(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】タンパク質製剤用の賦形剤化合物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/18 20170101AFI20230405BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230405BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
A61K47/18
A61K47/68
A61K39/395 A
A61K39/395 H
(21)【出願番号】P 2020546123
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(86)【国際出願番号】 US2019020751
(87)【国際公開番号】W WO2019173338
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-10-01
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519009851
【氏名又は名称】コメラ ライフ サイエンシズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【氏名又は名称】宮脇 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】ソーン,デービッド,エス.
(72)【発明者】
【氏名】ヴュートリッヒ,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】マホニー,ロバート,ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ナイク,スバシュチャンドラ
(72)【発明者】
【氏名】トラン,ティモシー
(72)【発明者】
【氏名】ポーティラ,ローザ,カラド
(72)【発明者】
【氏名】グリーン,ダニエル,ジー.
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-534141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
A61K 39/395
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療用タンパク質および粘度低下量のホルデニンを含む液体製剤であって、
治療用タンパク質は抗体であり、かつ前記製剤の粘度は、対照製剤の粘度よりも少なくと
も30%低くか
つ100cP未満であり、前記対照製剤は、前記ホルデニンを含まないが、それ以外は前記
製剤と乾燥重量ベースで同一である、液体製剤。
【請求項2】
前記抗体が、抗体薬物複合体である、請求項
1に記載の製剤。
【請求項3】
前記ホルデニンが
、1mM
~500mMの量で添加される、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
前記ホルデニンが
、5mM
~250mMの量で添加される、請求項
3に記載の製剤。
【請求項5】
前記ホルデニンが
、10mM
~100mMの量で添加される、請求項
4に記載の製剤。
【請求項6】
前記ホルデニンが
、5mg/mL
~50mg/mLの量で添加される、請求項
5に記載の製剤。
【請求項7】
治療用タンパク質を含む液体治療用製剤の粘度を低下させる方法であって、
治療用タンパク質は抗体であり、前記方法は、粘度低下量のホルデニンを
前記製剤に添加し、それによって前記製剤の粘度を、対照製剤の粘度に比べて少なくと
も30%だけ低下させることを含み、前記
製剤の粘度は
、100cP未満であり、前記対照製剤は、前記ホルデニンを含まないが、それ以外は
前記製剤と乾燥重量ベースで同一である、方法。
【請求項8】
前記抗体が、抗体薬物複合体である、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記製剤の粘度は、対照製剤の粘度よりも少なくとも30%低い、請求項1に記載の製剤。
【請求項10】
前記
製剤の粘度は、50cP未満である、請求項1に記載の製剤。
【請求項11】
前記製剤は、少なくとも200mg/mLの
抗体を含む、請求項1に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年3月7日に出願された米国特許仮出願第62/639,950号、および2018年6月1日に出願された米国特許仮出願第62/679,647号の利益を主張する。上記の各出願の内容全体が、参照により本明細書に援用される。
【0002】
本出願は、概して、安定化賦形剤を有するタンパク質製剤などのバイオポリマー製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
バイオポリマーは、治療目的または非治療目的で使用することができる。タンパク質、抗体、または酵素を含む製剤などのバイオポリマーベースの治療薬は、疾患の治療に広く使用されている。酵素、ペプチド、または構造タンパク質を含む製剤などの非治療バイオポリマーは、家庭、栄養、商業、および工業用途などの非治療用途において有用である。
【0004】
特に興味深いのは、タンパク質バイオポリマーの治療的および非治療的な使用である。タンパク質は複雑なバイオポリマーであり、それぞれが独自に折り畳まれた3D構造と表面エネルギーマップ(疎水性/親水性領域と電荷)を備えている。濃縮されたタンパク質溶液では、これらの巨大分子は、その正確な形状と表面エネルギー分布に応じて、強く相互作用し、さらに複雑な様式で絡み合うことがある。強い特異的相互作用のための「ホットスポット」は、タンパク質のクラスター化を引き起こし、溶液の粘度を増加させる。これらの問題に対処するために、多くの賦形剤化合物がバイオ医薬製剤で使用され、局所的な相互作用とクラスタリングを妨げることによって、溶液の粘度を下げることを目指している。これらの取り組みは、個別に調整され、しばしば、経験的に、時には、コンピューターでの(in silico)シミュレーションによって導かれる。賦形剤化合物の組み合わせが提供されてもよいが、そのような組み合わせを最適化することは、経験的に、およびケースごとに、進めなければならない。
【0005】
治療用途で使用されるタンパク質などのバイオポリマーは、疾患の治療のために、体内へ導入できるように製剤化する必要がある。例えば、特定の状況下では、静脈内(IV)注射によってこれらの製剤を投与する代わりに、皮下(SC)または筋肉内(IM)経路によって抗体およびタンパク質/ペプチドバイオポリマー製剤を送達することが有利である。ただし、SCまたはIM注射で患者のコンプライアンスと快適さをより良好にするために、シリンジ内の液体の容量は、通常2~3mLに制限され、製剤の粘度は、通常約20センチポアズ(cP)未満であり、そのため、従来の医療機器および小口径の針を使用して製剤を送達することができる。これらの送達パラメータは、送達される製剤の投与量の要件と必ずしもうまく適合しない。
【0006】
例えば、抗体は、それらの意図された治療効果を発揮するために、高用量レベルで送達される必要があるかもしれない。制限された液量を使用して高用量レベルの抗体製剤を送達するには、送達ビヒクル中に高濃度の抗体が必要になることがあり、150mg/mLのレベルを超えることがある。この投与量レベルでは、タンパク質溶液の粘度対濃度のプロットは、それらの線形-非線形遷移を超えており、製剤の粘度は、濃度の増加とともに劇的に上昇する。しかしながら、粘度の増加は、標準的なSCまたはIM送達システムと相容れない。バイオポリマーベースまたはタンパク質ベースの治療薬の溶液は、沈殿、断片化、酸化、脱アミド化、濁り、乳白化、変性、およびゲル形成、可逆的または不可逆的凝集などの安定性の問題が発生しやすくなる。安定性の問題により、溶液の保存期間が制限され、または特別な取り扱いが必要になる。
【0007】
注射用のタンパク質製剤を生成するための1つのアプローチは、治療用タンパク質溶液を、SCまたはIM送達に好適な懸濁液を形成するように再構成され得る粉末に変換することである。凍結乾燥は、タンパク質粉末を生成するための標準的な技術である。凍結乾燥、噴霧乾燥、さらなる沈殿、続いて超臨界流体抽出が、その後の再構成のためのタンパク質粉末を生成するために使用されてきた。粉末懸濁液は、再溶解前は粘度が低いため(同じ総用量の溶液と比較して)、粒子が針を通るのに十分小さければ、SCまたはIM注射に好適であり得る。ただし、粉末に存在するタンパク質結晶には、免疫反応を引き起こす固有のリスクがある。再溶解後の不確かなタンパク質の安定性/活性は、さらなる懸念を投げかける。タンパク質粉末懸濁液によって導入される制限を回避しつつ、治療目的のために低粘度タンパク質製剤を生成する技術が、当該技術分野で依然として必要とされている。
【0008】
抗体薬物複合体(ADC)などのより複雑な抗体製剤は、粘度と安定性の問題に対して特に脆弱である。ADCは、化学リンカーを介して小分子薬剤をモノクローナル抗体(mAb)に結合させ、mAbは、異常な「標的細胞」上の特定の抗原を標的とし、小分子薬物は、その標的細胞に対して特異的抗原効果を有するように選択される。mAbが標的細胞抗原に接触すると、それとそれに結合した薬物が、細胞によって摂取され、細胞内部へと移行する。細胞内では、mAbおよび/またはリンカーが分解され、薬物が放出されて、細胞に対してその生物学的効果が発揮される。通常、薬物は、化学療法剤であり、全身的に放たれると非常に毒性がある。ADCは、化学療法剤をその標的である癌細胞に直接接触させる。小分子のmAbへのこの結合は、治療用タンパク質製剤に影響を与える粘度と安定性の問題を悪化させ得る。ペイロード化合物は、通常、疎水性の小分子であり、薬物抗体比が増加すると、より大きなADCでは、安定性、溶解性、および溶液相互作用の特性に著しい影響を与える可能性がある。製剤中の塩濃度が高いと、ADC複合体間の疎水性相互作用が増加し、ADCの溶解度が、非結合抗体よりも塩の影響に敏感になる。ADC溶液の処理または保存は、特に薬物対抗体比(DAR)が高い場合、ADC種の凝集または沈殿を引き起こす可能性がある。薬物結合はまた、mAb、特にそのFcドメインの立体構造安定性にも影響を与える可能性がある。さらに、薬物の結合により、mAbの正味の表面電荷も減少し、ADCの溶解度に影響を与え得る。
【0009】
上に記載のタンパク質の治療用途に加えて、酵素、ペプチド、および構造タンパク質などのバイオポリマーを、非治療用途に使用することができる。これらの非治療用バイオポリマーは、例えば、植物源、動物源に由来する、または細胞培養物から生成される、多くの異なる経路から生成することができる。
【0010】
非治療用タンパク質は、通常は水中で、顆粒状または粉末状の材料として、あるいは溶液または分散液として生成、輸送、保存、および処理することができる。非治療用途のバイオポリマーは、球状または繊維状のタンパク質であり得、これらの材料の特定の形態は、限られたか水への溶解度を有するか、または溶解時に高い粘度を示す可能性がある。これらの溶液の特性は、非治療材料の製剤、取り扱い、保存、ポンプ輸送、および性能に課題を提示する可能性があるため、非治療用タンパク質溶液の粘度を低下し、溶解度と安定性を改善する方法が必要である。
【0011】
当該技術分野では、特に高いタンパク質濃度において、タンパク質製剤の粘度を低下させ、かつ/または安定性を改善する、真に普遍的なアプローチが依然として必要とされている。当該技術分野では、タンパク質の活性を維持しながら、この粘度低下を達成する追加の必要性が存在する。さらに、調整可能な徐放性プロファイルを有する製剤とともに使用するために、およびデポ注射に適合した製剤とともに使用するために、粘度低下システムを適合させることが望ましい。さらに、タンパク質および他のバイオポリマーを生成するためにプロセスを改善することが望ましい。
【発明の概要】
【0012】
実施形態において、本明細書に開示されるものは、液体製剤であり、タンパク質と、ヒンダードアミン、アニオン性芳香族、官能化アミノ酸、オリゴペプチド、短鎖有機酸、および低分子量脂肪族ポリ酸からなる群から選択される賦形剤化合物とを含み、賦形剤化合物は、粘度低下量で添加される。実施形態では、タンパク質は、PEG化タンパク質であり、賦形剤は、低分子量脂肪族ポリ酸である。実施形態では、製剤は、医薬組成物であり、治療用製剤は、治療用タンパク質を含み、賦形剤化合物は、医薬的に許容される賦形剤化合物である。実施形態では、製剤は、非治療用製剤であり、非治療用製剤は、非治療用タンパク質を含む。実施形態では、粘度低下量は、製剤の粘度を、対照製剤の粘度よりも低い粘度に低減する。実施形態では、製剤の粘度は、対照製剤の粘度よりも少なくとも約10%低い、または対照製剤の粘度よりも少なくとも約30%低い、または対照製剤の粘度よりも少なくとも約50%低い、または対照製剤の粘度よりも少なくとも約70%低い、または対照製剤の粘度よりも少なくとも約90%低い。実施形態では、粘度は、約100cP未満、または約50cP未満、または約20cP未満、または約10cP未満である。実施形態では、賦形剤化合物は、5000Da未満、または1500Da未満、または500Da未満の分子量を有する。実施形態では、製剤は、少なくとも約25mg/mLのタンパク質、または少なくとも約100mg/mLのタンパク質、または少なくとも約200mg/mLのタンパク質、または少なくとも約300mg/mLのタンパク質を含む。実施形態では、製剤は、約5mg/mL~約300mg/mLの賦形剤化合物を含み、または約10mg/mL~約200mg/mLの賦形化合物を含み、または約20mg/mL~約100mg/mLを含み、または約25mg/mL~約75mg/mLの賦形化合物を含む。実施形態では、製剤は、対照製剤と比較した場合、改善された安定性を有する。実施形態では、賦形剤化合物は、ヒンダードアミンである。実施形態では、ヒンダードアミンは、カフェイン、テオフィリン、チラミン、プロカイン、リドカイン、イミダゾール、アスパルテーム、サッカリン、およびアセスルファムカリウムからなる群から選択される。実施形態では、ヒンダードアミンは、カフェインである。実施形態では、ヒンダードアミンは、局所注射用麻酔化合物である。ヒンダードアミンは、独立した薬理学的特性を有することができ、ヒンダードアミンは、独立した薬理学的効果を有する量で製剤中に存在し得る。実施形態では、ヒンダードアミンは、治療上有効量未満の量で製剤中に存在し得る。独立した薬理学的活動は、局所麻酔であり得る。実施形態では、独立した薬理活性を有するヒンダードアミンは、製剤の粘度をさらに低下させる第2の賦形剤化合物と組み合わされる。第2の賦形剤化合物は、カフェイン、テオフィリン、チラミン、プロカイン、リドカイン、イミダゾール、アスパルテーム、サッカリン、およびアセスルファムカリウムからなる群から選択することができる。実施形態では、製剤は、防腐剤、界面活性剤、糖、多糖、アルギニン、プロリン、ヒアルロニダーゼ、安定剤、および緩衝液からなる群から選択される追加の薬剤を含むことができる。
【0013】
さらに、本明細書に開示されるものは、哺乳動物において疾患または障害を治療する方法であって、当該哺乳動物に液体治療用製剤を投与することを含み、治療用製剤は、治療上有効量の治療用タンパク質を含み、製剤は、ヒンダードアミン、アニオン性芳香族、官能化アミノ酸、オリゴペプチド、短鎖有機酸、および低分子量脂肪族ポリ酸からなる群から選択される薬学的に許容される賦形剤化合物をさらに含み、治療用製剤は、疾患または障害の治療に有効である。実施形態では、治療用タンパク質は、PEG化タンパク質であり、賦形剤化合物は、低分子量脂肪族ポリ酸である。実施形態では、賦形剤は、ヒンダードアミンである。実施形態では、ヒンダードアミンは、局所麻酔化合物である。実施形態では、製剤は、皮下注射、または筋肉内注射、または静脈内注射によって投与される。実施形態では、賦形剤化合物は、治療用製剤中に粘度低下量で存在し、粘度低下量は、治療用製剤の粘度を対照製剤の粘度より低い粘度に低減する。実施形態では、治療用製剤は、対照製剤と比較した場合、改善された安定性を有する。実施形態では、賦形剤化合物は、本質的に純粋である。
【0014】
本明細書にさらに開示されるものは、それを必要とする哺乳動物において、治療用タンパク質の注射部位で疼痛を軽減する方法であり、液体治療用製剤を注射によって投与することを含み、治療用製剤は、治療上有効量の治療用タンパク質を含み、製剤は、局所注射用麻酔剤化合物からなる群から選択される薬学的に許容される賦形剤化合物をさらに含み、薬学的に許容される賦形剤化合物は、粘度低下量で製剤に添加され、哺乳動物は、対照治療用製剤の投与よりも、賦形剤化合物を含む治療用製剤の投与で、より少ない疼痛を経験し、対照治療用製剤は、賦形剤化合物を含まず、それ以外は治療用製剤と同一である。
【0015】
実施形態において、本明細書に開示されるものは、液体タンパク質製剤の安定性を改善する方法であり、治療用タンパク質と、ヒンダードアミン、アニオン性芳香族、官能化アミノ酸、オリゴペプチド、短鎖有機酸、および低分子量脂肪族ポリ酸からなる群から選択される賦形剤化合物とを含む液体タンパク質製剤を調製することを含み、液体タンパク質製剤は、対照液体タンパク質製剤と比較して改善された安定性を示し、対照液体タンパク質製剤は、賦形剤化合物を含まず、それ以外は液体タンパク質製剤と同一である。液体製剤の安定性は、低温保存条件安定性、室温安定性または昇温安定性であり得る。
【0016】
また、実施形態において、本明細書に開示されるものは、タンパク質とヒンダードアミン、アニオン性芳香族、官能化アミノ酸、オリゴペプチド、短鎖有機酸、および低分子量脂肪族ポリ酸からなる群から選択される賦形剤化合物とを含む液体製剤であり、製剤中の賦形剤化合物の存在は、タンパク質拡散相互作用パラメータkD、または2番目のビリアル係数B22によって測定される改善されたタンパク質間相互作用特性をもたらす。実施形態では、製剤は、治療用製剤であり、治療用タンパク質を含む。実施形態では、製剤は、非治療用製剤であり、非治療用タンパク質を含む。
【0017】
実施形態において、本明細書でさらに開示されるものは、上に記載の液体製剤を提供し、それを処理方法で使用することを含む、タンパク質関連プロセスを改善する方法である。実施形態では、処理方法は、濾過、ポンピング、混合、遠心分離、膜分離、凍結乾燥、またはクロマトグラフィを含む。実施形態では、処理方法は、細胞培養物採取、クロマトグラフィ、ウイルス不活化、および濾過からなる群から選択される。実施形態では、処理方法は、クロマトグラフィプロセスまたは濾過プロセスである。実施形態では、濾過プロセスは、ウイルス濾過プロセスまたは限外濾過/透析濾過プロセスである。
【0018】
また、本明細書に開示されるものは、タンパク質関連プロセスのパラメータを改善する方法であり、ヒンダードアミン、アニオン性芳香族、官能化アミノ酸、オリゴペプチド、短鎖有機酸、低分子量脂肪族ポリ酸、およびジオンおよびスルホンからなる群から選択される少なくとも1つの賦形剤化合物を含む粘度低下賦形剤添加剤を提供すること、およびタンパク質関連プロセスのキャリア溶液に粘度低下量の少なくとも1つの賦形剤化合物を添加することを含み、キャリア溶液は、目的のタンパク質を含み、これによって、パラメータが改善される。実施形態では、パラメータは、タンパク質生成のコスト、タンパク質生成の量、タンパク質生成の速度、およびタンパク質生成の効率からなる群から選択することができる。パラメータは、プロキシパラメータであり得る。実施形態では、タンパク質関連プロセスは、上流処理プロセスである。上流の処理プロセスのためのキャリア溶液は、細胞培養培地であり得る。実施形態では、キャリア溶液が細胞培養培地である場合、キャリア溶液に賦形剤添加物を加えるステップは、賦形剤添加物を補助培地に加えて賦形剤含有補助培地を形成する第1のサブステップ、および賦形剤含有補助培地を細胞培養培地に添加する第2のサブステップを含む。他の実施形態では、タンパク質関連プロセスは、下流処理プロセスである。下流プロセスは、クロマトグラフィプロセスであり得、クロマトグラフィプロセスは、プロテイン-Aクロマトグラフィプロセスであり得る。実施形態では、クロマトグラフィプロセスは、目的のタンパク質を回収することであり、目的のタンパク質は、対照溶液と比較して、改善された純度、改善された収率、より少ない粒子、より少ないミスフォールディング、またはより少ない凝集からなる群から選択される改善されたタンパク質関連パラメータによって特徴付けられる。実施形態では、改善されたタンパク質関連パラメータは、クロマトグラフィプロセスからの目的のタンパク質の改善された収量である。他の実施形態では、タンパク質関連プロセスは、濾過、注入、注射、ポンプ、混合、遠心分離、膜分離、および凍結乾燥からなる群から選択されるプロセスであり、選択されたプロセスは、対照プロセスよりも少ない力で済む。実施形態では、タンパク質関連プロセスは、細胞培養プロセス、細胞培養採取プロセス、クロマトグラフィプロセス、ウイルス不活化プロセス、および濾過プロセスからなる群から選択される。実施形態では、タンパク質関連プロセスは、ウイルス不活化プロセスであり、ウイルス不活化プロセスは約2.5~約5.0のpHレベルで行われる、またはウイルス不活化プロセスは対照プロセスよりも高いpHで行われる。他の実施形態では、タンパク質関連プロセスは、濾過プロセスである。濾過プロセスは、ウイルス除去濾過プロセスまたは限外濾過/透析濾過プロセスであり得る。濾過プロセスは、改善された濾過関連パラメータによって特徴付けることができる。改善された濾過関連パラメータは、対照溶液の濾過速度よりも速い濾過速度であり得る。改善された濾過関連パラメータは、対照濾過プロセスによって生成される凝集タンパク質の量よりも少ない量の凝集タンパク質の生成であり得る。改善された濾過関連パラメータは、対照濾過プロセスの物質移動効率よりも高い物質移動効率であり得る。改善された濾過関連パラメータは、対照濾過プロセスによって生成された標的タンパク質の濃度または収量よりも高い濃度またはより高い収量の標的タンパク質であり得る。
【0019】
本明細書にさらに開示されるものは、粘度低下賦形剤添加剤が、2つ以上の賦形剤化合物を含む、上記の方法である。実施形態では、少なくとも1つの賦形剤化合物は、ヒンダードアミンである。実施形態では、少なくとも1つの賦形剤化合物は、カフェイン、サッカリン、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、テオフィリン、タウリン、1-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリジノン、ナイアシンアミド、およびイミダゾールからなる群から選択される。実施形態では、少なくとも1つの賦形剤化合物は、カフェイン、タウリン、ナイアシンアミド、およびイミダゾールからなる群から選択される。実施形態では、少なくとも1つの賦形剤化合物は、アニオン性芳香族賦形剤であり、一部の実施形態では、アニオン性芳香族賦形剤は、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸であり得る。実施形態では、粘度低下量は、少なくとも1つの賦形剤化合物が約1mg/mL~約100mg/mLである、または粘度低下量は、少なくとも1つの賦形剤化合物が約1mM~約400mMである、または粘度低下量は、約2mM~約150mMの量である。実施形態では、キャリア溶液は、防腐剤、糖、多糖、アルギニン、プロリン、界面活性剤、安定剤、および緩衝液からなる群から選択される追加の薬剤を含む。実施形態では、目的のタンパク質は、治療用タンパク質であり、治療用タンパク質は、組換えタンパク質であり得る、またはモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片、融合タンパク質、PEG化タンパク質、抗体薬物複合体、合成ポリペプチド、タンパク質断片、リポタンパク質、酵素、および構造ペプチドからなる群から選択され得る。実施形態では、方法は、第2の粘度低下賦形剤をキャリア溶液に添加するステップをさらに含み、第2の粘度低下化合物を添加するステップは、パラメータにさらなる改善を加える。
【0020】
さらに、キャリア溶液が本明細書に開示され、目的のタンパク質が溶解された液体媒体、および粘度低下添加剤を含み、キャリア溶液は、対照溶液のものよりも低い粘度を有する。キャリア溶液は、防腐剤、糖、多糖、アルギニン、プロリン、界面活性剤、安定剤、および緩衝液からなる群から選択される追加の薬剤をさらに含むことができる。
【0021】
さらに、本開示は、安定性強化製剤に関し、治療用タンパク質および安定性改善量の安定化賦形剤を含み、安定性強化製剤は、安定化賦形剤を欠いているがそれ例外は安定性強化製剤と同一である対照製剤と比較して、改善された安定性パラメータを特徴とする。実施形態では、治療用タンパク質は、抗体であり、抗体は、抗体薬物複合体であり得る。安定化賦形剤は、ヒンダードアミン化合物、アニオン性芳香族化合物、官能化アミノ酸化合物、オリゴペプチド、短鎖有機酸、低分子量ポリ酸、ジオン化合物もしくはスルホン化合物、双性イオン化合物、または水素結合元素を含む密集剤(crowding agent)であり得る。実施形態では、安定化賦形剤は、約1mM~約500mMの量、または約5mM~約250mMの量、または約10mM~約100mMの量で、または約5mg/mL~約50mg/mLの量で製剤に添加することができる。改善された安定性パラメータは、例えば、熱保存安定性(thermal storage stability)であり得、熱保存安定性は、約10℃~30℃の温度で改善される。実施形態では、改善された安定性パラメータは、改善された凍結/解凍安定性または改善された剪断安定性である。実施形態では、安定性強化製剤は、対照と比較して、粒子数が少ない。実施形態では、安定性強化製剤は、対照と比較して、改善された生物学的活性を有する。
【0022】
また、本明細書に開示されるものは、治療用製剤の安定性を改善する方法であって、安定性改善量の安定化賦形剤を治療用製剤に添加し、それによって治療用製剤の安定性を改善することを含み、治療用製剤の安定性は、安定化賦形剤を欠いている以外は治療用製剤と同一である対照製剤の安定性と比較して、測定される。安定化賦形剤は、ヒンダードアミン、アニオン性芳香族化合物、官能化アミノ酸、オリゴペプチド、短鎖有機酸、低分子量ポリ酸、ジオン、スルホン、双性イオン化合物、または水素結合を伴うクラウディング剤であり得る。実施形態では、治療用製剤の安定性を測定するステップは、安定性関連パラメータ、例えば、熱保存安定性、凍結/解凍安定性、および剪断安定性からなる群から選択されるパラメータを測定することを含み得る。実施形態では、治療用製剤は、抗体であり得る治療用タンパク質を含み、抗体は、抗体薬物複合体であり得る。本明細書にさらに開示されるものは、タンパク質関連プロセスのパラメータを改善する方法であり、安定性改善量の安定化賦形剤をタンパク質関連プロセスのキャリア溶液に添加することを含み、キャリア溶液は、目的のタンパク質を含み、それによってパラメータを改善し、目的のタンパク質は、治療用タンパク質であり得る。実施形態では、パラメータは、タンパク質生成のコスト、タンパク質生成の量、タンパク質生成の速度、およびタンパク質生成の効率からなる群から選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】は、動的光散乱により評価された、ストレスおよび非ストレス条件下でのモノクローナル抗体の溶液についての粒子サイズ分布のグラフを示す。
図1のデータ曲線は、比較を可能にするためのベースラインオフセットを有する。サンプル1-Aの曲線は、100強度ユニットでオフセットされ、サンプル1-FTの曲線は、Y-軸において200強度ユニットでオフセットされている。
【
図2】は、動的光散乱によって評価された、いくつかの分子集団のサンプル直径対マルチモーダルサイズ分布を測定するグラフを示す。
図2のデータ曲線は、比較を可能にするためのベースラインオフセットを有する。サンプル2-Aの曲線は、100強度ユニットでオフセットされ、サンプル2-FTの曲線は、Y-軸において200強度ユニットでオフセットされている。
【
図3】は、8~10分の保持時間における、単量体のメインピークを有するモノクローナル抗体溶液のサイズ排除クロマトグラムを示す。
図3のデータ曲線は、比較を可能にするためのベースラインオフセットを有する。サンプル2-C、2-Aおよび2-FTの曲線は、Y-軸方向にオフセットされている。
【
図4】は、モノクローナル抗体などの治療用タンパク質を生成するための発酵プロセス(「上流処理」)のステップを示すブロック図を提示する。
【
図5】は、モノクローナル抗体などの治療用タンパク質を生成するための精製プロセス(「下流処理」)のステップを示すブロック図を提示する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書に開示されるものは、濃縮タンパク質溶液の送達を可能にする製剤およびそれらの生成方法である。実施形態では、本明細書に開示されるアプローチは、従来のタンパク質溶液と比較して、より低粘度の液体製剤または液体製剤中でより高濃度の治療用もしくは非治療用タンパク質をもたらすことができる。
【0025】
実施形態では、本明細書に開示されるアプローチは、従来のタンパク質溶液と比較して、改善された安定性を有する液体製剤をもたらすことができる。一態様では、安定な製剤は、それに含まれるタンパク質が、ストレス条件にさらされたとき、その物理的および化学的安定性または完全性、およびの治療的または非治療的効力を実質的に保持するものである。別の態様では、安定な製剤は、それに含まれるタンパク質が、その可溶性、単量体、または非凝集の状態を実質的に保持するものである。本明細書で使用される場合、ストレス条件は、製剤中のタンパク質に悪影響を与える物理的または化学的条件である。有利なことに、安定した製剤はまた、それに溶解したタンパク質の凝集または沈殿に対する保護を提供することができる。
【0026】
物理的ストレス条件の例としては、機械的剪断、気/液界面との接触、凍結融解サイクル、保存条件下での長期保存(低温保存条件、室温条件、または高温保存条件のいずれか)または他の変性条件への曝露などの物理的摂動が含まれる。例えば、低温保存条件では、冷蔵庫または冷凍庫での保存が必要になる場合がある。いくつかの例では、低温保存条件は、10℃以下の温度での保存が必要になる場合がある。追加の例では、低温保存条件は、約2℃~約10℃の温度での保存を必要とする。他の例では、低温保存条件は、約4℃の温度での保存を必要とする。追加の例では、低温保存条件は、約-20℃以下などの凍結温度での保存を必要とする。別の例では、低温保存条件は、約-80℃~約0℃の温度での保存を必要とする。室温保存条件は、例えば、約10℃~約30℃の周囲温度での保存が必要になる場合がある。高温保存条件は、約30℃を超える温度での保存が必要になる場合がある。例えば、約30℃~約50℃の温度での高温安定性は、加速劣化試験の一部として使用され、通常の周囲(10~30℃)条件での長期保存を予測することができる。ストレス条件はまた、例えば、その三次構造に影響を与えることにより、製剤中のタンパク質の安定性または完全性に影響を与え得る、pHの変化などの化学的摂動を含み得る。
【0027】
高分子科学および工学分野の当業者にはよく知られているが、溶液中のタンパク質は、絡み合いを形成する傾向があり、絡み合った鎖の並進移動が制限され、タンパク質の治療効果または非治療効果が妨げられる可能性がある。実施形態では、本明細書に開示される賦形剤化合物は、溶液中の賦形剤化合物と標的タンパク質との間の特異的な相互作用により、タンパク質のクラスター化を抑制することができる。本明細書に開示される賦形剤化合物は、天然または合成であり得、望ましくは、FDAが一般に安全であると認識する物質(「GRAS」)である。
【0028】
1.定義
本開示の適用上、用語「タンパク質」は、通常1~3000kDaの分子量を有し、個々の三次構造を生成するのに十分長い鎖長を有するアミノ酸の配列を指す。一部の実施形態では、タンパク質の分子量は、約50~200kDaである。他の実施形態では、タンパク質の分子量は、約20~1000kDa、または約20~2000kDaである。用語「タンパク質」と対照的に、用語「ペプチド」は、個々の三次構造を持たないアミノ酸の配列を指す。多種多様なバイオポリマーが、「タンパク質」という用語の範囲に含まれる。例えば、用語「タンパク質」は、抗体、アプタマー、融合タンパク質、PEG化タンパク質、合成ポリペプチド、タンパク質断片、リポタンパク質、酵素、構造ペプチドなどを含む、治療用または非治療用タンパク質を意味し得る。
【0029】
a.治療用バイオポリマーと関連定義
治療効果を有するタンパク質を含むこれらのバイオポリマーは、「治療用バイオポリマー」と呼ばれる場合がある。治療効果を有するこれらのタンパク質は、「治療用タンパク質」と呼ばれる場合がある。
【0030】
非限定的な例としては、治療用タンパク質は、ホルモンおよびプロホルモン(例えば、インスリンおよびプロインスリン、グルカゴン、カルシトニン、甲状腺ホルモン(T3もしくはT4または甲状腺刺激ホルモン)、副甲状腺ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、成長ホルモン、成長ホルモン放出因子など);凝固および抗凝固因子(例えば、組織因子、フォン・ヴィルブランド因子、第VIIIC因子、第IX因子、プロテインC、プラスミノーゲン活性化因子(ウロキナーゼ、組織型プラスミノーゲン活性化因子)、トロンビン);サイトカイン、ケモカイン、および炎症性メディエーター;インターフェロン;コロニー刺激因子;インターロイキン(例えば、IL-1~IL-10);増殖因子(例えば、血管内皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、形質転換増殖因子、トランスフォーミング増殖因子、神経栄養増殖因子、インスリン様増殖因子等);アルブミン;コラーゲンおよびエラスチン;造血因子(例えば、エリスロポエチン、トロンボポエチン等);骨誘導因子(例えば、骨形成タンパク質);受容体(例えば、インテグリン、カドヘリンなど);膜表面タンパク質;輸送タンパク質;調節タンパク質;抗原タンパク質(例えば、抗原として作用するウイルス成分);および抗体、などの哺乳動物タンパク質を挙げることができる。
【0031】
特定の実施形態では、治療用タンパク質は、抗体であり得る。「抗体」という用語は、本明細書ではその最も広い意味で使用され、非限定的な例としては、モノクローナル抗体(例えば、免疫グロブリンFc領域を有する全長抗体を含む)、単鎖分子、二重特異性および多特異性抗体、ダイアボディ、抗体薬物複合体、ポリエピトープ特異性を有する抗体組成物、ポリクローナル抗体(免疫不全患者のための治療として使用されるポリクローナル免疫グロブリンなど)、および抗体の断片(例えば、Fc、Fab、Fv、ナノボディ、およびF(ab’)2を含む)が挙げられる。抗体は「免疫グロブリン」とも呼ばれる。抗体は、生物学的に重要な物質である特定のタンパク質または非タンパク質の「抗原」に対して向けれられていることが理解される。患者への治療上有効量の抗体の投与は、抗原と複合体を形成し、それによって、その生物学的特性を変化させて、患者が治療効果を経験することができる。
【0032】
実施形態では、抗体は、抗体薬物複合体(ADC)であり得る。抗体-薬物複合体は、抗体の高度に特異的な標的化能を、細胞毒性化合物のような治療上活性な化合物と組み合わせた、治療用タンパク質のカテゴリである。ADCは、生分解性の化学リンカーを介して、治療活性剤にリンクされた抗体で構成される。より詳細には、ADCには、ヒトまたはヒト化mAbが含まれていてもよく、正常細胞では発現が最小限または全くないが、異常な「標的」細胞では発現される抗原に特異的である。ADCは、さらに、標的細胞を破壊することができる細胞毒性剤などの強力な薬剤を含む。そのような薬剤は、通常、全身的には毒性であるため、一般的な全身投与には好適ではない。ADCのmAbコンポーネントの標的化能により、全てが全身に分配されることはなく、薬剤が標的細胞に特異的に誘導され、標的細胞によって吸収され、それらの細胞内で効果を発揮することができる。ADCを形成するために、mAbは、細胞外環境(例えば、静脈内および間質循環)で安定であるが、ADCが細胞内に取り込まれると分解する、不安定な結合を有する薬剤に連結される。ADCと薬剤との間の結合が分解されると、薬剤は細胞内に放出されて、細胞に影響を及ぼす。ADCは、これらの化合物を単独で使用するには毒性が高すぎる場合は特に、細胞障害性薬剤との使用に好適である。がん化学療法では、例えば、ADCでの使用のために選択された薬剤のいくつかは、従来の抗がん剤よりも数桁もの強い毒性がある。例としては、抗微小管剤、アルキル化剤、およびDNA副溝結合剤が挙げられ、これらは毒性が高すぎてうまく投与できない場合があるが、癌細胞でのみ発現される抗原と結合するmAbの特異性を使用して、癌細胞を標的とすることができる。ADCが腫瘍に局在し、表面の標的細胞の抗原に結合すると、その複合体は、細胞内へと小胞内に内部移行し得る。内在化した小胞は、互いに融合し、エンドソーム-リソソーム経路に入り、そこでプロテアーゼに接触し、mAbおよび/またはリンカー分子が消化され、それによって薬剤のペイロードが放たれる。ペイロード(例えば、細胞毒性剤)は、次いで、リソソーム膜を通過して、細胞質および/または核に入り、そこで、その医薬(例えば、細胞毒性)効果を発揮する。非常に強力な医薬化合物のこの集中的な送達により、これらの薬剤への正常組織の曝露を最小限に抑えながら、意図した治療効果を最大化する。ADCを含む製剤は、ADCが治療される標的細胞に到達するように、静脈内または局所投与に好適である。
【0033】
特定の実施形態では、治療用タンパク質は、PEG化されており、それらがポリ(エチレングリコール)(「PEG」)および/またはポリ(プロピレングリコール)(「PPG」)ユニットを含むことを意味する。PEG化タンパク質、またはPEGタンパク質複合体は、溶解性、薬物動態、薬力学、免疫原性、腎クリアランス、安定性などの有益な特性により、治療用途において有用性が見出されている。PEG化タンパク質の非限定的な例は、PEG化インターフェロン(PEG-IFN)、PEG化抗VEGF、PEGタンパク質結合薬、アダジェン、ペグアスパラガーゼ、ペグフィルグラスチム、ペグロチカーゼ、ペグビソマント、PEG化エポエチン-β、およびセルトリズマブペゴルである。
【0034】
PEG化タンパク質は、タンパク質と1つ以上の反応性官能基を有するPEG試薬との反応などの様々な方法によって合成することができる。PEG試薬の反応性官能基は、リジン、ヒスチジン、システイン、N末端などの標的タンパク質の部位で、タンパク質との結合を形成することができる。典型的なPEG化試薬は、アルデヒド、マレイミド、スクシンイミドなどの反応性官能基を有し、タンパク質上の標的アミノ酸残基と特異的な反応性を有している。PEG化試薬は、約1~約1000のPEG鎖長および/またはPPG反復単位を有することができる。PEG化の他の方法としては、グリコ-PEG化が含まれ、タンパク質が最初にグリコシル化され、次いでグリコシル化された残基が第2のステップでPEG化される。特定のPEG化プロセスは、シアリルトランスフェラーゼやトランスグルタミナーゼなどの酵素によって支援される。
【0035】
PEG化タンパク質は、天然の非PEG化タンパク質よりも治療上の利点を提供できるが、これらの材料は、精製、溶解、濾過、濃縮、および投与を困難にする物理的または化学的特性を有する場合がある。タンパク質のPEG化は、天然のタンパク質と比較して、より高い溶液粘度をもたらす可能性があり、これは一般に、より低い濃度でのPEG化タンパク質溶液の製剤を必要とする。
【0036】
最小限の注射量で患者に投与できるように、安定した低粘度の溶液でタンパク質治療薬を製剤化することが望ましい。例えば、薬物の皮下(SC)または筋肉内(IM)注射は、一般に、好ましくは2mL未満の少量の注射量を必要とする。SCとIMの注射経路は、自己投与型のケアに好適である。これは、直接的な医学的監督下でのみ行われる静脈内(IV)注射と比較して、より低コストで、より扱いやすい。SCまたはIM注射用の製剤は、細いゲージの針を通して治療用溶液を容易に流すことができるように、一般に30cP未満、好ましくは20cP未満の低い溶液粘度を必要とする。少量の注射容量と低粘度の要件のこの組み合わせは、SCまたはIM注射経路でのPEG化タンパク質治療剤の使用に課題を提示する。
【0037】
治療上有効量の治療用タンパク質を含む製剤は、「治療用製剤」と呼ばれる場合がある。治療用製剤に含まれる治療用タンパク質は、その「タンパク質活性成分」と呼ばれることもある。通常、治療用製剤は、他の任意選択的な成分を含むかまたは含まずに、治療上有効量のタンパク質活性成分および賦形剤を含む。本明細書で使用される場合、「治療用」という用語は、既存の障害の治療および障害の予防の両方を含む。治療用タンパク質には、例えば、ベバシズマブ、トラスツズマブ、アダリムマブ、インフリキシマブ、エタネルセプト、ダルベポエチンアルファ、エポエチンアルファ、セツキシマブ、フィルグラスチム、およびリツキシマブなどのタンパク質が含まれる。他の治療用タンパク質は、当業者によく知られているであろう。
【0038】
「治療」は、症状の発症の予防または遅延、および/または障害の症状を緩和または寛解を含み、障害を治癒、癒し、緩和、改善、矯正、またはその他の形で障害に有益に影響することを意図したあらゆる手段を含む。治療を必要とするこれらの患者には、すでに特定の障害を有する患者と、障害の予防が望まれる患者の両方が含まれる。障害は、急性または慢性疾患、または哺乳動物を急性または慢性疾患にかかりやすくする病態を含む、哺乳動物の恒常性の健常さを変化させる任意の状態である。障害の非限定的な例としては、癌、代謝障害(例えば、糖尿病)、アレルギー障害(例えば、喘息)、皮膚障害、心血管障害、呼吸障害、血液障害、筋骨格障害、炎症性またはリウマチ性障害、自己免疫障害、胃腸障害、泌尿器障害、性的および生殖障害、神経障害などが含まれる。治療の目的での「哺乳動物」という用語は、ヒト、飼育動物、ペット動物、家畜、競技用(sporting)動物、使役動物などを含む、哺乳動物として分類される任意の動物を指し得る。したがって、「治療」には、獣医学的な治療とヒトの治療の両方が含まれ得る。便宜上、そのような「治療」を受けている哺乳動物は、「患者」と呼ぶことができる。特定の実施形態では、患者は、子宮内の胎児動物を含む任意の齢であり得る。
【0039】
実施形態では、治療は、それを必要とする哺乳動物に、治療上有効量の治療用製剤を提供することを含む。「治療上有効量」は、それを必要とする哺乳動物に投与される少なくとも最小濃度の治療用タンパク質であり、既存の障害の治療または予想される障害の予防(そのような治療またはそのような「治療介入」である予防)に効果を現す。治療用製剤中に活性成分として含まれ得る治療上有効量の様々な治療用タンパク質は、当該技術分野でよく知られているかもしれない。または、今後発見されるか、または治療介入に適用される治療用タンパク質について、治療上有効量は、当業者によって、通常の実験のみを使用して、実施される標準的な技術によって決定され得る。
【0040】
b.非治療用バイオポリマーおよび関連定義
非治療目的(すなわち、治療を含まない目的)、例えば、家庭、栄養、商業、および産業用途、に使用されるこれらのタンパク質は、「非治療用タンパク質」と呼ばれる場合がある。非治療用タンパク質を含む製剤は、「非治療用製剤」と呼ばれる場合がある。非治療用タンパク質は、植物源、動物源に由来するか、または細胞培養物から生成され得る。それらはまた、酵素または構造タンパク質であり得る。非治療用タンパク質は、触媒、ヒトと動物の栄養、加工補助剤、洗浄剤、廃棄物処理など、家庭、栄養、商業、および産業の用途に使用することができる。
【0041】
非治療用バイオポリマーの重要なカテゴリは、酵素のカテゴリである。酵素には、例えば、触媒、ヒトおよび動物の栄養成分、加工助剤、洗浄剤、廃棄物処理剤など、いくつかの非治療用途がある。酵素触媒は、さまざまな化学反応を促進するために使用される。非治療用使用のための酵素触媒の例としては、カタラーゼ、オキシドレダクターゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、およびリガーゼが挙げられる。ヒトおよび動物の栄養用の酵素の使用には、栄養補助食品、タンパク質の栄養源、微量栄養素のキレート化または制御された送達、消化補助剤、およびサプリメントが含まれる。これらは、アミラーゼ、プロテアーゼ、トリプシン、ラクターゼなどに由来し得る。酵素加工助剤は、ベーキング、醸造、発酵、ジュース加工、ワイン製造のような業務における食品および飲料製品の生産を改善するために使用される。これらの食品および飲料加工補助剤の例としては、アミラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ、グルカナーゼ、リパーゼ、およびラクターゼが挙げられる。酵素は、バイオ燃料の生成にも使用することができる。例えば、バイオ燃料用のエタノールは、セルロース系材料やリグノセルロース系材料などのバイオマス原料の酵素分解によって助けられる。そのような原料物質をセルラーゼとリグニナーゼで処理することで、バイオマスが発酵して燃料となる基質に変わる。他の商業用途では、酵素は、洗剤、クリーナー、および汚れを浮かす補助剤として、洗濯、食器洗い、表面洗浄、および機器洗浄用途に使用される。この目的のための典型的な酵素には、プロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、およびリパーゼが含まれる。さらに、非治療用酵素は、セルラーゼによる織物の軟化、皮革加工、廃棄物処理、汚染堆積物処理、水処理、パルプの漂白、パルプの軟化と剥離など、様々な商業的および工業的プロセスで使用される。これらの目的のための典型的な酵素は、アミラーゼ、キシラナーゼ、セルラーゼ、およびリグニナーゼである。
【0042】
非治療用バイオポリマーの他の例としては、ケラチン、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、フィブロイン、アクチン、チューブリン、またはそれらの加水分解、分解、または誘導体化形態などの繊維状または構造タンパク質を含む。これらの材料は、ゼラチン、アイスクリーム、ヨーグルト、菓子などの食品成分の調製と製剤化に使用される。それらはまた、増粘剤、レオロジー調整剤、口当たり改善剤として、および栄養タンパク質の供給源として食品に添加される。化粧品およびパーソナルケア業界では、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、および加水分解されたケラチンが、スキンケアおよびヘアケア製剤として広く使用されている。非治療用バイオポリマーのさらに他の例は、ベータラクトグロブリン、アルファラクトアルブミン、および血清アルブミンなどの乳清タンパク質である。これらの乳清タンパク質は、酪農業務からの副生成物として大量に生成され、様々な非治療用途に使用されてきた。
【0043】
2.測定
実施形態では、本明細書に記載のタンパク質含有製剤は、単量体損失に対して耐性があり、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)分析によって測定される。本明細書で使用されるSEC分析では、分析物のメインピークは、一般に、製剤に含まれる標的タンパク質に関連しており、タンパク質のこのメインピークは、単量体ピークと呼ばれる。単量体ピークは、凝集(二量体、三量体、オリゴマーなど)または断片化状態とは対照的に、単量体状態での標的タンパク質、例えばタンパク質活性成分の量を表す。単量体のピーク面積は、標的タンパク質に関連する単量体、凝集体、断片のピークの総面積と比較できる。したがって、タンパク質含有製剤の安定性は、経過時間後の単量体の相対量によって観察できる。本発明のタンパク質含有製剤の安定性の改善は、したがって、賦形剤を含まない対照製剤中のパーセント単量体と比較して、一定の経過時間後、高いパーセント単量体として測定することができる。
【0044】
実施形態では、理想的な安定性の結果は、SEC分析によって決定されるように、98~100%の単量体ピークを有することである。実施形態では、本発明のタンパク質含有製剤の安定性の改善は、ストレス条件への曝露後、賦形剤を含まない対照製剤でのパーセント単量体と比較して、そのような対照製剤が同じストレス条件にさらされた場合、より高いパーセント単量体として測定され得る。実施形態では、ストレス条件は、低温保存、高温保存、空気への曝露、光への曝露、気泡への曝露、剪断条件への曝露、または凍結/解凍サイクルへの曝露であり得る。
【0045】
実施形態では、本明細書に記載されるタンパク質含有製剤は、タンパク質粒子サイズの増加に耐性があり、動的光散乱(DLS)分析によって測定される。本明細書で使用されるDLS分析では、タンパク質含有製剤中のタンパク質の粒子サイズは、中央粒径として観察することができる。理想的には、DLS分析にかけられた場合、標的タンパク質の中央粒径は、比較的変化しないはずであり、なぜなら、粒径が、凝集状態(二量体、三量体、オリゴマーなど)または断片化状態とは対照的に、単量体状態での有効成分を表すためである。中央粒径の増加は、凝集したタンパク質を表す可能性がある。したがって、タンパク質含有製剤の安定性は、経過時間後の中央粒径の相対的変化によって観察することができる。
【0046】
実施形態では、本明細書に記載されるタンパク質含有製剤は、DLS分析により測定されるように、多分散粒子サイズ分布を形成することに耐性がある。実施形態では、タンパク質含有製剤は、コロイドタンパク質粒子の単分散粒子サイズ分布を含むことができる。実施形態では、理想的な安定性の結果は、製剤の初期中央粒径と比較して中央粒径の変化が10%未満であることである。実施形態では、本発明のタンパク質含有製剤の安定性の改善は、一定の経過時間後、賦形剤を含まない対照製剤の中央粒径と比較して、中央粒径のより低いパーセント変化として測定され得る。実施形態では、本発明のタンパク質含有製剤の安定性の改善は、ストレス条件への曝露後、賦形剤を含まない対照製剤での中央粒径のパーセント変化と比較して、そのような対照製剤が同じストレス条件にさらされた場合、中央粒径のより低いパーセント変化として測定され得る。実施形態では、ストレス条件は、低温保存、高温保存、空気への曝露、光への曝露、気泡への曝露、剪断条件への曝露、または凍結/解凍サイクルへの曝露であり得る。実施形態では、本発明のタンパク質含有製剤治療用製剤の安定性の改善は、賦形剤を含まない対照製剤での多分散の粒子サイズ分布のパーセント変化と比較して、そのような対照製剤が同じストレス条件にさらされた場合、DLSにより測定される、より少ない多分散粒子サイズ分布として測定され得る。
【0047】
実施形態では、本明細書に開示されるタンパク質含有製剤は、濁度、光散乱、および/または粒子計数分析によって測定されるように、粒子形成、変性、または沈殿に対して耐性がある。濁度、光散乱、または粒子計測分析では、一般的に、値が小さいほど、製剤中の懸濁粒子の数が少ないことを表す。濁度、光散乱、または粒子計数の増加は、標的タンパク質の溶液が安定していないことを示している可能性がある。したがって、タンパク質含有製剤の安定性は、経過時間後の濁度、光散乱、または粒子計測の相対量によって観察され得る。実施形態では、理想的な安定性な結果は、低くて比較的一定の濁度、光散乱、または粒子計数値を有することである。実施形態では、本明細書に記載のタンパク質含有製剤の安定性の改善は、賦形剤を含まない対照製剤の濁度、光散乱、または粒子計数値と比較して、一定の経過時間後、より低い濁度、より低い光散乱、またはより少ない粒子数として測定され得る。実施形態では、本明細書に記載されるタンパク質含有製剤の安定性の改善は、賦形剤を含まない対照製剤の濁度、光散乱、または粒子計数と比較して、そのような対照製剤が同じストレス条件にさらされた場合、より低い濁度、より低い光散乱、またはより少ない粒子数として測定され得る。実施形態では、ストレス条件は、低温保存、高温保存、空気への曝露、光への曝露、気泡への曝露、剪断条件への曝露、または凍結/解凍サイクルへの曝露であり得る。実施形態では、本明細書に開示されるタンパク質含有製剤は、対照製剤と比較して、より高いパーセンテージの生物学的活性を保持する。生物学的活性は、結合アッセイを介して、または哺乳動物での治療効果を介して観察することができる。
【0048】
3.治療用製剤
一態様では、本明細書に開示される製剤および方法は、治療上有効量の治療用タンパク質および賦形剤化合物を含む、改善されたまたは低減された粘度の安定した液体製剤を提供する。実施形態では、製剤は、許容可能な有効成分の濃度および許容可能な粘度を提供しながら、安定性を改善することができる。実施形態では、製剤は、対照製剤と比較した場合、安定性の改善を提供する。本開示の適用上、対照製剤は、賦形剤化合物を欠く以外は、治療用製剤とあらゆる点で、乾燥重量ベースで同一であるタンパク質活性成分を含む製剤である。実施形態では、製剤は、長期保存、25~45℃などの高温、凍結/解凍条件、剪断または混合、注射、希釈、気泡曝露、酸素曝露、光曝露、および凍結乾燥のストレス条件下で、安定性の改善を提供する。実施形態では、タンパク質含有製剤の改善された安定性は、対照製剤と比較して、可溶性凝集体、粒子、目視不可の粒子(subvisible particles)、またはゲル形成がより低いパーセンテージの形態である。
【0049】
液体タンパク質製剤の粘度は、様々な要因によって影響を受ける可能性があることが理解され、限定されないが、タンパク質自体の性質(例えば、酵素、抗体、受容体、融合タンパク質など)、そのサイズ、三次元構造、化学組成、および分子量、製剤中のその濃度、タンパク質以外の製剤の成分、望ましいpH範囲、製剤の保存条件、および患者に製剤を投与する方法、が含まれる。本明細書に記載の賦形剤化合物とともに使用するのに最も好適な治療用タンパク質は、好ましくは本質的に純粋であり、すなわち、汚染タンパク質を含まない。実施形態において、「本質的に純粋な」治療用タンパク質は、すべて組成物中の治療用タンパク質および汚染タンパク質の総重量に基づいて、治療用タンパク質の少なくとも90重量%、または好ましくは少なくとも95重量%、またはより好ましくは少なくとも99重量%を含むタンパク質組成物である。明確にするために、賦形剤として添加されるタンパク質は、この定義に含まれることを意図していない。本明細書に記載の治療用製剤は、医薬品グレードの製剤、すなわち、哺乳動物を治療するための使用が意図された製剤であり、タンパク質活性成分の所望の治療効果が達成可能で、製剤が投与される哺乳動物に有毒な成分を含有しない形態である。
【0050】
実施形態では、治療用製剤は、少なくとも25mg/mLのタンパク質活性成分を含む。他の実施形態では、治療用製剤は、少なくとも100mg/mLのタンパク質活性成分を含む。他の実施形態では、治療用製剤は、少なくとも10mg/mLのタンパク質活性成分を含む。他の実施形態では、治療用製剤は、少なくとも50mg/mLのタンパク質活性成分を含む。他の実施形態では、治療用製剤は、少なくとも200mg/mLのタンパク質活性成分を含む。さらに他の実施形態では、治療用製剤溶液は、少なくとも300mg/mLのタンパク質活性成分を含む。一般に、本明細書に開示される賦形剤化合物は、約5~約300mg/mLの量で治療用製剤に添加される。実施形態では、賦形剤化合物は、約10~約200mg/mLの量で添加することができる。実施形態では、賦形剤化合物は、約20~約100mg/mLの量で添加することができる。実施形態では、賦形剤は、約25~約75mg/mLの量で添加することができる。
【0051】
様々な分子量の賦形剤化合物は、製剤中のタンパク質活性成分と組み合わせる場合、特定の有利な特性のために選択される。賦形剤化合物を含む治療用製剤の例を、以下に提供する。実施形態では、賦形剤化合物は、5000Da未満の分子量を有する。実施形態では、賦形剤化合物は、1000Da未満の分子量を有する。実施形態では、賦形剤化合物は、500Da未満の分子量を有する。
【0052】
実施形態では、本明細書に開示される賦形剤化合物は、粘度低下量で治療用製剤に添加される。実施形態では、粘度低下量は、対照製剤と比較した場合、製剤の粘度を少なくとも10%低減する賦形剤化合物の量である。本開示の適用上、対照製剤は、賦形剤化合物を欠く以外は、治療用製剤とあらゆる点で乾燥重量ベースで同一であるタンパク質活性成分を含む製剤である。実施形態では、粘度低下量は、対照製剤と比較した場合、製剤の粘度を少なくとも30%低下させる賦形剤化合物の量である。実施形態では、粘度低下量は、対照製剤と比較した場合、製剤の粘度を少なくとも50%低下させる賦形剤化合物の量である。実施形態では、粘度低下量は、対照製剤と比較した場合、製剤の粘度を少なくとも70%低下させる賦形剤化合物の量である。実施形態では、粘度低下量は、対照製剤と比較した場合、製剤の粘度を少なくとも90%低下させる賦形剤化合物の量である。
【0053】
実施形態では、粘度低下量は、100cP未満の粘度を有する治療用製剤をもたらす。他の実施形態では、治療用製剤は、50cP未満の粘度を有する。他の実施形態では、治療用製剤は、20cP未満の粘度を有する。さらに他の実施形態では、治療用製剤は、10cP未満の粘度を有する。本明細書で使用される「粘度」という用語は、本明細書に開示される方法によって測定されたときの動粘度値を指す。
【0054】
本開示による治療用製剤は、製剤の安定性を改善する特定の有利な特性を有する。実施形態では、治療用製剤は、剪断分解、相分離、曇り、酸化、脱アミド化、凝集、沈殿、および変性に対して耐性がある。実施形態では、治療用製剤は、対照製剤と比較して、より効果的に処理、精製、保存、注射、投薬、濾過、および遠心分離される。
【0055】
実施形態では、治療用製剤は、高濃度の治療用タンパク質で患者に投与される。実施形態では、治療用製剤は、治療用賦形剤を欠く同様の製剤で経験されるよりも少ない注入量および/または少ない不快感で患者に投与される。実施形態では、治療用製剤は、治療用賦形剤を欠く同様の製剤で必要とされるよりも細いゲージの針または小さな注射器の力を使用して患者に投与される。実施形態では、治療用製剤は、デポ注射として投与される。実施形態では、治療用製剤は、体内での治療用タンパク質の半減期を延長する。
【0056】
本明細書に開示される治療用製剤のこれらの特徴は、臨床状況、すなわち、典型的なIM/SC目的の小口径針の使用、および許容範囲の注入量(例えば、2~3mL)の使用、かつ、これらの条件で、有効量の製剤が、単一の注射部位で単一の注射で投与され得ることを含む、筋肉内注射の同意が患者から得られる状況において、筋肉内または皮下注射により、そのような製剤の投与を可能にする。対照的に、従来の製剤技術を使用した同等の投与量の治療用タンパク質の注射は、従来の製剤のより高い粘度によって制限されるため、従来の製剤のSC/IM注射は、臨床状況では好適ではない。
【0057】
この開示による治療用製剤は、改善された安定性に適う特定の有利な特性を有し得る。実施形態では、治療用製剤は、剪断分解、相分離、曇り、沈殿、酸化、脱アミド化、凝集、および/または変性に対して耐性がある。実施形態では、治療用製剤は、対照製剤と比較して、より効果的に処理、精製、保存、注射、投薬、濾過、および/または遠心分離される。
【0058】
実施形態では、本明細書に開示される治療用製剤は、単量体損失に対して耐性があり、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)分析によって測定される。SEC分析では、分析物のメインピークは、一般に、治療用タンパク質などの製剤の有効成分に関連しており、有効成分のこのメインピークは、単量体ピークと呼ばれる。単量体ピークは、凝集(二量体、三量体、オリゴマーなど)とは対照的に、単量体状態での活性成分の量を表す。本明細書に記載の賦形剤化合物とともに製剤化された治療用タンパク質の高濃度溶液は、シリンジまたはプレフィルドシリンジを使用して患者に投与することができる。したがって、治療用製剤の安定性は、経過時間後、単量体の相対量によって観察することができる。実施形態では、本明細書に開示される治療用製剤の安定性の改善は、賦形剤を含まない対照製剤中のパーセント単量体と比較して、一定の経過時間後、より高いパーセント単量体として測定され得る。実施形態において、本明細書に開示される治療用製剤の安定性の改善は、ストレスへの曝露後、賦形剤を含まない対照製剤(ストレス条件への曝露後)のパーセント単量体と比較して、より高いパーセント単量体として測定され得る。実施形態では、ストレス条件は、低温保存、高温保存、空気への曝露、気泡への曝露、剪断条件への曝露、または凍結/解凍サイクルへの曝露であり得る。
【0059】
実施形態では、本発明の治療用製剤は、タンパク質粒子サイズの増加に耐性があり、動的光散乱(DLS)分析によって測定される。DLS分析では、治療用タンパク質の粒子サイズは、中央粒径として観察することができる。理想的には、治療用タンパク質の中央粒径は、比較的に変化しないはずである。したがって、中央粒径の増加は、凝集したタンパク質を表す可能性がある。したがって、治療用製剤の安定性は、経過時間後の中央粒径の相対的変化によって観察することができる。実施形態では、本明細書に開示される治療用製剤は、動的光散乱(DLS)分析により測定されるように、多分散粒子サイズ分布を形成することに耐性がある。実施形態では、本発明の治療用製剤の安定性の改善は、一定の経過時間後、賦形剤を含まない対照製剤の中央粒径と比較して、中央粒径のより低いパーセント変化として測定され得る。実施形態では、本明細書に開示される治療用製剤の安定性の改善は、ストレス条件への曝露後、賦形剤を含まない対照製剤での中央粒径のパーセント変化と比較して、中央粒径のより低いパーセント変化として測定され得る。言い換えれば、実施形態では、改善された安定性は、粒子サイズの増加を防ぎ、光散乱によって測定される。実施形態では、ストレス条件は、低温保存、高温保存、空気への曝露、気泡への曝露、剪断条件への曝露、または凍結/解凍サイクルへの曝露であり得る。実施形態では、本明細書に開示される治療用製剤の安定性の改善は、賦形剤を含まない対照製剤における多分散の粒子サイズ分布と比較して、DLSにより測定される、より少ない多分散粒子サイズ分布として測定され得る。
【0060】
実施形態では、本明細書に開示される治療用製剤は、濁度、光散乱、または粒子計数分析によって測定される、沈殿に対して耐性がある。実施形態では、本明細書に開示される治療用製剤の安定性の改善は、賦形剤を含まない対照製剤の濁度、光散乱、または粒子計数値と比較して、一定の経過時間後、より低い濁度、より低い光散乱、またはより少ない粒子数として測定され得る。実施形態では、本明細書に開示される治療用製剤の安定性の改善は、ストレス条件への曝露後、賦形剤を含まない対照製剤の濁度、光散乱、または粒子計数と比較して、より低い光散乱、またはより少ない粒子数として測定され得る。実施形態では、ストレス条件は、低温保存、高温保存、空気への曝露、気泡への曝露、剪断条件への曝露、または凍結/解凍サイクルへの曝露であり得る。
【0061】
実施形態では、治療用賦形剤は、酸化的損傷に対して治療用タンパク質を安定化し、それによってその安定性を改善する抗酸化特性を有する。実施形態では、治療用製剤は、周囲温度でまたは冷蔵庫条件で、治療用タンパク質の効力の明らかな損失を伴うことなく、長期間保存される。実施形態では、治療用製剤は、それが必要になるまで、保存のために乾燥され、次いで、水などの適切な溶媒で再構築される。有利には、本明細書に記載されるように調製された製剤は、数ヶ月から数年までの長期間にわたって安定であり得る。例外的に長い期間の保存が望まれる場合、製剤は、タンパク質の変性を心配することなく、冷凍庫で保存することができる(後で再活性化される)。実施形態では、冷蔵を必要としない長期保存のために、製剤が調製され得る。
【0062】
実施形態では、本明細書に開示される賦形剤化合物は、安定性改善量で治療用製剤に添加される。実施形態では、安定性改善量は、対照製剤と比較した場合、製剤の粘度を少なくとも10%低減する賦形剤化合物の量である。本開示の適用上、対照製剤は、賦形剤化合物を欠く以外は、治療用製剤と重量ベースで実質的に同様なタンパク質活性成分を含む製剤である。実施形態では、安定性改善量は、対照製剤と比較した場合、製剤の分解を少なくとも30%低減する賦形剤化合物の量である。実施形態では、安定性改善量は、対照製剤と比較した場合、製剤の分解を少なくとも50%低減する賦形剤化合物の量である。実施形態では、安定性改善量は、対照製剤と比較した場合、製剤の分解を少なくとも70%低減する賦形剤化合物の量である。実施形態では、安定性改善量は、対照製剤と比較した場合、製剤の分解を少なくとも90%低減する賦形剤化合物の量である。
【0063】
治療用製剤を調製する方法は、当業者によく知られていよう。本発明の治療用製剤は、例えば、治療用タンパク質が溶液に添加される前または後に、賦形剤化合物を製剤に添加することによって調製することができる。治療用製剤は、例えば、第1の(より低い)濃度で治療用タンパク質と賦形剤を組み合わせ、次いで濾過または遠心分離で処理して、第2の(より高い)濃度の治療用タンパク質を生成することによって生成することができる。治療用製剤は、カオトロープ、コスモトロープ、ヒドロトロープ、および塩を含む1つ以上の賦形剤化合物で作製することができる。治療用製剤は、カプセル化、分散、リポソーム、小胞形成などの技術を使用して、1つまたは複数の賦形剤化合物を用いて作製することができる。本明細書に開示される賦形剤化合物を含む治療用製剤を調製するための方法は、賦形剤化合物の組み合わせを含み得る。実施形態では、賦形剤の組み合わせは、より低い粘度、改善された安定性、または注射部位の疼痛の低減において利益を生むことができる。保存剤、界面活性剤、糖、スクロース、トレハロース、多糖、アルギニン、プロリン、ヒアルロニダーゼ、安定剤、緩衝液などを含む他の添加剤が、それらの製造中に治療用製剤に導入されてもよい。本明細書で使用される場合、薬学的に許容される賦形剤化合物は、無毒性であり、動物および/またはヒトへの投与に好適なものである。
【0064】
4.非治療用製剤
一態様では、本明細書に開示される製剤および方法は、有効量の非治療用タンパク質および賦形剤化合物を含む、改善または低減された粘度の安定した液体製剤を提供する。実施形態では、製剤は、有効成分の許容可能な濃度および許容可能な粘度を提供しながら、安定性を改善する。実施形態では、製剤は、対照製剤と比較した場合、安定性の改善を提供する。本開示の適用上、対照製剤は、賦形剤化合物を欠く以外は、非治療用製剤とあらゆる点で乾燥重量ベースで同一であるタンパク質活性成分を含む製剤である。
【0065】
液体タンパク質製剤の粘度は、様々な要因によって影響を受ける可能性があることが理解され、限定されないが、タンパク質自体の性質(例えば、酵素、構造タンパク質、加水分解の程度など)、そのサイズ、三次元構造、化学組成、および分子量、製剤中のその濃度、タンパク質以外の製剤の成分、望ましいpH範囲、および製剤の保存条件、が含まれる。
【0066】
実施形態では、非治療用製剤は、少なくとも25mg/mLのタンパク質活性成分を含む。他の実施形態では、非治療用製剤は、少なくとも100mg/mLのタンパク質活性成分を含む。他の実施形態では、非治療用製剤は、少なくとも200mg/mLのタンパク質活性成分を含む。さらに他の実施形態では、非治療用製剤溶液は、少なくとも300mg/mLのタンパク質活性成分を含む。一般に、本明細書に開示される賦形剤化合物は、約5~約300mg/mLの量で非治療用製剤に添加される。実施形態では、賦形剤は、約10~約200mg/mLの量で添加される。実施形態では、賦形剤は、約20~約100mg/mLの量で添加される。実施形態では、賦形剤は、約25~約75mg/mLの量で添加される。
【0067】
様々な分子量の賦形剤化合物は、製剤中のタンパク質活性成分と組み合わせる場合、特定の有利な特性のために選択される。賦形剤化合物を含む非治療用製剤の例を、以下に提供する。実施形態では、賦形剤化合物は、5000Da未満の分子量を有する。実施形態では、賦形剤化合物は、1000Da未満の分子量を有する。実施形態では、賦形剤化合物は、500Da未満の分子量を有する。
【0068】
実施形態では、本明細書に開示される賦形剤化合物は、粘度低下量で非治療用製剤に添加される。実施形態では、粘度低下量は、対照製剤と比較した場合、製剤の粘度を少なくとも10%低減する賦形剤化合物の量である。本開示の適用上、対照製剤は、賦形剤化合物を欠く以外は、治療用製剤とあらゆる点で乾燥重量ベースで同一である、タンパク質活性成分を含む製剤である。実施形態では、粘度低下量は、対照製剤と比較した場合、製剤の粘度を少なくとも30%低下させる賦形剤化合物の量である。実施形態では、粘度低下量は、対照製剤と比較した場合、製剤の粘度を少なくとも50%低下させる賦形剤化合物の量である。実施形態では、粘度低下量は、対照製剤と比較した場合、製剤の粘度を少なくとも70%低下させる賦形剤化合物の量である。実施形態では、粘度低下量は、対照製剤と比較した場合、製剤の粘度を少なくとも90%低下させる賦形剤化合物の量である。
【0069】
実施形態では、粘度低下量は、100cP未満の粘度を有する非治療用製剤をもたらす。他の実施形態では、非治療用製剤は、50cP未満の粘度を有する。他の実施形態では、非治療用製剤は、20cP未満の粘度を有する。さらに他の実施形態では、非治療用製剤は、10cP未満の粘度を有する。本明細書で使用される「粘度」という用語は、動粘度値を指す。
【0070】
本開示による非治療用製剤は、製剤の安定性を改善する特定の有利な特性を有することができる。実施形態では、非治療用製剤は、剪断分解、相分離、曇り、酸化、脱アミド化、凝集、沈殿、および変性に対して耐性がある。実施形態では、治療用製剤は、対照製剤と比較して、より効果的に処理、精製、保存、ポンプ輸送、濾過、および遠心分離することができる。
【0071】
実施形態では、非治療用賦形剤は、酸化的損傷に対して非治療用タンパク質を安定化し、それによってその安定性を改善する、抗酸化特性を有する。実施形態では、非治療用製剤は、周囲温度でまたは冷蔵庫条件で、非治療用タンパク質の効力の明らかな損失を伴うことなく、長期間保存される。実施形態では、非治療用製剤は、それが必要になるまで、保存のために乾燥され、次いで、水などの適切な溶媒で再構築することができる。有利には、本明細書に記載されるように調製された製剤は、数ヶ月から数年までの長期間にわたって安定である。例外的に長い期間の保存が望まれる場合、製剤は、タンパク質の変性を心配することなく、冷凍庫で保存される(後で再活性化される)。実施形態では、冷蔵を必要としない長期保存のために、製剤が調製される。
【0072】
実施形態では、本明細書に開示される賦形剤化合物は、安定性改善量で非治療用製剤に添加される。実施形態では、安定性改善量は、対照製剤と比較した場合、製剤の分解を少なくとも10%低減する賦形剤化合物の量である。本開示の適用上、対照製剤は、賦形剤化合物を欠く以外は、治療用製剤と重量ベースで実質的に同様なタンパク質活性成分を含む製剤である。実施形態では、安定性改善量は、対照製剤と比較した場合、製剤の分解を少なくとも30%低減する賦形剤化合物の量である。実施形態では、安定性改善量は、対照製剤と比較した場合、製剤の分解を少なくとも50%低減する賦形剤化合物の量である。実施形態では、安定性改善量は、対照製剤と比較した場合、製剤の分解を少なくとも70%低減する賦形剤化合物の量である。実施形態では、安定性改善量は、対照製剤と比較した場合、製剤の分解を少なくとも90%低減する賦形剤化合物の量である。
【0073】
本明細書に開示される賦形剤化合物を含む非治療用製剤を調製する方法は、当業者によく知られていよう。例えば、非治療用タンパク質が溶液に添加される前または後に、賦形剤化合物を製剤に添加することができる。非治療用製剤は、第1の(より低い)濃度で生成され、次いで濾過または遠心分離で処理して、第2の(より高い)濃度を生成することができる。非治療用製剤は、カオトロープ、コスモトロープ、ヒドロトロープ、および塩を含む1つ以上の賦形剤化合物で作製することができる。非治療用製剤は、カプセル化、分散、リポソーム、小胞形成などの技術を使用して、1つまたは複数の賦形剤化合物を用いて作製することができる。保存剤、界面活性剤、安定剤などを含む他の添加剤を、それらの製造中に、非治療用製剤に導入することができる。
【0074】
5.賦形剤化合物
いくつかの賦形剤化合物が本明細書に記載され、それぞれは、1つ以上の治療用または非治療用タンパク質を伴う使用に好適であり、それぞれは、高濃度のタンパク質を含むように製剤を構成することができる。以下に記載の賦形剤化合物のカテゴリのいくつかは:(1)ヒンダードアミン、(2)アニオン性芳香族、(3)官能化アミノ酸、(4)オリゴペプチド、(5)短鎖有機酸、(6)低分子量脂肪族ポリ酸、(7)ジオンおよびスルホン、(8)双性イオン性賦形剤、ならびに(9)水素結合性元素を含むクラウディング剤である。理論に束縛されることなく、本明細書に記載の賦形剤化合物は、他の方法では粒子間(すなわち、タンパク質間)相互作用に関与するであろう治療用タンパク質の特定の断片、配列、構造、または区域と関連すると考えられる。これらの賦形剤化合物と治療用または非治療用タンパク質との会合は、タンパク質間の相互作用を覆い隠すため、過剰な溶液粘度を引き起こすことなく、タンパク質を高濃度で製剤化できるようになる。実施形態では、賦形剤化合物は、より安定したタンパク質間相互作用をもたらすことができる。タンパク質間相互作用は、タンパク質拡散パラメータkD、浸透圧の第2ビリアル係数B22、または当業者によく知られている他の手法によって測定することができる。
【0075】
賦形剤化合物は、有利には、水溶性であり得、したがって、水性ビヒクルとの使用に好適である。実施形態では、賦形剤化合物は、1mg/mL超の水溶性を有する。実施形態では、賦形剤化合物は、10mg/mL超の水溶性を有する。実施形態では、賦形剤化合物は、100mg/mL超の水溶性を有する。実施形態では、賦形剤化合物は、500mg/mL超の水溶性を有する。実施形態では、共溶質またはヒドロトロープを賦形剤化合物と組み合わせて添加して、賦形剤化合物の溶解度を増加させることができる。例えば、特定の賦形剤は、治療用タンパク質を含む水溶液中の溶解度が限られていることがあり、低温保存条件では、この溶解度がさらに低くなる可能性がある。共溶質またはヒドロトロープを添加して、低温保存条件または周囲の室温または高温条件で、溶液中の賦形剤の溶解度を増加させることができる。共溶質およびヒドロトロープの例としては、安息香酸塩、ベンジルアルコール、フェニルアラニン、ニコチンアミド、プロリン、プロカイン、2,5-ジヒドロキシ安息香酸塩、チラミン、およびサッカリンが挙げられる。有利には、治療用タンパク質に関して、賦形剤化合物は、生物学的に許容可能であり、かつ非免疫原性である材料から得ることができ、したがって医薬用途に好適である。治療用の実施形態では、賦形剤化合物は、体内で代謝されて、生物学的に適合性で非免疫原性の副生成物をもたらし得る。
【0076】
a.賦形剤化合物のカテゴリ1:ヒンダードアミン
治療用または非治療用タンパク質の溶液は、賦形剤化合物としてヒンダードアミン小分子を用いて製剤化され得る。本明細書で使用される場合、「ヒンダードアミン」という用語は、以下の例と一致する、少なくとも1つの嵩高いまたは立体障害の基を含む小分子を指す。ヒンダードアミンは、遊離塩基の形態で、プロトン化された形態で、またはその2つの組み合わせで使用できる。プロトン化された形態では、ヒンダードアミンは、塩化物イオン、水酸化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、フッ化物イオン、酢酸イオン、ギ酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、またはカルボン酸イオンなどのアニオン性対イオンと会合することができる。賦形剤化合物として有用なヒンダードアミン化合物は、第二級アミン、第三級アミン、第四級アンモニウム、ピリジニウム、ピロリドン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、またはグアニジニウム基を含むことができるため、賦形剤化合物は中性pHの水溶液中でカチオン電荷を有する。ヒンダードアミン化合物はまた、環状芳香族、脂環式、シクロヘキシル、またはアルキル基などの、少なくとも1つの嵩高いまたは立体障害の基を含む。実施形態では、立体障害の基は、それ自体、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、グアニジニウム、ピリジニウム、または第四級アンモニウム基などのアミン基であり得る。理論に束縛されるものではないが、ヒンダードアミン化合物は、カチオンpi相互作用によって、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシンなどのタンパク質の芳香族部分と会合すると考えられている。実施形態では、ヒンダードアミンのカチオン性基は、タンパク質中の芳香族アミノ酸残基の電子豊富なpi構造に親和性を有し得るため、それらが、タンパク質のこれらの部分を遮蔽することによって、そのような遮蔽されたタンパク質が会合および凝集する傾向を減少させる。
【0077】
実施形態では、ヒンダードアミン賦形剤化合物は、イミダゾール、イミダゾリン、またはイミダゾリジン基、またはその塩、例えば、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヒスタミン、4-メチルヒスタミン、アルファ-メチルヒスタミン、ベタヒスチン、ベータ-アラニン、2-メチル-2-イミダゾリン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、尿酸、尿酸カリウム、ベタゾール、カルノシン、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムカリウム、キサンチン、テオフィリン、テオブロミン、カフェイン、アンセリン、を含む化学構造を有する。実施形態では、ヒンダードアミン賦形剤化合物は、ジメチルエタノールアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルベンジルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミン、ヘキサメチレンビグアニド、ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)、イミダゾール、リジン、メチルグリシン、サルコシン、ジメチルグリシン、アグマチン、ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、フォリン酸ナトリウム塩、フォリン酸カルシウム塩、テトラメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、エタノールアミンリン酸、グルコサミン、塩化コリン、ホスホコリン、ナイアシンアミド、イソニコチンアミド、N,N-ジエチルニコチンアミド、ニコチン酸ナトリウム塩、イソニコチン酸塩、チラミン、3-アミノピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、3-ピリジンメタノール、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、ビオチン、モルホリン、N-メチルピロリドン、2-ピロリジノン、ジピリダモール、プロカイン、リドカイン、ジシアンジアミド-タウリン付加物、2-ピリジルエチルアミン、6-ヒドロキシピリジン-2-カルボン酸、ジシアンジアミド-ベンジルアミン付加物、ジシアンジアミド-アルキルアミン付加物、ジシアンジアミド-シクロアルキルアミン付加物、およびジシアンジアミド-アミノメタンホスホン酸付加物、からなる群から選択される。実施形態では、ヒンダードアミン賦形剤化合物は、1-(1-アダマンチル)エチルアミン、1-アミノベンゾトリアゾール、2-ジメチルアミノエタノール、2-メチル-2-イミダゾリン、2-メチルイミダゾール、3-アミノベンズアミド、3-インドール酢酸、4-アミノピリジン、6-アミノ-1,3-ジメチルウラシル、アセチルコリン、硫酸アグマチン、塩化ベンザルコニウム、3-アミノ安息香酸エチル、スルファセタミド、アントラニル酸ブチル、アミノ馬尿酸、ベンズアミドオキシム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアミン、塩化ベルベリン、カスタノスペルミン、クレミゾール、サイクロセリン、フェニルセリン、DL-3-フェニルセリン、システアミン、シチジン、ジエタノールアミン、ジフェンヒドラミン、DL-ノルエピネフリン、ドーパミン、エムトリシタビン、エタノールアミン、グアンファシン、イソニコチンアミド、塩化リチウム、メグルミン、メチルシチジン、ミリスチルγピコリニウムクロリド、ナイアシンアミド、フェニルエチルアミン、ポリエチレンイミン、ピリドキシン、メシル酸ラサギリン、セロトニン、シネフリン、ネアミン、スペルミン、スペルミジン、1,3-ジアミノプロパン、アデノシン、リン酸クロロキン、シスタミン、ピリジルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、トリプタミン、チラミン、1-メチルイミダゾール、スペクチノマイシン、シクロヘキサンメチルアミン、N,N-ジメチルフェネチルアミン、フェネチルアミン、テトラエチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウムアセテート、ジシクロミン、ホルデニン、メチルアミノエチルピリジン、ニコチンアミドリボシド、1-ブチルイミダゾール、1-ヘキシルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-N-ブチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1-ドデシルイミダゾール、1または2位でC1~C12炭化水素鎖でアルキル化された他のイミダゾール、プリジノールメタンスルホン酸、ヘミン、N,N-ジメチルフェネチルアミン、ボグリボース、N-エチル-L-グルタミン、ニコチン、ピペラジン、デメクロサイクリン、およびそれらの塩、からなる群から選択される。実施形態では、ヒンダードアミン賦形剤化合物は、フェネチルアミン、ジフェンヒドラミン、N-メチルフェネチルアミン、N,N-ジメチルフェネチルアミン、β,3-ジヒドロキシフェネチルアミン、β,3-ジヒドロキシ-N-メチルフェネチルアミン、3-ヒドロキシフェネチルアミン、4-ヒドロキシフェネチルアミン、チロシノール、チラミン、N-メチルチラミン、およびホルデニンなどのフェネチルアミン官能基を有することができる。好ましくは、フェネチルアミン含有構造は、非向精神化合物である。
【0078】
ヒンダードアミン構造の好適な塩は、塩化物、臭化物、酢酸塩、クエン酸塩、硫酸塩、およびリン酸塩であり得る。実施形態では、本開示に適ったヒンダードアミン化合物は、プロトン化アンモニウム塩として製剤化される。実施形態では、本開示に適ったヒンダードアミン化合物は、対イオンとして無機アニオンまたは有機アニオンを有する塩として製剤化される。
【0079】
実施形態では、治療用または非治療用タンパク質の高濃度溶液は、賦形剤化合物として、カフェインと、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、またはベンゼンスルホン酸とを組み合わせて製剤化される。実施形態では、ヒンダードアミン賦形剤化合物は、体内で代謝されて、生物学的に適合性の副生成物を生じる。一部の実施形態では、ヒンダードアミン賦形剤化合物は、製剤中に約250mg/mL以下の濃度で存在する。追加の実施形態では、ヒンダードアミン賦形剤化合物は、約10mg/mL~約200mg/mLの濃度で製剤中に存在する。さらに追加の態様では、ヒンダードアミン賦形剤化合物は、製剤中に約20~約120mg/mLの濃度で存在する。
【0080】
実施形態では、このヒンダードアミンカテゴリの粘度低下賦形剤は、カフェインおよびテオフィリンなどのメチルキサンチンを含み得るが、それらの低い水溶性のために、それらの使用が、通常制限されている。一部の用途では、水溶性が低いにもかかわらず、これらの粘度低下賦形剤のより高濃度の溶液を有することが有利な場合がある。例えば、処理において、濃縮タンパク質溶液に添加することができる濃縮賦形剤溶液を有することが有利である場合があり、それによって、タンパク質を所望の最終濃度未満に希釈することなく、賦形剤を添加することができる。他の場合では、その低い水溶性にもかかわらず、最終的なタンパク質製剤の所望の粘度低下、安定性、張度などを達成するために、追加の粘度低下賦形剤が必要になる場合がある。実施形態では、高濃度の賦形剤溶液は、(i)有効な粘度低下量よりも1.5~50倍高い濃度で、粘度低下賦形剤として、または(ii)文献で報告されている298Kでの純水への溶解度の1.5~50倍高い濃度で(例えば、The Merck Index;Royal Society of Chemistry;Fifteenth Edition,(April 30,2013)に報告されている)、粘度低下賦形剤として製剤化され得る。
【0081】
特定の共溶質は、これらの低溶解度の粘度低減賦形剤の溶解限度を大幅に高め、文献で報告されている溶解度値よりも数倍高い濃度での賦形剤溶液を可能にすることが見出されている。これらの共溶質は、ヒドロトロープの一般的なカテゴリに分類され得る。この用途の溶解度の最大の改善をもたらすことが見出された共溶質は、一般に、周囲温度および生理学的pHで水に非常に溶けやすく(>0.25M)、ピリジンまたはベンゼン環のいずれかを含んでいた。共溶質として有用な化合物の例としては、アニリンHCl、イソナイアシンアミド、ナイアシンアミド、n-メチルチラミンHCl、フェノール、プロカインHCl、レゾルシノール、サッカリンカルシウム塩、サッカリンナトリウム塩、アミノ安息香酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸ナトリウム、ナトリウムメタヒドロキシ安息香酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、スルファニル酸ナトリウム、パラヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、シネフリン、およびチラミンHClが挙げられる。
【0082】
実施形態では、特定のヒンダードアミン賦形剤化合物は、他の薬理学的特性を有することができる。例として、キサンチンは、ヒンダードアミンのカテゴリであり、一般に独立した薬理学的特性を有し、全身的に吸収された場合、刺激薬の特性および気管支拡張薬の特性が含まれる。代表的なキサンチンとしては、カフェイン、アミノフィリン、3-イソブチル-1-メチルキサンチン、パラキサンチン、ペントキシフィリン、テオブロミン、テオフィリンなどが挙げられる。メチル化キサンチンは、心臓の収縮力、心拍数、および気管支拡張に影響を与えると理解されている。一部の実施形態では、キサンチン賦形剤化合物は、約30mg/mL以下の濃度で製剤中に存在する。
【0083】
独立した薬理学的特性を有するヒンダードアミンの別のカテゴリは、局所注射用麻酔化合物である。局所注射用麻酔剤化合物は、(a)親油性芳香環、(b)中間のエステルまたはアミド結合、および(c)第二級または第三級アミンの3成分性分子構造を持つヒンダードアミンである。ヒンダードアミンのこのカテゴリは、ナトリウムイオンの流入を阻害することによって、神経伝導を遮断し、それによって局所麻酔を誘発すると理解されている。局所麻酔化合物の親油性芳香環は、炭素原子(例えば、ベンゼン環)から形成されてもよく、またはヘテロ原子(例えば、チオフェン環)を含んでもよい。代表的な局所注射用麻酔薬としては、アミロカイン、アルチカイン、ブピバカイン、ブタカイン、ブタニリカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、ジメトカイン、エディトカイン(editocaine)、ヘキシルカイン、イソブカイン、レボブピバカイン、リドカイン、メタブテタミン、メタブトキシカイン、メピバカイン、メプリルカイン、プロポキシカイン、プリロカイン、プロカイン、ピペロカイン、テトラカイン、トリメカインなどが挙げられる。局所注射用麻酔化合物は、タンパク質治療用製剤において、粘度の低下、安定性の向上、注射時の疼痛の軽減など、複数の利点がある。一部の実施形態では、局所麻酔化合物は、製剤中に約50mg/mL以下の濃度で存在する。
【0084】
実施形態では、独立した薬理学的特性を有するヒンダードアミンは、本明細書に記載の製剤および方法に従って、賦形剤化合物として使用される。一部の実施形態では、独立した薬理学的特性を有する賦形剤化合物は、薬理学的効果を有さない、および/または治療上有効ではない量で存在する。他の実施形態では、独立した薬理学的特性を有する賦形剤化合物は、薬理学的効果を有するおよび/または治療上有効である量で存在する。特定の実施形態では、独立した薬理学的特性を有するヒンダードアミンは、製剤粘度を低下させるように選択された別の賦形剤化合物と組み合わせて使用され、独立した薬理学的特性を有するヒンダードアミンは、その薬理活性の利点を与えるために使用される。例えば、局所注射用麻酔化合物を使用して、製剤の粘度を低下させ、製剤の注射時の疼痛を軽減することもできる。注射の疼痛の軽減は、麻酔特性によって引き起こされ得る。また、賦形剤により粘度が低下した場合、注射の力を下げる必要がある。あるいは、局所注射用麻酔化合物を使用して、製剤の粘度を低下させる別の賦形剤化合物と組み合わせながら、製剤の注射中に局所感覚を低下させるという望ましい薬理学的利点を与えることができる。
【0085】
b.賦形剤化合物のカテゴリ2:アニオン性芳香族
治療用または非治療用タンパク質の溶液は、アニオン性芳香族小分子化合物を賦形剤化合物として製剤化することができる。アニオン性芳香族賦形剤化合物は、フェニル、ベンジル、アリール、アルキルベンジル、ヒドロキシベンジル、フェノール、ヒドロキシアリール、ヘテロ芳香族基、または縮合芳香族基などの芳香族官能基を含むことができる。アニオン性芳香族賦形剤化合物はまた、カルボキシレート、オキシド、フェノキシド、スルホネート、スルフェート、ホスホネート、ホスフェート、またはスルフィドなどのアニオン性官能基を含むことができる。アニオン性芳香族賦形剤は、酸、ナトリウム塩、または他のものとして記載され得るが、賦形剤は、様々な塩の形態で使用され得ることが理解される。理論に束縛されるものではないが、アニオン性芳香族賦形剤化合物は、タンパク質のカチオン性部分と会合することができる嵩高い立体障害の分子であると考えられているため、タンパク質のこれらの部分を遮蔽し、それによって、タンパク質含有製剤を粘稠にするか安定性の問題を引き起こすタンパク質分子間の相互作用を減らすことができる。
【0086】
実施形態では、アニオン性芳香族賦形剤化合物の例としては、サリチル酸、アミノサリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、アミノ安息香酸、パラアミノ安息香酸、ベンゼンスルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、4-フェニル酪酸、ナフタレンスルホン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、2,6-ナフタレンジスルホン酸、2,7-ナフタレンジスルホン酸、ヒドロキノンスルホン酸、スルファニル酸、バニリン酸、ホモバニリン酸、バニリン、バニリン-タウリン付加物、アミノフェノール、アントラニル酸、ケイ皮酸、メナジオン重亜硫酸ナトリウム、4-ヒドロキシ-3-メトキシケイ皮酸、カフェイン酸、クロロゲン酸、ゲンチシン酸、クマル酸、アデノシン一リン酸、インドール酢酸、尿酸カリウム、フランジカルボン酸、フラン-2-アクリル酸、2-フランプロピオン酸、フェニルピルビン酸ナトリウム、ヒドロキシフェニルピルビン酸ナトリウム、トリメトキシ安息香酸、ジヒドロキシ安息香酸、フェロセンカルボン酸、トリヒドロキシ安息香酸、ピロガロール、安息香酸、および前述の酸の塩などが挙げられる。実施形態では、アニオン性芳香族賦形剤化合物は、イオン化塩の形態で製剤化される。実施形態では、アニオン性芳香族化合物は、ヒドロキシ安息香酸ジメチルシクロヘキシルアンモニウムなどのヒンダードアミンの塩として処方される。実施形態では、アニオン性芳香族賦形剤化合物は、有機カチオンなどの様々な対イオンを用いて製剤化される。実施形態では、治療用または非治療用タンパク質の高濃度溶液は、アニオン性芳香族賦形剤化合物およびカフェインとともに製剤化される。実施形態では、アニオン性芳香族賦形剤化合物は、体内で代謝されて、生物学的に適合性の副生成物を生じる。
【0087】
実施形態では、芳香族賦形剤化合物の例としては、フェノールおよびポリフェノールが含まれる。本明細書で使用される場合、「フェノール」という用語は、少なくとも1つのヒドロキシル基に結合した少なくとも1つの芳香族基または縮合芳香族基からなる有機分子を指し、「ポリフェノール」という用語は、2つ以上のフェノール基からなる有機分子を指す。このような賦形剤は、特定の状況下で、例えば、治療用または非治療用のPEG化タンパク質の高濃度溶液を含む製剤に使用して、溶液粘度を下げる場合に有利であり得る。フェノールの非限定的な例としては、ベンゼンジオールレゾルシノール(1,3-ベンゼンジオール)、カテコール(1,2-ベンゼンジオール)およびヒドロキノン(1,4-ベンゼンジオール)、ベンゼントリオールヒドロキシキノール(1,2,4-ベンゼントリオール)、ピロガロール、(1,2,3-ベンゼントリオール)、およびフロログルシノール(1,3,5-ベンゼントリオール)、ベンゼンテトロール1,2,3,4-ベンゼンテトロールおよび1,2,3,5-ベンゼンテトロール、ならびにベンゼンペンタオールおよびベンゼンヘキサオールが挙げられる。ポリフェノールの非限定的な例としては、タンニン酸、エラグ酸、没食子酸エピガロカテキン、カテキン、タンニン、エラジタンニン、およびガロタンニンが挙げられる。より一般的には、フェノールおよびポリフェノール化合物には、フラボノイド、リグナン、フェノール酸、およびスチルベンが含まれるが、これらに限定されない。フラボノイド化合物には、アントシアニン、カルコン、ジヒドロカルコン、ジヒドロフラバノール、フラバノール、フラバノン、フラボン、フラボノール、およびイソフラボノイドが含まれるが、これらに限定されない。フェノール酸には、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシケイ皮酸、ヒドロキシフェニル酢酸、ヒドロキシフェニルプロパン酸、およびヒドロキシフェニルペンタン酸が含まれるが、これらに限定されない。他のポリフェノール化合物には、アルキルメトキシフェノール、アルキルフェノール、クルクミノイド、ヒドロキシベンズアルデヒド、ヒドロキシベンゾケトン、ヒドロキシシンナムアルデヒド、ヒドロキシクマリン、ヒドロキシフェニルプロペン、メトキシフェノール、ナフトキノン、ヒドロキノン、フェノールテルペン、レスベラトロール、およびチロソールが含まれるが、これらに限定されない。実施形態では、ポリフェノールは、タンニン酸である。実施形態では、フェノールは、没食子酸である。実施形態では、フェノールは、ピロガロールである。実施形態では、フェノールは、レゾルシノールである。理論に束縛されるものではないが、没食子酸、ピロガロール、レゾルシノールなどのフェノール化合物のヒドロキシル基は、PEG鎖の骨格にあるエーテル酸素原子と水素結合を形成し、したがって、PEGの溶液構造を根本的に変えるフェノール/PEG複合体を形成することで、溶液粘度を低下させる。タンニン酸などのポリフェノール化合物は、それらの粘度低下特性が、没食子酸、ピロガロール、およびレゾルシノールなどの、それらの各フェノール基のビルディングブロックに由来する。ポリフェノール化合物内のフェノール基の特定の構造は、複雑な挙動を引き起こす場合があり、フェノールの添加によって達成される粘度の低下が、より少量のそれぞれのポリフェノールの添加によって増強される。
【0088】
c.賦形剤化合物のカテゴリ3:官能化アミノ酸
治療用または非治療用タンパク質の溶液は、1つまたは複数の官能化アミノ酸を用いて製剤化することができ、単一の官能化アミノ酸または1つまたは複数の官能化アミノ酸を含むオリゴペプチドを、賦形剤化合物として使用することができる。実施形態では、官能化アミノ酸化合物は、加水分解または代謝されてアミノ酸を生じ得る分子(「アミノ酸前駆体」)を含む。実施形態では、官能化アミノ酸は、フェニル、ベンジル、アリール、アルキルベンジル、ヒドロキシベンジル、ヒドロキシアリール、ヘテロ芳香族基、または縮合芳香族基などの芳香族官能基を含むことができる。実施形態では、官能化アミノ酸化合物は、メチル化、エチル化、プロピル化、ブチル化、ベンジル化、シクロアルキル化、グリセリル化、ヒドロキシエチル化、ヒドロキシプロピル化、PEG化、およびPPGエステルなどのエステル化アミノ酸を含むことができる。実施形態では、官能化アミノ酸化合物は、アルギニンエチルエステル、アルギニンメチルエステル、アルギニンヒドロキシエチルエステル、およびアルギニンヒドロキシプロピルエステルからなる群から選択される。実施形態では、官能化アミノ酸化合物は、中性pHでの水溶液中の荷電イオン化合物である。例えば、単一のアミノ酸は、酢酸塩や安息香酸塩のようなエステルを形成することによって誘導体化することができ、加水分解生成物は、どちらも天然素材である酢酸または安息香酸、加えてアミノ酸である。実施形態では、官能化されたアミノ酸賦形剤化合物は、体内で代謝されて、生物学的に適合性の副生成物を生じる。
【0089】
d.賦形剤化合物のカテゴリ4:オリゴペプチド
治療用または非治療用タンパク質の溶液は、賦形剤化合物としてオリゴペプチドを用いて製剤化することができる。実施形態では、オリゴペプチドは、その構造が荷電部分および嵩高い部分を有するように設計される。実施形態では、オリゴペプチドは、2~10個のペプチドサブユニットからなる。オリゴペプチドは、二官能性、例えば、非極性のものに結合したカチオン性アミノ酸、または非極性のものに結合したアニオン性アミノ酸であり得る。実施形態では、オリゴペプチドは、2~5個のペプチドサブユニットからなる。実施形態では、オリゴペプチドは、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、ポリリジン、ポリアルギニン、およびポリヒスチジンなどのホモペプチドである。実施形態では、オリゴペプチドは、正味のカチオン電荷を有する。他の実施形態では、オリゴペプチドは、Trp2Lys3などのヘテロペプチドである。実施形態では、オリゴペプチドは、ABA反復パターンなどの交互的な構造を有することができる。実施形態では、オリゴペプチドは、アニオン性およびカチオン性アミノ酸の両方、例えば、Arg-Glu、Lys-Glu、His-Glu、Arg-Asp、Lys-Asp、His-Asp、Glu-Arg、Glu-Lys、Glu-His、Asp-Arg、Asp-Lys、Asp-Hisを含むことができる。理論に束縛されるものではないが、オリゴペプチドは、高粘度溶液と安定性の問題につながる分子間相互作用を低減するような方法でタンパク質と結合できる構造を備えている。例えば、オリゴペプチド-タンパク質の会合は、電荷間の相互作用であり、やや非極性のアミノ酸を残して、タンパク質周囲の水和層の水素結合を破壊し、したがって、粘度を低下させるか、または安定性を向上させる。一部の実施形態では、オリゴペプチド賦形剤は、約50mg/mL以下の濃度で組成物中に存在する。
【0090】
e.賦形剤化合物のカテゴリ5:短鎖有機酸
治療用または非治療用タンパク質の溶液は、賦形剤化合物として短鎖有機酸を用いて処方することができる。本明細書で使用される場合、「短鎖有機酸」という用語は、C2~C6有機酸化合物およびその塩、エステル、アミド、またはラクトンを指す。このカテゴリには、飽和および不飽和カルボン酸、ヒドロキシ官能化カルボン酸、アミド、および直鎖状、分岐状、または環状カルボン酸が含まれる。実施形態では、短鎖有機酸の酸性基は、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸、またはそれらの塩である。
【0091】
治療用または非治療用タンパク質の溶液は、例えば、賦形剤化合物として、ソルビン酸、吉草酸、プロピオン酸、カプロン酸、およびアスコルビン酸の酸または塩の形態の短鎖有機酸を用いて製剤化することができる。このカテゴリの賦形剤化合物の例には、ソルビン酸カリウム、グルコン酸カルシウム、グルクロン酸、乳酸カルシウム、2-ヒドロキシ乳酸、グリコール酸ナトリウム、グリコール酸カリウム、グリコール酸アンモニウム、バルプロ酸ナトリウム、タウリン、アセトヒドロキサム酸、アセトン重亜硫酸ナトリウム付加物、アセチルヒドロキシプロリン、カルシウムプロピオン酸、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、およびそれらの塩が含まれる。
【0092】
f.賦形剤化合物のカテゴリ6:低分子量ポリ酸
治療用または非治療用タンパク質またはPEG化タンパク質の溶液は、溶液粘度の低下または安定性の改善を可能にする特定の賦形剤化合物を用いて製剤化することができ、このような賦形剤化合物は、低分子量のポリ酸である。低分子量ポリ酸は、有機ポリ酸または無機ポリ酸を含み得る。また、これらの低分子量ポリ酸賦形剤は、他の賦形剤と組み合わせて使用することもできる。
【0093】
実施形態では、有機ポリ酸は、低分子量脂肪族ポリ酸として構造化され得る。本明細書で使用される場合、「低分子量脂肪族ポリ酸」という用語は、約1500Da未満の分子量を有し、少なくとも2つの酸性基を有する有機脂肪族ポリ酸を指し、酸性基はプロトン供与部分であると理解される。酸性基の非限定的な例には、カルボキシレート、ホスホネート、ホスフェート、スルホネート、スルフェート、ニトレート、ニトライト、が含まれる。低分子量脂肪族ポリ酸の酸性基は、カルボキシレート、ホスホネート、ホスフェート、スルホネート、スルフェート、ニトレート、およびニトライトなどのアニオン性塩の形態であり得、それらの対イオンは、ナトリウム、カリウム、リチウム、およびアンモニウムイオンであり得る。本明細書に記載のPEG化タンパク質との相互作用に有用な低分子量脂肪族ポリ酸の具体例としては、シュウ酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、グルタル酸、マロン酸、イタコン酸、メチルマロン酸、アゼライン酸、クエン酸、3,6,9-トリオキサウンデカン二酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、アスパラギン酸、ピロリドンカルボン酸、ピログルタミン酸、グルタミン酸、アレンドロン酸、メドロン酸、エチドロン酸およびその塩が挙げられる。
【0094】
他の実施形態では、低分子量ポリ酸は、無機ポリ酸である。低分子量ポリ酸のそれらのアニオン性塩の形態でのさらなる例としては、リン酸塩(PO4
3-)、リン酸水素塩(HPO4
2-)、リン酸二水素塩(H2PO4
-)、硫酸塩、重硫酸塩(HSO4
-)、ピロリン酸塩(P2O7
4-)、ヘキサメタリン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩(CO3
2-)、重炭酸塩(HCO3
-)が挙げられる。アニオン性塩の対イオンは、Na、Li、K、またはアンモニウムイオンであり得る。
【0095】
実施形態では、低分子量脂肪族ポリ酸はまた、第1の酸性基に隣接するヒドロキシル基、例えばグリコール酸、乳酸、およびグルコン酸ならびにそれらの塩が存在するアルファヒドロキシ酸であり得る。実施形態では、低分子量脂肪族ポリ酸は、例えばポリアクリル酸、ポリリン酸塩、ポリペプチドおよびそれらの塩など、3つ以上の酸性基を有するオリゴマー形態である。一部の実施形態では、低分子量脂肪族ポリ酸賦形剤は、組成物中に約50mg/mL以下の濃度で存在する。
【0096】
g.賦形剤化合物のカテゴリ7:ジオンおよびスルホン
効果的な粘度低下または安定化賦形剤は、298Kで少なくとも1g/Lまで純水に可溶であり、pH7で正味の中性電荷を持ち、スルホン、スルホンアミド、またはジオン官能基を含む分子であり得る。好ましくは、分子は、1000g/モル未満、より好ましくは500g/モル未満の分子量を有する。粘度の低下および/または安定性の改善に有効なジオンおよびスルホンは、複数の二重結合を有し、水溶性であり、pH7で正味の電荷を持たないかアニオン性電荷を有し、強い水素結合ドナーではない。理論に束縛されるものではないが、二重結合の特性により、タンパク質との弱いpiスタッキング相互作用が可能になる。実施形態では、高タンパク質濃度で、および高濃度でのみ高粘度を発現するタンパク質では、荷電した賦形剤は、静電相互作用が長距離相互作用であるため、効果的ではない。溶媒和タンパク質の表面は、主に親水性であり、それらを水溶性にする。タンパク質の疎水性領域は、一般に3次元構造内で遮蔽されるが、構造は常に進化し、ほどけ、再び折り畳まれ(「呼吸(breathing)」と呼ばれることもある)、隣接するタンパク質の疎水性領域が互いに接触して、疎水性相互作用による凝集につながる可能性がある。ジオンおよびスルホン賦形剤のpiスタッキング機能は、そのような「呼吸」中に露出され得る疎水性パッチを覆い隠すことができる。賦形剤の他の重要な役割は、近接するタンパク質間の疎水性相互作用と水素結合を破壊することであり、溶液の粘度を効果的に低下させる。この説明に当てはまるジオンおよびスルホン化合物には、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、エチルメチルスルホニルアセテート、エチルイソプロピルスルホン、シクラミン酸ナトリウム、ビス(メチルスルホニル)メタン、メタンスルホンアミド、メチオニンスルホン、1,2-シクロペンタンジオン、1,3-シクロペンタンジオン、1,4-シクロペンタンジオン、およびブタン-2,3-ジオンが含まれる。
【0097】
h.賦形剤化合物のカテゴリ8:双性イオン性賦形剤
治療用または非治療用タンパク質の溶液は、安定性を向上させるか、粘度を下げるための賦形剤として、特定の双性イオン化合物を用いて製剤化することができる。本明細書で使用される場合、「双性イオン」という用語は、カチオン性荷電部分およびアニオン性荷電部分を有する化合物を指す。実施形態では、双性イオン性賦形剤化合物は、アミンオキシドである。実施形態では、反対の電荷は、2~8個の化学結合によって互いに分離される。実施形態では、双性イオン性賦形剤化合物は、約50~約500g/モルの分子量を有するものなどの小分子であり得るか、または約500~約2000g/モルの分子量を有するものなどの中間分子量分子であり得るか、または約2000~約100,000g/モルの分子量を有するポリマーなどの高分子量の分子であり得る。
【0098】
双性イオン性賦形剤化合物の例としては、(3-カルボキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、1-アミノシクロヘキサンカルボン酸、ホモシクロロイシン、1-メチル-4-イミダゾール酢酸、3-(1-ピリジニオ)-1-プロパンスルホネート、4-アミノ安息香酸、アレンドロン酸、アミノエチルスルホン酸、アミノ馬尿酸、アスパルテーム、アミノトリス(メチレンホスホン酸)(ATMP)、カルコブトロール、カルテリドール、コカミドプロピルベタイン、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン、クレアチン、シチジン一リン酸、ジアミノピメリン酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ジメチルフェニルアラニン、メチルグリシン、サルコシン、ジメチルグリシン、双性イオン性ジペプチド(例えば:Arg-Glu、Lys-Glu、His-Glu、Arg-Asp、Lys-Asp、His-Asp、Glu-Arg、Glu-Lys、Glu-His、Asp-Arg、Asp-Lys、Asp-His)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)(DTPMP)、ジパルミトイルホスファチジルコリン、エクトイン、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP)、葉酸安息香酸混合物、葉酸ナイアシンアミド混合物、ゼラチン、ヒドロキシプロリン、イミノ二酢酸、イソグバシン、レシチン、ミリスタミンオキシド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、N-メチルアスパラギン酸、N-メチルプロリン、N-トリメチルリジン、オルニチン、オキソリン酸、リセドロン酸、アリルシステイン、S-アリル-L-システイン、ソマパシタン、タウリン、テアニン、トリゴネリン、ビガバトリン、エクトイン、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸、o-オクチルホスホリルコリン、ニコチンアミドモノヌクレオチド、トリグリシン、テトラグリシン、β-グアニジノプロピオン酸、5-アミノレブリン酸塩酸、ピコリン酸、リドフェニン、ホスホコリン、1-(5-カルボキシペンチル)-4-メチルピリジン-1-イウムブロミド、L-アンセリン硝酸塩、還元型L-グルタチオン、N-エチル-L-グルタミン、N-メチルプロリン、(Z)-1-[N-(2-アミノエチル)-N-(2-アンモニオエチル)アミノ]ジアゼン-1-イウム-1,2-ジオラート(DETA-NONOate)、(Z)-1-[N-(3-アミノプロピル)-N-(3-アンモニオプロピル)アミノ]ジアゼン-1-イウム-1,2-ジオラート(DPTA-NONate)、およびゾレドロン酸が挙げられる。
【0099】
理論に束縛されるものではないが、双性イオン性賦形剤化合物は、タンパク質と相互作用することにより、例えば、電荷相互作用、疎水性相互作用、および立体相互作用により、粘度低下または安定化効果を発揮し、タンパク質を凝集に対してより抵抗性にするか、または、電解質の寄与、表面張力の低下、利用可能な非結合水の量の変化、もしくは比誘電率の変化などのタンパク質製剤中の水のバルク特性に影響を与える。
【0100】
i.賦形剤化合物のカテゴリ9:水素結合元素を含むクラウディング剤
治療用または非治療用タンパク質の溶液は、安定性を改善するか、または粘度を低下するための賦形剤として、水素結合元素を含むクラウディング剤を用いて製剤化することができる。本明細書で使用される場合、用語「クラウディング剤」は、溶液中にタンパク質を溶解するために利用可能な水の量を減少させ、有効なタンパク質濃度を増加させる製剤添加物を指す。実施形態では、クラウディング剤は、タンパク質の粒子サイズを減少させるか、または溶液中でのタンパク質のアンフォールディングの量を減少させることができる。実施形態では、クラウディング剤は、水素結合および水和効果によって水の構造化を引き起こす溶媒修飾剤として作用することができる。実施形態では、クラウディング剤は、溶液中のタンパク質間の分子間相互作用の量を低減することができる。実施形態では、クラウディング剤は、酸素、硫黄、または窒素原子に結合した水素などの少なくとも1つの水素結合ドナー元素を含む構造を有する。実施形態では、クラウディング剤は、約6~約11のpKaを有する少なくとも1つの弱酸性水素結合ドナー元素を含む構造を有する。実施形態では、クラウディング剤は、約2~約50個の水素結合ドナー元素を含む構造を有する。実施形態では、クラウディング剤は、ルイス塩基などの少なくとも1つの水素結合アクセプター元素を含む構造を有する。実施形態では、クラウディング剤は、約2~約50個の水素結合アクセプター元素を含む構造を有する。実施形態では、クラウディング剤は、約50~500g/モルの分子量を有する。実施形態では、クラウディング剤は、約100~350g/モルの分子量を有する。他の実施形態では、クラウディング剤は、ラフィノース、イヌリン、プルラン、またはシニストリンなどの、500g/モル超の分子量を有し得る。
【0101】
水素結合元素を含むクラウディング剤賦形剤の例としては、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジオン、15-クラウン-5、18-クラウン-6、2-ブタノール、2-ブタノン、2-フェノキシエタノール、アセトアミノフェン、アラントイン、アラビノース、アラビトール、アセト酢酸ベンジル、ベンジルアルコール、クロロブタノール、コレスタノールテトラアセチル-b-グルコシド、シンナムアルデヒド、シクロヘキサノン、デオキシリボース、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジメチルイソソルビド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチロールエチレン尿素、ジメチルウラシル、エピラクトース、エリスリトール、エリスロース、乳酸エチル、エチルマルトール、炭酸エチレン、ホルムアミド、フコース、ガラクトース、ゲニステイン、ゲンチシン酸エタノールアミド、グルコノラクトン、グリセルアルデヒド、グリセロール、炭酸グリセロール、グリセロールホルマール、グリセロールウレタン、グリチルリチン酸、ゴシピン、ハーパゴシド、ヘデラコシドC、イコデキストリン、イジトール、イミダゾリドン、イノシトール、イヌリン、イソマルチトール、コウジ酸、ラクチトール、ラクトビオン酸、ラクトース、ラクツロース、リキソース、マデカソシド、マルトトリオース、マンギフェリン、マンノース、メレジトース、乳酸メチル、メチルピロリドン、モグロシドV、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルノイラミン酸、N-メチルアセトアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルプロピオンアミド、ペンタエリトリトール、ピノレジノールジグルコシド、ピラセタム、没食子酸プロピル、炭酸プロピレン、プシコース、プルラン、ピロガロール、キナ酸、ラフィノース、レバウディオシドA、ラムノース、リビトール、リボース、リブロース、サッカリン、セドヘプツロース、シニストリン、ソルケタール、スタキオース、スクラロース、タガトース、t-ブタノール、テトラグリコール、トリアセチン、N-アセチル-d-マンノサミン、ニストース、ケストース、ツラノース、アカルボース、D-サッカリン酸1,4-ラクトン、チオジガラクトシド、フコイダン、ヒドロキシサフロールイエローA、シキミ酸、ジオスミン、プラバスタチンナトリウム塩、D-アルトロース、L-グロンγラクトン、ネオマイシン、ルブソシドジヒドロアルテミシニン、フロログルシノール、ナリンギン、バイカレイン、ヘスペリジン、アピゲニン、ピロガロール、モリン、サルサレート、ケンフェロール、ミリセチン、3’,4’,7-トリヒドロキシイソフラボン、(±)-タキシフォリン、シリビン、ペルセイトールジフォルマル(perseitol diformal)、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸、スルファセタミド、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド、2,5-ジヒドロキシ安息香酸エチル、スペクチノマイシン、レスベラトロール、ケルセチン、硫酸カナマイシン、1-(2-ピリミジル)ピペラジン、2-(2-ピリジル)エチルアミン、2-イミダゾリドン、DL-1,2-イソプロピリデングリセロール、メトホルミン、m-キシリレンジアミン、デメクロサイクリン、トリプロピレングリコール、ツベイモシドI、ベルベナロシド、キシリトール、およびキシロースが挙げられる。
【0102】
6.タンパク質/賦形剤溶液:特性とプロセス
特定の実施形態では、ヒンダードアミン、アニオン性芳香族、官能化アミノ酸、オリゴペプチド、短鎖有機酸、低分子量脂肪族ポリ酸、ジオンおよびスルホン、双性イオン性賦形剤、ならびに水素結合性元素を含むクラウディング剤などの、上記の特定された賦形剤化合物またはその組み合わせ(以下、「賦形剤添加剤」)で製剤化された治療用または非治療用タンパク質の溶液は、タンパク質拡散相互作用パラメータkDまたは第2ビリアル係数B22により測定される改善されたタンパク質間相互作用特性をもたらす。本明細書で使用される場合、上記の特定された賦形剤化合物またはそれらの組み合わせを使用する試験製剤によって達成される1つまたは複数のタンパク質間相互作用パラメータの「改善」は、賦形剤化合物または賦形剤添加剤を含まない同等の製剤を用いて試験製剤を同等の条件下で比較した場合、誘引性タンパク質間相互作用の減少を指し得る。このような改善は、プロセス全体またはその側面に適用される特定のパラメータを測定することで明らかにすることができ、パラメータは、プロセスに関係する任意の計量であり、変化を定量化し、以前の状態または対照と比較することができる。パラメータは、効率、コスト、収率、速度など、プロセス自体に関係し得る。処理中のタンパク質含有製剤の安定性を改善すると、収量が改善し、生物学的活性が増加し、製剤中の粒子の存在が減少するという利点がある。
【0103】
パラメータはまた、より大きなプロセスの特徴または側面に関係するプロキシパラメータでもあり得る。例として、kDまたはB22パラメータなどのパラメータは、プロキシパラメータと呼ぶことができる。kDとB22の測定は、業界の標準的な技術を使用して行うことができ、改善された溶液特性や溶液中のタンパク質の安定性などのプロセス関連パラメータの指標となり得る。理論に束縛されるものではないが、非常に負のkD値は、タンパク質に強い誘引性の相互作用があることを示し、凝集、不安定性、およびレオロジーの問題につながり得ることが理解される。上記の特定された賦形剤化合物またはそれらの組み合わせの存在下で製剤化された場合、同じタンパク質は、より少ない負のkD値、またはゼロ近くかもしくはそれ以上のkD値の、改善されたプロキシパラメータを有することができ、この改善されたプロキシパラメータは、プロセス関連のパラメータの改善と関連している。
【0104】
実施形態では、ヒンダードアミン、アニオン性芳香族、官能化アミノ酸、オリゴペプチド、短鎖有機酸、低分子量脂肪族ポリ酸、ジオンおよびスルホン、双性イオン性賦形剤、ならびに水素結合性元素を含むクラウディング剤などの、上に記載の賦形剤化合物またはそれらの組み合わせのいくつかは、濾過、注射器、移送、ポンプ、混合、熱伝達による加熱または冷却、ガス移送、遠心分離、クロマトグラフィ、膜分離、遠心濃縮、接線流濾過、放射状流濾過、軸流濾過、凍結乾燥、およびゲル電気泳動などの処理方法を使用して、タンパク質含有溶液の製造、処理、無菌充填、精製、分析などのタンパク質関連プロセスを改善するために使用される。これらおよび関連するタンパク質関連プロセスでは、目的のタンパク質は、処理装置を通してそれを運ぶ溶液に溶解される。本明細書で「キャリア溶液」と呼ばれるそのような溶液は、細胞培養培地(例えば、目的の分泌タンパク質を含む)、宿主細胞の溶解後の溶解液(目的のタンパク質が溶解物中に存在する)、溶出溶液(クロマトグラフ分離後の目的のタンパク質を含む)、電気泳動溶液、処理装置内の導管を通して目的のタンパク質を運ぶための輸送溶液などを含み得る。目的のタンパク質を含むキャリア溶液は、タンパク質含有溶液またはタンパク質溶液とも呼ばれ得る。以下でより詳細に記載されるように、1つ以上の上記の特定された賦形剤化合物またはそれらの組み合わせを、タンパク質含有溶液に添加して、処理の様々な側面を改善することができる。本明細書で使用される場合、「改善する」、「改善」などの用語は、そのパラメータを、対照溶液で測定されたものと同じパラメータと比較した場合、キャリア溶液における目的のパラメータの有利な変化を指す。本明細書で使用される場合、「対照溶液」は、粘度低下賦形剤を欠いているが、それ以外はキャリア溶液と実質的に同様である溶液を意味する。本明細書で使用される「対照プロセス」、例えば、対照濾過プロセス、対照クロマトグラフィプロセスなどは、目的のタンパク質関連プロセスと実質的に同様であり、キャリア溶液の代わりに対照溶液を用いて行われるタンパク質関連プロセスである。
【0105】
例えば、タンパク質含有溶液が導管(例えば、フローチャンバー、配管または管類)を通して送り込まれるプロセスでは、粘度を低下させるために、上記の特定された賦形剤化合物またはそれらの組み合わせを添加することが有利である。上に記載のように、ポンピングプロセスの前または最中に、タンパク質溶液に粘度低下賦形剤を添加することで、溶液をポンピングするために必要な力および動力を実質的に低減することができる。流体は一般に、流れに対する抵抗、すなわち粘度を示し、流れを誘発および伝播させるために、この粘度を克服する力を流体に加えなければならないことが理解される。揚程Hと吐出量Qによるポンピングスケールに必要な動力Pを、次の式に示す。
P~HQ(式1)
【0106】
粘性流体は、ポンプの所要動力を増加させ、ポンプ効率を低下させ、ポンプ揚程と容量を減少させ、配管の摩擦抵抗を増加させる傾向がある。ポンピングの前または最中に、上記の粘度低下賦形剤をタンパク質溶液に追加すると、揚程(H、Eq.1)または容量(Q、Eq.1)のいずれかまたは両方を減らすことにより、処理コストを大幅に削減できる。粘度の低下の利点は、例えば、スループットの改善、収率の改善、または処理時間の短縮によって明らかになる。さらに、導管を通る流体の伝達による摩擦損失は、そのような流体の輸送に関連するコストのかなりの部分を占める可能性がある。ポンピング前または最中に、上に記載の粘度低下賦形剤をタンパク質溶液に添加すると、ポンピングプロセスに伴う摩擦を低減することによって、処理コストを大幅に削減することができる。処理コストの測定は、粘度低下賦形剤を使用することで改善できる処理パラメータを表す。
【0107】
タンパク質溶液のこれらのプロセスおよび処理方法は、製造、処理、精製、および分析ステップ中の溶液中のタンパク質の粘度の低下、溶解度の改善、または安定性の改善により、効率を改善することができる。処理効率の測定または溶液中のタンパク質の粘度、溶解度、または安定性などの代理パラメータの測定は、粘度低下賦形剤を使用することによって改善することができる処理パラメータを表す。いくつかの異なる要因が、処理中のタンパク質の粘度、溶解度、および安定性に悪影響を及ぼすことが理解されている。例えば、タンパク質含有溶液は、製造および精製中にさまざまな物理的ストレッサーの影響を受け、限定されないが、ポンピング、混合、遠心分離、および濾過などを含む通常の処理操作を通してタンパク質溶液を操作することによって引き起こされる著しい剪断ストレスが含まれる。さらに、これらの処理ステップ中に、タンパク質が吸着され得る気泡が、流体内に混入してしまう可能性がある。そのような界面張力は、処理中に遭遇する通常の剪断ストレスと相まって、吸着されたタンパク質分子をアンフォールドし、凝集させる可能性がある。さらに、ポンプのキャビテーションイベント中や、製造中の限外濾過膜や透析濾過膜などの固体表面への曝露中に、著しいタンパク質のアンフォールディングが発生する可能性がある。そのようなイベントは、タンパク質の折りたたみと生成物の品質を損なう可能性がある。
【0108】
ニュートン流体の場合、流体の剪断速度をγ、流体の粘度をηとする所与のプロセススケールよって課せられる応力τは、次の式で示される。
τ=γη(式2)
【0109】
溶液の粘度は、1つ以上の上記の賦形剤化合物またはそれらの組み合わせを用いてタンパク質溶液を製剤化することによって、低下させることができ、したがってタンパク質溶液が遭遇する剪断ストレスを低下させることができる。剪断ストレスの減少は、処理されている製剤の安定性を改善することができ、例えば、処理パラメータのより良いまたはより望ましい測定によって明らかになる。このような改善された処理パラメータには、タンパク質凝集体、粒子、または目視不可の粒子のレベルの低下、製品損失の減少、または全体的な収率の向上などの測定基準が含まれる。改善された処理パラメータの別の例として、タンパク質含有溶液の粘度を低下させることで、溶液の処理時間を短縮することができる。所与の単位操作の処理時間は、一般的に剪断速度と反比例する。したがって、所与の特性応力に対して、上記の賦形剤化合物またはその組み合わせの添加によるタンパク質溶液の粘度の低下は、剪断速度(γ、式2を参照)の増加に関連し、したがって、処理時間の短縮に関連する。さらに、上記の特定された賦形剤化合物またはそれらの組み合わせをいくつか添加すると、処理の異なる段階中でタンパク質溶液の安定性を改善することができる。
【0110】
処理中、溶液中のタンパク質は、所望のタンパク質活性成分、例えば、治療用または非治療用タンパク質であり得ることが理解される。本明細書に記載の賦形剤を使用してこのようなタンパク質活性成分の処理を容易にすることにで、タンパク質活性成分の収量もしくは生成速度を増加させ、または特定のプロセスの効率を改善し、またはエネルギー使用を減少させることなどができ、どの結果も、粘度低下賦形剤の使用によって改善された処理パラメータを表している。また、タンパク質の汚染物質は、特定の処理技術、例えば、バイオプロセスの発酵および精製ステップの最中に形成される可能性があることも理解される。汚染物質をより迅速に、より完全に、またはより効率的に除去することにより、所望のタンパク質、すなわち、タンパク質活性成分の処理を改善することもできる。これらの結果は、粘度低下賦形剤化合物または添加剤の使用によって改善された処理パラメータを表している。本明細書に記載されるように、本明細書に記載の特定の賦形剤は、溶液粘度を低下させ、タンパク質安定性を改善し、および/またはタンパク質溶解性を増大させることによって、所望のタンパク質活性成分の輸送を改善し、望ましくないタンパク質汚染物質の除去を改善することができる。粘度低下賦形剤または添加剤の使用によって改善された処理パラメータを表す両方の効果は、これらの賦形剤または添加剤が、タンパク質製造のプロセス全体を改善することを示している。ミスフォールディングしたタンパク質、微粒子、変性タンパク質、または溶液中の不安定化したタンパク質の他のアーティファクトの低減は、処理ステップ中の安定化賦形剤の使用によって達成することができる。
【0111】
治療用タンパク質の生成と精製のための特定のプラットフォームユニットの操作は、上記の特定された賦形剤化合物またはその組み合わせの有利な使用のさらなる例を提供し、および処理パラメータを改善するこれらの賦形剤または添加剤のさらなる例を提供する。例えば、以下に記載されるように、1つ以上の上記の特定された賦形剤化合物またはそれらの組み合わせを、これらの生成および精製プロセスに導入することで、分子の安定性および回収の大幅な改善、ならびに操作コストの減少が提供され得る。
【0112】
当該技術分野では、モノクローナル抗体のような治療用タンパク質を生成および精製するために幅広く実施されている技術は、一般に、発酵プロセスとそれに続く精製処理のための一連のステップからなっていることが理解される。発酵、または上流処理(upstream processing、USP)は、治療用タンパク質を、バイオリアクターで、通常、細菌または哺乳動物の細胞株を使用して、増やすステップを含む。実施形態では、USPは、
図4に示されるようなステップを含み得る。実施形態では、精製または下流処理(downstream processing、DSP)は、
図5に示されるようなステップを含み得る。
【0113】
図4に示すように、USPは、マスター細胞バンク(master cell bank、MCB)からのバイアルを解凍するステップ102で開始され得る。ステップ104に示されるように、MCBを拡張して、ワーキングセルバンク(図示せず)を形成し、および/またはさらなる生成のためのワーキングストックを生成することができる。ステップ108および110に示されるように、細胞培養は、一連の播種および生成バイオリアクターで行い、バイオリアクター生成物112を生じ、それから、ステップ114に示されるように、所望の治療用タンパク質が採取され得る。採取114に続いて、生成物は、さらなる精製(すなわち、以下により詳細に記載され、
図5に示されるようなDSP)に供され得るか、またはこれらの生成物は、通常、凍結することおよび約-80℃の温度で保存することによって、バルクで保存され得る。
【0114】
実施形態では、細胞培養技術によるタンパク質生成は、上記の特定された賦形剤の使用によって改善することができ、プロセス関連パラメータの改善によって明らかになる。実施形態では、所望の賦形剤は、USP中に、細胞培養培地の粘度を少なくとも20%低下させるのに有効な量で添加することができる。他の実施形態では、所望の賦形剤は、USP中に、細胞培養培地の粘度を少なくとも30%低下させるのに有効な量で添加することができる。実施形態では、所望の賦形剤は、約1mM~約400mMの量で細胞培養培地に添加され得る。実施形態では、所望の賦形剤は、約20mM~約200mMの量で細胞培養培地に添加され得る。実施形態では、所望の賦形剤は、約25mM~約100mMの量で細胞培養培地に添加され得る。所望の賦形剤または賦形剤の組み合わせを、細胞培養液に直接添加するか、またはより複雑な補助培地の成分、例えば、別に製剤化され細胞培養培地に添加される栄養素を含む溶液または「給餌」溶液、として添加することができる。実施形態では、第2の賦形剤、例えば、粘度低下化合物を、直接的にまたは補助培地を介してのいずれかでキャリア溶液に添加することができ、第2の粘度低下化合物は、目的の特定のパラメータにさらなる改善を加える。
【0115】
以下に記載するように、1つまたは複数の上記の特定された賦形剤化合物またはそれらの組み合わせを使用することで改善し得る、USP中のプロセス関連のパラメータが数多くある。例えば、実施形態では、粘度低減賦形剤の使用は、播種増殖104、および細胞培養108および110などのステップ中の細胞増殖の速度および/または程度などのパラメータを改善することができ、および/またはさまざまなプロセスパラメータの改善と相関している。例えば、バイオリアクターの生成ステップ110などのステップで、上記の特定されたいくらかの賦形剤をUSPプロセスに追加すると、細胞培養培地の粘度を下げることができ、続いて、熱伝達効率とガス伝達効率を向上させることができる。細胞培養プロセスでは、タンパク質発現を可能にするために細胞への酸素注入が必要であり、したがって、細胞への酸素の拡散が律速段階になる可能性があるため、溶液の粘度を下げることを通してガス伝達効率を改善することによって酸素取り込み速度を改善すると、タンパク質発現の速度もしくは量、および/またはその効率を改善することができる。この文脈において、酸素取り込み速度およびガス移動効率の速度などのパラメータは、プロキシパラメータと見なすことができ、それらの改善は、改善されたタンパク質発現または改善された処理効率のプロセスパラメータの改善と相関する。別の例として、粘度低下賦形剤の利用可能性は、例えば、播種増殖ステップ104中および細胞培養ステップ108および110中に、成長因子の溶解度(これらの物質が細胞でさらに利用可能になり、それによって細胞増殖が促進される改善された成長因子の溶解度を用いたタンパク質発現に必要である)などのプロキシパラメータを改善することによって、処理を改善することができる。
【0116】
実施形態では、USP中のタンパク質回収の量またはタンパク質回収の割合などのプロセスパラメータは、いくつかのメカニズムによりUSP中に粘度を低下させることによって改善することができる。例えば、完了した細胞培養からの採取114中の溶解ステップの終わりでの治療用タンパク質の採取は、より効率的であり得るか、または上記の特定された賦形剤の使用以外の方法で改善され得る。理論に束縛されるものではないが、発現したタンパク質の粘度を低下させることによって、これらの粘度低下賦形剤は、他の溶解成分から離れて治療用タンパク質の拡散効率を高めることができる。さらに、タンパク質含有上清からの膜および他の細胞デブリの分離は、粘度低下賦形剤を使用することで、より速い分離速度またはより高い上清純度でもって達成することができ、それによって、USP効率のプロセスパラメータが改善される。さらに、賦形剤が培地の粘度を低下させるため、粘度低下賦形剤を使用すると、遠心分離または濾過ステップを使用するタンパク質分離ステップを、より速く達成することができる。賦形剤はまた、治療用タンパク質溶液の安定性を改善することができるため、タンパク質の上流および下流処理は、これらの賦形剤の使用から利益を享受することができる。実施形態では、賦形剤は、処理中のタンパク質のストレス耐性を改善することができ、これは、処理ステップ中のタンパク質の凝集または変性の量を低減することができる。
【0117】
実施形態では、追加の利点として、上に記載の賦形剤化合物またはそれらの組み合わせ、例えば、粘度低減賦形剤の、細胞培養における使用は、タンパク質のミスフォールディングおよび凝集が低減されるため、USP中のタンパク質の収率などのプロセスパラメータを増加させ得る。細胞培養を、組換えタンパク質の最大収率が得られるように最適化すると、得られたタンパク質は、高度に濃縮された様式で発現され、ミスフォールディングが引き起こされる可能性があることが理解される。上記の特定された賦形剤化合物またはその組み合わせ、例えば粘度低下賦形剤、を追加すると、ミスフォールディングおよび凝集につながる誘引性のタンパク質間相互作用が減少し、それによって、採取114に利用可能な無傷の組換えタンパク質の量が増加する。
【0118】
例示的な実施形態では、
図5に示される下流処理(DSP)には、治療用タンパク質、例えば、モノクローナル抗体、バイオ医薬品、ワクチン、および他の生物製剤の回収および精製をもたらす一連のステップが含まれる。USPの最後に、目的の治療用タンパク質は、宿主細胞から分泌されて、細胞培養液中に溶解され得る。治療用タンパク質はまた、USPシーケンスの最後で、宿主細胞の溶解に続いて液体培地に溶解され得る。DSPは、それが溶解されている溶液(例えば、培養液または宿主細胞溶解液)から、目的のタンパク質を回収し、それを精製するために行われる。DSPの間に、(i)様々な汚染物質(不溶性細胞デブリおよび粒子など)を培地から除去し、(ii)タンパク質生成物を抽出、沈殿、吸着または限外濾過のような技術を介して単離し、(iii)アフィニティークロマトグラフィ、沈殿または結晶化などの技術を介してタンパク質生成物を精製し、(iv)生成物をさらに磨き上げ(polish)、ウイルスを除去する。
【0119】
図5に示すように、細胞培養物採取200(
図4にも記載されている)からのフィードストックは、最初に、通常プロテインAクロマトグラフィまたは他の類似のクロマトグラフィステップを含むアフィニティークロマトグラフィ204に供される。ウイルス不活化ステップ208では、通常、フィードストックが、低pHで保持される必要がある。宿主細胞タンパク質(HCP)、DNA、電荷変異体、および凝集体などの不純物を除去するために、1つ以上の磨き上げクロマトグラフィステップ210および212が行われる。陽イオン交換(CEX)クロマトグラフィは、最初の磨き上げクロマトグラフィステップ210として一般的に使用されるが、それに先行する、またはそれに続く第2のクロマトグラフィステップ212を伴ってもよい。第2のクロマトグラフィステップ212はさらに、宿主細胞関連の不純物(例えば、HCPまたはDNA)、あるいは凝集体などの産物関連不純物を除去する。陰イオン交換(AEX)クロマトグラフィおよび疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)を、第2のクロマトグラフィステップ212として使用することができる。ウイルス除去を行うために、ウイルス濾過214が実行される。最終精製ステップ218は、限外濾過および透析濾過、ならびに製剤の調製を含み得る。
【0120】
概して上に記載したように、発酵プロセスに続く精製プロセスまたはDSPには、(1)細胞培養物の採取、(2)クロマトグラフィ(例えば、プロテインAクロマトグラフィ、ならびにイオン交換および疎水性相互作用クロマトグラフィを含むクロマトグラフィ磨き上げ精製ステップ)、(3)ウイルス不活化、および(4)濾過(例えば、ウイルス濾過、滅菌濾過、透析、およびタンパク質を濃縮し、タンパク質を製剤緩衝液に交換するための限外濾過もしくは透析濾過のステップ)が含まれる。実施例は、これらの精製プロセスに関連するプロセスパラメータを改善するために、上記の特定された賦形剤化合物またはそれらの組み合わせ、例えば、粘度低下賦形剤を使用することによる利点を説明するために、以下に提供される。上記の特定された賦形剤化合物またはそれらの組み合わせ、例えば、粘度低下賦形剤は、それをキャリア溶液に添加することによって、または他の方法で目的のタンパク質と賦形剤の可溶化もしくは安定化された形態での接触を改変することによって、DSPの任意の段階で導入され得ることが理解される。実施形態では、第2の賦形剤、例えば、粘度低下化合物は、DSPの間にキャリア溶液に添加されてもよく、第2の化合物は、目的の特定のパラメータに追加の改善を加える。
【0121】
(1)細胞培養物の採取:細胞培養物の採取には、一般に遠心分離とデプス濾過操作が含まれ、細胞デブリがタンパク質含有溶液から物理的に除去される。遠心分離ステップでは、粘度低下賦形剤の利点により、細胞破デブリからの可溶性タンパク質のより完全な分離を提供することができる。バッチ処理または連続処理によってなされても、遠心分離は、標的タンパク質の回収率を最大化するために、高密度相を可能な限り固める必要がある。実施形態では、上記の特定された賦形剤またはそれらの組み合わせの添加は、例えば、遠心分離プロセスの高密度相から流出するタンパク質含有分離液の収量を増加させることによって、タンパク質収量のプロセスパラメータを増加させ得る。デプス濾過ステップは、粘度で制限されるステップであるため、溶液の粘度を低下させる賦形剤を使用することによって、より効率的にすることができる。また、これらのプロセスは、タンパク質溶液に気泡を導入する可能性があり、剪断誘導性のストレスと相まって、精製される治療用タンパク質分子を不安定化させる可能性がある。上に記載のように、細胞培養物の採取前および/または最中に、タンパク質含有溶液に粘度低下賦形剤を添加すると、これらのストレスからタンパク質を保護し、それによってタンパク質凝集の可能性を低減し、定量化される製品回収のプロセスパラメータを改善することができる。
【0122】
(2)クロマトグラフィ:遠心分離または濾過による細胞培養物を採取後、通常、クロマトグラフィを使用して、発酵ブロスから治療用タンパク質を分離する。プロテインAクロマトグラフィは、治療用タンパク質が抗体である場合に使用される。プロテインAは、IgG抗体に対して選択的であり、速い流速と容量で動的に結合する。陽イオン交換(CEX)クロマトグラフィは、プロテインAクロマトグラフィの費用対効果の高い代替手段として使用することができる。CEXを使用する場合は、動的結合容量を最適化するために、カラムに負荷する前に、供給液のpHを調整し、その電導度を下げる必要がある。模倣樹脂は、プロテインAクロマトグラフィの代替物としても使用できる。これらの樹脂は、免疫グロブリン、例えばプロテインGやプロテインLのようなIg結合タンパク質、合成リガンド、またはプロテインA様の多孔性ポリマーを結合するためのリガンドを提供する。
【0123】
DSP中に、他のクロマトグラフィプロセスを使用することができる。イオン交換クロマトグラフィ(IEC)を使用して、以前のプロセス中に導入された不純物(細胞株からの浸出したプロテインA、エンドトキシンまたはウイルス、残留している宿主細胞タンパク質もしくはDNA、または培地成分など)を除去することができる。IECは、CEXでも陰イオン交換クロマトグラフィでも、プロテインAクロマトグラフィの直後に適用することができる。疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)は、凝集体を除去するための磨き上げステップとして一般的に使用されるIECを補完することができる。実施形態では、上記の特定された賦形剤を使用して、クロマトグラフィカラムの負荷ステップ中に、宿主細胞タンパク質の溶解度を増加させ、粘度を減少させることができる。実施形態では、上記の特定された賦形剤を使用して、クロマトグラフィカラムの負荷ステップおよび溶出ステップの間に、治療用タンパク質の溶解度を増加させ、その粘度を減少させることができる。
【0124】
タンパク質精製中のクロマトグラフィプロセスでは、(a)Protein-Aクロマトグラフィカラムからの溶出中の低pH条件、(b)クロマトグラフィ樹脂の孔隙内での、局所タンパク質濃度の上昇(しばしば、300~400mg/mL程度)内、(c)イオン交換クロマトグラフィ中の塩濃度の上昇、(d)HICカラムからの溶出中の塩析剤の濃度の上昇など、タンパク質製剤に厳しい条件が課せられる。上に記載のように、クロマトグラフィの前および/または最中に、タンパク質含有溶液に粘度低下賦形剤を添加すると、クロマトグラフィカラムを通過するタンパク質の移行が容易になるため、クロマトグラフィ処理ステップによって課せられる潜在的な損傷条件にさらされることが少なくなる。さらに、カラム孔隙内で局所タンパク質濃度が高くなると、この空間内に粘度の高い物質が生じ、カラムに大きな背圧がかかる。この背圧を緩和するために、通常、比較的大きな細孔を有する媒体が使用される。しかしながら、大孔径媒体の分解能は、小孔径媒体よりも低くなる。上に記載の粘度改変賦形剤を組み込むと、クロマトグラフィ媒体でより小さな細孔が使用できるようになる。実施形態では、プロテインAクロマトグラフィからの溶出ステップは、治療用タンパク質を、溶解度を低下させ、凝集を増加させ得る低pH条件に曝す。賦形剤を添加すると、標的タンパク質の溶解度を増加させることができるため、プロテインAクロマトグラフィステップからの回収率が改善される。他の実施形態では、賦形剤の使用で、より高いpHでプロテインA樹脂から標的タンパク質を溶出することができるようになり、これにより、標的タンパク質に対する化学的ストレスが軽減され、その結果、処理中のタンパク質分解の量が低減されて、タンパク質収率のプロセスパラメータが改善される。
【0125】
(3)ウイルス不活化:ウイルス不活化プロセスは、通常、タンパク質溶液を、低pH、例えば、4より低いpHに長期間保持することを含む。ただし、この環境は、治療用タンパク質を不安定化する可能性がある。例えば、ウイルス不活化プロセスの前および/またはその最中に、粘度低下賦形剤を添加することによって、粘度低下賦形剤の存在下でタンパク質を製剤化すると、タンパク質の安定性もしくは溶解度、またはその正味の収率などのプロセスパラメータを改善することができる。
【0126】
(4)濾過:濾過プロセスには、ウイルス粒子を除去するためのウイルス濾過プロセス(ナノ濾過)、ならびにタンパク質溶液を濃縮するため、および緩衝液システムを交換するための、限外濾過/透析濾過プロセスが含まれる。
【0127】
(a)ウイルス濾過はウイルス粒子を除去することによってタンパク質溶液を精製し、組換えヒトモノクローナル抗体のサイズの2倍のオーダーで有り得る。したがって、ウイルス濾過用の濾過膜には、ナノサイズの細孔が必要とされ得る。タンパク質が小さな細孔サイズを通過しなければならず、結果として、この濾過ステップは、タンパク質にストレスを導入する可能性があり、タンパク質の凝集粒子による有意なレベルの膜の汚損を伴う。上に記載のように、例えば、濾過の前および/または最中に、粘度低下賦形剤を添加すると、協同拡散率が増加することによって、濾過システムの背圧などの測定可能なパラメータを減少させることができ、膜汚損の傾向を、それを引き起こすタンパク質間相互作用が緩和されることで、減少させることができる。最終結果として、タンパク質精製中のウイルス濾過ユニットの性能の改善を示すこれらのパラメータが改善される。
【0128】
(b)限外濾過および透析濾過(UF/DF)プロセスは、目的のタンパク質よりも小さい特徴的な分子量カットオフを有するフィルター膜に、タンパク質含有溶液を通過させることによって、タンパク質溶液を濃縮し、緩衝液システムを交換する。このステップでは、タンパク質溶液は、フィルターユニット内の高い剪断ストレス、タンパク質濃度の上昇、UF/DFプロセス中に通常使用される疎水性膜へのタンパク質の吸着、にされされる。上に記載のように、例えば、UF/DFプロセスの前および/または最中に、粘度低下賦形剤を添加すると、協同拡散率が増加することによって(例えば、kDの増加によって測定される)、濾過システムの背圧を減少させることができる。これは、膜全体の剪断ストレスを減らすだけでなく、フィルター膜からの逆拡散をも促進するため、膜界面での有効タンパク質濃度が低下し、透過流束が増加する。その結果、粘度低下賦形剤を使用すると、これらの濾過プロセス中のスループットの向上に関連するパラメータが改善され、生成物の損失が減少し、正味の収率が増加する。さらに、粘性流体を限外および透析フィルターに通すと、フィルター装置全体で大きな圧力降下が発生し、分離が非効率になる可能性がある。上に記載のように、粘度低下賦形剤の存在下でタンパク質溶液を製剤化すると、フィルター装置全体での圧力低下を大幅に減少させることができ、それによって、操作コストおよび処理時間の両方が低減することで、プロセスパラメータが改善する。
【0129】
添加された賦形剤を用いて、上流のタンパク質処理または下流の精製が完了した後、賦形剤は、原薬混合物の一部として残るか、またはタンパク質活性成分から分離され得る。緩衝液交換、イオン交換、限外濾過、および透析などの典型的な小分子分離法を使用して、タンパク質活性成分から賦形剤を分離することができる。上に概説したタンパク質精製プロセスに対する有益な効果に加えて、上記の特定された賦形剤の使用により、タンパク質の製造、処理、および精製で使用される機器を保護および維持することができる。例えば、タンパク質処理設備のクリーンアップ、滅菌、メンテナンスなどの設備関連のプロセスは、上記の特定された賦形剤の使用により、汚損の減少、変性の減少、粘度の低下、およびタンパク質の溶解度の改善の結果、促進され、これらのプロセスの改善に関連するパラメータも同様に改善される。
【0130】
上流および/または下流の処理を改善するための賦形剤化合物の使用について、本明細書に広く記載されているが、目的のパラメータを改善するなどの所望の効果を達成するために、賦形剤を組み合わせて一緒に添加され得ることが理解される。「賦形剤添加剤」という用語は、所望の効果または改善されたパラメータをもたらす単一の賦形剤化合物、または賦形剤化合物の組み合わせを指し、ここで、組み合わせは、所望の効果または改善されたパラメータの原因となる。
【実施例】
【0131】
材料:
●ウシガンマグロブリン(BGG)、純度>99%、カタログ番号G5009、Sigma Aldrich
●ヒスチジン、Sigma Aldrich
●下記の実施例に記載されているもの以外の材料は、特に指定しない限り、Sigma Aldrichから入手した。
【0132】
実施例1:賦形剤化合物および試験タンパク質を含む製剤の調製
製剤は、賦形剤化合物および試験タンパク質を使用して調製され、試験タンパク質は、治療用製剤で使用される治療用タンパク質または非治療用製剤で使用される非治療用タンパク質のいずれかを模擬するように意図されている。このような製剤は、以下の方法で粘度を測定するために、異なる賦形剤化合物を含む50mMの塩酸ヒスチジン中に調製した。最初に、1.94gのヒスチジンを蒸留水に溶解し、1Mの塩酸(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)でpHを約6.0に調整し、次いでメスフラスコ中で蒸留水で250mLの最終容量に希釈することによって、ヒスチジン塩酸を調製した。次いで、賦形剤化合物を、50mMのヒスチジンHClに溶解した。賦形剤のリストは、以下の実施例4、5、6、および7に提供されている。場合によっては、50mMヒスチジンHClに溶解する前に、賦形剤化合物をpH6に調整した。この場合、最初に賦形剤化合物を脱イオン水に約5wt%で溶解し、塩酸または水酸化ナトリウムを使用して、pHを約6.0に調整した。次いで、調製した塩溶液を約65℃の対流式実験用オーブンに入れて、水を蒸発させ、固体の賦形剤を単離した。50mMのヒスチジンHCl中の賦形剤溶液を調製したら、試験タンパク質のウシガンマグロブリン(BGG)を、賦形剤溶液1mLあたり約0.336gのBGGの比率で溶解した。これにより、タンパク質の最終濃度が約280mg/mLになった。賦形剤を含む50mMヒスチジンHCl中のBGGの溶液を、20mLバイアル中に配合し、オービタルシェーカーテーブル上で100rpmで一晩振盪させた。次いで、BGG溶液を2mLマイクロ遠心管に移し、IEC MicroMaxマイクロ遠心機で2300rpmで10分間遠心分離して、粘度測定の前に、混入した空気を除去した。
【0133】
実施例2:粘度測定
実施例1に記載のように調製された製剤の粘度測定は、DV-IIT LVコーンおよびプレート粘度計(Brookfield Engineering、Middleboro、MA)を用いて行った。粘度計に、CP-40コーンを備え付け、3rpm、25℃で操作した。製剤を、0.5mLの容量で粘度計に負荷し、所定の剪断速度と温度で3分間インキュベートした後、20秒間の測定収集時間が続いた。これに次いで、1分間の剪断インキュベーションとその後の20秒間の測定収集期間からなる2つの追加ステップが続いた。次いで、収集された3つのデータポイントを平均し、サンプルの粘度として記録した。
【0134】
実施例3:タンパク質濃度の測定
実験溶液中のタンパク質の濃度は、UV/VIS分光計(Perkin Elmer Lambda 35)で、280nmの波長でタンパク質溶液の吸光度を測定することによって決定した。最初に、機器を、pH6の50mMのヒスチジン緩衝液で吸光度がゼロになるように較正した。次に、タンパク質溶液を、同じヒスチジン緩衝液で300倍に希釈し、280nmでの吸光度を記録した。溶液中のタンパク質の最終濃度は、1.264mL/(mg x cm)の吸光係数値を使用して計算した。
【0135】
実施例4:ヒンダードアミンの賦形剤化合物を含む製剤
280mg/mLのBGGを含む製剤は、添加された賦形剤化合物を含むいくつかのサンプルを使用して、実施例1に記載のように調製した。これらの試験では、ジメチルシクロヘキシルアミン(DMCHA)、ジシクロヘキシルメチルアミン(DCHMA)、ジメチルアミノプロピルアミン(DMAPA)、トリエタノールアミン(TEA)、ジメチルエタノールアミン(DMEA)、およびナイアシンアミドの塩酸塩が、ヒンダードアミン賦形剤化合物の例として試験された。また、ヒンダードアミン賦形剤化合物の例として、DMCHAのヒドロキシ安息香酸塩とタウリン-ジシアンジアミド付加物を試験した。各タンパク質溶液の粘度を、実施例2に記載のように測定し、結果を、以下の表1に提示し、添加された賦形剤化合物が、粘度を低下させる利点を示す。
【表1】
【0136】
実施例5:アニオン性芳香族の賦形剤化合物を含む製剤
添加された賦形剤化合物を含むいくつかのサンプルを用いて、280mg/mLのBGGの製剤を、実施例1に記載のように調製した。各溶液の粘度を、実施例2に記載のように測定し、結果を下の表2に提示し、添加された賦形剤化合物が、粘度を低下させる利点を示す。
【表2】
【0137】
実施例6:オリゴペプチドの賦形剤化合物を含む製剤
オリゴペプチド(n=5)は、NeoBioLab Inc.(Woburn、MA)により、純度95%超で、N末端を遊離アミンとして、C末端を遊離酸として合成した。ジペプチド(n=2)は、LifeTein LLC(Somerset、NJ)によって95%の純度で合成した。添加された賦形剤化合物として合成オリゴペプチドを含むいくつかのサンプルを用いて、実施例1に記載のように280mg/mLのBGGの製剤を調製した。各溶液の粘度を、実施例2に記載のように測定し、結果を下の表3に提示し、添加された賦形剤化合物が、粘度を低下させる利点を示す。
【表3】
【0138】
実施例7:グアニルタウリンの賦形剤の合成
グアニルタウリンは、米国特許第2,230,965号に記載の方法に従って調製した。タウリン(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)3.53部を1.42部のジシアンジアミド(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)と混合し、均一な混合物が得られるまで、乳鉢と乳棒で粉砕した。次に、混合物をフラスコに入れ、200℃で4時間加熱した。生成物を、さらに精製することなく使用した。
【0139】
実施例8:賦形剤化合物を含むタンパク質製剤
製剤は、賦形剤化合物および試験タンパク質を使用して調製され、試験タンパク質は、治療用製剤で使用される治療用タンパク質または非治療用製剤で使用される非治療用タンパク質のいずれかを模擬するように意図されている。そのような製剤を、以下の方法で粘度を測定するために、異なる賦形剤化合物を含む50mM塩酸ヒスチジン緩衝液中に調製した。最初に、1.94gのヒスチジンを蒸留水に溶解し、1Mの塩酸(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)でpHを約6.0に調整し、次いでメスフラスコ中で蒸留水で250mLの最終容量に希釈することによって、ヒスチジン塩酸緩衝液を最初に調製した。次いで、賦形剤化合物を50mMのヒスチジンHCl緩衝液に溶解した。表4に、賦形剤化合物のリストを提供する。場合によっては、賦形剤化合物を50mMのヒスチジンHCl緩衝液に溶解し、モデルタンパク質を溶解する前に、得られた溶液のpHを、少量の水酸化ナトリウムまたは塩酸で調整してpH6にした。場合によっては、50mMのヒスチジンHClに溶解する前に、賦形剤化合物をpH6に調整した。この場合、最初に賦形剤化合物を脱イオン水に約5wt%で溶解し、塩酸または水酸化ナトリウムを使用して、pHを約6.0に調整した。次いで、調製した塩溶液を約65℃の対流式実験用オーブンに入れて、水を蒸発させ、固体の賦形剤を単離した。50mMのヒスチジンHCl中の賦形剤溶液を調製したら、試験タンパク質のウシガンマグロブリン(BGG)を、約280mg/mLの最終タンパク質濃度を達成する比率で溶解した。賦形剤を含む50mMヒスチジンHCl中のBGGの溶液を、20mLバイアル中に配合し、オービタルシェーカーテーブル上で100rpmで一晩振盪させた。次いで、BGG溶液を2mLマイクロ遠心管に移し、IEC MicroMaxマイクロ遠心機で2300rpmで10分間遠心分離して、粘度測定の前に、混入した空気を除去した。
【0140】
上記のように調製された製剤の粘度測定は、DV-IIT LVコーンおよびプレート粘度計(Brookfield Engineering、Middleboro、MA)を用いて行った。粘度計に、CP-40コーンを備え付け、3rpm、25℃で操作した。製剤を、0.5mLの容量で粘度計に負荷し、所定の剪断速度と温度で3分間インキュベートした後、20秒間の測定収集時間が続いた。これに次いで、1分間の剪断インキュベーションとその後の20秒間の測定収集期間からなる2つの追加ステップが続いた。次いで、収集された3つのデータポイントを平均し、サンプルの粘度として記録した。賦形剤を含む溶液の粘度は、賦形剤を含まないモデルタンパク質溶液の粘度に正規化された。正規化された粘度は、賦形剤を含まないモデルタンパク質溶液の粘度に対する、賦形剤を含むモデルタンパク質溶液の粘度の比率である。
【表4】
【0141】
実施例9:賦形剤の組み合わせおよび試験タンパク質を含む製剤の調製
製剤は、一次賦形剤化合物、二次賦形剤化合物および試験タンパク質を使用して調製され、試験タンパク質は、治療用製剤で使用される治療用タンパク質または非治療用製剤で使用される非治療用タンパク質のいずれかを模擬するように意図されている。一次賦形剤化合物は、以下の表5にリストされているように、アニオン性および芳香族の両方の官能性を有する化合物から選択された。二次賦形剤化合物は、以下の表5にリストされているように、pH6で非イオン性またはカチオン性電荷のいずれかを有し、およびイミダゾリン環またはベンゼン環のいずれかを有する化合物から選択された。これらの賦形剤の製剤は、以下の方法で粘度を測定するために、50mMのヒスチジン塩酸緩衝液中に調製された。最初に、1.94gのヒスチジンを蒸留水に溶解し、1Mの塩酸(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)でpHを約6.0に調整し、次いでメスフラスコ中で蒸留水で250mLの最終容量に希釈することによって、ヒスチジン塩酸を調製した。次いで、個々の一次または二次賦形剤化合物を、50mMのヒスチジンHClに溶解した。一次および二次賦形剤の組み合わせを、50mMのヒスチジンHClに溶解し、モデルタンパク質を溶解する前に、得られた溶液のpHを、少量の水酸化ナトリウムまたは塩酸で調整してpH6にした。上記のように賦形剤溶液が調製されたら、試験タンパク質のウシガンマグロブリン(BGG)を、約280mg/mLの最終タンパク質濃度を達成する比率で各試験溶液に溶解した。賦形剤を含む50mMヒスチジンHCl中のBGGの溶液を、20mLバイアル中に配合し、オービタルシェーカーテーブル上で100rpmで一晩振盪させた。次いで、BGG溶液を2mLマイクロ遠心管に移し、IEC MicroMaxマイクロ遠心機で2300rpmで10分間遠心分離して、粘度測定の前に、混入した空気を除去した。
【0142】
上記のように調製された製剤の粘度測定は、DV-IIT LVコーンおよびプレート粘度計(Brookfield Engineering、Middleboro、MA)を用いて行った。粘度計に、CP-40コーンを備え付け、3rpm、25℃で操作した。製剤を、0.5mLの容量で粘度計に負荷し、所定の剪断速度と温度で3分間インキュベートした後、20秒間の測定収集時間が続いた。これに次いで、1分間の剪断インキュベーションとその後の20秒間の測定収集時間からなる2つの追加ステップが続いた。次いで、収集された3つのデータポイントを平均し、サンプルの粘度として記録した。賦形剤を含む溶液の粘度は、賦形剤を含まないモデルタンパク質溶液の粘度に正規化され、以下の表5にまとめられている。正規化された粘度は、賦形剤を含まないモデルタンパク質溶液の粘度に対する、賦形剤を含むモデルタンパク質溶液の粘度の比率である。この実施例は、一次および二次賦形剤の組み合わせが、単一の賦形剤よりも良好な結果をもたらす可能性があることを示している。
【表5】
【0143】
実施例10:賦形剤の組み合わせおよび試験タンパク質を含む製剤の調製
製剤は、一次賦形剤化合物、二次賦形剤化合物および試験タンパク質を使用して調製され、試験タンパク質は、治療用製剤で使用される治療用タンパク質または非治療用製剤で使用される非治療用タンパク質を模擬するように意図されている。一次賦形剤化合物は、以下の表6にリストされているように、アニオン性および芳香族の両方の官能性を有する化合物から選択された。二次賦形剤化合物は、以下の表6にリストされているように、pH6で非イオン性またはカチオン性電荷のいずれかを有し、およびイミダゾリン環またはベンゼン環のいずれかを有する化合物から選択された。これらの賦形剤の製剤は、以下の方法で粘度を測定するために、蒸留水中に調製された。一次および二次賦形剤の組み合わせを、蒸留水に溶解し、モデルタンパク質を溶解する前に、得られた溶液のpHを、少量の水酸化ナトリウムまたは塩酸で調整してpH6にした。蒸留水中の賦形剤溶液が調製されたら、試験タンパク質のウシガンマグロブリン(BGG)を、約280mg/mLの最終タンパク質濃度を達成する比率で溶解した。賦形剤を含む蒸留水中のBGGの溶液を、20mLバイアル中に配合し、オービタルシェーカーテーブル上で100rpmで一晩振盪させた。次いで、BGG溶液を2mLマイクロ遠心管に移し、IEC MicroMaxマイクロ遠心機で2300rpmで10分間遠心分離して、粘度測定の前に、混入した空気を除去した。
【0144】
上記のように調製された製剤の粘度測定は、DV-IIT LVコーンおよびプレート粘度計(Brookfield Engineering、Middleboro、MA)を用いて行った。粘度計に、CP-40コーンを備え付け、3rpm、25℃で操作した。製剤を、0.5mLの容量で粘度計に負荷し、所定の剪断速度と温度で3分間インキュベートした後、20秒間の測定収集時間が続いた。これに次いで、1分間の剪断インキュベーションとその後の20秒間の測定収集時間からなる2つの追加ステップが続いた。次いで、収集された3つのデータポイントを平均し、サンプルの粘度として記録した。賦形剤を含む溶液の粘度は、賦形剤を含まないモデルタンパク質溶液の粘度に正規化され、以下の表6にまとめられている。正規化された粘度は、賦形剤を含まないモデルタンパク質溶液の粘度に対する、賦形剤を含むモデルタンパク質溶液の粘度の比率である。この実施例は、一次および二次賦形剤の組み合わせが、単一の賦形剤よりも良好な結果をもたらす可能性があることを示している。
【表6】
【0145】
実施例11:賦形剤化合物およびPEGを含む製剤の調製
材料:すべての材料は、Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州から購入した。製剤は、賦形剤化合物およびPEGを使用して調製され、PEGは、治療用製剤で使用される治療用PEG化タンパク質を模擬するように意図されている。このような製剤は、等量のPEG溶液を賦形剤溶液と混合することによって調製された。どちらの溶液も、pH7.3の10mMのTris、135mMのNaCl、1mMのtrans-桂皮酸からなるTris緩衝液で調製した。PEG溶液は、3gのポリ(エチレンオキシド)平均分子量約1,000,000(Aldrich Catalog # 372781)を97gのTris緩衝液と混合することによって調製した。完全に溶解させるために、混合物を一晩撹拌した。
【0146】
賦形剤溶液の調製の例は、次の通りである。Tris緩衝液中のクエン酸の約80mg/mL溶液は、0.4gのクエン酸(Aldrich cat.#251275)を5mLのTris緩衝液に溶解し、最小量の10MのNaOH溶液でpHを7.3に調整した。PEG賦形剤溶液は、0.5mLのPEG溶液を0.5mLの賦形剤溶液と混合することによって調製され、数秒間ボルテックスを使用することによって混合した。対照サンプルは、0.5mLのPEG溶液を0.5mLのTris緩衝液と混合して調製した。
【0147】
実施例12:賦形剤化合物およびPEGを含む製剤の粘度測定
調製された製剤の粘度測定は、DV-IIT LVコーンおよびプレート粘度計(Brookfield Engineering、Middleboro、MA)を用いて行った。粘度計に、CP-40コーンを備え付け、3rpm、25℃で操作した。製剤を、0.5mLの容量で粘度計に負荷し、所定の剪断速度と温度で3分間インキュベートした後、20秒間の測定収集時間が続いた。これに次いで、1分間の剪断インキュベーションとその後の20秒間の測定収集期間からなる2つの追加ステップが続いた。次いで、収集された3つのデータポイントを平均し、サンプルの粘度として記録した。
【0148】
表7に提示される結果は、添加された賦形剤化合物が粘度を低下させる効果を示している。
【表7】
【0149】
実施例13:BSA分子当たり1つのPEG鎖を有するPEG化BSAの調製
ビーカーに、200mLのリン酸緩衝生理食塩水(Aldrich Cat.#P4417)および4gのBSA(Aldrich Cat.#A7906)を添加し、磁気棒を用いて混合した。次に、400mgのメトキシポリエチレングリコールマレイミド、MW=5,000、(Aldrich Cat.#63187)を添加した。反応混合物を、室温で一晩反応させた。翌日、20滴の0.1MのHClを加えて反応を停止させた。反応生成物は、SDS-PAGEおよびSECにより特徴付けられ、PEG化BSAを明確に示した。反応混合物を、30kDaの分子量カットオフ(MWCO)を有するAmicon遠心管に入れ、数ミリリットルに濃縮した。次に、サンプルを、pHが約6の50mMのヒスチジン緩衝液で20倍に希釈し、続いて、高粘度の液体が得られるまで濃縮した。タンパク質溶液の最終濃度は、280nmで吸光度を測定し、BSAの吸光係数0.6678を使用することによって取得した。結果は、溶液中のBSAの最終濃度が342mg/mLであることを示した。
【0150】
実施例14:BSA分子あたり複数のPEG鎖を有するPEG化BSAの調製
リン酸緩衝液(25mM、pH7.2)中の5mg/mLのBSA(Aldrich A7906)の溶液は、0.5gのBSAを100mLの緩衝液と混合することによって調製した。次に、1gのメトキシPEGプロピオンアルデヒドMw=20,000(JenKem Technology, Plano, TX 75024)を添加し、続いて0.12gのシアノ水素化ホウ素ナトリウム(Aldrich 156159)を添加した。反応を、室温で一晩進行させた。翌日、反応混合物をTris緩衝液(10mM Tris、135mM NaCl、pH=7.3)で13倍に希釈し、Amicon遠心管(MWCO 30kDa)を使用して、濃度が約150mg/mLに達するまで濃縮した。
【0151】
実施例15:リゾチーム分子あたり複数のPEG鎖を有するPEG化リゾチームの調製
リン酸緩衝液(25mM、pH7.2)中の5mg/mLのリゾチーム(Aldrich L6876)の溶液は、0.5gのリゾチームを100mLの緩衝液と混合することによって調製した。次に、1gのメトキシPEGプロピオンアルデヒドMw=5,000(JenKem Technology,Plano,TX 75024)を添加し、続いて0.12gのシアノ水素化ホウ素ナトリウム(Aldrich 156159)を添加した。反応を、室温で一晩進行させた。翌日、反応混合物をリン酸緩衝液(25mM、pH7.2)で49倍に希釈し、Amicon遠心管(MWCO 30kDa)を使用して濃縮した。タンパク質溶液の最終濃度は、280nmで吸光度を測定し、リゾチームの吸光係数2.63を使用することによって取得した。溶液中のリゾチームの最終濃度は、140mg/mLであった。
【0152】
実施例16:BSA分子当たり1つのPEG鎖を有するPEG化BSAの粘度に対する賦形剤の影響
賦形剤を含むPEG化BSA(上記の実施例13から)の製剤は、6または12ミリグラムの賦形剤塩を0.3mLのPEG化BSA溶液に添加することによって調製した。溶液を穏やかに振盪することによって混合し、粘度を、A10チャネル(深さ100ミクロン)を備えたRheoSense microViscにより、500s
-1の剪断速度で測定した。粘度計の測定は、周囲温度で完了した。表8に提示される結果は、添加された賦形剤化合物が粘度を低下させる効果を示している。
【表8】
【0153】
実施例17:BSA分子あたり複数のPEG鎖を有するPEG化BSAの粘度に対する賦形剤の影響
賦形剤としてクエン酸Na塩を有するPEG化BSA(上記の実施例14から)の製剤は、8ミリグラムの賦形剤塩を0.2mLのPEG化BSA溶液に添加することによって調製した。溶液を穏やかに振盪することによって混合し、粘度を、A10チャネル(深さ100ミクロン)を備えたRheoSense microViscにより、500s
-1の剪断速度で測定した。粘度計の測定は、周囲温度で完了した。表9に提示される結果は、添加された賦形剤化合物が粘度を低下させる効果を示している。
【表9】
【0154】
実施例18:リゾチーム分子あたり複数のPEG鎖を有するPEG化リゾチームの粘度に対する賦形剤の影響
賦形剤として酢酸カリウムを有するPEG化リゾチーム(上記の実施例15から)の製剤は、6ミリグラムの賦形剤塩を0.3mLのPEG化リゾチーム溶液に添加することによって調製した。溶液を穏やかに振盪することによって混合し、粘度を、A10チャネル(深さ100ミクロン)を備えたRheoSense microViscにより、500s
-1の剪断速度で測定した。粘度計の測定は、周囲温度で完了した。表10に提示される結果は、添加された賦形剤化合物が粘度を低下させる利点を示している。
【表10】
【0155】
実施例19:賦形剤の組み合わせを含むタンパク質製剤
製剤は、賦形剤化合物または2つの賦形剤化合物と試験タンパク質の組み合わせを使用して調製され、試験タンパク質は、治療用製剤で使用される治療用タンパク質を模擬するように意図されている。これらの製剤は、以下の方法で粘度を測定するために、異なる賦形剤化合物を含む20mMのヒスチジン緩衝液中に調製した。賦形剤の組み合わせを、20mMのヒスチジンに溶解し、モデルタンパク質を溶解する前に、得られた溶液のpHを、少量の水酸化ナトリウムまたは塩酸で調整してpH6にした。この実施例の賦形剤化合物を、以下の表11に列挙する。賦形剤溶液が調製されたら、試験タンパク質のウシガンマグロブリン(BGG)を、約280mg/mLの最終タンパク質濃度を達成する比率で溶解した。賦形剤溶液中のBGGの溶液を、5mL滅菌ポリプロピレンチューブ中に配合し、オービタルシェーカーテーブル上で80~100rpmで一晩振盪させた。次いで、BGG溶液を2mLマイクロ遠心管に移し、IEC MicroMaxマイクロ遠心機で2300rpmで約10分間遠心分離して、粘度測定の前に、混入した空気を除去した。
【0156】
上記のように調製された製剤の粘度測定は、DV-IIT LVコーンおよびプレート粘度計(Brookfield Engineering、Middleboro、MA)を用いて行った。粘度計に、CP-40コーンを備え付け、3rpm、25℃で操作した。製剤を、0.5mLの容量で粘度計に負荷し、所定の剪断速度と温度で3分間インキュベートした後、20秒間の測定収集時間が続いた。これに次いで、1分間の剪断インキュベーションとその後の20秒間の測定収集期間からなる2つの追加ステップが続いた。次いで、収集された3つのデータポイントを平均し、サンプルの粘度として記録した。賦形剤を含む溶液の粘度は、賦形剤を含まないモデルタンパク質溶液の粘度に正規化され、結果を、以下の表11に示す。正規化された粘度は、賦形剤を含まないモデルタンパク質溶液の粘度に対する、賦形剤を含むモデルタンパク質溶液の粘度の比率である。
【表11】
【0157】
実施例20:粘度および注射時疼痛を軽減するための賦形剤を含むタンパク質製剤
製剤は、賦形剤化合物、第2の賦形剤化合物、および試験タンパク質を使用して調製され、試験タンパク質は、治療用製剤で使用される治療用タンパク質を模擬するように意図されている。第1の賦形剤化合物である賦形剤Aは、局所麻酔特性を有する化合物の群から選択された。第1の賦形剤(賦形剤A)、および第2の賦形剤(賦形剤B)を、表12に列挙する。これらの製剤は、20mMのヒスチジン緩衝液中で、賦形剤Aと賦形剤Bを次のように使用して調製され、それらの粘度が測定され得るようにした。表12に開示される量の賦形剤を、20mMのヒスチジンに溶解し、モデルタンパク質を溶解する前に、得られた溶液のpHを、少量の水酸化ナトリウムまたは塩酸で調整してpH6にした。賦形剤溶液が調製されたら、試験タンパク質のウシガンマグロブリン(BGG)を、約280mg/mLの最終タンパク質濃度を達成する比率で賦形剤溶液に溶解した。賦形剤溶液中のBGGの溶液を、5mL滅菌ポリプロピレンチューブ中に配合し、オービタルシェーカーテーブル上で80~100rpmで一晩振盪させた。次いで、BGG-賦形剤溶液を2mLマイクロ遠心管に移し、IEC MicroMaxマイクロ遠心機で2300rpmで約10分間遠心分離して、粘度測定の前に、混入した空気を除去した。
【0158】
上記のように調製された製剤の粘度測定は、DV-IIT LVコーンおよびプレート粘度計(Brookfield Engineering、Middleboro、MA)を用いて行った。粘度計に、CP-40コーンを備え付け、3rpm、25℃で操作した。製剤を、0.5mLの容量で粘度計に負荷し、所定の剪断速度と温度で3分間インキュベートした後、20秒間の測定収集時間が続いた。これに次いで、1分間の剪断インキュベーションとその後の20秒間の測定収集期間からなる2つの追加ステップが続いた。次いで、収集された3つのデータポイントを平均し、サンプルの粘度として記録した。賦形剤を含む溶液の粘度は、賦形剤を含まないモデルタンパク質溶液の粘度に正規化され、結果を、以下の表12に示す。正規化された粘度は、賦形剤を含まないモデルタンパク質溶液の粘度に対する、賦形剤を含むモデルタンパク質溶液の粘度の比率である。
【表12】
【0159】
実施例21:賦形剤化合物およびPEGを含む製剤
製剤は、賦形剤化合物およびPEGを使用して調製され、PEGは、治療用製剤で使用される治療用PEG化タンパク質を模擬することが意図されており、賦形剤化合物は、表13に示される量で提供された。これらの製剤は、等量のPEG溶液を賦形剤溶液と混合することによって調製された。どちらの溶液も、脱イオン(DI)水で調製した。PEG溶液は、16.5gのポリ(エチレンオキシド)平均分子量約100,000(Aldrich Catalog #181986)を83.5gのDI水と混合することによって調製した。完全に溶解させるために、混合物を一晩撹拌した。
【0160】
賦形剤溶液は、この一般的な方法によって、以下の表13に詳しく示されるように調製される。DI水中の水リン酸三カリウム(Aldrich カタログ#P5629)の約20mg/mL溶液は、0.05gのリン酸カリウムを、5mLのDI水に溶解して調製した。PEG賦形剤溶液は、0.5mLのPEG溶液を0.5mLの賦形剤溶液と混合することによって調製され、数秒間ボルテックスを使用することによって混合した。対照サンプルは、0.5mLのPEG溶液を0.5mLのDI水と混合して調製した。粘度を測定し、結果を以下の表13に記録する。
【表13】
【0161】
実施例22:賦形剤による改善されたタンパク質溶液の処理
0.25gの固体BGGを4mLの緩衝液と混合して、2つのBGG溶液を調製した。サンプルAの場合:緩衝液は、20mMのヒスチジン緩衝液(pH=6.0)であった。サンプルBの場合:緩衝液は、15mg/mLのカフェイン(pH=6)を含む20mMのヒスチジン緩衝液であった。固体BGGの溶解は、サンプルを、100rpmに設定されたオービタルシェーカーに配置することによって行った。カフェイン賦形剤を含む緩衝液サンプルが、タンパク質をより速く溶解することが観察された。カフェイン賦形剤を含むサンプル(サンプルB)の場合、BGGの完全な溶解が15分で達成された。カフェインを含まないサンプル(サンプルA)の場合、溶解には35分を要した。次に、サンプルを、2つの別個の30kDa分子量カットオフのAmicon Ultra 4 Centrifugal Filter Unitに入れ、サンプルを2,500rpmで10分間隔で遠心分離した。遠心分離を10分間実行するたびに、回収された濾液の容量を記録した。表14の結果は、サンプルBの濾液の回収が速いことを示している。さらに、サンプルBは実行毎に濃縮が続いたが、サンプルAは最大濃縮点に達し、サンプルのさらなる濃縮はもたらされなかった。
【表14】
【0162】
実施例23:複数の賦形剤を含むタンパク質製剤
この例は、賦形剤としてのカフェインとアルギニンの組み合わせが、BGG溶液の粘度低下に対してどのように有益な効果を有するかを示している。0.18gの固体BGGと0.5mLの20mMのヒスチジン緩衝液をpH6で混合することによって、4つのBGG溶液を調製した。各緩衝液は、以下の表(表15)に記載されるように、異なる賦形剤または賦形剤の組み合わせを含んだ。溶液の粘度は、前の実施例に記載されているように測定された。結果は、ヒンダードアミン賦形剤であるカフェインを、アルギニンなどの既知の賦形剤と組み合わせることができ、その組み合わせが個々の賦形剤自体よりも優れた粘度低下特性を持っていることを示している。
【表15】
【0163】
アルギニンを、pH6のヒスチジン緩衝液中のBGGの280mg/mL溶液に添加した。表16に示すように、50mg/mLを超えるレベルでは、アルギニンをさらに添加しても粘度はそれ以上低下しなかった。
【表16】
【0164】
カフェインを、pH6のヒスチジン緩衝液中のBGGの280mg/mL溶液に添加した。表17に示すように、10mg/mLを超えるレベルでは、カフェインをさらに添加しても粘度はそれ以上低下しなかった。
【表17】
【0165】
例24:TFF濃縮プロセス中のカフェインの効果
この実施例では、接線流濾過(tangential flow filtration、TFF)を使用して、カフェインの存在下および非存在下で、ウシガンマグロブリン(BGG)溶液を濃縮した。EMD Millipore(Billerica,MA)製造のラボスケールTFFシステムを使用して実験を行った。システムには、30kDa分子量カットオフのUltracel膜(EMD Millipore、ビレリカ、マサチューセッツ州)を含むPellicon XL TFFカセットを取り付けた。名目膜表面積は、50cm2であった。カセットへの供給圧送を30psiに維持し、保持液(retentate)の圧力を10psiに維持した。濾液の流束は、その質量を時間の関数として測定することによって、実験の過程でモニターした。約12グラムのBGGを、15mg/mLのカフェイン、150mMのNaCl、および20mMのヒスチジンを含む500mLの緩衝液に溶解し、pH6に調整した。対照サンプルは、12グラムのBGGを、150mMのNaCl、および20mMのヒスチジンを含む500mLの緩衝液に溶解し、pH6に調整して調製した。緩衝液成分は、Sigma-Aldrichから購入した。TFF処理の前に、両方の溶液を0.2μmのポリエーテルスルホン(PES)フィルター(VWR、Radnor、PA)で濾過した。TFF中の試験サンプルと対照サンプルのパフォーマンスは、物質移動係数によって測定した。物質移動係数は、次の方程式を使用して、各サンプルについて決定した(J.Hung,A.U.Borwankar,B.J.Dear,T.M.Truskett,K.P.Johnston,High concentration tangential flow ultrafiltration of stable monoclonal antibody solutions with low viscosities.J.Memb.Sci.508,113-126 (2016)):
J=kcln(Cw/Cb) (式3)
【0166】
式3は、濾液の近くの流束Jを表し、k
cは、物質移動係数、C
wは、膜近傍のタンパク質濃度、C
bは、液体バルクの濃度であり、それによって、式3で物質移動係数k
cの計算が可能になる。計算された流束Jのln(C
b)に対するグラフは、傾きが-kcの線形プロットを与える。ここで、流束Jは、時間に対する濾液の質量の微分をとることによって計算され、C
bは、物質収支を使用して計算される。最良近似の物質移動係数を、表18に示す。15mg/mLのカフェインの導入により、物質移動係数の値が、22.5から25.4Lm
-2hr
-1(LMH)に約13%増加した。
【表18】
【0167】
例25:TFF濃縮プロセス中のカフェインの効果
この実施例では、接線流濾過(tangential flow filtration、TFF)を使用して、カフェインの存在下および非存在下で、ウシガンマグロブリン(BGG)溶液を濃縮した。EMD Millipore(Billerica,MA)製造のラボスケールTFFシステムを使用して実験を行った。システムには、30kDa分子量カットオフのUltracel膜(EMD Millipore、ビレリカ、マサチューセッツ州)を含むPellicon XL TFFカセットを取り付けた。名目膜表面積は、50cm
2であった。対照サンプルは、14.6グラムのBGGを、150mMのNaCl、およびpH6に調整された20mMのヒスチジンを含む582mLの緩衝液に溶解することによって、初期BGG濃度が、名目上25.1mg/mLになるように調製した。材料を、0.2μmPESフィルター(VWR、Radnor、PA)で濾過し、次いでTFF装置で処理した。ポンプ速度は、供給圧が最初に30psiになるように調整し、保持液バルブは、保持液の圧力が最初に10psiになるように調整した。ポンプ速度または保持液バルブのいずれかを、4.1時間調整せずに材料を濃縮した。以下の表19に示すように、Bradfordアッセイにより、初期および最終濃度は、それぞれ25.4±0.6および159±6mg/mLと決定された。カフェイン含有サンプルは、14.2gのBGGを、15mg/mLのカフェイン、150mMのNaCl、およびpH6に調整された20mMのヒスチジンを含む566mLの緩衝液に溶解することによって、初期BGG濃度が、名目上25.1mg/mLになるように調製した。材料を、0.2μmPESフィルター(VWR、Radnor、PA)で濾過し、次いでTFF装置で処理した。ポンプ速度と保持液バルブは、以前のものと同一のレベルに設定した。以前と同様に、供給液と保持液の圧力は、それぞれ30psiと10psiであることが確認された。ポンプ速度または保持液バルブのいずれかを、4.1時間調整せずに材料を濃縮した。以下の表19に示すように、Bradfordアッセイにより、初期および最終濃度は、それぞれ24.4±0.5および225±10mg/mLと決定された。TFF処理中にカフェインを使用すると、対照と比較した場合、最終タンパク質濃度が、159から225mg/mLに約42%増加した。
【表19】
【0168】
実施例26:BGG溶液の除菌濾過中のカフェインの効果
ウシガンマグロブリン(BGG)、L-ヒスチジン、およびカフェインは、Sigma-Aldrich(セントルイス、ミズーリ州、各製品番号、G5009、H6034およびC7731)から購入した。脱イオン(DI)水は、EMD Millipore(Billerica,MA)のDirect-Q 3 UV精製システムを使用して、水道水から生成された。0.2μmポアの25mmポリエーテルスルホン(PES)フィルターは、GE Healthcare(Chicago,IL,、カタログ番号6780-2502)から購入した。1-mL Luer-Lokシリンジは、Becton、Dickinson and Company(Franklin Lakes,NJ,reference number 309628)から購入した。20mMのヒスチジン緩衝液(pH6.0)は、L-ヒスチジン、DI水を使用して調製し、1MのHClでpH6.0に滴定した。ヒスチジン緩衝液を使用して、カフェインの15mg/mL溶液を調製した。カフェインを含まない緩衝液およびカフェインを含む緩衝液を使用して、BGGを約280mg/mLの最終濃度に再構成した。タンパク質濃度cは、以下の式を使用して計算した。
【数1】
式中、m
pは、タンパク質の質量、bは、添加された緩衝液の容量、およびνは、BGGの部分比容で、ここでは0.74mL/gとした。各サンプルの粘度は、23℃の温度で、250s
-1ノ剪断速度で、microViscレオメーター(RheoSense、San Ramon、CA)を使用して測定した。BGG溶液を滅菌フィルターに通すのに必要なエネルギーは、100Nのロードセル(Instron、Needham、MA、部品番号2519-103)を装着した引張圧縮試験機(Tensile Compression Tester(TCT)、Instron、Needham、MA、部品番号3343)を使用して測定した。シリンジのプランジャーは、50mmの距離を159mm/minの速度で押し下げた。エネルギー所要量は、TCTで測定された負荷対伸展曲線を積分することによって計算され、結果を、以下の表20にまとめる。
【表20】
【0169】
実施例27:プロテインAクロマトグラフィの溶出を改善するための賦形剤
4つの精製された研究グレードのバイオシミラー抗体、イピリムマブ、ウステキヌマブ、オマリズマブ、およびトシリズマブは、Bioceros(Utrecht、オランダ)から購入した。これらは、分注40mMの酢酸ナトリウム水溶液、50mMのトリス塩酸緩衝液(pH5.5)で、それぞれ20、26、15、および23mg/mLのタンパク質濃度の凍結した一定分量として提供された。測定前、タンパク質溶液を室温で解凍し、その後、0.2μmポリエーテルスルホンフィルターを通して濾過した。濾過したタンパク質ストック溶液を、タンパク質ストック溶液と結合緩衝液の比が1:1になるように混合した。プロテインA樹脂への抗体の結合を促進するために使用される結合緩衝液は、脱イオン(DI)水中pH7.2で、0.1Mのリン酸ナトリウムおよび0.15の塩化ナトリウムから構成された。DI水は、EMD Millipore(Billerica,MA)のDirect-Q 3 UV精製システムを使用して、水道水から生成された。これらの溶液は、PIERCE(商標)Protein-A Spin Plate for IgG Screening(ThermoFisher Scientific カタログ#45202)を使用して、プロテインAの結合と溶出の研究を行うために使用された。プレートには96個のウェルがあり、それぞれに50μLのProteinA樹脂が含まれた。200μLの結合緩衝液を各ウェルに加えることによって、樹脂を結合緩衝液で洗浄し、プレートを1000×gで1分間遠心分離し、フロースルー液を廃棄した。その後のすべての遠心分離ステップは、1000×gで1分間行った。この洗浄手順を、もう一度繰り返した。これらの最初の洗浄ステップに続いて、希釈されたタンパク質サンプル、すなわち、イピリムマブ、ウステキヌマブ、オマリズマブ、およびトシリズマブを含むサンプルを、プレートのウェルに添加した(ウェルあたり200μL)。次いで、プレートをDaigger Scientific(Vernon Hills、IL)Labgeniusオービタルシェーカー上に置き、260rpmで30分間攪拌し、続いてプレートを遠心分離し、フロースルーを廃棄した。次いで、各ウェルに500μLの結合緩衝液を添加し、プレートを遠心分離し、フロースルーを廃棄することによって、ウェルを洗浄した。この洗浄ステップを、2回繰り返した。これらの洗浄ステップの後、異なる賦形剤が添加された溶出緩衝液を使用して、タンパク質をプレートから溶出した。各溶出について、pH7の1Mのリン酸ナトリウムからなる50μLの中和緩衝液を、コレクションプレートの各ウェルに添加し、次いで200μLの溶出緩衝液を、プレートの各ウェルに添加した。プレートを260rpmで1分間攪拌し、次いで遠心分離した。フロースルーを、分析のために回収した。この溶出ステップを、もう1回繰り返した。賦形剤を含まない対照緩衝液は、20mMのクエン酸を含み、pH2.6であった。プロテインA溶出緩衝液は、しばしばいくらかの量の塩を含むため、クエン酸緩衝液中の100mMのNaClの溶出緩衝液を、二次対照として調製した。
【0170】
表21は、この実施例で使用される賦形剤溶液、それらの濃度、および溶出緩衝液の最終pHを示す。Herb Store USA(Los Angeles、CA)から購入したアスパルテーム、Cascade Analytical Reagents and Biochemicals(Corvallis、OR)から購入したトレハロース、およびResearch Products International(Mt. Prospect、IL、製品番号S24060)から購入したスクロースを除いて、すべての賦形剤は、Sigma Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)から購入した。賦形剤を含むすべての溶出緩衝液は、適切な量の賦形剤を約10mLの無塩クエン酸緩衝液対照と混合することによって調製した。溶出緩衝液は、約100mMの賦形剤で調製した。しかし、すべての賦形剤がこのレベルで可溶性ではない。したがって、表21に、使用したすべての賦形剤濃度を示す。各溶出緩衝液のpHは、必要に応じて、塩酸または水酸化ナトリウムを使用して約2.6±0.1に調整した。
【0171】
各タンパク質サンプルについて、HPLCワークステーション(Agilent HP 1100システム)に接続されたTSKgel SuperSW3000カラム(30cm x 4.6mm ID、Tosoh Bioscience、King of Prussia、PA)を使用して、ASD高性能サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)分析を行った。分離は、0.35mL/分の流量で室温で行った。移動相は、100mMのリン酸ナトリウム、300mMの塩化ナトリウム、pH7の水性緩衝液であった。タンパク質濃度は、Agilent 1100シリーズのG1315Bダイオードアレイ検出器を使用して、280nmでの吸光度によってモニターした。各タンパク質、すなわち、イピリムマブ、ウステキヌマブ、オマリズマブ、およびトシリズマブのプロテインA樹脂から溶出されたタンパク質の総量は、クロマトグラムを積分することによって推定した。各タンパク質、すなわち、イピリムマブ、ウステキヌマブ、オマリズマブ、およびトシリズマブの積算ピーク面積を表22~25に示す。表22~25はまた、実験のピーク面積を無塩および塩含有対照のピーク面積と比較している。100%を超える値は、溶出緩衝液に、対照よりも多いタンパク質がプロテインA樹脂から回収されたことを示し、一方、100%未満の値は、溶出緩衝液に、対照よりも少ないタンパク質がプロテインA樹脂から回収されたことを示す。
【表21】
【表22】
【表23】
【表24】
【表25】
【0172】
実施例28:プロテインAクロマトグラフィの溶出を改善するための賦形剤
この実施例で使用される試験タンパク質は、実施例27のものと同一であり、すなわち、イピリムマブ、ウステキヌマブ、オマリズマブ、およびトシリズマブである。プロテインA結合および溶出の研究は、実施例27のものと同一のプレートを使用して行った。プロテインAプレートから抗体を負荷および溶出する方法は、溶出ステップを除いて、実施例27のものと同一であった。実施例27では、2回の溶出洗浄を行った。しかし、この実施例では、1回の洗浄のみ行った。実施例27のように、溶出緩衝液は、20mMのクエン酸塩(pH2.6)、対照緩衝液から調製された。賦形剤は、以下の表26に記載されている。賦形剤はすべてSigma-Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)から購入した。実施例27と同一な方法で回収されたタンパク質を、HPLCにより分析し、各タンパク質、すなわち、イピリムマブ、ウステキヌマブ、オマリズマブ、およびトシリズマブのタンパク質回収の結果を、以下の表26~30に示す。
【表26】
【表27】
【表28】
【表29】
【表30】
【0173】
実施例29:プロテインAクロマトグラフィカラムからのオマリズマブ溶出を改善する賦形剤
研究グレードのオマリズマブは、Bioceros(ユトレヒト、オランダ)から購入し、40mMの酢酸ナトリウム水溶液、50mMのトリス塩酸緩衝液(pH5.5)中に15mg/mLで凍結して提供された。実験前、タンパク質を室温で解凍し、0.2μmポリエーテルスルホンフィルターで濾過した。濾過した材料を、1:1の比率で、DI水中の20mMリン酸ナトリウム(pH7)からなる結合緩衝液と混合した。水道水は、EMD Millipore(ビレリカ、マサチューセッツ州)のDirect-Q 3 UV精製システムで精製して、DI水を生成した。プロテインA精製は、GE HealthcareのHiTrap Protein-A HPの1mLカラム(シカゴ、イリノイ州、製品番号29048576)を使用して行った。各実験では、最初に、カラムを10mLの結合緩衝液で平衡化した。平衡化後、30mgのタンパク質をProteinAカラムに負荷した。次いで、カラムを5mLの結合緩衝液で洗浄した。カラムを洗浄した後、結合したオマリズマブを、以下の表31に示されている賦形剤を含む溶出緩衝液の1つの画分を使用して、カラムから溶出した。溶出緩衝液は、示された賦形剤を、20mMのクエン酸緩衝液(pH4.0)に溶解することによって調製した。すべての溶出緩衝液を、pH4.0に調整した。5つの1mL画分を収集した。最後に、5mLの100mMクエン酸塩(pH3.0)緩衝液でカラムを洗浄することによって、ProteinAを再生した。各ステップの流速は、1mL/minであり、Fusion 100注入ポンプ(Chemyx、Stafford、TX)で維持した。10mL NormJect Luer Lokシリンジを使用した(Henke Sass Wolf、Tuttlingen、Germany、参照番号4100-000V0)。
【0174】
溶出画分、E1、E2、E3、E4、およびE5は、高性能サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)分析により、総タンパク質含有量を測定した。SEC分析は、HPLCワークステーション(Agilent HP 1100システム)に接続されたTSKgel SuperSW3000カラム(30cm x 4.6mm ID、Tosoh Bioscience、King of Prussia、PA)を使用して行った。分離は、0.35mL/分の流量で室温で行った。移動相は、100mMのリン酸ナトリウム、300mMの塩化ナトリウム、pH7の水性緩衝液であった。タンパク質濃度は、Agilent 1100シリーズのG1315Bダイオードアレイ検出器を使用して、280nmでの吸光度によってモニターした。プロテインA樹脂から溶出されたタンパク質の総量は、クロマトグラムを積算することにより推定した。
【0175】
クエン酸は、プロテインAクロマトグラフィで使用される一般的な賦形剤であるため、ここでは対照として使用した。対照サンプルの溶出画分は、沈殿相の形成によって明らかなように、4℃で一晩保存すると不溶性凝集物を示した。したがって、以下の表31に報告するピーク面積は、溶出画分中の総可溶性タンパク質量を表している。我々は、不溶性凝集物が対照サンプルでのみ観察され、他のサンプルのいずれもそのような凝集物を示さなかったことに注目する。対照(クエン酸塩賦形剤を使用した)のピーク面積よりも大きいピーク面積から、試験賦形剤を使用すると、タンパク質がより効率的にカラムから分離できることが示される。
【表31】
【0176】
実施例30:異なる量のカフェイン賦形剤を含むBGGの製剤
製剤は、異なるモル濃度のカフェイン(以下の表32に記載されている濃度で)および試験タンパク質を用いて調製され、試験タンパク質は、治療用製剤で使用される治療用タンパク質を模擬するように意図されている。この実施例の製剤は、以下の方法で粘度を測定するために、20mMのヒスチジン緩衝液中に調製した。0および80mMのカフェインのストック溶液を、20mMのヒスチジン中に調製し、モデルタンパク質を溶解する前に、得られた溶液のpHを、少量の水酸化ナトリウムまたは塩酸で調整してpH6にした。様々なカフェイン濃度の追加の溶液は、2つのストック溶液をさまざまな容量比で混ぜて調製され、以下の表32に示される濃度で、一連のカフェイン含有溶液を提供した。これらの賦形剤溶液が調製されたら、試験タンパク質のウシガンマグロブリン(BGG)を、0.7mLの各賦形剤溶液を、0.25gの凍結乾燥したにBGG粉末に添加することによって、約280mg/mLの最終タンパク質濃度を達成する比率で各試験溶液に溶解した。BGGを含む溶液を、5mLの滅菌ポリプロピレンチューブ中で調合し、オービタルシェーカーテーブル上で100rpmで一晩振盪した。次いで、これらの溶液を2mLマイクロ遠心管に移し、IEC MicroMaxマイクロ遠心機で2400rpmで約5分間遠心分離して、粘度測定の前に、混入した空気を除去した。
【0177】
上に記載のように調製された製剤の粘度測定は、microVisc粘度計(RheoSense、San Ramon、CA)で行った。粘度計は、深さが100ミクロンのチャネルを有するA-10チップを備え、250s
-1の剪断速度で、25℃で操作された。粘度を測定するために、ピペットからすべての気泡を除去するように注意しながら、試験製剤を粘度計に負荷した。負荷されたサンプル製剤を含むピペットを機器に配置し、測定温度で約5分間インキュベートした。次いで、チャネルが、試験流体で完全に平衡化されるまで(安定した粘度の読みで示される)機器を稼働させ、その後、粘度をセンチポアズで記録した。得られた粘度結果を、以下の表32に提示する。
【表32】
【0178】
実施例31:脱イオン水中の共溶質の溶液の調製
水へのカフェインの溶解度を高めるために共溶質として使用された化合物は、Sigma-Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)から入手され、ナイアシンアミド、プロリン、プロカインHCl、アスコルビン酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、リドカイン、サッカリン、アセスルファムK、チラミン、およびアミノ安息香酸が含まれた。各共溶質の溶液は、乾燥固体を脱イオン水に溶解することで調製し、場合によっては、必要に応じて、pHを、5Mの塩酸または5Mの水酸化ナトリウムで、約6のpHから約8のpHの間の値に調整した。次いで、クラスAのメスフラスコを使用して、溶液を、25mLまたは50mLのいずれかの最終容量に希釈し、溶解した化合物の質量および溶液の最終容量に基づいて濃度を記録した。調製した溶液は、いずれか希釈せずにまたは脱イオン水で希釈して使用した。
【0179】
実施例32:カフェイン溶解度の試験
周囲温度(約23℃)でのカフェインの溶解度に対する異なる共溶質の影響を、次の方法で評価した。乾燥カフェイン粉末(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)を、20mLガラスシンチレーションバイアルに加え、カフェインの質量を記録した。実施例31に従って調製した10mLの共溶質溶液を、ある場合には、カフェイン粉末に加えた。他の場合では、共溶質溶液と脱イオン水のブレンドを、カフェイン粉末に添加し、最終添加量を10mLに維持した。乾燥カフェイン粉末の体積寄与は、これらの混合物のいずれにおいても無視できるものと見なした。小さな磁気攪拌棒をバイアルに投入し、溶液を、攪拌プレート上で約10分間激しく混合した。約10分後、バイアルで、乾燥カフェイン粉末の溶解が観察され、結果を以下の表33に示す。これらの観察により、ナイアシンアミド、プロカインHCl、2,5-ジヒドロキシ安息香酸ナトリウム塩、サッカリンナトリウム塩、およびチラミンクロリド塩のすべてが、報告されているカフェインの溶解限度(Sigma-Aldrichによれば、室温で約16mg/mL)の少なくとも約4倍に、カフェインの溶解を可能にした。
【表33】
【0180】
実施例33:HUMIRA(登録商標)のプロファイル
HUMIRA(登録商標)(AbbVie Inc.、Chicago、IL)は、TNF-アルファ遮断剤である治療用モノクローナル抗体アダリムマブの市販製剤であり、通常、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、中等度から重度の慢性乾癬および若年性特発性関節炎などの自己免疫疾患の炎症反応を減少させるために処方される。HUMIRA(登録商標)は、0.8mLの単回使用用量で販売されており、40mgのアダリムマブ、4.93mgの塩化ナトリウム、0.69mgのリン酸一ナトリウム二水和物、1.22mgのリン酸二ナトリウム二水和物、0.24mgのクエン酸ナトリウム、1.04mgのクエン酸一水和物、9.6mgのマンニトール、および0.8mgのポリソルベート80を含んでいる。この製剤の粘度対濃度プロファイルを、以下の方法で作成した。30kDa分子量カットオフのAmicon Ultra 15遠心濃縮器(EMD-Millipore、ビレリカ、マサチューセッツ州)に約15mLの脱イオン水を満たし、Sorvall Legend RT(ThermoFisher Scientific)で4000rpmで10分間遠心分離して、膜をすすいだ。その後、残留水を除去し、2.4mLのHUMIRA(登録商標)液体製剤を濃縮チューブに添加し、25℃で60分間、4000rpmで遠心分離した。保持液の濃度は、10μLの保持液を1990μLの脱イオン水で希釈し、希釈したサンプルの吸光度を280nmで測定し、希釈係数と1.39mL/mg-cmの吸光係数を使用して濃度を計算した。濃縮サンプルの粘度は、A05チップ(RheoSense、San Ramon、CA)を備えたmicroVisc粘度計を使用して、23℃で250s
-1の剪断速度で測定した。粘度測定後、サンプルを少量の濾液で希釈し、濃縮と粘度測定を繰り返した。このプロセスを使用して、以下の表34に示されるように、異なるアダリムマブ濃度で粘度値を生成した。
【表34】
【0181】
実施例34:粘度低下賦形剤とHUMIRA(登録商標)の再製剤化
次の実施例は、HUMIRA(登録商標)を粘度低下賦形剤と緩衝液中で再製剤化することによる、一般的なプロセスを記載する。約0.15gのヒスチジンおよび0.75gのカフェイン(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)を脱イオン水に溶解することによって、20mMのヒスチジン中で粘度低下賦形剤の溶液を調製した。得られた溶液のpHを、5Mの塩酸で約5に調整した。次いで、この溶液を、メスフラスコ中で、脱イオン水で50mLの最終容量に希釈した。得られた緩衝粘度低下賦形剤溶液を、次いで、高mAb濃度でHUMIRA(登録商標)を再製剤化化するために使用した。次に、約0.8mLのHUMIRA(登録商標)を、すすいだAmicon Ultra 15遠心濃縮チューブ(30kDaの分子量カットオフ)に添加し、8~10分間、4000rpmで、25℃でSorvall Legend RTで遠心分離した。その後、上に記載のように調製した約14mLの緩衝粘度低下賦形剤溶液を、遠心濃縮器中の濃縮HUMIRA(登録商標)に添加した。穏やかに混合した後、サンプルを4000rpm、25℃で、約40~60分間遠心分離した。保持液は、粘度低下賦形剤とともに緩衝液中で再製剤化されたHUMIRA(登録商標)の濃縮サンプルであった。サンプルの粘度と濃度を測定し、場合によっては、少量の濾液で希釈して、より低い濃度で粘度を測定した。粘度測定は、前の実施例の濃縮HUMIRA(登録商標)製剤の場合と同様に、microVisc粘度計を用いて完了した。濃度は、脱イオン水で希釈したHUMIRA(登録商標)ストック溶液から作成された標準曲線を使用して、Bradfordアッセイで決定した。粘度低下賦形剤とHUMIRA(登録商標)の再製剤化により、再製剤化されていない市販緩衝液中で濃縮されたHUMIRA(登録商標)の粘度値と比較して、以下の表35に示されるように、30%~60%の粘度低下をもたらした。
【表35】
【0182】
実施例35:賦形剤としてカフェインを含むアダリムマブ溶液の改善された安定性
カフェイン賦形剤を含む、または含まないアダリムマブ溶液の安定性は、サンプルを2つの異なるストレス条件、撹拌および凍結解凍、に曝露した後に評価した。アダリムマブ薬物製剤HUMIRA(登録商標)(AbbVie)が使用され、実施例33により詳しく記載されている特性を有する。HUMIRA(登録商標)サンプルは、実施例38に記載されているように、元の緩衝液中で200mg/mLのアダリムマブ濃度に濃縮した。この濃縮サンプルを、「サンプル1」と呼ぶ。第二のサンプルは、実施例40に記載されているように、約200mg/mLのアダリムマブおよび15mg/mLの添加カフェインを用いて調製した。カフェインが添加されたこの濃縮サンプルを、「サンプル2」と呼ぶ。次のように、両方のサンプルを希釈剤で希釈して、アダリムマブの最終濃度を1mg/mLにした。サンプル1の希釈剤は、元の緩衝液溶液で、サンプル2希釈剤は、20mMヒスチジン、15mg/mLカフェイン、pH=5である。両方のHUMIRA(登録商標)希釈液を、0.22μmシリンジフィルターで濾過した。層流フード内で、希釈したサンプルごとに、2mLエッペンドルフチューブにそれぞれ300μLの3つのバッチを準備した。サンプルは、以下のストレス条件にさらされた。攪拌の場合、サンプルを、300rpmで91時間、オービタルシェーカーに配置した。凍結解凍の場合、サンプルを、条件ごとに-17~30℃で平均6時間、7回繰り返した。表36に、調製されたサンプルを示す。
【表36】
【0183】
実施例36:動的光散乱(DLS)による安定性の評価
Brookhaven Zeta Plus動的光散乱装置を使用して、実施例35のサンプル中のアダリムマブ分子の流体力学的半径を測定し、凝集集団の形成の証拠を探した。表37は、実施例35に従って調製された6つのサンプルのDLS結果を示している。それらのいくつかは(1-A、1-FT、2-A、および2-FT)、ストレス条件にさらされた(「ストレスサンプル」)。その他は(1-Cおよび2-C)、ストレスを受けなかった。表37、および付随する
図1、2、および2のDLSデータは、カフェインを含まないストレスサンプルにおけるモノクローナル抗体のマルチモーダルな粒子サイズ分布を示している。賦形剤としてのカフェインの不在下で、ストレスを受けたサンプル1-Aと1-FTは、ストレスを受けていないサンプル1-Cよりも有効径が大きく、さらに、直径が顕著に大きい第2の粒子の集団を示した。より大きな直径を有する粒子のこの新しいグループは、目視不可の粒子への凝集の証拠である。カフェインを含むストレスを受けたサンプル(サンプル2-Aおよび2-FT)は、ストレスを受けていないサンプル2-Cと同様の粒径であり、1つの粒子の集団のみを呈する。これらの結果は、カフェインをこれらのサンプルに添加すると、凝集体または目視不可の粒子の形成が減少したことを示している。
【表37】
【0184】
表38Aおよび表38Bは、実施例36からのアダリムマブサンプルのDLS生データを表示し、粒子サイズ分布を示している。これらの表では、G(d)は、強度重み付け差分サイズ分布である。C(d)は、累積強度重み付け差分サイズ分布である。
【表38】
【表39】
【0185】
実施例37:サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)による安定性の評価
サイズ排除クロマトグラフィを使用して、実施例36に記載されたストレスを受けたおよびストレスを受けていないアダリムマブサンプルから、サイズが約0.1ミクロン未満の目視不可の粒子を検出した。SECを実行するために、ガードカラムを備えたTSKgel SuperSW3000カラム(Tosoh Biosciences、Montgomeryville、PA)を使用し、溶出を280nmでモニターした。実施例36からのストレスを受けたおよびストレスを受けていない各サンプルの合計10μLを、pH6.2の緩衝液(100mMのリン酸、325mMのNaCl)を用いて、0.35mL/分の流速で、均一濃度で溶出した。アダリムマブ単量体の保持時間は、約9分であった。カフェイン賦形剤を含むサンプルでは、検出可能な凝集体は確認されず、3つのサンプルすべての単量体の量は一定のままであった。
【0186】
例38:HERCEPTIN(登録商標)製剤の粘度低下
モノクローナル抗体のトラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標)、Genentech)は、凍結乾燥粉末として受け取り、DI水で21mg/mLに再構成した。得られた溶液を、Amicon Ultra 4遠心濃縮チューブ(分子量カットオフ、30kDa)で3500rpmで1.5時間遠心分離することによって、そのまま濃縮した。適切な緩衝液でサンプルを200倍に希釈し、1.48mL/mgの吸光係数を使用して280nmで吸光度を測定することによって、濃度を測定した。粘度は、RheoSense microVisc粘度計を使用して測定した。
【0187】
賦形剤緩衝液は、サリチル酸とカフェインを単独または組み合わせて、ヒスチジンと賦形剤を蒸留水に溶解し、pHを適切なレベルに調整して調製した。緩衝液システム1および2の条件を表39にまとめる。
【表40】
【0188】
HERCEPTIN(登録商標)溶液は、賦形剤緩衝液で、約1:10の比率で希釈し、Amicon Ultra 15(MWCO 30kDa)濃縮チューブで濃縮した。濃度は、Bradfordアッセイを使用して決定し、ストックHERCEPTIN(登録商標)サンプルから調製された標準検量線と比較した。粘度は、RheoSense microVisc粘度計を使用して測定した。以下の表40に、様々なHERCEPTIN(登録商標)溶液の濃度および粘度の測定が示され、緩衝液システム1および2は、表39に記載されたものを参照している。
【表41】
【0189】
サリチル酸とカフェインの両方を含む緩衝液システム1は、対照サンプルと比較して、215mg/mLにおいて、粘度が最大76%低下した。カフェインだけを含む緩衝液システム2は、200mg/mLにおいて、粘度が最大59%低下した。
【0190】
実施例39:AVASTIN(登録商標)製剤の粘度低下
AVASTIN(登録商標)(モノクローナル抗体ベバシズマブ、Genentechにより市販されている製剤)は、ヒスチジン緩衝液中の25mg/mLの溶液として受け取った。サンプルは、Amicon Ultra 4遠心濃縮チューブ(MWCO 30kDa)で3500rpmで濃縮された。粘度は、RheoSense microViscで測定し、濃度は、280nmでの吸光度で決定した(吸光係数、1.605mL/mg)。賦形剤緩衝液は、25mMのヒスチジンHClとともに10mg/mLのカフェインを添加することによって調製した。AVASTIN(登録商標)ストック溶液を賦形剤緩衝液で希釈し、次いでAmicon Ultra 15遠心濃縮チューブ(MWCO 30kDa)で濃縮した。賦形剤サンプルの濃度は、Bradfordアッセイにより決定し、粘度は、RheoSense microViscを使用して測定した。結果を、以下の表41に示す。
【表42】
【0191】
AVASTIN(登録商標)を10mg/mLのカフェインとともに213mg/mlに濃縮した場合、対照AVASTIN(登録商標)サンプルと比較して、最大73%の粘度低下を示した。
【0192】
実施例40:カフェイン、二次賦形剤および試験タンパク質を含む製剤の調製
製剤は、賦形剤化合物としてカフェイン、またはカフェインと第2の賦形剤化合物との組み合わせ、および試験タンパク質を使用して調製され、試験タンパク質は、治療用製剤で使用される治療用タンパク質を模擬するように意図されている。このような製剤は、以下の方法で粘度を測定するために、異なる賦形剤化合物を含む20mMのヒスチジン緩衝液中に調製した。賦形剤の組み合わせ(以下の表42に記載された賦形剤AおよびB)を、20mMのヒスチジンに溶解し、モデルタンパク質を溶解する前に、得られた溶液のpHを、少量の水酸化ナトリウムまたは塩酸で調整してpH6にした。賦形剤溶液が調製されたら、試験タンパク質のウシガンマグロブリン(BGG)を、約280mg/mLの最終タンパク質濃度を達成する比率で溶解した。賦形剤溶液中のBGGの溶液を、20mLガラスシンチレーションバイアル中に配合し、オービタルシェーカーテーブル上で80~100rpmで一晩振盪させた。次いで、BGG溶液を2mLマイクロ遠心管に移し、IEC MicroMaxマイクロ遠心機で2300rpmで約10分間遠心分離して、粘度測定の前に、混入した空気を除去した。
【0193】
上記のように調製された製剤の粘度測定は、DV-IIT LVコーンおよびプレート粘度計(Brookfield Engineering、Middleboro、MA)を用いて行った。粘度計に、CP-40コーンを備え付け、3rpm、25℃で操作した。製剤を、0.5mLの容量で粘度計に負荷し、所定の剪断速度と温度で3分間インキュベートした後、20秒間の測定収集時間が続いた。これに次いで、1分間の剪断インキュベーションとその後の20秒間の測定収集期間からなる2つの追加ステップが続いた。次いで、収集された3つのデータポイントを平均し、サンプルの粘度として以下の表42に記録した。賦形剤を含む溶液の粘度は、賦形剤を含まないモデルタンパク質溶液の粘度に正規化された。正規化された粘度は、賦形剤を含まないモデルタンパク質溶液の粘度に対する、賦形剤を含むモデルタンパク質溶液の粘度の比率である。
【表43】
【0194】
実施例41:ジメチルスルホンおよび試験タンパク質を含む製剤の調製
製剤は、ジメチルスルホン(Jarrow Formulas、Los Angeles、CA)を賦形剤化合物および試験タンパク質として使用して調製し、試験タンパク質は、治療用製剤で使用される治療用タンパク質を模擬するように意図されている。このような製剤は、以下の方法で粘度を測定するために、20mMのヒスチジン緩衝液中に調製した。ジメチルスルホンを、20mMのヒスチジンに溶解し、モデルタンパク質を溶解する前に、得られた溶液のpHを、少量の水酸化ナトリウムまたは塩酸で調整してpH6にし、次いで0.22ミクロンのフィルターを通して濾過した。賦形剤溶液が調製されたら、試験タンパク質のウシガンマグロブリン(BGG)を、約280mg/mLの濃度で溶解した。賦形剤溶液中のBGGの溶液を、20mLガラスシンチレーションバイアル中に配合し、オービタルシェーカーテーブル上で80~100rpmで一晩振盪させた。次いで、BGG溶液を2mLマイクロ遠心管に移し、IEC MicroMaxマイクロ遠心機で2300rpmで約10分間遠心分離して、粘度測定の前に、混入した空気を除去した。
【0195】
上記のように調製された製剤の粘度測定は、DV-IIT LVコーンおよびプレート粘度計(Brookfield Engineering、Middleboro、MA)を用いて行った。粘度計に、CP-40コーンを備え付け、3rpm、25℃で操作した。製剤を、0.5mLの容量で粘度計に負荷し、所定の剪断速度と温度で3分間インキュベートした後、20秒間の測定収集時間が続いた。これに次いで、1分間の剪断インキュベーションとその後の20秒間の測定収集期間からなる2つの追加ステップが続いた。次いで、収集された3つのデータポイントを平均し、サンプルの粘度として記録した。賦形剤を含む溶液の粘度は、賦形剤を含まないモデルタンパク質溶液の粘度に正規化された。表43に記録されている正規化された粘度は、賦形剤を含まないモデルタンパク質溶液の粘度に対する、賦形剤を含むモデルタンパク質溶液の粘度の比率である。
【表44】
【0196】
実施例42:緩衝液の調製
20mMの2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、50mMのグリシン、35mMのカフェインの緩衝液は、0.392gのMES一水和物、0.374gのグリシン、および0.682gのカフェインを、90mLのMilli-Q超純水に溶解することによって調製した。すべての内容物が溶解した後、溶液のpHを5.5に調整し、メスフラスコにMilli-Q超純水を添加することによって、最終容量を100mLにした。次いで、緩衝液を、ボトルトップフィルター装置を使用して、0.2μmのPESフィルターを通して真空濾過した。20mMのヒスチジン、50mMのグリシン、および35mMのカフェインを含む同様な緩衝液も、同様に調製した。
【0197】
20mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、100mMの塩化ナトリウム、55mMのマンニトールおよび0.1mMのジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)の対照緩衝液は、1.211gのTRIS、2.938gの塩化ナトリウム、2.098gのマンニトールおよび0.019gのDTPAを、450mLのMilli-Q超純水に溶解して調製した。すべての内容物が溶解した後、溶液のpHを7.0に調整し、メスフラスコにMilli-Q超純水を添加することによって、容量を500mLに調整した。緩衝液を、ボトルトップフィルター装置を使用して、0.2μmのPESフィルターを通して真空濾過した。
【0198】
実施例43:イピリムマブ製剤
モノクローナル抗体イピリムマブのサンプルをBioceros(オランダ)から取得し、分子量カットオフ30kDaのAmicon Ultra 15遠心濃縮チューブ(EMD Millipore、ビレリカ、マサチューセッツ州)を使用して、緩衝液を、実施例42の3つの調製された緩衝液に交換した。目標の最終タンパク質濃度は20mg/mLであり、最終濃度は、Synergy HTプレートリーダー(BioTek、ウィヌースキ、バーモント州)を用いて280nmの吸光度(A280)により測定した。タンパク質溶液の吸光度は、ブランク緩衝液の吸光度から差し引いた。ブランクを差し引いたタンパク質溶液の吸光度を、報告されている吸光係数で割り、次いでタンパク質の希釈係数(20倍)を掛けて、最終的なタンパク質濃度を決定する。カフェインは280nmでの吸光度測定に干渉するため、カフェインを含む溶液のタンパク質濃度は、A280で測定されたタンパク質溶液に対する物質収支により決定した。これによって、質量に基づいて測定されたA280タンパク質溶液に近いおよその濃度が得られた。
【0199】
次いで、調製したタンパク質溶液を、384マイクロウェルプレート(Aurora Microplates、ホワイトフィッシュ、モンタナ州)に加えた。各溶液を、ウェルあたり35μLで、3つのウェルに負荷した。次いで、マイクロウェルプレートをSorvall Legend RT遠心分離機で400×gで遠心分離して、封入されたエアポケットをすべて除去した。DLS機器(DynaPro II DLSプレートリーダー、Wyatt Technology Corp.、ゴレタ、カリフォルニア州)に入れる前に、事前にカットした感圧シーリングテープ(Thermo Scientific)を、マイクロウェルプレートの上部に貼り付け、蒸発を防止した。DLS機器のサンプル区画を65℃に保ち、タンパク質溶液の粒子サイズを9時間記録した。表44は、1時間の測定における3つの異なる製剤におけるイピリムマブの半径サイズを示している。
【表45】
【0200】
実施例44:尿素変性によるタンパク質製剤の安定性の試験
尿素は、溶液中のタンパク質を変性させ、アンフォールディングさせることが知られている。この実施例のスクリーニング方法論は、ウステキヌマブなどの治療用タンパク質溶液に、特定の濃度の尿素を添加することが含まれていました。この試験例は、保護賦形剤が、尿素の存在下で治療用タンパク質のアンフォールディングを防止または減少させるという仮説に基づいており、アンフォールドしたタンパク質の量を測定することで、尿素の存在下で、タンパク質を安定化させるのに効果的な賦形剤を同定することが可能になる。タンパク質のアンフォールディングを追跡する1つの方法には、Sypro orangeなどの外因性蛍光色素の使用が含まれる。Sypro orangeは、アンフォールドしたタンパク質構造の疎水性領域に結合し、観察される蛍光シグナルの増加につながる。したがって、さまざまな賦形剤の存在下で、アンフォールドしたタンパク質-Sypro orange複合体の蛍光強度の差異を測定すると、安定化の効果を特定することができる。
【0201】
以下の表45に列挙されている、この実施例で使用されたすべての賦形剤は、最高の純度であり、Sigma Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)またはCayman Chemical(アナーバー、ミシガン州)から入手した。賦形剤のストック溶液は、各賦形剤を100mg/mLの濃度で20mMのヒスチジン緩衝液(pH6.0)に溶解することによって調製した。ヒスチジン緩衝液は、1.55gのヒスチジンを0.500LのMilli-Q水に溶解し、1MのHClを使用してpHを6.0に調整することによって調製した。次いで、各賦形剤調製物(最終濃度が5mg/mL)を、ウステキヌマブ(最終濃度が1mg/mL)と混合することによって、賦形剤を含むタンパク質製剤を調製した。この実施例で使用するために、同じヒスチジン緩衝液に27gの尿素を溶解し、1MのHClを使用してpHを6.0に調整することによって、9Mの尿素のストック溶液を準備した。次いで、この尿素ストック溶液を、最終濃度が6Mになるように添加して、試験溶液(賦形剤+タンパク質+尿素)を生成した。次いで、ストック溶液(5000X)からのSypro orange色素を、最終濃度が20Xになるようにそれぞれ添加した。混合物のpHを、再度チェックし、pH6.0であることを確認した。試験溶液を、室温で30分間インキュベートした。200μLのサンプルを、Greiner CellStarブラックウェル透明フラットボトム96ウェルプレートに移し、各サンプルの蛍光を、485nmの励起フィルターと590/20nmの発光フィルターを備えたBioTek Synergy HTプレートリーダーを使用して測定した。異なる試験製剤の蛍光強度を、対照製剤(タンパク質および尿素、いずれの賦形剤も含まない)のものと比較し、減少した蛍光を示すそれらの試験製剤は、安定化賦形剤を含んでいるものと考えた。以下の表45に示すように、いくつかの賦形剤は、それらの蛍光が対照のものと比較した場合、対照と比較して増加した安定性を反映した。これらの結論は、タンパク質を安定化させる賦形剤の能力が、実験中に測定される蛍光を減少させる能力と相関することから、導き出された。安定化賦形剤は、タンパク質のアンフォールディングを防止または減少させ、タンパク質-Sypro orange相互作用の減少につながり、続いて、蛍光強度の減少しとして現れることになる。これらのテストの結果は、以下の表45にまとめられている。
【表46】
【0202】
実施例45:低pHでのタンパク質製剤の安定化
治療用タンパク質、特に抗体は、処理のさまざまな段階、特に精製およびウイルスの除去の最中に、低pHの溶液条件に曝される。酸性のpH条件へのこの暴露は、コンフォメーションの変化を引き起こし、続いてタンパク質のアンフォールディングと凝集につながる可能性がある。安定化賦形剤を同定するためのスクリーニング方法論には、酸性pHでオマリズマブなどの治療用タンパク質をインキュベートすることが含まれる。保護性の賦形剤は、低pHでの治療用タンパク質の変性を防止または減少させることから、アンフォールドしたタンパク質の量を測定すると、低pHの存在下でタンパク質を安定化させるのに効果的な賦形剤を同定することができる。酸性pHでの治療用タンパク質のアンフォールディングは、Sypro orangeなどの外因性蛍光色素を使用して追跡することができる。この実施例で行ったように、Sypro orange(Thermo-Fisher、Waltham MA)を添加すると、色素がアンフォールドしたタンパク質の疎水性領域に結合し、蛍光シグナルの増加につながる。したがって、異なる賦形剤の存在下で、アンフォールドしたタンパク質-Sypro orangeの蛍光強度の差異を測定すれば、安定剤を特定することができるようになる。
【0203】
以下の表46に列挙されている、この実施例で使用されたすべての賦形剤は、最高の純度であり、Sigma Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)またはCayman Chemical(アナーバー、ミシガン州)から入手した。賦形剤のストック溶液は、各賦形剤を100mg/mLの濃度で0.15Mのグリシン緩衝液(pH2.6)に溶解することによって調製した。酸性化緩衝液は、1.65gのヒスチジンを0.09LのMilli-Q水に溶解し、1MのHClを使用してpHを2.6に調整し、容量を0.100Lにした。次いで、賦形剤調製物(最終濃度が5mg/mL)をウステキヌマブ(最終濃度が1mg/mL)と混合することによって、各賦形剤を含むタンパク質製剤を調製した。次いで、グリシン酸性化緩衝液を賦形剤-タンパク質混合物に加え、その後、ストック溶液(5000X)からのSypro orange色素を、最終濃度が20Xになるように添加した。200μLのサンプルを、Greiner CellStarブラックウェル透明フラットボトム96ウェルプレートに移し、各サンプルの蛍光を、485nmの励起波長と590/20nmの発光フィルター波長で、BioTek Synergy HTプレートリーダーを使用して測定した。異なる試験製剤の蛍光強度を、対照製剤(タンパク質およびグリシン緩衝剤、いずれの賦形剤も含まない)のものと比較し、減少した蛍光を示すものは、安定化賦形剤を含んでいるものと考えた。表46に示すように、いくつかの賦形剤は、それらの蛍光が対照のものと比較した場合、対照と比較して増加した安定性を反映した。これらの結論は、タンパク質を安定化させる賦形剤の能力が、実験中に測定される蛍光を減少させる能力と相関することから、導き出された。安定化賦形剤は、タンパク質のアンフォールディングを防止または減少させ、タンパク質-Sypro orange相互作用の減少につながり、続いて、蛍光強度の減少しとして現れることになる。これらのテストの結果は、以下の表46にまとめられている。
【表47】
【0204】
実施例46:熱安定剤としての賦形剤の試験
治療用タンパク質は、温度の変動に頻繁にさらされ、三次および二次構造要素の変化につながる可能性がある。これは、タンパク質の凝集につながり、活性な天然タンパク質の量を減少させ得る。熱ストレスから保護する賦形剤は、この実施例において、以下の表47に記載されている賦形剤の存在下または非存在下での熱劣化研究により特定された。以下の表47に列挙されている、この実施例で使用されたすべての賦形剤は、最高の純度であり、Sigma Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)またはCayman Chemical(アナーバー、ミシガン州)から入手した。賦形剤のストック溶液は、各賦形剤を100mg/mLの濃度で20mMのヒスチジン緩衝液(pH6.0)に溶解することによって調製した。ヒスチジン緩衝液は、1.55gのヒスチジンを0.500LのMilli-Q水に溶解し、1MのHClを使用してpHを6.0に調整することによって調製した。次いで、各賦形剤調製物(最終濃度が5mg/mL)を、ウステキヌマブ(最終濃度が1mg/mL)と混合することによって、賦形剤を含むタンパク質製剤を調製した。製剤を0.2mLのマイクロ遠心管に一定分量入れ、加熱ブロック内で65℃で120分間インキュベートした。一定分量を0、15、30、60、90、および120分に分取した。サンプルを、氷上で5分間急冷し、5000rpmで10分間遠沈した。次いで、上清を、TSKgel SW3000カラム(30cm x 4.8mm ID)および280nmに設定したAgilent G1351Bダイオードアレイ検出器が装着されたAgilent 1100 HPLCシステムに負荷して、サンプルをサイズ排除HPLCで分析した。50mMのリン酸緩衝液、100mMのNaCl、pH6.5の移動相を、0.35mL/minの流速で使用した。単量体画分は、単量体のピーク面積を積分することによって計算し、積算ピーク面積の変化を、時間の関数としてプロットした。熱安定性は、2時間のインキュベーションの終了時に残留している単量体の割合と相関していた。
【表48】
【0205】
実施例47:機械的剪断ストレスに対する安定剤としての賦形剤の試験
治療用タンパク質は、攪拌、攪拌などにより機械的ストレスにさらされることが多く、与えられた剪断ストレスは、タンパク質の凝集を引き起こす可能性がある。剪断ストレスに対する保護を提供する賦形剤は、試験賦形剤(下の表48に列挙されている)の存在下で、治療用タンパク質溶液を攪拌し、凝集した粒子の数の変化を観察することによって特定した。以下の表48に列挙されている、この実施例で使用されたすべての賦形剤は、最高の純度であり、Sigma Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)またはCayman Chemical(アナーバー、ミシガン州)から入手した。賦形剤のストック溶液は、各賦形剤を100mg/mLの濃度でMilli-Q水に溶解して調製した。次いで、最終濃度が0.5mg/mLの各賦形剤調製物を、最終濃度が2mg/mLのオマリズマブと組み合わせることによって、賦形剤含有タンパク質製剤を調製した。サンプルを0.5mLのクライオジェニックバイアル(ThermoFisher、Waltham、MA)に移し、オービタルシェーカーに固定した。次いで、それらを、300rpmに設定された攪拌で、22℃で72時間インキュベートした。インキュベーション時間の最後に、100μLの各サンプルを96ウェルプレートに移し、350nmで吸光度を測定した。凝集の増加は、350nmで光散乱の変化を観察し、それらの変化を、350nmでの対照製剤(賦形剤を添加せずに、試験サンプルと同様に調製された)の光散乱と比較することによって測定した。本質的に保護的である賦形剤は、攪拌ステップ後、凝集の速度を遅くし、A350の吸光度の値を下げるそれらの能力によって特定された。
【表49】
【0206】
実施例48:賦形剤を含むタンパク質溶液の凍結-解凍安定性
以下の表49に列挙されている、この実施例で使用されたすべての賦形剤は、Sigma Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)またはCayman Chemical(アナーバー、ミシガン州)から入手した。試験賦形剤のストック溶液(表49に列挙されている)は、各賦形剤を100mg/mLの濃度で20mMのヒスチジン緩衝液(pH6.0)に溶解することによって調製した。緩衝液は、1.55gのヒスチジンを0.500LのMilli-Q水に溶解し、1MのHClを使用してpHを6.0に調整することによって調製した。次いで、最終濃度が5 mg/mLの各賦形剤調製物を、最終濃度が5mg/mLのオマリズマブと組み合わせることによって、賦形剤含有タンパク質製剤を調製した。0.4mLの各製剤を96ウェルポリプロピレンプレート(Advangene、IL)内のウェルに移した。サンプルを、冷凍庫で-80℃に凍結し、室温で少なくとも5サイクル解凍した後、100μLのサンプルを、Greiner CellStarブラックウェル透明フラットボトム96ウェルプレートに移した。賦形剤の安定化の効果は、350nmでの光散乱分析を使用してタンパク質凝集体の形成を測定し、それらの変化を、350nmでの対照製剤(賦形剤を添加せずに、試験サンプルと同様に調製された)の光散乱と比較することによって分析した。本質的に保護的である賦形剤は、攪拌ステップ後、凝集の速度を遅くし、A350の吸光度の値を下げるそれらの能力によって特定された。
【表50】
【0207】
実施例49:DLS拡散相互作用パラメータkDによる賦形剤の試験
賦形剤とタンパク質溶液の配合に使用するために、20mMのヒスチジン塩酸(His HCl)緩衝液のストック溶液は、3.1gのヒスチジン(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)をタイプ1の超純水に溶解することによって調製した。得られた溶液を、1Mの塩酸を滴下することによってpH6に滴定した。pH調整後、緩衝液を、メスフラスコ中で、タイプ1超純水で1Lの最終容量に希釈した。以下の表50に列挙されている、この実施例で使用されたすべての賦形剤は、最高の純度であり、Sigma Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)またはCayman Chemical(アナーバー、ミシガン州)から入手した。
【0208】
表50に記載されているタンパク質を使用して、タンパク質濃度が約4mg/mL~約20mg/mLの範囲である一連の6つの試験タンパク質溶液を、すべてpH6の20mMのHis HCl緩衝液で調製した。384ウェルマイクロプレート(Aurora Microplates、ホワイトフィッシュ、モンタナ州)では、15μLのタンパク質溶液を、表50に記載の賦形剤を使用して、pH6の20mMのHisHCl緩衝液中で調製することで、各賦形剤を、6種類の異なるタンパク質濃度で試験した。タンパク質-賦形剤の組み合わせを含むマイクロプレートを、Sorvall Legend RT遠心分離機で400×gで遠心分離し、プレートシェーカーで振盪して、サンプルを十分に混合した。気泡を除去するために、2回目の遠心分離ステップを完了した。これらのタンパク質-賦形剤製剤の拡散相互作用パラメータ(k
D)は、タンパク質-タンパク質相互作用(PPI)に対する賦形剤の影響を調べる方法として、希薄溶液中での動的光散乱(DLS)により測定した。DLS研究を行うために、上記で準備したマイクロプレートを、DynaPro II DLSプレートリーダー(Wyatt Technologies Corp.、ゴレタ、カリフォルニア州)に負荷して、各サンプルの拡散係数を、25℃で測定した。各賦形剤を含む試験溶液について、測定された拡散係数を、タンパク質濃度の関数としてプロットし、データの線形フィットの傾きをk
Dとして記録した。より負のk
Dは、より強い正味の誘引性PPIを示し、より正のk
Dはより強い正味反発性PPIを示した。表50は、各賦形剤を含む試験溶液のk
D値を示し、各賦形剤のこれらの試験値は、対照溶液(ヒスチジン緩衝液にタンパク質を含むが、賦形剤は含まない)のk
D値と比較することができる。
【表51】
【0209】
例50:粘度低下についての賦形剤の試験
Bioceros(オランダ)から取得したバイオシミラーモノクローナル抗体オマリズマブとウステキヌマブを、pH6の20mMのHis HCl緩衝液に緩衝液交換し、分子量カットオフ30kDaのAmicon Ultra 15遠心濃縮チューブ(EMD Millipore、ビレリカ、マサチューセッツ州)を使用して濃縮した。得られた濃縮製剤は、濃縮製剤を20mMのHis HClで段階希釈し、100μLの各希釈液をUV透明96ハーフウェルマイクロプレート(Greiner Bio-One、オーストリア)に負荷して、Synergy HTプレートリーダー(BioTek、ウィヌースキ、バーモント州)で280nmの吸光度を測定することによって、タンパク質濃度について280nmの吸光度によって、分析した。次いで、ブランクの光路長補正された吸光度測定値を、それぞれの吸光係数で割り、希釈係数を掛けて、タンパク質濃度を決定した。賦形剤溶液は、20mMのHisHCl(pH6)に望ましい最終濃度の10Xで、または化合物の溶解度限度で調製し、必要に応じて、濃塩酸または水酸化ナトリウムで、pHを6に調整した。次いで、濃縮タンパク質製剤を、384ウェルマイクロプレート(Aurora Microplates、ホワイトフィッシュ、モンタナ州)に、以下の表51に列挙されている賦形剤の、10X賦形剤溶液(9部のタンパク質、1部の賦形剤溶液または緩衝液)と混合した。以下の表51に列挙されている、この実施例で使用されたすべての賦形剤は、最高の純度であり、Sigma Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)またはCayman Chemical(アナーバー、ミシガン州)から入手した。各サンプルは同じ容量で希釈されているため、各サンプル中のタンパク質濃度は同じである。次いで、マイクロプレートを、Sorvall Legend RT遠心分離機で400×gで遠心分離し、プレートシェーカーで振盪した。振盪後、2μLの20mMのHis HCl中のポリエチレングリコール表面修飾金ナノ粒子(nanoComposix、サンディエゴ、カリフォルニア州)の5倍希釈液を、各サンプルウェルに加えた。マイクロプレートをもう一度振盪して、サンプルに金ナノ粒子を混合し、次いでDynaPro II DLSプレートリーダー(Wyatt Technology Corp.、ゴレタ、カリフォルニア州)に配置して、金ナノ粒子の見かけの粒子サイズを25℃で測定した。水中の金ナノ粒子の既知の粒子サイズに対する、タンパク質製剤中の金ナノ粒子の見かけの粒子サイズの比を使用して、Stokes-Einstein方程式に従って、タンパク質製剤の粘度を決定した。この実施例では、金ナノ粒子の実際の半径に対する見かけの半径の比に、25℃での水の粘度を掛けて、センチポアズ(cP)でのタンパク質製剤の粘度を計算した。これらのテストの結果は、以下の表51にまとめられている。
【表52】
【0210】
実施例51:インフリキシマブを用いた熱劣化アッセイ
REMICADE(登録商標)インフリキシマブは、Clinigen Groupから入手し、Janssen添付文書の指示に従って再構成し、50mg/mlのスクロースおよび0.05mg/mLのポリソルベート80を含む5mMのリン酸緩衝液(約pH7)中の10mg/mLのインフリキシマブ溶液を得た。次いで、再構成された薬剤製品を、50mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)と1:1の容量で混合した。次いで、得られた溶液を、小規模の分取スケール陽イオン交換カラム(GE Healthcare、Chicago、IL)に注入した。インフリキシマブをカラムに負荷した後、カラムを10カラム容量の50mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)で洗浄した。次いで、インフリキシマブを、5カラム容量の250mM塩化ナトリウム、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)を用いてカラムから溶出した。次いで、溶出したインフリキシマブを、分子量カットオフ30kDaのAmicon Ultra 15(EMD Millipore、ビレリカ、マサチューセッツ州)遠心濃縮器を使用して、pH7の20mMリン酸緩衝液に緩衝液交換した。次いで、pH7の20mMリン酸緩衝液中の4または8mg/mLインフリキシマブのストック溶液を、その後の試験で使用した。
【0211】
以下の表52に列挙されている、この実施例で使用されたすべての賦形剤は、最高の純度であり、Sigma Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)またはCayman Chemical(アナーバー、ミシガン州)から入手した。ストックインフリキシマブ溶液を、20mMリン酸緩衝液、pH7に製剤化された表52に列挙されている賦形剤を含むストック賦形剤溶液と混合して、各サンプルでインフリキシマブの最終濃度を約2mg/mLにした。インフリキシマブ溶液とストック賦形剤溶液を含むサンプルを、次いでPCRチューブに、5つの100μLの一定分量で分注した。一定分量をドライバス(Benchmark Scientific、Sayreville、NJ)内で55℃で15分~約3時間の範囲の異なる時間インキュベートして、熱ストレスを加えた。次いで、サンプルを、ドライバスから取り出して氷上に置き、熱凝集をクエンチした。次いで、これらのストレスを受けたサンプルは、単量体の含有量について、280nmで吸光度をモニターするダイオードアレイ検出器を備えたAgilent 1100シリーズHPLCを使用して、高性能サイズ排除クロマトグラフィ(HP-SEC)で分析した。HPLCは、25℃のカラム温度、100mMリン酸、300mM NaCl、pH7の移動相を用いて、0.35mL/minの流速で、TSKgel SuperSW3000 4.6mm x 30cmカラム(Tosoh Bioscience、東京、日本)を通して操作した。各サンプルについて、単量体ピーク面積を、同一のストレスを受けていないサンプルから得られた単量体ピーク面積で割って、熱ストレスへの曝露後に残留している単量体のパーセントを求めた。次いで、ストレスを受けていないサンプルに残留している単量体をパーセントとして、インキュベーション時間の関数としてプロットし、データへの線形フィットの傾きの絶対値を、単量体の損失率として記録した。決定された単量体損失率は、次いで単量体損失率を、賦形剤を含まない緩衝液対照の単量体損失率で割ることによって正規化し、結果を以下の表52に示す。
【表53】
【0212】
実施例52:ニコチンアミドモノヌクレオチドおよびイタコン酸を用いた濃縮オマリズマブのDLS粘度測定
ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)は、Genex Formulas(オーランド、フロリダ州)から購入した栄養サプリメントカプセルから収集され、イタコン酸は、Sigma-Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)から購入した。これらの物質は、以下の実験において賦形剤として使用された。
【0213】
Bioceros(オランダ)から取得したバイオシミラーモノクローナル抗体オマリズマブを、pH6の20mMのHis HCl緩衝液に緩衝液交換し、30kDa分子量カットオフのAmicon Ultra 15遠心濃縮チューブ(EMD Millipore、ビレリカ、マサチューセッツ州)を使用して濃縮した。緩衝液は、1.55gのヒスチジンを0.5LのMilli-Q水に溶解し、1MのHClを使用してpHを6.0に調整することによって調製した。得られた濃縮製剤は、濃縮製剤を20mMのHis HClで段階希釈し、100μLの各希釈液をUV透明96ハーフウェルマイクロプレート(Greiner Bio-One、オーストリア)に負荷して、Synergy HTプレートリーダー(BioTek、ウィヌースキ、バーモント州)で280nmの吸光度を測定することによって、タンパク質濃度についてA280によって、分析した。次いで、ブランクの光路長で補正された各サンプルのA280測定値を、それぞれの吸光係数で割り、希釈係数を掛けて、タンパク質濃度を決定した。ストック賦形剤溶液は、上に記載の賦形剤を、1Mまたは化合物の溶解度限度で使用して、20mMのHisHCl(pH6)に調製し、必要に応じて、濃塩酸または水酸化ナトリウムで、pHを6に調整した。次いで、濃縮タンパク質製剤を、ストック賦形剤溶液または対照と、9部のタンパク質製剤:1部の賦形剤溶液または緩衝液(対照として)の割合で混合し、一定分量を、384ウェルマイクロプレート(Aurora Microplates、ホワイトフィッシュ、モンタナ州)のウェルに添加した。次いで、マイクロプレートをSorvall Legend RTで400×gで遠心分離し、プレートシェーカーで振盪した。マイクロプレートを振盪した後、2μLの20mMのHis HCl中の直径100nmを有するポリエチレングリコール表面修飾金ナノ粒子(nanoComposix、サンディエゴ、カリフォルニア州)の5倍希釈液を、各サンプルウェルに添加した。マイクロプレートをもう一度振盪して、サンプルに金ナノ粒子を混合し、次いでそれをDynaPro II DLSプレートリーダー(Wyatt Technology Corp.、ゴレタ、カリフォルニア州)に配置して、金ナノ粒子の見かけの粒子サイズを25℃で測定した。緩衝液(タンパク質なし)中の金ナノ粒子の見かけの粒子サイズに対する、タンパク質製剤中の金ナノ粒子の見かけの粒子サイズの比を使用して、Stokes-Einstein方程式に従って、タンパク質製剤の粘度を決定した。この実施例では、金ナノ粒子の実際の半径に対する見かけの半径の比に、25℃での水の粘度を掛けて、センチポアズ(cP)でのタンパク質製剤の粘度を計算した。2つの異なる賦形剤を使用した結果を、以下の表53に示示す。
【表54】
【0214】
例53:濃縮オマリズマブのDLS粘度測定
4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸(HEPES)、ジサイクロミン塩酸塩、プリジノールメタンスルホン酸、1-ブチルイミダゾール、1-ヘキシルイミダゾールはSigma Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)から購入し、本実施例では、賦形剤溶液を調製するのに使用した。O-(オクチルホスホリル)コリンは、1Mの溶液としてSigma Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)から購入し、本実施例では、ストック賦形剤溶液として使用した。
【0215】
Bioceros(オランダ)から取得したモノクローナル抗体のオマリズマブのバイオシミラーの濃縮製剤を、実施例52に記載のように調製し、実施例52に記載のようにタンパク質濃度について分析した。上に記載の賦形剤を使用するストック賦形剤溶液は、20mMのHisHCl(pH6)緩衝液(実施例52に記載のように調製)で1Mまたは化合物の溶解度限界で調製し、必要に応じて、濃塩酸または水酸化ナトリウムで、pHを6に調整した。O-(オクチルホスホリル)コリンは、追加の調製なしで、ストック賦形剤として使用した。次いで、濃縮タンパク質製剤を、ストック賦形剤溶液または対照と、9部のタンパク質製剤:1部の賦形剤溶液または緩衝液(対照として)の割合で混合し、一定分量を、384ウェルマイクロプレート(Aurora Microplates、ホワイトフィッシュ、モンタナ州)のウェルに添加した。次いで、マイクロプレートをSorvall Legend RTで400×gで遠心分離し、プレートシェーカーで振盪した。マイクロプレートを振盪した後、2μLの20mMのHis HCl中の直径100nmを有するポリエチレングリコール表面修飾金ナノ粒子(nanoComposix、サンディエゴ、カリフォルニア州)の5倍希釈液を、各サンプルウェルに添加した。マイクロプレートをもう一度振盪して、サンプルに金ナノ粒子を混合し、次いでそれをDynaPro II DLSプレートリーダー(Wyatt Technology Corp.、ゴレタ、カリフォルニア州)に配置して、金ナノ粒子の見かけの粒子サイズを25℃で測定した。緩衝液(タンパク質なし)中の金ナノ粒子の見かけの粒子サイズに対する、タンパク質製剤中の金ナノ粒子の見かけの粒子サイズの比を使用して、Stokes-Einstein方程式に従って、タンパク質製剤の粘度を決定した。この実施例では、金ナノ粒子の実際の半径に対する見かけの半径の比に、25℃での水の粘度を掛けて、センチポアズ(cP)でのタンパク質製剤の粘度を計算した。5つの異なる賦形剤を使用した結果を、以下の表54に示示す。
【表55】
【0216】
例54:濃縮オマリズマブのDLS粘度測定
この実施例では、賦形剤のストック溶液を調製するために、次の薬剤:塩化テトラエチルアンモニウム、酢酸テトラメチルアンモニウム、1-メチルイミダゾール、1-ブチルイミダゾール、1-ヘキシルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、およびスペクチノマイシンを使用し、Sigma Aldrich(セントルイス、ミズーリ州)から購入した。トリグリシン、テトラグリシン、および2-ブチルイミダゾールは、Chem-Impex(Wood Dale、IL)から購入した。ホルデニンHClは、Bulk Supplements(Henderson、NV)から購入した。
【0217】
Bioceros(オランダ)から取得したモノクローナル抗体のオマリズマブのバイオシミラーの濃縮製剤を、実施例52に記載のように調製し、実施例52に記載のようにタンパク質濃度について分析した。上に記載の賦形剤を使用するストック賦形剤溶液は、20mMのHisHCl(pH6)緩衝液(実施例52に記載のように調製)で1Mまたは化合物の溶解度限界で調製し、必要に応じて、濃塩酸または水酸化ナトリウムで、pHを6に調整した。次いで、濃縮タンパク質製剤を、ストック賦形剤溶液または対照と、9部のタンパク質:1部の賦形剤溶液または緩衝液(対照として)の割合で混合し、一定分量を、384ウェルマイクロプレート(Aurora Microplates、ホワイトフィッシュ、モンタナ州)のウェルに添加した。次いで、マイクロプレートをSorvall Legend RTで400×gで遠心分離し、プレートシェーカーで振盪した。マイクロプレートを振盪した後、2μLの20mMのHis HCl中の直径100nmを有するポリエチレングリコール表面修飾金ナノ粒子(nanoComposix、サンディエゴ、カリフォルニア州)の5倍希釈液を、各サンプルウェルに添加した。マイクロプレートをもう一度振盪して、サンプルに金ナノ粒子を混合し、次いでそれをDynaPro II DLSプレートリーダー(Wyatt Technology Corp.、ゴレタ、カリフォルニア州)に配置して、金ナノ粒子の見かけの粒子サイズを25℃で測定した。緩衝液(タンパク質なし)中の金ナノ粒子の見かけの粒子サイズに対する、タンパク質製剤中の金ナノ粒子の見かけの粒子サイズの比を使用して、Stokes-Einstein方程式に従って、タンパク質製剤の粘度を決定した。この実施例では、金ナノ粒子の実際の半径に対する見かけの半径の比に、25℃での水の粘度を掛けて、センチポアズ(cP)でのタンパク質製剤の粘度を計算した。12の異なる賦形剤を使用した結果を、以下の表55に示示す。
【表56】
【0218】
実施例55:熱安定性を高める賦形剤
治療用タンパク質は、温度の変動にさらされることが多く、その三次および二次構造要素の変化につながる可能性がある。これは、タンパク質の凝集、および活性な天然種の減少につながる。熱ストレスから保護する賦形剤は、賦形剤の存在下または非存在下での熱劣化の研究で試験された。賦形剤ストックは、以下の表56に列挙される賦形剤を、100mg/mLの濃度で20mMヒスチジン緩衝液、pH6.0に溶解することにって調製した(実施例52に記載されるように調製)。各試験サンプルは、賦形剤ストックを、緩衝液に添加して、賦形剤の最終濃度が5mg/mLになるようにし、ヒスチジン緩衝液中のウステキヌマブストックを20mg/mLから最終濃度の1mg/mLへとタンパク質を希釈することによって(実施例51に記載のように調製される)調製した。製剤を、0.2mLマイクロ遠心管に一定分量入れ、ヒートブロック内で65℃で120分間インキュベートした。一定分量を、0分、30分、60分、90分、120分で回収した。次いで、サンプルを氷上で5分間急冷し、9000rpmで10分間遠沈した。これに続いて、上清のサンプルを、以下のように、SE-HPLCで分析した:TSKgel SW3000サイズ排除クロマトグラフィカラム(30cm x 4.8mm ID)および280nmでモニターするAgilent G1351Bダイオードアレイ検出器が装着されたAgilent 1100 HPLCシステムに、上清を負荷した。0.5%のリン酸、150mMのNaCl、pH3.5の移動相を、0.35mL/minの流速で使用した。単量体画分は、単量体ピーク下のピーク面積を積分し、時間の関数としてプロットされた積算ピーク面積の変化によって計算した。熱安定性は、2時間のインキュベーションの最後に残留している単量体の分率と相関関係があり、対照(添加剤なし)と比較した単量体のパーセント増加を記録した。試験した7つの賦形剤の結果を、以下の表56にまとめる。
【表57】
【0219】
実施例56:ADCの熱安定性を改善する賦形剤
抗体薬物複合体(ADC)は、小分子薬物の部位特異的送達を可能にする化学リンカーを介した、モノクローナル抗体への小分子の結合によって生成される治療用タンパク質である。結合リンカーと小分子の組み合わせは、そのタンパク質前駆体と比較して、ADCの化学的および物理的性質(電荷、疎水性など)を変更し、追加の安定性の懸念をもたらす。実施例59のウステキヌマブ-FITC化合物を、これらの試験のモデルADC化合物として使用した。モデルADCを熱ストレスから保護する賦形剤は、賦形剤の存在下または非存在下での熱劣化の研究で試験された。賦形剤ストックは、以下の表57に列挙される賦形剤を、100mg/mLの濃度で20mMヒスチジン緩衝液、pH6.0に溶解することにって調製した(実施例52に記載されるように調製)。各試験サンプルは、賦形剤ストックを緩衝液に最終濃度が5mg/mLになるように添加し、ヒスチジン緩衝液中のウステキヌマブ-FITC(下記の実施例59に記載)をウステキヌマブ-FITCの最終濃度が1mg/mLになるように添加することによって調製した。製剤を、0.2mLマイクロ遠心管に一定分量入れ、ヒートブロックで65℃で120分間インキュベートした。一定分量を、0分、30分、60分、90分、120分で回収した。次いで、サンプルを氷上で5分間急冷し、9000rpmで10分間遠沈した。サンプルを、SE-HPLCで分析し、上清をTSKゲルSW3000サイズ排除クロマトグラフィカラム(30cm x 4.8mm ID)とAgilent G1351Bダイオードアレイ検出器を280nmでモニターしたAgilent 1100 HPLCシステムに負荷した。0.5%のリン酸、150mMのNaCl、pH3.5の移動相を、0.35mL/minの流速で使用した。単量体画分は、単量体ピーク下のピーク面積を積分し、時間の関数としてプロットされた積算ピーク面積の変化によって計算し、対照(賦形剤なし)と比較したパーセント単量体の増加を記録した。熱安定性は、2時間のインキュベーションの終了時に残留している単量体の割合と相関していた。
【表58】
【0220】
実施例57:凍結/解凍ストレスから保護する賦形剤
治療用タンパク質は、動態安定性を改善し、タンパク質の凝集や活性な天然種の減少につながり得る構造的摂動を最小限に抑えるために、しばしば低温で維持される。ある場合は、これは、製剤を使用するまで凍結することによってなされるかもしれない。しかし、凍結と解凍を繰り返す間の、低温、濃度勾配、および氷の形成は、タンパク質にストレスを与える可能性がある。熱ストレスから保護する賦形剤を、賦形剤の存在下または不在下での熱劣化研究によって試験し、特定した。賦形剤ストックは、実施例52に記載されるように調製し、20mMのヒスチジン緩衝液、pH6.0に1Mの濃度で、以下の表58に列挙される賦形剤を溶解することによって調製した。各試験サンプルは、賦形剤ストックを、賦形剤の最終濃度が100mMになるように添加し、ヒスチジン緩衝液(実施例50に記載されているように調製)中のウステキヌマブストックを20mg/mLから最終濃度の2mg/mLへとタンパク質を希釈することによって調製した。対照も同じ方法で調製したが、添加剤ストックを加えなかった。次いで、製剤を、0.5mLのクリオバイアルに一定分量入れ、-80℃で120分間凍結した。次いで、室温に保たれた水浴を使用して、サンプルを解凍した。この凍結-解凍サイクルを6回繰り返した後、各サンプルを、0.2mLマイクロ遠心管に一定分量入れ、9000rpmで10分間遠沈した。上清を、TSKゲルSW3000サイズ排除クロマトグラフィカラム(30cm x 4.8mm ID)および280nmでモニタ-するAgilent G1351Bダイオードアレイ検出器が装着されたAgilent 1100 HPLCシステムに負荷して、サンプルをSE-HPLCで分析した。0.5%のリン酸、150mMのNaCl、pH3.5の移動相を、0.35mL/minの流速で使用した。単量体画分は、単量体ピーク下のピーク面積を積分し、時間の関数としてプロットされた積算ピーク面積の変化によって計算した。
【表59】
【0221】
例58:加速劣化の研究
熱ストレスから保護する賦形剤は、賦形剤の存在下または非存在下での熱劣化の研究で試験された。賦形剤ストックは、実施例52に記載されるように調製し、20mMのヒスチジン緩衝液、pH6.0に1Mの濃度で、以下の表59に列挙される賦形剤を溶解することによって調製した)。各試験サンプルは、賦形剤を、最終濃度が100mMになるように添加し、ヒスチジン緩衝液中のウステキヌマブストックを20mg/mLから最終濃度の2mg/mLへとタンパク質を希釈することによって調製した。対照も同じ方法で調製したが、添加剤ストックを加えなかった。1mLの各サンプルを、2mLガラスバイアル(West Pharmaceutical Services、PA)に一定分量入れ、40℃で4週間インキュベートした。一定分量を、0、1、2、3、および4週間後に回収した。上清を、TSKgel SW3000サイズ排除クロマトグラフィカラム(30cm x 4.8mm ID)および280nmでモニターするAgilent G1351Bダイオードアレイ検出器が装着されたAgilent 1100 HPLCシステムに負荷して、サンプルをSE-HPLCで分析した。0.5%のリン酸、150mMのNaCl、pH3.5の移動相を、0.35mL/minの流速で使用した。単量体画分は、単量体ピーク下のピーク面積を積分し、時間の関数としてプロットされた積算ピーク面積の変化によって計算した。熱安定性は、4週間のインキュベーションの終了時に残留している単量体の割合と相関していた。
【表60】
【0222】
実施例59:ウステキヌマブFITCの合成
抗体薬物複合体(ADC)を代表するモデル化合物を、次のように合成した。ウステキヌマブは、40mMの酢酸ナトリウム水溶液、50mMのトリスHCl緩衝液(pH5.5)中にmAb濃度が26mg/mLの凍結アリコートとして、Bioceros(Utrecht、オランダ)から購入した。サンプルを、pH9.2の炭酸緩衝液に緩衝液交換し、次いで無水ジメチルスルホキシドに溶解した5等量のフルオレセインイソチオシアネート(FITC)とインキュベートして、ウステキヌマブの等量あたり1.6等量のFITCを取り込んだ。ウステキヌマブに対するFITCの平均モル比は、280nmでの吸光度(タンパク質+FITCを表す)および495nmでの吸光度(FITCを表す)を測定することによって決定した。計算では、280nmでのmAbの吸光係数として1.61L/g.cm、mAbのMWとして148,600、および495nmでのFITCの吸光係数として68,000L/g.cmを使用した。過剰の未反応FITCは、pH6の20mMのヒスチジン緩衝液を用いた透析により除去した。次に、MWCOが30kDaのAmicon遠心管を使用して、サンプルを15mg/mLに濃縮した。
【0223】
実施例60:ウステキヌマブ-FITCの安定性
実施例59のADCモデル化合物を、pH6の20mMヒスチジン緩衝液(実施例52に記載されているように調製)でmAb濃度を1mg/mLに希釈した。以下の表60に列挙されている添加賦形剤を用いてサンプルを調製し、モデルADC化合物を機械的剪断応力から保護するそれらの能力をテストした。23℃で72時間、300rpmでシェーカーテーブルに配置して、サンプルに機械的ストレスを加えた。溶液にストレスを加えた後、ADC複合体の粒子サイズを動的光散乱によって決定した。剪断後の対照サンプルの粒子半径は143nmであり、ストレスを受けていないサンプル(半径5.5nm)と比較して有意な凝集を示している。賦形剤を含むサンプルは、ストレスを受けていない対照サンプル(半径5.5nm)と比較して、粒子半径の有意な増加を示さず、機械的剪断応力に対する保護効果を示した。結果を、以下の表60に示す。
【表61】
【0224】
実施例61:冷蔵保存中の水性緩衝液中のカフェイン溶解度に対する共溶質の影響
25mMのヒスチジン緩衝液、pH6は、0.387gのヒスチジンをMilli-Qタイプ1水に溶解し、塩酸でpH6に滴定し、Milli-Q水で最終容量の100mLに希釈することによって調製した。次いで、緩衝液を使用して、50mMの共溶質溶液を調製し、以下の賦形剤:安息香酸ナトリウム、1-メチル-2-ピロリドン、プロリン、フェニルアラニン、アルギニン一塩酸、ベンジルアルコール、およびニコチンアミド、を使用した。約0.1gのカフェインを、得られた各溶液の一定分量の5mLに溶解して、カフェイン濃度を20mg/mLにした。異なる容量比の共溶質を含む20mg/mLのカフェインと、賦形剤溶液を含むがカフェインを含まない対応する溶液を、96ウェルマイクロプレートに3重に調製し、すべてのケースで総ウェル容量を300μLに維持した。次いで、得られたマイクロプレートを、マイクロプレートテープで密封し、温度を2~5℃の範囲に維持して冷蔵庫で保存した。保存の過程で、ウェル内の沈殿の証拠についてマイクロプレートを目視で観察した。各条件について、最も早く観察された3つのウェルの沈殿を記録し、結果を以下の表61にまとめる。
【表62】
【0225】
実施例62:抗体溶液の粘度を低下させるための賦形剤の試験
20mMのヒスチジン-HCl pH6.0(His HCl)のストック緩衝液溶液は、1.55gのヒスチジン(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)をタイプ1超純水に溶解することによって調製した。内容物を完全に溶解させ、塩酸溶液を使用して、pHを6.0に調整した。pH調整後、メスフラスコで最終容量を0.5Lにした。すべての賦形剤は、His HClに溶解し、10x濃度(1M)または化合物の溶解限度で調製した。賦形剤溶液のpHを測定し、必要に応じてpH6.0に調整した。
【0226】
この実施例では、0.1M以下の賦形剤濃度のタンパク質溶液の粘度を測定した。Bioceros (オランダ)から購入したバイオシミラーモノクローナル抗体オマリズマブを、His HClに緩衝液交換し、予めすすいだ30kDa分子量カットオフのAmicon-15遠心装置(EMD Millipore、ビレリカ、マサチューセッツ州)を使用して約200mg/mLに濃縮した。ポリエチレングリコールで表面修飾された金ナノ粒子(nanoComposix, San Diego, CA)の分散液を完全に混合し、His HClに5倍に希釈した。別のPCRチューブで、2.1μLの金ナノ粒子、5.3μLの10x賦形剤溶液、および47.6μLの濃縮オマリズマブを組み合わせ、完全に混合した。各溶液を25μLの容量で2回、384ウェルプレート(Aurora Microplates,Whitefish,MT)に移し、400×gで1分間遠心分離した(Sorvall Legend RT)。サンプルの蒸発を防ぐために、テープシールを使用した。次いで、プレートをDynaPro II DLSプレートリーダー(Wyatt Technology Corp.、ゴレタ、カリフォルニア州)に移して、25℃で金ナノ粒子の見かけの粒子サイズを測定した。既知の半径の粒子サイズに対する測定された見かけの半径との比を計算し、ストークス・アインシュタイン方程式に従ってタンパク質製剤の粘度を決定した。
【0227】
この実施例では、希釈タンパク質溶液の拡散相互作用パラメータ(k
D)を、0.1M以下の賦形剤の存在下で、DLSにより測定した。以前に調製した賦形剤原液から、0.2Mの賦形剤溶液を別々に調製した。k
Dを、0.1M賦形剤の存在下で10mg/mL~0.6mg/mLの範囲の5つの異なるタンパク質濃度を使用して測定した。15μLのタンパク質溶液と15μLの0.2M賦形剤溶液(1:1混合液)を、384ウェルプレート(Aurora Microplates、ホワイトフィッシュ、モンタナ州)で混合した。サンプルを負荷した後、ウェルプレートを、プレートシェーカー上で振盪して、内容物を5分間混合した。混合したら、ウェルプレートをSorvall Legend RTで400×gで1分間遠心分離して、エアポケットを追い出した。次いで、ウェルプレートをDynaPro II DLSプレートリーダー(Wyatt Technologies Corp.、ゴレタ、カリフォルニア州)に負荷し、各サンプルの拡散係数を25℃で測定した。各賦形剤について、測定された拡散係数をタンパク質濃度の関数としてプロットし、データの線形フィットの傾きをk
Dとして記録した。2つの異なる一連のテストについて、結果を、以下の表62Aおよび62Bにまとめる。
【表63】
【表64】
【0228】
均等物
本発明の特定の実施形態が本明細書で開示されてきたが、上記の明細書は例示的であり、限定的ではない。本発明は、その好ましい実施形態を参照して特に示され説明されてきたが、添付の特許請求の範囲に含まれる本発明の範囲から逸脱することなく、形態および詳細においてそれに様々な変更を加え得ることが当業者によって理解される。本明細書を検討すれば、本発明の多くの変形が当業者に明らかになるであろう。特に明記しない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される、反応条件、成分の量などを表すすべての数字は、すべての場合において「約」という用語によって変更されるものとして理解されるべきである。したがって、特に明記しない限り、本明細書に記載される数値パラメータは、本発明より得られようと求められる所望の特性に応じて変化し得る近似値である。
本発明の態様として以下のものが挙げられる。
項1
治療用タンパク質および安定性改善量の安定化賦形剤を含む安定性強化製剤であって、前記安定化賦形剤を欠いている以外は前記安定性強化製剤と同一である対照製剤と比較して、改善された安定性パラメータを特徴とする、安定性強化製剤。
項2
前記治療用タンパク質が、抗体である、項1に記載の安定性強化製剤。
項3
前記抗体が、抗体薬物複合体である、項2に記載の安定性強化製剤。
項4
前記安定化賦形剤が、ヒンダードアミン化合物である、項1に記載の安定性強化製剤。
項5
前記安定化賦形剤が、アニオン性芳香族化合物である、項1に記載の安定性強化製剤。
項6
前記安定化賦形剤が、官能化アミノ酸化合物である、項1に記載の安定性強化製剤。
項7
前記安定化賦形剤が、オリゴペプチドである、項1に記載の安定性強化製剤。
項8
前記安定化賦形剤が、短鎖有機酸である、項1に記載の安定性強化製剤。
項9
前記安定化賦形剤が、低分子量ポリ酸である、項1に記載の安定性強化製剤。
項10
前記安定化賦形剤が、ジオン化合物またはスルホン化合物である、項1に記載の安定性強化製剤。
項11
前記安定化賦形剤が、双性イオン化合物である、項1に記載の安定性強化製剤。
項12
前記安定化賦形剤が、水素結合性元素を有するクラウディング剤である、項1に記載の安定性強化製剤。
項13
前記安定化賦形剤が、約1mM~約500mMの量で添加される、項1に記載の安定性強化製剤。
項14
前記安定化賦形剤が、約5mM~約250mMの量で添加される、項13に記載の安定性強化製剤。
項15
前記安定化賦形剤が、約10mM~約100mMの量で添加される、項14に記載の安定性強化製剤。
項16
前記安定化賦形剤が、約5mg/mL~約50mg/mLの量で添加される、項15に記載の安定性強化製剤。
項17
前記改善された安定性パラメータが、熱保存安定性である、項1に記載の安定性強化製剤。
項18
前記熱保存安定性が、約10℃~30℃の温度で改善される、項17に記載の安定性強化製剤。
項19
前記改善された安定性パラメータが、改善された凍結/解凍安定性である、項1に記載の安定性強化製剤。
項20
前記改善された安定性パラメータが、改善された剪断安定性である、項1に記載の安定性強化製剤。
項21
前記製剤が、前記対照製剤と比較して、減少した粒子数を有する、項1に記載の安定性強化製剤。
項22
前記製剤が、前記対照製剤と比較して、改善された生物学的活性を有する、項1に記載の安定性強化製剤。
項23
治療用製剤の安定性を改善する方法であって、安定性改善量の安定化賦形剤を前記治療用製剤に添加し、それによって前記治療用製剤の前記安定性を改善することを含み、前記治療用製剤の前記安定性は、前記安定化賦形剤を欠いている以外は前記治療用製剤と同一である対照製剤の安定性と比較して、測定される、方法。
項24
前記安定化賦形剤が、ヒンダードアミン、アニオン性芳香族化合物、官能化アミノ酸、オリゴペプチド、短鎖有機酸、低分子量ポリ酸、ジオン、スルホン、双性イオン化合物、および水素結合性元素を有するクラウディング剤からなる群から選択される、項23に記載の方法。
項25
前記対照製剤の前記安定性と比較して、前記治療用製剤の前記安定性を測定する前記ステップが、安定性関連パラメータを測定することを含む、項23に記載の方法。
項26
前記安定性関連パラメータが、熱保存安定性、凍結/解凍安定性、および剪断安定性からなる群から選択される、項25に記載の方法。
項27
前記治療用製剤が、治療用タンパク質を含む、項23に記載の方法。
項28
前記治療用タンパク質が抗体である、項27に記載の方法。
項29
前記抗体が、抗体薬物複合体である、項28に記載の方法。
項30
タンパク質関連プロセスのパラメータを改善する方法であって、前記タンパク質関連プロセスのキャリア溶液に安定性改善量の安定化賦形剤を添加することを含み、前記キャリア溶液が目的のタンパク質を含み、それによって前記パラメータを改善する、方法。
項31
前記パラメータが、タンパク質生成のコスト、タンパク質生成の量、タンパク質生成の速度、およびタンパク質生成の効率からなる群から選択される、項30に記載の方法。
項32
前記目的のタンパク質が、治療用タンパク質である、項31に記載の方法。