(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】ガラス繊維強化基板用ドリル
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20230406BHJP
【FI】
B23B51/00 L
B23B51/00 V
B23B51/00 S
(21)【出願番号】P 2019200169
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 勉
(72)【発明者】
【氏名】奥田 壮馬
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-082318(JP,A)
【文献】特開平01-306111(JP,A)
【文献】特開平07-243153(JP,A)
【文献】特開2009-101452(JP,A)
【文献】特開2011-125941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁樹脂中に補強繊維としてSガラス繊維を含有するガラス繊維強化基板に貫通孔を形成するためのガラス繊維強化基板用ドリルであって、
連続する1条のみの切屑排出溝と、
0.022~0.024のウェブテーパWTのドリル芯と、
刃先部と、
その刃先部よりも小径のネック部と、
を備えており、
前記切屑排出溝が、
前記刃先部の先端逃げ面と交差する稜線に沿って切刃を形成するとともにその切刃から前記ネック部に至る主溝と、
その主溝のドリル回転方向後方向きの側壁に添って前記刃先部から前記ネック部に至り前記主溝の途中に合流する副溝と、
を有している。
ここで、ウェブテーパWT=(W2-W1)/L
、
W2:ドリル芯基部径
=0.093~0.099mm、
W1:ドリル芯先端部径
=0.020mm、
L:ドリル芯長さ
=3.3mm
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板等に用いられるガラス繊維強化基板に貫通孔を形成するためのドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プリント配線板には多層化による基板の反りが課題として存在し、この反りを防止するためコア基板が、絶縁樹脂中に補強繊維としてSガラス繊維等の低熱膨張係数で高強度のガラス繊維を含有する場合がある。
【0003】
しかしながら、ガラス繊維強化基板は高強度であるため、通常のドリルでは、スルーホール導体を設けるための貫通孔を孔明け加工する際に曲がりや折れが発生し、ドリルの寿命が短い。また、ドリルの曲がりが貫通孔の位置ずれを生じさせ、ひいては導体回路のショートを生じさせる可能性がある。
【0004】
さらに、通常のドリルでは、切削屑が排出されにくいためその切削屑で貫通孔の内壁面に凹凸が形成され、この凹凸が、貫通孔の内壁面上に形成されたスルーホール導体の接続の信頼性に影響する可能性がある。
【0005】
そこで従来、例えば特許文献1により、剛性を高めたドリルが提案されており、このドリルは、切屑排出溝を1条のみとするとともに、刃先部の先端逃げ面を多段面状として、逃げ面同士の交差稜線の少なくとも一つが被削材に接触するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のドリルは、切屑排出溝を1条のみとすることで剛性を高めて長寿命を得るとともに、多段面の逃げ面同士の交差稜線の少なくとも一つを被削材に接触させることで孔位置精度を高める試みを行っているが、未だ充分でなく、貫通孔の内壁面への凹凸の形成も充分には回避できない。
【0008】
本発明の目的は、ガラス繊維強化基板に貫通孔を形成するためのドリルであって、長寿命と高い孔位置精度とを達成し得るとともに、貫通孔の内壁面への凹凸の形成を回避可能なドリルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のガラス繊維強化基板用ドリルは、絶縁樹脂中に補強繊維としてSガラス繊維を含有するガラス繊維強化基板に貫通孔を形成するためのドリルであって、
連続する1条のみの切屑排出溝と、
0.022~0.024のウェブテーパWTのドリル芯と、
刃先部と、
その刃先部よりも小径のネック部と、
を備えており、
前記切屑排出溝が、
前記刃先部の先端逃げ面と交差する稜線に沿って切刃を形成するとともにその切刃から前記ネック部に至る主溝と、
その主溝のドリル回転方向後方向きの側壁に添って前記刃先部から前記ネック部に至り前記主溝の途中に合流する副溝と、
を有している。
ここで、ウェブテーパWT=(W2-W1)/L、
W2:ドリル芯基部径=0.093~0.099mm、
W1:ドリル芯先端部径=0.020mm、
L:ドリル芯長さ=3.3mm
である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のガラス繊維強化基板用ドリルの一実施形態を示す側面図である。
【
図2A】上記実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルの先端部を拡大して示す正面図である。
【
図2B】上記実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルの先端部を拡大して示す側面図である。
【
図3】上記実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルのウェブテーパを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のガラス繊維強化基板用ドリルの一実施形態が図面に基づいて説明される。
図1は、本発明のガラス繊維強化基板用ドリルの一実施形態を示す側面図である。
図2Aおよび
図2Bは、上記実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルの先端部を拡大して示す正面図および側面図である。
図3は、上記実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルのウェブテーパを示す説明図である。
【0012】
図中符号1で示されるこの実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルは、工作機械のチャック等に把持されるシャンク2と、そのシャンク2と同一軸線上に配置されてシャンク2に一体的に結合されるドリル本体3とを備えており、ドリル本体3は、先端側の刃先部3aと、その刃先部3aよりも小径の、基端側のネック部3bとを有して、アンダーカットタイプとされている。刃先部3aの外径は例えば0.17mm、ネック部3bの外径は例えば0.15mmとされている。
【0013】
ドリル本体3は、連続する1条のみの、所定のねじれ角の切屑排出溝4を備えており、その切屑排出溝4は、刃先部3a
の先端逃げ面6と交差する稜線に沿って切刃5を形成するとともにその切刃5からネック部3bに至る主溝4aと、その主溝4a
のドリル回転方向(図2Aでは切刃5が切り込む方向である反時計方向)後方向きの側壁に添って刃先部3a
の切刃5からネック部3bに至り、ネック部3bで主溝4aの延在方向の途中に合流して終了する副溝4bとを有している。
【0014】
刃先部3aは、通常のドリルにおけると同様に、切刃5を有するとともに、先端逃げ面6を有している。先端逃げ面6は、図示例では単一面状であるが、軸線に対し周方向に並んだ多段面状でもよい。
【0015】
ドリル本体3の、切屑排出溝4が形成された軸線方向範囲の、切屑排出溝4以外の部分は、長さLのドリル芯7を形成している。ドリル芯7は、0.022~0.024のウェブテーパWTを持つ。
【0016】
ウェブテーパWTは、WT=(W2-W1)/Lの計算式で求められる。ここに、W1:ドリル芯先端部径、W2:ドリル芯基部径、L:ドリル芯長さである。ドリル芯先端部径W1は、刃先部3aの外径-(切屑排出溝4の先端部深さ)×2であり、ドリル芯基部径W2は、マージン部3bの外径-(切屑排出溝4の基端部深さ)×2である。
【0017】
連続する1条のみの切屑排出溝を備える従来のドリルでは、例えばW1=0.020mm、W2=0.106mm、L=3.3mmで、ウェブテーパWTは0.026であり、これによる切屑排出溝の体積率は40.5%であったのに対し、この実施形態のガラス繊維強化基板用ドリル1では、例えばW1=0.020mm、W2=0.093~0.099mm、L=3.3mmで、ウェブテーパWTは0.022~0.024であり、これによる切屑排出溝の体積率は42%であった。
【0018】
この実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルによれば、切屑排出溝4を1条のみとするとともに切屑排出溝4の副溝4bをネック部3bで主溝4aの途中に合流させることで従来のドリルよりも剛性が高められているので、高強度のガラス繊維強化基板への貫通孔の孔明け加工、とりわけSガラス繊維を含有する特に高強度のガラス繊維強化基板への貫通孔の孔明け加工に用いても、長寿命と高い孔位置精度とを達成することができる。
【0019】
また、ドリル芯7のウェブテーパWTを従来よりも小さい0.022~0.024として切屑排出溝4の深さ割合を大きくすることで従来のドリルよりも切削屑が排出され易くなっているので、高強度のガラス繊維強化基板への貫通孔の孔明け加工、とりわけSガラス繊維を含有する特に高強度のガラス繊維強化基板への貫通孔の孔明け加工に用いても、切削屑で貫通孔の内壁面に凹凸が形成されるのを回避して、その内壁面上に形成されるスルーホール導体の接続の信頼性を高めることができる。
【符号の説明】
【0020】
1 ガラス繊維強化基板用ドリル
2 シャンク
3 ドリル本体
3a 刃先部
3b ネック部
4 切屑排出溝
4a 主溝
4b 副溝
5 切刃
6 先端逃げ面
7 ドリル芯