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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】分散体
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20230406BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20230406BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230406BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230406BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230406BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230406BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20230406BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20230406BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230406BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D5/24
C09D7/61
C09D7/63
C09D7/65
C09D201/00
H01B1/22 A
H01B5/14 Z
H01B13/00 503C
H05K1/09 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019188692
(22)【出願日】2019-10-15
(62)【分割の表示】P 2017522266の分割
【原出願日】2016-06-02
(65)【公開番号】P2020019963
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2019-11-12
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2015112579
(32)【優先日】2015-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015112580
(32)【優先日】2015-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015256929
(32)【優先日】2015-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】大井 寛崇
(72)【発明者】
【氏名】大野 栄一
【合議体】
【審判長】蔵野 雅昭
【審判官】藤代 亮
【審判官】海老原 えい子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-273936(JP,A)
【文献】特開2013-206721(JP,A)
【文献】特開昭62-292870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
H01B
H05K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化第一銅を含有する粒子と、
-SH基を有する化合物、硫黄単体、及び硫黄原子が複数連続して結合した構造を有する化合物から成る群より選択され、数平均分子量が800未満である1種以上の硫黄原子含有物と、
重量平均分子量が300以上である、リン酸基を有する化合物と、
を含み、
前記硫黄原子含有物の量は、粒子100質量部に対して、30質量部以下である
ことを特徴とする、分散体。
【請求項2】
酸化第一銅を含有する粒子と、
-SH基を有する化合物、硫黄単体、及び硫黄原子が複数連続して結合した構造を有する化合物から成る群より選択され、数平均分子量が800未満である1種以上の硫黄原子含有物と、
重量平均分子量が300以上である、リン酸基を有する化合物と、
を含み、
前記硫黄原子含有物の量は、粒子100質量部に対して、30質量部以下である
ことを特徴とする、膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板は、基板上に導電性の配線を施した構造を有する。このような回路基板は、従来、金属箔を貼り合せた基板上に塗布したフォトレジストを、露光及び現像により所望の回路パターンのネガ状の形状に加工した後、該レジストに被覆されていない部分の金属箔をケミカルエッチングにより除去してパターンを形成する工程を経ることにより、製造していた。この従来の回路基板の製造方法によると、高性能の導電性基板を製造することができる。しかしながら、従来の回路基板の製造方法は、工程数が多く、煩雑であるとともに、フォトレジスト材料を要する等の欠点がある。
これに対し、金属及び金属酸化物より成る群から選択される微粒子を分散させた塗料を用いて、基板上に所望の配線パターンを直接印刷する工程を経る方法が注目されている。回路基板の製造をこのような方法によると、工程数が少なくなり、フォトレジスト材料を用いる必要がない等、極めて高い生産性が見込まれる。
【0003】
しかしながら、印刷法によると、以下の2つの問題が生じる場合がある。
第1に、印刷法によると、一般には、微細な配線を形成することが困難である。
第2に、印刷法によると、印刷パターンに導電性を付与するために高温の焼成工程を要するため、耐熱性の低い基材上に導電性の薄膜を形成することは困難である。
以下、詳説する。
【0004】
第1の問題については以下のとおりである。
印刷法による微細パターン形成のために、金属又は金属酸化物のナノ粒子を含有する分散体をインクとして用いる技術が注目されている。
印刷に用いるインクとして粒径が大きい粒子を含有する分散体を用いると、塗布膜のエッジ及び表面が凸凹になってしまい、微細パターニングができない。塗布膜の表面粗さが大きいと、該塗布膜に積層して印刷される材料の特性に悪影響を与える可能性があるため、塗布膜の平滑性は重要である。この点、ナノ粒子であれば塗布膜のエッジ及び表面が平滑になり、微細パターニングが可能となる。
【0005】
印刷法による微細パターニング技術としては、例えば、サブフェムトリットルインクジェット印刷、反転印刷等が知られている。
例えば非特許文献1には、サブフェムトリットルインクジェットプリンタ及び銀ナノインク(ハリマ化成製、NPS-J-HP)を用いて、L/S=1μm/1μmの微細銀電極の形成に成功している。しかしながらサブフェムトリットルインクジェット印刷は、印刷速度が非常に遅く、従って、量産のための技術としては不適切である。ここで、L/Sとはライン/スペースのことを指す。ラインは印刷物の線幅のことを指し、スペースは印刷物の線と線の間のインクの存在しない領域の幅のことを指す。L/S=1μm/1μmとは、線幅が1μmであり、線と線の間の幅が1μmであることを指す。
【0006】
特許文献1では、金属粒子と水溶性樹脂と水とから成る分散体を用いて、印刷速度の速い反転印刷によって、L/S=10μm/2μmの印刷に成功している。しかしながらこの特許文献1では、常温において固体である水溶性樹脂が塗布膜中で結晶化することによる、乾燥時の塗膜平滑性の悪化に対する具体的対策が開示されていない。また、特許文献1では、分散性及び長期保管安定性向上のための具体的対策が開示されていない。
【0007】
特許文献2では、体積平均粒子径(Mv)2~250nmの導電性粒子、フッ素系表面エネルギー調整剤及び/又はシリコーン系表面エネルギー調整剤、並びに0.5~40重量%の水を含有する有機溶媒を必須成分とする分散体を用いて、反転印刷によって、L/S=5μm/5μmのTFTのソース電極及びドレイン電極の印刷に成功しており、更に該反転印刷のプロセスウィンドウを広げることにも成功している。しかしながら、この特許文献2では、分散体の長期保管安定性、及び塗布膜の平滑性を向上させるための具体的な分散体組成については開示されていない。
【0008】
第2の問題については以下のとおりである。
導電性パターン形成のために印刷法を採用する場合、塗料に分散させる微粒子としては、銀、金、及び銅、並びにこれらの酸化物から選択して用いられることが多い。これらのうち、特に銅及び銅酸化物より成る群から選択される1種以上を含む微粒子は、安価であるため特に好適である。
【0009】
例えば、特許文献3には、平均二次粒径が80nm以下の酸化第一銅微粒子及び炭素数10以下の多価アルコールを含有する酸化第一銅分散体が提案されている。この分散体をガラス板上に塗布し、350℃において1時間の熱処理を施すことによって、厚み2.5μm、体積抵抗率8×10-5Ωcmの銅薄膜を形成している(特許文献3、実施例3及び6参照)。
特許文献4には、保護剤に被覆された銅酸化物ナノ粒子分散体が提案されている。例えば、保護剤としてドデシルアミンを用いた銅酸化物ナノ粒子分散体をガラス板上に塗布し、250℃において60分の熱処理を施すことによって、平均膜厚1μm、体積抵抗率6×10-6Ωcmの銅薄膜を形成している(特許文献4、実施例1参照)。
【0010】
特許文献5には、金属微粒子、高分子分散剤、及び分散媒を含有する金属微粒子分散体が提案されている。特に、ポリエステル骨格又はポリエーテル骨格を有する高分子分散剤は、プラズマ処理によって分解され易く、該分散剤を含有する特許文献3の分散体を用いると、形成される銅薄膜の抵抗が低くなることが示唆されている。例えば、金属微粒子として平均一次粒径50nmの銅微粒子を、高分子分散剤としてソルスパース41000(ルーブリゾール社製)を、分散媒としてトルエンを、それぞれ含有する分散体を、ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、「テオネックスQ65FA」)上に塗布した後、マイクロ波表面波プラズマ処理装置(MSP-1500、ミクロ電子(株)製)により焼成処理を施すことによって、体積抵抗率2.4×10-5Ωcmの銅薄膜を形成している。このとき、基材は160℃まで加熱されている(特許文献5、実施例1B参照)。
【0011】
しかしながら、この特許文献5の技術によると、焼成時に160℃以上の高温が基材にかかるため、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような非常に安価だが耐熱性の低い基材上に銅薄膜を形成することはできない。つまり、特許文献3の技術を適用するには、高価な基材を利用しなければならないため、安価な印刷デバイスが実現できていないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第4622626号明細書
【文献】国際公開第2014/017323号
【文献】特開2005-15628号公報
【文献】特許5084145号明細書
【文献】国際公開第2011/040189号
【非特許文献】
【0013】
【文献】MRS Comunications,Vol.1,p3(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする第1の課題は、金属及び金属酸化物より成る群から選択される1種以上を含有する粒子を含み、且つ反転印刷適性、塗布膜の平滑性、分散性、及び長期保管安定性のすべてに優れる分散体を提供することである。
本発明が解決しようとする第2の課題は、PETフィルムのような耐熱性の低い基材に高温によるダメージを与えることなく、低抵抗な銅薄膜を形成できる分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を達成すべく鋭意研究し実験を重ねた。その結果、
微粒子と分散剤とを含有する分散体において、前記分散剤として、特定の分子量分布を有するものを使用することにより、前記の課題が達成されることを見出し、これに基づいて本発明を完成したものである。
本発明は、以下の事項を開示するものである。
【0016】
[1] 金属粒子及び金属酸化物粒子から選択される粒子と、分散剤と、を含む分散体であって、
前記分散剤が、前記粒子に結合又は吸着可能な化学構造を有し、そして、
前記分散剤が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリエチレングリコール換算の分子量分布曲線において、分子量31以上1,000未満の領域に少なくとも1つのピークを有する低分子量分散剤と、分子量1,000以上40,000以下の領域に少なくとも1つのピークを有する高分子量分散剤と、を含むことを特徴とする、前記分散体。
【0017】
[2] 前記粒子に結合又は吸着可能な化学構造が、アミノ基、チオール基、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、スクシンイミド骨格を有する官能基、ピロリドン骨格を有する官能基、セレノール基、ポリスルフィド基、ポリセレニド基、カルボキシル基、酸無水物骨格を有する官能基、スルホン酸基、ニトロ基、及びシアノ基より成る群から選択される1種以上の官能基である、[1]に記載の分散体。
【0018】
[3] 前記低分子量分散剤が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリエチレングリコール換算の分子量分布曲線において、分子量350以上1,000未満の領域に少なくとも1つのピークを有する、[1]又は[2]に記載の分散体。
[4] 前記分散剤中、低分子量分散剤100質量部に対する高分子量分散剤の割合が5質量部以上500重量部以下である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の分散剤。
【0019】
[5] 前記粒子100質量部に対して、
低分子量分散剤の割合が1質量部~20質量部であり、
高分子量分散剤の割合が0.1質量部~10質量部である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の分散剤。
[6] 前記粒子が、銅及び銅酸化物から成る群より選択される1種以上を含有する、[1]~[5]のいずれか一項に記載の分散剤。
【0020】
[7] 前記粒子の平均二次粒子径が5nm以上1,000nm以下である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の分散剤。
[8] 前記分散剤が、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールから成る群より選択される1種以上の骨格を有する、[1]~[7]のいずれか一項に記載の分散体。
【0021】
[9] 基材上に[1]~[8]のいずれか一項に記載の分散体を塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を加熱焼成する工程と、
を含むことを特徴とする、導電性膜の製造方法。
[10] 前記加熱工程が、プラズマ処理、フラッシュランプアニール処理、又は熱媒体との接触処理によって行われる、[9]に記載の導電性膜の製造方法。
【0022】
[11] 銅及び銅酸化物からなる群より選択される1種以上を含有する粒子と、
-SH基を有する化合物、硫黄単体、及び硫黄原子が複数連続して結合した構造を有する化合物から成る群より選択される1種以上の硫黄原子含有物と、
を含むことを特徴とする、分散体。
[12] 金属粒子及び金属酸化物粒子から選択される粒子と、分散剤と、を含む膜であって、
前記分散剤が、前記粒子に結合又は吸着可能な化学構造を有し、そして
前記分散剤が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリエチレングリコール換算の分子量分布曲線において、分子量31以上1,000未満の領域に少なくとも1つのピークを有する低分子量分散剤と、分子量1,000以上40,000以下の領域に少なくとも1つのピーク有する高分子量分散剤と、を含むことを特徴とする、前記膜。
【0023】
[13] 銅及び銅酸化物からなる群より選択される1種以上を含有する粒子と、
-SH基を有する化合物、硫黄単体、及び硫黄原子が複数連続して結合した構造を有する化合物から成る群より選択される1種以上の硫黄原子含有物と、
を含むことを特徴とする、膜。
[14] 少なくとも金属、金属酸化物、及び有機物を含有する導電性膜であって、
前記導電性膜を厚さ方向に2分割したときに、片側半分のうちの一方は金属の濃度が高く、もう一方は金属酸化物の濃度が高いことを特徴とする、前記導電性膜。
[15] エッチング及び元素分析法によって測定された厚み方向の相対元素濃度プロファイルにおいて、前記片側半分のうち金属の濃度が高い方の金属の相対元素濃度が70%以上である、[14]に記載の導電性膜。
[16] エッチング及び元素分析法によって測定された厚み方向の相対元素濃度プロファイルにおいて、前記片側半分のうち金属の濃度が低い方の金属酸化物由来の酸素の相対元素濃度が1%以上、50%以下である、[14]に記載の導電性膜。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、第1に、金属及び金属酸化物より成る群から選択される1種以上を含有する粒子を含み、且つ反転印刷適性、塗布膜平滑性、分散性、及び長期保管安定性のすべてに優れた分散体を得ることができる。
更に本発明によれば、第2に、耐熱性の低い基材に高温によるダメージを与えることなく、低抵抗な導電性薄膜を形成し得る分散体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態における分散剤の構造を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態において、分散剤が吸着した粒子を模式的に示す概略断面図である。
図3】(a)は実施例1-1の分散体塗布膜表面、(b)は実施例2の分散体塗布膜表面、(c)は実施例1-4の分散体塗布膜表面、(d)は実施例5の分散体塗布膜表面の顕微鏡写真である。
図4】(a)は比較例1-2の分散体塗布膜表面、(b)は比較例3の分散体塗布膜表面、(c)は比較例1-4の分散体塗布膜表面の顕微鏡写真である。
図5】(a)は比較例1-1で得られた、除去不良が発生した印刷物表面の顕微鏡写真である。(b)は実施例1-1で得られた、良品の印刷物表面の顕微鏡写真である。
図6】実施例1-1で得られた導電性膜の断面SEM像である。
図7】比較例1-1で得られた導電性膜の断面SEM像である。
図8】実施例1-3で得られた塗布膜に含まれる分散剤のGPCチャートである。
図9】実施例1-1で得られた導電性膜の相対元素濃度の深さ方向のプロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本実施形態の分散体は、第1の態様においては、金属粒子及び金属酸化物粒子から選択される粒子と、分散剤と、を含有する。
本実施形態の分散体は、第2の態様においては、金属粒子及び金属酸化物粒子から選択される粒子と、硫黄原子含有物、とを含有する。
以下、本発明の分散体に含まれる構成要素のそれぞれについて、詳細に説明する。
【0027】
[粒子]
本実施形態の分散体における粒子は、金属粒子及び金属酸化物粒子から選択される。この粒子における金属及び金属酸化物としては、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、錫、鉛、インジウム、アルミニウム、ジルコニウム、セリウム、ハフニウム、及びマグネシウム、並びにこれら金属の酸化物より成る群から選択される1種以上を含有する微粒子を用いることができる。特に、銅及び銅酸化物は、安価であり、焼成によって抵抗の低い配線を形成することができるため、好ましい。銅及び銅酸化物の具体例としては、例えば、銅、酸化第一銅、酸化第二銅、その他の酸化数を持つ酸化銅等から成る粒子の他、
コア部が銅でありシェル部が酸化銅であるコア/シェル構造を有する粒子等が挙げられる。これらの中でも、酸化第一銅及び酸化第二銅は、分散性が優れる傾向にあるので好ましい。酸化第一銅は低温焼結し易い傾向にあるので特に好ましい。これらは、少量の不純物として金属塩若しくは金属錯体又はその双方を含んでもよい。
これらは、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0028】
本実施形態の分散体に含まれる粒子の平均二次粒径には、特に制限はない。しかしながら、好ましくは1,000nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは200nm以下、特に好ましくは80nm以下である。粒子の平均二次粒径は、5nm以上であることが好ましく、より好ましくは15nm以上、更に好ましくは20nm以上である。平均二次粒径とは、一次粒子が複数個集まって形成される凝集体(二次粒子)の平均粒径のことである。この平均二次粒径が1,000nm以下であると、基板上に微細パターンを形成し易い傾向があるので好ましい。平均二次粒径が5nm以上であれば、分散体の長期保管安定性が向上するため好ましい。微粒子の平均二次粒径は、例えば、大塚電子製、FPAR-1000を用いて、キュムラント法によって測定できる。
【0029】
二次粒子を構成する一次粒子の平均一次粒径の好ましい範囲は100nm以下であり、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは20nm以下である。平均一次粒径は、1nm以上であることが好ましく、より好ましくは2nm以上、更に好ましくは5nm以上である。平均一次粒径が100nm以下の場合、後述する焼成温度を低くすることができる傾向にある。このような低温焼成が可能になる理由は、粒子の粒径が小さいほど、その表面エネルギーが大きくなって、融点が低下するためと考えられる。また、平均一次粒径が1nm以上であれば、良好な分散性を得ることができるため好ましい。平均一次粒径は、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
【0030】
本実施形態の分散体における粒子の含有率は、分散体の全量に対して、0.50質量%以上70質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.0~60質量%、更に好ましくは5.0~50質量%である。この含有率が70質量%以下であれば、粒子の凝集を抑制し易くなる傾向がある。含有率が0.50質量%以上であると、焼成して得られる導電膜が過度に薄くならず、導電性が良好となる傾向があるので好ましい。
【0031】
本実施形態における粒子としては、市販品を用いてもよいし、合成物を用いてもよい。市販品としては、例えば、CIKナノテック製の平均一次粒径50nmの酸化第二銅微粒子が挙げられる。合成法としては、例えば、次の方法が挙げられる。
(1)ポリオール溶剤中に、水及び銅アセチルアセトナト錯体を加え、一旦有機銅化合物を加熱溶解させ、次に、反応に必要な量の水を後添加し、更に昇温して有機銅の還元温度において加熱して還元する方法。
(2)有機銅化合物(銅-N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン錯体)を、ヘキサデシルアミン等の保護剤の存在下、不活性雰囲気中で、300℃程度の高温で加熱する方法。
(3)水溶液に溶解した銅塩をヒドラジンで還元する方法。
【0032】
上記(1)の方法は、例えば、アンゲバンテ・ケミ・インターナショナル・エディション、40号、2巻、p.359、2001年に記載の条件で行うことができる。
上記(2)の方法は、例えば、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ・1999年、121巻、p.11595に記載の条件で行うことができる。
【0033】
上記(3)の方法において、銅塩としては、二価の銅塩を好適に用いることができ、その例として、例えば、酢酸銅(II)、硝酸銅(II)、炭酸銅(II)、塩化銅(II)、硫酸銅(II)等を挙げることができる。ヒドラジンの使用量は、銅塩1モルに対して、0.2モル~2モルとすることが好ましく、0.25モル~1.5モルとすることがより好ましい。
銅塩を溶解した水溶液には、水溶性有機化合物を添加してもよい。該水溶液に水溶性有機化合物を添加することによって該水溶液の融点が下がるから、より低温における還元が可能となる。水溶性有機化合物としては、例えば、アルコール、水溶性高分子等を用いることができる。
【0034】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等を用いることができる。水溶性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体等を用いることができる。
上記(3)の方法における還元の際の温度は、例えば-20~60℃とすることができ、-10~30℃とすることが好ましい。この還元温度は、反応中一定でもよいし、途中で昇温又は降温してもよい。ヒドラジンの活性が高い反応初期は、10℃以下で還元することが好ましく、0℃以下で還元することがより好ましい。還元時間は、30分~300分とすることが好ましく、90分~200分とすることがより好ましい。還元の際の雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気であることが好ましい。
この中でも、(3)の方法は操作が簡便で、且つ、粒径の小さい粒子が得られるので好ましい。
【0035】
[分散剤]
本実施形態の分散体の第1の態様における分散体は、反転印刷適性及び塗布膜平滑性の向上と、長期保管安定性向上と、を目的として、分散剤を含有している。以下に、該分散剤について詳細に記述する。
【0036】
本実施形態における分散剤は、上記の粒子に結合又は吸着可能な化学構造を有する。本実施形態における好ましい分散剤は、主骨格と、上記粒子に結合又は吸着可能な化学構造(以下、「結合性構造」ともいう。)と、を有する。
【0037】
このような分散剤が、本実施形態の分散体中で機能する様子を、図2に模式的に示した。図2において、中央の大きな丸が、金属及び金属酸化物粒子より成る群から選択される1種以上を含有する粒子である。分散剤は、曲線で示した主骨格が、四角形で示した結合性構造を介して、前記粒子に結合又は吸着していると推察される。このような形態をとり、静電反発、立体障害等によって粒子同士の融着を防止して、分散体中の粒子の分散状態を維持することにより、該分散体の長期保管安定性を向上させることができるものと推察される。更に、基材上に分散体を塗布した際に、粒子に結合又は吸着した分散剤の主骨格同士が絡み合うことにより、塗布膜の強度を向上することができ、このことによって、反転印刷適性を向上させることができる。
結合又は吸着とは、2物質間に水素結合、共有結合、金属結合、イオン結合、配位結合、分子間力、疎水相互作用、親水相互作用、π-π相互作用、σ-π相互作用、その他電子的相互作用等の、何らかの引力が働いている状態をいう。
【0038】
分散剤の構造は、特に制限されるものではない。例えば、図1(a)のように直鎖構造でもよいし;
図1(b)のように分岐構造でもよいし;
図1(c)のように、側鎖に結合性構造を有するグラフトポリマー様の構造でもよいし;
図1(d)のように、星形ポリマーの各末端に結合性構造を有する構造でもよいし;
これらの構造の複数種を組み合わせて成る構造でもよい。
【0039】
分散剤における結合性構造としては、例えば、アミノ基、チオール基、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、スクシンイミド骨格を有する官能基、ピロリドン骨格を有する官能基、セレノール基、ポリスルフィド基、ポリセレニド基、カルボキシル基、酸無水物骨格を有する官能基、スルホン酸基、ニトロ基、シアノ基等を挙げることができる他、下記の化学式に示す構造であってもよい。
【0040】
【化1】
【0041】
上記化学式において、nは1以上の整数であり、Xは分散剤の主骨格であり、Rは官能基である。上記化学式においてRで表される官能基としては、例えば、水素、ハロゲン、アルキル基(例えばメチル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基等)、アリール基(例えばフェニル基、ナフチル基、チエニル基等)、ハロアリール基(例えばペンタフルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、3,4,5-トリフルオロフェニル基等)、アルケニル基、アルキニル基、アミド基、アシル基、アルコキシ基(例えばメトキシ基等)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ基、ナフチル基等)、ハロアルキル基(例えばパーフルオロアルキル基等)、チオシアノ基、水酸基、アミノ基、チオール基、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、スクシンイミド骨格を有する官能基、ピロリドン骨格を有する官能基、セレノール基、ポリスルフィド基、ポリセレニド基、カルボン酸基、酸無水物骨格を有する官能基、スルホン酸基、ニトロ基、シアノ基、及びこれらを組み合わせた構造を挙げることができる。
【0042】
分散剤において、上記の粒子に結合又は吸着可能な化学構造としては、アミノ基、チオール基、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、スクシンイミド骨格を有する官能基、ピロリドン骨格を有する官能基、セレノール基、ポリスルフィド基、ポリセレニド基、カルボキシル基、酸無水物骨格を有する官能基、スルホン酸基、ニトロ基、及びシアノ基から成る群より選択される1種以上の官能基が好ましい。
【0043】
粒子に銀又は銅が含まれる場合には、アミノ基、ピロリドン骨格を有する官能基、ニトロ基、及びチオール基から選択される構造を、長期保管安定性の観点から好適に用いることができる。粒子に銅及び銅酸化物から選択される1種以上が含まれる場合には、スクシンイミド骨格を有する官能基、チオール基、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、及びホスホン酸エステル記、ニトロ基から選択される構造を、長期保管安定性の観点から好適に用いることができる。チオール基から成る結合性構造は、得られる導電性膜の抵抗値を減少させる効果を有するため、より好ましい。
【0044】
分散剤中の結合性構造の含有割合は、該分散剤に含まれる結合性構造が有する官能基のモル数の合計として、2.5×10-5~0.030モル/gであることが好ましく、1.0×10-4~0.0030モル/gであることがより好ましく、2.5×10-4~0.0010モル/gであることが更に好ましい。
分散剤の一分子中に含まれる結合性構造の数は、1個以上100個以下であることが好ましく、1個以上20個以下であることがより好ましく、1個以上10個以下であることが更に好ましい。分散剤一分子中に含まれる結合性構造が多すぎる場合、粒子同士を架橋し凝集させる傾向がある。しかしながら、分散剤一分子中に含まれる結合性構造の数が100個以下であれば十分な分散性を得ることができ、20個以下であれば粒子同士が凝集せず二次粒径を小さくすることができ、10個以下であれば比較的小さいエネルギーで粒子と分散剤との結合を解離することができるから、焼結が促進される。
【0045】
分散剤の主骨格としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、ポリシロキサン、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、
【0046】
ポリブテン、ポリペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリスルフィド、シリコーン樹脂等を用いることができる。特に、ポリエチレングリコール骨格、ポリププロピレングリコール骨格、ポリアセタール骨格、ポリブテン骨格、及びポリスルフィド骨格から選択される骨格を有する分散剤は、分解し易く、焼成後に得られる導電性膜中に残渣を残し難いため好ましく;
ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールから選択される骨格を有する分散剤は、印刷版に浸透し難く、印刷版が膨潤によって変形し難いため、より好ましい。印刷版には、後述する反転印刷に用いられる除去版、ブランケット等が含まれる。分散剤の主骨格中には、これらが単独で存在してもよいし、これらの共重合体が存在していてもよい。
【0047】
分散剤は、主骨格及び結合性構造とは別に、官能基を更に有していてもよい。この官能基としては、例えば、ハロゲン、アルキル基(例えばメチル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基等)、アリール基(例えばフェニル基、ナフチル基、チエニル基等)、ハロアリール基(例えばペンタフルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、3,4,5-トリフルオロフェニル基等)、アルケニル基、アルキニル基、アミド基、アシル基、アルコキシ基(例えばメトキシ基等)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ基、ナフチル基等)、ハロアルキル基(例えばパーフルオロアルキル基等)、チオシアノ基、水酸基等を挙げることができる。
分散剤として、具体的には、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルチオールを好適に用いることができる。
【0048】
前記分散剤は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリエチレングリコール換算の分子量分布曲線において、
分子量31以上1,000未満の領域に少なくとも1つのピークを有する低分子量分散剤と、
分子量1,000以上40,000以下の領域に少なくとも1つのピークを有する高分子量分散剤と、
を含有する。
ここで「ピーク」とは、分子量分布曲線における傾き(縦軸の強度値を横軸の分子量で微分した値)が正の値からゼロを介して負の値へと変化する明確なピークを意味し、分子量分布曲線の傾きの符号が変化しない、いわゆる「ショルダー」は含まない。ピークは、上記の各領域に1つずつ存在していてもよいし、上記領域のいずれか又はその双方に複数が存在してもよい。
【0049】
分散剤が、分子量31以上1,000未満の低分子量分散剤を含有することにより、塗布膜の結晶化が防止され、良好な平滑性を得ることができるため好ましい。この低分子量分散剤の分子量は、900以下であることが、緩く凝集した粒子を解離して該粒子の分散性を向上させることができるため、より好ましく、800以下であることが、塗膜の平滑性を向上させるため更に好ましい。この低分子量分散剤の分子量が31以上であれば粒子への高い湿潤効果が得られるため分散性が向上するため好ましく、70以上であれば良好な分散性が得られるためより好ましく、350以上であれば長期保管による保管安定性を向上するため更に好ましい。
【0050】
分散剤が、分子量1,000以上40,000以下の高分子量分散剤を含有することにより、塗布膜の強度が向上し、反転印刷時の除去性が向上するため、好ましい。この高分子量分散剤の分子量が1,500以上であれば、粒子に結合又は吸着した分散剤の立体障害により、該粒子同士の凝集を防止して、長期保管安定性を得ることができるため、より好ましい。この高分子量分散剤の分子量は、
40,000以下であれば、該分散剤が溶媒に溶解し易くなり、粒子及び分散剤の濃度を上げることができるため好ましく;
20,000以下であれば、長期保管安定性が向上するためより好ましく;
7,000以下であれば、高い分散性を得ることができるため、更に好ましい。
【0051】
上記のとおり、本実施形態における分散剤は、GPCで測定したポリエチレングリコール換算の分子量分布曲線において、低分子量分散剤と高分子量分散剤とが見られる。
GPC測定条件は、例えば以下のとおりである。
ポンプ:Waters616
RI検出器:島津RID-10A
オートサンプラー:島津SIL-10Avp
カラム:TSKgel G3000PWXI+G2500PWXI(7.8mmID×30cm)
カラム温度:40℃
溶離液溶媒:pH=3.5リン酸水溶液
流速:1.0ml/min
注入量:10μl
標準試料:ポリエチレンオキサイド(Aldrich社、PRODUCT No.02393)
【0052】
GPCは、分散剤を試料として測定してもよいし、分散剤以外の成分を含有する分散体を試料として測定してもよい。
分散体を測定試料とする際には、該分散体に下処理を加えてもよい。下処理をすることにより、分散体から分散剤を単離することができるため、好ましい。この下処理の方法としては、例えば、抽出、蒸留、濃縮、希釈、pH調整、酸の添加、塩基の添加、濾過、凝集剤の添加、加熱及び乾燥、冷却、真空乾燥、緩衝液の添加、イオン交換、遠心分離等を用いることができる。これらの下処理は、単独で行ってもよいし、これらの複数を組み合わせた複合的な下処理を行ってもよい。
【0053】
以下に、下処理の具体例として、酸の添加、塩基の添加、並びに加熱及び乾燥について説明する。
(1)酸の添加
本下処理方法は、分散体に酸を加えることによって金属又は金属酸化物の粒子を溶解したうえで、GPC測定を行う方法である。
分散体に加える酸としては、例えば、硫酸、硝酸、シュウ酸、酢酸、塩酸等を挙げることができる。得られた溶液中の金属イオンをイオン交換樹脂により他のイオン種に交換してもよい。この場合の他のイオン種としては、例えば、水素、ナトリウム、カルシウム、カリウム等を用いることができる。
酸を添加した後の溶液に、塩基を加えて溶液を中和したうえで測定に供してもよい。この場合の塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を挙げることができる。
上記の処理によって沈殿物が発生した場合には、該沈殿物を濾過したうえで測定に供することが好ましい。
上記酸溶液に、分散体の溶媒と混和しない溶剤を加え、有機成分を該溶剤中に抽出し、これを濃縮したうえで測定に供してもよい。
【0054】
(2)塩基の添加
本下処理方法は、分散体に塩基を加えることによって、金属又は金属酸化物の粒子と分散剤との間の結合を解離させたうえで、GPC測定を行う方法である。
分散体中の分散剤がカルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸等の酸性の構造を有している場合、該分散体に塩基を加えることにより、粒子と分散剤との結合を解離させることができる。このことを利用して、粒子と分散剤とを分離させて分析する方法である。
分離した粒子を遠心分離により沈殿させ、上澄みを分析してもよい。分離した分散剤を抽出して分析してもよい。
【0055】
(3)加熱及び乾燥
本下処理方法は、分散体を加熱及び乾燥することによって、金属又は金属酸化物の粒子と分散剤との間の結合を解離させたうえで、GPC測定を行う方法である。
分散体を加熱及び乾燥することによっても、粒子と分散剤との間の結合を解離させ、粒子を凝集させることができる。このことを利用して、粒子と分散剤とを分離させて分析する方法である。
分離した粒子及び分散剤に溶媒を加え、分散剤を抽出して得られた抽出液を分析してもよいし;
上記の抽出液に残留した粒子を濾別又は遠心分離によって除去して得られた溶液を分析してもよい。
【0056】
本実施形態の分散剤の第1の態様において、
GPCで測定したポリエチレングリコール換算分子量が1,000以上40,000以下である高分子量分散剤の割合は、
GPCで測定したポリエチレングリコール換算分子量が31以上1,000未満である低分子量分散剤100質量部に対して、
5質量部以上500質量部以下であることが好ましい。低分子量分散剤100質量部に対する高分子量分散剤の割合が、500質量部以下であれば塗布膜の結晶化を防止して平滑性を向上できるため好ましく、300質量部以下であれば長期保管安定性を向上させることができるためより好ましく、100質量部以下であれば高い分散性を得ることができるため更に好ましい。この値が5重量部以上であれば、塗膜強度が向上して反転印刷時の除去性が向上するため好ましい。この値は、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。
【0057】
分散剤における高分子量分散剤と低分子量分散剤との割合は、GPCで測定したポリエチレングリコール換算の分子量分布曲線において、分子量31以上1,000未満の領域に相当する面積と、分子量が1,000以上40,000以下の領域に相当する面積と、の比によって知ることができる。
【0058】
本実施形態の分散体の第1の態様における分散剤の含有量は、粒子100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上である。この分散剤の含有量は、粒子100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは30質量部以下である。粒子100質量部に対する分散剤の含有量が1質量部以上であれば、粒子が凝集せず、十分な分散性を得られる。粒子100質量部に対する分散剤の含有量が100質量部を超えると、分散剤の残渣によって得られる導電性膜の抵抗が増加する。
【0059】
本実施形態の分散体の第1の態様において、
低分子量分散剤の割合が1質量部~20質量部であり、
高分子量分散剤の割合が0.1質量部~10質量部である、
ことが、良好な反転印刷性を発現する観点から、好ましい。
【0060】
分散剤は、20℃において液体であると、平滑性の高い塗布膜が得られるため、好ましい。
【0061】
[硫黄原子含有物]
本実施形態の分散体は、第2の態様において、硫黄原子含有物を含有する。
ここで、硫黄原子含有物とは、分子構造の中に硫黄原子を含む有機物又は無機物である。本実施形態の分散体に硫黄原子含有物を添加することにより、塗膜に導電性を付与するための焼成温度を低くすることができ、高温焼成による基材のダメージを低減することができる。
導電性の付与が低温焼成で足りる理由としては、硫黄原子の還元力によって、
分散体に含有される粒子が金属粒子の場合には、その酸化が防止され、
分散体に含有される粒子が金属酸化物粒子の場合には、その還元が促進されるため、
低い焼成温度においても低抵抗の導電性膜が得られることによると考えられる。
【0062】
本実施形態の第2の態様において、硫黄原子含有物とともに使用される粒子としては、銅及び銅酸化物から成る群より選択される1種以上を含有する粒子であることが好ましい。その具体例としては、例えば、銅、酸化第一銅、酸化第二銅、その他の酸化数を持つ酸化銅等から成る粒子の他、
コア部が銅でありシェル部が酸化銅であるコア/シェル構造を有する粒子等が挙げられる。これらの中でも、酸化第一銅及び酸化第二銅は、分散性が優れる傾向にあるので好ましい。酸化第一銅は低温焼結し易い傾向にあるので特に好ましい。これらは、少量の不純物として金属塩若しくは金属錯体又はその双方を含んでもよい。
本実施形態における粒子としては、上記のうちの1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0063】
硫黄原子含有物としては、-SH基を有する化合物、硫黄単体、及び硫黄原子が複数連続して結合した構造を有する化合物の中から選択される1種以上を、形成される導電性膜の低抵抗化の観点から好適に用いることができる。硫黄-水素結合及び硫黄-硫黄結合は、解離に必要なエネルギーが小さく、活性なラジカル又はイオンを容易に生成することができる。そして、生成したラジカル又はイオンによって、金属の酸化を防止し、金属酸化物の還元が促進されると考えられる。すなわち、これらの硫黄原子含有物を、本実施形態の分散体に添加することにより、より小さいエネルギーで導電性膜を得ることができる。
【0064】
-SH基を有する化合物には、-SH基を有する有機物と、-SH基を有する無機物と、がある。
-SH基を有する有機物として例えば、高分子の主骨格に-SH基を導入した化合物を用いることができる。
【0065】
高分子の主骨格としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、ポリシロキサン、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、
【0066】
エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリスルフィド、シリコーン樹脂等を用いることができる。特に、ポリエチレングリコール骨格、ポリアセタール骨格、ポリブテン骨格、ポリスルフィド骨格は、分解し易いため好ましい。これらは単独で用いてもよいし、複数混合して用いてもよい。-SH基を有する有機物で、高分子の主骨格を有するものの具体例として、例えば、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルチオールを挙げることができる。
【0067】
-SH基を有する有機物としては、例えば、アルカンチオール、フルオロアルカンチオール、分岐アルカンチオール、アミド結合を有するチオール、エステル結合を有するチオール、炭素間二重結合を有するチオール、ジチオール、-SH構造を有する有機塩、オキシエチレン骨格を有するチオール、複素環骨格を有するチオール、-OH基を有するチオール、有機金属錯体骨格を有するチオール、アジド基を有するチオール、カルボキシ基を有するチオール、ホスホン酸基を有するチオール、NHS基を有するチオール、ハロゲンを有するチオール、芳香環を有するチオール、脂環式化合物骨格を有するチオール、ホウ素化合物骨格を有するチオール等を用いることができる。
【0068】
アルカンチオールとして、例えば、エタンチオール、ブタンチオール、デカンチオール、ヘプタンチオール、ヘキサデカンチオール、ヘキサンチオール、ノナンチオール、オクタデカンチオール、オクタンチオール、ペンタンチオール、ペンタデカンチオール、プロパンチオール、テトラデカンチオール、ウンデカンチオール等を用いることができる。
フルオロアルカンチオールとして、例えば、11-メルカプトウンデシルトリフルオロアセテート、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオール、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキサンチオール等を用いることができる。
分岐アルカンチオールとして、例えば、2-エチルヘキサンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、2-メチルー2-プロパンチオール、3-メチル-1-ブタンチオール、tert-ドデシルメルカプタン、tert-ノニルメルカプタン等を用いることができる。
【0069】
アミド結合を有するチオールとして、例えば、3-メルカプト-N-ノニルプロピオンアミド、11-メルカプトウンデカンアミド等を用いることができる。
シアノ基を有するチオールとして例えば、4-シアノ-1-ブタンチオール等を用いることができる。
エステル結合を有するチオールとして、例えば、ブチル3-メルカプトプロピオネート、3-メルカプトプロピオン酸メチル等を用いることができる。
炭素間二重結合を有するチオールとして、例えば、cis-9-オクタデセン-1-チオール等)、ジチオール(1,11-ウンデカンジチオール、1,16-ヘキサデカンジチオール、1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンジチオール、1,5-ペンタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,9-ノナンジチオール、2,2‘-(エチレンジオキシ)ジエタンチオール、2,3-ブタンジチオール、5,5’-ビス(メルカプトメチル)-2,2‘-ビピリジン、ヘキサ(エチレングリコール)ジチオール、テトラ(エチレングリコール)ジチオール、ベンゼン-1,4-ジチオール、1,4-ベンゼンジメタンチオール等を用いることができる。
【0070】
-SH構造を有する有機塩として、例えば、(11-メルカプトウンデシル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムブロマイド、11-アミノ-1-ウンデカンチオール塩酸塩、16-アミノ-1-ヘキサデカンチオール塩酸塩、3-アミノ-1-プロパンチオール塩酸塩、6-アミノ-1-ヘキサンチオール塩酸塩、8-アミノ-1-オクタンチオール塩酸塩等を用いることができる。
オキシエチレン骨格を有するチオールとして、例えば、(11-メルカプトウンデシル)テトラ(エチレングリコール)、トリエチレングリコールモノ-11-メルカプトウンデシルエーテル等を用いることができる。
複素環骨格を有するチオールとして、例えば、1(11-メルカプトウンデシル)イミダゾール、11-(1H-ピロール-1-イル)ウンデカン-1-チオール等を用いることができる。
【0071】
-OH基を有するチオールとして、例えば、1-メルカプト-2-プロパノール、3-メルカプト-1-プロパノール、4-メルカプト-1-ブタノール、6-メルカプト-1-ヘキサノール、8-メルカプト-1-オクタノール、9-メルカプト-1-ノナノール、10-メルカプト-1-デカノール、11-メルカプト-1-ウンデカノール、11-メルカプトウンデシルヒドロキノン等を用いることができる。
【0072】
有機金属錯体骨格を有するチオールとして、例えば、11-(フェロセニル)ウンデカンチオール、6-(フェロセニル)ヘキサンチオール等を用いることができる。
アジド基を有するチオールとして例えば、11-アジド-1-ウンデカンチオール等を用いることができる。
カルボキシ基を有するチオールとして、例えば、11-メルカプトウンデカン酸、12-メルカプトドデカン酸、3-メルカプトプロピオン酸、6-メルカプトヘキサン酸、8-メルカプトオクタン酸等を用いることができる。
ホスホン酸基を有するチオールとして、例えば、11-メルカプトウンデシルホスホン酸等を用いることができる。
NHS基を有するチオールとして、例えば、12-メルカプトドデカン酸NHSエステル等を用いることができる。
ハロゲンを有するチオールとして、例えば、3-クロロ-1-プロパンチオール等を用いることができる。
【0073】
芳香環を有するチオールとして、例えば、1,1’,4’,1”-テルフェニル-4-チオール、1-ナフタレンチオール、2-フェニルエタンチオール、4’-ブロモ-4-メルカプトビフェニル、4’-メルカプトビフェニルカルボニトリル、4,4’-ビス(メルカプトメチル)ビフェニル、4,4’-ジメルカプトスチルベン、4-(6-メルカプトヘキシルオキシ)ベンジルアルコール、4-メルカプト安息香酸、9-フルオレニルメチルチオール、ビフェニル-4,4-ジチオール、ビフェニル-4-チオール、p-テルフェニル-4,4”-ジチオール、チオフェノール等を用いることができる。
脂環式化合物骨格を有するチオールとして、例えば、1-アダマンタンチオール、シクロヘキサンチオール、シクロペンタンチオール等を用いることができる。
ホウ素化合物骨格を有するチオールとして、例えば、m-カルボラン-1-チオール、m-カルボラン-9-チオール等を用いることができる。
【0074】
上記のうち、特に、オキシエチレン骨格を有するチオールは分解し易いため好ましい。
これら-SH基を有する有機物は、単独で用いてもよいし、複数混合して用いてもよい。
-SH基を有する無機物としては例えば、チオ硫酸アンモニウム等を用いることができる。
【0075】
硫黄原子が複数連続して結合した構造を有する化合物とは、分子内に下記式(1):
【化2】
に示す構造を有する化合物である。硫黄原子が複数連続して結合した構造を有する化合物として、例えば、ジスルフィド、トリスルフィド、テトラスルフィド等のポリスルフィドを好適に用いることができる。特に、ジスルフィド、トリスルフィド、及びテトラスルフィドは、室温で安定であるため、分散体の長期保存が可能となり好ましい。
【0076】
硫黄原子が複数連続して結合した構造を有する化合物は、硫黄原子が複数連続して結合した構造の他に、ハロゲン原子、ニトロ基、アルキル基(例えばメチル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基等)、シアノ基、アリール基(例えばフェニル基、ナフチル基、チエニル基等)、ハロアリール基(例えばペンタフルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、3,4,5-トリフルオロフェニル基等)、アルケニル基、アルキニル基、アミド基、アシル基、アルキルカルボニル基、カルボキシ基、アルコキシ基(例えばメトキシ基等)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ基、ナフチル基等)、ハロアルキル基(例えばパーフルオロアルキル基等)、チオシアノ基、アルキルスルフォニル基、スルフォンアミド基、アミノ基、アルキルアミノ基(例えばメチルアミノ基等)、ジアルキルアミノ基(例えばジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等)、水酸基、ポリエチレングリコール基等を有していてもよい。ここで、ポリエチレングリコール基とは、下記式(2):
【化3】
{式中、nは1~1,300の整数である。}で表される官能基である。式(2)中のnとしては、1~500の整数であることが好ましく、1~250の整数であることがより好ましい。
【0077】
硫黄原子が複数連続して結合した構造を有する化合物としては、ポリマー骨格の一部に硫黄原子が複数連続して結合した構造を有する化合部を用いることもできる。この場合のポリマー骨格としては、高分子の主骨格に-SH基を導入した化合物における高分子の主骨格として上記に例示した骨格と同じ骨格を用いることができる。特に、ポリエチレングリコール骨格、ポリアセタール骨格、ポリブテン骨格、及びポリスルフィド骨格は、分解し易いため好ましい。これらは単独で用いてもよいし、複数混合して用いてもよい。
硫黄原子が複数連続して結合した構造を有する化合物として、具体的には、例えば、2,2’-ジチオジエタノール、ジメチルトリスルフィド、ビス(ペンタメチレン)チウラムテトラスルフィド等を用いることができる。
【0078】
硫黄原子含有物の数平均分子量は、特に制限はないが、50,000以下であることが好ましく、より好ましくは10,000以下である。数平均分子量50,000を超える化合物は分解し難く、残渣が抵抗成分となって得られる導電性膜の抵抗が高くなる。数平均分子量10,000以下の化合物は、分子内における硫黄濃度を大きくし易いため、硫黄の還元効果によって得られる導電性膜の抵抗がより低くなる。硫黄原子含有物の数平均分子量は、32以上であることが好ましい。
分子量は、低分子量化合物については、各種の質量分析法(MS)により測定することができる。一方、高分子量化合物については、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定できる。低分子量の目安としては分子量200未満であり、高分子量の目安としては分子量100以上である。
【0079】
上記GPC測定条件は例えば以下のとおりである。
ポンプ:Waters616
RI検出器:島津RID-10A
オートサンプラー:島津SIL-10Avp
カラム:TSKgel G3000PWXI+G2500PWXI(7.8mmID×30cm)
カラム温度:40℃
溶離液:pH=3.5リン酸水溶液
流速:1.0ml/min
注入量:10μl
標準試料:ポリエチレンオキサイド(Aldrich社、PRODUCT No.02393)
【0080】
硫黄原子含有物中に含まれる硫黄原子の質量割合は、0.06質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上であり、更に好ましくは3質量%以上である。この値が0.06質量%以上の場合に、有意な抵抗値の低減が見られる。0.5質量%以上において、最大の抵抗値の低減効果が得られる。硫黄原子含有物中に含まれる硫黄原子の質量割合が3質量%以上の化合物は、分散体への添加量が少量であっても。得られる導電性膜の抵抗値を低減する効果が発現する。硫黄原子含有物中に含まれる硫黄原子分の質量割合は、100質量%以下であってもよい。硫黄原子含有物中に含まれる硫黄原子分の質量割合が100質量%の化合物とは、硫黄単体のことである。この硫黄単体も、本実施形態における硫黄原子含有物として、好適である。
【0081】
本実施形態の分散体における硫黄原子含有物の含有量は、粒子100質量部に対して、10-4質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは1質量部以上である。この値は、50質量部以下であることが好ましく、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20以下である。硫黄原子含有物の含有量が10-4質量部未満では、得られる導電性膜における有意な抵抗低減効果が見られず;
0.1質量部以上であれば、特にプラズマ処理又はフラッシュランプアニール処理による抵抗減少効果を最大にすることができ;
1質量部以上であれば、加熱処理による抵抗減少効果を最大にすることができる。一方、この値が50質量部を超えると、硫黄原子含有物の残渣による抵抗増加により、有意な抵抗低減効果が見られない。
【0082】
本実施形態の分散体に含まれる高沸点成分及び不揮発成分中の、硫黄原子の質量割合は、分散体中の高沸点成分及び不揮発成分の合計に対して、0.003質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.025質量%以上、更に好ましくは0.15質量%以上である。この値は、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。ここで、高沸点成分とは、20℃における蒸気圧が0.010Pa以上20Pa未満の成分のことをいい、不揮発成分とは20℃における蒸気圧が0.01Pa未満の成分のことをいう。
本実施形態における硫黄原子含有物としては、特に、-SH基を有する無機物と、硫黄単体と、硫黄原子が複数連続して結合した構造を有する化合物と、は、活性が高く、低抵抗化効果がより大きいため、好ましい。
【0083】
分散体中の硫黄元素含有物は、例えば、核磁気共鳴法(NMR)、紫外-可視分光法(UV-Vis)、赤外分光法(IR)、ラマン分光法、質量分析法(MS)、元素分析法、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)、X線分析法、熱重量測定法、示差熱分析法等によって、同定及び定量することができる。硫黄元素含有物に含まれる硫黄原子の質量割合、並びに分散体に含まれる高沸点成分及び不揮発成分中の硫黄原子の質量割合は、それぞれ、元素分析法によって定量することができる。分散体中の硫黄原子含有物の含有量は、例えば、GPC、熱重量測定法等によって定量することができる。-SH基は、NMRによって同定することができる。硫黄元素が連続して結合した構造は、ラマン分光法により同定することができる。
【0084】
分散体を分析に供する前に、該分散体に下処理を施してもよい。この下処理の方法としては、例えば、抽出、蒸留、濃縮、希釈、pH調整、酸の添加、塩基の添加、濾過、凝集剤の添加、加熱、冷却、真空乾燥、緩衝液の添加、イオン交換、遠心分離、カラムクロマトグラフィ等を用いることができる。これらの下処理は、それぞれを単独で行ってもよいし、これらのうちの複数種を組み合わせた複合的な下処理を行ってもよい。このような下処理によって、分散体中の所望の成分を単離又は分離することができる。
【0085】
[その他の成分]
本実施形態の分散体は、上記のような粒子と、分散剤又は硫黄原子含有物と、を必須の成分として含有する。しかしながら本実施形態の分散体は、これら以外に、その他の成分を更に含有していてもよい。このようなその他の成分としては、例えば、表面エネルギー調整剤、還元剤(前述の硫黄原子含有物を除く。)、有機バインダ―、溶媒等を挙げることができることができる。これらの他に、第2の態様における分散体はリン酸基を有する化合物を更に含有していてもよい。
【0086】
(リン酸基を有する化合物)
リン酸基を有する化合物は、本実施形態の分散体が上記の粒子と、硫黄原子含有物と、を含有する、本実施形態の第2の態様における分散体に好ましく含有される。この場合、粒子中に好ましく存在する銅原子にリン酸基が吸着し、立体障害効果によって粒子の凝集を防止する。
リン酸基を有する化合物の重量平均分子量Mwは、特に制限はないが、300~30,000であることが好ましい。リン酸基を有する化合物の重量平均分子量Mwが300より低いと、得られる分散体の分散安定性が悪化する傾向がある。この値が30,000より高いと、塗布膜の焼成が困難になる。
【0087】
リン酸基を有する化合物の具体例としては、商品名として、例えば、ビックケミー社製の「Disperbyk-142」、「Disperbyk-145」、「Disperbyk-110」、「Disperbyk-111」、「Disperbyk-180」、「Byk-9076」等;
第一工業製薬製の「プライサーフM208F」、「プライサーフDBS」等
を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0088】
本実施形態の分散体がリン酸基を有する化合物を含有する場合、その含有量は、粒子100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上である。この値は、粒子100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは30質量部以下である。リン酸基を有する化合物の含有量が1質量部以上であれば、粒子が凝集せず、十分な分散性を得られる。リン酸基を有する化合物の含有量が100質量部を超えると、リン酸基を有する化合物の残渣によって得られる導電性膜の抵抗が増加する。
【0089】
(表面エネルギー調整剤)
本実施形態の分散体は、塗工性を向上させるため、表面エネルギー調整剤を含んでもよい。これにより、ブランケットへ分散体を塗布する時、得られる塗布膜の平滑性が向上し、従ってより均一な導電性膜が得られる。
表面エネルギー調整剤の具体例としては、商品名として、例えば、
Triton X-45、Triton X-100、Triton X、Triton A-20、Triton X-15、Triton X-114、Triton X-405、Tween #20、Tween #40、Tween #60、Tween #80、Tween #85、Pluronic F-68、Pluronic F-127、Span 20、Span 40、Span 60、Span 80、Span 83、Span 85等;
【0090】
AGCセイミケミカル製の「サーフロンS-211」、「サーフロンS-221」、「サーフロンS-231」、「サーフロンS-232」、「サーフロンS-233」、「サーフロンS-242」、「サーフロンS-243」、「サーフロンS-611」等;
スリーエム製の「NovecFC-4430」、「NovecFC-4432」等;
DIC製の「メガファックF-444」、「メガファックF-558」等
が挙げられる。中でも含フッ素界面活性剤が特に好ましく、AGCセイミケミカル製の「サーフロンS-211」、「サーフロンS-221」、「サーフロンS-231」、「サーフロンS-232」、「サーフロンS-233」、「サーフロンS-242」、「サーフロンS-243」、及び「サーフロンS-611」;スリーエム製の「NovecFC-4430」及び「NovecFC-4432」;並びにDIC製の「メガファックF-444」及び「メガファックF-558」が好適に用いられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0091】
本実施形態の分散体における表面エネルギー調整剤の添加量は、特に制限はないが、分散体の全量に対して、好ましくは0.010質量%以上であり、より好ましくは0.10質量%である。表面エネルギー調整剤の添加量は、分散体の全量に対して、好ましくは2.0質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以下である。表面エネルギー調整剤を0.010質量%以上含有する場合、分散体を塗布する時に、得られる塗布膜の膜厚が均一となり、塗布ムラが生じ難い傾向がある。一方で、塗布膜を焼成して得られる導電性膜において、表面エネルギー調整剤由来の残渣がなく、導電性を良好とするためには、表面エネルギー調整剤の添加量が2.0質量%以下であることが好ましい。
【0092】
(溶媒)
本実施形態の分散体は、粘度調製、塗工性向上等のために、溶媒を含有してもよい。
本実施形態の分散体における溶媒としては、該分散体の用途に応じて様々な溶媒を用いることができる。例えば、高い平滑性が要求される用途においては高沸点溶媒を用いることが好ましく、速乾性が要求される用途においては低沸点溶媒を用いることが好ましい。
【0093】
低沸点溶媒の20℃における蒸気圧は、20Pa以上150hPa以下であることが好ましく、より好ましくは100Pa以上100hPa以下、更に好ましくは300Pa以上20hPa以下である。溶媒の揮発速度を高く維持しつつ、分散体における粒子の分散安定性を確保するために、前記蒸気圧は150hPa以下であることが好ましい。一方で、分散体塗布膜にクラックが入らない程度の乾燥速度にするために、該蒸気圧は20Pa以上であることが好ましい。
【0094】
低沸点溶媒として、具体的には、例えば、水、酢酸エチル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルカーボネート、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、2-メチルブタノール、sec-ペンタノール、t-ペンタノール、3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、sec-ヘキサノール、2-エチルブタノール、sec-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、sec-オクタノール、n-ノニルアルコール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、n-デカノール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等を用いることができる。反転印刷時にブランケットが膨潤せず、ブランケットを長寿命化させることができるため、溶媒は親水性溶媒であることが好ましく、中でも、水と、炭素数10以下のモノアルコールと、から成る混合溶媒がより好ましい。炭素数10以下のモノアルコールの中でも、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、sec-ブタノール、及びt-ブタノールから成る群より選択される1種以上が、分散性、揮発性、及び粘性が特に適しているので、更に好ましい。これらのモノアルコールは、それぞれ単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。モノアルコールの炭素数が10を超えると、粒子の分散性の低下を来たすから、モノアルコールの炭素数は10以下であることが好ましい。
【0095】
高沸点溶媒の20℃における蒸気圧は、0.010Pa以上20Pa未満であることが好ましく、より好ましくは0.05Pa以上16Pa未満、更に好ましくは0.1Pa以上14Pa未満である。レベリング効果によって分散体塗布膜の平滑性を維持するために、該蒸気圧は20Pa未満であることが好ましい。一方で、後述する焼成処理によって容易に除去することができ、得られる導電性膜中に除去しきれなかった溶媒残渣が混入してその導電性を悪化させることを抑制するためには、該蒸気圧は0.010Pa以上であることが好ましい。
【0096】
高沸点溶媒として、具体的には、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3メトキシ-3-メチルーブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、オクタン、ノナン、デカン、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,5-ヘキサンジオール、2,4-ヘプタンジオール、2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、トリ1,2-プロピレングリコール、グリセロール等を用いることができる。反転印刷時にブランケットが膨潤せず、ブランケットを長寿命化させることができるため、溶媒は親水性溶媒であることが好ましく、中でも炭素数10以下の多価アルコールがより好ましい。これらの多価アルコールは、それぞれ単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。多価アルコールの炭素数が10を超えると、微粒子の分散性が低下する場合がある。
上記低沸点溶媒と高沸点溶媒を混合して用いてもよい。
【0097】
溶媒の使用量は、塗布方法に応じて選択することができる。
例えば、本実施形態の分散体をインクジェット印刷に適用する場合、該分散体における高沸点成分及び不揮発成分の合計の含有量が、1~40質量%となる量とすることが好ましく、10~20質量%となる量とすることがより好ましい。この値を1質量%以上とすることにより、塗布膜の膜厚が十分に厚くなり、焼成処理によって導電性の高い銅配線を形成することができる。この値を40質量%以下とすることにより、分散剤の粘度をインクジェット印刷に適した範囲に調整することができ、更に20質量%以下とすることにより、インクジェット印刷機の印刷ヘッドの目詰まりが防止される。
本実施形態の分散体をスクリーン印刷に適用する場合、該分散体における高沸点成分及び不揮発成分の合計の含有量が、40~90質量%となる量とすることが好ましく、60~85質量%となる量とすることがより好ましい。
本実施形態の分散体を反転印刷に適用する場合、該分散体における高沸点成分及び不揮発成分の合計の含有量が、5~60質量%となる量とすることが好ましく、10~30質量%となる量とすることがより好ましい。
【0098】
[分散体の調製]
分散体は、前述の粒子と、分散剤と、任意的に配合されるその他の成分とを、それぞれ所定の割合で混合し、分散処理することにより、調製することができる。前記分散処理は、例えば、超音波法、ミキサー法、3本ロール法、2本ロール法、アトライター、バンバリーミキサー、ペイントシェイカー、ニーダー、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル等の適宜の装置を用いて行うことができる。
本実施形態の分散体を調製するに当たって、前述の粒子及び分散剤、並びに任意的に配合される溶媒、表面エネルギー調整剤、及びその他の成分の濃度を適宜に設定することによって、得られる分散体の粘度及び表面エネルギーを調整することができる。
【0099】
本実施形態の分散体の25℃における粘度には特に制限はないが、コーン・プレート型回転粘度計を用いて測定したずり速度が1×10-1-1~1×10-1である領域において、好ましくは100mPa・s以下、より好ましくは30mPa・s以下である。25℃における粘度は、印刷時の均質な塗布膜の形成し易さから、100mPa・s以下が好ましい。
本実施形態の分散体の25℃における表面自由エネルギーに特に制限はないが、好ましくは40mN/m以下、より好ましくは35mN/m以下、更に好ましくは30mN/m以下である。後述する反転印刷において、分散体のブランケットに対する濡れ性の点から、25℃における表面自由エネルギーは40mN/m以下が好ましい。表面自由エネルギーは接触角計を用いて測定することができる。
【0100】
[導電性膜の形成方法]
本実施形態の分散体は、これを基板上に塗布(印刷)し、焼成処理を施すことによって、所望のパターンを有する導電性膜から成る導電配線を形成することができる。
本実施形態における導電性膜の形成方法は、
基材上に本実施形態の分散体を塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を加熱焼成する工程と
を含むことを特徴とする。
以下、本実施形態における導電性膜の形成方法について、詳細に説明する。
【0101】
(基材)
本実施形態における導電性膜の形成方法に用いられる基材としては、一般的なプリント基板の他に、樹脂基材、ガラス基材、シリコンウェハ、紙基材等を用いることができる。一般的なプリント基板とは、紙フェノール基板、紙エポキシ基板、ガラスコンポジット基板、ガラスエポキシ基板、テフロン(登録商標)基板、アルミナ基板、低温同時焼成セラミックス(LTCC)基板等である。
【0102】
樹脂基材としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、ポリシロキサン、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、
【0103】
ポリブテン、ポリペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シリコーン樹脂等から成る基材を用いることができる。特に、PET及びPENは、低コストで入手可能であり、事業の観点から有意であり、好ましい。
基材の厚さは、例えば1μm~10mmとすることができ、好ましくは25μm~250μmである。基材の厚さが250μm以下であれば、作製される電子デバイスを、軽量化、省スペース化、及びフレキシブル化できるため好ましい。
【0104】
(基材の前処理)
塗布膜の形成に先立って、基材を洗浄してもよい。基材の洗浄方法として、例えば、薬液を用いる湿式処理;コロナ放電、プラズマ、UV、オゾン等を用いる乾式処理等を用いることができる。
上記のようにして形成された塗布膜が溶媒を含有する場合には、次いで該塗布膜から、好ましくは溶媒を除去する。この溶媒の除去は、塗布後の膜を、例えば20~150℃において、例えば1分~2時間静置する方法によることができる。この場合の加熱方法としては、例えば、熱風乾燥、赤外線乾燥、真空乾燥等の手法を用いることができる。
【0105】
(塗布膜形成方法)
本実施形態の分散体を用いて上記のような基材上に塗布膜を形成する方法は、特に制限されない。例えば、スクリーン印刷、スプレーコート、スピンコート、スリットコート、ダイコート、バーコート、ナイフコート、オフセット印刷、反転印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、ディスペンサ印刷、グラビアダイレクト印刷、グラビアオフセット印刷等の方法を用いることができる。これらの方法のうち、より高精細のパターニングを行うことができるという観点から、反転印刷が好ましい。
【0106】
(反転印刷)
本実施形態の分散体は、反転印刷によって基板上にパターン状の塗布膜を形成するために、特に好適に用いることができる。
反転印刷法においては、先ず、ブランケットの表面に均一な厚みの塗布膜を形成する。
ブランケットの表面は、通常、シリコーンゴムから構成されている。反転印刷においては、このシリコーンゴムに対して分散体が良好に付着し、均一な塗布膜が形成される必要がある。そのために、本実施形態の分散体の粘度及び表面自由エネルギーを、前述した範囲に選択することが望ましいのである。
【0107】
上記のようにして表面に均一な分散体塗膜が形成されたブランケットの表面を、次いで、凸版に接触させて押圧し、該凸版の凸部の表面にブランケット表面上に形成された塗布膜の一部を付着させて転移させる。これにより、ブランケットの表面に残った塗布膜には、所望の印刷パターンが形成される。
そして、この状態のブランケットを被印刷基材の表面に押圧し、該ブランケット上に残ったパターン状の塗布膜を転写することにより、被印刷基材上にパターン状の塗布膜を形成することができる。
【0108】
(塗布膜の膜厚)
塗布膜の膜厚は、塗布方法に応じて選択することができる。
例えば、インクジェット印刷を適用する場合の塗布膜の膜厚は、溶媒除去後の値として、0.1~10μmとすることが好ましく、0.5~5μmとすることがより好ましい。
スクリーン印刷を適用する場合には、溶媒除去後の塗布膜厚値として、1~100μmとすることが好ましく、10~50μmとすることがより好ましい。
反転印刷を適用する場合には、溶媒除去後の塗布膜厚値として、0.01~5μmとすることが好ましく、0.1~1μmとすることがより好ましい。
塗布膜の表面粗さ(Ra)としては、12nm以下であることが好ましく、7nm以下であることがより好ましく、4nm以下であることが更に好ましい。Raが12nm以下であれば、反転印刷時に塗布膜が除去版と密着し、十分な除去性が得られる傾向がある。Raが7nm以下であれば、得られる導電性膜においても平坦な膜表面が維持される傾向がある。Raが4nm以下であれば、焼成ムラが非常に小さく、均一な電気特性が得られる傾向がある。
【0109】
上記のようにして形成された塗布膜が溶媒を含有する場合には、次いで該塗布膜から、好ましくは溶媒を除去する。この溶媒の除去は、塗布後の膜を、例えば20~150℃において、例えば1分~2時間静置する方法によることができる。この場合の加熱方法としては、例えば、熱風乾燥、赤外線乾燥、真空乾燥等の手法を用いることができる。
【0110】
(塗布膜)
本実施形態の分散体を塗布することにより形成される塗布膜は、
第1の態様の分散体を使用した場合には、金属粒子又は金属酸化物粒子から選択される粒子と、分散剤と、を含み、
上記分散剤は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリエチレングリコール換算の分子量分布曲線において、分子量31以上1,000未満の領域に少なくとも1つのピークを有する低分子量分散剤と、分子量1,000以上40,000以下の領域に少なくとも1つのピークを有す高分子量分散剤と、を含み;
第2の態様の分散体を使用した場合には、銅及び銅酸化物からなる群より選択される1種以上を含有する粒子と、
-SH基を有する化合物、硫黄単体、及び硫黄原子が複数連続して結合した構造を有する化合物から成る群より選択される1種以上の硫黄原子含有物と、
を含む。
【0111】
これらの膜は、塗布に使用した分散体が含有する成分のうちの溶媒以外の成分を、好ましくはその化学構造及び組成比を維持したまま含有する。従って、上記膜の構成成分については、分散体の構成成分として上述したところが好ましくはそのまま妥当する。
【0112】
本実施形態の塗布膜は、曲げ可能であることが好ましい。曲げ可能な曲率半径としては、1,000mm以下であることが好ましく、500mm以下であることがより好ましく、100mm以下であることが更に好ましい。1,000mm以下であれば人間の胴体に装着することが可能となり、500mm以下であれば人間の脚部に装着することが可能となり、100mm以下であれば人間の上肢に装着することが可能となる他、ロールトゥロールの製造方法を適用することが可能となる。
曲率半径の下限値は、例えば、0.1mm以上とすることができる。
【0113】
(加熱焼成処理〉
上記のようにして形成された塗布膜を、次いで加熱して焼成処理を施すことにより、前記基材上に導電性膜を形成することができる。
本実施形態の導電性膜の製造方法における加熱焼成方法としては、塗布膜中に含有される粒子が融着して、金属微粒子の焼結膜を形成することができる方法であれば特に制限はない。
【0114】
本発明の導電膜の製造方法における焼成は、例えば、焼成炉等の熱媒体を用いる方法によって行ってもよいし、プラズマ、紫外線、真空紫外線、電子線、赤外線ランプアニール、フラッシュランプアニール、レーザー等を用いて行ってもよい。これらのうち、プラズマ処理、フラッシュランプアニール処理、又は熱媒体との接触処理によって行われることが好ましい。
【0115】
特に、フラッシュランプアニール処理及びプラズマ処理は、無機物は強く加熱するが有機物はあまり加熱しないという特徴を有している。そのためこれらの方法による加熱は、粒子のみを加熱し、基材には熱ダメージを与えない。従って、PET等の安価であるが耐熱性の乏しい樹脂を基材に用いることができ、好ましい。特にプラズマ処理は、無機物表面のみが加熱される傾向があり、伝熱による基材へのダメージも少ないため、より好ましい。
【0116】
(熱媒体との接触による加熱)
本実施形態における加熱焼成を熱媒体との接触による場合には、加熱焼成後に得られる導電性膜を酸化させないため、塗布膜の焼成は非酸化性雰囲気中において行うことが好ましい。分散体に含有される粒子が金属酸化物を含む場合には、該金属酸化物の還元を促進し、得られる導電性膜の抵抗をできるだけ低減するために、塗布膜の焼成は還元性雰囲気下において行うことが好ましい。
非酸化性雰囲気とは、酸素等の酸化性ガスを含まない雰囲気である。この非酸化性雰囲気としては、不活性雰囲気と還元性雰囲気とがある。不活性雰囲気とは、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素等の不活性ガスで満たされた雰囲気である。還元性雰囲気とは、水素、一酸化炭素等の還元性ガスが存在する雰囲気を指す。
【0117】
上記のガスを焼成炉中に充填して密閉系として分散体塗布膜を焼成してもよい。焼成炉を流通系にしてこれらのガスを流しながら分散体塗布膜を焼成してもよい。分散体塗布膜を非酸化性雰囲気で焼成する場合には、焼成炉中を一旦真空に引いて焼成炉中の酸素を除去した後に、非酸化性ガスで置換することが好ましい。
熱媒体との接触処理は、加圧雰囲気下で行なってもよいし、減圧雰囲気下で行なってもよい。
【0118】
(プラズマ処理による加熱)
本実施形態におけるプラズマ処理とは、具体的には、試料を設置した空間にプラズマを発生させることにより、前記試料をプラズマに暴露させる処理である。
プラズマの発生方法に特に指定はないが、例えば、直流アーク放電、高周波電磁場、マイクロ波等を利用する方法を用いることができる。特に、マイクロ波を利用する方法は、低温でプラズマを発生することができるから、基材に与える熱ダメージが小さいため、好ましい。マイクロ波とは、具体的には、周波数が300MHz以上3THz以下の電磁波のことをいう。マイクロ波の中心周波数は、2GHz以上4GHz以下であることが好ましく、2.4GHz以上2.5GHz以下であることが更に好ましい。
【0119】
マイクロ波プラズマを発生させる装置は、例えば、マイクロ波発振器、伝送回路、アンテナ、及び放電容器から構成される。これらに加え、必要に応じて磁場発生装置を、更に用いてもよい。この装置において、プラズマは、前記放電容器内に発生する。マイクロ波発振器としては、例えば、クライストロン、マグネトロン、ジャイロトロン等を用いることができる。伝送回路としては、例えば、矩形導波管、円形導波管、同軸線路等を用いることができる。伝送回路の途中に、パワーモニタ、及び反射電力を吸収するダミーロードを取り付けてもよい。装置の構造としては、例えば、上部に伝送線路を有し、下部に放電容器を有し、該伝送線路と該放電容器とが、石英窓を介して接続され、試料台が該放電容器下部に設置されていることが好ましい。
マイクロ波の出力に特に指定はないが、100W以上3kW以下の出力であることが好ましい。マイクロ波の出力は、処理中一定でもよいし、途中で変化させてもよい。
【0120】
試料台の温度に特に指定はないが、30℃以上150℃以下であることが好ましい。この温度が150℃以下であれば、基材として、PET等の耐熱性の低い汎用樹脂基板を用いることができる。30℃以上であれば緻密な導電性膜が得られる。
プラズマ処理時の周囲雰囲気に特に指定はないが、還元性雰囲気であることが好ましい。周囲雰囲気は、例えば、放電容器内に適当なガスを流すことにより、制御することができる。ガスの流量に特に指定はないが、10SCCM以上1,000SCCM以下であることが好ましく、50SCCM以上5,600SCCM以下であることがより好ましく、100SCCM以上400SCCM以下であることが更に好ましい。特に、不活性ガスに少量の水素を混合して成る混合ガスを流すことによって還元性雰囲気を形成することが好ましい。この混合ガス中の不活性ガスとしては、例えば、窒素;ヘリウム、アルゴン等の希ガス等を用いることができる。混合ガス中の水素の含有量としては、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以上6質量%以下である。
【0121】
放電容器内の圧力は、大気圧でもよいし、減圧されていてもよい。
プラズマ処理時間に特に指定はないが、10秒以上30分以下であることが好ましく、30秒以上10分以下がより好ましく、1分以上5分以下が更に好ましい。
【0122】
(フラッシュランプアニール処理による加熱)
本実施形態におけるフラッシュランプアニール処理とは、試料に対して、エネルギー密度の高い光をパルス照射することにより、該試料を加熱する処理である。
フラッシュランプアニール処理に用いる光源としては、例えば、キセノンランプ、クリプトンランプ等を用いることができる。
光源の波長は、可視光領域であれば、透明樹脂基板へ熱ダメージを与えることなく塗布膜を焼成することができるため、好ましい。光源の波長は、カラーフィルタを介することにより、容易に制御することができる。
パルス当たりのエネルギーとしては、特に指定はないが、50J以上3,000J以下であることが好ましく、100J以上2,000J以下であることがより好ましく、150J以上1,500J以下であることが更に好ましい。
【0123】
パルス時間には特に指定はないが、10μ秒以上100m秒以下であることが好ましく、50μ秒以上10m秒以下であることがより好ましく、100μ秒以上5m秒以下であることが更に好ましい。ここで、パルス時間とは、パルス光照射のためにランプに電力を投入した時刻から、パルス光消灯のためにランプへの電力供給を停止した時刻までの時間をいう。
試料に対し、複数回パルス光を照射してもよい。パルス間隔に特に指定はないが、10μ秒以上1秒以下であることが好ましい。ここで、パルス間隔とは、パルス光の照射のためにランプに電力を投入した時刻から、次のパルス光の照射のためにランプに電力を投入した時刻までの時間をいう。
試料台の温度に特に指定はないが、30℃以上150℃以下であることが好ましい。この温度が150℃以下であれば、基材として、PET等の耐熱性の低い汎用樹脂基板を用いることができる。30℃以上であれば、緻密な導電性膜が得られる。
【0124】
フラッシュランプアニール処理時には、容器内にガスを流してもよい。この場合、ガス流によって試料が冷却されるため、基材の熱ダメージを低減することができる。
フラッシュランプアニール処理時の周囲雰囲気に特に指定はないが、還元性雰囲気であることが好ましい。この還元性雰囲気の具体例及びガス流量については、プラズマ処理時の還元性雰囲気について上記したところと同様である。
フラッシュランプアニール処理の後に、更に、加圧処理を行ってもよい。フラッシュランプアニール処理後に試料を加圧することによって、形成された導電性膜をより緻密にすることができるため、好ましい。加圧方法としては、例えば、ローラープレス、平板プレス等を用いることができる。特にローラープレスは大面積のプレスに向いているため、好ましい。
【0125】
[本実施形態の方法の利点]
本実施形態の方法によれば、基材上に本実施形態の分散体を所望のパターンに直接描画してパターン状の塗布膜及び導電性膜を形成することができる。そのため、従来のフォトレジストを用いる手法と比較して、生産性を著しく向上させることができる。
更に、従来のフォトリソグラフィーでは作製が困難であった、直径7インチ以上の導電性膜積層体を、本実施形態の方法によって容易に製造することができる。
【0126】
[導電性膜]
本実施形態の方法によって得られた導電性膜は、その表面粗さ(Ra)を、20nm以下、10nm以下、又は5nm以下とすることができる。Raが20nm以下であれば、局所的に膜厚の薄い場所が少なく、断線による不良を低減することができる。Raが10nm以下であれば、該導電性膜上に他の膜又は素子を更に積層する際に、欠陥が生じ難い傾向がある。Raが5nm以下であれば、該導電性膜上に更に積層する他の材料の結晶性を向上させることができるから、例えば、薄膜トランジスタの電極の形成に好適に用いることができる。
本実施形態の導線性膜の抵抗率は、200μΩcm以下であることが好ましく、100μΩcm以下であることがより好ましく、30μΩcm以下であることが更に好ましい。
【0127】
本実施形態の導電性膜は、曲げ可能であることが好ましい。曲げ可能な曲率半径は,
1,000mm以下であることが好ましく、500mm以下であることがより好ましく、100mm以下であることが更に好ましい。1,000mm以下であれば人間の胴体に装着することが可能となり、500mm以下であれば人間の脚部に装着することが可能であり、100mm以下であれば人間の上肢に装着することが可能となる他、ロールトゥロールの製造方法を適用することが可能となる。
【0128】
本実施形態の導電性膜は、少なくとも金属、金属酸化物、及び有機物を含有する。該導電性膜を厚さ方向に2分割したときに、片側半分のうちの一方は金属の濃度が高く、もう一方は金属酸化物及び有機物の濃度が高い。そして、金属濃度の高い側が導電性膜の外表面側(基板に接する面と反対の側)に存在するから、本実施形態の導電性膜は高い導電性を示すのである。
本実施形態の好ましい態様によると、該導電性膜は、主として金属層から成る表層と、微細な空孔を有する下層と、から成る2層膜である。
【0129】
表層は、緻密な金属層であってもよいし、微細な空孔を含む金属層でいてもよい。緻密な金属層は、高い導電性を発現するため好ましい。微細な空孔を含む金属層は、軽量且つ柔軟であるため壊れ難く好ましい。この微細な空孔を含む金属層は、表面積を大きくすることができるから、種々の積層材料との密着性を高くすることができる利点がある。そのため、例えば、はんだ付け強度を高くすることができ、或いは、表面への吸脱着、表面の酸化還元等を利用するケミカルセンサとしても好適に用いることができる。
【0130】
導電性膜の下層は、加熱焼成前の塗膜と類似の構成を有するものと推察される。
【0131】
表層と下層との厚みの比は、塗膜を加熱焼成するときの条件によってコントロールすることができる。すなわち、加熱温度を高くするほど、加熱時間を長くするほど、プラズマ又はフラッシュランプの照射エネルギー強度を高くするほど、表層の厚み比を大きくすることができる。
【0132】
表層に含まれる金属の相対元素濃度は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましく、100%であってもよい。表層に含まれる金属元素が50%以上であれば良好な導電性を発現することができ、80%以上であれば高い導電性を得ることができる。
表層に含まれる金属酸化物由来の酸素の相対元素濃度は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、0%であってもよい。
【0133】
下層に含まれる金属の相対元素濃度は、20%以上であることが好ましく、50%以上であることが好ましく、75%以上であることがさらに好ましく;95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましく、85%以下であることがさらに好ましい。この値が20%以上であれば表層との間に高い密着性が得られ、90%以下であれば基材との間に高い密着性が得られる。
下層に含まれる金属酸化物由来の酸素の相対元素濃度は、1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく;50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。この値が1%以上であれば基材と間の密着性が向上する。この値が50%以下であれば、導電性の高い表層との間の密着性が向上する。
【0134】
導電性膜に含まれるフッ素の相対元素濃度は、0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく;5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましい。導電性膜が、疎水性のフッ素を0.1%以上含有することにより、水による金属の腐食を防止することができる。しかしながら、フッ素を5%以上含有する場合は導電性が低下する場合がある。これらのことを考慮すると、上記の範囲が好ましい。上記のフッ素の相対元素濃度は、導電性膜の全体についての値である。
【0135】
導電性膜における相対元素濃度は、各種元素分析法によって測定することができる。元素分析法としては、例えば、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)、二次イオン質量分析法(SIMS)、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)、エネルギー分散型X線分析法(EDX)、グロー放電質量分析法(GDMS)、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)、X線光電子分光法(XPS)等を挙げることができる。特にXPSは原子の結合状態の情報も得られるため好ましい。ここで相対元素濃度とは、膜中に含まれる水素及びヘリウムを除くすべての元素に対するある元素の存在割合を、atomic%で表した値のことをいう。XPS測定の条件としては、例えば以下を例示できる。
使用機器:アルバック・ファイ社製、PHI5000 VersaProbe II
励起源:単色化Al Kα 15kV×3.3mA
光電子取出角:45度
Pass Energy:117.4eV(Survey scan)、23.5eV(Narrow scan)
測定値を相対元素濃度に換算するために用いる相対感度係数は、装置付属の値を用いることができる。相対感度係数の一例を以下に示す。
C 1s:0.314
O 1s:0.733
F 1s:1.000
Cu 2p3/2:2.626
【0136】
測定対象の表面をエッチングした後に上記のXPS測定を行うことにより、測定対象内部の相対元素濃度を測定することができる。エッチングの方法としては、測定対象を溶解又は腐食することのできる薬液を用いたウェットエッチング;反応性ガス、イオン、ラジカル、レーザー等によるドライエッチングを挙げることができる。
ドライエッチングに用いるイオン、ラジカル等は、例えば、レーザー、マイクロ波、グロー放電、アーク放電、コロナ放電等によって生成することができる。生成したイオン等は、加速電圧によって加速したうえでエッチングに供してもよい。加速された高エネルギーのイオンは、試料表面に衝突することにより、試料をスパッタすることができる。
ドライエッチング装置としては、例えば、UV-オゾン洗浄装置、プラズマ洗浄装置、コロナ放電装置、スパッタ装置、反応性イオンエッチング装置、イオンビーム装置、収束イオンビーム装置、ガスクラスタイオンビーム装置、ナノ秒パルスレーザー装置、フェムト秒パルスレーザー装置等が例示される。
エッチング条件としては、例えば以下を例示することできる。
使用機器:アルバック・ファイ社製、PH15000 VersaProbe II
イオン種:アルゴンモノマーイオン
加速電圧:2kV
ラスター範囲:2mm四方
スパッタ間隔:1分
試料電流:1.36μA
エッチング及び元素分析を交互又は同時に行うことにより、膜の厚み方向の相対元素濃度プロファイルを取得することができる。エッチング及び元素分析は、真空中で行うことが好ましい。エッチング及び元素分析を大気中で行うと、エッチングによって露出した試料表面が大気暴露によって汚染、変質等してしまい、正確な分析を損なうことになるからである。エッチング及び元素分析を真空中で連続して行う手法としては、例えば、SIMS、スパッタ等と、XPS、AES、TOF-SIMS等とを併用する手法等が挙げられる。これらのうち、特にスパッタとXPSとの併用が好ましい。
厚み方向の相対元素濃度プロファイルは、例えば、装置としてアルバック・ファイ社製、PH15000 VersaProbeIIを使用し、上記XPS測定条件及びエッチング条件を使用することにより好適に取得することができる。
導電性膜の最表面から5nm程度は、焼成後に酸化され易く、雰囲気中の有機物を吸着し易い性質を有する。そのため、表層を表すデータとしては、最表面から5nm以上深い層のデータを使用することが好ましい。
【0137】
本実施形態の導電性膜は、基材と下層との間、及び、下層と上層との間の結合が強いため、高い密着性を発現する。
【0138】
[本発明の適用例]
以上述べてきたとおり、本実施形態によれば、微細化されたパターンを有する平滑性の高い導電性膜を得ることができる。このような導電性膜は、例えば、プリント基板、フレキシブルプリント基板、電磁波シールドシート、半導体デバイス(薄膜トランジスタ、ダイオード、強誘電体メモリ等)、メタルメッシュ透明導電膜等に好適に利用することができる。
【0139】
本実施形態をメタルメッシュ透明導電膜に適用する場合について説明する。
メタルメッシュ透明導電膜は、透明基材上に、幅50μm以下の金属配線がメッシュ状に形成されたものをいう。このメタルメッシュ透明導電膜は、見かけ透明でありながら表面が電気的に低抵抗である特徴を有している。幅50μm以下の構造体は視認が困難であるため、メタルメッシュ透明導電膜の金属配線は基材上に存在しないかのように見える。更に、金属配線の存在しない領域(開口部)は光を透過する。そのため、メタルメッシュ透明導電膜は透明体として視認される。
本実施形態の分散体は、このメタルメッシュ透明導電膜における配線を形成する材料として、好適に利用することができる。
【0140】
本実施形態の分散体をメタルメッシュ透明導電膜の配線形成に適用する場合、メタルメッシュ透明導電膜の開口部の面積が該導電膜の表面全体の面積に占める割合は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。この割合が50%以上であれば、該メタルメッシュ透明導電膜は透明体として認識され;80%以上であれば、該メタルメッシュ透明導電膜をディスプレイに用いた際に、環境光の反射量が少なくなり、屋外でも画面を十分認識できるようになり;90%以上であれば、該メタルメッシュ透明導電膜をディスプレイに用いた際に、ギラツキを低減することができる。配線の幅は50μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることが更に好ましい。この幅が50μm以下であれば、該メタルメッシュ透明導電膜が透明体として認識され;10μm以下であれば、タッチパネル用透明導電膜に用いるのに十分な光線透過率とメッシュ密度とを得ることができ;2μm以下であれば、メッシュ上に均一性の高い電界を形成することができる。
【0141】
本実施形態の分散体は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、及び電子ペーパーのコモン電極;有機EL照明の光取り出し電極;等におけるメタルメッシュ透明導電膜の配線を形成するために、好適に利用できる。
【0142】
次に、本実施形態を薄膜トランジスタに適用する場合について説明する。
薄膜トランジスタは、ゲート電極、ゲート絶縁膜、半導体、ソース電極、及びドレイン電極が積層されて成る電子デバイスである。本実施形態の分散体は、ゲート電極、ソース電極、又はドレイン電極を形成する材料として、好適に利用することができる。
ソース電極-ドレイン電極間距離(チャネル長)は、50μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることが更に好ましい。チャネル長が小さいほど、薄膜トランジスタの動作周波数が向上する。
【実施例
【0143】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
以下に示す比較例1-1~1-10及び実施例1-1~1-16で得られた分散体は、それぞれ、以下のようにして評価した。
【0144】
(1)分散体の分散性
得られた分散体につき、目視により濁りの程度を観察し、以下の基準にて評価した。この評価は、分散体試料中に微粒子の凝集体が存在している場合には、光の散乱によって該試料が濁って見える現象を利用した評価である。
濁りがなく均一であった場合:○(分散性良好)
僅かに濁りが見られた場合:△(分散性可)
濁りが著しく、不均一であった場合:×(分散性不良)
【0145】
(2)分散体の長期保存安定性
得られた分散体をガラス容器に封入した状態で25℃において静置し、沈殿が発生するまでの時間(日数)を調べた。この沈殿は、微粒子の再凝集によって発生するものと推察される。
【0146】
(3)塗膜の形成
得られた分散体を用いて、以下に示す手順の反転印刷により、L/S=5μm/5μmパターンをPETフィルム(東洋紡社製、A4300)上に形成した。
ブランケットの離形面となるPDMS平滑面にバーコータ―によりドライ膜厚約400nmになるように分散体を均一に塗布し、約1分間自然乾燥させて塗布膜を得た。その後、除去板を、ブランケット上の分散体塗布膜に押し付け、次いで離して、不要部分の塗布膜を除去した。続いて、PETフィルムをブランケット上に押し付けることにより、ブランケット上に形成されたパターンをPETフィルム上に転写した。
【0147】
(4)微細印刷性の評価
上記(3)で得たパターンの形状を、光学顕微鏡を用いて観察し、以下の基準により評価した。
L/S=5μm/5μmパターンが形成できていた場合:〇(微細印刷性良好)
L/S=5μm/5μmパターンに、除去不良又は転写不良があった場合:×(微細印刷性不良)
【0148】
(5)形成パターンの表面粗さ
上記(3)で得たパターンの表面粗さは、菱化システム製の白色干渉計「VertScan」を用いて測定した。
【0149】
(6)導電性膜の形成(比較例1-1及び1-6、並びに実施例1-1)
マイクロ波プラズマ焼成機を用い、真空チャンバーにプロセスガス(水素3体積%、ヘリウム97体積%)を流量300sccmで導入しながら、出力1.5kWにて上記(3)で得た印刷物パターンを5分間焼成することにより、厚さ0.2μmの導電性膜を得た。得られた膜の寸法変化率は0.05%未満であり、しわ等の目立った変形は見られなかった。
【0150】
(7)導電性膜の体積抵抗率
上記(6)で得た導電性膜の体積抵抗率を、三菱化学製の低抵抗率計ロレスターGPを用いて測定した。測定結果は表2に示した。
【0151】
[比較例1-1]
水800g及び1,2-プロピレングリコール(和光純薬製)400gから成る混合溶媒中に、酢酸銅(II)一水和物(和光純薬製)80gを溶解し、ヒドラジン(和光純薬製)24gを加えて攪拌した後、遠心分離を用いて上澄みと沈殿物とに分離した。得られた沈殿物(1)0.3gに、分散剤として数平均分子量800のポリ(エチレングリコール)メチルエーテルチオール(アルドリッチ社製)0.040g及び溶媒としてn-ブタノール(和光純薬製)0.66gを加え、ホモジナイザーを用いて分散することにより、銅(I)酸化物粒子を含有する比較例1の分散体を得た。
比較例1の分散体に含有される粒子の平均二次粒径は35nmであった。
【0152】
[比較例1-2~1-10及び実施例1-1~1-12]
沈殿物(1)0.3gに加える分散剤の種類及び量、並びに溶媒の種類及び量を、それぞれ、表1に記載のとおりに変更した他は上記比較例1-1と同様の操作により、銅(I)酸化物粒子をそれぞれ含有する比較例1-2~1-10の分散体を得た。実施例1-1~1-12においては、それぞれ、分散剤として2種類の成分から成る混合物を使用した。
これらの分散体に含まれる粒子の平均二次粒径、及び上記の手法によって行った各種評価の結果を、表1に合わせて示す。
実施例1-1~1-12においてそれぞれ得られた分散体について、GPC測定を実施したところ、ポリエチレングリコール換算の分子量分布曲線において、分子量31以上1,000未満の領域と、分子量1,000以上40,000以下の領域とに、それぞれピークが検出された。
【0153】
[実施例1-13]
粒径150nm以下の銀ナノパウダー(品名「Silver nanopowder,<150nm Particle Size,99% trace metal basis」、Aldrich製)0.20gに、分散剤として数平均分子量6,000のポリ(エチレングリコール)メチルエーテルチオール(アルドリッチ社製)0.010g及び数平均分子量800のポリ(エチレングリコール)メチルエーテルチオール(アルドリッチ社製)0.030gの混合物を、溶媒として蒸留水0.76gを、それぞれ加え、ホモジナイザーを用いて分散することにより、銀粒子を含有する実施例1-13の分散体を得た。
実施例1-13の分散体に含有される微粒子の平均二次粒径は521nmであった。
【0154】
[実施例1-14~1-16]
分散剤の混合物における各成分の種類及び量を、それぞれ、表1に記載のとおりに変更した他は上記実施例1-13と同様の操作により、銀粒子をそれぞれ含有する実施例1-14~1-16の分散体を得た。
実施例1-13~1-16のそれぞれで得られた分散体について、GPC測定を実施したところ、ポリエチレングリコール換算の分子量分布曲線において、分子量31以上1,000未満の領域と、分子量1,000以上40,000以下の領域とに、それぞれピークが検出された。
これらの分散体に含まれる粒子の平均二次粒径、及び上記の手法によって行った各種評価の結果を、表1に合わせて示す。
【0155】
【表1】
【0156】
【表2】
【0157】
【表3】
【0158】
表1における分散剤の略称は、それぞれ以下の意味である。
PEG-MET 350:分子量356.48のO-(2-メルカプトエチル)-O’-メチル-ヘキサ(エチレングリコール)
PEG-MET 800:数平均分子量800のポリ(エチレングリコール)メチルエーテルチオール(アルドリッチ社製)
PEG-MET 2000:数平均分子量2,000のポリ(エチレングリコール)メチルエーテルチオール(アルドリッチ社製)
PEG-MET 6,000:数平均分子量6,000のポリ(エチレングリコール)メチルエーテルチオール(アルドリッチ社製)
ME-100SH:SUNBRIGHT ME-100SH(商品名、日油社製)、数平均分子量10,000のポリ(エチレングリコール)メチルエーテルチオール
ME-400SH:SUNBRIGHT ME-400SH(商品名、日油社製)、数平均分子量40,000のポリ(エチレングリコール)メチルエーテルチオール
PEG-COOH 600:分子量588.68のO-(2-カルボキシエチル)-O’-メチル-ウンデカエチレングリコール(アルドリッチ社製)
PEG-COOH 2000:数平均分子量2,000のO-メチル-O’-スクシニルポリエチレングリコール(アルドリッチ社製)
PEG-COOH 5000:数平均分子量5,000のO-(カルボキシメチル)-O’-メチルポリエチレングリコール(アルドリッチ社製)
PEG-PO3H2 400:11-{2-「2-(2-Methoxyethoxy)ethoxy」ethoxy}undecylphosphonic acid。分子量398.47.(同仁化学研究所製)
byk-145:Disperbyk-145、(商品名、ビックケミー社製)、分子量5,000のホスホン酸化合物
【0159】
上記比較例1-1で得られた印刷物パターンの顕微鏡写真を図5(a)に、上記実施例1-1で得られた印刷物パターンの顕微鏡写真を図5(b)に、それぞれ示す。図5(a)のパターン(比較例1-1)は、2つのラインが直角に交差する領域におけるパターンの「裾引き」現象が見られ、反転印刷における除去板による塗膜の除去性が不十分であることが分かる。これに対して、図5(b)のパターン(実施例1-1)は、2つのラインが直角に交差する領域もきれいに形成されている。
【0160】
更に、比較例1-2~1-4において得られた塗布膜の顕微鏡写真を、図4(a)~(c)にそれぞれそれ示す。これらの写真を見ると、いずれも塗布膜が結晶化しており、表面が凸凹になっているのが分かる。
一方、実施例1、2、4、及び5において得られた塗布膜の顕微鏡写真を、図3(a)~(d)にそれぞれそれ示す。いずれも、平坦な塗布膜が得られていることが分かる。
これらのことから、本発明の分散体が反転印刷法による微細印刷に好適であることが検証された。
【0161】
実施例1-3において得られた塗布膜を、90℃に加熱した水中に浸漬して分散剤を抽出した。得られた抽出液を濃縮してGPC用の試料を調製した。該試料について測定したGPCチャートを図8に示した。図8のチャートには、ポリエチレングリコール換算の分子量1,531のピーク(Mp=1,531)、及び分子量805のピーク(Mp=801)が確認された。
【0162】
実施例1-1及び比較例1-1でそれぞれ得られた導電性膜の断面SEM像を図6及び図7に示した。
図6から、本実施例で得られた導電性膜は、比較的緻密な上層と、微小なボイドを有する下層とから成る二層膜であることが明らかとなった。XPS分析により、この上層は主として銅から成る金属層であり、下層は主として銅(I)酸化物及び有機物から成るハイブリッド層であることが分かった。本実施例の場合、基体のダメージは観察されなかった。
図7を見ると、本比較例で得られた膜は、表面平滑性が悪く、緻密な金属層が形成されていないことの他、基体がダメージを受けていることが分かった。
【0163】
以下に示す比較例2-1~2-9及び実施例2-1~1-10で得られた分散体は、それぞれ、以下のようにして評価した。
【0164】
[導電性膜の形成]
上記の比較例2-1~2-9及び実施例2-1~2-10の分散体を、それぞれ、PETフィルム(東洋紡社製、A4300、厚さ125μm)上にバーコータ―を用いて塗布して塗布膜を形成し、マイクロ波プラズマ焼成機を用い、真空チャンバーにプロセスガス(水素3体積%、ヘリウム97体積%)を流量300sccmで導入しながら、出力1.5kWにて前記塗布膜を5分間焼成することにより、厚さ0.2μmの導電性膜を得た。得られたすべてのフィルムの寸法変化は0.05%未満であり、しわ等の目立った変形は見られなかった。得られた導電性膜の体積抵抗率は表3に示す。
【0165】
実施例1-1において得られた導電性膜について、アルゴンプラズマにより表面をスパッタしつつXPS測定を行って、相対元素濃度の厚み方向のプロファイルを得た。該プロファイルを図9に示した。
図9を参照すると、該導電性膜の表層は、酸化銅由来の酸素元素濃度が低く、主として金属状態の銅から構成されていることが分かる。該導電性膜の下層は、酸化銅由来の酸素濃度が高く、酸化銅を多く含有することがわかる。図9では、導電性膜の最表面における銅元素濃度が低い。この現象は、焼成により導電性膜を形成した後の保管中に、膜の最表面が酸化されたこと、及び、空気中に存在する有機物に汚染されたことに起因すると考えられる。
【0166】
[比較例2-1]
水800g及び1,2-プロピレングリコール(和光純薬製)400gから成る混合溶媒中に、酢酸銅(II)一水和物(和光純薬製)80gを溶解し、ヒドラジン(和光純薬製)24gを加えて攪拌した後、遠心分離を用いて上澄みと沈殿物とに分離した。この沈殿物は、主に酸化銅(I)から成る、平均一次粒径15nmであり、平均二次粒径30nmの粒子であった。
得られた沈殿物30gに、分散剤としてDisperbyk-145(ビッグケミー製)4.0g及び溶媒としてn-ブタノール(和光純薬製)66gを加え、ホモジナイザーを用いて分散することにより、銅(I)酸化物粒子を含有する比較例2-1の分散体を得た。
【0167】
[実施例2-1~2-5及び2-10、並びに比較例2-2~2-9]
比較例1の分散体1.0gに、表1に記載した種類及び量の硫黄原子含有物をそれぞれ加え、ホモジナイザ―を用いて撹拌することにより、銅(I)酸化物粒子をそれぞれ含有する、実施例2-1~2-5及び2-10、並びに比較例1-2~2-9の分散体をそれぞれ得た。
実施例2-1で使用の硫黄はα硫黄であり、
比較例1-8で使用の硫化銅(II)は硫化銅(II)五水和物である。
【0168】
[実施例2-6]
水800g及び1,2-プロピレングリコール(和光純薬製)400gから成る混合溶媒中に、酢酸銅(II)一水和物(和光純薬製)80gを溶解し、ヒドラジン(和光純薬製)24gを加えて攪拌した後、遠心分離で上澄みと沈殿物とに分離した。得られた沈殿物0.3gに、硫黄原子含有物として、数平均分子量800のポリ(エチレングリコール)メチルエーテルチオール(アルドリッチ社製)0.040g及び溶媒としてn-ブタノール(和光純薬製)0.66gを加え、ホモジナイザーを用いて分散することにより、銅(I)酸化物粒子を含有する実施例2-6の分散体を得た。
【0169】
[実施例2-7~2-9]
上記実施例2-6において、硫黄原子含有物として、表2に記載した種類及び量の化合物をそれぞれ使用した他は、実施例2-6と同様の手法により、銅(I)酸化物粒子をそれぞれ含有する実施例2-7~2-9の分散体をそれぞれ得た。
【0170】
【表4】
【0171】
【表5】
【0172】
以下に示す実施例3-1~3-6で得られた分散体は、それぞれ、以下のようにして評価した。評価結果は表4に示した。比較のため、上記の比較例2-1で得られた分散体についても以下のようにして評価し、その結果を表4に合わせて示した。
【0173】
[導電性膜の形成]
上記分散体を、それぞれ、PETフィルム(東洋紡社製、A4300、厚さ125μm)上にバーコータ―を用いて塗布して塗布膜を形成し、150℃に加熱したホットプレート上で10分間加熱することにより、厚さ0.2μmの導電性膜を得た。得られたすべてのフィルムの寸法変化は0.05%未満であり、しわ等の目立った変形は見られなかった。得られた導電性膜の体積抵抗率を表3に示す。比較例2-1の分散体では、抵抗の低下が見られず、抵抗率を測定することができなかった。
【0174】
[実施例3-1~3-6]
上記比較例2-1で得られた分散体1.0gに、表4に記載した種類及び量の硫黄原子含有物をそれぞれ加え、ホモジナイザ―を用いて撹拌することにより、実施例3-1~3-6の分散体をそれぞれ得た。
【0175】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明に係る分散体は、塗布及び焼成処理によって微細な配線を得ることができる。そのため、該分散体は、プリント配線板、電子デバイス等の製造に好適に用いられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9