(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】マイクロカプセルに基づくワクチン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20230406BHJP
A61K 39/29 20060101ALI20230406BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20230406BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230406BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20230406BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230406BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20230406BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20230406BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230406BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230406BHJP
A61K 38/19 20060101ALN20230406BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20230406BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61K39/29
A61K9/50
A61K47/34
A61K47/24
A61K47/26
A61K39/39
A61P31/20
A61P1/16
A61P35/00
A61K38/19
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2021509850
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(86)【国際出願番号】 CN2019101078
(87)【国際公開番号】W WO2020038298
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】201810946808.7
(32)【優先日】2018-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】509031567
【氏名又は名称】中国科学院過程工程研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF PROCESS ENGINEERING,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】NO.1 Zhongguancun North Second Street,Haidian District Beijing 100190,P.R.China
(74)【代理人】
【識別番号】100205936
【氏名又は名称】崔 海龍
(74)【代理人】
【識別番号】100132805
【氏名又は名称】河合 貴之
(72)【発明者】
【氏名】馬 光輝
(72)【発明者】
【氏名】魏 ▲い▼
(72)【発明者】
【氏名】習 暁博
(72)【発明者】
【氏名】葉 通
(72)【発明者】
【氏名】那 向明
(72)【発明者】
【氏名】卿 爽
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/082535(WO,A1)
【文献】Biodegradable Microcapsules Prepared by Self-Healing of Porous Microspheres,ACS Macro Lett. ,Vol. 1,2012年, p. 697-700,https://doi.org/10.1021/mz200222d
【文献】Surface hydrophobicity of microparticles modulates adjuvanticity,Journal of Materials Chemistry,2013年,Vol. 1, No. 32,p. 3888-3896,DOI:10.1039/C3TB20383B
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61K 9/50
A61K 47/34
A61K 47/24
A61K 47/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原および生分解性ポリマーブレンド基質を含むワクチン
の製造方法であって、
前記ポリマーブレンドは疎水性ポリマーおよび両親媒性ブロック共重合体を含み、
前記両親媒性ブロック共重合体のマイクロカプセル中のポリマーブレンド基質に対する重量比は少なくとも5%であり、前記ワクチンはマイクロカプセルの形で存在し、マイクロカプセルの内部はマルチチャンバ構造を含み、前記マイクロカプセルの平均粒径は10-100μmであり、前記
製造方法は、まずポリマーブレンドにより開孔マイクロスフェアを製造し、そしてそれを抗原含有溶液と混合し、次に抗原溶液が充填された開孔マイクロスフェアを密封し、抗原が充填された密封マイクロカプセルを形成する
ことを含み、
前記ポリマーブレンド基質の代謝によって、細胞の数を顕著に増加できる酸性微小環境を生成し、
前記疎水性ポリマーは、ラクチドポリマー、グリコリドポリマー、ラクチド-グリコリド共重合体、ポリカプロラクトン、ポリオルトエステルおよび/またはポリ酸無水物であり、
前記両親媒性ブロック共重合体中の親水性ブロックは、ポリエチレングリコール類、ポリアクリル酸類、ポリオキシエチレン類、ポリビニルアルコール類であり、前記両親媒性ブロック共重合体中の疎水性ブロックは、ラクトン類共重合体またはホモポリマーである、ワクチン。
【請求項2】
前記マイクロカプセルの平均粒径は30-60μmである請求項1に記載のワクチン
の製造方法。
【請求項3】
前記ワクチンは、哺乳類被験体中の腫瘍または肝炎に対する予防型または治療型処理に適用され、前記ワクチンは治療型ワクチンである請求項1に記載のワクチン
の製造方法。
【請求項4】
前記ワクチンは、抗腫瘍ワクチンまたは治療型B型肝炎ワクチンであり、前記抗原は腫瘍抗原またはB型肝炎表面抗原である請求項1に記載のワクチン
の製造方法。
【請求項5】
ケモカインを含み、前記ケモカインは顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、マクロファージ炎症性タンパク質3α(MIP-3α)および単球走化性タンパク質1(MCP-1)である請求項1に記載のワクチン
の製造方法。
【請求項6】
前記抗原含有溶液にケモカインを含み、前記ケモカインは、開孔マイクロスフェアの密封により密封マイクロカプセルに充填される請求項1に記載のワクチン
の製造方法。
【請求項7】
前記疎水性ポリマーの重量平均分子量が5,000-100,000ダルトンである請求項1に記載のワクチン
の製造方法。
【請求項8】
前記両親媒性ブロック共重合体は、マイクロカプセル中のポリマーブレンド基質に対する重量比が少なくとも10%、である請求項1に記載のワクチン
の製造方法。
【請求項9】
前記両親媒性ブロック共重合体は、マイクロカプセル中のポリマーブレンド基質に対する重量比が少なくとも15%である請求項1に記載のワクチン
の製造方法。
【請求項10】
前記両親媒性ブロック共重合体は、マイクロカプセル中のポリマーブレンド基質に対する重量比が少なくとも20%である請求項1に記載のワクチン
の製造方法。
【請求項11】
免疫刺激増強剤を含み、前記免疫刺激増強剤は、モノホスホリル脂質A、シトシン-グアニンオリゴデオキシヌクレオチドおよび/またはポリイノシン酸-ポリシチジル酸である請求項1に記載のワクチン
の製造方法。
【請求項12】
抗原が充填された開孔マイクロスフェアをマイクロスフェアのガラス転移温度より1~2℃低い温度に加熱することによりそれを密封する請求項1に記載のワクチン
の製造方法。
【請求項13】
前記開孔マイクロスフェアは、複合エマルション溶剤除去法により製造される請求項1に記載のワクチン
の製造方法。
【請求項14】
前記開孔マイクロスフェアの孔隙率は40%以上である請求項1に記載のワクチン
の製造方法。
【請求項15】
前記開孔マイクロスフェアの孔隙率は孔径800nm-5μmのチャネルを有する請求項1に記載のワクチン
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセルに基づくワクチンに関する。このワクチンは、抗原および生分解性ポリマーブレンド基質を含み、このワクチンは、例えば抗腫瘍ワクチンである。
【背景技術】
【0002】
腫瘍生物学と免疫学の発展に伴い、自己免疫システムの調節を主な特性とする免疫療法は、腫瘍治療のために新しいアイデアを提供した。多くの免疫治療方法において、腫瘍ワクチンは、体が病原体に対抗する方式をシミュレートし、腫瘍細胞に対する天然「識別」および応答を回復させることにより腫瘍細胞を特異的に破壊することができため、ますます注目を集めている。
【0003】
抗腫瘍ワクチンが効果的な作用を発揮することには、単一腫瘍抗原は体の持続的で効果的な免疫反応を誘導することが困難である問題がある。ナノサイズのキャリアにより腫瘍抗原を充填することにより、免疫細胞のエンドサイトーシスおよび成熟を効果的に向上させることで、体のより強い免疫反応を誘導することができる。しかし、ナノキャリアは、サイズが小さく、体にクリアされやすいため、持続的な抗腫瘍効果を奏することができない。複合エマルション溶液法により抗原を包埋してミクロンサイズのキャリアを製造することにより、上記問題が効果的に回避され得る。しかし、抗原の放出が遅すぎるので、効果的な免疫応答を誘導できない問題がある。
【0004】
CN101601860Aには、ポリマー粒子に基づくワクチンが開示されている。その抗原組成には、生分解性ポリマー粒子に吸着された抗原および吸着されていない抗原(遊離抗原)の2つの形態がある。上記粒子は、平均粒径が0.1~20μmであり、以下の方法により調製される。ポリマー粒子とB型肝炎表面抗原溶液とを混合し、ポリマー粒子と抗原溶液との吸着作用により懸濁液であるワクチン製品を製造する。本発明のワクチンは、生体内で免疫応答を迅速に誘導するとともに、生体に比較的高いレベルの体液免疫および細胞免疫が発生するように誘導することができる。
【0005】
CN102489230Aには、生分解性材料マイクロカプセルの製造方法が開示されている。この方法は、開孔マイクロスフェアの調製、カプセルコア材料の充填、および開孔マイクロスフェアの密封を含む。従来の複合エマルション包埋方法に比べ、この方法はより温和で、生物活性物質の損傷を回避することができ、包埋後溶液における残りのカプセルコア材料は回収利用することができるため、環境により優しく、報道された粒径および孔径と同じレベルに達し、かつキャビティ容積がより大きく、カプセルコア材料の充填により有利である。しかし、この特許文献には、この生分解性材料マイクロカプセルが低分子、生体高分子物質の包埋に使用できることしか開示されていない。ナノおよびミクロンサイズの粒子を充填することもできる。
【0006】
上記のさまざまな研究にもかかわらず、より良好に体を刺激して特異的免疫を発生できるワクチンの研究開発、例えば、細胞毒性T細胞により腫瘍細胞を死滅させることは、その臨床応用に対して非常に重要である。
【発明の概要】
【0007】
本発明者は、複合エマルション-溶剤除去法により生分解性ポリマーで調製された開孔マイクロスフェアを製造した後、この開孔マイクロスフェアに腫瘍抗原を充填し、この開孔マイクロスフェアを密封し、粒径が比較的大きくマウス体内の局所に滞留可能な密封マイクロカプセルを作製し、マイクロカプセルが貪食されて代謝されにくく、分解しやすく、分解過程において生体を刺激して持続的な炎症反応を引き起こすことができるため、マイクロカプセルが抗原倉庫として抗原提示細胞、例えば、樹状細胞(DC)を絶えずに注射部位に動員して抗原を貪食し、ポリマー基質の代謝による酸性微小環境と共同で動員される細胞の数を顕著に向上させ、抗原に対する細胞のエンドサイトーシスを向上させ、DCの成熟と分化を刺激することができ、最終的にDCがリンパ節へホーミングし、生体を刺激して効率的で持続的な免疫反応を引き起こし、T細胞の継続的な増殖と分化を促進するとともに、特異的で持続的な殺傷を引き起こし、腫瘍の成長を顕著に抑制し、マウスの生存期間を延長できることを発見した。
【0008】
以上の事情を鑑み、本発明によれば、ワクチンが提供される。このワクチンは、抗原および生分解性ポリマーブレンド基質を含む。上記ポリマーブレンドは、疎水性ポリマーおよび両親媒性ブロック共重合体を含む。上記ワクチンはマイクロカプセルの形で存在する。マイクロカプセルの内部にはマルチチャンバ構造がある。上記マイクロカプセルの平均粒径は、好ましくは10-100μm、より好ましくは30-60μmである。上記マイクロカプセルは、まずポリマーブレンドで開孔マイクロスフェアを作製し、そしてそれを抗原含有溶液と混合し、さらに抗原溶液が入った開孔マイクロスフェアを密封し、抗原が入った密封マイクロカプセルを形成する方法により製造される。
【0009】
好ましくは、本発明のワクチンにおいて、製造プロセスのパラメータ最適化により、抗原の放出と、ワクチンが体内の局所に滞留するときの細胞動員行とが相乗効果を生み出し、放出された抗原が動員されてきた未熟なDCにより貪食され、これによって、抗原の利用率が顕著に向上する。
【0010】
好ましくは、上記ワクチンは、治療型ワクチンであり、例えば、抗腫瘍ワクチンまたは治療型B型肝炎ワクチンである。好ましい抗原は、腫瘍抗原またはB型肝炎表面抗原である。
【0011】
本発明のワクチンにおいて、多孔質マイクロスフェアシステムに特定量のケモカイン、例えば顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、マクロファージ炎症性タンパク質3α(MIP-3α)および単球走化性タンパク質1(MCP-1)を充填することにより、細胞に対するマイクロカプセルの動員を増強させ、抗原の利用率さらに向上させ、免疫応答を増強させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】PLAで製造されたマイクロスフェアのSEM図である。
【
図2】PLAとPELAで製造されたマイクロスフェアのSEM図である。
【
図3】PLAとPELAで製造されたマイクロスフェアの粒度分布図である。
【
図4】PLAとPELAで製造されたマイクロスフェアの内部構造のSEM図である。
【
図5】PLAとPELAで製造されたマイクロスフェアの内部孔径分布図である。
【
図6】本発明の密封マイクロカプセルのSEM図である。
【
図7】本発明の密封マイクロカプセルの内部構造である。
【
図8】本発明の密封マイクロカプセルにおける抗原OVAの充填率および包埋率である。
【
図9】本発明の密封マイクロカプセルにおけるポリペプチドMUC1の充填率および包埋率である。
【
図10】異なるワクチン製剤の注射部位での抗原蛍光強度定量図である。
【
図11】本発明マイクロカプセルの炎症細胞に対する動員挙動を示す。
図11(a)は、局所に密封マイクロカプセルを含む組織が細胞を動員する代表的な組織切片の画像である。(b)それぞれのマイクロカプセルにより動員される細胞数を定量分析することを示す。
【
図12】異なるワクチン製剤抗原の利用率の比較である。
図12(a)は、OVA
+細胞数を示す。
図12(b)は、OVA
+細胞の抗原エンドサイトーシス量(平均蛍光強度で表す)を示す。
図12(c)は、抗原利用率を示す。
【
図13】本発明のマイクロカプセルの分解過程における局所微小環境でのpH変化曲線である。
【
図14】酸性と中性微小環境でのCD86
+のDCにおけるMHC-IとMHC-IIの比率を示す。
【
図15】異なるワクチン製剤で免疫した後のE.G7担癌マウスの腫瘍増殖曲線である。
【
図16】異なるワクチン製剤で免疫した後のB16担癌マウスの腫瘍増殖曲線である。
【
図17】異なるワクチン製剤で治療した後の肺部(a)と腎臓(b)組織中の転移巣の定量分析を示す。
【
図18】異なるワクチン製剤で免疫した後の4T1担癌マウスの腫瘍増殖曲線である。
【
図19】異なるワクチン製剤で治療した後の術後再発の腫瘍増殖曲線である。
【
図20】術後再発モデル生物の発光イメージング画像および定量を示す。
【
図21】ブランク密封マイクロカプセル(a)およびケモカインGM-CSFを充填する密封マイクロカプセル(b)が皮下組織で細胞を動員するH&E染色図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ワクチン>
本発明は、哺乳類被験体の腫瘍などの疾患に対する予防型または治療型処理に使用されるワクチンに関する。このワクチンは、抗原および生分解性ポリマーブレンド基質を含む。上記ポリマーブレンドは、疎水性ポリマーおよび両親媒性ブロック共重合体を含む。上記ワクチンはマイクロカプセルの形で存在する。マイクロカプセルの内部にはマルチチャンバ構造がある。上記マイクロカプセルの平均粒径は好ましくは10-100μm、より好ましくは30-60μmである。上記マイクロカプセルは、まずポリマーブレンドで貫通孔を有する開孔マイクロスフェアを作製し、そしてそれを抗原含有溶液と混合し、さらに抗原溶液が入った開孔マイクロスフェアを密封し、抗原が入った密封マイクロカプセルを形成する方法により製造される。本発明のワクチンは、薬学的に許容されるキャリア、塩または希釈剤をさらに含んでもよい。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、上記ワクチンは抗腫瘍ワクチンである。上記ワクチンは、製造が簡単で、全ての腫瘍の再発予防、転移抑制および治療に適用できる汎用性を有し、抗腫瘍効果が良好である。抗腫瘍ワクチンを接種した後、まず抗原提示細胞(Antigen Presenting Cell,APC)は腫瘍抗原を摂取して加工し、抗原ペプチドセグメントに変換させ、そして細胞表面の主要組織適合遺伝子複合体(Majorhistocompatibility Complex,MHC)類分子に結合する。APCは、さらにペプチドセグメント情報をT細胞に提示し、後続の免疫応答過程を引き起こす。この過程において、大部分の抗原はリソソーム内でペプチドセグメントに加工された後、MHC-II類分子に結合してCD4+T細胞に提示される。さらに重要なことには、小部分の抗原は、細胞質内のプロテアソームによりペプチドセグメントに加工され、MHC-I類分子に結合してCD8+T細胞に提示され、それを細胞毒性Tリンパ球(Cytotoxic T Lymphocyte,CTL)に変換させることもできる。CTLは腫瘍細胞に直接結合して溶解殺傷を奏する一方、CD4+T細胞はCD8+T細胞と共同でサイトカインを分泌して腫瘍を殺傷し、最終的には腫瘍をアポトーシス溶解させる。
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、上記抗原は腫瘍抗原である。腫瘍抗原は、腫瘍の発生、発展および生体抗腫瘍免疫効果の誘導において重要な役割を果たし、腫瘍免疫治療の標的分子である。腫瘍抗原は、その特異性によって(1)腫瘍関連抗原と(2)腫瘍特異的抗原の2種類に大別される。(1)腫瘍関連抗原とは、腫瘍組織中で高発現し、正常組織中である程度発現する抗原を指す。(2)腫瘍特異的抗原とは、腫瘍組織のみで発現し、正常組織に存在しない抗原を指し、腫瘍抗原としてより高い安全性を有する。しかし、腫瘍ワクチン発展の初期、技術的な制限により、腫瘍特異的抗原の発見と精製が困難であったため、その応用が制限された。近年、遺伝子編集技術の開発に伴い、研究者は、腫瘍ワクチン免疫の新しい標的となるいくつかの特異的抗原および新しい抗原を発見し、狙いがはっきりして特異的腫瘍抗原を製造してワクチンの免疫効果を向上させ、最終的に抗原選択の問題を解決した。しかしながら、適切な腫瘍抗原は、依然として免疫応答を効果的に誘導しにくい。これは、単一の腫瘍抗原の半減期が短く、注射された後、すぐに分解して代謝されることで生体免疫システムを効果的に活性化しにくいためである。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態において、上記抗腫瘍抗原は、生腫瘍細胞表面タンパク質のペプチドを収集することにより得られる。上記ペプチドは、初代培養された生腫瘍細胞に細胞死を引き起こさないプロテアーゼを周期的に加えて処理して得られる。例えば、事前に増殖培地から溶出した生腫瘍細胞を初代培養し、プロテアーゼで腫瘍細胞に対して細胞死を引き起こさない処理を行い、放出された表面腫瘍抗原を収集する。次いで、一定時間をおいた後、プロテアーゼで初代培養された生腫瘍細胞を再度処理する。この時間の間隔は、表面腫瘍抗原の活性が細胞によって回復されるのに十分である。ワクチン接種の用量に達するまで表面腫瘍抗原を収集(濃縮)し、得られた表面腫瘍抗原の成分を制御する。
【0017】
本発明の好ましい実施形態において、上記腫瘍抗原は、例えば、ムチン(MUC1)、腫瘍膜抗原、腫瘍全細胞抗原、または腫瘍新生抗原である。
【0018】
本発明の抗腫瘍ワクチンは、1つまたは複数の細胞毒性Tリンパ球クローンを産生するために1種または複数種の腫瘍抗原を含んでもよい。これらの細胞毒性Tリンパ球クローンはそれぞれ特異的抗原ペプチドを識別し、より有効な免疫応答を引き起こす。複数の腫瘍抗原が存在する場合、上記腫瘍抗原を選択して1タイプの腫瘍または腫瘍細胞に対する免疫応答を誘導することが好ましい。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明の抗腫瘍ワクチンは、その基本的な組成が異なる抗原の混合物または抗原と異なる免疫刺激物質との混合物である。
【0020】
腫瘍治療については、顕著にCTLを活性化し、Th1型サイトカインを分泌して初めて、体が腫瘍を攻撃し、消滅することを促進できる。ワクチン成分が放出される際に、ワクチンを貪食するのに十分なAPCが動員されたか否かは、効果的な免疫応答を引き起こすことができるか否かを影響する最も重要な要因でもある。APCは生体の各組織に広く分布するため、病原性微生物の発見に重要な役割を果たしている。末梢組織の皮膚において、ランゲルハンス細胞、他のタイプのDCおよびマクロファージは、いずれも危険信号和抗原を検出することができ、活性化された後、リンパ器官にホーミングして抗原情報を提示し、免疫応答を活性化する。生体内では、末梢組織からリンパ器官までのこれらの免疫細胞の遊走が複雑であり、その遊走挙動は、主に多くのケモカインによって制御される。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、上記抗原は、B型肝炎表面抗原であり、このワクチンは、治療型B型肝炎ワクチンである。
【0022】
B型肝炎(Hepatitis B)はB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus,hBV)によって引き起こされるグローバル感染症であり、これまでに、世界中で20億人がB型肝炎ウイルスに感染しており、そのうち、約3.5億人は慢性B型肝炎感染者である。B型肝炎に対する有効な治療薬はまだない。現在、抗ウイルス療法で一般的に使用されているインターフェロンおよびラミブジンは、ウイルスの複製を素早く阻害することができるが、薬剤を止めた後、リバウンド現象が発生しやすく、変異株が生成することもある。
【0023】
慢性HBV感染者の体内において、免疫寛容のため、特異的T細胞の反応が低下する。治療型ワクチンの目的は、ウイルス除去作用を発揮する細胞免疫反応、主に特異的細胞毒性Tリンパ球 (CTL)の細胞溶解作用であり、すなわち、CTLは、パーフォリン、グランザイムを放出して感染した肝細胞を殺傷し、またはFas媒介経路により感染した肝細胞のアポトーシスを誘導する。しかし、近年の研究により、Thl細胞およびCTLが分泌するサイトカインが関与する非細胞溶解メカニズムは抗ウイルス免疫において主導的な役割を果たしていることが示されている。IFN-αなどのサイトカインは、いずれも非細胞変性の方式によりウイルス複製を阻害し、さらにウイルスDNAを取り除くことができる。特に、複数の動物モデルを用いる研究により、IFN-γはHBV複製中間生成物およびHBV特異的mRNAを阻害する作用を有し、ウイルス除去に重要な役割を果たし、自体の細胞免疫応答を刺激することでIFN-γを主とするサイトカインの分泌を促進し、ウイルスを除去することが示されている。
【0024】
B型肝炎表面抗原については、選択可能な抗原タイプが多くある。出芽酵母およびハンゼヌラ酵母が発現するB型肝炎表面抗原を選択してもよく、哺乳類細胞系が発現するCHOB型肝炎表面抗原を選択してもよいが、好ましい抗原タイプは、ハンゼヌラ酵母発現システムにより得られたB型肝炎表面抗原である。由来源が異なるHBsAgは、構造と性質には大きな違いがあり、同じまたは類似の遺伝子コードを有しても、異なる発現システムが発現するHBsAg粒子は、依然として異なる分子サイズ、分子量および異なるサブユニットの数を有することで異なる電荷性、疎水性および免疫原性などを示す。
【0025】
本発明の好ましい実施形態において、本発明のワクチンは、ケモカインをさらに含む。ケモカインは分子量が10KDaのポリペプチドであり、主に細胞表面G糖タンパク質が結合した関連受容体ファミリーと作用する。ケモカインおよび他の走化性吸引関連分子は局所で産生され、拡散して可溶性または固体の濃度勾配を形成し、この場合、ケモカイン受体を発現する細胞は濃度勾配情報に従って走化性情報が由来するところに到達する。
【0026】
多くのケモカインはDCおよび単球の遊走に関係があり、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、単球走化性タンパク質2(MCP-2)、マクロファージ炎症性タンパク質 1α(MIP-1α)、マクロファージ炎症性タンパク質1β(MIP-1β)、正常T細胞の発現および分泌を調節して活性化する(Regulated upon activation normal T cell expressed and secreted,RANTES)ケモカイン、補体C5a、β-ディフェンシン(β-defensins)および細菌由来のホルミルペプチドなどを含む。正常の状況において、末梢組織および血液におけるDCの比率が1%またはそれ以下であるため、ワクチンが局所でケモカインの倉庫を構築できれば、絶えずに放出されるケモカインにより体内でのDCの注射部位への動員挙動をシミュレート、強化することにより、免疫応答を顕著に増強することができる。
【0027】
本発明の好ましい実施形態において、上記ケモカインは、例えば、マクロファージ炎症性タンパク質 3α(MIP-3α)、単球走化性タンパク質1(MCP-1)およびGM-CSFであり、好ましくはGM-CSFである。上記抗原含有溶液にはケモカインを含む。このケモカインは、開孔マイクロスフェアの密封により密封マイクロカプセルに充填される。本発明の好ましい実施形態において、本発明のワクチンのマイクロカプセルのチャンバ閉鎖の構造により、密封された後のマイクロカプセルに充填された分子が効果的にチャンバに密封されることが保証され、持続的で効果的な放出が実現される。放出過程全体には、顕著な急激放出も停滞期もなく、代謝速度が遅くて効果的であり、最終的には有効代謝率が90%と高く、基本的に抗原が完全に放出される。
【0028】
マイクロカプセルの素晴らしい抗原滞留能力により、抗原の体内でのより持続的な放出が保証され、抗原の放出に伴い、マイクロカプセルが注射された後、その場保持効果により炎症応答が引き起こされ、さらに炎症関連細胞を動員してキャリアおよび放出された抗原を貪食する。抗原およびアジュバントであるポリマー基質が放出するダイナミクスは、免疫反応の制御に対して重要であり、ワクチンの最終的な免疫効果に影響を与える。両者のダイナミクス放出が同期ではない場合、すなわち、抗原が遅く放出され、アジュバントがより速くまたはより遅く放出される場合、いずれも局所でワクチンを貪食するAPCが活性化されるレベルに影響を与えるため、効果的な免疫応答を刺激しにくくなる。
【0029】
数多くのAPCの中で、DC(Dentritic cells)は、生体において機能が最も強いAPCであり、その成熟、分化の状態によって、DC前駆細胞、未熟および成熟DCに分けられる。DC前駆細胞は、正常状態でDC表現型または機能がない細胞であり、生体が病原性微生物感染または炎症刺激を受けていると、直ちに動員され、未熟DCへ分化、発展する。未熟DCは、正常状態での大部分のDC状態であり、抗原を効率的に摂取、加工および提示することができ、高い遊走能力を有する。成熟DCは、活性化されたため、抗原摂取能力が低くなり、抗原情報を提示し、初期T細胞の活性化を刺激する能力が高くなる。本発明の密封マイクロカプセルの局所で大量のDCケモカインが生成し、より多いDCの動員に有利であり、抗原をより効果的に加工、提示し、生体を刺激してより効果的な免疫応答を引き起こす。
【0030】
本発明の好ましい実施形態において、局所で産生した炎症微小環境は、絶えずに炎症関連細胞およびAPCを注射部位へ動員して抗原を貪食する。この過程において、ケモカインの分泌は、細胞動員の種類および数に対して重要な役割を果たす。キャリアであるポリマー基質の分解速度および抗原放出挙動はケモカインの分泌量に顕著に影響する。
【0031】
本発明の好ましい実施形態において、抗原放出と細胞動員挙動とは相乗的に作用して最適な効果を発揮し、段階全体で放出される抗原は全て抗原提示効率が最も高い細胞、すなわち未熟DC細胞により貪食され、このDC細胞は抗原を大量貪食する機能を有し、抗原の利用率をさらに向上させる。
【0032】
キャリアであるポリマー基質の代謝過程において、局所で産生した炎症微小環境は、絶えずに炎症関連細胞およびAPCを注射部位へ動員して抗原を貪食する。この過程において、ケモカインの分泌は、細胞動員の種類および数に対して重要な役割を果たす。キャリアの分解速度および抗原放出挙動はケモカインの分泌量に顕著に影響する。本発明の好ましい実施形態において、キャリアであるポリマー基質の代謝により産生した酸性微小環境は、動員される細胞の数を顕著に増加できるとともに、抗原に対する細胞のエンドサイトーシスを顕著に増強できる。ポリ乳酸などのマイクロカプセルで構築される酸性微小環境はそれ自体が非常に高い免疫アジュバント特性を有し、この酸性微小環境は抗原利用率を向上するための重要な要素でもあり、活性化されたDCの滞留部位とすることができ、すなわち、さらなるワクチンアジュバントの追加および複数回免疫の必要がなく、活性化されたAPCホーミングをリンパ節に持続的に提供でき、酸性微小環境は、交叉抗原提示およびTh1型サイトカインの分泌を顕著に増強できる。
【0033】
本発明の好ましい実施形態において、本発明のワクチンは、免疫刺激増強剤、例えば、モノホスホリル脂質A(MPLA)、シトシン-グアニンオリゴデオキシヌクレオチドおよび/またはポリイノシン酸-ポリシチジル酸を含む。
【0034】
<マイクロカプセルの調製>
本発明の好ましい実施形態において、マイクロカプセルの調製とは、特定の方法により機能材料をシェル材料に被覆させられまたは分散させることにより粒状複合体を調製する過程を指す。好ましい本発明のマイクロカプセルの内部にはマルチチャンバ構造があり、上記マイクロカプセルの平均粒径は好ましくは10-100μm、より好ましくは20-80μm、さらに好ましくは30-60μmである。
【0035】
本発明の好ましい実施形態において、上記開孔マイクロスフェアの孔隙率は40%以上であり、例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上であり、孔径1-5μmのチャネルを有する。好ましくは、開孔マイクロスフェアは、複合エマルションおよび溶剤除去法により調整される。この方法では、生分解性高分子をシェル材料として使用することができ、薬物充填マイクロカプセルの開発に適用される。上記開孔マイクロスフェアは、貫通孔構造を有し、マルチチャンバの内部構造および多孔質のシェル材料を有し、複合エマルション進化および複合エマルション硬化の2つの動的過程の制御により、開孔マイクロスフェアの開孔構造および開孔数を容易に制御することができ、次いで開孔マイクロスフェアを抗原含有溶液に浸漬し、抗原が拡散してマイクロスフェアの内部に入る。溶剤膨潤法、照射法および昇温アニール法により開孔マイクロスフェアを密封することができる。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、マイクロカプセルの調製は、主に開孔マイクロスフェアの調製、抗原の充填、および開孔マイクロスフェアの密封を含む。好ましくは、上記方法は以下のステップを含む。
(1)油相を調製する。上記油相はポリマー基質溶液であり、溶剤は有機溶剤である。内水相溶液および外水相溶液を調製する。外水相に界面活性剤を添加する。
(2)内水相を油相に分散し、油中水型一次エマルジョンを形成する。さらに、一次エマルジョンを外水相に分散し、水中油中水型複合エマルションを形成する。
(3)溶剤除去法により油相を硬化し、貫通孔を有する開孔マイクロスフェアを得る。
(4)開孔マイクロスフェアと抗原含有溶液とを混合し、抗原が溶液中で拡散による物質移動により多孔質マイクロスフェアの表面から内部のチャンバに入り、抗原が充填された開孔マイクロスフェアが得られる。
(5)開孔マイクロスフェアを密封し、抗原が充填された密封マイクロカプセルを形成する。
【0037】
本発明の好ましい実施形態において、複合エマルションが調製された後、進化の過程において複合エマルション中の内水相小液滴は徐々に融合して大きくなるとともに、内外水相の塩濃度差により内水相は脱出するため、進化の過程において水相融合と脱出は同時に行う。内水相の融合によりマイクロスフェアの内部多孔質の構造が形成され、内水相の脱出によりマイクロスフェア表面の多孔質形態が形成される。本発明の好ましい実施形態において、上記ポリマー基質は、生分解性ポリマーブレンド基質である。上記ポリマーブレンドは、疎水性ポリマーおよび両親媒性ブロック共重合体を含む。
【0038】
本発明の好ましい実施形態において、上記疎水性ポリマーは、ラクチドポリマー(通常、PLAと略す)、グリコリドポリマー、ラクチド-グリコリド共重合体(通常、PLGAと略す)、ポリカプロラクトン、ポリオルトエステルおよび/またはポリ酸無水物である。好ましくは、重量平均分子量は、5,000-100,000ダルトン、より好ましくは10,000-50,000ダルトンである。
【0039】
本発明の好ましい実施形態において、上記両親媒性ブロック共重合体中の親水性ブロックは、ポリエチレングリコール類、ポリアクリル酸類、ポリオキシエチレン類、ポリビニルアルコール類である。疎水性ブロックは、ラクトン類共重合体またはホモポリマーである。好ましくは、親水性ブロックはポリエチレングリコールまたはモノメトキシエチレングリコールであり、疎水性ブロックはポリ乳酸(PLA)または乳酸とグリコール酸の共重合体(PLGA)である。上記両親媒性ブロック共重合体の親水性ブロックは500-30,000ダルトンの重量平均分子量を有し、疎水性ブロックは500-50,000ダルトンの重量平均分子量を有する。好ましくは、親水性ブロックの重量平均分子量は1,000-20,000ダルトン、例えば4,000-10,000ダルトンであり、疎水性ブロックの重量平均分子量は5,000-20,000ダルトンである。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、上記両親媒性ブロック共重合体は、ポリエチレングリコールあるいはモノメトキシエチレングリコールとラクチドおよび/またはグリコリドとの共重合体(通常、PLGAと略す)である。その重量平均分子量は5,000-10,000ダルトン、好ましくは10,000-50,000ダルトンである。
【0041】
本発明の好ましい実施形態において、上記両親媒性ブロック共重合体は、一次エマルジョンの安定化に適用できる。これによって、マルチチャンバ構造を有する多孔質マイクロスフェアを製造することができる。マイクロカプセル中のポリマーブレンド基質における上記両親媒性ブロック共重合体の重量比は5%以上、好ましくは10%以上、15%以上、20%以上、30%以上、40%以上または50%以上である。PLAは、比較的強い局所炎症免疫応答を有するため、薬物制御放出分野における使用が少ない。PELAは、生体適合性に優れた材料としてよく使用されており、孔隙率がより高い開孔マイクロスフェアの製造に有利であり、両者の比率を変更することにより、マイクロスフェアの疎水性および孔隙率が改善されるとともに、キャリアの炎症応答を調節し、生体適合性を改善することができる。
【0042】
本発明の好ましい実施形態において、ステップ(1)の上記有機溶剤は揮発性で水不溶性の有機溶剤である。例えば、n-ブタノール、メチルエチルケトン、エチルエーテル、クロロホルム、テトラクロロメタン、トルエンなどである。揮発性で水に部分的に溶解可能な有機溶剤を含む。例えば、酢酸エチル、フェノールなどである。さらに好ましくは、水に溶解できないアルコール、ケトン、エステル、エーテル、アルキルベンゼン、ハロゲン化アルカン、ハロゲン化芳香族のうちの1種または2種以上の組み合わせである。上記組み合わせの典型的な例には、アルコール、ケトンの組み合わせ;アルコール、ケトン、エステル、エーテルの組み合わせ;エステル、アルキルベンゼン、ハロゲン化アルカンの組み合わせ;エステル、アルキルベンゼン、ハロゲン化アルカン、ハロゲン化芳香族炭化水素の組み合わせなどが含まれるが、これらに限定されない。特に好ましくは、アルコール、エステル、アルキルベンゼン、塩素化アルカン、塩素化芳香族炭化水素のうちの1種または2種以上の組み合わせである。
【0043】
本発明の好ましい実施形態において、マイクロカプセルを製造する際に、ステップ(1)の上記有機溶剤に免疫刺激増強剤、例えば、モノホスホリル脂質Aを添加する。
【0044】
本発明の好ましい実施形態において、抗原を充填するときにさらに免疫刺激増強剤、例えば、シトシン-グアニンオリゴデオキシヌクレオチドおよび/またはポリイノシン酸-ポリシチジル酸を充填する。
【0045】
本発明の好ましい実施形態において、ステップ(3)の上記溶剤除去法は、溶剤抽出法であるが、静置して溶剤を揮発させ、撹拌して溶剤を揮発させ、または他の溶剤を除去する方法であってもよい。
【0046】
本発明の好ましい実施形態において、ステップ(3)の上記硬化過程では、内水相と外水相とが融合して貫通孔を形成する。
【0047】
本発明の好ましい実施形態において、ステップ(3)の内外貫通孔を有する開孔マイクロスフェアは多孔質構造である。
【0048】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の上記開孔マイクロスフェアは表面多孔質マイクロスフェアである。
【0049】
本発明の好ましい実施形態において、開孔マイクロスフェアの孔隙率は40%以上、例えば、50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。好ましくは孔径1-5μmのチャネルを有する。好ましくはマイクロスフェアの内部孔径は800nm-5μmであり、平均孔径は約1μmである。
【0050】
本発明の好ましい実施形態において、ステップ(3)では、油相を硬化した後、残留した界面活性剤を除去し、特に好ましくは篩掛けまたは遠心洗浄により残留した界面活性剤を除去する。
【0051】
本発明の好ましい実施形態において、好ましくは、上記開孔マイクロスフェアの密封プロセスは、溶剤膨潤法、照射法および昇温アニール法を含む。当業者は、当該技術分野の技術知識/新しい技術により開孔マイクロスフェアを密封してもよい。
【0052】
本発明において、当業者であれば、可以理解上記「密封」とは抗原および/または他の物質、例えば、ケモカインをマイクロカプセルの内部に包埋、固定または滞留することを意味することを理解できる。本発明において、密封マイクロカプセルは、マイクロカプセルの表面に何らの開孔がないことを意味せず、抗原および/または他の物質、例えば、ケモカインは、密封プロセスにより部分的にマイクロカプセルの内部に包埋、固定または滞留できることを意味する。抗原および/または他の物質、例えば、ケモカインは、マイクロカプセルの分解によりマイクロカプセルから放出することができる。
【0053】
本発明の好ましい実施形態において、昇温アニール法は理想的な密封方法である。例えば、ポリ乳酸などの生分解性ポリマーブレンド基質の独特な自己合着密封特性を利用することができる。照射または加熱の方法によりマイクロスフェアの表面の分子がエネルギーを吸収して再配列することで、表面の孔が合着して密封する。例えば、抗原が充填された開孔マイクロスフェアをマイクロスフェアのガラス転移温度に近い温度、好ましくはマイクロスフェアのガラス転移温度より1~2℃低い温度までゆっくりと昇温し、一定の時間後、ゆっくりと降温し、開孔マイクロスフェアの表面の孔を密閉して密封の多孔マイクロカプセルを製造するとともに、抗原がマイクロカプセル内に効果的に密封され、充填率および包埋率は安定である。昇温に必要な温度はポリ乳酸材料のガラス転移温度に近く、マイクロスフェアの合着密封を実現するために、昇温の条件を制御する必要があり、マイクロスフェアの形態に対する影響は大きくない。
【0054】
本発明の他の実施形態において、開孔マイクロスフェアは、ポリマーと細孔形成剤の相分離により製造できる。細孔形成の過程において、溶剤は細孔形成剤と呼ばれることが多く、通常油溶性低分子を選択する。ポリマーと溶剤の相分離はポリマー連鎖成長過程で発生し、ポリマー分子量の増加または分子間の架橋により、高分子は低分子溶剤から徐々に沈殿して個体高分子になる。高分子溶液系で発生することもできる。環境条件の変化、例えば、温度の変化、良溶媒の除去または貧溶媒の添加により、高分子に対する溶剤の溶解能力が低下し、高分子は沈殿して固相になる。
【0055】
本発明の目的は、患者体内で腫瘍細胞または腫瘍に対する細胞毒性細胞の応答を誘導する方法を提供することである。この方法は、この患者に有効量の本発明のワクチン、好ましくは抗腫瘍ワクチンを投与し、特に静脈内、注射または輸液、好ましくは輸液により投与することを含む。この方法の目的は、特に、患者の樹状細胞の活性化およびCD8+細胞毒性細胞の応答を誘導し、特異的CD4+補助およびCD8+細胞毒性応答を取得する。
【0056】
本発明のワクチンは、がんまたは肝炎(例えばB型肝炎)などの疾患の予防および処理に適用でき、特に免疫療法に適用できる。本発明は、がんまたは肝炎(例えば、B型肝炎)を予防的または治療的に処理する方法を提供する。この方法は、上記処理を必要とする哺乳類被験体に予防または治療有効量のワクチンを投与することを含む。
【0057】
本発明において、用語「予防接種」とは、能動免疫を指し、すなわち、投与により発生する特異的免疫応答の誘導である。この投与は、例えば、皮下、皮内、筋肉内、傾向または経鼻により少量の抗原を投与することを指す。この抗原は、接種された個体に外来性として識別されるため、適切な処方において免疫原性である。従って、抗原は、免疫システムの「トリガー」として使用され、この抗原に対する特異的免疫応答を構築する。
【0058】
本発明によれば、予防接種は治療型または予防型であってもよい。例えば、がんに罹患していない個体に予防接種することにより、がん疾患に対する予防型保護を達成することができる。このような予防型接種ワクチンを使用できる個体の例は、がんに罹患するリスクが高い個体であるが、これらに限定されない。がんに罹患するリスクがある患者は、原発腫瘍、転移巣、またはがんの傾向にも関わらず、腫瘍が発生している可能性がある。
【0059】
本発明において、用語「有効量」とは、ヒトまたは動物に投与するときに免疫反応を誘発する抗原性/免疫原性組成物の量を指す。当業者は、通常のプロセスに従って有効量を容易に確定することができる。
【0060】
本発明で提供されるワクチンまたは医薬組成物は、滅菌粉末製剤に調製することができる。例えば、上記滅菌粉末は、ワクチンおよびマンニトールを含み、以下の方法により製造することができる。マイクロカプセルを取り、注射用水で洗浄し、凍結乾燥プレートに移し、マンニトールおよび適量の注射用水を加え、凍結乾燥機に入れて凍結乾燥させ、凍結乾燥品を篩掛けして均一に混合し、無菌で小分けし、蓋をすることで滅菌粉末を得る。患者に投与する前に、滅菌粉末を許容される分散溶剤に懸濁する。上記分散溶剤は、懸濁剤、pH調節剤、等張化剤、界面活性剤のうちの1種または複数種および注射用水からなる。上記懸濁剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、グリセリンのうちの1種または複数種であり得る。上記等張化剤は、塩化ナトリウム、グルコース、マンニトール、ソルビトールのうちの1種または複数種などであり得る。上記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、例えば、ポリソルベートシリーズ(例えば、ポリソルベート80、ポリソルベート60等)である。
【0061】
本発明で提供される医薬組成物、例えば、ワクチンマイクロカプセルについては、当業者に知られている方法により本発明のワクチンを例えば、動脈内、静脈内、経皮注射、経鼻、経気管支、筋肉内または経口により患者に投与することができる。用量および投与方法は、患者の体重、年齢および投与方法によって異なり、当業者が必要に応じて選択することができる。
【0062】
液体医薬組成物は、通常pHが約3.0-9.0、好ましくは約4.5-8.5、より好ましくは約5.0-8.0である。組成物のpHは、緩衝液、例えば、酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、Trisまたはヒスチジンにより維持することができ、濃度が通常約lmM-50mMである。組成物のpHは、生理学的に許容できる酸または塩基により調整することもできる。
【0063】
上記医薬組成物は、予防有効量または治療有効量(場合によって確定する。予防であるが、治療にみなされる場合もある)で個体に投与されることで個体に有利である。通常、これは、個体に有利な治療上有用な活性を示す。投与される化合物の実際量、投与速度および時間過程は、処理される病状の性質および重症度に依存する。処方、例えば、用量決定などは、一般開業医や他の医師の責任の範囲内であり、通常、処理される病症、患者の状況、送達部位、投与方法および医師に知られている他の要因に依存する。
【0064】
本明細書に開示された実施形態は、本発明のいくつかの態様を説明するものである。
【0065】
<比較例1>PLAを用いる開孔マイクロスフェアの製造
100mg分子量が20000ダルトンのラセミ化末端カルボキシルポリ乳酸(PLA,済南岱崗生物工程有限公司)を2mL酢酸エチル中(油相,O)に溶解し、0.5mL0.05%の塩化ナトリウム水溶液(内水相W1)を加え、超音波破砕機で一次エマルジョン(油中水,W1/O)を調製し、一次エマルジョンを15 mLのPVA(日本クラレ)を含む水溶液(外水相 W2)に入れ、ホモジナイザで乳化して複合エマルション(水中油中水,W1/O/W2)を調製する。その後、縦型ミキサーで25min混合し、複合エマルション進化を行う。次いで、複合エマルションを500mL超純水に入れ、室温で10 min(500rpm/min)磁気撹拌し、マイクロスフェアを硬化する。最後に、複数回遠心分離(500g,5min)し、上清を捨て、底部のマイクロスフェアを収集し、さらに1mL超純水をマイクロスフェアに添加し、4℃で保存する。
【0066】
PLAマイクロスフェア懸濁液を50uL吸い取り、アルミ箔に滴下し、室温で乾燥させる。導電性接着剤でサンプルを含むアルミ箔をサンプル調製台に貼り付け、ゴールドスプレーした後、SEMでマイクロスフェア形態を観察する。得られたPLAマイクロスフェアを
図1に示す。単にPLAで製造されたマイクロスフェアには顕著な多孔質構造がなく、本発明の密封マイクロスフェアを開発するために本発明の多孔質マイクロスフェアとして使用するのに適してない。
【0067】
(実施例1)PLAおよびPELAを用いる開孔マイクロスフェアの製造
95mg分子量が20000ダルトンのラセミ化末端カルボキシルポリ乳酸(PLA,済南岱崗生物工程有限公司)と5mg分子量が38000ダルトンのポリエチレングリコール(mPEG,Mw:2000)-ラセミ化末端カルボキシルポリ乳酸(PLA,Mw:36000)共重合体(PELA,済南岱崗生物工程有限公司)を2mL酢酸エチル(油相,O)に溶解し、0.5mLの0.05%塩化ナトリウム水溶液(内水相 W1)に加え、超音波破砕機により一次エマルジョン(油中水,W1/O)を調製し、その後、一次エマルジョンを15mLのPVAを含む水溶液(外水相W2)に入れ、ホモジナイザで乳化して複合エマルション(水中油中水,W1/O/W2)を調製する。その後、縦型ミキサーで25min混合し、複合エマルション進化を行う。次いで、複合エマルションを500mL超純水に入れ、室温で10 min(500rpm/min)磁気撹拌し、マイクロスフェアを硬化する。最後に、複数回遠心分離(500g,5min)し、上清を捨て、底部のマイクロスフェアを収集し、さらに1mL超純水をマイクロスフェアに添加し、4℃で保存する。
【0068】
上記マイクロスフェア懸濁液を50uL吸い取り、アルミ箔に滴下し、室温で乾燥させる。導電性接着剤でサンプルを含むアルミ箔をサンプル調製台に貼り付け、ゴールドスプレーした後、SEMでマイクロスフェア形態を観察する。
図2に示すように、表面孔径が1-2μmであり、表面開口の構造を有する。その粒度分布を図に示す。マイクロスフェアの平均粒径は60μmである。また、マイクロスフェアの内部構造を観察するために、超薄型ブレードで乾燥したマイクロスフェアを破砕する。そして、サンプルを導電性接着剤に接着してゴールドスプレーし、SEMで観察する。
図4に示すように、マイクロスフェアは、同様に内部が多孔質で互いに貫通する構造を有し、内部孔径が約1-5μmである。
【0069】
30mg凍結乾燥後の多孔質マイクロスフェアを取り、水銀ポロシメータで3回測定し、多孔質マイクロスフェアの孔隙率および平均孔径分布を算出した結果、多孔質マイクロスフェアの孔隙率は82%である。
図5に示すように、マイクロスフェアの内部孔径は800nm-5μmであり、平均孔径は約1μmである。
【0070】
(実施例2)抗原が充填された密封マイクロカプセルの製造
実施例1で調製された乾燥重量30mgの開孔マイクロスフェア懸濁液1mLを1.5mLの遠沈管に入れ、遠心分離して上清を除去し、50mg/mL、10mg/mLの抗原OVA(Sigma社)500μLまたは8mg/mLのMUC1ペプチドセグメント(吉爾生化上海有限公司)500μLを加えてマイクロスフェアと混合し、縦型ミキサーに置き、4h(300rpm)懸濁し、タンパク質またはペプチドセグメントをマイクロスフェアに貫通したチャネルによりマイクロスフェアチャンバの内部に十分に入った後、縦型ミキサーおよびマイクロスフェアを39℃の恒温ボックスに置き、昇温して密封する。この過程において、懸濁速度は100rpmであり、マイクロスフェアが昇温過程全体で均等に加熱され、沈降しないことを保証する。2h反応した後、密封が完成する。遠心分離(500g,5min)して上清を除去し、タンパク質、ポリペプチド分子が充填された密封マイクロカプセルを得る。
【0071】
抗原OVAを含む密封マイクロカプセル懸濁液50uLを吸い取り、アルミ箔に滴下し、室温で乾燥させる。導電性接着剤でサンプルを含むアルミ箔をサンプル調製台に貼り付け、ゴールドスプレーした後、SEMでマイクロカプセルの表面形態を観察する。
図6に示すように、表面の複数の孔が完全に密閉し、密封マイクロカプセルが形成される。同時に、密封マイクロカプセルの内部構造を観察するために、超薄型ブレードで乾燥したマイクロカプセルを破砕する。そして、サンプルを導電性接着剤に接着してゴールドスプレーし、SEMで観察する。
図7に示すように、マイクロカプセルの内部に内部多孔質構造があり、かつ孔径が約1-5μmであるが、内部で貫通した多孔質構造は密閉するとともに独立した多孔質構造となっている。
【0072】
マイクロスフェアを密封した後、密封後のマイクロカプセルにおける抗原OVAまたはペプチドセグメントMUC1の充填率および包埋率を評価する。OVAタンパク質およびMUC1ポリペプチドの含有量の測定方法は以下のとおりである。
<密封マイクロカプセルにおけるタンパク質OVAの抽出> OVAが充填された凍結乾燥マイクロスフェア(n=3)5mgを取り、1mLの0.1M水酸化ナトリウム水溶液を加え、4℃で一晩(12h)反応させ、マイクロカプセルが完全に分解された後、遠心分離して上清を取り、0.1Mの塩酸で滴定して溶液をpHにし、そこから100μLの上清を吸い取り、BCAキットでタンパク質含有量を測定する。
【0073】
<密封マイクロカプセルにおけるポリペプチドMUC1の抽出>MUC1ポリペプチドが充填された凍結乾燥マイクロカプセル(n=3)5mgを秤量し、まず300μLアセトニトリルを加えて材料を完全に溶解させ、システムが澄んだ後、0.015MのHCl溶液1.7mLを加え、最後に0.45μmの濾過膜でシステム中の不溶分および不純物を除去し、最後にRP-HPLCでMUC1ペプチドセグメントの濃度を測定する。実験条件は以下のとおりである。
<検出条件>0.1%トリフルオロ酢酸の脱イオン水(移動相A);0.1%トリフルオロ酢酸のHPLC用のアセトニトリル(移動相B);溶出勾配:流動B:0%-60%、0-25 min;流速:1.0mL/min;検出波長:220nm。
【0074】
最終マイクロカプセルの薬物充填率(%)の計算方法は、以下のとおりである。密封マイクロカプセル内の抗原(OVA/MUC1)の質量をマイクロスフェアの質量(乾燥重量)で割り、さらに100%をかける。マイクロカプセル包埋率(%)の計算方法は、以下のとおりである。密封マイクロカプセル内の抗原(OVA/MUC1)の質量を充填前の抗原(OVA/MUC1)の質量(濃度×体積)で割り、さらに100%をかける。
【0075】
図8および
図9に示すように、初期抗原OVAタンパク質およびMUC1ペプチドセグメントの濃度の増加に伴い、マイクロカプセルの充填率は線形の増加傾向にあり、抗原濃度が100mg/mLである場合、マイクロカプセルの充填率は20%と高い。抗原濃度の増加に伴い、密封マイクロカプセルの包埋率は常に相対的安定的なレベルに維持される。これは、マイクロカプセルの包埋率がマイクロカプセルのチャンバの体積にのみ依存することを示している。このような充填率の線形増加および包埋率の相対的安定な特徴は、抗原とマイクロカプセルの比率の調整に有利であり、異なる充填系の需要を満たすことができる。
【0076】
(実施例3)抗原およびMPLAが充填された密封マイクロカプセルの製造
まず、1mgのMPLA(Sigma)を500μLクロロホルム(CHCl3)に溶解し、そして100μLクロロホルムを1.9mL油相酢酸エチルに加え、さらに95mg分子量が20000ダルトンのラセミ化末端カルボキシルポリ乳酸(PLA,済南岱崗生物工程有限公司)と5mg分子量が38000ダルトンのポリエチレングリコール(mPEG,Mw:2000)-ラセミ化末端カルボキシルポリ乳酸(PLA,Mw:36000)の共重合体(PELA,済南岱崗生物工程有限公司)をクロロホルムおよびMPLAを含む油相2mLに溶解し、0.05%の塩化ナトリウム水溶液(内水相W1)0.5mLを加え、超音波破砕機で一次エマルジョン(油中水,W1/O)を調製し、次いで一次エマルジョンをPVAを含む水溶液(外水相W2)15mLに加え、ホモジナイザで乳化して複合エマルション(水中油中水,W1/O/W2)を調製する。その後、縦型ミキサーで25min懸濁して複合エマルション進化を行う。次に、複合エマルションを500mL超純水に入れ、室温で磁気撹拌(500rpm)によりマイクロスフェアを硬化させる。最後に、複数回遠心分離(500g,5min)し、上清を捨て、底部のマイクロスフェアを収集し、さらに1mL超純水をマイクロスフェアに添加し、4℃で保存する。
【0077】
抗原およびMPLAが充填された密封マイクロカプセルの製造過程は以下のとおりである。1mLのMPLAが充填されたマイクロスフェア懸濁液を1.5mLの遠沈管に入れ、遠心分離して上清を捨て、残ったマイクロスフェアの体積は500μLである。そして、10mg/mL抗原OVA(Sigma社) 500μLまたは8mg/mLのMUC1ペプチドセグメント(吉爾生化上海有限公司)500μLを加えてマイクロスフェアと混合し、縦型ミキサーに入れて4h(300rpm)懸濁し、ペプチドセグメントがマイクロスフェアに貫通したチャネルによりマイクロスフェアチャンバの内部に十分に入った後、39℃の恒温ボックス中で昇温して密封し、2h反応させた後、密封を完成する。遠心分離(500g,5 min)し、上清を捨て、抗原およびMPLAが充填された密封マイクロカプセルを得る。計算した結果、マイクロカプセル中のOVAの実際充填率は2%、ペプチドセグメントMUC1の実際充填率は1.7%、MPLAの実際充填率は1‰である。
【0078】
(実施例4)ケモカインが充填された密封マイクロカプセルの製造
乾燥重量が30mgの実施例2で調製された開孔マイクロスフェア懸濁液を1.5mLの遠沈管に入れ、遠心分離して上清を捨て、残ったマイクロスフェアの体積が500μLである。1mg/mLのGM-CSFケモカイン(Peprotech)溶液500uLを加え、マイクロスフェアと混合し、縦型ミキサーに入れて4h懸濁(300rpm/min)し、ケモカインがマイクロスフェアチャンバの内部に十分に入った後、39℃恒温ボックスに置いて昇温して合着し、2時間反応させた後、密封が完成する。遠心分離して上清を捨て、ケモカインが充填された密封マイクロカプセルを得る。計算した結果、マイクロカプセル中のGM-CSFの実際充填率は2.4‰である。
【0079】
(実施例5)抗原が充填された密封マイクロカプセルの抗原放出と細胞動員との相乗作用
まず、週齢6-8のC57BL/6雌マウス(n=4,北京維通利華実験動物有限公司)の背部に異なるワクチン製剤を皮下注射し、それぞれ単一蛍光抗原(染料Cy5で標識された抗原OVA,OVA-Cy5)群、蛍光抗原と多孔質マイクロスフェアの混合群、蛍光抗原が密封マイクロカプセル内に密封された包埋群を構築する。全ての群では、マイクロスフェアおよび抗原の注射量はそれぞれ3mgおよび60μgである。代謝の異なる段階(1h、2h、4h、8h、0.5d、1d、2d、4d、7d、10d、14d、17d、21d、25dおよび30d)で、小動物ライブイメージングシステムにより多孔質マイクロスフェアおよび密封マイクロスフェアでの抗原の異なる代謝挙動を観察する。
【0080】
図10に示すように、単一のOVA抗原は、3日目に局所蛍光強度はほとんど消えた。これは、抗原の代謝速度が非常に速く、基本的に完全に代謝したことを示している。混合群は、24h内のバースト放出は50%であり、代謝の初期に、マイクロスフェアの外部に遊離する抗原が組織に迅速に代謝されるため、代謝速度が比較的速いためである。その後、多孔質マイクロスフェア内の抗原はさらに放出される。しかし、5日目に依然として比較的強い蛍光強度がある。図から分かるように、10%の抗原が代謝されていない。これは、マイクロスフェアの局所滞留およびチャネルのディレイ効果により、抗原の代謝が顕著に遅くなるためであり、合計代謝時間は約7日に延長した。これに対し、包埋群では、検出開始の2週間内で常に比較的強い蛍光強度を保持し、定量図から分かるように、早期代謝には顕著なバースト放出効果がなく、24h内の放出が10%である。密封マイクロカプセルの表面の孔が密閉であり、抗原が一時的に材料表面のナノチャネルから遅く放出されるしかできないため、3日間でわずか20%の抗原が代謝された。代謝時間に伴い、キャリア表面および内部構造が変化し、マイクロカプセル内の抗原は大量に放出され、7日間で約50%の抗原が放出される。そして、代謝速度がさらに遅くなり、14日間代謝しても非常に強い蛍光強度を有する。
図10に示すように、依然として35%の抗原が代謝されていない。
【0081】
抗原の放出に伴い、マイクロカプセルを注射した後、その場滞留効果により炎症応答が引き起こされ、炎症関連細胞を動員してキャリアおよび放出された抗原を貪食する。細胞動員の現象をさらに観察するために、週齢6-8のC57BL/6雌マウス(n=4,北京維通利華実験動物有限公司)の背部に実施例2のブランク密封マイクロカプセルを注入し、体内での異なる代謝時点でマウスを安楽死させる。マウス背部のマイクロカプセルが注入された部位を切開し、ピンセットで皮下におけるキャリアを包んだ局所皮下組織を取り出し、ハサミで組織を切り、4%のホルマリン溶液に24h浸漬する。次いで、パラフィンで包埋し、切片し、H&E染色し、封じ、H&E染色サンプルを作製し、最後に、病理学的スライスパノラマスキャンおよび分析システム(Vectra 3.0,PerkinElmer)により注射部位の炎症反応を観察する。異なる代謝時点でマウスを安楽死させる。皮下におけるキャリアを包んだ局所組織を取り出し、H&E染色サンプルを作製し、最後に、病理学的スライスパノラマスキャンおよび分析システムにより注射部位の炎症反応を観察する。
【0082】
図11aに示すように、3日目に、細胞(暗色点状物)は徐々にマイクロカプセル(浅色環状物)の周囲に動員される。分解時間の延長に伴い、マイクロスフェア周囲の細胞は増加し続き、炎症反応は強くなり、いくつかのマイクロカプセルの内部にも炎症細胞の浸潤が観察される。Informソフトウェアにより点の数およびマイクロカプセルの数を統計し、局所での各マイクロカプセルが動員した細胞数を定量的に計算する。分析した結果、
図11bに示すように、14日目に各マイクロスフェアは約20個の細胞を動員することができる。従って、全体の代謝過程に置いて、分解生成物の累積により局所炎症応答が徐々に強くなる。また、マウスを解剖しても局所組織に発赤、腫れ、肉芽および膿が発生する現象が観察されない。これは、密封マイクロカプセルにより引き起こされる炎症反応は安全である。
【0083】
それぞれCy5染料標識OVA(Cy5-OVA)の単一抗原群、Cy5-OVAと多孔質マイクロスフェア混合群、Cy5-OVAが密封マイクロカプセル内に充填された包埋群を設定する。それぞれ週齢6-8のC57BL/6雌マウス(n=4,北京維通利華実験動物有限公司)の太ももの筋肉内に注射する。5日後、マウスを安楽死させる,局所にマイクロスフェアを含む筋肉組織を取り出し、ハサミで小さく切り、懸濁液に研磨し、4℃のPBS中で再懸濁させ、遠心分離して上清を除去する。さらに1mLの混合酵素溶液(1mg/mLコラゲナーゼDと100U/mLの組換えDNase IをRPMI 1640培地に溶解する)を加え、37℃で30 min反応させる。その後、PBSで洗浄し、20μmの細胞篩で不純物を濾過し、単細胞懸濁液を作製する。フローサイトメトリーのサンプル染色の操作手順に従って、それぞれサンプルに抗マウスFITC- CD11c、eFlour450-F4/80の蛍光抗体標識DCおよびマクロファージを加える。さらにBD LSRFortessaフローサイトメトリーによりOVA+細胞、CD11c+OVA+細胞およびF4/80+OVA+細胞を検出し、Flowjoソフトウェアで分析して処理する。
【0084】
図12に示すように、単一抗原群(対照群)では、OVA
+の細胞数および細胞内OVAの蛍光強度はいずれも弱く、局所の抗原が5日目にほとんど完全に代謝されたことを示している。混合群では、多孔質マイクロスフェアの滞留効果により抗原利用率が顕著に向上し、OVA
+の細胞数が約10倍増加し、細胞のOVAに対するエンドサイトーシス量が2倍増加し、対応する抗原利用率が約20倍増加する。包埋群では、優れた抗原滞留効果および抗原効果的放出能力により、OVA
+の細胞数が約50倍増加し、OVAエンドサイトーシス量が4倍以上増加し、抗原利用率が最終的に200倍以上増加する。以上の結果から分かるように、密封マイクロカプセルは、マイクロカプセルシステム中の抗原放出および細胞動員挙動を効果的に調整し、両者を相乗作用させ、抗原の利用率を向上させることができる。抗原利用率の算式:OVA
+細胞数×蛍光強度である。単独のOVA群の抗原利用率を用いて正規化処理を行う。この相乗作用は、より多い細胞が抗原を貪食することを促進し、細胞の抗原に対するエンドサイトーシス量を向上させ、抗原の利用率を最大限に向上できる。
【0085】
(実施例6)抗原が充填された密封マイクロカプセルの酸性微小環境の細胞動員に対する影響。
【0086】
ポリ乳酸マイクロカプセル分解生成物である乳酸は局所微小環境の酸化を引き起こすことがある。酸化の程度、変化および持続時間は、いずれも後続の免疫効果に影響を与える可能性がある。そのため、局所微小環境の酸化過程および変化を正確に監視する必要がある。SNARF(登録商標)-1は、pH(監視範囲6-9)感受性プローブであり、488nmで励起され、640nmおよび580nmの2つの波長で受け、蛍光強度の比はI640/I580であり、システムのpH値に対応する。この比が小さいほど、システムのpHが低いことを示す。従って、マイクロスフェアにSNARF(登録商標)-1を搭載し、レーザ共焦点顕微鏡によりポリ乳酸マイクロカプセルの分解生成物である乳酸の局所微小環境pHに対する変化をリアルタイムに監視することができる。
【0087】
具体的な操作は以下のとおりである。雌C57/BL6マウス(n=6)の背部にSNARF(登録商標)-1が包埋された密封マイクロカプセルを皮下注射し、それぞれ3、5、7および14日目にマウスを安楽死させる。皮下におけるマイクロスフェアを包んだ組織を取り出し、レーザ走査型共焦点顕微鏡で局所組織pHの変化状況を観察する。その蛍光画像を観察し、蛍光強度比I640/I580を計算し、標準曲線に基づいて実際のpH値を算出する。
【0088】
実験により、3日間代謝した後、局所微小環境が中性から酸性に変化したことが発見された。
図13に示すように、局所pHは中性の7.2から弱酸性の6.5に変化した。材料の持続的代謝に伴い、局所酸性環境のさらなる酸化が観察されず、約pH 6.5に維持され、すなわち、通常の非多孔質ポリ乳酸類マイクロスフェアが徐々に分解することによる乳酸体積の問題が発生しなかった。通常の非多孔質ポリ乳酸類マイクロスフェアの材料の内部と外部が同時に分解する時に、内部代謝で産生する乳酸の移動がブロックされることにより累積することで、内部のpHが外部よりも低くなり、局所乳酸の体積を招き、pHの突然低下または不安定の現象が発生しやすくなる。本発明の密封マイクロカプセルは、その独特な内部多孔質貫通構造により、上記乳酸体積および物質移動ブロックの問題を効果的に回避し、内部材料が分解して賛成した乳酸を効率的に外部と置換する。生体乳酸の代謝とポリ乳酸材料の分解による乳酸の生成が体内で動的平衡になる場合、局所のpHは比較的安定したレベルに維持し、局所細胞のために相対的安定した微小環境を作って機能を発揮するとともに、定常状態の局所細胞に対する影響の分析に有利である。
【0089】
多くの生理学的炎症の状況で、炎症部位は大量の細胞を動員し、炎症部位が酸化を伴うため、酸性は細胞動員挙動に関係があるので、中性微小環境(Neutral Microenvironment,NM)および酸性微小環境(Acidic Microenvironment,AM)の細胞動員に対する影響を主に調査する。ポリ乳酸マイクロカプセルに強塩基弱酸性塩NaHCO3を装填することにより、それとマイクロカプセルの分解生成物である乳酸の中和作用により局所の酸性を解消し、局所で中性微小環境を構築し、ポリ乳酸マイクロカプセルの酸性微小環境と比較する。
【0090】
酸性環境は、細胞動員を増加し、細胞の抗原に対するエンドサイトーシスを刺激することにより抗原の利用率を向上させ、抗原放出挙動と細胞動員挙動との協働しか抗原の利用率の向上を改善することができない。例えば、抗原の利用率をさらに向上させるために、免疫細胞を抗原を大量に貪食するように刺激する有益な微小環境が必要である。従って、抗原の利用率を最大化するために、抗原放出挙動、細胞動員挙動、DC数とタイプ、エンドサイトーシスを刺激する酸性微小環境などの複数の要因の共同作用が必要である。混合群およびNaHCO3が充填された包埋群では、上記のいずれかの要素が不可欠であり、本発明の密封マイクロカプセルしかこれらの要素を同時に作動させ、相乗的にそれぞれの機能を発揮し、抗原を最も高い効率的に利用することができない。
【0091】
DCが抗原を貪食した後、抗原が加工および処理されて抗原ペプチドになり、抗原ペプチド-主要組織適合性複合体(MHC)の形でAPC表面で発現され、T細胞により識別される。しかし、APCが抗原を貪食するだけで、外部の刺激物による刺激がない場合、APCは共刺激分子(CD80、CD86、CD40)を効果的に発現してT細胞を活性化することがない。また、多くの場合において、DCが外来抗原を貪食した後、抗原に対する加工および提示は主にリソソーム経路を使用し、この過程はMHC-II分子により制限され、主にT細胞体液免疫に関連する反応を媒介する。いくつかの特殊な場合には、外因性抗原は細胞質ゾル提示経路、すなわちMHC-I分子経路により提示し、細胞毒性T細胞(CTL)を直接活性化し、標的細胞を直接で効果的に死滅する。従って、治療型腫瘍ワクチンにとって、腫瘍をより効果的に死滅するために、抗原をMHC-I分子としてより多く提示する必要がある。
【0092】
酸性環境は、APC、特にDCの抗原に対するエンドサイトーシスを顕著に向上できる。しかし、APCの活性化、抗原の提示数および経路をさらに研究する必要がある。具体的には、まずそれぞれ20mMのNaHCO3およびPBS溶液でOVAを溶解し、密封マイクロカプセルを製造し、混合方法および密封方法は抗原の充填を参照されたい。それぞれ週齢6-8の雌C57BL/6マウス(n=6,北京維通利華実験動物有限公司)の太ももの筋肉に注入し、5日目に解剖して合着マイクロカプセルを含む組織を取り出す。ハサミで粉砕し、さらに1mLの混合酵素溶液(1mg/mLコラゲナーゼDと100U/mLの組換えDNase IをRPMI 1640培地に溶解する)を加え、37℃で30min反応させる。さらに細胞ホモジナイザーに置いて撹拌し、単細胞懸濁液を作製し、遠心分離して上清を捨て、細胞を収集し、20μmの細胞篩で濾過して不純物を除去し、ハンドヘルドセルカウンターでカウントする。そしてフローサイトメトリー用抗体により染色標識を行い、それぞれPE-CD11c、APC-CD80、APC-Cy7-CD86、eFlour 450-MHC-I、BV 655-MHC-IIでDC表面の共刺激分子および主要組織相容性複合体のマーカを標識し、活性化された局所DCの比率を測定する。
【0093】
図14に示すように、酸性環境に置いて、DCが顕著に活性化される。CD86
+DCにおいて、MHC-I分子の発現量はMHC-IIの40倍であり、DCがより多くMHC-Iとして抗原を提示することを示し、マイクロカプセルが抗原の交差提示を効率的に促進する能力を有することを示している。しかし、中性環境において、CD86
+DCにおけるMHC-Iの比率が1倍以上低下し、環境がマイクロカプセルが抗原の交差提示の促進において非常に重要な役割を果たすことを示している。
【0094】
(実施例7)密封マイクロカプセルのE.G7リンパ腫固形腫瘍に基づく動物実験効果
まず、E.G7担癌マウス(北京維通利華実験動物有限公司)を構築し、1*106のE.G7腫瘍細胞(ATCC)を週齢6-8の雌C57BL/6マウスの腋下に注入し、そして担癌マウスを6匹/群でランダムに分け、4日目に腫瘍体積が50-60 mm3に達した時にワクチンを接種する。ワクチンの群別は以下のように設定する。PBS、OVA低用量複数回(20μg;7d、14dにそれぞれ単回免疫増強)、OVA高用量単回(60μg)、多孔質マイクロスフェアとOVAの混合(3mgマイクロスフェア、60μg OVA)、OVAが充填された密封マイクロカプセル群(製造方法は実施例2を参照)(3mgマイクロスフェア、60μg OVA)、OVAが包埋されMPLAが充填された密封マイクロスフェア群(製造方法は実施例3を参照)(3mgマイクロスフェア、60μg OVA、3μg MPLA)。腫瘍モデルを構築した日から、隔日にマウスの毛、体重および生存状況を観察し、ノギスで腫瘍の長さおよび幅を測定し、以下の算式により腫瘍体積を計算する。V=1/2×L×W2(L:長さ;W:幅)。
【0095】
図15の腫瘍増殖曲線に示すように、単一抗原群において、低用量複数回群および高用量単回群は、いずれも腫瘍増殖を抑制しにくく、25日の生存率(SR)はわずか17%である。混合群では、マイクロスフェアのアジュバント効果下で生存率を50%に向上させるが、腫瘍の初期での増殖が比較的速い。包埋群の腫瘍は、初期から顕著に抑制され、増殖速度が遅く、マウスの25日の生存率は100%に達する。マイクロカプセルシステムは、抗原のみを使用し、他の分子アジュバントを添加しない場合、腫瘍抗原の十分利用により比較的良い治療効果が得られる。合着マイクロカプセルの材料に微量のアジュバントMPLA(3μg)が装填された場合、生存率が100%であるとともに、担癌マウスの腫瘍増殖もより顕著に抑制され、26日目に50%のマウスの腫瘍体積が基本的に治療初期とは変わらず、60%以上のマウスの生存期間は40日間を超え、マイクロスフェアシステムとMPLAシステムの適合性が腫瘍抑制を増強できる効果をさらに実証している。
【0096】
(実施例8)密封マイクロカプセルのB16黒色腫固形腫瘍に基づく動物実験の効果
まず、B16担癌マウス(北京維通利華実験動物有限公司)を構築し、5*105 B16黒色腫細胞(吉林大学により提供)を週齢6-8の雌C57BL/6マウスの腋下に注入し、そして担癌マウスを6匹/群でランダムに分け、4日目に腫瘍面積が10mm2を超えた時にワクチンを接種する。群別は以下のように設置する。PBS群、MUC1ペプチドセグメント群(50μg)、密封マイクロカプセルにMUC1ペプチドセグメントが充填された包埋群(マイクロスフェア3mg、ペプチドセグメント50μg)、MUC1が包埋されMPLAが充填された密封マイクロカプセル群(マイクロスフェア3mg、ペプチドセグメント60μg、MPLA 3μg)。腫瘍モデルを構築した日から、隔日にマウスの毛、体重および生存状況を観察し、ノギスで腫瘍の長さおよび幅を測定し、以下の算式により腫瘍体積を計算する。V=1/2×L×W2(L:長さ;W:幅)。
【0097】
図16の腫瘍増殖曲線に示すように、PBSおよび高用量単回群はいずれも黒色腫の増殖を効果的に抑制することができない。密封マイクロスフェアは、腫瘍の増殖を顕著に抑制することができ、33%のマウス腫瘍体積は500mm
3未満であり、22日間内の生存率は100%である。MPLAが充填された密封マイクロスフェアは最適な抗腫瘍効果を示し、22日目に50%のマウスの腫瘍はほとんど増殖せず、個別のマウスの黒色腫は消える。
【0098】
(実施例9)密封マイクロカプセルのB16黒色腫転移性腫瘍に基づく動物実験の効果
まず、B16転移性モデルマウス(北京維通利華実験動物有限公司)を構築し、2*105のB16黒色腫細胞(吉林大学により提供)を週齢6-8の雌C57BL/6マウスの尾静脈に注入し、そして、マウスを6匹/群でランダムに分け、4日目にワクチンを接種する。具体的な免疫計画は実施例8に一致する。接種した後の18日目に、各群ではそれぞれ2匹のマウスを安楽死させ、臓器中の肺、腎臓の黒色腫の転移状況を観察し、臓器中の転移巣をカウントして統計する。
【0099】
図17に示すように、PBS群では、肺部に大量の黒色腫転移が発生し、カウントした結果、各マウスの肺部には約100個の転移巣が分布し、腎臓組織には総体積が100mm
3の転移巣が成長し、黒色腫転移モデルの構築が成功したことを示している。ワクチン免疫の18日後に、密封マイクロスフェア群のマウスを解剖した結果、PBS群に比べ、肺部転移巣が100個から15-20まで減少し、腎臓腫瘍の体積が100mm
3から10mm
3まで減少する。密封マイクロスフェアにMPLAを添加した後、抗腫瘍転移効果がさらに向上し、肺部には顕著な転移巣がほとんどなく、腎臓にも腫瘍増殖がないため、マイクロカプセルシステムとTLR受容体アゴニストとの併用により最適な抗腫瘍転移効果が得られる。
【0100】
(実施例10)腫瘍新生抗原が充填された密封マイクロカプセルの4T1乳がんに基づく動物実験の効果
選ばれた腫瘍新生抗原は8種類のポリペプチドを等比率で組み合わせたものであり(上記8種類のポリペプチドのアミノ酸配列はそれぞれSPNRSWVSL、HPMYLFLSM、VAVKVNFYVI、KAPHNFQFV、YHYVLNSMV、EYSAMTTRGTI、GSPPRFFYMおよびCPQTHAVVLである)、このポリペプチドの製造過程は以下のとおりである。4T1腫瘍細胞系および正常Balb/cマウス組織(国家生化工程重点実験室により提供)を比較してシーケンシングすることにより腫瘍変異遺伝子を選別し、そしてコンピューターアルゴリズムにより変異ポリペプチドを予測し(深セン裕策生物科技公司)、さらにポリペプチド合成を行う(金斯瑞生物科技公司)。
【0101】
AS04アジュバント群の製造方法は以下のとおりである。まず、MPLAを0.5%のトリエタノールアミン溶液に溶解し、次で65℃に加熱して5min保持して溶解を促進し、その後、超音波プローブを用いて60Wの電力で1minかけて3回超音波処理し、完全に溶解した後、HClによりpHを約7.4に調節する。次いで、MPLA水溶液とアルミニウムアジュバントとを混合し、30s超音波処理し、本発明の腫瘍新生抗原を加えて均一に混合し、各マウスワクチンの各群の用量をMPLA(3μg)に確保し、アルミニウムアジュバント(100μg)および腫瘍新生抗原200μgを100μL生理食塩水溶液に溶解する。
【0102】
ここで、腫瘍新生抗原が包埋されMPLAが充填された密封マイクロカプセル群の製造方法は本発明の実施例3を参照されたい。
【0103】
4T1上皮内がんモデルマウス(北京維通利華実験動物有限公司)を構築し、5*105 4T1乳がん細胞(ATCC)を週齢6-8の雌Balb/cマウスの右下乳腺脂肪パットに注入し、そして、マウスを6匹/群でランダムに分け、4日目にワクチンを接種する。
【0104】
群別を以下のように設置する。PBS群、単一腫瘍新生抗原群(200μg)、腫瘍新生抗原が充填されたAS04アジュバント群(アルミニウムアジュバント100μg、腫瘍新生抗原200μg、MPLA 3μg)、腫瘍新生抗原が包埋されMPLAが充填された密封マイクロカプセル群(マイクロスフェア3mg、腫瘍新生抗原200μg、MPLA 3μg)。
【0105】
腫瘍モデルを構築した日から、隔日にマウスの毛、体重および生存状況を観察し、ノギスで腫瘍の長さおよび幅を測定し、以下の算式により腫瘍体積を計算する。V=1/2×L×W2(L:長さ;W:幅)。
【0106】
図18の腫瘍増殖曲線に示すように、PBSおよび単一腫瘍新生抗原群はいずれも乳がんの増殖を効果的に抑制することができない。AS04アジュバント群は腫瘍増殖に対してある程度の抑制作用を有し、比較的顕著な腫瘍遅延増殖を示す。比較すると、密封マイクロカプセル群の抗腫瘍効果は最も高く、28日目に83%のマウスにおける腫瘍体積が500mm
3未満である。
【0107】
(実施例11)腫瘍新生抗原が充填された密封マイクロカプセルの4T1乳がん術後再発に基づく動物実験の効果
4T1-luc乳がん術後再発モデルマウス(北京維通利華実験動物有限公司)を構築し、Luciferase(ルシフェラーゼ)がトランスフェクションされた5*105 4T1-luc乳がん細胞(ATCC)を週齢6-8の雌Balb/cマウスの右下乳腺脂肪パットに注入し、腫瘍が200mm3まで増殖した後、マウスに対して腫瘍切除手術を行い、生物発光イメージングにより残った腫瘍組織のサイズをほぼ同じであるように制御し、マウスを6匹/群でランダムに分け、2日目にワクチン免疫を行う。
【0108】
具体的な免疫計画は実施例10に一致する。 腫瘍モデルを構築した日から、隔日にマウスの毛、体重および生存状況を観察し、生物発光イメージングにより腫瘍再発状況を監視し、ノギスで腫瘍の長さおよび幅を測定し、以下の算式により腫瘍体積を計算する。V=1/2×L×W2(L:長さ;W:幅)。
【0109】
図19の腫瘍増殖曲線に示すように、PBSおよび単一腫瘍新生抗原群はいずれも乳がんの術後再発を効果的に抑制することができず、全てのマウスには腫瘍再発が発生し、腫瘍進展が比較的大きく、迅速に死亡した。AS04アジュバント群は一部のマウスの腫瘍再発を防止し、13%のマウスが22日目に腫瘍増殖が観察されないが、長期の監視中で死亡した。密封マイクロスフェア群は最適な術後の再発防止効果を示し、22日目に1匹のマウスしか腫瘍再発が発生せず、83%のマウスはいずれも腫瘍再発がない。
図20の生物発光イメージング画像および統計図に示すように、手術で切除した後、腫瘍病巣の残留体積が近く、後続の異なる治療された後、腫瘍再発は顕著に異なる。密封マイクロスフェア群は、14日目に生物発光イメージングにより何らの腫瘍病巣も観察されず、他の群は全部または一部に腫瘍再発がある。
【0110】
(実施例12)ケモカインが充填された密封マイクロカプセルの細胞動員効果の比較
週齢6-8の雌C57BL/6マウス(n=4,北京維通利華実験動物有限公司)の背部にそれぞれ3mgマイクロスフェアのブランク密封マイクロカプセルおよび7μgケモカインGM-CSFが充填された密封マイクロカプセルを注入し、体内で5日間代謝5した後、マウスを安楽死させる。マウスの背部におけるマイクロカプセルが注入された部位を切開し、ピンセットでキャリアを包んだ局所皮下組織を取り出し、ハサミで組織を切り出し、4%のホルマリン溶液に24h浸漬する。次にパラフィン包埋、切片、H&E染色およびブロックを行い、H&E染色サンプルを作製し、最後に病理学的スライスパノラマスキャンおよび分析システム(Vectra 3.0,PerkinElmer)により注射部位の炎症反応を観察する。
【0111】
図21に示すように、5日間体内代謝した後、少量の炎症細胞(黒色点状物)のみがブランクマイクロスフェア(浅色円状物)の周囲に動員される。ケモカインGM-CSFが充填されたマイクロカプセルは、より多い細胞を材料の周囲に動員することができ、上記ケモカインGM-CSFが充填されたマイクロカプセルから放出された抗原がより多く細胞により貪食され、抗原提示の効率および最終的な免疫効果を増強できることを示している。