(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】ボールジョイントのハウジング用基材、ボールジョイントのハウジング、及びボールジョイント
(51)【国際特許分類】
F16C 11/06 20060101AFI20230406BHJP
【FI】
F16C11/06 B
(21)【出願番号】P 2019143843
(22)【出願日】2019-08-05
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】519184930
【氏名又は名称】株式会社ソミックマネージメントホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】平松 克大
(72)【発明者】
【氏名】小池 恵
(72)【発明者】
【氏名】門奈 知裕
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05641235(US,A)
【文献】特開2006-322513(JP,A)
【文献】特開2016-084057(JP,A)
【文献】実開平04-020810(JP,U)
【文献】特開2018-030483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/00-11/12
B62D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部と、この筒状部と連なって形成され他部材と連結されるリンク部とを有する合成樹脂製の樹脂部を備えるボールジョイントのハウジングの中子となるボールジョイントのハウジング用基材であって、
円筒状に形成され、前記筒状部により覆われ、ボール部及びこのボール部を回動可能に保持するシート部材が内部に取り付けられる筒部と、
この筒部の軸直方向に沿って突設され、前記リンク部により覆われる突起部とを備え、
前記突起部は、
前記筒部と連なる突起基端部と、
この突起基端部の先端部に前記突起基端部よりも前記筒部の軸方向に拡大されて形成された突起先端部とを有し、
前記突起基端部は、前記筒部の軸方向に沿って厚み方向を有する平板状に形成されて
おり、
前記突起先端部は、前記突起基端部とは反対側に、前記筒部の軸方向に沿って延び前記リンク部からの軸直方向の圧縮荷重を受け止める平面部を備え、前記突起基端部側に、前記突起基端部の表面から前記筒部の軸方向に沿って延び前記リンク部からの軸直方向の引張荷重を受け止める対向平面部を備える
ことを特徴とするボールジョイントのハウジング用基材
。
【請求項2】
少なくとも筒部の表面に形成され樹脂部との密着性を増加させるアンカ部を備える
ことを特徴とする請求項
1記載のボールジョイントのハウジング用基材。
【請求項3】
請求項1
または2記載のハウジング用基材と、
このハウジング用基材を中子として合成樹脂により形成される樹脂部とを備え、
前記樹脂部は、
前記ハウジング用基材の筒部を覆う筒状部と、
前記ハウジング用基材の突起部を覆って前記筒状部と連なって形成され、他部材と連結されるリンク部とを有する
ことを特徴とするボールジョイントのハウジング。
【請求項4】
ボール部を有するボール側部材と、
このボール側部材の前記ボール部を回動可能に保持するシート部材と、
前記ボール部及び前記シート部材がハウジング用基材の筒部の内部に取り付けられる請求項
3記載のハウジングと
を備えることを特徴とするボールジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボール部及びボール部を回動可能に保持するシート部材を内包するボールジョイントのハウジング用基材、これを有するボールジョイントのハウジング、及びこれを備えたボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車のタイロッドエンドなどに用いられるボールジョイントは、軽量化が強く望まれており、合成樹脂製のボールジョイントの検討が行われている。他方、ボールジョイントとしての特性及び性能は維持する必要がある。
【0003】
つまり、合成樹脂製のボールジョイントは、一般的に強度が十分でないことが多く、また強度が保てるような合成樹脂、例えば高強度樹脂材料を使用するとコストアップにつながるうえ、成形性(成形速度)が劣るといった課題がある。
【0004】
そのため、強度などの必要性能は確保しつつ、軽量化を実現させるように、ボール部及びベアリングシートを内包するための筒体を金属で成形し、この筒体を中子として、筒体を覆う筒状部、及び、他部材と連結されるリンク部を、一体的に合成樹脂で成形するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような合成樹脂製のボールジョイントは、局所的に強度が不足するおそれがある。例えば、ボールスタッドの軸直方向、つまりリンク軸方向に入力される荷重において、引張方向に荷重が働いた場合、金属筒体を囲む合成樹脂製の筒状部が破断するおそれがある。また、圧縮方向に荷重が働いた場合、リンク成形時、すなわち樹脂射出成形時に形成されるウェルド部分が破断するおそれがある。
【0007】
引張時に筒状部が破断するのは、この筒状部が他の部位に比べて薄いために強度が弱くなることが原因と考えられる。一方で圧縮時にウェルド部分が破断するのは、金属筒体の円弧状の外周面が、成形時に形成されたウェルド部分を裂くようにリンク部に対し反力を作用させることが原因と考えられる。
【0008】
このような課題は、車両用のボールジョイント以外でも同様に生じる。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、ハウジングの軽量化を可能としつつ局所的な強度不足を抑制できるボールジョイントのハウジング用基材、これを有するボールジョイントのハウジング、及びこれを備えたボールジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載のボールジョイントのハウジング用基材は、筒状部と、この筒状部と連なって形成され他部材と連結されるリンク部とを有する合成樹脂製の樹脂部を備えるボールジョイントのハウジングの中子となるボールジョイントのハウジング用基材であって、円筒状に形成され、前記筒状部により覆われ、ボール部及びこのボール部を回動可能に保持するシート部材が内部に取り付けられる筒部と、この筒部の軸直方向に沿って突設され、前記リンク部により覆われる突起部とを備え、前記突起部は、前記筒部と連なる突起基端部と、この突起基端部の先端部に前記突起基端部よりも前記筒部の軸方向に拡大されて形成された突起先端部とを有し、前記突起基端部は、前記筒部の軸方向に沿って厚み方向を有する平板状に形成されており、前記突起先端部は、前記突起基端部とは反対側に、前記筒部の軸方向に沿って延び前記リンク部からの軸直方向の圧縮荷重を受け止める平面部を備え、前記突起基端部側に、前記突起基端部の表面から前記筒部の軸方向に沿って延び前記リンク部からの軸直方向の引張荷重を受け止める対向平面部を備えるものである。
【0011】
請求項2記載のボールジョイントのハウジング用基材は、請求項1記載のボールジョイントのハウジング用基材において、少なくとも筒部の表面に形成され樹脂部との密着性を増加させるアンカ部を備えるものである。
【0012】
請求項3記載のボールジョイントのハウジングは、請求項1または2記載のハウジング用基材と、このハウジング用基材を中子として合成樹脂により形成される樹脂部とを備え、前記樹脂部は、前記ハウジング用基材の筒部を覆う筒状部と、前記ハウジング用基材の突起部を覆って前記筒状部と連なって形成され、他部材と連結されるリンク部とを有するものである。
【0013】
請求項4記載のボールジョイントは、ボール部を有するボール側部材と、このボール側部材の前記ボール部を回動可能に保持するシート部材と、前記ボール部及び前記シート部材がハウジング用基材の筒部の内部に取り付けられる請求項3記載のハウジングとを備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載のボールジョイントのハウジング用基材によれば、リンク部に加わる軸直方向の圧縮荷重を突起先端部の突起基端部とは反対側に形成された平面部によって受けることができ、軸直方向の引張荷重を突起先端部の突起基端部側に形成された対向平面部によって受けることができて、その他の部位に加わる荷重を抑制できるので、樹脂部によってハウジングの軽量化を可能としつつ、局所的な強度不足を効果的に抑制できるとともに、突起基端部によって溶融合成樹脂原料の流れを妨げにくく、リンク部の成形性を確保できる。
【0015】
請求項2記載のボールジョイントのハウジング用基材によれば、請求項1記載のボールジョイントのハウジング用基材の効果に加えて、アンカ部によって少なくとも筒部と筒状部との密着性が向上し、軸方向の荷重による筒部と筒状部との剥がれを抑制できる。
【0016】
請求項3記載のボールジョイントのハウジングによれば、請求項1または2記載のハウジング用基材を中子として樹脂部を成形してハウジングを形成することで、軽量で、かつ、耐久性に優れたハウジングを提供できる。
【0017】
請求項4記載のボールジョイントによれば、請求項3記載のハウジングを用いることで、軽量で、かつ、特性及び性能を確保したボールジョイントを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施の形態のボールジョイントのハウジング用基材を示す斜視図である。
【
図2】同上ハウジング用基材を有するハウジングを備えるボールジョイントの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態の構成について、図面を参照して説明する。
【0020】
図2において、10はボールジョイントを示す。ボールジョイント10は、例えば自動車などの車両の操舵装置用のタイロッドとして用いられるものである。タイロッドは、ステアリングの回転力を直線運動に変換する車体側機構(ラック&ピニオン)に接続されるラックエンドと、タイヤ側に接続されるタイロッドエンドとを備えており、本実施の形態のボールジョイント10は、タイロッドエンドに用いられる、いわゆるアウターボールジョイント(OBJ)である。そして、ボールジョイント10は、ボール側部材であるボールスタッド16を備えている。また、ボールジョイント10は、シート部材であるベアリングシート17を備えている。さらに、ボールジョイント10は、受け側部材であるハウジング18を備えている。そして、このボールジョイント10は、図示しないが、ダストカバーを備えている。なお、以下、
図2中の上側を一端側である上側、下側を他端側である下側として説明する。また、ボールスタッド16の直立状態(中立状態)での長手方向(すなわち
図2中の上下方向)を軸方向といい、この軸方向に対して直交する方向を軸直方向(軸直角方向)というものとする。したがって、ボールジョイント10の中心軸とは、ボールスタッド16の直立状態(中立状態)での中心軸と一致または略一致するものとする。
【0021】
ボールスタッド16は、例えば鋼鉄製などであり、球状のボール部21と、このボール部21に連結された軸状のスタッド部22とを一体的に備えている。
【0022】
ボール部21は、接触部である球面状の外周面24の一部がベアリングシート17に潤滑剤(グリース)を介して摺動(回動)可能に保持されている。そして、ボール部21は、ベアリングシート17とともにハウジング18に収容されている。
【0023】
スタッド部22は、図示しないタイヤ側のギヤアームやナックルアームなどの被接続部材に接続されて荷重が加わる部分である。スタッド部22は、ボール部21と同軸状に形成されている。
【0024】
ベアリングシート17は、ボールシートなどとも呼ばれ、例えば耐摩耗性に優れる合成樹脂製などにより環状(略円筒状)に形成され、ハウジング18に嵌着保持されて収容されている。ベアリングシート17は、ボール部21を回動可能に保持する保持部としての摺動面26を備えている。また、ベアリングシート17は、少なくとも一つの開口部を端部に備えている。本実施の形態において、ベアリングシート17は、両端部に開口部27,28を備えている。なお、本実施の形態において、ベアリングシート17は、一つの部材からなるワンピースタイプのものとしたが、複数の異なる部材からなるものでもよい。
【0025】
摺動面26は、ボール部21の外周面24に対して接触する、球面状の接触部である。摺動面26は、ボール部21の外周面24において少なくとも赤道位置Eを含む領域を保持するように形成されている。ここで、赤道位置Eとは、ボール部21のボールスタッド16の軸方向における最大径位置をいうものとする。なお、摺動面26には、ボール部21の外周面24に対して接触する突起、あるいは、潤滑剤を保持するための溝部や凹部などが形成されていてもよい。
【0026】
一方の開口部27は、ボールスタッド16のスタッド部22側を外部に導出するものである。
【0027】
他方の開口部28は、ボール部21のスタッド部22とは反対側の位置との間に、潤滑剤を収容する潤滑剤収容部を形成する。他方の開口部28は、必須のものではない。
【0028】
ハウジング18は、ソケットなどとも呼ばれるものである。ハウジング18は、有底円筒状のハウジング本体部30と、他部材であるラックエンド側と接続される軸状の連結部31とが一体的に形成されている。ハウジング18は、金属製のハウジング用基材33と、ハウジング用基材33の少なくとも一部を覆う樹脂部34とを備える。つまり、本実施の形態のボールジョイント10は、合成樹脂製のボールジョイントである。本実施の形態において、ハウジング18は、金属製の閉塞部材35をハウジング用基材33とは別個にさらに備えるが、閉塞部材35はハウジング用基材33と一体的であってもよい。そして、ハウジング18には、ボール部21を回動可能に保持したベアリングシート17を収容する収容部である内室37が形成されている。また、ハウジング18には、内室37とハウジング18の外部とを連通するハウジング開口部38が上端部に形成されている。さらに、ハウジング18には、ダストカバーの下端部を取り付け固定するカバー取付部39が形成されている。
【0029】
本実施の形態において、ハウジング本体部30は、ハウジング用基材33の筒部41の少なくとも一部を覆って樹脂部34の筒状部42が形成され、ハウジング用基材33に閉塞部材35が取り付けられて構成されている。
【0030】
筒部41は、内室37の外周部を構成するものである。すなわち、筒部41は、ボール部21及びこのボール部21を回動可能に保持するベアリングシート17が内部に取り付けられる。筒部41は、上下両端が開口されている。この筒部41の上端側の開口はハウジング開口部38であり、下端側の開口は閉塞部材35によって閉塞される。すなわち、筒部41は、閉塞部材35に代えて、筒部41自体が有底円筒状に形成されていてもよい。また、本実施の形態では、筒部41の上端側寄りの外周面の全周に、カバー取付部39が溝状に形成されている。
【0031】
ここで、閉塞部材35は、内室37の底部を構成するものである。閉塞部材35は、例えば円形板状に形成されている。閉塞部材35は、周縁部が固定部であるかしめ部43によって筒部41に対して固定され、筒部41の下端側の開口を閉塞することでベアリングシート17を内室37から抜け止めしている。閉塞部材35の内室37側である上部には、内室37に収容されたベアリングシート17の下端部が当接されている。
【0032】
かしめ部43は、筒部41の下端側の周縁を中心側に向かってかしめ変形することにより形成される。なお、筒部41が有底円筒状に形成されている場合、かしめ部43はハウジング開口部38の周縁部に形成され、ボール部21及びベアリングシート17を抜け止めするようにしてよい。
【0033】
筒状部42は、筒部41の外周を周方向に覆って形成されている。また、筒状部42は、軸方向に延びて形成されている。つまり、筒状部42は、筒部41を囲む円環状に形成されている。
【0034】
また、連結部31は、例えばラックエンド側のボールジョイント(インナーボールジョイント(IBJ))のスタッド部と連結される部分である。連結部31は、ハウジング本体部30の外側面から径方向に沿って、すなわちボールジョイント10の軸直方向に沿って突出している。すなわち、連結部31の軸は、軸直方向に沿っている。本実施の形態において、例えばこの軸の延長線上には、ボール部21の中心が位置しているが、ボール部21の中心の位置は軸の延長線上に限定されない。また、連結部31の先端部には、図示しないが、例えばラックエンド側のボールジョイントのスタッド部に対して連結するための雄ねじ部、あるいは雌ねじ部などの連結手段が形成されていてもよい。連結部31は、ハウジング用基材33の突起部45を覆って樹脂部34のリンク部46が形成されて構成されている。
【0035】
突起部45は、筒部41の軸直方向に沿って突設される。突起部45は、筒部41に対し、軸直方向の一方向側に配置され、他方向側には配置されていない。本実施の形態において、突起部45は、筒部41を基準として、樹脂部34を形成する溶融合成樹脂原料の射出用のゲートとは反対側に位置する。突起部45は、全体が樹脂部34に覆われている。突起部45は、樹脂部34に埋設されている。突起部45の少なくとも先端側は、リンク部46内に位置する。また、本実施の形態において、突起部45は、筒部41の軸方向の中央部付近に配置されている。突起部45は、ボール部21の赤道位置Eを含む仮想平面が厚み内に含まれる位置に形成されている。突起部45は、突起基端部50と、突起先端部51とを一体に備える。
【0036】
図1に示すように、突起基端部50は、筒部41と連なって形成されている。突起基端部50は、筒部41の軸方向に沿って厚み方向を有する平板状に形成されている。つまり、突起基端部50は、軸方向の寸法よりも軸直方向の寸法、及び、軸方向及び軸直方向と直交する方向の寸法(幅寸法)が大きく形成されている。突起基端部50の筒部41との連結部つまり基端部は、筒部41の外周面の直径寸法と略等しい幅寸法を有する。また、突起基端部50は、筒部41側である基端部からその反対側である先端部に向かい、幅寸法が徐々に小さくなるように形成されている。
【0037】
突起先端部51は、突起基端部50の先端部に一体的に形成されている。突起先端部51は、筒部41の軸方向に沿う方向の寸法が突起基端部50よりも大きい。つまり、突起先端部51は、突起基端部50に対し、筒部41の軸方向に拡大されて形成されている。突起先端部51は、突起基端部50に対し、軸方向の一方及び他方にそれぞれ拡大されている。
図2に示すように、突起基端部50の厚み寸法T1に対し、突起先端部51の厚み寸法T2が大きく(T1<T2)形成されている。突起先端部51の厚み寸法T2は、筒部41の軸方向長さよりも小さい。本実施の形態において、突起先端部51の厚み寸法T2は、突起基端部50の厚み寸法T1の2倍以下である。また、突起先端部51は、突起基端部50の先端部と幅寸法が等しい、または略等しい。
【0038】
さらに、本実施の形態において、突起先端部51は、筒部41の軸方向に延びる平面部53を備える。平面部53は、突起先端部51の先端側に位置する。つまり、平面部53は、突起先端部51において、突起基端部50とは反対側に位置する平面である。平面部53は、突起部45の最先端部に位置する。平面部53は、突起部45の突出方向と直交する方向に延びている。
【0039】
また、突起先端部51は、平面部53とは反対側、つまり突起基端部50側に、筒部41の軸方向に延びる対向平面部54を備えていてもよい。対向平面部54は、突起基端部50の表面から突起基端部50の厚み方向に沿って延びている。対向平面部54は、突起基端部50に対し、筒部41の軸方向の一方及び他方にそれぞれ延びている。対向平面部54は、平面部53と平行または略平行に形成されている。したがって、対向平面部54は、突起部45の突出方向と直交する方向に延びている。
【0040】
リンク部46は、筒部41に対する突起部45の突出方向に沿って、筒状部42から長尺状に突出している。リンク部46は、連結部31の大半(過半)を構成している。リンク部46の肉厚は、筒状部42よりも大きい。
【0041】
そして、ハウジング用基材33は、樹脂部34を射出成形する際の中子となるものである。つまり、ハウジング18は、ハウジング用基材33を用いてインサート成形される。ハウジング用基材33は、筒部41と、突起部45とを一体に備えている。ハウジング用基材33は、少なくとも筒部41の表面、本実施の形態では筒部41及び突起部45の表面全体に、樹脂部34との密着性を増加させるアンカ部55が形成されている。アンカ部55は、例えば溝や細孔であり、樹脂部34を構成する溶融合成樹脂原料が内部に入り込んだ状態で冷却固化されることで、樹脂部34との密着性を増加可能となっている。アンカ部55は、ランダムに形成されてもよいし、公知のレーザ装置などを用い、規則的に形成されてもよい。
【0042】
樹脂部34は、ハウジング18を軽量化するために形成される。樹脂部34は、筒状部42と、リンク部46とを一体に備えている。樹脂部34は、図示しないゲートから射出された溶融合成樹脂原料が冷却固化されて形成されている。樹脂部34を構成する合成樹脂は、一例として、繊維強化樹脂(例えば炭素繊維強化樹脂(CFRP))などが好適に用いられるが、これに限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択可能である。
【0043】
ダストカバーは、ダストシール、あるいはブーツなどとも呼ばれ、ボールスタッド16の揺動に拘らずハウジング18のハウジング開口部38を覆い、ハウジング18あるいはベアリングシート17の内部への水分及び塵埃などの侵入を阻止するものである。ダストカバーは、例えば合成樹脂により環状(略円筒状)に形成されている。
【0044】
次に、一実施の形態の動作を説明する。
【0045】
ハウジング18を製造する際には、予め成形されたハウジング用基材33を中子として成形型にセットし、溶融合成樹脂原料を成形型のキャビティにゲートから射出して樹脂部34を一体的に射出成形する。
【0046】
ゲートから射出された溶融合成樹脂原料は、ハウジング用基材33の筒部41の一側から、この筒部41の外周面を回り込んでその反対側の他側である突起部45側へと流れ、突起部45の突起先端部51により流れを一旦堰き止められた後、合流して、筒部41を覆う筒状部42を環状に形成するとともに、突起部45を覆ってリンク部46を形成して、ハウジング18とする。
【0047】
ハウジング用基材33には、予め成形されたボール部21を、予め成形されたベアリングシート17に回動可能に保持して圧入し、閉塞部材35を取り付けてかしめ部43によって固定することでボール部21及びベアリングシート17を内室37に封じる。スタッド部22は、ボール部21に対し後工程で溶接などにより接続されてもよいし、ボール部21と一体的に形成されていてもよい。
【0048】
この後、予め成形されたダストカバーの上端側をボールスタッド16のスタッド部22の外周面に固定し、下端側をハウジング18のカバー取付部39に嵌着し、この下端側の外周面に取り付けられたリング状の固定部材などによりハウジング18に対して締め付け固定して、ボールジョイント10を完成する。
【0049】
本実施の形態によれば、ハウジング用基材33の筒部41の軸直方向に沿って突設した突起部45に、筒部41と連なる突起基端部50と、この突起基端部50の先端部に形成される突起先端部51とを形成するとともに、筒部41の軸方向に沿う方向の寸法を突起基端部50よりも大きくする。そのため、リンク部46に加わる軸直方向の引張荷重及び圧縮荷重を、突起先端部51が受けることができ、その他の部位に加わる荷重を抑制できる。
【0050】
具体的に、連結部31のリンク部46に軸直方向の引張荷重(
図2中の矢印F1方向の荷重)が入力されたときに、突起先端部51の対向平面部54が軸直方向の引張荷重を受け、突起先端部51が引張荷重に抗するいわば「楔」のように作用するため、他の部位に加わる引張荷重を抑制できる。そのため、筒部41を覆う筒状部42に加わる荷重も軽減させることができるので、筒状部42が仮に他の部位よりも薄肉であっても、この筒状部42の破断を遅らせることができ、ハウジング18の耐久性が向上する。また、連結部31のリンク部46に軸直方向の圧縮荷重(
図2中の矢印F2方向の荷重)が入力されたときに、突起先端部51の平面部53が軸直方向の圧縮荷重を受けて樹脂部34のリンク部46を押圧するように反力を作用させるので、他の部位に加わる圧縮荷重を抑制できる。
【0051】
したがって、連結部31の大半を樹脂部34により構成してハウジング18の軽量化を可能としつつ、局所的な強度不足を抑制できる。
【0052】
特に、リンク部46に加わる軸直方向の圧縮荷重を突起先端部51の突起基端部50とは反対側に形成された平面部53によって確実に受けることができ、局所的な強度不足をより効果的に抑制できる。
【0053】
また、樹脂部34の射出成形時には、ゲートからキャビティに射出された溶融合成樹脂原料が筒部41を回り込んだ後、突起部45の突起先端部51によって一旦堰き止められてから合流するので、溶融合成樹脂原料の合流部に形成されるウェルド部分を抑制できる。そのため、圧縮荷重が加わったときに筒部41の円弧状の外周面からリンク部46に反力が作用してもウェルド部分から裂けにくくなり、ハウジング18の耐久性をより向上できる。
【0054】
さらに、突起基端部50が筒部41の軸方向に沿って厚み方向を有する平板状に形成されているため、ハウジング用基材33が重くなりすぎず、ハウジング18の軽量化を妨げないとともに、樹脂部34の射出成形時に、突起基端部50によって溶融合成樹脂原料の円滑な流れを妨げにくく、リンク部46の成形性を確保できる。
【0055】
さらに、少なくとも筒部41の表面にアンカ部55を設けることで、溶融合成樹脂原料がアンカ部55に入り込み、アンカ部55によって少なくとも筒部41と筒状部42との密着性が向上し、ボールスタッド16からの軸方向の荷重による筒部41と筒状部42との剥がれを抑制できる。
【0056】
すなわち、上記のハウジング用基材33を中子として樹脂部34を成形してハウジング18を形成することで、軽量で、かつ、耐久性に優れたハウジング18を提供できる。
【0057】
そして、このハウジング18を用いることで、軽量で、かつ、特性及び性能を確保したボールジョイント10を提供できる。
【0058】
なお、上記一実施の形態において、ボールジョイント10は、車両の操舵装置に限らず、例えば懸架装置や、その他の装置に用いることができる。
【0059】
そして、ボールジョイント10は、車両用に限らず、その他の任意の用途に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、例えば自動車の操舵装置に備えられるタイロッドのアウターボールジョイントとして好適に用いられる。
【符号の説明】
【0061】
10 ボールジョイント
16 ボール側部材であるボールスタッド
17 シート部材であるベアリングシート
18 ハウジング
21 ボール部
33 ハウジング用基材
34 樹脂部
41 筒部
42 筒状部
45 突起部
46 リンク部
50 突起基端部
51 突起先端部
53 平面部
54 対向平面部
55 アンカ部