(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】点火器組立体、保持部の成形方法、及びガス発生器
(51)【国際特許分類】
B60R 21/264 20060101AFI20230406BHJP
【FI】
B60R21/264
(21)【出願番号】P 2019040862
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】福本 健二
(72)【発明者】
【氏名】浮田 信一朗
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/157648(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/138612(WO,A1)
【文献】特開2015-074413(JP,A)
【文献】特開2018-187985(JP,A)
【文献】特開2019-018783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/264
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼剤を着火するための点火薬を収容する収容空間を含む点火器と、
前記点火器を支持するカラーと、
前記カラーに対して前記点火器を固定する、樹脂材料で形成された保持部と、を備え、
前記点火器は、
筒状の周壁と、前記周壁の一端を閉塞する蓋壁と、を有し、前記蓋壁が該点火器の作動時における前記点火薬の燃焼生成物の放出方向側に位置するように配置されたカップ体と、
前記カップ体の他端に形成された開口を閉塞するように配置され、前記カップ体と共に前記収容空間を画定する閉塞部と、を有し、
前記周壁は、該周壁の軸方向において、前記閉塞部に接触した接触領域と、前記接触領域よりも前記蓋壁側の領域であって前記閉塞部に接触しない非接触領域と、に区分され、
前記保持部は、前記接触領域の周囲を覆うことで前記カラーに対して前記点火器を固定するベース部と、前記ベース部に連続して形成され、前記非接触領域を包囲することで、前記非接触領域の周囲に前記燃焼剤が配置されることを抑制するように構成された環状の包囲壁と、を備え、
前記包囲壁の軸方向において、前記包囲壁の基端から先端までの長さが、前記非接触領域における軸方向の長さと略同等に形成され、
前記保持部における、前記ベース部の少なくとも一部を含む第1部位と、前記第1部位よりも前記放出方向側の部位であって前記包囲壁の先端を含む第2部位と、の間には、前記点火器が作動することで前記包囲壁に荷重が掛かったときに、前記第2部位が前記第1部位と比べて優先的に径方向外向きに変形するように、脆弱部が形成されている、
点火器組立体。
【請求項2】
前記包囲壁は、厚肉部と、周方向に沿って延在すると共に径方向の厚みが前記厚肉部よりも薄い薄肉部と、を有し、
前記脆弱部は、前記薄肉部として形成されている、
請求項1に記載の点火器組立体。
【請求項3】
前記包囲壁の周方向に沿って延在すると共に径方向に凹んだ溝部が前記包囲壁に形成されることで、前記薄肉部が形成されている、
請求項2に記載の点火器組立体。
【請求項4】
前記溝部の前記径方向における深さは、前記厚肉部の前記径方向における厚みの1/3以上3/4以下である、
請求項3に記載の点火器組立体。
【請求項5】
燃焼剤を着火するための点火薬を収容する収容空間を含む点火器と、
前記点火器を支持するカラーと、
前記カラーに対して前記点火器を固定する、樹脂材料で形成された保持部と、を備え、
前記点火器は、
筒状の周壁と、前記周壁の一端を閉塞する蓋壁と、を有し、前記蓋壁が該点火器の作動時における前記点火薬の燃焼生成物の放出方向側に位置するように配置されたカップ体と、
前記カップ体の他端に形成された開口を閉塞するように配置され、前記カップ体と共に前記収容空間を画定する閉塞部と、を有し、
前記周壁は、該周壁の軸方向において、前記閉塞部に接触した接触領域と、前記接触領域よりも前記蓋壁側の領域であって前記閉塞部に接触しない非接触領域と、に区分され、
前記保持部は、前記接触領域の周囲を覆うことで前記カラーに対して前記点火器を固定するベース部と、前記ベース部に連続して形成され、前記非接触領域を包囲することで、前記非接触領域の周囲に前記燃焼剤が配置されることを抑制するように構成された環状の包囲壁と、を備え、
前記保持部における、前記ベース部の少なくとも一部を含む第1部位と、前記第1部位よりも前記放出方向側の部位であって前記包囲壁の先端を含む第2部位と、の間には、前記点火器が作動することで前記包囲壁に荷重が掛かったときに、前記第2部位が前記第1部位と比べて優先的に径方向外向きに変形するように、脆弱部が形成されており、
前記第1部位が第1の樹脂材料により形成され、前記第2部位が前記第1の樹脂材料よりも硬化時期の遅い第2の樹脂材料により形成され、
前記脆弱部は、前記第1部位と前記第2部位との間の界面として形成されている
、
点火器組立体。
【請求項6】
前記第1の樹脂材料の方が前記第2の樹脂材料よりも融点が高い、
請求項5に記載の点火器組立体。
【請求項7】
燃焼剤を着火するための点火薬を収容する収容空間を含む点火器と、
前記点火器を支持するカラーと、
前記カラーに対して前記点火器を固定する、樹脂材料で形成された保持部と、を備え、
前記点火器は、
筒状の周壁と、前記周壁の一端を閉塞する蓋壁と、を有し、前記蓋壁が該点火器の作動時における前記点火薬の燃焼生成物の放出方向側に位置するように配置されたカップ体と、
前記カップ体の他端に形成された開口を閉塞するように配置され、前記カップ体と共に前記収容空間を画定する閉塞部と、を有し、
前記周壁は、該周壁の軸方向において、前記閉塞部に接触した接触領域と、前記接触領域よりも前記蓋壁側の領域であって前記閉塞部に接触しない非接触領域と、に区分され、
前記保持部は、前記接触領域の周囲を覆うことで前記カラーに対して前記点火器を固定するベース部と、前記ベース部に連続して形成され、前記非接触領域を包囲することで、前記非接触領域の周囲に前記燃焼剤が配置されることを抑制するように構成された環状の包囲壁と、を備え、
前記保持部における、前記ベース部の少なくとも一部を含む第1部位と、前記第1部位よりも前記放出方向側の部位であって前記包囲壁の先端を含む第2部位と、の間には、前
記点火器が作動することで前記包囲壁に荷重が掛かったときに、前記第2部位が前記第1部位と比べて優先的に径方向外向きに変形するように、脆弱部が形成されており、
前記包囲壁は、前記周壁の前記非接触領域との間に環状の隙間を形成し、
前記隙間の大きさは、前記燃焼剤の大きさよりも小さい
、
点火器組立体。
【請求項8】
燃焼剤を着火するための点火薬を収容する収容空間を含む点火器と、
前記点火器を支持するカラーと、
前記カラーに対して前記点火器を固定する、樹脂材料で形成された保持部と、を備え、
前記点火器は、
筒状の周壁と、前記周壁の一端を閉塞する蓋壁と、を有し、前記蓋壁が該点火器の作動時における前記点火薬の燃焼生成物の放出方向側に位置するように配置されたカップ体と、
前記カップ体の他端に形成された開口を閉塞するように配置され、前記カップ体と共に前記収容空間を画定する閉塞部と、を有し、
前記周壁は、該周壁の軸方向において、前記閉塞部に接触した接触領域と、前記接触領域よりも前記蓋壁側の領域であって前記閉塞部に接触しない非接触領域と、に区分され、
前記保持部は、前記接触領域の周囲を覆うことで前記カラーに対して前記点火器を固定するベース部と、前記ベース部に連続して形成され、前記非接触領域を包囲することで、前記非接触領域の周囲に前記燃焼剤が配置されることを抑制するように構成された環状の包囲壁と、を備え、
前記保持部における、前記ベース部の少なくとも一部を含む第1部位と、前記第1部位よりも前記放出方向側の部位であって前記包囲壁の先端を含む第2部位と、の間には、前記点火器が作動することで前記包囲壁に荷重が掛かったときに、前記第2部位が前記第1部位と比べて優先的に径方向外向きに変形するように、脆弱部が形成されており、
前記包囲壁は、周方向において所定の間隔を空けて環状に配列された複数の断続壁によって形成され、
前記所定の間隔は、前記燃焼剤の大きさよりも小さい
、
点火器組立体。
【請求項9】
前記所定の間隔は、一の前記断続壁の周方向における長さよりも短い、
請求項8に記載の点火器組立体。
【請求項10】
請求項5又は6に記載の点火器組立体における保持部の成形方法であって、
前記第1の樹脂材料を溶融し、硬化することで、前記第1部位を成形する、第1部位成形工程と、
前記第1の樹脂材料が硬化した後で、前記第2の樹脂材料を溶融し、硬化することで、前記第2部位を成形する、第2部位成形工程と、を含む、
点火器組立体における保持部の成形方法。
【請求項11】
請求項1から9の何れか一項に記載の点火器組立体と、前記カラーが固定され、前記燃焼剤が内部に配置されるハウジングと、を含む、ガス発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生器における点火器組立体、及び点火器組立体における保持部の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアバッグ用ガス発生器等の起動装置として、点火器が広く用いられている。点火器をガス発生器に取り付ける場合、ハウジング側に取り付けられたカラーに樹脂材料からなる保持部を介して点火器を固定する方法が知られている。これに関連して、点火器の周囲に環状部材を配置することで、点火器の周囲にガス発生剤が配置されることを抑制し、ガス発生剤の燃焼残りや燃焼遅れを発生し難くしたガス発生器が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ガス発生器の動作時においては、点火器が作動することにより、燃焼剤を着火するための点火薬を収容した金属カップが破裂することで火炎が放出される。樹脂材料からなる保持部を介して点火器をカラーに固定する構造を採用した場合、点火器の作動時に保持部に作用する荷重によって保持部が変形し、保持部において点火器とカラーとを固定する部位に亀裂や破損が生じる場合がある。そのような場合、亀裂や破損の状態によっては、点火器の保持が不十分となって点火器が保持部から浮き上がったり、ガス発生器としてのシール性が損なわれたりする虞がある。
【0005】
本願開示は、上記した問題に鑑みてなされたものであり、点火器の作動時に、点火器をカラーに固定するための保持部に亀裂や破損が生じることによる不具合を抑制可能な点火器組立体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本願開示は、以下の構成を採用した。即ち、本願開示の点火器組立体は、燃焼剤を着火するための点火薬を収容する収容空間を含む点火器と、前記点火器を支持するカラーと、前記カラーに対して前記点火器を固定する、樹脂材料で形成された保持部と、を備え、前記点火器は、筒状の周壁と、前記周壁の一端を閉塞する蓋壁と、を有し、前記蓋壁が該点火器の作動時における前記点火薬の燃焼生成物の放出方向側に位置するように配置されたカップ体と、前記カップ体の他端に形成された開口を閉塞するように配置され、前記カップ体と共に前記収容空間を画定する閉塞部と、を有し、前記周壁は、該周壁の軸方向において、前記閉塞部に接触した接触領域と、前記接触領域よりも前記蓋壁側の領域であって前記閉塞部に接触しない非接触領域と、に区分され、前記保持部は、前記接触領域の周囲を覆うことで前記カラーに対して前記点火器を固定するベース部と、前記ベース部に連続して形成され、前記非接触領域を包囲することで、前記非接触領域の周囲に前記燃焼剤が配置されることを抑制するように構成された環状の包囲壁と、を備え、前記保持部における、前記ベース部の少なくとも一部を含む第1部位と、前記第1部位よりも前記放出方向側の部位であって前記包囲壁の先端を含む第2部位と、の間には、前記点火器が作動することで前記包囲壁に荷重が掛かったときに、前記第2部位が前記第1部位と比べて優先的に径方向外向きに変形するように、脆弱部が形成されている
。
【0007】
本願開示の点火器組立体によると、保持部に形成された包囲壁により、非接触領域の周囲に燃焼剤が配置されることが抑制される。つまり、仮に、包囲壁が存在しないと、カラーの上端面から蓋壁側に突出したカップ体の周囲に空間が形成されることになる。ここで、仮に、点火器の作動時に非接触領域の周囲に燃焼剤が配置されていると、該燃焼剤は、点火器に対して燃焼生成物の放出方向から外れた場所に位置することとなる。その結果、該燃焼剤が十分に燃焼せず、燃焼剤の燃焼残りや燃焼遅れが発生する虞がある。一方、本願開示の点火器組立体によると、非接触領域の周囲に燃焼剤が配置されることが抑制されるため、点火器の作動後における燃焼剤の燃焼残りや燃焼遅れの発生を抑制することができる。その結果、ガス発生器の出力性能を向上させることができる。また、包囲壁が燃焼剤に対してクッションの役割を果たすことでガス発生器組立後の燃焼剤のがたつきを防止することや、ガス発生器を容易に組み立てることができる。
【0008】
更に、本願開示の点火器組立体の保持部には、点火器が作動することで包囲壁に荷重が掛かったときに、第2部位が第1部位と比べて優先的に径方向外向きに変形するように、脆弱部が形成されている。これにより、包囲壁に掛かった荷重によるエネルギーが第2部位の変形に費やされ易くなるため、第1部位が大きく変形することが抑制される。その結果、点火器の作動時に第1部位に亀裂や破損が生じることが抑制される。ここで、第1部位は、カラーに対して点火器を固定するためのベース部の少なくとも一部を含む部位であるから、第1部位における亀裂や破損の発生を抑制することで、点火器の浮きやシール性の低下といった不具合の発生を抑制することができる。
【0009】
なお、本願開示の燃焼剤には、エアバッグを膨張させるための燃焼ガスを発生するガス発生剤や、ガス発生剤を燃焼させるための伝火薬が含まれる。また、第2部位の変形は、破壊や破断を伴うものであってもよく、第2部位が延性破壊や脆性破壊によって第1部位から分離してもよい。
【0010】
また、点火器組立体は、上述の脆弱部が以下のように形成されてもよい。即ち、点火器組立体において、前記包囲壁は、厚肉部と、周方向に沿って延在すると共に径方向の厚みが前記厚肉部よりも薄い薄肉部と、を有し、前記脆弱部は、前記薄肉部として形成されてもよい。これにより、点火器作動時に包囲壁に加えられる荷重によって保持部に生じる応力を、薄肉部に集中させることができ、第1部位よりも第2部位を優先的に変形させることができる。
【0011】
また、点火器組立体において、脆弱部を薄肉部として形成する場合、前記包囲壁の周方向に沿って延在すると共に径方向に凹んだ溝部が前記包囲壁に形成されることで、前記薄肉部が形成されてもよい。これによれば、包囲壁に溝が形成されているため、包囲壁に荷重が加えられたときに、包囲壁が径方向外側に倒れるように変形し易くなる。その結果、第1部位よりも第2部位を優先的に変形させ易くすることができる。なお、該溝は、包囲壁の内周面と外周面のうち、何れに形成されてもよい。
【0012】
また、点火器組立体において、薄肉部を上述の溝部によって形成する場合、前記厚肉部の外周面から前記溝部の底部までの前記径方向における深さは、前記厚肉部の前記径方向における厚みの1/3以上3/4以下であることが好ましい。そうすることで、第1部位よりも第2部位を優先的に変形させることが容易となる。
【0013】
また、点火器組立体は、上述の脆弱部が以下のように形成されてもよい。即ち、点火器組立体において、前記第1部位が第1の樹脂材料により形成され、前記第2部位が前記第1の樹脂材料よりも硬化時期の遅い第2の樹脂材料により形成され、前記脆弱部は、前記
第1部位と前記第2部位との間の界面として形成されてもよい。これによると、第1部位を形成する第1の樹脂材料と第2部位を形成する第2の樹脂材料の硬化時期を異ならせることで、第1部位と第2部位との間に界面を形成している。なお、硬化時期は成形時期とみなすことができる。これによって、第1部位を第1の樹脂材料によって先に射出成形し、硬化後にその上から第2の樹脂材料によって射出成形するものである。これにより、点火器作動時に包囲壁に加えられる荷重によって保持部に生じる応力を、上記界面に集中させることができる。その結果、前記第2部位が前記第1部位と比べて優先的に径方向外向きに変形させ易くすることができる。
【0014】
また、点火器組立体において、脆弱部を第1部位と第2部位との界面として形成する場合、以下の成形方法によって保持部を成形してもよい。即ち、本願開示の保持部の成形方法は、前記第1の樹脂材料を溶融し、硬化することで、前記第1部位を成形する、第1部位成形工程と、前記第1の樹脂材料が硬化した後で、前記第2の樹脂材料を溶融し、硬化することで、前記第2部位を成形する、第2部位成形工程と、を含んでもよい。
【0015】
また、点火器組立体において、脆弱部を第1部位と第2部位との界面に形成する場合、前記第1の樹脂材料の方が前記第2の樹脂材料よりも融点が高いものであってもよい。これにより、第2部位成形工程において、溶融状態の第2の樹脂材料を流し込んだ際に、硬化している第1の樹脂材料が溶融することを抑制できる。その結果、第1の樹脂材料と第2の樹脂材料との界面を形成することができ、また、第1の樹脂材料が溶融することによる第1部位の変形を抑制することができる。
【0016】
なお、上述した第1の樹脂材料と第2の樹脂材料は、同じ種類の樹脂材料であってもよいし、種類の異なる樹脂材料であってもよい。
【0017】
また、点火器組立体において、前記包囲壁は、前記周壁の前記非接触領域との間に環状の隙間を形成し、前記隙間の大きさは、前記燃焼剤の大きさよりも小さくてもよい。これによると、点火器の作動時にカップ体から包囲壁へ加わる衝撃を該間隙によって緩衝することができる。また、該間隙の大きさを燃焼剤の大きさよりも小さくすることで、該間隙に燃焼剤が入り込むことを抑制できる。
【0018】
また、点火器組立体において、前記包囲壁は、周方向において所定の間隔を空けて環状に配列された複数の断続壁によって形成され、前記所定の間隔は、前記燃焼剤の大きさよりも小さく形成されてもよい。これによれば、包囲壁が複数の断続壁によって形成されているため、各断続壁の軸方向に直交する断面における断面積を小さくすることができる。これにより、各断続壁を変形し易くすることができる。その結果、包囲壁に荷重が加えられたときに、第2部位を第1部位よりも優先的に点火器から離れるように変形させ易くすることができる。また、該所定の間隔を燃焼剤の大きさよりも小さくすることで、隣接する断続壁同士の間に形成される隙間に燃焼剤が入り込むことを抑制できる。また、包囲壁を複数の断続壁によって形成する場合、所定の間隔を一の断続壁の周方向における長さよりも短くすることで、第2部位を更に変形させ易くすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本願開示によれば、点火器の作動時に、点火器をカラーに固定するための保持部に亀裂や破損が生じることによる不具合を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る点火器組立体を用いたエアバッグ用ガス発生器の軸方向断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る点火器組立体の構造を示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る点火器組立体において、点火器が作動してカップ体が破裂したときの様子を説明するための第1の図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る点火器組立体において、点火器が作動してカップ体が破裂したときの様子を説明するための第2の図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る点火器組立体において、点火器が作動してカップ体が破裂したときの様子を説明するための第3の図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る点火器組立体において第2部位に亀裂が生じた場合の、亀裂の態様を示す第1の図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る点火器組立体において第2部位に亀裂が生じた場合の、亀裂の態様を示す第2の図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態の変形例1に係る点火器組立体の上面視図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態の変形例2に係る点火器組立体の構造を示す図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態に係る点火器組立体付近の構造を示す図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態に係る保持部の成形方法の工程を示す図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態に係る点火器組立体において、点火器が作動してカップ体が破裂したときの様子を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本願開示の実施形態に係るガス発生器における点火器組立体について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本願開示はこれらの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【0022】
<第1実施形態>
図1は、本願開示の第1実施形態に係る点火器組立体10を用いたエアバッグ用ガス発生器(以下、ガス発生器)100の軸方向断面図である。
図1に示すように、ガス発生器100は、ハウジング1、点火器2、カラー3、保持部4、内筒5、クーラント・フィルタ6を備える。点火器2、カラー3、保持部4、内筒5、クーラント・フィルタ6は、ハウジング1の内部空間に配置されている。本明細書では、点火器2、カラー3、保持部4を含んだ構成を点火器組立体10と称する。ガス発生器100は、点火器2を作動させることによりハウジング1内に充填されたガス発生剤7を燃焼させ、その燃焼性生物である燃焼ガスをハウジング1の外部に放出することで、エアバッグ(図示せず)を膨張させるように構成されている。以下、ガス発生器100の各構成について説明する。
【0023】
[ハウジング]
ハウジング1は、それぞれが有底略円筒状に形成された金属製の上部シェル11及び下部シェル12が互いの開口端同士を向き合わせた状態で接合されることによって、軸方向の両端が閉塞した短尺円筒状に形成されている。ここで、ハウジング1の軸方向に沿う方向をガス発生器100の上下方向と定義し、上部シェル11側(即ち、
図1における上側)をガス発生器100の上側とし、下部シェル12側(即ち、
図1における下側)をガス発生器100の下側とする。
【0024】
上部シェル11は、略円盤状の天板部111と、天板部111の周縁から下方に延在する外周壁部112と、外周壁部112の先端部から径方向外側に延在するフランジ部113と、を有する。また、下部シェル12は、略円盤状の底板部121と、底板部121の周縁から上方に延在する外周壁部122と、外周壁部122の先端部から半径方向外側に延在するフランジ部123と、を有する。このような上部シェル11及び下部シェル12は、ステンレス鋼板をプレスすることで成形される。上部シェル11と下部シェル12は、フランジ部113とフランジ部123とが重ね合わされてレーザ溶接等によって接合されることで、ハウジング1を形成している。
【0025】
上部シェル11の外周壁部112には、ガス噴出口13が周方向に並んで複数形成されている。ガス噴出口13は、シールテープ14により閉塞されている。このシールテープ14としては、片面に粘着部材が塗布されたアルミニウム箔等が利用される。これにより、ハウジング1の気密性が確保されている。
【0026】
また、
図1に示すように、下部シェル12の底板部121の中央には、下方に向かって突出する開口筒部1211が設けられている。開口筒部1211の内壁は、ハウジング1の内部空間と外部空間とを連通する開口15を形成している。
【0027】
[内筒]
内筒5は、両端が開口した筒形状を有しており、中心軸が上下方向(即ち、ハウジング1の軸方向)と一致する姿勢で配設されている。内筒5は、ステンレス鋼管により形成される。
図1に示すように、内筒5の下端が開口15に嵌入されており、該下端において内筒5の外周面が開口15の内周面に当接している。また、内筒5の上端が上部シェル11の天板部111に当接している。これにより、ハウジング1の内部空間は、内筒5によって径方向に区分されている。ハウジング1の内部空間のうち、内筒5の内側は、点火器組立体10が配設されると共に燃焼剤としての伝火薬8が充填される円柱状の伝火室20を規定し、内筒5の外側は、ガス発生剤7が充填される環状の燃焼室30を規定する。また、内筒5には、伝火室20と燃焼室30とを連通する孔である伝火孔51が周方向に複数並んで形成されている。伝火孔51は、シールテープ52により塞がれている。これにより、伝火室20の気密性が確保されている。内筒5とハウジング1は、例えば、互いの接触部分において溶接されることで接合される。
【0028】
[クーラント・フィルタ]
クーラント・フィルタ6は、燃焼室30においてガス発生剤7を取り囲んで環状に配設され、ハウジング1の外周壁部112及び外周壁部122との間に、環状の間隙40を画定している。クーラント・フィルタ6は、ステンレス鋼製平編の金網を半径方向に重ね、半径方向及び軸方向に圧縮することで形成されている。
【0029】
このように構成されたガス発生器100において、センサ(図示せず)が衝撃を感知すると、所定信号が点火器2に送られて点火器2が作動し、伝火室20内の伝火薬8を点火する。伝火薬8の燃焼により、伝火室20内に高温の火炎が生成される。この火炎は、シールテープ52を破って伝火孔51より燃焼室30に噴出し、ガス発生剤7を点火する。そして、ガス発生剤7の燃焼により高温・高圧のガスが生成され、この燃焼ガスは、クーラント・フィルタ6の全領域を通過する。このとき、クーラント・フィルタ6は、燃焼室30で発生した燃焼ガスを冷却し、燃焼残渣を捕集する。クーラント・フィルタ6によって冷却・浄化された燃焼ガスは、間隙40を通り、シールテープ14を破ってガス噴出口13より噴出し、エアバッグ(図示せず)内に流入する。これにより、エアバッグが膨張することで、乗員と堅い構造物の間にクッションが形成され、衝撃から乗員が保護される。ガス発生剤7としては、例えば、硝酸グアニジン(41重量%)、塩基性硝酸銅(49重量%)及びバインダーや添加物からなる、単孔円柱状のものを用いることができる。また、伝火薬8としては、例えば、ニトログアニジン(34重量%)、硝酸ストロンチウム(56重量%)からなるものを用いることができる。
【0030】
[点火器組立体]
次に、点火器組立体10について説明する。
図2は、第1実施形態に係る点火器組立体10の構造を示す図である。点火器組立体10は、伝火薬8を着火するための点火薬(図示なし)を収容する収容空間としての点火室50を含む点火器2と、点火器2を支持するカラー3と、カラー3に対して点火器2を固定する、樹脂材料で形成された保持部4と、
を備える。
【0031】
[点火器]
点火器2は、伝火室20の外部から供給される着火電流により、点火室50内の点火薬を燃焼させる。点火器2は、保持部4によって伝火室20の下部に固定されている。点火器2が作動することで点火薬が燃焼し、その燃焼生成物が上方に放出され、伝火薬8が点火される。以下、点火器2から燃焼生成物が放出される方向(本例では上方)を、放出方向と呼ぶこともある。
【0032】
図2に示すように、点火器2は、一端が閉塞し他端が開口したカップ体21と、カップ体21の他端に形成された開口を閉塞するように配置され、カップ体21と共に点火室50を画定する閉塞部22と、を有する。
【0033】
カップ体21は、筒状の周壁211と、周壁211の一端を閉塞する蓋壁212と、によってカップ状に形成されている。周壁211は、その中心軸が上下方向と一致するようにして配設されている。蓋壁212は、周壁211に連続して形成されており、周壁211の上端部を閉塞することで、点火室50の上壁を構成している。カップ体21は、即ち、点火器2の作動時における点火薬の燃焼生成物の放出方向側に蓋壁212が位置するように配置されている。このカップ体21は、金属製の内側カップ及び樹脂製の外側カップが重ね合わされた二重構造を有している。但し、カップ体21の材質はこれに限定しない。
【0034】
閉塞部22は、周壁211の下端に配置された金属ヘッダ221と、金属ヘッダ221から下方に延在する一対の通電ピン222,222と、を有する。金属ヘッダ221は、金属材料により略円柱状に形成されており、その外周面において周壁211と接触している。金属ヘッダ221の中央部には、上下に貫通する貫通孔が形成されている。一対の通電ピン222,222の一方は、金属ヘッダ221の貫通孔に挿通された状態で、絶縁体を介して金属ヘッダ221と接合されている。また、点火室50の底部には、該通電ピン222と金属ヘッダ221を電気的に接続する抵抗体であるブリッジワイヤ23が配線されている。一対の通電ピン222,222の他方は、金属ヘッダ221の下面に接合されている。閉塞部22は、周壁211の下端を閉塞することで、点火室50の下壁を構成している。
【0035】
ここで、
図2に示すように、閉塞部22がカップ体21の開口を閉塞するようにカップ体21の内部に配置されることで、カップ体21の周壁211は、軸方向において、閉塞部22に接触した接触領域A1と、接触領域A1よりも放出方向側の領域であって閉塞部22に接触しない非接触領域A2と、に区分されている。
【0036】
点火器2は、一対の通電ピン222,222に外部電源を接続可能となるように、伝火室20内に配設されている。点火器2が作動する際は、外部電源によって二本の通電ピン222,222間に電圧印加され、ブリッジワイヤ23に電流が流れ、ブリッジワイヤ23に生じるジュール熱により点火室50内の点火薬が燃焼する。これに伴って点火室50内の圧力が上昇することでカップ体21が破裂し、点火薬の燃焼生成物である高温の火炎が放出方向である上方に放出される。これにより、伝火室20内の伝火薬8が点火される。
【0037】
[カラー]
カラー3は、金属材料により形成され、点火器2における点火室50よりも下方の領域を取り囲む筒形状を有している。但し、カラー3の材質は金属材料に限定されない。カラー3の外周面は、内筒5の内周面に当接している。
図2に示すように、内筒5にカラー3
を嵌入した状態で内筒5の下端をかしめることで、カラー3が伝火室20の下部に固定されている。なお、カラー3は、内筒5や下部シェル12と一体に成形されていてもよい。
【0038】
[保持部]
図2に示すように、点火器2とカラー3との間に樹脂製の保持部4が介装されることで、カラー3に対して点火器2が固定されている。保持部4は、接触領域A1の周囲を覆うことでカラー3に対して点火器2を固定するベース部41と、ベース部41に連続して形成され、非接触領域A2を包囲することで、非接触領域A2の周囲に伝火薬8が配置されることを抑制するように構成された環状の包囲壁42と、を有する。
【0039】
ベース部41は、周壁211における接触領域A1の外周面、金属ヘッダ221の下面、カラー3の上面、カラー3の内周面を覆うことで、カラー3と保持部4とを互いに固定し、且つ、伝火室20の気密性を維持している。ベース部41の下端には、通電ピン222,222に外部電源からの電力を供給するコネクタ(図示せず)を挿入可能なコネクタ挿入空間43が形成されている。ベース部41は、一対の通電ピン222,222の下端がコネクタ挿入空間43内に露出するように、一対の通電ピン222,222の一部を覆い、保持している。ベース部41によって、一対の通電ピン222,222同士の絶縁性が保たれている。
【0040】
包囲壁42は、ベース部41に連続すると共にベース部41から上方に延在した環状の部位として形成されている。包囲壁42の基端から先端(上端)までの長さは、非接触領域A2の軸方向における長さと略同等である。但し、本願開示はこれに限定されない。包囲壁42は、スペーサとしての機能を有しており、包囲壁42によって非接触領域A2が径方向外側から取り囲まれることで、点火器組立体10をガス発生器の所定部位に配置したときに非接触領域A2の径方向における周囲、より詳細には、非接触領域A2と内筒5の内周面との間に伝火薬8が配置されることが抑制されている。つまり、包囲壁42の外周面は、少なくともその一部がガス発生器100の内筒5の内周面と接触するか、あるいは内筒5との間に伝火薬8が入り込まない程度の隙間を形成している。なお、包囲壁42が伝火薬8に対してクッションの役割を果たすことで、ガス発生器100の組立後における伝火薬8のがたつきが防止されている。また、仮に、包囲壁42が形成されていないと、点火器組立体は、カラー3の上端面からカップ体21が突出するような構成となる。そうすると、ガス発生器100の組立において、伝火薬8が充填された内筒5の内部に直接カップ体21を押し込む必要があり、その結果、伝火薬8が割れたり、組立自体が困難となる虞がある。これに対して、点火器組立体10は、包囲壁42によってカップ体21を取り囲む構成とすることで、ガス発生器100の組立において伝火薬8の割れを抑制しつつも容易に組み立てることができる。
【0041】
図2に示すように、包囲壁42の外周面における軸方向の中途には、径方向内側に凹んだ溝部44が周方向に沿って延在している。溝部44は、径方向外側に向かって上方に傾斜した上壁441と径方向外側に向かって下方に傾斜した下壁442とが接続されることで、径方向外側に開口したV字状の断面形状を有している。上壁441と下壁442との接続部位は、溝部44の底部443を形成している。底部443は、溝部44において最も径方向内側に位置する部位、即ち、最も凹んだ部位である。溝部44が形成されることにより、包囲壁42には、包囲壁42の先端側及び基端側に形成された一対の厚肉部421,421と、一対の厚肉部421,421に挟まれ、径方向の厚みが一対の厚肉部421,421よりも薄い薄肉部422と、が形成されている。薄肉部422は、溝部44の底部443と包囲壁42の内周面との間に形成されており、周方向に沿って延在している。
【0042】
ここで、薄肉部422は、保持部4において、ベース部41の少なくとも一部を含む第
1部位P1と、第1部位P1よりも放出方向側の部位であって包囲壁42の先端を含む第2部位P2と、の間に形成されている。
図2~
図5に示す破線B1は、説明の便宜上、保持部4を第1部位P1と第2部位P2とに区分するものであり、第1部位P1と第2部位P2との間に界面が存在することを表すものではない。本実施形態では、ベース部41と包囲壁42の基端側の厚肉部421とを含む部位が第1部位P1を構成し、包囲壁42の先端側の厚肉部421が第2部位P2を構成する。本実施形態では、「脆弱部」が薄肉部422として、第1部位P1と第2部位P2との間に形成されている。
【0043】
このような保持部4は、点火器2の製造工程において、樹脂材料を射出成形することで形成される。保持部4を形成する樹脂材料としては、硬化後において耐熱性や耐久性、耐腐食性等に優れた樹脂材料を好適に利用することができる。このような樹脂材料としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が例示される。
【0044】
以下、点火器2が作動したときの保持部4の挙動について説明する。
図3~
図5は、第1実施形態に係る点火器組立体10において、点火器2が作動してカップ体21が破裂したときの様子を説明するための図である。
【0045】
上述のように、点火器2の作動時においては、点火室50内の点火薬が燃焼することで点火室50内の圧力が上昇し、
図3に示すように、カップ体21が破裂する。このとき、カップ体21は、蓋壁212の中央部を起点に破裂する。これにより、燃焼生成物である火炎が上方へ放出され、伝火室20内の伝火薬8が点火される。ここで、仮に、包囲壁42が存在しないと、カラー3の上端面から蓋壁側に突出したカップ体21の周囲に空間が形成されることになる。そして、火炎が上方に放出されることから、仮に、点火器2の作動時に周壁211の非接触領域A2の径方向における周囲に伝火薬8が配置されていると、該伝火薬8は、点火器2に対して火炎の放出方向から外れた場所に位置することとなる。その結果、該伝火薬8が十分に燃焼せず、伝火薬8の燃焼残りや燃焼遅れが発生する虞がある。これに対して、実施形態に係る点火器組立体10は、包囲壁42がスペーサとして機能することで、
図2に示すように、周壁211の非接触領域A2の周囲に伝火薬8が配置されることが抑制されている。これにより、点火器2作動後における伝火薬8の燃焼残りや燃焼遅れの発生を抑制することができる。その結果、ガス発生器100の出力性能を向上させることができる。
【0046】
図3に示すように、破裂したカップ体21は、伝火室20内の圧力により、接触領域A1を基端として非接触領域A2が径方向外側に開くように変形する。これにより、点火器2の作動後は、径方向外側に開こうとするカップ体21が包囲壁42に接触することで、包囲壁42に荷重F1が掛かる。
【0047】
ここで、点火器2が作動すると、包囲壁42に掛かった加重F1により保持部4が変形し、保持部4に亀裂や破損が生じる場合がある。このとき、仮に、亀裂や破損の状態が好ましくないものであると、点火器2の保持が不十分となって点火器2が保持部4から浮き上がったり、伝火室20のシール性が損なわれたりする(燃焼ガスの漏れ)といった不具合が生じる虞がある。
【0048】
これに対して、本実施形態に係る点火器組立体10は、包囲壁42に薄肉部422を脆弱部として形成し、包囲壁42に荷重が掛かったときに、第2部位P2を第1部位P1と比べて優先的に変形させることで、上述の不具合を抑制することができる。以下、具体的に説明する。
【0049】
図3に示すように、保持部4において、破裂したカップ体21と包囲壁42との接触箇所が第2部位P2に含まれるように、薄肉部422が形成されている。これにより、第2部位P2にカップ体21が接触するため、薄肉部422に荷重F1によるモーメントが作用する。上述のように、薄肉部422が薄肉に形成されているため、荷重F1によって保持部4に生じる応力は、薄肉部422において局所的に増大する(応力集中が発生する)。これにより、保持部4は、薄肉部422において他の部位よりも優先的に変形し易くなっている。具体的には、
図4に示すように、第2部位P2が薄肉部422を支点に径方向外向きに倒れるように変形する。やがて、
図5に示すように、薄肉部422に径方向に延びる亀裂が生じ、第2部位P2が第1部位P1から分離するようにして保持部4が破断する。このように、本実施形態では、包囲壁42に薄肉部422を形成することで、点火器2の作動時、第2部位P2を第1部位P1と比べて優先的に径方向外向きに変形させることができる。
【0050】
[作用・効果]
以上のように、本実施形態に係る点火器組立体10は、保持部4における、第1部位P1と第2部位P2との間に、包囲壁42に荷重が掛かったときに、第2部位P2が第1部位P1と比べて優先的に径方向外側に変形するように、脆弱部が形成されている。これにより、包囲壁42に掛かった荷重によるエネルギーが第2部位の変形に費やされ易くなるため、第1部位P1が大きく変形することが抑制される。その結果、点火器2の作動時に第1部位P1に亀裂や破損が生じることが抑制される。上述のように、第1部位P1は、カラー3に対して点火器2を固定するためのベース部41の少なくとも一部を含む部位である。そのため、第1部位P1における亀裂や破損の発生を抑制することで、点火器2の浮きや伝火室20のシール性の低下といった不具合の発生を抑制することができる。以上より、本実施形態に係る点火器組立体10によれば、点火器2の作動時に、点火器2をカラー3に固定するための保持部4に亀裂や破損が生じることによる不具合を抑制することができる。
【0051】
なお、第2部位P2は、延性破壊や脆性破壊によって、第1部位から分離してもよい。また、第2部位P2の変形は、上述のように破壊や破断を伴わないものであってもよい。
【0052】
また、本実施形態では、脆弱部が薄肉部422として包囲壁42に形成された場合について説明したが、脆弱部がベース部41に形成されてもよい。脆弱部は、第1部位と第2部位との間に設けられていればよく、第1部位はベース部の少なくとも一部を含む部位であり、第2部位は第1部位よりも放出方向側の部位であって、包囲壁の先端を含む部位であればよい。
【0053】
また、上述のように、本実施形態では、包囲壁42が厚肉部421と周方向に沿って延在すると共に径方向の厚みが厚肉部421よりも薄い薄肉部422と、を有しており、薄肉部422として脆弱部が形成されている。これにより、荷重F1によって保持部4に生じる応力を、薄肉部422に集中させることができ、第1部位P1よりも第2部位P2を優先的に変形させることができる。
【0054】
また、上述のように、本実施形態では、包囲壁42に周方向に沿って延在すると共に径方向に凹んだ溝部44が形成されることで、薄肉部422が形成されている。これによれば、包囲壁42に溝が形成されているため、包囲壁42に荷重が掛かったときに、包囲壁42が径方向外側に倒れるように変形し易くなる。その結果、第1部位P1よりも第2部位P2を優先的に変形させ易くすることができる。なお、本実施形態では、溝部44が包囲壁42の外周面において径方向内側に凹んだ溝として形成されていたが、本願開示はこれに限定されない。即ち、溝部44は、包囲壁42の内周面において径方向外側に凹んだ溝として形成されていてもよい。
【0055】
ここで、厚肉部421の径方向における厚みをt1とし、溝部44の底部443までの径方向における深さをd1とする(
図6参照)。本実施形態のように包囲壁42に溝部44を形成することで薄肉部422を形成する場合、溝部44の深さdは、厚肉部421の厚みtの1/3以上3/4以下であることが、より好ましい。そうすることで、第1部位P1よりも第2部位P2を優先的に変形させることが容易となる。
【0056】
なお、溝部44の断面形状は上述したV字形状に限定されない。溝部44の断面形状は、U字状、円弧状、矩形状、台形状など、種々の形状を選択することができる。
【0057】
ここで、
図2に示すように、非接触領域A2と包囲壁42との間には、環状の間隙G1が形成されている。また、間隙G1の大きさは、間隙G1に伝火薬8が入り込まないように、伝火薬8よりも小さく形成されている。非接触領域A2と包囲壁42との間に間隙G1が形成されているため、点火器2の作動時にカップ体21から包囲壁42へ加わる衝撃を間隙G1によって緩衝することができる。また、間隙G1(樹脂材料の射出成型時に、配置される型によって形成された間隙)が形成される構造とすることで、保持部4の成形時に樹脂材料の射出圧力がカップ体21の周壁211に直接及ぶことを抑制し、カップ体21の変形を抑制することができる。
【0058】
[確認試験]
図6及び
図7は、第1実施形態に係る点火器組立体10において第2部位P2に亀裂が生じた場合の、亀裂の態様を示す図である。図中に示す符号C1及びC2は、亀裂を表す。
図6では、包囲壁42の先端から軸方向に沿って延びる亀裂C1が薄肉部422よりも基端側に発展している。
図7では、包囲壁42の先端から軸方向に沿って延びる亀裂C2が薄肉部422よりも基端側に発展せず、薄肉部422において径方向に発展している。第2部位P2が変形し、保持部4に亀裂が生じる場合、第1部位P1に亀裂が発展しないためには、
図7で示すモードで亀裂が入る方がより好ましい。
【0059】
ここで、
図6及び
図7に示す符号h1は、包囲壁42の先端面から底部443までの軸方向における距離であり、深さdは、上述の通り、溝部44の底部443までの径方向における深さである。h1及びd1により、溝部44の位置及び深さが規定される。
【0060】
次に、上述した第1実施形態に係る点火器組立体10について、高さh1と深さd1を変化させた場合の亀裂のモードの変化を確認するために行った確認試験について説明する。
【0061】
確認試験では、h1及びd1の異なる点火器組立体10を複数試作し、実際に点火器2
を作動させ、保持部4に生じた亀裂のモードを確認した。h1は、2.94mm、3.14mm、3.34mm、3.54mm、3.64mm、3.74mm、3.84mm、3.94mm、4.04mmと変化させた。d1は、2.6mm、2.7mm、2.8mm、2.9mm、3.0mmと変化させた。点火器2の作動後、
図6に示した亀裂のモード(ベース部まで亀裂が達した場合)だった場合には、「×」とし、
図7に示した、より好ましい亀裂のモードだった(ベース部に亀裂が達しなかった)場合には、「○」とした。表1は、確認試験の結果を示す。
【0062】
【0063】
[変形例1]
図8は、第1実施形態の変形例に係る点火器組立体10Aの上面視図である。
図2で示した点火器組立体10における保持部4の包囲壁42が、連続した環状に形成されているのに対して、変形例1に係る点火器組立体10Aは、保持部4Aの包囲壁42Aが間欠した環状に形成されている点で、点火器組立体10と相違する。点火器組立体10Aは、その他の点において点火器組立体10と同一である。以下、点火器組立体10Aについて、点火器組立体10との相違点を中心に説明する。
【0064】
図8に示すように、包囲壁42Aは、複数の断続壁420が所定の間隔を空けて環状に配列することで形成されている。該所定の間隔は、周方向に隣接する断続壁420同士の間に形成される隙間G2に伝火薬8が入り込まないように、伝火薬8の大きさよりも小さくなっている。これにより非接触領域A2の周囲に伝火薬8が配置されることが抑制されている。
【0065】
このような保持部4Aを有する点火器組立体10Aによると、包囲壁42Aが複数の断続壁420によって形成されているため、各断続壁420の軸方向に直交する断面における断面積が、連続して形成されている包囲壁42の断面積よりも小さくなる。これにより、各断続壁420は、
図2に示す包囲壁42よりも変形し易くなっている。その結果、包囲壁42Aに荷重が加えられたときに、第2部位P2を第1部位P1よりも優先的に点火器2から離れるように変形させ易くすることができる。この場合、周方向に隣接する断続壁420同士の所定の間隔は、一の断続壁420の周方向における長さよりも短くすることが好ましく、そうすることにより、各断続壁420の各々をより変形し易くすることができる。なお、
図8に示すように、包囲壁42Aには複数の隙間G2が形成されているが、全ての隙間G2における該所定の間隔を同一としなくともよい。
[変形例2]
図9は、第1実施形態の変形例2に係る点火器組立体10Bの構造を示す図である。
図9に示すように、点火器組立体10Bは、非接触領域A2と包囲壁42Bとの間に間隙が形成されていない点で、
図2に示した点火器組立体10と大きく相違する。なお、点火器組立体10Bでは、点火室50内の金属ヘッダ221の上面に筒状のチャージホルダ223が設けられており、チャージホルダ223によって点火薬が保持されている。チャージホルダ223を設けることにより、保持部4Bの成形時に樹脂材料の射出圧力によってカップ体21が変形することが好適に抑制される。
<第2実施形態>
【0066】
図10は、本願開示の第2実施形態に係る点火器組立体10Cの構造を示す図である。第2実施形態に係る点火器組立体10Cは、第1部位P1と第2部位P2とが硬化時期の異なる樹脂材料によって形成されている点で、第1実施形態に係る点火器組立体10と異なる。第2実施形態に係る点火器組立体10Cでは、脆弱部が第1部位P1と第2部位P
2との界面S1として形成されている。以下、第2実施形態に係る点火器組立体10Cについて、点火器組立体10との相違点を中心に説明する。
【0067】
第2実施形態に係る保持部4Cは、第1実施形態に係る保持部4と同様に、接触領域A1の周囲を覆うことでカラー3に対して点火器2を固定するベース部41と、ベース部41に連続して形成され、非接触領域A2と間隔を空けて非接触領域A2を包囲する環状の包囲壁42と、を有する。また、第2実施形態に係る保持部4Cは、ベース部41の一部を含む第1部位P1と包囲壁42の先端を含む第2部位P2とに区分されており、第1部位P1が第1の樹脂材料によって形成され、第2部位P2が第1の材料よりも硬化時期の遅い第2の樹脂材料によって形成されている。
図10に示す破線S1は、第1部位P1を形成する第1の樹脂材料と第2部位P2を形成する第2の樹脂材料とで硬化時期が異なることで形成された、第1部位P1と第2部位P2との界面を示す。
図10に示すように、本実施形態では、第2部位P2が包囲壁42の全体とベース部41の一部を含んだ環状に形成されている。
【0068】
本実施形態に係る保持部4Cは、第1部位P1と第2部位P2とを一体成形することで形成されている。以下、本実施形態に係る保持部4の成形方法について説明する。
図11は、第2実施形態に係る保持部4Cの成形方法の工程を示す図である。本実施形態に係る保持部4Cの成形方法では、型を用いた射出成形によって保持部4Cを成形する。まず、S101の第1部位成形工程では、第1の樹脂材料を溶融し、硬化することで、第1部位P1を成形する。第1の樹脂材料としては、射出成形に一般に用いられる熱可塑性樹脂、例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等を用いることができる。S101では、第1部位成形用の金型内に点火器2を配置し、該金型に溶融状態の第1の樹脂材料を流し込み、硬化する。これにより、点火器2と一体化した状態で第1部位P1が成形される。
【0069】
次に、S102の第2部位成形工程では、第1の樹脂材料が硬化した後で、第2の樹脂材料を溶融し、硬化することで、第2部位P2を成形する。第2の樹脂材料としては、第1の樹脂材料と同様に、射出成形に一般に用いられる熱可塑性樹脂が用いられる。S102では、第2部位成形用の金型内に点火器2と第1部位P1とが一体化された中間成形物を配置し、該金型に溶融状態の第2の樹脂材料を流し込み、硬化する。これにより、第1部位P1と第2部位P2とが接合され、点火器2と一体化した状態で保持部4Cが成形される。
【0070】
第2実施形態では、第1の樹脂材料が硬化した後に第2の樹脂材料を硬化することで、即ち、第1の樹脂材料と第2の樹脂材料とで硬化時期を異ならせることで、第1部位P1と第2部位P2との間に界面S1が形成されている。以下、このような保持部4Cを備える点火器組立体10において、点火器2が作動した場合における保持部4Cの挙動について説明する。
【0071】
上述のように、点火器2が作動してカップ体21が破裂することで、燃焼生成物である火炎が上方へ放出され、伝火室20内の伝火薬8が点火される。ここで、
図10に示すように、第2実施形態に係る点火器組立体10においても、第1実施形態と同様に、包囲壁42がスペーサとして機能することで、周壁211の非接触領域A2の周囲に伝火薬8が配置されることが抑制されている。これにより、点火器2作動後における伝火薬8の燃焼残りや燃焼遅れの発生が抑制されている。その結果、ガス発生器100の出力性能を向上することが可能となっている。
【0072】
図12は、第2実施形態に係る点火器組立体10Cにおいて、点火器2が作動してカッ
プ体21が破裂したときの様子を説明するための図である。第1実施形態と同様に、点火器2の作動後は、破裂して径方向外側に開こうとするカップ体21が包囲壁42に接触することで、包囲壁42に荷重が掛かる。ここで、本実施形態に係る点火器組立体10Cでは、破裂したカップ体21と包囲壁42との接触箇所が第2部位に含まれるように、第1部位P1と第2部位P2の界面S1が形成されている。そのため、包囲壁42に荷重が掛かったときに、界面S1付近に荷重によるモーメントが作用する。荷重によって保持部4Cに生じる応力は、界面S1付近において局所的に増大する(応力集中が発生する)。これにより、保持部4Cは、界面S1において他の部位よりも優先的に破断し易くなっている。具体的には、界面S1における剥離を伴いながら第2部位P2が径方向外向きに倒れるように変形する。やがて、
図12に示すように、第2部位P2が第1部位P1から分離するようにして保持部4Cが破断する。
【0073】
以上のように、第2実施形態に係る点火器組立体10の保持部4Cには、包囲壁42に荷重が掛かったときに、第2部位P2が第1部位P1と比べて優先的に径方向外向きに変形するように、界面S1が形成されている。これにより、包囲壁42に掛かった荷重によるエネルギーが、該変形に費やされ易くなるため、第1部位P1が大きく変形することが抑制される。その結果、点火器2の作動時に第1部位P1に亀裂や破損が生じることによる不具合の発生を抑制することができる。本実施形態では、「脆弱部」が界面S1として、第1部位P1と第2部位P2との間に形成されている。
【0074】
ここで、第1の樹脂材料の方が第2の樹脂材料よりも融点が高い方が好ましい。そうすることにより、上述の第2部位成形工程において、溶融状態の第2の樹脂材料を金型に流し込んだ際に、硬化している第1の樹脂材料が溶融することを抑制できる。その結果、第1の樹脂材料と第2の樹脂材料との界面S1を形成することができ、また、第1の樹脂材料が溶融することによる第1部位P1の変形を抑制することができる。
【0075】
なお、第1部位P1と第2部位P2の界面S1は、
図10で示したものに限定されない。ベース部41の全体を第1部位P1とし、包囲壁42の全体を第2部位P2としてもよい。また、保持部4Cにおける包囲壁42の先端から中途までの部位を第2部位P2とし、残部を第1部位P1としてもよい。また、第1の樹脂材料と第2の樹脂材料は、同じ種類の樹脂材料であってもよいし、種類の異なる樹脂材料であってもよい。
<その他の実施例>
以上、本願開示の好適な実施形態について説明したが、上述した種々の形態は、可能な限り組み合わせることができる。例えば、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、包囲壁を複数の断続壁によって形成してもよい。また、上述の実施形態では、燃焼剤としての伝火薬8を介してガス発生剤7を燃焼させる方式のガス発生器に本願開示の点火器組立体を適用した場合を例に説明したが、本願開示の点火器組立体は、点火器が伝火薬を介さずにガス発生剤を燃焼させる方式のガス発生器に適用してもよい。その場合、ガス発生剤が本願開示における燃焼剤に相当する。さらには第2部位P2が外側に変形しやすくなるよう、
図2や
図9、
図10において、内筒5と包囲壁42、42Bの間に、燃焼剤(伝火薬8)の大きさよりも小さい間隙が形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1・・・・ハウジング
2・・・・点火器
21・・・カップ体
211・・周壁
212・・蓋壁
22・・・閉塞部
3・・・・カラー
4・・・・保持部
41・・・ベース部
42・・・包囲壁
421・・厚肉部
422・・薄肉部(脆弱部の一例)
43・・・溝部
5・・・・内筒
6・・・・クーラント・フィルタ
7・・・・ガス発生剤
8・・・・伝火薬(燃焼剤の一例)
10・・・点火器組立体
20・・・伝火室
30・・・燃焼室
50・・・点火室
A1・・・接触領域
A2・・・非接触領域
P1・・・第1部位
P2・・・第2部位
S1・・・界面(脆弱部の一例)