(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】舗装用混合物およびその製造方法ならびに添加剤
(51)【国際特許分類】
E01C 7/26 20060101AFI20230406BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20230406BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
E01C7/26
C08K5/05
C08K9/04
(21)【出願番号】P 2019139974
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】505094009
【氏名又は名称】墨東化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】老田 勝
(72)【発明者】
【氏名】鴨居 達弥
(72)【発明者】
【氏名】柳原 健次
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特許第5916937(JP,B1)
【文献】特許第6089139(JP,B1)
【文献】特開2019-085322(JP,A)
【文献】国際公開第2007/023833(WO,A1)
【文献】特開平05-247905(JP,A)
【文献】特開2000-170115(JP,A)
【文献】特開2000-170116(JP,A)
【文献】特開平11-061714(JP,A)
【文献】特開2015-044901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 7/26
C08K 5/05
C08K 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材と、前記骨材の周囲を被覆する被覆層と、を具備し、
前記被覆層は、
前記骨材の周囲を被覆するアスファルトから成るアスファルト層と、
前記アスファルト層の周囲を被覆すると共に、ポリマーと、アルコールと、可塑剤と、を含む添加剤層と、を有することを特徴とする舗装用混合物。
【請求項2】
前記添加剤層は、前記ポリマー、前記アルコールおよび前記可塑剤を乳化分散した状態で含むことを特徴とする請求項1に記載の舗装用混合物。
【請求項3】
前記ポリマーは、熱可塑性の石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、天然ゴム、合成天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・酢酸ビニルゴム、スチレン系熱可塑エラストマー、オレフィン系熱可塑エラストマーの何れかを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の舗装用混合物。
【請求項4】
前記アルコールは、引火点が100℃以上170℃以下の、2価アルコールまたは3価アルコールを含むことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の舗装用混合物。
【請求項5】
前記可塑剤は、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、エステル系可塑剤、塩素化可塑剤、脂肪酸可塑剤の何れかを含むことを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の舗装用混合物。
【請求項6】
骨材の表面にアスファルト層を形成する第1ステップと、
前記アスファルト層の表面を、添加剤層で被覆する第2ステップと、を具備し、
前記第2ステップで用いる前記添加剤層は、ポリマーと、アルコールと、可塑剤と、を含むことを特徴とする舗装用混合物の製造方法。
【請求項7】
骨材の周囲を被覆するアスファルトから成るアスファルト層と、前記アスファルト層の周囲を被覆する添加剤層と、を有する舗装用混合物の製造に用いられ、
ポリマーと、アルコールと、可塑剤と、を含むことを特徴とする添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舗装用混合物およびその製造方法ならびに添加剤に関し、特に、加熱を行わずに施工することができる舗装用混合物およびその製造方法ならびに添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
道路や床面等の舗装あるいはこれらの補修、保全に使用される舗装用常温混合物は、道路用カットバックアスファルトを骨材のバインダーとして使用している。道路用カットバックアスファルトとは、アスファルトに揮発油や溶剤等を添加することで、所定の流動性を保つよう粘度を調整したもので、アスファルトタイルなどの接着剤や舗装用常温混合物のバインダーに使われている。
【0003】
こうした道路用カットバックアスファルトを使用した舗装用常温混合物は、通常の気温域では流動性を保ち、施工後揮発油や溶剤等が蒸発することで混合物の安定性が増していくもので、蒸発する時間により速硬性、中硬性、遅硬性などに分類され、また混合物の流動性を保つため使用温度域によりバインダーの粘度を調整している。
【0004】
また、近年では樹脂やゴムなどによりアスファルトを改質し、より安定性の高いカットバックアスファルトを使用した舗装用常温混合物や、鹸化や架橋反応を利用した硬化剤を使うことで保存性と安定性を両立させた舗装用常温混合物も開発されている。そして、その多くは緊急時の補修や仮復旧のため保管備蓄され利用されている。このような道路用カットバックアスファルトや舗装用常温混合物は、下記特許文献1ないし特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5916937号公報
【文献】特許第6026035号公報
【文献】特許第6089139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、硬化剤を使用しない舗装用常温混合物は、施工後から安定するまでに長時間を要する。よって、舗装用常温混合物による舗装部分に一定の強度が発現する前に、タイヤの捩りなどの負荷が当該舗装部分に作用した場合は、舗装部分が崩れる恐れが高い。また、舗装部分から、雨などの水の影響により、骨材の飛散や溶剤の流出が起こりやすい課題もある。更にまた、バインダーの溶剤として揮発性有機溶剤が使われている場合、雨などによりこの溶剤が外部に流出すると、環境への悪影響が懸念される。
【0007】
また、架橋反応を利用した舗装用常温混合物は、施工前に硬化剤を混ぜることで安定を増してゆくものであるため、施工に多くの手間がかかる課題がある。また、架橋反応を利用した舗装用常温混合物は、道路用としては高価なため、現在はあまり流通していない。
【0008】
更に、鹸化による硬化を利用した舗装用常温混合物は、現在の舗装用常温混合物の中では、安定性が高く硬化に要する時間も比較的短い。しかしながら、舗装用混合物に含まれるバインダーの硬化が早く、粘着性が少ないため、アスファルト舗装面等の路盤との剥離や、既存舗装の切断面との隙間が空く角落ちなどが懸念される。更に、鹸化に必要とされる硬化剤の多くは潮解性が高く、保存性を保つためには特別な、密閉度の高い容器や製造工程が必要である。よって、現時点で流通しているこの種の舗装用常温混合物の多くは、長期保存には適していないなど解決する課題も多い。
【0009】
また、カットバック型舗装用常温混合物は、アスファルトを揮発油や溶剤等でカットバックし、揮発油や溶剤等の蒸発あるいは硬化剤により硬化して安定させるものである。よって、混合物の流動性がなくなり安定するまでにはある程度の時間を要する。よって、緊急性の高い補修や仮復旧での使用において、施工して即時に開放する場合の安定性に問題を残している。
【0010】
上記課題を踏まえた本発明の目的は、長期にわたり保存することが可能であり、且つ、加熱を行わずに施工および補修を行うことができ、初期安定性に優れる舗装用混合物およびその製造方法ならびに添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の舗装用混合物は、骨材と、前記骨材の周囲を被覆する被覆層と、を具備し、前記被覆層は、前記骨材の周囲を被覆するアスファルトから成るアスファルト層と、前記アスファルト層の周囲を被覆すると共に、ポリマーと、アルコールと、可塑剤と、を含む添加剤層と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の舗装用混合物では、前記添加剤層は、前記ポリマー、前記アルコールおよび前記可塑剤を乳化分散した状態で含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の舗装用混合物では、前記ポリマーは、熱可塑性の石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、天然ゴム、合成天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・酢酸ビニルゴム、スチレン系熱可塑エラストマー、オレフィン系熱可塑エラストマーの何れかを含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の舗装用混合物では、前記アルコールは、引火点が100℃以上170℃以下の、2価アルコールまたは3価アルコールを含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の舗装用混合物では、前記可塑剤は、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、エステル系可塑剤、塩素化可塑剤、脂肪酸可塑剤の何れかを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の舗装用混合物の製造方法は、骨材の表面にアスファルト層を形成する第1ステップと、前記アスファルト層の表面を、添加剤層で被覆する第2ステップと、を具備し、前記第2ステップで用いる前記添加剤層は、ポリマーと、アルコールと、可塑剤と、を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明の添加剤は、骨材の周囲を被覆するアスファルトから成るアスファルト層と、前記アスファルト層の周囲を被覆する添加剤層と、を有する舗装用混合物の製造に用いられ、ポリマーと、アルコールと、可塑剤と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の舗装用混合物は、骨材と、前記骨材の周囲を被覆する被覆層と、を具備し、前記被覆層は、前記骨材の周囲を被覆するアスファルトから成るアスファルト層と、前記アスファルト層の周囲を被覆すると共に、ポリマーと、アルコールと、可塑剤と、を含む添加剤層と、を有することを特徴とする。これにより、本発明の舗装用混合物によれば、舗装用混合物を保管する際には、添加剤層がアルコールを含むことで、舗装用混合物どうしが固着してしまうことを抑止できる。また、舗装用混合物を道路の補修等に用いる際には、舗装用混合物が水と接触することで、添加剤層に含まれるアルコールが水と共に舗装用混合物から分離し、舗装用混合物の表面にはポリマーと可塑剤とが残存する。これにより、舗装用混合物どうしが接合することで大きな強度が発揮される。
【0019】
また、本発明の舗装用混合物では、前記添加剤層は、前記ポリマー、前記アルコールおよび前記可塑剤を乳化分散した状態で含むことを特徴とする。これにより、本発明の舗装用混合物によれば、添加剤層に、ポリマー、アルコールおよび可塑剤を、安定した状態で含ませることができる。
【0020】
また、本発明の舗装用混合物では、前記ポリマーは、熱可塑性の石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、天然ゴム、合成天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・酢酸ビニルゴム、スチレン系熱可塑エラストマー、オレフィン系熱可塑エラストマーの何れかを含むことを特徴とする。これにより、本発明の舗装用混合物によれば、添加剤を構成するポリマーとして、様々な樹脂材料を採用可能であり、舗装用混合物のコストを安くすることができる。
【0021】
また、本発明の舗装用混合物では、前記アルコールは、引火点が100℃以上170℃以下の、2価アルコールまたは3価アルコールを含むことを特徴とする。これにより、本発明の舗装用混合物によれば、比較的高温で舗装用混合物を製造した場合でも、アルコールが添加剤層に残存し、添加剤層の乾燥を抑制することができる。
【0022】
また、本発明の舗装用混合物では、前記可塑剤は、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、エステル系可塑剤、塩素化可塑剤、脂肪酸可塑剤の何れかを含むことを特徴とする。これにより、本発明の舗装用混合物によれば、被覆層を軟化させ、粘着性を向上することができる。
【0023】
本発明の舗装用混合物の製造方法は、骨材の表面にアスファルト層を形成する第1ステップと、前記アスファルト層の表面を、添加剤層で被覆する第2ステップと、を具備し、前記第2ステップで用いる前記添加剤層は、ポリマーと、アルコールと、可塑剤と、を含むことを特徴とする。これにより、本発明の舗装用混合物の製造方法によれば、舗装用混合物を保管する際には、添加剤層がアルコールを含むことで、舗装用混合物どうしが固着してしまうことを抑止できる。また、舗装用混合物を道路の補修等に用いる際には、舗装用混合物が水と接触することで、添加剤層に含まれるアルコールが水と共に舗装用混合物から分離し、舗装用混合物の表面にはポリマーと可塑剤とが残存する。これにより、舗装用混合物どうしが接合することで大きな強度が発揮される。
【0024】
本発明の添加剤は、骨材の周囲を被覆するアスファルトから成るアスファルト層と、前記アスファルト層の周囲を被覆する添加剤層と、を有する舗装用混合物の製造に用いられ、ポリマーと、アルコールと、可塑剤と、を含むことを特徴とする。これにより、本発明の添加剤が用いられる舗装用混合物によれば、舗装用混合物を保管する際には、添加剤層がアルコールを含むことで、舗装用混合物どうしが固着してしまうことを抑止できる。また、舗装用混合物を道路の補修等に用いる際には、舗装用混合物が水と接触することで、添加剤層に含まれるアルコールが水と共に舗装用混合物から分離し、舗装用混合物の表面にはポリマーと可塑剤とが残存する。これにより、舗装用混合物どうしが接合することで大きな強度が発揮される。更に、舗装用アスファルト混合物を製造するプラントは、全国各地に存在することから、本発明の添加剤を用いて既存のプラントで舗装用混合物を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施の形態に係る舗装用混合物を示す図であり、(A)は舗装用混合物を示す断面図であり、(B)はその拡大断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る舗装用混合物の製造方法および施工方法を示すフローチャートと、各工程における舗装用混合物の状態を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る舗装用混合物を示す図であり、(A)は保管時に於ける舗装用混合物を部分的に示す断面図であり、(B)は施工の初期段階における舗装用混合物を部分的に示す断面図であり、(C)は施工の最終段階における舗装用混合物を部分的に示す断面図である。
【
図4】(A)は試作品の配合を示す表であり、(B)は転圧直後の舗装用混合物の安定度を示す表であり、(C)は施工された舗装用混合物の安定度を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係る舗装用混合物10およびその製造方法、並びに添加剤を図面に基づき詳細に説明する。尚、以下の説明では、同一の部材には原則として同一の符番を用い、繰り返しの説明は省略する。
【0027】
<舗装用混合物10の構成>
図1を参照して、舗装用混合物10の構成を説明する。
図1(A)は舗装用混合物10を示す断面図であり、
図1(B)はその拡大断面図である。
【0028】
図1(A)を参照して、舗装用混合物10は、骨材11と、骨材11の表面を被覆する被覆層12と、を有している。舗装用混合物10は、例えば数十kg毎に袋詰めした状態で、常温にて長期にわたり保存することができる。後述するように、舗装用混合物10は、水と接触することで、被覆層12が部分的に溶融して舗装用混合物10どうしが接合した状態となり、高い強度を発揮する。即ち、舗装用混合物10は、常温アスファルト混合物の如き優れた保存性を有する。更には、舗装用混合物10は、加熱アスファルト混合物と同等以上の舗装後に於ける早期の強度を得ることができる。このような舗装用混合物10は、道路または地表面の施工または補修にて用いることができる。
【0029】
骨材11は、所定の粒度と成るように調整された石等から成る。骨材11の粒度は、例えば、日本道路協会が定める舗装施工便覧に準拠したものとする。骨材11は、砕石、砂、フィラー等から成る。
【0030】
被覆層12は、骨材11の周囲を被覆している。後述するように、被覆層12は、アスファルト層13、添加剤層15等から構成される。係る構成により、保存時に於ける舗装用混合物10どうしの不用意なブロッキングが抑止され、且つ、施工時に於いて舗装用混合物10どうしを強固に結合することができる。
【0031】
図1(B)には、舗装用混合物10の拡大断面図を模式的に示している。骨材11を被覆する被覆層12は、内側から、アスファルト層13、アスファルト粘着層14、添加剤層15および添加剤表面層16を有している。
【0032】
アスファルト層13は、舗装用石油アスファルトである。アスファルト層13としては、新しいアスファルトまたは再生アスファルトを採用することができる。再生アスファルトは、施工現場などから排出される廃アスファルト混合物に含まれるアスファルトに再生添加剤を加えたものである。また、アスファルト層13としては、アスファルトに改質剤を添加した改質アスファルトを採用することもできる。
【0033】
添加剤層15は、アスファルト層13の周囲を被覆する層であり、ポリマー、可塑剤、アルコールを乳化分散することで成る。添加剤層15でアスファルト層13を被覆することで、アスファルト層13との混和性の少ないアルコール成分によりアスファルト層13の固化を防ぎ、舗装用混合物10の保存性を向上している。また、後述するように、施工時に、添加剤層15に水が接触することで、水との混和性の良いアルコールと、水との混和性のないポリマーが解離する。油分を含んだポリマー成分はアスファルト層13の側に付着する一方、アルコール成分は水と混和し流れ出す。係る事項は
図2等を参照して後述する。
【0034】
上記した添加剤層15、即ち添加剤を構成する、ポリマー、可塑剤、アルコールを以下に説明する。
【0035】
ポリマーとしては、熱可塑性の石油樹脂(C4~C9
+留分)、クマロン・インデン樹脂であり、ソフトセグメントである天然ゴム(NR)、合成天然ゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン・プロピレンゴム(EPM、EP、EPDM)、エチレン・酢酸ビニルゴム(EVA)であり、エラストマーであるスチレン系熱可塑エラストマー(ТPS)、オレフィン系熱可塑エラストマー(ТPО)の何れか1または2以上の組み合わせを採用することができる。添加剤層15がポリマーを含むことで、ポリマーがアルコールのアスファルト層13に対する定着剤として機能し、アルコールがアスファルト層13の表面から流れてしまうことを抑止できる。また、施工時等に於いて、水との接触により凝集したポリマーがアスファルト層13の表面に付着し、粘着剤の役割を果たす。ここで例示したポリマーは、アスファルトと相溶性が高く、且つ、汎用で経済性の高いものである。
【0036】
可塑剤は、引火点200℃以上のパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、エステル系可塑剤、塩素化可塑剤、脂肪酸可塑剤の何れか1または2以上の組み合わせを採用することができる。可塑剤は、上記したポリマーおよびアスファルト層13の表面を軟化し、粘着性を向上させる役割を果たす。
【0037】
アルコールとしては、引火点が100℃以上170℃以下の2価アルコール、又は引火点が100℃以上170℃以下の3価アルコールの内、水との混和性に優れた1または2以上の組み合わせを採用することができる。添加剤層15がアルコールを含むことで、アスファルト層13の固化を防ぐことが出来る。ここで例示したアルコールは、乳化剤原料として利用され安全性が高いものである。
【0038】
アスファルト粘着層14は、アスファルト層13と添加剤層15との間に形成された中間層である。具体的には、添加剤層15の可塑剤が、添加剤層15に含まれるポリマーおよびアスファルト層13の表面を軟化し、粘着性を向上させることで、アスファルト粘着層14が形成される。アスファルト粘着層14が形成されることで、アスファルト層13の表面の接着性を高めることができ、施工時等に於いて、舗装用混合物10どうしを良好に接合させることができる。
【0039】
添加剤表面層16は、添加剤層15の表面に形成される層であり、主に添加剤層15に含まれるアルコールから成る層である。添加剤表面層16が形成されることで、保管時に於いて舗装用混合物10どうしが不用意に固着してしまうことを抑制することかできる。
【0040】
<舗装用混合物10の製造方法>
図2および
図3を参照して、上記した舗装用混合物10を製造する方法を説明する。
図2は舗装用混合物10の製造方法を示すフローチャートであり、各工程の右側には骨材11等を模式的に示している。
図3は、各工程に於ける舗装用混合物10の状況を示す拡大断面図であり、
図3(A)は備蓄状態に於ける舗装用混合物10を示す拡大断面図であり、
図3(B)は施工時等に於いて転圧を行った直後の舗装用混合物10を示す拡大断面図であり、
図3(C)は散水を行った直後の舗装用混合物10を示す拡大断面図である。
【0041】
舗装用混合物10の製造方法は、骨材11とアスファルトとを混合するステップS10と、添加剤を混合するステップS11と、舗装用混合物10を保管するステップS12と、を有している。更に、ステップS13では、舗装用混合物10を用いて、舗装や補修を行う。
【0042】
ステップS10において、骨材11としては、上記したように、砕石、砂、フィラーの混合物を採用することができる。実際には、適切に調整された粒度の骨材11を適温に乾燥加熱した後、希望粒度範囲の骨材11をミキサーに投入し、フィラーと加熱された舗装用石油アスファルトを添加、混合する。本ステップでは、骨材11の温度は100℃以下であることが望ましいため、できるだけ乾燥した骨材11を使用し、乾燥加熱温度を調整し、さらに、常温域にあるフィラーを、適温に加熱された舗装用石油アスファルトを投入混合した後、添加混合する。このようにすることで、設備等に負荷がなく、混合物を効率的に製造できる。また、本ステップの混合は、例えば、各材料の温度が80℃以上となる状況下で行う。本ステップにより、表面がアスファルト層13で覆われた骨材11が得られる。上記したように、本ステップで用いるアスファルトは、新しいアスファルトでも良いし再生アスファルトでも良い。
【0043】
ステップS11では、骨材11とアスファルト層13との混合物に、添加剤層15を形成する。添加剤層15となる添加剤の配合は上記したとおりであり、ポリマー、可塑剤およびアルコールから添加剤層15は構成されている。具体的には、ステップS10を経ることで表面がアスファルト層13で被覆された骨材11をミキサーに投入し、添加剤層15をミキサーに投入して混合する。これにより、アスファルト層13の表面が添加剤層15により覆われ、舗装用混合物10が製造される。この際、添加剤層15に可塑剤が含まれていることから、添加剤層15とアスファルト層13との境界に、
図3(A)に示したアスファルト粘着層14が形成される。更に、添加剤層15の表面、即ち舗装用混合物10の最表面に添加剤表面層16が形成される。
【0044】
ステップS12では、上記の工程により製造された舗装用混合物10を数十kg毎に袋詰めするなどして保管する。本実施の形態に係る舗装用混合物10は、その表面に上記した添加剤層15が形成されている。更に詳しくは、
図1(B)に示すように、舗装用混合物10の表面には、主にアルコール成分から成る添加剤表面層16が形成されている。よって、舗装用混合物10どうしのブロッキングが抑止され、表面に形成されたアスファルト層13等の酸化が防止される。よって、舗装用混合物10は、長期にわたる保存が可能である。
【0045】
ステップS13では、上記ステップにより製造された舗装用混合物10で施工または補修を行う。具体的には、施工等を行う箇所に袋詰めされた舗装用混合物10を運搬し、その箇所に十分な量の舗装用混合物10を敷きならす。次に、転圧機やローラー等で、敷かれた舗装用混合物10を転圧する。
図3(B)に、本ステップにおける舗装用混合物10どうしの境界を示す。ここでは、隣り合う舗装用混合物10どうしで、被覆層12が略一体化しているように見えるが、舗装用混合物10の表面には添加剤層15および添加剤表面層16が残存しており、添加剤表面層16は主にアルコールから成るため、舗装用混合物10どうしの固着強度はそれほど大きくない。
【0046】
更に、ステップS13では、転圧された舗装用混合物10に、散水機等を用いて散水を行う。舗装用混合物10に散水すると、添加剤層15のエマルジョンが分解され、添加剤層15の水との相溶性が高い
アルコールが、水と共に流れ、舗装用混合物10から離れる。図3(C)に、本工程に於ける舗装用混合物10どうしの境界を示す。舗装用混合物10に散水することにより、舗装用混合物10の表面に形成される添加剤層15に含まれるポリマーはアスファルト粘着層14に残り、アルコールは添加剤表面層16と共に水に混和し、舗装用混合物10の表面から離れる。よって、舗装用混合物10の最表層は、アスファルト粘着層14が構成することになる。舗装用混合物10のアスファルト粘着層14どうしが接触することで、舗装用混合物10どうしは強固に結合し、舗装または補修箇所の強度を高くすることができる。本実施形態では、アスファルト本来の剪断応力を発現するものであり、特に初期安定性に優れた舗装または補修を行うことができる。
【0047】
更に、本ステップにより、添加剤層15および添加剤表面層16に含まれるアルコールは、水と共に流れるが、 安全性が高い物質であるため、散水により周囲の環境が汚染される恐れは小さい。
【0048】
上記により製造された舗装用混合物10は、保管時に於いては温度が低下しても合材の流動性は損なわれない。また、補修時に於いては、施工工程のどこかで水との接触を行えば、ガスバーナー等による加熱を行わずとも、通常の舗装用常温混合物以上の初期安定性が得られる。
【0049】
<実施例>
図4に示す表を用いて実施例を説明する。
図4(A)は試作品の配合を示す表であり、
図4(B)は舗装用混合物10の初期安定度を示す表であり、
図4(C)は舗装用混合物10の最終安定度を示す表である。ここでは、排水性舗装のための配合になっている。
【0050】
図4(A)を参照して、実施例に係る舗装用混合物10は、骨材11と、アスファルト層13を構成するバインダーと、添加剤層15を構成する添加剤と、の合材である。
【0051】
骨材11は、7号砕石を82%、粗砂を5%、細砂を5%、石粉を8%、含んでいる。また、バインダーは骨材11の4%であり、添加剤は骨材11の2%である。
【0052】
バインダーは、いわゆる改質アスファルトであり、ストレートアスファルトを92%、改質剤としてのポリマーを8%含む。ポリマーとしては、クマロン、SBS、EVA等を採用することができる。
【0053】
添加剤は、ポリマーを25%、アルコールを75%含む。更に、添加剤は可塑剤を含み、可塑剤の量はポリマーとアルコールの合計の8%である。ここで、ポリマーとしては、安価であり、アスファルトとの相溶性および熱可塑性に優れたクマロンが採用される。また、アルコールとしては、グリセリンが採用される。更に、可塑剤としては、流動パラフィンおよびナフテン系ベースオイルが、夫々50%採用される。ここで、流動パラフィンは、ポリマーとアルコールとを乳化後に分離させない働きを有する。
【0054】
図4(B)を参照して、本実施形態に係る試作品は、舗装用混合物10を両面50回ずつ転圧した後に、水に浸漬して直ぐに安定度を計測した。自社既存品とは、既存の舗装用常温混合物であり、両面50回ずつ転圧した後に、安定度を計測した。他社品とは、他社が製造した舗装用常温混合物であり、水に浸漬した混合物を両面50回ずつ転圧した後に直ぐに計測した。この結果、本実施形態の舗装用混合物10の安定度は3.5kN以上であった。また、自社既存品は、十分に固形化しなかったため、安定度を計測できなかった。更に、他社品の場合は2.3kNであった。この結果から、本実施形態に係る舗装用混合物10は、他の舗装用混合物と比較して、転圧直後の安定度が非常に優れていることが分かる。
【0055】
図4(C)を参照して、最終の安定度を計測した結果を説明する。ここでは、上記した転圧を行った後に、試料を110℃の雰囲気に24時間晒すことで加速試験を行った。安定度は、本実施形態に係る試作品が21kN、自社既存品が10.8kN、他社品が19kNであった。よって、最終安定度に関しても、本実施形態が最も優れている。また、フロー値は、本実施形態に係る試作品が25、自社既存品が26、他社品が25であり、何れも遜色ない。
【0056】
上記のことから、本実施形態に係る舗装用混合物10は、転圧直後であっても高い安定度を示し、最終安定度に於いても十分な安定度を示している。よって、道路の補修を行うための舗装材として十分な性能を有していることが明らかとなった。
【0057】
以上、本発明の実施の形態の説明を行ったが、本発明は、この実施の形態に限定されることはなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内で変更ができる。
【符号の説明】
【0058】
10 舗装用混合物
11 骨材
12 被覆層
13 アスファルト層
14 アスファルト粘着層
15 添加剤層
16 添加剤表面層