(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料
(51)【国際特許分類】
C12C 5/02 20060101AFI20230406BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20230406BHJP
A23L 2/66 20060101ALI20230406BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20230406BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20230406BHJP
【FI】
C12C5/02
A23L2/00 E
A23L2/66
A23L2/38 J
C12G3/04
(21)【出願番号】P 2018246817
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-04-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】藤田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】別府 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】林 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 広樹
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-196336(JP,A)
【文献】特開2001-333760(JP,A)
【文献】特開2017-209071(JP,A)
【文献】特開2006-304764(JP,A)
【文献】吉田重厚,第1章 ビールの一般成分,日本醸造協会雑誌,日本,1976年,71巻7号,pp.505-510,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/71/7/71_7_505/_pdf/-char/ja
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C、A23L、C12G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離アミノ態窒素(FAN)の含有量が30ppm以上であり、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量が20ppm以上
であり、遊離アミノ態窒素(FAN)の含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaの麦由来タンパク質/FAN)が0.3以上0.5以下である、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
遊離アミノ態窒素(FAN)の含有量が90ppm以上である、請求項1記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量が40ppm以上である、請求項1又は2記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
遊離アミノ態窒素(FAN)の含有量が140ppm以上であり、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量が60ppm以上である、請求項1~3いずれか記載のビールテ
イスト飲料。
【請求項5】
遊離アミノ態窒素(FAN)の含有量が30ppm以上のビールテイスト飲料の製造方法であって、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量を20ppm以上
且つ遊離アミノ態窒素(FAN)の含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaの麦由来タンパク質/FAN)が0.3以上0.5以下となるように増やす工程を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項6】
遊離アミノ態窒素(FAN)の含有量が30ppm以上のビールテイスト飲料のコク味を増強する方法であって、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量を20ppm以上
且つ遊離アミノ態窒素(FAN)の含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaの麦由来タンパク質/FAN)が0.3以上0.5以下となるように増やす工程を有する、ビールテイスト飲料のコク味を増強する方法。
【請求項7】
請求項
6に記載の方法に使用される、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質を含む、ビールテイスト飲料のコク味増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、ビールテイスト飲料のコク味を増強する方法、及びビールテイスト飲料のコク味増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の消費者の嗜好の多様化にともなって、様々な香味特徴をもつビールテイスト飲料の開発が望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1にはビール様飲料のコク感等を増強するために、アルコール成分、甘味系成分、アルデヒド系成分などをビール様飲料用風味改善剤とすることなどが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような風味改善剤は、香味に影響を与えるものであり、使用に適さない場合もあった。
【0006】
本発明の課題は、コク味に優れるビールテイスト飲料を提供することである。また、コク味が増強されたビールテイスト飲料の製造方法、ビールテイスト飲料のコク味を増強する方法、及びビールテイスト飲料のコク味増強剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記[1]~[5]に関する。
[1]遊離アミノ態窒素(FAN)の含有量が30ppm以上であり、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量が20ppm以上である、ビールテイスト飲料。
[2]遊離アミノ態窒素(FAN)の含有量が30ppm以上であり、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量が20ppm以上である、ビールテイスト飲料の製造方法。
[3]分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量を増やす工程を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。
[4]分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量を増やす工程を有する、ビールテイスト飲料のコク味を増強する方法。
[5]分子量35~50kDaの麦由来タンパク質を含む、ビールテイスト飲料のコク味増強剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コク味に優れるビールテイスト飲料を提供することができる。また、コク味が増強されたビールテイスト飲料の製造方法、ビールテイスト飲料のコク味を増強する方法、及びビールテイスト飲料のコク味増強剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例2において、試醸ビールテイスト発酵飲料への40kDaタンパク質の添加効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のビールテイスト飲料は、一定水準以上のコク味を得る観点から、特定量の遊離アミノ態窒素(FAN)および分子量35~50kDaの麦由来タンパク質を含むものである。本発明のビールテイスト飲料における麦芽比率は、特に限定されないが、コク味に優れる観点から、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは100質量%である。ここで「麦芽比率」とは、麦芽、米、トウモロコシ、コウリャン、バレイショ、デンプン、麦芽以外の麦、及び糖類など、水とホップ以外の原料中に占める麦芽の質量の比率をいう。ただし、酸味料、甘味料、苦味料、調味料、香料など、微量に添加され得る成分については上記比率の計算に含めない。
【0011】
本発明者らがビールテイスト飲料のコク味増強について検討したところ、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質自体には呈味がないが、驚くべきことに、ビールテイスト飲料のコク味を増強する作用があることを新たに見出した。このメカニズムについては定かではないが、後述するように遊離アミノ態窒素(FAN)に由来するコク味と相関関係があることが確認できたことから、遊離アミノ態窒素(FAN)に由来するコク味を増強することが一因であると推定される。
【0012】
遊離アミノ態窒素(FAN)の含有量は、遊離のα-アミノ酸の総量に該当する量であり、本発明のビールテイスト飲料におけるFANの含有量は、一定水準以上のコク味を得る観点から、30ppm以上であり、好ましくは40ppm以上であり、より好ましくは50ppm以上であり、さらに好ましくは60ppm以上であり、さらに好ましくは70ppm以上であり、さらに好ましくは80ppm以上であり、さらに好ましくは90ppm以上であり、より好ましくは100ppm以上であり、さらに好ましくは110ppm以上であり、さらに好ましくは120ppm以上であり、さらに好ましくは130ppm以上であり、さらに好ましくは140ppm以上であり、さらに好ましくは150ppm以上であり、劣化耐性や泡品質の観点から、好ましくは300ppm以下であり、より好ましくは250ppm以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。本明細書において、FANの含有量は、 2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)が遊離のα-アミノ基と反応して生成する化合物が酸性で最大吸収を持つことを利用し測定される量である。
具体的には以下の方法によって定量される。
1)測定用試料2.0mlを試験管に入れ、緩衝液2.0mlとTNBS溶液2.0mlを加えてよく混和する。
2)試料の代わりに純水2.0mlを採り、これに緩衝液2.0mlとTNBS溶液2.0mlを加えたものをブランクとし、以降、試料と同等に処理する。
3)試験管を45℃恒温水槽に90分保持し、水道水で急冷して室温に戻す。
4)1N HCl溶液2.0mlを加えてよく混合し、ブランクを対照として分光光度計にて試料の340nmにおける吸光度を測定する。
【0013】
分子量35~50kDaの麦由来タンパク質は、麦を原料にして醸造しビールとした原料液を30kDaのカットオフ膜を用いて限外濾過を行い、次いでSDS-PAGEによる電気泳動で測定される分子量が35~50kDaの領域にみられるタンパク質である。好ましくは35~50kDaのタンパク質であり、より好ましくは約40kDaのタンパク質であり、本明細書では40kDaタンパク質ともいう。由来する麦の種類は特に限定されるものではなく、ビールテイスト飲料の製造に使用される公知の麦に由来するタンパク質を含有することができる。このような麦としては、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、エン麦などが挙げられ、好ましくは大麦である。また、発芽した麦、未発芽の麦のいずれでもよいが、好ましくは発芽した麦の麦芽である。これらは、単独で含有していてもよく、2種以上を組み合わせて含有していてもよい。
【0014】
本発明のビールテイスト飲料における分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量は、コク味を増強する観点から、20ppm以上であり、好ましくは30ppm以上であり、より好ましくは40ppm以上であり、さらに好ましくは50ppm以上であり、さらに好ましくは60ppm以上であり、上限値としては特に限定されないが、例えば、200ppm以下、150ppm以下、100ppm以下、90ppm以下、80ppm以下などとすることができ、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。本明細書において、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量は、マイクロチップ型キャピラリー全自動電気泳動システムにより測定される量である。
【0015】
本発明のビールテイスト飲料における、遊離アミノ態窒素(FAN)の含有量に対する分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量の比率(35~50kDaの麦由来タンパク質/FAN)は、特に限定されないが、味のバランスの観点から、好ましくは0.3以上であり、より好ましくは0.35以上であり、また同様の観点から、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.45以下であり、さらに好ましくは0.4以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0016】
本発明において、ビールテイスト飲料は、アルコールを含有するビールテイスト飲料であっても、ノンアルコールビールテイスト飲料であってもよく、それぞれ公知の製造方法で製造することができる。以下にそれぞれの場合における製造方法を例示するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0017】
本発明のビールテイスト飲料の製造方法は、特に限定されるものではないが、既存のビールテイスト飲料のコクを増加させる場合においては、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量を増やす工程を有する製造方法が例示される。より具体的には、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質をコク味増強剤として添加する態様が挙げられ、この態様における製造方法を以下に例示する。なお、コク味増強剤には、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、飲料に添加することのできる公知の添加剤が任意に含まれていてもよい。また、別の態様としては、35~50kDaタンパク質の含有量の多い、北米産高窒素麦芽原料を使用したり、マッシングによる35~50kDaタンパク質の抽出量を最大化するなど、製造工程における条件を従来の条件よりも分子量35~50kDaの麦由来タンパク質が多く生成する条件とすることで増やしてもよい。
【0018】
本発明にかかるビールテイスト飲料の一態様として、アルコールを含有するビールテイスト飲料が挙げられるが、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量を増やす工程を有する以外は、一般的なビールテイスト飲料と同様にして製造できる。また、このときのアルコールとはエタノールを指し、エタノール含量としては容量比で1%~10%が好ましいが、特に限定されるものではない。さらに、該ビールテイスト飲料に含まれるアルコール分の由来としては、醗酵、非醗酵に限定されるものではない。以下に、一般的なビールテイスト飲料の製造工程を示す。一般的なビールテイスト飲料は麦芽を原料として使用するものとしないものとがあり、以下のように製造することができる。
【0019】
麦芽を原料として使用して製造されるアルコールを含有するビールテイスト飲料は、まず、麦芽等の麦の他、必要に応じて他の穀物、でんぷん、糖類、苦味料、又は着色料などの原料及び水を含む混合物に、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糊化、糖化を行なわせ、ろ過し、糖化液とする。必要に応じてホップや苦味料などを糖化液に加えて煮沸し、清澄タンクにて凝固タンパク質などの固形分を取り除く。この糖化液の代替として、麦芽エキスに温水を加えたものにホップを加えて煮沸してもよい。ホップは煮沸開始から煮沸終了前のどの段階で混合してもよい。糖化工程、煮沸工程、固形分除去工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。醗酵・貯酒工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。得られた醗酵液を濾過し、得られた濾過液に炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的のビールテイスト飲料を得る。前記各工程においてコク味増強剤の添加は、充填までのどの工程で行ってもよい。
【0020】
麦芽を原料として使用せずに製造されるアルコールを含有するビールテイスト飲料は、炭素源を含有する液糖、麦又は麦芽以外のアミノ酸含有材料としての窒素源、ホップ、色素等を、温水と共に混合し、液糖溶液とする。該液糖溶液は、煮沸する。原料としてホップを用いる場合、ホップは煮沸開始前ではなく、煮沸中に、該液糖溶液に混合してもよい。この糖化液の代替として、麦芽以外の原料を用いたエキスに温水を加えたものにホップを加えて煮沸してもよい。ホップは煮沸開始から煮沸終了前のどの段階で混合してもよい。醗酵・貯酒工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。得られた醗酵液を濾過し、得られた濾過液に炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的のビールテイスト飲料を得る。前記各工程においてコク味増強剤の添加は、充填までのどの工程で行ってもよい。
【0021】
非醗酵かつアルコールを含有するビールテイスト飲料は、麦芽を使用するしないに限らず、原料用アルコールなどを加えることにより最終製品のアルコール分を調整したものでもよい。原料用アルコールの添加は、糖化工程から充填工程までのどの工程で行ってもよい。前記各工程においてコク味増強剤の添加は、充填までのどの工程で行ってもよい。
【0022】
本発明にかかるビールテイスト飲料の一態様として、ノンアルコールビールテイスト飲料が挙げられるが、分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量を増やす工程を有する以外は、一般的なノンアルコールビールテイスト飲料と同様にして製造できる。以下に、一般的な非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料の製造工程を下記に示す。酵母による発酵工程を有さないことにより、ノンアルコールビール等のノンアルコールビールテイスト飲料を容易に製造することができる。一般的な非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料は麦芽を原料として使用するものとしないものとがあり以下のように製造することができる。
【0023】
麦芽を原料として使用して製造されるノンアルコールビールテイスト飲料は、まず、麦芽等の麦の他、必要に応じて他の穀物、でんぷん、糖類、苦味料、又は着色料などの原料及び水を含む混合物に、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糊化、糖化を行なわせ、ろ過し、糖化液とする。必要に応じてホップや苦味料などを糖化液に加えて煮沸し、清澄タンクにて凝固タンパク質などの固形分を取り除く。この糖化液の代替として、麦芽エキスに温水を加えたものにホップを加えて煮沸してもよい。ホップは煮沸開始から煮沸終了前のどの段階で混合してもよい。糖化工程、煮沸工程、固形分除去工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。煮沸後、得られた麦汁を濾過し、得られた濾過液に炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的のノンアルコールビールテイスト飲料を得る。前記各工程においてコク味増強剤の添加は、充填までのどの工程で行ってもよい。
【0024】
麦芽を原料として使用しないノンアルコールビールテイスト飲料を製造する場合には、まず、炭素源を含有する液糖、麦又は麦芽以外のアミノ酸含有材料としての窒素源、ホップ、色素等を、温水と共に混合し、液糖溶液とする。該液糖溶液は、煮沸する。原料としてホップを用いる場合、ホップは煮沸開始前ではなく、煮沸中に、該液糖溶液に混合してもよい。煮沸後の液糖溶液に対して、炭酸ガスを加える。その後、容器に充填し殺菌工程を経て目的のノンアルコールビールテイスト飲料を得る。前記各工程においてコク味増強剤の添加は、充填までのどの工程で行ってもよい。
【0025】
本明細書における「ビールテイスト飲料」とは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料をいう。つまり、本明細書のビールテイスト飲料は、特に断わりがない場合、ビール風味の炭酸飲料を全て包含する。このうち、「ノンアルコールビールテイスト飲料」とは、アルコール度数が1%未満のビールテイスト飲料であり、好ましくは、アルコールを実質的に含まない。ここで、アルコールを実質的に含まない態様の飲料は、検出できない程度の極微量のアルコールを含有する飲料を除くものではない。アルコール度数が四捨五入により0.0%となる飲料、中でも、アルコール度数が四捨五入により0.00%となる飲料は、ノンアルコールビールテイスト飲料に包含される。本発明のビールテイスト飲料の種類としては、例えば、ノンアルコールのビールテイスト飲料、ビールテイストの清涼飲料などが含まれる。なお、ここでの「アルコール度数(アルコール含有量)」はエタノールの含有量を意味し、脂肪族アルコールは含まれない。
【0026】
本発明にかかるビールテイスト飲料のアルコール度数は、飲料中のアルコール分の含有量(v/v%)を意味し、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、飲料から濾過又は超音波によって炭酸ガスを抜いた試料を調製し、そして、その試料を直火蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。アルコール度が1.0%未満の低濃度の場合は、市販のアルコール測定装置や、ガスクロマトグラフィーを用いても良い。
【0027】
本発明にかかるビールテイスト飲料に、酒感を付与する観点から、脂肪族アルコールを添加してもよい。脂肪族アルコールとしては、公知のものであれば特に制限されないが、炭素数4~5の脂肪族アルコールが好ましい。本発明において、好ましい脂肪族アルコールとしては、炭素数4のものとして、2-メチル-1-プロパノール、1-ブタノール等が、炭素数5のものとして、3-メチル-1-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール等が挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合せで用いることができる。炭素数4~5の脂肪族アルコールの含有量は好ましくは0.0002~0.0007質量%であり、より好ましくは0.0003~0.0006質量%である。本明細書において、脂肪族アルコールの含有量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法を用いて測定することができる。
【0028】
(カロリー)
本発明にかかるビールテイスト飲料のうち、ノンアルコールビールテイスト飲料については、近年の低カロリー嗜好に合わせて、低カロリーであることが望ましい。従って、本発明にかかるビールテイスト飲料のカロリー数は、好ましくは5kcal/100mL未満、より好ましくは4kcal/100mL未満、更に好ましくは3kcal/100mL未満である。
【0029】
本発明にかかるビールテイスト飲料に含まれるカロリー数は、基本的に健康増進法に関連して公表されている「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」に従って算出する。すなわち、原則として、定量した各種栄養成分の量に、それぞれの成分のエネルギー換算係数(タンパク質:4kcal/g、脂質:9kcal/g、糖質:4kcal/g、食物繊維:2kcal/g、アルコール:7kcal/g、有機酸:3kcal/g)を乗じたものの総和として算出することができる。詳細は、「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」を参照されたい。
【0030】
本発明にかかるビールテイスト飲料に含まれる各栄養成分量の具体的な測定手法は、健康増進法「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」に記載の各種分析法に従えばよい。または、財団法人 日本食品分析センターに依頼すれば、このような熱量及び/又は各栄養成分量を知ることができる。
【0031】
(糖質)
本発明にかかるビールテイスト飲料に含まれる糖質とは、食品の栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)に基づく糖質をいう。具体的には、糖質は、食品から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、アルコール分及び水分を除いたものをいう。また、食品中の糖質の量は、当該食品の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量を控除することにより算定される。この場合に、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量は、栄養表示基準に掲げる方法により測定する。具体的には、タンパク質の量は窒素定量換算法で測定し、脂質の量はエーテル抽出法、クロロホルム・メタノール混液抽出法、ゲルベル法、酸分解法またはレーゼゴットリーブ法で測定し、食物繊維の量は高速液体クロマトグラフ法またはプロスキー法で測定し、灰分の量は酢酸マグネシウム添加灰化法、直接灰化法または硫酸添加灰化法で測定し、水分の量はカールフィッシャー法、乾燥助剤法、減圧過熱乾燥法、常圧加熱乾燥法またはプラスチックフィルム法で測定する。
【0032】
本発明にかかるビールテイスト飲料は、近年の低糖質嗜好に合わせて、低糖質であることが望ましい。従って、本発明にかかるビールテイスト飲料の糖質の含有量は、好ましくは0.5g/100mL未満、より好ましくは0.4g/100mL以下、更に好ましくは0.3g/100mL以下である。また、下限は特に設定されないが、通常、0.1g/100mL程度であり、例えば、0.15g/100mL以上であっても、0.2g/100mL以上であってもよい。
【0033】
(酸味料)
本発明にかかるビールテイスト飲料において使用される酸味料としては、クエン酸、乳酸、リン酸、及びリンゴ酸からなる群より選ばれる1種以上の酸を用いることが好ましい。また、本発明においては、前記酸以外の酸として、コハク酸、酒石酸、フマル酸および氷酢酸等も用いることができる。これらは食品に添加することが認められているものであれば制限なく用いることができる。本発明においては、まろやかな酸味を適切に付与する観点から乳酸と、やや刺激感のある酸味を適切に付与する観点からリン酸との組み合わせを用いることが好ましい。
【0034】
酸味料の含有量は、本発明にかかるビールテイスト飲料中、クエン酸換算で、ビールテイスト感の付与の観点から、200ppm以上が好ましく、550ppm以上がより好ましく、700ppm以上がさらに好ましく、また、酸味の観点から、15000ppm以下が好ましく、5500ppm以下がより好ましく、2000ppm以下がさらに好ましい。従って、本発明において、酸味料の含有量は、クエン酸換算で、200ppm~15000ppm、好ましくは550ppm~5500ppm、より好ましくは700ppm~1500ppmなどの好適範囲が挙げられる。なお、本明細書において、クエン酸換算量とは、クエン酸の酸味度を基準として各酸味料の酸味度から換算される量のことであり、例えば、乳酸100ppmに相当するクエン酸換算量は120ppm、リン酸100ppmに相当するクエン酸換算量は200ppm、リンゴ酸100ppmに相当するクエン酸換算量は125ppmとして換算する。
【0035】
ビールテイスト飲料中の酸味料の含有量については、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等により分析して算出されたものを指す。
【0036】
(ホップ)
本発明にかかるビールテイスト飲料においては、原料の一部にホップを用いることができる。香味がビールに類似する傾向にあることから、原料の一部にホップを用いることが望ましい。ホップを使用する際には、ビール等の製造に使用される通常のペレットホップ、粉末ホップ、ホップエキスを、所望の香味に応じて適宜選択して使用することができる。また、イソ化ホップ、還元ホップなどのホップ加工品を用いてもよい。本発明にかかるビールテイスト飲料に使用されるホップには、これらのものが包含される。また、ホップの添加量は特に限定されないが、典型的には、飲料全量に対して0.0001~1重量%程度である。
【0037】
(その他の原料)
本発明にかかるビールテイスト飲料は、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、その他の原料を用いてもよい。例えば、甘味料(高甘味度甘味料を含む)、苦味料、香料、酵母エキス、カラメル色素などの着色料、大豆サポニンやキラヤサポニン等の植物抽出サポニン系物質、コーンや大豆などの植物タンパク質およびペプチド含有物、ウシ血清アルブミン等のタンパク質系物質、食物繊維やアミノ酸などの調味料、アスコルビン酸等の酸化防止剤を、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて用いることができる。
【0038】
かくして本発明にかかるビールテイスト飲料が得られる。得られたビールテイスト飲料はコク味が増強されている。即ち、本発明では分子量35~50kDaの麦由来タンパク質の含有量を増やす工程を有するコク味増強方法についても提供することができる。本発明にかかるビールテイスト飲料のpHは、飲料の風味を良好にする観点から、3.0~5.0であり、3.5~4.5が好ましく、さらに好ましくは3.5~4.0である。
【0039】
(容器詰飲料)
本発明にかかるビールテイスト飲料は、容器詰めとすることができる。容器の形態は何ら制限されず、ビン、缶、樽、またはペットボトル等の密封容器に充填して、容器入り飲料とすることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0041】
実施例1:アミノ酸溶液への40kDaタンパク質添加と官能評価
(1)アミノ酸溶液の作製
各種アミノ酸試薬を混合し、天然水で狙いの濃度となるようにメスアップし、以下表1に記載のアミノ酸溶液(配合1~4)を作製した。
【0042】
【0043】
(2)40kDaタンパク質の精製・分画
ビールを脱気した後に、陽イオン交換樹脂にてタンパク質の精製を行い、限外ろ過により40kDaタンパク質の精製を行った。具体的な操作は以下の通りである。
【0044】
(ビールの脱気)
吸引ろ過(No.2 ろ紙、1L吸引瓶)
市販のビール(サントリーホールディングス株式会社製)を少量に分けて加える。泡がチューブへ逆流するのに注意する。静置後、ろ過瓶中の泡立っていないビールの部分をメスシリンダーで計り、2Lナスフラスコへ400mL、1Lナスフラスコの場合200mL加える。泡立ち部分は泡が消えたら使用する。次いで、エバポレーターでエバポレーションする。
【0045】
(陽イオン交換樹脂分画)
樹脂:SP Sepharose(樹脂量はビール1Lに対して50mLの割合)
洗浄液:20mM酢酸バッファー(pH4.5)
溶出液:20mM酢酸バッファー(pH4.5) + 0.5MNaCl
1.SP Sepharoseを空きカラムに入れる。
2.蒸留水(樹脂の3倍量)で洗浄する。
3.洗浄液(樹脂の3倍量)で洗浄する。
4.ステンレス容器2つもしくは3つにビールを分注し、少量のビールを数回に分けてカラムに入れ樹脂を懸濁して、メスシリンダーに入れる。
5.懸濁液をステンレス容器に等量ずつ入れる。
6.スパーテルで時々混ぜながら1hrおく(10分に1回くらい)。
7.6をカラムに移し替える。
8.樹脂の3倍量の洗浄液で洗浄する。
9.溶出液を樹脂の3分の1量ずつ9回に分けてカラムに入れて、三角フラスコにフラクションを回収する(陽イオン交換樹脂結合画分)。
【0046】
(バッファー交換(限外ろ過)、硫安分画)
限外ろ過ユニット:Merck Amicon Ultra-15 30K
20mMPB(pH7.0)+2M硫安:PB=リン酸バッファー
20mMPB(pH7.0)+2M硫安の調製方法:0.5 Mリン酸バッファー40mLと硫酸アンモニウム264.28gを水に加えて溶かした後、水で1Lにメスアップする。
※0.5 M PB(pH7.0):0.5 Mリン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)溶液と0.5 M リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)溶液を等量入れて、pH7.0になるまでリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)溶液を入れる。
1.限外ろ過ユニット保存剤除去のため、限外ろ過ユニットに蒸留水を10mL入れて遠心する(3500rpm、10min程度)。
2.先の陽イオン交換結合画分を10mLずつ限外ろ過ユニットに添加し、3500rpmで遠心し限外ろ過する。
3.限外ろ過ユニット未通過の濃縮液を回収し、メスシリンダーに移して量を測る。
8.上清が濁っていれば20mMPB(pH7.0)で希釈して再度限外ろ過を行い、得られた上清を透析チューブを用いて20mM酢酸バッファ(pH4.5)にバッファー交換する。バッファー交換したサンプルを以下の添加試験に使用する。
【0047】
アミノ酸溶液(配合1~4)に対して、40kDaタンパク質を添加しないもの(表2)、40kDaタンパク質を25ppm添加したもの(表3)、40kDaタンパク質を50ppm添加したもの(表4)の評価を行った。コクのスコアは、0:全く感じない、1:やや感じる、2:明確に感じる、3:非常に強く感じる、と定義し、0.25刻みで専門限定パネル3名による評価の平均値にてスコア化を実施した。Δコクは表3、4のコクのスコアと表2のコクのスコアとの差を表す。判定は、Δコクの値に基づいて行っており、以下の通りである。判定が△以上であれば、コクが増強されていると認められる。
×:Δコクの値が0.1未満
△:Δコクの値が0.1以上、0.3未満
○:Δコクの値が0.3以上、0.5未満
◎:Δコクの値が0.5以上
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
表2~4より、FANを含まない場合にはコク味は向上しておらず、40kDaタンパク質自体に呈味がないことが分かる。また、FANの存在下で40kDaタンパク質があるとコク味が増強されており、40kDaタンパク質が増加すればコクの増強も増加していることが分かる。なお、表には明示していないが、40kDaタンパク質/FANが0.35のサンプルが、味のバランスに優れていた。
【0052】
実施例2:ビールテイスト発酵飲料への40kDaタンパク質添加と官能評価
(1)試醸ビールテイスト発酵飲料の製造
大麦麦芽、ホップを用いて、デコクション法にてビールテイスト発酵アルコール飲料を製造した。
(2)試醸ビールテイスト発酵飲料の分析値
試醸ビールテイスト発酵飲料の分析値は以下の通りである。
FAN:96ppm、40kDaタンパク質:27.4ppm
(3)試醸ビールテイスト発酵飲料への40kDaタンパク質添加
(1)で調製した試醸ビールテイスト発酵飲料へ20ppmの40kDaタンパク質を添加し、官能評価を実施した。評価軸は、「香り」、「コク」の2項目の評価を実施した。各スコアは、0:全く感じない、1:やや感じる、2:明確に感じる、3:非常に強く感じると定義し、0.25刻みで専門限定パネル15名による評価の平均値にてスコア化を実施した。結果を
図1に示す。
【0053】
図1に示す通り、試醸ビールテイスト発酵飲料への40kDaタンパク質20ppm添加により、コクが向上することが明らかになった。一方で香りに対する影響はほとんどないことも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のビールテイスト飲料は、優れたコク味を有し、かつビールらしい味わいを有するものであり、嗜好品として新たなテイストを提供できる。