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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】伸縮性織物、及び該織物を含む衣服
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/47 20210101AFI20230406BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20230406BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20230406BHJP
   D03D 15/52 20210101ALI20230406BHJP
   D03D 15/56 20210101ALI20230406BHJP
【FI】
D03D15/47
D02G3/04
D03D1/00 Z
D03D15/52
D03D15/56
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019069947
(22)【出願日】2019-04-01
(65)【公開番号】P2020169401
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】大伴 晴香
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕司
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-001951(JP,A)
【文献】特開2005-120525(JP,A)
【文献】特開2014-152425(JP,A)
【文献】特開2017-190532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D31/00-31/32
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D03D1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸及び緯糸のどちらか一方のみが、非弾性糸と弾性糸との複合糸であり、もう一方が弾性糸を含まない糸である伸縮性織物であって、該複合糸の繊度は、100~700dtexであり、該織物は、弾性糸を5~30g/mで含有し、かつ、該織物の弾性糸を含む方向の9.8N荷重下での伸長率は、20~60%であり、かつ、該織物の弾性糸を含む方向において下記式(1):
複合糸伸長効率={A×(D-B)}/{B×(C-A)} (1)
{式中、Aは、無荷重下での織物の非弾性糸と弾性糸との複合糸の方向の断面における、弾性糸を含まない糸10本分の生地長さであり、Bは、該断面における生地長さAの範囲に織り込まれている該複合糸の長さであり、Cは、該断面において織物の該複合糸を含む方向への9.8N荷重下での伸長時の、弾性糸を含まない糸10本分の生地長さであり、そしてDは、該断面における生地長さCに織り込まれている該複合糸の長さである。}で表される複合糸伸長効率が0.4~1.0であることを特徴とする伸縮性織物。
【請求項2】
伸縮以外に外部からのエネルギー供給を受けない条件下で前記織物を伸張させずに伸縮試験機に取り付け、次いで該織物の弾性糸を含む方向に20%伸張させ、その後緩和させて元の長さに戻す工程を1回とする繰り返し伸縮を、100回/分の速度で5分間行った後、500回目の20%伸長時の織物温度をサーモグラフィで測定して、試験開始前の織物温度との差から算出する瞬間発熱温度が、1.0℃以上である、請求項1に記載の伸縮性織物。
【請求項3】
緯糸が非弾性糸と弾性糸との複合糸である、請求項1又は2に記載の伸縮性織物。
【請求項4】
通気性が2.0~10.0cc/cm/secである、請求項1~3のいずれか1項に記載の伸縮性織物。
【請求項5】
織物組織が2/1ツイル、又は3/1ツイル、又は4/1ツイルである、請求項1~4のいずれか1項に記載の伸縮性織物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の伸縮性織物を含む衣服。
【請求項7】
身体に密着させて使用される、請求項6に記載の衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性織物、及び該織物を含む衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、保温衣服等、着用時に温度が上昇する衣服として、セルロース等の吸湿発熱繊維を混合した布帛からなり、着用時の人体からの不感蒸泄や発汗により発熱させる衣服が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。しかし、これらの吸湿発熱繊維では、発熱時間が短い上に、繊維の吸湿量が飽和に達すればそれ以上発熱することは無く、さらに吸湿量が飽和に達した後は、繊維中の水分により冷感を感じることさえある。
【0003】
また、下記特許文献2、3には、弾性糸を含有する織物において、伸長時発熱する織物の提案もなされている。特許文献2に記載された織物は、9.8N荷重下での経方向と緯方向それぞれの伸長率が60~150%のパワーの強いサポーター等に好適な織物である。また、特許文献3に記載された織物は、9.8N荷重下での経方向と緯方向それぞれの伸長率が30~60%のソフトな伸び感を有するシャツ等のトップスやパンツ等のボトムス等衣服に好適な織物である。これらの織物はいずれも、経糸及び緯糸の両方に弾性糸を含有する織物である。
【0004】
衣服は製品経方向に伸長される場合が多いが、身体に密着してなるトップス及びボトムス製品の場合には、腕や脚を曲げた際に製品緯方向にも同様に大きく伸長する。このため、経方向、緯方向のどちらか一方向の伸長時発熱温度が1.0℃以上であることで暖かく感じる衣料となる。無論、経方向、緯方向とも伸長時に1.0℃以上発熱する方が、衣服着用時もより暖かくて好ましいが、経方向、緯方向ともに伸縮性を持たせる場合は経緯両方向に布帛が収縮するため、厚手で重い生地になりやすい。換言すれば、経方向、緯方向のどちらか一方向にのみ弾性糸を用いる伸縮性織物は、経方向、緯方向の両方に弾性糸を用いる伸縮性織物に比べて、瞬間発熱温度を1.0℃以上とすることが難しい。
このように、経糸及び緯糸のどちらか一方のみに弾性糸を含有する織物であって、着用時温度が上昇し、かつ、着用運動している限り永続的に発熱する織物は現在までに知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-227043号公報
【文献】特開2014-152425号公報
【文献】特開2017-190532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した従来技術の問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、経糸及び緯糸のどちらか一方のみに弾性糸を含有する織物であって、一方向の伸長時の瞬間発熱温度が高い織物、及びそれを含む衣服を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、非弾性糸と弾性糸との複合糸を経方向又は緯方向のいずれか一方にのみに弾性糸を含有する伸縮性織物において、一方向の伸長時に該複合糸が効率的に伸長されることにより前記課題を解決しうることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]経糸及び緯糸のどちらか一方のみが、非弾性糸と弾性糸との複合糸であり、もう一方が弾性糸を含まない糸である伸縮性織物であって、該複合糸の繊度は、100~700dtexであり、該織物は、弾性糸を5~30g/mで含有し、かつ、該織物の弾性糸を含む方向の9.8N荷重下での伸長率は、20~60%であり、かつ、該織物の弾性糸を含む方向において下記式(1):
複合糸伸長効率={A×(D-B)}/{B×(C-A)} (1)
{式中、Aは、無荷重下での織物の非弾性糸と弾性糸との複合糸の方向の断面における、弾性糸を含まない糸10本分の生地長さであり、Bは、該断面における生地長さAの範囲に織り込まれている該複合糸の長さであり、Cは、該断面において織物の該複合糸を含む方向への9.8N荷重下での伸長時の、弾性糸を含まない糸10本分の生地長さであり、そしてDは、該断面における生地長さCに織り込まれている該複合糸の長さである。}で表される複合糸伸長効率が0.4~1.0であることを特徴とする伸縮性織物。
[2]伸縮以外に外部からのエネルギー供給を受けない条件下で前記織物を伸張させずに伸縮試験機に取り付け、次いで該織物の弾性糸を含む方向に20%伸張させ、その後緩和させて元の長さに戻す工程を1回とする繰り返し伸縮を、100回/分の速度で5分間行った後、500回目の20%伸長時の織物温度をサーモグラフィで測定して、試験開始前の織物温度との差から算出する瞬間発熱温度が、1.0℃以上である、前記[1]に記載の伸縮性織物。
[3]緯糸が非弾性糸と弾性糸との複合糸である、前記[1]又は[2]に記載の伸縮性織物。
[4]通気性が2.0~10.0cc/cm/secである、前記[1]~[3]のいずれかに記載の伸縮性織物。
[5]織物組織が2/1ツイル、又は3/1ツイル、又は4/1ツイルである、前記[1]~[4]のいずれかに記載の伸縮性織物。
[6]前記[1]~[5]のいずれかに記載の伸縮性織物を含む衣服。
[7]身体に密着させて使用される、前記[6]に記載の衣服。
【発明の効果】
【0009】
本発明の伸縮性織物は、経糸及び緯糸のどちらか一方のみに弾性糸を含む薄手で軽量、かつ、ソフトな風合いとすることができる生産性の高い織物であるにも拘わらず、伸長時瞬間的に温度が上昇し、伸縮を繰り返しても永続的に伸長時発熱する。それゆえ、該織物を含む衣服は、着用時温度が上昇し、かつ、着用運動している限り永続的に発熱するものとなり、衣服材料として有用であり、好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の一態様である、平織の伸縮性織物の断面図である。
図2】本実施形態の一態様である、綾織の伸縮性織物の断面図である。本断面図においては、複合糸屈曲度fが小さい。
図3】従来技術である、綾織の伸縮性織物の断面図の一例である。本断面図においては、複合糸屈曲度fが大きい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の伸縮性織物は、経糸及び緯糸のどちらか一方のみが、非弾性糸と弾性糸との複合糸であり、もう一方が弾性糸を含まない糸である織物である。
複合糸の繊度が細いと風合いのソフトな織物となるが、細過ぎると弾性糸も細くなって伸長時発熱温度が低くなる。逆に、複合糸の繊度が太いと太い弾性糸の使用が可能となり伸長時発熱温度が高くなるが、太くなり過ぎると硬い生地となって着用時動き難く不快な織物となる。上記観点より、非弾性糸と弾性糸との複合糸の繊度は、100~700dtex(デシテックス:以下同じ記号を使用する。)であり、好ましくは250~500dtexである。複合糸の繊度については、紡績糸の場合は通常綿番手等の恒重式番手が使用されるが、恒重式番手から長繊維の場合に使用されるdtexに換算して繊度を求める。
【0012】
「複合糸」としては、弾性糸と、長繊維、短繊維、紡績糸、及びそれらからなる群から選ばれる少なくとも一種の非弾性糸とを、複合することができ、例えば、複合撚糸、カバーリング糸(FTY、SCY、DCYと称される)、エアー混繊糸、紡績糸に、弾性糸を混合させて製造される複合糸(CSYと称される)が使用できる。
【0013】
本実施形態の伸縮性織物を構成する「弾性糸を含まない糸」としては、特に限りはないが、繊度100~400dtex程度であれば、着用時にソフトな風合いの製品となるため、好ましい。
【0014】
本明細書中、用語「弾性糸」とは、破断伸度100%以上の繊維を指す。本実施形態の伸縮性織物の複合糸に用いられる弾性糸の繊度は、30~130dtexであることが好ましく、より好ましくは40~110dtexである。弾性糸が太くなる程、伸長時の発熱効果を発揮できる。他方、繊度が130dtex以下であれば伸縮力が適度であり、着用時突っ張り感が少なく動き易く快適な織物となる。繊度の異なる複数の弾性糸を使用する場合も、弾性糸の繊度が上記範囲であることが好ましい。
また、弾性糸としては、ポリウレタン系、ポリエーテルエステル系の弾性糸、例えば、ポリウレタン系弾性糸としては、乾式紡糸又は溶融紡糸したものが使用でき、ポリマーや紡糸方法には特に限定されない。
弾性糸の破断伸度は400%~1000%程度が好ましく、かつ、伸縮性に優れ、染色加工時のプレセット工程で通常処理温度の180℃近辺で伸縮性を損なわない弾性糸が好ましい。また、弾性糸に特殊ポリマーや粉体を添加することにより、高セット性、抗菌性、吸湿、吸水性等の機能性を付与したものも使用可能である。
【0015】
本明細書中、用語「非弾性糸」とは、破断伸度が100%未満の繊維を指す。非弾性糸としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、さらに、キュプラ、レーヨン、綿、竹繊維等のセルロース系繊維、羊毛等の獣毛繊維等の長繊維又は短繊維を使用することができる。また、これらの繊維のブライト糸、セミダル糸、フルダル糸等も任意に使用でき、繊維の断面形状も丸型、楕円型、W型、繭型、中空糸等任意な断面形状の繊維の使用が可能である。非弾性糸としてセルロース等の吸湿発熱する素材を使用すれば、着用時吸湿により発熱し、運動することによっても発熱することになり、発熱効果をさらに高めることができる。また、紡績糸の使用や起毛によって、発熱した熱を逃がし難くし、保温効果を高めることもできる。また、紡績糸の使用は、伸縮時の生地内の摩擦による発熱が期待できるようになるため好ましい。
【0016】
本実施形態の伸縮性織物は、織物中に弾性糸が5~30g/mで含有されている必要があり、好ましくは5~20g/mである。伸長時に高い発熱温度を得るためには、織物中の弾性糸含有量が多いほど好ましいが、弾性糸の含有量が多すぎるとパワーの強い織物となって、着用時動き難くなり、また、重く感じる織物となってしまう一方で、弾性糸の含有量が少ないと着用時動き易いが伸長時発熱温度が低くなる。
【0017】
本実施形態の伸縮性織物では、織物を伸長させた際の、弾性糸を含む複合糸の伸長効率を大きくすることが重要であり、下記式(1):
複合糸伸長効率={A×(D-B)}/{B×(C-A)} (1)
{式中、Aは無荷重下での織物の非弾性糸と弾性糸との複合糸の方向の断面における、弾性糸を含まない糸10本分の生地長さであり、Bは該断面における生地長さAの範囲に織り込まれている複合糸の長さであり、Cは該断面において織物の複合糸を含む方向への9.8N荷重下での伸長時の、弾性糸を含まない糸10本分の生地長さであり、そしてDは該断面における生地長さCに織り込まれている複合糸の長さである。}
で表される複合糸伸長効率が、伸長時発熱温度に影響する。
すなわち、複合糸伸長効率を0.4~1.0に設定すれば、伸長時発熱温度が高くなり、より好ましくは0.7~1.0である。本実施形態の伸縮性織物では、この複合糸伸長効率を1.0に近づけることで、弾性糸が一方向のみに含まれる織物であっても、暖かさを感じる衣服とすることができる。複合糸伸長効率は、織物組織、複合糸内の弾性糸の伸長率、製織時の経糸又は緯糸の張力、さらに、染色仕上げ加工時の幅出しにより、調整可能である。具体的には、複合糸を製造する際、無荷重状態の弾性糸の長さに対し、弾性糸長さが好ましくは3.1~4.5倍程度となるよう弾性糸を伸長して、非弾性糸を巻き付ける、又は紡績工程にて非弾性糸で覆うことで、複合糸伸長効率を0.4~1.0に調整しやすくなる。また、製織時の経糸張力を低く、緯糸張力を高く設定することで、複合糸伸長効率を所望の範囲に調整しやすくなる。染色仕上げ時の仕上げ幅を大きく設定することでも複合糸伸長効率を所望の範囲に設定しやすくなる。尚、緯糸に弾性糸を含む織物においては、伸び感をよくするために緯糸打ち込み時の張力を低めに設定することが多いが、本実施形態においては、該張力を高めに設定することで、織物の伸縮により弾性糸が効率よく伸縮することができる。また、仕上げ加工についても、伸び感をよくするために、仕上げ幅を小さく設定することが多いが、本実施形態においては、あえて仕上げ幅を大きく設定することで、織物の伸縮により弾性糸が効率よく伸縮することができる。
【0018】
本明細書中、用語「瞬間発熱温度」とは、伸縮以外に外部からのエネルギー供給を受けない条件下で織物を、弾性糸を含む方向に10%伸長して伸縮試験機に取り付け、次いでさらに20%伸長、緩和してもとの長さに戻す工程を1回とする繰り返し伸縮を、100回/分の速度で5分間行った後、500回目の20%伸長時の織物温度をサーモグラフィで測定し、試験開始前の織物温度との差から算出された値をいう。
本実施形態の伸縮性織物において、500回目の20%伸長時の織物温度が試験開始前より高くなれば、瞬間発熱していることを示し、本実施形態の伸縮性織物は、この瞬間発熱温度が1.0℃以上あることが好ましい。1.0℃以上の瞬間発熱温度であれば、発熱を十分に感じることができる。瞬間発熱温度は好ましくは1.5℃以上である。瞬間発熱温度は高いほど好適であり、人体に悪影響を与えない範囲であれば上限は特に限定されないが、瞬間発熱温度を高くするために弾性糸含有量を高くしすぎると織物がハイパワーとなって衣服として動き難いものとなる。尚、発熱温度の測定方法は、後掲の実施例にて具体的に説明する。
【0019】
本実施形態の伸縮性織物では、伸長時発熱は織物中の弾性糸の伸縮による発熱が大きいが、織物内の摩擦による発熱も寄与し、この摩擦による発熱は織物の通気性が低いほど大きくなる。本実施形態の伸縮性織物の通気性は2~10cc/cm/secとなるよう織物を設計することが好ましい。通気性が2cc/cm/sec以上であると風合いの柔らかい生地となり、他方、通気性が10cc/cm/sec以下であれば伸長時発熱効果が十分に得られる。通気性を2~10cc/cm/secとするためには、複合糸の繊度、織物密度等を適宜調整すればよい。
【0020】
本実施形態の伸縮性織物の組織は、タフタ、ツイル、サテン、ジャカード組織等任意であるが、これらの変化組織の使用も可能である。但し、瞬間発熱温度を高める観点からは、織物組織は1/1タフタのような平組織系よりも2/1ツイル、3/1ツイル、4/1ツイルのような綾組織が好ましい。この理由としては、綾組織とすることにより、後述の複合糸屈曲度が適切な範囲となり、複合糸伸長効率が上がり、結果的に瞬間発熱温度が上がるためである。
【0021】
本実施形態の伸縮性織物は、動きやすく暖かい衣料とするという観点から、布帛の経方向、又は緯方向の9.8N荷重下伸度が20~60%であることが好ましい。9.8N荷重下の伸度が20%以上であれば、伸縮性が十分であり、着用時に突っ張り感を感じにくい快適な織物となる。他方、9.8N荷重下の伸度が60%以下でれば、伸長時に十分に発熱する織物となる。9.8N荷重下の伸度の調整は、複合糸の繊度、複合糸内の弾性糸の伸長率(ドラフト率とも称される)、経糸、及び緯糸密度、織物中の弾性糸の伸長率さらに、染色仕上げ加工時の幅出しや追い込み量などの調整により可能である。
【0022】
本実施形態の伸縮性織物は、下記式(2):
複合糸屈曲度=f/A (2)
{式中、Aは、無荷重下での織物の非弾性糸と弾性糸との複合糸の方向の断面における、弾性糸を含まない糸10本分の生地長さであり、そしてfは、該断面における生地長さAの範囲における該複合糸の、平均屈曲幅である}で表される複合糸屈曲度を、0.10~0.23、好ましくは0.19~0.22にすることで、複合糸伸長効率を上げることができる。複合糸屈曲度が0.23以下であれば、複合糸伸長効率を高くなるため好ましく、一方で、複合糸屈曲度が0.10以上であれば、伸び感に優れる織物となるため好ましい。尚、一般的な伸縮性織物における複合糸屈曲度は、0.23よりも大きいことがほとんどであり、所望の複合糸伸長効率を得ることは難しかった。
【0023】
複合糸屈曲度を所望の範囲とするには、前述の通り2/1ツイル、3/1ツイル、4/1ツイルのような綾組織系とすることや、複合糸内の弾性糸の伸長率(ドラフト率)を高くすること、また、製織時に弾性糸を含む複合糸の張力を高く調整して、弾性糸を含まない糸の張力は低く調整することが好ましい。特に緯糸に弾性糸を含む場合、染色仕上げ加工時の仕上げ幅を大きく設定することで、緯糸が織物内で引き伸ばされやすく、複合糸屈曲度を所望の範囲としやすい。他方、経糸に弾性糸を含む場合、染色仕上げ時の生地張力を高く設定することで、所望の複合糸屈曲度を得やすい。
【0024】
本実施形態の伸縮性織物では、弾性糸又は非弾性糸に無機物質を含有させることができ、含有する無機物質の性能を加味した織物とすることができる。例えば、酸化チタンを含有させると、遠赤外線効果による保温性が付与できる。無機物質の含有法については、弾性糸の紡糸原液に無機物質を含有させて紡糸する方法が最も簡単である。無機物質とは、酸化チタン等のセラミックス、カーボン、カーボンブラック等の無機物及び無機化合物であり、弾性糸の紡糸の障害とならないよう、微粉末状が好ましい。これらの無機物質を弾性糸に1~10重量%含有させていることが好ましく、無機物質を含有することにより、織物の伸長発熱時、保温効果をより効果的に発揮することが可能となる。尚、無機物質が少ないと保温効果が小さく、多すぎると紡糸時や伸長時に糸切れすることがあるため、1~10重量%の含有が好ましく、より好ましくは2~5重量%の含有である。
【0025】
本実施形態の伸縮性織物の染色仕上げ方法は、非弾性糸のみで染色する方法、複合糸として染色する方法、織物として染色する方法のいずれでもよく、いずれの方法でも通常の染色仕上げ工程が使用でき、使用する繊維素材に応じた染色条件とし、使用する染色機も液流染色機、ウインス染色機、パドル染色機、オーバーマイヤー染色機など任意である。
吸水性や柔軟性を向上させる加工剤の使用も可能であるが、シリコン系の加工剤では糸の滑り効果が高く、伸長時の発熱効果も低いため、糸の滑り効果が少なくなるようにポリエステル系等の非シリコン系の仕上げ剤を使用するか、又は仕上げ剤を使用しないで製品とすることが好ましい。
【実施例
【0026】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。尚、実施例における伸縮性織物、製造した衣服の評価は以下の方法により行なった。
【0027】
(1)繊度
20℃65%RHの環境で24時間以上調湿した織物又は衣料製品より織り込まれた複合糸を抜き出し、初荷重0.1gをかけて長さ90cmの試料20本をとって質量を量り、下記式により繊度(dtex)を算出し、2回の平均値の小数点以下一桁目を四捨五入して繊度とする。
繊度(dtex)=1000×試料重量(g)/試料長さ(m)
【0028】
(2)瞬間発熱温度
瞬間発熱温度の測定は、下記条件下、伸縮以外に外部からのエネルギー供給を受けない条件下で織物を非弾性糸と弾性糸との複合糸の長さ方向で伸縮試験機(デマッチャー試験機)に取り付け、20%伸長、緩和してもとの長さに戻す工程を1回とする繰り返し伸縮を、100回/分の速度で5分間行った後、500回目の20%伸長時の織物温度をサーモグラフィで測定し、試験開始前の織物温度との差から算出する。
伸縮試験機:デマッチャー試験機((株)大栄科学精器製作所製)。
試料の大きさ:長さ10cm(把持部除く)、幅6cm。
測定環境:温度20℃、湿度65%RHの恒温恒湿条件。伸縮以外に外部からのエネルギー供給を受けない状態。
繰り返し伸縮サイクル:100回/分。
発熱温度測定:繰り返し伸長100回目の所定伸長時の試料表面温度をサーモグラフィで測定。サーモグラフィの放射率は1.0に設定。
発熱温度評価:測定する試料の表面最高温度を読み取り、伸縮前に比べ何℃上昇したかを算出し、小数点以下二桁目を四捨五入して瞬間発熱温度とする。
【0029】
(3)弾性糸含有量
織物中の弾性糸含有量(g/m)を、以下の方法により求め、小数点一桁を四捨五入する。
20℃65%RHの環境で24時間以上調湿した織物(実施例では約10cm×10cmの正方形とした。)の重量及び面積を測定した後、織物中の非弾性糸を溶解等により除去し、再調湿した弾性糸のみの重量を測定して換算する。非弾性糸を溶解等により除去できない場合、重量測定後の織物から弾性糸を抜き出し、弾性糸の重量を測定して弾性糸含有量を測定する。
【0030】
(4)織物伸度
織物伸度を下記条件下で測定する。
試料の大きさ:長さ100mm(把持部除く)、幅25mm。
引張り試験機:テンシロン引張り試験機。
初荷重:0.1N。
引張り速度:300mm/分。
引張り長さ:9.8N荷重まで伸長。
測定:上記条件で伸長し、9.8N荷重での経方向伸度又は緯方向伸度を下記式によって求め、小数点以下を四捨五入して織物伸度とする。
織物伸度(%)=(9.8N荷重下での伸び長さ(mm)/100)×100
【0031】
(5)織物密度
20℃65%RHの環境下で24時間以上調湿した織物を机上に置いて、任意の3ヶ所の1インチ(2.54cm)四方間の経糸及び緯糸の本数を数え,3回の平均値を単位長さについて算出し,小数点以下を四捨五入して織物密度とする。
【0032】
(6)複合糸伸長効率
20℃65%RHの環境下で24時間以上調湿した織物を机上に置いて、ルーペで拡大しながら、弾性糸を含む複合糸に沿って、布帛を裁断し、観察断面の作製を行う。実施例では、約1cm×10cmの長方形に織物を切り出し、長辺を該観察断面とした。まずは、無荷重状態で試験片を垂直方向に固定し、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、VHX-6000)を用いて観察断面の画像を撮影する。次に試験片を9.8N荷重下で伸張させた状態で冶具を用いて固定し、同様に観察断面の撮影を行う。それぞれの画像において、弾性糸を含まない糸10本分の生地長さと、弾性糸を含まない糸10本分に織り込まれている、弾性糸を含む複合糸の長さを測定する。無荷重下での弾性糸を含まない糸10本分の生地長さをAとし、織物長さAに織り込まれている、弾性糸を含む複合糸の長さをBとし、9.8N荷重下での弾性糸を含まない糸10本分の生地長さをCとし、そして織物長さCに織り込まれている、弾性糸を含む複合糸の長さをDとする。反物又は衣料製品から3点の試験片を採取し、それぞれ、求めたA~Dを下記式(1):
複合糸伸長効率={A×(D-B)}/{B×(C-A)} (1)
に代入して、3点平均した小数点以下二桁目を四捨五入して複合糸伸長効率を求める。
【0033】
(7)複合糸屈曲度
複合糸伸長効率の算出と同様の手順で、無荷重下での観察断面写真より、弾性糸を含まない糸10本分の生地長さを測定し、Aとする。また、生地長さAにおける弾性糸を含む複合糸の屈曲回数をe、そして弾性糸を含む複合糸の屈曲点における平均屈曲幅をfとする。織物組織等により屈曲回数eが異なるため、平均屈曲幅fは、屈曲回数e点の平均値とし、e≧3の時は3点の平均値とする。例えば、e=2のとき、fは2点の平均値とし、e=5のときは3点の平均値とする。反物又は衣料製品から3点の試験片を採取し、それぞれ求めたA、fを下記式(2):
複合糸屈曲度=f/A (2)
に代入し、3点平均した小数点以下三桁目を四捨五入して複合糸屈曲度を求める。
【0034】
(8)通気性
20℃65%RHの環境下で24時間以上調湿した織物を、30cm×30cmの大きさに裁断してJIS L1096 通気性 フラジール形法により測定する。尚、得られた数値は小数点一桁目を四捨五入して通気性とする。
【0035】
(9)着用感
実施例、比較例で得た織物を用いて、脚全体にフィットするストレッチパンツを縫製し、15℃50%RHの環境試験室で着用し、トレッドミルで4km/分での速度で10分間歩行した後、「暖かさ」と「動き易さ」を、下記評価基準:
<暖かさ>
○:膝、臀部、及び大腿部を含むパンツ全体が暖かく感じる;
△:膝、臀部の伸縮を繰り返す部分が暖かい;
×:暖かさを感じない;
<動き易さ>
○:動き易い;
△:やや動き易い;
×:動きにくい;
で、それぞれ、判定する。○と△を合格とした。
【0036】
[実施例1]
複合糸として綿染めした綿の紡績工程中に4倍に伸長した44dtexの弾性糸を挿入して、CSYとして340dtexの複合糸を製造し、この複合糸を緯糸として用いた。経糸としては、310dtexの紡績糸をビームに巻いて織機にセットし、V字筬を用いて経糸密度が68本/インチになるよう2本入れ/羽で筬入れした。3/1ツイル組織で、緯糸を打ち込み50本/インチの条件で製織した後、連続精練機で精練を行い、次いで190℃、140cm幅で1分間仕上げセットを行い、伸縮性織物を得た。
得られた伸縮性織物の評価結果を以下の表1に示す。
【0037】
[実施例2、3]
実施例1において、経糸密度を68本/インチ、緯糸打ち密度を50本/インチとした織物(実施例2)、及び、経糸密度を63本/インチ、緯糸打ち密度を47本/インチとした織物(実施例3)を製造し、実施例1と同様に仕上げた。
得られた伸縮性織物の評価結果を以下の表1に示す。
【0038】
[実施例4]
実施例1において、組織を1/1タフタ組織として、緯糸を打ち込み53本/インチの条件で製織した後、実施例1と同様に仕上げた。
得られた伸縮性織物の評価結果を以下の表1に示す。
【0039】
[実施例5、比較例1]
実施例1において、緯糸打ち込み時の張力を上げた織物(実施例5)、及び、緯糸打ち込み時の張力を下げた織物(比較例1)を製造し、実施例1と同様に仕上げた。
得られた伸縮性織物の評価結果を以下の表1に示す。
【0040】
[実施例6]
3.5倍に伸長した44dtexの弾性糸に165dtexのポリエステル2ヒーター加工糸を800T/mの条件で巻きつけた200dtexの複合糸を緯糸として使用した。経糸としては165dtexのポリエステル2ヒーター加工糸をビームに捲いて織機にセットし、40羽/インチの筬に2本入れ/筬で筬入れし、打ち込み本数80本/インチで2/1ツイル組織の織物を製織した後、連続精練機で精練を行い、次いで185℃、幅145cmで1分間仕上げセットを行い、伸縮性織物を得た。
得られた伸縮性織物の評価結果を以下の表1に示す。
【0041】
[実施例7]
複合糸として綿染めした綿の紡績工程中に4倍に伸長した78dtexの弾性糸を挿入して、CSYとして560dtexの複合糸を製造し、この複合糸を緯糸として用いた。経糸としては、500dtexの紡績糸をビームに巻いて織機にセットし、20羽/インチの筬に2本入れ/羽で筬入れした。2/1ツイル組織で、緯糸を打ち込み38本/インチの条件で製織した後、連続精練機で精練を行い、次いで185℃、幅135cmで1分間仕上げセットを行い、伸縮性織物を得た。
得られた伸縮性織物の評価結果を以下の表1に示す。
【0042】
[実施例8]
複合糸として綿染めした綿の紡績工程中に4倍に伸長した44dtexの弾性糸を挿入して、CSYとして340dtexの複合糸を製造し、この複合糸をビームに巻いて織機にセットし、33羽/インチの筬に2本入れ/羽で筬入れした。310dtexの紡績糸を緯糸として用い、2/1ツイル組織で、打ち込み54本/インチの条件で製織した後、連続精練機で精練を行い、次いで190℃、幅140cmで1分間仕上げセットを行い、伸縮性織物を得た。
【0043】
[比較例2]
複合糸として綿染めした綿の紡績工程中に3倍に伸長した44dtexの弾性糸を挿入して、CSYとして340dtexの複合糸を製造し、この複合糸を緯糸として用いた。経糸としては、310dtexの紡績糸をビームに巻いて織機にセットし、33羽/インチの筬に2枚入れ/羽で筬入れした。2/1ツイル組織で、緯糸を打ち込み54本/インチの条件で製織した後、連続精練機で精練を行い、次いで180℃、130cm幅で1分間仕上げセットを行い、伸縮性織物を得た。
得られた伸縮性織物の評価結果を以下の表1に示す。
【0044】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の伸縮性織物は、ソフトな伸び感を有するシャツ等のトップスやパンツ等のボトムス等衣服に使用可能であり、さらに、関節部を覆う身体に密着したサポーターとしても使用でき、保温性と伸長部位の筋肉や関節を暖めることによる怪我の防止や脂肪燃焼効果も期待できる衣服製品を提供することが可能となる。従来技術においては、経糸、緯糸ともに非弾性糸と弾性糸との複合糸を用いる必要があったが、本発明の伸縮性織物は、どちらか一方に非弾性糸と弾性糸との複合糸を用いれば、伸縮時に十分発熱するために、薄手で軽量、かつソフトな風合いの伸縮性織物を得ることができ、さらには、生産性の向上、及び、コストダウンも可能であるため、幅広い展開が期待できる。
【符号の説明】
【0046】
1:非弾性糸と弾性糸との複合糸
2:弾性糸を含まない糸
A:無荷重下での経糸10本分の生地長さ
B:生地長さAの範囲に織り込まれている非弾性糸と弾性糸との複合糸の長さ
f:非弾性糸と弾性糸との複合糸の屈曲点における平均屈曲幅
図1
図2
図3