(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】手術マニピュレータの入力装置
(51)【国際特許分類】
A61B 34/30 20160101AFI20230406BHJP
B25J 3/00 20060101ALI20230406BHJP
B25J 13/00 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
A61B34/30
B25J3/00 Z
B25J13/00 Z
(21)【出願番号】P 2019146233
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514063179
【氏名又は名称】株式会社メディカロイド
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾形 麻里子
(72)【発明者】
【氏名】田中 英紀
(72)【発明者】
【氏名】栗原 剛史
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-518526(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0251110(US,A1)
【文献】国際公開第2014/156250(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/070734(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/00 ― 34/37
B25J 1/00 ― 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節を有するアーム部と、
追従回動軸線の周りに回動自在に基端部が前記アーム部の先端部に連結された追従リンクと、前記追従回動軸線に直交する第1ジンバル回動軸線の周りに回動自在に基端部が前記追従リンクの先端部に連結された第1ジンバルリンクと、前記第1ジンバル回動軸線に直交し且つ前記第1ジンバルリンクが第1基準回転位置にある場合に前記追従回動軸線と一致する第2ジンバル回動軸線の周りに回動自在に基端部が前記第1ジンバルリンクの先端部に連結された第2ジンバルリンクと、前記第2ジンバル回動軸線に直交し且つ前記第2ジンバルリンクが第2基準回転位置にある場合に前記第1ジンバル回動軸線と直交する第3ジンバル回動軸線の周りに回動自在に基端部が前記第2ジンバルリンクの先端部に連結された第3ジンバルリンクである操作部と、を備えるリスト部と、
前記追従リンクの基端部を前記追従回動軸線の周りに回動させるモータと、
前記モータの動作を制御することによって、前記第2ジンバルリンクの回転位置の前記第2基準回転位置に対する回転位置偏差を前記追従リンクの回転位置偏差として、前記追従リンクの回転位置をフィードバック制御するよう構成された制御器と、を備える、手術マニピュレータの入力装置。
【請求項2】
前記制御器は、前記操作部が操作されているか否か判定し、前記操作部が操作されていると判定した場合に、前記フィードバック制御を行うよう構成されている、請求項1に記載の手術マニピュレータの入力装置。
【請求項3】
前記制御器は、前記追従リンクが所定の動作範囲内にあるか否か判定し、前記追従リンクが所定の動作範囲内にあると判定した場合に、前記フィードバック制御を行うよう構成されている、請求項1又は2に記載の手術マニピュレータの入力装置。
【請求項4】
前記制御器は、前記第2ジンバルリンクの回転速度を、前記追従リンクの回転位置のフィードバック制御における速度指令に加算するフィードフォワード制御を行うよう構成されている、請求項1乃至3のいずれかに記載の手術マニピュレータの入力装置。
【請求項5】
前記制御器は、前記追従リンクが所定の動作範囲内にあるか否か判定し、前記追従リンクが所定の動作範囲内にあると判定した場合に、前記フィードフォワード制御を行うよう構成されている、請求項4に記載の手術マニピュレータの入力装置。
【請求項6】
前記制御器は、前記フィードフォワード制御において、前記追従リンクの所定の動作範囲の限界近傍において、前記フィードバック制御における速度指令への前記第2ジンバルリンクの回転速度の加算量が、前記追従リンクが動作限界に向かうに連れて徐々に減少するように、当該第2ジンバルリンクの回転速度の加算量を調整するよう構成されている、請求項5に記載の手術マニピュレータの入力装置。
【請求項7】
前記制御器は、前記フィードフォワード制御において、前記フィードバック制御における速度指令への前記第2ジンバルリンクの回転速度の加算量が、前記第1ジンバルリンクの回転位置の前記第1基準回転位置に対する回転位置偏差の絶対値が0度から90度に近づくに連れてゼロに向かって減少するように当該第2ジンバルリンクの回転速度の加算量を調整するよう構成されている、請求項5又は6に記載の手術マニピュレータの入力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術マニピュレータの入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
手術マニピュレータの入力装置として、例えば、特許文献1に記載された、マスター装置が知られている。このマスター装置では、3軸のアームの先端部にリストが回動自在に設けられている。リストは自由度3のジンバルを構成する3軸(関節)のリンク連結体に形成されている。この3軸のリンク連結体の先端部に操作者が操作するハンドルが形成されている。そして、プロセッサが、リストの各軸(関節)の回転位置に基づいて、アームの先端部に対してリストを回動させることによって、リストの各軸を直角に近い角度に制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国US2002/0120363A1特許公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記マスター装置では、上記制御は、リストのリンク連結体が特異点(singularity)に近づくことを防止するために行われる。この制御では、リストの3つの軸の公称の(好ましい)角度位置に対する現在の角度位置の差分の2乗の総和の関数である費用を最小化するように、リストの3つの軸の角度位置がそれぞれ制御される。
【0005】
ところで、純粋の3軸のジンバルでは、各軸のジンバルを構成する支持部材は、相互に干渉しないように設計される。しかし、上記マスター装置のリストでは、第1リンクが第2リンクの近傍まで回動すると、第1リンクが第2リンクと干渉する(特許文献1の
図1B参照)。これは、実用的なリストを実現するための設計上の制約に起因する。また、干渉の程度は、リストの設計に依存する。
【0006】
一方、上記マスター装置では、リストのリンク連結体が特異点に近づくことを防止することを目的として、リストの3つの軸の公称の(好ましい)角度位置に対する現在の角度位置の差分の2乗の総和の関数である費用を最小化するように、リストの3つの軸の角度位置がそれぞれ制御される。従って、上記マスター装置では、リストのジンバルを構成するリンク同士の干渉を防止できるという保証がない。
【0007】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、リスト部のジンバルを構成するリンク同士の干渉を防止できる手術マニピュレータの入力装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のある形態(aspect)に係る手術マニピュレータの入力装置は、関節を有するアーム部と、追従回動軸線の周りに回動自在に基端部が前記アーム部の先端部に連結された追従リンクと、前記追従回動軸線に直交する第1ジンバル回動軸線の周りに回動自在に基端部が前記追従リンクの先端部に連結された第1ジンバルリンクと、前記第1ジンバル回動軸線に直交し且つ前記第1ジンバルリンクが第1基準回転位置にある場合に前記追従回動軸線と一致する第2ジンバル回動軸線の周りに回動自在に基端部が前記第1ジンバルリンクの先端部に連結された第2ジンバルリンクと、前記第2ジンバル回動軸線に直交し且つ前記第2ジンバルリンクが第2基準回転位置にある場合に前記第1ジンバル回動軸線と直交する第3ジンバル回動軸線の周りに回動自在に基端部が前記第2ジンバルリンクの先端部に連結された第3ジンバルリンクである操作部と、を備えるリスト部と、前記追従リンクの基端部を前記追従回動軸線の周りに回動させるモータと、前記モータの動作を制御することによって、前記第2ジンバルリンクの回転位置の前記第2基準回転位置に対する回転位置偏差を前記追従リンクの回転位置偏差として、前記追従リンクの回転位置をフィードバック制御するよう構成された制御器と、を備える。
【0009】
ここで「回転位置」とは回転角を意味する。以下では、「位置」の概念を用いた方が理解し易い場合には「回転位置」を用い、「角度」の概念を用いた方が理解し易い場合には「回転角」を用いる。
【0010】
この構成によれば、制御器が、モータの動作を制御することによって、第2ジンバルリンクの回転位置の第2基準回転位置に対する回転位置偏差を追従リンクの回転位置偏差として、追従リンクの回転位置をフィードバック制御するので、追従リンクは、第2ジンバルリンクが第2基準回転位置に位置するように追従回動軸線の周りに回動する。ここで、互いに直交する第1ジンバル回動軸線及び第2ジンバル回動軸線を含む平面A上に第1ジンバルリンクが延在し、且つ、互いに直交する第2ジンバル回動軸線及び第3ジンバル回動軸線を含む平面B上に第2ジンバルリンクが延在すると仮定する。また、第2ジンバルリンクが第1ジンバルリンクの近傍まで回動すると、第2ジンバルリンクが第1ジンバルリンクと干渉すると仮定する。この場合、第2ジンバルリンクが第2基準回転位置に位置すると、第2ジンバルリンクが延在する平面Bが、第1ジンバルリンクが延在する平面Aに直交する。つまり、第2ジンバル回動軸線の延在方向からみて、第2ジンバルリンクと第1ジンバルリンクとの挟角が直角になる。従って、第2ジンバルリンクが第1ジンバルリンクに向かって回動しても、追従リンクの回動によって当該挟角が直角になるように第1ジンバルリンクが逃げるので、第2ジンバルリンクが第1ジンバルリンクと干渉することを防止することができる。
【0011】
前記制御器は、前記操作部が操作されているか否か判定し、前記操作部が操作されていると判定した場合に、前記フィードバック制御を行うよう構成されていてもよい。
【0012】
上述のように、操作部の操作により第2ジンバルリンクが回動すると、第2ジンバルリンクが第2基準回転位置に位置するように追従リンクが回動するのであるが、操作を停止した場合に、微小な第2ジンバルリンクの回転位置偏差が残っていると、追従リンクが回動し続けるため、操作者が違和感を覚える。
【0013】
この構成によれば、操作部が操作されている場合に追従リンクの回転位置のフィードバック制御が行われ、操作が停止されると、追従リンクの回転位置のフィードバック制御が停止されて追従リンクが停止するので、操作者が違和感を覚えるのを防止することができる。
【0014】
前記制御器は、前記追従リンクが所定の動作範囲内にあるか否か判定し、前記追従リンクが所定の動作範囲内にあると判定した場合に、前記フィードバック制御を行うよう構成されていてもよい。
【0015】
この構成によれば、追従リンクを所定の動作範囲内で追従動作させることができる。
【0016】
前記制御器は、前記第2ジンバルリンクの回転速度を、前記追従リンクの回転位置のフィードバック制御における速度指令に加算するフィードフォワード制御を行うよう構成されていてもよい。ここで、「回転速度」は「回転角速度」を意味する。以下では、「速度」の概念を用いた方が理解し易い場合には「回転速度」を用い、「角度」の概念を用いた方が理解し易い場合には「回転角速度」を用いる。
【0017】
この構成によれば、前記第2ジンバルリンクの回転速度が、追従リンクの回転位置のフィードバック制御における速度指令に加算されるので、操作部の操作により第2ジンバルリンクが速い速度で動作した場合にも、追従リンクを素早く追従させて、第2ジンバルリンクと第1ジンバルリンクとの干渉を防止することができる。
【0018】
前記制御器は、前記追従リンクが所定の動作範囲内にあるか否か判定し、前記追従リンクが所定の動作範囲内にあると判定した場合に、前記フィードフォワード制御を行うよう構成されていてもよい。
【0019】
この構成によれば、追従リンクを所定の動作範囲内で追従動作させることができる。
【0020】
前記制御器は、前記フィードフォワード制御において、前記追従リンクの所定の動作範囲の限界近傍において、前記フィードバック制御における速度指令への前記第2ジンバルリンクの回転速度の加算量が、前記追従リンクが動作限界に向かうに連れて徐々に減少するように、当該第2ジンバルリンクの回転速度の加算量を調整するよう構成されていてもよい。
【0021】
この構成によれば、第2ジンバルリンクが動作範囲の外から内に移動する際に、フィードフォワード制御による第2ジンバルリンクの回転速度の加算量が急激に変化して、操作者が操作に違和感を覚えることを防止できる。
【0022】
前記制御器は、前記フィードフォワード制御において、前記フィードバック制御における速度指令への前記第2ジンバルリンクの回転速度の加算量が、前記第1ジンバルリンクの回転位置の前記第1基準回転位置に対する回転位置偏差の絶対値が0度から90度に近づくに連れてゼロに向かって減少するように当該第2ジンバルリンクの回転速度の加算量を調整するよう構成されていてもよい。
【0023】
操作部の操作により第1基準回転位置からの第1ジンバルリンクの回転角が大きくなると、第2ジンバルリンクの第2基準回転位置からの回転に伴う操作部の追従回動軸線周りの回転量が大きくなり、その際に操作部の当該追従回動軸線周りの回転速度が速いと、操作者が操作に違和感を覚える。
【0024】
この構成によれば、操作部の操作により第1基準回転位置からの第1ジンバルリンクの回転角が大きくなると、操作部の追従回動軸線周りの回転速度が抑制されるので、操作者が操作に違和感を覚えることを抑制できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、リスト部のジンバルを構成するリンク同士の干渉を防止できる手術マニピュレータの入力装置を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る手術マニピュレータの入力装置を含むロボット支援手術システムの一例の概要を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1のロボット支援手術システムが備えるハンドコントロールの一例の外観の概要を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す入力装置の概要を模式的に示す側面図である。
【
図4】
図4は、
図3のマスターアームのリスト部の外観を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、
図4のリスト部の追従リンク及び第1ジンバルリンクの縦断面を示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図4のリスト部の第2ジンバルリンク及び操作部の縦断面を示す断面図である。
【
図7】
図7は、入力装置及び手術マニピュレータの制御系統の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図8】
図8は、
図7の入力装置制御器のジンバルリンク干渉防止制御に関する構成の一例を示す機能ブロック図である。
【
図9】
図9は、
図8の位置制御部の構成を示すブロック図である。
【
図11】
図11は、ジンバルリンク干渉防止制御を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、追従リンクの回転角と位置フィードバック制御ループへの速度フィードフォワード制御の入力の連続化係数との関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、第1ジンバルリンクの回転角と位置フィードバック制御ループへの速度フィードフォワード制御の入力のFF調整係数との関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は、第1ジンバルリンクが第1基準回転位置から+45°回転した場合のリスト部の状態を示す斜視図である。
【
図15】
図15は、第1ジンバルリンクが第1基準回転位置から+90°回転した場合のリスト部の状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、以下の図は、本発明を説明するための図であるので、それらの図において本発明に無関係な要素が省略される場合、誇張等のために寸法が正確でない場合、複数の図において、互いに対応する要素が一致しない場合等がある。
【0028】
また、以下では、「回転位置」は「回転角」を意味し、「位置」の概念を用いた方が理解し易い場合には「回転位置」を用い、「角度」の概念を用いた方が理解し易い場合には「回転角」を用いる。また、「回転速度」は「回転角速度」を意味し、「速度」の概念を用いた方が理解し易い場合には「回転速度」を用い、「角度」の概念を用いた方が理解し易い場合には「回転角速度」を用いる。
【0029】
なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0030】
(実施形態)
[構成]
{ハードウェアの構成}
図1は、本発明の実施形態1に係る手術マニピュレータの入力装置を含むロボット支援手術システムの一例の概要を示す模式図である。
図2は、
図1のロボット支援手術システムが備えるハンドコントロールの一例の外観の概要を示す模式図である。以下では、
図1及び
図2の上下方向を絶対空間における上下方向として説明する。
【0031】
図1及び
図2を参照すると、ロボット支援手術(RAS:Robotically-Assisted Surgical)システム200は、ポジショナ201と、手術マニピュレータ202と、ハンドコントロール100と、を備える。
【0032】
<ロボット支援手術システム200>
図1を参照すると、例えば、手術室に手術台203が配置され、手術台203の上に患者204が横たえられる。手術台203の近傍にポジショナ201が配置される。ポジショナ201は、例えば多関節ロボットで構成される。ポジショナ201の先端部のベース201aに多関節ロボットで構成される手術マニピュレータ202が取り付けられている。手術マニピュレータ202は、例えば、基部と、アーム部401と、エンドエフェクタ部とを有し、基部がベース201aに固定され、基部とリンク404、リンク404同士、リンク404とエンドエフェクタ部とが複数の関節によって連結されている。基部には、複数(ここでは、例えば、4本)のアーム部401が連結されている。複数のアーム部401の先端には、エンドエフェクタ部として、それぞれ、手術ツール402が取り付けられる。
【0033】
ポジショナ201は、手術マニピュレータ202を、当該手術マニピュレータ202が患者204に手術を施すのに適した位置に搬送する。
【0034】
<ハンドコントロール100>
図2には、ハンドコントロール100の概要が示されている。なお、
図2は、ハンドコントロール100の概念を判り易く示す図であり、そのため、
図2には、特に入力装置2の細部の構造が、後述する
図3~
図6に示される具体的な構造と異なって示されている。
【0035】
図2を参照すると、ハンドコントロール100は、操作者(手術する医師)が手術マニピュレータ202の動作を制御して手術を行うための装置である。ハンドコントロール100は、ポジショナ201及び手術マニピュレータ202と、有線又は無線により、電気的に接続されている。ハンドコントロール100は、例えば、手術台の近傍又は別室に配置される。
【0036】
ハンドコントロール100は、ここでは、本体1と、入力装置2と、複数のペダル4と、表示部5と、ビュアー(不図示)と、を備える。
【0037】
本体1は、側面から見て略L字状に形成されており、本体1の、当該本体1に向かって右側及び左側の部分に、それぞれ、右入力装置2A及び左入力装置2B(手術マニピュレータの入力装置)が設けられている。右入力装置2A及び左入力装置2Bは、操作者が、それぞれ、右手及び左手で操作するためのものである。右入力装置2A及び左入力装置2Bは、それぞれ、スレーブロボットとしての手術マニピュレータ202の各アーム部401に対するマスター入力装置として機能する。
【0038】
本体1の上部には、前方に突出するようにU字状の支持部材3が設けられている。支持部材3の前端部の中央部に表示部5が設けられている。表示部5は、例えば、タッチパネルで構成されていて、操作者がハンドコントロール100に各種の設定を行うための情報を表示又は入力するための画面として機能する。ビュアー(不図示)は、ハンドコントロール100の上部に設けられるが、ビュアーの構成及び機能は良く知られているので、
図2では、入力装置2を見易くするために、図示を省略している。ビュアーには、手術マニピュレータ202のアーム部401の先端にエンドエフェクタ部として取り付けられた内視鏡(手術ツール402)によって撮像された画像が表示される。
【0039】
本体1の下部には、前方に突出するように複数(ここでは4本)のペダル4が設けられている。複数のペダル4は、右入力装置2A及び左入力装置2Bと手術マニピュレータ202の各アームとの接続の切り替え、表示部5に表示される画像のズーム等を行うものである。
【0040】
操作者は、例えば、ハンドコントロール100の前に配置された椅子に腰かけた状態で、ビュアーに表示される患者204の体内の画像を見ながら、右入力装置2A又は左入力装置2Bを右又は左の手で操作して手術を行う。
【0041】
<手術マニピュレータ202の入力装置2>
図3は、
図2に示す入力装置2の概要を模式的に示す側面図である。
図3には、入力装置2の構成が簡略化されて示されている。入力装置2の具体的な構造例は、
図4~
図6を参照されたい。
図3には、右入力装置2Aが示されている。左入力装置2Bは、右入力装置2Aの左右方向の構造を逆にしただけである。従って、左入力装置2Bの説明を省略する。以下では、便宜上、
図3の上下方向を及び左右方向を、それぞれ、右入力装置2Aの上下方向及び前後方向とする。右入力装置2Aは、初期状態において、
図3に示す基準姿勢を取る。
【0042】
図3を参照すると、右入力装置2Aは、側面視において、エルボー状(L字状)の基準姿勢を取る。以下、右入力装置2Aの基準姿勢を単に「基準姿勢」という場合がある。右入力装置2Aは、マスターアーム10を備える。マスターアーム0は、アーム部11とリスト部12とを備える。
【0043】
{アーム部11}
アーム部11は、例えば、基体21と、第1リンク22と、第2リンク23と、第3リンク24とを備える。基体21はハンドコントロール100の本体1に固定されている。基体21の上下方向における一方の端部(ここでは下端部)に、第1リンク22の一方の端部(ここでは上端部)が、第1関節JT1を介して、上下方向に延びる第1回動軸線A1の周りに回動自在に連結されている。第1リンク22の他方の端部(ここでは下端部)に、第2リンク23の一方の端部(ここでは上端部)が、第2関節JT2を介して、第1回動軸線A1に直交し且つ左右方向に延びる第2回動軸線A2の周りに回動自在に連結されている。第2リンク23の他方の端部(ここでは下端部)に、第3リンク24の一方の端部(基準姿勢における後端部)が、第3関節JT3を介して、第2回動軸線A2に平行に延びる第3回動軸線A3の周りに回動自在に連結されている。また、第1リンク22の他方の端部には、揺動部材25の一方の端部が第2回動軸線A2の周りに回動自在に設けられている。揺動部材25の他方の端部には、補助リンク26の一方の端部(ここでは、上端部)が第9回動軸線A9の周りに回動自在に連結されている。第9回動軸線A9は、第2回動軸線A2に平行で且つ第2回動軸線から所定距離だけ離れて延在する。補助リンク26の他方の端部(ここでは下端部)は、第3リンクの一方の端部に第10回動軸線A10の周りに回動自在に連結されている。第10回動軸線A10は、第3回動軸線A3に平行で且つ第3回動軸線から第3リンク24の一方の端向かう方向に上記所定距離だけ離れて延在する。つまり、補助リンク26及び第2リンク23は、平行リンクを構成している。
【0044】
第3リンク24の他方の端部(基準姿勢における前端部)には、リスト部12が、第4関節JT4を介して、追従回動軸線(第4回動軸線)A4の周りに回動自在に連結されている。追従回動軸線A4は、第3回動軸線A3及び第10回動軸線A10を含む平面に直交するように延在する。
【0045】
肩部は基体21で構成され、基体21は、枠体状に形成されている。基体21には、第1モータM1(
図7参照)が下向きに設けられている。具体的には、第1モータM1は、主軸(不図示)が第1回動軸線A1と同軸になるように設けられている。第1モータM1には、第1モータM1の回転角を検知する第1回転角検知器E1(
図7参照)が設けられている。第1回転角検知器E1は、回転角を検知できるものであればよく、例えば、エンコーダ、回転計等で構成される。第1回転角検知器E1は、ここでは、第1モータM1の主軸に直結されたエンコーダで構成される。第1モータM1の主軸は、円筒状の連結部材(不図示)を用いて、第1リンク22の第1回転軸(不図示)と同軸に突き合わせ接続されている。
【0046】
アーム部11の上腕部は、第1リンク22、第2リンク23、及び補助リンク26を含む。第1リンク22は、枠体状に形成されている。第1リンク22の一方の端部(ここでは、上端部)には、第1回転軸が設けられている。上述のように、第1回転軸は、第1モータM1の主軸と同軸に接続されている。この第1回転軸及び第1モータM1によって、第1関節JT1が構成されており、これにより、第1リンク22が、基体21に対し、第1回動軸線A1の周りに自在に回動することが可能であり、第1リンク22の回動による第1モータM1の回転角を第1回転角検知器E1によって検知することが可能であり、且つ、第1モータM1によって第1回転軸R1を回転駆動することが可能である。
【0047】
第2リンクは、中空の棒状に形成されている。第2リンク23の一方の端部(上端部)には、第2回転軸(不図示)が設けられている。この第2回転軸が、軸受(不図示)を介して、第1リンク22の他方の端部(下端部)に、第2回動軸線A2の周りに回動自在に取り付けられている。この第2回転軸及び軸受によって、第2関節JT2が構成されており、これにより、第2リンク23が、第1リンク22に対し、第2回動軸線A2の周りに自在に回動することが可能である。
【0048】
第2回転軸には、従動プーリー(不図示)が設けられている。一方、第1リンク22には、主軸の中心軸が第2回動軸線A2に平行になるように、第2モータM2(
図7参照)が設けられている。第2モータM2には、第2モータM2の回転角を検知する第2回転角検知器E2(
図7参照)が設けられている。第2回転角検知器E2は、回転角を検知できるものであればよく、例えば、エンコーダ、回転計等で構成される。第2回転角検知器E2は、ここでは、第2モータM2の主軸(不図示)に直結されたエンコーダで構成される。
【0049】
第2モータM2の主軸には、駆動プーリー(不図示)が設けられている。この駆動プーリーと従動プーリー(不図示)とにベルト(不図示)が巻き掛けられている。これにより、第2リンク23の回動による第2モータM2の回転角を第2回転角検知器E2によって検知することが可能であり、且つ、第2モータM2によって第2回転軸R2を回転駆動することが可能である。
【0050】
さらに、第2リンク23の適所(ここでは中央部)と第1リンク22との間に引張コイルバネ(不図示)が設けられている。この引張コイルバネは、中心軸が第2回動軸線A2と第3回動軸線A3とに直交するように設けられている。また、この引張コイルバネは、第2リンク23が基準姿勢から回動すると、その回動方向に所定のトルクを第2回転軸に対して作用させるように設計されている。この所定のトルクは、アーム部11の第2リンク23から先の部分及びリスト部12の自重によって第2回転軸R2に発生するトルク(以下、重力トルクという場合がある)の一部を打ち消すようなトルクに設定されている。これにより、第2回転軸に発生する重力トルクの一部が引張コイルバネSP1によって打ち消される。
【0051】
第3リンク24は、棒状の箱体に形成されていて、内部に主要な要素が収容されている。第3リンク24の一方の端部(後端部)には、第3回転軸(不図示)が設けられている。この第3回転軸が、軸受(不図示)を介して、第2リンク23の他方の端部に、第3回動軸線A3の周りに回動自在に取り付けられている。この第3回転軸及び軸受によって、第3関節JT3が構成されており、これにより、第3リンク24が、第2リンク23に対し、第3回動軸線A3の周りに自在に回動することが可能である。
【0052】
一方、揺動部材25は細長い板状に形成されていて、この揺動部材25の一方の端部に、第11回転軸(不図示)が設けられている。この第11回転軸が、軸受(不図示)を介して、第1リンク22の他方の端部に第2回動軸線A2の周りに回動自在に取り付けられている。
【0053】
また、揺動部材25の他方の端部に第9回転軸(不図示)が設けられている。この第9回転軸が、軸受(不図示)を介して、補助リンク26の一方の端部(ここでは上端部)に第9回動軸線A9の周りに回動自在に連結されている。
【0054】
また、第3リンク24の一方の端と第3関節JT3との間の部分に第10回転軸(ふずし)が設けられている。この第10回転軸が、軸受(不図示)を介して、補助リンク26の他方の端部(ここでは下端部)に第10回動軸線A10の周りに回動自在に連結されている。なお、上述のように、補助リンク26と第2リンク23とは平行リンクを構成している。
【0055】
さらに、第11回転軸(不図示)には、従動プーリー(不図示)が設けられている。一方、第1リンク22の適宜な位置に、主軸(不図示)の中心軸が第11回動軸線A11に平行になるように、第3モータM3(
図7参照)が設けられている。第3モータM3には、第3モータM3の回転角を検知する第3回転角検知器E3(
図7参照)が設けられている。第3回転角検知器E3は、回転角を検知できるものであればよく、例えば、エンコーダ、回転計等で構成される。第3回転角検知器E3は、ここでは、第3モータM3の主軸に直結されたエンコーダで構成される。
【0056】
第3モータM3の主軸には、駆動プーリー(不図示)が設けられている。この駆動プーリーと従動プーリーとにベルト(不図示)が巻き掛けられている。
【0057】
以上の補助リンク26に関連する構成によれば、第3リンク24が回動すると、補助リンク26が第2リンク23に平行に移動し、それによって揺動部材25が揺動し、この揺動部材25の揺動に応じて、従動プーリー、駆動プーリー、及び第3モータM3が順に回転する。従って、この一連の動作により、第3リンク24の回動による第3モータM3の回転角を第3回転角検知器E3によって検知することが可能である。また、この一連の動作の逆の動作により、第3モータM3によって第3回転軸R3を回転駆動することが可能である。
【0058】
さらに、揺動部材25と第1リンク22との間に圧縮コイルバネ(不図示)が設けられている。この圧縮コイルバネは、常時、揺動部材を下方に回動させるトルクを発生するように設計されている。このトルクは、アーム部11の第3リンク24及びリスト部12の自重によって第9回転軸に発生する重力トルクの一部を打ち消すようなトルクに設定されている。これにより、第9回転軸に発生する重力トルクの一部がこのコイルバネによって打ち消される。
【0059】
{リスト部12}
図4は、
図3の入力装置のリスト部12の外観を示す斜視図である。
図4は、基準姿勢にあるリスト部12を示している。
図4を参照すると、リスト部12は、例えば、追従リンク(第4リンク)71と、第1ジンバルリンク(第5リンク)72と、第2ジンバルリンク(第6リンク)73と、第3ジンバルリンク(第7リンク)としての操作部74とを備える。追従リンク71、第1ジンバルリンク72、第2ジンバルリンク73、及び操作部74は、3軸(自由度3)のジンバルを構成している。
【0060】
具体的には、追従リンク71の基端部が、第3リンク24の先端部に対し、追従回動軸線A4の周りに回動自在であり、第1ジンバルリンク72の基端部が、追従リンク71の先端部に対し、第1ジンバル回動軸線(第5回動軸線)A5の周りに回動自在であり、第2ジンバルリンク73の基端部が、第1ジンバルリンク72の先端部に対し、第1ジンバル回動軸線A5に直交する第2ジンバル回動軸線(第6回動軸線)A6の周りに回動自在であり、且つ、操作部74が、第2ジンバルリンク73の先端部に対し、第2ジンバル回動軸線A6に直交する第3ジンバル回動軸線(第7回動軸線)A7の周りに回動自在である。
【0061】
また、基準姿勢にあるリスト部12では、第1ジンバルリンク72が第1基準回転位置にあり、この場合、第2ジンバル回動軸線A6が追従回動軸線(第4回動軸線)A4と一致する。また、基準姿勢にあるリスト部12では、第2ジンバルリンク73が第2基準回転位置にあり、この場合、第3ジンバル回動軸線A7が第1ジンバル回動軸線A5に直交する。
【0062】
従って、操作者は、操作部74を、これら3つの回動軸線A5~A7の交点を中心に回動させて、任意の方向に向けることができる。
【0063】
図3及び
図4を参照すると、追従リンク71はエルボー状(L字状)に形成されていて、この追従リンク71の一方の端部(基準姿勢における前端部)が、第4関節JT4を介して、追従回動軸線A4の周りに回動自在に第3リンク24(
図3参照)の他方の端部(基準姿勢における前端部)に連結されている。追従回動軸線A4は、第3回動軸線A3及び第10回動軸線A10を含む平面に直交する。
【0064】
図4を参照すると、追従リンク71の他方の端部(基準姿勢における後端部)に、第1ジンバルリンク72の一方の端部(基準姿勢における後端部)が、第5関節JT5を介して、追従回動軸線A4に直交する第1ジンバル回動軸線A5の周りに回動自在に連結されている。第1ジンバルリンク72は、追従リンク71より一回り小さいエルボー状(L字状)に形成されている。第1ジンバルリンク72の他方の端部(基準姿勢における前端部)に、第2ジンバルリンク73の一方の端部(基準姿勢における右端部)が、第6関節JT6を介して、第2ジンバル回動軸線A6の周りに回動自在に連結されている。第2ジンバルリンク73は、第1ジンバルリンク72より一回り小さいエルボー状(L字状)に形成されている。第2ジンバルリンク73の他方の端部(基準姿勢における左端部)に、操作部74の一方の端部(基準姿勢における左端部)が、第7関節JT7を介して、第3ジンバル回動軸線A7の周りに回動自在に連結されている。操作部74は、棒状の本体と、この本体に設けられた一対の円筒状の指挿入部74aとを備える。一対の指挿入部74aは、操作者がこれらに親指と人差し指とを挿入し、親指と人差し指とで、あたかも物をつまんだり放したりするように一対の指挿入部74aを操作することができるように構成されている。
【0065】
ここで、追従リンク71は、互いに直交する追従回動軸線A4及び第1ジンバル回動軸線A5を含む平面上に延在し、第1ジンバルリンク7は、互いに直交する第1ジンバル回動軸線A5及び第2ジンバル回動軸線A6を含む平面A上に延在し、且つ、第2ジンバルリンク73は、互いに直交する第2ジンバル回動軸線A6及び第3ジンバル回動軸線A7を含む平面B上に延在する。この場合、第2ジンバルリンク73が第2基準回転位置に位置すると、第2ジンバルリンク73が延在する平面Bが、第1ジンバルリンク72が延在する平面Aに直交する。つまり、第2ジンバル回動軸線A6の延在方向からみて、第2ジンバルリンク73と第1ジンバルリンク72との挟角が直角になる。そして、この状態から、第2ジンバルリンク73が第1ジンバルリンク72の近傍まで回動すると、第2ジンバルリンク73の下端部73aが第1ジンバルリンク72と干渉する。
【0066】
次に、リスト部12の詳細な構造の一例を説明する。
【0067】
図5は、
図4のリスト部12の追従リンク71及び第1ジンバルリンク72の縦断面を示す断面図である。
図6は、
図4のリスト部12の第2ジンバルリンク73及び操作部74の縦断面を示す断面図である。
図5はリスト部12を、第1ジンバル回動軸線A5及び第2ジンバル回動軸線A6を含む平面Aで切断した断面を示し、
図6はリスト部12を、第2ジンバル回動軸線A6及び第3ジンバル回動軸線A7を含む平面Bで切断した断面を示す。
【0068】
図5を参照すると、追従リンク71は、エルボー状(L字状)の箱体に形成されていて、主要な要素が箱体の内部に収容されている。追従リンク71の一方の端部(前端部)には、第4回転軸R4が設けられている。この第4回転軸R4が、軸受81を介して、第3リンク24の他方の端部(前端部)に、追従回動軸線A4の周りに回動自在に取り付けられている。この第4回転軸R4及び軸受81によって、第4関節JT4が構成されており、これにより、追従リンク71が、第3リンク24に対し、追従回動軸線A4の周りに自在に回動することが可能である。
【0069】
また、第3リンク24の内部には、第4モータM4が、主軸S4の中心軸が追従回動軸線A4と直交するように設けられている。第4モータM4には、第4モータM4の回転角を検知する第4回転角検知器E4が設けられている。第4回転角検知器E4は、回転角を検知できるものであればよく、例えば、エンコーダ、回転計等で構成される。第4回転角検知器E4は、ここでは、第4モータM4の主軸S4に直結されたエンコーダで構成される。第4モータM4の主軸S4は、ベベルギア機構G1を介して第4回転軸R4に接続されている。これにより、追従リンク71の回動による第4モータM4の回転角を第4回転角検知器E4によって検知することが可能であり、且つ、第4モータM4によって第4回転軸R4を回転駆動することが可能である。
【0070】
第1ジンバルリンク72は、エルボー状(L字状)の箱体に形成されていて、主要な要素が箱体の内部に収容されている。第1ジンバルリンク72の一方の端部(後端部)には、第5回転軸R5が設けられている。この第5回転軸R5が、軸受82を介して、追従リンク71の他方の端部(後端部)に、第1ジンバル回動軸線A5の周りに回動自在に取り付けられている。この第5回転軸R5及び軸受82によって、第5関節JT5が構成されており、これにより、第1ジンバルリンク72が、追従リンク71に対し、第1ジンバル回動軸線A5の周りに自在に回動することが可能である。
【0071】
また、追従リンク71の内部には、第5モータM5が、主軸S5の中心軸が第1ジンバル回動軸線A5と直交するように設けられている。第5モータM5には、第5モータM5の回転角を検知する第5回転角検知器E5が設けられている。第5回転角検知器E5は、回転角を検知できるものであればよく、例えば、エンコーダ、回転計等で構成される。第5回転角検知器E5は、ここでは、第5モータM5の主軸S5に直結されたエンコーダで構成される。第5モータM5の主軸S5は、ベベルギア機構G2を介して第5回転軸R5に接続されている。これにより、第1ジンバルリンク72の回動による第5モータM5の回転角を第5回転角検知器E5によって検知することが可能であり、且つ、第5モータM5によって第5回転軸R5を回転駆動することが可能である。
【0072】
さらに、追従リンク71の適所(ここでは基準姿勢における後端部の下端部)と第5回転軸R5との間に圧縮コイルバネSP2が設けられている。この圧縮コイルバネSP2は、中心軸が追従回動軸線A4に平行で且つ第1ジンバル回動軸線A5に直交するように設けられている。また、この圧縮コイルバネSP2は、第1ジンバルリンク72が基準姿勢から回動すると、その回動方向に所定のトルクを第1ジンバルリンク72に対して作用させるように設計されている。この所定のトルクは、リスト部12の第1ジンバルリンクから先の部分の自重によって第5回転軸R5に発生する重力トルクの一部を打ち消すようなトルクに設定されている。これにより、第5回転軸R5に発生する重力トルクの一部が圧縮コイルバネSP2によって打ち消される。
【0073】
図5及び
図6を参照すると、第2ジンバルリンク73は、エルボー状(L字状)の箱体に形成されていて、主要な要素が箱体の内部に収容されている。第2ジンバルリンク73の一方の端部(右端部)には、第6回転軸R6が設けられている。この第6回転軸R6が、軸受83を介して、第1ジンバルリンク72の他方の端部(前端部)に、第2ジンバル回動軸線A6の周りに回動自在に取り付けられている。この第6回転軸R6及び軸受83によって、第6関節JT6が構成されており、これにより、第2ジンバルリンク73が、第1ジンバルリンク72に対し、第2ジンバル回動軸線A6の周りに自在に回動することが可能である。
【0074】
また、第1ジンバルリンク72の内部には、第6モータM6が、主軸S6の中心軸が第2ジンバル回動軸線A6と直交するように設けられている。第6モータM6には、第6モータM6の回転角を検知する第6回転角検知器E6が設けられている。第6回転角検知器E6は、回転角を検知できるものであればよく、例えば、エンコーダ、回転計等で構成される。第6回転角検知器E6は、ここでは、第6モータM6の主軸S6に直結されたエンコーダで構成される。第6モータM6の主軸S6は、ベベルギア機構G3を介して第6回転軸R6に接続されている。これにより、第2ジンバルリンク73の回動による第6モータM6の回転角を第6回転角検知器E6によって検知することが可能であり、且つ、第6モータM6によって第6回転軸R6を回転駆動することが可能である。
【0075】
図6を参照すると、操作部74の一方の端部(左端部)には、第7回転軸R7が設けられている。この第7回転軸R7が、軸受84を介して、第2ジンバルリンク73の他方の端部(左端部)に、第3ジンバル回動軸線A7の周りに回動自在に取り付けられている。この第7回転軸R7及び軸受84によって、第7関節JT7が構成されており、これにより、操作部74が、第2ジンバルリンク73に対し、第3ジンバル回動軸線A7の周りに自在に回動することが可能である。
【0076】
また、第2ジンバルリンク73の内部には、第7モータM7が、主軸S7の中心軸が第3ジンバル回動軸線A7と直交するように設けられている。第7モータM7には、第7モータM7の回転角を検知する第7回転角検知器E7が設けられている。第7回転角検知器E7は、回転角を検知できるものであればよく、例えば、エンコーダ、回転計等で構成される。第7回転角検知器E7は、ここでは、第7モータM7の主軸S7に直結されたエンコーダで構成される。第7モータM7の主軸S7は、ベベルギア機構G4を介して第7回転軸R7に接続されている。これにより、操作部74の回動による第7モータM7の回転角を第7回転角検知器E7によって検知することが可能であり、且つ、第7モータM7によって第7回転軸R7を回転駆動することが可能である。
【0077】
{制御系統の構成}
図7は、右入力装置2A及び手術マニピュレータ202の制御系統の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0078】
図7を参照すると、右入力装置2Aは、入力装置制御器C1を備える。入力装置制御器C1は、例えば、右入力装置2A及び左入力装置2Bに共通に設けられている。入力装置制御器C1による両者の制御は同様であるので、ここでは、右入力装置2Aに関する制御のみ説明し、左入力装置2Bに関する制御の説明を省略する。なお、右入力装置2A及び左入力装置2Bに、それぞれ、入力装置制御器C1を設けてもよい。入力装置制御器C1の詳細な構成は後で説明する。入力装置制御器C1は、例えば、ハンドコントロール100の適所に設けられる。
【0079】
右入力装置2Aでは、第1乃至第7関節JT1~JT7にそれぞれ対応する第1乃至第7モータM1~M7の回転角AGを、それぞれ、第1乃至第7回転角検知器E1~E7が検知し、検知した第1乃至第7モータM1~M7の回転角AGを、それぞれ、入力装置制御器C1に出力する。入力装置制御器C1は、入力された第1乃至第7モータM1~M7の回転角AGに基づいて操作部74の位置(位置指令信号)Pを生成し、この操作部74の位置Pをマニピュレータ制御器C2に出力する。また、入力装置制御器C1は、入力された第1乃至第7モータM1~M7の回転角AGに基づいて駆動電流CRを第1乃至第7モータM1~M7に、それぞれ、出力する。
【0080】
手術マニピュレータ202では、アーム部401のリンク404及び手術ツール402を連結する1以上の関節にそれぞれ対応する1以上のモータM202の回転角を、それぞれ、1以上の回転角検知器E202が検知し、検知した1以上のモータM202の回転角を、それぞれ、マニピュレータ制御器C2に出力する。マニピュレータ制御器C2は、入力装置制御器C1から入力された操作部74の位置(位置指令信号)Pに基づいて、手術ツール402が操作部74の位置に対応する位置に位置するような駆動電流を1以上のモータM202に出力する。これにより、手術ツール402が操作部74の位置に対応する位置に位置するようにリンク404の動作が制御される。この際、1以上の回転角検知器E202が検知する回転角が、手術ツール402の位置をフィードバック制御するために用いられる。
【0081】
なお、入力装置2Aの操作部74の姿勢及び動作が、別途、適宜なセンサ(不図示)により検知され、入力装置制御器C1を経由してマニピュレータ制御器C2に入力される。マニピュレータ制御器C2は、手術ツール402が、入力装置2Aの操作部74の姿勢に対応する姿勢を取るとともに入力装置2Aの操作部74の動作に対応する動作を行うよう手術ツール02を制御する。マニピュレータ制御器C2は、例えば、ハンドコントロール100の適所に設けられる。
【0082】
<入力装置制御器C1>
*ジンバルリンク干渉防止制御に関する構成*
図8は、
図7の入力装置制御器のジンバルリンク干渉防止制御に関する構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0083】
図8を参照すると、ジンバルリンク干渉防止制御に関する構成は、位置制御部501と、加減算部502と、速度制御部503と、加減算部505と、サーボアンプ(電力変換器)506と、微分部507と、FF速度指令生成部508と、微分部509と、を備える。
【0084】
位置制御部501、加減算部502、速度制御部503、重力補償部504、加減算部505、微分部507、FF速度指令生成部508、及び微分部509は、例えば、プロセッサ(不図示)とメモリ(不図示)とを有する演算器(不図示)で構成される。演算器として、マイクロコントローラ等が例示される。プロセッサとして、例えば、CPU、MPU、FPGA(Field Programmable Gate Array)、PLC(Programmable Logic Controller)等が例示される。メモリとして、ROM、RAM等のプロセッサの内部メモリ、ハードディスクドライブ等の外部メモリが例示される。
【0085】
位置制御部501、加減算部502、速度制御部503、重力補償部504、加減算部505、微分部507、FF速度指令生成部508、及び微分部509は、演算器のメモリに格納された所定の制御プログラムを演算器のプロセッサが読み出して実行することによって実現される機能ブロックである。実際には、当該演算器が、位置制御部501、加減算部502、速度制御部503、重力補償部504、加減算部505、微分部507、FF速度指令生成部508、及び微分部509として動作する。
【0086】
なお、位置制御部501、加減算部502、速度制御部503、重力補償部504、加減算部505、微分部507、FF速度指令生成部508、及び微分部509を電子回路等のハードウェアで構成してもよい。また、入力装置制御器C1は、単独の演算器で構成されてもよく、複数の演算器で構成されてもよい。
【0087】
*重力補償*
まず、重力補償に関する構成について説明する。重力補償部504は、入力された第1乃至第7モータM1~M7の回転角AGに基づいてマスターアーム10の姿勢を求め、当該姿勢によって各関節JT1~JT7の各回転軸R1~R7に発生する重力トルクを打ち消す重力打消しトルクを演算する。この場合、重力補償部504は、得られた姿勢から回転軸R1~R7毎に定まる重力トルクをそれぞれ演算する。そして、コイルバネが設けられている関節JT2、JT3、JT5においては、重力トルクからコイルバネが発生するトルクを差し引いたトルクと反対方向のトルクを重力打消しトルクとし、コイルバネが設けられていない関節JT1、JT4、JT6、JT7においては、重力トルクと反対方向のトルクを重力打消しトルクとする。これらの第1乃至第7関節JT1~JT7の重力打消しトルクが重力補償量である。重力補償部504は、第1乃至第7関節JT1~JT7の重力補償量を、当該重力補償量の重力補償を行うための重力補償電流指令Igとして送出する。
【0088】
*ジンバルリンク干渉防止制御*
次に、ジンバルリンク干渉防止制御に関する構成について説明する。操作部74が操作されて第6関節JT6が回動する(第2ジンバルリンク73が回動する)と、第6関節JT6に動力伝達機構を介して接続された第6モータM6が回転する。この回転を第6回転角検知器E6が検知し、検知した回転角AG6を出力する。位置制御部501は、この回転角AG6の第2基準回転位置からの偏差を算出し、これを速度指令v1に変換する。
【0089】
一方、微分部509が第6回転角検知器E6からの回転角AG6を微分して回転角速度vf6を生成する。FF速度指令生成部508は、この回転角速度vf6に基づいてフィードフォワード制御用の速度指令v2を生成する。
【0090】
一方、第4関節(追従リンク71)を駆動する第4モータM4の回転を第4回転角検知器E4が検知し、検知した回転角AG4を出力する。この回転角AG4を微分部507が微分してフィードバック回転角速度vf4を出力する。
【0091】
加減算部502が、速度指令v1とフィードフォワード制御用の速度指令v2とを加算し、これらからフィードバック回転角速度vf4を減算して、速度偏差veを生成する。速度制御部503が、速度偏差veに基づいて電流指令Icを生成する。
【0092】
一方、電流センサCSが、サーボアンプ506が出力する駆動電流CRを検知し、この検知した駆動電流をフィードバック電流Ifとして出力する。加減算部505が、この電流指令Icと重力補償電流指令Igとを加算し、これらからフィードバック電流Ifを減算して、電流偏差Ieを生成する。サーボアンプ506が、この電流偏差Ieに基づいて駆動電流CRを第4モータM4に出力する。第4モータM4が、この駆動電流によって動作し、それによって、第4関節JT4、ひいては追従リンク71を駆動する。
【0093】
これにより、追従リンク71が、第2ジンバルリンク73が第2基準回転位置に位置するように回動する。その際、追従リンク71が重力補償される。
【0094】
*位置制御部501の構成*
次に、位置制御部501の構成を詳しく説明する。
図9は、
図8の位置制御部501の構成を示すブロック図である。
【0095】
図9を参照すると、位置制御部501は、減算部520と、減速比補正部521と、1次フィルタ522と、不感帯部523と、第1スイッチ部524と、第2スイッチ部525と、移動平均部526とを備える。
【0096】
減算部520は、第6回転角検知部E6からの回転角AG6から第2ジンバルリンク73の第2基準回転位置の回転角AG6(0)を減算し、第2ジンバルリンク73の回転位置偏差を生成する。ここで、第2基準回転位置の回転角AG6(0)は0度である。
【0097】
減速比補正部521は、この回転位置偏差を、減速比補正して、第4関節JT4の減速比に相当する回転位置偏差に変換する。本実施形態では、第6関節JT6の減速比と第4関節JT4の減速比とが異なる。従って、第6関節JT6において第2ジンバルリンク73が1回転した場合に第6回転角検知器E6が検知する回転角AG6と、第4関節JT4において追従リンク71が1回転した場合に第4回転角検知器E4が検知する回転角AG4とは、第6関節JT6の減速比をRR6と表し、第4関節JT4の減速比をRR4と表すと、第6関節JT6の減速比RR6の逆比(1/RR6)と第4関節JT4の減速比RR4の逆比(1/RR4)との比率に対応して相違する。そこで、この相違を補正するために、この回転位置偏差に減速比補正が施される。具体的には、この回転位置偏差に、RR6/RR4が乗算される。
【0098】
次に、1次フィルタ522は、この位置偏差から高周波成分を除去する。なお、高周波成分は、入力装置2毎に異なるので、1次フィルタ522の時定数を調整できるようにしてもよい。この場合、例えば、入力部(不図示)から所望の時定数が入力装置制御器C1に入力されると、入力装置制御器C1が1次フィルタ522の時定数を入力された時定数に変更するように構成してもよい。
【0099】
次いで、この位置偏差は、不感帯部523を通される。不感帯部523は、当該位置偏差が微小である場合(第2ジンバルリンク73の動作が微小である場合)におけるチャタリングを防止する。不感帯部523を通過した位置偏差は、第1スイッチ部524及び第2スイッチ部525を通される。第1スイッチ部524は、操作中フラグf1がONするとONし、操作中フラグf1がOFFするとOFFする。第2スイッチ部525は、動作範囲フラグf2がONするとONし、動作範囲フラグf2がOFFするとOFFする。
【0100】
操作中フラグf1は、操作部74が操作されていること示すフラグである。第2ジンバルリンク73の前回の回転位置(前回のサンプリングにおける回転位置)に対する現在の回転位置(今回のサンプリングにおける回転位置)の差分が、所定の変化閾値(例えば、1.0度)を超えると、操作中であると判定される。操作中フラグf1を設ける理由は以下の通りである。
【0101】
上述のように、操作部74の操作により第2ジンバルリンク73が回動すると、第2ジンバルリンク73が第2基準回転位置に位置するように追従リンク71が回動するのであるが、操作を停止した場合に、微小な第2ジンバルリンク73の回転位置偏差が残っていると、追従リンク71が回動し続けるため、操作者が違和感を覚える。そこで、操作中フラグf1を設け、操作部74が操作されている場合に追従リンク7の回転位置のフィードバック制御が行われ、操作が停止されると、追従リンク71の回転位置のフィードバック制御が停止されて追従リンク71が停止するようにし、操作者が違和感を覚えるのを防止する。
【0102】
動作範囲フラグf2は、追従リンク71が所定の動作範囲にあることを示すフラグである。本実施形態では、追従リンク71に構造上の可動範囲が存在するので、その可動範囲を超えないように追従指令を与える必要がある。そこで、第2ジンバルリンク73の干渉防止のために追従リンク71が追従すべき回転範囲を、動作範囲として設定したものである。なお、追従リンク71に構造上の可動範囲が存在しない場合であっても、必要に応じて動作範囲フラグf2を設けてもよい。この動作範囲は、入力装置2の仕様等に基づいて適宜決定される。
【0103】
移動平均部526は、第1スイッチ部524及び第2スイッチ部525を通過した位置偏差を移動平均する。これにより、第1スイッチ部524又は第2スイッチ部525が動作した場合に生じる位置偏差の不連続が連続化される。この移動平均された位置偏差xeに所定のゲインを乗じることによって速度指令v1が生成される。
【0104】
*FF速度指令生成部508の構成*
次に、FF速度指令生成部508の構成を詳しく説明する。
図10は、
図8のFF速度指令生成部58の構成を示すブロック図である。
【0105】
図10を参照すると、FF速度指令生成部508は、不感帯部531と、第3スイッチ部532と、第1乗算部533と、1次フィルタ534と、第2乗算部535と、減速比補正部536と、第3乗算部537と、を備える。
【0106】
微分部509からの回転角速度(第2ジンバルリンク73の回転速度)vf6は、不感帯部531を通される。不感帯部531は、回転角速度vf6が微小である場合、換言すると、操作部74の操作が遅い場合に、速度フィードフォワード制御を無効にする。不感帯部531を通過した回転角速度vf6は、第3スイッチ部532を通される。第3スイッチ部532は、動作範囲フラグf2がONするとONし、動作範囲フラグf2がOFFするとOFFする。
【0107】
第1乗算部533は、第3スイッチ部532を通過した回転角速度vf6に連続化係数を乗じる。
図12は、追従リンク71の回転角(位置)と位置フィードバック制御ループへの速度フィードフォワード制御の入力の第1調整係数である連続化係数との関係を示すグラフである。
図12において、横軸は、追従リンク71の回転角(位置)を示し、縦軸は連続化係数を示す。
【0108】
図12を参照すると、連続化係数は、0から1.0までの値を取る。連続化係数は、例えば、追従リンク71の動作下限の近傍において、追従リンク71の回転角が動作下限から大きくなるに連れて0から1.0まで増大し、追従リンク71の回転角が動作上限の近傍まで大きくなる間において1.0の値を取り、動作上限の近傍において、追従リンク71の回転角が動作上限まで大きくなるに連れて1.0から0まで減少する。なお、
図12には、追従リンク71の動作下限近傍及び動作上限近傍において連続化係数が直線的に変化するように示されているが、連続化係数は、単調に変化すればよく、曲線的に変化してもよい。
【0109】
第1乗算部533には、第4関節JT4の第4回転角検知器E4が検知する追従リンク71の回転角(回転位置)AG4が入力されていて、第1乗算部533は、この回転角AG4に基づいて連続化係数を決定し、この決定した連続化係数を、第3スイッチ部532を通過した回転角速度vf6に乗じる。
【0110】
従って、追従リンク71が動作下限外から動作範囲内に入って第3スイッチ部532がONすると、回転角速度vf6は0から本来の値まで上昇する。また、追従リンク71が動作上限外から動作範囲内に入って第3スイッチ部532がONすると、回転角速度vf6は0から本来の値まで上昇する。すなわち、追従リンク71が動作範囲の外から内に回動した際において、位置フィードバック制御ループへの速度フィードフォワード制御の入力が連続化される。これにより、追従リンク71が動作範囲の外から内に回動した際に、フィードフォワード制御による第2ジンバルリンク73の回転速度の加算量(位置フィードバック制御ループへの速度フィードフォワード制御の入力)が急激に変化して、操作者が操作に違和感を覚えることを防止できる。
【0111】
1次フィルタ534は、この連続化係数が乗算された回転角速度vf6から高周波成分を除去する。なお、高周波成分は、入力装置2毎に異なるので、1次フィルタ534の時定数を調整できるようにしてもよい。この場合、例えば、入力部(不図示)から所望の時定数が入力装置制御器C1に入力されると、入力装置制御器C1が1次フィルタ534の時定数を入力された時定数に変更するように構成してもよい。
【0112】
次いで、第2乗算部535は、この回転角速度vf6にFF調整係数を乗じる。
図13は、第1ジンバルリンク72の回転角と位置フィードバック制御ループへの速度フィードフォワード制御の入力の第2調整係数であるFF調整係数との関係を示すグラフである。
図13において、横軸は、第1ジンバルリンク72の回転角(回転位置)を示し、縦軸は、FF調整係数を示す。
【0113】
図4及び
図13を参照すると、第1ジンバルリンク72の回転において、第2基準回転位置を0度として、時計回り方向に、最小回転角、最大回転角、及び+90度が定義され、反時計回り方向に、-最小回転角、-最大回転角、及び-90度が定義される。FF調整係数は、0から1.0までの値を取る。FF調整係数は、第1ジンバルリンク72が時計回りに最小回転角まで回転する間は1.0の値を取り、第1ジンバルリンク72が最小回転角から最大回転角まで回転するに連れて最小係数(例えば0.33)まで直線的に減少し、第1ジンバルリンク72が最大回転角から+90度の近傍まで回転する間は最小係数の値を取り、+90度の近傍において、第1ジンバルリンク72が+90度まで回転するに連れて最小係数から0まで直線的に減少する。また、FF調整係数は、第1ジンバルリンク72が反時計回りに-最小回転角まで回転する間は1.0の値を取り、第1ジンバルリンク72が-最小回転角から-最大回転角まで回転するに連れて最初係数まで直線的に減少し、第1ジンバルリンク72が-最大回転角から-90度の近傍まで回転する間は最小係数の値を取り、-90度の近傍において、第1ジンバルリンク72が-90度まで回転するに連れて最小係数から0まで直線的に減少する。第1ジンバルリンク72の回転角度の絶対値90度以上になると、追従リンク71が、第2ジンバルリンク73の干渉を回避する方向と逆方向に回動してしまうため、第1ジンバルリンク72の回転角度の絶対値90度以上では、FF調整係数が0にされる。最小係数、最小回転角、最大回転角は、パラメータとなっており、入力装置制御器C1の入力部(不図示)を介して調整することが可能である。なお、
図13のFF調整係数の変化は一例であり、第1ジンバルリンク72の回転位置(回転角)に対するFF調整係数の変化は、これには限定されない。FF調整係数は、第1ジンバルリンク72の回転位置(回転角)の-90°から+90°までの変化に対し、ゼロから単調に増加した後、ゼロまで単調に減少するように変化すればよい。
【0114】
第2乗算部535には、第5関節JT5の第5回転角検知器E5が検知する第1ジンバルリンク72の回転角(回転位置)AG5が入力されていて、第1乗算部533は、この回転角AG5に基づいてFF調整係数を決定し、この決定したFF調整係数を、第3スイッチ部532を通過した回転角速度vf6に乗じる。
【0115】
ところで、操作部74の操作により第1基準回転位置からの第1ジンバルリンク72の回転角が大きくなると、第2ジンバルリンク73の第2基準回転位置からの回転に伴う追従リンク71の追従回動軸線A4周りの回転量が大きくなり、その際に追従リンク71の回転速度が速いと、操作者が操作に違和感を覚える。
【0116】
このことを詳しく説明する。
図14は、第1ジンバルリンク72が第1基準回転位置から+45°回転した場合のリスト部12の状態を示す斜視図である。
図15は、第1ジンバルリンク72が第1基準回転位置から+90°回転した場合のリスト部12の状態を示す斜視図である。
図14及び
図15において、参照符号PR6は、第2ジンバルリンク73の回動面に平行な平面を示し、参照符号PR4は、追従リンク71の回動面に平行な平面を示す。
【0117】
まず、
図4を参照すると、リスト部12の基準姿勢においては、第1ジンバルリンク72が第1基準回転位置にある。この状態では、第2ジンバルリンク73の回動軸線である第2ジンバル回動動軸線A6が追従リンク71の回動軸線である追従回動軸線A4に一致している。従って、操作部74の操作により第ジンバルリンク73が第2基準回転位置から回転角θだけ回動すると、追従リンク71が当該回動と同じ方向に、当該角度θと同じ回転角だけ回動する。
【0118】
次に、
図14を参照すると、
図14のリスト部12の状態では、第1ジンバルリンク72が第1基準回転位置から+45°回転した回転位置にある。この状態では、第2ジンバル回動動軸線A6が追従回動軸線A4に対し45°傾いており、そのため、第2ジンバルリンク73の回動面(平面PR6に平行な平面)が、追従リンク71の回動面(平面PR4に平行な平面)に対し45°傾いている。従って、操作部74の操作により第2ジンバルリンク73が、第2基準回転位置から回転角θだけ回動すると、追従リンク71が当該回動面に対し45°傾いた回動面において、当該回転角θ以上の回転角まで回動する。
【0119】
次に、
図15を参照すると、
図15のリスト部12の状態では、第1ジンバルリンク72が第1基準回転位置から+90°回転した回転位置にある。この状態では、第2ジンバル回動動軸線A6が追従回動軸線A4に対し90°傾いており、そのため、第2ジンバルリンク73の回動面(平面PR6に平行な平面)が、追従リンク71の回動面(平面PR4に平行な平面)に対し90°傾いている。従って、操作部74の操作により第2ジンバルリンク73が、第2基準回転位置から回転角θだけ回動すると、追従リンク71が当該回動面に対し90°傾いた回動面において、当該回転角θより相当大きい回転角まで回動する。
【0120】
その際に、追従リンク71の回転速度が速いと、操作者が操作に違和感を覚える。
【0121】
この第2乗算部535によれば、操作部74の操作により第1基準回転位置からの第1ジンバルリンク72の回転角が大きくなると、追従リンク71の追従回動軸線A4周りの回転角速度が抑制されるので、操作者が操作に違和感を覚えることを抑制できる。
【0122】
減速比補正部536は、このFF調整係数が乗算された回転角速度vf6を、減速比補正して、第4関節JT4の減速比(RR4)に相当する回転角速度に変換する。この減速比補正は、上述の減速比補正部521の場合と同様である。
【0123】
第3乗算部537は、この変換された回転角に所定のゲインを乗じてフィードフォワード制御の速度指令v2を生成する。
[動作]
まず、右入力装置2A及び手術マニピュレータ202の動作を説明する。
【0124】
図3及び
図4を参照すると、操作者は、例えば、右入力装置2Aの操作部74の一対の指挿入部74aに親指と人差し指とを挿入する。そして、操作者が、操作部74を左右に動かすと、アーム部11が、第1関節JT1の第1回動軸線A1を中心に左右に回動する。操作者が操作部74を前後に動かすと、アーム部11が、第2関節JT2の第2回動軸線A2を中心に前後に回動する。操作者が、操作部74を上下に動かすと、アーム部11が、第3関節JT3の第3回動軸線A3を中心に上下に回動する。操作者が、リスト部12を左右に回転させると、リスト部12が、第4関節JT4の追従回動軸線A4を中心に左右に回動する。操作者が、操作部74の向き(姿勢)を変えるように操作部74を操作すると、操作部74がその変えようとする向きに動く(姿勢を取る)。従って、操作者は、入力装置2Aを意図するように操作することができる。
【0125】
右入力装置2Aの操作部74が操作されると、この操作が入力装置制御器C1によって位置指令信号Pに変換され、マニピュレータ制御器C2が、この位置指令信号Pに従って、手術マニピュレータ202の選択されたアーム部401の手術ツール402が操作部74に対応する位置に位置するように当該選択されたアーム部401の動作を制御する。これにより、手術マニピュレータ202選択されたアーム部401が、操作者による右入力装置2Aの操作に従って動作する。アーム部401の選択は、ハンドコントロール100のペダル4を操作することによって行われる。なお、左入力装置2Bの動作もこれと同様である。
【0126】
次に、ジンバルリンク干渉防止制御を説明する。この制御は、上述のプロセッサが上述のメモリに記憶された制御プログラムを読み出して実行することによって遂行される。
図11は、ジンバルリンク干渉防止制御を示すフローチャートである。以下では、リスト部12が
図4に示す基準姿勢において、操作部74が操作された場合について説明する。
【0127】
図11を参照すると、入力装置制御器C1は、まず、第2ジンバルリンク73の回転位置偏差が回転偏差閾値より大きいか否か判定する(ステップS1)。この回転偏差閾値は、例えば1.0度とされる。このステップS1の結果に応じて、位置制御部501の不感帯部523が動作する。
【0128】
第2ジンバルリンク73の回転位置偏差が回転偏差閾値より大きくない場合(ステップS1でNO)、操作中フラグf1及び動作範囲フラグf2がOFFされ(ステップS9,10)、位置制御部501の第1スイッチ部524及び第2スイッチ部525並びにFF速度指令生成部508の第3スイッチ部532がOFFし、この制御が終了する。
【0129】
一方、第2ジンバルリンク73の回転位置偏差が回転偏差閾値以上である場合(ステップS1でYES)、入力装置制御器C1は、第2ジンバルリンク73の回転位置変化が変化閾値より大きいか否か判定する(ステップS2)。回転位置変化は、第2ジンバルリンク73の前回の回転位置に対する現在の回転位置の差分である。
【0130】
第2ジンバルリンク73の回転位置変化が変化閾値より大きくない場合、入力装置制御器C1は、カウンタのカウントを開始する(ステップS7)。そして、カウント値が閾値(例えば、1000ms)を超えるか否か判定する(ステップS8)。このカウントは、第2ジンバルリンク73の回転位置変化が変化閾値を超えると停止される(ステップS4)。カウント値が閾値を超えない場合(ステップS8でNO)、1秒(1000ms)以内に操作があっため、操作されたと判定し、ステップS2に戻る。一方、カウント値が閾値以上になった場合(ステップS8でYES)、1秒以上操作がなく、操作が停止されたと判定し、操作中フラグf1及び動作範囲フラグf2がOFFされ(ステップS9,10)、この制御が終了する。
【0131】
一方、ステップS2で、第2ジンバルリンク73の回転位置変化が変化閾値より大きい場合(ステップS2でYFS)、入力装置制御器C1は、操作中であると判定し、操作中フラグf1をONし(ステップS3)、且つ、カウンタのカウント値を0にする(ステップS4)。これにより、位置制御部501の第1スイッチ部524がONする。
【0132】
次いで、入力装置制御器C1は、追従リンク71が動作範囲にあるか否か判定する(ステップS5)。追従リンク71が動作範囲にない場合(ステップS5でNO)、動作範囲フラグf2がOFFし(ステップS1)、この制御が終了する。
【0133】
一方、追従リンク71が動作範囲にある場合(ステップS5でYES)、入力装置制御器C1は、動作範囲フラグf2をONする(ステップS6)。
【0134】
これにより、位置制御部501の第2スイッチ部525及びFF速度指令生成部508の第3スイッチ部532がONし、位置フィードバック制御及びフィードフォワード制御が行われる。その結果、操作部74の操作によって、第2ジンバルリンク73が第1ジンバルリンク72に向かって回動しても、追従リンク71の回動によって第2ジンバルリンク73と第1ジンバルリンク72との挟角が直角になるように第1ジンバルリンク72が逃げるので、第2ジンバルリンク73が第1ジンバルリンク72と干渉することを防止することができる。
【0135】
また、操作部74の操作により第2ジンバルリンク73が速い速度で動作した場合にも、追従リンク71を素早く追従させて、第2ジンバルリンク73と第1ジンバルリンク72との干渉を防止することができる。
【0136】
なお、リスト部12が、
図14又は
図15に示すように、第1ジンバルリンク71が第1基準回転位置から回転した状態にある場合も、追従リンク71の回動量が大きくなり、且つその際に追従リンク71の回転速度が抑制される場合がある以外は、上記と同様である。
【0137】
また、各関節JT1~JT7毎に重力補償がなされる。
【0138】
(その他の実施形態)
上記実施形態において、重力補償部504を省略してもよい。
【0139】
上記説明から、当業者にとっては、多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明の手術マニピュレータの入力装置は、リスト部のジンバルを構成するリンク同士の干渉を防止できる手術マニピュレータの入力装置として有用である。
【符号の説明】
【0141】
1 本体
2 入力装置
2A 右入力装置
2B 左入力装置
3 支持部材
4 ペダル
5 表示部
10 マスターアーム
11 アーム部
12 リスト部
21 基体
22 第1リンク
23 第2リンク
24 第3リンク
25 揺動部材
26 補助リンク
71 追従リンク
72 第1ジンバルリンク
73 第2インバルリンク
74 操作部
74a 指挿入部
81~84 軸受
100 ハンドコントロール
200 ロボット支援手術システム
201 ポジショナ
202 手術マニピュレータ
203 手術台
204 患者
401 アーム部
402 手術ツール
404 リンク
501 位置制御部
504 重力補償部
508 FF速度指令生成部
A1~A3 第1乃至第3回動軸線
A4 追従回動軸線
A5~A7 第1乃至第3ジンバル回動軸線
AG 回転角
CR 駆動電流
E1~E7 第1乃至第7回転角検知器
G1~G4 べベルギア機構
JT1~JT7 第1乃至第7関節
M1~M7 第1乃至第7モータ
P 操作部の位置