(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】青色レーザ光伝送用光ファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/036 20060101AFI20230405BHJP
G02B 6/032 20060101ALI20230405BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
G02B6/036
G02B6/032 Z
G02B6/02 411
G02B6/02 421
(21)【出願番号】P 2020190749
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八若 正義
(72)【発明者】
【氏名】大泉 晴郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 正俊
(72)【発明者】
【氏名】石田 智彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 茂
(72)【発明者】
【氏名】中島 宣武
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-154160(JP,A)
【文献】特開2019-074599(JP,A)
【文献】特開2020-126145(JP,A)
【文献】米国特許第07283714(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第103399376(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/036
G02B 6/44
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が50μm以上のコアと、前記コアを被覆するように設けられた第1クラッドと、前記第1クラッドを被覆するように設けられた第2クラッドとを有し、前記第2クラッドに、前記第1クラッドを囲うように配設された複数の空孔が形成された外径が500μm以上1500μm以下の裸ファイバを備えたマルチモードファイバの青色レーザ光伝送用光ファイバであって、
出射側のファイバ端部において、前記裸ファイバが露出しているとともに、その外周面にクラッドモードストリッパが設けられており、且つ前記第2クラッドの前記複数の空孔が埋められている青色レーザ光伝送用光ファイバ。
【請求項2】
請求項1に記載された青色レーザ光伝送用光ファイバにおいて、
前記出射側のファイバ端部における前記第2クラッドの前記複数の空孔は、加熱により潰されて中実に形成されることにより埋められている青色レーザ光伝送用光ファイバ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された青色レーザ光伝送用光ファイバにおいて、
前記第2クラッドは、前記第1クラッドと同一材料で形成されている青色レーザ光伝送用光ファイバ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された青色レーザ光伝送用光ファイバにおいて、
前記複数の空孔は、ファイバ横断面において、ファイバ中心を中心とする半径62.5μmの円の外側に配置されている青色レーザ光伝送用光ファイバ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された青色レーザ光伝送用光ファイバにおいて、
前記複数の空孔のそれぞれのファイバ横断面における形状が半径方向を長軸とする小判型である青色レーザ光伝送用光ファイバ。
【請求項6】
コアと、前記コアを被覆するように設けられた第1クラッドと、前記第1クラッドを被覆するように設けられた第2クラッドとを有し、前記第2クラッドに、前記第1クラッドを囲うように配設された複数の空孔が形成された裸ファイバを備えた
マルチモードファイバの青色レーザ光伝送用光ファイバであって、
前記複数の空孔のそれぞれのファイバ横断面における形状が半径方向を長軸とする小判型であり、
出射側のファイバ端部において、前記裸ファイバが露出しているとともに、その外周面にクラッドモードストリッパが設けられており、且つ前記第2クラッドの前記複数の空孔が埋められている青色レーザ光伝送用光ファイバ。
【請求項7】
請求項6に記載された青色レーザ光伝送用光ファイバにおいて、
前記コアの直径が50μm以上である青色レーザ光伝送用光ファイバ。
【請求項8】
請求項6又は7に記載された青色レーザ光伝送用光ファイバにおいて、
前記裸ファイバの外径が500μm以上1500μm以下である青色レーザ光伝送用光ファイバ。
【請求項9】
請求項5乃至
8のいずれかに記載された青色レーザ光伝送用光ファイバにおいて、
前記空孔の長軸の内径が10μm以上100μm以下である青色レーザ光伝送用光ファイバ。
【請求項10】
請求項5乃至
9のいずれかに記載された青色レーザ光伝送用光ファイバにおいて、
前記複数の空孔は、隣接する前記空孔間の間隔が前記空孔の短軸の内径よりも小さい青色レーザ光伝送用光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色レーザ光伝送用光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
コアを被覆するように設けられたクラッドに複数の空孔がコアを囲うように形成され、それによって空孔で囲われた領域における光の閉じ込め効果を高めた光ファイバが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、光ファイバは、線引き時に作用する応力等の影響により、レイリー散乱損失の原因となるレイリー散乱光を発生する。そして、銅や金等のいわゆるイエローメタルの加工では、波長400乃至470nm付近の可視光域の青色レーザ光が用いられるが、特に、この青色レーザ光では、レイリー散乱光の発生が著しい。そのため、青色レーザ光の伝送時に、レイリー散乱光がコアから漏れ出し、それがジャケット等に損傷を与えるという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、青色レーザ光の伝送時に、レイリー散乱光による損傷を抑制することができるとともに、レイリー散乱光が取り除かれた良好なビーム品質の青色レーザ光を出射することができる青色レーザ光伝送用光ファイバを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、コアと、前記コアを被覆するように設けられた第1クラッドと、前記第1クラッドを被覆するように設けられた第2クラッドとを有し、前記第2クラッドに、前記第1クラッドを囲うように配設された複数の空孔が形成された裸ファイバを備えた青色レーザ光伝送用光ファイバであって、出射側のファイバ端部において、前記裸ファイバが露出しているとともに、その外周面にクラッドモードストリッパが設けられており、且つ前記第2クラッドの前記複数の空孔が埋められている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第2クラッドに第1クラッドを囲うように複数の空孔が配設されているのに加え、出射側のファイバ端部において、裸ファイバが露出しているとともに、その外周面にクラッドモードストリッパが設けられており、且つ第2クラッドの複数の空孔が埋められているので、青色レーザ光の伝送時に、レイリー散乱光による損傷を抑制することができるとともに、レイリー散乱光が取り除かれた良好なビーム品質の青色レーザ光を出射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る青色レーザ光伝送用光ファイバの出射側のファイバ端部の斜視図である。
【
図2】実施形態に係る青色レーザ光伝送用光ファイバの出射側のファイバ端部の縦断面図である。
【
図3】実施形態に係る青色レーザ光伝送用光ファイバの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0010】
図1乃至3は、実施形態に係る青色レーザ光伝送用光ファイバ10を示す。この青色レーザ光伝送用光ファイバ10は、波長400乃至470nmの可視光域の青色レーザ光の伝送部材であり、例えば銅や金等のいわゆるイエローメタルの切断や溶接の加工を行うレーザ加工機等に装着される光ファイバケーブルに組み込まれるものである。
【0011】
実施形態に係る青色レーザ光伝送用光ファイバ10は、裸ファイバ11と、それを被覆するジャケット12とを備える。青色レーザ光伝送用光ファイバ10の外径は、例えば1mm以上2mm以下である。青色レーザ光伝送用光ファイバ10のファイバ長は、例えば5m以上50m以下である。
【0012】
裸ファイバ11は、ファイバ中心のコア111と、それを被覆する第1クラッド112と、それを更に被覆する第2クラッド113とを有する。なお、裸ファイバ11は、複数のコアを有するマルチコア光ファイバであってもよい。
【0013】
コア111は、例えばノンドープの純粋石英で形成されていることが好ましい。第1クラッド112は、コア111よりも低屈折率であって、例えば屈折率を低下させるドーパント(F、B等)がドープされた石英で形成されていることが好ましい。第2クラッド113は、第1クラッド112と同一材料で形成されていることが好ましい。
【0014】
コア111の直径は、例えば50μm以上600μm以下である。したがって、実施形態に係る青色レーザ光伝送用光ファイバ10は、マルチモードファイバである。第1クラッド112の直径は、例えば70μm以上700μm以下である。第2クラッド113の直径、すなわち、裸ファイバ11の外径は、例えば500μm以上1500μm以下である。
【0015】
第2クラッド113には、第1クラッド112を囲うように配設された複数の空孔113aが形成されている。複数の空孔113aのそれぞれのファイバ横断面における形状は、半径方向を長軸とする小判型であることが好ましい。その長軸の内径は、好ましくは10μm以上100μm以下、より好ましくは10μm以上40μm以下である。複数の空孔113aは同一形状であることが好ましい。なお、空孔113aのそれぞれのファイバ横断面における形状は、円形や楕円形等のその他の形状であってもよい。
【0016】
複数の空孔113aは、ファイバ横断面において、それらの孔中心が、ファイバ中心を中心とする円の円周上に周方向に連続するように配置されていることが好ましい。隣接する空孔113a間の間隔は、空孔113aの短軸の内径よりも小さいことが好ましい。空孔113aの数は、例えば40個以上250個以下である。なお、複数の空孔113aは、半径方向に複数層に設けられていてもよい。複数の空孔113aは、それらで囲われる領域に青色レーザ光を閉じ込める観点から、ファイバ横断面において、ファイバ中心を中心とする半径62.5μmの円の外側に配置されていることが好ましい。
【0017】
ジャケット12は、紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等で形成された単一層で構成されていてもよく、また、例えばシリコーン樹脂の内側バッファ層と、それを被覆するナイロン樹脂或いはフッ素樹脂の外側被覆層との2層で構成されていてもよい。ジャケット12の厚さは、例えば50μm以上500μm以下である。
【0018】
実施形態に係る青色レーザ光伝送用光ファイバ10は、出射側のファイバ端部において、ジャケット12が剥がされ、ジャケット12から裸ファイバ11が突出して露出している。そして、このジャケット12から突出して露出した裸ファイバ11の外周面には、長さ方向に沿って溝が設けられ、その溝によってクラッドモードストリッパ13が構成されている。裸ファイバ11におけるクラッドモードストリッパ13が構成されている部分の長さは、例えば5mm以上50mm以下である。
【0019】
クラッドモードストリッパ13を構成する溝は、裸ファイバ11の外周面に長さ方向に沿って螺旋状に連続して延びるように設けられている。溝の断面形状は、コの字型の他、U字型、V字型、台形型等であってもよい。溝の深さは、例えば25μm以上70μm以下である。溝の開口幅は、例えば20μm以上300μm以下である。溝の螺旋ピッチは、例えば0.05mm以上5mm以下である。
【0020】
実施形態に係る青色レーザ光伝送用光ファイバ10は、出射側のファイバ端部において、クラッドモードストリッパ13が設けられた部分に対応して、第2クラッド113の複数の空孔113aが埋められている。空孔113aは、加熱により潰されて中実に形成されることにより埋められていることが好ましい。そして、これにより、第1及び第2クラッド112,113が単一材層に構成されていることが好ましい。
【0021】
以上の構成の実施形態に係る青色レーザ光伝送用光ファイバ10によれば、可視光域の青色レーザ光では、レイリー散乱光の発生が著しいものの、第2クラッド113に第1クラッド112を囲うように複数の空孔113aが配設されているので、青色レーザ光の伝送時に、レイリー散乱光が複数の空孔113aで囲われた領域に閉じ込められて、レイリー散乱光の裸ファイバ11の外周面から外部への放射が規制される。そのため、レイリー散乱光によるジャケット12等の損傷を抑制することができる。また、レイリー散乱光による発熱を抑制することができる。
【0022】
加えて、複数の空孔113aで囲われた領域に閉じ込められたレイリー散乱光は、出射側に向かって伝播することとなるが、出射側のファイバ端部において、裸ファイバ11が露出しているとともに、その外周面にクラッドモードストリッパ13が設けられており、且つ第2クラッド113の複数の空孔113aが埋められているので、レイリー散乱光の空孔113aによる閉じ込めが解除され、レイリー散乱光が裸ファイバ11の外周面からクラッドモードストリッパ13を介して外部に放射される。そのため、出射側のファイバ端面から、レイリー散乱光が取り除かれた良好なビーム品質の青色レーザ光を出射することができる。また、これにより、青色レーザ光の長距離伝送が可能となり、ファイバ長を10m以上、好ましくは20m以上と長くすることができる。
【0023】
また、実施形態に係る青色レーザ光伝送用光ファイバ10では、出射した青色レーザ光を照射した被照射物からの反射光が入射しても、その反射光が、出射側のファイバ端部において、裸ファイバ11の外周面からクラッドモードストリッパ13を介して外部に放射される。そのため、反射光によるジャケット12等の損傷を抑制することができる。
【0024】
実施形態に係る青色レーザ光伝送用光ファイバ10における出射側のファイバ端部は、ファイバ端から所定長のジャケット12を剥がし、露出した裸ファイバ11に加熱処理や充填処理を施して第2クラッド113の複数の空孔113aを埋めた後、裸ファイバ11の外周面に例えばCO2レーザからレーザ光を照射して溝を形成してクラッドモードストリッパ13を設ける加工を行うことにより得ることができる。
【0025】
実施形態に係る青色レーザ光伝送用光ファイバ10は、入射側のファイバ端部においても同様の構造を有することが好ましい。すなわち、ジャケット12が剥がされてジャケット12から裸ファイバ11が突出して露出するとともに、その外周面にクラッドモードストリッパが設けられ、且つその部分に対応して、第2クラッド113の複数の空孔113aが埋められた構造である。この場合、レーザ光源からの青色レーザ光が入射側のファイバ端部に入射すると、青色レーザ光は、主には裸ファイバ11のコア111に入射して伝播するが、一部がミスアライメント等のためにコア111に入射されない漏れ光となって第1及び第2クラッド112,113に入射する。しかしながら、そのような漏れ光が入射しても、その漏れ光が、入射側のファイバ端部において、裸ファイバ11の外周面からクラッドモードストリッパを介して外部に放射される。そのため、漏れ光によるジャケット12等の損傷を抑制することができる。
【0026】
なお、上記実施形態では、裸ファイバ11の外周面に長さ方向に沿って螺旋状に延びるように設けられた溝によりクラッドモードストリッパ13が構成されたものとしたが、特にこれに限定されるものではなく、裸ファイバ11の外周面に長さ方向に間隔をおいて設けられた周方向に延びる複数の溝によりクラッドモードストリッパ13が構成されたものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、青色レーザ光伝送用光ファイバの技術分野について有用である。
【符号の説明】
【0028】
10 青色レーザ光伝送用光ファイバ
11 裸ファイバ
111 コア
112 第1クラッド
113 第2クラッド
113a 空孔
12 ジャケット
13 クラッドモードストリッパ