IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ AGCセイミケミカル株式会社の特許一覧

特許7257119非引火性混合溶剤およびこれを含む表面処理剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】非引火性混合溶剤およびこれを含む表面処理剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20230406BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20230406BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20230406BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20230406BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230406BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230406BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230406BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
C09K3/00 R
C09K3/18 102
C09D7/20
C09D5/00 Z
C09D201/00
C09D7/63
C09D7/65
C23C26/00 A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2018157164
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020029533
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000108030
【氏名又は名称】AGCセイミケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】平林 涼
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-009335(JP,A)
【文献】特開2000-234071(JP,A)
【文献】国際公開第2012/005166(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0126427(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C09K 3/18
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が1~3のアルコールと、CHFCFOCHCFおよびCOCHからなる群から選択される少なくとも1種のハイドロフルオロエーテルと、COCHCHとを含む非引火性混合溶剤であって、
前記アルコールの含有量が、前記アルコールおよび前記ハイドロフルオロエーテルの合計質量に対して0.5質量%~5.0質量%の範囲内であり、
前記ハイドロフルオロエーテルの含有量が、前記非引火性混合溶剤の全質量に対して25.0質量%以上であり、
前記C OCH CH の含有量が、前記アルコール、前記ハイドロフルオロエーテルおよび前記C OCH CH の合計質量に対して、30.0質量%~90.0質量%である、非引火性混合溶剤。
【請求項2】
前記アルコールの含有量が、前記アルコールおよび前記COCHCHの合計質量に対して0.5質量%以上である、請求項1に記載の非引火性混合溶剤。
【請求項3】
前記アルコールが2-プロパノールである、請求項1または2に記載の非引火性混合溶剤。
【請求項4】
キシレンヘキサフルオライドをさらに含み、前記キシレンヘキサフルオライドの含有量が、前記非引火性混合溶剤の全質量に対して60.0質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非引火性混合溶剤。
【請求項5】
前記C OCH CH が、CF CF CF CF OCH CH および(CF CFCF OCH CH からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非引火性混合溶剤。
【請求項6】
前記ハイドロフルオロエーテルがCHFCFOCHCFである、請求項1~5のいずれか1項に記載の非引火性混合溶剤。
【請求項7】
溶質と溶媒とを含む表面処理剤であって、
前記溶媒が請求項1~6のいずれか1項に記載の非引火性混合溶剤である、表面処理剤。
【請求項8】
前記溶質が含フッ素化合物を含む、請求項7に記載の表面処理剤。
【請求項9】
前記含フッ素化合物が、含フッ素重合体または非重合体の含フッ素化合物である、請求項8に記載の表面処理剤。
【請求項10】
前記含フッ素重合体がポリフルオロアルキル基含有化合物から導かれる構成単位を含む含フッ素重合体である、請求項9に記載の表面処理剤。
【請求項11】
前記表面処理剤の全質量に対する、前記溶質の濃度が20.0質量%以下である、請求項7~10のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか1項に記載の表面処理剤を含む防水・防湿コーティング剤。
【請求項13】
請求項7~11のいずれか1項に記載の表面処理剤を含む腐食防止剤。
【請求項14】
請求項7~11のいずれか1項に記載の表面処理剤を含む防汚処理剤。
【請求項15】
請求項7~11のいずれか1項に記載の表面処理剤を含む潤滑オイルの染み出し防止剤。
【請求項16】
請求項7~11のいずれか1項に記載の表面処理剤を含むフラックス這い上がり防止剤。
【請求項17】
請求項7~11のいずれか1項に記載の表面処理剤を乾燥した被膜を表面の少なくとも一部に有する基材。
【請求項18】
請求項17に記載の基材が使用されている製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非引火性混合溶剤およびこれを含む表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面に撥水性および/または撥油性を付与するため、含フッ素化合物をフッ素系溶剤に溶解した表面処理剤が使用されている。
【0003】
従来、フッ素系溶剤としては、含フッ素化合物に対する溶解性が良好であり、非引火性のフロン類または代替フロン類が使用されてきたが、フロン類はオゾン層破壊効果が大きく、代替フロン類は地球温暖化効果が大きいことから、オゾン破壊係数を持たず、地球温暖化係数が低い、非引火性のフッ素系溶剤が求められている。
【0004】
このような要求を満たすフッ素系溶剤としては、これまで、メチルノナフルオロブチルエーテル(COCH)、エチルノナフルオロブチルエーテル(COCH2CH3)、および1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオエチルエーテル(CHFCFOCHCF)が開発されてきた。
【0005】
なかでも、エチルノナフルオロブチルエーテル(COCHCH)は、フッ素系の表面処理剤の有効成分として使用されるパーフルオロアルキル基含有重合体の溶解性があるだけでなく、低い表面張力を持ち、表面処理剤とした際のレベリング性が良好であるため、パーフルオロアルキル基含有重合体の溶剤として用いられている。
【0006】
しかし、エチルノナフルオロブチルエーテル(COCHCH)、メチルノナフルオロブチルエーテル(COCH)および1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオエチルエーテル(CHFCFOCHCF)は、含フッ素化合物の溶解性が高いものの、非フッ素系の化合物に対する溶解性および極性が高い化合物に対する溶解性が低い。
【0007】
これに対して、例えば、特許文献1には、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンとCOR(ただしR=CHまたはCHCH)とを、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン/COR=51/49~70/30の質量比で、かつ両者の合計で溶剤全量中80質量%以上の量で含む非引火性溶剤が記載され(請求項1)、さらに、この非引火性溶剤に、含フッ素重合体、または含フッ素リン酸エステル化合物〔(F(CFCHCH(OH)CHO)P(O)OH〕および添加剤〔C1837N((CO)H)(CO)H(x+yは平均20)を溶解したことも記載されている(実施例)。
【0008】
また、特許文献2には、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(CHFCFOCHCF)と炭素数が1~3のアルコールとを、90/10~99/1の質量比で含む非引火性溶剤が記載され(段落[0013])、さらに、この非引火性溶剤に、含フッ素重合体を溶解したことも記載されている(実施例)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-133385号公報
【文献】特開2014-009335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載された非引火性溶剤は、極性が高い化合物に対する溶解性が十分でなく、改良の余地があった。
【0011】
また、特許文献2に記載された非引火性溶剤は、揮発性が高いことから、溶質を溶解して表面処理剤とした場合に、表面処理剤の取扱い性に難があった。
【0012】
そこで、本発明は、極性が高い化合物に対する溶解性が良好であり、かつ、溶質を溶解して表面処理剤としたときの取扱い性も良好な、非引火性の溶剤組成物およびこれを含む表面処理剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、炭素数が1~3のアルコールと、CHFCFOCHCFおよびCOCHからなる群から選択される少なくとも1種のハイドロフルオロエーテルと、COCHCHとを含む混合溶剤において、炭素数が1~3のアルコールの含有量およびCHFCFOCHCFおよびCOCHからなる群から選択される少なくとも1種のハイドロフルオロエーテルの含有量を特定範囲内に設定することにより、極性が高い化合物に対する溶解性が良好であり、かつ、溶質を溶解して表面処理剤としたときの取扱い性も良好な、非引火性のフッ素系溶剤およびこれを含む表面処理剤を提供できることを知得し、本発明を完成させた。
【0014】
[1] 炭素数が1~3のアルコールと、CHFCFOCHCFおよびCOCHからなる群から選択される少なくとも1種のハイドロフルオロエーテルと、COCHCHとを含む非引火性混合溶剤であって、
上記アルコールの含有量が、上記アルコールおよび上記ハイドロフルオロエーテルの合計質量に対して0.5質量%~5.0質量%の範囲内であり、
上記ハイドロフルオロエーテルの含有量が、上記非引火性混合溶剤の全質量に対して25.0質量%以上である、非引火性混合溶剤。
[2] 上記アルコールの含有量が、上記アルコールおよび上記COCHCHの合計質量に対して0.5質量%以上である、上記[1]に記載の非引火性混合溶剤。
[3] 上記アルコールが2-プロパノールである、上記[1]または[2]に記載の非引火性混合溶剤。
[4] キシレンヘキサフルオライドをさらに含み、上記キシレンヘキサフルオライドの含有量が、上記非引火性溶剤の全質量に対して60.0質量%以下である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の非引火性混合溶剤。
[5] 上記COCHCHの含有量が、上記アルコール、上記ハイドロフルオロエーテルおよび上記COCHCHの合計質量に対して、30.0質量%~90.0質量%である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の非引火性混合溶剤。
[6] 上記ハイドロフルオロエーテルがCHFCFOCHCFである、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の非引火性混合溶剤。
[7] 溶質と溶媒とを含む表面処理剤であって、
上記溶媒が上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の非引火性溶剤である、表面処理剤。
[8] 上記溶質が含フッ素化合物を含む、上記[7]に記載の表面処理剤。
[9] 上記含フッ素化合物が、含フッ素重合体または非重合体の含フッ素化合物である、上記[8]に記載の表面処理剤。
[10] 上記含フッ素重合体がポリフルオロアルキル基含有化合物から導かれる構成単位を含む含フッ素重合体である、上記[9]に記載の表面処理剤。
[11] 上記表面処理剤の全質量に対する、上記溶質の濃度が20.0質量%以下である、上記[7]~[10]のいずれか1つに記載の表面処理剤。
[12] 上記[7]~[11]のいずれか1つに記載の表面処理剤を含む防水・防湿コーティング剤。
[13] 上記[7]~[11]のいずれか1つに記載の表面処理剤を含む腐食防止剤。
[14] 上記[7]~[11]のいずれか1つに記載の表面処理剤を含む防汚処理剤。
[15] 上記[7]~[11]のいずれか1つに記載の表面処理剤を含む潤滑オイルの染み出し防止剤。
[16] 上記[7]~[11]のいずれか1つに記載の表面処理剤を含むフラックス這い上がり防止剤。
[17] 上記[7]~[11]のいずれか1つに記載の表面処理剤を乾燥した被膜を表面の少なくとも一部に有する基材。
[18] 上記[17]に記載の基材が使用されている製品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、極性が高い化合物に対する溶解性が良好であり、かつ、溶質を溶解して表面処理剤としたときの取扱い性も良好な、非引火性のフッ素系溶剤およびこれを含む表面処理剤を提供できる。
【0016】
また、本発明によれば、表面処理剤を含む防水・防湿コーティング剤、腐食防止剤、防汚処理剤、潤滑オイルの染み出し防止剤およびフラックス這い上がり防止剤、ならびに表面処理剤を乾燥した被膜を表面の少なくとも一部に有する基材およびその基材が使用されている製品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔「~」を用いて表される範囲〕
本発明において、「~」を用いて表される範囲には「~」の両側を含むものとする。例えば、「A~B」と表される範囲には、「A」および「B」を含む。
【0018】
〔地球温暖化係数〕
「地球温暖化係数」(GWP;Global Warming Potential)は、二酸化炭素(CO)を基準として、温室効果ガスがどれだけ地球を温暖化する能力があるかを表す値である。単位質量の温室効果ガスが大気中に放出されたときに、100年の間に地球に与える放射エネルギーの積算値(温暖化への影響)を二酸化炭素に対する比率として見積もったものである(二酸化炭素の地球温暖化係数=1)。
【0019】
〔化合物(a)〕
本発明において、「化合物(a)」は、「式(a)で表される化合物」を表す。他の式で表される化合物も同様に表記する場合がある。例えば、「化合物(b)」および「化合物(c)」は、それぞれ、「式(b)で表される化合物」および「式(c)で表される化合物」を表す。
【0020】
〔(メタ)アクリレート〕
また、本発明において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリル酸エステル」および「メタクリル酸エステル」のいずれか一方または両方を表す。また、「アクリレート」は「アクリル酸エステル」を表し、「メタクリレート」は「メタクリル酸エステル」を表す。
【0021】
〔引火性・非引火性〕
また、本発明において、「引火性」とは、引火点を持つことをいい、「非引火性」とは、引火点を持たないことをいう。ここで、引火点は、JIS K 2265-1:2006「引火点の求め方-第1部:タグ密閉法」またはJIS K 2265-4:2007「引火点の求め方-第4部:クリーブランド開放法」に定められている引火点測定方法に従い、以下に記載する引火点の測定手順によって測定した引火点である。
【0022】
〔溶媒・溶質〕
また、本発明において、「溶媒」とは、25℃、1013hPaにおいて、粘度が10mPa・s未満の液体である物質をいい、「溶質」とは、25℃、1013hPaにおいて、固体または粘度が10mPa・s以上の液体である物質をいう。
【0023】
(引火点の測定手順)
(a)タグ密閉法(JIS K 2265-1)による引火点測定の実施。
(b)(a)において、引火点が80℃以下の温度で引火点が測定できない場合にあっては、クリーブランド開放法(JIS K 2265-4)による引火点測定の実施。
【0024】
[非引火性混合溶剤]
本発明の非引火性混合溶剤(以下、単に「本発明の混合溶剤」という場合がある。)について詳細に説明する。
本発明の混合溶剤は、炭素数が1~3のアルコールと、CHFCFOCHCFおよびCOCHからなる群から選択される少なくとも1種のハイドロフルオロエーテルと、COCHCHとを含む。
【0025】
〈炭素数が1~3のアルコール〉
CHFCFOCHCF、COCHおよびCOCHCHは、極性が高い化合物に対する溶解性が低いが、炭素数が1~3のアルコールを所定量混合することにより、極性が高い化合物に対する溶解性を改善するとともに、非引火性を維持できる。
【0026】
《炭素数が1~3のアルコールの種類》
上記炭素数が1~3のアルコールは、例えば、メタノール(炭素数1)、エタノール(炭素数2)、プロパノール(炭素数3)および2-プロパノール(炭素数3)からなる群から選択される少なくとも1種であり、好ましくはエタノール、プロパノールおよび2-プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくはエタノールまたは2-プロパノールであり、さらに好ましくは2-プロパノールである。
【0027】
《炭素数が1~3のアルコールの含有量》
上記炭素数が1~3のアルコールの含有量は、上記炭素数が1~3のアルコールおよび上記ハイドロフルオロエーテルの合計質量に対して、0.5質量%~5.0質量%の範囲内であり、より好ましくは3.0質量%~5.0質量%の範囲内である。
上記炭素数1~3のアルコールの含有量が、上記炭素数が1~3のアルコールおよび上記ハイドロフルオロエーテルの合計質量に対して0.5質量%未満であると、混合溶剤の極性が高い化合物に対する溶解性が十分ではなく、5.0質量%超であると、混合溶剤が非引火性ではなくなる(引火点を持つようになる)。
【0028】
また、上記炭素数が1~3のアルコールの含有量は、上記炭素数が1~3のアルコールおよび上記COCHCHの合計質量に対して、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%~5.0質量%の範囲内であり、さらに好ましくは2.0質量%~5.0質量%の範囲内である。
上記炭素数が1~3のアルコールの含有量が、上記炭素数が1~3のアルコールおよび上記COCHCHの合計質量に対して、0.5質量%以上であると、本発明の溶剤の極性が高い化合物に対する溶解性がより良好なものとなる。
【0029】
〈ハイドロフルオロエーテル〉
《ハイドロフルオロエーテルの種類》
上記ハイドロフルオロエーテルは、CHFCFOCHCFおよびCOCHからなる群から選択される少なくとも1種であり、好ましくはCHFCFOCHCFである。
上記ハイドロフルオロエーテルがCHFCFOCHCFであると、溶解性が良好である。
【0030】
(CHFCFOCHCF
上記CHFCFOCHCFとしては、例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、HFE-347pc-f、またはアサヒクリンAE-3000(旭硝子社製)の名称で販売されているものを使用できる。
【0031】
(COCH
上記COCHは、CFCFCFCFOCH(メチルノナフルオロn-ブチルエーテル)、(CFCFCFOCH(メチルノナフルオロイソブチルエーテル)、CFCHC(CF)FOCH(メチルノナフルオロsec-ブチルエーテル)および(CFCOCH(メチルノナフルオロtert-ブチルエーテル)からなる群から選択される少なくとも1種であり、好ましくはCFCFCFCFOCHCH(メチルノナフルオロn-ブチルエーテル)および(CFCFCFOCHCH(メチルノナフルオロイソブチルエーテル)からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0032】
上記COCHとしては、例えば、メチルノナフルオロブチルエーテル、またはNovecTM 7100(スリーエム社製)の名称で販売されているものを使用することができる。
【0033】
《ハイドロフルオロエーテルの含有量》
上記ハイドロフルオロエーテルの含有量は、本発明の非引火性混合溶剤の全質量に対して、25.0質量%以上であり、好ましくは25.0質量%~90.0質量%の範囲内であり、より好ましくは30.0質量%~70.0質量%の範囲内であり、さらに好ましくは40.0質量%~60.0質量%の範囲内である。
上記ハイドロフルオロエーテルの含有量がこの範囲内であると、使用時の安全性の面と作業性(揮発速度)の面から好ましい。
【0034】
〈COCHCH
《COCHCHの種類》
上記COCHCHは、CFCFCFCFOCHCH(エチルノナフルオロn-ブチルエーテル)、(CFCFCFOCHCH(エチルノナフルオロイソブチルエーテル)、CFCHC(CF)FOCHCH(エチルノナフルオロsec-ブチルエーテル)および(CFCOCHCH(エチルノナフルオロtert-ブチルエーテル)からなる群から選択される少なくとも1種であり、好ましくはCFCFCFCFOCHCH(エチルノナフルオロn-ブチルエーテル)および(CFCFCFOCHCH(エチルノナフルオロイソブチルエーテル)からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0035】
上記COCHCHとしては、例えば、エチルノナフルオロブチルエーテル、またはNovecTM 7200(スリーエム社製;エチルノナフルオロn-ブチルエーテルおよびエチルノナフルオロイソブチルエーテルの混合物)の名称で販売されているものを使用することができる。
【0036】
《COCHCHの含有量》
上記COCHCHの含有量は、特に限定されないが、好ましくは上記炭素数が1~3のアルコール、上記ハイドロフルオロエーテルおよび上記COCHCHの合計質量に対して、好ましくは30.0質量%~90.0質量%の範囲内であり、より好ましくは50.0質量%~70.0質量%の範囲内である。
【0037】
〈キシレンヘキサフルオライド〉
本発明の混合溶剤は、炭素数が1~3のアルコール、CHFCFOCHCFおよびCOCHからなる群から選択される少なくとも1種のハイドロフルオロエーテル、ならびにCOCHCHの他に、溶剤成分として、キシレンヘキサフルオライドをさらに含んでもよい。
【0038】
キシレンヘキサフルオライドは含フッ素重合体に対する溶解性が高く、かつ、非フッ素系の化合物に対する溶解性も持ち合わせている。また、CHFCFOCHCF、CCHまたはCOCHCH等の非引火性のハイドロフルオロエーテルとキシレンヘキサフルオライドを混合して混合溶剤とした場合であっても、キシレンヘキサフルオライドの含有量によっては、混合溶剤を非引火性とすることができる。そのため、本発明の非引火性溶剤がキシレンヘキサフルオライドを含むと、溶解性および非引火性の両立をさらに向上することができる。
【0039】
《キシレンヘキサフルオライドの種類》
キシレンヘキサフルオライドは、メタキシレンヘキサフルオライド〔1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン〕、パラキシレンヘキサフルオライド〔1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン〕およびオルトキシレンヘキサフルオライド〔1,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン〕のいずれであってもよく、これらのうち1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
《キシレンヘキサフルオライドの含有量》
本発明の混合溶剤が上記キシレンヘキサフルオライドを含む場合、上記キシレンヘキサフルオライドの含有量は、本発明の混合溶剤の全質量に対して、60.0質量%以下が好ましく、より好ましくは5.0質量%~60.0質量%の範囲内であり、さらに好ましくは10.0質量%~40.0質量%の範囲内であり、特に好ましくは20.0質量%~30.0質量%の範囲内である。
本発明の混合溶剤中の上記キシレンヘキサフルオライドの含有量がこの範囲内であると、本発明の混合溶剤の非引火性を損なうことなく、非フッ素系の化合物およびフッ素含有量の乏しい化合物に対する溶解性をより良好なものとすることができる。
【0041】
〈他の溶剤成分〉
本発明の非引火性溶剤は、本発明の効果を妨げない限り、他の溶剤成分をさらに含んでもよい。
【0042】
《他の溶剤成分の種類》
上記他の溶剤成分としては、例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(CHFCFOCHCF)、CCHおよびCOCHCH以外のハイドロフルオロエーテルやハイドロフルオロカーボンなどが挙げられるがこれらの溶剤に限定されるわけではない。また、2種類以上用いても構わない。
【0043】
CHFCFOCHCF、CCHおよびCOCHCH以外のハイドロフルオロエーテルの例は、以下の化学式で表されるものであるが、これらに限定されるものではない。下記式中、mおよびnは、それぞれ独立に、1~20の整数を表す。また、下記式中、炭素数3以上のアルキル骨格を有する基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
13OCH
13OCHCH
OCH
OCHCH
CHFCFCHOCFCHF
CF(OCFCF(OCFOCHF
17OCH
15OCH
【0044】
ハイドロフルオロカーボンの例は、以下の化学式で表されるものであるが、これらに限定されるものではない。
13CHCH
13
【0045】
《他の溶剤成分の含有量》
上記他の溶剤成分の含有量は、本発明の溶剤の全質量に対して、好ましくは30.0質量%以下であり、より好ましくは20.0質量%以下であり、さらに好ましくは10.0質量%以下である。
【0046】
[表面処理剤]
本発明の表面処理剤について詳細に説明する。
本発明の表面処理剤は、溶質と溶媒とを含む表面処理剤であって、溶媒は上述した本発明の非引火性混合溶剤である。
【0047】
本発明の表面処理剤は、本発明の非引火性混合溶剤を溶媒として用いることにより、溶質の溶解性を改善するとともに、低表面張力および非引火性を両立したものである。
【0048】
〈溶媒〉
溶媒は上述した本発明の非引火性混合溶剤である。
【0049】
〈溶質〉
溶質は、上記溶媒に溶解する物質であれば特に限定されないが、好ましくは含フッ素化合物を含む。
【0050】
《含フッ素化合物》
上記含フッ素化合物は、フッ素を含む化合物であれば特に限定されないが、好ましくは含フッ素重合体または非重合体の含フッ素化合物である。含フッ素重合体または非重合体の含フッ素化合物は、本発明の表面処理剤として基材の表面に適用した際に、基材の表面に撥水性および撥油性に優れた被膜を形成することができる。
【0051】
(含フッ素重合体)
上記含フッ素重合体は、好ましくはポリフルオロアルキル基含有化合物から導かれる構成単位を含む。
上記ポリフルオロアルキル基含有化合物は、典型的には下記式(a)で表される(メタ)アクリル酸化合物(以下、単に「化合物(a)」という場合がある。)であり、具体的には(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミドなどである。
【0052】
上記化合物(a)としては、下記構造が挙げられる。
CH=CR-COX-Q-Rf (a)
上記式(a)において、
は、水素原子またはメチル基を表し、
Xは、-O-または>NHを表し、
は、単結合または2価の連結基を表し、
Rfは、炭素数1~20のポリフルオロアルキル基を表す。
上記2価の連結基は、好ましくは炭素数1~5のアルキレン基である。
【0053】
このような化合物(a)を具体的に(メタ)アクリレートで例示すれば、下記式(a’)または下記式(a”)で表される化合物を挙げることができる。ただし、化合物(a)は、これらに限定されるものではない。
CH=CH-COO-(CH-(CFF (a’)
CH=C(CH)-COO-(CH-(CFF (a”)
上記式中、添字nは0~4の整数を表し、添字mは1~16の整数を表す。添字mは、好ましくは1~6の整数を表す。
【0054】
なお、(メタ)アクリレートは、表面処理剤に求める性能により適宜選択できる。例えば、撥水性を特に重視する場合はメタクリル酸エステルが好ましく、撥油性や撥IPA性を特に重視する場合や、被膜の耐熱性を特に重視する場合は、アクリル酸エステルである場合が好ましい。
【0055】
上記含フッ素重合体は、化合物(a)から導かれる構成単位を、通常50.0質量%以上、好ましくは80.0質量%以上、より好ましくは90.0質量%以上含有する。本発明において、重合体における構成単位の質量%は、重合に使用した原料化合物がすべて構成単位を構成するとみなした値である。
上記含フッ素重合体が、化合物(a)のみの重合体である場合には、化合物(a)の1種の単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
【0056】
また、含フッ素重合体が共重合体である場合には、上記化合物(a)以外の他の化合物(b)から導かれる構成単位を1種または2種以上含んでもよい。
上記化合物(b)は、通常、ポリフルオロアルキル基を有しない化合物であり、例えば、(メタ)アクリル酸、炭素数1~18のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、反応性を有する官能基を含む化合物、例えば、マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸等のエチレン性不飽和カルボン酸類、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシ(メタ)アクリルアミド等のアミド化合物、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等の水酸基含有化合物、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有化合物、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有化合物、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸などのカルボキシル基含有化合物などであるが、これらに限られない。
【0057】
(非重合体の含フッ素化合物)
上記非重合体の含フッ素化合物は、好ましくは炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を有する化合物であり、より好ましくは末端に極性基をさらに有する化合物である。
上記非重合体のフッ素化合物としては、含フッ素リン酸エステルや含フッ素シランなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
((含フッ素リン酸エステル))
上記含フッ素リン酸エステルとしては、下記構造が挙げられる。
(Rf-Q-)-P(O)(OM) (c)
上記式(c)において、
Rfは、炭素数1~20のポリフルオロアルキル基を表し、
は、単結合または2価の連結基を表し、
Mは、水素原子、アンモニウム基、置換アンモニウム基またはアルカリ金属原子を表し、
rは、1~3の整数を表し、
sは、0~2の整数を表し、
r+sは、3である。
上記2価の連結基、好ましくはヒドロキシ基(-OH)で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキレン基である。
【0059】
上記含フッ素リン酸エステルの具体例としては、以下の化合物を挙げることができるが。ただし、上記含フッ素リン酸エステルは、これらに限定されるものではない。
F(CF-CHCH-P(O)(OH) (c1)
(F(CF-CHCHP(O)(OH) (c2)
F(CF-CHCH(OH)CHO-P(O)(OH) (c3)
(F(CF-CHCH(OH)CHO)P(O)(OH) (c4)
F(CF-CHCHO-P(O)(OH) (c5)
(F(CF-CHCHO)-P(O)(OH) (c6)
上記式中、添字mは1~16の整数を表し、好ましくは1~6の整数を表す。
上記含フッ素リン酸エステルは、表面処理剤として金属表面を処理する場合に特に好適である。また、離型剤として用いる場合にも特に好適である。
【0060】
((含フッ素シラン))
上記含フッ素シランとしては、下記構造が挙げられる。
(Rf-Q-)―Si(X) (d)
上記式(d)において、
Rfは、炭素数1~20のポリフルオロアルキル基を表し、
は、単結合または2価の連結基を表し、
Xは、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基を表す。
rは、1~3の整数を表し、
sは、1~3の整数を表し、
r+sは、4である。
上記2価の連結基、好ましくはヒドロキシ基(-OH)で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキレン基である。
【0061】
上記含フッ素シランの具体例としては、以下の化合物を挙げることができる。ただし、上記含フッ素シランは、これらに限定されるものではない。
F(CF-CHCH-Si(Cl) (d1)
F(CF-CHCH-Si(OH) (d2)
F(CF-CHCH-Si(OMe) (d3)
F(CF-CHCH-Si(OEt) (d4)
F(CF-CHCH-Si(OCH(CH (d5)
F(CF-CHCHO-Si(Cl) (d6)
F(CF-CHCHO-Si(OH) (d7)
F(CF-CHCHO-Si(OMe) (d8)
F(CF-CHCHO-OSi(OEt) (d9)
F(CF-CHCHO-Si(OCH(CH (d10)
上記式中、添字mは1~16の整数を表し、好ましくは1~6の整数を表す。
【0062】
《含フッ素化合物以外の溶質》
本発明の表面処理剤は、本発明の混合溶媒に溶解または分散させることが可能で、本発明の目的を損なわず、安定性、性能および外観等に悪影響を与えない範囲であれば、上記含フッ素化合物以外の溶質を含んでもよい。
このような上記含フッ素化合物以外の溶質は、特に限定されないが、例えば、ジメチルシリコーンおよびポリエチレングリコールアルキルアミンを挙げることができる。
また、上記含フッ素化合物以外の溶質としては、さらに、被膜表面の腐食を防止するためのpH調整剤、防錆剤、防かび剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、帯電防止剤等の他の成分を挙げることができる。
【0063】
《溶質の濃度》
本発明の表面処理剤において、上記溶質の濃度は、特に限定されないが、作業性がより良好となることから、好ましくは20.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%~20.0質量%であり、さらに好ましくは5.0質量%~15.0質量%である。なお、溶質は、本発明の表面処理剤における溶質全体であり、含フッ素化合物に限定されるものではなく、含フッ素化合物以外の溶質を含むときは、含フッ素化合物および含フッ素化合物以外の溶質を含む意味である。
【0064】
上記溶質の好ましい濃度は、上記表面処理剤を使用する際の最終的な濃度として好ましいものである。本発明の表面処理剤中の溶質の濃度が高く、そのままの濃度では作業性が良好とはいえない場合は、本発明の非引火性混合溶媒をさらに配合して表面処理剤を希釈し、作業性がより良好となる程度に表面処理剤中の溶質の濃度を下げればよい。
【0065】
(含フッ素化合物の濃度)
本発明の表面処理剤中の含フッ素化合物の濃度は、特に限定されず、用途によって適宜設定されることが好ましい。
含フッ素化合物の濃度は、例えば、本発明の防水・防湿コーティング剤、腐食防止剤および防汚処理剤では、好ましくは1.0質量%~20.0質量%であり、潤滑オイルの染み出し防止剤および電子部品用樹脂付着防止剤では、好ましくは1.0質量%~5.0質量%であり、はんだ用フラックス這い上がり防止剤では、好ましくは0.01質量%~1.0質量%であり、離型剤では、好ましくは0.1質量%~10.0質量%である。
【0066】
(溶質全量中の含フッ素化合物の量)
溶質全量中の含フッ素化合物の量は、特に限定されず、用途により異なっていてもよい。
溶質全量中の含フッ素化合物の量は、例えば、防水・防湿コート剤、潤滑オイルの染み出し防止剤、電子部品用樹脂付着防止剤およびはんだ用フラックス這い上がり防止剤では、好ましくは溶質成分の90.0質量%以上であるが、離型剤では、好ましくは溶質成分の50.0質量%以下である。
【0067】
[表面処理剤の使用方法]
本発明の表面処理剤は、撥水性、防水性および撥油性等の性能を付与したい部分に塗布して被膜を形成して利用できる。この被膜は、本発明の表面処理剤から溶媒が除去されて形成されるものであり、主として、本発明の表面処理剤の溶質成分からなるものである。被覆方法としては一般的な被覆加工方法が採用できる。例えば浸漬塗布、スプレー塗布、ローラー塗布等の方法がある。
【0068】
本発明の表面処理剤の塗布後は、溶媒の沸点以上の温度で乾燥を行うことが好ましいが、室温で自然乾燥させても性能に支障はない。無論、被処理部品の材質などにより加熱乾燥が困難な場合には、加熱を回避して乾燥すべきである。なお、熱処理の条件は、塗布する表面処理剤の組成や、塗布面積等に応じて選択すればよい。
【0069】
[本発明の表面処理剤の用途]
本発明の表面処理剤は、各種材料の処理に適用可能である。本発明の表面処理剤の溶媒である本発明の非引火性混合溶剤は、無機材料(金属、セラミック、ガラス等)はもとより、樹脂材質へ影響が少ない。そのため、精密機器部品や摺動部品(モーター、時計、HDD)、電気部品(電子回路や基板、電子部品等)および各種樹脂製系のモールドの処理などに用いることができる。
【0070】
本発明の表面処理剤の用途の具体例は、防水・防湿コーティング剤、腐食防止剤、防汚処理剤、潤滑オイルの染み出し防止剤またはフラックス這い上がり防止剤であるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
〈防水・防湿コーティング剤〉
本発明の防水・防湿コーティング剤は、本発明の表面処理剤を含む。
本発明の防水・防湿コーティング剤において、上記溶質は、好ましくは含フッ素重合体であり、より好ましくはパーフルオロアルキル基を含有している重合体である。
また、本発明の防水・防湿コーティング剤において、上記溶質の濃度は、0.2質量%~30.0%質量%であり、より好ましくは2.0質量%~20.0質量%であり、さらに好ましくは5.0質量%~15.0質量%である。
【0072】
〈腐食防止剤〉
本発明の腐食防止剤は、本発明の表面処理剤を含む。
本発明の腐食防止剤において、上記溶質は、好ましくは含フッ素重合体であり、より好ましくはパーフルオロアルキル基を含有している重合体である。
また、本発明の腐食防止剤において、上記溶質の濃度は、0.2質量%~30.0質量%であり、より好ましくは2.0質量%~20.0質量%である。
【0073】
〈防汚処理剤〉
本発明の防汚処理剤は、本発明の表面処理剤を含む。
本発明の防汚処理剤において、上記溶質は、好ましくは含フッ素重合体であり、より好ましくはパーフルオロポリエーテル基を含有している重合体である。
また、本発明の防汚処理剤において、上記溶質の濃度は、好ましくは0.2質量%~30.0質量%であり、より好ましくは2.0質量%~20.0質量%である。
【0074】
〈潤滑オイルの染み出し防止剤〉
本発明の潤滑オイルの染み出し防止剤は、本発明の表面処理剤を含む。
本発明の潤滑オイルの染み出し防止剤において、上記溶質は、好ましくはパーフルオロアルキル基含有化合物であり、より好ましくはパーフルオロアルキル基含有している重合体である。
また、本発明の防汚処理剤において、上記溶質の濃度は、好ましくは0.2質量%~30.0質量%であり、より好ましくは2.0質量%~10.0質量%である。
【0075】
〈フラックス這い上がり防止剤〉
本発明のフラックス這い上がり防止剤は、本発明の表面処理剤を含む。
本発明のフラックス這い上がり防止剤において、上記溶質は、好ましくはパーフルオロアルキル基含有化合物であり、より好ましくはパーフルオロアルキル基含有している重合体である。
また、本発明のフラックス這い上がり防止剤において、上記溶質の濃度は、好ましくは0.01質量%~2.0質量%であり、より好ましくは0.05質量%~0.5質量%である。
【0076】
[基材・製品]
本発明の表面処理剤を基材の表面に塗布し、乾燥して溶媒を除去することにより、被膜を基材の表面の少なくとも一部に有する基材を得ることができる。この被膜は、本発明の表面処理剤を乾燥したものであり、溶質に相当する成分を含む。
さらに、得られた基材を使用して製品とすることができる。
【実施例
【0077】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
以下の実施例で表面処理剤および比較表面処理剤を調製するために使用した化合物は、市販の試薬として入手することができるものまたは既知の合成法によって容易に合成できるものである。
【0079】
また、以下の実施例において、特に断わりのない限り「%」で表示されるものは「質量%」を表すものとする。混合溶剤および含フッ素重合体を合成するために使用した化合物は、市場から容易に入手することができる化合物である。
【0080】
[実施例1~4、比較例1~13]
〈溶剤組成物の調製〉
実施例1~4の溶剤組成物(溶剤No.1~4)および比較例1~13の比較溶剤組成物(比較溶剤No.1~13)を調製した。
【0081】
表1に、溶剤No.1~4および比較溶剤No.1~13の調製に使用した溶剤を示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1中、A群は「炭素数1~3のアルコール」を表し、B群は「CHFCFOCHCFおよびCOCHからなる群から選択される少なくとも1種のハイドロフルオロエーテル」を表し、C群は「COCHCH」を表し、D群は「キシレンヘキサフルオライド」を表す。
【0084】
IPA・・・イソプロピルアルコール
AE3000・・・アサヒクリンAE-3000(AGC社製)
Novec7200・・・NovecTM 7200(3M社製)
Novec7100・・・NovecTM 7100(3M社製)
m-XHF・・・メタキシレンヘキサフルオライド〔1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン〕
【0085】
表2に、溶剤No.1~4(実施例1~4)および比較溶剤No.1~13(比較例1~13)の組成を示す。
表1に示す溶剤を表2の「溶剤組成」の欄に示す組成となるように混合して、溶剤No.1~4および比較溶剤No.1~13を調製した。
【0086】
〈溶剤組成物の評価〉
以下に記載した方法によって、溶剤No.1~4および比較溶剤No.1~13の引火性、蒸気圧(25℃)、地球温暖化係数および表面張力を評価、計算または測定した。結果を表2の「評価」の欄に示す。
【0087】
《引火性》
(a)タグ密閉法(JIS K 2265-1)による引火点測定の実施。
(b)(a)において、引火点が80℃以下の温度で引火点が測定できない場合にあっては、クリーブランド開放法(JIS K 2265-4)による引火点測定の実施。
引火点か確認されるものを×、引火点が確認されないものを〇とした。
【0088】
《蒸気圧》
使用している各溶剤単独の蒸気圧(25℃)をもとに算出した。溶剤単独の蒸気圧は、各溶剤のSDS(安全データシート)等に掲載の値を使用した。算出に使用した値は、表1に記載した。計算に際して、各溶剤の蒸気圧はモル分率に線形的な関係にあるものと仮定して算出した。
【0089】
《地球温暖化係数》
地球温暖化係数(GWP)は、二酸化炭素を基準に、各種気体が大気中に放出された際の濃度あたりの温室効果の100年間の強さを比較して表す。各溶剤成分のGWPと溶剤の組成比の積を足し合わせた値を、溶剤組成物のGWP値とした。
【0090】
《表面張力》
自動表面張力計(K100C,KRUSS社製)を用いて、プレート法(Wilhelmy法)で25℃の溶剤組成物の表面張力の測定を行った。測定は3秒ごとに1分間計測し、最後の5点の平均値を測定結果とした。
【0091】
【表2-1】
【0092】
【表2-2】
【0093】
【表2-3】
【0094】
[実施例5~9、比較例14~30]
〈含フッ素重合体の合成〉
密閉容器に、CH=C(CH)-COO-CHCH(CFFを120質量部、m-キシレンヘキサフルオリド(以下「m-XHF」と表記する。)を479質量部および開始剤(ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオナート)を1質量部、それぞれ仕込み、70℃で18時間反応させ、含フッ素重合体濃度約20%の含フッ素重合体溶液を得た。
この含フッ素重合体溶液を、大量のメタノールに添加して、含フッ素重合体を析出させた。デンカンテーションを行って析出物のみ取り出し、メタノールで洗浄して残存モノマーを除去した後、減圧乾燥器を用いて、減圧下(60℃)で真空乾燥させ、含フッ素重合体を得た。
【0095】
〈表面処理剤の調製〉
溶剤No.1~4、比較溶剤No.1~13、防カビ剤(3-ヨード-2-プロピニル-N-ブチルカルバマート;ホクサイドIPB,北興産業社製)、および合成した含フッ素重合体を用いて、表3または表4の「表面処理剤組成」の欄に示す組成となるように混合して(25℃)、表面処理剤No.1~5および比較表面処理剤No.1~18を調製した。
【0096】
〈表面処理剤の評価〉
以下に記載した方法によって、表面処理剤No.1~4および比較表面処理剤No.1~13、28の、水に対する接触角〔接触角(水)〕およびn-ヘキサデカンに対する接触角〔接触角(HD)〕と、表面処理剤No.5および比較表面処理剤No.14~25、28の、作業性(スプレー塗布)を測定または評価した。結果を表3および表4の「評価」の欄に示す。なお、表3および表4の「評価」の欄の「N.D.」は、評価を行わなかったことを表す。
【0097】
《接触角(水)・接触角(HD)》
調製した表面処理剤または比較表面処理剤にガラス板を浸漬し、1分後に取り出し、室温乾燥して、表面処理剤または比較表面処理剤の被膜を有するガラス板(被膜付ガラス板)を作製した。
【0098】
作製した被膜付ガラス板のそれぞれについて、表面に水を3μLを着滴させ、自動接触角計(OCA-20,データフィジックス社製)を用いて水に対する接触角〔接触角(水)〕を測定した。
同様にして、n-ヘキサデカン(HD)に対する接触角〔接触角(HD)〕を測定した。
【0099】
《作業性》
調製した表面処理剤または比較表面処理剤をアネスト岩田製のハンドスプレーガンLPH-50(ノズル:HVLP13PSI)を使用して銅板へのスプレー塗布を実施した。
揮発が早すぎて粉体状になった表面処理剤が付着して凸凹な塗膜になったものや、気泡により凸凹な塗膜になってしまったものを×、凸凹になることなく、平坦な塗膜が得られたものを〇とした。
ハンドスプレーガンの塗布条件は、空気圧0.3MPa、空気量調節装置1/8回転、塗料調節ツマミ3回転、パターン調節装置0回転とし、塗布する銅板に対し、垂直真上方向から塗布距離15cmで2秒間噴射した。
【0100】
《溶解性》
混合溶剤組成物または比較混合溶剤組成物と防カビ成分を混合したのち、加温と超音波を使用し防カビ成分を溶解した。
溶解後、25℃の保冷庫に1晩静置し、析出物が確認されなかったものは溶解した(○)と判断し、析出物が確認されたものは溶解しなかった(×)と判断した。
溶解性の評価結果を表3および表4の該当欄に示す。
【0101】
【表3-1】
【0102】
【表3-2】
【0103】
【表3-3】
【0104】
【表4-1】
【0105】
【表4-2】
【0106】
表2に示す結果から、本発明の混合溶剤(実施例1~4)であれば引火性を有さず、IPAを所定量よりも多く含有すると、引火性を有することがわかる。
【0107】
実施例1~4の溶剤組成物を用いた実施例5~8(表面処理剤1~4)は、溶解性が良好であった。
これに対して、IPAを含まない比較例1の比較溶剤組成物を用いた比較例13(比較表面処理剤No.1)は、溶解性が不良であった。
比較例2~13のうち、比較例2~5および11~13は引火性の溶剤組成物であった。
引火性がなく、溶解性が良好であった比較例6~10の溶剤組成物を用いた比較例26~30(比較表面処理剤14~18)と、実施例4の溶剤組成物を用いた実施例9(表面処理剤5)を比較した結果、実施例9と比較例28のみが高い溶解性を示した。
【0108】
比較例28は、溶解性に優れていたが、溶剤の揮発が早すぎて作業性(スプレー塗布)に劣っていた。具体的には、スプレー塗布時に溶剤が揮発して粉体状になった表面処理剤が付着して凸凹な塗膜になったり、着滴した処理液から気泡が抜ける前に乾燥し凸凹な塗膜になったりしてしまった。
【0109】
これらのことから、本発明の溶剤組成物は、引火性がなく安全性が高く、かつ、溶解性や作業性の面で優れていることがわかる。