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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】物性値計測方法、及び物性値算出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20230405BHJP
   G01N 21/47 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
G01N21/17 620
G01N21/47 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021534461
(86)(22)【出願日】2019-07-23
(86)【国際出願番号】 JP2019028893
(87)【国際公開番号】W WO2021014583
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朋子
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-266669(JP,A)
【文献】特開2017-225811(JP,A)
【文献】特開2018-115939(JP,A)
【文献】国際公開第2014/087825(WO,A1)
【文献】特開2010-088498(JP,A)
【文献】特表2006-521869(JP,A)
【文献】特開2014-128487(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0293599(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
A61B 1/00 - A61B 3/18
A61B 9/00 - A61B 10/06
G01N 33/48 - G01N 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象物に対して光を入射し、第1の計測により前記計測対象物からの戻り光の深さ方向における光強度分布を計測し、
前記第1の計測の計測結果に基づいて、前記計測対象物の深さ方向の減衰係数を算出し、
前記計測対象物に対して光を入射し、前記第1の計測とは異なる第2の計測により前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面における光強度分布を計測し、
減衰係数を前記第1の計測により算出した値に固定し、該値を制約条件として前記第2の計測の計測結果に基づいて、前記計測対象物の深さ方向の散乱係数及び吸収係数を算出する物性値計測方法。
【請求項2】
前記計測対象物の散乱係数又は吸収係数の一方を第1変数とし、前記第1の計測により算出した減衰係数と前記第1変数との差を第2変数とし、前記第1変数及び前記第2変数の複数のパラメータセットを作成し、
前記作成した複数のパラメータセットを用いて算出した前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面の平面上における光強度分布と、前記第2の計測により計測された前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面における光強度分布との差異が最小となるパラメータセットを選択し、
前記選択したパラメータセットを、前記計測対象物の深さ方向の散乱係数及び吸収係数とする請求項1に記載の物性値計測方法。
【請求項3】
前記第1変数は、吸収係数であり、
前記複数のパラメータセットを作成する際に、前記第1変数は、吸収係数が取り得る値の範囲に基づいて定められる請求項2に記載の物性値計測方法。
【請求項4】
前記第1の計測又は前記第2の計測は、前記計測対象物からの戻り光を前記計測対象物の表面においてスキャンして計測する請求項1~3のいずれか1つに記載の物性値計測方法。
【請求項5】
前記第1の計測は、干渉計測、時間分解計測、偏光計測、又はパターン投影計測である請求項1~4のいずれか1つに記載の物性値計測方法。
【請求項6】
前記第2の計測は、スポット光を入射する計測、時間分解計測、又は偏光計測である請求項1~5のいずれか1つに記載の物性値計測方法。
【請求項7】
前記第2の計測は、前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面における光強度分布を計測する請求項1~6のいずれか1つに記載の物性値計測方法。
【請求項8】
前記第1変数を所定の範囲内における異なる値に設定して、前記第1変数及び前記第2変数のルックアップテーブルを作成し、
前記作成したルックアップテーブルに対応して算出した前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面の平面上における光強度分布と、前記第2の計測により計測された前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面における光強度分布との差異が最小となる前記第1変数及び前記第2変数を選択する請求項2に記載の物性値計測方法。
【請求項9】
前記計測対象物内における光伝播を解析して算出した前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面の平面上における光強度分布と、前記第2の計測により計測された前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面における光強度分布との差異が最小となる散乱係数及び吸収係数を算出する請求項1に記載の物性値計測方法。
【請求項10】
前記第2の計測は、前記計測対象物に入射する光の偏光と前記計測対象物からの戻り光の偏光とを制御して、前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面における光強度分布を計測する請求項1に記載の物性値計測方法。
【請求項11】
前記計測対象物の深さ方向の散乱係数、及び前記第1の計測による前記計測対象物からの戻り光の光強度の波長依存性に基づいて、前記計測対象物の深さ方向の異方性散乱パラメータを算出する請求項1~10のいずれか1つに記載の物性値計測方法。
【請求項12】
計測対象物に対して光を入射し、前記計測対象物からの戻り光の深さ方向における光強度分布を計測する第1計測装置による計測結果と、前記計測対象物に対して光を入射し、前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面における光強度分布を前記第1計測装置とは異なる計測方法により計測する第2計測装置による計測結果と、を取得する取得部と、
前記第1計測装置の計測結果に基づいて、前記計測対象物の深さ方向の減衰係数を算出する減衰係数算出部と、
減衰係数を前記減衰係数算出部が算出した値に固定し、該値を制約条件として前記第2計測装置の計測結果に基づいて、前記計測対象物の深さ方向の散乱係数及び吸収係数を算出する物性値算出部と、
を備える物性値算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物性値計測方法、及び物性値算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
体積散乱体である生体等の計測対象物に対して光を照射し、計測対象物からの戻り光の光強度を複数の異なる角度や位置において計測することにより、計測対象物内部の物性値分布を推定する技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、計測対象物に光を照射する角度、及び計測対象物からの戻り光を受光する角度を変化させて計測を行い、光輸送方程式(RTE:Radiative Transfer Equation)、及びルックアップテーブルを用いて、計測対象物内部の散乱係数及び吸収係数を推定する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、計測対象物からの戻り光を複数の光ファイバにより異なる位置において受光し、モンテカルロ法を用いて、計測対象物内部の散乱係数及び吸収係数を推定する技術が開示されている。
【0005】
特許文献1、2の技術では、計測対象物からの戻り光の光強度を計測する角度や位置の数を増やして情報量を増やすことにより、計測対象物内部の物性値を推定する精度を高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4995055号公報
【文献】特許第4038179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2の技術において、計測対象物からの戻り光の光強度を計測する角度や位置の数を増やしても、推定する物性値の精度を限界値よりも高くすることができなかった。これは、特許文献1、2の技術では、戻り光の光路を正確に推定することができないことに起因する。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、計測対象物内部の散乱係数及び吸収係数を精度よく推定することができる物性値計測方法、及び物性値算出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る物性値計測方法は、計測対象物に対して光を入射し、第1の計測により前記計測対象物からの戻り光の光強度を計測し、前記第1の計測の計測結果に基づいて、前記計測対象物の深さ方向の減衰係数を算出し、前記計測対象物に対して光を入射し、前記第1の計測とは異なる第2の計測により前記計測対象物からの戻り光の光強度を計測し、減衰係数を前記第1の計測により算出した値に固定し、該値を制約条件として前記第2の計測の計測結果に基づいて、前記計測対象物の深さ方向の散乱係数及び吸収係数を算出する。
【0010】
また、本発明の一態様に係る物性値計測方法は、前記計測対象物の散乱係数又は吸収係数の一方を第1変数とし、前記第1の計測により算出した減衰係数と前記第1変数との差を第2変数とし、前記第1変数及び前記第2変数の複数のパラメータセットを作成し、前記作成した複数のパラメータセットを用いて算出した前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面の平面上における光強度分布と、前記第2の計測により計測された前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面における光強度分布との差異が最小となるパラメータセットを選択し、前記選択したパラメータセットを、前記計測対象物の深さ方向の散乱係数及び吸収係数とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係る物性値計測方法は、前記第1変数は、吸収係数であり、前記複数のパラメータセットを作成する際に、前記第1変数は、吸収係数が取り得る値の範囲に基づいて定められる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る物性値計測方法は、前記第1の計測又は前記第2の計測は、前記計測対象物からの戻り光を前記計測対象物の表面においてスキャンして計測する。
【0013】
また、本発明の一態様に係る物性値計測方法は、前記第1の計測は、干渉計測、時間分解計測、偏光計測、又はパターン投影計測である。
【0014】
また、本発明の一態様に係る物性値計測方法は、前記第2の計測は、スポット光を入射する計測、時間分解計測、又は偏光計測である。
【0015】
また、本発明の一態様に係る物性値計測方法は、前記第2の計測は、前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面における光強度分布を計測する。
【0016】
また、本発明の一態様に係る物性値計測方法は、前記第1変数を所定の範囲内における異なる値に設定して、前記第1変数及び前記第2変数のルックアップテーブルを作成し、前記作成したルックアップテーブルに対応して算出した前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面の平面上における光強度分布と、前記第2の計測により計測された前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面における光強度分布との差異が最小となる前記第1変数及び前記第2変数を選択する。
【0017】
また、本発明の一態様に係る物性値計測方法は、前記計測対象物内における光伝播を解析して算出した前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面の平面上における光強度分布と、前記第2の計測により計測された前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面における光強度分布との差異が最小となる散乱係数及び吸収係数を算出する。
【0018】
また、本発明の一態様に係る物性値計測方法は、前記第2の計測は、前記計測対象物に入射する光の偏光と前記計測対象物からの戻り光の偏光とを制御して、前記計測対象物からの戻り光の前記計測対象物の表面における光強度分布を計測する。
【0019】
また、本発明の一態様に係る物性値計測方法は、前記計測対象物の深さ方向の散乱係数、及び前記第1の計測による前記計測対象物からの戻り光の光強度の波長依存性に基づいて、前記計測対象物の深さ方向の異方性散乱パラメータを算出する。
【0020】
また、本発明の一態様に係る物性値算出装置は、計測対象物に対して光を入射し、前記計測対象物からの戻り光の光強度を計測する第1計測装置による計測結果と、前記計測対象物に対して光を入射し、前記計測対象物からの戻り光の光強度を前記第1計測装置とは異なる計測方法により計測する第2計測装置による計測結果と、を取得する取得部と、前記第1計測装置の計測結果に基づいて、前記計測対象物の深さ方向の減衰係数を算出する減衰係数算出部と、減衰係数を前記減衰係数算出部が算出した値に固定し、該値を制約条件として、前記第2計測装置の計測結果に基づいて、前記計測対象物の深さ方向の散乱係数及び吸収係数を算出する物性値算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、計測対象物内部の散乱係数及び吸収係数を精度よく推定することができる物性値計測方法、及び物性値算出装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る物性値算出装置を含む物性値計測システムの構成を示す模式図である。
図2図2は、第2計測装置の構成を示す模式図である。
図3図3は、図1に示す物性値算出装置が実行する処理の概要を示すフローチャートである。
図4図4は、第1計測装置により計測された深さ方向における戻り光の光強度を表す図である。
図5図5は、第2計測装置により形成された戻り光の2次元光強度分布を表す図である。
図6図6は、計測対象物の内部を光が伝播する様子を表す図である。
図7図7は、第1変数を変化させる様子を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して本発明に係る物性値計測方法、及び物性値算出装置の実施の形態を説明する。なお、これらの実施の形態により本発明が限定されるものではない。本発明は、散乱係数及び吸収係数を計測する物性値計測方法、及び物性値算出装置一般に適用することができる。
【0024】
また、図面の記載において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0025】
(実施の形態)
〔物性値計測システムの構成〕
まず、実施の形態に係る物性値計測システムの構成を説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る物性値算出装置を含む物性値計測システムの構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施の形態に係る物性値計測システム1は、第1計測装置2と、第2計測装置3と、第1計測装置2及び第2計測装置3による計測結果に基づいて計測対象物内部の物性値を算出する物性値算出装置4と、を備える。なお、計測対象物は、例えば生体であるが、疑似生体(いわゆるファントム)等であってもよく、特に限定されない。
【0026】
〔第1計測装置の構成〕
次に、第1計測装置の構成を説明する。第1計測装置2は、計測対象物に対して光を入射し、計測対象物からの戻り光の光強度を計測する。具体的には、第1計測装置2は、例えば可視光域において計測対象物の内部を光コヒーレンストモグラフィー(OCT:Optical Coherence Tomography)により計測するが、波長帯域は特に限定されない。第1計測装置2は、SD(スペクトラムドメイン)-OCTによりOCT計測を行うが、TD(タイムドメイン)-OCTによりOCT計測を行ってもよい。
【0027】
第1計測装置2は、光を出射する第1光源部21と、第1光源部21が出射した光を伝播する伝播部22と、第1光源部21からの光を測定光と参照光とに分岐する光分岐部23と、被検体において後方散乱した測定光と参照光とにより生成された干渉光を分光する分光部24と、分光部24において分光された干渉光を受光する第1受光部25と、を備える。第1計測装置2が可視光域においてOCT計測を行う場合、第1光源部21~第1受光部25は、それぞれ可視光域で機能するものを用いる。
【0028】
第1光源部21は、可視光域において波長幅や中心波長を自由に選択できる光源である。具体的には、第1光源部21は、例えばスーパーコンティニューム光源である。第1光源部21が出射する光は、計測対象物Oの1点に照射されるスポット光であるが、計測対象物Oに対して水平方向にスキャンしてスポット光を照射してもよい。
【0029】
伝播部22は、第1光源部21が出射した光を伝播する。第1光源部21は、可視光域での損失及び分散が小さい光ファイバであり、例えばフォトニッククリスタルファイバである。
【0030】
光分岐部23は、例えばハーフミラーであり、光分岐部23を透過した光が測定光となり、光分岐部23において反射した光が参照光となる。光分岐部23を透過した測定光は、被検体に入射する。そして、被検体の内部で後方散乱された光が再度光分岐部23を透過し、この光と参照光との干渉光が分光部24に入射する。
【0031】
分光部24は、干渉光を分光する。分光部24は、例えば回折格子であってよいが、プリズムであってもよく、光を分光する構成であればよい。
【0032】
第1受光部25は、入射した光を光電変換して生成される電気信号を出力する。第1受光部25は、例えば1画素のフォトダイオードであってよいが、複数画素のラインセンサやエリアセンサであってもよい。第1受光部25が1画素の受光素子である場合、分光部24又は第1受光部25が移動又は回転することにより、各波長におけるOCT計測結果を取得することができる。あるいは複数画素のセンサにより、可動部なしで分光された光を取得してもよい。また、第1受光部25は、計測対象物Oに対して水平方向にスキャンした測定光を受光してもよい。
【0033】
〔第2計測装置の構成〕
次に、第2計測装置の構成を説明する。第2計測装置3は、計測対象物に対して光を入射し、計測対象物からの戻り光の光強度を第1計測装置2とは異なる計測方法により計測する。図2は、第2計測装置の構成を示す模式図である。図2に示すように、第2計測装置3は、計測対象物Oに対して略垂直にスポット光を入射する第2光源部31と、計測対象物Oからの戻り光を入射方向から例えば60°の方向において受光する第2受光部32と、を備える。ただし、第2受光部32が戻り光を受光する角度は特に限定されない。第2受光部32は、2次元状に配列された撮像素子を有し、計測対象物Oからの戻り光の計測対象物Oの表面における光強度分布を計測する。また、第2光源部31は、計測対象物Oに対して入射光に直交する面内においてスキャンしてスポット光を照射してもよい。同様に、第2受光部32は、計測対象物Oからの戻り光を計測対象物Oの表面においてスキャンして受光してもよい。
【0034】
〔物性値算出装置の構成〕
次に、物性値算出装置の構成を説明する。物性値算出装置4は、第1計測装置2及び第2計測装置3による計測結果を取得する取得部41と、第1計測装置2による計測結果に基づいて減衰係数を算出する減衰係数算出部42と、散乱係数及び吸収係数を算出する物性値算出部43と、物性値計測システム1全体を統括的に制御する制御部44と、物性値計測システム1を制御するための各種プログラムを記憶する記憶部45と、を備える。
【0035】
取得部41は、第1計測装置2及び第2計測装置3による計測結果を取得する。
【0036】
減衰係数算出部42は、第1計測装置2の計測結果に基づいて、計測対象物Oの深さ方向の減衰係数を算出する。減衰係数算出部42は、CPU(Central Processing Unit)や各種演算回路等を用いて実現される。
【0037】
物性値算出部43は、減衰係数を減衰係数算出部42が算出した値に固定し、この値を制約条件として第2計測装置3の計測結果に基づいて、計測対象物Oの深さ方向の散乱係数及び吸収係数を算出する。物性値算出部43は、CPUや各種演算回路等を用いて実現される。
【0038】
制御部44は、物性値計測システム1を構成する各部に対する指示やデータの転送等を行って物性値計測システム1の動作を統括的に制御する。制御部44は、CPUや各種演算回路等を用いて実現される。
【0039】
記憶部45は、ハードディスク及びRAM(Random Access Memory)等の半導体メモリを用いて実現される。記憶部45は、物性値計測システム1が実行する各種プログラムや取得部41が取得した第1計測装置2および第2計測装置3による計測結果等を記憶する。
【0040】
〔物性値計測方法〕
次に、物性値計測システム1を用いた物性値計測方法を説明する。図3は、図1に示す物性値算出装置4が実行する処理の概要を示すフローチャートである。まず、図3に示すように、取得部41は、第1計測装置2の計測結果を取得する(ステップS1)。取得部41が取得する計測結果には、測定光と参照光との干渉成分と、非干渉成分とが含まれている。なお、第1計測装置2は、ステップS1を行う前に計測を行っている。
【0041】
続いて、減衰係数算出部42は、第1計測装置2の計測結果に基づいて、計測対象物Oの深さ方向の減衰係数を算出する(ステップS2)。減衰係数算出部42は、取得部41が取得した計測結果から別途計測した非干渉成分を差し引いて干渉成分のみとする。さらに、減衰係数算出部42は、干渉成分を波長方向にフーリエ変換することにより、計測対象物Oの深さ方向における戻り光の光強度分布を算出する。図4は、第1計測装置により計測された深さ方向における戻り光の光強度を表す図である。図4の横軸は、深さであり、深さd0が計測対象物Oの表面に対応する。図4の縦軸は、自然対数で表した計測対象物Oからの戻り光の光強度である。なお、計測対象物Oは、例えば消化器の上皮である。
【0042】
図4の計測結果を直線によりフィッティングすると、計測対象物Oは、直線L1に対応する深さd0~d1までの上層と、直線L2に対応する深さd1~d2までの下層との2層構造であることがわかる。そして、直線L1の傾きから上層の減衰係数μt1を算出することができ、直線L2の傾きから下層の減衰係数μt2を算出することができる。
【0043】
その後、取得部41は、第2計測装置3の計測結果を取得する(ステップS3)。図5は、第2計測装置により形成された計測対象物Oの表面における戻り光の2次元光強度分布を表す図である。第2計測装置3は、図5に示す計測対象物Oからの戻り光の計測対象物Oの表面における光強度分布を計測する。光強度分布の原点(図5の縦軸及び横軸の数字かゼロの位置)は、第2光源部31からスポット光を照射する位置に対応する。そして、右側に示す表示バーBの数値が大きいパターンに対応する領域ほど光強度が高いことを示す。なお、第2計測装置3は、ステップS3を行う前に計測を行っている。
【0044】
続いて、物性値算出部43は、減衰係数を減衰係数算出部42が算出した値に固定し、この値を制約条件として第2計測装置3の計測結果に基づいて、計測対象物Oの深さ方向の散乱係数及び吸収係数を算出する(ステップS4)。
【0045】
図6は、計測対象物の内部を光が伝播する様子を表す図である。図6に示すように、計測対象物Oである消化器の上皮は、散乱係数μs1、吸収係数μa1の上層と、散乱係数μs2、吸収係数μa2の下層とからなる。また、μt1=μs1+μa1、μt2=μs2+μa2がそれぞれ成り立つ。
【0046】
物性値算出部43は、計測対象物Oの吸収係数(μa1、μa2)を第1変数とし、第1の計測により算出した減衰係数(μt1、μt2)と第1変数との差(μs1=μt1-μa1、μs2=μt2-μa2)を第2変数とし、第1変数及び第2変数の複数のパラメータセットを作成する。複数のパラメータセットを作成する際に、第1変数は、吸収係数が取り得る値の範囲に基づいて定められることが好ましい。吸収係数が取り得る値の下限値はゼロとすることができ、上限値は計測対象物Oの公知の吸収係数に基づいて十分大きい値に設定することができる。
【0047】
図7は、第1変数を変化させる様子を表す図である。図7に示すように、第1変数は、吸収係数が取り得る値の範囲に基づいて、例えばゼロから吸収係数の後述する基準値の2倍までとする。そして、第1変数であるμa1、μa2をそれぞれゼロから基準値の2倍まで所定の間隔で変化させたパラメータセットを作成し、これらのパラメータセットを全て含むルックアップテーブルを作成する。
【0048】
上皮の特徴として、一般的に散乱係数が吸収係数より十分に大きいことから、減衰係数は、散乱係数による寄与が支配的となる。そのため、散乱係数を第1変数とすると、吸収係数が負になる場合があり散乱係数の変化の幅を大きくすることができず、吸収係数及び散乱係数を精度よく推定することができない。そこで、吸収係数を第1変数とし、第1変数を吸収係数が取り得る値の範囲内で変化させることにより、吸収係数が負にならず、かつ吸収係数の変化率を大きくした上で吸収係数及び散乱係数を推定することができる。その結果、吸収係数及び散乱係数を高精度に推定することができる。ただし、散乱係数(μs1、μs2)を第1変数としても散乱係数及び吸収係数の推定は可能である。なお、吸収係数の基準値は、例えば計測を行った波長における一般的な上皮の吸収係数を参考に設定すればよい。
【0049】
続いて、物性値算出部43は、作成したルックアップテーブルの各パラメータセットに対して、モンテカルロ法を用いて第2の計測と同一の条件の場合の戻り光の計測対象物の表面の平面上における光強度分布を算出する。そして、算出した各パラメータセットに対する光強度分布と図5に示す計測結果の光強度分布とを比較し、全画素の二乗積算誤差が最小になるパラメータセットを選択する。さらに、物性値算出部43は、選択したパラメータセットを、計測対象物Oの深さ方向に変化する散乱係数(μs1、μs2)及び吸収係数(μa1、μa2)とする。
【0050】
以上説明したように、実施の形態によれば、第1の計測及び第2の計測の2つの計測方法を組み合わせることにより、計測対象物Oの散乱係数及び吸収係数を精度よく推定することができる。特に、本実施の形態では第1の計測により計測対象物Oの減衰係数の深さ方向の分布を求め、この減衰係数の値を制約条件として、第2の計測の結果を用いて散乱係数および吸収係数の深さ方向の分布を求めている。減衰係数の値を制約条件とすることで、散乱係数および吸収係数を求める場合の変数の数が少なくなり、特許文献1および2に開示されている推定方法より高精度に散乱係数及び吸収係数の深さ方向の分布を求めることができる。
【0051】
(変形例1)
変形例1において、物性値算出部43は、計測対象物O内における光伝播を解析して算出した計測対象物Oからの戻り光の計測対象物Oの表面の平面上における光強度分布と、第2の計測により計測された計測対象物Oからの戻り光の計測対象物Oの表面における光強度分布との差異が最小となる散乱係数及び吸収係数を算出する。計測対象物O内における光伝播を解析する方法としては、光輸送方程式、拡散近似式を用いて光伝播を計算する方法、モンテカルロ法を用いて確率的に光線を追跡する方法等がある。また、最適なパラメータセットを選択(最適化)する方法としては、ニュートン法、ラグランジュの未定乗数法等がある。
【0052】
(変形例2)
変形例2において、第2の計測は、計測対象物Oに入射する光の偏光と計測対象物Oからの戻り光との偏光とを制御して、計測対象物Oからの戻り光の計測対象物Oの表面における光強度分布を計測する。具体的には、第2の計測として、計測対象物Oに入射する光と計測対象物Oからの戻り光との偏光をクロスニコル及びパラニコルとした場合の戻り光の光強度分布を計測し、Andreas H. Hielscher, et al., “Influence of particle size and concentration on the diffuse backscattering of polarized light from tissue phantoms and biological cell suspensions” 1 January 1997 y Vol. 36, No. 1 y APPLIED OPTICSに記載されている方法を用いて散乱係数を算出する。さらに、第1の計測により求めた減衰係数から散乱係数を減算することにより吸収係数を求めることができる。
【0053】
(変形例3)
変形例3において、物性値算出部43は、計測対象物Oの深さ方向の散乱係数、及び第1の計測による計測対象物Oからの後方散乱光μbの波長依存性に基づいて、計測対象物Oの深さ方向の異方性散乱パラメータであるgパラメータを算出する。具体的には、物性値算出部43は、まず、gパラメータを適当な値に固定し、逆解析等により深さ方向の散乱係数を算出する。続いて、算出した散乱係数と、第1の計測により測定した後方散乱光μbの波長依存性から、J. Yi, et al., “Spatially resolved optical and ultrastructural properties of colorectal and pancreatic field carcinogenesis observed by inverse spectroscopic optical coherence tomography,” J. Biomed. Opt. 19(3), 036013 (2014).に記載されている方法を用いてgパラメータを算出する。なお、物性値算出部43は、上述した計算を繰り返し行うことにより、算出するgパラメータの精度を高めてもよい。また、物性値算出部43は、吸収係数が散乱係数に対して十分に小さいと仮定して、第1の計測により求めた減衰係数を散乱係数とみなしてgパラメータを算出してもよい。
【0054】
なお、上述した実施の形態では、第1の計測として干渉計測を行う例を説明したがこれに限られない。第1の計測は、時間分解計測、偏光計測、パターン投影計測であってもよい。時間分解計測では、パルス又は強度変調光を計測対象物Oに照射した場合における計測対象物Oからの戻り光の光強度の時間変化から、計測対象物Oの深さ方向の情報を得ることができる。偏光計測では、計測対象物Oに入射する光と計測対象物Oからの戻り光との偏光を制御することにより、浅部及び深部それぞれの情報を得ることができる。また、パターン投影計測では、縞パターンの周波数特性と計測対象物O(生体等の散乱体)の深さとが対応するため、深さ方向の情報を得ることができる。このように、第1の計測は、計測対象物Oの深さ方向の情報を得ることができる計測方法であれば特に限定されない。
【0055】
また、上述した実施の形態では、第2の計測として計測対象物Oにスポット光を入射する計測を行う例を説明したがこれに限られない。第2の計測は、時間分解計測、又は偏光計測又はパターン投影であってもよい。時間分解計測では、インパルス応答又は強度変調光に対する位相ずれの特徴などから、散乱係数と吸収係数とを分離することができる。偏光計測では、計測対象物Oに入射する光と計測対象物Oからの戻り光との偏光を制御することにより、偏光依存性がある散乱と、偏光依存性がない吸収とを分離することができる。パターン投影では、複数周波数のパターン投影像から、最適化により散乱係数および吸収係数を求めることができる。このように、第2の計測は、散乱係数と吸収係数とを分離可能な計測方法であれば特に限定されない。
さらに、第1の計測を計測対象物Oの異なる部分に対して行えば、その部分の深さ方向の減衰係数の分布を求めることができ、この値を用いて計測対象物Oの3次元的な散乱係数と吸収係数との分布を求めることもできる。
【0056】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、以上のように表し、かつ記述した特定の詳細及び代表的な実施の形態に限定されるものではない。従って、添付のクレーム及びその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神又は範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 物性値計測システム
2 第1計測装置
3 第2計測装置
4 物性値算出装置
21 第1光源部
22 伝播部
23 光分岐部
24 分光部
25 第1受光部
31 第2光源部
32 第2受光部
41 取得部
42 減衰係数算出部
43 物性値算出部
44 制御部
45 記憶部
O 計測対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7