(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
H01M 50/184 20210101AFI20230406BHJP
H01M 50/186 20210101ALI20230406BHJP
H01M 50/198 20210101ALI20230406BHJP
H01M 50/193 20210101ALI20230406BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20230406BHJP
H01M 50/129 20210101ALI20230406BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20230406BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20230406BHJP
H01M 50/548 20210101ALI20230406BHJP
H01M 50/562 20210101ALI20230406BHJP
【FI】
H01M50/184 C
H01M50/186
H01M50/198
H01M50/193
H01M50/105
H01M50/129
H01M50/119
H01M50/121
H01M50/548 301
H01M50/562
(21)【出願番号】P 2019029636
(22)【出願日】2019-02-21
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 竜
(72)【発明者】
【氏名】木村 長幸
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 俊二
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-085214(JP,A)
【文献】特開2002-203538(JP,A)
【文献】特開昭59-108261(JP,A)
【文献】特開2016-143520(JP,A)
【文献】特開2008-016368(JP,A)
【文献】特開2017-130435(JP,A)
【文献】特許第6807366(JP,B2)
【文献】特開2020-119629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/00-50/198
H01M 50/50-50/598
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1容器と第2容器から構成される外装体と、前記外装体の内部に収容された正極電極および負極電極からなる電極体とを備え、
前記第1容器と前記第2容器に貫通孔が形成され、前記貫通孔の内部側にシーラントリングを介し電極板が配置され、前記電極体の平面視形状と前記電極板の平面視形状と前記シーラントリングの平面視形状が相似形状であり、前記電極体の中心部と前記電極板の中心部と前記シーラントリングの中心部を位置合わせして前記容器内に前記電極体と前記電極板と前記シーラントリングが積層され、収容された電気化学セルであり、
前記シーラントリングと前記電極板を重ねた領域の面積が、前記シーラントリング全体の面積の35%以上81% 以
下、
前記シーラントリングと前記電極板を重ねた領域の面積が、前記電極板の面積の79.2%以上90.5%以下、
前記シーラントリングと前記電極板を重ねた領域の面積が、36.9mm
2
以上83.7mm
2
以下であることを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
前記外装体が融着可能な樹脂層と金属層のラミネート構造からなり、前記シーラントリングが融着可能な樹脂フィルムからなり、前記外装体の最内層に設けられている前記樹脂層に前記樹脂フィルムが溶着されて前記外装体に前記シーラントリングが一体化されるとともに、前記シーラントリングに前記電極板が密着されたことを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記電極板が鋼板からなり、前記電極板に電極端子が取り付けられ、前記電極端子がNiまたはNi合金からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記第1容器と前記第2容器が融着可能な樹脂層と金属層のラミネート構造からなり、前記第1容器と前記第2容器がいずれも底壁部と周壁部を有し、前記第1容器の周壁部と前記第2容器の周壁部が重ね合わされて融着され、前記外装体が構成されたことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記金属層がAlまたはAl合金からなることを特徴とする請求項2
または請求項
4に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池、電気二重層キャパシタなどの電気化学セルとして、ボタン形(以下、コイン形およびシリンダ形も含む)に形成された電気化学セルが知られている。ボタン形の電気化学セルは、各種デバイスの電源などに利用されている。ボタン形の電気化学セルの1つの形態として、例えば以下の特許文献1に記載のような偏平型非水電解質二次電池が提案されている。
【0003】
特許文献1には、負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介し嵌合された外装体が開示されている。具体的には、特許文献1において、正極ケースがカシメ加工によって絶縁ガスケットを介し負極ケースに嵌合されている。また、カシメ加工された部位で外装体の封止部が形成されている。
このように、金属製の正極ケース及び負極ケースで外装体が画成され、外装体の収容部に電極体が非水電解質とともに内包されている。
【0004】
しかし、外装体の封止部をカシメ加工した場合、電池のサイズが小さくなるほど封止部を収容部に対して小さく抑えることが難しい問題がある。このため、小型のボタン形電池においては電池の体積当たりの容量を上げることが難しく、この観点から改良の余地が残されている。
【0005】
このような背景の基、本願出願人は特許文献2に記載の電気化学セルを提案した。
特許文献2に記載の電気化学セルは、電極体と、第1部材および第2部材を重ね合わせて形成される外装体とを備えている。この外装体に、前記電極体を収容する収容部と、該収容部の外周において、前記第1部材および第2部材が融着された状態で前記収容部の外周に沿って折り曲げられた封止部を有している。また、第1部材と第2部材について金属と樹脂のラミネート構造を採用するか、一方を金属と樹脂のラミネート構造とし、他方を金属板から構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-298803号公報
【文献】特許第6284248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の電気化学セルにより、外装体の外周縁部に封止部を設け、封止部の占める体積をセルの外周部に制限することにより、外装体の内部空間の容積を確保することができる構造を提供した。
また、この種のボタン形電気化学セルにおいては、内部に設けた電極体から引き出した導体を正極電極板または負極電極板に接続し、正極側または負極側の電極端子を構成している。
【0008】
本願発明者は、この種のボタン形電気化学セルにおいて内部構造の詳細について検討を行っている。
図10は上述の電気化学セルに設けられている外装体と、その内部に収容されている電極体の概形、並びに正極側および負極側の電極板の配置関係を示す。
図10に示すように、外装体100は下部側の第1容器101と上部側の第2容器102からなり、第1容器101の中央部に第1貫通孔103が形成され、第2容器102の中央部に第2貫通孔104が形成されている。第1容器101と第2容器102は周壁部どうしを溶着して一体化され、外装体100が構成されている。
【0009】
外装体100の内部には電極体105と図示略の電解液が収容されている。電極体105は、一例として、つづら折り形状の負極側電極とつづら折り形状の正極側電極を交互に積み重ねて構成されている。負極側電極は負極電極板106に接続され、この負極電極板106が電極体105の底部側に配置されている。正極側電極は正極電極板107に接続され、この正極電極板107が電極体105の上部側に配置され、正極電極板107の上部中央には正極電極端子108が接合されている。
負極電極板106と第1容器101の間に第1絶縁リング109が配置され、正極電極板107と第2容器102の間に第2絶縁リング110が配置されている。
【0010】
図10に示す構造の電気化学セルにあっては、つづら折り構造の電極体105を用いている関係から、外装体100の内部に電極体105、絶縁リング109、110、電極板106、107、正極電極端子108を収容し、外装体100の外周壁を溶着後、全体を上下方向から加圧する処理を行っている。
この加圧処理により、電気化学セルの内部に収容した各部材の位置を整え、電極体105の膨らみなどを修正してセル全体の厚み是正を行うことができる。
【0011】
ところで、
図10に示す構造では、金属層と樹脂層を積層したラミネートフィルムなどから外装体100を構成することで、封止性に優れ、電解液漏れなどを生じ難い、水分浸入などのおそれを生じない構造を採用できる。
しかし、外装体100に形成した貫通孔103、104の部分は絶縁リング109、110と電極板106、107で閉じた構造である。このため、絶縁リング109、110を外装体100の内面側に溶着などの手段で密着する必要があり、電極板106、107を絶縁リング109、110に個々に密着する必要がある。
【0012】
また、上述の厚み是正などを行う場合、セル全体に圧力を加えるので、電解液漏れなどを生じない構造とする必要があるが、本発明者が
図10に示す電気化学セルを製造した場合、構造によっては電解液漏れを生じることを知見した。
この電解液漏れを生じた電気化学セルについて、検査したところ、主に、絶縁リング109と電極板106との界面部分、絶縁リング110と電極板107との界面部分から液漏れを生じ易いことを知見した。
【0013】
本発明は、以上説明した従来の実情に鑑みなされたものであり、外装体の貫通孔部分を封止した構造において封止部分における電解液漏れ、水分の浸透をいずれも生じ難くした電気化学セルの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)前記課題を解決するため、本発明の一形態に係る電気化学セルは、第1容器と第2容器から構成される外装体と、前記外装体の内部に収容された正極電極および負極電極からなる電極体とを備え、前記第1容器と前記第2容器に貫通孔が形成され、前記貫通孔の内部側にシーラントリングを介し電極板が配置され、前記電極体の平面視形状と前記電極板の平面視形状と前記シーラントリングの平面視形状が相似形状であり、前記電極体の中心部と前記電極板の中心部と前記シーラントリングの中心部を位置合わせして前記容器内に前記電極体と前記電極板と前記シーラントリングが積層され、収容された電気化学セルであり、前記シーラントリングと前記電極板を重ねた領域の面積が、前記シーラントリング全体の面積の35%以上81% 以下、前記シーラントリングと前記電極板を重ねた領域の面積が、前記電極板の面積の79.2%以上90.5%以下、前記シーラントリングと前記電極板を重ねた領域の面積が、36.9mm
2
以上83.7mm
2
以下であることを特徴とする。
【0015】
第1容器と第2容器からなる外装体の内部に電極体を備え、第1容器と第2容器に形成した貫通孔をシーラントリングと電極板で封止した構造において、貫通孔の内周部分から電解液が漏れるか、電気化学セルに水分が浸透する経路として、シーラントリングと電極板の界面が考えられる。
シーラントリングと電極板を重ねた領域の面積をシーラントリング全体面積の35%以上としておくならば、シーラントリングと電極板の密着可能な面積を充分に確保することができ、シーラントリングと電極板の界面を介する電解液漏れを防止でき、水分の浸透を防止できる。
シーラントリングと電極板を重ねた領域の面積をシーラントリング全体面積の81%以下とすることが好ましい。電極板を大きくしすぎると、電極板の外周縁と外装体内面との距離が近接し、電極板外周縁にバリなどを生じていた場合にこのバリが外装体を損傷させるおそれがある。また、外装体として金属層と樹脂層のラミネート構造を採用している場合、前述のバリにより短絡を生じるおそれがあり、これを防止するためにも前述の如く面積比81%以下が好ましい。
【0016】
(2)前記課題を解決するため、本発明の一形態に係る電気化学セルは、前記外装体が融着可能な樹脂層と金属層のラミネート構造からなり、前記シーラントリングが融着可能な樹脂フィルムからなり、前記外装体の最内層に設けられている前記樹脂層に前記樹脂フィルムが溶着されて前記外装体に前記シーラントリングが一体化されるとともに、前記シーラントリングに前記電極板が密着されたことを特徴とする。
【0017】
外装体の最内層に設けた樹脂層とシーラントリングを構成する樹脂フィルムの溶着によりシーラントリングを外装体の貫通孔内面周縁側に一体化することによって、シーラントリングと外装体内面との密着部分を樹脂どうしの溶着により隙間無く密着できる。また、樹脂どうしの溶着によって、製造時の加圧印加などを受けても電解液漏れを生じない良好な溶着ができる。また、シーラントリングと外装体内面との溶着部分において水分の浸透を防止できる密着構造を提供できる。
【0018】
(3)前記一形態の電気化学セルでは、前記電極板が鋼板からなり、前記電極板に電極端子が取り付けられ、前記電極端子がNiまたはNi合金からなることを特徴とする。
【0019】
本形態によれば、鋼板からなる電極板に対し、NiまたはNi合金からなる電極端子を接合しているので、電極端子の表面に自然酸化膜が生成し難く、電極端子に対し外部端子などから良好なコンタクトを取ることができる。このため、電極端子表面に自然酸化膜が生成している場合に比べて外部端子と低い接触抵抗で接続が可能となり、過電圧の発生なども抑制できるので、電池の容量低下を引き起こすことがない。
【0020】
(4)前記一形態の電気化学セルでは、前記第1容器と前記第2容器が樹脂層と金属層のラミネート構造からなり、前記第1容器と前記第2容器がいずれも底壁部と周壁部を有し、前記第1容器の周壁部と前記第2容器の周壁部が重ね合わされて融着され、前記外装体が構成されたことを特徴とする。
【0021】
本形態の電気化学セルにおいて、第1容器の周壁部と第2容器の周壁部を重ね合わせて融着していると、容器どうしを接合している融着部を第1容器と第2容器の外周部に配することができるので、第1容器と第2容器からなる外装体の内容積が融着部の存在によって狭められることが無い。このため、小型のボタン形電池であっても外装体の内容積を確保し易く、電池として体積あたりの容量を確保し易くなる。
【0022】
(5)前記一形態の電気化学セルでは、前記金属層がAlまたはAl合金からなる構成を採用できる。
【0023】
樹脂層とAlまたはAl合金からなる金属層とのラミネート構造であれば、外装体として液密性、気密性、軽量性に優れ、電解液を収容する小型の電気化学セル用の外装体として優れる。
【発明の効果】
【0024】
本形態によれば、電気化学セルにおいて、シーラントリングと電極板を重ねた領域の面積をシーラントリング全体面積の35%以上としたので、シーラントリングと電極板の密着可能な面積を充分に確保することができ、シーラントリングと電極板の界面を介する電解液漏れを防止でき、水分の浸透を防止できる。
また、電極体の形状を整えることを目的として外装体の外側から加圧力を印加した場合であっても、液漏れの生じ難い電気化学セルを提供できる。
シーラントリングと電極板を重ねた領域の面積をシーラントリング全体面積の81%以下にすることができる。電極板を大きくしすぎると、電極板の外周縁と外装体内面との距離が近接し、電極板外周縁にバリなどを生じていた場合にこのバリが外装体を損傷させるおそれがある。外装体として金属層と樹脂層のラミネート構造を採用している場合、前述のバリにより短絡を生じるおそれがある。このため、前記面積を81%以下とすることにより、外装体の損傷防止に寄与し、短絡のおそれを無くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態に係る電気化学セルの外観を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る電気化学セルの内部構造を示す部分断面斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係る電気化学セルの分解斜視図である。
【
図4】第1実施形態に係る電気化学セルにおいて電極体の概形と電極板およびシーラントリングの位置関係を示す断面図である。
【
図5】第2実施形態に係る電気化学セルにおいて電極体の概形と電極板およびシーラントリングの位置関係を示す断面図である。
【
図6】外装体の貫通孔に対しシーラントリングと電極板を特定の外径として密着させた状態の第1の例を示す部分断面図。
【
図7】外装体の貫通孔に対しシーラントリングと電極板を特定の外径として密着させた状態の第2の例を示す部分断面図。
【
図8】外装体の貫通孔に対しシーラントリングと電極板を特定の外径として密着させた状態の第3の例を示す部分断面図。
【
図9】外装体の貫通孔に対しシーラントリングと電極板を特定の外径として密着させた状態の第4の例を示す部分断面図。
【
図10】従来の電気化学セルにおいて電極体の概形と電極板およびシーラントリングの位置関係を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る第1実施形態について図面を参照して説明する。
なお、以下の説明では、円盤状に形成されたボタン形、コイン形またはシリンダ形の電気化学セルとして、非水電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池(以下、単に「電池」という。)を例に挙げて説明する。
また、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更し表示しているため、各部材の相対的な大きさが図面に示す形態に限らないのは勿論である。
【0027】
[第1実施形態]
図1は第1実施形態に係る電池の斜視図、
図2は第1実施形態に係る電池の部分断面斜視図、
図3は同電池の分解斜視図である。
図1、
図2に示すように、本実施形態の電池(電気化学セル)1は、いわゆるボタン形の電池である。電池1は、電極体2と、電極体2に含浸される電解液(電解質溶液:図示せず)と、電極体2を収容した外装体10とを備えている。
【0028】
電極体2は、負極電極3および正極電極4を備えている。負極電極3は、つづら折り形状に折り畳まれている。正極電極4は、負極電極3と互い違いに積層するように負極電極3と交差する方向につづら折り形状に折り畳まれている。すなわち、本実施形態の電極体2は、負極電極3と正極電極4とが互い違いに積層するように折り畳まれた積層タイプの電極体である。電極体2を構成する負極電極3と正極電極4は、
図2、
図3の構成では円板状の電極本体を複数、帯状の連結部を介し数珠繋ぎ状に接続し、それらの一端側に個々に引出電極を形成したものをつづら折りしている。
【0029】
図1、
図2に示すように外装体10は、電極体2が収容される収容部12と、収容部12の外周12aに沿って折り曲げられた封止部15とを有する。封止部15は、絞り成形によって収容部12の外周12aに沿って折り曲げられている。
また、外装体10は、有底筒状の第1容器17と、有底筒状の第2容器18とを備えている。第1容器17および第2容器18は、それぞれの中心軸が同軸となるように配置されている。以下、第1容器17および第2容器18の中心軸を
図2に示すように中心軸Oと呼称し、中心軸Oに沿う方向を軸方向と呼称し、中心軸Oに直交する方向を径方向と呼称する。なお、中心軸Oは収容部12の中心軸となる。
【0030】
第1容器17は、ラミネート部材により形成された第1部材である。この形態のラミネート部材は、AlまたはAl合金からなる金属シートと、第1容器17における内側面を構成する樹脂製の融着層と、外側面を構成する樹脂製の保護層とが積層されている。
融着層は、例えば、ポリオレフィンのポリエチレンやポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂を用いて形成される。ポリオレフィンとして以下の材質を適宜選択できる。ポリオレフィンとしては、高圧法低密度ポリエチレンや低圧法高密度ポリエチレン、インフレーションポリプロピレンフィルム、無延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、直鎖状短鎖分岐ポリエチレンなどの材質を使用できる。保護層は、上述のポリオレフィンや、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ナイロンなどを用いて形成される。融着層および保護層は、それぞれ金属シートとの間に接合層を介して、熱融着または接着剤により接合される。
【0031】
第1容器17は、円板状の第1底壁部21および筒状の第1周壁部22を備えている。第1底壁部21の中央部には丸孔型の第1貫通孔23が形成されている。第1貫通孔23は、中心軸Oと同軸に形成されている。
第1底壁部21の内面側には、第1シーラントリング(絶縁フィルム)24を介して円板状のステンレス鋼板などの鋼板からなる負極電極板25が熱融着されている。第1シーラントリング24は、ポリオレフィンのポリエチレンやポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂層により、不織布などからなる中間層の表裏両面を挟んで構成されている。第1シーラントリング24は、3層構造の絶縁フィルムをリング状に加工したものである。
【0032】
負極電極板25の内面は、電極体2の負極電極3に接続されている。負極電極板25の外面は、中央にNiあるいはNi合金からなる円板状の負極電極端子26が溶接されている。負極電極端子26は、第1貫通孔23を貫通して外部に露出され、電池1の負極端子として機能する。なお、負極電極板25をNiあるいはNi合金製とすれば、負極電極端子26を略し、負極電極板25を負極電極端子として用いることもできる。
【0033】
第2容器18は、第1容器17と同様に、ラミネート部材により形成された第2部材である。ラミネート部材は、AlまたはAl合金からなる金属シートと、第2容器18における内側面を構成する樹脂製の融着層と、外側面を構成する樹脂製の保護層と、が積層されている。融着層は、第1容器17の融着層と同じ熱可塑性樹脂を用いて形成される。保護層は、第1容器17の保護層と同じ熱可塑性樹脂を用いて形成される。
【0034】
第2容器18は、円板状の第2底壁部31と筒状の第2周壁部32および折曲部33を備えている。第2周壁部32は、収容部12の外周12aを形成する。
第2底壁部31には、中央に丸孔型の第2貫通孔35が形成されている。第2貫通孔35は、その中心軸を中心軸Oと同軸にするように配置されている。
第2底壁部31の内面には、第2シーラントリング(絶縁フィルム)37を介してステンレス鋼板などの鋼板からなる円板状の正極電極板38が熱融着されている。第2シーラントリング37は、第1シーラントリング24と同様に、2層の熱可塑性樹脂層と中間層による3層構造とされている。
【0035】
正極電極板38はステンレス鋼板などの鋼板から、もしくは、AlまたはAl合金からなる板材からなることが好ましい。
正極電極板38の内面は、電極体2の正極電極4に接続されている。正極電極板38の外面は、中央にNiあるいはNi合金からなる円板状の正極電極端子39が抵抗溶接部またはレーザー溶接部を介し溶接されている。正極電極端子39は、第2貫通孔35を貫通して外部に露出され、電池1の正極端子として機能する。
正極電極端子39はNi板あるいはNiにCrやMo、Coなどを添加したNi合金板、あるいは、ステンレス鋼板、Fe板、もしくは、CuまたはCu合金板からなることが好ましい。また、接触抵抗の低減のために、上述のようなNi板や各種Ni合金板にAuメッキを施すことが好ましく、ステンレス鋼板、Fe板、あるいはCu板、Cu合金板にNiメッキを施して用いることもできる。
【0036】
負極電極3を構成する負極集電体は、本実施形態では、例えば、Cu、Niあるいはステンレス鋼などの金属材料から構成されている。そして、これらの金属材料からなる負極側の引出電極3dが負極集電体から延びている。正極電極4を構成する正極集電体は本実施形態ではAlまたはAl合金から構成され、この正極集電体から延びる正極側の引出電極がAlまたはAl合金から形成されている。
図3に示すように正極電極4の上端部には、AlまたはAl合金からなる帯状の引出電極4aが設けられ、この引出電極4aが正極電極板38の内面(
図3では下面)に溶接部を介し電気的かつ機械的に接合されている。
【0037】
正極電極4は
図3に例示するように連結部4eを介し複数の電極本体4dを数珠繋ぎ状に連結して構成されるが、一例として、電極本体4dおよび連結部4eと同一平面形状の正極集電体に正極活物質を塗布した構造の全体を樹脂絶縁材料からなるセパレーターで覆った構造を採用できる。セパレーターで覆った構造の概形が
図3に示す形状をなしており、全体をつづら折りすることができる。負極電極3も正極電極4と同等構造であり、全体をつづら折りすることができる。なお、正極電極4としてセパレーターで覆った構造を採用した場合、負極電極3はセパレーターで覆っていない構造を採用しても良い。
【0038】
以上説明のように構成された負極電極3と正極電極4をそれぞれ交互につづら折り構造として重ねることで、
図2または
図3に示す電極体2が構成されている。負極電極3と正極電極4を構成する正極集電体は本実施形態においてはAlまたはAl合金から構成されている。このため、本実施形態では負極側の引出電極3dと正極側の引出電極がいずれもAlまたAl合金から形成されている。
本実施形態において用いるAl合金について特に制限は無く、JIS規定1000~7000に規定される各種のAl合金を適宜用いることができ、その他、電池用集電体に適用できるAl合金のいずれを用いても良い。
【0039】
正極電極端子39は
図2、
図3に示すように正極電極板38の中央部に配置されるとともに、正極電極端子39と正極電極板38は2箇所の抵抗溶接部あるいはレーザー溶接部により接合されている。
正極電極端子39は、外部端子の接触を受けるので、2箇所以上の抵抗溶接部あるいはレーザー溶接部によって確実に接合されていることが好ましい。
【0040】
図3に示すように電極体2において、正極電極板38の内面(
図3に示す下面)の周辺部から正極電極板38の中央部近くまで達するように引出電極4aの先端部が延在され、引出電極4aの先端部が正極電極板38に溶接されている。また、電極体2において負極電極側にも同様に図示略の引出電極が設けられ負極電極板25に溶接されている。
【0041】
先に説明のように、第1容器17および第2容器18をラミネート部材から構成し、第1容器17および第2容器18に負極電極端子26、正極電極端子39を設けている。
電極端子26、39を設けることにより、封止部15から外部に端子部を突出させる必要がない。よって、電池1を小形にできる。
【0042】
第2周壁部32は、第2底壁部31の外周31aから第1容器17の第1底壁部21に向けて筒状に折り曲げられている。折曲部33は、第2周壁部32のうち、第1底壁部21側の端部32aから第2周壁部32に沿って第2底壁部31側へ円筒状に折り曲げられている。折曲部33は、第2周壁部32に対して径方向外側に間隔をおいて配置されている。折曲部33および第2周壁部32は、断面U字状に形成されている。
第2周壁部32は、第1周壁部22の内側で、かつ、折曲部33の内側に配置されている。また、折曲部33は、第1周壁部22の内側に配置されている。折曲部33の融着層と第1周壁部22の融着層とが熱融着されている。
【0043】
折曲部33の融着層と第1周壁部22の融着層とが熱融着されることにより、封止部15が形成される。よって、収容部12の外周が封止部15で封止される。これにより、第1容器17と第2容器18が重ね合わされて外装体10が形成される。
折曲部33の融着層と第1周壁部22の融着層とを熱融着する手段として、例えばヒータやレーザーなどの熱源を用いる熱融着が挙げられる。また、折曲部33の融着層と第1周壁部22の融着層とは、熱融着の他に、例えば超音波溶接を用いる接合などが適用可能である。
封止部15は、収容部12の外側に円筒状に形成され、かつ、収容部12の外周12aに沿って折り曲げられている。収容部12の外周12aは、第2周壁部32で形成される。封止部15は、平面視において、円形に形成されている。
【0044】
封止部15を収容部12の外周12aに沿って折り曲げることにより、封止部15を収容部12の外周12aに配置することができる。よって、封止部15は、収容部12の中心軸Oに対して直交する方向への張出が小さく抑えられる。これにより、特に、小形の電池1において、電池1の体積当たりの容量を高めることができる。
【0045】
また、封止部15は、絞り成形によって収容部12の外周12aに沿って折り曲げられている。よって、封止部15は、第1容器17および第2容器18の他の部位に比べて薄肉に形成されている。封止部15を薄肉に形成することにより、収容部12の中心軸Oに対して直交する方向への封止部15の張出が一層小さく抑えられる。
また、第1容器17および第2容器18の融着層が薄肉に形成されることにより、第1容器17および第2容器18の金属シート間の隙間が小さく抑えられる。これにより、封止部15から外装体10の内部に水が浸入することを一層良好に抑えることができる。
【0046】
収容部12は、第1容器17と第2容器18とが重ね合わされることにより密封空間が形成される。具体的には、収容部12は、第1底壁部21、第2底壁部31、および第2周壁部32により画成されている。
【0047】
本実施形態において、第1容器17と第2容器18からなる外装体10は平面視円形状であり、そこに収容されている第1シーラントリング24、負極電極板25、負極電極端子26、電極体2、正極電極板38、第2シーラントリング37、正極電極端子39は、いずれも外形が平面視円形状である。このため、第1シーラントリング24、負極電極板25、電極体2、正極電極板38、第2シーラントリング37を平面視した外形は相似形状とされている。
また、第1シーラントリング24、負極電極板25、負極電極端子26、電極体2、正極電極板38、第2シーラントリング37、正極電極端子39のそれぞれの中心部はいずれも中心軸Oに軸心を一致させるように位置合わせされて積層されている。
【0048】
本形態において、第1シーラントリング24、第2シーラントリング37の外径はいずれも第2容器18における第2周壁部32の近くまで達する大きさに形成されている。このため、第1シーラントリング24、第2シーラントリング37の外周部は第2容器18における第2周壁部32の近くまで延在されている。
負極電極板25はその外周部を第1シーラントリング24の外周部近傍まで延在させる大きさに形成され、正極電極板38はその外周部を第2シーラントリング37の外周近傍まで延在させる大きさに形成されている。
また、電極体2は平面視円形状であり、その外径が第1シーラントリング24あるいは第2シーラントリング37の外径と同等に形成されている。
【0049】
本実施形態において、負極電極板25の直径は、シーラントリング24の内径に対し、2.2倍以上であることが好ましく、正極電極板38の直径は、シーラントリング37の内径に対し2.2倍以上であることが好ましい。例えば、シーラントリング37の内径を3.5mmとした場合、正極電極板38の直径を7.7mm以上とすることができる。この場合の第2底壁部31とシーラントリング37と電極版38の相対関係の一例を
図8に示しておく。
本実施形態において、負極電極板25の直径は、第1貫通孔23の内径に対し、1.5倍以上であることが好ましく、正極電極板38の直径は、第2貫通孔35の内径に対し、1.5倍以上であることが好ましい。例えば、第2貫通孔35の内径を5mmとした場合、正極電極板38の直径を7.5mm以上とすることができる。この場合の第2底壁部31とシーラントリング37と電極版38の相対関係の一例を
図9に示しておく。
【0050】
電極板25、38の直径がシーラントリング24、37の内径に対し2.2倍未満であると、電極板25、38の大きさが小さくなるため、電極板25、38に溶着される状態で設けられるシーラントリング24、37との溶着面積を充分に確保できなくなるおそれがある。電極板25、38に接触する状態で設けられるシーラントリング24、37との溶着面積を充分に確保できなくなると、電極板25とシーラントリング24の間、あるいは、電極板38とシーラントリング37の間から電解液が漏洩するおそれが生じる。この場合の第2底壁部31とシーラントリング37と電極版38の相対関係の一例を
図6、
図7に示しておく。
【0051】
また、本実施形態において、負極電極板25の直径は、シーラントリング24の内径に対し、3.1倍以下であることが好ましく、正極電極板38の直径は、シーラントリング37の内径に対し3.1倍以下であることが好ましい。例えば、シーラントリング24の内径を3.5mmとした場合、負極電極板25の直径を10.85mm以下とすることができる。このため、例えば、上述の関係と合わせて、正極電極板38の直径は、シーラントリング37の内径に対し2.2倍以上3.1倍以下であることが好ましい。
【0052】
本実施形態において、負極電極板25の直径は、第1貫通孔23の内径に対し、2.2倍以下であることが好ましく、正極電極板38の直径は、第2貫通孔35の内径に対し、2.2倍以下であることが好ましい。例えば、第1貫通孔23の内径を5mmとした場合、負極電極板25の直径を11mm以下とすることができる。このため、例えば、上述の関係と合わせて、正極電極板38の直径は、第2貫通孔35の内径に対し、1.5倍以上2.2倍以下であることが好ましい。
【0053】
前述の関係とは別に、本実施形態では以下の関係を満足することが好ましい。
シーラントリング24と電極板25を重ねた場合の重なり領域の面積をシーラントリング24の全体面積に対する比率で35%以上81%以下とすることが好ましい。
シーラントリング37と電極板38を重ねた場合の重なり領域の面積をシーラントリング37の全体面積に対する比率で35%以上81%以下とすることが好ましい。
上述の範囲内であっても面積比率は、50~81%の範囲がより好ましい。
【0054】
先に説明した通り本実施形態の電気化学セル1においては、つづら折り構造の電極体2の形を整えるために外装体10の外側から加圧力を印加する処理を行う。また、この加圧処理を施して電気化学セル1を製造した後であっても、シーラントリング24と負極電極板25との界面から、あるいは、シーラントリング37と正極電極板38との界面からの液漏れを防止し、水分の浸透を防止する必要がある。
【0055】
このため、シーラントリング24と負極電極板25の界面の溶着面積と、シーラントリング37と正極電極板38の界面の溶着面積を充分に確保する必要がある。
上述のように、シーラントリング24と電極板25を重ねた場合の重なり領域の面積をシーラントリング24の全体面積の35%以上とすることにより、充分な溶着面積を確保し、電気化学セル1としての電解液漏れや水分の浸透を防止できる。
上述のように、シーラントリング37と電極板38を重ねた場合の重なり領域の面積をシーラントリング37の全体面積の35%以上とすることにより、充分な溶着面積を確保し、電気化学セル1としての電解液漏れや水分の浸透を防止できる。
【0056】
なお、シーラントリング24と電極板25を重ねた場合の重なり領域の面積をシーラントリング24の全体面積の81%を超える面積にすると、設計上、シーラントリング24の外周から電極板25がはみ出る場合がある。この場合、電極板25が第1容器17の第1底壁部21と接触し、保護層を傷つけてしまうおそれがある。
また、シーラントリング37と電極板38を重ねた場合の重なり領域の面積をシーラントリング37の全体面積の81%を超える面積にすると、設計上、シーラントリング37の外周から電極板38がはみ出る場合がある。この場合、電極板38が第2容器18の第2底壁部31と接触し、保護層を傷つけてしまうおそれがある。
【0057】
図6は、正極電極板38の直径をシーラントリング37の内径の1.3倍とした場合の積層構造の一例を示す。第2底壁部31に形成されている第2貫通孔35はφ5mm、第2底壁部31の内面側に溶着されているシーラントリング37の内径はφ3.5mm、正極電極板38の外径はφ4.4mmと仮定する。
図6に示す構成では電極板38の電極体2に対する面積比を10%とした状態を示す。また、
図6では、正極電極板38に取り付けられている正極電極端子39は記載を略している。
なお、
図6においては、第2底壁部31がその外側面を構成する樹脂製の保護層31aとAlまたはAl合金からなる金属層31bと内側面を構成する融着層31cの3層構造であることを示している。また、シーラントリング37がその内側面と外側面を構成する樹脂製の被覆層37aとそれらに挟まれた内部側の不織布などの中間層37bからなることを示している。
【0058】
図6の状態であると、シーラントリング37の内周部と正極電極板38の外周部とのオーバーラップ部分の幅が小さくなり、この部分を溶着できたとして、溶着面積が小さくなる。このため、外装体10の外側から加圧力を印加してつづら折り状の電極体2の膨らみ等を是正する作業を行った場合、シーラントリング37の内周部と正極電極板38の外周部との溶着部分の有効幅が小さくなり、溶着部分に剥離などを生じやすく、電解液の漏洩を生じるおそれが高くなる。
また、正極電極板38の外径が第2貫通孔35の内径より小さいか同等程度の場合、電極体2の膨らみ等を是正する加圧処理を行った場合、シーラントリング37と電極板38の溶着部分に大きな剥離力が作用するので、溶着部分の剥離が生じ易くなる。
【0059】
図7は、正極電極板38の直径をシーラントリング37の内径の1.8倍とした場合の積層構造の一例を示す。第2底壁部31に形成されている貫通孔35はφ5mm、第2底壁部31の内面側に溶着されているシーラントリング37の内径はφ3.5mm、電極板の外径はφ6.3mmと仮定する。
図7に示す構成では電極板38の電極体2に対する面積比を20%とした状態を示す。
【0060】
図7の状態であると、シーラントリング37の内周部と正極電極板38の外周部とのオーバーラップ部分の幅をある程度確保することはできるが、溶着の際、電極板38にシーラントリング37と第2底壁部31を押し付けながら溶着するので、
図7に示す状態では第2底壁部31と正極電極板38の外周部とのオーバーラップ部分の幅が不足し、溶着部分に剥離などを生じると、第2底壁部31とシーラントリング37との間の部分から電解液の漏洩を生じるおそれがある。
勿論、
図6の構造でも、溶着の際、電極板38にシーラントリング37と第2底壁部31を押し付けながら溶着するので、
図6に示す状態では第2底壁部31と正極電極板38の外周部とのオーバーラップ部分の幅が不足し、溶着部分に剥離などを生じると、シーラントリング37と第2底壁部31との界面を介し電解液の漏洩を生じるおそれもある。
【0061】
図6に示す構造よりも溶着部分の幅を確保して溶着部分の液密性を向上させるために、正極電極板38の直径をシーラントリング37の内径に対し2.2倍以上とすることが好ましい。
図8は、正極電極板38の直径をシーラントリング37の内径に対し2.2倍とした構造の一例を示す。
図8において正極電極板38の直径をシーラントリング37の内径に対し3.1倍とした場合の概形を2点鎖線で示した。
また、
図7に示す構造よりも溶着部分の幅を確保して溶着部分の液密性を向上させるために、正極電極板38の直径を第2貫通孔35の内径に対し、1.5倍以上とすることが好ましい。
図9は、正極電極板38の直径を第2貫通孔35の内径に対し、1.5倍とした構造の一例を示す。
図9において正極電極板38の直径を第2貫通孔35の内径に対し3.1倍とした場合の概形を2点鎖線で示した。
図8と
図9に示す電極板38とシーラントリング37と第2底壁部31の貫通孔35との関係は、負極側でも同等な関係とすることが好ましく、電極板25とシーラントリング24と第1底壁部21と貫通孔23も同様の関係とすることが好ましい。
【0062】
なお、負極電極板25と正極電極板38で電極体2を上下から挟み付けながら加圧した場合、加圧力の強い領域と加圧力の弱い領域との圧力差が大きくなり、電極体2を構成する電極間の隙間のバラツキが大きくなる結果、電気化学セル1として使用中に急激に容量低下を引き起こすなどの問題を生じるおそれもある。
逆に、面積比(電極体2を平面視した場合の面積に対する電極板の面積比)が100%を超えると、負極電極板25の外周および正極電極板38の外周が外装体10の内面に接近し過ぎるため、これらの電極周縁部にバリなどを生じていた場合に外装体10の内面に電極板25、38の周縁部が接触するおそれがある。
電極25、38の周辺部のバリが外装体10を構成するラミネート構造の金属層に仮に接触した場合、短絡構造となるおそれがある。
【0063】
以上のように構成された電池1を製造するには、第1容器17と第2容器18の間に
図3に示すように第1シーラントフィルム24、負極電極板25、負極電極端子26、電極体2、正極電極板38、正極電極端子39、第2シーラントフィルム37をこの順で積層できるように収容し、第1容器17と第2容器18から構成される外装体10の内部に電解液を充填し、第1容器17と第2容器18を重ねて互いの周壁部分を熱溶着することができる。
【0064】
電池1を製造する際、負極電極板25に負極電極端子26を、正極電極板38に正極電極端子39を、予め抵抗溶接あるいはレーザー溶接等により接合して一体化しておくことが好ましい。
それらの後、電極体2の正極電極板38の内面側に正極側の引出電極を溶接し、電極体2の負極電極板25の内面側に負極側の引出電極を溶接することができる。
なお、この例では電極板に電極端子を溶接し、その後に電極体の引出電極を溶接する順で説明したが、電極端子と引出電極を溶接する順序は逆であっても良く、どちらが先でも差し支えない。
【0065】
以上説明の如く構成された電池1にあっては、外装体10の内部に収容されている電極体2の形状を整えることを目的として第1シーラントリング24~第2シーラントリング37を積層した方向に沿って外装体10の外側から加圧力を印加する処理を行う。
この加圧時において、電極板25、38の外周部を電極体2の外周部近傍まで延在させる大きさとしていることで電極体2の全体に均一な加圧力を印加できる。これにより、電極体2を構成する正極と負極の電極間隔を電極体2の全体で均一化できる。この結果、電極体2において電池反応を均一化できる結果、急激な劣化を生じない電池1を提供できる。
【0066】
上述した電解液の漏洩を防止する観点から、また、負極電極板25と正極電極板38を平面視した場合の面積は、電極体2を平面視した場合の面積に対し、30%~110%の範囲であることが好ましい。
この面積比が30%未満であると、負極電極板25と正極電極板38で電極体2を上下から挟み付けながら加圧した場合、加圧力の強い領域と加圧力の弱い領域との圧力差が大きくなることから、電解液が漏液し易くなるおそれがある。
また、この圧力差により、電極体2を構成する電極間の隙間のバラツキが大きくなる結果、電気化学セル1として使用中に急激に容量低下を引き起こすなどの問題を生じるおそれもある。
【0067】
逆に、前記面積比が110%を超えると、電極板25、38に対する電極体2の相対的な面積比が小さくなる、つまり、電極体が小さくなりすぎることにより充分な電気的特性が得られなくなることから好ましくない。これに加えて、負極電極板25の外周および正極電極板38の外周が外装体10の内面に接近し過ぎるため、これらの電極25、38の外周部にバリなどを生じていた場合、外装体10の内面に電極板25、38が接触するおそれがある。
特に、先に説明したように、負極電極板25と正極電極板38を平面視した場合の面積について、電極体2を平面視した場合の面積に対し、面積比で30%~110%の範囲としているので、電極体2の全体に均一に加圧力を印加できる。
【0068】
上述の面積比は、上述の範囲内であっても、60~100%の範囲とすることがより好ましい。
面積比がこの範囲であれば、電極体2の全体により均一に加圧力を印加できることに加えて、負極側の引出電極3dや正極側の引出電極4aと負極電極板25と正極電極板38との重なる面積を最大とすることができ、接触抵抗を最小化できるためである。
面積比を60~100%の範囲とすることにより、電極板25、38で電極体2を挟んで加圧する場合に、電極体2に対しより均等に加圧力を作用させることができ、電極体2の膨らみを是正して電気化学セル1の膨らみ等を矯正できる。
【0069】
以上説明の如く構成された電池1にあっては、ステンレス鋼板からなる正極電極板38に対し、NiまたはNi合金からなる正極電極端子39を接合しているので、電極端子39の表面に自然酸化膜が生成し難く、正極電極端子39に対し外部端子などから良好なコンタクトを取ることができる。このため、正極電極端子39の表面に自然酸化膜が生成している場合に比べて外部端子と低い接触抵抗で接続が可能となり、過電圧の発生なども抑制できるので、容量低下を引き起こすことがない電池1を提供できる。
【0070】
本形態の電池1において、第1容器17の第1周壁部22と第2容器18の第2周壁部32をU字状に重ね合わせて融着していると、容器どうしを接合している融着部を第1容器17と第2容器18の外周部に配することができる。このため、第1容器17と第2容器18からなる外装体10の内容積が融着部の存在によって狭められることが無い。従って、小型のボタン形電池であっても外装体10の内容積を確保し易く、電池1として体積あたりの容量を確保し易くなる。
また、小型薄型の電池1であっても、容器どうしを接合している融着部について第1容器17と第2容器18の外周底部から外周上部まで容器17、18の高さを充分に活用した最大高さ分の融着面積としているので、充分な融着面積を確保することができ密閉性の良好な電池構造を得ることができる。
【0071】
[第2実施形態]
図5は第2実施形態の電池(電気化学セル)50を示す断面図であり、この第2実施形態の電池50では負極電極板25Aの外径と、正極電極板38Aの外径がいずれも第1実施形態の電極板より小さく形成されている。負極電極板25Aは第1実施形態の負極電極板25と外径のみが異なり、構成材料と内径および厚さは同等である。正極電極板38は第1実施形態の正極電極板38と外径のみが異なり、構成材料と内径及び厚さは同等である。
また、負極電極板25Aの外側に負極電極板25Aと同一厚さのリング板からなる加圧補助環状体51が配置され、正極電極板38Aの外側に正極電極板38Aと同等厚さのリング板からなる加圧補助環状体52が配置されている。加圧補助環状体51、52の外径は電極体2の外径と同等に形成されている。
加圧補助環状体51、52は金属板あるいは硬質樹脂板からなる。
電池50においてその他の構成は第1実施形態の電池1の構造と同等であるので、その他の部分の構成説明は省略する。
【0072】
図5に示す構造の電池50において、外装体10の内部に収容されている電極体2の形状を整えることを目的として第1シーラントリング24~第2シーラントリング37を積層した方向に沿って外装体10の外側から内側に向けて加圧力を印加する処理を行う。
この加圧時において、加圧補助環状体51、52の外周部を電極体2の外周部近傍まで延在させる大きさとしていることで、負極電極板25Aと加圧補助環状体51および正極電極板38Aと加圧補助環状体52により、電極体2の全体に均一な加圧力を加えることができる。これにより、電極体2を構成する正極と負極の電極間隔を電極体2の全体で均一化できる。この結果、電極体2において電池反応を均一化できる結果、急激な劣化を生じない電池1を提供できる。
【0073】
なお、先に説明した実施形態では、基本的に平面視円形状の電気化学セルについて説明したが、電気化学セルの平面視形状は円形状に限らず、三角形状などの多角形状、楕円形状、レーストラック形状など、種々の形状を採用可能であり、本形態の電気化学セルにおいて特に平面視形状に制限はない。
【0074】
平面視円形状ではない電気化学セルを構成する場合、電極板や加圧補助環状体の形状は電気化学セルの平面視形状に合わせた外形とする。
例えば、平面視三角形状の電気化学セルを構成する場合は電極板も平面視三角形状を採用し、平面視楕円状の電気化学セルを構成する場合は電極板も平面視楕円状とする。これらの場合も電極板の平面視形状は電極体の平面視形状の相似形とすることが好ましい。
また、電極板と加圧補助環状体を組み合わせる場合は、これらを組み合わせた平面視形状が電極体の平面視形状に相似形状であれば良い。いずれにおいても、電極体の平面視形状に合わせて電極体の全体を均一に加圧できるように電極板の形状と加圧補助環状体の形状を調整すれば良い。
【0075】
電極体の平面視形状と電極板の平面視形状を相似形状として、電極板の外周部を全周に渡り電極体の外周部の近傍に配置すると、加圧時の圧力を電極体の全体に均一に付加することができる。また、電極板と加圧補助環状体を組み合わせた形状を電極板の平面視形状と相似形状として、組み合わせた形状の外周部を全周に渡り電極体の外周部の近傍に配置すると、加圧時の圧力を電極体の全体に均一に付加することができる。
この結果、電極体において正極側電極と負極側電極の電極間距離を均一にできるため、電池反応を均一化できる結果、急激な劣化を生じない電池50を提供できる。
【0076】
「電気化学セルの試作」
アルミニウム箔からなる金属シートをポリプロピレン製の融着層とナイロン製の保護層で挟んだ構成の
図3に示す円筒状の第1の容器(外径15.1mm)と、同等構造の
図3に示す第2の容器(外径15.1mm)を作成した。
ポリプロピレンからなる樹脂層で不織布の両面を覆った3層構成のシーラントリング(外径12mm:内径3.5mm)とステンレス鋼板からなる電極板を用いて
図6または
図7に示すように第1の容器の貫通孔の内側にシーラントリングと電極板を積層し、積層部分に上下から圧力を加えながら、175℃に加熱し、溶着した。第2の容器の貫通孔の内側にもシーラントリングと電極板を積層し、溶着した。
第1の容器の貫通孔は内径5mm、シーラントリングの挿通孔の内径は3.5mmとした。第1の容器と第2の容器に収容するつづら折り構造の電極体として外径14.2mmのものを想定した。第2の容器の貫通孔は内径5mm、シーラントリングの挿通孔の内径は3.5mmとした。
【0077】
上述の構造を採用する場合、以下の表1に示すように、シーラントリングの内径に対する電極板の直径比、外装体貫通孔の内径に対する電極板の直径比に設定し、更に、表1に示すシーラントリングと電極
板との重なり面積(*)、シーラントリングの面積に対する前記重なり面積(*)の比に設定して、複数の電気化学セルを試作した。
第1の容器と第2の容器を用い、これらの間に電解液を注入し、
図1 、
図2 に示すように第1の容器と第2の容器を嵌め込み溶着し、一体化して複数のボタン型の電気化学セルを組み立てた。
【0078】
これら電気化学セルの外装体を厚み方向に潰すように12.5kgの荷重を付加し、つづら折り構造の電極体の形を整えるとともに、電解液の漏れ発生の有無を確認した。
【0079】
【0080】
表1に示す結果から、シーラントリングの面積に対する重なり面積(シーラントリングと電極板との重なり面積) の比が35%~81% の範囲であれば、電気化学セルに荷重を
印加しても電解液漏れを生じないことが分かった。
なお、荷重を印加しても電解液漏れを生じないということは、外装体の貫通孔に対する
シーラントリングと電極板による溶着部分のシール性が充分であり、溶着部分を介し水分
の浸透を防止できる構造であることも意味する。
【0081】
このため、加圧を受けたとしても漏液を防止可能な構造とするために、シーラントリングの面積に対するシーラントリングと電極体との重なり面積の比を35%~81%の範囲に設定することが重要であると分かった。
また、より確実に漏液を防止可能な構造とするために、シーラントリングの内径に対し電極板の直径比を2.5倍以上に設定し、外装体(ラミネート)の貫通孔に対する直径比を1.8倍以上とした電極板であれば、製造バラツキ等を考慮しても、確実に漏液を生じない電気化学セルを製造できると想定できる。
【符号の説明】
【0082】
1…電池(電気化学セル)、2…電極体、3…負極電極、4…正極電極、
4a…正極側引出電極、10…外装体、
12…収容部、12a…収容部の外周、15…封止部、17…第1容器、
18…第2容器、21…第1底壁部、22…第1周壁部、23…第1貫通孔、
24…第1シーラントリング(絶縁フィルム)、25…負極電極板、
26…負極電極端子(貫通電極)、31…第2底壁部、
31a…保護層、31b…金属層、31c…融着層、
32…第2周壁部(収容部の外周)、35…第2貫通孔、
37…第2シーラントリング(絶縁フィルム)、37a…被覆層、37c…中間層、
38…正極電極板、39…正極電極端子(貫通電極)、50…電池(電気化学セル)、
51、52…加圧補助環状体。