(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】コッタ組付工具
(51)【国際特許分類】
B25B 27/26 20060101AFI20230406BHJP
F01L 3/24 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
B25B27/26
F01L3/24 C
(21)【出願番号】P 2019054016
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 徹
(72)【発明者】
【氏名】佃 淳永
(72)【発明者】
【氏名】吉田 岳宣
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-100864(JP,A)
【文献】実開昭59-109470(JP,U)
【文献】特開2017-193015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 27/26
F01L 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブスプリングを支持するリテーナとこれに挿入されるバルブステムとの間にコッタを組み付けるコッタ組付工具であって、
前記リテーナ
を保持する永久磁石を備えた一対のリテーナ接触面と、前記
一対のリテーナ接触面
のそれぞれに開口する
一対の機構収容部と、
前記一対の機構収容部の間に配置される押込ロッドと、を備える工具本体と、
前記一対の機構収容部の一方に設けられる第1組付機構と、
前記一対の機構収容部の他方に設けられる第2組付機構と、
を有し、
前記第1組付機構と前記第2組付機構とのそれぞれは、
前記機構収容部に収容されるスリーブを備え、前記バルブステムを案内する貫通孔が前記スリーブに形成され
、前記リテーナ接触面に近づく保持位置と前記リテーナ接触面から離れる解除位置とに移動自在であるスライド部材と、
前記機構収容部に収容されるコッタ保持部を備え、前記工具本体に揺動自在に設けられるアーム部材と、
前記アーム部材に
取り付けられ、前記スリーブの外周面に向けて前記コッタ保持部を付勢する
第1のバネ部材と、
前記スライド部材に取り付けられ、前記スライド部材を前記解除位置に向けて付勢する第2のバネ部材と、
作業者に操作されるレバー部が形成されたストッパを備え、前記ストッパを係合させることで前記スライド部材を前記保持位置に拘束するロック機構と、
を有し、
前記第1組付機構と前記第2組付機構とのそれぞれが備える前記スライド部材の前記保持位置は、前記スリーブの径方向外方に前記コッタ保持部が配置される
位置であり、
前記第1組付機構と前記第2組付機構とのそれぞれが備える前記スライド部材の前記解除位置は、前記スリーブの径方向外方に前記コッタ保持部が配置されない
位置である、
コッタ組付工具。
【請求項2】
請求項
1に記載のコッタ組付工具において、
前記アーム部材として、
前記機構収容部に収容される第1コッタ保持部を備え、前記工具本体に揺動自在に設けられる第1アーム部材と、
前記機構収容部に収容される第2コッタ保持部を備え、前記工具本体に揺動自在に設けられる第2アーム部材と、を有し、
前記第1コッタ保持部と前記第2コッタ保持部とは、互いに対向する、
コッタ組付工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リテーナとバルブステムとの間にコッタを組み付けるコッタ組付工具に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関であるエンジンには、燃焼室を開閉する吸気バルブや排気バルブが設けられている。また、吸気バルブや排気バルブの軸部であるバルブステムには、コッタおよびリテーナを介してバルブスプリングの一端が拘束されている。つまり、バルブスプリングの一端にはリテーナが配置されており、リテーナの中央に形成されるテーパ穴にはバルブステムが挿入されている。そして、リテーナとバルブステムとの間にコッタを嵌合させることにより、バルブステムにはコッタおよびリテーナを介してバルブスプリングの一端が拘束される。
【0003】
例えば、バルブスプリング等の交換作業において、リテーナとバルブステムとの間にコッタを組み付ける際には、バルブスプリングを圧縮しながらリテーナを押し込み、バルブステムのコッタ溝にコッタを組み付けることが必要である。しかしながら、バルブスプリングを圧縮しながらバルブステムのコッタ溝を露出させ、このバルブステムのコッタ溝に小さなコッタを組み付けることは、熟練を要する難しい作業となっていた。そこで、バルブステムに対してコッタを組み付けるようにした組付工具が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された組付工具は、バルブ毎にアジャスタを微調整する等の作業が必要であり、作業者に対して煩雑な作業を要求する工具であった。このため、コッタを簡単に組み付けることが求められている。
【0006】
本発明の目的は、コッタを簡単に組み付けることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のコッタ組付工具は、バルブスプリングを支持するリテーナとこれに挿入されるバルブステムとの間にコッタを組み付けるコッタ組付工具であって、前記リテーナを保持する永久磁石を備えた一対のリテーナ接触面と、前記一対のリテーナ接触面のそれぞれに開口する一対の機構収容部と、前記一対の機構収容部の間に配置される押込ロッドと、を備える工具本体と、前記一対の機構収容部の一方に設けられる第1組付機構と、前記一対の機構収容部の他方に設けられる第2組付機構と、を有し、前記第1組付機構と前記第2組付機構とのそれぞれは、前記機構収容部に収容されるスリーブを備え、前記バルブステムを案内する貫通孔が前記スリーブに形成され、前記リテーナ接触面に近づく保持位置と前記リテーナ接触面から離れる解除位置とに移動自在であるスライド部材と、前記機構収容部に収容されるコッタ保持部を備え、前記工具本体に揺動自在に設けられるアーム部材と、前記アーム部材に取り付けられ、前記スリーブの外周面に向けて前記コッタ保持部を付勢する第1のバネ部材と、前記スライド部材に取り付けられ、前記スライド部材を前記解除位置に向けて付勢する第2のバネ部材と、作業者に操作されるレバー部が形成されたストッパを備え、前記ストッパを係合させることで前記スライド部材を前記保持位置に拘束するロック機構と、を有し、前記第1組付機構と前記第2組付機構とのそれぞれが備える前記スライド部材の前記保持位置は、前記スリーブの径方向外方に前記コッタ保持部が配置される位置であり、前記第1組付機構と前記第2組付機構とのそれぞれが備える前記スライド部材の前記解除位置は、前記スリーブの径方向外方に前記コッタ保持部が配置されない位置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スライド部材は、スリーブの径方向外方にコッタ保持部が配置される保持位置と、スリーブの径方向外方にコッタ保持部が配置されない解除位置と、に移動自在である。これにより、スライド部材を保持位置に移動させることにより、スリーブとコッタ保持部との間にコッタを保持することができ、スライド部材を解除位置に移動させることにより、コッタ保持部の内側からスリーブを抜いてバルブステムにコッタを押し付けることができる。これにより、コッタを簡単に組み付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】コッタ組付工具が使用されるエンジンの一例を示す概略図である。
【
図2】シリンダヘッドの内部構造の一例を示す断面図である。
【
図3】吸気バルブおよび排気バルブのバルブスプリングを交換する際の各過程を示す図である。
【
図4】吸気バルブおよび排気バルブのバルブスプリングを交換する際の各過程を示す図である。
【
図5】吸気バルブおよび排気バルブのバルブスプリングを交換する際の各過程を示す図である。
【
図6】本発明の一実施の形態であるコッタ組付工具を上方から示す斜視図である。
【
図7】本発明の一実施の形態であるコッタ組付工具を下方から示す斜視図である。
【
図8】本発明の一実施の形態であるコッタ組付工具の構造を示す分解斜視図である。
【
図10】(a)および(b)は、コッタの組付過程を示す拡大断面図である。
【
図11】(a)および(b)は、コッタの組付過程を示す拡大断面図である。
【
図12】(a)および(b)は、コッタの組付過程を示す拡大断面図である。
【
図13】(a)および(b)は、コッタの組付過程を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[エンジン構造]
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は後述するコッタ組付工具71,72が使用されるエンジン10の一例を示す概略図である。なお、図示するエンジン10は水平対向エンジンであるが、これに限られることはなく、他の形式のエンジンに対して後述するコッタ組付工具71,72を使用しても良い。
【0011】
図1に示すように、エンジン10は、一方のシリンダバンクに設けられるシリンダブロック11と、他方のシリンダバンクに設けられるシリンダブロック12と、一対のシリンダブロック11,12に支持されるクランク軸13と、を有している。各シリンダブロック11,12に形成されるシリンダボア14にはピストン15が収容されており、このピストン15にはコネクティングロッド16を介してクランク軸13が連結されている。また、各シリンダブロック11,12には、吸気バルブ17および排気バルブ18等からなる動弁機構19を備えたシリンダヘッド20,21が組み付けられている。なお、シリンダヘッド20,21は、ヘッド本体22、カムキャリア23およびロッカーカバー24等によって構成されている。
【0012】
図2はシリンダヘッド20の内部構造の一例を示す断面図である。
図2にはロッカーカバー24を外した状態のシリンダヘッド20が示されている。また、
図2には、吸気バルブ17に組み付けられるバルブスプリング33およびその近傍の拡大断面図αが併せて示されるとともに、矢印X方向から見たリテーナ35およびバルブステム32の拡大平面図βが併せて示されている。以下の説明においては、一方のシリンダヘッド20の構造について説明するが、他方のシリンダヘッド21についても同様の構造を有することから、その説明を省略する。
【0013】
図2に示すように、シリンダヘッド20のヘッド本体22には、燃焼室25に吸入空気を案内する吸気ポート30が形成されるとともに、吸気ポート30内に先端が突出するバルブガイド31が設けられている。この吸気側のバルブガイド31には、吸気バルブ17の軸部であるバルブステム32が摺動自在に支持されている。また、
図2の拡大断面図αに示すように、バルブステム32を囲むようにバルブスプリング33が配置されており、バルブステム32の端部にはコッタ34およびリテーナ35を介してバルブスプリング33の一端が拘束されている。つまり、バルブスプリング33の一端は、リテーナ35によって支持されている。
【0014】
すなわち、バルブスプリング33の一端には円盤状のリテーナ35が配置されており、リテーナ35の中央に形成されるテーパ穴36にはバルブステム32が挿入されている。そして、リテーナ35のテーパ穴36とバルブステム32のコッタ溝37との間にコッタ34を嵌合させることにより、バルブステム32にはコッタ34およびリテーナ35を介してバルブスプリング33の一端が拘束される。なお、
図2の拡大平面図βに示すように、リテーナ35とバルブステム32との間には、円弧状の断面を有する一対のコッタ34が組み付けられている。
【0015】
図2に示すように、カムキャリア23には、吸気カム40を備えたカムシャフト41が回転自在に支持されている。吸気カム40とバルブステム32との間には、吸気カム40からバルブステム32に動力を伝達するロッカーアーム42が設置されている。ロッカーアーム42は、オートラッシュアジャスタ43に支持される支点部42aと、カムシャフト41の吸気カム40に接触するローラ部42bと、バルブステム32にシムを介して接触するリフタ部42cと、を備えている。このようなロッカーアーム42を設けることにより、吸気カム40の回転運動はロッカーアーム42を介してバルブステム32の往復運動に変換される。
【0016】
同様に、シリンダヘッド20のヘッド本体22には、燃焼室25からの排出ガスを案内する排気ポート50が形成されるとともに、排気ポート50内に先端が突出するバルブガイド51が設けられている。この排気側のバルブガイド51には、排気バルブ18の軸部であるバルブステム52が摺動自在に支持されている。また、吸気バルブ17と同様に、排気バルブ18においても、バルブステム52を囲むようにバルブスプリング53が設けられており、バルブステム52の端部には図示しないコッタおよびリテーナ55を介してバルブスプリング53の一端が拘束されている。
【0017】
また、カムキャリア23には、排気カム60を備えたカムシャフト61が回転自在に支持されている。排気カム60とバルブステム52との間には、排気カム60からバルブステム52に動力を伝達するロッカーアーム62が設置されている。ロッカーアーム62は、オートラッシュアジャスタ63に支持される支点部62aと、カムシャフト61の排気カム60に接触するローラ部62bと、バルブステム52にシムを介して接触するリフタ部62cと、を備えている。このようなロッカーアーム62を設けることにより、排気カム60の回転運動はロッカーアーム62を介してバルブステム52の往復運動に変換される。
【0018】
[バルブスプリング交換手順]
図3~
図5は吸気バルブ17および排気バルブ18のバルブスプリング33,53を交換する際の各過程を示す図である。なお、
図3~
図5には
図2と同じ箇所が示されており、
図3~
図5において
図2に示す部品と同一の部品については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0019】
図3に示すように、バルブスプリング33,53を交換する際には、エンジン10のカムキャリア23に対して台座治具70が取り付けられる。なお、カムキャリア23に台座治具70を取り付ける際には、カムキャリア23に形成されるロッカーカバー24用のボルト孔が用いられる。このように、カムキャリア23に対して台座治具70が取り付けられると、図示しない工具を用いてバルブスプリング33,53を圧縮した状態のもとで、シリンダヘッド20,21からロッカーアーム42,62が取り外され、バルブステム32,52からコッタ34およびリテーナ35,55が取り外される。そして、シリンダヘッド20からバルブスプリング33,53が取り外される。
【0020】
続いて、
図4に示すように、吸気バルブ17や排気バルブ18に対して、交換用の新たなバルブスプリング33,53が組み付けられる。そして、矢印a1で示すように、吸気バルブ17用のコッタ組付工具71が、バルブステム32と吸気カム40との間のスペースに挿入され、矢印b1で示すように、排気バルブ18用のコッタ組付工具72が、バルブステム52と排気カム60との間のスペースに挿入される。なお、後述するように、コッタ組付工具71,72には、コッタ34およびリテーナ35,55が組み付けられている。
【0021】
次いで、
図5に矢印a2で示すように、台座治具70に設けられた押込ボルト73が締め込まれ、コッタ組付工具71がバルブスプリング33を圧縮しながら押し込まれる。その後、矢印a3で示すように、台座治具70の押込ボルト73が緩められ、コッタ組付工具71がバルブスプリング33のバネ力によって押し戻される。同様に、
図5に矢印b2で示すように、台座治具70に設けられた押込ボルト74が締め込まれ、コッタ組付工具72がバルブスプリング53を圧縮しながら押し込まれる。その後、矢印b3で示すように、台座治具70の押込ボルト74が緩められ、コッタ組付工具72がバルブスプリング53のバネ力によって押し戻される。これにより、後述するように、吸気バルブ17や排気バルブ18のバルブステム32,52に対してリテーナ35,55およびコッタ34が組み付けられ、バルブステム32,52の端部にはコッタ34およびリテーナ35,55を介してバルブスプリング33,53の一端が拘束される。なお、押込ボルト73,74にはスペーサ75が組み付けられており、押込ボルト73,74の締め込み量はスペーサ75によって規制される。
【0022】
[コッタ組付工具]
以下、本発明の一実施の形態であるコッタ組付工具71について詳細に説明する。
図6は本発明の一実施の形態であるコッタ組付工具71を上方から示す斜視図である。
図7は本発明の一実施の形態であるコッタ組付工具71を下方から示す斜視図である。また、
図8は本発明の一実施の形態であるコッタ組付工具71の構造を示す分解斜視図である。なお、以下の説明では、吸気バルブ17用のコッタ組付工具71を例に挙げて説明するが、排気バルブ18用のコッタ組付工具72も同様の構造を有することから、コッタ組付工具72についてはその説明を省略する。
【0023】
図6~
図8に示すように、コッタ組付工具71は、ブロック80および押込ロッド81からなる工具本体82を有している。工具本体82のブロック80には、中央の押込ロッド81を挟むように一対の組付機構83,84
(第1組付機構83,第2組付機構84)が設けられている。
図7に示すように、工具本体82を構成するブロック80の下面には、円形のリテーナ接触面85が設けられている。また、リテーナ接触面85には複数の永久磁石(リテーナ保持部)86が設けられており、この永久磁石86を用いてリテーナ接触面85にリテーナ35を保持することが可能である。また、工具本体82のブロック80には、リテーナ接触面85に開口する機構収容部87が設けられている。この機構収容部87には、スライド部材92のスリーブ93が収容されるとともに、スリーブ93を挟むようにアーム部材110,120のコッタ保持部111,121が収容されている。なお、押込ロッド81の端面には、押込ボルト73の先端を収容する凹部88が形成されている。また、押込ロッド81の側部89は、カムシャフト41との接触を回避するために切り欠かれている。
【0024】
図8に示すように、工具本体82のブロック80には、機構収容部87を囲むようにガイド壁90が形成されている。このガイド壁90の内側には、永久磁石86およびリターンスプリング91が収容されるとともに、スライド部材92が移動自在に収容されている。スライド部材92は、ブロック80に押し込まれてリテーナ接触面85に近づく保持位置と、ブロック80から押し出されてリテーナ接触面85から離れる解除位置と、に移動自在である。このスライド部材92は、バルブステム32が案内される貫通孔93aを備えたスリーブ93と、スリーブ93の径方向外方に延びてリターンスプリング91に対向する4つのガイド片94と、上方に突出するロック片95と、を有している。このように、工具本体82にはリターンスプリング91と共にスライド部材92が組み付けられており、リターンスプリング(第2のバネ部材)91はスライド部材92を解除位置に向けて付勢する。つまり、
図6および
図7に組付機構83として示されるように、スライド部材92を保持位置に移動させる際には、リターンスプリング91を圧縮しながらスライド部材92がブロック80に押し込まれる。一方、
図6に組付機構84として示されるように、スライド部材92を解除位置に移動させる際には、リターンスプリング91によってスライド部材92がブロック80から押し出される。
【0025】
図8に示すように、工具本体82のブロック80には、締付ボルト100を用いてストッパ102が回動自在に取り付けられている。このストッパ102によって、スライド部材92を保持位置に拘束するロック機構101が構成されている。ストッパ102は、締付ボルト100が挿入される挿入孔103aを備えた支点部103と、支点部103から延びるレバー部104と、支点部103から延びる係合爪105と、を有している。また、ストッパ102には、トーションスプリング106が設けられている。このように、ストッパ102にトーションスプリング106が設けられるため、
図6に矢印c1で示すように、ストッパ102の係合爪105は、スライド部材92のロック片95に向けて付勢される。つまり、
図6に組付機構83として示されるように、スライド部材92を保持位置に押し込んだ状態のもとで、ストッパ102の係合爪105をロック片95に係合させることにより、スライド部材92はストッパ102によって保持位置に拘束される。一方、
図6に組付機構84として示されるように、ストッパ102のレバー部104を矢印c2方向に押し込み、ストッパ102の係合爪105を矢印c3方向に移動させることにより、係合爪105とロック片95との係合状態が解除されるため、スライド部材92はリターンスプリング91によって矢印d1方向に押し出される。つまり、作業者がストッパ102のレバー部104を矢印c2方向に操作することにより、ストッパ102およびトーションスプリング106からなるロック機構101の拘束状態が解除され、スライド部材92は保持位置から解除位置に移動する。
【0026】
図8に示すように、工具本体82のブロック80には、締付ボルト100を用いて第1アーム部材110および第2アーム部材120が揺動自在に取り付けられている。この一対のアーム部材110,120は、締付ボルト100が挿入される挿入孔112a,122aを備えた支点部112,122と、支点部112,122から延びるレバー部113,123と、支点部112,122から延びるコッタ保持部111,121と、を有している。また、第1アーム部材110が備える第1コッタ保持部111と、第2アーム部材120が備える第2コッタ保持部121とは、互いに対向している。さらに、一対のアーム部材110,120には、トーションスプリング(
第1のバネ部材)124が設けられている。このように、アーム部材110,120にトーションスプリング124が設けられるため、
図7に組付機構83として示されるように、作業者によってアーム部材110,120のレバー部113,123が操作されていない場合には、アーム部材110,120のコッタ保持部111,121はスリーブ93の外周面93bに向けて矢印e1方向に付勢される。一方、
図7に組付機構84として示されるように、作業者によってアーム部材110,120のレバー部113,123が矢印e2方向に操作された場合には、アーム部材110,120のコッタ保持部111,121はスリーブ93から離れるように矢印e3方向に移動する。
【0027】
[コッタ組付手順]
続いて、コッタ組付工具71を用いたコッタ34の組付手順について説明する。
図9~
図13はコッタ34の組付過程を示す拡大断面図である。
図9、
図10、
図11、
図12、
図13の順に、バルブステム32に対するコッタ34の組付過程が示されている。また、
図9~
図13には、コッタ組付工具71の組付機構83およびその近傍が示されている。
【0028】
図9に示すように、コッタ組付工具71のスライド部材92は、ストッパ102によって保持位置に拘束される。このスライド部材92の保持位置とは、スリーブ93の径方向外方にコッタ保持部111,121が配置される位置である。また、スライド部材92が保持位置に拘束された状態のもとで、スリーブ93とコッタ保持部111,121との間にはコッタ34が挟まれて保持されている。さらに、コッタ組付工具71のリテーナ接触面85には、永久磁石86によってリテーナ35が保持されている。このように、コッタ組付工具71には、コッタ34およびリテーナ35が取り付けられている。そして、
図4および
図9に矢印a1で示すように、コッタ34およびリテーナ35を備えたコッタ組付工具71は、バルブステム32およびバルブスプリング33の端部に設置される。
【0029】
図10(a)に示すように、コッタ組付工具71がバルブステム32およびバルブスプリング33の端部に設置されると、
図5に矢印a2で示すように、台座治具70の押込ボルト73が、スペーサ75によって規制されるまで締め付けられる。これにより、
図10(b)に矢印a2で示すように、コッタ組付工具71がバルブスプリング33を圧縮しながら押し込まれる。
図10(b)に示すように、コッタ組付工具71が押し込まれることにより、バルブステム32のコッタ溝37がスリーブ93の貫通孔93aを通過し、スリーブ93の外側に保持されるコッタ34がコッタ溝37よりもバルブガイド31側に移動する。このように、スリーブ93の外側に保持されるコッタ34がコッタ溝37よりもバルブガイド31側に移動すると、
図11(a)に示すように、作業者がストッパ102を操作して係合爪105を矢印c3方向に移動させることにより、スライド部材92はリターンスプリング91によって矢印d1方向の解除位置に向けて押し出される。このスライド部材92の解除位置とは、スリーブ93の径方向外方にコッタ保持部111,121が配置されていない位置である。
【0030】
そして、
図11(b)に示すように、スライド部材92が解除位置まで押し出されると、コッタ34およびコッタ保持部111,121の内側からスライド部材92のスリーブ93が抜けるため、コッタ34およびコッタ保持部111,121は矢印e1方向に移動する。つまり、トーションスプリング106によって矢印e1方向にコッタ保持部111,121が付勢されるため、バルブステム32の外周面に対してコッタ34が押し付けられる。このように、ストッパ102の解除操作によってバルブステム32にコッタ34が押し付けられると、その後、
図5に矢印a3で示すように、台座治具70の押込ボルト73が緩められ、コッタ組付工具71がバルブスプリング33によって押し戻される。
【0031】
つまり、
図11(b)から
図12(a)にかけて示すように、アーム部材110,120のコッタ保持部111,121は、バルブステム32に対してコッタ34を押し付けながら、コッタ組付工具71と共に矢印a3方向に移動する。そして、
図12(a)に示すように、コッタ組付工具71が矢印a3方向に移動する過程において、コッタ保持部111,121と共に移動するコッタ34が、バルブステム32のコッタ溝37に到達すると、
図12(b)に示すように、コッタ34がコッタ溝37に係合するため、コッタ34はコッタ保持部111,121から離れて停止する。また、
図12(b)に示すように、コッタ組付工具71と共にリテーナ35の移動は継続されることから、コッタ溝37に係合するコッタ34に対してリテーナ35のテーパ穴36が接近する。
【0032】
そして、
図13(a)に示すように、コッタ組付工具71およびリテーナ35が矢印a3方向に移動し、リテーナ35のテーパ穴36がコッタ34に嵌合すると、バルブスプリング33のバネ力によってリテーナ35からコッタ34に推力が伝達され、コッタ34はバルブステム32のコッタ溝37に締め付けられる。これにより、バルブステム32の端部にはコッタ34およびリテーナ35を介してバルブスプリング33の一端が拘束される。このように、バルブスプリング33を支持するリテーナ35とこれに挿入されるバルブステム32との間にコッタ34が組み付けられると、
図13(b)に示すように、バルブステム32の端部からコッタ組付工具71が取り外される。なお、リテーナ接触面85に対してリテーナ35は磁力で保持されるため、コッタ組付工具71を取り外す際には、リテーナ接触面85からリテーナ35を簡単に分離することができる。
【0033】
これまで説明したように、コッタ組付工具71を用いてコッタ34を組み付ける際には、バルブスプリング33を圧縮しながらコッタ組付工具71を押し込み、ロック機構101を解除してスライド部材92を解除位置に移動させた後に、バルブスプリング33の圧縮を緩めながらコッタ組付工具71が取り外される。これにより、バルブステム32に対してリテーナ35およびコッタ34を簡単に組み付けることができる。また、カムシャフト41,61やタイミングチェーンを取り外すことなくコッタ34を組み付けることができるため、作業工数や交換部品を大幅に削減することができる。
【0034】
また、コッタ組付工具71は、スリーブ93を備えるスライド部材92と、コッタ保持部111,121を備えるアーム部材110,120と、スリーブ93の外周面93bに向けてコッタ保持部111,121を付勢するトーションスプリング124と、を有している。さらに、スライド部材92は、スリーブ93の径方向外方にコッタ保持部111,121が配置される保持位置と、スリーブ93の径方向外方にコッタ保持部111,121が配置されない解除位置と、に移動自在である。これにより、バルブスプリング33を圧縮しながらコッタ組付工具71を押し込んだ状態のもとで、スライド部材92を保持位置から解除位置に移動させることにより、コッタ保持部111,121の内側からスリーブ93を抜いてバルブステム32にコッタ34を押し付けることができる。これにより、バルブステム32のコッタ溝37よりもバルブガイド31側にコッタ34を設置することができるため、バルブスプリング33の圧縮を緩めるだけの作業でコッタ溝37にコッタ34を組み付けることができる。しかも、コッタ組付工具71は簡単な構造を有することから、コッタ組付工具71の薄型化や小型化を達成することができ、少ない作業スペースでコッタ34を組み付けることができる。これにより、バルブスプリング33の交換作業等においては、エンジン10から多くの部品を取り外すことなくコッタ34を組み付けることができ、作業工数や交換部品を大幅に削減することができる。
【0035】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。前述の説明では、水平対向エンジン10にコッタ組付工具71,72を使用しているが、これに限られることはなく、直列エンジンやV型エンジン等にコッタ組付工具71,72を使用しても良い。また、図示する例では、ロッカーアーム42を備えたエンジン10にコッタ組付工具71,72を使用しているが、これに限られることはなく、ロッカーアーム42を持たないエンジンにコッタ組付工具71,72を使用しても良い。また、図示する例では、隣接する一対の吸気バルブ17等に対して一度にコッタ34を組み付けるため。1つのコッタ組付工具71に対して2つの組付機構83,84を組み込んでいるが、これに限られることはなく、1つのコッタ組付工具71に1つの組付機構が設けられていても良い。
【0036】
図示する例では、組付機構83,84毎に一対のアーム部材110,120を組み込んでいるが、これに限られることはなく、スリーブ93の外側にコッタ34を適切に保持することが可能であれば、1つのアーム部材を設けても良く、3つ以上のアーム部材を設けても良い。また、図示する例では、リテーナ保持部として4つの永久磁石86を用いているが、これに限られることはなく、永久磁石86の個数を変更しても良い。また、リテーナ保持部として永久磁石86を用いているが、これに限られることはなく、係合爪や吸盤等を用いてリテーナ35を保持しても良い。
【0037】
また、前述したように、スライド部材92の保持位置とは、スリーブ93の径方向外方にコッタ保持部111,121が配置される位置である。このスライド部材92の保持位置としては、スリーブ93の径方向外方にコッタ保持部111,121の全てが重なって配置される位置であっても良く、スリーブ93の径方向外方にコッタ保持部111,121の一部が重なって配置される位置であっても良い。
【符号の説明】
【0038】
32 バルブステム
33 バルブスプリング
34 コッタ
35 リテーナ
52 バルブステム
53 バルブスプリング
55 リテーナ
71 コッタ組付工具
72 コッタ組付工具
82 工具本体
85 リテーナ接触面
86 永久磁石(リテーナ保持部)
87 機構収容部
91 リターンスプリング(第2のバネ部材)
92 スライド部材
93 スリーブ
93a 貫通孔
93b 外周面
101 ロック機構
110 アーム部材(第1アーム部材)
111 コッタ保持部(第1コッタ保持部)
120 アーム部材(第2アーム部材)
121 コッタ保持部(第2コッタ保持部)
124 トーションスプリング(バネ部材)