(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】水中油型エマルション
(51)【国際特許分類】
A61K 31/40 20060101AFI20230406BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20230406BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20230406BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20230406BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20230406BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20230406BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230406BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20230406BHJP
A61P 3/08 20060101ALI20230406BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20230406BHJP
A61Q 15/00 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
A61K31/40
A61K8/06
A61K8/34
A61K8/37
A61K8/49
A61K9/107
A61K47/10
A61K47/14
A61P3/08
A61P25/02
A61Q15/00
(21)【出願番号】P 2020502172
(86)(22)【出願日】2018-07-16
(86)【国際出願番号】 EP2018069273
(87)【国際公開番号】W WO2019016139
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-07-13
(32)【優先日】2017-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510171416
【氏名又は名称】ドクトア・アウグスト・ボルフ・ゲーエムベーハー・ウント・コンパニー・カー・ゲー-アルツナイミツテル
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(72)【発明者】
【氏名】トルステン・クリスティアンス
(72)【発明者】
【氏名】ウルリッヒ・クニー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・アーベルス
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-193168(JP,A)
【文献】特開2008-088129(JP,A)
【文献】特表2016-510037(JP,A)
【文献】特表2005-526115(JP,A)
【文献】特表2014-510041(JP,A)
【文献】特表2014-528900(JP,A)
【文献】特表2014-503585(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0208437(US,A1)
【文献】西独国特許出願公開第03304896(DE,A)
【文献】中国特許第106728555(CN,B)
【文献】化粧品における界面活性剤, 油脂とその応用,油化学,1982年,Vol.31, No.10,p.868-871
【文献】5.アルコール,新化粧品ハンドブック,2006年10月30日,p.43-47
【文献】7.エステル,新化粧品ハンドブック,2006年10月30日,p.61-79
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/40
A61K 8/06
A61K 8/34
A61K 8/37
A61K 8/49
A61K 9/107
A61K 47/10
A61K 47/14
A61P 3/08
A61P 25/02
A61Q 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のグリコピロニウム(GP)塩および乳化剤系を含む水中油型エマルションであって、
エマルションが、乳化剤系として、
マクロゴールグリセロールモノステアレート、
グリセロールモノステアレート、ならびに
最低40.0重量%のステアリルアルコールを含むセチルアルコールおよびステアリルアルコールの混合物の組合せを含む、水中油型エマルション。
【請求項2】
a)分散/内部油相;
b)グリコピロニウム(GP)塩を含有する連続/外部水相;および
c)乳化剤系を含む、請求項1に記載の水中油型エマルション。
【請求項3】
GP塩が、GP臭化物、GP酢酸塩、およびGPトシル酸塩からなる群から選択される、請求項1および/または請求項2に記載の水中油型エマルション。
【請求項4】
GP塩が、(3R)-3-[(2S)-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)オキシ]-1,1-ジメチルピロリジニウムブロミドと(3S)-3-[(2R)-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)オキシ]-1,1-ジメチルピロリジニウムブロミドのラセミ混合物、または(3R)-3-[(2S)-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)オキシ]-1,1-ジメチルピロリジニウムトシレートと(3S)-3-[(2R)-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)オキシ]-1,1-ジメチルピロリジニウムトシレートのラセミ混合物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の水中油型エマルション。
【請求項5】
GP塩が、全エマルションの重量を基準として0.05~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.2~2重量%、さらにより好ましくは0.5~1.5重量%の量で含有される、請求項1から4のいずれか一項に記載の水中油型エマルション。
【請求項6】
乳化剤系として、
マクロゴール20グリセロールモノステアレート、
グリセロールモノステアレート40-55、および
最低40.0重量%のステアリルアルコールを含むセチルアルコールおよびステアリルアルコールの混合物の組合せを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の水中油型エマルション。
【請求項7】
それぞれ全エマルションの重量を基準として、
4.0~10.0重量%、好ましくは5.0~9.0重量%、より好ましくは6.0~8.0重量%、さらにより好ましくは6.5~7.5重量%の量のマクロゴールグリセロールモノステアレート、
1.5~7.5重量%、好ましくは2.5~6.5重量%、より好ましくは3.5~5.5重量%、さらにより好ましくは4.0~5.0重量%の量のグリセロールモノステアレート、および
5.0~11.0重量%、好ましくは6.0~10.0重量%、より好ましくは7.0~9.0重量%、さらにより好ましくは7.5~8.5重量%の量の前記セチルアルコールおよびステアリルアルコールの混合物を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の水中油型エマルション。
【請求項8】
乳化剤系が、乳化剤系の重量を基準として、
21~51重量%、好ましくは26~46重量%、より好ましくは31~41重量%、さらにより好ましくは33~38重量%の量のマクロゴールグリセロールモノステアレート、
8~38重量%、好ましくは13~33重量%、より好ましくは18~28重量%、さらにより好ましくは21~26重量%の量のグリセロールモノステアレート、および
26~56重量%、好ましくは31~51重量%、より好ましくは36~46重量%、さらにより好ましくは38~44重量%の量の前記セチルアルコールおよびステアリルアルコールの混合物を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の水中油型エマルション。
【請求項9】
医薬としての使用のための、請求項1から8のいずれか一項に記載の水中油型エマルション。
【請求項10】
処置される臨床的障害が、原発性および続発性多汗症、フライ症候群に関連する味覚性発汗、糖尿病性自律神経ニューロパシーに関連する味覚性発汗、ならびに過度の発汗からなる群から選択される、請求項9に記載の使用のための水中油型エマルション。
【請求項11】
好ましくは1日1~4回、より好ましくは1日1~2回、さらにより好ましくは1日1回就寝前に、最も好ましくは1週間に2~3回、哺乳動物の皮膚に局所的に塗布される、請求項9および/または10のいずれか一項に記載の使用のための水中油型エマルション。
【請求項12】
請求項1から8のいずれか一項に記載の水中油型エマルションおよび1種または複数の薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項13】
請求項1から8のいずれか一項に記載の水中油型エマルションおよび1種または複数の化粧品として許容可能な賦形剤を含む化粧品組成物。
【請求項14】
好ましくは哺乳動物の皮膚への局所塗布のための、特に通常の発汗および/または過度の発汗を起こしている個体における発汗を低減するための、化粧品としての、請求項1から8のいずれか一項に記載の水中油型エマルションの非治療的使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコピロニウム塩(GP塩)と、少なくとも1種のマクロゴールグリセリン脂肪酸エステル、少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステルおよび少なくとも1種の脂肪族アルコールを含む乳化剤系とを含む水中油型エマルションに関する。さらに、本発明は、特に過度の発汗(多汗症)に関連する疾患を処置および予防する医薬としての使用のためのそのようなエマルションに関する。さらに、本発明は、発汗を低減する目的での、哺乳動物の皮膚への局所塗布のためのそのような水中油型エマルションの非治療的(化粧品としての)使用に関する。
【背景技術】
【0002】
過度の発汗または多汗症は、人体の通常の熱調節を維持するために生理学的に必要とされる量を超えた状態である。したがって、多汗症は、それに罹患している者の日々の生活に支障をきたす極めて不都合な状態である。多汗症は、限局的および全身的な原発性多汗症に分類され得る。限局的なものは、手、足、腋窩部または鼠径部等、左右対称である。顔/頭部からの限局性多汗症も生じるが、全身的な形態の一部であることが多い。全身的発汗は、通常、頭部および胴体の両方を含み、重度の場合には四肢および鼠径部/臀部も含む。罹患患者の大半は遺伝的な原発性形態を有するが、しばしば基礎疾患に関連する続発性形態もある。
【0003】
過度の発汗/多汗症を処置するための様々な処置が提案されており、これにはアルミニウム含有制汗剤、汗腺の外科的除去、および抗コリン性化合物による全身または局所処置が含まれる。しかしながら、これらの処置はいずれも、深刻な不利益を伴う。アルミニウム含有制汗剤は、特に継続的に使用すると、制汗剤に接触する生地に染みを付ける、またはそれを変色させる。さらに、近年、廃水中のアルミニウム量の増加が環境に対する懸念を増大させている。一方、汗腺の除去は、少なくとも不都合な、またはさらには重度の副作用を伴い得る手術となる。
【0004】
上述の処置の代替として、グリコピロニウム塩(グリコピロレートとも呼ばれる)が過度の発汗および多汗症の処置に提案されている。WO2006/069998は、過度の発汗の処置のためにグリコピロニウムブロミドと他の様々な活性成分を一緒に使用することを開示している。WO2014/134510は、過度の発汗および多汗症の処置のための特定のグリコピロニウムトシル酸塩に関する。しかしながら、これらの知られている組成物は全て、組成物の不安定性、不適当な化粧品としての許容性およびスキンケア特性、全身の副作用、ならびに/または限定された効能から選択される少なくとも1つの不十分な点を基本的に有する。WO2012/103038、US2015/196490およびUS2017/087088は、多汗症を処置するためのグリコピロレートおよび特定の乳化剤を含有するエマルションを開示している。
【0005】
この点を鑑みて、従来技術では、改善された特性を有する新たなグリコピロニウム塩含有組成物が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の根底にある目的は、過度の発汗(多汗症)、特に原発性多汗症の改善された処置のための新規のグリコピロニウム塩含有組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、少なくとも1種のグリコピロニウム塩の他に、少なくとも1種のマクロゴールグリセリン脂肪酸エステル、少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、および少なくとも1種の脂肪族アルコールを含む特定の乳化剤系を含む本発明の水中油型エマルションを提供することにより達成される。特に、驚くべきことに、本発明による水中油型エマルションは、過度の発汗、特に多汗症の処置に極めて効果的であることが判明した。実際に、極めて予想外にも、本発明は、エマルションからのグリコピロニウム塩の放出を改善することができ、これが効能の改善の一因であると考えられる。さらに、本発明のエマルションは、安定性の増加(すなわち経時的に相分離を生じない安定なエマルション)および化粧品としての許容性の両方を提供し、有利なスキンケア特性を有するバランスの良い便利に塗布可能な製品をもたらす。同じく驚くべきことに、グリコピロニウム塩の放出の増加にかかわらず、エマルションは、一般的なグリコピロニウム組成物において典型的である副作用(すなわち局所および全身の副作用、例えば塗布部位における皮膚刺激またはさらには炎症、塗布部位における痛み、口内乾燥、皮膚乾燥、ドライアイ、目のかすみ、散瞳、便秘、排尿困難、尿閉、および鼻腔乾燥)を有さない。従来技術において、これらの特性の全てを同時に十分に満たすことは不可能であった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
したがって、本発明は、1種または複数のグリコピロニウム塩(グリコピロレートまたはGPとも呼ばれる)および特定の乳化剤系を含む水中油型エマルション(O/W型エマルションとも呼ばれる)に関する。エマルションは、好ましくは、分散(内部)油相、およびグリコピロニウム(GP)塩を含有する連続(外部)水相を含有する。すなわち、グリコピロニウム塩は、その親水性および水溶性に起因して、主に水相自体に含有され、特にエマルションの水相と油相との界面に含有される。
【0009】
本発明のO/W型エマルションの油相は、従来技術において知られているO/W型エマルションの典型的な油相であってもよい。しかしながら、油相の主要な(基本的)油成分として好ましいのは、6~36個の炭素原子を有する、好ましくは6~22個の炭素原子を有する直線または分岐状長鎖脂肪族アルコールである。より好ましくは、本発明によれば、油相はオクチルドデカノールを含有するが、これは、オクチルドデカノールが皮膚を滑らかにし保湿する効果を有するため、および酸性条件下(例えばpH4)であっても酸化に対し安定であるためである。オクチルドデカノールは、さらに、本発明のO/W型エマルションの浸透挙動を改善する。したがって、オクチルドデカノールを含有する油相は、患者または使用者による化粧品としての許容性の改善に対応する、改善されたスキンケア(例えば滑らかにし保湿する)効果を提供するため好ましい。
【0010】
水相は、溶媒として主に水を、また多汗症を処置するための活性成分としてGP塩を含む。水相はまた、水溶性/混和性化合物(例えばエタノールまたはイソプロパノール等の低級アルコール)、保存剤(例えばベンジルアルコールまたはフェノキシエタノール)、pH調整剤または緩衝剤(例えばクエン酸/シトレート)、および保湿剤(例えばプロピレングリコール)、ならびに他の典型的な親水性薬学的/化粧品賦形剤を含んでもよい。
【0011】
本発明のO/W型エマルションは、水相と比較して少量の油相を含有する。好ましくは、油相は、エマルションの総重量の10~25%の範囲であり、水相は、65~80重量%の範囲である。油相の比較的低い比率にもかかわらず、本発明のエマルションは、驚くべきことに、既に上述したようにより良好な安定性(相分離なし)および改善されたスキンケア特性の両方を提供する。同時に、より多量の水相からのGP塩の放出速度が増加することは、予想外であった。実際には反対のこと、すなわちより多量の水相ならびにGP塩の高い水溶性および親水性に起因する放出速度の減少が予測された。これにより、GP塩の量のさらなる低減が可能となり、効能を低減させることなくより良好な副作用プロファイルがもたらされる。
【0012】
本発明により使用され得るグリコピロニウム(GP)塩は特に限定されず、任意のGP塩が使用され得る。GP塩は、化学的には(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)オキシ]-1,1-ジメチルピロリジニウム塩を意味する。これには、GPの塩化物、臭化物、フッ化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、およびリン酸塩が含まれる。また、GPの酢酸塩、プロピオン酸塩、グリコール酸塩、ピルビン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、4-メチルベンゼンスルホン酸塩(トシル酸塩)、およびサリチル酸塩も好適である。本発明のエマルションは、1種、2種、3種またはそれ以上の異なるGP塩を含有してもよい。しかしながら、好ましくはただ1種のGP塩を含有する。特に好ましいGP塩は、GP臭化物(GPB)、GP酢酸塩およびGPトシル酸塩である。
【0013】
本発明によるGP塩は、任意の(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)オキシ]-1,1-ジメチルピロリジニウム塩、特に(3R)-3-[(2S)-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)オキシ]-1,1-ジメチルピロリジニウムと(3S)-3-[(2R)-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)オキシ]-1,1-ジメチルピロリジニウム塩のラセミ混合物であってもよい。好ましくは、(3R)-3-[(2S)-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)オキシ]-1,1-ジメチルピロリジニウムブロミドと(3S)-3-[(2R)-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)オキシ]-1,1-ジメチルピロリジニウムブロミドのラセミ混合物、または(3R)-3-[(2S)-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)オキシ]-1,1-ジメチルピロリジニウムトシレートと(3S)-3-[(2R)-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセチル)オキシ]-1,1-ジメチルピロリジニウムトシレートのラセミ混合物が使用される。
【0014】
本発明による水中油型エマルションは、全エマルションの重量を基準として0.05~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.2~2重量%、さらにより好ましくは0.5~1.5重量%の量のGP塩、特にGP臭化物(GPB)を含有してもよい。GP塩、特にGPBがこれらの範囲内の量で含有される場合、過度の発汗を低減する高い効能が達成され得ると同時に、GP塩の潜在的な望ましくない副作用が回避され得る。さらに、驚くべきことに、多量のGP塩(すなわち2~5重量%、特に2~3重量%)であっても、安定なエマルションを得ることができる。概して、約1.0重量%のGP塩(特にGPBまたはGPトシル酸塩、最も好ましくはGPB)の量が、特に費用、効能および副作用(安全性)の点から最も好ましい。
【0015】
本発明による乳化剤系は、少なくとも3種の異なる成分、すなわち少なくとも1種のマクロゴールグリセリン脂肪酸エステル、少なくとも1種のグリセリン脂肪酸エステル、および少なくとも1種の脂肪族アルコールを含有する。本出願において、製薬分野において一般的な「マクロゴール」という用語は、「ポリエチレングリコール(PEG)」の同義語として使用される。これはまた、当業者の一般的知識によって裏付けられる。好ましくは、乳化剤系は、マクロゴールグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、および脂肪族アルコールの組合せを含む。脂肪族アルコールとして、2種の脂肪族アルコールの混合物を使用することが好ましい。本発明のO/W型エマルションにおいて特定の乳化剤系を使用することにより、上述の効果(すなわち安定性の改善、放出速度および効能の増加、副作用プロファイルおよび化粧品としての許容性/スキンケア特性の改善)が達成され得る。
【0016】
より好ましくは、上記の効果に関して、乳化剤系は、マクロゴールグリセロールモノステアレート、グリセロールモノステアレート、ならびにセチルアルコールおよびステアリルアルコールの混合物(例えば最低40.0重量%のステアリルアルコールを含む)の組合せを含む。さらにより好ましくは、乳化剤系は、マクロゴール20グリセロールモノステアレート、グリセロールモノステアレート40-55、およびセトステアリルアルコールの組合せを含む。セトステアリルアルコールは、脂肪酸アルコールの混合物、特にセチルおよびステアリルアルコールの混合物である。最も好ましくは、乳化剤系は、これらの示された組合せから(本質的に)なる。
【0017】
本発明による水中油型エマルションは、乳化剤系の各成分を以下の量で含有し得る:それぞれ全エマルションの重量を基準として、4.0~10.0重量%、好ましくは5.0~9.0重量%、より好ましくは6.0~8.0重量%、さらにより好ましくは6.5~7.5重量%のマクロゴールグリセリン脂肪酸エステル;1.5~7.5重量%、好ましくは2.5~6.5重量%、より好ましくは3.5~5.5重量%、さらにより好ましくは4.0~5.0重量%のグリセリン脂肪酸エステル;5.0~11.0重量%、好ましくは6.0~10.0重量%、より好ましくは7.0~9.0重量%、さらにより好ましくは7.5~8.5重量%の脂肪族アルコール。これらの好ましい範囲を適用することにより、安定性、化粧品としての許容性および効能がさらに改善される。
【0018】
本発明による水中油型エマルションの乳化剤系は、各成分を以下の比率で含有し得る:それぞれ乳化剤系の重量を基準として、21~51重量%、好ましくは26~46重量%、より好ましくは31~41重量%、さらにより好ましくは33~38重量%のマクロゴールグリセリン脂肪酸エステル;8~38重量%、好ましくは13~33重量%、より好ましくは18~28重量%、さらにより好ましくは21~26重量%のグリセリン脂肪酸エステル;26~56重量%、好ましくは31~51重量%、より好ましくは36~46重量%、さらにより好ましくは38~44重量%の脂肪族アルコール(または脂肪族アルコール混合物)。これらの好ましい比率を適用することにより、安定性、化粧品としての許容性および効能がさらに改善される。
【0019】
本発明の水中油型エマルションは、処置される適応症およびそれぞれの規制要件に依存して、医薬組成物/医薬として、医療デバイスとして、または化粧品組成物として使用され得る。
【0020】
本発明による組成物は、当業者に知られている、化粧品として、および薬学的/皮膚科学的に許容可能な賦形剤を含有してもよい。これらは、既に上述されたものの他に、例えば有機溶媒等のさらなる溶媒、ゲル化剤、緩衝剤、洗浄剤、乳化剤、可溶化剤、保水剤、充填剤、生体接着剤、皮膚軟化剤、保存剤、殺菌剤、界面活性剤、香水、増粘剤、柔軟剤、保湿剤、油、脂肪、ワックス、水、アルコール、ポリオール、ポリマー、泡安定剤、発泡剤、消泡剤、毛髪コーティング剤、または医薬品もしくは化粧品調製物の他の好適な成分を含む。
【0021】
殺菌剤の例は、ギ酸、ソルビン酸および安息香酸等の有機酸である。さらに、p-ヒドロキシ安息香酸のエステル、ホルムアルデヒド放出剤(例えばDMDMヒダントイン、イミダゾリジニルウレアまたはメチルクロロイソチアゾリノン)、メチルイソチアゾリノン、ジブロモジシアノブタン、ヨードプロピニルブチルカルバメート、フェノキシエタノールまたはベンジルアルコールが、殺菌剤として使用され得る。
【0022】
さらに、本発明による薬学的/皮膚科学的に許容可能な賦形剤は、局所投与用の無機物質または有機物質であってもよい。製剤のpH値は、ポリ酸およびその塩からなる緩衝剤系を使用して安定化され得る。そのようなポリ酸の例は、クエン酸、酒石酸およびリンゴ酸である。
【0023】
本発明において、エマルションは、好ましくは、哺乳動物の皮膚への局所塗布に好適な皮膚科学的組成物である。組成物の形態は、特に限定されない。好ましい実施形態において、組成物は、ローション、クリーム、スプレー、シャンプー、フォーム、または飽和パッド(saturated pad)の形態である。好ましくは、それらはディスペンサを使用して塗布され得る。
【0024】
本発明のエマルションで処置され得る臨床的障害/適応症は、一般に、発汗、特に過度の発汗に関連する全ての適応症である。これには、原発性および続発性多汗症、フライ症候群に関連する味覚性発汗、糖尿病性自律神経ニューロパシーに関連する味覚性発汗、ならびに一般的に過度の発汗が含まれる。特に、次の適応症が本発明により処置され得るが、それらは皮膚科学に関連し(例えば、エクリン母斑、特発性片側限局性多汗症(idiopathic unilateral focal hyperhidrosis)、血管変形、前脛骨粘液水腫);婦人科に関連し(例えば、閉経後の多汗症);医原性の、例えば薬に関連し、すなわちメタドンまたは他のアヘン剤、コリン作動薬、例えばガランタミン、SSRIに関連し;感染に関連し(例えば、ブルセラ症、HIV、慢性マラリア、TBC、心内膜炎);手術に関連し(例えば、交感神経切除後の代償性多汗症);薬に関連し(例えば糖尿病(神経障害または低血糖に起因する多汗症)、内分泌疾患(末端肥大症、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症、性腺機能低下症、インスリノーマ、心不全、肥満症));神経学に関連し(例えば、中枢または末梢病変、ハーレクイン症候群、ホルネル症候群、代償性多汗症、ロス症候群、パーキンソン病、多発性神経障害);腫瘍学に関連し(例えば、いくつかの悪性腫瘍を伴う、カルチノイド、リンパ腫);整形外科学に関連し(例えば切断断端からの多汗);精神医学に関連する(例えば、不安障害、向精神薬、対人恐怖症)。
【0025】
本発明の水中油型エマルションの非治療的(化粧品としての)使用は、不都合な発汗(すなわち、通常の発汗および/または過度の発汗の両方を含む)を起こしている個体における、哺乳動物の皮膚へのエマルションの局所塗布を含む。
【0026】
本発明のエマルションまたは組成物は、好ましくは、哺乳動物の皮膚に局所的に塗布される。典型的な塗布部位は、顔(例えば、額、顎、首および頭皮)、腋窩、腋の下、手のひら、足の裏、膝の裏側、胴体および鼠径部を含む。
【0027】
本発明のエマルションまたは組成物は、好ましくは1日1~4回、より好ましくは1日1~2回、さらにより好ましくは1日1回就寝前に、最も好ましくは1週間に2~3回哺乳動物の皮膚に局所的に塗布される。
【0028】
以下の例は、本発明の好ましい実施形態を示す。
【実施例】
【0029】
以下の例は、従来のミキサー(例えばBecomix RW320)を使用して以下に示された成分を配合することにより調製した。全ての成分は、市販のものである。マクロゴール20グリセロールモノステアレートは、ポリエチレングリコール(PEG)-20グリセリルステアレートとしても知られる。グリセロールモノステアレート40-55は、グリセロールモノステアレート40-55%(II型)としても知られる。セトステアリルアルコールは、セチルおよびステアリルアルコールの混合物である。
【0030】
調製例1:
【0031】
【0032】
調製例2:
【0033】
【0034】
調製例3:
【0035】
【0036】
全ての調製例は、安定性試験の間24ヶ月にわたりO/W型エマルションの良好な安定性を示した(相分離の点および原薬(API)の安定性の点でのエマルションの安定性)。
【0037】
30℃/75%RHで18ヶ月間保存された、実施例1の製剤調製物、およびプラセボ製剤を、それぞれ5℃または50℃で3日間保存した。その後、巨視的および微視的外観、臭気、ならびに粘度のパラメータに関して試料を評価した。5℃または50℃での製剤の短期間保存は、臭気、巨視的および微視的外観に大きな変化をもたらさなかった。仕様内の値で粘度のわずかな変化が観察された。
【0038】
実施例-多汗症の処置
腋窩多汗症の対象でのプラセボ対照二重盲検試験における局所製剤中の臭化グリコピロニウム(GPB)濃度の漸増に伴う、薬物動態、局所的および全身的な忍容性ならびに局所的効能を評価する臨床試験において、本出願による調製試料を試験した。
【0039】
0.5~2.0重量%のGPBを含有する上記調製例1~3を、多汗症の処置におけるそれらの効能について評価した。それらを1日1回14日間、多汗症に罹患している患者の皮膚に局所的に塗布した。
【0040】
調製例1の例示的結果は、以下の通りである。1回の塗布後の汗の生成は、最大80%低減された。さらに、8日目における7日間の処置後の汗の生成の低減は、最大95%超であった。4点HDSS(多汗症疾患の重症度スケール(hyperhidrosis disease severity scale))では、7日間の処置後の8日目の患者の70%超に、2点の改善が観察された。わずか1.0重量%のGPBを含有する組成物のそのような高い効能は、本発明のO/W型エマルションからのGPBの放出速度の驚くべき増加の証拠である。なぜなら、GPBが、その親水性および水に対する著しい溶解度に起因して、実際にはO/W型エマルションの連続(外部)水相からの放出速度の低減をもたらすと予想されたためである。
【0041】
上記効能の他に、本発明のエマルションは、局所の優れた忍容性および主として局所的効能を示した。さらに、O/W型エマルションの化粧品としての許容性は高かった。エマルションは、滑らかにし保湿する効果を含む改善されたスキンケア特性を提供する。