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特許7257224温度推定の方法、システム、プログラムおよび機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】温度推定の方法、システム、プログラムおよび機器
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/00 20060101AFI20230406BHJP
   F24C 7/04 20210101ALI20230406BHJP
   H05B 6/12 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
G01K7/00 381D
F24C7/04 301A
H05B6/12 335
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019070734
(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公開番号】P2020169865
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503063168
【氏名又は名称】東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083725
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100140349
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 継立
(74)【代理人】
【識別番号】100153305
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】浅輪 泰久
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼屋 駿介
(72)【発明者】
【氏名】安部 健
(72)【発明者】
【氏名】原 毅
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-077334(JP,A)
【文献】特開2001-165443(JP,A)
【文献】特表2010-508493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
F24C 7/00,7/04-7/06
H05B 6/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱の停止後、被調理物からの放熱を抑制する工程と、
加熱の停止後の放置時間で被調理物の表面温度を計測する工程と、
加熱を停止した被調理物の前記表面温度の時間推移を取得し、該表面温度の時間推移により被調理物の内部温度を推定する工程と、
を含むことを特徴とする温度推定方法。
【請求項2】
さらに、被調理物の種類、容積または重量の何れかまたは二以上により前記表面温度または前記内部温度の低下に対して閾値を設定し、被調理物の温度により加熱の良否を判定する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の温度推定方法。
【請求項3】
さらに、情報提示工程を含み、該工程では被調理物の、
a)前記表面温度、
b)前記表面温度の時間推移、
c)前記内部温度、
d)前記表面温度の計測時点を含む時間情報
e)判定情報
の何れかまたは二以上を提示することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の温度推定方法。
【請求項4】
加熱の停止後、被調理物からの放熱を抑制する放熱抑制部と、
加熱の停止後の放置時間で被調理物の表面温度を計測する温度計測部と、
加熱を停止した被調理物の前記表面温度の時間推移を取得し、該表面温度の時間推移により被調理物の内部温度を推定する温度推定部と、
を備えることを特徴とする温度推定システム。
【請求項5】
さらに、被調理物の種類、容積または重量の何れかまたは二以上により前記表面温度または前記内部温度の低下に対して閾値を設定し、被調理物の温度により加熱の良否を判定する良否判定部を備えることを特徴とする請求項4に記載の温度推定システム。
【請求項6】
さらに、被調理物を加熱する加熱部を含むことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の温度推定システム。
【請求項7】
さらに、情報提示部を備え、該情報提示部は被調理物の、
a)前記表面温度、
b)前記表面温度の時間推移、
c)前記内部温度、
d)前記表面温度の計測時点を含む時間情報
e)判定情報
の何れかまたは二以上を提示することを特徴とする請求項4ないし請求項6の何れかの請求項に記載の温度推定システム。
【請求項8】
コンピュータに実現させるためのプログラムであって
熱の停止後の放置時間で、加熱の停止後に放熱抑制部に収容されて放熱が抑制されている被調理物の表面温度を温度計測部に計測させる機能と、
加熱を停止した被調理物の前記表面温度の時間推移を取得し、該表面温度の時間推移により被調理物の内部温度を推定する機能と、
を前記コンピュータに実現させるためのプログラム。
【請求項9】
さらに、被調理物の種類、容積または重量の何れかまたは二以上により前記表面温度または前記内部温度の低下に対して閾値を設定し、被調理物の温度により加熱の良否を判定する機能を前記コンピュータに実現させるための請求項8に記載のプログラム。
【請求項10】
さらに、情報提示部に被調理物の、
a)前記表面温度、
b)前記表面温度の時間推移、
c)前記内部温度、
d)前記表面温度の計測時点を含む時間情報
e)判定情報
の何れかまたは二以上を情報提示部に提示させる機能を前記コンピュータに実現させるための請求項8または請求項9に記載のプログラム。
【請求項11】
加熱の停止後、被調理物からの放熱を抑制する放熱抑制部と、
加熱の停止後の放置時間で被調理物の表面温度を計測する温度計測部と、
加熱を停止した被調理物の前記表面温度の時間推移を取得し、該表面温度の時間推移により被調理物の内部温度を推定する温度推定部と、
を含むことを特徴とする機器。
【請求項12】
さらに、被調理物の種類、容積または重量の何れかまたは二以上により前記表面温度または前記内部温度の低下に対して閾値を設定し、被調理物の温度により加熱の良否を判定する良否判定部を備えることを特徴とする請求項11に記載の機器。
【請求項13】
さらに、被調理物を加熱する加熱部を含むことを特徴とする請求項11または請求項12に記載の機器。
【請求項14】
さらに、情報提示部を備え、該情報提示部が被調理物の、
a)前記表面温度、
b)前記表面温度の時間推移、
c)前記内部温度、
d)前記表面温度の計測時点を含む時間情報
e)判定情報
の何れかまたは二以上を提示することを特徴とする請求項11ないし請求項13の何れかの請求項に記載の機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はたとえば、焼き鳥など、被調理物の調理後における内部温度の推定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
保健衛生上、被調理物の温度管理は不可欠であり、その内部温度を検出する手段に芯温計などが用いられている。芯温計は、被調理物に温度検出部を差し込むことで、芯温の接触測定を行う。
この被調理物の温度計測に関し、加熱中の被調理物の重量変化から芯温を推定することが知られている(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-133780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、学校や病院など、給食を提供する施設では食中毒の発症や調理工程での異物混入などを防止するための衛生管理手法としてHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point: 危害分析・重要管理点)が普及している。このHACCPは、食品製造の各工程において厳格な工程管理を行い、被調理物の温度計測を行い、その計測情報を記録することが義務づけられている。このような被調理物についての衛生管理の取り組みがレストランなどにも拡大することは好ましいことである。
【0005】
レストランなどで提供する被調理物にはハンバーグ、つくね、餃子などの破砕肉を使うもの、細切れ肉を使う焼き鳥など、多様なものが含まれる。調理前の加工で内部に雑菌が付着するおそれがある被調理物では、加熱による調理で容易に加熱される表面部だけでなく、内部まで充分に殺菌される程度に加熱する必要がある。
しかしながら、直火加熱による調理法による焼き鳥などの被調理物では、その表面温度が上昇していても、内部が充分に加熱されていないという場合があり得る。
このような被調理物について、調理済みの肉などに温度計を差し込むなどの操作は調理品の品質を損ねる上、表面温度が上昇していても内部温度が殺菌される温度まで上昇していない場合には、被調理物の加熱殺菌が不十分となるという課題がある。
【0006】
発明者は、加熱を停止した被調理物の表面温度が内部からの熱移動を受けて推移し、この表面温度の温度推移を観測すれば、被調理物の内部温度を推定できるとの知見を得た。
【0007】
そこで、本発明の目的は上記課題および上記知見に鑑み、焼き鳥などの被調理物の形態に影響を受けることなく、表面温度の推移により内部温度を推定し、被調理物の温度管理を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の温度推定方法の一側面によれば、加熱の停止後、被調理物からの放熱を抑制する工程と、加熱の停止後の放置時間で被調理物の表面温度を計測する工程と、加熱を停止した被調理物の前記表面温度の時間推移を取得し、該表面温度の時間推移により被調理物の内部温度を推定する工程を含む
の温度推定方法において、さらに、被調理物の種類、容積または重量の何れかまたは二以上により前記表面温度または前記内部温度の低下に対して閾値を設定し、被調理物の温度により加熱の良否を判定する工程を含んでよい。
この温度推定方法において、さらに、情報提示工程を含み、該工程では被調理物の、
a)前記表面温度、
b)前記表面温度の時間推移、
c)前記内部温度、
d)前記表面温度の計測時点を含む時間情報、
e)判定情報
の何れかまたは二以上を提示してよい。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の温度推定システムの一側面によれば、加熱の停止後、被調理物からの放熱を抑制する放熱抑制部と、加熱の停止後の放置時間で被調理物の表面温度を計測する温度計測部と、加熱を停止した被調理物の前記表面温度の時間推移を取得し、該表面温度の時間推移により被調理物の内部温度を推定する温度推定部を備える
の温度推定システムにおいて、さらに、被調理物の種類、容積または重量の何れかまたは二以上により前記表面温度または前記内部温度の低下に対して閾値を設定し、被調理物の温度により加熱の良否を判定する良否判定部を備えてよい。
この温度推定システムにおいて、さらに、被調理物を加熱する加熱部を含んでよい。
この温度推定システムにおいて、さらに、情報提示部を備え、該情報提示部は被調理物の、
a)前記表面温度、
b)前記表面温度の時間推移、
c)前記内部温度、
d)前記表面温度の計測時点を含む時間情報
e)判定情報
の何れかまたは二以上を提示してよい。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のプログラムの一側面によれば、コンピュータに実現させるためのプログラムであって、加熱の停止後の放置時間で、加熱の停止後に放熱抑制部に収容されて放熱が抑制されている被調理物の表面温度を温度計測部に計測させる機能と、加熱を停止した被調理物の前記表面温度の時間推移を取得し、該表面温度の時間推移により被調理物の内部温度を推定する機能とを前記コンピュータに実現させる。
このプログラムにおいて、さらに、被調理物の種類、容積または重量の何れかまたは二以上により前記表面温度または前記内部温度の低下に対して閾値を設定し、被調理物の温度により加熱の良否を判定する機能を前記コンピュータに実現させてよい。
このプログラムにおいて、さらに、情報提示部に被調理物の、
a)前記表面温度、
b)前記表面温度の時間推移、
c)前記内部温度、
d)前記表面温度の計測時点を含む時間情報、
e)判定情報
の何れかまたは二以上を情報提示部に提示させる機能を前記コンピュータに実現させてよい。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の機器の一側面によれば、加熱の停止後、被調理物からの放熱を抑制する放熱抑制部と、加熱の停止後の放置時間で被調理物の表面温度を計測する温度計測部と、加熱を停止した被調理物の前記表面温度の時間推移を取得し、該表面温度の時間推移により被調理物の内部温度を推定する温度推定部を含む
の機器において、さらに、被調理物の種類、容積または重量の何れかまたは二以上により前記表面温度または前記内部温度の低下に対して閾値を設定し、被調理物の温度により加熱の良否を判定する良否判定部を備えてよい。
この機器において、被調理物を加熱する加熱部を含んでよい。
この機器において、さらに、情報提示部を備え、該情報提示部が被調理物の、
a)前記表面温度、
b)前記表面温度の時間推移、
c)前記内部温度、
d)前記表面温度の計測時点を含む時間情報、
e)判定情報
の何れかまたは二以上を提示してよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次の何れかの効果が得られる。
(1) 調理後の焼き鳥など、被調理物の内部温度を推定でき、被調理物の温度管理を行うことができる。
(2) 温度推定に伴う接触などによる被調理物の劣化を防止でき、被調理物の加熱の良否などの温度管理を行うことができる。
(3) 被調理物の表面温度または内部温度の低下に閾値を設定すれば、この被調理物の表面温度により加熱の良否を非接触で判定でき、被調理物の安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施の形態に係る温度推定工程を示すフローチャートである。
図2】熱的な不平衡状況にある被調理物Fおよびその温度分布を示す図である。
図3】熱的な不平衡状況から平衡状況に至る被調理物Fおよびその温度分布を示す図である。
図4】被調理物Fの表面温度Tsの計測法を示す図である。
図5】餃子の表面温度Tsの時間推移を示す図である。
図6】第2の実施の形態に係る温度推定システムを示す図である。
図7】処理装置のハードウェアを示す図である。
図8】温度推定ファイルの一例を示す図である。
図9】情報提示の一例を示す図である。
図10】温度推定処理を表す処理シーケンスを示す図である。
図11】第3の実施の形態に係る調理機器を示す図である。
図12】Aは実施例に係る調理を示す図であり、Bは実施例に係る温度計測およびその計測機器を示す図である。
図13】Aは被調理物の表面温度計測を示す図であり、Bは内部温度計測を示す図である。
図14】茹で時間をパラメータにした表面温度の時間推移を示す計測値テーブルである。
図15】茹で時間をパラメータにした表面温度の時間推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔第1の実施の形態〕
図1は、第1の実施の形態に係る温度推定工程を示している。図1に示す工程は一例であり、本発明が斯かる工程に限定されるものではない。この温度推定工程では調理中または調理後の被調理物F(図2のA)から表面温度Tsの時間推移を取得し、この時間推移から被調理物Fの内部温度Tiを推定し、併せて被調理物Fに対する加熱の良否を判定する。
この温度推定工程では、図1に示すように、被調理物Fの加熱調理(S101)、表面温度Tsの時間推移の取得(S102)、内部温度Tiの推定(S103)、加熱の良否判定(S104)、情報提示(S105)などの工程が含まれる。
【0015】
被調理物Fの加熱調理(S101): この加熱調理は、被調理物Fにおける通常の調理法により、被調理物Fを加熱する。この加熱は、たとえば、焼く、蒸す、煮る、茹でる、揚げるなど、何れの形態でもよい。熱源には燃焼熱、電熱、スチームなど、何れを用いてもよい。
この加熱調理は一定時間で終了し、加熱を停止させる。この加熱の停止は、被調理物Fに対する加熱の解除、熱源から遠ざけるなど、被調理物Fを加熱状態から開放すればよい。
【0016】
表面温度Tsの時間推移の取得(S102): 表面温度Tsの時間推移の取得には、放熱抑制、表面温度Tsの計測、表面温度Tsの時間推移が含まれる。
放熱抑制は、被調理物Fからの放熱を抑制するために行う。加熱した被調理物Fの表面温度Tsの時間推移から内部温度Tiを推定するため、熱インパルスが大きく、加熱を停止した後の被調理物Fは外部から熱的に絶縁されていることが好ましい。つまり、被調理物Fの内部温度Tiにより変化する表面温度Tsの計測精度を高めるには、放熱による熱的ロスを回避することが不可欠である。
調理後、放熱抑制手段に被調理物Fを収容することにより、被調理物Fからの放熱を抑制する。放熱抑制手段には、放熱を回避可能な空間や断熱空間を用いればよい。被調理物Fから周囲への熱拡散が大きくなると、被調理物Fの内部が十分調理されていても急速に表面温度Tsや内部温度Tiが低下することが予想される。これを回避するため、調理後の被調理物Fは周囲から断熱状態で表面温度Tsの計測を行う。断熱状態としては、鏡構造を成す空間、スポンジや網様の構造の台、閉鎖空間に被調理物Fを収容し、その空間内の圧力を下げるなどの対応が好ましい。
【0017】
表面温度Tsの計測では、加熱調理の直後、被調理物Fの放熱を抑制しつつ、被調理物Fの表面温度Tsを温度計などにより計測する。温度計測に用いられる温度計は接触式でも良いが、非接触式であれば被調理物Fの品質劣化を回避する上で好ましい。
この表面温度Tsの計測は加熱調理後の一定時間で行い、連続する時間、一定または不連続の時間間隔で表面温度Tsを取得し、計測時点および表面温度Tsの計測値を記録する。
表面温度Tsの時間推移は、表面温度Tsの連続または不連続の複数の計測値により求めることができる。
【0018】
内部温度Tiの推定(S103): 放熱抑制された環境下において、被調理物Fの表面温度Tsは、内部温度Tiが低い場合、熱的移動に依存し低下することになる。これにより、表面温度Tsの時間推移から被調理物Fの内部温度Tiを推定できる。
加熱の良否判定(S104): この加熱の良否判定には、温度低下に閾値Tthの設定、閾値Tthと表面温度Tsの比較が含まれる。
情報提示(S105): この情報提示では、情報提示手段としてたとえば、LCD(Liquid Crystal Display)を用いることにより、たとえば、
a)表面温度Ts、
b)表面温度Tsの時間推移、
c)内部温度Ti、
d)表面温度Tsの計測時点を含む時間情報t
e)加熱の良否を表す判定情報
の何れかまたは二以上を提示すればよい。
【0019】
<被調理物Fの調理(加熱)>
この温度推定工程には加熱調理(S101)が含まれている。被調理物Fの調理(加熱)は、被調理物Fの表面を一時的に加熱することによって被調理物Fに熱的な不平衡状況を作り出すための処理である。被調理物Fの内部温度Tiの推定には被調理物Fが熱的な不平衡状況から平衡状態に戻るときの表面温度Tsの推移があればよく、つまり、加熱を停止した被調理物Fの提供があればよく、加熱調理(S101)の工程は不可欠ではない。
【0020】
<温度低下の閾値Tthの設定>
表面温度Tsの時間推移について、温度低下に閾値Tthを設定する。この閾値Tthは加熱の良否判定の基準値の一例である。この閾値Tthは被調理物Fの種類、容積または重量の何れかまたは二以上により設定すればよい。つまり、被調理物Fの表面温度Tsの時間推移が被調理物Fの種類、容積または重量に依存して変動することから、被調理物Fの種類、容積または重量の何れかまたは二以上により閾値Tthを設定する。この閾値Tthは、被調理物Fの種類、容積または重量を自動認識してその値をシフトさせてもよい。
被調理物Fの種類はたとえば、食材の種類である。容積とは被調理物Fが持つ容量のひとつであり、食材自体または食材から加工された被調理物Fの大きさである。たとえば、餃子であれば、皮で包まれた状態を単位とすればよいし、つくねであれば、成形物を単位とすればよい。焼き鳥であれば、カットされた肉片を単位とすればよい。焼魚であれば、一尾またはカットされた肉片を単位とすればよい。
【0021】
<閾値Tthと表面温度Tsの比較>
表面温度Tsの時間推移について、表面温度Tsに対して閾値Tthを設定し、表面温度Tsが閾値Tth以上であるか否かにより被調理物Fの加熱の良否を判定する。
この判定結果が被調理物Fの加熱調理の良否を表しており、加熱調理の安全性が確保される。
【0022】
<被調理物Fの表面温度Tsと内部温度Tiの関係>
図2のAは、被調理物Fの熱的モデルを示している。この熱的モデルは、表面温度Tsと内部温度Tiの関係を説明するためのものであり、斯かるモデルに本発明が限定されるものではない。
この熱的モデルは加熱調理の一例として不完全な加熱状況にある被調理物Fを示している。この被調理物Fにおいて、Tsは被調理物Fの表面温度Tsであり、Tiは被調理物Fの内部温度Tiである。加熱調理前、Ts≒Tiの状況から上記加熱調理の結果、表面温度Tsに比較し、内部温度Tiが低い状況に推移している。つまり、Ts>Tiにある。
斯かる温度状況について、横軸に被調理物Fの表面層から内部に至る距離d、縦軸に表面温度Ts、内部温度Tiをとれば、図2のBに示すように表すことができる。この被調理物Fでは、表面温度Tsは高く、内部温度Tiは被調理物Fの内部に行くに従って低温度となる温度勾配を持っている。つまり、被調理物Fは表面と内部では熱的に不平衡状況である。換言すれば、この被調理物Fは、不完全な加熱による調理状態としてたとえば、生煮え、生焼け、焼きムラといった状況である。
【0023】
図3のAは、この被調理物Fを熱的遮断空間2に放置された状態を示している。熱的遮断空間2はたとえば、放熱抑制手段の一例である断熱容器4で形成され、外気と熱的に遮断されている。この断熱容器4に収容された被調理物Fは、放熱が遮断された状態にあり、熱的な不平衡状況が維持される。
この状況において、被調理物Fの放置時間で、被調理物Fの内部で熱移動が生じ、熱的に不平衡状況から平衡状況に推移する。
斯かる温度状況について、横軸に被調理物Fの表層から内層に至る距離d、縦軸に表面温度Ts、内部温度Tiを取れば、図3のBに示すように表すことができる。熱移動により表面温度Tsが低下し、内部温度Tiは上昇し、熱的に平衡状況に推移し、Ts’≒Ti’となる。
被調理物Fは熱的に平衡状況から加熱調理により不平衡状況に推移し、放置時間の後、熱的に平衡状況に戻ることになる。この熱移動による状況は、表面温度Tsの時間推移に現れ、この時間推移から内部温度Tiを予測することができる。
【0024】
<表面温度Tsの計測>
図4は、被調理物Fの一例である餃子6の表面温度Tsの計測を示している。
加熱調理した餃子6は断熱容器4内に収容し、表面からの放熱を防止する。
温度計測には電子温度計8を使用する。断熱容器4内において、計測対象である餃子6の表面に電子温度計8の接触子10を当て、餃子6の表面温度Tsを計測する。この電子温度計8の温度表示部12に表示される値が餃子6の表面温度Tsを示している。
この表面温度Tsは放置時間における所定の時間間隔たとえば、15秒間隔で計測値を読み取れば、その時点の表面温度Tsを計測できる。この計測値を読み取り、計測時点の時間とその値を記録すれば、表面温度Tsの時間推移を取得できる。
【0025】
<表面温度Tsの時間推移>
餃子6の表面温度Tsの計測では、たとえば、同一の餃子6-1、6-2を用意し、餃子6-1の茹で時間:2分、餃子6-2の茹で時間:5分とする。
各餃子6-1、6-2は断熱容器4内に収容し、表面からの放熱を防止する。
各餃子6-1、6-2の表面温度Tsは放置時間における所定の時間間隔たとえば、15秒間隔で計測値を読み取り、計測時点の時間とその値を記録すれば、表面温度Tsの時間推移Ts-1、Ts-2を取得することができる。
【0026】
図5は、横軸に放置時間および計測時点、縦軸に表面温度Tsをとり、各餃子6-1、6-2の表面温度Tsの時間推移Ts-1、Ts-2を示している。
餃子6-1(茹で時間2分)の時間推移Ts-1では温度計測時点から直後の15秒間で急激かつ大幅な温度低下を呈し、その後なだらかに温度低下した3分経過時点で、35℃に低下している。
餃子6-2(茹で時間5分)の時間推移Ts-2では、温度計測時点から直後の15秒間で急激な温度低下はあるものの、その低下レベルは餃子6-1より小さく、その後の15秒間で小幅な低下から上昇に転じた後、なだらかに温度低下を経た3分経過時点で50℃近傍に低下している。
【0027】
<内部温度Tiの推定>
放置時間を経て、餃子6-1、6-2の表面温度Tsは熱移動により低下するも、内部温度Tiはその熱移動により上昇し、熱的な平衡状況に至ることが判る。つまり、時間推移Ts-1から、餃子6-1の内部温度Ti-1は、Ti-1<35℃であると推測できる。餃子6-2の内部温度Ti-2は、45℃≦Ti-2<50℃であることが推測できる。
【0028】
<加熱の判定>
このように、餃子6-1、6-2の調理では、たとえば、内部温度Ti=90℃以上に上昇させることを条件とすれば、餃子6-1、6-2の何れの茹で時間2分、5分では生煮え状態であり、加熱不良と判断せざるを得ない。
この加熱の判定について、被調理物Fの種類、容積または重量の何れかまたは二以上により温度低下に閾値Tthを設定すれば、加熱の良否、つまり調理の良否を判定することができ、調理品の安全性を確保することができる。被調理物Fの種類は、肉、魚、野菜の単品の他、ハンバーグや餃子などの加工品などである。容積は被調理物Fの大きさである。重量は被調理物Fの重さである。したがって、被調理物Fの加熱は内部温度Tiの推定結果および加熱時間からその良否を判定することができる。
【0029】
<第1の実施の形態の効果>
この1実施の形態によれば、次の何れかの効果が得られる。
(1) 表面温度Tsの時間推移から被調理物Fの内部温度Tiを推定できる。
(2) 同時に調理中の複数の被調理物Fからサンプルを抽出して表面温度Tsの時間推移を計測すれば、非接触でサンプル以外の被調理物Fの内部温度Tiを推定でき、被調理物Fについて、加熱の良否などの温度管理を行うことができる。
(3) 内部温度Tiは、表面温度Tsの時間推移により推定でき、被調理物Fを劣化させることがない。
(4) 被調理物Fの表面温度Tsの低下に閾値Tthを設定すれば、この閾値Tthと表面温度Tsとの対比により加熱の良否を非接触で判定でき、被調理物Fの安全性が高められる。
【0030】
〔第2の実施の形態〕
図6は第2の実施の形態に係る温度推定システムを示している。図6に示す構成は一例であり、斯かる構成に本発明が限定されるものではない。図6において、図4と同一部分には同一符号を付してある。
この温度推定システム14は既述の推定方法をシステム化したものであり、調理後の被調理物F(図2のA)から表面温度Tsの時間推移を取得し、この表面温度Tsの時間推移から被調理物Fの内部温度Tiを推定し、併せて被調理物Fに対する加熱の良否を判定する。
【0031】
この温度推定システム14は図6に示すように、加熱部16、断熱容器4、温度計測部18、処理装置20を備えればよい。
加熱部16は被調理物Fの加熱調理に用いられる調理器である。この調理器はたとえば、焼き鳥などの直火加熱を行う加熱調理器でよいが、このような直火加熱に限定されるものではない。
断熱容器4は既述したように、加熱後、表面温度Tsの計測のために被調理物Fを収容する。加熱部16から外された被調理物Fは断熱容器4に移され、断熱状態が維持されて温度計測に供される。
温度計測部18は処理装置20により制御され、被調理物Fの表面温度Tsを計測し、その計測データを出力する電子温度計8(図4)を用いればよい。被調理物Fの表面温度Tsは処理装置20に取り込まれる。
【0032】
処理装置20は、温度推定部の一例であり、たとえば、通信機能を備えるパーソナルコンピュータ(PC)で構成される。処理装置20では温度計測部18から計測データである表面温度Ts、表面温度Tsの時間推移を取得し、被調理物Fの内部温度Tiの推定、加熱の良否などの情報処理を行う。処理装置20の記憶部には被調理物Fの表面温度Ts、その時間推移や、推定結果である内部温度Tiが格納される。
【0033】
<処理装置20のハードウェア>
図7は、処理装置20のハードウェアを示している。図7において、図6と同一部分には同一符号を付してある。
温度推定システム14には断熱容器4、温度計測部18および処理装置20が備えられる。処理装置20には、プロセッサ22、入出力部(I/O)24、記憶部26、操作入力部28、情報提示部30、通信部32が含まれる。
プロセッサ22は記憶部26にあるOS(Operating System)を実行し、温度推定プログラムを実行する。
【0034】
I/O24は、プロセッサ22の制御により温度計測部18からの計測情報の取込み、情報提示部30への提示情報の出力などに用いられる。
記憶部26はROM(Read-Only Memory)、RAM(Random-Access Memory)などの記憶素子を備え、OS、温度推定プログラムなどの各種のプログラムを格納するとともに、温度推定処理を実行するために用いる温度推定ファイル34(図8)を格納している。
操作入力部28には情報入力に用いられるキーボード、バーコード読取り部、マウス、I/O24に接続された情報端末の他、タッチパネルが含まれる。タッチパネルは情報提示部30の表示画面に設置すればよい。
情報提示部30はたとえば、LCDで構成され、処理装置20の情報処理に基づき、提示情報としてたとえば、a)表面温度Ts、b)表面温度Tsの時間推移、c)内部温度Ti、d)表面温度Tsの計測時点を含む時間情報t、e)加熱の判定情報などの何れかまたは2以上を提示する。
【0035】
<処理装置20の情報処理>
この情報処理には、f)被調理物Fの加熱管理、g)表面温度Tsの取得、h)表面温度Tsの時間推移の生成、i)内部温度Tiの推定、j)加熱の良否判定、k)提示情報の生成、l)情報通信などが含まれる。
f)被調理物Fの加熱管理:
被調理物Fの加熱管理には被調理物Fの特定、加熱時間、加熱温度などが含まれる。これらの管理は処理装置20で行ってもよい。
【0036】
g)表面温度Tsの取得:
断熱容器4に収容された被調理物Fの表面温度Tsを温度計測部18で計測する。この温度計測はたとえば、処理装置20により制御され、処理装置20が温度計測部18より一定の時間間隔たとえば、15秒毎に表面温度Tsの計測値を取得する。この表面温度Tsの計測値は温度推定ファイル34に格納される。
h)表面温度Tsの時間推移の生成:
表面温度Tsの時間推移は、一定の時間間隔で取得した表面温度Tsの計測値と計測時点の時間情報tにより求められる。
【0037】
i)内部温度Tiの推定:
既述の内部温度Tiの推定処理により、表面温度Tsの時間推移から内部温度Tiが推定される。既述したように、被調理物Fの放置時間で、被調理物Fの表面温度Tsが推移するが、この表面温度Tsの時間推移により内部温度Tiを推定できる。この処理は、既述の内部温度Tiの推定の項で述べたので、割愛する。
j)加熱の良否判定:
被調理物Fの加熱の良否は、推定された内部温度Tiの値が殺菌される程度に上昇していれば、加熱は充分である。この場合、加熱は良と判断する。
k)提示情報の生成:
以上の情報の取得および演算処理で得られる各種の情報について、たとえば、a)表面温度Ts、b)表面温度Tsの時間推移、c)内部温度Ti、d)表面温度Tsの計測時点を含む時間情報t、e)加熱の判定情報などの何れかまたは2以上を提示する。
l)情報通信:
図示しない管理サーバーや情報端末とインターネットなどの通信媒体を利用し、外部データの取得、情報端末に対する温度推定情報の提供などを行う。情報端末には、ユーザーのスマートフォン、タブレット端末、通信機能を備えるPCが含まれる。
【0038】
<記憶部26の格納情報>
記憶部26にはm)表面温度Tsおよびその時間推移を表す情報、n)内部温度Tiの推定情報、o)加熱の良否判定情報などが格納される。これらの情報は温度推定ファイル34に格納される。
【0039】
<温度推定ファイル34>
図8は、温度推定ファイル34を示している。この温度推定ファイル34には番号部36、被調理物情報部38、調理情報部40、表面温度部42、内部温度部44、閾値部46、判定情報部48が設定される。番号部36にはデータ番号が格納される。被調理物情報部38には温度推定対象である被調理物Fを特定する情報が格納される。
調理情報部40には被調理物Fの調理に関する情報としてたとえば、調理温度や焼き時間、茹で時間、蒸し時間などの調理情報が格納される。この調理情報部40には調理温度部40-1、調理時間部40-2が設定されている。調理温度部40-1には調理温度として被調理物Fの加熱温度が格納され、調理時間部40-2には調理時間として被調理物Fの加熱時間が格納される。
【0040】
表面温度部42には温度推定のための表面温度情報が時間情報に関係付けられて格納される。この表面温度部42には計測時間部42-1、計測値部42-2が備えられる。計測時間部42-1には表面温度Tsの計測タイミングなど、計測時点を含む時間情報tが格納される。計測値部42-2には計測時点での温度計測部18の計測値データが格納される。
内部温度部44には表面温度Tsの時間推移から推定した内部温度Tiの算出データが格納される。閾値部46には、内部温度Tiの良否、つまり加熱の良否を判定するための閾値Tthとして、表面温度Tsの低下に対する閾値Tthが格納される。判定情報部48には表面温度Tsのレベルにより加熱の良否判定の結果情報が被調理物Fごとに格納される。
【0041】
<情報の提示>
図9は、情報提示部30による提示情報を示している。情報提示部30の表示画面50には、被調理物提示部52、表面温度推移提示部54、内部温度提示部56、閾値温度提示部58、判定情報提示部60が設定される。被調理物提示部52には被調理物Fの名称たとえば、餃子、焼き鳥などの識別情報が表示される。
表面温度推移提示部54には表面温度Tsおよびその推移情報が表示される。この例では、グラフ表示として横軸に放置時間および計測時点、縦軸に表面温度Tsをとり、被調理物Fの一例である餃子6-1、6-2の表面温度Tsおよびその時間推移Ts-1、Ts-2が表示されている。内部温度提示部56には、プロセッサ22の演算処理により、表面温度Tsの時間推移に基づき算出した温度情報である内部温度Tiの具体的な値が提示される。閾値温度提示部58は、表面温度Tsの低下に対しての閾値Tthを表す温度が表示される。この閾値Tthは、被調理物Fの種類、容積または重量の何れかまたは二以上により設定すればよい。判定情報提示部60には被調理物Fの加熱の良否を表す情報が提示される。
【0042】
<処理シーケンス>
図10は、温度推定システム14の処理シーケンスを示している。この処理シーケンスは、本発明の温度推定プログラムまたは本発明の温度推定方法の一例である。処理シーケンスにおいて、Sは、手順または工程を示し、Sに付した番号は手順または工程の順序の一例である。
被調理物Fの温度推定の前工程として、プロセッサ22の初期設定を行うとともに、被調理物Fの特定が行われる(S201)。プロセッサ22は、被調理物Fの調理を指示し(S202)、これにより被調理物Fの加熱処理が行われる。プロセッサ22は、被調理物Fの調理情報を取得する(S203)。この調理情報には、調理方法、加熱温度、加熱時間などの情報が含まれる。
【0043】
被調理物Fの温度推定に当たり、加熱処理を停止した被調理物Fが断熱容器4に収容される。つまり、被調理物Fは断熱容器4内で放置状態となり、収容時点から放置時間が経過する。この収容時点を契機に、プロセッサ22は温度計測部18に対し、表面温度Tsの計測を指示する(S204)。
温度計測部18は、被調理物Fの表面温度Tsを継続して計測する(S205)。プロセッサ22は、温度計測部18から一定の時間間隔で表面温度Tsの計測値を取得する(S206)。
プロセッサ22は、温度計測部18から提供された複数の表面温度Tsを以て、表面温度Tsの時間推移を取得する(S207)。プロセッサ22は、この表面温度Tsの時間推移から被調理物Fの内部温度Tiの推定を行う(S208)。この内部温度Tiの推定はたとえば、第1の実施の形態に記載した推定処理で行えばよい。
プロセッサ22は、取得した表面温度Tsの時間推移と温度低下の閾値Tthとの比較から加熱の良否を判定する(S209)。
プロセッサ22は、取得した被調理物Fの識別情報、表面温度Tsおよびその時間推移、演算結果である内部温度Ti、閾値温度Tth、加熱の良否を含む提示情報を生成し(S210)、この提示情報を情報提示部30に提供し、情報提示を行う(S211)。
【0044】
<第2の実施の形態の効果>
この第2の実施の形態によれば、次の何れかの効果が得られる。
(1) 表面温度Tsの時間推移から被調理物Fの内部温度Tiをコンピュータによる情報処理で推定でき、非接触で被調理物Fの加熱の良否などの処理を迅速化できる。
(2) 調理中の複数の被調理物Fからサンプルを抽出し、このサンプルの表面温度Tsの計測により内部温度Tiの推定処理を行えば、同時に調理中または調理後の被調理物Fの内部温度を非接触で推定でき、被調理物Fの内部温度Tiの推定処理を合理化でき、被調理物Fの温度計測による劣化や調理品の品質低下を防止できる。
(3) 被調理物Fの加熱の良否を判定でき、被調理物Fの安全性を高めることができる。
(4) この温度推定システム14は、HACCPをレストランなどにも拡大し、焼き鳥、ハンバーグなどの被調理物Fに対する食の安全性を高めるため対策ツール、温度管理ツールとして実現できる。
【0045】
〔第3の実施の形態〕
<調理機器>
図11は、第3の実施の形態に係る調理機器を示している。図11において、図6と同一部分には同一符号を付してある。
この調理機器62には、処理装置20、調理庫64および断熱庫66が含まれる。調理庫64は被調理物Fを収容して調理する手段であり、加熱部16を備える。この加熱部16は、直火加熱、スチーム加熱などの加熱による調理が可能であり、この加熱部16の加熱制御は加熱制御部68により実行される。この加熱制御部68はたとえば、通信機能を備えるコンピュータを備えており、処理装置20と連係される。
この調理機器62において、処理装置20の構成および機能は第2の実施の形態で説明しているので、その説明を割愛する。
【0046】
<第3の実施の形態の効果>
この第3の実施の形態によれば、次の何れかの効果が得られる。
(1) この調理機器62によれば、第1および第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
(2) この調理機器62によれば、調理庫64で調理中の被調理物Fを取り出して断熱庫66に移動し、表面温度Tsの時間推移を表す温度低下の様子を短時間観察して内部温度Tiを推定し認識することができる。
(3) この調理機器62では、調理中の被調理物Fを情報提示部30でその情報提示により容易に確認することができる。
(4) 焼き鳥など、直火で加熱をする被調理物Fの調理法において、表面温度Tsが上昇していても、内部温度Tiが十分に上昇していないといった生焼け品の提供を回避することができる。
(5) 調理済みの肉など、被調理物Fに温度計を差し込むなどの処理が商品の価値を著しく損ねるとことになるが、被調理物Fの表面温度Tsの時間推移の計測で、内部温度Tiを推定でき、被調理物Fの品質低下を防止できる。
(6) この調理機器62に開示したように、温度推定システム14を組み込むことにより、調理中または調理後の被調理物Fの内部温度Tiを迅速に推定でき、調理中または調理後の被調理物Fからの放熱を防止でき、食の安全性を高めることができる。
【実施例
【0047】
図12のAは、実施例に係る調理を示している。この料理は水餃子であり、調理容器として鍋70を使用し、熱源にコンロ72を用いて加熱し、熱湯74中に被調理物Fの一例である餃子76を投入して茹で、この茹で時間(加熱時間)を2分、4分、6分、8分、10分に設定した。各加熱時間の経過(加熱終了)後、異なる経過時間ごとに各餃子76を取り出し、表面温度および内部温度を計測した。
表面温度は調理終了直後から1分間で計測し、内部温度は調理終了から1分後に計測した。
この温度計測には、図12のBに示すように餃子76を皿78に移して電子温度計8を用いた。時間計測にはストップウォッチ82を使用した。表面温度は、図13のAに示すように、餃子76の表面に電子温度計8の接触子10を当てて計測した。また、内部温度は、図13のBに示すように、餃子76の内部に接触子10を挿入して計測した。
図14は、茹で時間2分、4分、6分、8分、10分の餃子について、表面温度の時間推移を表す計測データテーブル示し、図15は、このデータテーブルをグラフにして示している。
〈考察〉
この実施例において、加熱後の餃子76の表面温度は内部温度に依存した時間推移を呈している。つまり、茹で時間が短い場合に比較して茹で時間が長くなれば、表面温度の時間推移が緩やかである。茹で時間が長くなれば、表面温度に内部温度がより近づき、表面温度に対する内部温度の影響が低い。
したがって、加熱後の被調理物Fの表面温度の時間推移を計測すれば、この計測値から被調理物Fの内部温度を推定できる。
【0048】
〔他の実施の形態〕
(1) 上記温度推定システム14の活用形態は調理機器62に限定されず、温度推定機器ないし温度推定機能を備えた温度計測装置として実現することができる。
(2) 上記実施の形態では、実際に加熱した後の被調理物Fの表面温度Tsを計測しているが、この計測ないし内部温度Tiを情報処理で実現するシミュレーションシステムないし装置として構成してもよい。
(3) 被調理物Fの表面温度Tsの温度計測には2次元イメージャを使って計測してもよく、多数の食材などの被調理物Fの温度計測を高速かつ手軽に行うことができ、レストランなどの迅速性が求められる現場で活用することができる。
(4) 記実施の形態では、表面温度Tsの低下に対して閾値を設定し、被調理物の加熱の良否を判定しているが、被調理物の内部温度に対して閾値を設定し、被調理物の加熱の良否を判定してもよい。
【0049】
以上説明したように、本発明の最も好ましい実施の形態等について説明した。本発明は、上記記載に限定されるものではない。特許請求の範囲に記載され、または発明を実施するための形態に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能である。斯かる変形や変更が、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、加熱後の焼き鳥などの被調理物Fの表面温度の推移から内部温度Tiを推定し、調理の良否を判断することができ、食の安全性を高めることができる。
【符号の説明】
【0051】
2 熱的遮断空間
4 断熱容器
6 餃子
8 電子温度計
10 接触子
12 温度表示部
18 温度計測部
20 処理装置
22 プロセッサ
24 入出力部
26 記憶部
28 操作入力部
30 情報提示部
32 通信部
34 温度推定ファイル
36 番号部
38 被調理物情報部
40 調理情報部
40-1 調理温度部
40-2 調理時間部
42 表面温度部
42-1 計測時間部
42-2 計測値部
44 内部温度部
46 閾値部
48 判定情報部
50 表示画面
52 被調理物提示部
54 表面温度推移提示部
56 内部温度提示部
58 閾値温度提示部
60 判定情報提示部
62 調理機器
64 調理庫
66 断熱庫
68 加熱制御部
70 鍋
72 コンロ
74 熱湯
76 餃子
78 皿
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15