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特許7257479安定化されたマイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】安定化されたマイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 251/20 20060101AFI20230406BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
C07C251/20
C09K3/00 104Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021171107
(22)【出願日】2021-10-19
(62)【分割の表示】P 2020073601の分割
【原出願日】2016-04-27
(65)【公開番号】P2022017352
(43)【公開日】2022-01-25
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】松本 淳
(72)【発明者】
【氏名】松山 恵介
(72)【発明者】
【氏名】山本 省吾
(72)【発明者】
【氏名】金澤 孝太
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特許第6719267(JP,B2)
【文献】特表2009-541388(JP,A)
【文献】特表2009-541389(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0234466(US,A1)
【文献】国際公開第02/039974(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
A61K
A61Q
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中のシノリンの分解を抑制するための方法であって、
(a)シノリン、および
(b)α-グルコシルヘスぺリジン、エリソルビン酸、α-グルコシルルチン、グルタチオン、二亜硫酸ナトリウム、アルブミン、没食子酸、EDTA、メタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスパラギン酸、グルタミン酸、メチオニン、セリン、グルコース、トレハロース、ソルビトール、アロース、β-シクロデキストリン、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸ナトリウム、リジン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩、マンニトール、ヒアルロン酸ナトリウム、およびエルゴチオネインからなる群から選択される1以上の物質
、水を含む溶媒に混合することを特徴とする、方法。
【請求項2】
溶液中のシノリンの分解抑制用の組成物であって、
(a)シノリン、
(b)α-グルコシルヘスぺリジン、エリソルビン酸、α-グルコシルルチン、グルタチオン、二亜硫酸ナトリウム、アルブミン、没食子酸、メタリン酸ナトリウム、アスパラギン酸、メチオニン、セリン、グルコース、トレハロース、ソルビトール、アロース、β-シクロデキストリン、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸ナトリウム、リジン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩、マンニトール、ヒアルロン酸ナトリウム、およびエルゴチオネインからなる群から選択される1以上の物質、
および
(c)水を含む溶媒
を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化されたマイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液、およびその製造方法に関する。本発明はまた、マイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液を安定化させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線(UV)は、紅斑などの急性皮膚反応、皮膚老化および皮膚癌を誘発することが知られている。太陽光線に含まれる紫外線は、その波長によって、UV-A(320nm-400nm)、UV-B(280nm-320nm)およびUV-C(200-280nm)の3種類に分類される。この中で、生体への影響があるのはUV-AとUV-Bであり、UV-Cは通常は大気を通過することができないため問題とならない。
【0003】
UV-Bは、屋外での日焼けの主因であり、UV-Aと比べて相対的にエネルギーが大きいことが知られている。皮膚層に吸収されると、角質層および表皮に到達し、シミ・ソバカスなどの急性皮膚色素沈着を引き起こす。また、老化や皮膚癌の発症に関与する、免疫抑制を引き起こすことも知られている。
【0004】
UV-Aは、UV-Bに比べてエネルギーは小さいが波長が長く、UV-Bよりも皮膚のさらに深いところまで浸透し、真皮にまで到達することが知られている。その結果、シミ・ソバカスなどの急性皮膚色素沈着だけでなく、真皮の弾力低下(光線性弾性線維症)を引き起こし、しわ・たるみといった早期皮膚老化現象を引き起こす。さらに近年、UV-Aも免疫抑制を引き起こし、前癌性の皮膚病変および皮膚癌の発症に関与することがわかってきている。
【0005】
UV-Bは、季節、天候、緯度などによってその量が異なるのに対し、UV-Aは一年を通して一定量が地表に達する。そのため、UV-BのみならずUV-Aから皮膚を保護することも、重要である。
【0006】
現行の紫外線防御剤は、紫外線吸収剤と紫外線散乱剤に分類することができる。紫外線吸収剤は、紫外線エネルギーを熱エネルギーに変換して放出するものであり、例えば、4-tert-butyl-4’-methoxydibenzoylmethaneなどの合成有機化合物が挙げられる。紫外線散乱剤は、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)などの無機粒子を含み、皮膚に塗布した場合、皮膚表面に存在する無機粒子が紫外線を反射するバリアとして機能する。
【0007】
紫外線吸収剤には、(1)光で分解されやすく安定性が悪い、(2)分子励起を起こし、メラニン生成を促進することで、かゆみやアレルギーを引き起こす、(3)化学合成物質であるため、使用者に与えるイメージが悪い、といった問題点がある。紫外線散乱剤には、(1)皮膚に塗布した際、白くなりやすく、皮膚に重たい感じを与えやすい、(2)活性酸素の生成を引きおこす、(3)皮膚の毛穴を塞ぎ、外分泌腺の機能が阻害される懸念がある、といった問題点がある。このような問題点から、天然由来の安全な紫外線吸収物質への期待が高まっている。
【0008】
マイコスポリン様アミノ酸(Mycosporine-like Amino Acid、以下「MAA」とする)は、サンゴ、紅藻類、魚の内臓、微細藻類等、水生生物に広く存在することが知られている、天然のUV吸収物質である。
【0009】
これまでに、化学合成やシアノバクテリアを用いる光照射法によるMAAの製造も試みられている(特許文献1および非特許文献1)。さらに、ノリ、藻類、貝などの天然物からMAAを抽出することも試みられている(特許文献2および非特許文献2~4)。また、本発明者らは、以前に、微生物を用いてマイコスポリン様アミノ酸を生産する方法を開発した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第02/39974号
【文献】特表2013-518871号公報
【文献】国際公開第2015/174427号
【非特許文献】
【0011】
【文献】World J Microbiol Biotechnol(2008) 24:3111-3115
【文献】Marine Biology 108, 157-166(1991)
【文献】Photomedicine and Photobiology (2002), 24, 39-42
【文献】Tetrahedron Letters 1979, 3181-3182
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
MAAは、溶液状態の場合に着色するという問題点が指摘されている。しかしながら、この着色を防止する方法はこれまで見出されていない。また、本発明者らは、MAAを生産・精製する過程で、MAAが溶液中で分解するという問題点、およびMAA溶液を皮膚などに塗布した際にUV吸収能が低下するという問題点を見出した。本発明の解決課題には、これらの問題点を解決すること等が包含される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、MAAを含有する溶液に添加することで、(1)MAA溶液の着色、(2)溶液中のMAAの分解、および(3)薄膜溶液におけるMAAのUV吸収能の低下という、MAA溶液の安定性に関する問題点を解決する物質を見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は以下を提供する:
[1]安定化されたマイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液であって、
(a)マイコスポリン様アミノ酸、
(b)α-グルコシルヘスぺリジン、エリソルビン酸、α-グルコシルルチン、グルタチオン、二亜硫酸ナトリウム、アルブミン、没食子酸、EDTA、メタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、システイン、メチオニン、セリン、グルコース、トレハロース、ソルビトール、アロース、β-シクロデキストリン、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸ナトリウム、リジン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩、マンニトール、ヒアルロン酸ナトリウム、エルゴチオネイン、および酢酸トコフェロールからなる群から選択される1以上の物質、および
(c)溶媒
を含む、溶液;
[2]安定化されたマイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液であって、
(a)マイコスポリン様アミノ酸、および
(c)グリセロール、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、およびペンタエチレングリコールからなる群から選択される1以上の物質を含む溶媒
を含む、溶液;
[3]安定化されたマイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液であって、
(a)マイコスポリン様アミノ酸、
(b)α-グルコシルヘスぺリジン、エリソルビン酸、α-グルコシルルチン、グルタチオン、二亜硫酸ナトリウム、アルブミン、没食子酸、EDTA、メタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、システイン、メチオニン、セリン、グルコース、トレハロース、ソルビトール、アロース、β-シクロデキストリン、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸ナトリウム、リジン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩、マンニトール、ヒアルロン酸ナトリウム、エルゴチオネイン、および酢酸トコフェロールからなる群から選択される1以上の物質、および
(c)メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、グリセロール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびペンタエチレングリコールからなる群から選択される1以上の物質を含む溶媒
を含む、溶液;
[4]皮膚用剤に用いられる[1]~[3]のいずれか1つに記載の溶液;
[5]医薬品に用いられる[1]~[3]のいずれか1つに記載の溶液;
[6]化粧品に用いられる[1]~[3]のいずれか1つに記載の溶液;
[7]安定化されたマイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液を製造する方法であって、
(a)マイコスポリン様アミノ酸、
(b)α-グルコシルヘスぺリジン、エリソルビン酸、α-グルコシルルチン、グルタチオン、二亜硫酸ナトリウム、アルブミン、没食子酸、EDTA、メタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、システイン、メチオニン、セリン、グルコース、トレハロース、ソルビトール、アロース、β-シクロデキストリン、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸ナトリウム、リジン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩、マンニトール、ヒアルロン酸ナトリウム、エルゴチオネイン、および酢酸トコフェロールからなる群から選択される1以上の物質、および
(c)溶媒
を混合することを含む、方法;
[8]安定化されたマイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液を製造する方法であって、
(a)マイコスポリン様アミノ酸、および
(c)グリセロール、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、およびペンタエチレングリコールからなる群から選択される1以上の物質を含む溶媒
を混合することを含む、方法;ならびに
[9]安定化されたマイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液を製造する方法であって、
(a)マイコスポリン様アミノ酸、
(b)α-グルコシルヘスぺリジン、エリソルビン酸、α-グルコシルルチン、グルタチオン、二亜硫酸ナトリウム、アルブミン、没食子酸、EDTA、メタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、システイン、メチオニン、セリン、グルコース、トレハロース、ソルビトール、アロース、β-シクロデキストリン、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸ナトリウム、リジン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩、マンニトール、ヒアルロン酸ナトリウム、エルゴチオネイン、および酢酸トコフェロールからなる群から選択される1以上の物質、および
(c)メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、グリセロール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびペンタエチレングリコールからなる群から選択される1以上の物質を含む溶媒
を混合することを含む、方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安定化されたMAAを含有する溶液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1つの実施態様では、本発明は、安定化されたマイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液であって、
(a)マイコスポリン様アミノ酸、
(b)α-グルコシルヘスぺリジン、エリソルビン酸、α-グルコシルルチン、グルタチオン、二亜硫酸ナトリウム、アルブミン、没食子酸、EDTA、メタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、システイン、メチオニン、セリン、グルコース、トレハロース、ソルビトール、アロース、β-シクロデキストリン、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸ナトリウム、リジン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩、マンニトール、ヒアルロン酸ナトリウム、エルゴチオネイン、および酢酸トコフェロールからなる群から選択される1以上の物質、
および
(c)溶媒
を含む、溶液を提供する。
【0017】
上記(b)に記載の物質を添加することで、(1)MAA溶液の着色、および/または(2)溶液中のMAAの分解が防止され得る。
【0018】
本実施態様における、上記(c)に記載の「溶媒」としては、マイコスポリン様アミノ酸を溶解する任意の溶媒が用いられ得る。かかる溶媒の例としては、水、あるいは水と他の物質との混合液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
他の実施態様では、安定化されたマイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液であって、
(a)マイコスポリン様アミノ酸、および
(c)グリセロール、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、およびペンタエチレングリコールからなる群から選択される1以上の物質を含む溶媒
を含む、溶液を提供する。
【0020】
上記(c)に記載の物質を添加することで、(3)薄膜溶液におけるMAAのUV吸収能の低下が防止され得る。
【0021】
本実施態様において、上記(c)に記載の「溶媒」は、水を含んでもよく、含まなくてもよい。
【0022】
別の実施態様では、安定化されたマイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液であって、
(a)マイコスポリン様アミノ酸、
(b)α-グルコシルヘスぺリジン、エリソルビン酸、α-グルコシルルチン、グルタチオン、二亜硫酸ナトリウム、アルブミン、没食子酸、EDTA、メタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、システイン、メチオニン、セリン、グルコース、トレハロース、ソルビトール、アロース、β-シクロデキストリン、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸ナトリウム、リジン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩、マンニトール、ヒアルロン酸ナトリウム、エルゴチオネイン、および酢酸トコフェロールからなる群から選択される1以上の物質、および
(c)メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、グリセロール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびペンタエチレングリコールからなる群から選択される1以上の物質を含む溶媒
を含む、溶液を提供する。
【0023】
上記(b)に記載の物質を添加し、かつ上記(c)に記載の物質を添加することで、(1)MAA溶液の着色および/または(2)溶液中のMAAの分解が防止され、かつ(3)薄膜溶液におけるMAAのUV吸収能の低下が防止され得る。
【0024】
本実施態様において、上記(c)に記載の「溶媒」は、水を含んでもよく、含まなくてもよい。
【0025】
上述した実施態様において、上記(a)に記載の物質の添加量は、溶液全量に対して0.0001~10重量%、好ましくは0.001~1重量%、より好ましくは0.005~0.5重量%である。
【0026】
上述した実施態様において、上記(b)に記載の物質の添加量は、溶液全量に対して0.00001~20重量%、好ましくは、0.0001~10重量%、より好ましくは0.001~5重量%、特に好ましくは0.01~2重量%である。
【0027】
上述した実施態様において、上記(c)に記載の物質は、例えば、溶媒全量に対して50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、または80重量%以上の割合で添加される。好ましくは、(c)に記載の物質は、溶媒全量に対して90重量%以上の割合で添加される。一実施形態では、かかる溶媒は、50重量%以上の(c)に記載の物質と50重量%以下の水からなる混合物である。例えば、60重量%以上の(c)に記載の物質と40重量%以下の水からなる混合物、70重量%以上の(c)に記載の物質と30重量%以下の水からなる混合物、または80重量%以上の(c)に記載の物質と20重量%以下の水からなる混合物である。好ましくは、90重量%以上の(c)に記載の物質と10重量%以下の水からなる混合物である。
【0028】
本明細書で用いる場合、「安定化」とは、マイコスポリン様アミノ酸を安定化させることだけでなく、マイコスポリン様アミノ酸を含む溶液の状態の変化を少なくすることをいう。
【0029】
本明細書で用いる場合、「マイコスポリン様アミノ酸」および「MAA」とは、置換基を有していても良いシクロヘキセノンまたはシクロヘキセンイミン骨格にアミノ酸、アミン、アンモニアまたはアミノアルコールが結合した化合物の総称である。
【0030】
具体的には、本発明で用いられるMAAは、式(I):
【化1】
(I)
[式(I)中、Qは酸素原子、アミノ酸、アミン、アンモニアまたはアミノアルコールであり、Qがアミノ酸、アミン、アンモニアまたはアミノアルコールである場合、該Qは窒素原子を介して環に結合しているものであり;Qはアミノ酸、アミン、アンモニアまたはアミノアルコールであり、該Qは窒素原子を介して環に結合しているものである]
で示される化合物である。
【0031】
一実施形態では、Qが、酸素原子、グリシン、アラニン、バリン、セリン、スレオニン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、およびグルタミン酸からなる群から選択され、Qが、バリン、アスパラギン、アスパラギン酸、スレオニン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、グリシン、セリン、グルタミン、およびグルタミン酸、からなる群から選択される。
【0032】
他の実施形態では、QおよびQの組み合わせが以下の表のいずれか一つの組み合わせである。
【表1-1】
【表1-2】
【0033】
別の実施形態では、MAAは、シノリン(以下、式(II))、ポルフィラ-334(以下、式(III))、アステリナ-330(以下、式(IV))、パリテン(以下、式(V))、パリチン(以下、式(VI))、マイコスポリン-グリシン(以下、式(VII))、マイコスポリン-グリシン:バリン(以下、式(VIII))、マイコスポリンセリノール(以下、式(IX))、またはマイコスポリン-グリシン-アラニン(以下、式(X))である。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0034】
本明細書で用いる場合、MAAには、上記式(I)~(X)で示される化合物、ならびにそれらの医薬上許容される塩、プロドラッグ、オキシド、エーテル、エステル、配糖体、または複合体も含まれる。あるいは、本発明で用いられるMAAは、上記式(I)~(X)で示される化合物の組み合わせであってもよい。
【0035】
本明細書中における「医薬上許容される塩」には、硫酸、塩酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸、硝酸、過塩素酸、炭酸などの無機酸との塩、あるいは、
酢酸、安息香酸、シュウ酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、マロン酸、マンデル酸、グルコン酸、ガラクタル酸、グルコヘプトン酸、グリコール酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、又はナフタレン-2-スルホン酸などの有機酸との塩、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、銀イオンなどの1種または複数の金属イオンとの塩、アンモニア、アルギニン、リジン、ピペラジン、N-メチルピペラジン、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、1,3-ジアミノプロパン、コリン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、4-フェニルシクロヘキシルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、2-アミノ-1-プロパノール、1,3-ジアミノ-2-プロパノール、ベンザチン、N-メチルモルホリン、プロリノール、2-ピペリジンメタノールなどのアミンとの塩が含まれる。これらの塩は、従来公知の方法にしたがって製造することができる。
【0036】
「プロドラッグ」は、対象に投与したとき、上述した化合物またはその活性代謝産物もしくはその残基を直接的または間接的に得ることができる、上述の化合物の何れかの誘導体を意味する。プロドラッグは、以下の利点を有し得る:化合物の生物学的利用能の向上;化合物の副作用および/または毒性の低減;化合物の生物学的領域への送達の促進;上述の化合物の半減期の延長;化合物の安定化;化合物の味・においの改善など。プロドラッグには、例えば、上述の化合物のエステル形態が挙げられる。エステルプロドラッグの例として、ホルメート、アセテート、プロピオネート、ブチレート、アクリレート、ファルネシレートおよびエチルスクシネート誘導体が挙げられる。プロドラッグの一般的な説明については、T. Higuchi and V. Stella, Pro-drugs as Novel Drug Delivery Systems, Vol. 14 of the A.C.S. Symposium SeriesおよびEdward B. Roche, ed., Bioreversible Carriers in Drug Design, American Pharmaceutical Association and Pergamon Press, 1987を参照のこと(いずれも出典明示により本明細書に引用する)。
【0037】
「化合物」はさらに、化合物の構造異性体(例えば鎖型異性体、位置異性体、および幾何異性体)、立体異性体(例えば回転異性体)、および互変異性体などの異性体を含む。この場合、「化合物」には、いずれか一方の異性体も異性体の混合物も含まれる。これらの異性体は、従来公知の合成手法、分離手法(濃縮、溶媒抽出、カラムクロマトグラフィー、再結晶など)により、それぞれ単品として得ることができる。さらに、「化合物」には、全ての可能な共鳴形態も含まれる。またさらに、「化合物」には、全ての可能な標識された化合物も含まれる。
【0038】
従って、式(I)に含まれるアミノ酸残基は、任意のアミノ酸の構造異性体を包含する。例えば、式(I)に含まれるアミノ酸残基がアラニンである場合、該アミノ酸残基はα-アラニンであってもよく、β-アラニンであってもよい。式(I)に含まれるアミノ酸残基がリジンである場合、該アミノ酸残基はα-リジンであってもよく、β-リジンであってもよい。式(I)に含まれるアミノ酸残基がロイシンまたはイソロイシンである場合、該アミノ酸残基はノルロイシンであってもよい。式(I)に含まれるアミノ酸残基がバリンである場合、該アミノ酸残基はノルバリンであってもよく、イソバリンであってもよい。
【0039】
また、式(I)に含まれるQとQの両方がアミノ酸、アミン、アンモニアまたはアミノアルコールである場合、これらは互いに入れ替わってもよい。
【0040】
「立体異性体」は、1個以上の立体中心のキラリティーが異なる分子を意味する。立体異性体には、エナンチオマー、ジアステレオマーおよびこれらの混合物が含まれる。また、立体異性体には「回転異性体」も含まれる。「回転異性体」とは、大きな立体障害などが原因で、単結合周りの回転障壁が大きくなったことにより分離することが可能となった、異なる立体配座を有する分子同士を意味する。
【0041】
従って、式(I)に含まれるアミノ酸残基は、任意のアミノ酸の立体異性体を包含する。すなわち、式(I)に含まれるアミノ酸残基は、L-アミノ酸残基であってもよく、D-アミノ酸残基であってもよい。式(I)に含まれるアミノ酸残基が2個以上の不斉炭素原子を有する任意のアミノ酸である場合には、式(I)に含まれるアミノ酸残基は、当該任意のアミノ酸のジアステレオマーも包含する。例えば、式(I)に含まれるアミノ酸残基がイソロイシンである場合、該アミノ酸残基はL-イソロイシンであってもよく、D-イソロイシンであってもよい。該アミノ酸残基はまた、L-アロイソロイシンであってもよく、D-アロイソロイシンであってもよい。式(I)に含まれるアミノ酸残基がスレオニンである場合、該アミノ酸残基はL-スレオニンであってもよく、D-スレオニンであってもよい。該アミノ酸残基はまた、L-アロスレオニンであってもよく、D-アロスレオニンであってもよい。
【0042】
式(I)に含まれるQとQが互いに異なる残基である場合、下記式(I’)中にアスタリスク(*)を付した炭素原子は不斉炭素原子となる。この場合、その立体配置はS配置およびR配置のいずれであってもよい。
【化11】
【0043】
「互変異性体」とは、異性体同士が互いに変換する異性化の速度が速く、どちらの異性体も共存する平衡状態に達しうるものを指す。互変異性には、例えばプロトンの1,3-転位によるプロトン互変異性が含まれる。
【0044】
本発明で用いられるMAAは、既に構造決定されているMAAだけでなく、新規な構造を有するMAAも含み得る。また、本発明で用いられるMAAは、天然由来のMAAであってもよく、人工的に製造したMAAであってもよい。
【0045】
MAAの同定方法は、従来公知の方法が用いられ得る。例えば、高速液体クロマトグラフ-飛行時間型質量分析法(HPLC-TOFMS)を用いてもよい。あるいは、高分解能質量分析法(HR-MS:High Resolution Mass Spectrometry)および核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)法を組み合わせることで、MAAを同定してもよい。また、HPLCを用いて、保持時間およびUVスペクトルの結果からMAAを同定してもよい。あるいは、フォトダイオードアレイ検出器とHR-MS検出器を備えたHPLCを用いて、紫外吸収スペクトルと精密質量を測定することにより、MAAを同定してもよい。
【0046】
別の実施態様では、上述した本発明の溶液は、化粧品、医薬部外品、または医薬品に用いられる。化粧品、医薬部外品、または医薬品の例としては、皮膚用剤が挙げられるが、これに限定されない。「皮膚用剤」は、外用であってもよい。あるいは、内服、注射および点滴などの他の方法によって用いられてもよい。
【0047】
「化粧品」および「医薬部外品」の例としては、皮膚用、頭髪用、眼用、および爪用のものが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、クリーム、日焼け止めクリーム、日焼け止めスプレー、パック、マスク、ファンデーション、おしろい、マニキュア(ベースコート、カラーポリッシュおよびトップコートなど)、浴用剤、制汗剤、ビタミン剤、ボディローション、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント、ヘアコンディショナー、ヘアカラー、整髪料、ヘアトニック、および育毛剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
「医薬品」の例としては、皮膚用、頭髪用、眼用、および爪用のものが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、急性皮膚反応を予防または治療するための医薬品、皮膚老化を予防または改善するための医薬品、皮膚癌を予防または治療するための医薬品、育毛のための医薬品、眼病を予防または治療するための医薬品、および白癬を予防または治療するための医薬品が挙げられるが、これに限定されない。
【0049】
「化粧品」、「医薬部外品」、または「医薬品」の形態としては、液体、クリーム、ローション、ペースト、軟膏、エマルジョン(水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、多重エマルジョン、ミクロエマルジョン、PET-エマルジョン、ピッカリング・エマルジョン)、ゲル(ヒドロゲル、アルコールゲル)、懸濁液、フォーム、スプレー、錠剤、粉末、点眼剤、眼軟膏または貼付剤などの形態が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
「化粧品」、「医薬部外品」、または「医薬品」は、これらに通常用いられる、保湿剤、界面活性剤、色素、香料、防腐剤、殺菌剤、および酸化防止剤などの、補助剤および添加剤を含んでもよい。
【0051】
別の実施態様では、上述した本発明の溶液は、塗料組成物やその他のコーティング剤などの紫外線吸収用組成物に用いられる。塗料組成物やその他のコーティング剤は、スプレー法、ディッピング法、ローラーコート法、フローコーター法、流し塗り法などの当業者に公知の方法を用いて、基材(金属、プラスチック、木材、セラミック、ガラス、繊維、紙等)に塗布またはコーティングされる。かかる紫外線吸収用組成物は、工業用途および医療機器等に適用することができる。例えば、かかる紫外線吸収用組成物を、コンタクトレンズおよび眼鏡レンズに適用してもよい。
【0052】
別の実施態様では、本発明は、安定化されたマイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液を製造する方法であって、
(a)マイコスポリン様アミノ酸、
(b)α-グルコシルヘスぺリジン、エリソルビン酸、α-グルコシルルチン、グルタチオン、二亜硫酸ナトリウム、アルブミン、没食子酸、EDTA、メタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、システイン、メチオニン、セリン、グルコース、トレハロース、ソルビトール、アロース、β-シクロデキストリン、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸ナトリウム、リジン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩、マンニトール、ヒアルロン酸ナトリウム、エルゴチオネイン、および酢酸トコフェロールからなる群から選択される1以上の物質、および
(c)溶媒
を混合することを含む、方法を提供する。
【0053】
上記方法により、(1)MAA溶液の着色、および/または(2)溶液中のMAAの分解が防止され得る。
【0054】
本実施態様における、上記(c)に記載の「溶媒」としては、マイコスポリン様アミノ酸を溶解する任意の溶媒が用いられ得る。かかる溶媒の例としては、水、あるいは水と他の物質との混合液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
別の実施態様では、本発明は、安定化されたマイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液を製造する方法であって、
(a)マイコスポリン様アミノ酸、および
(c)グリセロール、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、およびペンタエチレングリコールからなる群から選択される1以上の物質を含む溶媒
を混合することを含む、方法を提供する。
【0056】
上記方法により、(3)薄膜溶液におけるMAAのUV吸収能の低下が防止され得る。
【0057】
本実施態様において、上記(c)に記載の「溶媒」は、水を含んでもよく、含まなくてもよい。
【0058】
別の実施態様では、本発明は、安定化されたマイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液を製造する方法であって、
(a)マイコスポリン様アミノ酸、
(b)α-グルコシルヘスぺリジン、エリソルビン酸、α-グルコシルルチン、グルタチオン、二亜硫酸ナトリウム、アルブミン、没食子酸、EDTA、メタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、システイン、メチオニン、セリン、グルコース、トレハロース、ソルビトール、アロース、β-シクロデキストリン、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸ナトリウム、リジン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩、マンニトール、ヒアルロン酸ナトリウム、エルゴチオネイン、および酢酸トコフェロールからなる群から選択される1以上の物質、および
(c)メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、グリセロール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびペンタエチレングリコールからなる群から選択される1以上の物質を含む溶媒
を混合することを含む、方法を提供する。
【0059】
上記方法により、(1)MAA溶液の着色、および/または(2)溶液中のMAAの分解が防止され、かつ(3)薄膜溶液におけるMAAのUV吸収能の低下が防止され得る。
【0060】
上述した本発明の製造方法において、上記(b)に記載の物質は、上述した濃度で溶液中に添加される。また、上記(c)に記載の物質は、上述した割合で溶液中に添加される。
【0061】
上記(a)~(c)は、同時に混合されてもよく、個別に混合されてもよい。また上記(a)~(c)は、任意の順番で混合されてもよい。
【0062】
さらに別の実施態様では、本発明は、マイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液を安定化させる方法であって、
(a)マイコスポリン様アミノ酸、
(b)α-グルコシルヘスぺリジン、エリソルビン酸、α-グルコシルルチン、グルタチオン、二亜硫酸ナトリウム、アルブミン、没食子酸、EDTA、メタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、システイン、メチオニン、セリン、グルコース、トレハロース、ソルビトール、アロース、β-シクロデキストリン、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸ナトリウム、リジン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩、マンニトール、ヒアルロン酸ナトリウム、エルゴチオネイン、および酢酸トコフェロールからなる群から選択される1以上の物質、および
(c)溶媒
を混合することを含む、方法を提供する。
【0063】
上記方法により、(1)MAA溶液の着色、および/または(2)溶液中のMAAの分解が防止され得る。それによって、MAAを含有する溶液が安定化され得る。
【0064】
本実施態様における、上記(c)に記載の「溶媒」としては、マイコスポリン様アミノ酸を溶解する任意の溶媒が用いられ得る。かかる溶媒の例としては、水、あるいは水と他の物質との混合液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
さらに別の実施態様では、本発明は、マイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液を安定化させる方法であって、
(a)マイコスポリン様アミノ酸、および
(c)グリセロール、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、およびペンタエチレングリコールからなる群から選択される1以上の物質を含む溶媒
を混合することを含む、方法を提供する。
【0066】
上記方法により、(3)薄膜溶液におけるMAAのUV吸収能の低下が防止され得る。それによって、MAAを含有する溶液が安定化され得る。
【0067】
本実施態様において、上記(c)に記載の「溶媒」は、水を含んでもよく、含まなくてもよい。
【0068】
さらに別の実施態様では、本発明は、マイコスポリン様アミノ酸を含有する溶液を安定化させる方法であって、
(a)マイコスポリン様アミノ酸、
(b)α-グルコシルヘスぺリジン、エリソルビン酸、α-グルコシルルチン、グルタチオン、二亜硫酸ナトリウム、アルブミン、没食子酸、EDTA、メタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、システイン、メチオニン、セリン、グルコース、トレハロース、ソルビトール、アロース、β-シクロデキストリン、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸ナトリウム、リジン塩酸塩、グルコサミン塩酸塩、マンニトール、ヒアルロン酸ナトリウム、エルゴチオネイン、および酢酸トコフェロールからなる群から選択される1以上の物質、および
(c)メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、グリセロール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびペンタエチレングリコールからなる群から選択される1以上の物質を含む溶媒
を混合することを含む、方法を提供する。
【0069】
上記方法により、(1)MAA溶液の着色、および/または(2)溶液中のMAAの分解が防止され、かつ(3)薄膜溶液におけるMAAのUV吸収能の低下が防止され得る。それによって、MAAを含有する溶液が安定化され得る。
【0070】
本実施態様において、上記(c)に記載の「溶媒」は、水を含んでもよく、含まなくてもよい。
【0071】
上述した本発明の安定化方法において、上記(b)に記載の物質は、上述した濃度で溶液中に添加される。また、上記(c)に記載の物質は、上述した割合で溶液中に添加される。
【0072】
上記(a)~(c)は、同時に混合されてもよく、個別に混合されてもよい。また上記(a)~(c)は、任意の順番で混合されてもよい。
【実施例
【0073】
以下に実施例を示して本発明を具体的かつ詳細に説明するが、実施例は本発明の例示のために用いられるものであり、本発明の限定を意図するものではない。
【0074】
(実施例1)
シノリン9mgと、以下の表に記載の物質のそれぞれとを、0.1Mリン酸緩衝液(リン酸二水素ナトリウム+リン酸水素二ナトリウム;pH7)9mlに溶解し、遮光下50℃で2週間加温した。反応前後の400nmの吸光度を測定し、各物質によるシノリン溶液の着色抑制効果を評価した。陰性コントロールであるシノリンのみの溶液と比較して、表に示した各物質が存在する溶液では、反応開始時と2週間後の吸光度増加幅が小さかった。
【表2】
【0075】
(比較例1)
シノリン9mgと、ナイアシンアミド、アスコルビン酸、L-アスコルビン酸2-グルコシド、α-グルコシルヘスぺリジン、エリソルビン酸、α-グルコシルルチン、クマリン、没食子酸、EDTA、グルコン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、セリン、グルコース、アロース、β-シクロデキストリン、グルコサミン塩酸塩のそれぞれ(18mg)とを、0.1Mリン酸緩衝液(リン酸二水素ナトリウム+リン酸水素二ナトリウム;pH7)9mlに溶解し、遮光下50℃で2週間加温した。反応前後の400nmの吸光度を測定した。陰性コントロールであるシノリンのみの溶液と比較して、これらの物質が存在する溶液では、反応開始時と2週間後の吸光度増加幅が大きかった。
【0076】
(実施例2)
シノリン9mgと、以下の表に記載の物質のそれぞれとを、0.1Mリン酸緩衝液(リン酸二水素ナトリウム+リン酸水素二ナトリウム;pH7)9mlに溶解し、遮光下50℃で2週間加温した。反応前後のシノリン濃度を以下に記載のHPLC条件で測定した。表中、「分解抑制」欄には、陰性コントロールであるシノリンのみの溶液と比較して、非常に高いシノリン残存率を示したものを◎、高いシノリン残存率を示したものを○で記載している。
【表3】
<HPLC分析条件>
カラム: YMC-Pack ODS-AQ S-5μM、12nm 250×4.6mmI.D.
流速: 0.5ml/分
温度: 30℃
検出: PDA(334nm)
溶離液:0.1%ギ酸水溶液
シノリンの保持時間: 8分付近
【0077】
また、ナイアシンアミド、L-アスコルビン酸2-グルコシド、クマリン、グルコン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、アルギニン、システイン、および酢酸トコフェロールのそれぞれ(18mg)を使用し、同様の実験を行った。しかしながら、シノリン残存率について、5%以上の向上効果は認められなかった。
【0078】
(比較例2)
シノリン9mgと、エリソルビン酸の異性体であるアスコルビン酸18mgを0.1Mリン酸緩衝液(リン酸二水素ナトリウム+リン酸水素二ナトリウム;pH7)9mlに溶解し、遮光下50℃で2週間加温した。反応前後のシノリン濃度を実施例2に記載のHPLC条件で測定した。結果、エリソルビン酸を用いた際の結果とは逆にシノリン残存率は、シノリン溶液のみの残存率よりも低下した。
【0079】
(実施例3)
シノリン9mgと、以下の表に記載した2種以上の物質の組合せをそれぞれ0.1Mリン酸緩衝液(リン酸二水素ナトリウム+リン酸水素二ナトリウム;pH7)9mlに溶解し、遮光下50℃で2週間加温した。反応前後のシノリン濃度を参考例2に記載のHPLC条件で測定すると共に、400nmの吸光度を測定した。表中、「着色抑制」欄には、陰性コントロールであるシノリンのみの溶液と比較して、反応開始時と2週間後の吸光度増加幅が小さいものを○、大きいものを×で記載している。「分解抑制」欄には、陰性コントロールであるシノリンのみの溶液と比較して、非常に高いシノリン残存率を示したものを◎、高いシノリン残存率を示したものを○で記載している。
【表4】
*商品名「トルナーレ(登録商標)」、株式会社林原販売
【0080】
(実施例4)
石英板をUV-STAR MICROPLATE、96Wellに貼り付けた。Well番号B9-B11、C9-C11、D9-D11の9点を含む4cm×4cm(16cm)に、0.5%シノリンを含む以下の表に示す水溶液16~50mgを薄く塗布した。このプレートを室温にて24時間放置した。塗布直後と24時間後のB9-B11、C9-C11、D9-D11の9点について、334nmの吸光度の平均値を測定した。表中、「UV吸収効果持続性」欄には、塗布直後の吸光度と比較して24時間経過後に80%以上のものを○、50%以上80%未満のものを△で示す。尚、90%グリセロール水溶液(pH6)は水酸化ナトリウムにて括弧内に記載のpHに調整した。
【表5】
【0081】
同様の試験を、90%プロピレングリコール、90%N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、90%ジメチルスルホキシド(DMSO)水溶液にて行った。しかしながら、塗布直後の吸光度と比較して、50%以上のUV吸収効果持続性は示されなかった。
【0082】
(実施例5)
石英板をUV-STAR MICROPLATE、96Wellに貼り付けた。Well番号B9-B11、C9-C11、D9-D11の9点を含む4cm×4cm(16cm)に、0.5%シノリンと0.1%ヒアルロン酸ナトリウムを含む50%1,3-ブタンジオール水溶液27mgを薄く塗布した。このプレートを室温にて24時間放置した。塗布直後と24時間後のB9-B11、C9-C11、D9-D11の9点について、334nmの吸光度の平均値を測定した。結果、塗布直後の吸光度と比較して、24時間経過後に80%以上UV吸収効果持続性が保持された。
【0083】
(参考例1-1)
シノリン9mgを0.1Mリン酸緩衝液(リン酸二水素ナトリウム+リン酸水素二ナトリウム;pH7)9mlに溶解し、遮光下50℃で2週間加温した。反応前の溶液は無色透明であった。これに対し、2週間反応後の溶液は褐色に着色していた。反応前後で400nmの吸光度が増加した。
【0084】
(参考例1-2)
シノリン9mgを水9mlに溶解し(pH3)、遮光下50℃で2週間加温した。反応前の溶液は無色透明であった。これに対し、2週間反応後の溶液は褐色に着色していた。反応前後で400nmの吸光度が増加した。
【0085】
(参考例2)
<HPLC分析条件>
カラム: YMC-Pack ODS-AQ S-5μM、12nm 250×4.6mmI.D.
流速: 0.5ml/分
温度: 30℃
検出: PDA(334nm)
溶離液:0.1%ギ酸水溶液
シノリンの保持時間: 8分付近
シノリン9mgを0.1Mリン酸緩衝液(リン酸二水素ナトリウム+リン酸水素二ナトリウム;pH7)9mlに溶解し、遮光下50℃で2週間加温した。反応前後のシノリン濃度をHPLCで測定した。結果、シノリンの含有量が低下した。
【0086】
(参考例3)
石英板をUV-STAR MICROPLATE、96Wellに貼り付け、Well番号B9-B11、C9-C11、D9-D11の9点を含む3cm×3cm(9cm)に0.5%シノリンを含む90%1,3-ブタンジオール水溶液19mgを薄く塗布した。このプレートを室温で24時間放置した。塗布直後と24時間後のB9-B11、C9-C11、D9-D11の9点について334nmの吸光度の平均値を測定した。結果、334nmの吸光度が50%未満に低下した。
【0087】
(参考例4)
ポルフィラ-334 1.5mgを1.5mlの水に溶解し(pH3)、遮光下50℃で17日間加温した。反応前の溶液は無色透明であった。これに対し、17日間反応後の溶液は褐色に着色した。
【0088】
(参考例5)
ポルフィラ-334 1.5mgを1.5mlの水に溶解し(pH3)、遮光下50℃で17日間加温した。反応前後のポルフィラ-334濃度を参考例2に記載のHPLC条件で測定した。結果、ポルフィラ-334の含有量が低下した。尚、ポルフィラ-334の保持時間は12分付近であった。
【0089】
(参考例6)
ポルフィラ-334 1.5mgを水に溶解し(pH3)、遮光下50℃で17日間加温した。反応前の溶液は無色透明であった。これに対し、2週間反応後の溶液は褐色に着色していた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、安定化されたMAAを含有する溶液を提供することができる。かかる溶液は紫外線吸収用組成物の製造に利用可能である。従って、本発明は、各種工業製品および医療機器等の紫外線による劣化からの保護、ならびに化粧品、医薬部外品および医薬品などの分野において利用可能である。