(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】アクスル装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20230406BHJP
F16H 1/08 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 N
F16H57/04 P
F16H1/08
F16H57/04 B
(21)【出願番号】P 2019075817
(22)【出願日】2019-04-11
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川尻 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】平脇 愛子
(72)【発明者】
【氏名】藏本 裕也
(72)【発明者】
【氏名】刀川 慧之
(72)【発明者】
【氏名】深町 俊介
【審査官】長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-336729(JP,A)
【文献】特開2018-28352(JP,A)
【文献】特開2019-39480(JP,A)
【文献】特開平10-122340(JP,A)
【文献】特開2016-89860(JP,A)
【文献】特開2015-34581(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0163847(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の車輪を駆動するアクスル装置であって、
オイルが貯留されるハウジングと、
前記ハウジングに収容され、デファレンシャルケースに設けられる大歯車と、
前記ハウジングに収容され、前記大歯車の回転中心よりも上方に位置し、前記大歯車に噛み合う小歯車と、
前記ハウジングに収容され、前記大歯車の回転中心よりも上方に位置し、前記大歯車が掻き上げたオイルを貯留するオイル槽と、
を有し、
前記オイル槽は、前記大歯車の外周部に対向する第1ガイド側壁と、前記ハウジングの内壁面に対向して前記第1ガイド側壁に連なる第2ガイド側壁と、を備え、
前記大歯車の低速回転時には、前記大歯車によって掻き上げられたオイルが、前記大歯車の外周部と前記第1ガイド側壁との間を通過して前記オイル槽に供給され、
前記大歯車の高速回転時には、前記大歯車によって掻き上げられたオイルが、前記ハウジングの内壁面と前記第2ガイド側壁との間を通過して前記オイル槽に供給される、
アクスル装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアクスル装置において、
前記小歯車は、第1小歯車であり、
前記大歯車は、第1大歯車であり、
前記第1小歯車と同心上に配置される第2大歯車と、前記第2大歯車に噛み合う第2小歯車と、を有し、
前記第1小歯車および前記第1大歯車に形成される斜歯は、歯幅方向の一端部と他端部とを備え、
前記第2大歯車側に位置する前記斜歯の前記一端部は、前進走行時の歯車回転方向において前記他端部よりも前方に位置する、
アクスル装置。
【請求項3】
請求項2に記載のアクスル装置において、
前記第1大歯車の低速回転時には、前記第1大歯車によって掻き上げられたオイルが、前記第1大歯車の外周部と前記第1ガイド側壁との間を通過した後に、前記第1小歯車と前記第1大歯車との噛み合い箇所から前記第2大歯車に飛散し、前記第2大歯車に付着して前記オイル槽に供給される、
アクスル装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載のアクスル装置において、
前記オイル槽内には、前記第1小歯車側に位置する第1貯留部と、前記第2大歯車側に位置する第2貯留部と、を区画する仕切壁が設けられる、
アクスル装置。
【請求項5】
請求項4に記載のアクスル装置において、
前記デファレンシャルケースと同心上に配置される電動モータ、を有し、
前記オイル槽の前記第2貯留部から、前記電動モータのロータを支持する軸受にオイルが供給される、
アクスル装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載のアクスル装置において、
前記第2貯留部の深さは、前記第1貯留部の深さよりも浅い、
アクスル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右の車輪を駆動するアクスル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、左右の車輪を駆動するアクスル装置が設けられている。このアクスル装置のハウジングにはオイルが貯留されており、ギヤ等によって掻き上げられたオイルが軸受等に供給される(特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-336729号公報
【文献】特開2018-028352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、走行開始直後から軸受等を適切に潤滑するためには、ハウジング内に多くのオイルを溜める必要がある。しかしながら、ハウジング内に多くのオイルを溜めておくことは、ギヤ等の回転抵抗を増加させる要因であるため、掻き上げられたオイルを一時的に貯留するオイル槽を設けることが考えられる。このオイル槽に対してオイルを一時的に貯留することにより、走行中のオイルレベルを引き下げることができ、ギヤ等の回転抵抗を下げて動力損失を低減することができる。このため、走行開始後にはオイル槽に対してオイルを素早く供給することが求められている。
【0005】
本発明の目的は、オイル槽にオイルを素早く供給することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアクスル装置は、左右の車輪を駆動するアクスル装置であって、オイルが貯留されるハウジングと、前記ハウジングに収容され、デファレンシャルケースに設けられる大歯車と、前記ハウジングに収容され、前記大歯車の回転中心よりも上方に位置し、前記大歯車に噛み合う小歯車と、前記ハウジングに収容され、前記大歯車の回転中心よりも上方に位置し、前記大歯車が掻き上げたオイルを貯留するオイル槽と、を有し、前記オイル槽は、前記大歯車の外周部に対向する第1ガイド側壁と、前記ハウジングの内壁面に対向して前記第1ガイド側壁に連なる第2ガイド側壁と、を備え、前記大歯車の低速回転時には、前記大歯車によって掻き上げられたオイルが、前記大歯車の外周部と前記第1ガイド側壁との間を通過して前記オイル槽に供給され、前記大歯車の高速回転時には、前記大歯車によって掻き上げられたオイルが、前記ハウジングの内壁面と前記第2ガイド側壁との間を通過して前記オイル槽に供給される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、大歯車の低速回転時には、大歯車によって掻き上げられたオイルが、大歯車の外周部と第1ガイド側壁との間を通過してオイル槽に供給され、大歯車の高速回転時には、大歯車によって掻き上げられたオイルが、ハウジングの内壁面と第2ガイド側壁との間を通過してオイル槽に供給される。これにより、オイル槽にオイルを素早く供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施の形態であるアクスル装置を示す図である。
【
図3】ハウジング内に設けられるキャッチタンクを示す図である。
【
図5】(A)はキャッチタンクを示す平面図であり、(B)は
図5(A)のb-b線に沿う断面図であり、(C)は
図5(A)のc-c線に沿う断面図である。
【
図6】
図3のA-A線に沿ってアクスル装置を示す断面図である。
【
図7】
図3の矢印B方向から減速ギヤ列およびキャッチタンクを示す平面図である。
【
図8】
図7の矢印A方向から減速ギヤ列およびキャッチタンクを示す斜視図である。
【
図9】低速走行時のオイル供給状況を矢印で示した図である。
【
図10】低速走行時のオイル供給状況を矢印で示した図である。
【
図11】低速走行時のオイル供給状況を矢印で示した図である。
【
図12】キャッチタンクのオイル流れを示す図である。
【
図13】高速走行時のオイル供給状況を矢印で示した図である。
【
図14】高速走行時のオイル供給状況を矢印で示した図である。
【
図15】高速走行時のオイル供給状況を矢印で示した図である。
【
図16】(A)~(C)は、キャッチタンクのオイル流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
[アクスル装置]
図1は本発明の一実施の形態であるアクスル装置10を示す図である。図示するアクスル装置10は自動車等の車両に搭載される装置であり、このアクスル装置10によって図示しない左右の車輪が駆動される。
【0011】
図1に示すように、アクスル装置10は、ギヤハウジング11およびモータハウジング12からなるハウジング13を有している。ハウジング13内には隔壁14が設けられており、ハウジング13内には隔壁14を境にギヤ室15とモータ室16とが区画されている。この隔壁14の下部には開口部17が形成されており、開口部17を介してギヤ室15とモータ室16とは互いに連通している。また、アクスル装置10は、ギヤ室15に収容される減速ギヤ列20,21およびデファレンシャル機構22からなる減速部23と、モータ室16に収容される電動モータ24からなるモータ部25と、を有している。なお、動力源である電動モータ24は、ロータ26と、ロータ26の径方向外方に配置されるステータ27と、を備えている。
【0012】
ギヤハウジング11側のギヤ室15には、電動モータ24のロータ26に連結される中空のモータ軸30と、モータ軸30に平行に配置される中間軸31と、中間軸31に平行に配置されるデフケース(デファレンシャルケース)32と、が収容されている。また、モータ軸30には駆動ギヤ(第2小歯車)20aが設けられており、中間軸31には駆動ギヤ20aに噛み合って減速ギヤ列20を構成する従動ギヤ(第2大歯車)20bが設けられている。さらに、中間軸31には駆動ギヤ(小歯車,第1小歯車)21aが設けられており、デフケース32には駆動ギヤ21aに噛み合って減速ギヤ列21を構成する従動ギヤ(大歯車,第1大歯車)21bが設けられている。
【0013】
このように、電動モータ24のロータ26は、2段の減速ギヤ列20,21を介してデフケース32に連結されている。なお、駆動ギヤ21aと従動ギヤ20bとは同心上に配置されており、駆動ギヤ21aと従動ギヤ20bとの回転中心は互いに一致している。同様に、駆動ギヤ20aと従動ギヤ21bとは同心上に配置されており、駆動ギヤ20aと従動ギヤ21bとの回転中心は互いに一致している。また、駆動ギヤ21aは、従動ギヤ21bの回転中心C1よりも上方に位置している。
【0014】
デファレンシャル機構22は、一対の軸受33によって支持されるデフケース32と、デフケース32に組み込まれる複数の差動歯車34~36と、を有している。デフケース32に組み込まれる差動歯車として、デフケース32と一体に回転するピニオン34が設けられており、ピニオン34を介して互いに噛み合う一対のサイドギヤ35,36が設けられている。一方のサイドギヤ35には出力軸37aおよびジョイント37bを介してドライブ軸37cが連結されており、このドライブ軸37cには図示しない左右一方の車輪が連結される。同様に、他方のサイドギヤ36には出力軸38aおよびジョイント38bを介してドライブ軸38cが連結されており、このドライブ軸38cには図示しない左右他方の車輪が連結される。また、電動モータ24とデフケース32とは同心上に配置されており、モータ軸30とデフケース32との回転中心は互いに一致している。このため、デフケース32から延びる出力軸38aは、中空のモータ軸30を軸方向に貫通して配置されている。なお、デフケース32を支持する軸受33として、耐荷重の大きな円錐ころ軸受等が用いられている。
【0015】
[車両停止時のオイルレベルOL1]
続いて、車両停止時におけるハウジング13のオイルレベル(油面高さ)OL1について説明する。
図2は車両停止時のアクスル装置10を示す図である。
【0016】
図2に示すように、アクスル装置10のハウジング13には、潤滑用のオイルXが貯留されている。車両停止時におけるハウジング13のオイルレベルOL1は、走行開始直後からデフケース32の軸受33を適切に潤滑するため、軸受33を構成する外輪の下端33xがオイルXに触れる位置に設定されている。つまり、デフケース32を支持する軸受33の下端33xは、車両停止時のオイルレベルOL1よりも下方に位置している。ここで、電動モータ24のロータ26の下端26xは、デフケース32を支持する軸受33の下端33xよりも下方、つまり車両停止時のオイルレベルOL1よりも下方に位置している。このため、車両停止時においては、電動モータ24のロータ26がオイルXに浸かっている。
【0017】
[車両走行時のオイルレベルOL2]
次いで、車両走行時におけるハウジング13のオイルレベルOL2について説明する。
図3はハウジング13内に設けられるキャッチタンクを示す図であり、
図4は車両走行時のアクスル装置10を示す図である。
【0018】
前述した
図2に示すように、車両停止時にはロータ26がオイルXに浸かっている。このため、車両走行時には、電動モータ24のロータ26の回転抵抗を低減させる観点から、オイルレベルを下げることが求められている。そこで、
図3に示すように、ハウジング13内には、車両走行中のオイルレベルを引き下げるため、オイルXを一時的に貯留する複数のキャッチタンク40~42が設けられている。キャッチタンク(オイル槽)40は、従動ギヤ21bの回転中心C1よりも上方に設けられるとともに、駆動ギヤ21aおよび従動ギヤ20bの近傍に設けられている。このキャッチタンク40内には仕切壁43が設けられており、仕切壁43を介して大容量貯留部44と小容量貯留部45とが区画されている。キャッチタンク40の大容量貯留部44は駆動ギヤ21a側に位置しており、キャッチタンク40の小容量貯留部45は従動ギヤ20b側に位置している。また、キャッチタンク41はデフケース32の上方にけられており、キャッチタンク42は電動モータ24の上方に設けられている。
【0019】
図4に矢印X1で示すように、車両走行時には、回転する減速ギヤ列20,21等によってオイルXが上方に掻き上げられ、オイルXがキャッチタンク40に供給される。そして、矢印X2,X3で示すように、キャッチタンク40に供給されたオイルXは、供給溝45aから電動モータ24上方のキャッチタンク42に供給され、キャッチタンク42の供給口42aから軸受50,51等に供給される。また、矢印X4で示すように、キャッチタンク40に供給されたオイルXは、供給口44aからデフケース32上方のキャッチタンク41に供給される。このように、上方に掻き上げられたオイルXは、キャッチタンク40~42に溜められるとともに、ハウジング13内を飛散して各ギヤ等に付着することから、車両走行時のオイルレベルOL2を低下させることができる。図示するアクスル装置10においては、電動モータ24の回転抵抗を下げて動力損失を低減させるため、電動モータ24が備えるロータ26の下端26xよりもオイルレベルOL2が低下するように、オイルXを一時的に貯留する各キャッチタンク40~42の容量が設定されている。
【0020】
なお、キャッチタンク40には供給口44aおよび供給溝45aが形成されており、キャッチタンク42には供給口42aが形成されるため、車両停止に伴ってキャッチタンク40に対するオイル流入が停止すると、小容量貯留部45に溜まったオイルXがキャッチタンク42に流れ、キャッチタンク42に溜まったオイルXも徐々に排出される。また、キャッチタンク41には排出口41aが形成されており、車両停止に伴ってキャッチタンク40に対するオイル流入が停止すると、大容量貯留部44に溜まったオイルXがキャッチタンク41に流れ、キャッチタンク41に溜まったオイルXも徐々に排出される。つまり、車両走行時に低下していたオイルレベルOL2は、車両停止から所定時間が経過すると、
図2に示すオイルレベルOL1まで上昇することになる。
【0021】
[オイル供給構造]
前述したように、走行開始後には、減速ギヤ列20,21によってオイルXを掻き上げ、キャッチタンク40にオイルを供給することにより、ロータ26を支持する軸受50を潤滑することができ、出力軸38aを支持する軸受51を潤滑することができ、オイルレベル下げてロータ26の回転抵抗を下げることができる。これらの効果を早急に得るためには、走行を開始してからキャッチタンク40に対して素早くオイルを供給すること必要である。そこで、本発明の一実施の形態であるアクスル装置10には、キャッチタンク40に対してオイルを素早く供給するためのオイル供給構造が設けられている。以下、アクスル装置10のオイル供給構造について説明する。
【0022】
図5(A)はキャッチタンク40を示す平面図であり、
図5(B)は
図5(A)のb-b線に沿う断面図であり、
図5(C)は
図5(A)のc-c線に沿う断面図である。また、
図6は
図3のA-A線に沿ってアクスル装置10を示す断面図であり、
図7は
図3の矢印B方向から減速ギヤ列20,21およびキャッチタンク40を示す平面図である。さらに、
図8は
図7の矢印A方向から減速ギヤ列20,21およびキャッチタンク40を示す斜視図である。
【0023】
図5(A)に示すように、キャッチタンク40内には仕切壁43が設けられており、仕切壁43を介して大容量貯留部(第1貯留部)44と小容量貯留部(第2貯留部)45とが区画されている。
図5(B)および
図6に示すように、キャッチタンク40の大容量貯留部44には、駆動ギヤ21aの外周部52に対向する湾曲側壁60、従動ギヤ21bの外周部53に対向する低速ガイド側壁(第1ガイド側壁)61、およびハウジング13の内壁面54に対向する高速ガイド側壁(第2ガイド側壁)62、が設けられている。また、キャッチタンク40の大容量貯留部44には仕切壁43に対向する端壁63が設けられており、この端壁63の下部にはキャッチタンク41にオイルを供給する供給口44aが形成されている。
【0024】
図5(A)および(C)に示すように、キャッチタンク40の小容量貯留部45には、湾曲側壁60から延びる側壁70、高速ガイド側壁62から延びる側壁71、仕切壁43に対向する端壁72、および水平方向に拡がる底壁73、が設けられている。また、キャッチタンク40の小容量貯留部45には、キャッチタンク42にオイルを供給する供給溝45aが設けられている。また、
図5(B)および(C)に示すように、小容量貯留部45の深さD2は、大容量貯留部44の深さD1よりも浅く設定されている。換言すれば、小容量貯留部45の容量は、大容量貯留部44の容量よりも小さく設定されている。さらに、
図7および
図8に示すように、大容量貯留部44の湾曲側壁60は、駆動ギヤ21aの外周近傍に配置されている。また、小容量貯留部45の端壁72は、従動ギヤ20bの側面近傍に配置されており、小容量貯留部45の供給溝45aは、従動ギヤ20bの外周近傍に配置されている。
【0025】
[低速走行時のオイル供給状況]
続いて、キャッチタンク40に対する低速走行時のオイル供給状況について説明する。
図9~
図11は低速走行時のオイル供給状況を矢印で示した図である。
図9には
図6と同様の断面図が示されており、
図10には
図7と同様の平面図が示されており、
図11には
図8と同様の斜視図が示されている。なお、
図9に示す矢印αは、前進走行時における駆動ギヤ21aおよび従動ギヤ21bの回転方向(歯車回転方向)を示している。
【0026】
図9~
図11に示すように、車速が所定閾値を下回る低速走行時には、矢印L1で示すように、従動ギヤ21bによってオイルが上方に運ばれ、矢印L2で示すように、駆動ギヤ21aによってオイルが上方に運ばれる。そして、
図9に矢印L3で示すように、駆動ギヤ21aから飛散したオイルは、ハウジング13の突起部80に当たって落下し、キャッチタンク40の大容量貯留部44に供給される。このように、車両の低速走行時つまり従動ギヤ21bの低速回転時には、
図9に矢印L1で示すように、従動ギヤ21bによって掻き上げられたオイルは、作用する遠心力が小さく外側に飛散し難いことから、キャッチタンク40の低速ガイド側壁61に沿って移動する。すなわち、従動ギヤ21bの回転速度が所定閾値を下回る低速回転時において、従動ギヤ21bによって掻き上げられたオイルは、従動ギヤ21bの外周部53と低速ガイド側壁61との間を通過してキャッチタンク40に供給される。
【0027】
また、
図10および
図11に矢印L4で示すように、従動ギヤ21bの低速回転時には、駆動ギヤ21aと従動ギヤ21bとの噛み合い箇所から従動ギヤ20bに向けてオイルが飛散する。つまり、駆動ギヤ21aおよび従動ギヤ21bは、回転方向に対して傾斜する斜歯81,82を備えたヘリカルギヤである。また、駆動ギヤ21aおよび従動ギヤ21bの斜歯81,82は、歯幅方向βの一端部81a,82aと他端部81b,82bとを備えており、斜歯81,82の一端部81a,82aは従動ギヤ20b側に配置されている。そして、前進走行時の駆動ギヤ21aおよび従動ギヤ21bの回転方向αにおいて、斜歯81,82の一端部81a,82aは他端部81b,82bよりも前方に位置している。このように、駆動ギヤ21aおよび従動ギヤ21bの斜歯81,82つまり歯筋を設定することにより、矢印L4で示すように、駆動ギヤ21aと従動ギヤ21bとの噛み合い箇所から従動ギヤ20bに向けてオイルを飛散させることができる。
【0028】
前述したように、減速ギヤ列21から飛散したオイルが従動ギヤ20bに付着すると、
図10および
図11に矢印L5,L6で示すように、オイルは回転する従動ギヤ20bによって運ばれ、従動ギヤ20bからキャッチタンク40の小容量貯留部45に供給される。すなわち、従動ギヤ21bの低速回転時において、従動ギヤ21bによって掻き上げられたオイルは、従動ギヤ21bの外周部53と低速ガイド側壁61との間を通過した後に、駆動ギヤ21aと従動ギヤ21bとの噛み合い箇所から従動ギヤ20bに飛散し、従動ギヤ20bに付着してキャッチタンク40に供給される。
【0029】
ここで、
図12はキャッチタンク40のオイル流れを示す図である。
図12には
図5(B)のd-d線に沿うキャッチタンク40の断面が示されている。
図12に矢印L5,L6で示すように、キャッチタンク40の小容量貯留部45には、従動ギヤ20bからオイルが供給される。ここで、小容量貯留部45と大容量貯留部44とは仕切壁43によって区画されるため、小容量貯留部45に供給されたオイルは、供給溝45aからキャッチタンク42に供給される。つまり、走行開始後に従動ギヤ20bから小容量貯留部45に供給されたオイルは、供給溝45aからキャッチタンク42を経て軸受50,51等に供給される。このように、走行を開始してから軸受50,51等に対してオイルを素早く供給することができるため、減速ギヤ列20,21から離れた軸受50,51等を適切に潤滑することができる。しかも、小容量貯留部45は浅くて小容量であることから、小容量貯留部45に多くのオイルが溜められることはなく、小容量貯留部45からキャッチタンク42に対して素早くオイルを供給することができる。なお、
図12に矢印L3で示すように、キャッチタンク40の大容量貯留部44には、駆動ギヤ21aからオイルが供給されている。このように、大容量貯留部44に流入するオイルは、大容量貯留部44に溜められるとともに、供給口44aからキャッチタンク41に供給される。
【0030】
これまで説明したように、低速走行時には従動ギヤ21bの回転速度が低いことから、従動ギヤ21bによってオイルを勢いよく掻き上げることは困難であるが、
図9~
図11に示すように、駆動ギヤ21aや従動ギヤ20bを用いてキャッチタンク40にオイルを供給することができる。また、キャッチタンク40には低速ガイド側壁61が設けられるため、従動ギヤ21bから駆動ギヤ21aに向けて効率良くオイルを案内することができる。これにより、低速走行時であってもキャッチタンク40に素早くオイルを溜めることができるため、減速ギヤ列20,21から離れた軸受50,51を適切に潤滑することができ、ハウジング13内のオイルレベルを素早く下げてロータ26の回転抵抗を低減することができる。
【0031】
[高速走行時のオイル供給状況]
続いて、キャッチタンク40に対する高速走行時のオイル供給状況について説明する。
図13~
図15は高速走行時のオイル供給状況を矢印で示した図である。
図13には
図6と同様の断面図が示されており、
図14には
図7と同様の平面図が示されており、
図15には
図8と同様の斜視図が示されている。なお、
図13に示す矢印αは、前進走行時における駆動ギヤ21aおよび従動ギヤ21bの回転方向を示している。
【0032】
図13~
図15に示すように、車速が所定閾値を上回る高速走行時には、矢印H1で示すように、従動ギヤ21bによってオイルが勢いよく掻き上げられる。そして、矢印H2で示すように、従動ギヤ21bによって掻き上げられたオイルは、ハウジング13の突起部80に当たって落下し、キャッチタンク40の大容量貯留部44に供給される。このように、車両の高速走行時つまり従動ギヤ21bの高速回転時には、
図13に矢印H1で示すように、従動ギヤ21bによって掻き上げられたオイルは、作用する遠心力が大きく外側に飛散し易いことから、キャッチタンク40の高速ガイド側壁62に沿って移動する。すなわち、従動ギヤ21bの回転速度が所定閾値を上回る高速回転時において、従動ギヤ21bによって掻き上げられたオイルは、ハウジング13の内壁面54と高速ガイド側壁62との間を通過してキャッチタンク40に供給される。
【0033】
このように、高速走行時には従動ギヤ21bの回転速度が高いことから、従動ギヤ21bによってオイルが勢いよく掻き上げられ、
図13~
図15に示すように、従動ギヤ21bを用いてキャッチタンク40にオイルを供給することができる。また、キャッチタンク40には高速ガイド側壁62が設けられるため、従動ギヤ21bからハウジング13の内壁面54に沿ってオイルを効率良く案内することができる。これにより、高速走行時においても、従動ギヤ21bからキャッチタンク40に多くのオイルを供給することができる。なお、高速走行時にキャッチタンク40に供給されるオイルの大部分は、
図13~
図15に示した経路を経て供給されているが、この高速走行時においても、
図9~
図11に示した経路を経て、キャッチタンク40にオイルが供給されることはいうまでもない。
【0034】
[左右傾斜時のオイル供給状況]
続いて、走行路面の水捌け勾配等によって、車両が左右に傾いた場合のオイル供給状況について説明する。車両が左右に傾いて走行する場合には、車両と共にアクスル装置10が左右に傾斜するため、ハウジング13内のキャッチタンク40も左右に傾斜することになる。
【0035】
ここで、
図16(A)~(C)はキャッチタンク40のオイル流れを示す図である。
図16(A)には車両が水平に保たれた状況が示されており、
図16(B)には車両が右側に傾斜した状況が示されており、
図16(C)には車両が左側に傾斜した状況が示されている。なお、
図16には
図5(B)のd-d線に沿うキャッチタンク40の断面が示されている。また、
図16に示す矢印L3,L5,L6,H2は、
図9~
図15に示される矢印L3,L5,L6,H2である。
【0036】
図16(A)に示すように、車両が水平に保たれており、キャッチタンク40も水平に保たれている場合には、小容量貯留部45から供給溝45aを経てキャッチタンク42にオイルが供給され、大容量貯留部44から供給口44aを経てキャッチタンク41にオイルが供給される。また、
図16(B)および(C)に示すように、車両が右側や左側に傾斜することにより、キャッチタンク40が右側や左側に傾斜している場合であっても、水平時と同様に、小容量貯留部45から供給溝45aを経てキャッチタンク42にオイルが供給され、大容量貯留部44から供給口44aを経てキャッチタンク41にオイルが供給される。つまり、キャッチタンク40には仕切壁43が設けられることから、キャッチタンク40が左右に傾斜した場合であっても、キャッチタンク40のオイルレベルを保持することが可能である。このため、小容量貯留部45からキャッチタンク42にオイルを安定供給することができ、軸受50,51を適切に潤滑することができる。
【0037】
すなわち、
図16(B)に示すように、キャッチタンク40が右側に傾斜する場合には、一点鎖線Laで示すように、仕切壁43によって小容量貯留部45のオイルレベルが保持されるため、小容量貯留部45から供給溝45aにオイルを流すことができる。なお、小容量貯留部45から溢れるオイルは、矢印Xaで示すように、仕切壁43を超えて大容量貯留部44に供給される。また、
図16(C)に示すように、キャッチタンク40が左側に傾斜する場合には、矢印L5,L6で示すように、掻き上げられたオイルが小容量貯留部45に供給されるとともに、矢印Xbで示すように、大容量貯留部44から小容量貯留部45にオイルが供給されるため、小容量貯留部45から供給溝45aにオイルを流すことができる。このとき、一点鎖線Lbで示すように、仕切壁43によって大容量貯留部44のオイルレベルが保持されるため、大容量貯留部44から小容量貯留部45に対して安定的にオイルを流すことができる。
【0038】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。前述の説明では、アクスル装置10に電動モータ24や減速ギヤ列20を組み込んでいるが、これに限られることはなく、アクスル装置10から電動モータ24や減速ギヤ列20を削減しても良い。また、図示する例では、減速ギヤ列20,21をヘリカルギヤによって構成しているが、これに限られることはなく、スパーギヤ等を用いて減速ギヤ列20,21を構成しても良い。
【符号の説明】
【0039】
10 アクスル装置
13 ハウジング
20a 駆動ギヤ(第2小歯車)
20b 従動ギヤ(第2大歯車)
21a 駆動ギヤ(小歯車,第1小歯車)
21b 従動ギヤ(大歯車,第1大歯車)
24 電動モータ
26 ロータ
32 デフケース(デファレンシャルケース)
33 軸受
40 キャッチタンク(オイル槽)
43 仕切壁
44 大容量貯留部(第1貯留部)
45 小容量貯留部(第2貯留部)
53 外周部
54 内壁面
61 低速ガイド側壁(第1ガイド側壁)
62 高速ガイド側壁(第2ガイド側壁)
81 斜歯
81a 一端部
81b 他端部
82 斜歯
82a 一端部
82b 他端部
C1 回転中心