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特許7257214リフレクションクラック抑制シート及び舗装構造
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  • 特許-リフレクションクラック抑制シート及び舗装構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】リフレクションクラック抑制シート及び舗装構造
(51)【国際特許分類】
   E01C 11/16 20060101AFI20230406BHJP
【FI】
E01C11/16
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019061259
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020159119
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390019998
【氏名又は名称】東亜道路工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平戸 利明
(72)【発明者】
【氏名】永原 篤
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-336208(JP,A)
【文献】特開平08-013408(JP,A)
【文献】特開2014-168862(JP,A)
【文献】特開2001-138420(JP,A)
【文献】特開2014-118721(JP,A)
【文献】特開2003-119710(JP,A)
【文献】特開2001-234505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バサルト繊維を含む鉱物繊維糸によって網目が構成された網目構造体と、
前記網目構造体を内在し、アスファルト系材料からなる被覆体とを備える、リフレクションクラック抑制シート。
【請求項2】
前記鉱物繊維の平均繊維径が9μm以上20μm以下である、請求項に記載のリフレクションクラック抑制シート。
【請求項3】
前記鉱物繊維糸の平均繊度が500tex以上2,000tex以下である、請求項1又は2に記載のリフレクションクラック抑制シート。
【請求項4】
前記網目構造体は、前記鉱物繊維糸の縦糸及び横糸によって構成されている、請求項1~のいずれか1項に記載のリフレクションクラック抑制シート。
【請求項5】
前記網目が格子状である、請求項1~のいずれか1項に記載のリフレクションクラック抑制シート。
【請求項6】
前記網目構造体の25mm間にある前記縦糸の本数が2本以上20本以下であり、
前記網目構造体の25mm間にある前記横糸の本数が2本以上20本以下である、請求項又はに記載のリフレクションクラック抑制シート。
【請求項7】
前記網目構造体の目開きが1mm以上15mm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のリフレクションクラック抑制シート。
【請求項8】
JIS A6013(1991)に準拠して測定した前記網目構造体の引張強度が100N/25mm以上4,500N/25mm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のリフレクションクラック抑制シート。
【請求項9】
前記アスファルト系材料がストレートアスファルト及び改質アスファルトの少なくともいずれかである、請求項1~のいずれか1項に記載のリフレクションクラック抑制シート。
【請求項10】
前記リフレクションクラック抑制シートの厚さが0.5mm以上4.0mm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のリフレクションクラック抑制シート。
【請求項11】
鉱物繊維を含む鉱物繊維糸によって網目が構成された網目構造体と、
前記網目構造体を内在し、アスファルト系材料からなる被覆体とを備える、リフレクションクラック抑制シートであって、
前記リフレクションクラック抑制シートを80℃に保った恒温水槽の温水中に30分間浸漬した後の前記被覆体の質量から、浸漬前の前記被覆体の質量を基準として剥離した前記被覆体の質量百分率である剥離率を算出し、前記剥離率が0%以上20%以下である、リフレクションクラック抑制シート。
【請求項12】
鉱物繊維を含む鉱物繊維糸によって網目が構成された網目構造体と、
前記網目構造体を内在し、アスファルト系材料からなる被覆体とを備える、リフレクションクラック抑制シートであって、
前記リフレクションクラック抑制シートを80℃に保った恒温水槽の温水中に90分間浸漬した後の前記被覆体の質量から、浸漬前の前記被覆体の質量を基準として剥離した前記被覆体の質量百分率である剥離率を算出し、前記剥離率が0%以上30%以下である、リフレクションクラック抑制シート。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のリフレクションクラック抑制シートを敷設した、舗装構造。
【請求項14】
前記リフレクションクラック抑制シートを含む舗装構造の曲げ強度は、前記リフレクションクラック抑制シートを含まない舗装構造と比して1.5倍以上4.0倍以下である、請求項13に記載の舗装構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路の舗装に関し、特に、リフレクションクラック抑制シート及び舗装構造に関する。
【背景技術】
【0002】
道路を舗装する工法として、オーバーレイ工法及び切削オーバーレイ工法等がある。オーバーレイ工法及び切削オーバーレイ工法等を用いた舗装において、アスファルト系の舗装層を載せる下地に目地部及びクラック(ひび割れ)等があると、下地のクラック等による影響が上部の舗装層に伝達し、比較的早期に舗装層にクラック(リフレクションクラック)が生じてしまうことがある。
【0003】
リフレクションクラックの発生を抑制するために、下地の目地部及びクラックを除去することが望ましいが、基層以下の層を補修するには、工事規模が大きくなるうえ、工事に伴う規制時間が長くなることで交通の妨げとなることがある。そこで、舗装層を載せる既設舗装の目地部及びクラックが限定的である場合、リフレクションクラック抑制の効果を有するシート(以下、リフレクションクラック抑制シート)を設置し、下地のクラックの影響が上部舗装に伝達することを抑制する工法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。リフレクションクラック抑制シートは、一般的に、引張強度が高いガラス繊維が基材に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-336208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
舗装が供用により損傷が著しくなった場合、表層部を切削し、リフレクションクラック抑制シート及びアスファルト混合物等を撤去した後に、新規アスファルト混合物を敷きならすという補修が必要となる。撤去したアスファルト混合物は、中間処理施設にてリサイクルされ、再生アスファルト混合物として再利用される。しかし、リフレクションクラック抑制シートの基材に使用されているガラス素材は、アスファルト混合物の性能に影響を与える可能性がある不純物としてリサイクルすることができないため、ガラス部を除去することを要する。つまり、ガラス繊維が基材に使用されているリフレクションクラック抑制シートは、別途剥がして、産業廃棄物として処理する必要があるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、ガラス繊維を用いた場合と同等以上のリフレクションクラック抑制効果を発揮し、再生アスファルト混合物の性能に影響を与えない材料を採用することによってリサイクル性に優れるリフレクションクラック抑制シート及び舗装構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、鉱物繊維を含む鉱物繊維糸によって網目が構成された網目構造体を採用することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の[1]~[15]を提供する。
[1]鉱物繊維を含む鉱物繊維糸によって網目が構成された網目構造体と、前記網目構造体を内在し、アスファルト系材料からなる被覆体とを備える、リフレクションクラック抑制シート。
[2]前記鉱物繊維がバサルト繊維である、[1]のリフレクションクラック抑制シート。
[3]前記鉱物繊維の平均繊維径が9μm以上20μm以下である、[1]又は[2]のリフレクションクラック抑制シート。
[4]前記鉱物繊維糸の平均繊度が500tex以上2,000tex以下である、[1]~[3]のいずれかのリフレクションクラック抑制シート。
[5]前記網目構造体は、前記鉱物繊維糸の縦糸及び横糸によって構成されている、[1]~[4]のいずれかのリフレクションクラック抑制シート。
[6]前記網目が格子状である、[1]~[5]のいずれかのリフレクションクラック抑制シート。
[7]前記網目構造体の25mm間にある前記縦糸の本数が2本以上20本以下であり、前記網目構造体の25mm間にある前記横糸の本数が2本以上20本以下である、[5]又は[6]のリフレクションクラック抑制シート。
[8]前記網目構造体の目開きが1mm以上15mm以下である、[1]~[7]のいずれかのリフレクションクラック抑制シート。
[9]JIS A6013(1991)に準拠して測定した前記網目構造体の引張強度が100N/25mm以上4,500N/25mm以下である、[1]~[8]のいずれかのリフレクションクラック抑制シート。
[10]前記アスファルト系材料がストレートアスファルト及び改質アスファルトの少なくともいずれかである、[1]~[9]のいずれかのリフレクションクラック抑制シート。
[11]前記リフレクションクラック抑制シートの厚さが0.5mm以上4.0mm以下である、[1]~[10]のいずれかのリフレクションクラック抑制シート。
[12]前記リフレクションクラック抑制シートを80℃に保った恒温水槽の温水中に30分間浸漬した後の前記被覆体の質量から、浸漬前の前記被覆体の質量を基準として剥離した前記被覆体の質量百分率である剥離率を算出し、前記剥離率が0%以上20%以下である、[1]~[11]のいずれかのリフレクションクラック抑制シート。
[13]前記リフレクションクラック抑制シートを80℃に保った恒温水槽の温水中に90分間浸漬した後の前記被覆体の質量から、浸漬前の前記被覆体の質量を基準として剥離した前記被覆体の質量百分率である剥離率を算出し、前記剥離率が0%以上30%以下である、[1]~[12]のいずれかのリフレクションクラック抑制シート。
[14][1]~[13]のいずれかのリフレクションクラック抑制シートを敷設した、舗装構造。
[15]前記リフレクションクラック抑制シートを含む舗装構造の曲げ強度は、前記リフレクションクラック抑制シートを含まない舗装構造と比して1.5倍以上4.0倍以下である、[14]の舗装構造。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガラス繊維を用いた場合と同等以上のリフレクションクラック抑制効果を発揮し、再生アスファルト混合物の性能に影響を与えない材料を採用することによってリサイクル性に優れるリフレクションクラック抑制シート及び舗装構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)は、本発明の実施の形態に係るリフレクションクラック抑制シートの模式的平面図(その1)であり、図1(b)は、本発明の実施の形態に係るリフレクションクラック抑制シートの模式的平面図(その2)である。
図2】本発明の実施の形態に係るリフレクションクラック抑制シートに内蔵する網目構造体の模式的平面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る舗装構造の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[リフレクションクラック抑制シート]
本発明の実施の形態に係るリフレクションクラック抑制シート1は、図1に示すように、鉱物繊維を含む鉱物繊維糸によって網目が構成された網目構造体10と、網目構造体10を内在し、アスファルト系材料からなる被覆体20とを備えることを特徴とする。本発明の実施の形態に係るリフレクションクラック抑制シート1は、図1(a)に示すように、網目構造体10上だけではなく、全面に被覆体20を備える形態であってもよい。また、本発明の実施の形態に係るリフレクションクラック抑制シート1は、図1(b)に示すように、網目構造体10上だけに被覆体20を備える形態であってもよい。
リフレクションクラック抑制シート1は、鉱物繊維糸からなる網目構造体10と、アスファルト系材料からなる被覆体20とが主体として構成されているので、施工した後に再度道路の補修が必要となった場合には、網目構造体10が切削機により容易に破壊されるので、切削機への影響を排除することができる。また、切削により生じた粉砕物そのまま再度アスファルト材料として利用することもでき、その際、粉砕された鉱物繊維は骨材及び充填材として利用可能である。
【0011】
リフレクションクラック抑制シート1の厚さは、0.5mm以上4.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上3.5mm以下であることがより好ましく、1.5mm以上3.0mm以下であることがさらに好ましい。リフレクションクラック抑制シート1の厚さが上記範囲内であることで、十分なリフレクションクラック抑制効果を継続的に発揮することができる。
【0012】
<網目構造体>
網目構造体10は、鉱物繊維糸によって構成され、1種の鉱物繊維糸によって構成されていてもよく、2種以上の鉱物繊維糸によって構成されていてもよい。本明細書における鉱物繊維糸は、鉱物繊維を含んで撚った糸状のものをいう。
鉱物繊維としては、十分な引張強度を得る観点から、バサルト繊維であることが好ましい。バサルト繊維は、天然鉱物である玄武岩100%を溶融炉で溶かして紡糸することで得られる。
【0013】
鉱物繊維の平均繊維径は、9μm以上20μm以下であることが好ましく、10μm以上18μm以下であることがより好ましく、11μm以上16μm以下であることがさらに好ましい。鉱物繊維の平均繊維径が上記範囲内であることで、十分な引張強度を得ることができる。
ここで、平均繊維径とは、該当する繊維の直径の平均値を示した数平均繊維径のことをいい、例えば、バサルト繊維を無作為に50個選択し、光学顕微鏡で繊維径を測定して得られる値を平均したものをいう。
【0014】
鉱物繊維糸の平均繊度は、500tex以上2,000tex以下であることが好ましく、525tex以上1,800tex以下であることがより好ましく、550tex以上1,500tex以下であることがさらに好ましい。鉱物繊維糸の平均繊度が上記範囲内であることで、十分な引張強度を得ることができる。
なお、「tex」は、糸の太さ及び重さから得られる繊度を示す単位であり、例えば、1texは、長さ1,000mで重さ1gである。
ここで、平均繊度とは、該当する繊維の長さ及び太さから得られるtexの平均値をいい、例えば、鉱物繊維糸を無作為に50個選択し、得られた繊度を平均したものをいう。
【0015】
鉱物繊維糸の1本あたりの引張弾性率は、30Gpa以上200Gpa以下であることが好ましく、40Gpa以上150Gpa以下であることが好ましく、50Gpa以上100Gpa以下であることがさらに好ましい。鉱物繊維糸の1本あたりの引張弾性率が上記範囲内であることで、十分な引張強度を得ることができる。
ここで、鉱物繊維糸の1本あたりの引張弾性率の測定方法は、JIS R 7606(2000)のB法に準拠して得られる。
【0016】
網目構造体10は、図2に示すように、鉱物繊維糸の縦糸11及び横糸12によって構成されていることが好ましい。網目構造体10が縦糸11及び横糸12によって構成されていることで、縦方向及び横方向のいずれの方向に対しても機械的強度を有し、リフレクションクラック抑制効果を十分に発揮することができる。
網目を構成する縦糸11及び横糸12の結合形態としては、織組織であっても、鉱物繊維糸を貼り合わせたものであってもよいが、織組織をなして、且つ少なくともその交点が目止材で目止された網目構造が、アスファルト混合物中の骨材をより強固に把握することができるので特に好ましい。
織組織は、特に制限されるものではなく、からみ組織、目抜き平織り及び模紗織り等公知の織組織を採用することができる。
網目を形成する縦糸11及び横糸12の交点は、熱可塑性樹脂等の目止め材や目止め用の糸で目止めされていてもよい。このような目止めを行うことで、製造時における網目構造の位置あわせがより容易となり、アスファルト系材料を被覆する際の取り扱い性にも優れてる。また、網目の交点が強固に固定されてズレを生じさせないことで更に高いリフレクションクラック抑制効果を得ることが可能となる。
網目構造体10は、縦糸11及び横糸12によって構成されている網目は、格子状及び亀甲状等が挙げられ、製造工程を簡易化する観点から、格子状が好ましい。
【0017】
網目構造体10は、網目構造体の25mm間にある縦糸の本数が2本以上20本以下であることが好ましく、3本以上15本以下であることがより好ましく、4本以上10本以下であることがさらに好ましい。また、網目構造体10は、網目構造体の25mm間にある横糸の本数が2本以上20本以下であることが好ましく、3本以上15本以下であることがより好ましく、4本以上10本以下であることがさらに好ましい。網目構造体10は、網目構造体の25mm間にある縦糸及び横糸が2本以上あることで、アスファルト系材料を被覆する際に網目構造体10に生じる寄れ及び歪み等を抑制し、成形安定性を向上させることができる。網目構造体10は、網目構造体の25mm間にある縦糸及び横糸が20本以下あることで、アスファルト系材料を被覆する際に被覆体20が糸を内在するように付着する付着性を良好とすることができる。網目構造体10は、網目構造体の25mm間にある縦糸及び横糸が上記範囲内であることで、機械的強度が得られることになり、リフレクションクラック抑制効果を十分に発揮することができる。
【0018】
網目構造体10の目開きは、1mm以上15mm以下であることが好ましく、2mm以上12mm以下であることがより好ましく、3mm以上10mm以下であることがさらに好ましい。ここで、「目開き」とは、網目の各目の多角形状を規定する各辺のうちの一番小さな値で表したものをいい、例えば、図2に示すように、縦糸11及び横糸12を直交させて各目が矩形の格子状網目を形成した場合には、幅d及び幅dの内の小さい方の値をいう。網目構造体10の目開きが上記範囲内であることで、アスファルト系材料をコーティングする際に、効率よくアスファルト混合物で網目構造体10を被膜することができる。また、上記範囲内であることで、機械的強度が得られることになり、リフレクションクラック抑制効果を十分に発揮することができる。
【0019】
網目構造体10は、JIS A6013(1991)に準拠して測定した引張強度が100N/25mm以上4,500N/25mm以下であることが好ましく、500N/25mm以上4,250N/25mm以下であることがより好ましく、1,000N/25mm以上4,000N/25mm以下であることがさらに好ましい。網目構造体10の引張強度が上記範囲内であることで、十分なリフレクションクラック抑制効果を継続的に発揮することができる。
【0020】
<被覆体>
被覆体20は、アスファルト系材料からなり、鉱物繊維糸からなる網目構造体10を被覆することで、十分なリフレクションクラック抑制効果を継続的に発揮する。
アスファルト系材料としては、特に制限はなく、ストレートアスファルト及び改質アスファルト等が挙げられる。
ストレートアスファルトは、原油を常圧蒸留装置、減圧蒸留装置等にかけて得られる残留瀝青物質である。
改質アスファルトは、ブローンアスファルトや熱可塑性エラストマー及び熱可塑性樹脂等の高分子材料で改質したポリマー改質アスファルト等が挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体(SIS)、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレン/エチルアクリレート共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、極性基とポリオレフィン鎖とを有するポリマー等が挙げられる。
被覆体20としてのアスファルト系材料としては、ストレートアスファルト及びポリマー改質アスファルトの少なくともいずれかであることが好ましい。被覆体20としてポリマー改質アスファルトを用いることで、防水性及び遮水性を向上させることができる。
【0021】
網目構造体10に被覆体20を被覆させる方法としては、加熱した溶融アスファルトに網目構造体10をディッピングする方法、加熱により溶融したアスファルトを網目構造体10にロールコーティングする方法等が挙げられ、アスファルトを網目構造体10に均一にコーティングできる方法であれば、特に制限されない。
【0022】
(剥離率)
リフレクションクラック抑制シート1は、網目構造体10が鉱物繊維糸によって形成されているため、アスファルト系材料との密着性が良く、網目構造体10から被覆体20の剥離性が低くなる。リフレクションクラック抑制シート1の剥離性が低いことで、設置した舗装内において、下地のクラックの影響が上部舗装に伝達することを抑制する機能を持続させることができる。
【0023】
《80℃に30分間浸漬した後の剥離率》
リフレクションクラック抑制シート1の機能を持続させる観点から、剥離性が低いことが好適であり、80℃に30分間浸漬した後の剥離率が0%以上20%以下であることが好ましく、0%以上10%以下であることがより好ましく、0%以上5%以下であることがさらに好ましく、0%以上2%以下であることがよりさらに好ましい。
なお、本発明において「80℃に30分間浸漬した後の剥離率」の算出方法は、リフレクションクラック抑制シート1を80℃に保った恒温水槽の温水中に30分間浸漬した後の被覆体20の質量から、浸漬前の被覆体20の質量を基準として剥離した被覆体20の質量百分率である剥離率を算出する。
【0024】
《80℃に90分間浸漬した後の剥離率》
リフレクションクラック抑制シート1の機能を持続させる観点から、剥離性が低いことが好適であり、80℃に90分間浸漬した後の剥離率が0%以上30%以下であることが好ましく、0.5%以上25%以下であることがより好ましく、1.0%以上20%以下であることがさらに好ましく、2.0%以上15%以下であることがよりさらに好ましい。
なお、本発明において「80℃に90分間浸漬した後の剥離率」の算出方法は、リフレクションクラック抑制シート1を80℃に保った恒温水槽の温水中に90分間浸漬した後の被覆体20の質量から、浸漬前の被覆体20の質量を基準として剥離した被覆体20の質量百分率である剥離率を算出する。
【0025】
(耐薬品性)
リフレクションクラック抑制シート1は、耐薬品性を有することが好ましく、特にアルカリに対する耐アルカリ性を有することがより好ましい。リフレクションクラック抑制シート1は、内在する網目構造体10を構成する鉱物繊維糸がアルカリ成分により性状が変化するものを含まないことにより耐アルカリ性を有する。リフレクションクラック抑制シート1は、耐薬品性(耐アルカリ性)を有することで、例えば、冬季に凍結抑制及び融雪を目的として散布される塩化カルシウム等のアルカリ成分によって内在する網目構造体10の劣化を抑制することができ、リフレクションクラック抑制シート1自体の強度低下を抑制することができる。
【0026】
[舗装構造]
本発明の実施の形態に係る舗装構造30は、図3に示すように、下層31と上層32との間に、リフレクションクラック抑制シート1を敷設したことを特徴とする。舗装構造30における下層31と上層32は、リフレクションクラック抑制シート1の網目の開口中に充填された部分を介して一体化されている。
【0027】
舗装構造30は、下層31及び上層32が薄層である搬送可能形態であってもよく、下層31が舗装の下地であって上層32が舗装である道路舗装形態であってもよい。
舗装構造30が搬送可能形態の場合は、下層31及び上層32は、特に制限はなく、例えば、アスファルト層等が挙げられる。搬送可能な舗装構造30の形態としては、特に限定されないが、搬送の容易性や施工時の取り扱い性を考慮した形状とすることが好ましく、例えば、適当な幅の巻き取り可能な長さに成形し、ロール状として提供し、施工時に適当な大きさに切り取って使用することができる。
舗装構造30が道路舗装形態である場合の下層31は、新規舗装におけるコンクリート及びアスファルトからなる下地、又は、補修時における切削により露出したコンクリート及びアスファルトからなる下地である。舗装構造30が道路舗装形態である場合の上層32は、下層31に配置したリフレクションクラック抑制シート1上に載せるアスファルト等の舗装である。
【0028】
(曲げ強度)
舗装構造30は、下層31と上層32との間に、リフレクションクラック抑制シート1を敷設していることで、曲げ強度を向上させる効果が得られる。舗装構造30の曲げ強度が高くなることで、通行車両の繰り返し荷重による曲げひずみを緩和し、十分なリフレクションクラック抑制効果を継続的に発揮することができる。
舗装構造30の曲げ強度は、上記観点から、リフレクションクラック抑制シート1を含まない舗装構造と比して1.5倍以上4.0倍以下であることが好ましく、1.7倍以上3.7倍以下であることがより好ましく、2.0倍以上3.5倍以下であることがさらに好ましい。
【実施例
【0029】
次に、本発明について実施例を用いて、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって限定されない。
[評価方法]
実施例と比較例のリフレクションクラック抑制シートの物性及び評価を下記の方法に従って行った。
【0030】
<平均繊維径>
繊維を無作為に50個選択し、光学顕微鏡で繊維径を測定して得られた値を平均して算出した。
【0031】
<鉱物繊維糸の平均繊度>
繊維糸を無作為に50個選択し、得られた繊度を平均して算出した。
【0032】
<鉱物繊維糸の引張弾性率>
JIS R7606(2000)のB法に準拠して鉱物繊維糸の1本あたりの引張弾性率測定した。
【0033】
<網目構造体の25mm間にある糸の本数>
10箇所の網目構造体の25mm間にある糸の本数を測定し、得られた値を平均して算出した。なお、網目構造体の縦糸及び横糸によって構成されている網目は、格子状である。
【0034】
<目開き>
10箇所の網目構造体の目開きを測定し、得られた値を平均して算出した。なお、網目構造体の縦糸及び横糸によって構成されている網目は、格子状である。
【0035】
<網目構造体の引張強度>
JIS A6013(1991)に準拠して測定した。
【0036】
<80℃に30分間浸漬した後の剥離率>
実施例及び比較例で作製したリフレクションクラック抑制シートを80℃に保った恒温水槽の温水中に30分間浸漬した後の被覆体の質量から、浸漬前の被覆体の質量を基準として剥離した被覆体の質量百分率である剥離率を算出した。
【0037】
<80℃に90分間浸漬した後の剥離率>
実施例及び比較例で作製したリフレクションクラック抑制シートを80℃に保った恒温水槽の温水中に90分間浸漬した後の被覆体の質量から、浸漬前の被覆体の質量を基準として剥離した被覆体の質量百分率である剥離率を算出した。
【0038】
<成形安定性>
実施例及び比較例で作製したリフレクションクラック抑制シートについて、網目構造体に被覆体(ポリマー改質アスファルト)を被覆させる際の網目構造体についての成形安定性を評価した。
A:網目構造体が安定していて成形が良好
B:網目構造体に寄れ及び歪みが発生したが成形が可能
C:網目構造体に寄れ及び歪みが発生して成形が不可
【0039】
<付着性>
実施例及び比較例で作製したリフレクションクラック抑制シートについて、網目構造体に被覆体(ポリマー改質アスファルト)を被覆させる際の付着性を評価した。
A:網目構造体を内在するように被覆体が良好に付着した
B:網目構造体を内在するように被覆体が付着したが、一部に不良があった
C:網目構造体を内在するように被覆体を付着させることができなかった
【0040】
<耐薬品性>
実施例及び比較例で作製したリフレクションクラック抑制シートについて、耐薬品性を評価した。具体的には、内在する網目構造体を2規定の水酸化ナトリウム溶液に浸漬させ、3時間煮沸した後に網目構造体の重量損失率((浸漬前-浸漬後)/浸漬前×100(%))を測定し、以下のように評価した。
A:網目構造体をアルカリ溶液へ浸漬させたときの質量損失が5%未満
B:網目構造体をアルカリ溶液へ浸漬させたときの質量損失が5%以上30%未満
C:網目構造体をアルカリ溶液へ浸漬させたときの質量損失が30%以上
【0041】
<切削性>
実施例及び比較例で作製したリフレクションクラック抑制シートについて、切削性を評価した。具体的には、リフレクションクラック抑制シートを表層(5cm)と基層(5cm)の間に設置した舗装において、表層部5cmとリフレクションクラック抑制シートとを切削した時に得られる混合切削材のうち、網目構造体の破砕片の長辺長さを測定し、以下のように評価した。
A:切削により得られた網目構造体の破砕片の長辺の長さが20cm未満
B:切削により得られた網目構造体の破砕片の長辺の長さが20cm以上30cm未満
C:切削により得られた網目構造体の破砕片の長辺の長さが30cm以上
【0042】
<リサイクル性>
実施例及び比較例で作製したリフレクションクラック抑制シートについて、リサイクル性を評価した。具体的には、リフレクションクラック抑制シートを表層(5cm)と基層(5cm)の間に設置した舗装において、表層部5cmとリフレクションクラック抑制シートとを切削した時に得られる切削材の中に含まれる網目構造体の破砕片をアスファルト混合物中に2%混入させたときのマーシャル安定度試験(『舗装調査・試験法便覧(B001)』(公益社団法人日本道路協会発行))を実施し、混入しないアスファルト混合物のマーシャル安定度との比較(残留安定度)を求め、以下のように評価した。
A:アスファルト混合物中の網目構造体混入率が2%(舗装表層5cm切削相当)のときのマーシャル安定度が、混入0%のマーシャル安定度の80%以上
B:アスファルト混合物中の網目構造体混入率が2%(舗装表層5cm切削相当)のときのマーシャル安定度が、混入0%のマーシャル安定度の65%以上80%未満
C:アスファルト混合物中の網目構造体混入率が2%(舗装表層5cm切削相当)のときのマーシャル安定度が、混入0%のマーシャル安定度の65%未満
【0043】
<リフレクションクラック抑制効果(曲げ強度)>
実施例及び比較例で作製したリフレクションクラック抑制シートについてのリフレクションクラック抑制効果(曲げ強度)として以下の方法で評価を行った。
まず、骨材の最大粒径20mmのアスファルト混合物、バインダとしてストレートアスファルトを使用し、長さ300mm、幅100mm、厚さ60mmの下層を作製した。
次いで、骨材の最大粒径13mmのアスファルト混合物、バインダとしてストレートアスファルトを使用し、長さ300mm、幅100mm、厚さ40mmの上層を作製した。
作製した下層と上層との間に、実施例及び比較例で作製したリフレクションクラック抑制シートを敷設し、供試体を得た。
得られた供試体を『舗装調査・試験法便覧(B005)』(公益社団法人日本道路協会発行)に準拠し、試験温度-10℃、2点支持1点載荷で載荷速度50mm/分の条件で曲げ強度試験を行った。
なお、評価として、下層と上層との間にリフレクションクラック抑制シートを敷設していないもの(参考例1参照)を基準とし、基準に対する比(補強比)を算出した。
【0044】
<リフレクションクラック抑制効果(クラック貫通時間)>
実施例及び比較例で作製したリフレクションクラック抑制シートについてのリフレクションクラック抑制効果(クラック貫通時間)として以下の方法で評価を行った。
まず、骨材の最大粒径20mmのアスファルト混合物、バインダとしてストレートアスファルトを使用し、長さ290mm、幅80mm、厚さ60mmの下層を作製した。
次いで、骨材の最大粒径13mmのアスファルト混合物、バインダとしてストレートアスファルトを使用し、長さ290mm、幅80mm、厚さ40mmの上層を作製した。
作製した下層と上層との間に、実施例及び比較例で作製したリフレクションクラック抑制シートを敷設し、供試体を得た。
ホイールトラッキング試験機(株式会社岩田工業所製)を用いて、下地に隙間3mmのクラックを有する状況を再現し、供試体のリフレクションクラック抑制効果を評価した。試験条件は、試験温度25℃、タイヤの走行頻度21(回/分)、走行距離23cm、載荷荷重95kgで行った。タイヤによる走行は、供試体の表面にクラックが発生するまで行い、クラックが発生した時間を測定した。
【0045】
<リフレクションクラック抑制効果(クラック抑制効果)>
実施例及び比較例で作製したリフレクションクラック抑制シートについてのリフレクションクラック抑制効果(クラック抑制効果)の評価として、上述のリフレクションクラック抑制効果(クラック貫通時間)に基づいて以下のように評価した。
A:供試体表面にクラックが発生するまでに要した時間が250分以上
B:供試体表面にクラックが発生するまでに要した時間が100分以上250分未満
C:供試体表面にクラックが発生するまでに要した時間が100分未満
【0046】
[物性及び評価結果]
<実施例>
実施例のリフレクションクラック抑制シートを、上述した評価方法により評価した。結果を表1に示す。表1には、参考例1の評価についても示す。
【0047】
【表1】
【0048】
<比較例>
比較例のリフレクションクラック抑制シートを、上述した評価方法により評価した。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表1及び表2より、実施例1~3においてバサルト繊維を含む鉱物繊維糸を用いた網目構造体とすることで、ガラス繊維を用いた場合と同等以上のリフレクションクラック抑制効果を発揮することが認められる。
また、実施例1~3では、比較例と比べて剥離率が低く、リフレクションクラック抑制の効果を長期間維持することができる。これは、バサルト繊維を含む鉱物繊維糸を用いた網目構造体とアスファルト系材料がよく馴染むことに依ると考えられる。
【符号の説明】
【0051】
1:リフレクションクラック抑制シート
10:網目構造体
11:縦糸
12:横糸
20:被覆体
30:舗装構造
31:下層
32:上層
図1
図2
図3