄原子を表す。4つのヒドロカルビル基、R
11~R
14は、同一又は互いに異なっていてもよい。
他の適切なモリブデン化合物は、式Mo(R
15OCS
2)
4及びMo(R
15SCS
2)
4の有機モリブデン化合物であり、式中、R
15は、一般に1~30個の炭素原子、好ましくは2~12個の炭素原子の、アルキル、アリール、アラルキル、及びアルコキシアルキル、最も好ましくは2~12個の炭素原子のアルキルから成る群から選択される有機基である。特に好ましいのはモリブデンのジアルキルジチオカルバメートである。
適切な三核有機モリブデン化合物としては、式Mo
3S
kL
nQ
zのもの及びそれらの混合物が挙げられ、式中、Lは独立に、化合物を油に可溶性又は分散可能に変えるのに十分な数の炭素原子を有する有機基を有する配位子から選択され、nは1~4であり、kは4~7で変動し、Qは中性の電子供与性化合物、例えば水、アミン、アルコール、ホスフィン、及びエーテルなどの群から選択され、zは0~5の範囲であり、非化学量論的な値を含む。すべての配位子の有機基の中で、少なくとも21個の全炭素原子、例えば少なくとも25、少なくとも30、又は少なくとも35個などの炭素原子が存在するべきである。
【0032】
配位子は独立に、
【化6】
の群及びそれらの混合物から選択され、式中、X
5、X
6、X
7、及びYは独立に、酸素及び硫黄の群から選択され、R
16、R
17、及びR
18は独立に、水素及び同一又は異なっていてもよい有機基から選択される。好ましくは、有機基はヒドロカルビル基、例えばアルキル(例えば、配位子の残りの部分に結合している炭素原子が第一級又は第二級であるもの)、アリール、置換アリール、及びエーテル基などである。より好ましくは、各配位子は同じヒドロカルビル基である。
【0033】
重要なことは、配位子の有機基が化合物を油中に可溶又は分散可能に変えるのに十分な数の炭素原子を有することである。例えば、各基の炭素原子の数は一般に約1~約100、好ましくは約1~約30、より好ましくは約4~約20の範囲となる。好ましい配位子としては、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテート、及びジアルキルジチオカルバメートが挙げられ、これらのうち、ジアルキルジチオカルバメートがより好ましい。2つ以上の上記の官能基を含有する有機配位子も、配位子として機能しコアの1つ又は複数に結合することが可能である。当業者は、本発明の化合物の形成が、コアの電荷のバランスをとるための適切な電荷を有する配位子の選択を必要とすることを認識することになる。
【0034】
式Mo
3S
kL
nQ
zを有する化合物は、アニオン性配位子に囲まれたカチオン性コアを有し、
【化7】
などの構造により表され、+4の正味電荷を有する。したがって、これらのコアを可溶化させるために、すべての配位子の中の総電荷は-4でなければならない。4つのモノアニオン性配位子が好ましい。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、2つ以上の三核コアが結合しているか又は1つ又は複数の配位子によって相互に連結していると考えられ、配位子は多座配位性であると考えられる。これは1つのコアへの複数の接続を有する多座配位性配位子の場合を含む。酸素及び/又はセレンがコア中で硫黄の代わりとなっていてもよい。
【0035】
油溶性又は油分散性三核モリブデン化合物は、適切な液体/溶媒中で(NH4)2Mo3S13.n(H2O)などのモリブデン原料(式中、nは0~2で変動し、非化学量論的な値を含む)をテトラアルキルチウラムジスルフィドなどの適切な配位子原料と反応させることにより、調製できる。他の油溶性又は油分散性の三核モリブデン化合物は、適切な溶媒中で、(NH4)2Mo3S13.n(H2O)などのモリブデン原料と、テトラアルキルチウラムジスルフィド、ジアルキルジチオカルバメート、又はジアルキルジチオホスフェートなどの配位子原料と、シアニドイオン、スルフィットイオン、又は置換ホスフィンなどの硫黄抽出剤(abstracting agent)との反応中に形成させることができる。あるいは、[M’]2[Mo3S7A6]などの三核モリブデン-硫黄ハロゲン化物塩(式中、M’は対イオンであり、AはCl、Br、又はIなどのハロゲンである)を、適切な液体/溶媒中でジアルキルジチオカルバメート又はジアルキルジチオホスフェートなどの配位子原料と反応させて、油溶性又は油分散性の三核モリブデン化合物を得てもよい。適切な液体/溶媒は、例えば、水性又は有機であってもよい。
【0036】
特に好ましい実施形態において、1つ又は複数の油溶性又は油分散性のモリブデン含有化合物は三核モリブデン化合物を含む。
化合物の油溶性又は油分散性は、配位子の有機基中の炭素原子数によって影響を受ける場合がある。好ましくは、少なくとも21個の全炭素原子がすべての配位子の有機基の中に存在するべきである。好ましくは、選択される配位子原料は、化合物を潤滑油組成物に可溶又は分散可能に変えるのに十分な数の炭素原子をその有機基中に有する。
【0037】
他のモリブデン化合物としては酸性モリブデン化合物が挙げられる。これらの化合物はASTM試験D-664又はD-2896滴定法により測定される塩基性窒素化合物と反応することになり、典型的には6価である。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、及び他のアルカリ金属モリブデン酸塩、並びに他のモリブデン塩、例えば、モリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl4、MoO2Br2、Mo2O3Cl6、三酸化モリブデン、又は同様の酸性モリブデン化合物が挙げられる。あるいは、本発明の組成物に、例えば米国特許第4,263,152号;4,285,822号;4,283,295号;4,272,387号;4,265,773号;4,261,843号;4,259,195号、及び4,259,194;並びに国際公開第94/06897号に記載されるように、塩基性窒素化合物のモリブデン/硫黄複合体によりモリブデンを供給することができる。
好ましくは、1つ又は複数のモリブデン含有化合物は、組成物の質量を基準として質量で10~1,000ppmのモリブデンを組成物に供給するような量で存在する。より好ましくは、1つ又は複数のモリブデン含有化合物は、組成物の質量を基準として質量で10~500ppm、例えば50~300ppmのモリブデンを組成物に供給するような量で存在する。
【0038】
金属含有洗剤
本発明の潤滑油組成物は、1つ又は複数の金属含有洗剤を含んでいてもよい。これらは当技術分野において良く知られており、様々な種類の潤滑油で広く使用される。例としては、アルカリ又はアルカリ土類金属と以下の酸性物質(又はそれらの混合物):(1)スルホン酸、(2)カルボン酸、(3)サリチル酸、(4)アルキルフェノール、(5)硫化アルキルフェノールの1つ又は複数との油溶性の中性又は過塩基塩が挙げられる。そのような塩の一般的に好ましい塩は、費用効率、毒性学的、及びから環境面の観点から、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、及びマグネシウムの塩である。
油溶性の中性金属含有洗剤は、洗剤中に存在する酸性部分の数に対して化学量論的に等量の金属を含有する洗剤である。したがって、一般に中性洗剤はそれらの過塩基化した対応物と比較して塩基性度が低くなる。
【0039】
金属洗剤に関連して、「過塩基化」という用語は、金属が有機基よりも化学量論的に多量に存在する金属塩を示すのに使用される。過塩基塩を調製するための一般的に採用される方法は、酸の鉱油溶液を化学量論的に過剰な金属中和剤と共に、例えば金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、又は硫化物と共に約50℃の温度で加熱し、得られる生成物をろ過することを伴う。大過剰の金属を同様に取り入れるのを助けるために中和ステップにおいて「促進剤」を使用することが知られている。促進剤として有用な化合物の例としては、フェノール系物質、例えばフェノール、ナフトール、アルキルフェノール、チオフェノール、硫化アルキルフェノール、及びホルムアルデヒドとフェノール系物質との縮合生成物など;アルコール、例えばメタノール、2-プロパノール、オクタノール、セロソルブアルコール、カルビトールアルコール、エチレングリコール、ステアリルアルコール、及びシクロヘキシルアルコールなど;並びにアミン、例えばアニリン、フェニレンジアミン、フェノチアジン、フェニル-ベータ-ナフチルアミン、及びドデシルアミンなどが挙げられる。塩基性塩を調製するための特に効果的な方法は、酸を過剰の塩基性アルカリ土類金属中和剤及び少なくとも1つのアルコール促進剤と共に混合し、混合物に60~200℃などの高温で二酸化炭素を通じることを含む。
【0040】
潤滑油で使用される一般的な金属含有洗剤の例としては、限定はされないが、各芳香族基が炭化水素溶解性を与えるための1つ又は複数の脂肪族基を有する、リチウムフェネート、ナトリウムフェネート、カリウムフェネート、カルシウムフェネート、マグネシウムフェネート、硫化リチウムフェネート、硫化ナトリウムフェネート、硫化カリウムフェネート、硫化カルシウムフェネート、及び硫化マグネシウムフェネートなどの物質の中性及び過塩基塩;各スルホン酸部分が、炭化水素溶解性を与えるための1つ又は複数の脂肪族置換基を通常は含有する芳香族核に結合している、スルホン酸リチウム、スルホン酸ナトリウム、スルホン酸カリウム、スルホン酸カルシウム、及びスルホン酸マグネシウム;芳香族部分が、炭化水素溶解性を与えるための1つ又は複数の脂肪族置換基によって通常は置換されている、サリチル酸リチウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸カルシウム、及びサリチル酸マグネシウム;10~2,000個の炭素原子を有する加水分解ホスホ硫化(phosphosulfurized)オレフィン又は加水分解ホスホ硫化アルコール、及び/又は10~2,000個の炭素原子を有する脂肪族置換フェノール系化合物の、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウム塩;脂肪族カルボン酸及び脂肪族置換脂環式カルボン酸の、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウム塩;並びに多くの他の同様の油溶性有機酸のアルカリ及びアルカリ土類金属塩が挙げられる。2つ以上の異なるアルカリ及び/又はアルカリ土類金属の中性又は過塩基塩の混合物が使用される。同様に、2つ以上の異なる酸の混合物の中性及び/又は過塩基塩(例えば1つ又は複数の過塩基化カルシウムフェネートと1つ又は複数の過塩基化スルホン酸カルシウム)が使用される。
油溶性の中性及び過塩基化金属洗剤及びアルカリ土類金属含有洗剤の製造方法は、当業者によく知られており、特許文献において広く報告されている。
金属含有洗剤はホウ素化されていてもよい。ホウ素化金属洗剤の調製方法は、当業者によく知られており、特許文献において広く報告されている。
存在する場合、好ましくは金属含有洗剤は、組成物の質量を基準として10~1000質量ppmの金属を組成物に供給するような量で、本発明の潤滑油組成物中に存在する。より好ましくは、本発明の潤滑油組成物は、組成物の質量を基準として10~500質量ppm、例えば50~300質量ppmの金属を組成物に供給するような量で、1つ又は複数の金属含有洗剤を含有する。好ましい実施形態において、金属含有洗剤はカルシウム含有洗剤を含む。
【0041】
油溶性リン化合物
本発明の潤滑油組成物は、1つ又は複数の油溶性リン化合物を含んでいてもよい。潤滑油組成物が自動車用トランスミッション液である場合、液体が1つ又は複数の油溶性リン化合物をさらに含むことが好ましい。
油溶性リン化合物は任意の適切な種類であってもよく、異なる化合物の混合物であってもよい。典型的には、そのような化合物は、耐摩耗保護性を実現するのに使用される。唯一の制限は、自動車用トランスミッション液内での溶解及び作用部位への輸送を可能にするように材料が油溶性であるということである。適切なリン化合物の例は、ホスフィット及びチオホスフィット(モノアルキル、ジアルキル、トリアルキル、及びそれらの加水分解又は部分加水分解類似物);ホスフェート及びチオホスフェート;無機リン化合物、例えばリン含有酸、リン酸、又はそれらのチオ類似物などで処理されたアミン;リン酸アミンである。特に適切なリン化合物の例としては、特に組成物が自動車用トランスミッション液である場合、構造:
【化8】
により表されるモノ、ジ、及びトリアルキルホスフィット、並びに構造:
【化9】
により表されるトリアルキルホスフェートが挙げられ、式中、R
5、R
6、及びR
7基は、同一又は異なっていてもよく、上記で定義されるヒドロカルビル基、又はアリール基、例えばフェニル又は置換フェニルなどであってもよい。さらに、又はあるいは、他の適切なリン化合物が得られるように上記の構造中の酸素原子のうち1つ又は複数が硫黄原子によって置き換えられていてもよい。
【0042】
好ましい油溶性リン化合物は、R5及びR6及びR7基(存在する場合)が直鎖アルキル基、例えばブチル、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、及びオクタデシルなどである化合物であり、より好ましい実施形態では、対応する基がチオエーテル結合を含有する。分岐基も適切である。化合物の非限定的な例としては、ジブチルホスフィット、トリブチルホスフィット、ジ-2-エチルヘキシルホスフィット、トリラウリルホスフィット、及びトリラウリル-トリチオホスフィット、並びにR5及びR6及びR7基(存在する場合)が3-チオヘプチル、3-チオノニル、3-チオウンデシル、3-チオトリデシル、5-チオヘキサデシル、及び8-チオオクタデシルである、対応するホスフィットが挙げられる。最も好ましいアルキルホスフィットは、米国特許第5,185,090号及び米国第5,242,612号に記載されるものである。
任意の有効量の油溶性リン化合物を使用してもよいが、典型的には使用される量は、潤滑油組成物、特に自動車用トランスミッション液に、組成物又は液体の質量あたり、10~1000、好ましくは100~750、より好ましくは200~500質量百万分率(ppm)の元素リンを供給するような量となる。
【0043】
腐食抑制剤
腐食抑制剤は、金属の腐食を低減するために使用され、多くの場合別名として金属不活性化剤又は金属不動態化剤とも呼ばれる。適切な腐食抑制剤は、窒素及び/又は硫黄含有複素環化合物、例えばトリアゾール(例えばベンゾトリアゾール)、置換チアジアゾール、イミダゾール、チアゾール、テトラゾール、ヒドロキシキノリン、オキサゾリン、イミダゾリン、チオフェン、インドール、インダゾール、キノリン、ベンゾキサジン、ジチオール、オキサゾール、オキサトリアゾール、ピリジン、ピペラジン、トリアジン、及びそれらの任意の1つ又は複数の誘導体などである。好ましい腐食抑制剤は、構造:
【化10】
により表されるベンゾトリアゾールであり、式中、R
8は不在、又は直鎖若しくは分岐、飽和若しくは不飽和であってもよいC
1-C
20ヒドロカルビル若しくは置換ヒドロカルビル基である。これは事実上アルキル又は芳香族である環構造、及び/又はN、O、若しくはSなどのヘテロ原子を含有していてもよい。適切な化合物の例は、ベンゾトリアゾール、アルキル置換ベンゾトリアゾール(例えばトリルトリアゾール、エチルベンゾトリアゾール、ヘキシルベンゾトリアゾール、オクチルベンゾトリアゾールなど)、アリール置換ベンゾトリアゾール、及びアルキルアリール若しくはアリールアルキル置換ベンゾトリアゾールである。好ましくは、トリアゾールは、アルキル基が1~約20個の炭素原子、好ましくは1~約8個の炭素原子を含有する、ベンゾトリアゾール又はアルキルベンゾトリアゾールである。ベンゾトリアゾール及びトリルトリアゾールが特に好ましい。
【0044】
別の好ましい腐食抑制剤は、構造:
【化11】
により表される置換チアジアゾールであり、式中、R
9及びR
10は独立に、水素又は脂肪族若しくは芳香族であってもよい炭化水素基であり、環状、脂環式、アラルキル、アリール、及びアルカリルが挙げられる。これらの置換チアジアゾールは、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMTD)分子から得られる。DMTDの多くの誘導体は、当技術分野において記載されており、任意のそのような化合物を本発明で使用されるトランスミッション液中に加えることができる。米国特許第2,719,125号、米国特許第2,719,126、及び第3,087,937号は、様々な2,5-ビス-(炭化水素ジチオ)-1,3,4-チアジアゾールの調製を記載している。
DMTDの他の誘導体も有用である。これらとしては、R
9及びR
10がカルボニル基を介して硫化物の硫黄原子に結合している、カルボン酸エステルが挙げられる。DMTD誘導体を含有するこれらのチオエステルの調製は、米国特許第2,760,933号に記載されている。DMTDと少なくとも10個の炭素原子を有するアルファハロゲン化脂肪族モノカルボン酸との縮合により生成されるDMTD誘導体が米国特許第2,836,564号に記載されている。この方法により、R
9及びR
10がHOOC-CH(R
19)-である(R
19はヒドロカルビル基である)DMTD誘導体が生成される。これらの末端カルボン酸基のアミド化又はエステル化によりさらに生成されるDMTD誘導体も有用である。2-ヒドロカルビルジチオ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾールの調製は、米国特許第3,663,561号に記載されている。
【0045】
DMTD誘導体の好ましいクラスは、2-ヒドロカルビルジチオ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール及び2,5-ビスヒドロカルビルジチオ-1,3,4-チアジアゾールの混合物である。そのような混合物は、Hitec(登録商標)4313の商品名で販売されている。
腐食抑制剤は、任意の有効量で使用できるが、しかしそれらは典型的には潤滑油組成物の質量を基準として約0.001~5.0質量%、好ましくは0.005~3.0質量%、最も好ましくは0.01~1.0質量%の量で使用される。
当技術分野において知られている他の添加剤を本発明の潤滑油組成物に加えてもよい。これらとしては、他の耐摩耗剤、極圧添加剤、抗酸化剤、粘度調整剤などが挙げられる。それらは典型的には、例えば、“Lubricant Additives” by C.V. Smallheer and R. Kennedy Smith, 1967, pp 1-11に開示される。
【0046】
構造(I)の非対称ビススクシンイミド及び任意の共添加剤を潤滑性粘性油へ別々に加えて潤滑油組成物を形成させてもよく、又はより好都合には、それらを添加剤濃縮物として又はキャリア液体若しくは溶媒中に溶解若しくは分散された必要な化合物を含有する「添加剤パッケージ」として油へ添加してもよい。したがって、さらなる態様において、本発明は0.1~20質量%、好ましくは1~15質量%の構造(I)の非対称ビススクシンイミドを含み、及び1つ又は複数の他の添加剤を含んでもよい添加剤濃縮物を提供し、濃縮物の残部はキャリア液体又は溶媒である。
当業者によく知られることになるように、添加剤濃縮物に関して、キャリア液体又は溶媒は、添加剤を容易に溶解又は分散させることができ、さらに潤滑油組成物又は自動車用トランスミッション液を形成させるのに使用される潤滑性粘性油と相溶性がある、任意の適切な液体であってもよい。例としては、上記の潤滑性粘性油及び溶媒、例えばSolvessoの商標名で販売されているものなどが挙げられる。
典型的には、組成物の質量を基準として5~50質量%の量で添加剤濃縮物を潤滑性粘性油に加えて潤滑油組成物又は自動車用トランスミッション液を形成させることになる。好ましくは、組成物の質量を基準として5~20質量%の量で添加剤濃縮物を潤滑性粘性油に加えて潤滑油組成物又は自動車用トランスミッション液を形成させることになる。
本発明をここで非限定的な例のみによって説明することにする。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
構造(I)の非対称ビススクシンイミドの合成。
1リットルの丸底4つ口フラスコに温度計、機械的撹拌機、窒素スイープ、ディーンスターク・トラップ、及び水冷凝縮器を備えた。フラスコに、(i)ポリイソブテニル基が950の数平均分子量を有するポリイソブテニル置換無水コハク酸と、(ii)ヒドロカルビル基が2,300の数平均分子量を有し1-オクテン、1-デセン、及び1-ドデセンの混合物のメタロセン触媒重合により作製される、ヒドロカルビル置換無水コハク酸との、50:50モル混合物を装入した。フラスコを撹拌下で130℃まで加熱した。次いで1分子あたり平均で6個の窒素原子を有するポリエチレンポリアミンの市販の混合物を、無水物基1モルあたり1モルの第一級アミンを供給するのに等価な量で、滴下漏斗を介してフラスコへゆっくり加えた。反応混合物の温度を165℃まで上昇させ、3時間維持した。この段階に続いて1時間窒素注入を行って残留する水を除去した。冷却後、反応により窒素含量が2.2質量%である生成物が得られた。
【0048】
(実施例2)
ポリイソブチレン(PIB)を使用して作製される対称ビススクシンイミド。
ポリエチレンポリアミンの同じ混合物を使用するが、反応物(i)ポリイソブテニル基が950の数平均分子量を有するポリイソブテニル置換無水コハク酸のみを使用して、実施例1を繰り返した。得られる生成物の窒素含量は3.46質量%であった。
【0049】
(実施例3)
mPAOを使用して作製される対称ビススクシンイミドの合成
ポリエチレンポリアミンの同じ混合物を使用するが、反応物(ii)ヒドロカルビル基が2,300の数平均分子量を有し1-オクテン、1-デセン、及び1-ドデセンの混合物のメタロセン触媒重合により作製される、ヒドロカルビル置換無水コハク酸のみを使用して、実施例1を繰り返した。得られる生成物の窒素含量は1.56質量%であった。
表1に詳細を示す通りに4つの自動車用トランスミッション液組成物を調製した。3つの組成物は比較例とした。「比較例1」は実施例1~3のビススクシンイミドのいずれも含有しないものとした。「比較例2」はポリイソブチレン(PIB)を使用して作製された実施例2の対称ビススクシンイミドのみを含有するものとした。「比較例3」は、実施例2及び3の対称ビススクシンイミドの両方の組み合わせを含有するものとした。実施例4は、実施例1の非対称ビススクシンイミドのみを含有するので、本発明の実施例である。
【0050】
【0051】
摩擦性能データ
SAE No.2試験機においてJASO M348の方法を使用して、表1の各液体について摩擦測定を行った。試験用クラッチ組立体は鋼板及びNW461E繊維板を使用するものとした。静止摩擦(μS)及び動摩擦(μD)を5000サイクル後に測定した。結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0052】
自動車用トランスミッションで使用される液体の最適な性能において、μSは0.100~0.115であるべきであり、μDは0.130を超えるべきである。実施例1~3のビススクシンイミドのいずれも含有していない比較例1は、静止摩擦及び動摩擦の両方が低すぎた。PIBを使用して作製される従来の対称ビススクシンイミドを含有する比較例2に関しては、動摩擦は良好であったが、静止摩擦が高すぎた。本発明による液体である実施例4は、良好な静止摩擦及び良好な動摩擦の両方を有していた。比較例3も良好な静止摩擦及び良好な動摩擦の両方を有していたが、重要なことは、表1に示すように、比較例3は合計で2.92質量%の分散剤(実施例2及び3の組み合わせ)を含有しており、一方実施例4はわずか2質量%しか含有していなかったことである。
【0053】
疲労試験
改造した4-ボール試験リグを使用した。以下の表に示す条件においてAXK1105ニードル軸受を2つのFTRE-2542レースに対して作動させた。新しい軸受及びレースを各試験について使用し、孔食が発生するまで各試験液を作動させた。孔食前のサイクル数を記録し、より良好な疲労寿命はより高い孔食前のサイクル数によって裏付けられる。
【表3】
【0054】
上記の表の「比較例2」の液体(PIBを使用して作製される従来の対称ビススクシンイミドのみを含有する)は孔食が見られる前に平均で16.8百万サイクル作動した。対照的に、本発明の非対称ビススクシンイミドを含有する油(上記の表の「実施例4」の液体)は孔食前に平均で28.0百万サイクル作動した。これは「比較例2」の液体の摩耗寿命ほぼ2倍であり、本発明による液体では著しく有利であることを示す。