(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】バイオリアクタおよびこのようなバイオリアクタの使用方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/12 20060101AFI20230406BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
C12M1/12
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2019538371
(86)(22)【出願日】2018-01-15
(86)【国際出願番号】 IB2018050236
(87)【国際公開番号】W WO2018130998
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2021-01-12
(31)【優先権主張番号】102017000004017
(32)【優先日】2017-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】519251634
【氏名又は名称】レアクト4ライフ エッセエッレエッレ
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スカリオーネ,シルヴィア
(72)【発明者】
【氏名】アイエッロ,マウリツィオ
(72)【発明者】
【氏名】カヴォ,マルタ マリア
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】独国特許発明第19530556(DE,C1)
【文献】国際公開第2012/133803(WO,A1)
【文献】特表2006-505278(JP,A)
【文献】特開平02-117381(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117281(WO,A1)
【文献】実開昭63-178496(JP,U)
【文献】特表2011-528232(JP,A)
【文献】特開2008-111680(JP,A)
【文献】特表2016-501027(JP,A)
【文献】特開2001-309776(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0065660(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0042511(KR,A)
【文献】欧州特許出願公開第02636729(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部チャンバを特定するように、少なくとも1つの側壁(11)と、底壁(12)と、キャップ(14)により閉鎖される開口(13)とからなる容器(1)を備えるバイオリアクタであって、
前記内部チャンバの内部に、前記内部チャンバを上側チャンバ(31)と下側チャンバ(32)とに分割するように意図される中間壁(2)が設けられていて、
前記中間壁(2)は、少なくとも1つの孔(21)を有し、
前記中間壁
(2)は、前記底壁および/または前記側壁上に置かれる少なくとも1つの領域を有することを特徴とし、
前記中間壁(2)は、前記孔(21)に、少なくとも1つの膜(22)を収容するように意図される少なくとも1つのハウジングシート(26)を提供し、
前記中間壁(2)は、前記膜(22)を有し、前記膜(22)は、前記ハウジングシート(26)に挿入された1つまたは複数の支持エレメント上で支持されており、
前記上側チャンバ(31)を画定する前記少なくとも1つの側壁(11)、および/または前記下側チャンバ(32)を画定する前記少なくとも1つの側壁(11)、および/または前記少なくとも1つのキャップ(14)、および/または前記底壁(12)は、対応する流体回路を連結するために開放されかつシリンジを介して流体を引き出すためにポリマーセプタムによって閉鎖される少なくとも1つの入口ポート(15、16)および少なくとも1つの出口ポート(17、18)を有する、バイオリアクタ。
【請求項2】
前記中間壁
(2)は、カップエレメントを備え、
前記ハウジングシート(26)は、前記カップエレメントの底部に形成されており、前記膜(22)は、前記カップエレメントの底に置かれており、前記ハウジングシート(26)に挿入された前記支持エレメント上で支持されている、請求項1に記載のバイオリアクタ。
【請求項3】
上側リムにおける前記カップエレメントは、前記側壁上に置かれる少なくとも1つの突出領域を有する、請求項2に記載のバイオリアクタ。
【請求項4】
前記支持エレメントは、真ん中に孔を開けられた少なくとも1つの支持エレメントであり、前記支持エレメントは、前記ハウジングシートに挿入され
ており、
前記膜(22)は、前記支持エレメント上に置かれ
ている、請求項
3に記載のバイオリアクタ。
【請求項5】
前記支持エレメントは、少なくとも2つの支持エレメントであり、
少なくとも2つの前記支持エレメントは、前記ハウジングシート(26)内へ積層されて挿入され、かつ前記膜(22)は、前記支持エレメント上に
置かれている、請求項
4に記載のバイオリアクタ。
【請求項6】
少なくとも2つの支持エレメントが設けられていて、
前記2つの支持エレメントは、前記ハウジングシート(26)に挿入され、かつ前記膜(22)は、前記2つの支持エレメントの間に
置かれている、請求項1~
5のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項7】
接着材の一層が、前記膜(22)と前記支持エレメントとの間に置かれて設けられている、請求項1~
6のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項8】
前記カップエレメントの高さを調整するための手段が設けられている、請求項2に記載のバイオリアクタ。
【請求項9】
特定の厚さおよび形状を有する少なくとも1つのプレートエレメント(4)が設けられていて、前記プレートエレメント(4)は、前記下側チャンバ(32)の容積を制限するように、前記底壁(12)と接触して置かれるように意図される、請求項1~
8のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項10】
前記下側チャンバ(32)へ、かつ/または前記上側チャンバ(31)へ連結される少なくとも1つの流体回路が設けられていて、
流体回路は、流体(53)を移動させるための少なくとも1つのポンプまたは他のデバイスと、送出し管(51)と、戻り管(52)とを有する、請求項1~
9のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項11】
前記送出し管(51)および/または前記戻り管(52)は、流れる流体の少なくとも一部を引き出すための少なくとも1つのバルブ(54)またはアクセスポイントを有する、請求項
10に記載のバイオリアクタ。
【請求項12】
前記キャップは、液体および/または気体流体用のシールエレメントを有する、請求項1~
11のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項13】
前記下側チャンバおよび/または上側チャンバおよび/または前記バイオリアクタを画定する壁の内側または外側に、1つまたは複数のセンサが設けられている、請求項1~
12のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項14】
前記膜(22)は、少なくとも部分的に生体組織の細胞で作製される、請求項1~
13のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項15】
細胞、分子、粒子、化合物、物質、栄養素、汚染物質、増殖因子、細胞クラスタ、薬物および/またはあらゆる種類の物質もしくは電磁放射線の通過および/または吸収を検出しかつ分析するためのシステムであって、請求項1~
14のいずれか一項に記載のバイオリアクタを2つ以上提供し、前記バイオリアクタは、流体回路を介して互いに連結されることを特徴とする、システム。
【請求項16】
細胞、分子、粒子、化合物、物質、栄養素、汚染物質、増殖因子、細胞クラスタ、薬物および/またはあらゆる種類の物質もしくは電磁放射線の通過および/または吸収を分析するための方法であって、前記方法は、請求項1~
14のいずれか一項に記載の少なくとも1つのバイオリアクタを用いることを提供し、前記方法は、
a)下側チャンバ(32)および/または上側チャンバ(31)内に流体の流れを発生させるステップと、
b)前記流れる流体および/または前記流れる流体に含まれる物質または透過放射線の一部を収集しかつ分析し、かつ/または前記膜(22)を収集しかつ分析するステップとを提供することを特徴とする、方法。
【請求項17】
前記上側チャンバおよび/または前記下側チャンバに生体材料を挿入するステップが提供されていて、これに続いて、流体および/または流体内に含まれる分子の通過および/または放射線通過の実行後に前記生体材料を分析するステップが提供されている、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前記流体の流れの速度を調整するステップが提供されている、請求項
16または
17に記載の方法。
【請求項19】
流体回路を介して少なくとも2つのバイオリアクタを連結するステップが提供されている、請求項
16~
18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
バイオリアクタを連結する前記ステップは、
-第1のバイオリアクタの前記下側チャンバの前記入口ポートを、第2のバイオリアクタの前記上側チャンバの前記出口ポートと連結するステップと、
-前記第1のバイオリアクタの前記下側チャンバの前記出口ポートを、前記第2のバイオリアクタの前記上側チャンバの前記入口ポートと連結するステップとを提供する、請求項
19記載の方法。
【請求項21】
腫瘍組織または腫瘍細胞、生検材料または細胞化3D材料または細胞クラスタを前記第1のバイオリアクタの前記上側チャンバに、かつ転移可能な標的組織を前記第2のバイオリアクタの前記下側チャンバまたは上側チャンバに、体外/試験管内転移モデルとして挿入するステップが提供されている、請求項
20に記載の方法。
【請求項22】
関心対象である1つまたは複数の薬物または分子を前記第1および/または第2のバイオリアクタの前記上側チャンバおよび/または下側チャンバに、研究目的、安全性および有効性の研究、薬物動態研究および薬力学研究、創薬、ドラッグリポジショニングのための体外/試験管内疾患モデルとして注入するステップが提供されている、請求項
20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部チャンバ(inner chamber)を特定(identify、規定)ように少なくとも1つの側壁(side wall)と、底壁(bottom wall)と、キャップ(cap)で閉じられる開口とから成る容器(container)を備えるバイオリアクタ(bioreactor、生物反応器)に関する。
【0002】
内部チャンバの内側には、内部チャンバを上側チャンバ(upper chamber)と下側チャンバ(lower chamber)とに分割するように意図される中間壁(intermediate wall)が設けられ、中間壁は、少なくとも1つの孔を有する。
【0003】
上述の構成は、一部の従来技術による既知のバイオリアクタのそれであり、すなわち、これらの装置は、生体サンプルの増殖に適する環境を提供することができる。
【0004】
具体的には、本発明は、生体界面プロセスをエミュレート(模倣する)するための拡散研究の実行に使用されるバイオリアクタに関する。
【背景技術】
【0005】
従来技術による既知のバイオリアクタは、界面組織を擬態するように意図される、上側チャンバを下側チャンバから分ける膜を有し、例えば、上側チャンバに分子が挿入され、このような分子の、上側チャンバから下側チャンバへの通過が研究される。
【0006】
従来技術による既知のバイオリアクタは、その広範な使用にも関わらず、用途が極めて限定的であり、その理由は、とりわけ、実行されるべき分析の幾つかの構成への適応が困難であるという事実にある。
【0007】
既知のバイオリアクタは、サイズが小さいことから、三次元的な生体材料を受け入れることができない。さらに、このようなバイオリアクタに使用される膜は、粒子/分子しか通すことができない。
【0008】
このような限定は、とりわけ、有効な分析結果を保証するために、人工腫瘍、すなわち単純な細胞より遙かに大きいものを生じさせるように臨床関連三次元サイズの基質内で培養された腫瘍細胞を用いる必要がある、腫瘍細胞拡散の分析等の特定用途において重要な欠点となる。
【0009】
さらに、その適応不良の確証として、従来技術による既知のバイオリアクタは、「使い捨て」デバイスに匹敵するものであって、取外し可能、交換可能、滅菌可能、延ては再使用可能なパーツ、または異なる動作設定に適応可能なパーツを提供しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、上述の欠点を克服する、かつそのコンポーネントを変更するだけで実行されるべき異なる分析範囲に適応できるようにする特性を有するバイオリアクタを提供するという、従来技術の既知デバイスでは満たされないニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述の目的を、先に述べたようなバイオリアクタを提供することによって達成し、このバイオリアクタにおいて、中間壁は、底壁および/または側壁に存在する少なくとも1つの領域を有し、かつ中間壁は、孔(hole)に、膜を、または少なくとも1つの膜を収容するように意図されるハウジングシート(housing seat、収納容器のシート)を、提供する。
【0012】
膜は、明らかに、細胞、分子、粒子および/または流体が上側チャンバから下側チャンバへかつその逆へと通過できるように意図される。
【0013】
したがって、バイオリアクタは、用途に依存して、交換可能、滅菌可能および再使用可能または使い捨ての膜を有して提供される。
【0014】
中間壁の特徴的な構成により、ハウジングシートの作製が可能にされ、膜は、必ずしも中間壁に固定されることなく収容されかつ容易に交換されることが可能である。
【0015】
このような構成により、膜の交換が可能にされ、かつ用途に依存してその最も有用なタイプの選択が可能にされる。
【0016】
一部の実施形態から明らかとなるであろうが、ある変形実施形態において、膜は、ハウジングシートの内部に、固定手段(fastening means)を必要とすることなく置かれることが可能であり、膜の容易な交換が保証されるだけでなく、その位置決めの調整も保証される。
【0017】
さらに、本発明のバイオリアクタは、単一タイプの膜に限定されるものではなく、膜は、交換可能であることから、用途のタイプに合わせてアドホックに作製されることが可能である。
【0018】
膜は、従来技術におけるあらゆる方法で作製されることが可能である。
【0019】
例えば、膜は、エレクトロスピニング法によって得られるポリマー材料で構成されてもよい。
【0020】
同様に、膜は、ポリマー、金属材料または3D印刷プロセスを介して得られる任意の材料で構成されてもよい。代替として、これは、市販の膜であっても、膜として作用し得る他のあらゆる有孔および/または透過性のセプタムであってもよい。このタイプの膜を異なる動作ニーズに適応させ得る方法は、明らかであって、開示しているプロセスは、膜の寸法を変えることだけでなく、膜の有孔性および/または透過率の調整も可能にする。
【0021】
したがって、本発明によるバイオリアクタの膜は、組織界面で生じる全てのプロセスのシミュレーションを可能にする。
【0022】
さらに、エレクトロスピニングおよび3D印刷は、共に、適切な機械的強度および生体適合性を保持しながら、有孔性が異なる膜を得ることを可能にする。
【0023】
効果的なこととして、ゼラチン、コラーゲンまたは他のポリマー等のタンパク質材料、または生体材料(細胞単層)製の膜コーティング(機能化)を提供することが可能である。
【0024】
例えば、コラーゲンおよび上皮の他の細胞外基質タンパク質で被覆されるべき膜を提供することは、可能であって、その上に上皮細胞が培養され、内皮層が管内で再構成される。
【0025】
実現に関わらず、この場合の重要な側面は、膜を動作ニーズに基づいて交換しかつ変更する可能性にある。
【0026】
一代替例として、または組合せにより、膜は、少なくとも部分的に生体組織による細胞から成ることが可能である。
【0027】
例えば、膜は、上皮組織から成ってもよい。
【0028】
この場合、本発明によるバイオリアクタは、美容目的および/または皮膚科的目的として、細胞、生体分子または放射線もしくは細胞クラスタの通過および/または吸収を分析するために使用されることが可能である。
【0029】
さらなる実施形態によれば、膜は、胃腸上皮組織および/または消化器系の関心組織から成る。
【0030】
この場合、本発明によるバイオリアクタは、栄養補給、食品目的で、またはヒト、動物または野菜の消化過程に関して、細胞、生体分子または放射線もしくは細胞クラスタの通過および/または吸収を分析するために使用されることが可能である。
【0031】
さらなる実施形態によれば、膜は、肺上皮組織から成ってもよい。
【0032】
この場合、本発明によるバイオリアクタは、呼吸器系を目的として、細胞、生体分子または放射線もしくは細胞クラスタの通過および/または吸収を分析するために使用されることが可能である。
【0033】
さらに、膜は、異なる種類の上皮組織(角膜、鼻粘膜、舌粘膜)または他の種類の組織(毛髪)から成ってもよい。
【0034】
この場合、本発明によるバイオリアクタは、美容、バイオテクノロジー、生理学を目的として、細胞、生体分子または放射線もしくは細胞クラスタの通過および/または吸収を分析するために使用されてもよい。
【0035】
本発明によるバイオリアクタに高い適応性を与えるために、本発明は、後述する本発明によるバイオリアクタの2つの主要な実施形態を提供する。
【0036】
実現形態に関わらず、本発明によるバイオリアクタは、先に述べたような膜の容易な交換を可能にすることに加えて、膜の位置決め、とりわけ高さの位置づけの調整を可能にする。
【0037】
膜の高さ調整の可能性は、バイオリアクタに、より大きい適応性を与えるために不可欠である。
【0038】
したがって、膜は、行われるべき分析、上側チャンバおよび/または下側チャンバに挿入されるべき試料の大きさ、および適用されるべき流動状態に基づいて移動されることが可能である。
【0039】
後述するように、バイオリアクタの2つの実施形態は、各々、膜の高さ調整および膜を伴う中間壁の高さ調整を提供する。
【0040】
第1の実施形態によれば、上で膜を支持する1つまたは複数の支持エレメント(support element)を提供することが可能であり、支持エレメントの厚さが膜の高さの位置決めを変える。
【0041】
これに対して、第2の実施形態は、中間壁を作るために、底に膜を有するカップエレメント(cup element、カップ要素)を用いることを提供していて、カップエレメントの高さ変位は、膜を結果的に変位させる。
【0042】
したがって、これにより、膜とカップエレメントとは、一体構造となり、よって、膜の変位は、カップエレメントの高さ変位によって引き起こされ得るだけでなく、膜の形状の変化をも必要とし得る、例えばカップ側壁の増大、減少または縮小等のカップエレメントの形状および大きさの変化によっても引き起こされ得る。
【0043】
効果的なこととして、ある好適な実施形態によれば、流体の流れ(空気/液体)を伴って、組織をより良く擬態しかつ「動的な」分析を実行するようにバイオリアクタへ連結される流体回路が提供されている。
【0044】
この場合、下側チャンバを画定する側壁、および/または上側チャンバを画定する側壁、および/またはキャップおよび/または底壁は、対応する流体回路を連結するための少なくとも1つの入口ポート(inlet port)および少なくとも1つの出口ポート(outlet port)を有する。
【0045】
本特許出願に添付される実施形態から明らかとなるように、上側チャンバに1つ、および下側チャンバに1つである、2つの別個の回路を提供することが可能である。
【0046】
中間壁または膜の高さ調整により達成されるチャンバ容積の可変特性を変わらず保持するために、効果的なこととして、上側チャンバの入口ポートおよび出口ポートを開口の近くに配置し、一方で、下側チャンバの入口ポートおよび出口ポートを底壁の近くに配置することができる。
【0047】
したがって、中間壁または膜は、流体の流れを妨げることなく位置を自由に変えることができる。
【0048】
上述のように、膜の「自由な」位置決めは、本発明の発明概念であり、中間壁の特定の構成は、必ずしも膜を固定するための手段を必要としない。
【0049】
したがって、特定の剛性レベルを有する膜を用いなければならないクランプまたはクリップを用いる必要はない。
【0050】
ガスケットにより固定されて、または外科用シーラントにより接着されて保持されるべき膜、または市販のインサートに挿入され得る膜を提供することは、可能である。いずれにせよ、本発明によるバイオリアクタは、あらゆるタイプの膜が、その上に必要な流体の流れを有するように収容されることを可能にする。
【0051】
例えば、肺拡散に関する研究に関しては、肺の肺胞内に存在する生理学的状態を再現するために、細胞化膜と同一平面上に流体の流れを提供することが必要であるが、バイオリアクタの高い適応性を保持しながらこのような状態を保証できるのは、膜の高さ調整のみである。
【0052】
明らかであるように、同じく後述の実施形態に基づいて、本発明によるバイオリアクタは、膜の互換性および位置決め調整の保証を可能にすることに加えて、可変形状および可変厚さの双方を有する膜の収容を可能にし、ならびに複数の膜の収容を可能にする。
【0053】
さらなる変形実施形態によれば、下側チャンバの容積を制限するように底壁と接触して配置されることが意図される、特定の厚さおよび形状を有するプレートエレメントを提供することが可能である。
【0054】
下側チャンバの容積減少は、特に高価である増殖因子(grouth factor)または薬剤の量の低減を可能にし、ならびに、様々な生理学的状態、例えば毛細血管回路(小口径)または大動脈(大口径)、の模倣も可能にする。
【0055】
下側チャンバの容積を微調整する場合、チャンバ内で所望される容積に達するまで互いに積み重ねられ得る複数のプレートエレメントを設けることが可能である。
【0056】
この場合、下側チャンバの流体回路へ連結するための入口ポートおよび出口ポートは、中間壁の近くに設けられることが可能である。
【0057】
先に述べたように、動的分析を実行するために、下側チャンバおよび/または上側チャンバへ連結される少なくとも1つの流体回路が提供されている。
【0058】
この場合、流体回路は、少なくとも1つのポンプと、送出し管(delivery pipe)と、戻り管(return pipe)とを有する。
【0059】
循環流体をサンプリングして分析を実行するために、送出し管および/または戻り管上に配置されるバルブ、例えば三方バルブが設けられている。
【0060】
最後に、ある可能な実施形態によれば、本発明によるバイオリアクタを、下側チャンバおよび/または上側チャンバおよび/またはバイオリアクタを画定する壁の内側または外側に1つまたは複数のセンサ有するように設けることが可能である。
【0061】
上述の利点に起因して、本発明は、細胞、分子、粒子、化合物、物質、栄養素、汚染物質、増殖因子、細胞群(クラスタ)、薬物および/またはあらゆる種類の物質または電磁放射線の通過を分析するためのシステムにも関する。
【0062】
本システムは、流体回路を介して任意の収集システムへ連結されるバイオリアクタを使用することを提供し、バイオリアクタの上側または下側チャンバを通過する流体を、後の分析等のために収集することを可能にする。
【0063】
ある好ましい変形実施形態において、収集システムは、さらなるバイオリアクタから成る。
【0064】
具体的には、このような構成によれば、本システムは、流体回路を介して連結される、上述の特徴のうちの1つ以上に従って作製される少なくとも2つのバイオリアクタを提供する。
【0065】
さらに、2つのバイオリアクタは、互いに直列に連結されることが可能であり、よって、例えば、一方のバイオリアクタの下側チャンバの入口ポートおよび出口ポートが、各々もう一方のバイオリアクタの上側チャンバの出口ポートおよび入口ポートへ連結されていれば、上述の物質および/またはその中に含まれる流体は、否応なく予め決定されている経路に従って膜および/またはチャンバを通過させられる。
【0066】
あるいは、2つのバイオリアクタは、互いに並列して連結されることも可能であり、よって、例えば、一方のバイオリアクタの上側チャンバの入口ポートおよび出口ポートが、各々もう一方のバイオリアクタの上側チャンバの出力ポートおよび入口ポートへ連結されていて、下側チャンバ同士が互いに連結されず,単にその固有の上側チャンバからのみ物質を受け入れるとすると、上述の物質および/または流体は、膜および/またはチャンバを介して可能な異なる経路を辿ることができる。
【0067】
本発明によるバイオリアクタに関連しかつ本システムに関連する効果的な局面に加えて、後に記述しかつ示す実施形態から明らかとなるであろうが、このようなシステムは、細胞の通過および第2のバイオリアクタの下側チャンバ内に存在する試料組織への細胞の遊走および/または付着の分析をも可能にする。
【0068】
さらに、本発明による方法によって明らかとなるように、2つのバイオリアクタを直列にして有するという可能性は、従来技術ではいまのところ利用不可である、2つの上皮膜の通過である血管内異物侵入および血管外遊出現象の研究をもたらす臨床モデルを得るために、転移を試験管内で再現する唯一の方法である。
【0069】
バイオリアクタの上側チャンバ内に、腫瘍細胞が試験管内/体外(ex vivo)で培養されかつ増殖される原発腫瘍の環境、例えば、診断および/または治療および/または研究使用のためのヒト腫瘍生検、または天然または人工的な初代細胞、もしくは天然または人工の生体組織内部の液体生検または安定した筋、その他、を再現することは、可能である。
【0070】
原発腫瘍のこのようなモデルは、バイオリアクタ内で、異なる有孔性および/または透過性レベルを有することができる、かつ無機または有機材料で作製されることが可能な膜と接触して培養され、細胞(例えば、内皮細胞)で機能化され、または機能化されずに血管の壁が再現される。
【0071】
同様に、他のバイオリアクタも、同じ膜を収容することができ、かつ下側チャンバ内に転移微小環境を再現することができる。このような構成は、原発腫瘍からの腫瘍細胞の遊走、腫瘍細胞の血管内異物侵入、すなわち内皮バリアを介する通過、血流を再現する2つのバイオリアクタ間の腫瘍細胞の流れ循環、腫瘍細胞の血管外遊出、すなわち内皮バリアを介して転移部へ至るまでの通過、を体外(ex vivo)/体内(in vivo)で観察することを可能にする。このような転移モデル(metastasis model)は、異なる種類の細胞が物理的に隔離された環境内で保持されることを可能にし、かつ原発腫瘍からの転移の発現が観察されることを可能にし、よって、
-新しい治療ソリューション、新しい化学療法学の毒性、安全性および有効性の試験のため、および、
-創薬試験および薬物動態試験(pharmacokinetic test)のためのプラットフォームが提供される。
【0072】
このような構成は、バイオリアクタの使用法と相まって、ドラッグリポジショニング(drug repositioning、薬物再配置)の実行をも可能にする。具体的には、これは、従来技術において既に知られている薬物の他の病理に対する有効性研究が、本発明によるバイオリアクタにおいて試験管内/体外で再現される新しい病理について研究されることを可能にする。
【0073】
さらに、その異なる流動状態および粘性状態で作業して、異なる生理学的/病理学的なコンテキスト(context、状況)を再現することも可能である。
【0074】
さらに、例えば、腫瘍患者の生検材料をバイオリアクタ内で培養し、かつ異なる薬物および/または実験的治療アプローチを試験してその効力を体外/体内で検証する場合に、治療を行うことも可能である。
【0075】
直上の記述に起因して、本発明は、最終的に、細胞、分子、粒子、化合物、物質、栄養素、汚染物質、増殖因子、細胞群(クラスタ)、薬物および/またはあらゆる種類の物質または電磁放射線の通過を分析するための方法に関する。
【0076】
本方法は、上述のような少なくとも1つのバイオリアクタを用いることを提供する。
【0077】
本方法は、さらに、以下のステップ、すなわち、
a)下側チャンバおよび/または上側チャンバ内に流体の流れを発生させるステップと、
b)チャンバ内を流れる流体の一部、およびその中に含まれる物質(上述のもの)または透過放射線を収集して分析するステップと、を提供する。
【0078】
溶質および物質の通過を扱う従来技術による既知のシステムおよび方法とは異なり、本発明による方法およびバイオリアクタは、細胞の通過を、複数の細胞が存在する、バイオリアクタ内に置かれる三次元生体材料を用いることによって分析することも可能にする。
【0079】
したがって、腫瘍細胞の、原発腫瘍を表す組織から血流への通過(血管内異物侵入)および転移の標的組織への通過(血管外遊出)等の細胞通過を伴うメカニズムについて研究することが可能である。
【0080】
ある可能な実施形態によれば、上側チャンバおよび/または下側チャンバに生体材料を挿入するステップが提供されていて、これに続いて、流体および/または流体内に含まれる分子の通過、および/または放射線通過の実行後に生体材料を分析するステップが提供されている。
【0081】
生体材料は、生体材料(生検)試料または細胞添加により人工的に再現される材料から成り得ることを明記しておく。
【0082】
例えば腫瘍細胞の通過を分析する場合、腫瘍を患っている組織または器官を懸濁しかつ/または付着した腫瘍細胞を有する担体材料を介して再現することが可能である。
【0083】
このような材料は、上側チャンバに膜と接触して挿入される。
【0084】
次に、デバイス内に流体の流れが確立され、腫瘍から出て能動的に膜を通過し流体回路に到達する細胞の数が、細胞の一部を三方バルブを通して引き出すことにより評価される。
【0085】
所望される環境に基づいて、上側チャンバ内にも流体の流れを発生させることが可能である。
【0086】
効果的なこととして、2つのチャンバで異なり得る流体の流れの速度を、経時的に一定でなくても調整するステップが提供されている。
【0087】
このような配置は、細胞通過が研究されなければならない様々な環境をシミュレートする可能性を高めることを可能にする。
【0088】
本発明によるバイオリアクタ、方法およびシステムの任意選択の特徴は、本明細書の一体部分である添付の従属請求項に記載されている。
【0089】
従って、最後に、本発明による方法は、バイオリアクタから成る動的システムの内部で、実際には腫瘍および内皮等の界面組織に相当し得る材料および膜が接触状態に保持されることを可能にする。
【0090】
直上で記述した方法は、物質(例えば、細胞)の通過を分析する本発明によるシステムと組み合わせて使用され得ることを明記しておく。
【0091】
最後に、本発明によるシステムおよび方法が細胞通過の研究および分析に限定されないことは、明らかである。
バイオリアクタの実施形態に起因して、本発明によるシステムおよび方法は、さらに、とりわけ以下の用途を提供することができる。
- ローション材(化粧品)の吸収試験
- 胃腸系(栄養補給食品)の栄養吸収試験
- 粒径の異なる粒子の細胞毒性試験(毒物学)
- 薬物吸収試験(ドラッグデリバリ)。
【0092】
本発明のこれらの、および他の特徴および利点は、添付の図面に示される幾つかの実施形態に関する以下の説明からより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【
図1】ある実施形態による、本発明のバイオリアクタを示す略図である。
【
図2a】ある可能な実施形態による、本発明のバイオリアクタの分解図である。
【
図2b】ある可能な実施形態による、本発明のバイオリアクタの別の分解図である。
【
図3】ある可能な実施形態による、本発明のバイオリアクタの分解図である。
【
図4a】本発明のバイオリアクタのコンポーネントを示す詳細図である。
【
図4b】本発明のバイオリアクタのコンポーネントを示す別の詳細図である。
【
図4c】本発明のバイオリアクタのコンポーネントを示す別の詳細図である。
【
図4d】本発明のバイオリアクタのコンポーネントを示す別の詳細図である。
【
図5a】閉鎖状態にあるバイオリアクタの図である。
【
図5b】閉鎖状態にあるバイオリアクタの別の図である。
【
図6a】油圧回路(hydraulic circuit)と本発明のバイオリアクタとの連結の可能な構成を示す。
【
図6b】油圧回路と本発明のバイオリアクタとの連結の可能な別の構成を示す。
【
図7a】ある可能な変形実施形態による、本発明のバイオリアクタを示す。
【
図7b】ある可能な変形実施形態による、本発明の別のバイオリアクタを示す。
【
図8】油圧回路と組み合わせた本発明のバイオリアクタを示す。
【
図9】本発明の転移モデルにおける細胞通過を分析するシステムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0094】
本特許出願に添付される図は、本発明によるバイオリアクタの幾つかの実施形態を説明し、かつその特徴および利点をよりよく理解するために示されたものであることを明記しておく。
【0095】
したがって、このような実施形態の意図は、単に例示を目的とするものでなければならず、交換可能なコンポーネントを有しかつ異なる動作ニーズに容易に適応されるバイオリアクタの提供に関して、本発明の発明概念を限定するものではない。
【0096】
図1は、ある可能な実施形態による、本発明のバイオリアクタの断面を示す。
【0097】
バイオリアクタ1は、内部チャンバを特定すべく、少なくとも側壁11と、底壁12と、キャップ14により閉鎖される開口13とから成る容器1を備える。
【0098】
さらに、内部チャンバの内部には、内部チャンバを上側チャンバ31と下側チャンバ32とに分割するように置かれる中間壁2が設けられている。
【0099】
中間壁2は、
図1~
図4dに示される異なる実施形態に従って作製されることが可能である。
【0100】
このような実施形態は、中間壁が膜22の収容を意図する孔21を有するという事実を共有する。
【0101】
膜22は、細胞、分子、粒子、化合物、物質、栄養素、汚染物質、増殖因子、細胞群(クラスタ)、薬物および/またはあらゆる種類の物質または電磁放射線が上側チャンバ31から下側チャンバ32へ、かつその逆へと通過することを可能にする。
【0102】
関心のある分析を実行するために、また後述するように、ある可能な実施形態によれば、生体材料3の試料は、膜22を介して上側チャンバ31から下側チャンバ32へ通過する試料3に属する細胞を分析するように、膜22に接触して置かれる。
【0103】
実用上、孔21は、中間壁2の真ん中に置かれるが、偏心式(eccentric manner)に置かれることも可能である。
【0104】
さらに、構造上の便宜のために、容器1は、好ましくは円筒形状を有するが、後述するコンポーネントの特性を変更する必要なく、任意の形状を有することが可能である。
【0105】
効果的なこととして、容器1は、ポリカーボネートまたはこれに類似するもの等のプラスチック材料、好ましくはオートクレーブ内で容易に滅菌される生体適合性ポリマーから成る。
【0106】
好ましくは、内部チャンバは、3センチメートル~5センチメートルの範囲の直径を有し、一方で、側壁11は、0.7~7ミリメートルの範囲の厚さを有していて、後述するように、システムへの油圧パイプの連結に使用される方法に依存して、機械的強度と軽さとの間に最適な折衷が達成されることが可能にされる。
【0107】
好ましくは、キャップ14および中間壁2も、生体適合性ポリマー材料から成る。
【0108】
先に述べたように、膜22は、エレクトロスピニング法によって得られるポリマー材料から成ることが可能である。
【0109】
中間壁2は、
図1において、水平に配置されたものとして示されているが、明らかに、動作ニーズに依存して、これを傾斜させて設けることも可能である。
【0110】
具体的には、
図1および
図4a~
図4dを参照すると、中間壁2は、容器1の側壁11へ固定されるプレートエレメントから成る。
【0111】
具体的には、中間壁2は、真ん中に孔21を設ける環状エレメントから成る。
【0112】
さらに、中間壁2は、2つのねじ穴23を有し、ねじ(不図示)を締めて中間壁2を容器1から取り外すことを可能にする。
【0113】
ある可能な実施形態によれば、中間壁2の締付けを、例えば中間壁2を下側チャンバ32(不図示)内に設けられる2つの楔(wedge)に載置しかつ/または接着することによって行なうことが可能である。
【0114】
このような楔は、中間壁2との一体として作製されてもよい。
【0115】
図4a~
図4dに示されている変形例によれば、中間壁2は、さらに、中間壁2の外壁と容器1の内壁との間に置かれる「Oリング」型のガスケット24を有する。
【0116】
このようなガスケットは、オートクレーブ可能で高温耐性のある材料で作製され、かつ上側チャンバ31と下側チャンバ32とが気密式に分離されることを可能にする。
【0117】
図4aおよび
図4bは、中間壁2の2つの側面部分を示す。
【0118】
図3に見られるように、孔21は、膜22が挿入されるハウジングシート26を形成するように意図されるショルダを得るように作製される。
【0119】
膜22は、ハウジングシートに挿入されることが可能であって、場合により、例えば接着によって固定されてもよい。
【0120】
ある代替として、図示されている実施形態によれば、膜22のハウジングシート26への挿入は、膜22を所定位置に固定する2つの支持エレメント25から成る取外し可能な固定手段を用いることによって行われる。
【0121】
2つのジョーエレメント25は、好ましくは、重なり合う2つの環状エレメント25、
図4cおよび
図4d、から成り、膜22がこれらの間に嵌まった状態であり、よって、膜22は、環状エレメント25の孔を覆うことができ、かつ下側チャンバ32および上側チャンバ31が流体連通状態にあることを可能にし得る。
【0122】
環状エレメント25は、従来技術において知られるあらゆる方法で中間壁2へ固定されてもよい。
【0123】
環状エレメント25は、さらに、単に中間壁2上のハウジングシート26の内部に置かれても、特定の接着剤によって固定されてもよい。
【0124】
ある可能な実施形態によれば、環状エレメントは、シリコーン製であってもよい。
【0125】
動作ニーズに基づいて、あらゆる数の環状エレメント25を設けて配置することが可能である。
【0126】
先に述べたように、上に膜22が置かれるハウジングシート26に挿入される環状の支持エレメント25は、1つのみを提供することが可能であり、この場合、膜は、環状の支持エレメント25の上にただ置かれるだけであっても、これに接着されてもよい。
【0127】
図4aに示されているもの等の代替例として、膜22を間に挟んだ少なくとも2つの環状の支持エレメント25を設けることが可能であり、この「サンドイッチ」配置は、次に、ハウジングシート26へ挿入される。
【0128】
ある可能な実施形態によれば、膜22と、環状の支持エレメント25の一方または双方との間に置かれる接着材料層を設けることが可能である。
【0129】
さらなる実施形態によれば、先の変形例の代替として、または先の変形例との組合せとして、膜22を、このような支持エレメント25をハウジングシート26内部で所望される厚さに達するまで単に積層し、次に膜22が最後の支持エレメント25上に置かれることにより、特有の数の支持エレメント25を使って高さを調整されるように設けることが可能である。
【0130】
記述している構成が如何にして必ずしも膜の固定を要することなく、単に置かれるだけであるかは、明らかである。
【0131】
支持エレメント25の幾つかの構成に関連して直上で述べた見解は、プレートエレメントとして作製される中間壁を参照して述べたものであるが、このような見解は、中間壁の異なる実施形態と組み合わせて提供されることが可能である。
【0132】
図2a~
図3は、中間壁がカップエレメントから成る2つの可能な実施形態を示し、膜は、カップの底壁に置かれている。
【0133】
具体的には、
図2aおよび
図2bは、本発明によるバイオリアクタの2つの分解図を示し、中間壁は、容器110へ嵌め込まれるカップエレメント210から成る。
【0134】
カップエレメント210を容器110内に嵌め込むという事実により、容器110の内部チャンバは、2つのチャンバ、すなわち容器110の内壁とカップエレメント210の外壁とにより画成される下側チャンバ、およびカップエレメント210の内部チャンバとキャップ14とにより画定される上側チャンバ、に分割される。
【0135】
カップエレメント210は、嵌合状態において容器110の内側に達成されかつ
図2aに見ることができる段付きショルダと接触する突出する上側リム211を有する。
【0136】
突出するリムおよびカップエレメントの双方は、図示されている円形または円筒形とは異なるあらゆる形状を提供することができる。
【0137】
さらに、突出するリムは、不連続であってもよく、すなわち、その機能の達成を可能にする突出するリム部分を設けることにより、カップエレメントの直径全体に沿って設けられなくてもよい。
【0138】
したがって、嵌合状態において、上側チャンバから下側チャンバへの通過、およびその逆の通過は、カップエレメント210の底部に収容され得る膜22を介してのみ可能である。
【0139】
代替例として、膜22は、カップエレメント210と一体製造されるように設けることができる。
【0140】
図3を参照すると、バイオリアクタは、膜22のためのハウジングシート26が底部厚さ内に形成されるカップエレメント200を有する。
【0141】
ハウジングシート26の内部には、上述の構成による1つまたは複数の環状の支持エレメント25を設けることが可能である。
【0142】
さらに、カップエレメント200は、上側リムに、例えば3つの付属物であるが必ずしもそうではない、幾つかの付属物201を有する。
【0143】
カップエレメント200が容器100に嵌め込まれた状態にあるとき、このような付属物201は、容器100の側壁の厚さ内に達成されるシート101と接触する。
【0144】
さらに、嵌合状態におけるカップエレメント200の底は、容器100の側壁上に達成される段102と接触する。
【0145】
したがって、効果的なこととして、カップエレメント200の外径は、容器100の内径に相当し、よって、バイオリアクタの下側チャンバは、下を容器100の底壁により画定されかつ上をカップエレメント200の底壁により画定され、一方で、上側チャンバは、カップエレメント200の内面とキャップ14とにより画定される。
【0146】
カップエレメントの具現化に関わらず、例えばリム211と、または付属物201と協働するシムを用いることによって、その高さを調節するための手段を提供することが可能である。
【0147】
図5aおよび
図5bは、各々、
図2a~
図2bおよび
図3の変形実施形態による、閉鎖状態におけるバイオリアクタの図を2つ示す。
【0148】
図7aおよび
図7bは、本発明によるバイオリアクタのさらなる変形実施形態を示し、これに従って、下側チャンバ32の容積を調整すべく下側チャンバ32内に挿入可能な少なくとも1つのプレートエレメント4を提供することが可能である。
【0149】
プレートエレメント4は、下側チャンバ32の容積の一部を占める機能を果たすに足る、任意のサイズおよび形状を有してもよい。
【0150】
図7aおよび
図7bに示す実施形態によれば、プレートエレメント4は、底壁12に相当する特定の厚さおよび形状を有し、よって、
図7bに示されているもの等の異なるプレートエレメント4が互いに積み重ねられてもよい。
【0151】
上述のバイオリアクタの特徴は、バイオリアクタが動作ニーズへの高い適応性を有することを可能にし、よって、下側チャンバの容積の低減を、単にプレートエレメントによらず、下側チャンバの形状の変更によっても行なうことが可能であることは、明らかである。
【0152】
再度
図1~
図3を参照すると、上側チャンバ31を画定する側壁11および下側チャンバ32を画定する側壁11が、如何にして、対応する油圧回路を連結するために少なくとも1つの入口ポート15、16および少なくとも1つの出口ポート17、18を有するかに留意することが可能である。
【0153】
入口ポート15、16および出口ポート17、18は、側壁11または下壁12に沿って任意の方式および位置で置かれることが可能である。
【0154】
図7aおよび
図7bの具体的事例では、プレートエレメント4の位置決めが流体の流れを妨げる可能性を防止するために、下側チャンバ32のポート16および18を中間壁の近くに置くことが如何に良いことであるかが明らかである。
【0155】
代替例として、
図2a、
図2bおよび
図3に示すように、上側チャンバ31の入口ポート15および出口ポート17は、キャップ14上に挿入されるように設けることが可能である。
【0156】
図6aおよび
図6bは、入口ポートおよび出口ポートへ連結される油圧回路の可能な構成を略示している。
【0157】
具体的には、各々上側チャンバ31および下側チャンバ32の入口ポート15および16へ連結されるパイプ151およびパイプ161、および、各々上側チャンバ31および下側チャンバ32の出口ポート17および18へ連結されるパイプ171およびパイプ181が設けられている。
【0158】
図6aでは、上側チャンバ31のパイプ151および171が容器1の側壁へ連結され、一方で、
図6bでは、パイプ151および171がキャップ14上に設けられている。
【0159】
下側チャンバ32のパイプ161および181は、構造を簡単にするために、常に容器1の側壁へ連結されているが、これらは、必ずしも同軸に沿っている必要はなく、異なる平面または軸上に、例えば同一平面上でも軸同士が特定の角度で傾いた状態であってもよい。
【0160】
その幾つかの実施形態については後述する、油圧回路との連結は、上側チャンバ31の出口パイプ171と、下側チャンバ32の入口パイプ161とを閉鎖することによって生じてもよい。
【0161】
したがって、油圧回路は、界面膜を介して流れを通させる(灌流)ために、上側チャンバ31の入口である唯一の送出し管151と、下側チャンバ32の出口である唯一の戻り管181とを有する。
【0162】
図8は、本発明によるバイオリアクタの使用法を示す。
【0163】
このような実施形態によれば、下側チャンバ32へ連結される油圧回路が設けられている。
【0164】
油圧回路は、入口ポート16へ連結される送出し管51と、出口ポート18へ連結される戻り管52と、回路内の流体の流れを操作するポンプ53とを有する。
【0165】
戻り管52は、さらに三方バルブ54を有するが、循環流体の少なくとも一部をサンプリングできるようにする任意タイプのバルブが設けられてもよい。
【0166】
また、上側チャンバ31にも、全く同様の油圧回路が連結して設けられてもよい。
【0167】
図8を特に参照すると、試料3は、膜22と接触して置かれ、ポンプ53は、油圧回路を流れる流れを発生させ、かつ三方バルブ54は、流れる流体の一部をサンプリングすることを可能にする。
【0168】
引き出された流体部分に対しては、幾つかの分析を実行して、膜22を介する細胞通過を研究すべく、試料3に属する細胞の濃度を評価することができる。
【0169】
試料3は、人工材料、または生体組織(例えば生検材料)から成ってもよく、かつ膜22と密に接触するバイオリアクタ内で培養されてもよい。
【0170】
記述しているように、
図8を参照したセットアップ(set-up、設定、組み立てws)は、腫瘍細胞の体内拡散を研究する上で特に機能的である。
【0171】
同じ目的で、生物学的関心対象である細胞または分子(例えば、薬物)の通過を分析する本発明によるシステムを示すように意図される、
図9に示すセットアップを作製することは、可能である。
【0172】
図9は、直列に連結された2つのバイオリアクタを示し、左側のバイオリアクタの下側チャンバ32の入口ポートおよび出口ポートは、右側のバイオリアクタの上側チャンバ31の各々出口ポートおよび入口ポートへ連結されている。
【0173】
さらに、右側のバイオリアクタの下側チャンバ32の入口ポートおよび出口ポートは、
図8のそれと全く同様の油圧回路を有する。
【0174】
図8の配置とは異なり、
図9は、右側のバイオリアクタ内に、膜22と接触して連結されることが可能なさらなる試料、または標的器官6も示している。
【0175】
したがって、バルブ71および72を通って流れる流体をサンプリングすることにより、膜22を介する試料3の通過を評価することが可能であるだけでなく、このような細胞の遊走および標的器官6への付着を研究すること、ならびに、生物学的関心対象である分子の膜22を介する通過の効果を研究することも可能である。
【0176】
直上で記述した変形例の代替として、試料3の細胞の標的器官6への、単に第1のバイオリアクタ内に挿入される膜で表される単一バリアを介する通過を評価するために、第2のバイオリアクタの上側チャンバに標的器官6を提供するように規定することが可能である。
【0177】
したがって、記述しているように、
図9のシステムにより、腫瘍の増殖を試験管内で評価することが可能である。
【0178】
さらに、本発明によるバイオリアクタの特徴を使用することにより、例えば、油圧回路内部に薬物を挿入して、試験管内で増殖される腫瘍に対処するための予防的分析、または腫瘍に関する他のタイプの分析もしくは研究を実行するように提供することが可能である。
【0179】
最後に、本発明によるバイオリアクタの特に重要な用途は、皮膚を擬態するように意図される膜の使用に関する。
【0180】
この場合、どれほどの量の毒剤、汚染物質、様々な粒子または分子、薬物または有効成分または放射線(例えば、紫外放射線)が皮膚を通過しかつ周囲組織内を進むことができるか、および、可能な薬物または化粧品溶液(例えば、ローション)がそのような通過をいつ修正するか、を評価することが可能である。
【0181】
このような方法を実行するために、上側チャンバ内に検査下の粒子または分子(例えば、汚染物質または薬物または他の分子)を含む流体の流れを生成し、かつ下側チャンバ内に清浄な流体を生成することが可能である。
【0182】
膜は、ヒトもしくは動物の皮膚、またはヒトの皮膚を擬態するように意図される天然組織もしくは人工組織から成ってもよい。
【0183】
最後に、膜上に置かれた化粧品用または皮膚科用溶液が使用され、その異なるタイプに基づいて、汚染物質および/または外用剤の上側チャンバから下側チャンバへの透過が評価される。
【0184】
皮膚を介する物質拡散の研究を含む、但し化粧品に限定されず、例えば薬理学に関連する本発明のバイオリアクタの可能な使用法は、皮膚上に拡散されると、全身レベルで通過して有機体により吸収されるローション、クリームまたはこれに類似するものの量の分析である。
【0185】
最後に、本発明によるバイオリアクタが、本明細書に記述されているもの以外に、如何にして異なる用途の達成を可能にするかは、明らかである。
【0186】
例えば、皮膚とは異なる、肺関門、胃腸関門、角膜、尿道または他の上皮組織等の上皮組織、および非上皮組織によってバイオリアクタを用いることが可能である。
【0187】
肺関門の場合は、バイオリアクタを用いて、どれほどの量の外用剤が有機体内へ拡散し、肺関門を通過するかを評価することが可能である。
【0188】
胃腸関門に関しては、本発明によるバイオリアクタが栄養補給分野(nutraceutical field)で広く使用され、ある物質が有機体によってどれだけ吸収され得るか、およびその量を分析することを可能にしている。
【0189】
なおも胃腸関門を介する特定の物質の通過に関する別の用途は、このような物質の消化率に関連し得る。