(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】周波数基準発振器デバイス、および周波数基準信号を安定させる方法
(51)【国際特許分類】
H03B 5/30 20060101AFI20230405BHJP
【FI】
H03B5/30 Z
(21)【出願番号】P 2020533369
(86)(22)【出願日】2018-09-05
(86)【国際出願番号】 FI2018050626
(87)【国際公開番号】W WO2019048736
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-08-26
(32)【優先日】2017-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】520071814
【氏名又は名称】キョーセラ ティキティン オーユー
【氏名又は名称原語表記】KYOCERA TIKITIN OY
【住所又は居所原語表記】Tietotie 3 02150 Espoo Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】オヤ アールネ
(72)【発明者】
【氏名】ヤーッコラ アンッティ
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-050027(JP,A)
【文献】特開2012-257246(JP,A)
【文献】特開2006-019987(JP,A)
【文献】特開平02-096406(JP,A)
【文献】特表2013-512635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/30- 5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1長期安定度と第1周波数対温度頂点温度とを有する第1共振器を備え、第1周波数信号を提供することが可能である、第1発振器と、
前記第1長期安定度より低い第2長期安定度と、第2周波数対温度頂点温度とを有する第2共振器を備え、第2周波数信号を提供することが可能である、第2発振器と、
前記第1共振器の温度を基本的に前記第1周波数対温度頂点温度に調整し、前記第2共振器の温度を基本的に前記第2周波数対温度頂点温度に調整する、自動調温コントローラと、
安定した温度と、長期間安定した出力周波数信号とを提供するために、前記第2発振器の周波数を調整するために前記第1周波数信号を用いるように構成された安定度制御回路と、
を備え、前記第1
発振器及び前記第2発振器はそれぞれ恒温槽付きMEMS発振器である、周波数基準発振器デバイス。
【請求項2】
前記安定度制御回路は、前記第1周波数信号と、前記第2発振器の周波数を調整するために前記第2周波数信号を用いるフィードバックループと、を用いるように適合され、これにより、前記第2発振器の出力において、前記安定した出力周波数信号と前記第2周波数信号とが得られる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記安定度制御回路は、前記第1共振器の温度から機能的に独立している、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記自動調温コントローラは、前記第1周波数信号および前記第2周波数信号から機能的に独立している、請求項1から3のいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
前記安定度制御回路は、前記第1発振器を動作させ、前記第2発振器の前記調整のために前記第1周波数信号を間欠的に用いるように構成される、請求項1から4のいずれかに記載のデバイス。
【請求項6】
前記第1共振器は、縮退ドーピングされた静電駆動式の単結晶MEMS共振器である、請求項1から5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
前記第2共振器は、縮退ドーピングされた圧電駆動式の複合MEMS共振器である、請求項1から6のいずれかに記載のデバイス。
【請求項8】
前記第1発振器および/または前記第2発振器は、
少なくとも9×1019cm-3の平均ドーピング濃度でドープされたシリコンを含む共振器と、
85℃以上の頂点温度において高温頂点を有する固有の周波数対温度曲線を有する共振モードで、前記共振器を励起するアクチュエータと、
を備える、請求項1から7のいずれかに記載のデバイス。
【請求項9】
前記共振器のドーピング濃度は少なくとも1.1×1020cm-3であり、前記周波数対温度曲線は2つの頂点を有し、そのうち一方は前記高温頂点であり、他方は任意で、85℃未満の温度における低温頂点である、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記第1周波数対温度頂点温度および前記第2周波数対温度頂点温度は両方とも85℃以上である、請求項1から9のいずれかに記載のデバイス。
【請求項11】
前記第2周波数対温度頂点温度は前記第1周波数対温度頂点温度と実質的に異なり、具体的には少なくとも5℃異なる、請求項1から10のいずれかに記載のデバイス。
【請求項12】
前記第2周波数対温度頂点温度は、前記第1周波数対温度頂点温度と実質的に同じ、具体的には差異が最大でも5℃であり、前記自動調温コントローラは、前記第1共振器および前記第2共振器の温度を基本的に同じ温度に調整するように適合される、請求項1から8のいずれかに記載のデバイス。
【請求項13】
対応するキャリア周波数からの周波数オフセットが、対応するキャリアからの所定の周波数オフセット、例えば100Hzより大きい場合、前記第2発振器は、前記第1発振器よりも小さい固有位相雑音を有する、請求項1から12のいずれかに記載のデバイス。
【請求項14】
前記第1共振器は、ラーメモードで発振するように適合されるプレート共振器であるか、長さ伸張モードで発振するように適合されるビーム共振器である、請求項1から13のいずれかに記載のデバイス。
【請求項15】
前記第1共振器および/または前記第2共振器は、面内アスペクト比が1ではないプレート素子、またはビーム素子であり、面積伸張/幅伸張、面内屈曲、面外屈曲、または長さ伸張/ラーメモード分枝で発振するように適合される、請求項1から14のいずれかに記載のデバイス。
【請求項16】
前記第1共振器および/または前記第2共振器は、1.1×1020cm-3以上、例えば1.3×1020cm-3以上の平均濃度でドープされたシリコンベース共振器である、請求項1から15のいずれかに記載のデバイス。
【請求項17】
前記第2共振器は、
1.3×1020cm-3以上のn型ドーパント濃度を有するシリコンベース層と、
前記シリコンベース層の上に積層された窒化アルミニウム変換器層および導電電極層と、
を含み、
前記
第2共振器はプレートまたはビームとして成形され、その形状により、共振モードにおける素子に、ほぼゼロのTCF1と、前記少なくとも2つの頂点をもたらすTCF2およびTCF3特性が得られる、請求項1から16のいずれかに記載のデバイス。
【請求項18】
前記安定度制御回路は、位相同期ループ(Phase Locked Loop:PLL)ベース回路を備える、請求項1から17のいずれかに記載のデバイス。
【請求項19】
前記第1共振器および前記第2共振器は、異なる共振モードで共振するように適合される縮退ドーピングされたシリコン共振器である、請求項1から18のいずれかに記載のデバイス。
【請求項20】
周波数基準信号を安定させる方法であって、
第1長期安定度と第1周波数対温度頂点温度とを有する第1共振器を備え、第1周波数信号を提供することが可能である、第1発振器を設けることと、
前記第1長期安定度より低い第2長期安定度と、第2周波数対温度頂点温度とを有する第2共振器を備え、第2周波数信号を提供することが可能である、第2発振器を設けることと、
前記第1共振器を前記第1周波数対温度頂点温度に加熱し、前記第2共振器を前記第2周波数対温度頂点温度に加熱するために自動調温制御を使用することと、
安定した出力周波数信号を提供するために、前記第2発振器の周波数を調整するために前記第1周波数信号を用いることと、
を含み、前記第1
発振器及び前記第2発振器はそれぞれ恒温槽付きMEMS発振器である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は周波数基準発振器に関する。そのような発振器は、様々な電子機器に用いられ、例えばクロック信号を提供したり、当該機器の動作周波数を安定させたりする。具体的には、本発明は恒温槽付微少電子機械システム(Microelectromechanical System:MEMS)発振器(Oven-Controlled MEMS Oscillator:OCMO)に関する。
【発明の背景】
【0002】
従来、周波数基準発振器は、出力信号の周波数とその他の性質を主に決定する共振素子として水晶を含む。水晶は安定しているが、比較的サイズが大きいことや、消費電力が大きいことなどの欠点がいくつかある。
【0003】
いくつかの試みにおいて、安定した周波数基準として、水晶共振器の代わりにMEMS共振器を用いることに関する問題が対処されてきた。この手法に基づいて実用的な周波数基準を実現するには、主要な技術的問題が2つある。1つ目の問題として、適切な共振周波数対温度特性を有するMEMS共振器は、電力処理能力が低い傾向がある。MEMS共振器は、適度に低い駆動レベルにおいても非線形の反応を示す場合がある。これは、共振周波数の値が駆動振幅に大きく依存することも意味している。一方、位相雑音を改善するには、例えばKaajakari, V., et al.,「Nonlinear Limits for Single-Crystal Silicon Microresonators(単結晶シリコン微小共振器の非線形限界)」Journal of Microelectromechanical Systems 13, no. 5 (October 2004): 715-24に記載されているような、十分に高い駆動レベルが必要である。このため、安定した出力周波数と良好な位相雑音とを同時に達成することが困難である。
【0004】
実用的なMEMSベース周波数基準の達成におけるもう1つの問題は、数百万分の一(parts-per-million:ppm)単位の正確な出力周波数を得ることである。MEMS共振器の共振周波数は、容易に約1000ppm単位で変動するからである。
【0005】
恒温槽付水晶発振器(Oven-Controlled Crystal Oscillator:OCXO)および恒温槽付MEMS発振器(OCMO)の基本的な考え方は、それらの共振器素子を一定の高温で動作させることである。動作温度は、発振器の安定度を最大にするように選択される。
【0006】
米国登録特許公報第7068125号、米国登録特許公報第7427905号、米国登録特許公報第7268646号は、機械的共振構造に近接して、MEMS共振器ダイに形成された加熱素子を用いて所定の温度で作動されるMEMS共振器の様々な具現化例を開示している。
【0007】
米国登録特許公報第8669823号は、横輪郭モードオーブン加熱微少電子機械システム(MEMS)共振器と、電気機械結合用の電極構造とを開示している。そのような手法を用いて低電力の温度制御発振器を実現することはできるが、この手法には、環境温度の変化や、経時変化におけるドリフトに影響されない発振器出力周波数の提供において技術的な問題がある。
【0008】
米国登録特許公報第7248128号は、一群のMEMS共振器と、それらの共振器から所望の性質を選択する回路とを備えるMEMS基準発振器を開示している。この手法の欠点は、発振器内の共振器の共振周波数が温度変化に影響されることである。温度の影響を補償するために、この文献では、基準共振器を用いて1つの共振器の周波数を監視し、基準発振器の温度を測定し、発振器の周波数を所望の値に調整する際に基準共振器の温度を考慮する、周波数計を使用する方法を開示している。また、異なる共振周波数を有するいくつかの共振器の一群を用いて、そのうち1つが選択回路によって出力用に選択されることを開示している。さらに、温度補償を目的とする調整可能な低周波数発振器と、高周波数発振器と、の2つの発振器の周波数加算に関わる技術も開示している。
【0009】
米国登録特許公報第9191012号は、別の温度補償型発振器を開示している。当該発振器は一群のMEMS共振器を備え、そのうち1つの共振器は、発振器の出力周波数を提供するために用いられ、1つの共振器は、当該一群の共振器の温度を検知するために用いられる周波数を提供する。当該発振器はさらに、加熱デバイスと、コントローラと、接続デバイスと、を備え、2つの共振周波数の差に基づいてヒータを制御することで、温度に影響されない発振器周波数を提供する。米国出願公開特許公報第2007/290763号は、複数の共振器を用いて、温度補償出力周波数を有する発振器を設ける別の方法を開示している。
【0010】
前述したような補償方式は、比較的低温における安定度を欠点としている。これらの方式は、-40℃から+85℃の標準温度範囲における温度ドリフトが一般的に数百ppmから数千ppm、最善でも数十ppmである共振器に依存しているからである。そのため、様々な補償機構にかかわらず、発振器の出力周波数が必然的に大幅に変動する。
【0011】
MEMS共振器に基づいて、高精度で、温度ドリフトが少なく、時間的に安定した周波数基準を実現することには、前述の開示に基づいて対処できない技術的な問題がある。具体的には、周波数基準として、恒温槽付水晶発振器(OCXO)の代わりに恒温槽付MEMS発振器(OCMO)を普及させるには、OCMOの安定度をさらに改善する必要がある。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、安定度、特に長期の時間的安定度が改善された周波数基準発振器デバイスを提供することである。
【0013】
さらなる目的には、位相雑音性能が良く出力周波数の定義が正確なMEMS共振器に基づく、安定した、温度に影響されない周波数基準発振器デバイスを提供することが含まれる。
【0014】
これらの目的は、本明細書および請求の範囲に記載するとおりに達成される。
【0015】
一態様によると、本発明は周波数基準発振器デバイスを提供する。前記周波数基準発振器デバイスは、
第1長期安定度と第1周波数対温度頂点温度とを有する第1共振器を備え、第1周波数信号を提供することが可能である、第1発振器と、
前記第1長期安定度より低い第2長期安定度と、第2周波数対温度頂点温度とを有する第2共振器を備え、第2周波数信号を提供することが可能である、第2発振器と、
前記第1共振器の温度を基本的に前記第1頂点温度に調整し、前記第2共振器の温度を基本的に前記第2頂点温度に調整する、自動調温コントローラと、
安定した温度と、長期間安定した出力周波数信号とを提供するために、前記第2発振器を調整するために前記第1周波数信号を用いるように構成された安定度制御回路と、
を備える。
【0016】
本発明のさらなる態様によると、周波数基準信号を安定させる方法が提供される。前記方法は、前述のような第1共振器と第2共振器とを設けることと、前記第1共振器を前記第1頂点温度に加熱し、前記第2共振器を前記第2頂点温度に加熱するために前記自動調温コントローラを用いることと、安定した出力周波数信号を提供するために前記第2発振器を調整するために前記第1周波数信号を用いることと、を含む。
【0017】
本発明は大きな利点をもたらす。
【0018】
まず、出力周波数が時間的に安定しており、温度ドリフトが少ない発振器が提供される。提案される温度補償は、第1共振器または第2共振器の周波数測定値にも、2つ以上の共振器のいかなる周波数測定値の差分にも基づかないため、そのような測定に起因する誤差を生じない。すなわち、本設計において、第1共振器の温度の自動調温制御は、第1共振器および第2共振器の周波数から完全に独立させることができる。本明細書における時間的安定度は、高い長期安定度と良好な再現性特性の両方を含む。
【0019】
自動調温制御により、提案される発振器は周囲温度にも左右されない。
【0020】
本発明により、第1共振器と第2共振器の両方にMEMS共振器を用いることができる。つまり、よりサイズが小さく消費電力が低い発振器を実現することができる。
【0021】
本設計により、1ppm/年未満の長期安定度を達成できることが分かっている。また、発振器のいわゆる再現性、すなわち、発振器が一定期間電源オフされた後に周波数を再現する性能として、20ppb以下を達成可能であることが分かっている。これらの値は、具体的には、例えば縮退ドーピングされた静電駆動式の単結晶MEMS共振器を第1共振器として選択することで達成可能であり、第1共振器および第2共振器の周波数に依存しない自動調温器を用いて第1共振器を適切な温度に加熱することで、水晶と同程度、またはそれより良好な温度ドリフトと長期安定度を達成することができる。第1共振器は第2共振器の動作を安定させる。第2共振器は比較的自由に選択することができる。例えば、第2共振器は、発振器の動作周波数範囲において低い位相雑音特性を有する「高速な」MEMS共振器にすることができる。具体的には、高濃度にドープされた圧電駆動式共振器を第2共振器として用いると、低雑音と、高い固有安定度と、共振器の頂点を85℃超へと「押し上げる」能力とに関して有利である。ただし、第2共振器は水晶共振器であってもよい。
【0022】
従属請求項は、前述の態様における選択された実施形態に対するものであり、さらなる利点を提供する。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記安定度制御回路は、前記第1周波数信号と、前記第2発振器の周波数を調整するために前記第2周波数信号を用いるフィードバックループと、を用いるように適合される。前記第1発振器は安定した基本周波数を提供し、前記フィードバックループは、前記第2共振器の性質と温度変化とによって生じる周波数変動を直ちに修正することを可能にする。これにより、前記第2周波数信号を、前記発振器の安定した出力信号として用いることができる。前記安定度制御回路は、例えば位相同期ループ回路またはマイクロコントローラに基づくことができる。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記自動調温コントローラは、前記第1周波数信号および前記第2周波数信号から機能的に独立している。すなわち、前記共振器の温度は、例えば差分測定により、前記共振器における出力周波数の周波数に基づいて決定されることも調整されることもない。その代わり、前記共振器の近傍に、サーミスタなどの直接温度センサを設けてもよい。これにより、前記発振器の出力周波数の精度を最大にし、ドリフトを最小にすることができる。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記安定度制御回路は、前記第1共振器の温度から機能的に独立している。つまり、前記安定度制御回路は、前記第1発振器の出力に基づいて前記第2共振器を安定させる機能を実行するために、温度データを必要とすることも用いることもない。言い換えると、前記安定度制御回路は前記第1周波数信号を制御信号としてそのまま「受け入れる」。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記安定度制御回路は、前記第1共振器を動作させ、前記第2共振器の前記調整のために前記第1周波数信号を間欠的に用いるように構成される。したがって、前記第1発振器は常時ではなく間隔をおいてのみスイッチオンされ、前記第2発振器の修正的調整が行われる。その後、前記第1発振器がスイッチオフされる。これにより、前記デバイスの消費電力が低減される。また、消費電力をさらに低減するために、前記第1共振器の自動調温加熱をこれらのスイッチオン期間と同期させることができる。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記第1共振器は、一般的にn型ドープ剤を含む、縮退ドーピングされた単結晶MEMS共振器である。具体的には、静電駆動式の単結晶シリコン共振器であってもよい。したがって、前記第1発振器は、縮退ドーピングされた単結晶シリコン成形体と、前記成形体に機能的に結合された静電変換電極と、前記共振器を所望の共振モードで励起するために前記電極に電気的に接続されたアクチュエータと、を備えてもよい。
【0028】
いくつかの実施形態において、前記第2共振器は、縮退ドーピングされた圧電駆動式の複合MEMS共振器である。そのような共振器は、好ましくはn型ドーパント濃度が1.3×1020cm-3以上であるシリコン成形体と、前記成形体上の窒化アルミニウム層などの圧電変換層と、前記圧電層上の電極層とを備えてもよい。前記発振器の前記アクチュエータは、前記共振器を所望の共振モードで励起するために、前記電極層および前記シリコン成形体に電気的に接続される。
【0029】
いくつかの実施形態において、前記共振器の素子は、矩形プレート素子などの、面内アスペクト比が1ではないプレート素子である。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記第1発振器、前記第2発振器、または両方の発振器は、それぞれの共振器として、少なくとも9×1019cm-3の平均ドーピング濃度でドープされたシリコンを含む共振器を備える。さらに、85℃以上の頂点温度において高温頂点を有する固有の周波数対温度曲線を有する共振モードで、前記共振器を励起するアクチュエータが設けられる。すなわち、シリコン共振器の頂点は、電子機器の実用温度域全体を網羅するオーブン加熱温度として十分な高さの温度まで「押し上げる」ことができ、同時に、当該頂点を平坦にして、周波数に関して極めて安定した領域を設けることができることが分かっている。この鍵となるのは、シリコン材料の超高濃度ドーピングである。好ましい材料、共振器形状、および共振モードの組合せ例については後述する。具体的には、頂点における周波数対温度曲線の曲率の絶対値は、20ppb/C2以下、さらには10ppb/C2以下のレベルになることが示されている。これは従来のオーブン加熱共振器とは対照的である。従来のオーブン加熱共振器における曲率は最善でも約50ppb/C2であり、OCXOに用いられる水晶のものより10倍以上高い。本構成により、曲率、すなわち周波数安定度が水晶の性能に近づく。これにより、オーブン温度制御の精度に対する要件が緩和される。
【0031】
さらなる実施形態において、各共振器のドーピング濃度は少なくとも1.1×1020cm-3であり、前記周波数対温度曲線は2つの頂点を有し、そのうち一方は前記高温頂点であり、オーブン加熱点となる。すなわち、比較的低温において周波数対温度頂点を有すると信じられていたいくつかの共振器が、実際には、そのようなレベルでドープされると高温において別の頂点を示すことが分かっている。ここで重要なことは、この別の頂点の曲率が低いことであり、発振器の出力周波数を安定させるためのオーブン加熱に最適になる。もう一方の頂点も高温点であってもよく、85℃未満の温度における低温頂点であってもよい。
【0032】
いくつかの実施形態において、前記第1共振器および/または前記第2共振器の前記共振モードは、面積伸張/幅伸張モード分枝(オーバートーンを含む)である。別の実施形態において、前記共振モードは面内屈曲、面外屈曲、または長さ伸張/ラーメモード分枝(オーバートーンを含む)である。つまり、前記共振器内で生じる主要モードは、前述の分枝に属する。
【0033】
一般的に、用いられる共振モードは、幅伸張モードや面積伸張モードなどの伸張モード、面内屈曲モードなどの屈曲モード、せん断モード、またはこれらモードの2つ以上の特性を有するモードにすることができる。特に、これらのモードの形状により、所望の設計項目、具体的にはプレートのアスペクト比、シリコン結晶に対するプレートの角度、およびドーピングに関して設計の自由が得られ、実用上で所望の性質を有する共振器を実現できることが分かっている。
【0034】
前述の複数の共振モードは、9×1019cm-3以上、例えば1.1×1020cm-3以上の高いシリコンドーピングレベルと組み合わせると特に有利である。これにより、オーブン加熱温度において、周波数対温度曲線の極めて低い曲率を達成できるからである。
【0035】
いくつかの実施形態において、前記第1共振器と、一般的に前記第2共振器も、それぞれ85℃以上の頂点温度を有する。前記頂点温度は同じ温度に設定してもよく、その場合は1つのオーブンで十分である。また、前記頂点温度は異なってもよく、その場合は前記共振器はそれぞれ個別にオーブン加熱される。
【0036】
いくつかの実施形態において、前記第2共振器は、複合MEMS共振器である。例えば、窒化アルミニウム薄膜によって駆動される縮退ドーピングされたシリコン共振器であって、シリコン結晶とAlN層、および任意の電極またはその他の層により複合体が形成される共振器であってもよい。この種の共振器は、極めて小さい位相雑音と、正確に調整可能な中心周波数と、有利な周波数安定度という特性を有する。
【0037】
いくつかの実施形態において、対応するキャリア周波数からの周波数オフセットが、対応するキャリアからの所定の周波数オフセット、例えば100Hzより大きい場合、前記第2発振器は、前記第1発振器よりも小さい固有位相雑音を有する。本構成により、出力信号は基本的に第2発振器の雑音特性と、第1発振器の安定度特性とを有する。
【0038】
いくつかの実施形態において、前記第2頂点温度は前記第1頂点温度と実質的に異なり、具体的には少なくとも5℃異なる。2つの共振器は別々のオーブン内に配置できるため、これらの共振器の設計および最適な動作点を比較的自由に選択することができる。別の実施形態において、前記共振器は、前記第2頂点温度が前記第1頂点温度と実質的に同じになるように、具体的には差異が最大でも5℃になるように構成され、前記自動調温コントローラは、前記第1共振器および前記第2共振器の温度を基本的に同じ温度に調整するように適合される。この場合、これらの共振器を1つのオーブン内に配置できるという利点がある。
【0039】
次に、本発明の実施形態のいくつか、およびそれらの利点を、添付の図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、一実施形態によるMEMSベース周波数基準発振器のブロック図である。
【
図2】
図2Aは、一実施形態による、長期経時変化に対して出力発振器を安定させるために分数(フラクショナル)N型PLL回路を備えるMEMSベース周波数基準発振器のブロック図である。
図2Bは、一実施形態による、長期経時変化に対して出力発振器を安定させるためにマイクロコントローラベース周波数カウンタを備えるMEMSベース周波数基準発振器を示す図である。
【
図3】
図3Aは、静電式ラーメモードMEMS共振器の共振周波数において測定された温度依存性を示すグラフであり、85℃より高い頂点温度(T
TO=125℃)を示している。
図3Bおよび
図3Cは、第1共振器として適した、例示的な静電駆動式の方形プレート共振器を示す上面図および側面図である。
【
図4】
図4Aは、窒化アルミニウム薄膜結合MEMS共振器の共振周波数において測定された温度依存性を示すグラフであり、85℃より高い頂点温度(T
TO,h=95℃)を示している。
図4Bおよび
図4Cは、第2共振器として適した、例示的な圧電駆動式の矩形プレート共振器を示す上面図および側面図である。
【
図5】
図5は、AlN結合MEMS共振器に基づく発振器において測定された位相雑音を示す図である(水晶に基づく同じ発振器と比較)。
【
図6】
図6は、静電式ラーメモードMEMS共振器に基づく発振器における周波数安定度の測定データを示す図である。
【
図7】
図7は、静電式ラーメモードMEMS共振器に基づく発振器における再現性の測定データを示す図である。
【
図8】
図8Aから
図8Cは、MEMS共振器の3つの異なる周波数対温度曲線であって、それぞれ少なくとも1つの高温頂点を有する曲線のグラフである。
【実施形態の詳細説明】
【0041】
〔定義〕
「(周波数基準)発振器(デバイス)」は、本明細書においてデバイス全体を意味し、具体的には、本明細書で説明する第1発振器および第2発振器と、自動調温コントローラと、安定度制御回路と、を備えるデバイス全体を意味する。
【0042】
「第1/第2発振器」は、発振器デバイスに含まれる個別のサブユニットを意味し、個別の第1/第2共振器と、共振器用のアクチュエータとを含む。
【0043】
「アクチュエータ」は、本明細書において、共振器の動作と共振器の周波数の検知に必要な駆動および検知回路を意味する。
【0044】
「共振器(素子)」は、本明細書において、共振モードで共振可能であるように支持構造に懸架される固体素子を意味する。共振器は、具体的には単結晶共振器であっても、例えば、圧電駆動により必要とされる層などの、材料組成の異なる複数の層を含み、素子体によって懸架される複合共振器であってもよい。
【0045】
「長期安定度」は、発振器の出力周波数の経時的な変化を意味する。長期安定度の同義語として、「経時変化」という用語を用いることができる。対象の期間は、日、月、年、複数年にすることができ、経時変化性能は一般的に、ppb/日、ppb/月、ppb/年などの単位、または、ppm/日、ppm/月、ppm/年などの単位で提示される。
【0046】
「再現性」は、発振器が一定期間電源オフされた後に、その周波数を再現する性能を意味する。再現性は、一般的にppbまたはppm単位で測定される。
【0047】
TCF1、TCF2、およびTCF3はそれぞれ、一般的に25℃の温度で評価された周波数対温度曲線の一次微分係数、二次微分係数、および三次微分係数を意味する。頂点温度における周波数対温度曲線の一次微分係数および二次微分係数を指すとき、「傾き」および「曲率」という用語が用いられる。
【0048】
ここで「ppb」および「ppm」はそれぞれ、相対単位である十億分の一(parts per billion(10-9):ppb)および百万分の一(parts per million(10-6):ppm)を意味する。
【0049】
「頂点」は、特定の共振器における周波数対温度曲線の極値を意味する。頂点温度(TTO)は、頂点に対応する温度値である。したがって、頂点温度において、当該共振器の周波数対温度曲線の傾きはゼロであり、頂点温度周辺では、温度変化による共振器の周波数への影響は最小である。
【0050】
「縮退ドーピング」は、本明細書において、不純物濃度が1018cm-3以上、具体的には9×1019cm-3以上、さらには1.1×1020cm-3以上のドーピングを意味する。ドープ剤は、例えばリンまたはその他のn型ドープ剤であってよい。
【0051】
[ある実施形態の説明]
〔全体構造〕
図1は、MEMS共振器に基づく周波数基準発振器10の全体的な構造を示している。第1発振器11Aおよび第2発振器11Bはいずれも、安定度コントローラ回路20(「コンバイナ」)に機能的に接続されている。出力周波数は第2発振器11Bの出力から得られる。安定度制御回路の主な目的の1つは、第2発振器の長期安定度を第1発振器の安定度レベルまで改善することである。
【0052】
第1発振器11Aは、高い長期安定度と、当該発振器の意図される周囲動作温度範囲外において頂点温度T
TO,1を示すTCF特性とを有するように選択された第1共振器素子を備える。第1発振器、または少なくともその共振器素子は周囲から熱的に分離され(
図1の点線)、自動調温コントローラ110を用いて頂点温度T
TO,1までオーブン加熱される。その後、第1共振器は適切な駆動回路によって励起され、その共振周波数が検知され、安定度制御回路に提供される。
【0053】
自動調温コントローラ110は、第1発振器11A、第2発振器11B、および安定度制御回路20の駆動回路とは個別に動作するように配置されることに注目されたい。すなわち、自動調温コントローラ110は、発振器11A、11Bのいずれの周波数も用いることなく、第1共振器の、および任意で第2共振器(オーブン加熱されている場合)の目標温度を決定する。
【0054】
第1発振器11Aの長期安定度は好ましくは10ppb/日以下であり、5ppb以下などである。これは例えば、オーブン加熱され、縮退ドーピングされた静電駆動式の単結晶MEMS共振器を用いて達成される。
【0055】
第1発振器11Aの共振周波数は、所望の周波数出力とは異なってもよい。
【0056】
周波数出力19は、第2発振器11Bから得られる。安定度制御回路は、第1発振器11Aの出力信号を用いて第2発振器11Bの駆動回路を制御し、第2発振器11Bの周波数を所望の値に調整する。温度に影響されない第1発振器11Aは、経時的に、この値を最大限に一定に維持する。
【0057】
第2発振器11Bも熱的に分離され、自動調温コントローラ110を用いてオーブン加熱される。これにより最大限の熱的な安定度が得られる。
【0058】
小型のMEMS共振器により、消費電力の極めて低い微小オーブンを実現することができる。したがって、2つの恒温槽付MEMS共振器を備えながら、水晶に基づく従来の恒温槽付水晶発振器より大幅に低い消費電力を達成する基準発振器を実現することができる。
【0059】
一実施形態において、第2発振器11Bに含まれる第2共振器は縮退ドーピングされた複合MEMS共振器であり、特定の頂点温度TTO,2までオーブン加熱される。一般的に、TTO,2はTTO,1とは異なり、第2共振器は個別に分離される。すなわち、2つの共振器は異なる微小オーブン内に配置され、互いに個別の目標温度に達する。これにより、第2発振器11Bも温度に影響されなくなり、発振器全体の安定度が向上し、時間定数または調整間隔がより長い安定度制御回路を用いることができる。
【0060】
第2共振器は、圧電駆動式の、具体的にはAlN結合の複合共振器であってもよい。
【0061】
いくつかの実施形態において、第2発振器11Bは第1発振器11Aより位相雑音が少なくなるように選択される。これにより、基準発振器が高速になる。すなわち、出力周波数を決定するために必要な信号のフィルタリングまたは平均化にかかる期間が短くなる。この点において、AlN結合シリコンMEMS共振器は特に注目される。ただし、AlN結合MEMS共振器の長期安定度は現在、静電駆動式の単結晶MEMS共振器の長期安定度ほど高くない。しかしながら、第1発振器11Aおよび安定度制御回路20を用いて第2発振器11Bを制御することにより、最適な性質を有するMEMSベース基準発振器を実現できる。
【0062】
いくつかの実施形態において、第1発振器11Aおよび/または第2発振器11Bの駆動および検知回路(図示しない)も、自動調温制御によって所定の一定温度に加熱される。これにより、発振器11A、11Bにおける、さらには周波数基準発振器全体における出力周波数の安定度が最大になる。駆動回路の単数または複数の加熱オーブンは、第1発振器の、および任意で第2発振器の加熱オーブンほど安定していなくてもよい。
〔安定度制御回路〕
【0063】
適切な安定度制御回路を実装するための電気回路はいくつかある。
図2Aは、回路において分数(フラクショナル)N型位相同期ループ(Phase-Locked-Loop:PLL)回路を用いる周波数基準を示している。PLL回路により、2つの発振器11A、11Bの周波数を互いに同期させることができる。発振器の出力周波数における長期経時変化を解消するために、第2発振器11Bの出力からPLL回路へのフィードバックループが設けられる。
【0064】
より具体的には、分数N型PLL回路において、第1発振器11Aの周波数信号は第1位相検出器12Aへと導かれる。第1位相検出器12Aの出力は第1ループフィルタ13Aに接続されている。フィルタされた信号は、さらに電圧制御発振器(Voltage-Controlled Oscillator:VCO)16へと導かれ、そこから、小数N/N+1分周器17を通って第1位相検出器12Aへと戻る内部フィードバックループが存在する。分周器17を制御するために弾性係数制御17'が設けられている。
【0065】
VCO16の出力は、整数M分周器18を通って第2位相検出器12Bへ、さらに第2ループフィルタ13Bへと導かれ、第2発振器11Bにおける周波数調整のための入力として用いられる。第2発振器11Bの出力は、発振器全体の周波数出力となる。
【0066】
第2発振器11Bの長期経時変化は、第2発振器11Bの出力を第2位相検出器12Bへと戻すフィードバックループによって最小限に抑えられる。したがって、基準発振器全体の長期安定度は、第1発振器11Aの安定度によって決定される。
【0067】
図2Aに示す発振器構造は、従来の分数N型PLL発振器より大幅に有利である。従来の発振器と比べて、出力周波数信号にスプリアス雑音の欠点がなく、位相雑音が大幅に改善しうる。
【0068】
長期安定度については、周波数ドリフトは長期にわたる現象であるため、フィードバックループは通常は極めて低速になりうる。短期間において、例えば第2発振器11Bで使用可能なAlN結合MEMS共振器の出力周波数は、十分に安定しうる。
【0069】
図2Bは、マイクロコントローラユニット(Microcontroller Unit:MCU)ベースの周波数カウンタ14Bおよびフィードバックループにより、第2発振器11Bを長期経時変化に対して安定させる別の構成を示している。
【0070】
安定度制御回路により第2発振器11Bの周波数を調整することは、例えば、水晶産業において行うように発振器にバラクタを搭載して「周波数プリング」を発生させ、安定度制御回路のフィードバック電圧を用いてバラクタの静電容量を制御することによって行うことができる。
【0071】
図2Aおよび
図2Bに示す構造の利点の1つは、共振周波数が所定の狭い周波数範囲内に収まるように第1発振器11Aを作成する必要がないことである。厳しい周波数仕様に従って第2発振器11Bを作成するほうが、少なくともAlN結合MEMS共振器の場合は大幅に容易である。
【0072】
基準発振器の消費電力は、第1発振器11Aおよび/または安定度制御回路20、14A、14Bが間欠的にのみスイッチオンされて第2発振器11Bを較正する場合に低減することができる。適切なスイッチオン間隔は、2つの発振器11Aおよび11Bの周波数ドリフト特性に応じて異なる。目標は、第2発振器11Bの長期にわたるドリフトを、第1発振器11Aの低いドリフトレベルまで低減できるような十分な頻度で較正を行うことである。
【0073】
第1発振器11Aと、安定度制御回路20、14A、14Bの回路ブロックの大部分と、自動調温コントローラ110とは、周波数較正器を形成する。この周波数較正器は、第1発振器11Aより安定度の低い第2発振器11Bの周波数の較正に用いられる。較正の結果は、例えば、デジタル・アナログ変換器のアナログ電圧の制御に用いられるデジタル回路ブロックに保存される。このアナログ電圧は、第2発振器11Bの出力周波数を決定する調整電圧である。
【0074】
いくつかの実施形態において、スイッチオン間隔は、1時間から10日などの時間または日単位である。スイッチオン期間の長さは、例えば10秒から10分であってもよい。
【0075】
いくつかの実施形態において、第1発振器および第2発振器の周波数は、f2=(M/N)f1という単純な方程式で関係づけられる。ここでMおよびNは整数である。これにより、安定度制御回路は、整数分周器のみを備えるPLL回路になる。最も単純なケースはf2=f1である。本発明の基本的な利点はこのケースにおいても有効である。すなわち、周波数基準発振器全体の位相雑音が第2発振器によって決定され、長期安定度が第1発振器によって保証される。
〔第1共振器〕
【0076】
一実施形態によると、第1発振器11Aに含まれる第1共振器は、ラーメモードで発振する、縮退ドーピングされた静電駆動式の単結晶MEMSプレート共振器であるか、長さ伸張(Length Extensional:LE)モードで発振するビーム共振器である。結晶のドーピング濃度と、結晶方向に対するプレート/ビーム共振器の主軸の向きとを適切に選択することで、好ましい頂点温度である85℃超(例えば100℃超)が達成される。
【0077】
特定の例によると、第1共振器は、例えば、リンドーパント濃度が4.1×1019cm-3以上であり、[100]結晶方向に対して0から45度の角度を有する、n型のLEビームまたはラーメ方形共振器である。
【0078】
第1共振器として用いることができる別のタイプのMEMS共振器形状は、幅伸張(Width Extensional:WE)共振モードで発振する、縮退ドーピングされた静電駆動式の単結晶MEMSプレート共振器である。
【0079】
図3Aは、前述のようなMEMS共振器の高温での共振周波数において測定された温度依存性の例を示している。この曲線の頂点は125℃である。共振器が配置されている微小オーブンの温度は、自動調温コントローラによってこの温度に設定される。したがって、温度がいかに変化しても、共振器の出力周波数の変化は最小限に抑えられる。
【0080】
図3Bおよび
図3Cは、例示的な方形プレート共振器プレート32を示している。方形プレート共振器プレート32は、側方に、隙間によって離間された静電アクチュエータ電極34A、34Bを備えている。静電結合は、機械的接点がなく、共振器の駆動または検知手段によるストレスが結晶にかからないため、第1共振器に好適である。一般的に、機械的に結合された共振器と比べて位相雑音に劣ることは、本構成では問題にならない。この発振器の位相雑音は第2共振器の性質によって決まるからである。
【0081】
適切な周波数対温度特性を有するMEMS共振器を実現するために用いることができる共振器の形状や共振モードは他にもある。
【0082】
いくつかの実施形態において、第1共振器は、第2共振器を参照して以下に説明するような種類であるが、高い安定度を確保するために静電駆動される(第2共振器は一般的に圧電駆動される)。具体的には、第1共振器は、85℃超において低曲率の頂点を形成するために、9×1019cm-3超または1.1×1020cm-3超でドープしたものとすることができる。
【0083】
図6は、静電結合されたラーメモード共振器の周波数測定値とオーブン温度(120℃の頂点温度で一定)とを示している。約1ppb/日の経時変化性能が示されている。
図7は、同様の共振器における再現性測定値を示している。約20ppbの再現性が示されている。これらの図は、本発明の産業上の利用可能性と良好な性能を示している。
〔第2共振器〕
【0084】
一実施形態によると、第2発振器11Bに含まれる第2共振器は、そのアクチュエータと主共振素子との間に、第1共振器のものより強い電気機械結合を有するものであり、この結合は、好ましくは静電相互作用に基づく。これにより、位相雑音を低減することができる。実際には、シリコン成形体上に薄膜アクチュエータ層を積層した複合共振器は、発振器の一部として用いられる場合に強い結合と低い位相雑音をもたらす。この薄膜は一般的には圧電AlN層であり、その上に電極層が追加される。シリコン成形体はもう1つの電極として機能することができる。
【0085】
図4Aは、矩形プレート共振器から測定した周波数対温度曲線の例を示している。ここに示す曲線は、約40℃と約95℃の2つの頂点温度を有していることに注目されたい。後者の頂点温度がオーブンの目標温度として選択される。
【0086】
図4Bおよび
図4Cは、圧電層44と電極層46とが積層された例示的矩形共振器プレート42を示している。このプレートは、長さlと、長さに垂直の幅wを有している。いくつかの実施形態において、第2共振器に1つ以上の追加の層も設けられる。そのような追加の層は、例えば不動態化材料の層であってもよい。この層は別の層上に加工された場合、その下の材料を化学的に不活性化することができる。
【0087】
水晶共振器産業において行うものと同様の方法で、製造中にAlN結合MEMS共振器の共振周波数を低減することができる。
【0088】
そのような圧電駆動については、例えば、Jaakkola, A. et al.,「Piezoelectrically Transduced Single-Crystal-Silicon Plate Resonators(圧電変換式単結晶シリコンプレート共振器)」IEEE Ultrasonics Symposium, 2008. IUS 2008, 717-20, 2008においてより広範に論じられている。
【0089】
この共振器は、例えば、矩形プレートなどのプレートやビームとして成形することができる。プレートまたはビームの長さ方向は、シリコン材料の[100]結晶方向に対して0から45度の角度にしてもよい。これら両方の形状パラメータ、すなわちアスペクト比と角度は、材料パラメータおよび用いられる単数または複数のモード分枝と共に、85℃より高い頂点温度を得るように調整することができる。
【0090】
本発振器の設計と作成のプロセスは、任意の適切な順序で、または反復的なプロセスとして、共振器の形状を選択するステップと、ドープされたシリコンを含む共振器材料を選択するステップと、選択された共振モードで共振器を発振させることができる駆動手段を選択するステップとを含んでもよい。例えば、最初に、正のTCF1を有する周波数対温度曲線を示す任意の共振モードを選択することができる。一例において、プレート形状LEモード(一次またはそれより高次のLEモード)が選択される。その後、TCF1をゼロまたはほぼゼロにするようなプレート形状および/またはプレート材料(積層)を選択することができる。例えば、プレートのアスペクト比および/またはシリコン結晶に対する角度、および/またはシリコンプレート上の圧電駆動層厚さを選択できる。最後に、共振器の一次挙動よりも二次挙動および三次挙動を優位にするような、シリコンのドーピング濃度が選択される。具体的には、9×1019cm-3より高い濃度が選択される。
【0091】
次に、選択された共振器形状、共振器材料、駆動手段、および共振モードにより、少なくとも2つの頂点を有し、2つの頂点の少なくとも一方は85℃以上の高い頂点温度における高温頂点である、周波数対温度曲線が作成されるかが評価される。評価はシミュレーションまたは実験に基づいてもよい。評価が肯定的である場合、そのような共振器を備える発振器が作成され、共振器素子の温度を高い頂点温度に保つ自動調温コントローラも発振器内に設けられる。
【0092】
いくつかの実施形態において、プレート共振器の面内アスペクト比(すなわち、プレート共振器の長さと幅の比)および/またはシリコン材料の[100]結晶方向に対する角度が変化する場合、アスペクト比および/または角度の関数として共振器の特性が変化するように共振モードが選択される。対象の特性は、例えば、共振周波数と、周波数の温度係数、すなわちTCF1、TCF2、およびより高次の係数と、励起および検知に用いられる変換器の電気機械結合の強さなどである。可能な種々のアスペクト比または角度のうち、他の設計パラメータと共に高い頂点温度を達成するものが選択される。
【0093】
実際に実現可能ないくつかの例を挙げると、共振器は、高い頂点温度を達成するようにアスペクト比および他のパラメータが選択される複合幅伸張/面積伸張(Square Extensional:SE)共振器、または複合面内屈曲/長さ伸張プレートまたはビーム共振器にすることができる。これらの例については以下の文献でより詳細に説明されている。
【0094】
Jaakkola, Antti.,「Piezoelectrically Transduced Temperature Compensated Silicon Resonators for Timing and Frequency Reference Applications(タイミングおよび周波数基準用途のための圧電変換式温度補償シリコン共振器)」アールト大学2016年度博士論文、および米国出願公開特許第2016/0099704号では、85℃未満における共振器の二次温度挙動を一般的に説明している。シリコン共振器の二次温度係数TCF2は、n型ドーパント濃度が約1.1×10
20cm
-3より高い場合、室温において正の値に達することができる。線形TCF(TCF1)および二次温度係数TCF2は、ドーピングレベルおよび共振器形状に関する特定の構成により、同時に極めてゼロに近くすることができ、ドーピングがさらに増加される場合、TCF2は正の値に達する。これは、周波数対温度曲線の-40から+85℃の間において上方向に開いた放物線として示される。しかしながら現在は、85℃より高い高温において、曲線は上方向に開いた放物線からそれて、「下折れ」することが分かっている。言い換えれば、周波数対温度曲線は二次多項式では十分に説明されず、かなりの三次特性を有している。この三次効果、または周波数対温度曲線の「下折れ」により、
図4Aに示すように85℃超の周波数対温度曲線において低曲率の局所極大が得られ、共振器が、様々な電子製品の周囲温度範囲において周波数を安定させるためのオーブン加熱に適切となる。
【0095】
シリコン共振器において、2つの頂点を有する周波数対温度特性曲線を得るための例示的手法を以下に示す。これらの手法は、平均ドーパント濃度1.1×1020cm-3以上、具体的には1.3×1020cm-3以上であり、圧電駆動に関連する圧電層や金属層などの追加の材料層を有しても有しなくてもよい、共振器に適用可能である。これらの手法は、幅伸張/面積伸張(WE/SE)および面内屈曲(In-Plane Flexural:IFP1)、面外屈曲(Out-of-Plane Flexural:OPF1)、または長さ伸張/ラーメ(LE/ラーメ)モード分枝(前述の論文で参照される)の特性を利用することに基づいている。
【0096】
WE/SE分枝:長さと幅を有するプレート共振器の面積伸張/幅伸張モード分枝がある。アスペクト比1からより高いアスペクト比へと分枝上を移動させることにより、TCF1がほぼゼロになる構成を見つけることができる。本発明によると、このアスペクト比を用いると、TCF1がゼロになるだけでなく、残りの(正の)TCF2および(負の)TCF3により、
図4Aに示すような、2つの頂点温度を有する三次周波数対温度曲線が得られる。
【0097】
図4Aの例は、前述の手法を用いて作成したデバイスから測定したものである。共振器はSE-WEモード分枝における圧電駆動式の20MHz共振器であり、共振器寸法は以下のとおりである。複合共振器は、1.3×10
20cm
-3より高いドーパント濃度による厚さ20マイクロメータのリンドープシリコン層と、厚さ1マイクロメータの窒化アルミニウム(AlN)層と、上部電極として厚さ0.3マイクロメータのモリブデン層とを含む。共振器は矩形形状であり、幅188マイクロメータ、長さ378マイクロメータである。この設計の面内寸法を拡縮し、材料層の厚さ間の比率を一定にすることで、任意の周波数を有する共振器を作成できることに注目されたい。
【0098】
前述のケースの圧電駆動式共振器に最適なアスペクト比は、約2(長さ対幅)であることが分かっている。最適なアスペクト比は、正確なドーピング濃度と、共振器厚さと、場合によってはTCF1に寄与する追加の他の材料層と、によって決まるため、実際に使用可能なアスペクト比は2から最大10%、一般的には最大5%の誤差があってよい。TCF2およびTCF3への他の材料層の影響は小さい。ケースごとに最適なアスペクト比は、異なるアスペクト比を有する共振器設計を、小さいステップで変化させながら、または同様にシミュレーションを用いて、実験的にテストすることによって見つけることができる。
【0099】
圧電駆動の代わりに静電駆動を用いる(SE/WEモード分枝からの)同様の共振器に対しては、シリコン以外の材料層は追加されないため、最適なアスペクト比は2未満、すなわち1と2の間のいずれかの値である。
【0100】
したがって、一般的なケースでは、共振器のアスペクト比は1とは異なる。
【0101】
実験の結果として、
図4Aは、産業用途における本発明の実現可能性を示している。
【0102】
面内屈曲(IFP1)、面外屈曲(OPF1)、または長さ伸張/ラーメ(LE/ラーメ)モード分枝の特性は、前述のWE/SE分枝の特性と同様に利用することができる。ここで変化させるべきパラメータは、共振器のアスペクト比ではなく、[100]結晶方向に対するビーム形状共振器の配向である。
【0103】
IPF1、IPF2、またはLEモード分枝上を小さいステップで[100]方向の角度配向に移動させることで、TCF1がほぼゼロになる構成を見つけることができる。本発明によると、この構成において、残りの(正の)TCF2および(負の)TCF3により、
図4Aに示すような、2つの頂点温度を有する三次周波数対温度曲線が得られる。
【0104】
図4Aに示すような2つの頂点温度を有する三次周波数対温度曲線を描く構成を見つけるために、共振器の面内アスペクト比と、角度配向との両方を同時に変化させることができることに注目されたい。
【0105】
[100]結晶方向に対するビーム方向の正確な誤差は、共振器の厚さと、場合によってはTCF1に寄与する追加の他の材料層と、によって決まる。TCF2およびTCF3への他の材料層の影響は小さい。
【0106】
前述の説明を要約すると、いくつかの実施形態において、共振器素子は、1.3×1020cm-3以上のn型ドーパント濃度を有するシリコンベース層と、その上に積層された窒化アルミニウム変換器層と、その上に積層された導電電極層とを含む。この素子はプレートまたはビームとして成形され、その形状により、共振器の周波数対温度曲線における1つの頂点を高温範囲へと移動させる、ほぼゼロのTCF1と、正のTCF2と、負のTCF3とが得られる。
【0107】
一具体例によると、共振器は、未公開のフィンランド特許出願第20165553号に開示されている共振器の特性を有する。
【0108】
正確な頂点温度は、設計および製作工程によって希望どおりに調整できる。通常、SE-WEモード分枝などのモード分枝上をより高いアスペクト比へと移動させることで、頂点温度をより高くすることができる。同様に、面内屈曲(IFP1)、面外屈曲(OPF1)、または長さ伸張/ラーメモード分枝上を、[100]方向により揃う方向へと移動させることで、頂点温度をより高くすることができる。また、負のTCF1を有するより薄い材料層を追加することで、頂点温度がより高くなる。そのような層は、例えば、圧電層または上部電極層であってもよい。頂点温度を調整できることは、本発振器の工業生産に関して有利である。
【0109】
設計項目を正確に選択することによって、
図8Aに示すような周波数対温度曲線における単一の高温頂点(ドーピング濃度c=9×10
19-1.3×10
20cm
-3)、または
図8Bに示すような2つの高温頂点を有する曲線(c>1.1×10
20cm
-3)、または
図8Cに示すような1つの高温頂点と1つの低温頂点とを有する曲線(c>1.1×10
20cm
-3)を得ることができる。周波数対温度曲線の特性の大部分はドープされたシリコンの性質によって決まるが、例えば、追加された材料層が周波数対温度曲線に寄与する場合があるため、これらのケースの濃度制限値は重複している。各ケースで、高温頂点において20ppb/C
2以下の低曲率を達成することができる。
【0110】
共振器プレートは、例えば、第1層の上に第2層を有し、これらの層は異なるTCF特性を有する複合構造にすることができる。一実施形態において、第1層構造と第2層構造それぞれの線形TCFは正負が逆になっている。
【0111】
図5は、幅伸張モードのAlN駆動矩形プレート共振器を用いる発振器において測定された位相雑音特性を、従来の水晶と比較して図示し、この共振器が極めて低雑音の周波数源として機能する可能性を示している。
〔自動調温制御〕
【0112】
本明細書における自動調温コントローラは、好ましくは、温度を安定させる共振器の近傍に配置された抵抗ヒータなどのヒータを備える。また、温度調整される各共振器の温度を測定するサーミスタなどの温度センサと、共振器の温度を所定の値に設定するためにヒータを用いることができる制御回路と、を備える。
【0113】
温度センサは、シングルポイントセンサまたはマルチポイントセンサであってもよく、マルチポイントセンサの場合、複数の場所からの温度値を平均することができる。
【0114】
自動調温制御される各共振器は微小オーブン、すなわち前述のヒータおよびセンサを含む熱的に分離された空間内に配置される。通常は別々のオーブンが必要であるが、2つの共振器が同じまたはほぼ同じ頂点温度を有する場合、それらを1つのオーブン内に配置してもよい。
【0115】
所望される場合、共振器の駆動回路、および/または熱安定化回路、および/または自動調温制御回路を、1つ以上のオーブン内に配置してもよい。このオーブンは共振器のオーブンと同じであってもよい。これによって、発振器の精度と安定度をさらに改善することができる。
【0116】
第1共振器および第2共振器は、別々の自動調温制御ユニットを備えても、単一の制御ユニットを用いてもよい。いずれのユニットも、本明細書において自動調温コントローラという用語に含まれる。
【符号の説明】
【0117】
10 周波数基準発振器
11A/11B 第1/第2共振器
12A/12B 第1/第2位相検出器
13A/13B 第1/第2ループフィルタ
14A PLLベース安定度制御回路
14B MCUベース安定度制御回路
16 電圧制御発振器
17 小数N/N+1分周器
17' 弾性係数制御
18 整数M分周器
19 周波数出力
20 安定度制御回路
32 方形プレート共振器
34A/34B 静電アクチュエータ電極
42 矩形プレート共振器
44 圧電薄膜
46 電極
【先行技術文献】
【特許文献】
【0118】
米国登録特許公報第7068125号
米国登録特許公報第7427905号
米国登録特許公報第7268646号
米国登録特許公報第8669823号
米国登録特許公報第9191012号
米国登録特許公報第7248128号
米国出願公開特許公報第2016/0099704号
【非特許文献】
【0119】
Kaajakari, V., T. et al.,「Nonlinear Limits for Single-Crystal Silicon Microresonators(単結晶シリコン微小共振器の非線形限界)」Journal of Microelectromechanical Systems 13, no. 5 (October 2004): 715-24. doi:10.1109/JMEMS.2004.835771
Jaakkola, A. et al.,「Piezoelectrically Transduced Single-Crystal-Silicon Plate Resonators(圧電変換式単結晶シリコンプレート共振器)」IEEE Ultrasonics Symposium, 2008. IUS 2008, 717-20, 2008
Jaakkola, Antti.,「Piezoelectrically Transduced Temperature Compensated Silicon Resonators for Timing and Frequency Reference Applications(タイミングおよび周波数基準用途のための圧電変換式温度補償シリコン共振器)」アールト大学2016年度博士論文