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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】抗MUC1抗体-薬物コンジュゲート
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/68 20170101AFI20230406BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230406BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 11/04 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20230406BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20230406BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20230406BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20230406BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230406BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230406BHJP
【FI】
A61K47/68
A61K39/395 N
A61K39/395 L
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K31/4745
A61P31/00
A61P37/06
A61P37/04
A61P15/00
A61P1/18
A61P11/00
A61P1/04
A61P1/16
A61P13/12
A61P35/02
A61P17/00
A61P25/00
A61P1/02
A61P11/02
A61P11/04
A61P27/16
A61P13/08
A61P13/10
A61P35/04
A61K47/65
A61K47/55
C07K16/30 ZNA
A61K45/00
C12P21/08
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020564569
(86)(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 EP2019062758
(87)【国際公開番号】W WO2019219891
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】18173253.8
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM ACC2806
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM ACC2807
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM ACC2856
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】ゲレルト,ヨハンナ
(72)【発明者】
【氏名】フレヒナー,アンケ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイゲルト,ドリーン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエルチュク,アンチェ
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 亜希子
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-500703(JP,A)
【文献】国際公開第2004/065423(WO,A2)
【文献】国際公開第2016/135079(WO,A1)
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2016年,Vol.26,pp.1542-1545
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:
【化1】
により表され、
式中、ABは抗体を表し、抗体は、配列番号10のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含み、yは、抗体にコンジュゲートされた薬物-リンカー構造の単位の、1抗体あたりの平均数を表し、抗体は、上記式により表される薬物リンカーにチオエーテル結合でコンジュゲートされている、コンジュゲート。
【請求項2】
以下の式:
【化2】
により表され、
式中、ABは抗体を表し、抗体は、配列番号22のアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号16のアミノ酸配列を有する軽鎖を含み、yは、抗体にコンジュゲートされた薬物-リンカー構造の単位の、1抗体あたりの平均数を表し、抗体は、上記式により表される薬物リンカーにチオエーテル結合でコンジュゲートされている、コンジュゲート。
【請求項3】
抗体が、脱フコシル化、フコース低減、N-連結グリコシル化、O-連結グリコシル化、N末端プロセシング、C末端プロセシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、メチオニンの酸化、重鎖の234位および235位にある2つのロイシン(L)残基のアラニン(A)への置換(LALA)、プロリン残基のアミド化、およびカルボキシル末端の1つまたは2つのアミノ酸の欠失または欠如からなる群から選択される1つまたは複数の修飾を含む、請求項1または2に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
抗体が、重鎖のカルボキシル末端の1つまたは2つのアミノ酸の欠失または欠如を含む、請求項に記載のコンジュゲート。
【請求項5】
抗体が、両方が1つのカルボキシル末端アミノ酸残基を欠如する2つの重鎖を含む、請求項に記載のコンジュゲート。
【請求項6】
コンジュゲートされた細胞傷害剤、特に薬物リンカー構造の、1抗体当たりの平均数yが、1から10までの範囲である、請求項1からのいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項7】
コンジュゲートされた細胞傷害剤、特に選択された1つの薬物-リンカー構造の単位の、1抗体当たりの平均数yが、2から8までの範囲である、請求項1からのいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項8】
コンジュゲートされた細胞傷害剤、特に選択された1つの薬物-リンカー構造の単位の、1抗体当たりの平均数yが、3から8までの範囲である、請求項1からのいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項9】
コンジュゲートされた細胞傷害剤、特に選択された1つの薬物-リンカー構造の単位の、1抗体当たりの平均数yが、7から8までの範囲である、請求項1からのいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項10】
コンジュゲートされた細胞傷害剤、特に選択された1つの薬物-リンカー構造の単位の、1抗体当たりの平均数yが、7.5から8までの範囲である、請求項1からのいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項11】
1抗体分子当たりのコンジュゲートされた細胞傷害剤の数が、8である、請求項1から10のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載のコンジュゲートを含む組成物。
【請求項13】
医薬において使用するための、請求項1から11のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項14】
がんの治療に使用するための、請求項13に記載のコンジュゲートまたは請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
がんが、TA-MUC1を発現することにより特徴付けられる、請求項14に記載のコンジュゲートまたは組成物。
【請求項16】
がんが、卵巣がん、乳がん、膵臓がん、肺がん、結腸がん、胃がん、肝臓がん、腎臓がん、血液がん、子宮内膜がん、甲状腺がん、白血病、半水癌、黒色腫、癌腫、奇形腫、リンパ腫、肉腫、中皮腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、直腸がん、副腎がん、皮膚がん、脳がん、子宮頸がん、腸管がん、腸がん、頭頸部がん、消化管がん、リンパ節がん、食道がん、結腸直腸がん、耳鼻咽喉(ENT)がん、前立腺がん、膀胱がん、子宮がん、およびそれらの転移からなる群から選択される、請求項15に記載のコンジュゲートまたは組成物。
【請求項17】
コンジュゲートまたは組成物が、さらなる作用剤と組み合わせて使用される、請求項12から16のいずれか一項に記載のコンジュゲートまたは組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体薬物コンジュゲート(ADC)の分野に関する。本発明のADCは、抗MUC1抗体または突然変異抗MUC1抗体を含む。抗原結合親和性が増加された突然変異抗MUC1抗体を有するADCが提供される。特に、ヒト化抗体PankoMabの突然変異型では、重鎖可変領域のアスパラギン57が別のアミノ酸により置換されている。それにより、CDR2領域のグリコシル化部位が欠失され、抗原結合親和性が増加される。ADCは、有意な抗腫瘍有効性を示した。具体的な実施形態では、本発明は、この抗体薬物コンジュゲートの治療使用および診断使用、ならびにそのような抗体薬物コンジュゲートを産生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍関連抗原に対する抗体は、広く使用されている抗がん療法剤である。今日、多くの抗がん抗体がヒト療法に承認されている。こうした抗体の一部は、特定のがん細胞の生存または増殖に重要な、ある特定のシグナル経路を阻止することにより作用する。他の抗がん抗体は、例えば、ナチュラルキラー細胞を介して抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)を惹起することにより、標的がん細胞に対する患者の免疫応答を活性化する。この機序は、抗体のFc部分が免疫細胞のFc受容体に結合することにより誘導される。
【0003】
興味深く重要な抗体の群は、ムチンタンパク質に対する抗体である。ムチンは、脊椎動物の多くの上皮組織により産生される、高分子量であり高度にグリコシル化されているタンパク質のファミリーである。ムチンは、原形質膜での保留に有利な疎水性膜貫通ドメインが存在するため膜結合性であるムチンタンパク質と、粘膜表面に分泌されるかまたは分泌されて唾液の成分となるムチンとに細分化することができる。ヒトムチンタンパク質ファミリーは、膜結合型MUC1を含む多くのファミリーメンバーで構成される。
【0004】
ムチン産生の増加は、膵臓、肺、胸部、卵巣、結腸などのがんを含む多くの腺癌で生じる。ムチンは、喘息、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患、または嚢胞性線維症などの肺疾患でも過剰発現される。2つの膜ムチンMUC1およびMUC4は、疾患プロセスにおける病理学的関連が広範に研究されている。さらに、ムチンは、診断マーカーとしての可能性も調査されている。ムチンタンパク質に対する幾つかの抗体(Clin.Cancer Res.、2011年11月1日;17巻(21号):6822~30ページ、PLoS One、2011年1月14日;6巻(1号):e15921)、特にMUC1が当技術分野で公知である。しかしながら、それらの治療有効性には依然として向上の余地があり得る。
【0005】
以上の観点から、当技術分野には、特性が向上された治療用抗MUC1抗体を提供する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
ADCは、ペイロードを標的細胞へと特異的に送達することを担う3つの異なる成分(抗体、リンカー、および薬物/ペイロード)からなる。現在まで、4つのADC(ゲムツズマブオゾガミシン(Mylotarg(登録商標))、イノツズマブオゾガマイシン(Besponsa(登録商標))、ブレンツキシマブベドチン(Adcetris(登録商標))、トラスツズマブエムタンシン(T-DM1;Kadcyla(登録商標))が、市場への参入を獲得している。加えて、幅広い範囲の血液がんおよび固形腫瘍を標的とする60個よりも多くのADCが開発中である。ADCは、新規がん化学療法の新しいパラダイムを創出した。モノクローナル抗体の特異性および低分子薬物の細胞傷害能力を有するため、ADCは、将来の精密医療ならびに組合せ治療の大部分を占めると有望視されている。したがって、さらなるADCを提供するための、ならびに疾患の治療および/または診断に関する手段、方法、および使用のための必要性が継続している。
【0007】
ADCとして、エキサテキカンがリンカーを介して抗体(例えば、抗HER2抗体)にコンジュゲートされているADCが公知である(WO2014/057687、WO2015/115091)。しかしながら、エキサテキカンが抗MUC1抗体にコンジュゲートされているADCは公知ではない。
【0008】
本発明者らは、抗MUC1抗体PankoMabの重鎖可変領域のグリコシル化部位欠失が、抗原結合を消失させず、むしろ意外にも抗体の抗原親和性を増加させたことを見出した。これは、グリコシル化部位が重鎖可変領域の第2の相補性決定領域(CDR-H2)に位置するため、特に驚くべきことだった。CDRは、抗原結合に直接関与しエピトープとの接触を提供する抗体の領域である。したがって、一般には、CDRのアミノ酸の修飾は、抗原結合親和性に有害であることが予想される。加えて、ヒト化PankoMab抗体は、大型炭水化物構造を保持するグリコシル化部位をCDR-H2に含む。この炭水化物構造は、抗原に対する結合インターフェースに直に存在するため、抗原結合に関与するとみなされていた。しかしながら、実施例にて実証されているように、炭水化物構造を保持するアミノ酸を置換することによりグリコシル化部位が欠失されているPankoMab変異体(PM-N54Q)は、抗原結合親和性の増加を示す。加えて、本発明者らは、PankoMabまたはPankoMab変異体(PM-N54Q)を含むコンジュゲートまたは抗体-薬物コンジュゲート(ADC)が、MUC1陽性腫瘍に対して有意な抗腫瘍有効性を示し、PM-N54Q-ADCが、PankoMab-ADCと比較して有意な抗腫瘍有効性を示したことを見出した。
【0009】
したがって、第1の態様では、本発明は、細胞傷害剤にコンジュゲートされた抗体を含むコンジュゲートであって、抗体は、MUC1に結合することが可能であり、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-H1、配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに
(ii)配列番号4のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-L1、配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR-L2、および配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR-L3を含む軽鎖可変領域
を含む、コンジュゲートに関する。
【0010】
第2の態様では、本発明は、本発明によるコンジュゲートを含む組成物に関する。
【0011】
第3の態様によると、本発明は、医薬において、特にがんの治療、予防、または診断において使用するための本発明による組成物またはコンジュゲートを提供する。
【0012】
第4の態様では、本発明は、それを必要とする対象のがんを治療するための方法であって、がんを有する対象に、本発明によるコンジュゲートの治療有効量を投与するステップを含む方法を提供する。
【0013】
第5の態様では、本発明は、本発明によるコンジュゲートを含むキットまたはデバイス、ならびにがんなどのMUC1関連障害の診断、検出、またはモニタリングに有用な関連方法を提供する。
【0014】
本発明の他の目的、特徴、利点、および態様は、当業者であれば、以下の説明および添付の特許請求の範囲から明白になるだろう。しかしながら、以下の説明、添付の特許請求の範囲、および特定の例は、本出願の好ましい実施形態を示すものであるが、例示のために提供されているに過ぎないことが理解されるべきである。本開示の発明の趣旨および範囲内にある種々の変更および改変は、当業者であれば、下記を読めば直ちに明白になるだろう。
【0015】
定義
本明細書で使用される場合、以下の表現は、一般に、それらが使用される状況が別様に示す場合を除いて、好ましくは、下記に示されているような意味を有することが意図されている。
【0016】
「含む(comprise)」という表現は、本明細書で使用される場合、その文字通りの意味の他に、「から本質的になる(consist essentially of)」および「からなる(consist of)」も含み、それらを具体的に指す。したがって、「含む(comprise)」という発現は、主題が、具体的に列挙されている要素を「含み(comprises)」、さらなる要素を含まない実施形態を指し、ならびに具体的に列挙されている要素を「含む(comprises)」主題が、さらなる要素を包含してもよくおよび/または実際に包含する実施形態を指す。同様に、「有する(have)」という表現は、「含む(comprise)」として理解されるべきであり、「から本質的になる(consist essentially of)」および「からなる(consist of)」という表現も含み、それらを具体的に指す。「から本質的になる(consist essentially of)」という用語は、可能な場合、特に、主題がそれらから本質的になる具体的に列挙されている要素に加えて、主題が、20%もしくはそれよりも少ない、特に15%もしくはそれよりも少ない、10%もしくはそれよりも少ない、または特に5%もしくはそれよりも少ないさらなる要素を含む実施形態を指す。
【0017】
「抗体」という用語は、特に、ジスルフィド結合により接続されている少なくとも2つの重鎖および2つの軽鎖を含むタンパク質を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(V)および重鎖定常領域(C)で構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(V)および軽鎖定常領域(C)で構成される。重鎖定常領域は、3つの、またはIgM型もしくはIgE型の抗体の場合は、4つの重鎖定常ドメイン(CH1、CH2、CH3、およびCH4)を含み、第1の定常ドメインCH1は可変領域に隣接しており、ヒンジ領域により第2の定常ドメインCH2に接続されていてもよい。軽鎖定常領域は、1つの定常ドメインのみからなる。可変領域は、フレームワーク領域(FR)と名付けられているより保存されている領域に分散されている、相補性決定領域(CDR)と名付けられている超可変性領域にさらに細分化することができ、各可変領域は、3つのCDRおよび4つのFRを含む。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。重鎖定常領域は、γ型、δ型、α型、μ型、またはε型重鎖など、任意の型であってもよい。好ましくは、抗体の重鎖は、γ鎖である。また、さらに、軽鎖定常領域は、κ型またはλ型軽鎖など、任意の型であってもよい。好ましくは、抗体の軽鎖は、κ鎖である。「γ(δ、α、μ、またはε)型重鎖」および「κ(λ)型軽鎖」という用語は、それぞれ、天然に存在する重鎖または軽鎖定常領域アミノ酸配列、特にヒト重鎖または軽鎖定常領域アミノ酸配列に由来する定常領域アミノ酸配列を有する抗体重鎖または抗体軽鎖を指す。特に、γ型(特にγ1型)重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列は、ヒトγ(特にヒトγ1)抗体重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列と少なくとも95%、特に少なくとも98%同一である。さらに、κ型軽鎖の定常ドメインのアミノ酸配列は、特に、ヒトκ抗体軽鎖の定常ドメインのアミノ酸配列と少なくとも95%、特に少なくとも98%同一である。抗体の定常領域は、免疫系の種々の細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第1の成分(C1q)を含む宿主組織または因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介することができる。抗体は、例えば、ヒト化抗体、ヒト抗体、またはキメラ抗体であってもよい。
【0018】
抗体の抗原結合性部分は、通常、抗原と特異的に結合する能力を維持する抗体の全長または1つもしくは複数の断片を指す。抗体の抗原結合機能は、全長抗体の断片により実施され得ることが示されている。抗体の結合性断片の例としては、以下のものが挙げられる:V、V、C、およびCH1ドメインからなる一価断片であるFab断片;各々が同じ抗原に結合する2つのFab断片を含み、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結されている二価断片であるF(ab)断片;VおよびCH1ドメインからなるFd断片;抗体の単一アームのVおよびVドメインからなるFvフラグメント;およびVドメインからなるdAb断片。
【0019】
抗体の「Fab部分」は、特に、重鎖および軽鎖可変領域(VおよびV)ならびに重鎖および軽鎖定常領域の第1のドメイン(CH1およびC)を含む抗体の部分を指す。抗体がこうした領域のすべてを含む訳ではない場合、「Fab部分」という用語は、抗体に存在する領域V、V、CH1、およびCのものを指すに過ぎない。好ましくは、「Fab部分」は、天然抗体をパパインで消化することにより得られる、抗体の抗原結合活性を含む断片に対応する抗体の部分を指す。特に、抗体のFab部分は、その抗原結合部位または抗原結合能力を包含する。好ましくは、Fab部分は、少なくとも抗体のV領域を含む。
【0020】
抗体の「Fc部分」は、特に、重鎖定常領域2、3、および該当する場合は4(CH2、CH3、およびCH4)を含む抗体の部分を指す。特に、Fc部分は、こうした領域の各々のうち2つを含む。抗体がこうした領域のすべてを含む訳ではない場合、「Fab部分」という用語は、抗体に存在する領域CH2、CH3、およびCH4のものを指すに過ぎない。好ましくは、Fc部分は、少なくとも抗体のCH2領域を含む。好ましくは、「Fc部分」は、天然抗体をパパインで消化することにより得られる、抗体の抗原結合活性を含まない断片に対応する抗体の部分を指す。特に、抗体のFc部分は、Fc受容体に結合することが可能であり、したがって、例えば、Fc受容体結合部位またはFc受容体結合能力を含む。
【0021】
「抗体」および「抗体構築物」という用語は、本明細書で使用される場合、ある特定の実施形態では、それぞれ同じ種類の抗体または抗体構築物の集団を指す。特に、集団中の抗体または抗体構築物はすべて、抗体または抗体構築物を規定するために使用される特徴を示す。ある特定の実施形態では、集団中の抗体または抗体構築物はすべて、同じアミノ酸配列を有する。MUC1と特異的に結合することが可能な抗体など、特定の種類の抗体への参照は、特に、その種類の抗体の集団を指す。
【0022】
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、前記抗体の断片および誘導体も含む。特に、抗体の「断片または誘導体」は、前記抗体に由来し、同じ抗原に、特に同じエピトープに抗体として結合可能であるタンパク質または糖タンパク質である。したがって、抗体の断片または誘導体は、本明細書では一般に、機能性断片または誘導体を指す。特に好ましい実施形態では、抗体の断片または誘導体は、重鎖可変領域を含む。抗体の抗原結合機能は、全長抗体またはその誘導体の断片により実施され得ることが示されている。抗体の断片の例としては、以下のものが挙げられる:(i)可変領域ならびに各重鎖および軽鎖の第1の定常ドメインからなる一価断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域にてジスルフィド架橋により連結されている2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab)断片;(iii)可変領域および重鎖の第1の定常ドメインCH1からなるFd断片;(iv)抗体の単一アームの重鎖および軽鎖可変領域からなるFv断片;(v)単一のポリペプチド鎖からなるFv断片であるscFv断片;(vi)共有結合で共に連結されている2つのFv断片からなる(Fv)断片;(vii)重鎖可変ドメイン;ならびに(viii)重鎖および軽鎖可変領域の付随が分子間でのみ生じ得るが分子内では生じ得ないように共有結合で共に連結されている重鎖可変領域および軽鎖可変領域からなるマルチボディ(multibody)。抗体の誘導体は、特に、親抗体と同じ抗原に結合するかまたはそれと競合するが、それが由来する親抗体とは異なるアミノ酸配列を有する抗体が挙げられる。こうした抗体断片および抗体誘導体は、当業者に公知の従来技法を使用して得られる。
【0023】
標的アミノ酸配列は、標的アミノ酸配列が、その長さ全体にわたって参照アミノ酸配列の対応する部分と少なくとも75%、より好ましくは、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも93%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の相同性または同一性を共有する場合、参照アミノ酸配列に「由来する」または「対応する」。「対応する部分」は、例えば、標的抗体の重鎖可変領域(FRH1)のフレームワーク領域1が、参照抗体の重鎖可変領域のフレームワーク領域1に対応することを意味する。特定の実施形態では、参照アミノ酸配列に「由来する」または「対応する」標的アミノ酸配列は、その長さ全体にわたって、参照アミノ酸配列の対応する部分と100%相同性であるか、または特に100%同一である。アミノ酸配列またはヌクレオチド配列の「相同性」または「同一性」は、好ましくは、参照配列の長さ全体にわたって、または相同性もしくは同一性が規定される配列に対応する参照配列の対応する部分の長さ全体にわたって、本発明により決定される。具体的なCDR配列または具体的な可変領域配列などの1つまたは複数のアミノ酸配列により規定される親抗体に由来する抗体は、特に、親抗体の対応するアミノ酸配列と少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも93%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%相同性または同一であり、特に同一である、CDR配列または可変領域配列などのアミノ酸配列を有する抗体である。ある特定の実施形態では、親抗体に由来する抗体(つまり、その誘導体)は、親抗体と同じCDR配列を含むが、可変領域の残りの配列が異なる。
【0024】
また、「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、多価および多特異性抗体、つまり、各々が同じエピトープに結合する2つよりも多くの結合部位を有する抗体構築物、ならびに第1のエピトープに結合する1つまたは複数の結合部位、および第2のエピトープに結合する1つまたは複数の結合部位、および任意選択でさらなるエピトープに結合するさらなる結合部位さえ有する抗体構築物を指す。
【0025】
「特異的結合」は、好ましくは、抗体などの作用剤が、別の標的との結合と比較して特異的であるエピトープなどの標的に対してより強力に結合することを意味する。結合が特異的か否かを決定するための基準の例としては、解離定数(本明細書では「K」と呼ばれる)を挙げることができる。作用剤は、第2の標的の解離定数よりも低い解離定数(K)で第1の標的に結合する場合、第2の標的と比較して第1の標的により強力に結合する。好ましくは、作用剤が特異的に結合する標的の解離定数は、作用剤が特異的に結合しない標的の解離定数よりも、100倍、200倍、500倍、または1000倍より低い。さらに、「特異的結合」という用語は、特に、結合パートナー間の結合親和性を示し、親和性定数Kは、少なくとも10-1、好ましくは少なくとも10-1、より好ましくは少なくとも10-1である。ある特定の抗原に対して特異的な抗体は、特に、少なくとも10-1、好ましくは少なくとも10-1、より好ましくは少なくとも10-1のKを有する親和性で、前記抗原に結合することが可能である抗体を指す。例えば、「抗MUC1抗体」という用語は、特に、MUC1と特異的に結合し、好ましくは、少なくとも10-1、好ましくは少なくとも10-1、より好ましくは少なくとも10-1のKを有する親和性でMUC1に結合することが可能な抗体を指す。
【0026】
「MUC1」という用語は、ムチン-1、多形性上皮ムチン(PEM)、またはがん抗原15-3としても知られているタンパク質MUC1、特にヒトMUC1(アクセッション番号P15941)を指す。MUC1は、ムチンファミリーのメンバーであり、膜結合グリコシル化リンタンパク質をコードする。MUC1は、120~225kDaのコアタンパク質質量を有し、この質量は、グリコシル化されると250~500kDaに増加する。MUC1は、細胞の表面を越えて200~500nm伸長する。このタンパク質は、多くの上皮細胞の頂端表面に膜貫通ドメインにより係留されている。細胞外ドメインは、20アミノ酸可変数タンデムリピート(VNTR、20 amino acid variable number tandem repeat)ドメインを含み、リピート数は、個体が異なれば20から120までと様々である。こうしたリピートは、高度なO-グリコシル化を可能にするセリン残基、トレオニン残基、およびプロリン残基に富む。ある特定の実施形態では、「MUC1」という用語は、腫瘍関連MUC1(「TA-MUC1」)を指す。TA-MUC1は、がん細胞上に存在するMUC1である。このMUC1は、発現レベルが非常により高く、局在化されており、グリコシル化されている点で、非がん細胞上に存在するMUC1とは異なる。特に、TA-MUC1は、がん細胞の細胞表面全体にわたって無極性的に存在するが、非がん細胞では、MUC1は厳密に頂端性の発現を示すため、全身性に投与される抗体ではアクセスできない。さらに、TA-MUC1は、MUC1タンパク質骨格にある新しいペプチドエピトープ、およびトムゼン-フリーデンライヒ抗原アルファ(TFα)などの新しい炭水化物腫瘍抗原を露出させる異常なO-グリコシル化を有する。
【0027】
「TFα」は、トムゼン-フリーデンライヒ抗原アルファまたはコア-1とも呼ばれ、癌細胞中のタンパク質のヒドロキシアミノ酸セリンまたはトレオニンに対してアルファ-アノマー配置でO-グリコシド連結されている二糖Gal-β1,3-GalNAcを指す。
【0028】
「シアル酸」という用語は、特に、ノイラミン酸の任意のN-またはO-置換誘導体を指す。この用語は、5-N-アセチルノイラミン酸および5-N-グリコリルノイラミン酸の両方を指すことができるが、好ましくは5-N-アセチルノイラミン酸のみを指す。シアル酸、特に、5-N-アセチルノイラミン酸は、好ましくは、2,3-または2,6-連結により炭水化物鎖に付着されている。好ましくは、本明細書に記載の抗体には、2,3-ならびに2,6-カップリングシアル酸が両方とも存在する。
【0029】
本発明による「グリカンの相対量」は、それぞれ、抗体調製物の抗体にまたは抗体を含む組成物中の抗体に付着されたグリカンの特定のパーセンテージまたはパーセンテージ範囲を指す。特に、グリカンの相対量は、抗体に含まれる、したがって抗体調製物中のまたは抗体を含む組成物中の抗体のペプチド鎖に付着されているすべてのグリカンの特定のパーセンテージまたはパーセンテージ範囲を指す。グリカンの100%は、それぞれ、抗体調製物の抗体にまたは抗体を含む組成物中の抗体に付着されているすべてのグリカンを指す。例えば、二分GlcNAcを保持するグリカンの相対量が10%であることは、抗体に含まれている、したがって前記組成物中の抗体ポリペプチド鎖に付着されているすべてのグリカンの10%は、二分GlcNAc残基を含むが、抗体に含まれている、したがって前記組成物中の抗体ポリペプチド鎖に付着されているすべてのグリカンの90%は、二分GlcNAc残基を含まない、抗体を含む組成物を指す。100%に相当するグリカンの対応する基準量は、組成物中の抗体に付着されているすべてのグリカン構造であるか、またはすべてのN-グリカン、つまり組成物中の抗体のアスパラギン残基に付着されているすべてのグリカン構造、またはすべての複合型グリカンのいずれであってもよい。グリカン構造の基準群は、一般に、明示的に示されるか、または当業者であれば状況から直接的に推定可能である。
【0030】
「N-グリコシル化」という用語は、タンパク質のポリペプチド鎖のアスパラギン残基に付着されているすべてのグリカンを指す。こうしたアスパラギン残基は、一般に、アミノ酸配列Asn-Xaa-Ser/Thr(式中、Xaaは、プロリンを除く任意のアミノ酸であってもよい)を有するN-グリコシル化部位の一部である。同様に、「N-グリカン」は、ポリペプチド鎖のアスパラギン残基に付着されているグリカンである。「グリカン」、「グリカン構造」、「炭水化物」、「炭水化物鎖」、および「炭水化物構造」という用語は、本明細書では、一般に同義的に使用される。N-グリカンは、一般に、構造Manα1,6-(Manα1,3-)Manβ1,4-GlcNAcβ1,4-GlcNAcβ1-Asnを有し、Asnはポリペプチド鎖のアスパラギン残基である、2つのN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基および3つのマンノース残基からなる共通コア構造を有する。N-グリカンは、3つの異なる型、すなわち複合型グリカン、ハイブリッド型グリカン、高マンノース型グリカンに細分化される。
【0031】
本明細書に示されている数値、特に、具体的なグリコシル化特性の相対量は、好ましくは概数として理解されるべきである。特に、数値は、好ましくは、最大で10%より高くおよび/またはより低く、特に最大で9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%より高くおよび/またはより低くてもよい。
【0032】
用語「抗体薬物コンジュゲート」(ADC)または「コンジュゲート」は、本明細書で使用される場合、一般に、抗体またはその抗原結合性断片と、化学療法剤、毒素、免疫療法剤、およびイメージングプローブなどの別の作用剤とが連結されていることを指す。連結は、共有結合であってもよく、または静電力などによる非共有結合相互作用であってもよい。当技術分野で公知であり、本明細書に記載されている種々のリンカーを、抗体薬物コンジュゲートを形成するために使用することができる。加えて、抗体薬物コンジュゲートは、免疫コンジュゲートをコードするポリヌクレオチドから発現させることができる融合タンパク質の形態で提供することができる。本明細書で使用される場合、「融合タンパク質」は、元々は別々のタンパク質(ペプチドおよびポリペプチドを含む)をコード化していた2つまたはそれよりも多くの遺伝子または遺伝子断片を接合することにより創出されるタンパク質を指す。融合遺伝子の翻訳は、元のタンパク質の各々に由来する機能的特性を有する単一のタンパク質をもたらす。
【0033】
「コンジュゲート」においては、2つまたはそれよりも多くの化合物が共に連結されている。ある特定の実施形態では、各化合物の特性の少なくとも一部が、コンジュゲートにおいて維持される。連結は、共有結合または非共有結合により達成することができる。好ましくは、コンジュゲートの化合物は、共有結合により連結されている。コンジュゲートの異なる化合物は、化合物の原子間の1つまたは複数の共有結合を介して互いに直接結合されていてもよい。その代わりに、化合物は、リンカー分子などの化学部分を介して互いに結合されていてもよく、リンカーは化合物の原子に共有結合で付着されている。コンジュゲートが2つよりも多くの化合物で構成されている場合、そうした化合物は、例えば、1つが次の化合物に付着されているか、または幾つかの化合物が各々1つの中央化合物に付着されていてもよい鎖コンフォメーションで連結されていてもよい。
【0034】
「核酸」という用語は、一本鎖および二本鎖の核酸ならびにリボ核酸およびデオキシリボ核酸を含む。核酸は、天然に存在するならびに合成のヌクレオチドを含んでいてもよく、例えば、メチル化、5’-キャッピング、および/または3’-キャッピングにより、天然でまたは合成的に修飾されていてもよい。
【0035】
「発現カセット」という用語は、特に、その中に導入されたコード核酸配列の発現を可能にし、調節することが可能な核酸構築物を指す。発現カセットは、プロモーター、リボソーム結合部位、エンハンサー、および遺伝子の転写またはmRNAの翻訳を調節する他の制御エレメントを含んでいてもよい。発現カセットの正確な構造は、種または細胞タイプの関数として変動してもよいが、一般に、TATAボックス、キャッピング配列、およびCAAT配列など、それぞれ転写および翻訳の開始に関与する5’-非転写配列ならびに5’-および3’-非翻訳配列を含む。より詳しくは、5’-非転写発現制御配列は、作動可能に接続した核酸の転写制御のためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。また、発現カセットは、エンハンサー配列または上流活性化因子配列を含んでいてもよい。
【0036】
本発明によると、「プロモーター」という用語は、発現させようとする核酸配列の上流(5’)に位置し、RNAポリメラーゼの認識および結合部位を提供することにより配列の発現を制御する核酸配列を指す。「プロモーター」は、遺伝子の転写調節に関与するさらなる因子のさらなる認識および結合部位を含んでいてもよい。プロモーターは、原核生物遺伝子または真核生物遺伝子の転写を制御することができる。さらに、プロモーターは「誘導可能」であってもよく、つまり誘導剤に応答して転写を開始させてもよく、または転写が誘導剤により制御されない場合は、「構成的」であってもよい。誘導剤が存在しない場合、誘導可能なプロモーターの制御下にある遺伝子は発現されないか、または少ない程度にしか発現されない。誘導剤が存在すると、遺伝子のスイッチがオンになるか、または転写レベルが増加する。これは、一般に、特定の転写因子が結合することにより媒介される。
【0037】
「ベクター」という用語は、本明細書ではその最も一般的な意味で使用され、例えば、核酸の原核細胞および/または真核細胞への導入および適切な場合はゲノムへの組込みを可能にする、前記核酸のための任意の媒介性ビヒクルを含む。この種類のベクターは、好ましくは、細胞にて複製および/または発現される。ベクターは、プラスミド、ファージミド、バクテリオファージ、またはウイルスゲノムを含む。「プラスミド」という用語は、本明細書で使用される場合、一般に、染色体DNAとは独立して複製することができる染色体外遺伝物質の構築物、通常は環状DNA二重鎖に関する。
【0038】
本発明によると、「宿主細胞」という用語は、外因性核酸で形質転換またはトランスフェクトすることができる任意の細胞に関する。「宿主細胞」という用語は、本発明によると、原核細胞(例えば、大腸菌)または真核細胞(例えば、哺乳動物細胞、特にヒト細胞、酵母細胞、および昆虫細胞)を含む。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギ、または霊長類に由来する細胞などの哺乳動物細胞が特に好ましい。細胞は、多数の組織タイプに由来してもよく、初代細胞および細胞株を含む。核酸は、単一のコピーまたは2つもしくはそれよりも多くのコピーの形態で宿主細胞に存在してもよく、一実施形態では、宿主細胞にて発現される。
【0039】
「患者」という用語は、本発明によると、ヒト、非ヒト霊長類、または別の動物、特にウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、またはマウスおよびラットなどのげっ歯動物などの哺乳動物を意味する。特に好ましい実施形態では、患者はヒトである。
【0040】
本発明による「がん」という用語は、特に、白血病、半水癌、黒色腫、癌腫、奇形腫、リンパ腫、肉腫、中皮腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、直腸がん、子宮内膜がん、腎臓がん、副腎がん、甲状腺がん、血液がん、皮膚がん、脳がん、子宮頸がん、腸管がん(intestinal cancer)、肝臓がん、結腸がん、胃がん、腸がん(intestine cancer)、頭頸部がん、消化管がん、リンパ節がん、食道がん、結腸直腸がん、膵がん、耳鼻咽喉(ENT)がん、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、子宮がん、卵巣がん、および肺がん、ならびにそれらの転移を含む。また、本発明によるがんという用語は、がん転移を含む。
【0041】
用語「腫瘍」は、誤調節された細胞増殖により形成される一群の細胞または組織を意味する。腫瘍は、構造組織化および正常組織との機能的協調の部分的または完全な欠如を示す場合があり、通常は個別の組織塊を形成し、良性または悪性のいずれであってもよい。
【0042】
用語「腫瘍」および「がん」は、同義的に使用される。
【0043】
用語「転移」は、その元の部位から身体の別の部分へのがん細胞の伝搬を意味する。転移の形成は、非常に複雑なプロセスであり、通常は、がん細胞が原発腫瘍から脱離すること、身体循環に進入すること、および身体の他所の正常組織内に定着して増殖することを含む。腫瘍細胞が転移する場合、新しい腫瘍は、二次腫瘍または転移腫瘍と呼ばれ、その細胞は、通常は元の腫瘍中の細胞に類似する。これは、例えば、乳がんが肺に転移する場合、二次腫瘍は、異常な肺細胞ではなく異常な乳房細胞で構成されることを意味する。その場合、肺の腫瘍は、肺がんではなく転移性乳がんと呼ばれる。
【0044】
「医薬組成物」という用語は、特に、ヒトまたは動物への投与に好適な組成物、つまり薬学的に許容される成分を含む組成物を指す。好ましくは、医薬組成物は、担体、希釈剤、または緩衝剤、保存剤、および張度調節剤などの医薬賦形剤と共に、活性化合物またはその塩もしくはプロドラッグを含む。本明細書に記載の数値範囲は、範囲を画定する数値を含む。本明細書で提供されている見出しは、全体として本明細書を参照することにより理解することができる本発明の種々の態様または実施形態を限定するものではない。一実施形態によると、方法の場合はある特定のステップを含むものとしてまたは組成物の場合はある特定の成分を含むものとして本明細書に記載されている主題は、それぞれのステップまたは成分からなる主題を指す。本明細書に記載の好ましい態様および実施形態を選択し組み合わせることが好ましく、好ましい実施形態のそれぞれの組合せに由来する特定の主題も、本開示に属する。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、CDR-H2のグリコシル化部位が欠失されているヒト化抗MUC1抗体PankoMabの変異体(PM-N54Q)の開発に基づく。グリコシル化部位の欠失は、重鎖可変領域のアミノ酸Asn(アスパラギン)57(すなわち、配列番号11のアミノ酸番号57)を、別のアミノ酸、特にGln(グルタミン)で置換することにより達成された。Asn57は、炭水化物構造が付着されているグリコシル化部位のアクセプターアミノ酸残基である。炭水化物構造は、宿主細胞の酵素によりアスパラギン残基に移行させることしかできないため、このアスパラギン残基を別の残基で置換することにより、グリコシル化が消滅する。PankoMabのCDR-H2のグリコシル化部位の欠失は、驚くべきことに、抗体の抗原結合親和性を増加させたことが見出された。
【0046】
こうした知見に照らして、本発明は、細胞傷害剤にコンジュゲートされた抗体を含むコンジュゲートであって、抗体は、MUC1に結合することが可能であり、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-H1、配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに
(ii)配列番号4のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-L1、配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR-L2、および配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR-L3を含む軽鎖可変領域
を含む、コンジュゲートを提供する。
【0047】
MUC1に対する結合
抗体は、MUC1のエピトープと特異的に結合する。エピトープは、MUC1の細胞外タンデムリピートにある。ある特定の実施形態では、抗体は、グリコシル化依存的様式でMUC1に結合する。特に、抗体は、前記タンデムリピートのトレオニン残基が、N-アセチルガラクトサミン(Tn)、シアリルα2-6N-アセチルガラクトサミン(sTn)、ガラクトースβ1-3N-アセチルガラクトサミン(TF)、またはガラクトースβ1-3(シアリルα2-6)N-アセチルガラクトサミン(sTF)で、好ましくはTnまたはTFでグリコシル化されている場合、より強力に結合する。好ましくは、炭水化物部分は、α-O-グリコシド結合によりトレオニン残基に結合されている。MUC1のタンデムリピートドメインにあるエピトープは、特に、アミノ酸配列PDTR(配列番号13)またはPESR(配列番号14)を含む。このエピトープに対する結合は、好ましくは、上記に記載のようにグリコシル化依存性であり、特に、上記に記載の炭水化物部分が、配列PDTRまたはPESR(配列番号13および14)のトレオニン残基にそれぞれ付着されている場合、結合が増加する。
【0048】
エピトープは、腫瘍関連MUC1エピトープ(TA-MUC1)である。TA-MUC1エピトープは、特に、腫瘍細胞上に存在するが、正常細胞上には存在せず、および/または腫瘍細胞上に存在する場合は宿主循環中の抗体によりアクセス可能であるのみであり、正常細胞上に存在する場合はアクセス可能ではないMUC1のエピトープを指す。ある特定の実施形態では、TA-MUC1エピトープを発現する細胞に対する抗体の結合は、正常な非腫瘍MUC1を発現する細胞に対する結合よりも強力である。好ましくは、前記結合は、少なくとも1.5倍強力であり、好ましくは少なくとも2倍強力であり、少なくとも5倍強力であり、少なくとも10倍強力であり、または少なくとも100倍強力である。TA-MUC1結合の場合、抗体は、好ましくは、グリコシル化MUC1腫瘍エピトープと特異的に結合し、結合の強さは、同一の長さおよび同一のペプチド配列の非グリコシル化ペプチドに対する結合と比較して、少なくとも2倍、好ましくは4倍、または10倍、最も好ましくは20倍増加される。前記結合は、ELISA、RIA、または表面プラズモン共鳴(以下、「SPR」と呼ぶ)分析などによりアッセイまたは決定することができる。SPR分析に使用される装置の例としては、以下のものを挙げることができる:BlAcore(商標)(GE Healthcare Bio-Sciences Crop.製)、ProteOn(商標)(Bio-Rad Laboratories,Inc.製)、DRX2バイオセンサー(Dynamic Biosensors GmbH製)、SPR-Navi(商標)(BioNavis Oy Ltd.製)、Spreeta(商標)(Texas Instruments Inc.製)、SPRi-PlexII(商標)(Horiba,Ltd.製)、およびAutolab SPR(商標)(Metrohm製)。細胞表面上に発現される抗原に対する抗体の結合は、フローサイトメトリーなどによりアッセイすることができる。
【0049】
さらに、抗体は、配列番号11または配列番号10のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む参照抗体の抗原結合特性と同様の抗原結合特性を示すことができる。好ましくは、参照抗体は、ヒト化抗体PankoMabである。特に、抗体は、参照抗体と同じ抗原と特異的に結合し、好ましくはより高い親和性で前記抗原に結合する。すなわち、抗体は、好ましくは、参照抗体の解離定数よりも低い、より好ましくは10%低い、少なくとも20%低い、少なくとも30%低い、または少なくとも50%低い解離定数を有する親和性で抗原に結合する。さらに、抗体は、好ましくは、配列番号11または配列番号10のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む参照抗体と交差特異性を示す。特に、ヒト化抗体は、十分に高い濃度で存在する場合、MUC1に対する参照抗体の結合を阻止することができる。これは、抗体が抗原MUC1に既に結合している場合、MUC1に対する参照抗体の結合が妨害されるとすれば可能である。
【0050】
抗MUC1抗体
MUC1に結合することが可能な抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-H1、配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに配列番号4のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-L1、アミノ酸配列5を有するCDR-L2、配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR-L3を含む軽鎖可変領域を含む。
【0051】
ある特定の実施形態では、重鎖可変領域は、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。特に、重鎖可変領域は、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも95%、特に少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含む。こうした実施形態では、重鎖可変領域は、配列番号1、2、および3のアミノ酸配列を有するCDRを依然として含む。したがって、配列番号9に対する任意の配列逸脱は、フレームワーク領域に位置するが、CDRには位置しない。特に、重鎖可変領域は、配列番号9のアミノ酸配列を含む。
【0052】
ある特定の実施形態では、CDR-H2は、配列番号2のアミノ酸配列を有し、配列番号2の8位のアミノ酸は、グルタミン、アラニン、バリン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、リジン、およびアルギニン、特にグルタミン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、リジン、およびアルギニンからなる群から選択される。好ましくは、配列番号2の8位のアミノ酸は、グルタミン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、またはアルギニン、特にグルタミンである。特に、CDR-H2は、配列番号7のアミノ酸配列を有する。
【0053】
ある特定の実施形態では、CDR-H2は、配列番号8のアミノ酸配列を有する。
【0054】
具体的な実施形態では、重鎖可変領域は、配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。特に、重鎖可変領域は、配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも95%、特に少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含む。こうした実施形態では、重鎖可変領域は、配列番号1のアミノ酸配列を有するCDR-H1、配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む。したがって、配列番号10に対する任意の配列逸脱は、フレームワーク領域に位置するが、CDRには位置しない。特に、重鎖可変領域は、配列番号10のアミノ酸配列を含む。
【0055】
具体的な実施形態では、重鎖可変領域は、配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。特に、重鎖可変領域は、配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも95%、特に少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含む。こうした実施形態では、重鎖可変領域は、配列番号1のアミノ酸配列を有するCDR-H1、配列番号8のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む。したがって、配列番号11に対する任意の配列逸脱は、フレームワーク領域に位置するが、CDRには位置しない。特に、重鎖可変領域は、配列番号11のアミノ酸配列を含む。
【0056】
ある特定の実施形態では、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。特に、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも95%、特に少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含む。こうした実施形態では、軽鎖可変領域は、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を有するCDRを依然として含む。したがって、配列番号12に対する任意の配列逸脱は、フレームワーク領域に位置するが、CDRには位置しない。特に、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列を含む。
【0057】
具体的な実施形態では、重鎖可変領域は、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号1、2、および3のアミノ酸配列を依然として有し、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を依然として有する。特に、重鎖可変領域は、配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号1、2、および3のアミノ酸配列を依然として有し、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を依然として有する。
【0058】
具体的な実施形態では、重鎖可変領域は、配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号1、7、および3のアミノ酸配列を依然として有し、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を依然として有する。特に、重鎖可変領域は、配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号1、7、および3のアミノ酸配列を依然として有し、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を依然として有する。
【0059】
具体的な実施形態では、重鎖可変領域は、配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号1、8、および3のアミノ酸配列を依然として有し、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を依然として有する。特に、重鎖可変領域は、配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号1、8、および3のアミノ酸配列を依然として有し、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を依然として有する。
【0060】
具体的な実施形態では、重鎖可変領域は、配列番号20のアミノ酸番号20~136により表されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。特に、重鎖可変領域は、配列番号20のアミノ酸番号20~136により表されるアミノ酸配列と少なくとも95%、特に少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含む。こうした実施形態では、重鎖可変領域は、配列番号1のアミノ酸配列を有するCDR-H1、配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む。したがって、配列番号20のアミノ酸番号20~136により表されるアミノ酸配列に対する任意の配列逸脱は、フレームワーク領域に位置するが、CDRには位置しない。特に、重鎖可変領域は、配列番号20のアミノ酸番号20~136により表されるアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、配列番号20の76位のアミノ酸は、グルタミン、アラニン、バリン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、リジン、およびアルギニン、特にグルタミン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、リジン、およびアルギニンからなる群から選択される。好ましくは、配列番号20の76位のアミノ酸は、グルタミン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、またはアルギニン、特にグルタミンである。特に、CDR-H2は、配列番号7のアミノ酸配列を含み、および/または重鎖可変領域は、配列番号23のアミノ酸番号20~136により表されるアミノ酸配列を含む。
【0061】
具体的な実施形態では、軽鎖可変領域は、配列番号21のアミノ酸番号21~133により表されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。特に、軽鎖可変領域は、配列番号21のアミノ酸番号21~133により表されるアミノ酸配列と少なくとも95%、特に少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含む。こうした実施形態では、軽鎖可変領域は、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を有するCDRを依然として含む。したがって、配列番号21のアミノ酸番号21~133により表されるアミノ酸配列に対する任意の配列逸脱は、フレームワーク領域に位置するが、CDRには位置しない。特に、軽鎖可変領域は、配列番号21のアミノ酸番号21~133により表されるアミノ酸配列を含む。
【0062】
具体的な実施形態では、重鎖可変領域は、配列番号20のアミノ酸番号20~136により表されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号1、7、および3のアミノ酸配列を依然として有し、軽鎖可変領域は、配列番号21のアミノ酸番号21~133により表されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を依然として有する。特に、重鎖可変領域は、配列番号20のアミノ酸番号20~136により表されるアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号1、7、および3のアミノ酸配列を依然として有し、軽鎖可変領域は、配列番号21のアミノ酸番号21~133により表されるアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を依然として有する。
【0063】
具体的な実施形態では、重鎖は、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。特に、重鎖は、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも95%、特に少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含む。こうした実施形態では、重鎖は、配列番号1のアミノ酸配列を有するCDR-H1、配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む。したがって、配列番号15に対する任意の配列逸脱は、フレームワーク領域に位置するが、CDRには位置しない。特に、重鎖は、配列番号15のアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、配列番号15の57位のアミノ酸は、グルタミン、アラニン、バリン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、リジン、およびアルギニン、特にグルタミン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、リジン、およびアルギニンからなる群から選択される。好ましくは、配列番号15の57位のアミノ酸は、グルタミン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、またはアルギニン、特にグルタミンである。特に、CDR-H2は、配列番号7のアミノ酸配列を含み、および/または重鎖可変領域は、配列番号22のアミノ酸番号20~136により表されるアミノ酸配列を含む。
【0064】
具体的な実施形態では、重鎖は、配列番号19のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。特に、重鎖は、配列番号19のアミノ酸配列と少なくとも95%、特に少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含む。こうした実施形態では、重鎖は、配列番号1のアミノ酸配列を有するCDR-H1、配列番号8のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む。したがって、配列番号19に対する任意の配列逸脱は、フレームワーク領域に位置するが、CDRには位置しない。特に、重鎖は、配列番号19のアミノ酸配列を含む。
【0065】
具体的な実施形態では、軽鎖は、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。特に、軽鎖は、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも95%、特に少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含む。こうした実施形態では、軽鎖は、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を有するCDRを依然として含む。したがって、配列番号16に対する任意の配列逸脱は、フレームワーク領域に位置するが、CDRには位置しない。特に、軽鎖は、配列番号16のアミノ酸配列を含む。
【0066】
具体的な実施形態では、重鎖は、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号1、7、および3のアミノ酸配列を依然として有し、軽鎖可変領域は、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を依然として有する。特に、重鎖は、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号1、7、および3のアミノ酸配列を依然として有し、軽鎖は、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を依然として有する。
【0067】
具体的な実施形態では、重鎖は、配列番号19のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号1、8、および3のアミノ酸配列を依然として有し、軽鎖は、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を依然として有する。特に、重鎖は、配列番号19のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号1、8、および3のアミノ酸配列を依然として有し、軽鎖は、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を依然として有する。
【0068】
抗体は、その修飾形態を含みおよび包含する。抗体の修飾形態は、化学的または生物学的な修飾が提供されている抗体を意味する。化学的修飾形態は、アミノ酸骨格が化学部分とコンジュゲートされている形態、および化学的に修飾されているN-連結またはO-連結炭水化物鎖を有する形態などを含む。前記化学部分または形態は、毒性または細胞傷害性であってもよい。生物学的修飾形態は、翻訳後修飾(例えば、N-連結もしくはO-連結グリコシル化、N末端もしくはC末端プロセシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、またはメチオニンの酸化)を受けている形態、および原核生物宿主細胞を使用して発現させることによりN末端に付加されるメチオニン残基を含む形態などが挙げられる。また、そのような修飾形態は、抗体または抗原の検出または単離を可能にするように標識された形態、例えば、酵素標識形態、蛍光標識形態、または親和性標識形態を含むことが意図されている。そのような修飾形態は、抗体またはその抗原の検出または単離を可能にするように標識された形態、例えば、酵素標識形態、蛍光標識形態、および親和性標識形態も含むことが意図されている。本発明の抗体のそのような修飾形態は、元の抗体の安定性または血中滞留の向上、抗原性の低減、抗体または抗原の検出または単離などに有用である。
【0069】
特に、抗体は、脱フコシル化、フコース低減、N-連結グリコシル化、O-連結グリコシル化、N末端プロセシング、C末端プロセシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、メチオニンの酸化、重鎖の234位および235位(EUインデックスによる)にある2つのロイシン(L)残基のアラニン(A)への置換(LALA)、プロリン残基のアミド化、およびカルボキシル末端の1つ、2つ、または3つのアミノ酸の欠失または欠如からなる群から選択される1つまたは複数の修飾を含んでいてもよい。具体的な実施形態では、抗体は、一方の重鎖または両方の重鎖の1つ、2つ、または3つのカルボキシル末端アミノ酸を欠如するか、または2つのカルボキシル末端アミノ酸を欠如し、一方の重鎖または両方の重鎖のカルボキシル末端プロリン残基がアミド化されている。
【0070】
そのような修飾は、その抗体の任意の位置または所望の位置に製作することができる。その代わりに、同じまたは2つもしくはそれよりも多くの異なる修飾を、その中の1つまたは2つまたはそれよりも多くの位置に製作することができる。
【0071】
例えば、哺乳動物細胞の培養により産生される抗体は、その重鎖のカルボキシル末端リジン残基を欠如することが知られている(Journal of Chromatography A、705巻:129~134ページ(1995))。また、重鎖の2つのカルボキシル末端アミノ酸残基(つまり、グリシンおよびリジン)を欠くこともあり、新たにカルボキシル末端に位置するプロリン残基がアミド化されることも知られている(Analytical Biochemistry、360巻:75~83ページ(2007))。しかしながら、こうした重鎖配列のそのような欠如または修飾は、抗体がその抗原に結合する能力にも、抗体のエフェクター機能(補体活性化、抗体依存性細胞傷害性など)にも影響を及ぼさない。
【0072】
ある特定の実施形態では、抗体は、重鎖のカルボキシル末端の1つまたは2つのアミノ酸の欠失または欠如を含み、アミド化残基(例えば、重鎖のカルボキシル末端部位のアミド化プロリン残基)を有する。しかしながら、抗体は、欠失突然変異体が抗原に結合する能力を維持する限り、上記に記載のタイプに限定されない。
【0073】
ある特定の実施形態では、抗体の2つの重鎖は、全長重鎖および欠失突然変異体の重鎖からなる群から選択される重鎖の任意の1つのタイプで構成されていてもよく、またはそれらから選択される任意の2つのタイプの組合せで構成されていてもよい。欠失変異体重鎖の定量的な比は、抗体を産生する培養哺乳動物細胞のタイプおよび細胞の培養条件に依存する。
【0074】
具体的な実施形態では、抗体は、両方が1つのカルボキシル末端アミノ酸残基を欠如する2つの重鎖を含んでいてもよい。
【0075】
具体的な実施形態では、抗体は、配列番号15または22のアミノ酸番号1~446により表されるアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号16のアミノ酸番号1~219により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む。ある特定の実施形態では、配列番号15の57位のアミノ酸は、グルタミン、アラニン、バリン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、リジン、およびアルギニン、特にグルタミン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、リジン、およびアルギニンからなる群から選択される。好ましくは、配列番号15の57位のアミノ酸は、グルタミン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、またはアルギニンであり、特にグルタミンである。
【0076】
具体的な実施形態では、抗体は、配列番号19のアミノ酸番号1~446により表されるアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号16のアミノ酸番号1~219により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む。
【0077】
ある特定の実施形態では、抗体は、配列番号10のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体、または配列番号11のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体と、TA-MUC1に対する結合を競争する。
【0078】
ある特定の実施形態では、抗体は、(a)MUC1と特異的に結合するという特性、および/または(b)MUC1に結合することによりMUC1発現細胞内に内部移行される活性を有するという特性を有する。ある特定の実施形態では、抗体は、少なくとも1つの抗体重鎖を含む。特に、抗体は2つの抗体重鎖を含む。抗体重鎖は、特に、VHドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む。ある特定の他の実施形態では、抗体重鎖は、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含むが、CH1ドメインを含まない。さらなる実施形態では、重鎖の1つまたは複数の定常ドメインは、他のドメイン、特に、例えばアルブミンなどの類似ドメインにより置換されていてもよい。抗体重鎖は、γ鎖、α鎖、ε鎖、δ鎖、およびμ鎖を含む任意のタイプであってもよく、好ましくは、γ1鎖、γ2鎖、γ3鎖、およびγ4鎖を含むγ鎖であり、特にγ1鎖である。したがって、抗体は、好ましくは、IgG1型抗体、IgG3型抗体、またはIgG4型抗体などのIgG型抗体であり、特にIgG1型抗体である。
【0079】
特に、抗体は、少なくとも1つの抗体軽鎖、特に2つの抗体軽鎖をさらに含む。抗体軽鎖は、特に、VLドメインおよびCLドメインを含む。抗体軽鎖は、κ鎖またはλ鎖であってもよく、特にκ鎖である。
【0080】
ある特定の実施形態では、抗体は、2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖を含む。特に、抗体は、各々がVHドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む2つのγ1型の抗体重鎖、ならびに各々がVLドメインおよびCLドメインを含む2つのκ型の抗体軽鎖を含む。
【0081】
代替的な実施形態では、抗体は、抗体軽鎖を含まない。こうした実施形態では、軽鎖可変領域は、重鎖可変領域のN末端に融合されていてもよく、または重鎖可変領域に対してC末端に挿入されている。軽鎖可変領域を重鎖の残りの部分に接続するペプチドリンカーが存在してもよい。
【0082】
好ましい実施形態では、抗体はFc領域を含む。抗体は、特に、各々がドメインVH、CH1、ヒンジ領域、CH2、およびCH3を含む2つの重鎖、ならびに各々がドメインVLおよびCLを含む2つの軽鎖を含む抗体全体であってもよい。抗体は、特に、1つまたは複数のヒトFcγ受容体、特にヒトFcγ受容体IIIAに結合することが可能である。代替的な実施形態では、抗体は、ヒトFcγ受容体IIIAに結合しないかまたは著しくは結合せず、特に、いかなるヒトFcγ受容体にも結合しないかまたは著しくは結合しない。こうした実施形態では、抗体は、特に、CH2ドメインにグリコシル化部位を含まない。
【0083】
代替的な実施形態では、抗体は、Fc領域を含まない。こうした実施形態では、抗体は、特に、単鎖可変領域断片(scFv)またはFc領域を含まない別の抗体断片である。
【0084】
抗MUC1抗体のグリコシル化
抗MUC1抗体は、1つまたは複数の抗体重鎖にCH2ドメインを含んでいてもよい。IgG型の天然ヒト抗体は、CH2ドメインにN-グリコシル化部位を含む。抗体に存在するCH2ドメインは、N-グリコシル化部位を含んでいてもよく、または含んでいなくともよい。ある特定の実施形態では、抗体は、CH2ドメインにグリコシル化部位を含まない。特に、抗体は、IMGT/Eu付番方式による297位に対応する重鎖の位置にアスパラギン残基を含まない。例えば、抗体は、重鎖にAla297突然変異を含んでいてもよい。こうした実施形態では、抗体は、好ましくは、Fcγ受容体に結合することにより抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)および/または抗体依存性細胞性ファゴサイトーシス(ADCP)および/または補体依存性細胞傷害(CDC)を誘導する能力が強力に低減されているかまたは完全に欠如されている。この点で、能力の強力な低減は、特に、そのCH2ドメインにN-グリコシル化部位を含み、ヒト細胞株またはCHO細胞株で産生することにより得ることができるグリコシル化パターン、例えば本明細書に記載のようなグリコシル化パターンなどの一般的な哺乳動物グリコシル化パターンを有する同じ抗体と比較して、10%もしくはそれよりも低い、特に3%もしくはそれよりも低い、1%もしくはそれよりも低い、または0.1%もしくはそれよりも低い活性への低減を指す。こうした実施形態では、抗体は、特にIgG1型抗体である。
【0085】
代替的な実施形態では、抗体に存在するCH2ドメインは、N-グリコシル化部位を含む。このグリコシル化部位は、特に、IMGT/Eu付番方式による重鎖のアミノ酸位置297に対応するアミノ酸位置であり、アミノ酸配列モチーフ(motive)Asn Xaa Ser/Thr(式中、Xaaはプロリン以外の任意のアミノ酸であってもよい)を有する。Asn297のN-連結グリコシル化は、哺乳動物IgGならびに他の抗体アイソタイプの相同性領域にて保存されている。可変領域または他の配列修飾には任意選択の追加のアミノ酸が存在してもよいため、抗体のアミノ酸配列におけるこの保存されたグリコシル化部位の実際の位置は様々であり得る。好ましくは、抗体に付着されたグリカンは、好ましくは、少なくとも以下の構造:
Asn-GlcNAc-GlcNAc-Man-(Man-GlcNAc)
を含み、式中、Asnは、抗体のポリペプチド部分のアスパラギン残基であり、GlcNAcは、N-アセチルグルコサミンであり、Manは、マンノースである、二分岐複合型N-連結炭水化物構造である。末端GlcNAc残基は、ガラクトース残基をさらに保持してもよく、ガラクトース残基は、任意選択でシアル酸残基を保持してもよい。さらなるGlcNAc残基(二分GlcNAcと称される)が、ポリペプチドに最も近いManに付着されていてもよい。Asnに付着されているGlcNAcにフコースが結合していてもよい。こうした実施形態では、抗体は、特にIgG1型抗体である。
【0086】
好ましい実施形態では、抗体は、N-グルコイルノイラミン酸(NeuGc)を含まないかまたは検出可能な量のNeuGcを含まない。さらに、抗体はまた、好ましくはGaliliエピトープ(Galα1,3-Gal構造)を含まないかまたは検出可能な量のGaliliエピトープを含まない。特に、NeuGcおよび/またはGalα1,3-Gal構造を保持するグリカンの相対量は、抗体の集団中の抗体のCH2ドメインに付着されているグリカンの合計量の0.1%未満または0.02%未満でさえある。
【0087】
特に、抗体は、ヒトグリコシル化パターンを有する。こうしたグリコシル化特性のため、両方ともげっ歯動物産生系で知られている免疫原性非ヒトシアル酸(NeuGc)またはGaliliエピトープ(Gal-Gal構造)などのある特定の外来性糖構造により引き起こされることが知られている不要な副作用または不利益を意味する副作用を誘導する外来性免疫原性非ヒト構造は存在しないか、または例えば酵母系に由来することが知られている免疫原性高マンノース構造のような他の構造が回避される。
【0088】
具体的な実施形態では、抗体は、二分GlcNAc残基を保持する検出可能な量のグリカンを有するグリコシル化パターンを含む。特に、二分GlcNAc残基を保持するグリカンの相対量は、組成物中の抗体のグリコシル化部位に付着されているグリカンの合計量の少なくとも0.5%、特に少なくとも1%である。さらに、ある特定の実施形態では、グリコシル化パターンは、組成物中の抗体に付着されているグリカンの合計量の少なくとも25%の相対量の、少なくとも1つのガラクトース残基を保持するグリカンを含む。特に、少なくとも1つのガラクトース残基を保持するグリカンの相対量は、組成物中の抗体に付着されているグリカンの合計量の少なくとも30%、特に少なくとも35%、または少なくとも40%である。具体的な実施形態では、グリコシル化パターンは、組成物中の抗体に付着されているグリカンの合計量の少なくとも1%の相対量の、少なくとも1つのシアル酸残基を保持するグリカンを含む。特に、少なくとも1つのシアル酸残基を保持するグリカンの相対量は、組成物中の抗体に付着されているグリカンの合計量の少なくとも1.5%、特に少なくとも2%である。
【0089】
抗体は、大量のコアフコースまたは少量のコアフコースを有するグリコシル化パターンを有してもよい。フコシル化量の低減は、抗体がADCCを誘導する能力を増加させる。ある特定の実施形態では、コアフコース残基を保持するグリカンの相対量は、組成物中の抗体に付着されているグリカンの合計量の40%もしくはそれよりも低く、特に30%もしくはそれよりも低く、または20%もしくはそれよりも低い。代替的な実施形態では、コアフコース残基を保持するグリカンの相対量は、組成物中の抗体に付着されているグリカンの合計量の少なくとも60%、特に少なくとも65%、または少なくとも70%である。
【0090】
抗MUC1抗体のCH2ドメインのグリコシル化部位の存在または非存在および前記グリコシル化部位のグリカン構造中のフコースの存在または非存在により、抗体がADCCを誘導する能力および前記ADCC誘導の強度を制御することができる。ADCC活性は、抗体のFc部分のグリコシル化により増加され、前記グリコシル化のフコシル化量を低減させることによりさらに増加される。ある特定の応用では、ADCC活性の微調整が重要である。したがって、ある特定の状況では、CH2ドメインにグリコシル化部位を有していない抗体、CH2ドメインにグリコシル化部位を有し、大量のフコシル化を有する抗体、またはCH2ドメインにグリコシル化部位を有し、少量のフコシル化を有する抗体が、最も有利であり得る。
【0091】
抗MUC1抗体の産生
抗体は、好ましくは、宿主細胞にて組換え的に産生される。抗体の産生に使用される宿主細胞は、抗体産生に使用することができる任意の宿主細胞であってもよい。好適な宿主細胞は、特に、真核生物宿主細胞、特に哺乳類宿主細胞である。例示的な宿主細胞としては、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞株などの酵母細胞、SF9およびSF21細胞株などの昆虫細胞、植物細胞、EB66アヒル細胞株などのトリ細胞、CHO、NS0、SP2/0、およびYB2/0細胞株などのげっ歯動物細胞、ならびにHEK293、PER.C6、CAP、CAP-T、AGE1.HN、Mutz-3、およびKG1細胞株などのヒト細胞が挙げられる。
【0092】
ある特定の実施形態では、抗体は、ヒト血液細胞株にて、特にヒト骨髄性白血病細胞株にて組換え的に産生される。抗体の産生に使用することができる好ましいヒト細胞株ならびに好適な産生手順は、WO2008/028686A2に記載されている。具体的な実施形態では、抗体は、NM-H9D8、NM-H9D8-E6、およびNM-H9D8-E6Q12からなる群から選択されるヒト骨髄性白血病細胞株、およびそれらに由来する細胞株にて発現させることにより得られる。こうした細胞株は、ブダペスト条約の要件に従って、アクセッション番号DSM ACC2806(NM-H9D8;2006年9月15日に寄託された)、DSM ACC2807(NM-H9D8-E6;2006年10月5日に寄託された)、およびDSM ACC2856(NM-H9D8-E6Q12;2007年8月8日に寄託された)として、Glycotope GmbH,Robert-Rossle-Str.10,13125 Berlin(DE)によりDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ),Inhoffenstraβe 7B,38124 Braunschweig(DE)に寄託された。NM-H9D8細胞は、高度のシアリル化、高度の二分GlycNAc、高度のガラクトシル化、および高度のフコシル化を有するグリコシル化パターンを提供する。NM-H9D8-E6細胞およびNM-H9D8-E6Q12細胞は、フコシル化の度合いが非常に低い以外は、NM-H9D8細胞のパターンに類似するグリコシル化パターンを提供する。他の好適な細胞株としては、アメリカ培養細胞系統保存機関に存在するヒト骨髄性白血病細胞株であるK562(ATCC CCL-243)ならびに上述のものに由来する細胞株が挙げられる。
【0093】
さらなる実施形態では、抗体は、CHO細胞にて組換え的に産生される。特に、抗体は、ATCC番号CRL-9096の細胞株など、CHO dhfr-細胞株にて組換え的に産生させることができる。
【0094】
抗MUC1抗体のコンジュゲート
本発明によると、抗体は、1つまたは複数の細胞傷害剤にコンジュゲートされている。細胞傷害剤は、抗体とのコンジュゲーションに好適な任意の細胞傷害剤であってもよい。1つよりも多くの細胞傷害剤が抗体に存在する場合、こうした細胞傷害剤は、同一であってもよくまたは異なっていてもよく、特にすべて同一である。細胞傷害剤と抗体とのコンジュゲーションは、当技術分野で公知の任意の方法を使用して達成することができる。細胞傷害剤は、特に融合または化学カップリングにより共有結合で、または非共有結合で抗体に付着されていてもよい。ある特定の実施形態では、細胞傷害剤は、特にリンカー部分を介して共有結合で抗体に付着されている。リンカー部分は、細胞傷害剤を抗体に付着させるのに好適な任意の化学的実体であってもよい。
【0095】
細胞傷害剤に加えて、本発明によるコンジュゲートは、それにコンジュゲートされているさらなる作用剤を含んでいてもよい。さらなる作用剤は、好ましくは、疾患、特にがんの治療、診断、予後、および/またはモニタリングに有用である。例えば、さらなる作用剤は、放射性核種、化学療法剤、抗体または抗体断片、特に抗MUC1抗体とは異なる特異性のもの、例えば免疫調節性標的を阻止または活性化するチェックポイント抗体、酵素、相互作用ドメイン、検出可能な標識、毒素、細胞溶解性成分、免疫調節剤、免疫エフェクター、MHCクラスIまたはクラスII抗原、およびリポソームからなる群から選択することができる。
【0096】
特定の好ましい細胞傷害剤は、放射性核種、または化学療法剤などのがん細胞を死滅させることが可能な細胞傷害剤である。ある特定の好ましい実施形態では、化学療法剤は、コンジュゲートを形成する抗MUC1抗体に付着されている。化学療法剤は、化合物が、抗腫瘍効果を有し、リンカー構造に接続することができる置換基または部分構造を有する限り、特に限定されない。腫瘍細胞にてリンカーの一部分または全体が切断されると、化学療法剤または抗腫瘍化合物部分が放出され、化学療法剤は抗腫瘍効果を示す。リンカーが、作用剤との接続位置で切断されると、化学療法剤は、その元の構造で放出され、その元の抗腫瘍効果を発揮する。
【0097】
細胞障害剤としてコンジュゲートすることができる化学療法剤の具体的な例としては、シスプラチンなどのアルキル化剤、抗代謝物質、植物アルカロイドおよびテルペノイド、ビンカアルカロイド、ポドフィロトキシン、タキソールなどのタキサン、イリノテカンおよびトポテカンなどのトポイソメラーゼ阻害剤、ドキソルビシンなどの抗悪性腫瘍剤、またはマイタンシン/マイタンシノイドなどの微小管阻害剤が挙げられる。
【0098】
化学療法剤は、特に、以下のものからなる群から選択することができる:V-ATPase阻害剤、アポトーシス促進剤、Bcl2阻害剤、MCL1阻害剤、HSP90阻害剤、IAP阻害剤、mTor阻害剤、微小管安定化剤、微小管不安定化剤、ドラスタチン、マイタンシン、マイタンシノイド、アマトキシン、メチオニンアミノペプチダーゼ、タンパク質CRM1の核外輸送阻害剤、DPPIV阻害剤、プロテアソーム阻害剤、ミトコンドリアにおけるリン酸転移反応の阻害剤、タンパク合成阻害剤、キナーゼ阻害剤、CDK2阻害剤、CDK9阻害剤、キネシン阻害剤、HDAC阻害剤、トポイソメラーゼI阻害剤、DNA損傷剤、DNAアルキル化剤、DNAインターカレーター、DNA副溝結合剤、DHFR阻害剤、微小管形成阻害剤、微小管安定化剤、アクチンの安定化剤、トポイソメラーゼII阻害剤、白金化合物、リボソーム阻害剤、RNAポリメラーゼII阻害剤、および細菌毒素。具体的な実施形態では、抗MUC1抗体に付着される化学療法剤は、マイタンシノイドなどの微小管阻害剤、トポイソメラーゼI阻害剤、DNA損傷剤、DNAアルキル化剤、およびDNA副溝結合剤からなる群から選択される。
【0099】
一部の実施形態では、化学療法剤は、マイタンシンまたはマイタンシノイドである。コンジュゲーションに有用なマイタンシノイドの具体的な例としては、マイタンシノール、N2’-デアセチル-N2’-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-マイタンシン(DM1)、N2’-デアセチル-N2’-(4-メルカプト-1-オキソペンチル)-マイタンシン(DM3)、およびN2’-デアセチル-N2’-(4-メチル-4-メルカプト-1-オキソペンチル)-マイタンシン(DM4)が挙げられる。特に、DM1またはDM4が、抗MUC1抗体に付着される。一部の実施形態では、抗MUC1抗体に付着される化学療法剤は、DNA副溝結合剤、特にピロロベンゾジアゼピン(PBD)、ピロロベンゾジアゼピン二量体(PBD二量体)、デュオカルマイシン、デュオカルマイシン-ヒドロキシベンズアミド-アザインドール(DUBA)、seco-デュオカルマイシン-ヒドロキシベンズアミド-アザインドール(seco-DUBA)、またはドキソルビシンである。一部の実施形態では、抗MUC1抗体に付着される化学療法剤は、DNAアルキル化剤、特にインドリノベンゾジアゼピンまたはオキサゾリジノベンゾジアゼピン(oxazolidinobenzodiazepine)である。一部の実施形態では、抗MUC1抗体に付着される化学療法剤は、DNA損傷剤、特にカリチアマイシンである。一部の実施形態では、抗MUC1抗体に付着される化学療法剤は、トポイソメラーゼI阻害剤、特にカンプトテシン、および7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシン(SN-38)、(S)-9-ジメチルアミノメチル-10-ヒドロキシカンプトテシン(トポテカン)、(1S,9S)-1-アミノ-9-エチル-5-フルオロ-1,2,3,9,12,15-ヘキサヒドロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10H,13H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-10,13-ジオン(エキサテキカン(DX-8951))、およびN-[(1S,9S)-9-エチル-5-フルオロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10,13-ジオキソ-2,3,9,10,13,15-ヘキサヒドロ-1H,12H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-1-イル]-2-ヒドロキシアセトアミド(DXd)などのその誘導体である。一部の実施形態では、抗MUC1抗体に付着される化学療法剤は、微小管形成の阻害剤、特にチューブリシン、アンサマイトシン、ポドフィロトキシン、またはビンブラスチンである。一部の実施形態では、抗MUC1抗体に付着される化学療法剤は、微小管の安定化剤、特にパクリタキセルまたはエポチロンである。一部の実施形態では、抗MUC1抗体に付着される化学療法剤は、アクチンの安定化剤、特にファロトキシンである。一部の実施形態では、抗MUC1抗体に付着される化学療法剤は、トポイソメラーゼII阻害剤、特にテニポシド、XK469、ラゾキサン、アムサクリン、イダルビシン、またはメバロンである。一部の実施形態では、抗MUC1抗体に付着される化学療法剤は、白金化合物、特にシスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、四硝酸トリプラチン、フェナントリプラチン、ピコプラチン、またはサトラプラチンである。一部の実施形態では、抗MUC1抗体に付着される化学療法剤は、リボソーム阻害剤、特にリシン、サポリン、アブリン、ジフテリア毒素、または菌体外毒素Aである。一部の実施形態では、抗MUC1抗体に付着される化学療法剤は、RNAポリメラーゼII阻害剤、特に、例えばアマニチンなどのアマトキシンである。一部の実施形態では、抗MUC1抗体に付着される化学療法剤は、細菌毒素、特に炭疽毒素である。好適な抗体薬物コンジュゲートは、EP16151774.3明細書およびその中で明示的に参照されているLU92659明細書にも記載されている。
【0100】
好ましい実施形態では、化学療法剤は、(1S,9S)-1-アミノ-9-エチル-5-フルオロ-1,2,3,9,12,15-ヘキサヒドロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10H,13H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-10,13-ジオン(エキサテキカン(DX-8951))またはDXdである。
【0101】
エキサテキカン(DX-8951)は、以下の式:
【0102】
【化1】

により表される抗腫瘍化合物である。
【0103】
化合物は、例えば、米国特許出願公開第2016/0297890号明細書に記載の方法または他の公知の方法により容易に得ることができ、好ましくは、1位のアミノ基を、リンカー構造に対する連結位置として使用することができる。さらに、エキサテキカンを腫瘍細胞にて放出させることができるが、リンカーの一部分は依然としてそれに付着されている。しかしながら、この化合物は、そのような状態でさえ優れた抗腫瘍効果を発揮する。
【0104】
DXdは、以下の式:
【0105】
【化2】

により表される化合物である。
【0106】
エキサテキカンまたはDXdはカンプトテシン構造を有するため、酸性水性媒体(例えば、pH3程度の)では、ラクトン環が形成された(閉環)構造へと平衡がシフトするが、塩基性水性媒体(例えば、pH10程度の)では、ラクトン環が開環された(開環)構造へと平衡がシフトすることが知られている。そのような閉環構造および開環構造に対応するエキサテキカン残基が導入されている薬物コンジュゲートも、等価な抗腫瘍効果を示すことが予想され、そのような薬物コンジュゲートはいずれも本発明の範囲に含まれるのは言うまでもない。ある特定の実施形態では、さらなる作用剤は、ポリペプチドまたはタンパク質である。このポリペプチドまたはタンパク質は、特に、抗体のポリペプチド鎖に融合されていてもよい。ある特定の実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質であるさらなる作用剤は、抗体の抗体軽鎖のC末端に融合されている。抗体が2つの抗体軽鎖を含む実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質であるさらなる作用剤は、2つの抗体軽鎖の各々のC末端に融合されていてもよい。さらなる実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質であるさらなる作用剤は、抗体の抗体重鎖のC末端に融合されている。抗体が2つの抗体重鎖を含む実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質であるさらなる作用剤は、2つの抗体重鎖の各々のC末端に融合されていてもよい。さらなる作用剤は、同一であってもよくまたは異なっていてもよく、特に、同じアミノ酸配列を有してもよい。ポリペプチドまたはタンパク質であるそのようなさらなる作用剤の好適な例は、サイトカイン、ケモカイン、抗体、抗原結合性断片、酵素、および相互作用ドメインからなる群から選択してもよい。
【0107】
ある特定の実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質であるさらなる作用剤は、活性化シグナルを阻止および/または誘発するチェックポイント抗体である。それぞれの標的の例としては、活性化標的としてのCD40、CD3、CD137(4-1BB)、OX40、GITR、CD27、CD278(ICOS)、CD154(CD40リガンド)、CD270(HVEM)、およびCD258(LIGHT)、阻害性標的としてのCTLA4、PD1、CD80、CD244、A2AR、B7-H3(CD276)、B7-H4(VTCN1)、BTLA、IDO、KIR、LAG3、TIM-3、VISTA、およびホスファチジルセリン、ならびにPDL1などのそれらの対応するリガンドが挙げられる。具体的な例では、抗MUC1抗体は、本明細書に記載のような2つの重鎖および2つの軽鎖を含み、CD3と特異的に結合するscFv断片が、各重鎖のC末端に融合されているか、またはPDL1と特異的に結合するscFv断片が、各軽鎖のC末端に融合されている。
【0108】
さらなる実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質であるさらなる作用剤は、ケモカイン、サイトカイン、または増殖因子などの免疫調節化合物である。この点で好適なサイトカインとしては、インターフェロン-α、インターフェロン-β、およびインターフェロン-γなどのインターフェロン、ならびにインターロイキンが挙げられる。好適な増殖因子としては、G-CSFおよびGM-CSFが挙げられる。
【0109】
リンカーの具体的な例としては、以下の式(a)~(f):
(a)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-,
(b)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-,
(c)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-,
(d)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-,
(e)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-, および
(f)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2O- CH2CH2O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-
のいずれかにより表される構造が挙げられ、式中、-(Succinimid-3-yl-N)-は、以下の式:
【0110】
【化3】

により表される構造を有する。
【0111】
具体的な実施形態では、リンカーは、以下の式(a)~(c):
(a)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-,
(b)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-,および
(c)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-
のいずれかにより表される構造を含む。
【0112】
好ましい実施形態では、リンカーは、以下の式(a):
(a)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-
のいずれかにより表される構造を含む。
【0113】
代替的な実施形態では、コンジュゲートは、以下の式により表される薬物-リンカー構造を有し、抗体は、以下の式により表される薬物リンカー構造にチオエーテル結合でコンジュゲートされており、星印は、抗体との接続点を表す。
【0114】
【化4】
【0115】
好ましい実施形態では、コンジュゲートは、以下の式:
【0116】
【化5】

により表される薬物-リンカー構造を有し、
式中、ABは抗体を表し、yは、抗体にコンジュゲートされた薬物-リンカー構造の単位の、1抗体当たりの平均数を表し、抗体は、上記式により表される薬物リンカー構造にチオエーテル結合でコンジュゲートされており、抗体は、上述の抗MUC1抗体を表し、好ましくは、抗体は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域または重鎖および軽鎖の以下の組合せa)~d):
(a)重鎖可変領域は、配列番号10のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列を有すること、
(b)重鎖可変領域は、配列番号11のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列を有すること、
(c)重鎖は、配列番号15のアミノ酸配列を有し、軽鎖は、配列番号16のアミノ酸配列を有すること、および
(d)重鎖は、配列番号19のアミノ酸配列を有し、軽鎖は、配列番号16のアミノ酸配列を有すること
のいずれか1つである。
【0117】
上述のコンジュゲートでは、1抗体分子当たりのコンジュゲートされた薬物分子(または細胞傷害剤)の数は、その有効性および安全性に影響を及ぼす重要な要因である。抗体-薬物コンジュゲート(またはコンジュゲート)の産生は、コンジュゲートされた薬物分子が一定数に到達するように、反応に使用される出発物質および試薬の量などの反応条件を指定することにより実施される。低分子量化合物の化学反応とは異なり、通常は、様々な数のコンジュゲートされた薬物分子を含む混合物が得られる。1抗体分子当たりのコンジュゲートされた薬物分子の数は、平均値、つまりコンジュゲートされた薬物分子の平均数として規定および示される。また、別様の指示がない限り、つまり、様々な数のコンジュゲートされた薬物分子を有する抗体-薬物コンジュゲート混合物に含まれる特定数のコンジュゲートされた薬物分子を有する抗体-薬物コンジュゲートを表す場合以外では、本発明によるコンジュゲートされた薬物分子の数は、通例では平均値を意味する。抗体分子にコンジュゲートされるエキサテキカン分子またはDXdの数は、制御可能であり、1抗体当たりのコンジュゲートされた薬物分子の平均数として、およそ1~10個のエキサテキカン分子または1~10個のDXdを、コンジュゲートすることができる。エキサテキカン分子またはDXdの数は、好ましくは2~8であり、より好ましくは4~8、さらに好ましくは7~8、およびまたさらに好ましくは8である。当業者であれば、本出願の例の説明に基づいて、必要な数の薬物分子を抗体分子にコンジュゲートするための反応を設計することができ、制御された数のコンジュゲートされたエキサテキカン分子を有する抗体-薬物コンジュゲートを得ることができることが留意されるべきである。
【0118】
上記の好ましい実施形態では、コンジュゲートが腫瘍細胞の内部に移行された後、リンカー部分が切断され、次いでDXdが放出され、抗腫瘍効果を発揮する。(Clinical Cancer Research、2016年10月15日;22巻(20号):5097~5108ページ、Epub 2016年3月29日)。
【0119】
種々の放射性または非放射性同位体で標識されたコンジュゲートも、本発明に含まれる。本発明のコンジュゲートを構成する1つまたは複数の原子は、自然界にはない比の原子同位体を含んでいてもよい。原子同位体の例としては、重水素(H)、トリチウム(H)、ヨウ素125(125I)、および炭素14(14C)が挙げられる。さらに、コンジュゲートは、トリチウム(H)、ヨウ素125(125I)、炭素14(14C)、銅64(64Cu)、ジルコニウム89(89Zr)、ヨウ素124(124I)、フッ素18(18F)、インジウム111(111In)、炭素11(11C)、およびヨウ素131(131I)などの放射性同位体で放射性標識されていてもよい。放射性同位体で標識されたコンジュゲートは、療法剤または予防剤、アッセイ試薬などの研究用試薬、およびin vivo診断用造影剤などの診断用の作用剤として有用である。放射能に関わらず、あらゆる同位体変異型のコンジュゲートが、本発明の範囲内である。
【0120】
核酸、発現カセット、ベクター、細胞株、および組成物
本発明によるコンジュゲートの抗体部分は、核酸によりコードされていてもよい。前記核酸の核酸配列は、抗体をコードするのに好適な任意のヌクレオチド配列を有してもよい。しかしながら、好ましくは、核酸配列は、核酸を発現させようとする宿主細胞または生物の特定のコドン使用頻度、特にヒトコドン使用頻度に少なくとも部分的に適応している。核酸は、二本鎖または一本鎖DNAまたはRNA、好ましくはcDNAなどの二本鎖DNA、またはmRNAなどの一本鎖RNAであってもよい。核酸は、1つの連続核酸分子であってもよく、または各々が抗体の異なる部分をコードする幾つかの核酸分子で構成されていてもよい。PankoMab変異体(PM-N54Q)の重鎖のヌクレオチド配列は、配列番号17により表されてもよく、PankoMab変異体(PM-N54Q)の軽鎖のヌクレオチド配列は、配列番号18により表されてもよい。
【0121】
抗体が抗体の軽鎖および重鎖などの1つよりも多くの異なるアミノ酸鎖で構成されている場合、核酸は、例えば、各々が抗体のアミノ酸鎖の1つをコードし、好ましくは別々のアミノ酸鎖を生成するためにIRESエレメントなどの調節エレメントにより隔てられている幾つかのコード領域を含む単一の核酸分子であってもよく、または核酸は、各核酸分子が、抗体のアミノ酸鎖の1つを各々コードする1つまたは複数のコード領域を含む幾つかの核酸分子で構成されていてもよい。また、抗体をコードするコード領域に加えて、核酸は、例えば、他のタンパク質をコードしていてもよく、コード領域の転写および/または翻訳に影響を及ぼしてもよく、核酸の安定性または他の物理的もしくは化学的特性に影響を及ぼしてもよく、または機能を全く有していなくともよいさらなる核酸配列または他の修飾を含んでいてもよい。
【0122】
発現カセットまたはベクターは、前記核酸および前記核酸と作動可能に接続したプロモーターを含んでいてもよい。加えて、発現カセットまたはベクターは、さらなるエレメント、特に核酸の転写および/もしくは翻訳、発現カセットもしくはベクターの増幅および/もしくは再生産、発現カセットもしくはベクターの宿主細胞ゲノムへの組込み、ならびに/または宿主細胞中の発現カセットもしくはベクターのコピー数に影響を及ぼし、および/または調節することが可能なエレメントを含んでいてもよい。抗体を発現するためのそれぞれの発現カセットを含む好適な発現カセットおよびベクターは、従来技術において周知であり、したがって本明細書ではさらなる説明を必要としない。
【0123】
宿主細胞は、核酸、または発現カセットもしくはベクターを含んでいてもよい。宿主細胞は、任意の宿主細胞であってもよい。宿主細胞は、単離細胞であってもよく、または組織に含まれている細胞であってもよい。好ましくは、宿主細胞は、培養細胞、特に初代細胞、樹立細胞株の細胞、好ましくは腫瘍由来細胞である。好ましくは、宿主細胞は、大腸菌(E.coli)などの細菌細胞、サッカロマイセス(Saccharomyces)細胞、特にS.セレビシエ(S.cerevisiae)などの酵母細胞、Sf9細胞などの昆虫細胞、または哺乳動物細胞、特に腫瘍由来ヒト細胞などのヒト細胞、CHOなどのハムスター細胞、または霊長類細胞である。好ましい実施形態では、宿主細胞は、ヒト骨髄性白血病細胞に由来する。好ましくは、宿主細胞は、以下の細胞または細胞株:K562、KG1、MUTZ-3、またはそれらに由来する細胞もしくは細胞株、またはこうした上述の細胞の少なくとも1つを含む細胞もしくは細胞株の混合物から選択される。宿主細胞は、好ましくは、NM-H9D8、NM-H9D8-E6、NM H9D8-E6Q12、および前記宿主細胞のいずれか1つに由来する細胞または細胞株からなる群から選択される。こうした細胞株およびそれらの特性は、WO2008/028686A2に詳細に記載されている。さらなる実施形態では、宿主細胞は、ATCC番号CRL-9096の細胞株など、CHO dhfr-細胞株である。好ましい実施形態では、宿主細胞は、特定のグリコシル化パターンを有する糖タンパク質、特に抗体を発現するために最適化される。好ましくは、発現カセットもしくはベクター中の核酸および/またはプロモーターおよびさらなるエレメントのコード領域のコドン使用頻度は、宿主細胞のタイプと適合性であり、より好ましくは使用される宿主細胞のタイプのために最適化されている。好ましくは、抗体は、上記に記載のような宿主細胞または細胞株により産生される。
【0124】
抗体を産生するための方法では、本明細書に記載のような宿主細胞が使用される。本方法は、特に、抗体をコードする核酸を含む宿主を準備するステップ、抗体の発現に好適な条件下で宿主細胞を培養するステップ、および宿主細胞により発現された抗体を得るステップを含む。本明細書に記載の抗体は、前記方法により得てもよくまたは得ることができてもよい。
【0125】
別の態様では、本発明は、本発明によるコンジュゲートを含む組成物を提供する。さらに、組成物は、溶媒、希釈剤、および賦形剤からなる群から選択される1つまたは複数のさらなる成分を含んでいてもよい。好ましくは、組成物は医薬組成物である。この実施形態では、組成物の成分は、好ましくは、すべて薬学的に許容される。組成物は、固形組成物もしくは流体組成物、特に、好ましくは水性の溶液、エマルジョン、もしくは懸濁物、または凍結乾燥粉末であってもよい。
【0126】
医薬における使用
コンジュゲートは、特に、医薬において、特に、疾患、特に本明細書に記載のような疾患、好ましくはがん、感染症、炎症性疾患、移植片対宿主病、および免疫不全の治療、診断、予後、検出、および/またはモニタリングにおいて有用である。
【0127】
したがって、さらなる態様では、本発明は、医薬において使用するためのコンジュゲートまたは組成物を提供する。好ましくは、医薬における使用は、例えば、がんなどの異常細胞増殖に関連する疾患、細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症、または寄生虫感染症などの感染症、自己免疫疾患および炎症性腸疾患などの炎症性疾患、ならびに免疫不全などの免疫活性低減に関連する疾患の治療、予後、診断、検出、および/またはモニタリングにおける使用である。好ましい実施形態では、疾患はがんである。
【0128】
好ましくは、がんは、好ましくは、免疫組織化学法、ELISA、RIA、酵素免疫スポット(ELISPOT)アッセイ、ドットブロット法、オクテルロニー試験、または対向免疫電気泳動法(CIE)、またはin situハイブリダイゼーション法により検出可能な、MUC1(TA-MUC1)の検出可能な発現を示す。がんは、特に、免疫組織化学法またはin situハイブリダイゼーション法により検出可能であるMUC1(TA-MUC1)発現を示す細胞を含む。がんは、抗MUC1抗体の投与前に、MUC1(TA-MUC1)レベルが試験されていてもよい。
【0129】
本発明は、本発明によるコンジュゲートを含むキットおよびデバイス、ならびにがんなどのMUC1関連障害の診断、検出、またはモニタリングに有用な関連方法をさらに提供する。一部の実施形態では、本発明のコンジュゲートを含む、試験または診断のためのサンドイッチELISAキットが提供される。このキットは、MUC1(TA-MUC1)タンパク質標準物質の溶液、着色試薬、希釈のための緩衝溶液、固相用の抗体、検出用の抗体、および洗浄溶液などの1つまたは複数をさらに含んでいてもよい。好ましくは、抗原に結合されたコンジュゲートの量は、吸光法、蛍光法、ルミネセンス法、または放射性同位体(RI)法などの方法を応用することにより測定することができる。好ましくは、吸光度プレートリーダー、蛍光プレートリーダー、ルミネセンスプレートリーダー、またはRI液体シンチレーション計数器などが測定に使用される。
【0130】
抗体は、免疫組織化学法(IHC)分析に使用することができる。
【0131】
免疫組織化学法は、この手法が組織切片を抗原結合性抗体(一次抗体)と反応させること、および抗原と結合した一次抗体を検出することを含む限り、特に限定されない。
【0132】
転移を含む様々な形態のがんを、本発明によるコンジュゲートで治療することができる。がんは、特に、結腸がん、肺がん、卵巣がん、三種陰性乳がんなどの乳がん、膵臓がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、消化管がん、腎臓がん、頭頸部がん、甲状腺がん、および尿路上皮がんからなる群から選択することができる。さらに、がんは、特に、胃がん、肝臓がん、膀胱がん、皮膚がん、前立腺がん、および血液がんから選択することができる。ある特定の実施形態では、がんは、転移性がんである。がんは、皮膚転移、リンパ節転移、肺転移、肝転移、腹膜転移、胸膜転移、および/または脳転移など、任意のタイプの転移を含んでいてもよい。ある特定の実施形態では、がんは炎症性表現型を有する。こうした実施形態では、上記に記載のがんタイプはいずれも、炎症性がんであり得る。
【0133】
ある特定の実施形態では、ウイルス感染症は、ヒト免疫不全ウイルス、単純ヘルペスウイルス、エプスタインバーウイルス、インフルエンザウイルス、リンパ球脈絡髄膜炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、またはC型肝炎ウイルスにより引き起こされる。炎症性疾患は、炎症性腸疾患、骨盤内炎症性疾患、虚血性脳卒中、アルツハイマー病、喘息、尋常性天疱瘡、および皮膚炎/湿疹から選択することができる。自己免疫疾患は、セリアック病、1型糖尿病、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、白斑、乾癬性関節炎、アトピー性皮膚炎、硬皮症、サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変症、ギラン-バレー症候群、自己免疫性肝炎、および強直性脊椎炎からなる群から選択することができる。ある特定の実施形態では、疾患は、MUC1、特にTA-MUC1を発現する細胞を含むかまたは関連する。例えば、治療しようとするがんは、MUC1陽性、特にTA-MUC1陽性、つまりMUC1、特にTA-MUC1を発現するがん細胞を含む。
【0134】
具体的な実施形態では、コンジュゲートは、別の療法剤と組み合わせて治療するために、特に、別の抗がん剤と組み合わせてがんを治療するために使用される。前記さらなる療法剤は、任意の公知の抗がん剤であってもよい。本発明によるコンジュゲートと組み合わせることができる好適な抗がん療法剤は、化学療法剤、他の抗体、免疫刺激剤、サイトカイン、ケモカイン、およびワクチンであってもよい。さらに、コンジュゲートによる療法は、放射線療法、外科手術、および/または中国伝統医学と組み合わせることができる。
【0135】
コンジュゲートと組み合わせて使用することができる抗がん剤は、任意の化学療法剤、特に、MUC1陽性がんの治療に有効であることが公知である化学療法剤から選択することができる。化学療法剤のタイプは、治療しようとするがんにも依存する。組合せパートナーは、以下のものからなる群から選択することができる:パクリタキセル(Taxol)、ドセタキセル(Taxotere)、およびSBT-1214などのタキサン;シクロホスファミド;イマチニブ;パゾパニブ;カペシタビン;シタラビン;ビノレルビン;ゲムシタビン;ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、バルルビシン、およびミトキサントロンなどのアントラサイクリン;アミノグルテチミド、テストラクトン(Teslac)、アナストロゾール(Arimidex)、レトロゾール(Femara)、エキセメスタン(Aromasin)、ボロゾール(Rivizor)、ホルメスタン(Lentaron)、ファドロゾール(Afema)、4-ヒドロキシアンドロステンジオン、1,4,6-アンドロスタトリエン-3,17-ジオン(ATD)、および4-アンドロステン-3,6,17-トリオン(6-オキソ)などのアロマターゼ阻害剤;イリノテカン、トポテカン、カンプトテシン、ラメラリンD、エトポシド(VP-16)、テニポシド、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ミトキサントロン、アムサクリン、エリプチシン、オーリントリカルボン酸、およびHU-331などのトポイソメラーゼ阻害剤;cis-ジアンミンジクロロ白金(II)(シスプラチン)、cis-ジアンミン(1,1-シクロブタンジカルボキシラト)白金(II)(カルボプラチン)、および[(1R,2R)-シクロヘキサン-1,2-ジアミン](エタンジオアト-O,O’)白金(II)(オキサリプラチン)などの白金に基づく化学療法剤;オラパリブ、ルカパリブ、およびニラパリブなどのPARP阻害剤;イミキモドおよびレシキモドなどのTLRアゴニスト;ならびに代謝拮抗剤、特にメトトレキサート、ペメトレキセド、ラルチトレキセド、およびプララトレキサートなどの抗葉酸剤、フルオロウラシル(fluoruracil)、ゲムシタビン、フロクスウリジン、5-フルオロウラシル、およびテガフール-ウラシルなどのピリミジン類似体、およびプリン類似体、選択的エストロゲン受容体修飾因子、およびエストロゲン受容体下方制御因子。
【0136】
さらに、治療用抗体を、さらなる組合せパートナーとして使用することもできる。治療用抗体は、抗MUC1抗体とは異なるがん療法に有用な任意の抗体であってもよい。特に、さらなる抗体は、米国食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品庁(EMA、以前はEMEA)、および医薬品医療機器連邦研究所(BfArM、Bundesinstitut fur Arzneimittel und Medizinprodukte)などの当局により、がん治療のために承認されている。組合せ治療に使用することができるさらなる抗体の例は、セツキシマブ、トムゾツキシマブ(Tomuzotuximab)、パニツムマブ、ザルツムマブ、ニモツズマブ、マツズマブ、およびネシツムマブなどの抗EGFR抗体;トラスツズマブ、チミグツズマブ(Timigutuzumab)、およびペルツズマブなどの抗HER2抗体;ベバシズマブ(Avastin)などの抗VEGF抗体;アレムツズマブ(Campath)などの抗CD52抗体;ブレンツキシマブ(Adcetris)などの抗CD30抗体;ゲムツズマブ(Mylotarg)などの抗CD33抗体;ならびにリツキシマブ(Rituxan、Mabthera)、トシツモマブ(Bexxar)、およびイブリツモマブ(Zevalin)などの抗CD20抗体である。本明細書に記載のがん療法との組合せに好適なさらなる例示的な抗体としては、以下のものからなる群から選択される抗原に対する抗体が挙げられる:トムゼン-フリーデンライヒ抗原(TFα、TFβ)、Tn、ルイスY、CD44、葉酸受容体α、NeuGc-GM3ガングリオシド、DLL-3、RANKL、PTK7、Notch-3、エフリンA4、インスリン様成長因子受容体1、アクチビン受容体様キナーゼ-1、クローディン-6、ジシアロガングリオシドGD2、エンドグリン、膜貫通糖タンパク質NMB、CD56、腫瘍関連カルシウムシグナルトランスデューサー2、組織因子、エクトヌクレオドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ3、CD70、P-カドヘリン、メソテリン、6回膜貫通前立腺上皮抗原1(STEAP1)、癌胎児性抗原関連細胞接着分子5(CEACAM5)、ネクチン4、グアニリルシクラーゼC、溶質輸送体ファミリー44メンバー4(SLC44A4)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、亜鉛トランスポーターZIP6(LIV1(ZIP6))、SLITおよびNTRK様タンパク質6(SLITRK6)、栄養芽層糖タンパク質(TPBG;5T4)、Fyn3、炭酸脱水酵素9、NaPi2b、フィブロネクチンエクストラドメインB(fibronectin extra-domain B)、エンドセリン受容体ETB、VEGFR2(CD309)、テネイシンc、コラーゲンIV、およびペリオスチン。
【0137】
コンジュゲートは、チェックポイント抗体、つまり免疫調節性標的を阻止または活性化する抗体とさらに組み合わせることができる。それにより、免疫応答の阻害シグナルを阻止することができ、および/または活性化シグナルを誘発することができる。それぞれの標的の例としては、活性化標的としてのCD40、CD3、CD137(4-1BB)、OX40、GITR、CD27、CD278(ICOS)、CD154(CD40リガンド)、CD270(HVEM)、およびCD258(LIGHT)、阻害性標的としてのCTLA4、PD1、CD80、CD244、A2AR、B7-H3(CD276)、B7-H4(VTCN1)、BTLA、IDO、KIR、LAG3、TIM-3、VISTA、およびホスファチジルセリン、ならびにPDL1などのそれらの対応するリガンドが挙げられる。
【0138】
さらなる実施形態では、コンジュゲートは、ケモカイン、サイトカイン、増殖因子、およびワクチンなどの免疫調節性化合物による治療と組み合わせることができる。この点で好適なサイトカインとしては、インターフェロン-α、インターフェロン-β、およびインターフェロン-γなどのインターフェロン、ならびにインターロイキンが挙げられる。好適な増殖因子としては、G-CSFおよびGM-CSFが挙げられる。
【0139】
コンジュゲートは、好ましくは、原発腫瘍、そのような腫瘍の再発性腫瘍および/または転移の治療に使用され、特に、外科手術前、外科手術中、または外科手術後の治療に、および転移の予防または治療に使用される。コンジュゲートは、特に、アジュバント療法として患者を治療するためのものである。ある特定の実施形態では、コンジュゲートは、ネオアジュバント治療として、またはネオアジュバント-アジュバント併用療法として患者を治療するためのものである。さらに、コンジュゲートは、対処療法として患者を治療するためのものである。
【0140】
コンジュゲートによるがん療法は、好ましくは、腫瘍増殖の阻害、および特に腫瘍サイズの低減をもたらす。さらに、治療により、さらなる転移の発生が予防され、および/または転移の数が低減される。治療は、好ましくは、無進行生存の増加および/または寿命の増加およびしたがって全生存の増加をもたらす。
【0141】
本発明は、本発明によるコンジュゲートを使用して、疾患を治療、診断、予後、検出、および/またはモニタリングする方法をさらに提供する。医薬におけるコンジュゲートの使用の実施形態および例も同様に、医学的方法に適用される。特に、それを必要とする対象の疾患を治療するための方法であって、本発明によるコンジュゲートの治療有効量を対象に投与することを含む方法が提供される。
【0142】
例えば、本発明は、それを必要とする対象のがんを治療するための方法であって、本発明によるコンジュゲートの治療有効量を、がんを有する対象に投与することを含む方法を提供する。具体的な実施形態では、がんは、TA-MUC1を発現することにより特徴付けられる。がんは、卵巣がん、乳がん、膵臓がん、肺がん、結腸がん、胃がん、肝臓がん、腎臓がん、血液がん、子宮内膜がん、甲状腺がん、白血病、半水癌、黒色腫、癌腫、奇形腫、リンパ腫、肉腫、中皮腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、直腸がん、副腎がん、皮膚がん、脳がん、子宮頸がん、腸管がん、腸がん、頭頸部がん、消化管がん、リンパ節がん、食道がん、結腸直腸がん、耳鼻咽喉(ENT)がん、前立腺がん、膀胱がん、子宮がん、およびそれらの転移からなる群から選択することができる。
【0143】
さらに、本発明は、がんを診断、検出、またはモニタリングするための方法であって、試験試料を本発明によるコンジュゲートと接触させるステップを含む方法を提供する。
【0144】
MUC1結合親和性を増加させるための方法
抗体のMUCI結合親和性を増加させる方法は、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-H1、配列番号8のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに
(ii)配列番号4のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-L1、配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR-L2、および配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR-L3を含む軽鎖可変領域
を含んでいてもよく、
方法は、CDR-H2の8位のアミノ酸残基を、アスパラギン以外の任意のアミノ酸残基に置換して、配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR-H2をもたらすステップを含む。
【0145】
MUC1結合親和性を増加させようとする抗体は、特に、CDR-H2配列の8位にアスパラギンを含む以外は、本明細書に記載のような、MUC1に結合することが可能な抗体である。
【0146】
ある特定の実施形態では、MUC1結合親和性を増加させようとする抗体の重鎖可変領域は、配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。特に、重鎖可変領域は、配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも95%、特に少なくとも98%同一あるアミノ酸配列を含む。こうした実施形態では、重鎖可変領域は、配列番号1、8、および3のアミノ酸配列を有するCDRを依然として含む。したがって、配列番号11に対する任意の配列逸脱は、フレームワーク領域に位置するが、CDRには位置しない。特に、重鎖可変領域は、配列番号11のアミノ酸配列を含む。
【0147】
ある特定の実施形態では、MUC1結合親和性を増加させようとする抗体の軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む。特に、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも95%、特に少なくとも98%同一あるアミノ酸配列を含む。こうした実施形態では、軽鎖可変領域は、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を有するCDRを依然として含む。したがって、配列番号12に対する任意の配列逸脱は、フレームワーク領域に位置するが、CDRには位置しない。特に、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列を含む。
【0148】
具体的な実施形態では、MUC1結合親和性を増加させようとする抗体の重鎖可変領域は、配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号1、8、および3のアミノ酸配列を依然として有し、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を依然として有する。特に、重鎖可変領域は、配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号1、8、および3のアミノ酸配列を依然として有し、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、CDRは、配列番号4、5、および6のアミノ酸配列を依然として有する。
【0149】
例えば、MUC1結合親和性を増加させようとする抗体は、WO2004/065423A2またはWO2011/012309A1に記載のような抗MUC1抗体である。特に、MUC1結合親和性を増加させようとする抗体は、ガチポツズマブ(gatipotuzumab)またはPankoMabである。
【0150】
MUC1結合親和性を増加させる抗体は、特に、本明細書に記載のような、MUC1に結合することが可能な抗体である。
【0151】
ある特定の実施形態では、MUC1結合は、本明細書に記載の通りである。TA-MUC1結合親和性の増加は、特に、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも33%、または少なくとも50%の増加を指す。好ましい実施形態では、MUC1結合親和性は、少なくとも50%増加される。MUC1結合親和性は、実施例に記載のように、特に、例えば実施例4aおよび4bに記載のように、表面プラズモン共鳴分析またはswitchSENSE(登録商標)技術(DRX2バイオセンサー、Dynamic Biosensors GmbH製)を使用して決定することができる。
【0152】
ある特定の実施形態では、CDR-H2の8位のアミノ酸残基を置換するステップは、抗体をコードする核酸に突然変異を導入することにより達成され、突然変異は、前記アミノ酸残基をコードするコドンに導入される。突然変異の導入は、任意の方法により実施することができる。幾つかの好適な方法が当技術分野で公知であり、当業者であれば、突然変異を導入するために必要な作業を実施することが可能である。その後、突然変異核酸を、例えば宿主細胞にて発現させることより、MUC1結合親和性が増加された抗体を得ることができる。抗体を産生するための核酸、宿主細胞、および方法は、本明細書に記載されており、MUC1結合親和性を増加させる方法のために使用することができる。
【0153】
具体的な実施形態では、抗体のMUC1結合親和性を増加させる方法は、
(a)MUC1結合親和性を増加させようとする抗体をコードする核酸を準備するステップ、
(b)前記核酸に突然変異を導入して突然変異核酸を産生し、突然変異は、CDR-H2の8位のアミノ酸残基をコードするコドンに、前記コドンがアスパラギン以外の任意のアミノ酸残基をコードするように導入されるステップ、および
(c)突然変異核酸を発現させて、MUC1結合親和性が増加された抗体を産生するステップを含む。
【0154】
MUC1結合親和性が増加された抗体を産生する方法は、
(a)
(i)配列番号1のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-H1、配列番号8のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに
(ii)配列番号4のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-L1、配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR-L2、および配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR-L3を含む軽鎖可変領域
を含む抗体をコードする核酸を準備するステップ、
(b)前記核酸に突然変異を導入して突然変異核酸を産生し、突然変異は、CDR-H2の8位のアミノ酸残基をコードするコドンに、前記コドンがアスパラギン以外の任意のアミノ酸残基をコードするように導入されるステップ、ならびに
(c)突然変異核酸を宿主細胞にて発現させることより、MUC1結合親和性が増加された抗体を産生するステップ
を含んでいてもよい。
【0155】
他の態様のための、特に、抗体のMUC1結合親和性を増加させる方法のための、本明細書に記載されている実施形態、特徴、および例は、MUC1結合親和性が増加された抗体を産生する方法にも同様に適用される。
【0156】
ある特定の実施形態では、MUC1結合親和性が増加された抗体を産生する方法は、MUC1結合親和性が増加された抗体を処理するステップ(d)をさらに含む。
【0157】
例えば、MUC1結合親和性が増加された抗体の処理は、細胞培養から抗体を単離することを含んでいてもよい。抗体の単離は、特に、細胞培養の残りの成分から抗体を分離することを指す。細胞培養培地からの抗体の分離は、例えば、クロマトグラフィー法により実施することができる。抗体を単離するための好適な方法および手段は、当技術分野で公知であり、当業者であれば容易に適用することができる。
【0158】
任意選択で、得られた抗体を、例えば、さらなる作用剤を抗体に化学的または酵素的にカップリングすることなどの修飾ステップおよび/または所望の質および組成の抗体を産生するための製剤化ステップなどのさらなる処理ステップに供してもよい。そのようなさらなる処理ステップおよび方法は、当技術分野で一般に公知である。
【0159】
さらなる実施形態では、ステップ(d)は、抗体を含む医薬製剤を提供するステップをさらに含む。抗体を含む医薬製剤を提供すること、または抗体を医薬組成物として製剤化することは、特に、抗体を含む組成物の緩衝溶液または緩衝溶液成分を交換することを含む。さらに、このステップは、抗体を凍結乾燥することを含んでいてもよい。特に、抗体は、薬学的に許容される成分のみを含む組成物へと移される。
【0160】
産生方法1
下記に示されている式(1)により表される抗体-薬物コンジュゲートであって、抗体はチオエーテルを介してリンカー構造に接続されている抗体-薬物コンジュゲートは、抗体を還元することによりジスルフィド結合から変換されたスルフヒドリル基を有する抗体を、公知の方法により得ることができる(例えば特許公開文献、米国特許出願第2016/297890号明細書に記載の方法(例えば、段落[0336]~[0374]に記載の方法)により得ることができる)化合物(2)と反応させることにより産生することができる。この抗体-薬物コンジュゲートは、例えば、以下の方法により産生することができる。
【0161】
【化6】

式中、ABは、スルフヒドリル基を有する抗体(3a)を表し、
L1は、-(Succinimid-3-yl-N)-により表される構造を有し、
L1’は、以下の式:
【0162】
【化7】

により表されるマレイミジル基を表す。
【0163】
-L1-LXは、以下の式のいずれかにより表される構造を有する。
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-,
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-,
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-,
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-,
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-,および
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-
【0164】
それらの中で、もっと好ましいのは、以下のものである。
-(Succinimid-3-yl-N)- CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-,
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-, および
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-
【0165】
さらに好ましいのは、以下のものである。
-(Succinimid-3-yl-N)- CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-,および
-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH--CH2CH2CH2-C(=O)-
【0166】
(NH-DX)は、以下の式:
【0167】
【化8】

により表される構造を有し、
これは、エキサテキカンの1位のアミノ基の1つの水素原子を除去することにより導出される基を表す。上記に記載の反応スキーム(式8)では、式(1)の化合物は、薬物からリンカー末端までの1つの構造部分が1つの抗体に接続されている構造を有するものと解釈することができる。しかしながら、この説明は、便宜的に示されるものであり、複数の上述の構造部分が1つの抗体分子に接続されている場合が実際には多く存在する。同じことが、下記に記載の産生方法の説明にも当てはまる。
【0168】
具体的には、抗体-薬物コンジュゲート(1)は、公知の方法(例えば、特許公開文献、米国特許出願第2016/297890号明細書に記載の方法(例えば、段落[0336]~[0374]に記載の方法)により得ることができる化合物(2)を、スルフヒドリル基を有する抗体(3a)と反応させることにより産生することができる。
【0169】
抗体(3a)へのスルフヒドリル基の提供は、当業者に周知の方法により達成することができる(Hermanson,G.T、Bioconjugate Techniques、56~136ページ、456~493ページ、Academic Press(1996))。方法の例としては、これらに限定されないが、以下のものが挙げられる:Traut試薬を抗体のアミノ基と反応させること;N-スクシンイミジルS-アセチルチオアルカノアートを抗体のアミノ基と反応させ、続いてヒドロキシルアミンと反応させること;N-スクシンイミジル3-(ピリジルジチオ)プロピオネートを、抗体と反応させ、続いて還元剤と反応させること;抗体を、ジチオトレイトール、2-メルカプトエタノール、またはTris(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)などの還元剤と反応させて、スルフヒドリル基が形成されるように抗体の鎖間ジスルフィド結合を還元すること。
【0170】
具体的には、鎖間ジスルフィド結合が部分的にまたは完全に還元された抗体は、抗体の鎖間ジスルフィド結合1つ当たり0.3~3モル当量のTCEPを還元剤として使用し、キレート剤を含む緩衝液中で還元剤を抗体と反応させることにより得ることができる。キレート剤の例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)を挙げることができる。キレート剤は、1mM~20mMの濃度で使用することができる。リン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、または酢酸ナトリウムなどの溶液を、緩衝溶液として使用することができる。具体的な例として、部分的にまたは完全に還元されたスルフヒドリル基を有する抗体(3a)は、4℃から37℃にて1~4時間にわたって抗体をTCEPと反応させることにより得ることができる。
【0171】
薬物-リンカー部分に対するスルフヒドリル基の付加反応を実施することにより、薬物-リンカー部分をチオエーテル結合でコンジュゲートすることができることが留意されるべきである。
【0172】
次いで、スルフヒドリル基を有する抗体(3a)1つ当たり2~20モル当量の化合物(2)を使用して、1抗体当たり2~8つの薬物分子がコンジュゲートされている抗体-薬物コンジュゲート(1)を産生することができる。具体的には、そこに溶解されている化合物(2)を含む溶液を、スルフヒドリル基を有する抗体(3a)を含む緩衝液に添加して反応させてもよい。この状況では、酢酸ナトリウム溶液、リン酸ナトリウム、またはホウ酸ナトリウムなどを緩衝溶液として使用することができる。反応させるためのpHは5~9であり、より好ましくはpH7付近で反応を実施してもよい。ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、またはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶媒を、化合物(2)を溶解するための溶媒として使用することができる。反応は、1~20容積/容積%で有機溶媒に溶解されている化合物(2)を含む溶液を、スルフヒドリル基を有する抗体(3a)を含む緩衝溶液に添加することにより実施してもよい。反応温度は、0~37℃、より好ましくは10~25℃であり、反応時間は、0.5~2時間である。反応は、未反応化合物(2)とチオール含有試薬との反応性を不活化することにより終了させることができる。チオール含有試薬は、例えば、システインまたはN-アセチル-L-システイン(NAC)である。より具体的には、反応は、1~2モル当量のNACを、使用されている化合物(2)に添加し、得られた混合物を室温で10~30分間にわたってインキュベートすることにより終了させることができる。
【0173】
抗体-薬物コンジュゲートの特定
産生された抗体-薬物コンジュゲート(例えば、抗体-薬物コンジュゲート(1))を、下記に記載の共通手順に従って、濃縮、緩衝液交換、精製、ならびに抗体濃度および1抗体分子当たりのコンジュゲートされた薬物分子の平均数の測定に供して、薬物-抗体コンジュゲート(1)を特定することができる。
【0174】
1.共通手順A:抗体または抗体-薬物コンジュゲートの水溶液の濃縮
Amicon Ultra(50,000MWCO、Millipore Corporation)容器に、抗体または抗体-薬物コンジュゲートの溶液を添加し、抗体または抗体-薬物コンジュゲートの溶液を、遠心分離機(Allegra X-15R、Beckman Coulter,Inc.)を使用して遠心分離(2000G~4000Gで5~30分間の遠心分離)することにより濃縮した。
【0175】
2.共通手順B:抗体濃度の測定
UV検出器(Nanodrop 1000、Thermo Fisher Scientific Inc.)を使用して、製造業者により規定された方法に従って、抗体濃度の測定を実施した。この点で、抗体で異なる280nm吸光係数を使用した(1.3mLmg-1cm-1~1.8mLmg-1cm-1)。
【0176】
3.共通手順C:抗体の緩衝液交換
Sephadex G-25担体が使用されているNAP-25カラム(カタログ番号17-0852-02、GE Healthcare Japan Corporation)を、製造業者により規定された方法に従って、塩化ナトリウム(50mM)およびEDTA(2mM)を含むリン酸緩衝液(50mM、pH6.0)(本明細書ではPBS6.0/EDTAと呼ばれる)で平衡化した。抗体の水溶液を、NAP-25カラム1つ当たり2.5mLの量でアプライし、その後3.5mLのPBS6.0/EDTAで溶出させた画分(3.5mL)を収集した。この画分を共通手順Aに従って濃縮した。共通手順Bを使用して抗体の濃度を測定した後、PBS6.0/EDTAを使用して抗体濃度を20mg/mLに調整した。
【0177】
4.共通手順D:抗体-薬物コンジュゲートの精製
NAP-25カラムを、ソルビトール(5%)を含む酢酸緩衝液(10mM、pH5.5;本明細書ではABSと呼ばれる)などの任意の市販の緩衝液で平衡化した。抗体-薬物コンジュゲートの水性反応溶液(およそ2.5mL)を、NAP-25カラムにアプライし、その後、製造業者により規定された量の緩衝液で溶出を実施して抗体画分を収集した。収集した画分をNAP-25カラムに再びアプライし、緩衝溶液で溶出を実施したゲル濾過精製工程を、合計で2回または3回繰り返して、未コンジュゲート薬物リンカーおよび低分子量化合物(tris(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)、N-アセチル-L-システイン(NAC)、およびジメチルスルホキシド)を除く抗体-薬物コンジュゲートを得た。
【0178】
5.共通手順E:抗体-薬物コンジュゲートの抗体濃度および1抗体分子当たりのコンジュゲートされた薬物分子の平均数の測定
抗体-薬物コンジュゲートのコンジュゲートされた薬物濃度は、抗体-薬物コンジュゲートの水溶液のUV吸光度を280nmおよび370nmの2つの波長で測定し、その後下記に示されている計算を実施することにより算出することができる。
【0179】
任意の所与の波長での総吸光度は、系に存在するすべての光吸収性化学種の吸光度の合計と等しい[吸光度の相加性]。したがって、抗体および薬物のモル吸光係数が、抗体と薬物とのコンジュゲーション前後で変わらないという仮説に基づくと、抗体-薬物コンジュゲートの抗体濃度および薬物濃度は、以下の等式により表される。
280=AD,280+AA,280=εD,280+εA,280 等式(1)
370=AD,370+AA,370=εD,370+εA,370 等式(2)
【0180】
この状況中では、A280は、抗体-薬物コンジュゲートの水溶液の280nmでの吸光度を表し、A370は、抗体-薬物コンジュゲートの水溶液の370nmでの吸光度を表し、AA,280は、280nmでの抗体の吸光度を表し、AA,370は、370nmでの抗体の吸光度を表し、AD,280は、280nmでのコンジュゲート前駆体の吸光度を表し、AD,370は、370nmでのコンジュゲート前駆体の吸光度を表し、εA,280は、280nmでの抗体のモル吸光係数を表し、εA,370は、370nmでの抗体のモル吸光係数を表し、εD,280は、280nmでのコンジュゲート前駆体のモル吸光係数を表し、εD,370は、370nmでのコンジュゲート前駆体のモル吸光係数を表し、Cは、抗体-薬物コンジュゲートの抗体濃度を表し、Cは、抗体-薬物コンジュゲートの薬物濃度を表す。
【0181】
この状況では、εA,280、εA,370、εD,280、およびεD,370に関しては、予備的に準備された値(計算に基づく推定値または化合物のUV測定により得られる測定値)を使用する。例えば、εA,280は、公知の計算方法(Protein Science、1995年、4巻、2411~2423ページ)により、抗体のアミノ酸配列から推定することができる。εA,370は一般にゼロである。εD,280、およびεD,370は、使用したコンジュゲート前駆体がある特定のモル濃度に溶解されている溶液の吸光度を測定することにより、ランベルト-ベールの法則(吸光度=モル濃度×モル吸光係数×セル光路長)に従って得ることができる。CおよびCは、抗体-薬物コンジュゲートの水溶液のA280およびA370を測定し、次いでこうした値を代入することによって連立方程式(1)および(2)を解くことにより決定することができる。さらに、CをCで除算することにより、1抗体当たりのコンジュゲートされた薬物分子の平均数を決定することができる。
【0182】
6.共通手順F:抗体-薬物コンジュゲートの1抗体分子当たりのコンジュゲートされた薬物分子の平均数の測定-(2)
また、抗体-薬物コンジュゲートの1抗体分子当たりのコンジュゲートされた薬物分子の平均数は、上述の「5.共通手順E」に加えて、以下の方法を使用して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析により決定することができる。以降、抗体をジスルフィド結合により薬物リンカーにコンジュゲートする場合に、コンジュゲートされた薬物分子の平均数をHPLCにより測定する方法を記載するものとする。この方法を参照すると、当業者であれば、抗体と薬物リンカーとの接続パターンに応じて、コンジュゲートされた薬物分子の平均数をHPLCにより適切に測定することが可能である。
【0183】
F-1. HPLC分析用の試料の調製(抗体-薬物コンジュゲートの還元)
抗体-薬物コンジュゲート溶液(およそ1mg/mL、60μL)を、ジチオトレイトール(DTT)の水溶液(100mM、15μL)と混合する。混合物を37℃で30分間インキュベートすることにより、抗体-薬物コンジュゲートの軽鎖と重鎖との間のジスルフィド結合を切断する。得られる試料をHPLC分析に使用する。
【0184】
F-2. HPLC分析
HPLC分析を、以下の測定条件下で実施する。
HPLC装置:Agilent1290 HPLC装置(Agilent Technologies,Inc.)
検出器:紫外線吸光分光計(測定波長:280nm)
カラム:ACQUITY UPLC BEH Phenyl(2.1×50mm、1.7μm、130オングストローム;Waters Corp.、P/N 186002884)
カラム温度:80℃
移動相A:0.10%トリフルオロ酢酸(TFA)および15%2-プロパノールを含む水溶液
移動相B:0.075%TFAおよび15%2-プロパノールを含むアセトニトリル溶液
勾配プログラム:14%→36%(0分から15分)、36%→80%(15分から17分)、80%→14%(17分から17.01分)、および14%(17.01分から25分)
試料注入:10μL
または
HPLC装置:Agilent1290 HPLC装置(Agilent Technologies,Inc.)
検出器:紫外線吸光分光計(測定波長:280nm)
カラム:PLRP-S(2.1×50mm、8μm、1000オングストローム;Agilent Technologies,Inc.、P/N PL1912-1802)
カラム温度:80℃
移動相A:0.04%水性TFA溶液
移動相B:0.04%TFAを含むアセトニトリル溶液
勾配プログラム:29%→36%(0分から12.5分)、36%→42%(12.5分から15分)、42%→29%(15分から15.1分)、および29%→29%(15.1分から25分)
試料注入:15μL
【0185】
F-3.データ分析
F-3-1. 抗体の軽鎖および重鎖は、コンジュゲートされた薬物分子の数に応じてそれぞれLiおよびHiにより表される(iは、コンジュゲートされた薬物分子の数を表す。つまり、本発明によるコンジュゲートされた薬物分子の数は、L0、L1、H0、H1、H2、H3などにより表される)。
【0186】
未コンジュゲート抗体軽鎖(L)および重鎖(H)と比較して、1つの薬物分子に結合された軽鎖(L)、1つの薬物分子に結合された重鎖(H)、2つの薬物分子に結合された重鎖(H)、および3つの薬物分子に結合された重鎖(H)は、コンジュゲートされた薬物分子の数に比例して、より高い疎水性を示し、したがってより長い滞留時間を有する。したがって、こうした鎖は、LおよびLまたはH、H、H、およびHの順序で溶出する。検出ピークは、滞留時間をLおよびHと比較することにより、L、L、H、H、H、およびHのいずれかに帰属させることができる。
【0187】
F-3-2. 薬物リンカーはUVを吸収するため、軽鎖または重鎖および薬物リンカーのモル吸光係数を使用し以下の数式に従って、コンジュゲートされた薬物リンカー分子の数に応じて、ピーク面積値を補正する。
【0188】
[数式1]
i個の薬物分子に結合された軽鎖のピーク面積の補正値(ALi
【0189】
【数1】

εL,280:280nmでの軽鎖のモル吸光係数
εD,280:280nmでの薬物リンカーのモル吸光係数
i:コンジュゲートされた薬物分子の数
【0190】
[数式2]
i個の薬物分子に結合された軽鎖のピーク面積の補正値(AHi
【0191】
【数2】

εH,280:280nmでの重鎖のモル吸光係数
εD,280:280nmでの薬物リンカーのモル吸光係数
i:コンジュゲートされた薬物分子の数
【0192】
この状況では、公知の計算方法(Protein Science、1995年、4巻、2411~2423ページ)により各抗体の軽鎖または重鎖のアミノ酸配列から推定される値を、抗体の軽鎖または重鎖のモル吸光係数(280nm)として使用することができる。各薬物リンカーをメルカプトエタノールまたはN-アセチルシステインと反応させることによりマレイミド基をスクシンイミドチオエーテルに変換させた化合物の実際に測定されたモル吸光係数(280nm)を、薬物リンカーのモル吸光係数(280nm)として使用した。吸光度測定用の波長は、当業者であれば適切に設定することができるが、好ましくは、抗体のピークを測定することができる波長であり、より好ましくは280nmである。
【0193】
F-3-3. ピーク面積の補正値を合計するため、各鎖のピーク面積比(%)を以下の数式に従って算出する。
【0194】
[数式3]
【0195】
【数3】
【0196】
F-3-4. 抗体-薬物コンジュゲートの1抗体分子当たりのコンジュゲートされた薬物分子の平均数を、以下の数式に従って算出する。
コンジュゲートされた薬物分子の平均数=(Lピーク面積比×0+Lピーク面積比×1+Hピーク面積比×0+Hピーク面積比×1+Hピーク面積比×2+Hピーク面積比×3)/100×2
【0197】
なお、コンジュゲートの量を確保するため、同様の条件下で産生された、ほとんど同じ(例えば、±1程度の)平均数のコンジュゲートされた薬物分子を有する複数のコンジュゲートを混合して、新しいロットを調製することができることが留意されるべきである。この場合、薬物分子の平均数は、混合前の薬物分子の平均数間に入る。
【0198】
具体的な実施形態
下記には、本発明によるコンジュゲートの抗体部分の具体的な実施形態が記載されている。
【0199】
実施形態1. MUC1に結合することが可能な抗体であって、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-H1、配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに
(ii)配列番号4のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-L1、配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR-L2、および配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR-L3を含む軽鎖可変領域
を含む抗体。
【0200】
実施形態2. CDR-H2の8位のアミノ酸が、グルタミン、アラニン、バリン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、リジン、およびアルギニン、特にグルタミン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、リジン、およびアルギニンからなる群から選択され、特にグルタミンである、実施形態1に記載の抗体。
【0201】
実施形態3. CDR-H2の8位のアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アルギニン、トリプトファン、またはリジンである、実施形態1に記載の抗体。
【0202】
実施形態4. CDR-H2が、配列番号7のアミノ酸配列を有する、実施形態1から3のいずれか一項に記載の抗体。
【0203】
実施形態5. CDR-H2が、配列番号8のアミノ酸配列を有する、実施形態1に記載の抗体。
【0204】
実施形態6. MUC1に結合することが可能な抗体であって、
(i)
(a)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、
(b)配列番号1のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-H1、配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに
(ii)
(a)配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、
(b)配列番号4のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-L1、配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR-L2、および配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR-L3を含む軽鎖可変領域
を含む抗体。
【0205】
実施形態7. MUC1に結合することが可能な抗体であって、
(i)
(a)配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、
(b)配列番号1のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-H1、配列番号2のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに
(ii)
(a)配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、
(b)配列番号4のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-L1、配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR-L2、および配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR-L3を含む軽鎖可変領域
を含む抗体。
【0206】
実施形態8. CDR-H2の8位のアミノ酸が、グルタミン、アラニン、バリン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、リジン、およびアルギニン、特にグルタミン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、リジン、およびアルギニンからなる群から選択され、特にグルタミンである、実施形態6または7に記載の抗体。
【0207】
実施形態9.CDR-H2の8位のアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アルギニン、トリプトファン、またはリジンである、実施形態7または8に記載の抗体。
【0208】
実施形態10. MUC1に結合することが可能な抗体であって、
(i)
(a)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、
(b)配列番号1のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-H1、配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに
(ii)
(a)配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、
(b)配列番号4のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-L1、配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR-L2、および配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR-L3を含む軽鎖可変領域
を含む抗体。
【0209】
実施形態11. MUC1に結合することが可能な抗体であって、
(i)
(a)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、
(b)配列番号1のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-H1、配列番号7のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む重鎖可変領域、ならびに
(ii)
(a)配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、
(b)配列番号4のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-L1、配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR-L2、および配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR-L3を含む軽鎖可変領域
を含む抗体。
【0210】
実施形態12. MUC1に結合することが可能な抗体であって、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および
(ii)配列番号12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
を含む抗体。
【0211】
実施形態13. 配列番号9の57位のアミノ酸が、グルタミン、アラニン、バリン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、リジン、およびアルギニン、特にグルタミン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、リジン、およびアルギニンからなる群から選択され、特にグルタミンである、実施形態12に記載の抗体。
【0212】
実施形態14. 配列番号9の57位のアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アルギニン、トリプトファン、またはリジンである、実施形態12に記載の抗体。
【0213】
実施形態15. MUC1に結合することが可能な抗体であって、
(i)配列番号10のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および
(ii)配列番号12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
を含む抗体。
【0214】
実施形態16. MUC1に結合することが可能な抗体であって、
(i)配列番号20または23のアミノ酸番号20~136により表されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および
(ii)配列番号21のアミノ酸番号21~133により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
を含む抗体。
【0215】
実施形態17. MUC1に結合することが可能な抗体であって、
(i)
(a)配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも90%または少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、
(b)配列番号1のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-H1、配列番号2または7のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む重鎖、ならびに
(ii)
(a)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも90%または少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、
(b)配列番号4のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-L1、配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR-L2、および配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR-L3を含む軽
を含む抗体。
【0216】
実施形態18. MUC1に結合することが可能な抗体であって、
(i)配列番号15または配列番号22のアミノ酸配列を有する重鎖、および
(ii)配列番号16のアミノ酸配列を有する軽
を含む抗体。
【0217】
実施形態19. MUC1に結合することが可能な抗体であって、
(i)
(a)配列番号19のアミノ酸配列と少なくとも90%または少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、
(b)配列番号1のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-H1、配列番号8のアミノ酸配列を有するCDR-H2、および配列番号3のアミノ酸配列を有するCDR-H3を含む重鎖、ならびに
(ii)
(a)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも90%または少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、
(b)配列番号4のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)CDR-L1、配列番号5のアミノ酸配列を有するCDR-L2、および配列番号6のアミノ酸配列を有するCDR-L3を含む軽
を含む抗体。
【0218】
実施形態20. MUC1に結合することが可能な抗体であって、
(i)配列番号19のアミノ酸配列を有する重鎖、および
(ii)配列番号16のアミノ酸配列を有する軽
を含む抗体。
【0219】
実施形態21. 重鎖可変領域、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む少なくとも1つの重鎖を含む、実施形態1から20のいずれか一項に記載の抗体。
【0220】
実施形態22. 各々が重鎖可変領域、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む2つの重鎖を含む、実施形態1から20のいずれか一項に記載の抗体。
【0221】
実施形態23. IgG型抗体、特にIgG1型抗体、IgG2型抗体、またはIgG4型抗体である、実施形態21または22に記載の抗体。
【0222】
実施形態24. 軽鎖可変領域およびCLドメインを含む少なくとも1つの軽鎖を含む、実施形態1から23のいずれか一項に記載の抗体。
【0223】
実施形態25. 各々が軽鎖可変領域およびCLドメインを含む2つの軽鎖を含む、実施形態1から23のいずれか一項に記載の抗体。
【0224】
実施形態26. 軽鎖が、κ型軽鎖である、実施形態24または25に記載の抗体。
【0225】
実施形態27. CH2ドメインにN-グリコシル化部位を含まない、実施形態1から26のいずれか一項に記載の抗体。
【0226】
実施形態28. 抗体重鎖のCH2ドメインにN-グリコシル化部位を含む、実施形態1から26のいずれか一項に記載の抗体。
【0227】
実施形態29. 以下の特徴:
(i)二分GlcNAc残基を保持するグリカンの相対量は、組成物中の抗体のグリコシル化部位に付着されているグリカンの合計量の少なくとも0.5%であること、
(ii)少なくとも1つのガラクトース残基を保持するグリカンの相対量は、組成物中の抗体のグリコシル化部位に付着されているグリカンの合計量の少なくとも30%であること、
(iii)コアフコース残基を保持するグリカンの相対量は、組成物中の抗体のグリコシル化部位に付着されているグリカンの合計量の少なくとも60%であること
の1つまたは複数を有するグリコシル化パターンを有する、実施形態28に記載の抗体。
【0228】
実施形態30. 以下の特徴:
(i)二分GlcNAc残基を保持するグリカンの相対量は、組成物中の抗体のグリコシル化部位に付着されているグリカンの合計量の少なくとも0.5%であること、
(ii)少なくとも1つのガラクトース残基を保持するグリカンの相対量は、組成物中の抗体のグリコシル化部位に付着されているグリカンの合計量の少なくとも30%であること、
(iii)コアフコース残基を保持するグリカンの相対量は、組成物中の抗体のグリコシル化部位に付着されているグリカンの合計量の40%またはそれよりも少ないこと
の1つまたは複数を有するグリコシル化パターンを有する、実施形態28に記載の抗体。
【0229】
下記には、本発明によるコンジュゲートの具体的な実施形態が記載されている。
【0230】
実施形態31. それにコンジュゲートされているさらなる作用剤、好ましくは細胞傷害剤を含む、実施形態1から30のいずれか一項に記載の抗体。
【0231】
実施形態32. 細胞傷害剤が、抗体にカップリングされている化学療法剤である、実施形態31に記載の抗体。
【0232】
実施形態33. 化学療法剤が、マイタンシノイドなどの微小管阻害剤、トポイソメラーゼI阻害剤、DNA損傷剤、DNAアルキル化剤、およびDNA副溝結合剤からなる群から選択される、実施形態32に記載の抗体。
【0233】
実施形態34. 化学療法剤が、マイタンシノール、N2’-デアセチル-N2’-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-マイタンシン(DM1)、N2’-デアセチル-N2’-(4-メルカプト-1-オキソペンチル)-マイタンシン(DM3)、およびN2’-デアセチル-N2’-(4-メチル-4-メルカプト-1-オキソペンチル)-マイタンシン(DM4)からなる群から選択される、実施形態32に記載の抗体。
【0234】
実施形態35. 化学療法剤が、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)、ピロロベンゾジアゼピン二量体(PBD二量体)、デュオカルマイシン、デュオカルマイシン-ヒドロキシベンズアミド-アザインドール(DUBA)、seco-デュオカルマイシン-ヒドロキシベンズアミド-アザインドール(seco-DUBA)、およびドキソルビシンからなる群から選択される、実施形態32に記載の抗体。
【0235】
実施形態36. 化学療法剤が、インドリノベンゾジアゼピンおよびオキサゾリジノベンゾジアゼピンからなる群から選択される、実施形態32に記載の抗体。
【0236】
実施形態37. 化学療法剤が、カリチアマイシンである、実施形態32に記載の抗体。
【0237】
実施形態38. 化学療法剤が、カンプトテシン、7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシン(SN-38)、(S)-9-ジメチルアミノメチル-10-ヒドロキシカンプトテシン(トポテカン)、(1S,9S)-1-アミノ-9-エチル-5-フルオロ-1,2,3,9,12,15-ヘキサヒドロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10H,13H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-10,13-ジオン(エキサテキカン(DX-8951))、およびDXdからなる群から選択される、実施形態32に記載の抗体。
【0238】
実施形態39. 化学療法剤が、以下の式:
【0239】
【化9】

により表される抗腫瘍化合物である、実施形態32に記載の抗体。
【0240】
実施形態40. 化学療法剤が、以下の式:
【0241】
【化10】

により表される抗腫瘍化合物である、実施形態32に記載の抗体。
【0242】
実施形態41. 加えて、ポリペプチドまたはタンパク質であるさらなる作用剤が、抗体のポリペプチド鎖に融合されている、実施形態31に記載の抗体。
【0243】
実施形態42. 2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖を含み、ポリペプチドまたはタンパク質であるさらなる作用剤は、前記抗体重鎖のC末端の各々に、または前記抗体軽鎖のC末端の各々に融合されている、実施形態41に記載の抗体。
【0244】
実施形態43. さらなる作用剤が、サイトカイン、ケモカイン、他の抗体、抗原結合性断片、酵素、および結合ドメインからなる群から選択される、実施形態41または42に記載の抗体。
【0245】
実施形態44. さらなる作用剤が、CD3と特異的に結合するscFv断片であり、前記さらなる作用剤の1つは、各抗体重鎖のC末端に融合されている、実施形態42に記載の抗体。
【0246】
実施形態45. さらなる作用剤が、PDL1と特異的に結合するscFv断片であり、前記さらなる作用剤の1つは、各抗体軽鎖のC末端に融合されている、実施形態42に記載の抗体。
【0247】
実施形態46. 細胞傷害剤、好ましくは、DX-8951またはDXdなどのトポイソメラーゼI阻害剤が、以下の式(a)~(f):
(a)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-,
(b)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-,
(c)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-,
(d)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-,
(e)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-, および
(f)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-
からなる群から選択される任意の構造を有するリンカーを介して、それにコンジュゲートされており、
抗体は、-(Succinimid-3-yl-N)の末端に接続されており、抗腫瘍化合物は、1位のアミノ基の窒素原子を接続位置として、式(a)~(f)の最も右側の-(CH)n-C(=O)-部分(nは、1または3の整数を表す)のカルボニル基に接続されており、GGFGは、ペプチド結合を介して連結されているグリシン-グリシン-フェニルアラニン-グリシンからなるアミノ酸配列を表し、
-(Succinimid-3-yl-N)-は、以下の式:
【0248】
【化11】

により表される構造を有し、その3位で抗体に接続されており、1位の窒素原子上でこの構造を含むリンカー構造のメチレン基に接続されている、
実施形態31から45のいずれか一項に記載の抗体。
【0249】
実施形態47. 細胞傷害剤にコンジュゲートされている実施形態1から30のいずれか一項に記載の抗体を含むコンジュゲート。
【0250】
実施形態48. 細胞傷害剤が、化学療法剤である、実施形態47に記載のコンジュゲート。
【0251】
実施形態49. 化学療法剤が、微小管阻害剤、トポイソメラーゼI阻害剤、DNA損傷剤、DNAアルキル化剤、およびDNA副溝結合剤からなる群から選択される、実施形態48に記載のコンジュゲート。
【0252】
実施形態50. 化学療法剤が、マイタンシノール、N2’-デアセチル-N2’-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-マイタンシン(DM1)、N2’-デアセチル-N2’-(4-メルカプト-1-オキソペンチル)-マイタンシン(DM3)、およびN2’-デアセチル-N2’-(4-メチル-4-メルカプト-1-オキソペンチル)-マイタンシン(DM4)からなる群から選択される、実施形態48に記載のコンジュゲート。
【0253】
実施形態51. 化学療法剤が、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)、ピロロベンゾジアゼピン二量体(PBD二量体)、デュオカルマイシン、デュオカルマイシン-ヒドロキシベンズアミド-アザインドール(DUBA)、seco-デュオカルマイシン-ヒドロキシベンズアミド-アザインドール(seco-DUBA)、およびドキソルビシンからなる群から選択される、実施形態48に記載のコンジュゲート。
【0254】
実施形態52. 化学療法剤が、インドリノベンゾジアゼピンおよびオキサゾリジノベンゾジアゼピンからなる群から選択される、実施形態48に記載のコンジュゲート。
【0255】
実施形態53. 化学療法剤が、カリチアマイシンである、実施形態48に記載のコンジュゲート。
【0256】
実施形態54. 化学療法剤が、カンプトテシン、7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシン(SN-38)、(S)-9-ジメチルアミノメチル-10-ヒドロキシカンプトテシン(トポテカン)、(1S,9S)-1-アミノ-9-エチル-5-フルオロ-1,2,3,9,12,15-ヘキサヒドロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10H,13H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-10,13-ジオン(エキサテキカン(DX-8951))、およびDXdからなる群から選択される、実施形態48に記載のコンジュゲート。
【0257】
実施形態55. 化学療法剤が、以下の式:
【0258】
【化12】

により表される抗腫瘍化合物である、実施形態48に記載のコンジュゲート。
【0259】
実施形態56. 化学療法剤が、以下の式:
【0260】
【化13】

により表される抗腫瘍化合物である、実施形態48に記載のコンジュゲート。
【0261】
実施形態57. ポリペプチドまたはタンパク質であるさらなる作用剤が、抗体のポリペプチド鎖に融合されている、実施形態47に記載のコンジュゲート。
【0262】
実施形態58. 抗体が、2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖を含み、ポリペプチドまたはタンパク質であるさらなる作用剤は、前記抗体重鎖のC末端の各々に、または前記抗体軽鎖のC末端の各々に融合されている、実施形態57に記載のコンジュゲート。
【0263】
実施形態59. さらなる作用剤が、サイトカイン、ケモカイン、他の抗体、抗原結合性断片、酵素、および結合ドメインからなる群から選択される、実施形態57または58に記載のコンジュゲート。
【0264】
実施形態60. さらなる作用剤が、CD3と特異的に結合するscFv断片であり、前記さらなる作用剤の1つは、各抗体重鎖のC末端に融合されている、実施形態58に記載のコンジュゲート。
【0265】
実施形態61. さらなる作用剤が、PDL1と特異的に結合するscFv断片であり、前記さらなる作用剤の1つは、各抗体軽鎖のC末端に融合されている、実施形態58に記載のコンジュゲート。
【0266】
実施形態62. 抗体が、以下の式(a)~(f):
(a)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-,
(b)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-,
(c)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2-O-CH2-C(=O)-,
(d)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2CH2CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2-O-CH2-C(=O)-,
(e)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-, および
(f)-(Succinimid-3-yl-N)-CH2CH2-C(=O)-NH-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2O-CH2CH2-C(=O)-GGFG-NH-CH2CH2CH2-C(=O)-
からなる群から選択される任意の構造を有するリンカーを介して、さらなる作用剤または化学療法剤、好ましくはDX-8951またはDXdなどのトポイソメラーゼI阻害剤にコンジュゲートされており、
抗体は、-(Succinimid-3-yl-N)の末端に接続されており、抗腫瘍化合物は、1位のアミノ基の窒素原子を接続位置として、式(a)~(f)の最も右側の-(CH)n-C(=O)-部分(nは、1または3の整数を表す)のカルボニル基に接続されており、GGFGは、ペプチド結合を介して連結されているグリシン-グリシン-フェニルアラニン-グリシンからなるアミノ酸配列を表し、
-(Succinimid-3-yl-N)-は、以下の式:
【0267】
【化14】

により表される構造を有し、その3位で抗体に接続されており、1位の窒素原子上でこの構造を含むリンカー構造のメチレン基に接続されている、
実施形態47から61のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【0268】
実施形態63. 抗体が、重鎖可変領域および軽鎖可変領域または重鎖および軽鎖の以下の組合せa)~f):
(a)重鎖可変領域は、配列番号10のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列を有すること、
(b)重鎖可変領域は、配列番号11のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域は、配列番号12のアミノ酸配列を有すること、
(c)配列番号15または22のアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖、
(d)配列番号19のアミノ酸配列を含む重鎖、および配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖、
(e)配列番号15または22のアミノ酸番号1~446により表されるアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号16のアミノ酸番号1~219により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖、ならびに
(f)配列番号19のアミノ酸番号1~446により表されるアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号16のアミノ酸番号1~219により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖
のいずれか1つを含み、抗体またはその抗原結合性断片が、以下の式(式中、星印は、抗体との接続点を表す)
【0269】
【化15】

により表される薬物リンカーにチオエーテル結合でコンジュゲートされている、実施形態47から61のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【0270】
実施形態64. 以下の式:
【0271】
【化16】

により表され、
式中、ABは抗体を表し、抗体は、配列番号10のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含み、yは、抗体にコンジュゲートされた薬物-リンカー構造の単位の、1抗体当たりの平均数を表し、yは、1から10までの範囲、2から8までの範囲、3から8までの範囲、7から8までの範囲、または7.5から8までの範囲であり、抗体は、上記式により表される薬物リンカー構造にチオエーテル結合でコンジュゲートされている、コンジュゲートまたは抗体。
【0272】
実施形態65. 以下の式:
【0273】
【化17】

により表され、
式中、ABは抗体を表し、抗体は、配列番号11のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含み、yは、抗体にコンジュゲートされた薬物-リンカー構造の単位の、1抗体当たりの平均数を表し、yは、1から10までの範囲、2から8までの範囲、3から8までの範囲、7から8までの範囲、または7.5から8までの範囲であり、抗体は、上記式により表される薬物リンカー構造にチオエーテル結合でコンジュゲートされている、コンジュゲートまたは抗体。
【0274】
実施形態66. 以下の式:
【0275】
【化18】

により表され、
式中、ABは抗体を表し、抗体は、配列番号15または22のアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号16のアミノ酸配列を有する軽鎖を含み、yは、抗体にコンジュゲートされた薬物-リンカー構造の単位の、1抗体当たりの平均数を表し、yは、1から10までの範囲、2から8までの範囲、3から8までの範囲、7から8までの範囲、または7.5から8までの範囲であり、抗体は、上記式により表される薬物リンカー構造にチオエーテル結合でコンジュゲートされている、コンジュゲートまたは抗体。
【0276】
実施形態67. 以下の式:
【0277】
【化19】

により表され、
式中、ABは抗体を表し、抗体は、配列番号19のアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号16のアミノ酸配列を有する軽鎖を含み、yは、抗体にコンジュゲートされた薬物-リンカー構造の単位の、1抗体当たりの平均数を表し、yは、1から10までの範囲、2から8までの範囲、3から8までの範囲、7から8までの範囲、または7.5から8までの範囲であり、抗体は、上記式により表される薬物リンカー構造にチオエーテル結合でコンジュゲートされている、コンジュゲートまたは抗体。
【0278】
実施形態68. 抗体が、脱フコシル化、フコース低減、N-連結グリコシル化、O-連結グリコシル化、N末端プロセシング、C末端プロセシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、メチオニンの酸化、重鎖の234位および235位にある2つのロイシン(L)残基のアラニン(A)への置換(LALA)、プロリン残基のアミド化、およびカルボキシル末端の1つまたは2つのアミノ酸の欠失または欠如からなる群から選択される1つまたは複数の修飾を含む、実施形態31から67のいずれか一項に記載のコンジュゲートまたは抗体。
【0279】
実施形態69. 抗体が、重鎖のカルボキシル末端の1つまたは2つのアミノ酸の欠失または欠如を含む、実施形態68に記載のコンジュゲートまたは抗体。
【0280】
実施形態70. 抗体が、両方が1つのカルボキシル末端アミノ酸残基を欠如する2つの重鎖を含む、実施形態69に記載のコンジュゲートまたは抗体。
【0281】
実施形態71. 以下の式:
【0282】
【化20】

により表され、
式中、ABは抗体を表し、抗体は、配列番号15または22のアミノ酸番号1~446により表されるアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号16のアミノ酸番号1~219により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖を含み、yは、抗体にコンジュゲートされた薬物-リンカー構造の単位の、1抗体当たりの平均数を表し、yは、1から10までの範囲、2から8までの範囲、3から8までの範囲、7から8までの範囲、または7.5から8までの範囲であり、抗体は、上記式により表される薬物リンカー構造にチオエーテル結合でコンジュゲートされている、コンジュゲートまたは抗体。
【0283】
実施形態72. 以下の式:
【0284】
【化21】

により表され、
ABは、抗体を表し、抗体は、配列番号19のアミノ酸番号1~446により表されるアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号16のアミノ酸番号1~219により表されるアミノ酸配列を有する軽鎖を含み、yは、抗体にコンジュゲートされた薬物-リンカー構造の単位の、1抗体当たりの平均数を表し、yは、1から10までの範囲、2から8までの範囲、3から8までの範囲、7から8までの範囲、または7.5から8までの範囲であり、抗体は、上記式により表される薬物リンカー構造にチオエーテル結合でコンジュゲートされている、コンジュゲートまたは抗体。
【0285】
実施形態73. 1抗体分子当たりのコンジュゲートされた薬物分子の数が8である、実施形態31から72のいずれか一項に記載のコンジュゲートまたは抗体。
【0286】
実施形態74. 実施形態31から73のいずれか一項に記載の抗体またはコンジュゲート、ならびに溶媒、希釈剤、および賦形剤からなる群から選択される1つまたは複数のさらなる成分を含む医薬組成物。
【0287】
実施形態75. 医薬において使用するための、実施形態31から73のいずれか一項に記載の抗体もしくはコンジュゲートまたは実施形態74に記載の医薬組成物。
【0288】
実施形態76. がんなどの異常細胞成長に関連する疾患;細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症、または寄生虫感染症などの感染症;自己免疫疾患および炎症性腸疾患などの炎症性疾患;および免疫不全などの免疫活性低減に関連する疾患の治療、予後、診断、検出、および/またはモニタリングに使用するための、実施形態31から73のいずれか一項に記載の抗体もしくはコンジュゲートまたは実施形態74に記載の医薬組成物。
【0289】
実施形態77. がん、特にTA-MUC1を発現するがんの治療に使用するためであって、がんが、卵巣がん、乳がん、膵臓がん、肺がん、結腸がん、胃がん、肝臓がん、腎臓がん、血液がん、子宮内膜がん、甲状腺がん、白血病、半水癌、黒色腫、癌腫、奇形腫、リンパ腫、肉腫、中皮腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、直腸がん、副腎がん、皮膚がん、脳がん、子宮頸がん、腸管がん、腸がん、頭頸部がん、消化管がん、リンパ節がん、食道がん、結腸直腸がん、耳鼻咽喉(ENT)がん、前立腺がん、膀胱がん、子宮がん、およびそれらの転移からなる群から選択される、実施形態76に記載の抗体、コンジュゲート、または医薬組成物。
【0290】
実施形態78. 感染症の治療に使用するためであって、感染症が、細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症、および寄生虫感染症からなる群から選択される、実施形態76に記載の抗体、コンジュゲート、または医薬組成物。
【0291】
実施形態79. 自己免疫疾患の治療に使用するためであって、自己免疫疾患が、セリアック病、1型糖尿病、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、および全身性エリテマトーデスからなる群から選択される、実施形態76に記載の抗体、コンジュゲート、または医薬組成物。
【0292】
実施形態80. それを必要とする対象のがんを治療するための方法であって、がん、特にTA-MUC1を発現するがんを有する対象に、実施形態31から73のいずれか一項に記載のコンジュゲートもしくは抗体または実施形態74に記載の組成物の治療有効量を投与するステップを含む方法。
【0293】
実施形態81. がんが、卵巣がん、乳がん、膵臓がん、肺がん、結腸がん、胃がん、肝臓がん、腎臓がん、血液がん、子宮内膜がん、甲状腺がん、白血病、半水癌、黒色腫、癌腫、奇形腫、リンパ腫、肉腫、中皮腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、直腸がん、副腎がん、皮膚がん、脳がん、子宮頸がん、腸管がん、腸がん、頭頸部がん、消化管がん、リンパ節がん、食道がん、結腸直腸がん、耳鼻咽喉(ENT)がん、前立腺がん、膀胱がん、子宮がん、およびそれらの転移からなる群から選択される、実施形態80に記載のがんを治療するための方法。
【図面の簡単な説明】
【0294】
図1】異なるMUC1ペプチドに対する抗MUC1抗体のELISA結合曲線を示す図である。(A)は、エピトープ配列PDTRを含むMUC1ペプチドに対する、Fabグリコシル化を欠如するPankoMab N54Q(PM-N54Q)およびFabグリコシル化を含むPankoMab(PM)の抗原結合を示す。MUC1ペプチドのトレオニンは、Tn、sTn、TF、またはsTFでグリコシル化されている。(B)は、エピトープ配列変異体PESRを含むMUC1ペプチドに対する、PankoMabおよびPM-N54Qの結合を示す。MUC1ペプチドのセリンは、Tnでグリコシル化されている。(C)は、エピトープ配列PDTRを含むMUC1ペプチドに対する、PM-N54Qの結合を示す。MUC1ペプチドのトレオニンは、Tnでグリコシル化されているか、またはグリコシル化されていない。(D)は、一過性にトランスフェクトされた細胞の細胞培養上清から希釈されたFabグリコシル化を含むPankoMabと比較した、Tn-PDTR MUC1ペプチドに対する幾つかのN54X変異体の結合を示す。(E)は、Fabグリコシル化を有するPankoMabと比較した、Fabグリコシル化を有しない3つの精製N54X変異体の、Tn-PDTR、TF-PDTR、および非グリコシル化PDTR MUC1ペプチドに対する結合曲線を示す。(F)は、Fabグリコシル化を有するPankoMabと比較した、Tn-PDTR MUC1ペプチドに対するPM-N54Qの2つのフレームワーク変異体の結合を示す。フレームワーク変異体mf-aの場合、VHでは9つのアミノ酸およびVLフレームワークでは3つのアミノ酸が突然変異されており、mf-bの場合、VHでは9つのアミノ酸およびVLフレームワークでは4つのアミノ酸が突然変異されている。
図2】グリコシル化PDTR-MUC1ペプチドに対する、抗MUC1抗体PMおよびPM-N54Qの表面プラズモン共鳴(Biacore)結合を示す図である。様々な濃度のPM-N54QおよびPankoMabの最大結合シグナルが、抗体濃度に対してプロットされている。
図3】DRX機器での蛍光接近感知(Fluorescence Proximity Sensing)の結果を示す図である。結合曲線および解離曲線が示されている。(A)Fabグリコシル化を有するPMが、(B)Fabグリコシル化を有してしないPM-N54Qと比較されている。
図4】非還元条件(左)および還元条件(右)下のPM-N54QおよびPankoMabの電気泳動分離のSDSアクリルアミドゲルを示す図である。レーン1:捕捉ステップ後のPM-N54Q;レーン2:仕上げステップ後のPM-N54Q;レーン3:捕捉ステップ後のPankoMab;レーン4:仕上げステップ後のPankoMab;レーン5:分子量マーカー。
図5】Fabグリコシル化を欠如するPM-N54QおよびFabグリコシル化されているPankoMabを用いた等電点電気泳動アッセイのクマシーブルー染色ゲルを示す図である。レーン1:Fabグリコシル化を有するPankoMab;レーン2:Fabグリコシル化を有してないPM-N54Q。
図6】Fcγ受容体IIIaに対する抗MUC1抗体結合を示す図である。抗体PM-N54QまたはPankoMabの濃度を増加させることにより、ウサギ抗マウスカップリングアクセプタービーズが、FcγRIIIa負荷ドナービーズから押し出され、それにより検出された化学ルミネセンスが低減する。図6Aでは低フコシル化抗体を、図6Bでは高フコシル化抗体をアッセイに適用した。
図7】フローサイトメトリーにより分析した、腫瘍細胞株(A)CaOV-3および(B)HSC-4に対する、抗MUC1抗体PM-N54Q、PM-N54D、およびFabグリコシル化を有するPMの結合を示す図である。
図8】A)TA-MUC1タンパク質の発現を示すがん細胞株MDA-MB-468に対する対照hIgG-ADC、ネイキッドPankoMab、およびPankoMab-ADCの、B)TA-MUC1タンパク質の発現を示さないがん細胞株HCT-15に対する対照hIgG-ADC、ネイキッドPankoMab、およびPankoMab-ADCの、C)TA-MUC1タンパク質の発現を示すがん細胞株NCI-H441に対する対照hIgG-ADC、ネイキッドPankoMab、PankoMab-ADC、ネイキッドPM-N54Q、およびPM-N54Q-ADCの、D)TA-MUC1タンパク質の発現を示すがん細胞株HPACに対する対照hIgG-ADC、ネイキッドPankoMab、PankoMab-ADC、ネイキッドPM-N54Q、およびPM-N54Q-ADCの細胞傷害活性を示す図である。細胞を6日間にわたって各化合物で処置し、細胞生存率(%)をATPアッセイにより算出した。データは平均±SD(N=3)を表す。
図9】MDA-MB-468保持ヌードマウスに対する対照hIgG-ADC、ネイキッドPankoMab、およびPankoMab-ADCの抗腫瘍有効性を示す図である。3mg/kgの用量の対照hIgG-ADC、ネイキッドPankoMab、およびPankoMab-ADC、またはビヒクル(酢酸緩衝溶液)を、MDA-MB-468保持ヌードマウス(N=6/群)の静脈内に単回用量投与した。推定腫瘍容積のデータは、平均±SEMを表す。矢印は、投与のタイミングを示す。PankoMab-ADCの投与21日後の推定腫瘍容積を、スチューデントt-検定により、対照hIgG-ADCの推定腫瘍容積またはネイキッドPankoMab処置群の推定腫瘍容積と比較した。***P<0.001。
図10】HCC70保持ヌードマウスに対する対照hIgG-ADC、ネイキッドPankoMab、およびPankoMab-ADCの抗腫瘍有効性を示す図である。10mg/kgの用量の対照hIgG-ADC、ネイキッドPankoMab、およびPankoMab-ADC、またはビヒクル(酢酸緩衝溶液)を、HCC70保持ヌードマウス(N=6/群)の静脈内に単回用量投与した。推定腫瘍容積のデータは、平均±SEMを表す。矢印は、投与のタイミングを示す。PankoMab-ADCの投与21日後の推定腫瘍容積を、スチューデントt-検定により、対照hIgG-ADC処置群またはネイキッドPankoMab処置群の推定腫瘍容積と比較した。***P<0.001。
図11】HPAC保持ヌードマウスに対する対照hIgG-ADC、ネイキッドPM-N54Q、PankoMab-ADC、およびPM-N54Q-ADCの抗腫瘍有効性を示す図である。10mg/kgの用量の対照hIgG-ADC、ネイキッドPM-N54Q、PankoMab-ADC、およびPM-N54Q-ADC、またはビヒクル(酢酸緩衝溶液)を、HPAC保持ヌードマウス(N=6/群)の静脈内に単回用量投与した。推定腫瘍容積のデータは、平均±SEMを表す。矢印は、投与のタイミングを示す。PankoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADCの投与21日後の推定腫瘍容積を、ダネット検定により、対照hIgG-ADC処置群の推定腫瘍容積と比較した。***P<0.001。
図12】NCI-H441保持ヌードマウスに対する対照hIgG-ADC、ネイキッドPankoMab、ネイキッドPM-N54Q、PankoMab-ADC、およびPM-N54Q-ADCの抗腫瘍有効性を示す図である。10mg/kgの用量のネイキッドPankoMab、ネイキッドPM-N54Q、3mg/kgの用量の対照hIgG-ADC、PankoMab-ADC、およびPM-N54Q-ADC、またはビヒクル(酢酸緩衝溶液)を、NCI-H441保持ヌードマウス(N=6/群)の静脈内に単回用量投与した。推定腫瘍容積のデータは、平均±SEMを表す。矢印は、投与のタイミングを示す。PankoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADCの投与31日後の推定腫瘍容積を、ダネット検定により、対照hIgG-ADC処置群の推定腫瘍容積と比較した。***P<0.001。
図13】OVCAR-5保持ヌードマウスに対する対照hIgG-ADC、ネイキッドPankoMab、ネイキッドPM-N54Q、PankoMab-ADC、およびPM-N54Q-ADCの抗腫瘍有効性を示す図である。10mg/kgの用量の対照hIgG-ADC、ネイキッドPankoMab、ネイキッドPM-N54Q、PankoMab-ADC、およびPM-N54Q-ADC、またはビヒクル(酢酸緩衝溶液)を、OVCAR-5保持ヌードマウス(N=6/群)の静脈内に単回用量投与した。推定腫瘍容積のデータは、平均±SEMを表す。矢印は、投与のタイミングを示す。PankoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADCの投与14日後の推定腫瘍容積を、ダネット検定により、対照hIgG-ADC処置群の推定腫瘍容積と比較した。PM-N54Q-ADCの投与14日後の推定腫瘍容積を、スチューデントt-検定により、PankoMab-ADC処置群の推定腫瘍容積と比較した。***P<0.001。
図14】HCT-15保持ヌードマウスに対する対照hIgG-ADC、PankoMab-ADC、およびPM-N54Q-ADCの抗腫瘍有効性を示す図である。10mg/kgの用量の対照hIgG-ADC、PankoMab-ADC、およびPM-N54Q-ADC、またはビヒクル(酢酸緩衝溶液)を、HCT-15保持ヌードマウス(N=6/群)の静脈内に単回用量投与した。推定腫瘍容積のデータは、平均±SEMを表す。矢印は、投与のタイミングを示す。PankoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADCの投与21日後の推定腫瘍容積を、ダネット検定により、対照hIgG-ADC処置群の推定腫瘍容積と比較した。***P<0.001。
図15】ヒト化抗体PM N54Qの重鎖のアミノ酸配列を示す図である(配列番号15だが、57位のアミノ酸はGlnである。すなわち配列番号22)。
図16】ヒト化抗体PM N54QおよびPankoMabの軽鎖のアミノ酸配列を示す図である(配列番号16)。
図17】ヒト化抗体PankoMabの重鎖のアミノ酸配列を示す図である(配列番号19)。
図18】キメラ抗体PM N54Qの重鎖のアミノ酸配列を示す図である(配列番号20だが、76位のアミノ酸はGlnである。すなわち配列番号23)。
図19】キメラ抗体PM N54Qの軽鎖のアミノ酸配列を示す図である(配列番号21)。
【実施例
【0295】
実施例1:
1. 抗MUC1抗体の産生
カバット/Eu付番方式によるAsn54(配列番号11のアミノ酸位置57)のコドンを、Asn以外の任意のアミノ酸、特にGlnのコドンに突然変異させることにより、ヒト化PankoMab抗体の重鎖の核酸配列(例えば、WO2011/012309を参照)を修飾した。
【0296】
1)ヒト骨髄性白血病由来細胞株での抗MUC1抗体の産生
突然変異抗体のγ1型重鎖およびκ型軽鎖のコード配列を含むベクターを、ヒト骨髄性白血病由来細胞株NM-H9D8(DSM ACC2806)にトランスフェクトした。N54X突然変異(PankoMab N54X/PM-N54X、XはN/Asn以外の任意のアミノ酸である)またはVHおよびVLのフレームワーク配列にアミノ酸突然変異を含む異なるαMUC1抗体を、得られたクローンで発現させて、ヒトグリコシル化パターンを有する構築物を産生させた。上清中のαMUC1抗体の濃度は、プロテインAコーティングピンを使用したOctet測定により決定したか、またはプロテインAクロマトグラフィーによる精製後にUV280吸光度により定量化した。異なるαMUC1抗体の結合特性を、抗原-ELISAにより決定し(実施例2を参照)、また、選択された精製抗体をスキャチャード分析により(実施例3を参照)、Biacoreにより(実施例4aを参照)、DRX switchSENSE(登録商標)技術により(実施例4bを参照)、またはフローサイトメトリーにより(実施例7)分析した。
【0297】
加えて、PM-N54QおよびFabグリコシル化を有する非突然変異PankoMabも、フコースが低減された抗体を発現するヒト骨髄性白血病由来細胞株NM-H9D8-E6Q12(DSM ACC2856)で発現させた。NM-H9D8で発現された同じ抗体と共に、こうした抗体を精製し、Fcガンマ受容体IIIAに対するそれらの結合挙動について実施例6にて分析した。
【0298】
2)CHO細胞株での抗MUC1抗体の産生
ThermoFisher scientificのGeneArt(商標)により合成されたPM-N54Qコード配列(配列番号17により表されるPM-N54Qの重鎖のヌクレオチド配列および配列番号18により表されるPM-N54Qの軽鎖のヌクレオチド配列)を、発現ベクターにクローニングし、得られたプラスミドをCHO細胞にエレクトロ-トランスフェクトした。プールした細胞を選択圧力下で増殖させることを応用し、基本手順を用いてPM-N54Q突然変異体抗体を製造した。CHO細胞株で産生された抗MUC1抗体(PM-N54Q)を、実施例8および9に使用した。
【0299】
2. PankoMab-ADC、N54Q-ADC、およびDXd
CDR2-H2にグリコシル化部位を含む(Fabグリコシル化)ヒト化抗TA-MUC1モノクローナル抗体を指すPankoMab-GEX、およびFabグリコシル化を欠如するヒト化抗TA-MUC1モノクローナルを指すPM-N54Q(実施例1-1)、PankoMab-ADC、およびPM-N54Q-ADCを、WO2014/057687およびWO2015/115091などの公知の方法により産生した。PankoMab-GEX抗体は、配列番号19を含む重鎖および配列番号16を含む軽鎖を含み、したがって、PankoMab-GEX抗体は、式2の薬物-リンカーに連結される。上記で言及したPM-N54Q抗体は、配列番号15を含む重鎖および配列番号16を含む軽鎖を含み、したがって、PM-N54Q抗体は、式2の薬物-リンカーに連結される。
【0300】
【化22】
【0301】
そのようなPankoMab-ADC構造およびPM-N54Q-ADC構造は、以下の式5を示し(y:1抗体分子当たりのコンジュゲートされた薬物分子の数は4~8であり、すなわち1抗体当たりのコンジュゲートされた薬物分子の平均数(y):およそ8)、ABは、PankoMabまたはPM-N54Qを表す。
【0302】
【化23】
【0303】
対照hIgG-ADCは、哺乳動物細胞に結合しないヒト化IgG1アイソタイプ対照モノクローナル抗体、ならびにPnakoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADCと同じ薬物-リンカーで構成されていた。ADCペイロード(DXd)は、WO2014/057687およびWO2015/115091などの公知の方法により産生した。
【0304】
実施例2:抗原ELISA
Fab部分のN-グリコシル化部位がノックアウトされているPankoMab N54Xの抗原結合特性を、そのFab部分にN-グリコシル化部位を有するPankoMabと比較した。
【0305】
(グリコシル化)PankoMab-GEX(登録商標)と比較した、MUC1特異的抗体PankoMabのFab脱グリコシル化型(PM-N54Q)の結合特徴を、ELISA研究にて、様々にグリコシル化されたおよびグリコシル化されていないMUC1由来タンデムリピートペプチドを使用して分析した。原則として、両抗体は、Tにおいて異なるグリコシル化を有するグリコシル化PDTRペプチド(APPAHGVTSAPDT(X)-RPAPGSTAPPAHGVTSA)に結合することにより同じ階調を示す。つまり、Galβ1-3GalNAcalpha(TF)を保持するPDTRペプチドに対して最も強力な結合が観察され、続いてシアリル化TFおよびGalNAcalpha(Tn)O-グリコシル化だった。シアリル化GalNAcalpha(sTn)O-グリコシル化に対する結合は、著しくより低かった。PankoMab-GEX(登録商標)として、PM-N54Qは、非グリコシル化MUC1 PDTRペプチドに対する結合親和性をほんのわずかしか示さず、適切な腫瘍特異性を示した(図1C)。
【0306】
しかしながら、GalNAcalpha(Tn)O-グリカンを保持するビオチン化糖ペプチドを使用したTA-MUC1抗原ELISAでは、PankoMab-GEX(登録商標)と比較して、4倍高い結合がPM-N54Qに見出された。PM-N54Qは、シアリル化GalNAcalpha(sTn)でグリコシル化されると、約7倍良好に同じMUC1ペプチドに結合する。PDTR配列のトレオニンにおけるGalβ1-3GalNAcalpha(TF)およびシアリル化TF(sTF)に対する結合(図1A)は、PM-N54Qのほうが2倍良好だった。
【0307】
両抗体は、PDT(Tn)Rペプチドとの結合と比較して、セリンにTnグリコシル化を有するMUC1ペプチド変異体APPAHGVTSAPE-S(Tn)-RPAPGSTAPPAHGVTSAに対して強力に縮小された結合を示す。しかしながら、この場合も、Fab脱グリコシル化PM-N54Qは、PankoMab-GEX(登録商標)よりも著しく強力に結合する(図1B)。
【0308】
異なる他のFab脱グリコシル化PM-N54X変異体を、そのFab部分にN-グリコシル化を有するPankoMabと比較した。最初に、変異体はすべて、上清からのものを精製せずに直接比較した。濃度はOctetで決定した。PM-N54X変異体はすべて、Fabグリコシル化PMよりも良好に結合した。加えて、アミノ酸側鎖の化学的特性に依存する明白な傾向が視認された。側鎖のカルボン酸基は、最も低い結合増強を示した。最良の結合は、1つまたは2つの窒素を有する(第一級または第二級アミンとして)アミノ酸で観察された(図1D)。
【0309】
加えて、選択されたFab脱グリコシル化変異体(PM-N54H、-W、および-Q)を、プロテインAクロマトグラフィーにより精製し、ELISAで分析した(図1E)。それぞれ、Fabグリコシルを有するPankoMabと比較して、TF-MUC1ペプチドに対する結合の向上は約5~8倍であり、Tn-MUC1ペプチドに対しては約2~3倍である。
【0310】
さらに、PM-N54Qの2つの異なるフレームワーク変異体を、Tnグリコシル化PDTR-MUC1ペプチドに対する結合について、ELISAで分析した(図1Fを参照)。フレームワーク変異体mf-aは、VHに9つのアミノ酸突然変異およびVLフレームワークに3つのアミノ酸突然変異を有し、また、変異体mf-bは、VHに9つのアミノ酸突然変異およびVLフレームワークに4つのアミノ酸突然変異を有する。突然変異変異体は両方とも、PM-N54Q抗体と比較して、同様の結合を示す。
【0311】
実施例3:MCF-7細胞およびZR-75-1細胞に対する抗MUC1抗体の飽和結合分析
2つの要因:腫瘍細胞に対する抗体の親和性および結合部位の数が、抗体の治療適合性に特に重要である。
【0312】
TA-MUC-1陽性ヒト腫瘍細胞株に対するMUC1特異的抗体PankoMab(PM-N54Q)のFab脱グリコシル化型の結合を、Fabグリコシル化PankoMab-GEX(登録商標)と比較して、ヒト乳房癌細胞株統ZR-75-1およびMCF-7に対する飽和結合分析により放射性同位体標識抗体を使用して評価した。抗体を、50mM炭酸ナトリウム、150mM NaCl、pH8.7中の12倍モル過剰のp-SCN-ベンジル-DTPAで、2時間37℃にてキレート化し、続いて2~8℃で終夜インキュベーションした。遊離キレート剤を、脱塩カラムおよび全量ろ過(50kDaカットオフ、PBSへの6×緩衝液交換)で除去した。キレート化抗体を、6mMリン酸塩、1.6mM KCl、80mM NaCl、0.2M Naアセテート、0.1M HCl中で1時間37℃にて、無担体111Inで放射性標識した(2μCi/μg抗体)。8~9倍容積の10×濃縮PBSを添加することにより、調製物を中和した。約1/50容積のウシ胎仔血清を、中和した標識抗体調製物に添加した。細胞結合手法毎に、1*10細胞を使用した。幾つかの濃度の標識抗体を、ペレット化した細胞に添加した(1%BSA/PBS中30~1000ng/200μL)。再懸濁した細胞-抗体混合物を、ガンマ計数器で測定し、4℃で1時間インキュベートした。抗体が結合した細胞を遠心分離により分離し、4℃でさらに1時間1%BSA/PBSで洗浄した。その後、細胞ペレットを、結合した111In標識抗体についてガンマ計数器で測定した。評価は、GraphPad Prismの「1部位特異的ka」で実施した。得られたデータは、表1に要約されている。データは、こうした腫瘍細胞に対するPM-N54Qの親和性が高く、結合部位数が非常に多いことを示す。結合は、PankoMab-GEX(登録商標)よりも2.5倍より高く、結合部位の数もわずかに増加した。
【0313】
【表1】
【0314】
実施例4a:表面プラズモン共鳴(BiaCore)分析
TA-MUC-1由来グリコシル化ペプチドに対する、MUC1特異的抗体PankoMabのFab脱グリコシル化型(PM-N54Q)の結合を、表面プラズモン共鳴分析(Biacore)により評価した。ストレプトアビジンセンサーチップを、ビオチン化TA-MUC1ペプチドでコーティングした(Tnグリコシル化または非グリコシル化)。PankoMabおよびPM-N54Qを、HPS-EPで3,600から4.9nMまで1:3系列希釈した。希釈物を50μL/分で注入した。各濃度の最大結合を、それぞれ応答ユニット(RU)として決定し、「1部位特異的結合」を使用してGraphPad Prismで評価した。図2は、PankoMab-GEX(登録商標)と比較して得られた、PM-N54Qとの結合曲線を示す。PM-N54QおよびPankoMab-GEX(登録商標)の親和性(K)は、それぞれ388nMおよび652nMであると算出された。したがって、この実験の設定では、親和性のほぼ2倍の増加が検出可能だった。
【0315】
実施例4b:蛍光接近感知法(DRXによる、Dynamic Biosensors)
チップにスポッティングされた一本鎖DNA(96量体)およびリガンドにカップリングされた相補的DNAを使用する蛍光接近感知法は、結合定数および親和性を決定するための新しい方法である。本研究では、ストレプトアビジンを、ビオチン化TA-MUC1ペプチドを捕捉するためのリガンドとして使用した。ペプチドに対するPankoMabの結合は、蛍光の変化をもたらした。オンレートおよびオフレートは、結合および解離中に算出することができる。感度がより高いため、表面プラズモン共鳴と比較してより迅速な相互作用をモニターすることができる。これは、SPRとは異なるが、液体系で測定される「至適標準」法であるKinExAとより同等の結合動力学をもたらす。
【0316】
PankoMabおよびPM-N54Qを、PE140緩衝液で300nMから3.67nMまで1:9ステップで希釈し、チップに結合したペプチドに適用した。結合曲線を、単一指数関数的グローバルフィッティングにより(機器のソフトウェアで)評価した。PMおよびPM-N54Qの結合曲線は、図3Aおよび3Bに例示的に示されている。PankoMab変異体の計算された親和性は、表2に示されている。
【0317】
【表2】
【0318】
実施例5:生化学的特徴付け
非還元および還元SDS-PAGEを使用して、抗体の純度および同一性を分析する。非還元ゲルのバンドパターンは、約160kDaに主バンドを示し、重鎖および軽鎖ならびにそれらの組合せの理論的アーチファクト(約25、50~55、75、110、135kDa)を示す。還元ゲルは、25および50~55kDaに別個の軽鎖バンドおよび重鎖バンドを示す。Fabグリコシル化を欠如するため、PM-N54Qは、予想通り、より小さな重鎖を有する(図4の右側を参照)。
【0319】
電荷プロファイルは、等電点電気泳動により示されているように明らかに異なる(IEF;図5を参照)。Fabグリコシル化は、かなりシアリル化されているが、Fcグリコシル化は、最小限にシアリル化されているに過ぎない。したがって、PankoMab-GEX(登録商標)は、PM-N54Qよりも多くの荷電アイソフォームを有し、これは、Fab部分の負荷電シアル酸のレベルがより高いことを反映する。
【0320】
実施例6:Fcγ受容体結合
FcγRIIIa(CD16a)のFcγR結合アッセイは、PerkinElmerのAlphaScreen(登録商標)技術に基づく。AlphaScreen(登録商標)プラットフォームは、PerkinElmerの簡単なビーズに基づく技術に依存し、洗浄ステップを必要としないため、伝統的なELISAのより効率的な代替法である。
【0321】
受容体結合アッセイでは、Hisタグ付FcγRIIIa(Glycotope GmbH)を、Niキレートドナービーズにより捕捉する。抗MUC1抗体およびウサギ抗マウスカップリングアクセプタービーズは、FcγRに対する結合を競合する。FcγRとウサギ抗マウス結合アクセプタービーズとの相互作用の場合、ドナーおよびアクセプタービーズが近接近すると、680nmでのレーザー励起時に発光がもたらされる。競合物質がない場合、最大シグナルが達成される(signalmax)。競合する場合、試験抗体がFcγRに結合し、signalmaxは、濃度依存的様式で低減される。EnSpire2300多標識リーダー(PerkinElmer)を使用して520~620nmを測定することにより(AlphaScreen(登録商標)法)、化学ルミネセンスを定量化した。結果はすべて、複製試料の平均±標準偏差として表した。データは、GraphPad Prism 5ソフトウェアによる非線形曲線フィッティング(シグモイド用量応答可変勾配(sigmoidal dose-response variable slope))を使用して評価および算出した。その結果として、濃度依存性シグモイド曲線が得られた。この曲線は、上部プラトー、底部プラトー、傾き、およびEC50により規定される。
【0322】
図6Aおよび6Bに示されているように、PankoMab N54QおよびPankoMabに対するFcγRIIIa結合親和性は同等だった。図Aでは低フコシル化抗体および図Bでは高フコシル化抗体がアッセイに適用された。したがって、Fabグリコシル化の除去は、抗体の受容体相互作用に影響を及ぼさなかった。
【0323】
実施例7:細胞性TA-MUC1に対する結合
N54QおよびN54Dを一過性に発現させ、プロテインAクロマトグラフィーにより精製した。細胞表面TA-MUC1に対する2つの変異体の結合を、2つの異なる癌細胞株を使用して、Fabグリコシル化を有するPMと比較した。舌扁平上皮癌系統HSC-4は、TA-MUC1を中程度に発現し、卵巣癌細胞株CaOV-3は高度に発現する。腫瘍細胞を、系列希釈した抗体と共にインキュベートし、結合した抗体を、フィコエリトリンコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG(重鎖および軽鎖)抗体を使用して検出した。バックグラウンド染色の対照のために、ヒトIgG対照が含まれていた。結合を、フローサイトメトリーにより分析した。
【0324】
分析した構築物PM、PM-N54Q、およびPM-N54Dは、ヒトIgG1対照と比較して、TA-MUC1を発現するHSC-4細胞およびCaOV-3細胞に対する強力で特異的な結合を示す(図7)。TA-MUC1highCaOV-3細胞に対するPM-N54Dの結合は、Fabグリコシル化を有するPMと同等であったが、PM-N54Qは、わずかにより良好な結合を示した(図7A)。TA-MUC1を中程度のレベルで発現するHSC-4癌細胞を使用すると、変異体PM-N54Qは、PMと比較して細胞性TA-MUC1に対する結合が明らかにより優れていたが、PM-N54Dは、Fabグリコシル化を有するPMと比較して結合が劣ることを示した(図7B)。
【0325】
実施例8:PankoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADCのin vitro有効性の評価
8.1 細胞株
TA-MUC1を中程度~高度に発現する細胞として、ヒト乳がん細胞株MDA-MB-468、ヒト膵がん細胞株HPAC、およびヒト肺がん細胞株NCI-H441を使用した。ヒト結腸直腸がん細胞株HCT-15を、TA-MUC1陰性細胞として使用した。こうした細胞株は、ATCCから購入した。各細胞株を、使用説明書に従って培養した。各がん細胞株上のTA-MUC1の発現レベルを、フローサイトメトリーにより確認した。
【0326】
8.2 PankoMab-ADCのin vitro有効性の評価
培養培地を使用することにより1.25×10細胞/mLの濃度を有するようにMDA-MB-468懸濁物を調製し、80uL/ウェル(1000細胞/ウェル)で黒色透明底96ウェルプレートの各ウェルに添加した。ブランクウェルの場合、培地のみを80uL/ウェルでウェルに添加した(N=3)。細胞はすべて、MDA-MB-468に適切な条件で終夜インキュベートした。
【0327】
培養培地を使用することにより3.1×10細胞/mLの濃度を有するようにHCT-15懸濁物を調製し、80uL/ウェル(250細胞/ウェル)で黒色透明底96ウェルプレートの各ウェルに添加した。ブランクウェルの場合、培地のみを80uL/ウェルでウェルに添加した(N=3)。細胞はすべて、HCT-15に適切な条件で終夜インキュベートした。
【0328】
翌日に、各ネイキッドPankoMab、対照hIgG-ADC、およびPankoMab-ADCを、500nMから0.2nMまで各培養培地で3倍系列希釈した。こうした希釈溶液の20マイクロリットルを、適切なウェルに添加した(終濃度:100nM~0.04nM)。ブランクウェルおよび未処置ウェルの場合、20uLの各培養培地のみをウェルに添加した。プレートはすべて、各細胞株に適切な条件で6日間インキュベートした。
【0329】
インキュベーションの後、各ウェルのATPの量を、CellTiter-Gloルミネセンス細胞生存アッセイ(Promega)を使用することにより測定した。ルミネセンスを、マルチラベルカウンター(ARVO X3、PerkinElmer Japan Co.,Ltd.)で測定した。このアッセイを三重反復で実施した。
【0330】
各試料の細胞生存率を、以下の等式により算出した。
細胞生存率(%)=100×(T-B)/(C-B)
T:試験ウェルのルミネセンス強度
C:未処置ウェルの平均ルミネセンス強度
B:ブランクウェルの平均ルミネセンス強度
【0331】
8.3 PankoMab-ADCとPM-N54Q-ADCとのin vitro有効性の比較
培養培地を使用することにより1.25×10細胞/mLの濃度を有するようにHPAC懸濁物を調製し、80uL/ウェル(1000細胞/ウェル)で黒色透明底96ウェルプレートの各ウェルに添加した。ブランクウェルの場合、培地のみを80uL/ウェルでウェルに添加した(N=3)。細胞はすべて、HPACに適切な条件で終夜インキュベートした。
【0332】
培養培地を使用することにより1.25×10細胞/mLの濃度を有するようにNCI-H441懸濁物を調製し、80uL/ウェル(1000細胞/ウェル)で黒色透明底96ウェルプレートの各ウェルに添加した。ブランクウェルの場合、培地のみを80uL/ウェルでウェルに添加した(N=3)。細胞はすべて、NCI-H441に適切な条件で終夜インキュベートした。
【0333】
翌日に、各ネイキッドPankoMab、ネイキッドPM-N54Q、hIgG-ADC、PankoMab-ADC、およびPM-N54Q-ADCを、500nMから0.2nMまで各培養培地で3倍系列希釈した。こうした希釈溶液の20マイクロリットルを、適切なウェルに添加した(終濃度:100nM~0.04nM)。ブランクウェルおよび未処置ウェルの場合、20uLの各培養培地のみをウェルに添加した。プレートはすべて、各細胞株に適切な条件で6日間インキュベートした。
【0334】
インキュベーションの後、各ウェルのATPの量を、CellTiter-Gloルミネセンス細胞生存アッセイ(Promega)を使用することにより測定した。ルミネセンスは、マルチラベルカウンター(ARVO X3、PerkinElmer Japan Co.,Ltd.)で測定した。このアッセイを三重反復で実施した。
【0335】
各試料の細胞生存率を、以下の等式により算出した。
細胞生存率(%)=100×(T-B)/(C-B)
T:試験ウェルのルミネセンス強度
C:未処置ウェルの平均ルミネセンス強度
B:ブランクウェルの平均ルミネセンス強度
【0336】
HPACおよびNCI-H441に対するPankoMab-ADC対PM-N54Q-ADCの細胞傷害活性の効力比、およびそれらの95%CIを、SASリリース9.4(SAS Institute Japan、東京、日本)に基づくEXSUS ver. 8.1(CAC Croit、東京、日本)を使用することによる3パラメーターロジスティック平行線分析(3-parameter logistic parallel-line analysis)(共通の傾き)を使用して、事後分析として算出した(Emax:100、Emin:推定値)。細胞傷害活性の効力における差異は、効力比の95%CIが1を含まない場合、有意であるとみなした。
【0337】
実施例9:PankoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADCのin vivo有効性の評価
9.1 細胞株
TA-MUC1を中程度~高度に発現する腫瘍細胞として、ヒト乳がん細胞株MDA-MB-468およびHCC70、ヒト膵がん細胞株HPAC、およびヒト肺がん細胞株NCI-H441を使用した。ヒト結腸直腸がん細胞株HCT-15を、TA-MUC1陰性腫瘍細胞として使用した。こうした細胞株は、ATCCから購入した。ヒト卵巣がん細胞株OVCAR-5を国立がん研究所から購入し、TA-MUC1低発現腫瘍細胞として使用した。各細胞株を、使用説明書に従って培養した。各がん細胞株上のTA-MUC1の発現レベルを、フローサイトメトリーおよびIHC染色により確認した。
【0338】
9.2 PankoMab-ADCのin vivo有効性の評価
MDA-MB-468細胞を、マトリゲル(BD)に懸濁し、1×10細胞を、各雌ヌードマウスの身体右側に皮下移植し(0日目)、20日目にマウスを無作為にグループ化した(N=6)。グループ化した後、各ネイキッドPankoMab溶液、対照hIgG-ADC溶液、またはPankoMab-ADC溶液を、3mg/kgの用量で静脈内に単回用量投与した。ビヒクル(酢酸緩衝溶液)投与群を、対照群として確立した。投与後、各マウスの腫瘍の長さおよび幅を、21日間にわたって週2回デジタルノギスで測定した。
【0339】
HCC70細胞を、生理食塩水(株式会社大塚製薬工場)に懸濁し、1×10細胞を、各雌ヌードマウスの身体右側に皮下移植し(0日目)、19日目にマウスを無作為にグループ化した(N=6)。グループ化した後、各ネイキッドPankoMab溶液、対照hIgG-ADC溶液、またはPankoMab-ADC溶液を、10mg/kgの用量で静脈内に単回用量投与した。ビヒクル(酢酸緩衝溶液)投与群を、対照群として確立した。投与後、各マウスの腫瘍の長さおよび幅を、21日間にわたって週2回デジタルノギスで測定した。
【0340】
各マウスの推定腫瘍容積を、以下の等式により算出した。
推定腫瘍容積(mm)=1/2×長さ(mm)×幅(mm)
【0341】
また、ビヒクル処置群の最後の測定日における各群の腫瘍成長阻害(TGI、%)を、以下の等式により算出し、丸めて整数にした。
TGI(%)=(1-T/C)×100
T:ネイキッドPankoMab、対照hIgG-ADC、またはPankoMab-ADCの平均推定腫瘍容積(mm
C:ビヒクル処置群の平均推定腫瘍容積(mm
【0342】
PankoMab-ADCの抗腫瘍有効性を評価するために、PankoMab-ADC処置群の最後の測定日(MDA-MB-468:41日目、HCC70:40日目)における各マウスの腫瘍容積を、スチューデントt-検定により対照hIgG-ADC処置群の腫瘍容積またはネイキッドPankoMab処置群の腫瘍容積と比較した。統計分析はすべて、SASシステム リリース9.2(SAS Institute Inc.)を使用して、事後分析として実施した。0.05未満のP値を、統計的に有意であるとみなした。
【0343】
9.3 PankoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADCのin vivo有効性の比較
HPAC細胞を、生理食塩水(株式会社大塚製薬工場)に懸濁し、3×10細胞を、各雌ヌードマウスの身体右側に皮下移植し(0日目)、11日目にマウスを無作為にグループ化した(N=6)。グループ化した後、各ネイキッドPM-N54Q溶液、対照hIgG-ADC溶液、PankoMab-ADC溶液、またはPM-N54Q-ADC溶液を、10mg/kgの用量で静脈内に単回用量投与した。ビヒクル(酢酸緩衝溶液)投与群を、対照群として確立した。投与後、各マウスの腫瘍の長さおよび幅を、21日間にわたって週2回デジタルノギスで測定した。
【0344】
NCI-H441細胞を、マトリゲル(BD)に懸濁し、5×10細胞を、各雌ヌードマウスの身体右側に皮下移植し(0日目)、7日目にマウスを無作為にグループ化した(N=6)。グループ化した後、各ネイキッドPankoMab溶液またはネイキッドPM-N54Q溶液を、10mg/kgの用量で静脈内に単回用量投与し、対照hIgG-ADC溶液、PankoMab-ADC溶液、またはPM-N54Q-ADC溶液を、3mg/kgの用量で静脈内に単回用量投与した。ビヒクル(酢酸緩衝溶液)投与群を、対照群として確立した。投与後、各マウスの腫瘍の長さおよび幅を、31日間にわたって週2回デジタルノギスで測定した。
【0345】
OVCAR-5細胞を、生理食塩水(株式会社大塚製薬工場)に懸濁し、5×10細胞を、各雌ヌードマウスの身体右側に皮下移植し(0日目)、12日目にマウスを無作為にグループ化した(N=6)。グループ化した後、ネイキッドPankoMab溶液、ネイキッドPM-N54Q溶液、対照hIgG-ADC溶液、PankoMab-ADC溶液、またはPM-N54Q-ADC溶液を、10mg/kgの用量で静脈内に単回用量投与した。ビヒクル(酢酸緩衝溶液)投与群を、対照群として確立した。投与後、各マウスの腫瘍の長さおよび幅を、21日間にわたって週2回デジタルノギスで測定した。
【0346】
HCT-15細胞を、生理食塩水(株式会社大塚製薬工場)に懸濁し、5×10細胞を、各雌ヌードマウスの身体右側に皮下移植し(0日目)、10日目にマウスを無作為にグループ化した(N=6)。グループ化した後、対照hIgG-ADC溶液、PankoMab-ADC溶液、またはPM-N54Q-ADC溶液を、10mg/kgの用量で静脈内に単回用量投与した。ビヒクル(酢酸緩衝溶液)投与群を、対照群として確立した。投与後、各マウスの腫瘍の長さおよび幅を、21日間にわたって週2回デジタルノギスで測定した。
【0347】
各マウスの腫瘍容積を、以下の等式により算出した。
推定腫瘍容積(mm)=1/2×長さ(mm)×幅(mm)
【0348】
また、ビヒクル処置群の最後の測定日またはすべての群が生存している最後の日における各マウスの腫瘍成長阻害(TGI、%)を、以下の等式に従って算出し、丸めて整数にした。
TGI(%)=(1-T/C)×100
T:ネイキッドPankoMab、ネイキッドPM-N54Q、対照hIgG-ADC、PankoMab-ADC、またはPM-N54Q-ADCの平均推定腫瘍容積(mm
C:ビヒクル処置群の平均推定腫瘍容積(mm
【0349】
HPAC保持マウス、NCI-H441保持マウス、OVCAR-5保持マウス、およびHCT-15保持マウスに対する各化合物の抗腫瘍有効性を評価するために、対照hIgG-ADC処置群の最後の測定日(HPAC:32日目、NCI-H441:38日目、HCT-15:32日目)またはすべての群が生存している最後の日(OVCAR-5:26日目)における各マウスの腫瘍容積を、ダネット検定により、対照hIgG-ADC処置群の腫瘍容積と比較した。加えて、33日目のOVCAR-5保持ヌードマウスの腫瘍容積を、PankoMab-ADC処置群とPM-N54Q-ADC処置群との間でスチューデントt-検定により比較した。統計分析はすべて、SASシステム リリース9.2(SAS Institute Inc.)を使用して、事後分析として実施した。0.05未満のP値を、統計的に有意であるとみなした。
【0350】
実施例10:結果
10.1 in vitroにおける、TA-MUC1陽性がん細胞株および陰性細胞に対するPankoMab-ADCの細胞傷害活性
PankoMab-ADCが、ヒトがん細胞株に対する標的依存性および薬物依存性細胞傷害活性を示すか否かを調査するために、ヒト乳がん細胞MDA-MB-468(TA-MUC1陽性)およびヒト結腸直腸がん細胞HCT-15(TA-MUC1陰性)に対する、ネイキッドPankoMab、対照hIgG-ADC、およびPankoMab-ADCのin vitro有効性を評価した。図8に示されているように、ネイキッドPankoMabおよびhIgG-ADCは、各細胞株に対して活性をほとんど示さなかった(IC50>100nM)。こうした条件下では、PankoMab-ADCは、TA-MUC1陽性細胞MDA-MB-468に対して用量依存性細胞傷害活性を示した(図8A、IC50<10nM)。しかし、PankoMab-ADCは、TA-MUC1陰性細胞HCT-15に対しては活性を示さなかった(図8B、IC50>100nM)。こうした結果に基づき、PankoMab-ADCは、in vitroにおいて、TA-MUC1陽性がん細胞株に対して標的依存性および薬物依存性細胞傷害活性を示すと結論付けた。
【0351】
10.2 in vitroでのPankoMab-ADCとPM-N54Q-ADCとの間の、TA-MUC1陽性細胞に対するin vitro細胞傷害活性の比較
抗原結合親和性の向上が細胞傷害活性の増強に寄与し得るか否かを調査するため、ヒト膵がん細胞株HPACおよびヒト肺がん細胞株NCI-H441に対する、PankoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADCのin vitro有効性を評価した。それらに対するPM-N54Q-ADCの細胞傷害活性は、PankoMab-ADCの細胞傷害活性よりも1.5倍強力だった(図8Cおよび図8D)。PM-N54Q-ADCのPankoMab-ADCに対する、HPACに対する効力比は1.917であり(1.611~2.280、95%CI)、NCI-H441に対する効力比は1.663であった(1.495~1.849、EC50の95%CI)。こうしたデータは、PM-N54Q-ADCの細胞傷害活性が、PankoMab-ADCよりも有意に強力であることを実証した。こうした結果は、PankoMab-ADCの抗原結合親和性の向上が、細胞死滅活性の有意な増強に寄与し得ることを示唆する。
【0352】
10.3 TA-MUC1陽性腫瘍に対するPankoMab-ADCの抗腫瘍有効性
PankoMab-ADCが、in vitroだけでなくin vivoでも有効性を示すか否かを調査するため、MDA-MB-468保持マウスに対するネイキッドPankoMab、対照hIgG-ADC、およびPankoMab-ADCの抗腫瘍有効性を評価した。図9に示されているように、ネイキッドPankoMabおよび対照hIgG-ADC(3mg/kg、単回投与)は、抗腫瘍有効性を示さなかった(TGIは両方とも、41日目で-18%だった)。対照的に、PankoMab-ADC(3mg/kg、単回投与)は、腫瘍成長を著しく阻害した(TGIは、41日目で97%だった)。さらに、PankoMab-ADCは、対照hIgG-ADCおよびネイキッドPankoMabと比較して有意な抗腫瘍有効性を示した(両方とも41日目でP<0.001)。体重変化の点では、薬物治療により引き起こされる体重減少は、すべての薬物処置群で一切観察されなかった。
【0353】
また、HCC70保持マウスに対するネイキッドPankoMab、対照hIgG-ADC、およびPankoMab-ADCの抗腫瘍有効性を評価した。図10に示されているように、ネイキッドPankoMabおよび対照hIgG-ADC(10mg/kg、単回投与)は、こうした異種移植モデルに対して弱い抗腫瘍有効性を示した(TGIは、40日目でそれぞれ10%および29%だった)。対照的に、PankoMab-ADC(10mg/kg、単回投与)は、腫瘍成長を著しく阻害した(TGIは、40日目で95%だった)。さらに、PankoMab-ADCは、対照hIgG-ADCと比較して、統計的に有意な抗腫瘍有効性を示した(両方とも40日目でP<0.001)。体重変化の点では、薬物治療により引き起こされる体重減少は、すべての薬物処置群で一切観察されなかった。こうした結果は、PankoMab-ADCが、強力な抗腫瘍有効性を有し、種々のTA-MUC1陽性異種移植モデルに対して標的依存性および薬物依存性抗腫瘍有効性を示したことを示唆する。
【0354】
10.4 in vivoでのTA-MUC1陽性腫瘍に対するPankoMab-ADCとPM-N54Q-ADCとの抗腫瘍有効性の比較
PM-N54Q-ADCが、TA-MUC1陽性腫瘍細胞に対して、PankoMab-ADCと等しいかまたはそれよりも大きな抗腫瘍有効性を有するか否かを調査するため、種々のタイプのTA-MUC1陽性腫瘍細胞に対するPankoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADCの抗腫瘍有効性を比較した。
【0355】
初めに、本発明者らは、中程度~高度なTA-MUC1発現を示すHPAC腫瘍細胞およびNCI-H441腫瘍細胞に対するin vivo有効性を評価した。図11に示されているように、ネイキッドPM-N54Qおよび対照hIgG-ADC(10mg/kg、単回投与)は、HPAC保持マウスに対して弱い抗腫瘍有効性を示した(TGIは、32日目でそれぞれ27%および18%だった)。対照的に、PankoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADC(10mg/kg、単回投与)は、腫瘍成長を著しく阻害した(TGIは両方とも、32日目で93%だった)。さらに、PankoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADC(10mg/kg、単回投与)は、対照hIgG-ADCと比較して、統計的に有意な抗腫瘍有効性を示した(両方とも、32日目でP<0.001)。体重変化の点では、薬物治療により引き起こされる体重減少は、すべての薬物処置群で一切観察されなかった。
【0356】
図12に示されているように、ネイキッドPankoMabおよびネイキッドPM-N54Q(10mg/kg、単回投与)は、NCI-H441保持マウスに対して弱い抗腫瘍有効性を示した(TGIは、38日目でそれぞれ8%および12%だった)。対照hIgG-ADC処置群(3mg/kg、単回投与)は、投与後2週間にわたって抗腫瘍有効性を示したが、21日後に腫瘍再成長が観察された(TGIは、38日目で71%だった)。対照的に、PankoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADC(3mg/kg、単回投与)は、腫瘍成長を著しく阻害した(TGIは両方とも、38日目で99%だった)。さらに、PankoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADCは、対照hIgG-ADCと比較して、統計的に有意な抗腫瘍有効性を示した(38日目でそれぞれP<0.001)。体重変化の点では、薬物治療により引き起こされる体重減少は、すべての薬物処置群で一切観察されなかった。
【0357】
次に、本発明者らは、TA-MUC1が低発現であるOVCAR-5腫瘍細胞に対するin vivo有効性を評価した。図13に示されているように、ネイキッドPankoMab、PM-N54Q、および対照hIgG-ADC(10mg/kg、単回投与)は、OVCAR5保持マウスに対して抗腫瘍有効性をほとんど示さなかった(TGIは、26日目でそれぞれ1%、11%、および3%だった)。このモデルでは、PankoMab-ADC(10mg/kg、単回投与)の抗腫瘍有効性は限定的だったが(TGIは、26日目で37%だった)、PM-N54Q-ADC(10mg/kg、単回投与)は、強力な抗腫瘍有効性を示した(TGIは、26日目で73%だった)。さらに、PankoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADCは、対照hIgG-ADCと比較して、統計的に有意な抗腫瘍有効性を示した(26日目でそれぞれP=0.01およびP<0.001)。加えて、PM-N54Q-ADCは、PankoMab-ADCと比較して、統計的に有意な抗腫瘍有効性を示した(26日目でP<0.001)。体重変化の点では、薬物治療により引き起こされる体重減少は、すべての薬物処置群で一切観察されなかった。
【0358】
最後に、本発明者らは、TA-MUC1が陰性であるHCT-15腫瘍細胞に対するin vivo有効性を評価した。
【0359】
図14に示されているように、ネイキッドPankoMabおよびPM-N54Q(10mg/kg、単回投与)は、このモデルに対して抗腫瘍有効性をほとんど示さなかった(TGIは、32日目でそれぞれ7%、4%だった)。さらに、PankoMab-ADC、PM-N54Q-ADC、および対照hIgG-ADCも、このモデルに対して抗腫瘍有効性をほとんど示さなかった(TGIは、32日目でそれぞれ15%、22%、および26%だった)。
【0360】
こうした結果に基づき、PankoMab-ADCおよびPM-N54Q-ADCの抗腫瘍有効性は標的依存性および薬物依存性であると結論付けた。また、抗原結合親和性の向上は、TA-MUC1陽性腫瘍細胞に対する抗腫瘍有効性の増強に寄与することができる。
【0361】
寄託された生物学的物質の特定
細胞株DSM ACC2806、DSM ACC2807、およびDSM ACC2856は、下記の表に示されている日付にて、Glycotope GmbH,Robert-Rossle-Str.10,13125 Berlin(DE)によりDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ),Inhoffenstraβe 7B,38124 Braunschweig(DE)に寄託された。
【0362】
【表3】
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【配列表】
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