(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】ノズル保護板、ノズルプレート、液体噴出ヘッド、及びノズル保護板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20230406BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20230406BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
B41J2/14 501
B05C5/00 101
B41J2/16 503
B41J2/14 613
B41J2/16 517
(21)【出願番号】P 2019079792
(22)【出願日】2019-04-19
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096655
【氏名又は名称】川井 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100091225
【氏名又は名称】仲野 均
(72)【発明者】
【氏名】林 恵一郎
【審査官】井出 元晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-256029(JP,A)
【文献】特開2007-105942(JP,A)
【文献】特開2006-088491(JP,A)
【文献】特開2018-001449(JP,A)
【文献】特開2011-110937(JP,A)
【文献】特開2007-062090(JP,A)
【文献】特開2005-047261(JP,A)
【文献】特開2005-246789(JP,A)
【文献】特開2008-210613(JP,A)
【文献】特開2007-253409(JP,A)
【文献】特開2017-105026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B05C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル基板に貼付けられる、透光性樹脂で形成された透光基板と、
ノズル基板に形成された液体の吐出口の形成位置に対応して、前記透光基板に形成された貫通孔と、
前記透光基板の少なくとも一方の表面に形成された透光性を備えたセラミックコーティング層と、を有し、
前記貫通孔は、前記ノズル基板側から前記セラミックコーティング層側に向かって縮径している、
ことを特徴とするノズル保護板。
【請求項2】
前記透光基板の他方の表面に形成された接着剤と、
前記接着剤の表面に貼付された接着面保護シートと、
を有することを特徴とする請求項1に記載のノズル保護板。
【請求項3】
ノズル基板に貼付けられる、透光性樹脂で形成された透光基板と、
ノズル基板に形成された液体の吐出口の形成位置に対応して、前記透光基板に形成された貫通孔と、
前記透光基板の少なくとも一方の表面に形成された透光性を備えたセラミックコーティング層と、
前記透光基板の他方の表面に形成された接着剤と、
前記接着剤の表面に貼付された接着面保護シートと、
を有することを特徴とするノズル保護板。
【請求項4】
液体を吐出する吐出口が形成されたノズル基板と、
前記吐出口位置に前記貫通孔が位置するように、ノズル基板に接着剤で貼付けられた、請求項1
、又は請求項
2に記載のノズル保護板と、
を有することを特徴とするノズルプレート。
【請求項5】
液体が収容される筐体と、
前記筐体に配設された、請求項4に記載のノズルプレートと、
前記筐体内に収容された液体を加圧して、前記ノズルプレートの吐出口から液体を吐出させる加圧手段と、
を有することを特徴とする液体噴出ヘッド。
【請求項6】
ノズル基板に貼付けられる、透光性樹脂による透光基板を準備する基板準備工程と、
前記準備した透光基板の少なくとも一方の面にセラミックコーティング層を形成するコーティング層形成工程と、
ノズル基板に形成された液体の吐出口の形成位置に対応する前記透光基板の位置に、前記ノズル基板側から前記セラミックコーティング層側に向かって縮径する貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
を有することを特徴とするノズル保護板の製造方法。
【請求項7】
ノズル基板に貼付けられる、透光性樹脂による透光基板を準備する基板準備工程と、
前記準備した透光基板の少なくとも一方の面にセラミックコーティング層を形成するコーティング層形成工程と、
前記透光基板の他方の表面に接着剤を形成する接着剤形成工程と、
前記接着剤の表面に接着面保護シートを貼付する保護シート貼付工程と、
ノズル基板に形成された液体の吐出口の形成位置に対応する前記透光基板の位置に貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
を有することを特徴とするノズル保護板の製造方法。
【請求項8】
前記貫通孔形成工程は、前記コーティング層形成工程の後に行う、
ことを特徴とする請求項6又は、請求項7に記載のノズル保護板の製造方法。
【請求項9】
前記コーティング層形成工程は、エアロゾルデポジション法により、前記セラミックコーティング層を形成する、
ことを特徴とする請求項6、請求項7、又は請求項8に記載のノズル保護板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル保護板、ノズルプレート、及び液体噴出ヘッド、及びノズル保護板の製造方法に係り、例えばジェットディスペンサー等の液体を噴出するヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
離れた位置から粘性液剤等の各種液体を飛ばして対象に着滴させる装置として、ジェットディスペンサーやインクジェット装置などが広く使用され、これら装置では液体を吐出するための液体噴出ヘッドが使用されている(特許文献)。
例えば、粘性液剤を吐出するジェットディスペンサーでは、液体噴出ヘッドにおける吐出口が形成されたノズル基板に、ノズル保護板が張り付けられている。
このノズル保護板は、粘性液剤を安定に吐出させ、吐出後のノズル孔周囲への残留粘性液剤の付着を防止し、さらに粘性液剤に対して化学的に安定であることが要求されている。また、粘性液剤による目詰まりを防止するためにノズル保護板の表面をゴム製のブレードでワイピングする機構が組み込まれる場合には、耐摩耗性に優れる機械的強度も要求されている。
このため従来のノズル保護板はニッケル等の金属により形成することが想定される。
【0003】
しかし、平板状基板にノズル保護板を貼り付ける工程において気泡が残ることがある。この気泡が吐出孔近辺に残り、ノズル内に露出していると、粘性液剤吐出時に液滴が気泡内に進入することで偏向し、予め想定していた位置に粘性液剤が着滴しない不具合が発生するため、高価な超音波検査器で時間をかけて測定する必要があり、製造コストが上昇していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、機械的強度、耐溶剤性を有すると共に、液滴を安定に吐出させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)請求項1に記載の発明では、ノズル基板に貼付けられる、透光性樹脂で形成された透光基板と、ノズル基板に形成された液体の吐出口の形成位置に対応して、前記透光基板に形成された貫通孔と、前記透光基板の少なくとも一方の表面に形成された透光性を備えたセラミックコーティング層と、を有し、前記貫通孔は、前記ノズル基板側から前記セラミックコーティング層側に向かって縮径している、ことを特徴とするノズル保護板を提供する。
(2)請求項2に記載の発明では、前記透光基板の他方の表面に形成された接着剤と、前記接着剤の表面に貼付された接着面保護シートと、を有することを特徴とする請求項1に記載のノズル保護板を提供する。
(3)請求項3に記載の発明では、ノズル基板に貼付けられる、透光性樹脂で形成された透光基板と、ノズル基板に形成された液体の吐出口の形成位置に対応して、前記透光基板に形成された貫通孔と、前記透光基板の少なくとも一方の表面に形成された透光性を備えたセラミックコーティング層と、前記透光基板の他方の表面に形成された接着剤と、前記接着剤の表面に貼付された接着面保護シートと、を有することを特徴とするノズル保護板を提供する。
(4)請求項4に記載の発明では、液体を吐出する吐出口が形成されたノズル基板と、前記吐出口位置に前記貫通孔が位置するように、ノズル基板に接着剤で貼付けられた、請求項1、又は請求項2に記載のノズル保護板と、を有することを特徴とするノズルプレートを提供する。
(5)請求項5に記載の発明では、液体が収容される筐体と、前記筐体に配設された、請求項4に記載のノズルプレートと、前記筐体内に収容された液体を加圧して、前記ノズルプレートの吐出口から液体を吐出させる加圧手段と、を有することを特徴とする液体噴出ヘッドを提供する。
(6)請求項6に記載の発明では、ノズル基板に貼付けられる、透光性樹脂による透光基板を準備する基板準備工程と、前記準備した透光基板の少なくとも一方の面にセラミックコーティング層を形成するコーティング層形成工程と、ノズル基板に形成された液体の吐出口の形成位置に対応する前記透光基板の位置に、前記ノズル基板側から前記セラミックコーティング層側に向かって縮径する貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、を有することを特徴とするノズル保護板の製造方法を提供する。
(7)請求項7に記載の発明では、ノズル基板に貼付けられる、透光性樹脂による透光基板を準備する基板準備工程と、前記準備した透光基板の少なくとも一方の面にセラミックコーティング層を形成するコーティング層形成工程と、前記透光基板の他方の表面に接着剤を形成する接着剤形成工程と、前記接着剤の表面に接着面保護シートを貼付する保護シート貼付工程と、ノズル基板に形成された液体の吐出口の形成位置に対応する前記透光基板の位置に貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、を有することを特徴とするノズル保護板の製造方法を提供する。
(8)請求項8に記載の発明では、前記貫通孔形成工程は、前記コーティング層形成工程の後に行う、ことを特徴とする請求項6又は、請求項7に記載のノズル保護板の製造方法を提供する。
(9)請求項9に記載の発明では、前記コーティング層形成工程は、エアロゾルデポジション法により、前記セラミックコーティング層を形成する、ことを特徴とする請求項6、請求項7、又は請求項8に記載のノズル保護板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、透光基板を透光性樹脂で形成し、その表面に透光性を備えたセラミックコーティング層を形成したので、機械的強度、耐溶剤性を有すると共に、接着剤による気泡を容易に発見し、取除くことで液滴を安定に吐出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】液体噴出ヘッドの全体構成の断面を表した図面である。
【
図2】ノズル保護板を貼付したノズルプレートの拡大図である。
【
図3】ノズル保護板の製造方法についての説明図である。
【
図4】ノズルプレートの製造方法についての説明図である。
【
図5】変形例のノズル保護板を貼付したノズルプレートの拡大図である。
【
図6】変形例のノズル保護板の製造方法についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のノズル保護板、ノズルプレート、液体噴出ヘッド、及びノズル保護板の製造方法における好適な実施の形態について、ジェットディスペンサー用の液体噴出ヘッドを例に
図1から
図6を参照して詳細に説明する。なお、いずれの図面においても、各部分の比率について、特に薄い部分を明示するために、実際の比率ではなく適宜変更して表示している。
【0010】
(1)実施形態の概要
本実施形態では、ジェットディスペンサーに使用する液体噴出ヘッド40は、吐出口6が形成されたノズル基板5の表面にノズル保護板10が貼付けられている。
このノズル保護板10は、半透明樹脂等の透光基板1の一方側の面に高純度アルミナ(α-Al2O3)によるセラミックコーティング層2が形成されている。
このノズル保護板10の他方の側にノズル基板5に貼付けるための接着剤4を塗布した後ノズル基板5に接着し、又は、接着剤4を塗布した後に接着面保護シート9で保護することで別のタイミング(例えば、出荷後)にノズル基板5に貼付けるようにしてもよい。
ノズル保護板10には、貼付け対象であるノズル基板5に形成されている吐出口6の形成位置にあわせて、貫通孔3が形成されている。
高純度アルミナによるセラミックコーティング層2は透光性を備えているため、セラミックコーティング層2及び透光基板1を介して保護板10をノズル基板5に貼付けた場合の接着剤4とノズル基板5との界面に気泡が発生していないかを目視により観察することができる。
このようにノズル保護板10を、透光基板1とセラミックコーティング層2で形成しているので、ノズル基板5に貼付けた際に、気泡が吐出口6の近傍に発生したとしても、目視により容易に確認することができる。発見した気泡は、吐出口6や外縁方向に押出すことで取除くことができる。
従って、ノズル保護板10を貼付けたノズルプレート20を、高い歩留まりで安定して製造することができ、かつ作業性の高い量産性に優れた製造方法を提供することができる。
【0011】
(2)実施形態の詳細
図1は、ジェットディスペンサー(液体噴出装置)用の液体噴出ヘッド40の断面構成を表したものである。
図1に示すように、液体噴出ヘッド40は、隔壁51により粘性液剤等の液体が収容される筐体50を備えている。筐体50は、後述する液体の吐出口6が形成される側(以下、吐出側といい、その反対側を押圧側という)の隔壁51aにはノズルプレート20が接続される。また、筐体50内部には仕切り壁52が吐出側の隔壁51aから押圧側に向かって延在し、隔壁51、仕切り壁52及びノズルプレート20により、液体タンク53、液体流路57、液体溜り58が形成される。
液体タンク53の押圧側の隔壁51bには、液体供給口54が形成されており、液体タンク53内に液体を供給する液体シリンダ(図示しない)が接続可能に構成されている。エア圧によって液体シリンダから液体タンク53内に液体が供給されるようになっている。
本実施形態の隔壁51と仕切り壁52は、樹脂により形成されているが、その一部又は全部をステンレス鋼で形成するようにしてもよい。
【0012】
筐体50における液体溜り58の吐出側にはノズルプレート20が配置されている。
ノズルプレート20の詳細は後述するが、ノズル基板5と、ノズル基板5に貼付されたノズル保護板10で構成されている。ノズルプレート20には、液体溜り58内の液体を吐出する吐出口6が形成されている。
吐出口6は、図に示すように、ノズル基板5の液体溜り58側から外側(吐出側)に向かって狭くなるようにテーパ形状に形成されている。本実施形態の液体噴出ヘッド40において、吐出口6は、液体溜り58側の直径と外側の直径が、それぞれ180μm、60μmとなるようなテーパ形状を有しているが、これに限定されず、吐出する液体に応じて上記テーパ形状は適宜変更されうる。
本実施形態の液体噴出ヘッド40は、ノズルプレート20を筐体50からの取外しと取付け可能に構成されているが、ノズル基板5が筐体50に固定されていて、ノズル保護板10を後から貼付ける構成とすることも可能である。
【0013】
液体溜り58内には、吐出口6から吐出する液体の粘度を下げるためのヒータ55、56が、吐出口6を挟んで配設されている。すなわち、仕切り壁52とノズル基板5に接する状態にヒータ55が配設され、隔壁51とノズル基板5に接する状態にヒータ56が配設されている。ヒータ55とヒータ56との間は、例えば、200μmである。
このヒータ55、56により、吐出口6から吐出する液体が、所定の温度になるように加熱される。所定の温度としては、例えば、30℃~100℃の範囲で、吐出する液体の特性(特に粘性)に応じて決められる。
なお、図示しないが、液体の温度を検出する温度センサが配設され、液体溜り58内の検出温度に応じてヒータ55、56をオンオフ制御するようになっている。
【0014】
筐体50における液体溜り58の押圧側には、ノズル基板5と対向して振動板61が配置され、この振動板61の外側に圧電素子62が配設されている。
圧電素子62に電圧を印加すると、圧電素子62が取付けられた振動板61が液体溜り58内方向に湾曲するように押圧する。これにより、液体溜り58内の圧力が増加して、液体溜り58内の液体が吐出口6から吐出される。
すなわち、振動板61と圧電素子62は、筐体50内に収容された液体を加圧して、ノズルプレート20の吐出口6から液体を吐出させる加圧手段として機能している。
【0015】
次に、ノズルプレート20の構造について説明する。
図2は、
図1において点線の円で示した吐出口6周辺のノズルプレート20を拡大した図である。
ノズルプレート20を構成するノズル基板5は、ステンレス鋼(例えばSUS316)で形成され、外側に向かって狭くなる上述のテーパ形状の吐出口6が形成されている。
このノズル基板5の外側には、ノズル保護板10が接着剤4により接着されている。ノズル保護板10には、吐出口6から吐出される液体が通過する貫通孔3が形成されている。この貫通孔3は、吐出口6の外側の開口位置に合せて形成されている。貫通孔3の直径は、吐出口6の外側の直径よりも僅かに(例えば、15%~30%程度)小さく形成され、本実施形態の貫通孔3の直径は50μmである。
貫通孔3の直径が吐出口6の外側の直径よりも大きい場合、吐出口6の中心と貫通孔3の中心がずれることにより、液滴形状が球状にならなくなる恐れがあり、液滴偏向の要因となる場合がある。本実施形態においては、ノズル保護板10のノズル基板5への貼ズレ、透光基板1の材質とノズル基板5の材質の線膨張係数の差分等、を考慮して貫通孔3の直径を吐出口6の外側の直径よりも小さく形成している。
ノズル保護板10は、この貫通孔3の位置を吐出口6の位置に合せて接着剤4でノズル基板5に貼付けられている。ここで、ノズル保護板10の貫通孔3の孔位置をノズル基板5に形成された吐出口6の孔位置内に収まるようにノズル保護板10をノズル基板5対して位置調整するが、この段階で接着剤4とノズル基板5とが当接することで、接着剤4とノズル基板5との間に気泡が発生する場合がある。この気泡が貫通孔3の内側に露出している場合や、露出が懸念されるような場合、発見した気泡を吐出口6や吐出口6の外縁方向に押出すことで取除いたり、露出する懸念がなくなる程度まで移動させた後、ノズル保護板10をノズル基板5に貼付ける。
【0016】
ノズル保護板10は、透光性のある樹脂シートで形成された透光基板1と、この透光基板1の一方の表面(接着剤4と反対側)に形成された透光性のあるセラミックコーティング層2を備えている。
透光基板1とセラミックコーティング層2は、透明、半透明であることが好ましいが、ノズル保護板10をノズル基板5に接着剤4で接着した際に生じる気泡を目視により確認できる程度の透光性を有していればよい。
本実施形態の透光基板1は、半透明の樹脂シートとしてポリイミドフィルムを使用しているが、他の透明、又は半透明な無機材や有機材を使用するようにしてもよい。
本実施形態のポリイミドフィルムとしては、各種メーカのフィルムを使用可能であり、熱伝導率が0.29W/(m・K)で線膨張係数が12ppm/Kのフィルムや、熱伝導率が0.12W/(m・K)で線膨張率が16ppm/Kのフィルムを使用する。
【0017】
セラミックコーティング層2としては、アルミナの膜がガスデポジション法によって、透光基板1の表面に形成される。ガスデポジション法としては、常温でのセラミックコーティングが可能なエアロゾルデポジション(AD)法やコールドスプレー法などによる。この方法は、乾燥したセラミックや金属の微粉体を固相状態のままガスで搬送して基材(透光基板1)に衝突させることで、低温・高速の厚膜コーティングを実現する。特に、AD法は、ガスと混合してエアロゾル化した微粒子、超微粒子原料をノズルから基板(透光基板1)に噴射してセラミックコーティング層2を形成する。セラミックコーティング層2の膜厚としては、本実施形態では10nm~20nmに形成される。
このように、セラミックコーティング層2を常温で形成するため、透光基板1として用いられるポリイミドフィルムが、熱膨張により伸びてしまい、その結果貫通孔3などの位置がズレることを防止できる。
【0018】
本実施例では、ガスデポジション法によるアルミナ膜を使用したが、透光基板1をガラス等の無機材を使用する場合には、他の成膜方法、例えば、「熱」「光」「プラズマ」などを利用したCVD法などのドライプロセスによってアルミナ膜を形成してもよい。
また、本実施形態では、セラミックコーティング層2としては、金属酸化膜であるアルミナ膜を使用したが、無機酸化物のSiO2で形成するようにしてもよい。この場合、スプレーによる吹き付け、スピンコート、浸漬、塗布法などのウェットプロセスによってSiO2膜を形成してもよく、更に、透光基板1がガラス基板である場合には、真空蒸着法、プラズマ重合やスパッタリングなどのドライプロセスにより成膜してもよい。
また、本実施形態では、透光基板1に対し、一方の面にだけセラミックコーティング層2を形成したが、両面にセラミックコーティング層2を形成するようにしてもよい。この場合、両面に形成したセラミックコーティング層2の一方に接着剤4を塗布する。
【0019】
このように、本実施形態のノズル保護板10は、透光性の透光基板1を使用することで、接着剤4によりノズルプレート20とノズル基板5の間にできた気泡を、外部から容易に発見することができる。発見した気泡については、吐出口6や外縁方向に押出すことで取除くことができる。
また、透光基板1の表面に透光性のセラミックコーティング層2を形成することで、ノズル保護板10表面の機械的強度、耐溶剤性、撥液性を確保することができる。
特に、機械的強度について、ノズル保護板10を使用した液体噴出ヘッド40から吐出試験を行った後、ゴムブレードによってノズル保護板10の表面を10~30g/cm2の接触圧で一方向に摺動させるワイピング試験を数千回行ったが、試験後も撥液性の低下はなく、ワイピングによる摩耗痕も観察されず、液体(インク)の安定な吐出は維持されていた。
なお、ノズル保護板10表面による、撥液性を向上するため、セラミックコーティング層2の外表面に更にフッ素系樹脂をスピンコート法で形成するようにしてもよい。この場合、フッ素樹脂の膜厚は、600nm~1000nmであることが好ましい。
【0020】
次に、本実施形態におけるノズル保護板10、及びノズルプレート20の製造方法について説明する。
図3は、ノズル保護板10の製造方法についての説明図である。
図4は、ノズルプレート20の製造方法についての説明図である。
最初に、
図3(a)に示すように、ポリイミド樹脂による透光基板1を準備する(基板準備工程)。
次に
図3(b)に示すように、準備した透光基板1の一方の面に上述したAD法により、10nm~20nmの厚さのセラミックコーティング層2を形成する(コーティング工程)。本実施形態では、セラミックコーティング層2の厚さを10nm以上としているので、透光基板1に対する充分な密着性を確保することができる。
【0021】
そして
図3(c)に示すように、吐出口6に対応する位置に、透光基板1側からレーザ光Lを照射することで貫通孔3を形成する(貫通孔形成工程)。
ここで、レーザ光Lによるレーザ加工としては、エキシマレーザ加工を用いる。なお、レーザLはセラミックコーティング層2側から照射することも可能である。
本実施形態では、金属であるセラミックコーティング層2の厚さが20nm以下であるので、レーザ加工による発熱が抑制され、樹脂で形性した透光基板1の変形、変質を防止することができる。
以上により、本実施形態のノズル保護板10が形成される。
【0022】
次に、
図4(d)に示すように、透光基板1のセラミックコーティング層2を形成した側の面と反対側の面に接着剤4を塗布する(接着剤塗布工程)。塗布する接着剤4の厚さは、1μm程度である。
なお、接着剤4を透光基板1に塗布する前に、接着剤4を塗布する透光基板1の面を、酸素プラズマで粗すようにしてもよい。透光基板1の表面を粗すことで、接着剤4を付きやすくすることができる。なお、この表面粗し工程は、レーザ光Lにより貫通孔3を形成する前に行うようにしてもよい。
【0023】
そして、
図4(e)に示すように、接着剤4の表面に接着面保護シート9を貼付けたものが、接着剤付のノズル保護板10bである。この接着剤付のノズル保護板10bは、後述のノズル基板5にノズル保護板10を直ちに貼付ける場合でなく、別途ノズル基板5に貼付ける場合に使用される。
【0024】
そして、
図4(f)に示す接着剤4を塗布したノズル保護板10を、貫通孔3の位置を吐出口6の位置に合せてノズル基板5に貼付けることで、ノズルプレート20が製造される。
なお、
図4(e)で説明した接着剤付のノズル保護板10bを使用する場合には、接着面保護シート9を剥がしてノズル基板5に貼付ける。
一方、
図4(d)に示すように、透光基板1に接着剤4を塗布した後に続けてノズル基板5に貼付けることも可能である。この場合には、接着剤4として常温で固化するエポキシ樹脂を使用する。
【0025】
以上の方法により製造したノズルプレート20を、
図1に示すように、液体噴出ヘッド40の筐体50に取付けることで、液体噴出ヘッド40が製造される。
但し、ノズル基板5が着脱可能ではなく筐体50に固定されている場合には、
図4(e)で製造した接着剤付のノズル保護板10bをノズル基板5に貼付けることで、液体噴出ヘッド40が製造される。
【0026】
(3)本実施形態の変形例
説明した実施形態では、ノズル保護版10に形成した貫通孔3を厚さ方向を全体にわたって同じ径に形成する場合について説明した。
これに対して本変形例のノズル10cでは、透光基板1側からセラミックコーティング層2に向って狭くなるテーパ形状に貫通孔3cを形成するものである。
すなわち、本変形例のノズル保護板10cでは、吐出口6に対応する位置に、ノズル基板5と接着される側の透光基板1からレーザ光Lを照射することで、透光基板1側からセラミックコーティング層2側(吐出側)に向かって狭くなるようにテーパ形状の貫通孔3cを形成する。
【0027】
本変形例のノズルプレート20cの構造について説明する。
図5は、本変形例のノズル保護板10cを貼付したノズルプレート20cの拡大図である。
ノズルプレート20cを構成するノズル基板5は上述のテーパ形状の吐出口6が形成されており、このノズル基板5の外側に、本変形例のノズル保護板10cが接着剤4により接着されている。ノズル保護板10cには、吐出口6から吐出される液体が通過する貫通孔3cが形成されている。ここで、本変形例のノズル保護板10cの貫通孔3cは、ノズル基板5側からセラミックコーティング層側に向かって狭くなるようにテーパ形状となっている。換言すれば、貫通孔3cは、ノズル基板5側からセラミックコーティング層2に向かって縮径している。
【0028】
ここで、貫通孔3cのノズル基板5側の直径は、吐出側の直径よりも僅かに(例えば、15%~30%程度)小さく形成されている。本変形例において、貫通孔3cのノズル基板5側の直径は50μmであり、また、セラミックコーティング層の液滴吐出部における直径は30μmである。なお、貫通孔3cのテーパ形状はこれに限定されず、ノズル基板5に設けられたテーパ形状と同じ傾斜で形成するようにしてもよく、吐出する液体に応じてテーパの傾斜角を適宜変更することが可能である。
【0029】
このように、本変形例のノズル保護板10cは、透光性の透光基板1を使用することで、接着剤4によりノズルプレート20cとノズル基板5の間にできた気泡を、外部から容易に発見し、取除くことで液滴を安定に吐出させることができ、透光基板1の表面に透光性のセラミックコーティング層2を形成することで、ノズル保護板10表面の機械的強度、耐溶剤性、撥液性を確保することができ、また、テーパ形状の貫通孔3cにより液滴の吐出方向を安定させることができる。
【0030】
次に、本変形例のノズル保護板10cの製造方法について説明する。
図6は、本変形例のノズル保護板10cの製造方法についての説明図である。
本変形例では、本実施形態と同様に、
図3(a)に示すように、ポリイミド樹脂による透光基板1を準備(基板準備工程)した後、
図3(b)に示すように、準備した透光基板1の一方の面にAD法により、10nm~20nmの厚さのセラミックコーティング層2を形成する(コーティング工程)。
次に、本変形例においては、
図6に示すように、吐出口6に対応する位置に、ノズル基板5と接着される側の透光基板1からレーザ光Lを照射することで、ノズル基板5側から吐出側に向かって狭くなるようなテーパ形状の貫通孔3cを形成する(貫通孔形成工程)。具体的には、ノズル基板5側からセラミックコーティング層2側に向かって焦点が合うように調整した状態で加工を行う。このように調整することにより、セラミックコーティングコーティング層2の位置でレーザ光Lの径は最も小さくなり、ノズル基板5側に向かうにしたがってレーザ光Lの径は大きくなるので、ノズル基板5側からセラミックコーティング2側に向かって径が狭くなるようテーパ形状の貫通孔3を形成することができる。
以上により、本変形例のノズル保護板10cが形成される。
尚、ノズルプレート20cの製造方法は、本実施形態のノズルプレート20の製造方法と同様である。
【0031】
本変形例のノズル保護板10c及びノズルプレート20は、テーパ形状の貫通孔3cにより液滴の吐出速度の向上や、吐出時の噴射圧力向上により液滴の吐出距離を伸ばすことができる。本変形例においては、テーパ形状の貫通孔3cにより、ストレート形状の貫通孔3を用いた場合の液滴飛距離1~2mmの約2倍の液滴飛距離を達成することができる。
また、液滴の吐出方向をさらに安定させることが可能で正確に着滴位置に液滴を飛ばすことができる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態のノズル保護板10によれば、透光性のある透光基板1及び透光性のあるセラミックコーティング層2を使用してノズル保護板10を形成したので、接着剤4でノズル基板5に貼付けた際に生じる気泡を容易に発見し、吐出口6や外縁方向に押出して取除くことができる。これにより、ノズル保護板10を貼付けたノズルプレート20を、高い歩留まりで安定して製造することができ、かつ作業性の高い量産性に優れた製造方法を提供することができる。
また、説明したノズル保護板10、液体噴出ヘッド40によれば、セラミックコーティング層2によりノズル保護板10の撥液性を向上させ、撥液性を安定に保持することが可能であり、また、ノズル保護板10の表面への液体(粘性液剤)の付着を防止することができる。その結果、安定した液体の吐出を可能にすることができる。
さらに、セラミックコーティング層2により、耐溶剤性にも優れるため、長時間の粘性液剤吐出による腐食が低減され、液体噴出ヘッド40や、液体噴出ヘッド40を装着したジェットディスペンサーの信頼性を向上させることができる。
【0033】
さらに、ノズル保護板10cに設けたテーパ形状の貫通孔3cにより液滴の吐出速度の向上や、吐出時の噴射圧力向上により液滴の吐出距離を伸ばすことができる。また、液滴の吐出方向をさらに安定させることができる。
【0034】
以上、本実施形態のノズル保護板10、ノズルプレート20、液体噴出ヘッド40として、ジェットディスペンサーに適用する場合を例に説明したが、半導体等のパターン形成のために液滴を吐出するパターン形成装置等に使用される他の液体噴出ヘッドや、インクジェット印刷に用いられるノズルプレート(液体噴出ヘッド)などにも適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 透光基板
2 セラミックコーティング層
3 貫通孔
4 接着剤
5 ノズル基板
6 吐出口
9 接着面保護シート
10 ノズル保護板
10b 接着剤付きノズル保護板
20 ノズルプレート
40 液体噴出ヘッド
50 筐体
51 隔壁
52 仕切り壁
53 液体タンク
54 液体供給口
55、56 ヒータ
57 液体流路
58 液体溜り
61 振動板
62 圧電素子
L レーザ光