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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】親水化処理剤および親水皮膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20230406BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20230406BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
C09K3/00 R
B05D5/00 Z
B05D7/24 303E
B05D7/24 302R
B05D7/24 302N
B05D7/24 302P
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019109124
(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公開番号】P2020200407
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】松崎 正幹
(72)【発明者】
【氏名】金子 宗平
(72)【発明者】
【氏名】三国 鈴香
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 宏一
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/168497(WO,A1)
【文献】特開2016-222920(JP,A)
【文献】特開2018-91556(JP,A)
【文献】特開2018-177910(JP,A)
【文献】特開2000-219974(JP,A)
【文献】特開平3-254864(JP,A)
【文献】特開平10-130580(JP,A)
【文献】特開昭62-209184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
B05D 5/00
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性樹脂分散体(A)と、
架橋性微粒子(B)と、
ポリエーテルアミン(C)と、を含み、
前記水性樹脂分散体(A)は、樹脂固形分として、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)と、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(A2-1)由来の構造単位を有するラジカル重合体(A2)と、を含み、
前記ラジカル重合体(A2)の質量に対する、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)の質量比率((A1)/(A2))は、0.43~2.33であり、
前記水性樹脂分散体(A)の樹脂固形分の合計質量に対する、前記架橋性微粒子(B)の質量比率((B)/(A))は、0.11~1.43であり、
前記水性樹脂分散体(A)の樹脂固形分、および前記架橋性微粒子(B)の合計質量に対する、前記ポリエーテルアミン(C)の質量比率((C)/((A)+(B)))は、0.1~0.38である、親水化処理剤。
【請求項2】
前記ラジカル重合体(A2)は、さらに、ラジカル重合性スルホン酸モノマー(A2-2)、およびカルボン酸基およびスルホン酸基を有しないラジカル重合性モノマー(A2-3)からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマー由来の構造単位を有する、請求項1に記載の親水化処理剤。
【請求項3】
前記水性樹脂分散体(A)は、樹脂固形分としてさらに、親水性化合物(A3)を含む、請求項1または2に記載の親水化処理剤。
【請求項4】
親水性化合物(D)をさらに含み、
前記水性樹脂分散体(A)の樹脂固形分、前記架橋性微粒子(B)、および前記ポリエーテルアミン(C)の合計質量に対する、前記親水性化合物(D)の質量比率((D)/((A)+(B)+(C)))は、0.14以下である、請求項1~3のいずれかに記載の親水化処理剤。
【請求項5】
架橋剤(E)をさらに含み、
前記水性樹脂分散体(A)の樹脂固形分、前記架橋性微粒子(B)、および前記ポリエーテルアミン(C)の合計質量に対する、前記架橋剤(E)の質量比率((E)/((A)+(B)+(C)))は、0.10以下である、請求項1~4のいずれかに記載の親水化処理剤。
【請求項6】
前記水性樹脂分散体(A)において、前記ラジカル重合体(A2)は、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)を含む溶液中でラジカル(共)重合されたものである、請求項1~5いずれかに記載の親水化処理剤。
【請求項7】
前記架橋性微粒子(B)は、下記式(I)で表されるモノマー(b1)、ポリオキシアルキレン鎖および重合性二重結合を有するモノマー(b2)、およびその他の重合性モノマー(b3)の共重合体である、請求項1~6いずれかに記載の親水化処理剤。
【化1】
(式中、Rは、水素またはメチル基であり、Rは、CHまたはCである。)
【請求項8】
請求項1~7いずれかに記載の親水化処理剤を、基材の表面に接触させて親水皮膜を形成する親水皮膜形成工程を含む、親水皮膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水化処理剤および親水皮膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属基材の表面に親水化処理を施す技術が知られている。例えば、アルミニウムを用いた熱交換器においては、フィン表面に付着した凝縮水に起因する騒音の発生、水滴の飛散による汚染等の問題を防止するために、フィン表面に親水化処理が施される。
【0003】
親水化処理に用いられる親水化処理剤としては、例えば、アセトアセチル基およびオキシアルキレン基を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂と、架橋剤とを含有する親水化処理剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された親水化処理剤によれば、親水性のみならず耐水性にも優れた皮膜を形成できる。
【0004】
しかしながら、親水性に優れる皮膜の上では、凝縮水は安定化して除去しにくくなる傾向にあった。すなわち、親水性が優れている皮膜ほど、水滴除去性は悪化する。そこで、親水性かつ水滴除去性に優れる皮膜が得られる処理剤として、親水性重合体(a)および架橋剤(b)を含む親水性塗料が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-141625号公報
【文献】特開2017-020015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の親水性塗料によれば、親水性かつ水滴除去性に優れた皮膜が得られる。しかしながら、水滴除去性の持続については、さらなる向上が求められる場合があった。
【0007】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的は、親水性および水滴除去性に優れるとともに、優れた水滴除去性を維持することのできる皮膜を形成できる、親水化処理剤および親水皮膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の水性樹脂分散体と架橋性微粒子とに、さらに、ポリエーテルアミンを特定組成で配合すれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、水性樹脂分散体(A)と、架橋性微粒子(B)と、ポリエーテルアミン(C)と、を含み、
前記水性樹脂分散体(A)は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)と、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(A2-1)由来の構造単位を有するラジカル重合体(A2)と、を含み、
前記ラジカル重合体(A2)の質量に対する、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)の質量比率((A1)/(A2))は、0.43~2.33であり、
前記水性樹脂分散体(A)における樹脂固形分量に対する、前記架橋性微粒子(B)の質量比率((B)/(A))は、0.11~1.43であり、
前記水性樹脂分散体(A)における樹脂固形分および前記架橋性微粒子(B)の合計質量に対する、前記ポリエーテルアミン(C)の質量比率((C)/((A)+(B)))は、0.1~0.38である、親水化処理剤である。
【0010】
前記ラジカル重合体(A2)は、さらに、ラジカル重合性スルホン酸モノマー(A2-2)、およびカルボン酸基およびスルホン酸基を有しないラジカル重合性モノマー(A2-3)からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマー由来の構造単位を有していてもよい。
【0011】
前記水性樹脂分散体(A)は、さらに、親水性化合物(A3)を含んでいてもよい。
【0012】
親水性化合物(D)をさらに含み、前記水性樹脂分散体(A)の樹脂固形分、前記架橋性微粒子(B)、および前記ポリエーテルアミン(C)の合計質量に対する、前記親水性化合物(D)の質量比率((D)/((A)+(B)+(C)))は、0.14以下であってもよい。
【0013】
架橋剤(E)をさらに含み、前記水性樹脂分散体(A)の樹脂固形分、前記架橋性微粒子(B)、および前記ポリエーテルアミン(C)の合計質量に対する、前記架橋剤(E)の質量比率((E)/((A)+(B)+(C)))は、0.10以下であってもよい。
【0014】
前記水性樹脂分散体(A)において、前記ラジカル重合体(A2)は、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)を含む溶液中でラジカル(共)重合されたものであってもよい。
【0015】
前記架橋性微粒子(B)は、下記式(I)で表されるモノマー(b1)、ポリオキシアルキレン鎖および重合性二重結合を有するモノマー(b2)、およびその他の重合性モノマー(b3)の共重合体であってもよい。
【化1】
(式中、Rは、水素またはメチル基であり、Rは、CHまたはCである。)
【0016】
また別の本発明は、上記の親水化処理剤を、基材の表面に接触させて親水皮膜を形成する親水皮膜形成工程を含む、親水皮膜の形成方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の親水化処理剤および親水皮膜の形成方法によれば、水性樹脂分散体(A)に含まれるカルボキシル基と、ポリエーテルアミン(C)におけるアミノ基との間で、イオン結合的なネットワークが形成された皮膜を得ることができる。これにより、得られる皮膜において、水性樹脂分散体(A)と架橋性微粒子(B)との分散性が向上し、その結果、親水性および水滴除去性に優れるとともに、優れた水滴除去性を維持することのできる皮膜を得ることができる。
【0018】
また、本発明の親水化処理剤および親水皮膜の形成方法によれば、上記のネットワークが形成されることから、従来必要であった架橋剤を添加しなくとも、皮膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0020】
<親水化処理剤>
本発明の親水化処理剤は、水性樹脂分散体(A)と、架橋性微粒子(B)と、ポリエーテルアミン(C)と、を含む。水性樹脂分散体(A)は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」ともいう)(A1)と、ラジカル重合体(A2)と、を含む。本発明においては、EVOH(A1)、ラジカル重合体(A2)、架橋性微粒子(B)、およびポリエーテルアミン(C)の各成分の質量比率が特定の範囲となることにより、親水性および水滴除去性に優れるとともに、優れた水滴除去性を維持することのできる皮膜を形成できる。本発明の親水化処理剤は、さらに、親水性化合物(D)や、架橋剤(E)を含んでいてもよい。
【0021】
<水性樹脂分散体(A)>
本発明に用いられる水性樹脂分散体(A)は、樹脂固形分として、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)(A1)と、ラジカル重合体(A2)と、を必須成分として含む。
【0022】
[エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)(A1)]
水性樹脂分散体(A)の樹脂固形分となるエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)(A1)は、皮膜に疎水性を付与する成分である。EVOH(A1)は、エチレン構造単位と、ビニルアルコール構造単位とを有する。EVOH(A1)中におけるエチレン構造単位の含有量は、25~44モル%であることが好ましい。エチレン構造単位の含有量がこの範囲内であれば、EVOHが本来有する特性を維持しつつ、優れた分散安定性を有する水性樹脂分散体(A)が得られる。
【0023】
EVOH(A1)としては、市販品を用いることができる。例えば、クラレ社製の「エバール」や日本合成化学工業社製の「ソアノール」が挙げられる。
【0024】
[ラジカル重合体(A2)]
水性樹脂分散体(A)の樹脂固形分となるラジカル重合体(A2)は、皮膜に親水性を付与する成分である。ラジカル重合体(A2)は、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(A2-1)由来の構造単位を有する。すなわち、ラジカル重合体(A2)は、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(A2-1)を必須として含むラジカル重合性のモノマーを、ラジカル重合することにより得られる。
【0025】
(ラジカル重合性カルボン酸モノマー(A2-1))
ラジカル重合体(A2)の必須構成モノマーとなるラジカル重合性カルボン酸モノマー(A2-1)としては、例えば、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等の不飽和ジカルボン酸やその無水物、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノエステルが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの金属塩やアンモニウム塩等を用いてもよい。これらの中でも特にイタコン酸、アクリル酸およびメタクリル酸が好ましい。
【0026】
(その他のラジカル重合性モノマー)
水性樹脂分散体(A)の樹脂固形分となるラジカル重合体(A2)は、任意の構造単位として、さらに、ラジカル重合性スルホン酸モノマー(A2-2)、およびカルボン酸基およびスルホン酸基を有しないラジカル重合性モノマー(A2-3)からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマー由来の構造単位を有していてもよい。
【0027】
(ラジカル重合性スルホン酸モノマー(A2-2))
ラジカル重合体(A2)の任意の構成モノマーとなるラジカル重合性スルホン酸モノマー(A2-2)としては、例えば、メタクリレート系スルホン酸モノマー、アクリルアミド系スルホン酸モノマー、アリル系スルホン酸モノマー、ビニル系スルホン酸モノマー、スチレン系スルホン酸モノマーが挙げられる。これらのモノマーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの金属塩等を用いてもよい。これらの中では特に、HAPS(3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸のナトリウム塩)、AMPS(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)が好ましい。
【0028】
(カルボン酸基およびスルホン酸基を有しないラジカル重合性モノマー(A2-3))
ラジカル重合体(A2)の任意の構成モノマーとなるカルボン酸基およびスルホン酸基を有しないラジカル重合性モノマー(A2-3)としては、以下のラジカル重合性モノマー(A2-3-a)~(A2-3-c)が挙げられる。ラジカル重合性モノマー(A2-3-a)~(A2-3-c)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
ラジカル重合性モノマー(A2-3-a)としては、下記式(II)で表されるラジカル重合性モノマーが挙げられる。
【0030】
【化2】
(式中、R10は、水素またはメチル基であり、R11は、水素またはメチルであり、pは、1~200の整数である。)
【0031】
すなわち、ラジカル重合性モノマー(A2-3-a)は、上記式(II)で表されるように、pが1~200の整数である(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、またはメトキシポリエチレングコール(メタ)アクリレートである。ラジカル重合性モノマー(A2-3-a)に由来する構造単位がラジカル重合体(A2)に含まれることにより、得られる皮膜の親水性や分散安定性を向上させることができる。
【0032】
ラジカル重合性モノマー(A2-3-b)としては、(メタ)アクリルアミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、およびN-ビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも1種のラジカル重合性モノマーが挙げられる。これらのモノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中では特に、N-ビニルホルムアミド(NVF)、アクリルアミド(AAm)が好ましい。
【0033】
ラジカル重合性モノマー(A2-3-b)は、アミド結合を有する。ラジカル重合性モノマー(A2-3-b)に由来する構造単位がラジカル重合体(A2)に含まれることにより、得られる皮膜の親水性や分散安定性を向上させることができる。
【0034】
ラジカル重合性モノマー(A2-3-c)としては、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のラジカル重合性水酸基含有モノマー、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等のラジカル重合性アミド基含有モノマー、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のラジカル重合性シリル基含有モノマー、グリシジルメタクリレート等のラジカル重合性エポキシ基含有モノマー、メチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等のラジカル重合性エステル基含有モノマー、および、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル、ジビニルベンゼン等のビニル基含有モノマーが挙げられる。
【0035】
ラジカル重合性モノマー(A2-3-c)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中では特に、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)、グリシジルメタクリレート(GMA)が好ましい。
【0036】
ラジカル重合性モノマー(A2-3-c)に由来する構造単位がラジカル重合体(A2)に含まれることにより、得られる皮膜に親水性、分散安定性、さらには架橋性を付与することができる。皮膜の親水性や分散安定性を向上させることができる。
【0037】
[親水性化合物(A3)]
本発明の親水化処理剤を構成する水性樹脂分散体(A)は、樹脂固形分として、さらに、親水性化合物(A3)を含んでいてもよい。
【0038】
親水性化合物(A3)としては、下記式(III)で表される構造を有する化合物、およびポリビニルピロリドン(PVP)構造を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0039】
【化3】
(式中、R12は、水素またはメチル基であり、qは、2~100,000の整数である。)
【0040】
上記式(III)で表される構造を有する化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリオキシエチレン基含有ポリビニルアルコール等が挙げられる。ポリビニルピロリドン(PVP)構造を有する化合物としては、PVPやPVP変性PVA等が挙げられる。
【0041】
親水性化合物(A3)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでは特に、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、またはポリオキシエチレン基含有ポリビニルアルコール(EO-PVA)が好ましい。
【0042】
本発明の親水化処理剤を構成する水性樹脂分散体(A)が、さらに、親水性化合物(A3)を含有することにより、水性樹脂分散体(A)に優れた分散安定性が付与されるとともに、得られる皮膜の親水性を向上することができる。
【0043】
<水性樹脂分散体(A)の製造方法>
本発明の親水化処理剤を構成する水性樹脂分散体(A)の製造方法は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)(A1)を含む溶解液中で、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(A2-1)を必須成分とするモノマーのラジカル(共)重合反応を実施して、ラジカル重合体(A2)を得る工程を含んでいることが好ましい。
【0044】
水性樹脂分散体(A)にさらに親水性化合物(A3)を含有させる場合には、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)(A1)および親水性化合物(A3)を含む溶解液中で、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(A2-1)を必須成分とするモノマーのラジカル(共)重合反応を実施して、ラジカル重合体(A2)を得る工程を含んでいることが好ましい。
【0045】
ラジカル重合法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用することができる。また、用いるラジカル重合開始剤も特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。
【0046】
すなわち、ラジカル重合体(A2)を、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(A2-1)群の(共)重合体とする場合には、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(A2-1)を、EVOH(A1)および必要に応じて親水性化合物(A3)を含む溶液中に添加して、共重合させることが好ましい。
【0047】
ラジカル重合体(A2)を、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(A2-1)群と、ラジカル重合性スルホン酸モノマー(A2-2)群およびカルボン酸基およびスルホン酸基を有しないラジカル重合性モノマー(A2-3)からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーとの共重合体とする場合には、ラジカル重合性カルボン酸モノマー(A2-1)群と他のモノマー群とを同時に、EVOH(A1)および必要に応じて親水性化合物(A3)を含む溶液中に添加して、共重合させることができる。あるいは、EVOH(A1)および必要に応じて親水性化合物(A3)を含む溶液中に、先ず、いずれかのモノマー群を先に添加して(共)重合した後に、他のモノマー群を順次添加して、(共)重合させてもよい。
【0048】
なお、本発明の親水化処理剤を構成する水性樹脂分散体(A)の製造方法としては、必須成分となるラジカル重合性カルボン酸モノマー(A2-1)群の(共)重合のみを、EVOH(A1)および必要に応じて親水性化合物(A3)を含む溶解液中で実施し、その後、他のモノマー群の(共)重合体を添加して撹拌混合してもよい。
【0049】
発明の親水化処理剤を構成する水性樹脂分散体(A)の製造方法の一例を、以下に説明する。
【0050】
先ず、ペレット状のEVOH(A1)に対し、水とメタノールの混合溶液を適量添加する。添加後、EVOH(A1)のガラス転移点以上、溶媒の沸点以下の温度で加熱し、所定時間撹拌することでEVOH(A1)の溶解液を得る。
【0051】
次いで、EVOH(A1)溶解液に必要に応じて親水性化合物(A3)を溶解する。得られた溶液に、ラジカル重合体(A2)の必須の構造単位を構成するラジカル重合性カルボン酸モノマー(A2-1)、および任意に、ラジカル重合性スルホン酸モノマー(A2-2)、およびカルボン酸基およびスルホン酸基を有しないラジカル重合性モノマー(A2-3)からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーを含むモノマー混合液と、ラジカル重合開始剤を含む溶液とを、窒素雰囲気下で滴下してラジカル(共)重合反応させる。
【0052】
次いで、用いたモノマー中の酸当量に相当する塩基(アンモニア水が好ましい)を滴下して中和する。そして、加熱下で水を補給しながらメタノールを溜去し、媒体を水に置換する。
【0053】
最後に、冷却して濾過することで、本発明の親水化処理剤を構成する水性樹脂分散体(A)を得る。
【0054】
<架橋性微粒子(B)>
本発明の親水化処理剤を構成する架橋性微粒子(B)は、下記式(I)で表されるモノマー(b1)、ポリオキシアルキレン鎖および重合性二重結合を有するモノマー(b2)、および、その他の重合性モノマー(b3)からなるモノマー成分を共重合して得られる共重合体からなる樹脂微粒子である。
【0055】
【化4】
(式中、Rは、水素またはメチル基であり、Rは、CHまたはCである。)
【0056】
架橋性微粒子(B)は、親水性が高く、未反応官能基を比較的多く有するため、親水化処理剤の成分として使用した場合、親水化処理剤に含まれる他の親水性樹脂と反応し、親水性を損なうことなく、汚染物質が付着した後の親水持続性を大幅に向上させることができる。
【0057】
さらに、架橋性微粒子(B)は、水に対する膨潤率が比較的小さいため、形成される親水皮膜が水に溶解してしまうことも抑制することができる。
【0058】
架橋性微粒子(B)の構成成分である上記式(I)で表されるモノマー(b1)は、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、またはN-ヒドロキシエチルメタクリルアミドである。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0059】
架橋性微粒子(B)が上記式(I)で表されるモノマー(b1)を構成成分として含むことにより、得られる親水化処理剤からは、親水持続性、および基材への密着性に優れた親水皮膜を形成することができる。
【0060】
架橋性微粒子(B)の構成成分であるポリオキシアルキレン鎖および重合性二重結合を有するモノマー(b2)は、ポリオキシアルキレン鎖を50質量%以上含有する化合物であることが好ましい。ここで、50質量%以上とは、ポリオキシアルキレン鎖および重合性二重結合を有するモノマー(b2)の固形分質量100質量%中に、ポリオキシアルキレン鎖の部分の全固形分質量が、50質量%以上であることを意味する。50質量%未満であると、親水皮膜の親水性が低下するおそれがある。ポリオキシアルキレン鎖および重合性二重結合を有するモノマー(b2)は、ポリオキシアルキレン鎖を、80~99質量%含有することがより好ましい。
【0061】
架橋性微粒子(B)の構成成分であるその他の重合性モノマー(b3)は、1分子中に重合性不飽和結合を有し、上記式(I)で表されるモノマー(b1)、およびポリオキシアルキレン鎖および重合性二重結合を有するモノマー(b2)と共重合させることができる化合物であれば特に限定されるものではない。
【0062】
[水膨潤率]
本発明で用いられる架橋性微粒子(B)は、水膨潤率が1.0~1.5であることが好ましい。これにより、架橋性微粒子(B)を配合した親水化処理剤から親水皮膜を形成した場合に、皮膜が水分に晒されたとしても、皮膜と基材との間の密着性の低下を抑制することができる。水膨潤率は、1.0~1.3であることがより好ましい。
【0063】
1.5以下の水膨潤率は、上記式(I)で表されるモノマー(b1)、ポリオキシアルキレン鎖および重合性二重結合を有するモノマー(b2)、およびその他の重合性モノマー(b3)を上述の配合比とし、反応条件を適宜設定することによって得ることができる。
【0064】
なお、本明細書における水膨潤率は、水膨潤率=水溶液中粒子径(D50)/溶剤中粒子径(D50)として算出した値である。また、粒子径(D50)は、電気泳動光散乱光度計photal ELS-800(大塚電子社製)を用いて測定した値である。
【0065】
[平均粒子径]
架橋性微粒子(B)の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、50~500nmの範囲であることが好ましい。50~300nmの範囲であることがさらに好ましく、50~250nmの範囲であることが特に好ましい。50~500nmの範囲であれば、架橋性微粒子(B)を含む親水化処理剤から皮膜を形成した場合に、親水性と水滴除去性に優れた皮膜となる。
【0066】
<架橋性微粒子(B)の製造方法>
本発明の親水化処理剤に用いられる架橋性微粒子(B)の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、上記式(I)で表されるモノマー(b1)30~95質量%、ポリオキシアルキレン鎖および重合性二重結合を有するモノマー(b2)5~60質量%、およびその他の重合性モノマー(b3)0~50質量%を、分散安定剤の不存在下に、使用するモノマーは溶解するが生成する共重合体は実質的に溶解しない水混和性有機溶媒中または水混和性有機溶媒/水混合溶媒中で重合させることにより製造することができる。
【0067】
<ポリエーテルアミン(C)>
本発明の親水化処理剤を構成するポリエーテルアミン(C)は、主鎖にポリエーテル鎖を有するとともに、末端にアミノ基を有する化合物である。
【0068】
本発明の親水化処理剤は、水性樹脂分散体(A)と、架橋性微粒子(B)と、ポリエーテルアミン(C)と、を必須成分として含むが、ポリエーテルアミン(C)の存在により、皮膜を形成する際に、水性樹脂分散体(A)に含まれる樹脂固形分と架橋性微粒子(B)とが、それぞれ単独でドメインを形成することを抑制することができる。すなわち、本発明の親水化処理剤において、ポリエーテルアミン(C)は、形成される皮膜における、水性樹脂分散体(A)由来の樹脂固形分と、架橋性微粒子(B)との分散性を向上する役割を有する。
【0069】
形成される皮膜における、水性樹脂分散体(A)由来の樹脂固形分と、架橋性微粒子(B)との分散性が向上する結果、得られる皮膜は、親水性を有するとともに、優れた水滴除去性を有し、さらに、その水滴除去性を長期に持続させることが可能となる。
【0070】
本発明の親水化処理剤を構成するポリエーテルアミン(C)は、特に限定されるものではないが、例えば、下記式(IV-1)で示されるポリエーテルモノアミン、または下記式(IV-2)で示されるポリエーテルジアミンが挙げられる。
【0071】
【化5】
(式中、Rは、メチル基またはエチル基であり、Rは、CまたはCであり、Rは、CH、C、またはCであり、mは、1~100である。)
【0072】
【化6】
(式中、RおよびR8は、それぞれ独立に、CH、C、Cであり、Rは、CまたはCであり、nは、1~100である。)
【0073】
上記式(IV-1)および式(IV-2)で示されるポリエーテルアミン(C)において、ポリエーテル鎖を構成するRおよびRのエーテルの種類は、1種のみならず、2種以上のエーテルが組み合わされたものであってもよい。すなわち、上記式(IV-1)および式(IV-2)で示されるポリエーテルアミン(C)において、ポリエーテル鎖は、エチレンオキサイドに由来する繰り返し単位と、プロピレンオキサイドに由来する繰り返し単位が、混在していてもよい。
【0074】
また、上記式(IV-1)および式(IV-2)で示されるポリエーテルアミン(C)において、mおよびnは、1~100の範囲であるが、1~70の範囲であることが好ましく、8~50の範囲であることがさらに好ましい。上記式(IV-1)および式(IV-2)で示されるポリエーテルアミン(C)において、mまたはnが、100を超える場合には、得られる皮膜が溶解し易くなり、耐久性が低下する。
【0075】
上記式(IV-1)および式(IV-2)で示されるポリエーテルアミン(C)は、上記の通り、2種以上のエーテル鎖が組み合わされた構造であってもよい。この場合には、それぞれの種類のエーテルユニットの繰り返し数の合計を、mまたはnとする。
【0076】
本発明においては、両末端ともにアミノ基を有している、上記式(IV-2)で示されるポリエーテルジアミンを用いることがより好ましい。本発明の親水化処理剤および親水皮膜の形成方法によれば、水性樹脂分散体(A)に含まれるカルボキシル基と、ポリエーテルアミン(C)におけるアミノ基との間で、イオン結合的なネットワークが形成された皮膜を得ることができる。したがって、より強固なネットワークを形成させる目的で、ポリエーテルアミン(C)におけるアミノ基は、両末端に存在していることが好ましい。
【0077】
本発明の親水化処理剤を構成するポリエーテルアミン(C)は、例えば、下記式(V)で示される化合物を挙げることができる。下記式(V)で示されるポリエーテルアミン(C)は、HUNTSMAN社から、商品名:ジェファーミンEDシリーズとして販売されている。
【0078】
【化7】
【0079】
また別のポリエーテルアミン(C)としては、例えば、下記式(VI)で示される化合物を挙げることができる。下記式(VI)で示されるポリエーテルアミン(C)は、広栄化学工業社から、商品名:PEGPAシリーズとして販売されている。
【0080】
【化8】
【0081】
<親水性化合物(D)>
本発明の親水化処理剤の任意の構成成分となる親水性化合物(D)は、皮膜に親水性を付与する成分である。親水性化合物(D)としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基または水酸基等の親水基を有する樹脂が挙げられる。
【0082】
具体的には、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンオキサイド変性ポリビニルアルコール(EO-PVA)等の変性ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアルキレンエーテル(PAE)、N-メチロールアクリルアミド(NMAM)、ポリ-N-ビニルホルムアミド(PNVF)、アクリル酸共重合体、スルホン酸共重合体、アミド共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0083】
<架橋剤(E)>
本発明の親水化処理剤の任意の構成成分となる架橋剤(E)は、皮膜に機械強度を付与する成分である。本発明の親水化処理剤は、架橋剤(E)を配合しなくても皮膜を形成することが可能であるが、より強度の高い皮膜を形成する目的で、架橋剤(E)を使用することができる。
【0084】
架橋剤(E)としては、例えば、メラミン樹脂、シランカップリング剤等が挙げられる。具体的なメラミン樹脂としては日本サイテックインダストリーズ社製の「サイメル370N」が挙げられる。また、シランカップリング剤としては信越化学社製の「KBM-403」が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
<その他の成分>
本発明の親水化処理剤は、防錆材料をさらに含んでもよい。防錆材料としては、例えば、ジルコニウム化合物、バナジウム化合物、チタニウム化合物、ニオブ化合物、リン化合物、セリウム化合物、クロム化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
また、本発明の親水化処理剤には、着色した親水皮膜を形成する目的で、顔料を添加してもよい。添加する顔料としては、特に限定されるものではなく、無機顔料、有機顔料等、通常使用されている着色顔料を使用することができる。
【0087】
また、本発明の親水化処理剤は、付加したい機能に応じて任意に、その他の成分を必要量添加してもよい。その他の成分としては、例えば、界面活性剤、コロイダルシリカ、酸化チタン、糖類等の親水添加剤、タンニン酸、イミダゾール類、トリアジン類、トリアゾール類、グアニン類、ヒドラジン類、フェノール樹脂、ジルコニウム化合物、シランカップリング剤等の防錆添加剤、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート、アミン、フェノール樹脂、シリカ、アルミニウム、ジルコニウム等の架橋剤、抗菌剤、分散剤、潤滑剤、消臭剤、溶剤等を挙げることができる。
【0088】
<各成分の質量比率>
本発明の親水化処理剤は、必須の構成成分として含まれる水性樹脂分散体(A)、架橋性微粒子(B)、およびポリエーテルアミン(C)、ならびに任意の成分として含まれる親水性化合物(D)、架橋剤(E)の各成分の質量比率を適切な範囲とすることにより、本発明の効果である、親水性および水滴除去性に優れるとともに、優れた水滴除去性を維持することのできる皮膜を形成することができる。
【0089】
[質量比率((A1)/(A2))]
ラジカル重合体(A2)の質量に対する、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)(A1)の質量比率((A1)/(A2)))は、0.43~2.33であり、好ましくは、0.75~2.33の範囲である。
【0090】
質量比率((A1)/(A2))が、0.43未満の場合には、EVOH(A1)の質量が小さいため、得られる皮膜の疎水性が低くなる。このため、水滴除去性に優れた皮膜を形成することが困難となる。一方で、質量比率((A1)/(A2))が、2.33を超える場合には、ラジカル重合体(A2)の質量が小さいため、得られる皮膜の親水性が低くなる。このため、親水性が優れた皮膜を形成することが困難になる。
【0091】
[質量比率((B)/((A))]
水性樹脂分散体(A)における樹脂固形分量に対する、架橋性微粒子(B)の質量比率((B)/((A))は、0.11~1.43であり、好ましくは、0.43~1.0の範囲である。
【0092】
質量比率((B)/(A))が、0.11未満の場合には、得られる皮膜表面の架橋性微粒子(B)の粒子数が少なくなるため、得られる皮膜の表面は平滑になりやすくなる。一方で、質量比率((B)/(A1+A2))が、1.43を超える場合には、架橋性微粒子(B)の粒子数が多くなるためで、得られる皮膜の表面は粗くなりやすくなる。
【0093】
ここで、皮膜の表面が平滑であるほど、皮膜表面と水滴との接触面積は小さくなるため、皮膜表面で水滴を保持しにくくなり、その結果、皮膜の親水性は低いものとなる。一方で、皮膜の表面が粗いほど、皮膜表面から水滴を除去しにくくなり、その結果、水滴除去性が低くなる。
【0094】
したがって、質量比率((B)/(A))が、0.11未満の場合には、表面が平滑な皮膜が形成されることから、皮膜の親水性が低くなる。一方で、質量比率((B)/(A))が、1.43を超える場合には、表面が粗い皮膜が形成されることから、皮膜の水滴除去性が低くなる。
【0095】
[質量比率((C)/((A)+(B)))]
水性樹脂分散体(A)における樹脂固形分および架橋性微粒子(B)の合計質量に対する、ポリエーテルアミン(C)の質量比率((C)/((A)+(B)))は、0.1~0.38であり、好ましくは、0.15~0.25の範囲である。
【0096】
質量比率((C)/((A)+(B)))が、0.1未満の場合には、水性樹脂分散体(A)における樹脂固形分と架橋性微粒子(B)との分散性を向上させることが困難となる。一方で、質量比率((C)/((A)+(B)))が、0.38を超える場合には皮膜中のポリエーテルアミン(C)固形分比率が高まり、水性樹脂分散体(A)における樹脂固形分と架橋性微粒子(B)の機能が十分に発現されにくくなる。
【0097】
[質量比率((D)/((A)+(B)+(C)))]
本発明の親水化処理剤が親水性化合物(D)を含む場合には、水性樹脂分散体(A)の樹脂固形分、架橋性微粒子(B)、および前記ポリエーテルアミン(C)の合計質量に対する、親水性化合物(D)の質量比率((D)/((A)+(B)+(C)))は、0.14以下であることが好ましい。
【0098】
質量比率((D)/((A)+(B)+(C)))が0.14を超える場合には、水滴除去性が優れた皮膜を形成することが困難になる。
【0099】
[質量比率((E)/((A)+(B)+(C)))]
本発明の親水化処理剤が架橋剤(E)を含む場合には、水性樹脂分散体(A)の樹脂固形分、架橋性微粒子(B))、および前記ポリエーテルアミン(C)の合計質量に対する、架橋剤(E)の質量比率((E)/((A)+(B)+(C)))は、0.10以下であることが好ましい。
【0100】
質量比率((E)/((A)+(B)+(C)))が0.10を超える場合には、水滴除去性が優れた皮膜を形成することが困難になる。
【0101】
<親水皮膜の形成方法>
本発明の親水皮膜の形成方法は、上記の本発明の親水化処理剤を、基材の表面に接触させて親水皮膜を形成する親水皮膜形成工程を、必須の工程として含む。本発明に係る親水皮膜形成方法を用いることによって、親水性および水滴除去性に優れるとともに、優れた水滴除去性を維持することのできる皮膜を形成することができる。なお、上記の効果は上記した本発明の特定の親水化処理剤を用いることによって奏する。このため、親水皮膜の形成方法としては一般的な方法を採用可能である。
【0102】
[親水皮膜形成工程]
本発明の親水皮膜の形成方法において、必須の工程である親水皮膜形成工程は、任意に表面処理が実施された基材の表面に、上記した本発明の親水化処理剤を接触させて、親水皮膜を形成する工程である。
【0103】
本発明の親水化処理剤を塗布する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ロールコート法、バーコート法、浸漬法、スプレー法、刷毛塗り法等が挙げられる。
【0104】
親水化処理剤を塗布後、例えば120~300℃の温度で3秒~60分間の乾燥を実施し、焼き付けすることにより、親水皮膜を得ることができる。焼付け温度が120℃未満であると、充分な造膜性が得られず、水への浸漬後に皮膜が溶解するおそれがある。300℃を超えると、樹脂が分解し、親水皮膜の親水性が損なわれるおそれがある。
【0105】
(基材)
本発明の親水皮膜の形成方法において、親水化処理剤が適用できる基材の種類は、特に限定されるものではなく、様々な基材の表面に皮膜を形成することができる。例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、アクリル-スチレン共重合樹脂、セルロース樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂等の樹脂製の基材や、セラミックスやガラス、鉄、シリコン、銅、亜鉛、アルミニウム等の金属、さらには、前記した金属を含む合金等が挙げられる。
【0106】
例えば、親水性と水滴除去性との両者が要求され、また、セルフクリーニング機能が望まれる用途として、熱交換器用フィン材が挙げられるが、熱交換器用フィン材の基材となるアルミニウムに対しても、本発明の親水化処理剤は、好適に用いることができる。
【0107】
また、基材の形状としても、特に限定されるもではなく、例えば、平面、曲面、あるいは、多数の面が組み合わさった三次元的構造であってもよい。
【0108】
[その他の工程]
本発明の親水皮膜の形成方法は、親水皮膜形成工程を必須の工程として含むが、親水皮膜形成工程以外に、その他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、例えば、基材の表面を脱脂処理し、その後に水洗処理を行う脱脂処理工程、基材の表面に対して化成処理剤を接触させて化成皮膜を形成する化成皮膜形成工程、化成皮膜形成工程により形成した化成皮膜に、有機樹脂によるプライマー処理を実施して、耐食性表面を形成する耐食性表面処理工程等が挙げられる。
【0109】
あるいは、基材に、易接着処理等の前処理を施してもよい。易接着処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理、シラン系化合物や樹脂によるプライマー処理等が挙げられる。これにより親水皮膜の基材への密着性が向上し、耐久性を向上させることができる。
【0110】
<親水皮膜>
本発明の親水皮膜の形成方法により形成される親水皮膜は、各種の基材、特にアルミニウムおよびその合金表面上に形成される親水皮膜であり、親水性および水滴除去性に優れるとともに、優れた水滴除去性を維持することのできる皮膜である。
【0111】
親水皮膜の膜厚は、好ましくは0.05g/m以上であり、より好ましくは0.1~2g/mである。皮膜の膜厚が0.05g/m未満であると、皮膜の親水持続性、加工性、基材への密着性および耐食性が不十分となるおそれがある。
【0112】
なお、本発明は上記に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例
【0113】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0114】
<材料>
実施例および比較例で用いた材料を、以下に示す。
[ラジカル重合性スルホン酸モノマー(A2-2)]
・HAPS:3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸のナトリウム塩
・AMPS:2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸
・SEMA:スルホエチルメタクリレートのナトリウム塩
【0115】
[カルボン酸基およびスルホン酸基を有しないラジカル重合性モノマー(A2-3)]
・下記式(II)で示され、式中、R10およびR11は水素であり、p=1である化合物
・下記式(II)で示され、式中、R10およびR11はメチル基であり、p=113である化合物
【化9】
・NVF:N-ビニルホルムアミド
・AAm:アクリルアミド
・DMAA:N,N-ジメチルアクリルアミド
・GMA:グリシジルメタクリレート
【0116】
[親水性化合物(A3)]
・PEG:ポリエチレングリコール(重量平均分子量:20000)
・PEO:ポリエチレンオキシド(重量平均分子量:500000)
・EO-PVA:ポリオキシエチレン変性ポリビニルアルコール(重量平均分子量:20000)
【0117】
[ポリエーテルアミン(C)]
下記式(V)で示す、HUNTSMAN社製、商品名:ジェファーミンEDシリーズ
・ED-600 :Y=9.0、 X+Z=3.6(重量平均分子量:600)
・ED-900 :Y=12.5、X+Z=6.0(重量平均分子量:900)
・ED-2003:Y=39、 X+Z=6.0(重量平均分子量:2003)
【化10】
【0118】
下記式(VII)で示す、HUNTSMAN社製、商品名:ジェファーミンMシリーズ
・M-1000:プロピレンオキサイド由来のモル数/エチレンオキサイド由来のモル数=3/19(重量平均分子量:1000)
・M-2070:プロピレンオキサイド由来のモル数/エチレンオキサイド由来のモル数=10/31(重量平均分子量:2000)
【化11】
(式中、Rは、水素またはメチル基である。)
【0119】
下記式(VI)で示す、広栄化学工業社製、商品名:PEGPAシリーズ
・PEGPA-400 :重量平均分子量:400
・PEGPA-1000:重量平均分子量:1000
・PEGPA-2000:重量平均分子量:2000
【化12】
【0120】
[親水性化合物(D)]
・EO-PVA:エチレンオキサイド変性PVA(重量平均分子量:20000)
・PVA:ポリビニルアルコール(重量平均分子量:20000、けん化度98.5)
・PAA:ポリアクリル酸(重量平均分子量:20000、酸価780mgKOH/g)
・CMC:カルボキシメチルセルロース(重量平均分子量:20000)
・PVP:ポリビニルピロリドン(重量平均分子量:20000)
・PEG:ポリエチレングリコール(重量平均分子量:20000)
・NMAM:N-メチロールアクリルアミド
・PNVF:ポリ-N-ビニルホルムアミド(重量平均分子量:100000)
・アクリル酸共重合体:アクリル酸/N-ビニルホルムアミド共重合体のナトリウム塩(重量平均分子量:700000)
・スルホン酸共重合体:2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/アクリル酸
【0121】
[架橋剤(E)]
・メラミン樹脂:日本サイテックインダストリーズ社製の「サイメル370N」
・シランカップリング剤:信越化学社製の「KBM-403」
【0122】
<架橋性微粒子(B)の調製>
メトキシプロパノール200質量部に、N-メチロールアクリルアミド70質量部およびメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(繰り返し単位数:90のポリエチレン鎖)30質量部を溶解させたモノマー溶液と、メトキシプロパノール50質量部に、「ACVA」(大塚化学社製、アゾ系開始剤)1質量部を溶解させた溶液とを、それぞれ別口から、窒素雰囲気下105℃で、メトキシプロパノール150質量部に3時間かけて滴下し、さらに1時間加熱撹拌して重合させることにより、架橋性微粒子(B)を得た。得られた分散液において、架橋性微粒子の平均粒子径は250nmであった。
<実施例1>
[水性樹脂分散体(A)の調製]
撹拌機、冷却器、温度制御器および滴下漏斗(2本)を備えたフラスコに、ペレット状のエチレン比率25mol%のエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)(A1)と、これに対し、9倍質量%の水とメタノールの混合溶液(質量比で水:メタノール=1:1)とを仕込み、75℃に加熱して1時間以上強撹拌することでEVOH(A1)溶解液を得た。
【0123】
次いで、ラジカル重合体(A2)のモノマーとしてのイタコン酸とアクリル酸とをメタノール溶液としたものと、過硫酸アンモニウム0.6質量%の水溶液とを、それぞれ別の滴下漏斗に入れ、窒素雰囲気下でEVOH(A1)の溶液中に滴下した。このとき、液温は75℃に保ち、30分間にわたって滴下し、滴下終了後、同温度で2時間撹拌を続けた。
【0124】
次いで、カルボン酸当量のアンモニア水(アンモニア水中の水と同量のメタノールで希釈したもの)を約20分間かけて滴下し、中和した。中和後、脱溶媒のための冷却管を取り付け、水を補給しながら加熱してメタノールを溜去して媒体を水に置換した。その後、冷却して濾過することで、水性樹脂分散体(A)を得た。
【0125】
なお、水性樹脂分散体(A)の調製においては、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)、ならびにラジカル重合体(A2)のモノマーとなるイタコン酸およびアクリル酸の固形分質量比率(単位:質量部)が、表1に示される割合となるようにした。
【0126】
[親水化処理剤の調製]
上記で得られた水性樹脂分散体(A)、架橋性微粒子(B)、ポリエーテルアミン(C)としてジェファーミンED-600、および架橋剤(E)としてメラミン樹脂(日本サイテックインダストリーズ社製、商品名:サイメル370N)を、最終的に得られる親水化処理剤の固形分中の固形分質量比率(単位:質量部)が表1に示される割合となるように混合して、親水化処理剤を得た。すなわち、実施例1で得られた親水化処理剤における固形分量は、合計で117質量部となる。
【0127】
[試験板の作製]
(脱脂処理工程)
150mm×70mm×0.8mmの1000系アルミニウム材を準備し、日本ペイント株式会社製、サーフクリーナーEC370の1%溶液を用いて、70℃で5秒間、脱脂処理を実施した。
【0128】
(化成皮膜形成工程)
続いて、日本ペイント株式会社製、アルサーフ407/47の10%溶液を用いて、40℃5秒間リン酸クロメート処理を実施して、化成皮膜を形成した。
【0129】
(親水皮膜形成工程)
次いで、上記で調製した親水化処理剤を固形分6%に調製し、上記で得られた化成皮膜を有するアルミニウム材を浸漬させることで塗布し、160℃で10分間加熱して乾燥させて、試験板を作製した。親水化処理剤の塗布量は、乾燥後の親水皮膜が1g/mとなるように調整した。
【0130】
【表1】
【0131】
<実施例2~実施例27>
[水性樹脂分散体(A)の調製]
実施例1と同様の手順で、水性樹脂分散体(A)における固形分中の固形分質量比率(単位:質量部)が、表1~表3に示す割合となるよう水性樹脂分散体(A)を調製した。
【0132】
[親水化処理剤の調製]
得られた水性樹脂分散体(A)、架橋性微粒子(B)、および表1~表3に示す、ポリエーテルアミン(C)および架橋剤(E)を用いて、親水化処理剤の固形分中の固形分質量比率(単位:質量部)が表1~表3に示される割合となるように、親水化処理剤を調製した。
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
<実施例28~実施例29>
[水性樹脂分散体(A)の調製]
撹拌機、冷却器、温度制御器および滴下漏斗(2本)を備えたフラスコに、ペレット状のエチレン比率25mol%のエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)(A1)と、これに対し、9倍質量%の水とメタノールの混合溶液(質量比で水:メタノール=1:1)とを仕込み、75℃に加熱して1時間以上強撹拌することでEVOH(A1)溶解液を得た。
【0136】
続いて、得られたEVOH(A1)溶解液に、親水性化合物(A3)を添加して、75℃で1時間以上強攪拌することで、EVOH(A1)と親水性化合物(A3)とが溶解した溶解液を得た。
【0137】
続いて、実施例1と同様の手順で、水性樹脂分散体(A)における固形分中の固形分質量比率(単位:質量部)が表4に示す割合となるように、ラジカル共重合を実施することで、水性樹脂分散体(A)を調製した。
【0138】
[親水化処理剤の調製]
得られた水性樹脂分散体(A)、架橋性微粒子(B)、および表4に示す、ポリエーテルアミン(C)および架橋剤(E)を用いて、親水化処理剤の固形分中の固形分質量比率(単位:質量部)が表4に示される割合となるように、親水化処理剤を調製した。
【0139】
【表4】
【0140】
<実施例30>
[水性樹脂分散体(A)の調製]
撹拌機、冷却器、温度制御器および滴下漏斗(2本)を備えたフラスコに、ペレット状のエチレン比率25mol%のエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)(A1)と、親水性化合物(A3)とを同時に仕込み、これに対し、9倍質量%の水とメタノールの混合溶液(質量比で水:メタノール=1:1)を加えて、75℃に加熱して1時間以上強撹拌することで、EVOH(A1)と親水性化合物(A3)とが溶解した溶解液を得た。
【0141】
続いて、実施例1と同様の手順で、水性樹脂分散体(A)における固形分中の固形分質量比率(単位:質量部)が表4に示す割合となるように、ラジカル共重合を実施することで、水性樹脂分散体(A)を調製した。
【0142】
[親水化処理剤の調製]
得られた水性樹脂分散体(A)、架橋性微粒子(B)、および表4に示す、ポリエーテルアミン(C)および架橋剤(E)を用いて、親水化処理剤の固形分中の固形分質量比率(単位:質量部)が表4に示される割合となるように、親水化処理剤を調製した。
【0143】
<実施例31~実施例40>
[水性樹脂分散体(A)の調製]
実施例1と同様の手順で、水性樹脂分散体(A)における固形分中の固形分質量比率(単位:質量部)が、表5に示す割合となるよう水性樹脂分散体(A)を調製した。
【0144】
[親水化処理剤の調製]
得られた水性樹脂分散体(A)、架橋性微粒子(B)、および表5に示す、ポリエーテルアミン(C)、親水性化合物(D)、および架橋剤(E)を用いて、親水化処理剤の固形分中の固形分質量比率(単位:質量部)が表5に示される割合となるように、親水化処理剤を調製した。
【0145】
【表5】
【0146】
<実施例41~実施例44、比較例1~6>
[水性樹脂分散体(A)の調製]
実施例1と同様の手順で、水性樹脂分散体(A)における固形分中の固形分質量比率(単位:質量部)が、表6および表7に示す割合となるよう水性樹脂分散体(A)を調製した。
【0147】
[親水化処理剤の調製]
得られた水性樹脂分散体(A)、架橋性微粒子(B)、および表6および表7に示す、ポリエーテルアミン(C)および架橋剤(E)を用いて、親水化処理剤の固形分中の固形分質量比率(単位:質量部)が表6および表7に示される割合となるように、親水化処理剤を調製した。
【0148】
【表6】
【0149】
【表7】
【0150】
<評価>
得られた各試験板について、以下の評価を実施した。
【0151】
[初期親水性]
試験板に対する、水滴の接触角を、それぞれ評価した。水接触角は、自動接触角計(型番:DSA20E、KRUSS社製)を用いて測定した。測定した接触角は、室温環境下、滴下後30秒後における、試験板と水滴との接触角である。評価結果を表1~5に示す。なお、接触角が30°以下であれば、初期親水性が良好であると認められる。以下に、評価基準を示す。
(評価基準)
4:20°以下
3:20°超、30°以下
2:30°超、50°以下
1:50°超
【0152】
[親水持続性]
試験板を、純水中に240時間浸漬し、引き上げて、乾燥させた。続いて、乾燥させた試験板と水滴との水接触角を測定した。接触角の測定は、自動接触角計(型番:DSA20E、KRUSS社製)を用いて測定した。測定した接触角は、室温環境下、滴下後30秒後における、試験板と水滴との接触角である。評価結果を表1~5に示す。水接触角が、40°以下であれば、親水持続性が良好であると認められる。
(評価基準)
4:30°以下
3:30°超、40°以下
2:40°超、50°以下
1:50°超
【0153】
[WET密着性]
試験板に、純水を霧吹きし、500gの加重をかけて、皮膜を擦った。1往復を1回とし、最大10回擦って、試験板の素地が露出するまでの回数を評価した。評価結果を表1~5に示す。試験板の素地が露出するまでの回数が7回以上であれば、WET密着性が良好であると認められる。
(評価基準)
4:10回の摺動回数で親水皮膜が剥離しない
3:7回以上、10回未満の摺動回数で親水皮膜が剥離する
2:3回以上、7回未満の摺動回数で親水皮膜が剥離する
1:3回未満の摺動回数で親水皮膜が剥離する
【0154】
[水滴除去性:転落角]
水滴除去性評価として、形成した皮膜に対する水滴の転落角を評価した。具体的には、皮膜が形成された試験板に対して、自動接触角計(型番:DMO-701、協和界面科学社製)を用いて、室温環境下、10μLの水滴を滴下し、滴下1秒後から、試験板を1°/秒の速度で徐々に傾け、水滴が転落下する角度(水転落角)を測定した。以下に、評価基準を示すとともに、評価結果を表1~5に示す。
(評価基準)
4:15°以下
3:15°超、30°以下
2:30°超、60°以下
1:60°超
【0155】
[水滴除去性:水切れ性]
上記の転落角を測定した後に、滑落した水滴の通る跡を目視にて確認し、以下の評価基準にて、水の残り方を評価した。評価結果を表1~5に示す。
(評価基準)
○:水跡を残さず流れ落ちる
×:水跡を残しながら流れ落ちる
【0156】
[水滴除去持続性:転落角]
親水滑水性皮膜が形成された試験板を、純水中に100時間浸漬し、引き上げて乾燥させた。続いて、乾燥させた試験板について、上記同様の方法により、水滴の転落角を測定した。評価基準は上記同様とし、評価結果を表1~5に示す。
【0157】
[水滴除去性:水切れ性]
上記の水滴除去持続性に関する転落角を測定した後に、評価基準を上記同様として、水切れ性を評価した。評価結果を表1~5に示す。