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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20230406BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20230406BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20230406BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20230406BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20230406BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20230406BHJP
   B29C 70/10 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
C08J5/04 CFD
C08K5/524
C08K5/10
C08K7/14
C08L69/00
C08L75/04
B29C70/10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020546732
(86)(22)【出願日】2019-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2019029034
(87)【国際公開番号】W WO2020054223
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2018168879
(32)【優先日】2018-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化ポリカーボネート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】榊 陽一郎
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/074066(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/171101(WO,A1)
【文献】特開2010-150470(JP,A)
【文献】特開平06-032912(JP,A)
【文献】特開2013-107979(JP,A)
【文献】特開2019-081909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/24
B29C 70/00- 70/88
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)40~80重量%及びガラス繊維(B)20~60重量%を含む樹脂組成物100重量部に対して、亜リン酸エステル系化合物(C)0.01~0.2重量部、脂肪酸エステル(D)0.1~2重量部、JIS K 6253またはJIS K 7215に準拠するデュロメータ硬度が75A以上の熱可塑性エラストマー(E)0.2~20重量部を含有することを特徴とする、繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記熱可塑性エラストマー(E)が、ポリエーテルポリオールを原料として使用しているポリウレタン系熱可塑性エラストマーである繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物
【請求項2】
炭素繊維を含まない、請求項1記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂(A)が、粘度平均分子量16000~30000である、請求項1または2に記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記ガラス繊維(B)が、エポキシ系集束剤またはウレタン系集束剤で処理され、平均直径が6~20μmである、請求項1~のいずれかに記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記ガラス繊維(B)が、エポキシ系集束剤またはウレタン系集束剤で処理され、繊維断面の長径の平均値が10~50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2~8である扁平断面を有する、請求項1~のいずれかに記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記ガラス繊維(B)の1GHzにおける誘電率が5.0以下であり、誘電正接が0.002以下である、請求項1~のいずれかに記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記ガラス繊維(B)の組成が、52.0~57.0質量%のSiOと、13.0~17.0質量%のAlと、15.0~21.5質量%のBと、2.0~6.0質量%のMgOと、2.0~6.0質量%のCaOと、1.0~4.0質量%のTiOと、1.5質量%未満のFとを含み、かつ、LiO、NaO及びKOの合計量が0.6質量%未満である、請求項に記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、下記一般式(1)、下記一般式(2)、下記一般式(3)で表される化合物から選択された1種以上の化合物である、請求項1~のいずれかに記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物。
一般式(1)
【化1】
(一般式(1)において、Rは、炭素数1~20のアルキル基を示し、aは、0~3の整数を示す)
一般式(2)
【化2】
(一般式(2)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-(ここで、Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-(ここで、Rは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。)
一般式(3)
【化3】
(一般式(3)において、R及びR10は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、b及びcは、それぞれ独立して、0~3の整数を示す。)
【請求項9】
前記一般式(1)で表される亜リン酸エステル系化合物(C)が、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトである、請求項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
前記一般式(2)で表される亜リン酸エステル系化合物(C)が、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンである、請求項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
前記一般式(3)で表される亜リン酸エステル系化合物(C)が、3,9-ビス[2,4-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン)及び3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカンから選択された1種以上の化合物である、請求項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項12】
前記脂肪酸エステル(D)が、ペンタエリスリトールテトラステアレートである、請求項1~11のいずれかに記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物を含む樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂が本来備える優れた耐熱性や熱安定性を維持しつつ、ポリカーボネート樹脂とガラス繊維の接着性を改善し、射出成形時の離型性に優れ、得られた成形品の外観や剛性にも優れる繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物及びその樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は優れた機械的強度、耐熱性、熱安定性等に優れた熱可塑性樹脂であることから、電気電子分野や自動車分野等広く工業的に利用されている。
【0003】
ガラス繊維で強化されたポリカーボネート樹脂は、強度や剛性に優れることから電気機器や電子機器の筐体や電動工具の筐体等に利用されている。近年、スマートフォン等の携帯端末は、その製品を持ち歩きすることから軽量化が要望されている。それら製品の筐体や電気電子部品の内部シャーシ等は更なる薄肉化を達成するため、高温で射出成形されている。そのため、機械的強度や剛性だけでなく、薄肉部の離型性や熱安定性に優れた成形材料が求められている。
【0004】
しかしながら、従来のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物は、離型性や熱安定性が十分に検討されておらず、薄肉部を有する成形品を離型する際に、離型が困難であったり割れたりするといった不具合を発生しやすいという問題点があった。また、ポリカーボネート樹脂とガラス繊維の接着性が不十分であるため、成形品の機械的強度や外観にも劣るといった問題点があった。
【0005】
ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物の機械的強度や剛性を向上させるためにポリカーボネート樹脂に無機充填剤を含有させる方法が複数知られている(例えば、特許文献1~4参照)。
【0006】
特許文献1には、ポリカーボネート樹脂、ガラス繊維、トリアルキルホスファイト及びポリエチレン系ワックスからなる、耐衝撃性、剛性及び寸法安定性に優れたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物が提案されている。しかしながら、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは記載されておらず、離型性や熱安定性については検討されていない。
【0007】
特許文献2には、特定の粘度平均分子量のポリカーボネート樹脂にL/D≧3の繊維状充填剤を50~240重量部からなるガラス繊維強化ポリカーボネートが提案されている。また、特許文献3には、ポリカーボネート樹脂と数平均アスペクト比4~10のガラス繊維からなることを特徴とする低異方性高剛性ガラス繊維強化樹脂成形品が提案されている。しかしながら、いずれの特許文献にも、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは記載されておらず、離型性や熱安定性については検討されていない。
【0008】
特許文献4には、ポリカーボネート樹脂、ガラス繊維及び熱可塑性ポリウレタン樹脂からなる流動性の改良されたガラス繊維強化ポリカーボネートが提案されている。しかしながら、熱安定性、離型性、成形品の外観やポリカーボネート樹脂とガラス繊維の接着性については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭57-094039号公報
【文献】特開平05-287185号公報
【文献】特開平04-100830号公報
【文献】特開平06-041415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物の優れた機械的強度及び剛性が損なわれることなく、離型性、熱安定性、成形品の外観及びポリカーボネート樹脂とガラス繊維の接着性に優れたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物及びその樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ポリカーボネート樹脂にガラス繊維、亜リン酸エステル系化合物、脂肪酸エステル及び一定の硬度を有する熱可塑性エラストマーを特定量含有させることにより、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物の優れた機械的強度及び剛性が損なわれることなく、離型性、熱安定性、成形品の外観及びポリカーボネート樹脂とガラス繊維の接着性に優れたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)40~80重量%及びガラス繊維(B)20~60重量%を含む樹脂組成物100重量部に対して、亜リン酸エステル系化合物(C)0.01~0.2重量部、脂肪酸エステル(D)0.1~2重量部、JIS K 6253またはJIS K 7215に準拠するデュロメータ硬度が75A以上の熱可塑性エラストマー(E)0.2~20重量部を含有することを特徴とする、繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物、及び、それを含む樹脂成形品に関する。
【0013】
前記熱可塑性エラストマー(E)が、水添スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、およびアクリル系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される1種以上の熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0014】
炭素繊維を含まないことが好ましい。
【0015】
前記ポリカーボネート樹脂(A)が、粘度平均分子量16000~30000であることが好ましい。
【0016】
前記ガラス繊維(B)が、エポキシ系集束剤またはウレタン系集束剤で処理され、平均直径が6~20μmであることが好ましい。
【0017】
前記ガラス繊維(B)が、エポキシ系集束剤またはウレタン系集束剤で処理され、繊維断面の長径の平均値が10~50μm、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2~8である扁平断面を有することが好ましい。
【0018】
前記ガラス繊維(B)の1GHzにおける誘電率が5.0以下であり、誘電正接が0.002以下である事が好ましい。
【0019】
前記ガラス繊維(B)の組成が、ガラス繊維全量に対し52.0~57.0質量%のSiOと、13.0~17.0質量%のAlと、15.0~21.5質量%のBと、2.0~6.0質量%のMgOと、2.0~6.0質量%のCaOと、1.0~4.0質量%のTiOと、1.5質量%未満のFとを含み、かつ、LiO、NaO及びKOの合計量が0.6質量%未満であることが好ましい。
【0020】
前記亜リン酸エステル系化合物(C)が、下記一般式(1)、下記一般式(2)、下記一般式(3)で表される化合物から選択された1種以上の化合物であることが好ましい。
一般式(1)
【化1】
(一般式(1)において、Rは、炭素数1~20のアルキル基を示し、aは、0~3の整数を示す)
一般式(2)
【化2】
(一般式(2)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-(ここで、Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-(ここで、Rは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。)
一般式(3)
【化3】
(一般式(3)において、R及びR10は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、b及びcは、それぞれ独立して、0~3の整数を示す。)
【0021】
前記一般式(1)で表される亜リン酸エステル系化合物(C)が、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトであることが好ましい。
【0022】
前記一般式(2)で表される亜リン酸エステル系化合物(C)が、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンであることが好ましい。
【0023】
前記一般式(3)で表される亜リン酸エステル系化合物(C)が、3,9-ビス[2,4-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン)及び3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカンから選択された1種以上の化合物であることが好ましい。
【0024】
前記脂肪酸エステル(D)が、ペンタエリスリトールテトラステアレートであることが好ましい。
【0025】
前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(E)が、ポリエーテルポリオールを原料として使用しているポリウレタン系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0026】
前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(E)が、ポリエステルポリオールを原料として使用しているポリウレタン系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂、ガラス繊維、亜リン酸エステル系化合物を特定量含む樹脂組成物に、特定の硬度の熱可塑性エラストマーを含有するため、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物の優れた機械的強度及び剛性が損なわれることなく、離型性、熱安定性、成形品の外観及びポリカーボネート樹脂とガラス繊維の接着性に優れる。そのため、例えば、電気機器や電子機器に使用される薄肉筐体や内部シャーシに用いる金属製品の代替品への使用が可能であり、製品の軽量化が出来る。また、このような樹脂組成物から得られた成形品へ外部力が印加された場合に、当該成形品が撓み、成形品内部に収納される電子部品へ損傷を及ぼすといった不具合の発生が可及的に抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は、以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0029】
本発明の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)40~80重量%及びガラス繊維(B)20~60重量%を含む樹脂組成物100重量部に対して、亜リン酸エステル系化合物(C)0.01~0.2重量部、脂肪酸エステル(D)0.1~2重量部、JIS K 6253またはJIS K 7215に準拠するデュロメータ硬度が75A以上の熱可塑性エラストマー(E)0.2~20重量部を含有することを特徴とする。
【0030】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0031】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-第三ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類が挙げられる。
【0032】
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′-ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0033】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプテン、2,4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン、1,3,5-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ベンゾール、1,1,1-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-エタン及び2,2-ビス-〔4,4-(4,4′-ジヒドロキシジフェニル)-シクロヘキシル〕-プロパンなどが挙げられる。
【0034】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、特に制限はないが、成形加工性、強度の面より通常10000~100000、より好ましくは16000~30000、さらに好ましくは19000~26000の範囲である。また、かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0035】
ポリカーボネート樹脂(A)の配合量は、40~80重量%であるが、50~70重量%が好ましい。80重量%を超えると剛性に劣り、40重量%未満では熱安定性に劣る成形品が発生することがあるため好ましくない。
【0036】
本発明にて使用されるガラス繊維(B)は、繊維断面の長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1~1.5の断面がほぼ円形の円形断面ガラス繊維であっても、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2~8の扁平断面ガラス繊維であってもよい。
【0037】
ガラス繊維(B)の数平均繊維長は1~8mmが好ましい。これらは従来公知の任意の方法に従い製造される。数平均繊維長が1mm未満では機械的強度の改良が十分でなく、8mmを超える数平均繊維長のガラス繊維を用いてポリカーボネート樹脂を製造する際、ポリカーボネート樹脂中へのガラス繊維の分散性に劣ることからガラス繊維が樹脂から脱落する等して生産性が低下しやすい。
【0038】
ガラス繊維(B)が、繊維断面の長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1~1.5の断面がほぼ円形の円形断面ガラス繊維の場合、ガラス繊維の平均直径は6~20μmが好ましく、7~18μmがより好ましく、8~15μmがさらに好ましい。ガラス繊維の直径が6μm未満の場合は、機械的強度に劣り、20μmを超えると外観が低下しやすいことから好ましくない。
【0039】
市販にて入手可能な繊維断面の長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1~1.5の断面がほぼ円形の円形断面ガラス繊維としては、直径10μmのものや13μmのものがあり、これらの数平均長さは2~6mmとなっている。市場で入手可能なガラス繊維としては、例えば、KCC社製CS321、CS311やオーウェンスコーニングジャパン社製CS03MAFT737等が挙げられる。
【0040】
ガラス繊維(B)が、繊維断面の長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2~8の扁平断面ガラス繊維の場合、長径の平均値は10~50μmが好ましく、15~40μmがより好ましく、25~30μmがさらに好ましい。また、長径と短径の比(長径/短径)の平均値は2~8であり、2~7が好ましく、2.5~5がより好ましい。これらは従来公知の任意の方法に従い製造される。
【0041】
扁平断面ガラス繊維の長径が10μm未満では製造が困難であり、50μmを超えるとポリカーボネート樹脂組成物の成形品表面外観を損なうことから好ましくない。長径と短径の比が2未満では寸法安定性に劣り、8を超えると強度に劣る場合が発生することから好ましくない。
【0042】
市販にて入手可能な繊維断面の長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2~8の扁平断面ガラス繊維としては、例えば、日東紡績社製CSG 3PA-820やCSG 3PA-830等が挙げられる。
【0043】
本発明にて使用されるガラス繊維(B)としては、1GHzにおける誘電率が5.0以下で、誘電正接が0.002以下の低誘電ガラスを使用することもできる。
【0044】
本発明で使用する低誘電ガラス繊維(B)は、繊維断面の長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1~1.5の断面がほぼ円形の円形断面ガラス繊維であっても、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が2~10の扁平断面ガラス繊維であってもよい。長径 と短径の比の平均値は、引張強度及びノッチ付きシャルピー衝撃強さと、ガラス繊維の製造容易性との両立の観点から、2.2~6.0が好ましく、3.2~4.5がより好ましい。なお、ガラス繊維が複数本のガラスフィラメントが集束されて形成される場合、ガラス繊維の断面形状は、ガラス繊維を形成するガラスフィラメントの断面形状を意味する。
【0045】
また、前記ガラス繊維において、換算繊維径は、ガラス繊維強化樹脂成形品の高い引張強度及びノッチ付きシャルピー衝撃強さと、ガラス繊維又はガラス繊維強化樹脂成形品を製造する際の製造容易性との両立の観点から、6.0~20μmが好ましく、6.5~16μmがより好ましい。なお、ガラス繊維が複数本のガラスフィラメントが集束されて形成される場合、ガラス繊維の繊維径は、ガラス繊維を形成するガラスフィラメントの繊維径を意味する。
【0046】
低誘電ガラス繊維は、52.0~57.0質量%のSiOと、13.0~17.0質量%のAlと、15.0~21.5質量%のBと、2.0~6.0質量%のMgOと、2.0~6.0質量%のCaOと、1.0~4.0質量%のTiOと、1.5質量%未満のFとを含み、かつ、LiO、NaO及びKOの合計量が0.6質量%未満の組成であることが好ましい。
【0047】
ガラス繊維の全量に対するSiOの含有量が52.0質量%未満であると、誘電率が大きくなり過ぎるとともに、耐水性及び耐酸性が低下して、ガラス繊維及びガラス繊維強化樹脂成形品の劣化を引き起こす。一方、前記ガラス繊維において、ガラス繊維の全量に対するSiOの含有量が57.0質量%を超えると、紡糸時に粘度が高くなり過ぎて、繊維化が困難となる場合がある。SiOの含有量は、52.5~56.8質量%が好ましく、53.0~56.6質量%がより好ましく、53.5~56.5質量%がさらに好ましく、53.8~56.3質量%が特に好ましく、54.0~56.2質量%が最も好ましい。
【0048】
ガラス繊維全量に対するAlの含有量が13.0質量%未満であると、分相を生じ易く、そのため耐水性が悪くなる。一方、ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するAlの含有量が17.0質量%を超えると、液相温度が高くなるため作業温度範囲が狭くなってガラス繊維の製造が困難になる。Alの含有量は、13.3~16.5質量%が好ましく、13.7~16.0質量%がより好ましく、14.0~15.5質量%がさらに好ましく、14.3~15.3質量%が特に好ましく、14.5~15.1質量%が最も好ましい。
【0049】
ガラス繊維全量に対するBの含有量が15.0質量% 未満であると、誘電率、誘電正接が大きくなり過ぎる。一方、前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するBの含有量が2 1.5質量%を超えると、紡糸時にBの揮発量が高く、ブッシングノズル付近へ付着するBの汚れによるガラス繊維の切断がみられ、作業性、生産性において問題となる場合がある。さらに、均質なガラスを得ることができず、耐水性が悪くなり過ぎる場合がある。Bの含有量は、15.5~21.0質量%が好ましく、16.0~20.5質量%がより好ましく、16.5~20.0質量%がさらに好ましく、17.0~19.5質量%が特に好ましく、17.5~19.4質量%が最も好ましい。
【0050】
ガラス繊維全量に対するMgOの含有量が2.0質量%未満であると、脈理が増加し、Bの揮発量が多くなる。一方、MgOの含有量が6.0質量%を超えると、分相性が強くなって耐水性が低下し、また誘電率、誘電正接が大きくなり過ぎる。MgOの含有量は、2.5~5.9質量%が好ましく、2.9~5.8質量%がより好ましく、3.3~5.7質量%がさらに好ましく、3.6~5.3質量%が特に好ましく、4.0~4.8質量%が最も好ましい。
【0051】
ガラス繊維全量に対するCaOの含有量が2.0質量%未満であると、溶融性が悪くなるとともに、耐水性が悪くなり過ぎる。一方、ガラス繊維全量に対するCaOの含有量が6 .0質量%を超えると、誘電率、誘電正接が大きくなり過ぎる。ガラス繊維全量に対するCaOの含有量は、2.6~5.5質量%が好ましく、3.2~5.0質量%がより好ましく、3.7~4.7質量%がさらに好ましく、3.9~4.5質量%が特に好ましく、4.0~4.4質量%が最も好ましい。
【0052】
ガラス繊維全量に対するTiOの含有量が1.0質量%未満であると、誘電正接を下げ、粘性を低下させ、初期溶融時における溶融分離を抑制し、炉表面で発生するスカムを減少させる効果が小さくなる。一方、TiOの含有量が4.0質量%を超えると、分相を生じ易く、化学的耐久性が悪くなる。TiOの含有量は、1.3~3.0質量%が好ましく、1.5~2.5質量%がより好ましく、1.6~2.3質量%の範囲とすることがさらに好ましく、1.7~2.1質量%が特に好ましく、1.8~2.0質量%が最も好ましい。
【0053】
ガラス繊維全量に対するFの含有量が1.5質量%以上であると、ガラスが分相しやすくなるとともに、ガラスの耐熱性が悪くなることがある。一方、Fを含むことでガラスの粘性が低下して溶融しやすくなるだけでなく、ガラスの誘電率及び特に誘電正接を低下させることができる。Fの含有量は、0.1~1.4質量%が好ましく、0.3~1.3質量%がより好ましく、0.4~1.2質量%がさらに好ましく、0.5~1.1質量%特に好ましく、0.6~1.0質量%の範囲とすることが最も好ましい。
【0054】
ガラス繊維全量に対するLiO、NaO及びKOの合計量が0.6質量%以上であると、誘電正接が高くなり過ぎ、また耐水性も悪くなる。一方、LiO、NaO及びKOを含むことでガラスの粘性が低下し、ガラスを溶融しやすくなる。ガラス繊維全量に対するLiO、NaO及びKOの合計量の含有量は、0.02~0.50質量%が好ましく、0.03~0.40質量%がより好ましく、0.04~0.30質量%がさらに好ましく、0.05~0.25質量が特に好ましい。
【0055】
また、組成物に含まれるガラス繊維は、ガラス繊維の全量に対して0.4質量%未満の不純物を含みうる。前記ガラス繊維が含みうる不純物としては、Fe、Cr、ZrO、MoO、SO、Cl等が挙げられる。これらの中でも、溶融ガラス中の輻射熱の吸収やガラス繊維の着色に影響するため、ガラス繊維全量に対するFeの含有量は0.05~0.15質量%が好ましい。
【0056】
なお、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品に含まれるガラス繊維において、前述した各成分の含有率の測定は、軽元素であるLiについてはICP発光分光分析装置を用いて、その他の元素は波長分散型蛍光X線分析装置を用いて行うことができる。
【0057】
ガラス繊維(B)は、ポリカーボネート樹脂との密着性を向上させる目的でアミノシラン、エポキシシラン等のシランカップリング剤などにより表面処理を行う事が出来る。また、ガラス繊維を取り扱う際、取り扱い性を向上させる目的でウレタンやエポキシ等の集束材などにより集束させることが出来る。
【0058】
ガラス繊維(B)の配合量は、20~60重量%であるが、30~50重量%が好ましく、40~45重量%がより好ましい。60重量%を超えると外観性に劣る成形品が発生する事があり、20重量%未満では強度、剛性に劣る。
【0059】
本発明のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物には、亜リン酸エステル系化合物(C)が配合されている。亜リン酸エステル系化合物(C)を配合することにより、ポリカーボネート樹脂(A)が本来有する機械的強度等の特性が損なわれることがなく、熱安定性に優れたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
【0060】
亜リン酸エステル系化合物(C)は特に限定されないが、たとえば下記一般式(1)~(4)で表される化合物が挙げられる。なかでも一般式(1)~(3)で表される化合物が好ましい。
【0061】
一般式(1):
【化4】
(式中、Rは、炭素数1~20のアルキル基を示し、aは、0~3の整数を示す)
【0062】
前記式(1)において、Rは、炭素数1~20のアルキル基であるが、さらには、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましい。
【0063】
式(1)で表される化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、特にトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトが好適であり、例えば、BASF社製のイルガフォス168(「イルガフォス」はビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの登録商標)として商業的に入手可能である。
【0064】
一般式(2):
【化5】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-(ここで、Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-(ここで、Rは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。)
【0065】
一般式(2)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。
【0066】
ここで、炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基、i-オクチル基、t-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基としては、例えば、1-メチルシクロペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-メチル-4-i-プロピルシクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基等が挙げられる。
【0067】
、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基であることが好ましい。特に、R及びRは、それぞれ独立して、t-ブチル基、t-ペンチル基、t-オクチル基等のt-アルキル基、シクロヘキシル基又は1-メチルシクロヘキシル基であることが好ましい。特に、Rは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、メチル基、t-ブチル基又はt-ペンチル基であることがさらに好ましい。
【0068】
は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0069】
一般式(2)において、Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。特に、Rは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがさらに好ましい。
【0070】
一般式(2)において、Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-で表される基を示す。ここで、式:-CHR-中のRは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基及び炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、それぞれ前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基及びシクロアルキル基が挙げられる。特に、Xは、単結合、メチレン基、又はメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基等で置換されたメチレン基であることが好ましく、単結合であることがさらに好ましい。
【0071】
一般式(2)において、Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-で表される基を示す。炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基等が挙げられ、好ましくはプロピレン基である。また、式:*-COR-におけるRは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示す。Rを示す炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、前記Aの説明にて例示したアルキレン基が挙げられる。Rは、単結合又はエチレン基であることが好ましい。また、式:*-COR-における*は、酸素側の結合手であり、カルボニル基がフォスファイト基の酸素原子と結合していることを示す。
【0072】
一般式(2)において、Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、α-メチルベンジルオキシ基、α,α-ジメチルベンジルオキシ基等が挙げられる。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。
【0073】
一般式(2)で表される化合物としては、例えば、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン等が挙げられる。これらの中でも、特に光学特性が求められる分野に、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いる場合には、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンが好適であり、例えば、住友化学(株)製のスミライザーGP(「スミライザー」は登録商標)として商業的に入手可能である。
【0074】
一般式(3):
【化6】
(式中、R及びR10は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、b及びcは、それぞれ独立して、0~3の整数を示す。)
【0075】
一般式(3)で表される化合物としては、例えば、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジフォスファイト等が挙げられる。ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトは、ADEKA社製、商品名「アデカスタブPEP-24G」として商業的に入手可能である。(株)ADEKA製のアデカスタブPEP-36(「アデカスタブ」は登録商標)が商業的に入手可能である。
【0076】
一般式(4):
【化7】
【0077】
(式中、R11~R18は、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基またはアルケニル基を示す。R11とR12、R13とR14、R15とR16、R17とR18とは、互いに結合して環を形成していても良い。R19~R22は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す。d~gは、それぞれ独立して、0~5の整数である。X~Xは、それぞれ独立に、単結合または炭素原子を示す。X~Xが単結合である場合、R11~R22のうち、当該単結合に繋がった官能基は一般式(3)から除外される)
【0078】
一般式(4)で表される化合物の具体例としては、例えばビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトが挙げられる。これは、Dover Chemical社製、商品名「Doverphos(登録商標) S-9228」、ADEKA社製、商品名「アデカスタブPEP-45」(ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)として商業的に入手可能である。
【0079】
亜リン酸エステル系化合物(C)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)40~80重量%及びガラス繊維(B)20~60重量%を含む樹脂組成物100重量部に対して0.01~0.2重量部であが、0.03~0.15重量部が好ましく、0.05~0.1重量部がより好ましい。配合量が0.2重量部を超えると熱安定性が逆に悪くなる。0.01重量部未満だと熱安定性に劣る。
【0080】
本発明のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物には、脂肪酸エステル(D)が配合されている。脂肪酸エステル(D)を配合することにより、ポリカーボネート樹脂(A)が本来有する機械的強度等の特性が損なわれることがなく、離型性及び熱安定性に優れたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
【0081】
脂肪酸エステル(D)としては、通常の脂肪族カルボン酸とアルコールとの縮合化合物を用いることができる。
【0082】
前記脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸等が挙げられる。なお、該脂肪族カルボン酸には、脂環式カルボン酸も含まれる。これらの中でも、炭素数6~36の、モノカルボン酸及びジカルボン酸が好ましく、炭素数6~36の飽和モノカルボン酸がさらに好ましい。
【0083】
前記脂肪族カルボン酸の具体例としては、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラトリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。
【0084】
前記アルコールとしては、飽和又は不飽和の、一価アルコール及び多価アルコールが挙げられ、これらのアルコールは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、アリール基等の置換基を有していてもよい。これらの中でも、炭素数30以下の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の、脂肪族飽和一価アルコール及び脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、脂肪族アルコールには、脂環式アルコールも含まれる。
【0085】
前記アルコールの具体例としては、例えば、オクタノール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0086】
脂肪酸エステル(D)の具体例としては、例えば、ベヘニルベヘネート、オクチルドデシルベヘネート、ステアリルステアレート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ペンタエリスリトールステアレートが好適であり、例えば、コグニス社製ロキシオールVPG861等が商業的に入手可能である。
【0087】
脂肪酸エステル(D)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)40~80重量%及びガラス繊維(B)20~60重量%を含む樹脂組成物100重量部に対して0.1~2重量部であるが、0.3~1.5重量部が好ましく、0.5~1.0重量部がより好ましい。配合量が2重量部を超えると安定生産が困難になる。0.1重量部未満だと離型性に劣る。
【0088】
本発明のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物は、JIS K 6253またはJIS K 7215に準拠するデュロメータ硬度が75A以上の熱可塑性エラストマー(E)を含有する。デュロメータ硬度が75A以上の熱可塑性エラストマー(E)を配合することにより、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物の優れた機械的強度及び剛性が損なわれることなく、ポリカーボネート樹脂(A)とガラス繊維(B)の接着性が向上し、成形品の外観に優れたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
【0089】
熱可塑性エラストマー(E)としては、水添スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、およびアクリル系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0090】
水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとソフトセグメントから構成されるマルチブロックコポリマーであって、ポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック共重合体、ポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック-ポリスチレン共重合体、ポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック-ポリスチレン共重合体、ポリスチレン-ポリ(エチレン-エチレン/プロピレン)ブロック-ポリスチレン共重合体などである。また、これらの水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、無水マレイン酸やアミン等で変性されたものも用いることができる。さらに、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック-ポリスチレン共重合体が好適であり、例えば、旭化成社製タフテック、クラレ社製セプトン等が商業的に入手可能である。
【0091】
水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、成形品の外観の観点から、スチレン単位含有量は55重量%以上が好適である。スチレン単位含有量が55重量%以上の水添スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、旭化成社製タフテックH1043、クラレ社製セプトン8104等が商業的に入手可能である。
【0092】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとソフトセグメントから構成されるマルチブロックコポリマーである。前記ハードセグメントとしは芳香族ポリエステルが好適であり、具体例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0093】
前記ソフトセグメントとしては、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル及びポリカーボネート等が好適であり、具体例としては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリテトラメチレングリコール、ポリアルキレンカーボネート等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このようなブロック共重合体(コポリマー)としては、ポリエステル-ポリエステル共重合体、ポリエステル-ポリエーテル共重合体、およびポリエステル-ポリカーボネート共重合体からなる群から選択された1種以上の共重合体等が好ましい。
【0094】
市販にて入手可能なポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、東レ・デュポン社製ハイトレル、東洋紡社製ペルプレン等が挙げられる。
【0095】
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとソフトセグメントから構成されるマルチブロックコポリマーである。前記ハードセグメントはジイソシアネートと短鎖ジオールからなり、ジイソシアネートの具体例としては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられ、短鎖ジオールの具体例としては、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0096】
前記ソフトセグメントとしては、ポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールからなり、ポリエーテルポリオールの具体例としては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられ、ポリエステルポリオールの具体例としては、ポリカーボネート、ポリカプロラクトン、アジペート系ポリエステル等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0097】
市販にて入手可能なポリウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、BASF社製エラストラン、日本ミラクトラン社製ミラクトラン等が挙げられる。
【0098】
アクリル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとソフトセグメントから構成されるマルチブロックコポリマーである。前記ハードセグメントはメタクリル酸メチルからなり、前記ソフトセグメントとしては、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0099】
市販にて入手可能なアクリル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、クラレ社製クラリティ等が挙げられる。
【0100】
熱可塑性エラストマー(E)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)40~80重量%及びガラス繊維(B)20~60重量%から成る樹脂組成物100重量部に対して0.2~20重量部であるが、0.3~15重量部が好ましく、0.4~10重量部がより好ましい。配合量が20重量部を超えると安定生産が困難になる。0.2重量部未満では、ポリカーボネート樹脂(A)とガラス繊維(B)の接着性に劣り、成形品の外観が悪化する。
【0101】
本発明のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物において、例えば、ポリカーボネート樹脂を第一フィーダー(原料供給口)から押出機バレル内に供給し、樹脂を十分に溶融した後にガラス繊維を第二フィーダー(充填剤供給口)から押出機バレル内に供給した後、混練に用いるスクリューに一般的に入手可能なディスク(例えば、ニーディングディスク)等を適用し、公知の手法によりこのディスクをスクリュー構成として複数用いたり、ディスクの配置を適宜変えたりする等により調整して混練を行うことにより可能である。ガラス繊維を引きながらポリカーボネート樹脂を当該繊維に含浸させる引き抜き成形法も使用することができる。
【0102】
更に、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に各種の樹脂、酸化防止剤、蛍光増白剤、顔料、染料、カーボンブラック、充填材、離型剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、ゴム、軟化材、展着剤(流動パラフィン、エポキシ化大豆油等)、難燃剤、有機金属塩等の添加剤、滴下防止用ポリテトラフルオロエチレン樹脂等を配合しても良い。
【0103】
各種の樹脂としては、例えば、ハイインパクトポリスチレン、ABS、AES、AAS、AS、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド樹脂等が挙げられ、これらは単独もしくは2種以上で併用してもよい。
【0104】
酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤などが挙げられる。なかでも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好適に使用され、例えば、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレン-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが挙げられる。とりわけ、下記構造式に示される化合物が好適に用いられる。該酸化防止剤としてはチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Irganox1076などが挙げられる。
【実施例
【0105】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲においては、任意に変更乃至改変して実施することができる。なお、特に断りのない限り、実施例中の「%」及び「部」は、それぞれ重量基準に基づく「重量%」及び「重量部」を示す。
【0106】
使用した原料の詳細は以下のとおりである。
1.ポリカーボネート樹脂(A):
1-1.ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
(住化ポリカーボネート社製 SDポリカ200-3、粘度平均分子量28000、以下「A1」と略記)
1-2.ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
(住化ポリカーボネート社製 SDポリカ200-13、粘度平均分子量21000、以下「A2」と略記)
1-3.ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
(住化ポリカーボネート社製 SDポリカ200-20、粘度平均分子量19000、以下「A3」と略記)
【0107】
2.ガラス繊維(B):
2-1.円形断面ガラス繊維
(KCC社製 Eガラス繊維、CS321、繊維径10μm、繊維長3mm、エポキシ/ウレタン系集束剤、以下「B1」と略記)
2-2.円形断面ガラス繊維
(KCC社製 Eガラス繊維、CS311、繊維径10μm、繊維長3mm、ウレタン系集束剤、以下「B2」と略記)
2-3.扁平断面ガラス繊維
(日東紡績社製 Eガラス繊維、CSG 3PA-830、長径28μm、短径7μm、繊維長3mm、エポキシ/ウレタン系集束剤、以下「B3」と略記)
2-4.扁平断面ガラス繊維
(日東紡績社製 NEガラス繊維、長径28μm、短径7μm、繊維長3mm、エポキシ/ウレタン系集束剤、1GHzの誘電率4.8、1GHzの誘電正接0.0015、以下「B4」と略記)
【0108】
3.亜リン酸エステル系化合物(C):
3-1.以下の式で表される、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト
【化8】
[BASF社製のイルガフォス168(商品名)、以下(C1)ともいう]
【0109】
3-2.以下の式で表される、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン
【化9】
[住友化学(株)製のスミライザーGP(商品名)、以下(C2)ともいう]
【0110】
3-3.以下の式で表される、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(IUPAC名:3,9-ビス[2,4-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン)
【化10】
[Dover Chemical社製のDoverphos S-9228(商品名)、以下(C3)ともいう]
【0111】
3-4.以下の式で表される、ビス(2,4-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(IUPAC名:3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン)
【化11】
[ADEKA製のアデカスタブPEP-36(商品名)、以下(C4)ともいう]
【0112】
4.脂肪酸エステル(D):
ペンタエリスリトールステアレート
ロキシオールVPG861(商品名、コグニス社製、以下、「D1」と略記)
【0113】
5.熱可塑性エラストマー(E):
5-1.水添スチレン系熱可塑性エラストマー
・タフテックH1051(商品名、SEBS樹脂、旭化成社製、デュロメータ硬度96A、「E1」と略記)
5-2.ポリエステル系熱可塑性エラストマー
・ペルプレンE-450B(商品名、東洋紡社製、デュロメータ硬度99A、「E2」と略記)
5-3.ポリウレタン系熱可塑性エラストマー:
・エラストラン1180A(商品名、ポリエーテル系、BASF社製、デュロメータ硬度80±2A、「E3」と略記)
・エラストランNY1197A(商品名、ポリエーテル系、BASF社製、デュロメータ硬度97±2A、「E4」と略記)
・エラストランC80A(商品名、ポリエステル系、BASF社製、デュロメータ硬度80±2A、「E5」と略記)
・エラストランS80A(商品名、BASF社製、ポリエステル系、デュロメータ硬度80±2A、「E6」と略記)
5-4.アクリル系熱可塑性エラストマー
・クラリティLA4285(商品名、クラレ社製、デュロメータ硬度95A、「E7」と略記)
・クラリティLA3320(商品名、クラレ社製、デュロメータ硬度13A、「E8」と略記)
【0114】
実施例1~21および比較例1~10
前述の各種配合成分を表1~4に示す配合比率にて、二軸押出機(東芝機械社製TEM-37SS)を用いて、溶融温度300℃にて混練し、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物を得た。具体的には、ポリカーボネート樹脂、亜リン酸エステル系化合物、脂肪酸エステル、熱可塑性エラストマーを第一フィーダー(原料供給口)から押出機バレル内に供給し、樹脂組成物を十分に溶融した後にガラス繊維を第二フィーダー(充填剤供給口)から押出機バレル内に供給した。
【0115】
<曲げ弾性率>
得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ125℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(ファナック株式会社製、ROBOSHOT S2000i100B)を用いて設定温度300℃、射出圧力100MPaにてISO試験法に準じた厚み4mmの試験片を作製し、得られた試験片を用いてISO 178に準じ曲げ弾性率(剛性)を測定した。曲げ弾性率が、10GPa以上を良好(表中「◎」で示す)、10GPa未満6GPa以上を使用可(表中「○」で示す)、6GPa未満を不良(表中「×」で示す)とした。
【0116】
<熱安定性>
得られた各種樹脂組成物のペレット及び曲げ弾性率(剛性)を測定した試験片をジクロロメタンに溶解し、NO.1濾紙を用いて溶解液中の不溶物をろ過した。この濾液をドライアップし、得られたポリマーの一定量(0.25g)をジクロロメタン50mlに溶解した。キャノン・フェンスケ粘度計を用いてジクロロメタン希薄溶液の粘度を23℃で測定し、シュネルの式を用いて各試験片の粘度平均分子量を求めた。
(シュネルの式) [η]=1.23×10-4・M0.83
[η]:固有粘度、M:粘度平均分子量
なお、熱安定性の指標である分子量低下は、ペレットの粘度平均分子量から試験片の粘度平均分子量を減じた値(ΔMv)が、1000未満を良好(表中「◎」で示す)、1000以上2000未満を使用可(表中「○」で示す)、2000以上を不良(表中「×」で示す)とした。
【0117】
<離型性>
得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ125℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(ファナック株式会社製、ROBOSHOT S2000i100B)を用いて、シリンダー設定温度300℃、金型温度50℃、冷却時間20秒の条件にて、離型性を評価した。金型には、コップ型の離型抵抗金型(成形品の形状:直径70mm、高さ20mm、厚み4mm)を用いて、カップ型成形品を成形する際の突き出しピンにかかる突き出し荷重を測定し、離型抵抗値を求めた。評価の基準として、離型抵抗値が400未満を良好(表中「◎」で示す)、400以上800未満を使用可(表中「○」で示す)、800以上を不良(表中「×」で示す)とした。
【0118】
<成形品外観>
曲げ弾性率(剛性)を測定した試験片について、ガラス繊維による成形品表面の荒れ具合について目視にて観察し、ガラス繊維による成形品表面の荒れないものを良好(表中「◎」で示す)、若干荒れがあるものを使用可(表中「○」で示す)、荒れが多いものを不良(表中「×」で示す)とした。
【0119】
<ポリカーボネート樹脂とガラス繊維の接着性>
曲げ弾性率(剛性)を測定した試験片の断面について、走査電子顕微鏡(日立社製、S-3400N)を用いて500倍で観察し、樹脂の付着しているガラス繊維が全体の6割以上のものをポリカーボネート樹脂とガラス繊維の接着性が良好(表中「◎」で示す)、全体の6割未満4割以上のものを使用可(表中「○」で示す)、全体の4割未満のものを不良(表中「×」で示す)とした。なお、観察前に、イオンスパッター(日立社製、E-1010)を用いて、試験片断面は金蒸着した。

【0120】
【表1】

【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
実施例1~21に示すように、本発明の繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物は、要求性能を満たしていた。
【0124】
一方、比較例1~10に示すように、本発明の構成要件を満足しないものについては、それぞれ次のとおり欠点を有していた。
比較例1は、ガラス繊維(B)の配合量が規定量よりも少ないため、曲げ弾性率が劣っていた。
比較例2は、ガラス繊維(B)の配合量が規定量よりも多いため、ペレットの作製が不可能であった。
比較例3は、亜リン酸エステル系化合物(C)の配合量が規定量よりも少ないため、熱安定性が劣っていた。
比較例4は、亜リン酸エステル系化合物(C)の配合量が規定量よりも多いため、熱安定性が劣っていた。
比較例5は、脂肪酸エステル(D)の配合量が規定量よりも少ないため、離型性が劣っていた。
比較例6は、脂肪酸エステル(D)の配合量が規定量よりも多いため、ペレットの作製が不可能であった。
比較例7は、熱可塑性エラストマー(E)の配合量が規定量よりも少ないため、ポリカーボネート樹脂とガラス繊維の接着性が劣っていた。
比較例8は、熱可塑性エラストマー(E)の配合量が規定量よりも多いため、ペレットの作製が不可能であった。
比較例9は、熱可塑性エラストマー(E)のJIS K 6253またはJIS K 7215に準拠するデュロメータ硬度が75A未満であったため、成形品の外観に劣っていた。
比較例10は、熱可塑性エラストマー(E)のJIS K 6253またはJIS K 7215に準拠するデュロメータ硬度が75A未満であったため、熱安定性および成形品の外観に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物は、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物の優れた機械的強度及び剛性が損なわれることなく、離型性、熱安定性、成形品の外観及びポリカーボネート樹脂とガラス繊維の接着性に優れるため、その産業上の利用価値は高い。例えば、電気機器や電子機器に使用される薄肉筐体や内部シャーシに用いる金属製品の代替品への使用が可能であり、製品の軽量化が出来る。また、このような樹脂組成物から得られた成形品へ外部力が印加された場合に、当該成形品が撓み成形品内部に収納される電子部品へ損傷を及ぼすといった不具合の発生が可及的に抑えられる。