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特許7257170がん術後の再発および/または転移抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】がん術後の再発および/または転移抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5377 20060101AFI20230406BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61P35/00
A61P35/04
A61P43/00 111
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019024477
(22)【出願日】2019-02-14
(62)【分割の表示】P 2018560044の分割
【原出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2019073551
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2017128968
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000185983
【氏名又は名称】小野薬品工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】坂本 篤裕
(72)【発明者】
【氏名】岡村 龍明
(72)【発明者】
【氏名】原田 友宏
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-248263(JP,A)
【文献】特表2016-526049(JP,A)
【文献】Clin cancer research,2012年,18(18),4895-4902
【文献】AL-NIAIMI A et al.,The impact of perioperative β blocker use on patient outcomes after primary cytoreductive surgery i,Gynecologic Oncology,2016年,Vol.143,p.521-525,522ページ右欄7-18行、523ページ右欄「3.Results」の記載
【文献】三尾寧,ランジオロールとエスモロール(超短時間作用性β1遮断薬)[1]心臓に対する作用,麻酔,2006年,Vol.55,p.841-848,844―846ページの「9.周術期の心虚血予防作用」、843ページ「4.用法・適応症」の記載
【文献】CATA JP et al.,Perioerative beta-blocker use and survival in lung cancer patients,Journal of Clinical Anesthesia,2014年,Vol.26,p.106-117
【文献】British Journal of Anaesthesia,2018年,121(1),45-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん周術期に静脈内投与され、周術期のうち、麻酔導入前から少なくとも麻酔終了まで持続投与されることを特徴とする、がんの再発および/または転移抑制のための有効成分としてランジオロールまたはその塩のみを含有するがんの再発および/または転移抑制剤、ただし、ランジオロールまたはその塩を含有する非小細胞肺がんの再発および/または転移抑制剤を除く。
【請求項2】
ランジオロールまたはその塩が、ランジオロール塩酸塩である請求項1に記載の剤。
【請求項3】
がんが、悪性黒色腫、小細胞肺がん、胃がん、膵がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、腎細胞がん、大腸がん、食道がん、肝細胞がん、脳腫瘍、頭頚部がん、または胆道がんである請求項1または2に記載の剤。
【請求項4】
がんが、小細胞肺がんである請求項1~3のいずれかに記載の剤。
【請求項5】
周術期のうち、麻酔導入前から投与を開始し、手術後最大168時間まで持続投与することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の剤。
【請求項6】
周術期のうち、麻酔導入前から投与を開始し、手術後最大72時間まで持続投与することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の剤。
【請求項7】
1種以上の他の抗がん剤と組み合わせることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の剤。
【請求項8】
他の抗がん剤が、アルキル化薬、代謝拮抗薬、抗がん性抗生物質、植物性アルカロイド薬、抗ホルモン薬、白金化合物、サイトカイン製剤、分子標的薬、腫瘍免疫治療薬、およびがんワクチンからなる群から選択される1種以上である請求項に記載の剤。
【請求項9】
細胞療法および/または放射線療法と組み合わせることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の剤。
【請求項10】
がん周術期に静脈内投与され、周術期のうち、麻酔導入前から少なくとも麻酔終了まで持続投与され、がんの再発および/または転移抑制のための有効成分としてランジオロールまたはその塩のみを含有するがんの再発および/または転移抑制剤の製造のためのランジオロールまたはその塩の使用。
【請求項11】
がん周術期に静脈内投与され、周術期のうち、麻酔導入前から少なくとも麻酔終了まで持続投与されることを特徴とする、がん手術後の無再発生存期間および全生存期間の延長のための有効成分としてランジオロールまたはその塩のみを含有する、がん手術後の無再発生存期間および全生存期間を延長させる医薬。
【請求項12】
がんが、非小細胞肺がんまたは小細胞肺がんである請求項11に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願第2017-128968号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本開示は、β遮断薬を含有し、がん患者の周術期に投与されることを特徴とする、がんの再発および/または転移抑制剤(以下、本開示の剤と略記することがある。)に関する。
【背景技術】
【0002】
交感神経の亢進は、がん細胞の血管等への浸潤や血管新生を促進し、がんの転移の可能性を増大させると考えられている(非特許文献1参照)。実際、経口β遮断薬の投与による影響を調べたレトロスペクティブ調査が、乳がん、非小細胞肺がん、前立腺がん、卵巣がんおよび悪性黒色腫に対して実施されており、β遮断薬の慢性的な服用により全生存期間(OS;Overall Survival)や無増悪生存期間(PFS;Progression Free Survival)の延長が認められ、長期予後が改善することが多数報告されている(非特許文献2~8参照)。また、メタ解析の結果、全死亡に対するβ遮断薬の長期予後の改善効果が高かったことが報告されている(非特許文献9参照)。さらに、経口β遮断薬とCOX-2阻害薬との併用による臨床試験報告が行われている(非特許文献10および11参照)。その一方で、肺がん患者において周術期にβ遮断薬を投与しても、無再発生存率や全生存率が改善しなかったことも報告されている(非特許文献12参照)。
一方、ランジオロール塩酸塩(商品名:オノアクト)は、特許文献1に記載の化合物であり、短時間作用型β選択的遮断薬として知られている。主に、頻脈性不整脈の心拍数調節を適応として承認され、市販されている医薬品である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3302647号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】ネイチャー・レビューズ・キャンサー(Nature Reviews Cancer)、第15巻、第9号、563-572ページ、2015年
【文献】ジャーナル・オブ・クリニカル・オンコロジー(Journal of Clinical Oncology)、第29巻、第19号、2635-2644ページ、2011年
【文献】アヌルズ・オブ・オンコロジー(Annals of Oncology)、第24巻、1312-1319ページ、2013年
【文献】ジャーナル・オブ・クリニカル・オンコロジー(Journal of Clinical Oncology)、第29巻、第19号、2645-2652ページ、2011年
【文献】オンコターゲット(Oncotarget)、第1巻、第7号、628-638ページ、2010年
【文献】オンコ・ターゲッツ・アンド・セラピー(OncoTargets and Therapy)、第8巻、985-990ページ、2015年
【文献】ジャイネコロジック・オンコロジー(Gynecologic Oncology)、第127巻、第2号、375-378ページ、2012年
【文献】キャンサー・エピデミオロジー・バイオマーカーズ・アンド・プリベンション(Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention)、第20巻、第10号、2273-2279ページ、2011年
【文献】ジャーナル・オブ・キャンサー・リサーチ・アンド・クリニカル・オンコロジー(Journal of Cancer Research and Clinical Oncology)、第140巻、1179-1188ページ、2014年
【文献】クリニカル・キャンサー・リサーチ(Clinical Cancer Research)、第23巻、第16号、4651-4661ページ、2017年
【文献】フューチャー・オンコロジー(Future Oncology)、Published Online:6 Apr 2018、https://doi.org/10.2217/fon-2017-0635
【文献】ジャーナル・オブ・クリニカル・アネスセジア(Journal of Clinical Anesthesia)、第26巻、106-117ページ、2014年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、がんの再発および/または転移抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、β遮断薬をがん患者の周術期に投与することにより、がん術後の再発および/または転移が抑制されることを見出した。
従って、本開示は、
がん周術期に投与されることを特徴とする、β遮断薬を含有するがんの再発および/または転移抑制剤、
がん周術期にβ遮断薬を哺乳動物に投与することを特徴とする、がんの再発および/または転移抑制方法、
がん周術期に投与される、がんの再発および/または転移抑制に使用されるβ遮断薬、
がん周術期に投与されるがんの再発および/または転移抑制剤の製造のためのβ遮断薬の使用等に関する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、β遮断薬をがん患者の周術期に投与することにより、がん術後の再発および/または転移を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ランジオロール塩酸塩投与群およびランジオロール塩酸塩非投与群の肺がん手術後の無再発生存期間を示す、カプランマイヤー(Kaplan-Meier)曲線である。横軸が手術後の期間(月)を表し、縦軸が無再発生存率(RFS:Relapse Free Survival)を表す。
図2】肺がん手術後の全生存期間(OS:Overall Survival)を示す、カプランマイヤー曲線である。横軸が手術後の期間(月)を表し、縦軸が無イベント生存率(EFR:Event Free Rate)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
特に具体的な定めのない限り、本明細書で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本明細書で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本明細書において、一般的な理解に優先する。
【0010】
本明細書では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0011】
本開示において、β遮断薬とは、交感神経のアドレナリン受容体のうち、β-アドレナリン受容体、β、βおよびβの各受容体のいずれかを遮断する薬剤であれば特に限定されないが、例えば、ランジオロール(landiolol)、エスモロール(esmolol)、プロプラノロール(propranolol)、メトプロロール(metoprolol)、ビソプロロール(bisoprolol)、アセブトロール(acebutolol)、アテノロール(atenolol)、ブフェトロール(bufetolol)、アロチノロール(arotinolol)、カルテオロール(certeolol)、ピンドロール(pindolol)、アルプレノロール(alprenolol)、ソタロール(sotalol)、ナドロール(nadolol)、ボピンドロール(bopindolol)、チモロール(timolol)、インデノロール(indenolol)、ブニトロロール(bunitrolol)、ペンブトロール(penbutolol)、ニプラジロール(nipradilol)、チリソロール(tilisolol)、セリプロロール(celiprolol)、ベタキソロール(betaxolol)、プラクトロール(practolol)、カルベジロール(carvedilol)、アモスラロール(amosulalol)、ラベタロール(labetalol)、ベバントロール(bevantolol)、オクスプレノロール(oxprenolol)、レボブノロール(levobunolol)、またはそれらの塩が挙げられる。また、このうち、短時間作用型β遮断薬としては、例えば、ランジオロール、エスモロール、またはそれらの塩、特に、ランジオロール塩酸塩またはエスモロール塩酸塩、より好ましくはランジオロール塩酸塩が挙げられる。また、静脈内投与用β遮断薬としては、例えば、ランジオロール、エスモロール、プロプラノロール、ラベタロール、ソタロール、メトプロロールまたはその塩、特に、ランジオロール塩酸塩、エスモロール塩酸塩、プロプラノロール塩酸塩、ラベタロール塩酸塩、ソタロール塩酸塩またはメトプロロール酒石酸塩、より好ましくは、ランジオロール塩酸塩またはエスモロール塩酸塩、特に好ましくはランジオロール塩酸塩が挙げられる。経皮投与用β遮断薬としては、例えば、ビソプロロールまたはその塩が挙げられる。
【0012】
本開示において、塩とは、薬学的に許容される塩が好ましく、また水溶性のものが好ましい。薬学的に許容される塩としては、アルカリ金属(カリウム、ナトリウム等)の塩、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)の塩、アンモニウム塩、薬学的に許容される有機アミン(テトラメチルアンモニウム、トリエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、シクロペンチルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピペリジン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、リジン、アルギニン、N-メチル-D-グルカミン等)の塩、酸付加物塩(無機酸塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩等)、有機酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、グルクロン酸塩、グルコン酸塩等)等)等が挙げられる。
【0013】
上記のβ遮断薬はいずれも上市された化合物であることから、毒性は十分に低いものであり、医薬品として安全に使用することができる。
【0014】
本開示の剤は、がん周術期に投与を行うため、がん手術時における患者の循環動態を考慮すると、短時間作用型β遮断薬の適用が好ましい。また、麻酔薬と同時に投与可能な静脈内または経皮投与用β遮断薬の適用も好ましい。
【0015】
本開示において、がん周術期(perioperative)とは、がん手術施行に関連する期間を意味し、術前、術中および術後の期間が含まれる。具体的には、術前として、がん手術(がん切除術)のための麻酔導入前(例えば、麻酔導入直前)から、術後として、がん切除の施術後安定するまでの術後の数日間(例えば、術後1~7日間)を含む。例えば、がん周術期としては、術前から少なくとも麻酔終了までの期間を含む。また、術前とはがん手術施行前であることから、手術侵襲による生体反応、例えば、血圧上昇、頻脈等が起きていない状態である。
【0016】
本開示において、投与期間としては、麻酔導入前から手術後7日間、麻酔導入前から手術後の6日間、麻酔導入前から手術後の5日間、麻酔導入前から手術後の4日間、または、麻酔導入前(例えば、麻酔導入直前)から手術後の3日間の期間が好ましい。また、手術後の投与期間は最大期間を設定の上、患者の年齢、体重、性別、既往歴、がんの種類、病期、進行、転移能、手術の術式、手術を行う器官、併用療法などに応じて、麻酔導入前から最大期間の前日、前々日等までの投与期間に任意に変更してもよく、例えば、手術後最大3日間とは、麻酔導入前から手術後1日、あるいは麻酔導入前から手術後2日までの投与期間に任意に変更してもよい。ここで、麻酔導入前から手術後1日とは、麻酔導入前にβ遮断薬を投与してから約24時間後までを意味する。同様に、手術後2日、3日、4日、5日、6日、7日とは、それぞれ、麻酔導入前にβ遮断薬を投与してから約48時間後、約72時間後、約96時間後、約120時間後、約144時間後、約168時間後を意味する。
【0017】
本開示において、持続投与とは、がん術後の再発および/または転移を抑制する効果を発現するために必要な期間にわたり、有効成分であるβ遮断薬が有効濃度で血中に存在するように、β遮断薬を投与することを意味する。例えば、静脈内持続投与であれば、β遮断薬の静脈内投与用製剤、または凍結乾燥製剤を注射用水に溶かした溶液を、インフュージョンポンプ、シリンジポンプ等の持続注入ポンプを用いて、有効な用量で一定期間投与することを意味する。
【0018】
本開示において、持続投与の方法として、所望によっては適当な休薬期間をおいて、間歇的に投与しても構わない。
本開示において、周術期に投与を行うことにより、その効果(がん術後の再発および/また転移を抑制する効果)を発揮できることから、周術期以外でのβ遮断薬の投与、あるいは、β遮断薬の経口投与を必須としないことも特徴である。
【0019】
本開示において、β遮断薬は、公知の有効量に準じる用量で投与することができる。β遮断薬の持続投与時には心拍数、血圧を測定しながら、一定の範囲内で用量を適宜調節することが挙げられる。例えば、ランジオロール塩酸塩を非経口(例えば静脈内)持続投与する際の用量としては、約0.1~10μg/kg/minが挙げられる。ランジオロール塩酸塩の具体的な用量としては、約0.1μg/kg/min、約0.2μg/kg/min、約0.3μg/kg/min、約0.4μg/kg/min、約0.5μg/kg/min、約0.6μg/kg/min、約0.7μg/kg/min、約0.8μg/kg/min、約0.9μg/kg/min、約1μg/kg/min、約1.5μg/kg/min、約2μg/kg/min、約2.5μg/kg/min、約3μg/kg/min、約3.5μg/kg/min、約4μg/kg/min、約4.5μg/kg/min、約5μg/kg/min、約6μg/kg/min、約7μg/kg/min、約8μg/kg/min、約9μg/kg/min、約10μg/kg/min、約20μg/kg/min、約30μg/kg/min、約40μg/kg/minが挙げられる。本開示において、これらの用量のうち、いずれかの用量を最低用量と最高用量として選択し、適宜組合せることにより、好ましい範囲の用量を適用することができる。そのような用量の一態様としては、例えば、約0.2μg/kg/min~8μg/kg/min、約0.3μg/kg/min~5μg/kg/min、約0.4μg/kg/min~3μg/kg/min、約0.5μg/kg/min~2.5μg/kg/min、約0.2μg/kg/min~20μg/kg/min、約0.3μg/kg/min~15μg/kg/min、約0.4μg/kg/min~10μg/kg/min、約0.5μg/kg/min~5μg/kg/minが挙げられる。
【0020】
本開示において、がんの再発および/または転移抑制剤を投与する対象は、がんに罹患しており、がん手術(例えば、がん切除術)の周術期にある哺乳動物、例えばヒトである。
【0021】
本開示において、「がんの再発および/または転移抑制剤」は、「抗再発および/または抗転移剤」とも呼ばれ、がん術後のがんの再発および/または転移を抑制し得る薬剤を意味する。がんの「再発」とは、がんの治療、例えばがん手術の後に、再びがんを発症することを意味し、初発がんの再発およびすでに再発したがんのさらなる再発も含む。がんの再発は、画像診断、生検病理診断により、あるいは、症状の増悪により、判断され得る。がんが再発する組織または再発が予想される組織は、初発組織であっても、別の組織であってもよい。がんの「転移」とは、初発組織とは異なる組織におけるがんの再発を意味する。「がんの再発および/または転移を抑制する」とは、がんの再発および/または転移を予防、低減または遅延させること、再発および/または転移後のがんの進行を予防、低減または遅延させることを含む。
【0022】
本開示において、がんとは、固形がん、または血液がんが含まれ、固形がんとしては、例えば、悪性黒色腫(例えば、皮膚、口腔粘膜上皮または眼窩内などにおける悪性黒色腫)、非小細胞肺がん(例えば、扁平非小細胞肺がん、または非扁平非小細胞肺がん)、小細胞肺がん、頭頸部がん、脳腫瘍、腎細胞がん、淡明細胞型腎細胞がん、乳がん、卵巣がん、卵巣明細胞腺がん、骨・軟部肉腫(例えば、ユーイング肉腫、小児横紋筋肉腫、または子宮体部平滑筋肉腫)、神経膠芽腫、神経膠肉腫、鼻咽頭がん、子宮がん(例えば、子宮頸がん、または子宮体がん)、肛門がん(例えば、肛門管がん)、大腸がん、肝細胞がん、胆道がん、食道がん、膵がん、胃がん、尿路上皮がん(例えば、膀胱がん、上部尿路がん、尿管がん、腎盂がん、または尿道がん)、前立腺がん、卵管がん、原発性腹膜がん、胸膜中皮腫、または骨髄増殖症候群が挙げられ、特に、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、胃がん、膵がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、腎細胞がん、大腸がん、食道がん、肝細胞がん、脳腫瘍、頭頚部がん、または胆道がんが挙げられる。また、血液がんとしては、例えば、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫(例えば、濾胞性リンパ腫、またはびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫)、またはホジキンリンパ腫)、または白血病(例えば、急性骨髄性白血病、または慢性骨髄性白血病)が挙げられる。
【0023】
本開示の剤は、既存の他の抗がん剤、細胞療法および/または放射線療法と併用することにより、その有用性、すなわち、がんの再発および/または転移を抑制する効果を高めることができる。そのような他の抗がん剤としては、例えば、アルキル化薬、代謝拮抗薬、抗がん性抗生物質、植物性アルカロイド薬、抗ホルモン薬、白金化合物、サイトカイン製剤、分子標的薬、腫瘍免疫治療薬、がんワクチンが挙げられる。細胞療法としては、例えば、造血幹細胞移植療法、キメラ抗原受容体(CAR;Chimeric Antigen Receptor)遺伝子T細胞療法が挙げられる。放射線療法としては、例えば、陽子線療法、重粒子線療法、ホウ素中性子捕獲療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)が挙げられる。このとき、併用するタイミングとしては、周術期に限定されることなく、上記治療方法の通常適用される治療スケジュールに沿って併用することができる。したがって、当該タイミングとしては、がん手術前であっても良く、がん手術時であっても良く、がん手術後であっても良い。
【0024】
本開示の剤と他の抗がん剤は、1つの製剤中に両成分を配合した配合剤の形態で投与してもよく、また別々の製剤にして投与する形態をとってもよい。この別々の製剤にして投与する場合には、同時投与および時間差による投与が含まれる。また、時間差による投与は、本開示の剤を先に投与し、他の抗がん剤を後に投与してもよいし、他の抗がん剤を先に投与し、本開示の剤を後に投与してもよい。それぞれの投与方法は同じでも異なっていてもよい。また、他の抗がん剤は、任意の2種以上を組み合わせて投与してもよい。また、他の抗がん剤には、既存の抗がん剤と同様のメカニズムに基づいて、現在までに見出されているものだけでなく今後見出されるものも含まれる。
【0025】
本開示において、アルキル化薬としては、例えば、塩酸ナイトロジェンマスタード-N-オキシド、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、チオテパ、カルボコン、ブスルファン、塩酸ニムスチン、ダカルバジン、ラニムスチン、カルムスチン、クロラムブシル、ベンダムスチン、メクロレタミンが挙げられる。
【0026】
本開示において、代謝拮抗薬としては、例えば、TS-1(登録商標)、メトトレキサート、メルカプトプリン、6-メルカプトプリンリボシド、フルオロウラシル、テガフール、テガフール・ウラシル、カルモフール、ドキシフルリジン、シタラビン、エノシタビン、テガフール・ギメスタット・オタスタットカリウム、塩酸ゲムシタビン、シタラビンオクホスファート、塩酸プロカルバジン、ヒドロキシカルバミドが挙げられる。
【0027】
本開示において、抗がん性抗生物質としては、例えば、アクチノマイシンD、マイトマイシンC、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸アクラルビシン、ネオカルチノスタチン、塩酸ピラルビシン、(塩酸)エピルビシン、塩酸イダルビシン、クロモマイシンA3、(塩酸)ブレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、テラルビシン、ジノスタチン・スチマラマー、ゲムシズマブオゾガマイシンが挙げられる。
【0028】
本開示において、植物性アルカロイド薬としては、例えば、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、塩酸イリノテカン、エトポシド、フルタミド、酒石酸ビノレルビン、ドセタキセル水和物、パクリタキセルが挙げられる。
【0029】
本開示において、抗ホルモン薬としては、例えば、リン酸エストラムスチンナトリウム、メピチオスタン、エピチオスタノール、酢酸ゴセレリン、ホスフェストロール(リン酸ジエチルスチルベストロール)、クエン酸タモキシフェン、クエン酸トレミフェン、塩酸ファドロゾール水和物、酢酸メドロキシプロゲステロン、ビカルタミド、酢酸リュープロレリン、アナストロゾール、アミノグルテチミド、アンドロゲンビカルタミド、フルベストラントが挙げられる。
【0030】
本開示において、白金化合物としては、例えば、カルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチンが挙げられる。
【0031】
本開示において、サイトカイン製剤としては、例えば、IFN-α2a、IFN-α2b、ペグIFN-α2b、天然型IFN-β、インターロイキン-2が挙げられる。
【0032】
本開示において、分子標的薬としては、例えば、リツキシマブ、イブリツモマブ、イブリツモマブチウキセタン、オクレリズマブ、オファツズマブ、オビニツズマブ、アレムツズマブ、イマチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、ベバシズマブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、クリゾチニブ、テムシロリムス、エベロリムス、アキシチニブ、パゾパニブ、レゴラフェニブ、セツキシマブ、イブルチニブ、パニツムマブ、ラパチニブ、トラスツズマブ、バンデタニブが挙げられる。
【0033】
本開示において、腫瘍免疫治療薬としては、例えば、抗PD-1抗体(例えば、ヒト抗ヒトPD-1モノクローナル(中和)抗体(例えば、NivolumabおよびREGN-2810)およびヒト化抗ヒトPD-1モノクローナル(中和)抗体(例えば、Pembrolizumab、PDR-001、BGB-A317およびAMP-514(別称:MEDI0680))、ANB011(別称:TSR-042)およびSTI-A1110)、抗PD-L1抗体(例えば、Atezolizumab(別称:RG7446またはMPDL3280A)、Avelumab(別称:PF-06834635またはMSB0010718C)、Durvalumab(別称:MEDI4736)、BMS-936559、STI-1010、STI-1011およびSTI-1014)、PD-1拮抗剤(例えば、AUNP-12)、抗PD-L2抗体、PD-L1融合タンパク質、PD-L2融合タンパク質(例えば、AMP-224)、抗CTLA-4抗体(例えば、IpilimumabおよびTremelimumab)、抗LAG-3抗体(例えば、BMS-986016およびLAG525)、抗Tim3抗体(例えば、MBG453)、抗KIR抗体(例えば、Lirilumab)、抗BTLA抗体、抗TIGIT抗体、抗VISTA抗体、抗CD137抗体(例えば、Urelumab)、抗OX40抗体(例えば、MEDI6469)、抗HVEM抗体、抗CD27抗体(例えば、Varlilumab)、抗GITR抗体(例えば、MK-4166およびTRX-518)、抗CD28抗体、抗CCR4抗体(例えば、Mogamulizumab)、抗CD4抗体(例えば、MTRX-1011A、TRX-1、Ibalizumab、huB-F5、Zanolimumab、4162W94、Clenoliximab、Keliximab、AD-519、PRO-542、Cedelizumab、TNX-355、Dacetuzumab、Tregalizumab、Priliximab、MDX-CD4、CAMPATH-9、IT1208)、TLRアゴニスト、またはSTINGアゴニスト(例えば、MIW815)が挙げられる。
【0034】
本開示において、がんワクチンとしては、例えば、がん抗原ペプチドワクチン、樹状細胞ワクチンが挙げられる。
【0035】
本開示により提供される実施態様として、例えば、
[1] がん周術期に投与されることを特徴とする、β遮断薬を含有するがんの再発および/または転移抑制剤、
[2] がん周術期に投与されることを特徴とする、β遮断薬を含有する抗再発および/または抗転移剤、
[3] β遮断薬が、ランジオロール、エスモロール、プロプラノロール、メトプロロール、ビソプロロール、アセブトロール、アテノロール、ブフェトロール、アロチノロール、カルテオロール、ピンドロール、アルプレノロール、ソタロール、ナドロール、ボピンドロール、チモロール、インデノロール、ブニトロロール、ペンブトロール、ニプラジロール、チリソロール、アセブトロール、セリプロロール、ベタキソロール、プラクトロール、カルベジロール、アモスラロール、ラベタロール、ベバントロール、アモスラロール、ラベタロール、ベバントロール、オクスプレノロール、レボブノロールおよびそれらの塩から選択される前記[1]または[2]に記載の剤、
[4] β遮断薬が、ランジオロール、エスモロール、プロプラノロール、ラベタロール、ソタロール、メトプロロールおよびそれらの塩から選択される前記[1]~[3]のいずれかに記載の剤、
[5] β遮断薬が、ランジオロール、エスモロールまたはその塩である前記[1]~[4]のいずれかに記載の剤、
[6] β遮断薬が、ランジオロール、またはその塩である前記[1]~[5]のいずれかに記載の剤、
[7] β遮断薬がランジオロール塩酸塩である前記[1]~[6]のいずれかに記載の剤、
[8] ランジオロール塩酸塩の投与量が、約0.1~10μg/kg/minである前記[7]記載の剤、
[9] ランジオロール塩酸塩の投与量が、約0.5~5μg/kg/minである前記[7]または[8]に記載の剤、
[10] ランジオロール塩酸塩の投与量が、約0.5~2.5μg/kg/minである前記[7]~[9]のいずれかに記載の剤、
[11] β遮断薬がビソプロロールである前記[1]~[3]のいずれかに記載の剤、
【0036】
[12] がんが、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、胃がん、膵がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、腎細胞がん、大腸がん、食道がん、肝細胞がん、脳腫瘍、頭頚部がん、または胆道がんである前記[1]~[11]のいずれかに記載の剤、
[13] がんが非小細胞肺がんまたは小細胞肺がんである前記[1]~[12]のいずれかに記載の剤、
[14] がんが非小細胞肺がんである前記[1]~[13]のいずれかに記載の剤、
[15] 術前から投与を開始し、手術後最大7日目まで持続投与することを特徴とする前記[1]~[14]のいずれかに記載の剤、
[16] 術前から投与を開始し、手術後最大6日目まで持続投与することを特徴とする前記[1]~[15]のいずれかに記載の剤、
[17] 術前から投与を開始し、手術後最大5日目まで持続投与することを特徴とする前記[1]~[16]のいずれかに記載の剤、
[18] 術前から投与を開始し、手術後最大4日目まで持続投与することを特徴とする前記[1]~[17]のいずれかに記載の剤、
[19] 術前から投与を開始し、手術後最大3日目まで持続投与することを特徴とする前記[1]~[18]のいずれかに記載の剤、
【0037】
[20] 投与経路が、非経口投与である前記[1]~[19]のいずれかに記載の剤、
[21] 非経口投与が静脈内投与である前記[20]に記載の剤、
[22] 非経口投与が経皮投与である前記[20]に記載の剤、
[23] 1種以上の他の抗がん剤と組み合わせることを特徴とする、前記[1]~[22]のいずれかに記載の剤、
[24] 他の抗がん剤が、アルキル化薬、代謝拮抗薬、抗がん性抗生物質、植物性アルカロイド薬、抗ホルモン薬、白金化合物、サイトカイン製剤、分子標的薬、腫瘍免疫治療薬、およびがんワクチンからなる群から選択される1種以上である前記[23]に記載の剤、
[25] 細胞療法および/または放射線療法と組み合わせることを特徴とする、前記[1]~[24]のいずれかに記載の剤、
[26] がん周術期にβ遮断薬を哺乳動物に投与することを特徴とする、がんの再発および/または転移抑制方法、
[27] がん周術期に投与される、がんの再発および/または転移抑制に使用されるβ遮断薬、
[28] がん周術期に投与されるがんの再発および/または転移抑制剤の製造のためのβ遮断薬の使用、
【0038】
[29] がん周術期に静脈内投与されることを特徴とする、短時間作用型β遮断薬を含有するがんの再発および/または転移抑制剤、
[30] 短時間作用型β遮断薬が、ランジオロール、エスモロールおよびそれらの塩から選択される前記[29]に記載の剤、
[31] 短時間作用型β遮断薬が、ランジオロールまたはその塩である前記[29]または[30]に記載の剤、
[32] がんが、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、胃がん、膵がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、腎細胞がん、大腸がん、食道がん、肝細胞がん、脳腫瘍、頭頚部がん、または胆道がんである前記[29]~[31]のいずれかに記載の剤、
[33] がんが非小細胞肺がんまたは小細胞肺がんである前記[29]~[32]のいずれかに記載の剤、
[34] がんが非小細胞肺がんである前記[29]~[33]のいずれかに記載の剤、
[35] 周術期のうち、術前から少なくとも麻酔終了まで持続投与することを特徴とする前記[29]~[34]のいずれかに記載の剤、
[36] 周術期のうち、術前から投与を開始し、手術後最大約168時間まで持続投与することを特徴とする前記[29]~[35]のいずれかに記載の剤、
[37] 周術期のうち、術前から投与を開始し、手術後最大約72時間まで持続投与することを特徴とする前記[29]~[36]のいずれかに記載の剤、
【0039】
[38] 1種以上の他の抗がん剤と組み合わせることを特徴とする、前記[29]~[37]のいずれかに記載の剤、
[39] 他の抗がん剤が、アルキル化薬、代謝拮抗薬、抗がん性抗生物質、植物性アルカロイド薬、抗ホルモン薬、白金化合物、サイトカイン製剤、分子標的薬、腫瘍免疫治療薬、およびがんワクチンからなる群から選択される1種以上である前記[38]に記載の剤。
[40] 細胞療法および/または放射線療法と組み合わせることを特徴とする、前記[29]~[39]のいずれかに記載の剤、
[41] 短時間作用型β遮断薬がランジオロール塩酸塩である前記[29]~[40]のいずれかに記載の剤、
[42] ランジオロール塩酸塩の投与量が、約0.1~10μg/kg/minである前記[41]記載の剤、
[43] ランジオロール塩酸塩の投与量が、約0.5~5μg/kg/minである前記[41]または[42]に記載の剤、
[44] がん周術期に短時間作用型β遮断薬を哺乳動物に静脈内投与することを特徴とする、がんの再発および/または転移抑制方法。
[45] がん周術期に静脈内投与される、がんの再発および/または転移抑制に使用される短時間作用型β遮断薬、
[46] がん周術期に静脈内投与されるがんの再発および/または転移抑制剤の製造のための短時間作用型β遮断薬の使用、
[47] がん周術期に経皮投与されることを特徴とする、β遮断薬を含有するがんの再発および/または転移抑制剤、
[48] β遮断薬が、ビソプロロールである前記[47]記載の剤、
【0040】
[49] がん周術期にβ遮断薬を哺乳動物に経皮投与することを特徴とする、がんの再発および/または転移抑制方法。
[50] がん周術期に経皮投与される、がんの再発および/または転移抑制のためのβ遮断薬、
[51] がん周術期に経皮投与されるがんの再発および/または転移抑制剤の製造のためのβ遮断薬の使用、等の実施態様が挙げられる。
【0041】
本明細書で引用するすべての文献は、出典明示により本明細書の一部とする。
上記の説明は、すべて非限定的なものであり、添付の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲から逸脱せずに、変更することができる。さらに、下記の実施例は、すべて非限定的な実施例であり、本発明を説明するためだけに供されるものである。
【実施例
【0042】
[実施例1]肺切除術におけるランジオロール塩酸塩の有効性の検討
1.研究の種類・デザイン
倫理委員会承認後、肺葉切除を施行された肺がん患者に対して、ランジオロール塩酸塩投与群及びランジオロール塩酸塩非投与群の転帰を調査した。
【0043】
2.研究の方法
1)観察・調査・検査項目
以下の項目について2012年5月から2017年3月31日までの診療録を調査し、症例報告書(CRF;Clinical Report Form)に記載した。
・患者背景(生年月日、性別、肺がんの病期分類、体重、身長、Performance Status)
・肺がん手術を施行した日
・ランジオロール塩酸塩の投与の有無及び投与量
・再発と判断した日(画像検査日もしくは臨床的再発とした日)
・最終無再発生存確認日
・死亡日
・最終生存確認日
・術後補助化学療法の有無
【0044】
2)評価項目
2)-1:主要評価項目
手術後2年の無再発生存率をランジオロール塩酸塩投与群、ランジオロール塩酸塩非投与群の2群で比較し、ランジオロール塩酸塩の有効性を検討した。
2)-1-1:主要評価項目の評価方法
本研究での手術後2年の無再発生存率は、後述するKaplan-Meier法により算出した。
【0045】
なお、再発は以下のとおり定義した。
・再発は、画像診断に基づいて判断されるものと、画像診断に依らない症状の増悪による再発の判断(臨床的再発)の両者を含む。画像診断に基づいて再発と判断した場合はその画像検査を行った検査日を再発日とし、臨床的再発の場合は臨床的判断日を再発日とした。腫瘍マーカーの上昇のみの期間は再発とせず、画像診断で再発を確認した検査日または症状の増悪により臨床的に再発の判断を行った日をもって再発とした。再発と判断されていない生存例は、最終無再発生存確認日をもって打切りとした。
・再発の診断が画像診断による場合、「画像上疑い」の検査日ではなく、後日「確診」が得られた画像検査の「検査日」をもってイベントとした。画像診断によらず臨床的に再発と判断した場合は、再発と判断した日をもってイベントとした。
・再発の確定診断が生検病理診断による場合、生検前に臨床上再発と診断し得た場合は臨床診断日を、臨床上再発と診断し得ず生検病理診断によって再発と判断した場合は生検施行日をもってイベントとした。
・二次がん、異時性重複がん、異時性多発がんの発生はイベントとも打切りともせず、他のイベントが観察されるまで無再発とした。
【0046】
2)-2:副次的評価項目
無再発生存期間、全生存期間をランジオロール塩酸塩投与群、ランジオロール塩酸塩非投与群の2群で比較し、ランジオロール塩酸塩の有効性を検討した。
2)-2-1:副次的検査項目の評価方法
本実施例における無再発生存期間および全生存期間は、以下の式から算出した。
無再発生存期間(日)=「再発と判断された日またはあらゆる原因による死亡日のうち早い時点」―「手術日」+1
全生存期間(日)=「あらゆる原因による死亡日」-「手術日」+1
【0047】
なお、「再発と判断された日またはあらゆる原因による死亡日のうち早い時点」は以下のとおり定義した。
・再発は、画像診断に基づいて判断されるものと、画像診断に依らない症状の増悪による再発の判断(臨床的再発)の両者を含む。画像診断に基づいて再発と判断した場合はその画像検査を行った検査日を再発日とし、臨床的再発の場合は臨床的判断日を再発日とした。腫瘍マーカーの上昇のみの期間は再発とせず、画像診断で再発を確認した検査日または症状の増悪により臨床的に再発の判断を行った日をもって再発とした。再発と判断されていない生存例は、最終無再発生存確認日をもって打切りとした。
・再発の診断が画像診断による場合、「画像上疑い」の検査日ではなく、後日「確診」が得られた画像検査の「検査日」をもってイベントとした。画像診断によらず臨床的に再発と判断した場合は、再発と判断した日をもってイベントとした。
・再発の確定診断が生検病理診断による場合、生検前に臨床上再発と診断し得た場合は臨床診断日を、臨床上再発と診断し得ず生検病理診断によって再発と判断した場合は生検施行日をもってイベントとした。
・二次がん、異時性重複がん、異時性多発がんの発生はイベントとも打切りともせず、他のイベントが観察されるまで無再発生存期間とした。
【0048】
2)-3:統計解析
2)-3-1:主要評価項目の統計方法
(1)イベント数及び打切り数の頻度集計を投与群ごとに行った。また、イベントおよび打切りの詳細について頻度集計を投与群ごとに行った。
(2)手術後2年の無再発生存率をKaplan-Meier法を用いて投与群ごとに算出し、その両側95%信頼区間を算出した。
(3)カイ二乗検定により投与群間の比較を行った。また、ランジオロール塩酸塩投与群のランジオロール塩酸塩非投与群に対する手術後2年の無再発生存率の差及びその両側95%信頼区間を算出した。
【0049】
2)-3-2:副次的評価項目の統計方法
(1)各解析項目に対して、Kaplan-Meier曲線を投与群ごとに表示した。また、Kaplan-Meier法を用いて投与群ごとに中央値及びその両側95%信頼区間を算出した。
(2)log-rank検定を用いて投与群間の比較を行った。
(3)投与群を単一の因子としたCox比例ハザードモデルを用いて、ランジオロール塩酸塩投与群のプラセボ投与群に対するハザード比およびその両側95%信頼区間を算出した。
【0050】
3.研究対象者の選定方針
下記の選択除外基準を満たす患者
3-1:選択基準
(1)85歳未満の男女
(2)ASA1-2
(3)肺の悪性腫瘍にて解剖学的肺切除を施行された患者。
3-2:除外基準
(1)上室性不整脈(心房細動・心房粗動)
(2)洞不全症候群患者(ペースメーカー植え込み症例を含む)
(3)重症心不全(NYHA心機能分類III度以上)の患者
(4)II度以上の房室ブロックの患者
(5)中等度-重度弁疾患
(6)急性の心血管イベント、脳血管イベント、感染性の炎症が60日以内に認められた患者
(7)徐脈傾向の患者(安静時心拍数<55回/分)
(8)収縮期血圧が80mmHg未満の患者
(9)手術前からβ遮断薬を投与されていた患者
(10)重症気管支喘息患者
(11)閉塞性肺疾患(COPD II期以上)、びまん性肺疾患(IP)で典型的な蜂巣肺を呈していた患者
(12)電解質異常、WPW症候群、甲状腺機能亢進症など、心房細動の原因が特定できた患者
(13)施術前からジギタリス以外の抗不整脈薬を使用していた患者
(14)β遮断薬使用禁忌の患者
(15)慢性炎症性疾患
(16)重篤な肝障害があった患者
(17)重篤な腎障害があった患者
(18)その他、研究責任医師が患者として不適当と判断した患者
【0051】
4.結果
4-1:患者背景
上記2.研究の方法の1)に基づいて調査した患者背景を表1に示す。なお、ランジオロール塩酸塩投与群において、ランジオロール塩酸塩の投与は麻酔導入から麻酔終了までの間、2.5μg/kg/minの用量で静脈内持続投与を行った。また、ランジオロール塩酸塩非投与群(プラセボ)において、生理食塩水の持続投与を行った。
【0052】
【表1】
【0053】
4-2:主要評価項目
上記2の2)-1および2)-1-1に基づいて、主要評価項目である手術後2年の無再発生存率をランジオロール塩酸塩投与群、ランジオロール塩酸塩非投与群の2群で比較した結果を表2に示す。その結果、手術後2年の無再発生存率は、ランジオロール塩酸塩投与群は89.3%、ランジオロール塩酸塩非投与群は75.9%であった。
【0054】
【表2】
【0055】
4-3:副次的評価項目
上記2の2)-2および2)-2-1に基づいて、ランジオロール塩酸塩投与群、ランジオロール塩酸塩非投与群の2群間で比較した、無再発生存期間を図1に、全生存期間を図2に示す。いずれの図においても、上側の曲線がランジオロール塩酸塩投与群、下側の曲線がランジオロール塩酸塩非投与群を表す。
その結果、無再発生存期間および全生存期間のいずれにおいても、ランジオロール塩酸塩投与群の方がその期間を延長させる傾向があることが分かった。
したがって、ランジオロール塩酸塩を肺がん手術時の周術期に投与にすることにより、がんの再発および/または転移を抑制する効果があることが分かった。
【0056】
[実施例2]周術期におけるランジオロール塩酸塩の非小細胞肺がん患者の術後再発予防効果
臨床試験として、非小細胞肺がん患者の完全切除手術予定患者に対して、被験薬であるランジオロール塩酸塩の有効性および安全性について、手術単独群を対照とした多施設共同非盲検無作為化2群比較の医師主導治験を以下の要領で実施する。
主要評価項目:術後2年無再発生存期間(RFS;relapse-free survival)、全生存期間(OS;overall survival)
副次評価項目:<有効性評価項目>再発治療の有無と再発治療までの期間、OSまたは再発治療までの時間など、<安全性評価項目>有害事象、術後合併症発症率、血圧、12誘導心電図、一般臨床検査
用法用量:2.5μg/kg/minで開始し、0.5~5μg/kg/minの範囲で適宜調節する
投与期間:麻酔導入直前から72時間持続静脈内投与
本試験を行うことにより、ランジオロール塩酸塩の肺がん手術時の周術期投与による、がんの再発および/または転移を抑制する効果を確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
β遮断薬、なかでもランジオロール塩酸塩をがん患者の周術期に投与することにより、がんの再発および/または転移を抑制することができる。さらに、β遮断薬を慢性的に服用する必要もなく、周術期という短期間の投与によって、がん患者への負担を軽減することに加え、がんの再発および/または転移を抑制するという所望の効果を得ることができる。
図1
図2