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特許7256884電子式にスリップ制御可能な外部動力ブレーキ装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】電子式にスリップ制御可能な外部動力ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/18 20060101AFI20230405BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20230405BHJP
   B60T 13/68 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T13/138 A
B60T13/68
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021544692
(86)(22)【出願日】2019-12-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 EP2019084103
(87)【国際公開番号】W WO2020164775
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】102019201907.2
(32)【優先日】2019-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ブンク,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】バルスケ,フェレーナ
(72)【発明者】
【氏名】フェルヒ,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】クラウター,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ツィグラー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】シェーファー,ウルリケ
【審査官】前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102015225057(DE,A1)
【文献】特開2001-206209(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102012002791(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 15/00 - 17/22
B60T 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のための電子式にスリップ制御可能な外部動力ブレーキ装置であって、
制御可能に駆動される圧力発生器(50)と、
前記圧力発生器(50)に互いに並列に接続された複数のブレーキ回路(16,18)と、
前記ブレーキ回路(16;18)を前記圧力発生器(50)から遮断するための、前記ブレーキ回路(16;18)毎にそれぞれ1つ設けられた電子式に制御可能な第1の方向制御弁(60)と、
前記ブレーキ回路(16;18)に連結されたホイールブレーキ(14)内のブレーキ圧を制御するための、前記第1の方向制御弁(60)の下流に配置された電子式に制御可能な第2の方向制御弁(62)と、
前記第2の方向制御弁(62)に並列に接続され、前記圧力発生器(50)から前記ホイールブレーキ(14)に向かう方向で遮断位置を占め、前記ホイールブレーキ(14)から前記圧力発生器(50)に向かう方向で圧力媒体を流過させる逆止弁(78)と、
前記圧力発生器(50)および前記方向制御弁(60;62)の制御を行う電子制御装置(34)と、
を備えている形式のものにおいて、
前記電子制御装置(34)が、
前記ブレーキ回路(16;18)の気密性を検査して、非気密性が検知された場合に少なくとも間接的に前記圧力発生器(50)から遮断するために構成された第1の装置(90)と、
圧力を表す信号値を互いに比較するために構成された第2の装置(92)と、
前記ブレーキ回路(16;18)の非気密性が確認されて、前記圧力発生器(50)によって形成された圧力が前記ブレーキ回路(16;18)の前記第1の方向制御弁(60)の限界圧力(86)に少なくとも概ね達するかまたはこれを上回ったときに、前記第2の方向制御弁(62)を閉じた状態で、前記ブレーキ回路(16;18)の前記第1の方向制御弁(60)を流過位置にもたらすために構成された第3の装置(94)と、
を備えていることを特徴とする、電子式にスリップ制御可能な外部動力ブレーキ装置。
【請求項2】
前記第1の方向制御弁(60)が、前記第1の方向制御弁(60)の規定可能な前記限界圧力(86)よりも高い操作圧力下にある圧力媒体で負荷されることによって、または前記電子制御装置(34)による電子制御を用いて常時閉鎖されている基本位置から、前記第1の方向制御弁(60)が前記圧力媒体によって流過可能である位置へもたらされ得ることを特徴とする、請求項1に記載の電子式にスリップ制御可能な外部動力ブレーキ装置。
【請求項3】
前記電子制御装置(34)内に、前記第1の方向制御弁(60)の前記限界圧力(86)付近のヒステリシス範囲(88)が記憶されており、前記電子制御装置(34)の前記第3の装置(94)は、前記圧力発生器(50)により圧力上昇が行われたときに前記第1の方向制御弁(60)の前記限界圧力(86)付近の前記ヒステリシス範囲(88)の下側の範囲限界(88a)に達するかまたはこれを上回ったときに、非気密性を有する前記ブレーキ回路(16;18)の前記第1の方向制御弁(60)を少なくとも間接的に流過位置にもたらすために構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の電子式にスリップ制御可能な外部動力ブレーキ装置。
【請求項4】
前記電子制御装置(34)の前記第3の装置(94)は、前記圧力発生器(50)による圧力低下時に前記第1の方向制御弁(60)の前記限界圧力(86)付近の前記ヒステリシス範囲(88)の上側の範囲限界(88b)に達するかまたはこれを下回ったときに、非気密性を有する前記ブレーキ回路(16;18)の前記第1の方向制御弁(60)を少なくとも間接的に遮断位置にもたらすために構成されていることを特徴とする、請求項3に記載の電子式にスリップ制御可能な外部動力ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部の特徴に記載した電子式にスリップ制御可能な外部動力ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子式にスリップ制御可能な外部動力ブレーキ装置は、従来技術の車両製造業に含まれ、さしあたり既に多くの国で新車において法的に定められている。
【0003】
このような形式のブレーキ装置は、ブレーキ操作時にホイールのロックを阻止し、物理的な限界内で車両を安定した走行状態に保ち、結果的に走行安全性を高めるために役立つ。しかも、このようなブレーキ装置は、危険な状況において、運転者の関与なしにブレーキ圧を形成し、それにより自律的に事故を防ぐように作用することができる。このような形式のブレーキ装置は多方面で、アンチロック制御装置(ABS)、トラクション制御装置(ASR)または走行安定性制御装置(ESP)を備えたブレーキ装置とも呼ばれる。
【0004】
スリップ制御可能なブレーキ装置は、しばしば外部動力ブレーキ装置として構成される。外部動力ブレーキ装置は、運転者の制動要求が電子的に検知され、制御可能に駆動可能な圧力発生器によってブレーキ圧に変換されることを特徴としている。このようなブレーキ圧によって負荷されたホイールブレーキは最終的に要求された車両減速を生ぜしめる。
【0005】
さらに、スリップ制御可能なブレーキ装置内に圧力発生器として、周期的に作業するピストンポンプ、連続的に圧送する歯車ポンプまたはプランジャ装置を使用することが公知である。図1に示された本発明に基づくスリップ制御可能な外部動力ブレーキ装置は、ブレーキ圧下にある圧力媒体がプランジャ圧力発生器により共通に供給される、互いに並列接続された2つのブレーキ回路を有している。
【0006】
ブレーキ装置の使用条件下で、非気密性の原因となる漏れ若しくは機械的な損傷がブレーキ回路のうちの1つに発生することを確実に排除することはできないので、またこの場合にブレーキ回路の共通の圧力発生器に基づいてブレーキ装置全体の機能正常性が脅かされることになるので、特許文献1には、ブレーキ装置の気密性を検査するための方法が提案されている。この方法を用いて、ブレーキ回路のうちのどれが損傷を被っているかを検知することができる。このような気密性のないブレーキ回路は、場合によっては別のブレーキ回路から遮断されてよいので、まだ正常なブレーキ回路を有する車両は、確実に停止状態に制動させることができ、故障したブレーキ回路内の漏れを介して圧力媒体が失われることはない。
【0007】
圧力発生器から遮断するために、各ブレーキ回路は電子式に制御可能な方向制御弁を備えている。この方向制御弁は、例えばプランジャ制御弁とも呼ばれ、常時閉鎖されている遮断位置から流過位置へ切換えることができる。このために、プランジャ制御弁は、閉鎖部材によって制御される弁横断面を有している。プランジャ制御弁に加えられる圧力は、この閉鎖部材を開放させるように作用する。従って、閉鎖部材に作用する圧力が、構造的な弁設計を介して規定可能な限界圧力よりも高いときに、プランジャ制御弁を開放して弁横断面を解放する。したがって、圧力媒体は場合によっては存在する漏れ箇所を通ってブレーキ装置から漏れ出ることになる。圧力媒体漏れによって、まだ正常なブレーキ回路が効果的に機能する時間が短くなる。しかも、漏れ出た圧力媒体は、場合によっては公害となる。さらに、正常なブレーキ回路内で圧力はもはや維持され得ない。何故ならば、圧力発生ユニットが故障した回路内に体積を押しやるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】独国特許出願第102018212016号明細書
【発明の概要】
【発明の効果】
【0009】
これに対して、請求項1の特徴による本発明は、このような故障したブレーキ回路から漏れ出た体積が最小の体積に減少され、したがって正常なブレーキ回路が提供される期間間隔が延長される、という利点を有している。さらに不都合な環境汚染は十分に避けられる。
【0010】
この提案のその他の利点および好適な発展形様は、従属請求項また以下の説明から得られる。
【0011】
本発明は、ブレーキ装置を制御するための改良された電子制御装置を用いて実行され、それによって、取り付けスペースが増大されないことに、またはこのような形式のブレーキ装置の液圧装置の部品組み立て若しくは組立てのための超過支出に好適な結果を生む。
【0012】
本発明は特に、圧力発生器によって生ぜしめられた圧力がそれぞれのプランジャ制御弁の限界圧力に少なくとも概ね達するか若しくはこれを上回ったときに、漏れを有するブレーキ回路のプランジャ制御弁を流過位置にもたらすために構成された、ブレーキ装置の電子制御装置内の装置に基づく。
【0013】
好適な形式で、本発明によれば、ブレーキ回路が所定の前提条件下で圧力発生器と連結され、ブレーキ圧によって負荷されることによって、漏れを有するブレーキ回路の圧力媒体漏れは減少される。漏れを有するブレーキ回路の遮断若しくは連結は、漏れを有するブレーキ回路に対応配設されたプランジャ制御弁を相応に電子制御することによって行われる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】これに関連して、本発明に基づく電子式にスリップ制御可能な外部動力ブレーキ装置の液圧回路図である。この液圧回路図は、後述する本発明に同様に基づく、ブレーキ装置の気密性を検査するための方法と共に特許文献1に開示されている。
図2a図1に示したブレーキ装置のブレーキ回路の、漏れを有する第1のブレーキ回路分岐路およびこの第1のブレーキ回路分岐路に並列接続された正常な第2のブレーキ回路分岐路を有する区分を示す図である。
図2b】損傷したブレーキ回路分岐路内の個別の構成要素の漏れ特性を示すグラフである。
図2c】ブレーキ回路の全漏れを示すグラフである。
図3a】本発明を説明するための、直列に接続された異なる弁位置にある2つの方向制御弁を備えた、漏れ箇所を有する第1のブレーキ回路分岐路を示す図である。
図3b】本発明を説明するための、直列に接続された異なる弁位置にある2つの方向制御弁を備えた、漏れ箇所を有する第1のブレーキ回路分岐路を示す図である。
図4a図3aおよび図3bに対応する、圧力発生器による圧力上昇段階若しくは圧力低下段階中のブレーキ回路の全漏れを示す図である。
図4b図3aおよび図3bに対応する、圧力発生器による圧力上昇段階中若しくは圧力低下段階中のブレーキ回路の全漏れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を用いて本発明の一実施例を具体的に示し、以下に詳しく説明する。
【0016】
本発明の実施例の説明
図1に示したブレーキ装置10は、ホイールブレーキ14が接続されている液圧装置12と、同様にこの液圧装置12に接続された圧力媒体リザーバタンク15とから構成されている。全部で4つのホイールブレーキ14が設けられており、これらのそれぞれ1対のホイールブレーキ14に、存在する2つのブレーキ回路16および18を介して圧力媒体が供給される。ブレーキ装置10の2つのブレーキ回路16;18のそれぞれ1つに、マスタブレーキシリンダ24の全部で2つの圧力媒体チャンバ20;22のそれぞれ1つが接続されている。マスタブレーキシリンダ24は、例示的に同様に液圧装置12内に収容されている。各圧力媒体チャンバ20;22はそれぞれ、同様に圧力媒体リザーバタンク15に接続されている。マスタブレーキシリンダ24は、典型的にペダルの形態に構成された操作装置26を用いて運転者によって操作可能である。このために、ペダルは連接ロッド28を介してマスタブレーキシリンダ24のいわゆるロッドピストン30に接続されている。
【0017】
ペダルの操作を介して運転者は制動要求を与える。この制動要求は、連接ロッド28の操作ストロークで明らかになり、この操作ストロークは、連接ロッド28の操作ストロークを検出する第1のセンサ装置32によって算出され、ブレーキ装置10の電子制御装置34に供給される。ロッドピストン30は、ロッドピストンスプリング36によってマスタブレーキシリンダ24の浮動ピストン38で支持されており、このロッドピストンスプリング36によって、ロッドピストン30の移動が浮動ピストン38に伝達される。
【0018】
ロッドピストン30に対応配設された、マスタブレーキシリンダ24の圧力媒体チャンバ20は、シミュレータ制御弁40によって制御可能な圧力媒体接続部を介してシミュレータ装置42に連結されており、このシミュレータ装置42内でマスタブレーキシリンダ24の圧力媒体チャンバ20から押し退けられた圧力媒体が、ペダル操作の際に減衰される。開放されたシミュレータ制御弁40において、シミュレータ装置42を用いてペダルの操作ストロークを表すことができる。
【0019】
マスタブレーキシリンダ24の2つの圧力媒体チャンバ20および22はそれぞれ、ブレーキ回路16;18のうちの一方に制御可能に接続されている。2つの圧力媒体接続部を制御するために、電子式に制御可能な回路セパレートバルブ44が設けられている。ブレーキ装置10(図示せず)の通常運転状態で、圧力媒体チャンバ20および22とブレーキ回路16;18との接続は、回路セパレートバルブ44によって遮断されていて、圧力チャンバ20とシミュレータ装置42との圧力媒体接続部は開放されている。
【0020】
制動要求若しくは与えられたペダルストロークに比例する、ブレーキ回路16;18内のブレーキ圧は、ブレーキ装置10の通常運転状態で、特にセンサ装置32の信号に依存して圧力発生器50によって提供される。このために、圧力発生器50はマスタブレーキシリンダ24に対して平行にブレーキ回路16;18と接続している。図1によれば、圧力発生器50としてプランジャ装置が用いられ、このプランジャ装置ではプランジャピストン52が、制御可能なモータ54によって、後置接続された伝動装置56を介して直線運動で駆動される。この場合、この圧力発生器50は、圧力媒体をプランジャ作業室58から2つのブレーキ回路16,18内に押し退ける。電子式に制御可能なプランジャ制御弁60は、ブレーキ回路16;18と圧力発生器50との間に存在する接続部を制御するために設けられている。このプランジャ制御弁60は、それぞれ2つの圧力媒体接続部を制御する、電子式に制御可能な常時閉鎖式の切換弁である。
【0021】
プランジャ制御弁60および回路セパレータバルブ44のそれぞれ下流に、ブレーキシステム10はいわゆる圧力調整装置を有している。この圧力調整装置は、接続されたホイールブレーキ14毎に、対応配設された電子式に制御可能なそれぞれ1つの圧力上昇弁62と、これと同じような圧力低下弁64とから成っている。圧力上昇弁62は、それぞれ2つの圧力媒体接続部を制御するための制御可能な常時開放式の方向制御弁であって、これらの方向制御弁は電子制御によって遮断位置へもたらすことができ、これに対して圧力低下弁64は、それぞれ2つの圧力媒体接続部を制御するための、電子制御によって遮断位置から流過位置へ切換可能な方向制御弁として構成されている。圧力上昇弁62および圧力低下弁64は、相応の電子制御によって、個別のホイールブレーキ14内の優勢的なホイールブレーキ圧をそれぞれ対応配設されたホイールにおけるスリップ比に適合させることができる。
【0022】
圧力上昇弁62に圧力制御式の逆止弁78が並列接続されている。この逆止弁78は、圧力低下弁64の、方向に依存する迂回可能性を提供するバイパスを制御する。圧力発生器50に対面する、逆止弁78の圧力媒体接続部に、ホイールブレーキ14に対面する圧力媒体接続部におけるよりも高い圧力が印加すると、逆止弁78はその遮断位置を占める。それとは逆に、ホイールブレーキ14側の圧力媒体接続部の圧力レベルが圧力発生器側の圧力媒体接続部よりも高ければ、逆止弁78は圧力上昇弁62の迂回流を可能にする。逆止弁78の課題は、ブレーキ操作の終わりにできるだけ迅速にホイールブレーキ14内の圧力低下を可能にすることである。
【0023】
ブレーキ操作の実行時にホイールのうちの1つに発生するスリップは、対応配設された車輪速センサ70によって低下するホイール回転数を用いて検出される。1つのホイールがロックしそうになると、当該の圧力低下弁64の開放によってブレーキ圧の低下が行われ、それに伴ってホイールブレーキ14から圧力媒体リザーバタンク15に通じるリターンフロー46内への圧力媒体流出が行われる。
【0024】
ホイールブレーキ14内のブレーキ圧を制御するために、ブレーキ装置10はさらに別のセンサ装置を備えている。センサ装置72は、ブレーキ回路16;18のブレーキ圧を検出し、追加的なセンサ装置74,76は、圧力発生器50の駆動若しくはプランジャピストン52の操作ストロークを評価する。センサ装置70~76の信号は電子制御装置34に送られる。この電子制御装置34は、これらの信号から圧力発生器50のモータ54および前記弁40;44;60;62;64における様々な制御信号を算出する。
【0025】
図2aに示された第1のブレーキ回路16の第1の分岐路16aにおいて、プランジャ制御弁60若しくは第1の方向制御弁は、圧力発生器50の下流で操作されていない基本位置にあり、従って圧力発生器50からホイールブレーキ14に通じる圧力媒体接続部を遮断する。これに対して、このプランジャ制御弁60の下流に位置する圧力上昇弁62若しくはこの分岐路16aの第2の方向制御弁は電子式に操作されていて、それによって同様にその遮断位置を占める。つまり、圧力発生器50からホイールブレーキ14に通じる圧力媒体接続部は2重に遮断されていて、従って圧力媒体によって貫流可能ではない。従って、この第1の分岐路16a内で第2の方向制御弁若しくは圧力上昇弁62とホイールブレーキ14との間に存在する漏洩箇所80を通って、根本的に圧力媒体が流出することはない。
【0026】
これに対して、このブレーキ回路16の図示の第2の分岐路16b内で圧力発生器50に対面する第1の方向制御弁若しくはプランジャ制御弁60は電子式に制御されてその流過位置を占め、一方、ホイールブレーキ14に対面する第2の方向制御弁若しくは圧力上昇弁62は基本位置にあり、従って同様に貫流されている。第2の分岐路16b内には漏洩箇所は存在しないので、圧力発生器50によってこの第2の分岐路16b内に圧力媒体が押し退けられることによって、対応配設されたホイールブレーキ14内でブレーキ圧上昇を行うことができる。
【0027】
図2bの2つのグラフは、第1のブレーキ回路16の、漏洩箇所80を有する第1の分岐路16aに対応していて、2つの方向制御弁の、図2aに示された位置における漏れ特性を示す。漏れ特性曲線96aおよび96bは、それぞれ方向制御弁に印加された圧力84を介した相応の方向制御弁における圧力媒体漏れ82を示す。この場合、グラフ内の垂直線は、いわゆる限界圧力86を具体的に示す。この限界圧力86は、それぞれ第1の方向制御弁若しくはプランジャ制御弁60、特にその閉鎖部材、その弁横断面およびそのリセット装置の寸法設計および構造的な形態によって予め設定可能である。プランジャ制御弁60の漏れ特性曲線96aは、このプランジャ制御弁60に印加された圧力がマークされた限界圧力86に対して上昇すると直ちに、比較的高い勾配で上昇する。このような弁特性に基づいて、この限界圧力86を上回ると直ちに、閉鎖体に作用する液圧力が開放方向に作用し、逆向きに作用する閉鎖方向の機械的な力を上回る。
【0028】
それとは異なり、第2の方向制御弁若しくは圧力上昇弁62は漏れ特性曲線96bを示し、この漏れ特性曲線96bは、限界圧力86の下側のその変化形状がグラフ内で下方に向かって開放する放物線と同じである。このような漏れ特性は、第2の方向制御弁に対して並列接続された逆止弁78によって生ぜしめられ、この逆止弁78は、圧力発生器50によってホイールブレーキ14に向かう方向に作用する印加された圧力勾配において遮断する。もっとも、この逆止弁78の確実な遮断作用はこの場合に、遮断方向で最小の力が逆止弁78の閉鎖部材に作用することが前提となっている。この最小の力は、例えば逆止弁78にプランジャ制御弁60の限界圧力86の高さの圧力が印加すると得られる。それゆえ、この限界圧力86よりも低い圧力において、逆止弁78の遮断作用は不十分であり、従って圧力媒体は逆止弁78を介して第2の方向制御弁62を迂回して流れ得る。
【0029】
図2bに示した2つの漏れ特性曲線96aおよび96bから得られるブレーキ回路16内の総漏れ量96cは、図2cのグラフに示されている。ブレーキ回路16内の圧力が限界圧力86を下回ると、漏れは生じない。何故ならば、プランジャ制御弁60はこの圧力範囲内で、前述のように確実に遮断するからである。しかしながら前述した理由により、限界圧力86の上側でプランジャ制御弁60は溢流され、圧力媒体を流過させる。この場合、まずプランジャ制御弁60の僅かに開放した制御横断面およびひいては高い絞り作用に基づいて、逆止弁78を負荷する圧力は閉鎖方向で、その遮断作用がホイールブレーキ14の圧力媒体接続部を確実に遮断させるためには不十分である程度に低い。従って、第2の方向制御弁若しくは圧力上昇弁62は迂回される。従ってその結果、限界圧力86を上回る圧力において、それにもかかわらず圧力媒体は漏洩箇所80に向かって進み、ブレーキ装置10から流出することが可能である。図2cによれば、この圧力媒体漏れは、ブレーキ回路16内の圧力が限界圧力86を超えているときに、その最大体積を占める。回路圧力がさらに上昇すると、この圧力媒体漏れは再びゼロに戻る。何故ならば逆止弁78に閉鎖方向で作用する力は、この遮断作用を保証するために十分に大きいからである。
【0030】
このような状態は、漏洩箇所80を有する欠陥のあるブレーキ回路16が、その互いに直列に接続された2つの方向制御弁が図3aおよび図3bに図示された弁位置を占めるように制御されると、変化する。図3aに示した位置を、この場合、欠陥のあるブレーキ回路16;18内の圧力が、0と、圧力発生器50に対面するプランジャ制御弁60の限界圧力86付近のヒステリシス範囲88の下側の範囲限界との間であるか、または圧力発生器50による圧力低下段階中にブレーキ回路16内の圧力が、0と、プランジャ制御弁60の限界圧力86付近のヒステリシス範囲88の上側の範囲限界との間であるときに、圧力発生器50による圧力上昇段階中の方向制御弁が占める。
【0031】
これに対して、図3bは、ブレーキ回路16内の圧力が、プランジャ制御弁60の限界圧力86付近のヒステリシス範囲88の下側の範囲限界と圧力発生器50によって生ぜしめられる最大圧力との間にあるときの、圧力発生器50による圧力上昇段階中の方向制御弁の位置を示すか、若しくはブレーキ回路16内のブレーキ圧が、プランジャ制御弁60の限界圧力86付近のヒステリシス範囲88の上側の範囲限界と圧力発生器50によって提供可能な最大圧力との間にあるときの、圧力発生器50による圧力低下段階中の方向制御弁の位置を示す。
【0032】
図3aによれば、方向制御弁はまず、図2の説明に関連して記載されているように制御される。この弁位置は、ブレーキ回路16内の圧力が限界圧力86あたりのヒステリシス範囲88の下側の範囲限界88aに近づくまで維持される。この範囲内で、第1の方向制御弁若しくはプランジャ制御弁60は、ブレーキ回路16をホイールブレーキ14に対して確実にシールする。圧力発生器50の圧力がプランジャ制御弁60の限界圧力86付近のヒステリシス範囲88の下側の範囲限界88aに達するかもしくはこれを上回ると、本発明によれば、プランジャ制御弁60は電子制御装置34によって制御され、その流過位置にもたらされる(図3b)。
【0033】
これまでに、開放されたプランジャ制御弁60によってその絞り作用が低下されているので、圧力発生器50の圧力は殆ど低下されずに、圧力上昇弁62に対して並列接続された逆止弁78に作用し、それによってこの有効な圧力がその遮断作用を保証する。
【0034】
圧力発生器50により得られた圧力低下時に、図3bによるプランジャ制御弁60は、圧力発生器50の圧力がプランジャ制御弁60の限界圧力86のあたりのヒステリシス範囲88の上側の範囲限界88bに達するまで、電子式に制御され、それによってその流過位置に保持される。こうして、このプランジャ制御弁60の制御が解除されるので、プランジャ制御弁60は図3aに示された遮断位置に再び戻る。
【0035】
第1の方向制御弁若しくはプランジャ制御弁60の限界圧力86付近の下側および上側の範囲限界88aおよび88bを有するヒステリシス範囲88は好適な形式で、プランジャ制御弁60の規定された限界圧力86に近い圧力値において、プランジャ制御弁60が交番式電子制御に基づいて遮断位置と流過位置との間で高い周波数で往復切換えされ、それによって不都合な形式で不快に感じられる騒音を発生させるかまたは熱的または機械的な過負荷に晒されるのを避けるために設けられている。
【0036】
図4aは、上記構成に関連して、圧力発生器50による圧力上昇中のブレーキ回路16;18の漏れ特性曲線96dを示し、図4bは、圧力発生器50による圧力低下中のブレーキ回路16;18の漏れ特性曲線96eを示す。
【0037】
図4aによれば、ブレーキ回路16;18内の圧力上昇時に、プランジャ制御弁60の限界圧力86付近のヒステリシス範囲88の下側の範囲限界88aに達するまで、損傷したブレーキ回路16;18内で圧力媒体漏れは発生しない。ブレーキ回路16;18内の圧力がプランジャ制御弁60の限界圧力86付近のヒステリシス範囲88の下側の範囲限界88aに達すると、圧力媒体漏れは急激に低い最大値に上昇し、それに続いて、つまりブレーキ回路16;18内の圧力がさらに上昇するにつれて再び連続的に0に戻る。
【0038】
これに対して、圧力発生器50による圧力低下時に、ブレーキ回路16;18内の圧力が、プランジャ制御弁60の限界圧力86と、この限界圧力86付近のヒステリシス範囲88の上側の範囲限界88bとの間にあるときに、僅かな圧力媒体漏れが発生するだけである。最大の圧力媒体漏れには、ブレーキ回路16;18内の圧力が上側の範囲限界88bの圧力に相当するときに達せられする。ブレーキ回路16;18内の圧力低下に伴って、圧力媒体漏れは図示のように連続的に0に戻る。
【0039】
プランジャ制御弁60の前記制御は、必要な場合にブレーキ装置10の電子制御装置34によって行われる。このために、この電子制御装置34は、第1の装置90(図1)を備えており、この第1の装置90は、ブレーキ回路16,18の気密性を検査し、それによって、ブレーキ回路16;18のうちの1つで場合によっては発生する漏れを検知する。非気密性を有するブレーキ回路16;18は、このブレーキ回路16;18に対応配設されたプランジャ制御弁60がその遮断位置を占めるように制御されることによって、第1の装置90により圧力発生器50から遮断される。この第1の装置90の別の機能形式については、ここでもう一度開示された特許文献1が参照される。
【0040】
さらに、電子制御装置34は第2の装置92(図1)を備えており、この第2の装置92は、圧力発生器50によって生ぜしめられた圧力の高さを電子的に記憶された圧力と比較するために構成されている。このために、この装置92は、ブレーキ装置10内に設けられた圧力センサ72によって供給された信号を評価して、この信号を、第1の方向制御弁若しくはプランジャ制御弁60の限界圧力86を表す、制御装置34内に記憶された信号と比較する。この場合、その目的は、圧力発生器50の圧力がプランジャ制御弁60の予め定められた限界圧力86を上回るかどうかの確認である。さらに、典型的に、この電子制御装置34の第2の装置92内に、第1の方向制御弁若しくはプランジャ制御弁60の限界圧力86付近の前記ヒステリシス範囲88の下側および上側の範囲限界88a;88bが記憶されていてよい。
【0041】
さらに電子制御装置34内に設けられた第3の装置94(図1)は、電子制御装置34の第1の装置90によってブレーキ回路16,18内の漏れが検知されて圧力発生器50によって生ぜしめられた圧力がプランジャ制御弁60の限界圧力86に少なくとも概ね達するかまたはこれを上回ったときに、圧力発生器50の隣に位置する第1の方向制御弁若しくはプランジャ制御弁60を少なくとも間接的にその流過位置にもたらすために構成されている。
【0042】
その結果、電子制御装置34の前記装置90~94によって、損傷したブレーキ回路16,18に発生した圧力媒体漏れが従来技術に対して著しく減少させられている。
【0043】
もちろん、本発明の基本的な考え方から逸脱することなしに、前記実施例をさらに変更または補足することが考えられる。
【符号の説明】
【0044】
10 ブレーキ装置
12 液圧装置
14 ホイールブレーキ
15 圧力媒体リザーバタンク
16,18 ブレーキ回路
16a 第1の分岐路
16b 第2の分岐路
20,22 圧力媒体チャンバ
24 マスタブレーキシリンダ
26 操作装置
28 連接ロッド
30 ロッドピストン
32 第1のセンサ装置
34 電子制御装置
36 ロッドピストンスプリング
38 浮動ピストン
40 シミュレータ制御弁
42 シミュレータ装置
44 回路セパレートバルブ
46 リターンフロー
50 圧力発生器
52 プランジャピストン
54 モータ
56 伝動装置
58 プランジャ作業室
60 第1の方向制御弁若しくはプランジャ制御弁
62 第2の方向制御弁若しくは圧力上昇弁
64 圧力低下弁
70 車輪速センサ
72 センサ装置、圧力センサ
74,76 追加的なセンサ装置
78 逆止弁
80 漏洩箇所
82 圧力媒体漏れ
84 圧力
86 限界圧力
88 ヒステリシス範囲
88a,88b 範囲限界
90 第1の装置
92 第2の装置
94 第3の装置
96a,96b 漏れ特性曲線
96c 総漏れ量
96d,96e 漏れ特性曲線
図1
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図4a
図4b