(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】皮膚消毒剤組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/045 20060101AFI20230406BHJP
A61K 8/39 20060101ALI20230406BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20230406BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20230406BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20230406BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230406BHJP
A61P 31/02 20060101ALI20230406BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230406BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230406BHJP
【FI】
A61K31/045
A61K8/39
A61K8/86
A61Q19/10
A61K8/34
A61P43/00 121
A61P31/02
A61K9/08
A61K47/18
(21)【出願番号】P 2019015030
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】八木 樹里奈
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-078988(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0053942(US,A1)
【文献】米国特許第05591442(US,A)
【文献】特開2009-120783(JP,A)
【文献】特開2009-078987(JP,A)
【文献】特開2009-286790(JP,A)
【文献】特開2013-071894(JP,A)
【文献】特開2013-071895(JP,A)
【文献】特開2013-071896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A61Q
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A1)下記一般式(a1)で表される化合物(以下、(A1)成分という)、(A2)下記一般式(a2)で表される化合物(以下、(A2)成分という)、(B)炭素数2以上3以下の1価アルコールを25質量%以上85質量%以下含有し、(A1)成分と(A2)成分の合計含有量が0.001質量%以上5.0質量%以下であり、(A1)成分の含有量と(A2)成分の含有量との質量比(A2)/(A1)が、0.4以上75以下である、皮膚消毒剤組成物。
R
1a-O-(EO)n-H (a1)
(式中、R
1aは炭素数8以上18以下の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは4以上
15以下の整数を示す。)
R
2a-O-(EO)m-H (a2)
(式中、R
2aは炭素数8以上18以下の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、mは1~3の整数を示す。)
【請求項2】
さらに(C)保湿剤を0.001質量%以上5質量%以下含有する、請求項1に記載の皮膚消毒剤組成物。
【請求項3】
さらに(A3)下記一般式(a3)で表される化合物を0.001質量%以上3質量%以下含有する、請求項1又は2に記載の皮膚消毒剤組成物。
R
3a-O-H (a3)
(式中、R
3aは炭素数8以上18以下の炭化水素基を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚消毒剤組成物、及びそれを皮膚に塗布又は噴霧して乾燥させて皮膚表面を消毒する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、手指の消毒や感染症等の防止のため、病院や一般家庭などで使用される皮膚用消毒液が種々提案されている。これらはアルコール以外の殺菌成分を含む非アルコール系消毒液と、殺菌成分を含まない高濃度アルコールを含むアルコール系消毒液とがある。
このうち、アルコール系消毒液は、高濃度アルコールによる殺菌力を有し、人体に対する刺激がそれほど大きくないため、抵抗力の弱い幼児や老人へも安心して使用することができるため広く受け入れられている。また、アルコール系消毒液は速乾性があるため、頻繁に手指の洗浄・消毒を行う必要がある医療関係者や介護関係者等の簡易的な消毒の場合には、アルコール系消毒液が適している。
【0003】
また微生物由来のバイオフィルム又は毒素は、微生物が増殖することによって細胞内から産生されることが知られており、微生物由来のバイオフィルム又は毒素が産生すると様々な分野で問題を引き起こす。特に病院等においては、医療従事者又は患者等の手指等の皮膚に付着、残存した微生物が産生するバイオフィルム又は毒素が原因で、院内感染を引き起こす可能性があり、また皮膚表面の微生物が起因となる皮膚トラブル、例えば、創傷治癒遅延やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の悪化につながることも報告されている。
【0004】
一般的に重度のアトピー性皮膚炎の皮膚に黄色ブドウ球菌の毒素が検出されること、また黄色ブドウ球菌がバイオフィルムを形成することが知られており(非特許文献1、2)、バイオフィルムの産生によって毒素産生が促進されることが予測される。そのため、黄色ブドウ球菌の増殖を抑制しなくとも、バイオフィルム及び毒素の産生を抑制することができれば、皮膚状態が悪化することを防ぐことができると期待できる。
一方で、皮膚上には、常在細菌が存在することが知られており、黄色ブドウ球菌等バイオフィルムや毒素を産生する細菌もその一つである。通常、複数の皮膚常在細菌が菌数や代謝物においてバランスを保ちながら、皮膚の健康を保っていることが知られている。
【0005】
これまでバイオフィルムや毒素の産生を抑制するためには、バイオフィルムや毒素を産生する微生物を殺し増殖させないことでバイオフィルムや毒素の産生を抑えるという考え方が一般的に検討されてきた。しかしながら、黄色ブドウ球菌等バイオフィルムや毒素を産生する微生物を殺すアプローチでは、対象とする皮膚上の常在細菌も同時に殺してしまい、皮膚上の微生物のバランスが壊れてしまうことから、かえって皮膚トラブルや皮膚疾患の悪化を引き起こし感染症の原因となる可能性がある。又、皮膚(人体)への刺激性が高いため、皮膚トラブル、例えば、創傷治癒遅延やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の悪化につながることや、薬剤耐性菌を出現させる原因ともなる。そのため、微生物の増殖を抑制しないで、微生物由来のバイオフィルムや毒素の産生を抑制する技術が求められる。
【0006】
特許文献1~6には、特定のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有する組成物を用いることにより、微生物由来のバイオフィルム又は毒素の産生を抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-120783号公報
【文献】特開2009-78987号公報
【文献】特開2009-286790号公報
【文献】特開2013-71894号公報
【文献】特開2013-71895号公報
【文献】特開2013-71896号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】K. Breuer et. al., Clin. Exp.Allergy 2005; 35:1088-1095
【文献】H. Akiyama et. al., BritishJournal of Dermatology 2003; 148: 526-532
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、微生物由来のバイオフィルムの産生を抑制する効果に優れ、且つ手指等の皮膚に塗布又は噴霧した際の乾燥に要する時間が短い、皮膚消毒剤組成物、及びそれを皮膚に塗布又は噴霧して乾燥させて皮膚表面を消毒する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(A1)下記一般式(a1)で表される化合物(以下、(A1)成分という)、(A2)下記一般式(a2)で表される化合物(以下、(A2)成分という)、(B)炭素数2以上3以下の1価アルコール(以下、(B)成分という)を25質量%以上85質量%以下含有し、(A1)成分と(A2)成分の合計含有量が0.001質量%以上5.0質量%以下であり、(A1)成分の含有量と(A2)成分の含有量との質量比(A2)/(A1)が、0.4以上75以下である、皮膚消毒剤組成物。
R1a-O-(EO)n-H (a1)
(式中、R1aは炭素数8以上18以下の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは4以上の整数を示す。)
R2a-O-(EO)m-H (a2)
(式中、R2aは炭素数8以上18以下の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、mは1~3の整数を示す。)
【0011】
また本発明は、前記皮膚消毒剤組成物を、皮膚に塗布又は噴霧して乾燥させて皮膚表面を消毒する方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、皮膚上の常在細菌を必要以上に殺すことなく良好なバランスを取りながら、微生物由来のバイオフィルムの産生を抑制する効果に優れ、且つ手指等の皮膚に塗布又は噴霧した際の乾燥に要する時間が短い、皮膚消毒剤組成物、及びそれを皮膚に塗布又は噴霧して乾燥させて皮膚表面を消毒する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[皮膚消毒剤組成物]
本発明の(A1)成分は、下記一般式(a1)で表される化合物である。
R1a-O-(EO)n-H (a1)
(式中、R1aは炭素数8以上18以下の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、nは4以上の整数を示す。)
【0014】
R1aの炭素数は、バイオフィルム生成抑制の観点から、8以上、好ましくは9以上、より好ましくは10以上、そして、18以下、好ましくは16以下、より好ましくは14以下である。
R1aは、バイオフィルム生成抑制の観点から、好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、より好ましくは直鎖のアルキル基、又は直鎖のアルケニル基、更に好ましくは直鎖のアルキル基である。
nは、EOの付加モル数であり、バイオフィルム生成抑制の観点から、4以上、そして、好ましくは15以下、より好ましくは8以下、より好ましくは7以下の整数である。
【0015】
本発明の皮膚消毒剤組成物は、(A1)成分を、バイオフィルム生成抑制、及び皮膚に塗布又は噴霧しラビングする時間の短縮(以下、乾燥時間の短縮と略記する)の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.02質量%以上、そして、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは0.75質量%以下、より更に好ましくは0.40質量%以下、より更に好ましくは0.20質量%以下含有する。
【0016】
本発明の(A2)成分は、下記一般式(a2)で表される化合物である。
R2a-O-(EO)m-H (a2)
(式中、R2aは炭素数8以上18以下の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、mは1~3の整数を示す。)
【0017】
R2aの炭素数は、バイオフィルム生成抑制の観点から、8以上、好ましくは9以上、より好ましくは10以上、そして、18以下、好ましくは16以下、より好ましくは14以下である。
R2aは、バイオフィルム生成抑制の観点から、好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、より好ましくは直鎖のアルキル基、又は直鎖のアルケニル基、更に好ましくは直鎖のアルキル基である。
mは、EOの付加モル数であり、バイオフィルム生成抑制の観点から、1以上、好ましくは2以上、そして、3以下の整数である。
【0018】
本発明の皮膚消毒剤組成物は、(A2)成分を、バイオフィルム生成抑制、及び、乾燥時間の短縮の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、そして、生産容易性及び経済性の観点から、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下含有する。
【0019】
本発明の皮膚消毒剤組成物において、(A1)成分と(A2)成分の合計含有量は、バイオフィルム生成抑制、及び乾燥時間の短縮の観点から、0.001質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、より更に好ましくは0.5質量%以上、そして、5.0質量%以下、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下である。
【0020】
本発明の皮膚消毒剤組成物において、(A1)成分の含有量と(A2)成分の含有量との質量比(A2)/(A1)は、バイオフィルム生成抑制の観点から、0.4以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.1以上、より更に好ましくは2.0以上、より更に好ましくは5.0以上、より更に好ましくは7.0以上、そして、乾燥時間短縮、生産容易性、及び経済性の観点から、75以下、好ましくは60以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは45以下、より更に好ましくは35以下、より更に好ましくは25以下、より更に好ましくは15以下、より更に好ましくは12以下である。
【0021】
本発明の(B)成分は、炭素数2以上3以下の1価アルコールである。
(B)成分は、エタノール又はプロパノールが挙げられ、エタノールが好ましい。
【0022】
本発明の皮膚消毒剤組成物は、(B)成分を、(A)成分の溶解性向上と乾燥時間の短縮の観点から、25質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上、そして、85質量%以下、好ましくは80質量%以下含有する。
【0023】
本発明の皮膚消毒剤組成物は、バイオフィルム生成抑制の観点から、さらに(A3)成分として、下記一般式(a3)で表される化合物を含有してもよい。
R3a-O-H (a3)
(式中、R3aは炭素数8以上18以下の炭化水素基を示す。)
【0024】
R3aの炭素数は、バイオフィルム生成抑制の観点から、8以上、好ましくは10以上、そして、18以下、好ましくは16以下、より好ましくは14以下、より好ましくは12以下である。
R3aは、バイオフィルム生成抑制の観点から、好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、より好ましくは直鎖のアルキル基、又は直鎖のアルケニル基、更に好ましくは直鎖のアルキル基である。
【0025】
本発明の皮膚消毒剤組成物は、(A3)成分を含有する場合、(A3)成分を、バイオフィルム生成抑制、及び乾燥時間の短縮の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上、そして、(A3)成分固有のにおい等を軽減して品質を向上させる観点から、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下、より更に好ましくは0.1質量%以下、より更に好ましくは0.05質量以下含有する。
【0026】
本発明の皮膚消毒剤組成物において、(A3)成分を含有する場合には、(A1)成分と(A2)成分の合計含有量と(A3)成分の含有量との質量比[(A1)+(A2)]/(A3)は、(A3)成分固有のにおい等を軽減して品質を向上させる観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは1以上、より更に好ましくは2以上、より更に好ましくは4以上、そして、バイオフィルム生成抑制、及び乾燥時間短縮の観点から、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下である。
【0027】
本発明の皮膚消毒剤組成物は、反復使用に対する肌荒れ防止、及びバイオフィルム生成抑制の観点から、さらに(C)成分として、保湿剤を含有してもよい。
【0028】
(C)成分としては、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ソルビトール、イソプレングリコール、ポリエチレングリコール、セラミド、コレステリルエステル、セラミド類似構造物質、及びポリオキシエチレンラノリンから選ばれる1種以上が挙げられ、バイオフィルム生成抑制の観点から、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ソルビトール、セラミド、及びセラミド類似構造物質から選ばれる1種以上が好ましく、グリセリン、及びセラミド類似構造物質から選ばれる1種以上がより好ましい。セラミド類似構造物質の具体例としては、例えば一般式(c1)で表されるものが挙げられる。
【0029】
【0030】
(式中、R1cは炭素数10以上26以下の炭化水素基、R2cは炭素数9以上25以下の炭化水素基を示す。)
【0031】
一般式(c1)において、R1c及びR2cにおける炭化水素基は、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよい。R1c及びR2cは、それぞれ独立に、好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、より好ましくは直鎖のアルキル基、又は直鎖のアルケニル基、更に好ましくは直鎖のアルキル基である。
R1cの炭素数は、好ましくは12以上18以下であり、R2cの炭素数は、好ましくは9以上18以下である。
セラミド及びセラミド類似構造物質は、化粧品分野での公知の物質として容易に入手することができる。
【0032】
本発明の皮膚消毒剤組成物は、(C)成分を、バイオフィルム生成抑制の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上、より更に好ましくは0.05質量%以上、より更に好ましくは0.1質量%以上、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下含有する。
【0033】
本発明の皮膚消毒剤組成物において、(C)成分を含有する場合には、(A1)成分と(A2)成分の合計含有量と(C)成分の含有量との質量比[(A1)+(A2)]/(C)は、バイオフィルム生成抑制の観点から、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上、更に好ましくは0.30以上、より更に好ましくは0.50以上、より更に好ましくは0.70以上、そして、保湿性の観点から、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下、より更に好ましくは3以下、より更に好ましくは1以下である。
【0034】
本発明の皮膚消毒剤組成物は、微生物由来のバイオフィルム又は毒素の産生を抑制する効果に優れる。必要に応じて、本発明の皮膚消毒剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で殺菌剤(但し、(A1)成分、(A2)成分、(A3)成分、(B)成分を除く)を含有してもよい。殺菌剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、アルキルリン酸ベンザルコニウム等のベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、塩化セチルピリジニウム、レゾルシン、トリクロロカルバニド、塩化クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、過酸化水素、ポピドンヨード、及びヨードチンキから選ばれる1種以上が挙げられる。本発明の皮膚消毒剤組成物は、殺菌剤を含有する場合、殺菌剤を、好ましくは0質量%を超え、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、より更に好ましくは0.5質量%以下、より更に好ましくは0.1質量%以下、より更に好ましくは0.05質量%以下、より更に好ましくは0.001質量%以下、より更に好ましくは0.0005質量%以下含有する。また本発明の皮膚消毒剤組成物は、殺菌剤を含有しなくてもよい。
【0035】
本発明の皮膚消毒剤組成物は、上述した各成分の他に、皮膚消毒剤組成物に用いられる各種任意成分を、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて含有してもよい。各種任意成分としては、特に制限されないが、例えば、油脂類、多糖類、界面活性剤、抗炎症剤、清涼剤、血行促進剤、創傷治癒剤、キレート剤、酸化防止剤、防腐剤、pH調整剤、香料、色素等が挙げられる(但し、(A1)成分、(A2)成分、(A3)成分、(B)成分、(C)成分は除かれる)。
【0036】
本発明の皮膚消毒剤組成物は水を含有してもよい。水を含有する場合、上述した各成分及びその他の任意成分の含有量を除く、残余量が水の含有量となる。
本発明の皮膚消毒剤組成物に使用する水は、水道水、イオン交換水、蒸留水等を用いることができるが、製品品質確保及び経済性の観点からイオン交換水が好ましい。本発明の皮膚消毒剤組成物は、水を含有する場合、水を、バイオフィルム生成抑制の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下含有する。
【0037】
本発明の皮膚消毒剤組成物がバイオフィルム生成抑制効果を示す作用機構に関しては必ずしも全てが解明されたわけではないが、以下のように考えている。本発明の(A2)成分が微生物の代謝系等に如何に作用するかは不明であるがバイオフィルム生成抑制に効果がある化合物であると考えられる。しかしながら、この化合物だけでは水中での溶解度が低い、或いは、分子としてはやや疎水性が高く水中で形成した分子集合体として強く集合しているため、黄色ブドウ球菌等バイオフィルムを形成する微生物との相互作用がやや弱いものとなると考えられる。(A1)成分は(A2)成分より親水性が高く水への分散性が高く、尚且つ(A2)成分と構造が近いことから、質量比(A2)/(A1)が特定の範囲の時に、(A2)成分は(A1)成分と水中での分散性に優れた混合分子集合体を形成し、黄色ブドウ球菌等バイオフィルムを形成する微生物との相互作用が格段に上がる為、バイオフィルム生成抑制効果が顕著に現れたものと思われる。又、(B)成分は元来殺菌効果があるが、濃度が低くなると殺菌効果は特に低下する事が知られている。本願実施例でも示すように、本発明の(A1)成分、(A2)成分と共存することで、(B)成分の濃度が低く殺菌効果を弱め、皮膚常在細菌や黄色ブドウ球菌等バイオフィルムを形成する微生物を完全に殺すことなくバイオフィルム生成を抑制することができたものと思われる。
又、一般的に、黄色ブドウ球菌等バイオフィルムを形成する微生物は、バイオフィルム形成と同時に毒素生成を行う場合が多く、例えば、形成したバイオフィルムの中で毒素生成を起こす、或いは、このような因果関係が無いにしても微生物を取り巻く環境が同様又は近い条件の下でバイオフィルムと毒素の生成が起こっていることが予測され、本発明の実施例において、本発明の皮膚消毒剤組成物が、毒素生成抑制効果があることを確認していることから、本発明の皮膚消毒剤組成物は、微生物を必要以上に殺すことなくバイオフィルム生成を抑制するとともに、毒素生成を抑制する効果も期待できる。
尚、本発明の効果は上記作用機構に制限されるものではない。
【0038】
本発明の皮膚消毒剤組成物は、例えば、チューブタイプ、スプレータイプ、ポンプタイプ、ジャータイプ等の容器に封入して使用される。本発明の皮膚消毒剤組成物の使用の簡便性の観点から、ポンプタイプの容器を用いることが好ましく、更に、ポンプタイプの容器の中でもポンプディスペンサーに封入して用いる方法が好ましい。
また、本発明の皮膚消毒剤組成物の使用方法は、微生物由来のバイオフィルム又は毒素の産生を抑制する観点から、手指等の皮膚表面上に長時間残存するようなリーブオンの形態であることがより好ましい。
すなわち、本発明は、本発明の皮膚消毒剤組成物を、手指等の皮膚に塗布又は噴霧して乾燥させて皮膚表面を消毒する方法を提供する。
また本発明の皮膚消毒剤組成物は、手指等の皮膚に塗布又は噴霧した際の乾燥に要する時間が短いため、1日に何度も手指等の皮膚消毒を行う医療従事者等にとっては作業性が向上するため好ましい。
本発明の皮膚消毒剤組成物の使用方法は、該組成物の適量を手に取り、手指等の皮膚に擦り込むことにより皮膚の消毒を行う。
【実施例】
【0039】
<皮膚消毒剤組成物の調製>
表1、2に示す配合処方の皮膚消毒剤組成物を以下の通り調製した。イオン交換水に(A1)成分、(A2)成分、(A3)成分、(B)成分、(C)成分を投入し、均一溶解する迄混合し、皮膚消毒剤組成物を得た。
【0040】
実施例、及び比較例で用いた各配合成分をまとめて以下に示す。
(A1)成分
・(a1-1):一般式(a1)中、R1aが炭素数12のアルキル基、nが4~15の化合物
・(a1-2):一般式(a1)中、R1aが炭素数12のアルキル基、nが7の化合物、NIKKOL BL-7SY、日光ケミカルズ(株)製
(A2)成分
・(a2-1):一般式(a2)中、R2aが炭素数12のアルキル基、mが1~3の化合物
・(a2-2):一般式(a2)中、R2aが炭素数12のアルキル基、mが3の化合物、NIKKOL BL-3SY、日光ケミカルズ(株)製
(A3)成分
・(a3-1):一般式(a3)中、R3aが炭素数12のアルキル基である化合物
(B)成分
・(b-1):エタノール(95°発酵アルコール 合同酒精社製)
(C)成分
・(c-1):セラミド類似構造物質、一般式(c1)中、R1cが炭素数16のアルキル基、R2cが炭素数15のアルキル基である化合物
・(c-2):グリセリン(日本薬局方グレードグリセリン(86%) 花王(株)製)
【0041】
<バイオフィルム生成抑制性の評価>
黄色ブドウ球菌(NCTC8325、もしくはNBRC13276)1株を、TBSNo.2培地(シグマ社製)で37℃、22時間振盪培養した。波長600nmの濁度を測定し(濁度計 HITACHI社製 U-2800)、濁度が0.1となるように生理食塩水で希釈した。この菌液をTSB No.2培地で100倍に希釈し、さらに各皮膚消毒剤組成物を、組成物中に含まれる(A1)成分、(A2)成分、(A3)成分の合計量が10ppmとなるように添加した溶液(評価サンプル液)を調製した。
前記評価サンプル液の調製において、皮膚消毒剤組成物の代わりに生理食塩水を用いて調製したものをネガティブコントロール液とし、菌を含まないTSB No.2培地単体をポジティブコントロール液とし、以下、各評価サンプル液について同様の操作を行った。
底面が平面である滅菌96ウェルプレート(ファルコン社製)の各ウェルに黄色ブドウ球菌としてNCTC8325を用いた評価サンプル液、ネガティブコントロール液、ポジティブコントロール液をそれぞれ0.15ml添加して37℃、24時間静置培養した。培養後、全ての評価サンプルの上澄みが濁っている、即ち評価サンプル中の黄色ブドウ球菌が生存して培養中に増菌されていることを確認した。その後上澄みを廃棄して各ウェルに0.2mlの生理食塩水を添加して、上澄みを廃棄した(wash)。各ウェルに、クリスタルバイオレット(和光純薬工業(株)製)の0.1%水溶液0.2mlを添加し、室温で1時間以上静置した。各ウェルを生理食塩水で1回洗浄後、95%エタノール溶液(シグマ社製)0.2mlを各ウェルに添加し、4℃で一晩、遮光条件で静置した。その後、各ウェルについて、Microplatereader(Corona electric製、SH9000)を用いて、570nmの吸光度を測定した。得られた吸光度値を下記の式に代入し、バイオフィルム生成抑制率を算出した。その結果を表1に示す。
又、黄色ブドウ球菌としてNBRC13276を用いた評価サンプル液について、37℃、48時間静置培養した以外は、黄色ブドウ球菌としてNCTC8325を用いた評価サンプル液の場合と同様の操作を行い、得られた吸光度値から、バイオフィルム生成抑制率を算出した。その結果を表2に示す。
なお、上記全ての工程は無菌状態にて実施した。
バイオフィルム生成抑制率(%)=100×[(An-Ap)-(As-Ap)]/(An-Ap)
式中、
As:評価サンプル液吸光度
An:ネガティブコントロール液吸光度
Ap:ポジティブコントロール液吸光度
【0042】
<乾燥性の評価>
手を水道水で濡らし、ソフティ薬用泡ハンドウォッシュコンパクト(花王株式会社)を1プッシュして手洗いを15秒行った。水道水で15秒すすいだ後、ペーパータオルで手の水分を15秒間拭き取った。各皮膚消毒剤組成物1mLを片手に滴下し、該組成物を両手全体に塗布するようにこすり合わせて(ラビング)から手袋を不満なくはめるために要する乾燥時間を測定した。尚、評価環境は、室温25℃、部屋の湿度55%であった。実際の医療現場での皮膚消毒剤組成物の適用において、乾燥時間は40秒以下であることが好ましい。尚、例えば、緊急対応時、夜間等の人員が少ない時の対応において、本評価法の5秒の差は処置の遅れなど作業性に顕著な差として現れる。特にチーム作業における作業性差が顕著である。
【0043】
【0044】
【0045】
バイオフィルム生成抑制性の評価において、上記実施例、比較例のいずれのサンプルも、培養後に目視で濁っていた。このことから、本発明の皮膚消毒剤組成物のバイオフィルム生成抑制性の効果は、供した微生物を殺したことによる効果発現ではなく微生物を生存させた状態で、微生物由来のバイオフィルム又は毒素の産生を抑制する技術であることが分かる。
尚、本発明の実施例において、バイオフィルムの産生を抑制するとともに毒素の産生も抑制したことも確認している。