(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】触媒担持構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/30 20060101AFI20230406BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20230406BHJP
B01J 35/06 20060101ALI20230406BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
B01J23/30 A ZAB
B01D53/86 222
B01D53/86 250
B01J35/06 A
B01J35/04 301L
B01J35/04 311A
(21)【出願番号】P 2021174046
(22)【出願日】2021-10-25
(62)【分割の表示】P 2018543968の分割
【原出願日】2017-10-05
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2016197331
(32)【優先日】2016-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【氏名又は名称】渡邉 彰
(72)【発明者】
【氏名】西 亜美
(72)【発明者】
【氏名】庄野 恵美
(72)【発明者】
【氏名】日数谷 進
(72)【発明者】
【氏名】日野 なおえ
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-017687(JP,A)
【文献】国際公開第2008/035773(WO,A1)
【文献】特開2008-073621(JP,A)
【文献】特開昭56-168835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスペーパーおよびセラミック繊維シートから選択される基材から構成される構造体と、該構造体の内部から表面に至る全体にわたって含まれている不活性担持体とを含み、
該構造体の表面に存在する不活性担持体のみにバナジウムが担持されており、これにより、該構造体の表面にバナジウムが偏在して
おり、該構造体の表面の厚みは、0.01mm~0.2mmであることを特徴とする排ガス中の脱硝触媒反応および水銀酸化反応のために用いられる触媒担持構造体。
【請求項2】
前記バナジウムの量は、構造体の表面の全重量に対して2.0wt%以上で
ある、請求項1に記載の触媒担持構造体。
【請求項3】
前記構造体は、平板状の前記基材と、該平板状の前記基材を波板状に成形してなる波板状の基材とを交互に積層してなるハニカム構造を有する、請求項1または2に記載の触媒担持構造体。
【請求項4】
前記不活性担持体は、チタニア、アルミナ、ジルコニア、およびシリカから選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1つに記載の触媒担持構造体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1つに記載の触媒担持構造体において、
前記不活性担持体はチタニアであり、
タングステン(W)をさらに含み、
バナジウム不担持のチタニア層の表面上にバナジウム担持のチタニア層を形成した多層構造を有しており、該バナジウム担持のチタニア層とバナジウム不担持のチタニア
層とのW量が異なり、バナジウム担持のチタニア層のW/TiO
2が重量割合で0.11以上であり、バナジウム担持のチタニア層を含む多層構造のチタニア層の全体のW/TiO
2が重量割合で0.09以上であることを特徴とする触媒担持構造体。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1つに記載の触媒担持構造体において、
前記不活性担持体はチタニアであり、
タングステン(W)をさらに含み、
バナジウム不担持のチタニア層の表面上にバナジウム担持のチタニア層を形成した多層構造を有しており、該バナジウム担持のチタニア層とバナジウム不担持のチタニア
層との重量によるW量が等しく、バナジウム担持のチタニア層を含む多層構造のチタニア層の全体のW/TiO
2が重量割合で0.13以上であることを特徴とする触媒担持構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス中に含まれる元素の状態で存在する0価水銀(Hg0)を、可溶性水銀塩等の各種水銀化合物を構成する2価水銀(Hg2+)に酸化させるための水銀酸化触媒担持構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭等の化石燃料あるいは一般廃棄物等には、燃料源となる炭化水素の他、微量に有害金属、特に、水銀が含まれることがあり、こうした化石燃料あるいは一般廃棄物等を燃料とする石炭焚き火力発電所やゴミ焼却施設等からの排ガス中には微量の水銀が含まれることになる。これらの排ガス中に含まれる水銀(Hg)には、元素状の0価の水銀(Hg0)、可溶性水銀塩等の各種水銀化合物を構成する2価の水銀(Hg2+)、および粒子状の水銀(Hgp)の3つの形態が存在することが知られている。
【0003】
これらの形態の水銀のうち、元素状の0価の水銀(Hg0)は、この形態のままでは如何なる方法でも捕集できないため、そのまま大気へ放出されてしまう。他方で、2価の水銀(Hg2+)は、排ガス中に当初から存在する若しくは適宜投入されたハロゲン(例えばHCl)と反応して水溶性のハロゲン化物(HgC12等)を形成し、排ガス処理設備(例えば、バグフィルタ、湿式洗浄塔)にて捕集することが出来る。また、粒子状水銀(Hgp)は、粒子状であるため飛灰に付着して排ガス処理設備(例えば、電気集塵機)で捕集することが可能である。したがって、処理の点で問題となるのは、元素状の0価の水銀(Hg0)である。
【0004】
ところで、国際的に水銀の排出規制を推進する流れがあり、水銀が健康や環境に及ぼす影響等を踏まえると、0価水銀(Hg0)を捕集可能な形態にする必要があり、このような観点から、元素状の0価水銀(Hg0)を2価水銀(Hg2+)に酸化させる方法がすでに知られており、実施されている。例えば、特許文献1には、Ti-V系の触媒が元素状の0価水銀(Hg0)を2価水銀(Hg2+)に酸化させる水銀酸化反応に用いられ得ることおよびこの水銀酸化触媒を排ガスと接触させることによる排ガス処理方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、上記の水銀酸化触媒では、触媒中のバナジウム(V)によって排ガス中に含まれる二酸化硫黄(SO2)が三酸化硫黄(SO3)に酸化する副反応が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、排ガス中に含まれるSO2の酸化反応を抑制しつつ、脱硝触媒反応及び水銀酸化反応を行うことができる触媒担持構造体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。
【0009】
図1により、従来の水銀酸化触媒(例えば、特開2005-125211号公報)が排ガスの流れと接触した場合における各反応の反応位置を説明する。
【0010】
水銀酸化反応とSO
2酸化反応とは反応速度に違いがあり、
図1に示すように、触媒担持構造体における反応場所がそれぞれ異なることを本発明者らは見出した。
【0011】
すなわち、水銀酸化反応は、反応速度が速いため、触媒担持構造体の表面に存在するバナジウムが水銀酸化反応の活性点となる。同様に、排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)の脱硝反応も反応速度が速いため、これも触媒担持構造体の表面に存在するバナジウムが脱硝反応の活性点となる。これらの反応は、触媒担持構造体の表面に存在するバナジウムのみで十分であるので、触媒担持構造体の内奥に存在するバナジウムはこれらの反応に関与しない。
【0012】
他方で、SO2の酸化反応は、上記の2つの反応と比較して遅いため、触媒担持構造体の表面に存在するバナジウムではなく、水銀酸化反応および脱硝反応の活性点とならなかった、触媒担持構造体の内奥に存在するバナジウムが触媒反応の活性点となる。
【0013】
以上の事情を考慮して、本発明者らは、触媒担持構造体の表面にのみ活性点であるバナジウム(V)を偏在担持させるようにすれば、燃焼排ガス中の水銀酸化能および脱硝能を維持しつつSO2酸化能を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0014】
すなわち、本発明の触媒担持構造体は、バナジウムが、担持構造体の表面に偏在担持させられていることを特徴とするものである。
【0015】
好ましくは、前記担持構造体は、構造体に不活性担持体を含み、該不活性担持体は、該担持構造体の内部から表面に至る全体にわたって含まれ、バナジウムは、該担持構造体の表面に存在する不活性担持体に担持されている。
【0016】
好ましくは、担持されるバナジウム量が、触媒担持構造体の表面の全重量に対して2.0wt%以上である。
【0017】
好ましくは、前記構造体は、ガラスペーパーおよびセラミック繊維シートから選択される基材から構成される。
【0018】
好ましくは、前記構造体は、ガラスペーパーおよびセラミック繊維シートから選択される平板状の基材と、該平板状の基材を波板状に成形してなる波板状の基材とを交互に積層してなるハニカム構造を有する。
【0019】
好ましくは、前記不活性担持体は、チタニア、アルミナ、ジルコニア、およびシリカから選ばれる少なくとも1種である。
【0020】
また、本発明は、バナジウムが、不活性担持体を含有する担持構造体の表面に偏在担持させられている触媒担持構造体の製造方法に関し、この方法は、不活性担持体含有液により、構造体の内部から表面にわたって不活性担持体を含ませる工程と、バナジウムを含有する液に前記工程済みの該構造体を浸漬するか、若しくは、同液を同構造体の表面に塗布し、乾燥させ、焼成して、該構造体の表面に存在する不活性担持体にバナジウムを担持させる工程とを含むものである。
【0021】
好ましくは、前記構造体は、ガラスペーパーおよびセラミック繊維シートから選択される基材からなり、前記バナジウムの担持工程は、該基材の表面および裏面の両面にバナジウムを担持させる工程である。
【0022】
好ましくは、前記構造体は、ガラスペーパーを基材とするものであり、前記不活性担持体を前記構造体に含ませる工程において、不活性担持体含有液は、チタニア、アルミナ、ジルコニア、およびシリカから選択される無機バインダをさらに含む。
【0023】
好ましくは、前記バナジウムの担持工程の後に、平板状の基材を波板状に成形する工程と、平板状の基材と該波板状の基材とを交互に積層してハニカム構造とする工程とを含む。
【0024】
好ましくは、上記の触媒担持構造体において、タングステン(W)をさらに含み、触媒性能に不活性な物質で形成された担体の表面上にV含有層を形成した多層構造触媒において、触媒表面のV含有層と触媒内部の不活性層のW量が異なり、触媒表面のW/TiO2が0.11以上、触媒全体のW/TiO2が0.09以上であることを特徴とする多層構造のものである。
【0025】
好ましくは、上記の触媒担持構造体において、タングステン(W)をさらに含み、触媒性能に不活性な物質で形成された担体の表面上にV含有層を形成した多層構造触媒において、触媒表面のV含有層と触媒内部の不活性層のW量が等しく、触媒表面および触媒全体のW/TiO2が0.13以上であることを特徴とする多層構造のものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、バナジウムが、担持構造体の表面に偏在担持させられているので、反応速度が遅いSO2酸化反応を抑制しつつ、目的とする水銀酸化反応を生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】従来の水銀酸化触媒における各反応の反応位置を説明する図である。
【
図2】本発明の水銀酸化触媒担持構造体における活性スポットを示す図である。
【
図3】実施例の触媒の触媒性能試験に用いられる試験装置の概要を示すフローシートである。
【
図4】実施例6の水銀酸化触媒担持構造体の断面図を示す図である。
【
図5】参考例の触媒の脱硝触媒性能試験に用いられる試験装置のフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明による触媒担持構造体の一例である水銀酸化触媒担持構造体について詳細に説明する。
【0029】
本発明による水銀酸化触媒担持構造体は、水銀酸化能を有するバナジウムが、担持構造体の表面に偏在担持(構造体の表面のみにバナジウムが含まれた状態)させられてなるものである。
【0030】
図2には、本発明による水銀酸化触媒担持構造体における活性スポットとなるバナジウムの分布状況について、例示として平板状と波板状のシート状の担持構造体を交互に積層したハニカム構造体により示している。
【0031】
図2に示すように、ここでは、担持構造体の表面にバナジウムが偏在担持させられている。このような偏在担持により、水銀酸化反応に必要な活性スポットの量を効率的に増やすことができ、水銀酸化反応の性能を向上させることができる。他方で、SO
2の酸化反応は、その反応速度が遅いために、担体構造体の表面に存在するバナジウムを触媒反応の活性スポットとすることができず、また、従来のように担持構造体の内奥に活性スポットとなるバナジウムが存在しないため、SO
2酸化反応は抑制される結果となる。
【0032】
本発明による水銀酸化触媒担持構造体では、担持構造体の表面にバナジウムが偏在担持させられてさえいれば、どのような形態を有するものであってもよいが、担持構造体が、構造体に不活性担持体を含み(構造体の内部から表面に至る全体にわたって不活性担持体が含まれた状態になっており)、バナジウム(V)が担持構造体の表面に存在する不活性担持体に担持されていることが好ましい。このようにすれば、担体構造体の表面に簡便にバナジウムを偏在担持させることができる。
【0033】
本発明による水銀酸化触媒担持構造体では、助触媒であるタングステン(W)が含まれていることが好ましい。タングステンは、バナジウムの活性の働きを助けるとともに、触媒担持構造体の強度を高める効果がある。
【0034】
本発明による水銀酸化触媒担持構造体は、脱硝触媒性能を有する脱硝触媒担持構造体としても利用することが可能である。本発明による水銀酸化触媒担持構造体において、バナジウムの重量割合は、水銀酸化触媒担持構造体の表面(V層)の全重量に対して2.0wt%以上であることが好ましい。これにより、約70%の脱硝性能が発揮される。ここで、水銀酸化触媒担持構造体の表面におけるバナジウム及びタングステンの重量分布は、蛍光X線分析装置(XRF)を用いてX線が侵入可能な、水銀酸化触媒担持構造体の表面から数十μm程度の部分を計測することによって行われる。本発明による水銀酸化触媒担持構造体においてバナジウム及びタングステンが偏在担持されていることを確認する場合、蛍光X線分析装置(XRF)を用いて板状の触媒担持構造体のテストピースの表面を計測し、次いで、テストピースを粉砕し粉状の触媒担持構造体を計測し、各計測値を比較することによって行うこともできる。
【0035】
脱硝触媒担持構造体として利用する場合には、特に
(1)触媒表面のバナジウム含有層と触媒内部の不活性層のタングステン量が異なる場合は、触媒表面のW/TiO2の重量比を0.11以上、触媒全体のW/TiO2の重量比を0.09以上に、
(2)触媒表面のバナジウム含有層と触媒内部の不活性層のタングステン量が等しい場合は、触媒表面および触媒全体のW/TiO2の重量比を0.13以上にすることで、脱硝性能を向上させることが出来る。
【0036】
担持構造体における構造体は、上記の不活性担持体を含ませることができるものであれば、如何なるものであってもよいが、好ましくは、ガラスペーパーおよびセラミック繊維シートから選択される平板状の基材から構成される。このような基材であれば、用途に応じた形態に成形し易いという利点がある。例えば、上記のような平板状の基材であれば、平板状の基材と、該平板状の基材を波板状に成形してなる波板状の基材とを交互に積層してなるハニカム構造を有するようにすることができる。
【0037】
上記平板状の基材としてのガラスペーパーまたはセラミック繊維シートは、市販のものであってよい。市販のガラスペーパーは、不織布のガラス繊維および有機バインダから構成される。ガラスペーパーの厚みは、0.1mm~5.0mmであることが好ましく、好ましくは0.3mm~3.0mmであり、さらに好ましくは0.5mm~1.2mmである。ガラスペーパーの厚さを薄くすることで、排ガスが当該ガラスペーパーから製造される水銀酸化触媒担持構造体中を通過する際の圧損を低く抑えることができる。
【0038】
バナジウムが偏在担持される厚みは、0.01mm~0.2mm程度であることが好ましい。なお、偏在担持される厚みは、光学顕微鏡または走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により観察することが出来る。
【0039】
平板状の基材としての市販のガラスペーパーを用いる場合、市販のガラスペーパーに含まれる有機バインダによりそのままではガラスペーパーの形態に成形することが困難になるので、不活性担持体を含ませる工程において、併せて無機バインダが添加される。無機バインダとしては、例えば、チタニア(TiO2)、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア、シリカ(SiO2)が挙げられる。
【0040】
不活性担持体は、上記のような水銀酸化反応に不活性であるかあるいは極めて活性が低い材料のものであれば如何なるものであってもよいが、例えば、チタニア(TiO2)、アルミナ(Al2O3)、ゼオライト、カオリン、セピオライト、ジルコニアおよびシリカ(SiO2)から選択される1種以上である。ここで、ゼオライトは、不活性担持体として用いることが出来るが、無機バインダとしての機能はなかった。
【0041】
上記に示すように、チタニア(TiO2)、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア、シリカ(SiO2)は、不活性担持体として機能すると同時に、基材としてガラスペーパーを用いる場合には、無機バインダとしても機能する。
【0042】
不活性担持体にバナジウムを担持させる場合、バナジウムは、担持構造体の表面部分に存在する不活性担持体(例えば、チタニア(TiO2)粒子)の細孔部分(micro-pore)に分布させる。
【0043】
一方で、本発明の水銀酸化触媒担持構造体においては、担持構造体における、表面以外の内部部分(内奥部)には、バナジウムは担持させられていない。不活性担持体を構造体の内奥部から表面に至る全体にわたって含ませるようにすることにより、活性スポットであるバナジウム(V)が、構造体の内奥部の不活性担持体に担持させられることを防ぐとともに、担持構造体、ひいては水銀酸化触媒担持構造体自体の強度を高めることができる。
【0044】
次に、このような水銀酸化触媒担持構造体の製造方法について説明する。
【0045】
本方法は、不活性担持体含有液(例えば、Tiスラリー)により、該構造体の内部から表面にわたって不活性担持体を含ませる工程と、バナジウムが担持させられた不活性担持体を含有する含有液(V含有スラリー)に前記工程済みの構造体を浸漬するか、若しくは、同液を同構造体の表面に塗布し、乾燥させ、焼成して、該構造体の表面に存在する不活性担持体にバナジウムを担持させる工程とを含む。なお、両含有液には、助触媒であるタングステン(W)が含まれていることが好ましい。
【0046】
まず、不活性担持体を構造体に含ませる工程を行うために、不活性担持体を含有する溶液または懸濁液を調製する。得られる溶液または懸濁液は、不活性担持体および場合による無機バインダを混合することによりスラリー状となっていてもよい。
【0047】
本工程に用いられる溶液または懸濁液を得るに際して、各種成分の重量割合は適宜選択されてよい。
【0048】
この工程は、構造体の内奥から表面にわたって不活性担持体を含ませるようにすることができれば、如何なる方法を用いてもよいが、具体的には、上記不活性担持体含有液を構造体に塗布するか、もしくは、構造体を不活性担持体含有液に浸漬するかのいずれかによって行われる。
【0049】
不活性担持体を構造体に含ませた後、乾燥工程を行うことが好ましい。ここで、本工程においては、乾燥工程の後、焼成は行わない方が良い。この段階で焼成を行うと、後の工程においてバナジウムが担持構造体の内奥まで染み込みやすくなるからである。
【0050】
不活性担持体を含ませる工程に続いて行われるバナジウム担持工程は、バナジウムが担持させられた不活性担持体を含有する含有液(溶液または懸濁液)に前記工程済みの構造体を浸漬するか、若しくは、同液を担持構造体表面に塗布するか、若しくは担持構造体を同液に浸漬することにより行われる。なお、浸漬法によると、浸漬時間によってはバナジウムが担持構造体の内奥まで染み込んでしまうおそれがあるので、そのようなおそれのない塗布法の方がより好ましい。
【0051】
上記の各工程を経て水銀酸化触媒担持構造体が調製される。
【0052】
なお、本発明による水銀酸化触媒担持構造体は、焼排ガス中の0価水銀と接触してこれを2価水銀に酸化することができればいかなる形態を有していてもよく、例えば、粒状、ペレット状、ハニカム状、波状小片、板状等の形態が挙げられるが、適用する反応器やガス流通条件により任意に選定することができる。
【0053】
(実施例)
以下に、本発明による水銀酸化触媒担持構造体について具体的に実施例を用いて説明すると共に、併せて、実施例との比較のための比較例を示すが、本発明は、実施例に示すものに限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
以下に従って、水銀酸化触媒担持構造体を調製した。
【0055】
(Tiスラリーの調製)
シリカゾル(日産化学製,シリカドール20A)、イオン交換水、TiO2粉末を重量比100:40:80で混合し、スラリーを得た。このスラリーに28%NH3水を添加し、pHを6.5以上に調整した。その後、50%AMT水(メタタングステン酸アンモニウム水)を重量部8.64g添加して、Tiスラリーを得た。
【0056】
(V含有スラリーの調製)
シリカゾル(日産化学製,シリカドール20A)、イオン交換水、TiO2粉末を重量比150:30:80で混合し、スラリーを得た。このスラリーに28%NH3水を添加し、pHを4.5~4.7に調整した。その後、AMV(メタバナジン酸アンモニウム)粉末、イオン交換水を重量比5:70で混合して、pHを調整したスラリーに添加した。その後、50%AMT水を重量部9g添加して、V含有スラリーを得た。
【0057】
(触媒調製)
ガラス繊維ペーパー(SPP-110,オリベスト株式会社製)に担持量300g/m2になるようにTiスラリーを均一に広げ塗布した(内部から表面にわたって不活性担持体を含ませる工程)。その後、Tiスラリーを担持したガラス繊維ペーパーをV含有スラリーに浸漬した(バナジウムが担持させられた不活性担持体を含有する液に前記工程済みの構造体を浸漬する工程)。V含有スラリーを担持したガラス繊維ペーパーを100℃で乾燥後、500℃で3時間焼成して、水銀酸化触媒担持構造体(以下、同様の物を触媒とも称す)を得た。
【0058】
(実施例2)
実施例1において、Tiスラリーの担持量を200g/m2に変え、Tiスラリーを担持したガラス繊維ペーパーを100℃で乾燥後、V含有スラリーを塗布した以外は実施例1と同様の方法で触媒を得た。
【0059】
(実施例3)
実施例1において、Tiスラリーの担持量を200g/m2に変えた以外は実施例1と同様の方法で触媒を得た。
【0060】
(実施例4)
実施例1において、AMVおよびAMTの重量比を3.5:8.5に変えた以外は実施例1と同様の方法で触媒を得た。
【0061】
(比較例1)
以下に従って、水銀酸化触媒担持構造体を調製した。
【0062】
(触媒スラリーの調製)
シリカゾル(日産化学製,シリカドール20A)、イオン交換水、TiO2粉末を重量比100:20:80で混合し、スラリー(A)を得た。このスラリーに28%NH3水を添加し、pHを4.5~4.7に調整した。その後、AMV、イオン交換水を重量比4.8:20で混合し、pHを調整して得られたスラリー(B)に、スラリー(A)を添加した。その後、50%AMT(メタタングステン酸アンモニウム)水を重量部9g添加して、触媒スラリーを得た。
【0063】
(触媒調製)
ガラス繊維ペーパー(SPP-110,オリベスト株式会社製)に担持量300g/m2になるように触媒スラリーを均一に広げ塗布した。触媒スラリーを担持したガラス繊維ペーパーを100℃で乾燥後、500℃で3時間焼成して、触媒を得た。
【0064】
(触媒性能試験1)
上記で得られた各触媒(実施例1~4および比較例1)について触媒性能試験を行なった。
【0065】
試験には、上記の各触媒を30×50mmのテストピースサイズに切り出したものを2枚使用した。切り出した触媒をメッシュの触媒ホルダーに挟み込み、アルミナ製反応管内に設置した。
【0066】
図3は、触媒性能試験に用いられる試験装置のフローシートを示している。
【0067】
反応管(1)には、上記の触媒のいずれかが装填され、この反応管(1)の一方の片側にはライン(2)を通じて脱硝試験用の模擬ガスが導入されるようになっており、他方の片側から触媒による処理を終えたガスがライン(3)を通じて排出されるようになっている。
【0068】
ライン(2)を通じて反応管(1)に導入される試験用のガスは、ライン(4)からの空気およびライン(5)からのNO/N2ガスを混合することにより調製される。ライン(4)および(5)のそれぞれにはバルブ(6)および(7)が設けられており、バルブ(6)および(7)を調整することにより各ガスの流量を調整し、ガス流量および混合比が調整されるようになっている。
【0069】
混合後のガスは、ライン(8)を通じて蒸発器(9)の上部に導入されるようになっており、下部からライン(2)に接続され、反応管(1)に供給されるようになっている。この蒸発器(9)の手前には、水分がライン(10)を通じて供給されるようになっている。水分は、水槽(11)から定量送液ポンプ(12)で汲み上げられた後、ライン(10)を経て蒸発器(9)手前に導入されるようになっている。反応管(1)の手前からは、還元剤であるNH3がライン(15)を通じて供給されるようになっている。NH3は、ライン(13)に設けられているバルブ(14)からNH3/N2ガスのガス流量を調整して、ライン(15)を経て反応管(1)手前に導入している。ライン(10)を介してライン(8)に導入された水分は、蒸発器(9)において図示しないヒーターの加熱により、ライン(2)中で蒸発させられている。
【0070】
反応管(1)から排出された処理済みのガスは、ライン(3)からライン(17)を経て外部に排出されると共に、一部についてライン(16)を経てガス分析に供される。
【0071】
図3に示す触媒性能試験装置を用いて試験を行うに際して、その試験条件を下記表1にまとめる。
【0072】
【0073】
表1における「Balance」は、ガス組成がトータルで100%になるように添加されるものを表し、NO、NH3、水分以外のガス組成が空気(表中ではAirと表示)によって占められていることを示している。また、「面積速度」は下記の数式(1)より算出した。
【0074】
【0075】
ガス分析は、NOx計を用いて出口NOx濃度を測定することにより行った。NOx計での測定値から、下記の数式(2)によって触媒のNOx除去性能である脱硝率を算出した。
【0076】
【0077】
V(表面)割合は、蛍光X線分析装置(XRF)を用いて算出した。一方で、全触媒担持量[g/m2]は、板状の触媒を粉砕して下記数式(3)で分析した。
【0078】
【0079】
上記の結果から、V担持量[g/m2]を、全触媒担持量[g/m2]およびV(表面)割合を用いて下記の数式(4)によって算出した。
【0080】
【0081】
上記各触媒についての脱硝性能試験の結果を下記表2に示す。
【0082】
【0083】
比較例1は、従来から知られている、触媒全体にVを担持した触媒を用いたものである。実施例1~4は、触媒表面のみにVを偏在担持させた触媒を用いたものである。
【0084】
実施例1~4より、比較例1と同等の脱硝率を維持する為には触媒表面のV割合が2.0wt%以上必要であることが分かった。
【0085】
以上により、触媒表面にのみVを偏在担持させ、かつ触媒表面のV割合を2.0wt%以上にすることで、V担持量を比較例1の1/2量程度に減らしても脱硝率を維持することが出来た。
【0086】
(水銀酸化能およびSO2酸化能の検証)
(比較例2)
比較例1において、シリカゾルに変え、ジルコニアゾル(第一稀元素化学工業製,ZA-20)を用い、さらに、スラリーを、ジルコニアゾル、イオン交換水、TiO2粉末を重量比150:20:80にした以外は比較例1と同様の方法で触媒を得た。
【0087】
(実施例5)
(Tiスラリーの調製)
ジルコニアゾル、イオン交換水、TiO2粉末を重量比100:40:80で混合し、スラリーを得た。その後、このスラリーに、50%AMT水を重量部8.64g添加して、Tiスラリーを得た。
【0088】
(V含有スラリーの調製)
ジルコニアゾル、イオン交換水、TiO2粉末、AMVを重量比220:70:80:6で混合し、スラリーを得た。その後、このスラリーに50%AMT水を重量部9g添加して、V含有スラリーを得た。
【0089】
(触媒調製)
ガラス繊維ペーパーに担持量200g/m2になるようにTiスラリーを均一に広げて塗布し、100℃で乾燥させた。その後、Tiスラリーを担持したガラス繊維ペーパーにV含有スラリーを塗布して、100℃で乾燥させた後、700℃で10分間にわたり焼成して、触媒を得た。
【0090】
(触媒性能試験2)
上記で得られた触媒(比較例2及び実施例5)について表3に示す条件で水銀酸化能およびSO2酸化能のそれぞれについて触媒性能試験を行なった。下記表3中、左列がSO2酸化能についての試験を実施する際の条件であり、右列が、水銀酸化能について試験を実施する際の条件である。
【0091】
【0092】
表3に示す条件で行った触媒性能試験について得られた結果を下記表4に示す。
【0093】
【0094】
比較例2は触媒全体にVを担持した触媒、実施例5は触媒表面のみにVを偏在担持させた触媒である。
【0095】
実施例5のように、触媒表面のみにVを偏在担持させることにより(V担持量を比較例2から実施例5まで減らすことで)、SO2酸化率を抑制することができた。また、Vを触媒表面に偏在担持させることによって、水銀酸化率を向上させることができた。
【0096】
以上に示すように、触媒表面にVを偏在担持させることで、水銀酸化率を向上させ、かつSO2酸化率を抑制させることができた。
【0097】
(SO2酸化能抑制の効果の検証)
(比較例3)
(触媒スラリーの調製)
シリカゾル(日産化学製,シリカドール20A)、イオン交換水、TiO2粉末、AMV(メタバナジン酸アンモニウム)、50%AMT(メタタングステン酸アンモニウム)水を重量比100:40:80:4.8:8.64で混合し、触媒スラリーを得た。
【0098】
(触媒調製)
ガラス繊維ペーパー(SPP-110,オリベスト株式会社製)に担持量300g/m2になるように触媒スラリーを均一に塗布した。触媒スラリーを担持したガラス繊維ペーパーを乾燥させ、焼成して、触媒を得た。
【0099】
(比較例4)
比較例1において、AMVの重量比を2.4に変えた以外は、比較例1と同様の方法で触媒を得た。
【0100】
(実施例6)
(触媒スラリーの調製:Tiスラリーの調製)
シリカゾル、イオン交換水、TiO2粉末、50%AMT水を重量比100:40:80:8.64で混合し、Tiスラリーを得た。
【0101】
(触媒スラリーの調製:V含有スラリーの調製)
シリカゾル、イオン交換水、TiO2粉末、AMV、50%AMT水を重量比150:100:80:5:9で混合し、V含有スラリーを得た。
【0102】
(触媒調製)
ガラス繊維ペーパーに担持量200g/m
2になるようにTiスラリーを均一に塗布し、乾燥させた。その後Tiスラリーを担持したガラス繊維ペーパーにV含有スラリーを塗布した。そしてV含有スラリーを担持したガラス繊維ペーパーを乾燥させ、焼成して、触媒を得た。ここで、
図4は、触媒の断面図を光学顕微鏡で撮影した写真を示す。触媒の厚み0.8mmに対して、Vが担持されている表面層は0.1mmであった。
【0103】
(SO2酸化能試験)
上記で得られた触媒(比較例5、6及び実施例4)について、表5に示す条件で触媒性能試験を行なった。
【0104】
【0105】
表5に示す条件で試験を実施して得られた結果を下記表6に示す。
【0106】
【0107】
比較例3および4より、SO2酸化率はV担持量と相関があることが分かった。しかし、比較例4と実施例6を比較すると、V担持量が同等にも関わらず、実施例6の方が低くなっている。この結果より、Vを表面のみに担持することで、SO2酸化率を抑制できることが分かった。触媒の表面に偏在担持されるバナジウム量は、触媒全体に担持される量の50%以下となることが好ましいことが判明した。
【0108】
(脱硝触媒性能の効果の検証)
以下の参考実験において、参考例1のタングステン(W)の量を基準として、表面(V層)のタングステン(W)のみを増やした触媒を参考例2~参考例5に、内部層(Ti層)と表面(V層)のタングステン(W)を増やした触媒を参考例6~参考例10として脱硝触媒性能の効果の検証を行った。
【0109】
(参考例1)
20%酢酸ジルコニウム水溶液(ZA-20第一希元素社製)、イオン交換水、TiO2、50%AMT水溶液を重量比100:40:80:8.64で混合し、Tiスラリーを得た。次に、20%酢酸ジルコニウム水溶液、イオン交換水、TiO2、AMV、50%AMT水溶液を重量比220:70:80:6:9で混合し、V含有スラリーを得た。ガラス繊維ペーパーにTiスラリーを均一に塗布し、乾燥させた。その後、Tiスラリーを担持したガラス繊維ペーパーの両面にV含有スラリーを均一に塗布した。V含有スラリーを担持したガラス繊維ペーパーを乾燥、焼成して、触媒を得た。
【0110】
(参考例2)
30%酢酸ジルコニウム水溶液(Minchem社製)、イオン交換水、TiO2、50%AMT水溶液を重量比100:90:80:9.5で混合し、Tiスラリーを得た。次に、30%酢酸ジルコニウム水溶液、イオン交換水、TiO2、AMV、50%AMT水溶液を重量比100:90:80:6:12.2で混合し、V含有スラリーを得た。ガラス繊維ペーパーにTiスラリーを均一に塗布し、乾燥させた。その後、Tiスラリーを担持したガラス繊維ペーパーの両面にV含有スラリーを均一に塗布した。V含有スラリーを担持したガラス繊維ペーパーを乾燥、焼成して、触媒を得た。
【0111】
(参考例3)
参考例2において、V含有スラリーの重量比100:90:80:6:16.7に変えた以外は、参考例2と同様の方法で触媒を得た。
【0112】
(参考例4)
参考例2において、V含有スラリーの重量比100:90:80:6:25.9に変えた以外は、参考例2と同様の方法で触媒を得た。
【0113】
(参考例5)
参考例2において、Tiスラリーの重量比100:90:80:14.6及びV含有スラリーの重量比100:90:80:6:12.2に変えた以外は、参考例2と同様の方法で触媒を得た。
【0114】
(参考例6)
参考例2において、Tiスラリーの重量比100:90:80:19.9及びV含有スラリーの重量比100:90:80:6:16.7に変えた以外は、参考例2と同様の方法で触媒を得た。
【0115】
(参考例7)
参考例2において、V含有スラリーの重量比100:90:80:6:36に変えた以外は、参考例2と同様の方法で触媒を得た。
【0116】
(参考例8)
参考例2において、Tiスラリーの重量比100:90:80:25.4及びV含有スラリーの重量比100:90:80:6:21.2に変えた以外は、参考例2と同様の方法で触媒を得た。
【0117】
(参考例9)
参考例2において、Tiスラリーの重量比100:90:80:31.3及びV含有スラリーの重量比100:90:80:6:25.9に変えた以外は、参考例2と同様の方法で触媒を得た。
【0118】
(参考例10)
参考例2において、Tiスラリーの重量比100:90:80:43.6及びV含有スラリーの重量比100:90:80:6:36に変えた以外は、参考例2と同様の方法で触媒を得た。
【0119】
(脱硝触媒性能試験)
上記で得られた触媒(参考例1~9)について、脱硝触媒性能試験を行った。試験には、上記触媒を30×50mmのテストピースサイズに切り出したものを2枚使用した。切り出した触媒をメッシュの触媒ホルダーに挟み込み、アルミナ製反応管内に設置した。
【0120】
図5は、触媒性能試験に用いられる試験装置のフローシートを示す。
【0121】
上記の触媒を入れた反応管(1)の片側からライン(2)を通じて脱硝試験用の模擬ガスが導入されるようになっており、もう片側から触媒により処理を終えたガスがライン(3)を通じて排出されるようになっている。
【0122】
ライン(2)を通じて反応管(1)に導入される試験用の模擬ガスは、ライン(4)からの空気およびライン(5)からのNO/N2ガスを混合することにより調製される。ライン(4)およびライン(5)のそれぞれにはバルブ(6)およびバルブ(7)が設けられており、バルブ(6)およびバルブ(7)を調整することにより各ガスの流量を調整し、ガス流量および混合比が調整されるようになっている。混合後のガスは、ライン(8)を通じて蒸発器(9)の上部に導入されるようになっており、下部からライン(2)に通じて反応管(1)に供給されるようになっている。この蒸発器(9)の手前には、水分がライン(10)を通じて供給されるようになっている。水分は、水槽(11)から定量送液ポンプ(12)で汲み上げられた後、ライン(10)を経て蒸発器(9)手前に導入されるようになっている。NH3は、ライン(13)に設けられているバルブ(14)からNH3/N2ガスのガス流量を調整して、ライン(15)を経て反応管(1)の手前に導入している。ライン(2)では、蒸発器(9)で蒸発された水分を図示していないヒーターで加熱している。反応管(1)から排出された処理済みのガスは、ライン(3)からライン(17)を経て外部に排出されると共に、一部についてライン(16)を経てガス分析に供される。
【0123】
図5に示す触媒性能試験装置を用いて試験を行うに際して、その試験条件を下記表7にまとめる。
【0124】
【0125】
表7における「Balance」は、ガス組成がトータルで100%になるように添加されるものを表し、NOx、NH3、O2、水分以外のガス組成がN2によって占められていることを表している。また「面積速度」は、下記の数式(5)より算出した。
【0126】
【0127】
ガス分析は、NOx計を用いて入口及び出口NOx濃度を測定した。NOx計での測定値から、下記の数式(6)によって触媒のNOx除去性能である脱硝率を算出した。
【0128】
【0129】
(触媒性能試験及び成分分析結果)
表8に脱硝触媒性能試験結果及び成分分析結果を示す。触媒成分分析は、蛍光X線分析装置を用いて測定した。表8における「板状」及び「粉状」は成分分析を行った際の触媒の形状を表している。すなわち、「板状」は得られた触媒そのままのテストピースの状態、「粉状」はテストピースを粉砕した状態にて計測を行った。
【0130】
また、表8における「W/TiO2」は、触媒中のチタニア(TiO2)に対するタングステン(W)の重量割合を表し(以降の記載においても同様に重量割合を示す)、成分分析より測定した酸化タングステン(WO3)およびチタニア(TiO2)の重量%から下記の数式(7)より算出した。
【0131】
【0132】
【0133】
表面(V層)のみタングステン(W)量を増加させた場合(参考例2~5)の脱硝性能は、触媒表面のW/TiO2が0.11以上、触媒全体のW/TiO2が0.09以上であることが好ましい。一方で、内部(Ti層)かつ表面(V層)のタングステン(W)量を増加させた場合(参考例6~10)の脱硝性能は、触媒表面のW/TiO2が0.13以上、触媒全体のW/TiO2が0.13以上であることが好ましい。