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特許7257589複式溶接法を実施するための方法および溶接装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】複式溶接法を実施するための方法および溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/173 20060101AFI20230406BHJP
   B23K 9/10 20060101ALI20230406BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
B23K9/173 E
B23K9/10 Z
B23K9/167 E
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022514512
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-10
(86)【国際出願番号】 EP2020074443
(87)【国際公開番号】W WO2021043812
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】19195360.3
(32)【優先日】2019-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ゼリンガー・ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】アルテルスマイアー・ヨーゼフ
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-39172(JP,A)
【文献】特開2012-166249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複式溶接法を実施するための方法であって、この方法において、
ワークピース(6)において、それぞれに1つの溶接電流回路を有する少なくとも2つの電極(EA、EB)によって、それぞれ1つの溶接プロセスが実施される前記方法において、
前記複式溶接法の開始の前または終了の後に、
検査パラメータが、少なくとも2つの前記溶接電流回路の内の1つの溶接電流回路に賦与され、且つ、少なくとも1つの他の溶接電流回路内において、少なくとも1つの電気的な溶接パラメータ(Pi)が検出され、その際、検出された前記溶接パラメータ(Pi)が検査パラメータによって影響を及ぼされ且つ予め与えられた検査基準を満たす場合、少なくとも2つの溶接電流回路の間の導電性の接続(20)が認識されること、
または、
前記複式溶接法の間じゅう、
それぞれの前記溶接電流回路内において、少なくとも1つの電気的な溶接パラメータ(Pi)が検出され、その際、検出された前記溶接パラメータ(Pi)が同時に変化した場合、少なくとも2つの前記溶接電流回路の間の導電性の接続(20)が認識されること、
を特徴とする方法。
【請求項2】
少なくとも1つの電極(EA、EB)のために、溶接ワイヤー(3A、3B)の形態での消耗電極が提供され、
その際、前記溶接ワイヤー(3A、3B)が、
前記ワークピース(6)における溶接位置(15)に供給され、且つ、
溶接継ぎ目を形成するために、それぞれの前記溶接プロセスによって制御された、前記溶接ワイヤー(3A、3B)と前記ワークピース(6)との間で燃焼する、アーク放電によって、前記溶接位置において溶融される、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの電極(EA、EB)のために、非消耗電極が提供され、
その際、前記ワークピース(6)における溶接位置(15)に、添加物質が供給され、且つ、
その際、溶接継ぎ目を形成するために、前記添加物質が、
それぞれの前記溶接プロセスによって制御された前記非消耗電極と前記ワークピース(6)との間で燃焼する、アーク放電によって、
前記溶接位置において溶融される、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
電極(EA、EB)の少なくとも1つの溶接プロセスのために、
パルス溶接プロセス、可逆運動する溶接ワイヤー送給を含む溶接プロセス、スプレーアーク放電溶接プロセス、回転アーク放電を含む溶接プロセス、または、ショートアーク放電溶接プロセスが使用されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
電気的な溶接パラメータ(Pi)として、
溶接プロセスの、溶接電流(IA、IB)、溶接電圧(UA、UB)、溶接抵抗、または、周期時間(tSA、tSB)、または、この溶接プロセスの、溶接サイクル(SA、SB)のパルス周波数(fA、fB)が使用され、または、これらから導き出された量、有利には溶接電力(PSA、PSB)が使用されること、及び/または、
検査パラメータとして、検査電圧(Uip)、検査電流、または、これらから導き出された量が提供されること、
を特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの電極(EA、EB)において、
電流制御溶接プロセスが使用され、この電流制御溶接プロセスにおいて、前記溶接電流回路の溶接電流(IA、IB)が調節され、または、
電圧制御溶接プロセスが使用され、この電圧制御溶接プロセスにおいて、前記溶接電流回路の溶接電圧(UA、UB)が調節され、
その際、前記導電性の接続(20)を認識するために、
前記電流制御溶接プロセスにおいて、前記溶接電流(IA、IB)と異なる電気的な溶接パラメータ(Pi)が検出され、および、
前記電圧制御溶接プロセスにおいて、前記溶接電圧(UA、UB)と異なる電気的な溶接パラメータ(Pi)が検出される、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記複式溶接法の開始の前または終了の後の、少なくとも2つの前記溶接電流回路の間の前記導電性の接続(20)の認識の際に、有利には、アナログ、デジタル、音響的、視覚的、または、触覚的な信号が生成されること、及び/または、
実施される前記複式溶接法の間の、少なくとも2つの前記溶接電流回路の間の前記導電性の接続(20)の認識の際に、この複式溶接法が中断され、及び/または、有利には、アナログ、デジタル、音響的、視覚的、または、触覚的な信号が生成されること、
を特徴とする請求項1から6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
複式溶接法を実施するための溶接装置(1)であって、
その際、この溶接装置(1)内において、それぞれ1つの固有の溶接電流回路とそれぞれ1つの制御ユニット(9A、9B)とを有する、少なくとも2つの電極(EA、EB)が設けられており、
その際、これら制御ユニット(9A、9B)が、ワークピース(6)においてそれぞれ1つの溶接プロセスを前記電極によって実施するために、前記電極(EA、EB)の前記溶接電流回路を制御するために設けられている、
上記溶接装置(1)において、
少なくとも1つの電極(EA、EB)の前記制御ユニット(9A、9B)が、
前記複式溶接法の開始の前または終了の後に、検査パラメータをそれぞれの前記電極(EA、EB)の前記溶接電流回路に賦与するために設けられていること、および、
少なくとも1つの他の電極(EA、EB)の前記制御ユニット(9A、9B)が、
それぞれの前記電極(EA、EB)の前記溶接電流回路内における、少なくとも1つの電気的な溶接パラメータ(Pi)を検出するために設けられており、および、その際、前記溶接装置(1)が、検出された前記溶接パラメータ(Pi)が検査パラメータによって影響されており且つ予め与えられた検査基準が満たされている場合、少なくとも2つの前記溶接電流回路の間の導電性の接続(20)を認識するために、設けられていること、
または、
少なくとも2つの前記電極(EA、EB)の前記制御ユニット(9A、9B)が、
前記複式溶接法の間じゅう、前記制御ユニットの溶接電流回路内におけるそれぞれに少なくとも1つの電気的な溶接パラメータ(Pi)を検出するために設けられており、および、
前記溶接装置(1)が、
検出された前記溶接パラメータ(Pi)が同時に変化した場合、少なくとも2つの前記溶接電流回路の間の導電性の接続(20)を認識するために設けられている、
ことを特徴とする溶接装置(1)。
【請求項9】
同期化情報(Y)をやり取りするために、前記制御ユニット(9A、9B)は、通信接続(11)を用いて互いに接続されており、その際、少なくとも1つの他の電極(EA、EB)の前記制御ユニット(9A、9B)が、少なくとも2つの前記溶接電流回路の間の前記導電性の接続(20)を認識するために設けられていること、
または、
前記溶接装置(1)内において、少なくとも2つの前記溶接電流回路の間の前記導電性の接続(20)の認識のための検査ユニットが設けられており、この検査ユニットが、前記制御ユニット(9A、9B)と接続されていること、
を特徴とする請求項8に記載の溶接装置(1)。
【請求項10】
少なくとも1つの電極(EA、EB)として、溶接ワイヤー(3A、3B)の形態での消耗電極が設けられており、
その際、前記溶接ワイヤー(3A、3B)を前記ワークピース(6)における溶接位置に供給するために、前記溶接装置(1)において、溶接ワイヤー送給ユニット(14A、14B)が設けられていること、および、
溶接継ぎ目を形成するために、前記溶接ワイヤー(3A、3B)をこの溶接ワイヤーと前記ワークピース(6)との間で燃焼するアーク放電を用いて溶接位置において溶融するための、前記溶接プロセスを制御するための、前記消耗電極の前記制御ユニット(9A、9B)が設けられていること、
を特徴とする請求項8または9に記載の溶接装置(1)。
【請求項11】
少なくとも1つの電極(EA、EB)として、非消耗電極が設けられており、
その際、添加物質を前記ワークピース(6)における溶接位置に供給するために、前記溶接装置(1)において、供給ユニットが設けられていること、および、
溶接継ぎ目を形成するために、前記添加物質を前記非消耗電極と前記ワークピース(6)との間で燃焼するアーク放電を用いて溶接位置において溶融するための、前記溶接プロセスを制御するための、前記非消耗電極の前記制御ユニット(9A、9B)が設けられていること、
を特徴とする請求項8から10のいずれか一つに記載の溶接装置(1)。
【請求項12】
電気的な溶接パラメータ(Pi)として、
溶接プロセスの、溶接電流(IA、IB)、溶接電圧(UA、UB)、溶接抵抗、または、周期時間(tSA、tSB)、または、この溶接プロセスの、溶接サイクル(SA、SB)のパルス周波数(fA、fB)が提供され、または、これらから導き出された量、有利には溶接電力(PSA、PSB)が提供されること、及び/または、
検査パラメータとして、検査電圧(Uip)、検査電流、または、これらから導き出された量が提供されること、
ことを特徴とする請求項8から11のいずれか一つに記載の溶接装置(1)。
【請求項13】
その電流制御溶接プロセスにおいて前記溶接電流回路の溶接電流(IA、IB)が調節される、該電流制御溶接プロセスを実施するため、または、その電圧制御溶接プロセスにおいて前記溶接電流回路の溶接電圧(UA、UB)が調節される該電圧制御溶接プロセスを実施するために、
少なくとも1つの電極(EA、EB)の前記制御ユニット(9A、9B)が設けられており、
その際、少なくとも2つの前記溶接電流回路の間の前記導電性の接続(20)の認識のための、検出された前記溶接パラメータ(Pi)が、
前記電流制御溶接プロセスにおいて、前記溶接電流(IA、IB)と異なる電気的な溶接パラメータ(Pi)であり、および、
前記電圧制御溶接プロセスにおいて、前記溶接電圧(UA、UB)と異なる電気的な溶接パラメータ(Pi)である、
ことを特徴とする請求項8から12のいずれか一つに記載の溶接装置(1)。
【請求項14】
少なくとも2つの電極(EA、EB)は、共通の溶接トーチ(4)において配置されており、その際、前記溶接トーチ(4)が、手動で、または、遠隔操作装置によって、前記ワークピース(6)に対して相対的に移動可能であること、及び/または、
少なくとも2つの電極(EA、EB)が、それぞれに、別個の溶接トーチ(4A、4B)において配置されており、その際、前記溶接トーチ(4A、4B)が、手動で、または、遠隔操作装置によって、前記ワークピース(6)に対して相対的に、および、互いに相対的に移動可能であること、
を特徴とする請求項8から13のいずれか一つに記載の溶接装置(1)。
【請求項15】
有利にはアナログ、デジタル、音響的、視覚的、または、触覚的な信号によって、少なくとも2つの前記溶接電流回路の間の導電性の接続(20)の認識及び/または非認識を信号で知らせるために、前記溶接装置(1)内において信号ユニットが設けられている、
ことを特徴とする請求項8から14のいずれか一つに記載の溶接装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複式溶接法(Mehrfach-Schweissverfahren)を実施するための方法に関し、この方法の場合、ワークピースにおいて、それぞれに1つの溶接電流回路を有する少なくとも2つの電極によって、それぞれ1つの溶接プロセスが実施される。更に、本発明は、複式溶接法を実施するための溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、一連の慣用の溶接方法は従来技術において存在する。例えば、金属保護ガス溶接プロセス(MSG)は、長年にわたって公知である。例えば、金属不活性ガス溶接(MIG)、または、同様に金属活性ガス溶接(MAG)も、この一部として見なされ、この金属活性ガス溶接の場合、金属の電極材料から成る消耗電極が、いわゆるシールドガスによって囲繞される。
金属保護ガス溶接プロセスは、通常、基礎材料の上に溶接継ぎ目を付着する(肉盛溶接)ことのために使用されるか、または、2つの基礎材料を接合する(接合溶接)ことのために使用される。両方の場合において、電圧、もしくは、この電圧から結果として生じる電流を用いて、アーク放電が、電極と基礎材料との間で点火され、このアーク放電が、電極、および、このアーク放電を囲繞する基礎材料の領域を溶融し、このことによって、材料構造一体的な接合が形成される。
電極材料として、通常、基礎材料と同じか、または、類似の材料が使用される。電極は、所定の電極送給速度でもって溶接位置に供給され、その際、この電極送給速度が、例えば手動の溶接の際に手によって、または、同様に他のパラメータ、例えばその溶接速度でもって電極が基礎材料に対して相対的に移動される該溶接速度に依存して、または、電流、等に依存して、不変に予め与えられ得る。
【0003】
シールドガスは、基本的に酸化作用を回避するために、アーク放電と溶融物の領域を、大気雰囲気から遮蔽することのために利用される。シールドガスとして、不活性ガス(MIG)または活性ガス(MAG)が使用される。不活性ガス、例えばヘリウム(He)またはアルゴン(Ar)は、如何なる化学的な反応も溶融物と起こさない、そのようなガスである。MIG方法は、主に、非鉄金属および高合金鋼のために利用される。
例えば二酸化炭素(CO2)または酸素(O)のような、活性ガスは、反応的なガスであり、これら反応的なガスが、溶融物の組成を意図的に変化させるために使用される。これら反応的なガスは、有利には、非合金の、且つ、低合金の鋼のために使用される。
【0004】
更に別の公知の溶接方法は、いわゆるタングステン不活性ガス溶接(WIG溶接、または、英語の用語法において、タングステン不活性ガス溶接(TIG)(Wolfram-Inertgas-Schweissen (WIG-Schweissen oder im englischen Sprachgebrauch Tungsten Inert-Gas Welding (TIG)))である。
上述されたMSG方法とは異なり、WIG方法において、極めて高い溶融点を有するタングステン電極が使用され、従って、この電極は溶接の際に溶融しない。溶接添加材料は、それに応じて、別個に、ワイヤー形状の添付物質の形態で、溶接位置に供給される。溶接添加材料は、タングステン電極と基礎材料との間で燃焼するアーク放電内において溶融される。シールドガスとして、MIG方法においてと類似の不活性ガスが使用される。
【0005】
例えば、溶融性能を向上するため、または、異なる添付物質を溶接位置に供給可能とするために、従来技術において、複式溶接法が公知である。例えば、特許文献1は、タンデム-MSG溶接法(Tandem-MSG-Schweissverfahren)を示しており、この方法において、消耗電極としての、互いに平行に延びる複数の溶接ワイヤーが、共通の溶接トーチに供給される。
これら溶接ワイヤーは、電気的に互いに分離されており、且つ、それぞれに、いわゆる接触管内において導かれる。それぞれの溶接ワイヤーは、溶接位置への溶接ワイヤーの供給のための別個の送給ユニットと、溶接電源を有する固有の溶接電流回路とを有している。このことによって、それぞれの溶接ワイヤーによって、基本的に、それぞれに他の溶接ワイヤーに依存しない、固有の溶接プロセスが実施され得る。
このことによって、溶融性能は、ただ1つだけの溶接ワイヤーでもっての従来のMSG溶接法との比較において、向上され得る。この複式溶接法内において、しかしながら言うまでも無く、同様に2つより多くの溶接プロセスも実施され得る。
【0006】
所定の溶接プロセスを電極において実施するために、通常、所定の溶接パラメータが溶接機器において、例えば1つの溶接機器の適当な制御ユニットによって調節される。そのような溶接パラメータは、例えば、溶接電圧、溶接電流、および、消耗電極(MIG/MAG)または添付物質(WIG)の溶接ワイヤー送給速度であり、その際、複式溶接法の異なる溶接プロセスのために、異なる溶接パラメータが調節され得る。
溶接機器が、同様に電気的な測定量、例えば溶接電圧、溶接電流、または、溶接電流回路の電気的な抵抗を、溶接プロセスの実施の間じゅう検出することも可能である。
【0007】
溶接プロセスを監視、制御、もしくは調節するために、検出された測定量は、その場合に、溶接機器によって処理される。1つの溶接機器によって実施される、公知の溶接プロセスは、例えば、パルス溶接プロセス、ショートアーク放電溶接プロセス、または、可逆運動するワイヤー電極でもってのショートアーク放電溶接プロセス(例えば、いわゆる冷金属移動溶接プロセス)であり、その際、言うまでも無く、同様に、例えば、スプレーアーク放電溶接プロセス、混合プロセス、回転アーク放電を含む溶接プロセス、等のような、更に別の溶接プロセスも存在する。
上述された溶接プロセスにおいて、周期的な所定の溶接電流変化が、それぞれの溶接電流回路内において行われ得、この溶接電流変化は、消耗電極または添付物質の改善された滴剥離を誘起する。
【0008】
そのような複式溶接法における慣用の問題は、2つまたは複数の、密に相並んで配置された電極の間の溶接スパッターによって条件付けられて、溶接電極(MSG)または添付物質(WIG)の材料から成る、いわゆるスパッター橋絡が、形成され得ることである。これらスパッター橋絡は、上述されたタンデム溶接プロセスにおいて、例えば、溶接トーチの隣接する接触管の間で形成され、この接触管を通って溶接ワイヤーが案内される。
このことは、さもなければ電気的に互いに絶縁されている接触管の間の所望されない電気的な接続状態になること、および、両方の分離された溶接電流回路の導電性の接続の状態になることを誘起し、このことは、過度に不安定な溶接プロセスを誘起する可能性がある。
上記のことによっての結果は、例えば、如何なる保証された滴剥離も、もはや行われないということであり、このことは、低減された溶接品質を誘起する可能性がある。
【0009】
特許文献2および特許文献3は、単式溶接トーチにおける、接触スリーブと、この接触スリーブを囲繞するガスノズルとの間の短絡の検知のための方法を開示している。この方法は、比較的に手間暇がかかる。何故ならば、固有の電源を有する別個の検知回路が必要であるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第97/45227A1号
【文献】特開平8-276274A号公報
【文献】特開昭59-156578A号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
それ故に、本発明の課題は、複式溶接法を実施するための方法、並びに、複式溶接法を実施するための、少なくとも2つの電極を有する溶接装置を提供することであり、これら方法および溶接装置が、可能な限り不変の溶接品質、および、安定的な溶接プロセスを保証する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、本発明に従い、
前記複式溶接法の開始の前または終了の後に、
検査パラメータが、少なくとも2つの前記溶接電流回路の内の1つの溶接電流回路に賦与され、且つ、少なくとも1つの他の溶接電流回路内において、少なくとも1つの電気的な溶接パラメータが検出され、その際、検出された前記溶接パラメータが検査パラメータによって影響を及ぼされ且つ予め与えられた検査基準を満たす場合、少なくとも2つの溶接電流回路の間の導電性の接続が認識されること、
または、
前記複式溶接法の間じゅう、
それぞれの前記溶接電流回路内において、少なくとも1つの電気的な溶接パラメータが検出され、その際、検出された前記溶接パラメータが同時に変化した場合、少なくとも2つの前記溶接電流回路の間の導電性の接続が認識されること、
によって解決される。
このことによって、2つの溶接電流回路の間の導電性の接続は、高い信頼性で認識され得、この導電性の接続が、例えば、溶接プロセスの間じゅう、2つの電極の間で、溶接スパッターから形成されるスパッター橋絡によって生成する。
【発明の効果】
【0013】
有利には、少なくとも1つの電極のために、溶接ワイヤーの形態での消耗電極が提供され、
その際、前記溶接ワイヤーが、
前記ワークピースにおける溶接位置に供給され、且つ、
溶接継ぎ目を形成するために、それぞれの前記溶接プロセスによって制御された、前記溶接ワイヤーと前記ワークピースとの間で燃焼する、アーク放電によって、前記溶接位置において溶融される。
このことによって、1つまたは複数の電極において、例えば、公知のMIG/MAG溶接法が実施され得る。
【0014】
更に、少なくとも1つの電極のために、非消耗電極が提供され、
その際、前記ワークピースにおける溶接位置に、添加物質が供給され、且つ、
その際、溶接継ぎ目を形成するために、前記添加物質が、
それぞれの前記溶接プロセスによって制御された前記非消耗電極と前記ワークピースとの間で燃焼する、アーク放電によって、
前記溶接位置において溶融される場合、有利である。
このことによって、1つまたは複数の電極において、例えば、公知のWIG溶接法が実施され得る。
【0015】
電極の少なくとも1つの溶接プロセスのために、有利には、
パルス溶接プロセス、可逆運動する溶接ワイヤー送給を含む溶接プロセス、スプレーアーク放電溶接プロセス、回転アーク放電を含む溶接プロセス、または、ショートアーク放電溶接プロセスが使用される。
これに伴って、導電性の接続は、最も慣用な溶接プロセスの際に認識され得る。
【0016】
有利には、電気的な溶接パラメータとして、
溶接プロセスの、溶接電流、溶接電圧、溶接抵抗、または、周期時間、または、この溶接プロセスの、溶接サイクルのパルス周波数が使用され、または、これらから導き出された量、有利には溶接電力が使用され、及び/または、
検査パラメータとして、検査電圧、検査電流、または、これらから導き出された量が提供される。
これに伴って、スパッター橋絡を検知するために、簡単な方法で、公知の量が、溶接パラメータ及び/または検査パラメータとして使用され得る。
【0017】
少なくとも1つの電極において、
電流制御溶接プロセスが使用され、この電流制御溶接プロセスにおいて、前記溶接電流回路の溶接電流が調節され、または、
電圧制御溶接プロセスが使用され、この電圧制御溶接プロセスにおいて、前記溶接電流回路の溶接電圧が調節される場合、
その際、前記導電性の接続を認識するために、
前記電流制御溶接プロセスにおいて、前記溶接電流と異なる電気的な溶接パラメータが検出され、および、
前記電圧制御溶接プロセスにおいて、前記溶接電圧と異なる電気的な溶接パラメータが検出される場合、有利である。
このことによって、スパッター橋絡の認識のために、調節に基づいて事情によっては変化しないかまたはただ少しだけ変化する溶接パラメータが、援用され得ることは回避され得る。
【0018】
前記複式溶接法の開始の前または終了の後の、少なくとも2つの前記溶接電流回路の間の前記導電性の接続の認識の際に、有利には、アナログ、デジタル、音響的、視覚的、または、触覚的な信号が生成され、及び/または、
実施される前記複式溶接法の間の、少なくとも2つの前記溶接電流回路の間の前記導電性の接続の認識の際に、この複式溶接法が中断され、及び/または、有利には、アナログ、デジタル、音響的、視覚的、または、触覚的な信号が生成される場合、有利である。
このことによって、使用者、または、例えば溶接ロボットのような上位の制御装置に、導電性の接続の存在信号で知らせることは可能である。使用者、溶接ロボット、等が、その場合に、相応して適当な措置を講じる、例えば溶接装置の洗浄を行うことは可能である。
【0019】
この課題は、更に、溶接装置によって、
少なくとも1つの電極の前記制御ユニットが、
前記複式溶接法の開始の前または終了の後に、検査パラメータをそれぞれの前記電極の前記溶接電流回路に賦与するために設けられていること、および、
少なくとも1つの他の電極の前記制御ユニットが、
それぞれの前記電極の前記溶接電流回路内における、少なくとも1つの電気的な溶接パラメータを検出するために設けられており、および、その際、前記溶接装置が、検出された前記溶接パラメータが検査パラメータによって影響されており且つ予め与えられた検査基準が満たされている場合、少なくとも2つの前記溶接電流回路の間の導電性の接続を認識するために設けられていること、
または、
少なくとも2つの前記電極の前記制御ユニットが、
前記複式溶接法の間じゅう、前記制御ユニットの溶接電流回路内におけるそれぞれに少なくとも1つの電気的な溶接パラメータを検出するために設けられていること、および、
前記溶接装置が、
検出された前記溶接パラメータが同時に変化した場合、少なくとも2つの前記溶接電流回路の間の導電性の接続を認識するために設けられていること、
によって解決される。
【0020】
本発明を、以下で、例示的、概略的、および、限定すること無しに、本発明の有利な実施形態を示している、図1から4までとの関連のもとで詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】複式溶接法を実施するための、2つの電極を有する溶接トーチの基本的な構造の図である。
図2】本発明に従う方法の第1の実施形態における、両方の電極の溶接電流回路の、溶接電圧の時間的な経過の図である。
図3】本発明に従う方法の第2の実施形態における、両方の電極の溶接電流回路の、溶接パラメータPiの時間的な経過の図である。
図4】溶接装置の電気的な等価回路の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1内において、相互に依存しない2つの溶接機器A、Bを有する溶接装置1が、簡略化されて図示されている。溶接機器A、Bは、ここで、消耗電極を有する溶接機器として構成されている(MIG/MAG溶接)。基本的に、しかしながら同様に、非消耗電極を有する1つまたは複数の溶接機器(WIG溶接)が、添加材料の自動的な溶接ワイヤー送給装置と共に使用されることも可能である。
示された実施例において、両方の溶接機器A、Bによって、それぞれ1つの溶接プロセスが、共通のワークピース6において実施される。言うまでも無く、同様に2つよりも多くの溶接機器A、Bが設けられていることも可能であり、本発明の理解のために、2つの溶接機器A、Bの配置は、しかしながら十分である。
溶接機器A、Bが、同様に、必ずしも別個のユニットとして構成されている必要はなく、むしろ、2つ(または複数)の溶接機器A、Bが、例えば、共通の1つのハウジング内において配置されていることも同様に考慮可能である。このことで、しかしながら、それぞれの溶接機器A、Bが、自体、溶接プロセスの実施のための自身の溶接電流回路を形成することは、何ら変わらない。
【0023】
溶接機器A、Bは、それぞれ1つの溶接電源2A、2Bと、それぞれ1つの溶接ワイヤー送給ユニット14A、14Bと、並びに、共通の溶接トーチ4(MIG/MAG溶接機器)とを有しており、この溶接トーチに電極が配置されている。
溶接電源2A、2Bは、それぞれに、必要とされる溶接電圧UA、UBを提供し、この溶接電圧が、それぞれに、接触管18A、18Bを介して、消耗電極としての溶接ワイヤー3A、3Bに、(または、例えばWIG溶接のような、非消耗電極でもっての溶接方法の場合に、非消耗電極に)印加される。溶接ワイヤー3A、3Bは、共通の溶接トーチ4に、溶接ワイヤー送給ユニット14A、14Bを用いて、所定の溶接ワイヤー送給速度vA、vBでもって供給される。
【0024】
この供給は、例えば、ホースパッケージ5A、5Bの内部で、または、同様にこのホースパッケージの外部でも行われ得る。
溶接ワイヤー送給ユニット14A、14Bが、それぞれに、溶接機器A、B内において統合されていることは可能であり、しかしながら、図1内において図示されているように、同様に別個のユニットであることも可能である。溶接ワイヤー送給ユニット14A、14Bの内部に、例えば、ワイヤー巻体16A、16Bが設けられていることは可能であり、このワイヤー巻体に、溶接ワイヤー3A、3Bが巻き付けられている。
溶接ワイヤー3A、3Bは、しかしながら、例えば、同様に、例えば樽形容器のような容器内において配置されており、且つ、その容器から溶接トーチ4に供給されることも可能である。更に、溶接ワイヤー3A、3Bをワイヤー巻体16A、16Bから、または、容器から巻き出すため、および、溶接トーチ4に所定の溶接ワイヤー送給速度vA、vBでもって供給するために、制御ユニット9A、9Bによって制御される適当な駆動ユニット17A、17Bが設けられていることは可能である。
【0025】
溶接プロセスの実施のために、ここで稲妻矢印によって図示されているように、それぞれ1つのアーク放電が、溶接ワイヤー3A、3Bとワークピース6との間で点火される。アーク放電によって、一方では、ワークピース6の材料が局部的に溶融され、且つ、いわゆる溶融池15が生成される。
他方では、溶接添加物質(ここで、消耗電極としての溶接ワイヤー3A、3B)をワークピース6の上に付与するために、溶接ワイヤー3A、3Bは、所定の溶接ワイヤー送給速度vA、vBによって溶融池15に供給され、且つ、アーク放電によって溶融される。ワークピース6に対して相対的な溶接トーチ4の移動の際に、このことによって、溶接継ぎ目が(図1内において、例えば図示平面に対して法線方向に)形成され得る。
【0026】
それぞれのホースパッケージ5A、5B内において、場合によっては、同様に更に別の導管(例えば、図示されていない制御導線または冷却剤導管)が、溶接機器A、Bと溶接トーチ4との間で設けられていることも可能である。
溶融池15をシールドガスつり鐘状体19によって、周囲空気、特にこの周囲空気の中に含有される酸素から遮蔽するため、および、酸化作用を回避するために、大抵の場合にシールドガスが使用される。その際、通常、不活性ガス(例えば、アルゴン)、活性ガス(例えば、二酸化炭素)、または、これらの混合物が使用され、これらが、溶接トーチ4に、同様に、それぞれのホースパッケージ5A、5Bを介して、適当なシールドガス導管12A、12Bを用いて供給され得る。
シールドガスは、通常、別個の(圧力)容器7A、7B内において収納されており、これらシールドガスが、例えば、適当な導管を介して、溶接機器A、B(または、直接的に溶接トーチ4)に供給され得る。同じシールドガスの使用の際に、同様に共通の容器が、両方(全て)の溶接機器A、Bのために設けられていることも可能である。言うまでも無く、場合によっては、同様にシールドガス無しに溶接されることも可能である。
ホースパッケージ5A、5Bが、溶接トーチ4に対して、および、溶接機器A、Bにおいて、例えば適当な継手を介して連結されることは可能である。
【0027】
溶接機器A、Bのそれぞれ1つの溶接電流回路を形成するために、溶接電源2A、2Bは、それぞれに、接地導線8A、8Bによって、ワークピース6と接続されている。溶接電源2A、2Bの一方の極、通常、陰極は、接地導線8A、8Bと接続されている。溶接電源2A、2Bの他方の極、通常、陽極は、適当な電線13A,13Bを介して、接触管18A、18Bと接続されている、または、その逆もまたその通りである。
その接触管を通ってそれぞれに溶接ワイヤー3A、3Bが案内される該接触管18A、18Bは、溶融されるべき電極EA,EB(もしくは、溶接ワイヤー3A、3B)へと電流を伝送する。これに伴って、それぞれの溶接プロセスのために、アーク放電とワークピース6とを介して、1つの溶接電流回路が形成される。
【0028】
溶接機器A、B内において、同様にそれぞれ1つの制御ユニット9A、9Bも設けられており、この制御ユニットは、それぞれの溶接プロセスを、それぞれの溶接ワイヤー送給をも含めて制御および監視する。この目的のために、制御ユニット9A、9B内において、溶接プロセスのために必要な、例えば、所定の溶接ワイヤー送給速度vA、vB、溶接電流IA、IB、溶接電圧UA、UB、パルス流継続期間、等のような、溶接パラメータが予め与えられているか、または、調節可能である。
溶接プロセスの制御のために、制御ユニット9A、9Bは、溶接電源2A、2B、および、溶接ワイヤー送給ユニット14A、14B(例えば、特に駆動ユニット17A、17B)と接続されている。
【0029】
特定の溶接パラメータPiまたは溶接ステータスの入力または表示のために、同様に制御ユニット9A、9Bと接続されたユーザインターフェース10A、10Bが設けられていることも可能である。更に、同様に、適当な(図示されていない)インターフェースが、溶接機器A、Bにおいて設けられていることは可能であり、このインターフェースを介して、この溶接機器A、Bは、外部の制御ユニットと接続され得、この外部の制御ユニットを介して、溶接機器A、Bが制御される。
例えば、(図示されていない)中央の制御ユニットが設けられていることは可能であり、この制御ユニットが、両方の溶接機器A、B(または、複数の溶接機器)と接続されており、且つ、これら溶接機器を介して、これら溶接機器A、Bの溶接パラメータが制御され得る。これら説明された溶接機器A、Bは、言うまでも無く十分に公知であり、その理由で、ここで、このことに、もはやより詳細には立ち入らない。
【0030】
図示されている例示内における共通の溶接トーチ4は、少なくとも2つの電極EA,EBが、予め与えられた位置において、互いに相対的に、強固にこの溶接トーチ4において配置されているように構成されており、従って、溶接ワイヤー3A、3Bが、共通の溶融池15に供給される。溶接トーチ4は、しかしながら、同様に、溶接ワイヤー3A、3Bが、ワークピース6において、図1内において図示されているように、1つの共通の溶融池15に作用する代わりに、分離された2つの溶融池に作用するように構成されていることも可能である。
図1内において破線で示唆されているように、しかしながら、同様に別個の2つの溶接トーチ4A、4Bが設けられていることも可能であり、これら溶接トーチが、互いに相対的に、固定してまたは移動可能に配置されている。
【0031】
例えば、両方の溶接トーチ4A、4Bが、両方の溶接トーチ4A、4Bを案内する(図示されていない)溶接ロボットに配置されていることも可能である。この配置は、しかしながら、例えばそれぞれに1つの溶接トーチ4A、4Bが1つの溶接ロボットによって案内されるというやり方で、同様に変化可能でもある。1つの溶接ロボットに代えて、言うまでも無く、同様に他の適当な1つの遠隔操作装置、例えば有利には移動が複数の、有利には3つの、軸線において可能である一種のガントリークレーンが設けられていることも可能である。
その際、これら溶接トーチ4、4A,4Bによって、接合溶接、または、肉盛溶接、または、その他の溶接方法が実現されるかどうかは関係ない。言うまでも無く、同様に手による手動式の溶接も可能である。
【0032】
溶接機器A、Bの制御ユニット9A、9Bは、有利には、通信接続11を用いて接続されており、この通信接続を介して、同期化情報Yが、片側でまたは交互に、これら溶接機器AとBとの間で取り交わされ得る。
この通信接続11が、例えば、制御ユニット9Aと9Bとの間、または、ユーザインターフェース10Aと10Bとの間の、導線接続されたまたは無線式の接続、例えば十分に公知であるデータバスであることは可能である。例えば、溶接機器A、B、及び/または、溶接トーチ4を移動する溶接ロボット(または、複数の溶接トーチ4A、4Bのための複数の溶接ロボット)が、互いに、適当な(図示されていない)通信接続を介して通信すること、および、中央の制御ユニットに接続されていることは可能である。
【0033】
同期化情報Yは、例えば、溶接機器A、Bによって実施される溶接プロセスの溶接パラメータPiに関する情報、例えば、溶接電圧UA、UB、溶接電流IA、IB、所定の溶接ワイヤー送給速度vA、vBの大きさまたは時間的な経過に関する情報、または、例えば、パルス溶接プロセスの周期時間またはパルス周波数、等の情報を含んでいる。
同期化情報Yのやり取りによって、制御ユニット9A、9Bは、それぞれに異なる制御ユニット9A、9Bの関連した溶接パラメータPiを認識し、このことによって、実施された溶接プロセスが、例えば時間的に互いに適合され得る。
例えば、両方の電極において、同一の溶接プロセスが、定量的に同一の溶接パラメータによって実施され得、これら溶接パラメータがただ相推移に関してだけ時間的に相互に位置ずれしている。
【0034】
通信接続11は、本発明のために、しかしながら、ただ選択的であるだけであり、且つ、例えば有利には、両方の溶接機器A、Bによってそれぞれ1つのパルス溶接プロセスが実施される場合に設けられている。制御ユニット9Aと、9Bとの間の同期化情報Yのやり取りによって、パルス溶接プロセス(このパルス溶接プロセスが同様に異なる溶接パラメータPiを有することも可能である)は、互いに同期化される。
例えば、スプレーアーク放電プロセス(Spruehlichtbogenprozesse)のような、他の溶接プロセスにおいて、両方のスプレーアーク放電プロセスを互いに適合させることは、必ずしも必要ではない。通信接続11が、この場合に、それ故に、同様に省略されることも可能である。
両方(または複数)の溶接機器A、Bによって、しかしながらそれぞれに異なる溶接プロセスが実施され得る場合に(このことは通常の状況である)、しかしながら、通信接続11が、溶接機器A、B、...nの制御ユニット9A、9B、...nの間に設けられている場合は有利である(nは、一般的な指数であり、且つ、個々の溶接機器の数である)。通信接続11は、その場合に、有利な方法で、同様に導電性の接続20の認識のための本発明に従う方法のためにも使用され得る。
【0035】
溶接の間じゅう、通常、溶接スパッターが形成され、この溶接スパッターは、溶融池15から解離し、且つ、溶接トーチ4の方向に移動する。これら溶接スパッターは、例えば、接触管18A、18Bにおいて付着して離れず、且つ、凝固する可能性がある。そのような溶接スパッターが、溶融された金属から成る液滴であり、且つ、例えば、ワークピース6の材料及び/または溶接ワイヤー3A、3Bの材料から成る混合物であることは可能である。
接触管18A、18Bにおける、溶接スパッターのそのような付着は、基本的に問題ない。但し、しばらくの時間の後、例えば多くの比較的に長い溶接作業の後、図1内において示唆されているように、1つまたは複数の、いわゆるスパッター橋絡(Spritzer-Bruecken)が、溶接トーチ4における接触管18Aと、18Bとの間(または、電極の他の導電性の部分の間)で形成することは誘起される可能性がある。そのようなスパッター橋絡は、通常は電気的に互いに絶縁された(ここで2つの)電極EA,EBの溶接電流回路の間の導電性の接続20を誘起する可能性がある。
そのような導電性の接続20は、言うまでも無く、所望されない。何故ならば、この導電性の接続が、1つまたは複数の電極EA,EBにおける不安定な溶接プロセスを誘起する可能性があるからである。本発明に従う方法により、そのような導電性の接続20は、以下で図2および図3に基づいて更に詳細に説明されるように、効果的に認識され得る。
【0036】
図2内において、本発明の第1の実施形態が、時間tに対する、(ここで)2つの溶接電流回路の電圧Uiのグラフ(iは一般的な指数であり、個々の溶接電流回路のためのものである)に基づいて図示されている。
この第1の実施形態に従い、複式溶接法の開始の前または終了の後(即ち、この複式溶接法の間じゅうではない)、検査パラメータは、少なくとも2つの溶接電流回路の内の1つの溶接電流回路に賦与される。この検査パラメータが、その際、例えば所定の予め与えられた電気的な量、特に、検査電圧Uip、検査電流、または、同様にこれらから導き出された量であることは可能である。検査電圧Uipとして、その際、例えば、開回路電圧UiLL、他の一定の、確定された高さの電圧Ui、または、同様に電圧Uiの適宜の確定された時間的な経過U(t)、例えば正弦波形状またはパルス形状の経過、等々であることは可能である。
開回路電圧UiLLは、例えば基本的に、如何なる負荷も溶接電流回路内において作用しないこと、即ち如何なるアーク放電も点火されないこと、によって特徴付けられている。類似した方法で、言うまでも無く、同様に他の一定の、または、時間的に可変の電気的な量も、検査パラメータとして使用され得る。
【0037】
示された例示において、検査パラメータとして、ここで開回路電圧UALLの形態での検査電圧Uipは、第1の溶接機器Aの溶接電流回路に対して賦与され、
言うまでも無く、しかしながら、同様に、(図示されていない)検査パラメータ(または他の検査パラメータ)が、第2の溶接機器Bの溶接電流回路に対して、(または、溶接装置1が2つよりも多くの電極もしくは溶接機器を有している場合に、更に別の溶接機器の溶接電流回路に対して)も賦与され得る。
それぞれに少なくとも1つの他の溶接電流回路内、ここで溶接機器Bの溶接電流回路内において、この溶接電流回路の少なくとも1つの電気的な溶接パラメータPi、ここで例えば電圧UBが検出され、その際、選択的に、同様に、電流、または、電気的な抵抗、または、他の適当な電気的な溶接パラメータも検出され得る。
電気的な溶接パラメータPiが、例えば、同様に、他の溶接パラメータPiから導き出された量、例えば溶接電力PSi=Ui×Ii、であることも可能である。
【0038】
しばしば、溶接プロセスの制御/調節のために、元来、それぞれの溶接電流回路内における溶接パラメータPiは検出され、且つ、制御ユニットによって処理され、従って、この場合、如何なる別個の測定装置も必要ではない。言うまでも無く、この検出は、しかしながら、例えば、適当な測定装置によって行われ得、この測定装置が、それぞれの制御ユニット9A、9Bと情報伝達する。
【0039】
少なくとも2つの溶接電流回路の間の導電性の接続20は、検出された溶接パラメータPi(ここで、溶接電圧UB)が、所定の検査基準を、検査パラメータに対する応答において(ここで、例えば、検査電圧Uipとしての開回路電圧UALLに対する応答において)満たす場合に認識される。
図示された例示において、検査基準として、所定の予め与えられた閾値WS(ここで、閾値電圧UBS)が提供されており、且つ、この閾値WSが到達または超過された場合、導電性の接続20が認識される。検査基準として、しかしながら、同様に、検査パラメータの関数、ここで例えば開回路電圧UALLの関数f(Uip)が、検査電圧Uipとして提供されていることも可能であり、この検査電圧が、導電性の接続20を検知するために満たす必要がある。
【0040】
例えば、同様に、電極(例えば、溶接ワイヤー3A)がワークピース6に接触し、他の(1つまたは複数の)電極(ここで例えば、溶接ワイヤー3B)がこのワークピース6に接触しない可能性もある。接触していない電極(溶接ワイヤー3B)の溶接電流回路は、その場合に、例えば、検査パラメータとしての検査電流によって負荷され得る。
通常の場合には(電気的に互いに絶縁された溶接電流回路に基づいて)、その際、如何なる電流も、接触している電極(溶接ワイヤー3A)の溶接電流回路内において流れない。但し、導電性の接続20が、溶接電流回路の間でスパッター橋絡の形態で存在する場合、接触している電極(溶接ワイヤー3A)の溶接電流回路内において電流が流れる。
本発明に従い、この電流は、溶接パラメータPiとして、接触している電極(溶接ワイヤー3A)の溶接電流回路内において、検出され得、且つ、この電流が所定の検査基準(例えば、予め与えられた閾値WSの到達/超過)を満たす場合、導電性の接続20が認識され得る。
【0041】
検査パラメータとして、例えば、同様に、正弦波形状の電圧の形態での検査電圧Uipが溶接電流回路に賦与されることも可能であり、且つ、検査基準として、検出された溶接パラメータPiの期待されるべき正弦波形状の応答が、それぞれの他の溶接電流回路内において、関数f(Uip)として提供されていることは可能である。導電性の接続20は、その溶接電流回路内において溶接パラメータPiが検出される該溶接電流回路の制御ユニット9i(または、1つの適当な測定装置)が予め与えられた検査基準に相応する溶接パラメータPiの経過を確認した場合に、認識される。
通信接続11が制御ユニット9iの間に設けられている場合、しかしながら、例えば同様に、その溶接電流回路に検査パラメータ(ここで、検査電圧Uipとしての開回路電圧UALL)が賦与される該溶接電流回路の制御ユニット9iが、それぞれに他の溶接電流回路内における、検出された溶接パラメータPiを、同期化信号Yとして、通信接続から与えられ、且つ、導電性の接続20を、自体、認識することも可能である。
言うまでも無く、検出された溶接パラメータPiに関する情報を得るために、同様に、(図示されていない)外部の検査ユニットが設けられていることも可能であり、この検査ユニットが、この/これら制御ユニット9iと情報伝達する。これに伴って、導電性の接続20の認識は、検査ユニットによって行われ得る。
【0042】
図示された例示において、検査開始時tsと検査終了時tEとの間で、検査時間間隔ΔtPRが定められている。この検査時間間隔ΔtPRの間じゅう、開回路電圧UALLの形態での検査電圧Uipは、検査パラメータとして、溶接機器Aの溶接電流回路に対して賦与され、且つ、溶接パラメータPi、ここで電圧UBが、それぞれに他の溶接電流回路内において、検出もしくは測定される。
開回路電圧UALLの高さと、検査時間間隔ΔtPRの継続時間とが、例えば制御ユニット9A内において実行される検査プログラムを介して不変にセッティングされていることは可能であり、または、例えばそれぞれのユーザインターフェース10Aを介して提供されることは可能である。
導電性の接続20無しに、1つの溶接電流回路内における開回路電圧UALLは、他の溶接電流回路の溶接電流回路に対して影響を及ぼさない。導電性の接続20によって、それに反して極めて十分であり、その際、影響のタイプおよび効果が、基本的に導電性の接続20のオーム抵抗R20(図4参照)に依存している。
【0043】
(検査基準としての)閾値電圧UBSが到達または超過された場合、このことは、導電性の接続20が両方の溶接電流回路の間に存在し、この導電性の接続が特に溶接トーチ4の接触管18A、18Bの間のスパッター橋絡によって誘起されたことを意味する。
閾値WS、ここで閾値電圧UBSの高さが、言うまでも無く、同様に、例えば制御ユニット9B内において実行される検査プログラム内において、予調節されていることは可能であり、または、同様に例えばユーザインターフェース10Bを介して提供されることも可能である。最も簡単な場合には、例えば、閾値WS=0、ここで閾値電圧UBS=0が提供されることは可能であり、この閾値電圧が、スパッター橋絡を認識するために、超過される必要がある。
導電性の接続20の有効な認識を引き起こすために、例えば、閾値WSが、所定の予め与えられたまたは調節可能な時間の間じゅう一貫して達成される必要があることも、同様に考慮可能である。このことによって、検出された溶接パラメータPiの短いピークが導電性の接続20として認識されることは回避され得、これらピークが、例えば外部の妨害の影響によって引き起こされている可能性がある。
【0044】
その制御ユニットに対して検査パラメータ(ここで、検査電圧Uipとしての開回路電圧UiLL)が賦与される、溶接電流回路の該制御ユニット9i内においてだけ、検査プログラムが実行されていることは、例えば考慮可能である。この検査プログラムは、その場合に、手動で使用者によって開始され得るか、または、有利には、同様に自動的にも開始され得る。例えば、この検査プログラムの自動化された開始は、溶接装置1のそれぞれの始動工程の後に行われ得る。
検査プログラムが開始された場合、制御ユニット9Bに検査プログラムの開始tSを信号で知らせるために、制御ユニット9i(ここで9A)は、例えば相応する同期化情報Yを、少なくとも1つの他の溶接機器(ここでB)の制御ユニット9i(ここで9B)に対して送信する。制御ユニット9Bは、同期化情報Yの受領の際に、有利には遅延の無しに、第2の溶接機器Bの溶接電流回路内における溶接パラメータPi、ここで電圧UBの検出を開始する。
検査プログラムの終了のために、改めて、同期化情報Yが、制御ユニット9Aから制御ユニット9Bに対して送信され得る。このことによって、制御ユニット9Bは、最終時点tEを認識し、且つ、溶接パラメータの検出を終了する。
【0045】
検査基準が満たされない場合、例えば溶接パラメータPi(ここで、溶接電圧UB)の測定された値が予調節された閾値WS(ここで閾値電圧UBS)の下側にある場合、このことは、溶接電流回路の間の如何なる導電性の接続20も、スパッター橋絡によって存在しないことを意味する。これに伴って、検査が複式溶接法の開始の以前に行われている場合、複式溶接法は、例えば、標準的に継続され得る。
閾値WS>0の確定によって、例えば、測定された溶接パラメータPiの十分に小さな値Pi<WSは、導電性の接続20の認識の際に無視され得る。このことによって、例えば、溶接パラメータPiの極めて小さな測定された、例えば電磁的な誘導によって誘起される可能性がある、値は無視され得る。
【0046】
例えば測定された溶接パラメータPiが閾値WSに到達、または、この閾値WSを超過したという理由で、予め与えられた検査基準が満たされている場合、このことは、溶接電流回路の間の導電性の接続20が、スパッター橋絡によって存在することを意味する。
この場合に、複式溶接法が開始される以前に、溶接トーチ4が洗浄される場合、有利である。例えば、洗浄装置を有する洗浄ステーションが設けられていることは可能であり、この洗浄ステーション内に、溶接トーチ4が移動される。このことは、手動で使用者によって、または、有利には自動化されて、例えば溶接ロボットによって行われ得る。
最も簡単な場合には、しかしながら、使用者が溶接トーチ4を視覚的に点検し、且つ、スパッター橋絡を、適当な工具によって、手によって除去することは可能である。特に、時間を重視する溶接作業において、諸事情のもとで、しかしながら、同様に洗浄が省略されることも可能であり、且つ、複式溶接法が、認識されたスパッター橋絡にもかかわらず、場合によっては、より低い溶接品質によって実施されることも可能である。
【0047】
(溶接電流回路の間の導電性の接続20の非認識の趣旨における)有利な検査、及び/または、(溶接電流回路の間の導電性の接続20の認識の趣旨における)不利な検査は、使用者に、有利な方法で、同様に、適当な信号ユニットを用いて、例えば、音響的、視覚的、または、触覚的な信号により、信号で知らせられ得る。
信号ユニットが、その際、例えば溶接装置1内において、例えばランプまたはスピーカー、等の形態で統合されていることは可能である。ユーザインターフェース10A、10Bがディスプレイの形態で構成されている場合、同様に信号通知が、ディスプレイにおいて表示されることも可能である。溶接工に対する、同様に、例えば溶接トーチ4の振動の形態での触覚的な応答も考慮可能である。
しかしながら、同様にアナログまたはデジタルの信号が出力されることも可能であり、この信号が、例えば、それぞれの制御ユニット9A、9Bから、上位の制御ユニットへと送信され、且つ、この上位の制御ユニット、例えば溶接ロボットの制御ユニットによって処理される。溶接ロボットの制御ユニットは、その場合に、この信号に依存して応動し、且つ、例えば、溶接装置1の洗浄工程を着手する。
【0048】
図3内において、本発明の第2の実施形態が、時間tに対する、(ここで)2つの溶接電流回路の溶接パラメータPiとしての溶接電流IA、IBのグラフに基づいて図示されている。
この例示において、両方の溶接機器A、Bによって、それぞれ1つのパルス溶接プロセスが実施され、言うまでも無く、しかしながら、同様に、他の公知の溶接プロセス、例えば、ショートアーク放電溶接プロセス(Kurzlichtbogenschweissprozess)、スプレーアーク放電溶接プロセス(Spruehlichtbogenschweissprozess)、可逆運動する溶接ワイヤー送給を含む溶接プロセス(いわゆる冷金属移動溶接プロセス(Kalt-Metall-Transfer-Schweissprozess))、回転アーク放電を含む溶接プロセス、等も実施され得る。
異なる溶接プロセス、即ち、例えば溶接機器Aによるパルス溶接プロセスと、溶接機器Bによるスプレーアーク放電溶接プロセスとが組み合わされることも、同様に考慮可能である。これら種々の溶接プロセスは、当業者にとって公知である。実線は、溶接機器Aの溶接電流IAの経過を図示しており、マークを備える線が、溶接機器Bの溶接電流IBの経過を図示している。
【0049】
例示的に図示されたパルス溶接の間じゅう、基本電流IGと、この基本電流IGに対して増大されたパルス電流IPとは、予め与えられたパルス周波数fでもって交番する。パルス周波数fは、パルス電流IPを有するパルス電流位相PPと基本電流IGを有する基本電流位相PGとから成る、溶接サイクルSA、SBの周期時間tSA、tSBの逆数として与えられる。
有利には、パルス電流位相PPの間じゅう、それぞれ1つの溶接滴が、溶融池15内へと剥離される。溶接プロセスの間じゅう、パルス周波数f、及び/または、基本電流IGまたはパルス電流IPの値は、同様に変化可能でもある。
溶接電流IG、IPの時間的な経過は、図3内において、言うまでも無く、理想化されており且つ簡略化されて図示されている。しばしば、プロセス安定性を向上するために、基本電流位相PG(図示されていない)内において、短い中間電流パルスが設けられている。このことで、しかしながら、1つの溶接サイクルSA、SBの周期時間tSA、tSB、と、このことから生じるパルス周波数fA、fBとは、何ら変わらない。
【0050】
ワイヤー直径と電極材料とに依存して、それぞれのパルス溶接プロセスの、溶接ワイヤー送給速度vA、vB、溶接電流IA、IB、基本電流継続時間およびパルス電流継続時間、および、パルス周波数fA、fBは、有利には、それぞれの電流パルスの際に滴が生成され且つ剥離されるように、互いに調和される。溶接ワイヤー送給速度vA、vBとパルス周波数fA、fBとは、その際、通常、互いに依存する。
図3内における溶接電流IA、IBの経過は、同じ大きさの溶接電流IGA=IGBを有しており、しかしながら、異なるパルス電流IPA≠IPBを有しており、それに加えて、溶接サイクルSA、SBの周期時間tSA>tSBが相違している。これら経過は、しかしながら、言うまでも無く、溶接サイクルSA、SBの時間的な位相推移を有する、または、それ無しに、同様に理想的であることも可能である。
異なる溶接パラメータPiの調節は、例えばユーザインターフェース10A、10Bを介して行われ得、且つ、有利な方法で、使用者によって、実施する複式溶接法のそれぞれの要求に適合される。例えば、同様に、所定の予調節された溶接プログラムが記憶されていることも可能であり、これら溶接プログラムが、使用者によって選択され得る。パルス溶接プロセスを同期化するために、選択的な通信接続11を介して、制御ユニット9A、9Bは、同期化情報Yを取り交わし可能である。
【0051】
(ここで)2つの溶接電流回路の間の、特にスパッター橋絡によって誘起される導電性の接続20の認識のために、複式溶接法の間じゅう、それぞれの溶接電流回路内において、電気的な溶接パラメータPiが検出されることは意図され、その際、少なくとも2つの検出された溶接パラメータPiが、同時に変化する場合に、少なくとも2つの溶接電流回路の間の導電性の接続20が認識される。
言うまでも無く、1つの変化が重要であり、この変化が、溶接プロセス、例えば1つのパルス溶接プロセス内における電流パルスのエッジに、自体、起因するのではない。この変化は、図3内において図示されているように、例えば基本的にステップ状に行われ得、しかしながら、同様に、例えば連続的に増大する、比較的に平坦な増大を有することも可能である。
【0052】
図示された例示は、電流制御方法であり、このことは、溶接電流IA、IBが、それぞれの制御ユニット9A、9Bによって調節され、且つ、溶接電圧UA、UBが、溶接電流回路内における抵抗に依存して与えられることを意味する。この場合、確かに、同様に溶接電流IA、IBが、導電性の接続20の認識のための溶接パラメータPiとして使用される可能性もあるが、有利には、しかしながら、他の溶接パラメータPi、例えば溶接電圧UA、UB、溶接抵抗または周期時間tSA、tSB、パルス周波数fA、fB、等が、この導電性の接続20の認識のための溶接電流IA、IBとして援用される。
例えば電圧制御方法が使用される場合、有利には、他の溶接パラメータPiが、導電性の接続20の認識のための溶接電圧UA、UBとして援用される。
しかしながら、同様に、電流制御と電圧制御との間の混合作動も考慮可能であり、この混合作動において、溶接電流IA、IB内においてと同様に、溶接電圧UA、UB内においても、ある程度の逸脱が許容されている。導電性の接続20の認識のための溶接パラメータPiとして、その場合に、有利には、溶接電圧UA、UBが使用される。
【0053】
簡単化のために、図3内における本発明に従う方法は、しかしながら、検出された溶接パラメータPiとして溶接電流IA、IBに基づいて図示されている。
示された例示において、時点tXにおいて、同時に、両方の溶接電流回路内において、基本的にそれぞれの溶接電流IA、IBのステップ状の変化が生じ、このことは、これら溶接電流回路の間の導電性の接続20を推定させる。即ち、示された例示において、両方の制御ユニット9A、9Bが、それぞれに、連続的に溶接電流IA、IBを溶接パラメータPiとして検出し、且つ、情報を、例えば通信接続11を介して取り交わす。
溶接パラメータPi(ここで、IA、IB)の同時の、特にステップ状の変化を検出するために、少なくとも1つの制御ユニット9A、9Bは、検出された経過を比較する。
記載「同時」のもとで、ここで、言うまでも無く、変化が、強制的に、正確に同時に起こる必要があると理解されるべきではなく、むしろ、言うまでも無く、ある程度少しの時間的な遅延が生じる。例えば、そのような時間的な遅延は、溶接電流回路内における誘導性インダクタンスから、アナログ・デジタル変換器の反応時間から、または、極めて一般的に電気的なシステムの慣性から、結果として生じる可能性がある。
本発明の範囲内において、それ故に、記載「同時」のもとで、一般的に、溶接電流回路内における、検出された溶接パラメータPi(ここで、両方の溶接電流IA、IB)の互いに依存するステップ状の変化が、少しのミリ秒の内にあることが理解されるべきである。
【0054】
ここで、しかしながら、所定の時間的な許容差±Δtが提供または調節されることは可能であり、それにもかかわらず同時として識別されるために、この許容差の内で、生じる許容差が逸脱する可能性があることも、同様に考慮可能である。時間的な許容差±Δtは、例えば、検査プログラム内において、不変に予め与えられていることは可能であり、または、ユーザインターフェース10A、10Bを介して調節可能である。
第1の実施形態においてのように、同様にここでも、類似の方法で、他方また、検出された溶接パラメータPiのための絶対的または相対的な閾値WS、ここで例えば±IA、±IBが提供され得、この閾値が、溶接電流回路の間の導電性の接続20の認識のために、到達または超過される必要がある。
例えば、示された例示において、溶接電流回路の間の導電性の接続20を認識するために、溶接電流IA、IBの代わりに、同様にパルス周波数fA、fBも援用され得る。パルス周波数fA、fBは、例えば予め与えられたパルス溶接プロセスから、基本的に公知であり、または、調節可能である。パルス周波数fA、fBが溶接電流回路内において、ここで、同時に変化する場合、この変化は、溶接電流回路の間の導電性の接続20の認識のために利用され得る。
【0055】
溶接機器A、Bの間の通信接続11は、この方法の両方の実施形態のために必ずしも必要ではなく、この通信接続が、しかしながら、言うまでも無く有利である。第1の実施形態において、例えば、溶接電流回路の内の1つの溶接電流回路内において、検査パラメータ(例えば、検査電圧Uip)が賦与され得、且つ、同期化情報Yのやり取りが行われる必要無しに、それぞれに他の溶接電流回路内において、溶接パラメータPiが検出され得る。
溶接機器A、Bの間の通信接続11が設けられている場合、この通信接続は、しかしながら有利な方法で、導電性の接続20を認識するために、その溶接電流回路に検査パラメータが賦与される該溶接電流回路の制御ユニット9iが、同様にそれぞれに異なる溶接電流回路内において検出された溶接パラメータPiの評価も引き受けることのために利用され得る。しかしながら、例えば、同様に外部の検査ユニットが溶接装置1内において設けられていることも可能であり、導電性の接続20を認識するために、この検査ユニットは制御ユニット9iと接続されている。
【0056】
第2の実施形態において、導電性の接続20の認識のための、両方の(または、複数の)溶接電流回路内において検出された、溶接パラメータPiの比較および評価は、例えば、同様に外部の検査ユニットによっても実施され得る。
この目的のために、溶接電流回路の制御ユニット9iは、それぞれに、検出された溶接パラメータPiを、外部の検査ユニットに(例えば、適当な無線式の、または、導線接続されたインターフェースを介して)、伝送し、且つ、この外部の検査ユニットが検出された溶接パラメータPiを比較し、且つ、同時に溶接パラメータPiの変化が生じた場合、導電性の接続の存在を認識する(その際、言うまでも無く、実施された溶接プロセスに基づいて結果として生じるそのような変化は注意されないままである。
外部の検査ユニットが、その際、例えば溶接ロボット等の、例えば上位の制御ユニットであることは可能である。通信接続11が溶接機器A、Bの間に設けられている場合、既に詳細に説明されているように、この通信接続は、しかしながら、有利な方法で、導電性の接続20を、外部の検査ユニット無しで検知するために利用され得る。
【0057】
溶接電流回路の間の導電性の接続20が認識された場合、複式溶接法は、例えば、停止され得、且つ、使用者が、例えば、溶接装置1を洗浄するように要求され得る。この目的のために、他方また、適当な信号ユニットを用いて、有利には、アナログ、デジタル、音響的、視覚的、または、触覚的な信号が生成されることは考慮可能である。使用者が、その場合に、溶接装置を点検することは可能であり、且つ、場合によっては有り得るスパッター橋絡を除去可能である。
既に説明されているように、その溶接設備内において溶接トーチ4が溶接ロボットによって移動される、自動化された該溶接設備において、同様に、適当な洗浄装置を有する別個の洗浄ステーションが設けられていることは可能である。溶接電流回路の間の導電性の接続20の認識の後、溶接ロボットは、溶接トーチ4を、例えば、自動化された状態で、洗浄ステーション内へと移動し、且つ、そこで、洗浄装置によって、スパッター橋絡から解放される。このことは、言うまでも無く、同様に、自動化された洗浄工程によって行われ得、または、しかしながら、手動で、使用者によって行われ得る。
【0058】
溶接電流回路の間の導電性の接続20の認識の際に、複式溶接法は、しかしながら、必ずしも、中断される必要はない。今まさに実施された溶接作業、例えば、1つまたは複数の溶接継ぎ目が終了され、且つ、その後に初めて溶接トーチが洗浄されることは、同様に可能である。
複式溶接法を溶接継ぎ目の生成の間じゅう中断することの代わりに、例えば、事情によっては、溶接継ぎ目が、電極における、場合によっては有り得る不安定な溶接プロセスにもかかわらず、完成され得る。溶接継ぎ目内における所望されない中断を回避するために、このことは、場合によっては有り得る低減された溶接品質にもかかわらず、有利である可能性がある。
【0059】
図4内において、本発明のより良好な理解のために、更に、溶接装置1の簡略化された電気的な等価回路が図示されており、この溶接装置は、基本的に、図1内において図示されている溶接装置1に相応する。溶接装置1は、図4内において、ただ示唆されているだけであり、且つ、単に溶接電流回路の重要なコンポーネントだけを示している。
公知の方法において、両方の(図示されていない)溶接機器A、Bの両方の溶接電源2A、2Bは、電線13A,13Bを用いて、共通の溶接トーチ4と、特にこの溶接トーチに設けられている接触管18A、18Bと接続されている。接触管18A、18B内において、(消耗電極EA,EBとしての)溶接ワイヤー3A、3Bが、ワークピース6に供給される。溶接ワイヤー3A、3Bは、ここで、それぞれに、固有の溶接位置15A、15Bに供給され、且つ、それぞれに、アーク放電LA、LBによって溶融される。
言うまでも無く、しかしながら、他方また、両方の溶接ワイヤー3A、3Bのための共通の1つの溶接位置15が設けられていることも可能である。両方の溶接電流回路を連結するために、溶接電源2A、2Bは、それぞれに、接地導線8A、8Bを用いて、ワークピース6と接続されている。
【0060】
等価回路内において、通常の場合には分離された両方の溶接電流回路が図示されており、その際、それぞれの溶接電流回路が、1つの電気的な電圧供給源2A、2B(=溶接電源2A、2B)、並びに、オーム等価抵抗Riを有している。電圧供給源2A、2Bは、作動状態において、溶接電圧UA、UBを提供し、このことによって、例えば図3内においてパルス溶接プロセスに基づいて図示されているように、溶接電流IA、IBが、それぞれの溶接電流回路内において流れる。
等価抵抗として、ここで、簡略化されて、ただ重要な等価抵抗だけが図示されている。これらは、それぞれに、アーク放電LA、LBのアーク放電抵抗RLA、RLB、溶接ワイヤー3A、3Bの溶接ワイヤー抵抗R3A、R3B、並びに、電線13A,13Bの導線抵抗R13A,R13Bである。言うまでも無く、同様に、更に別の抵抗Ri、例えば、接地導線抵抗R8A、R8B、または、ワークピース抵抗R6、または、内部抵抗RAi、RBiが考慮され得、これらの図示は、ここでしかしながら省略されている。
【0061】
接触管18A、18Bの間に、いまや、スパッター橋絡が存在する場合、このことは、上記のように、導電性の接続20を、図4内においてそれぞれに導線抵抗R13A,R13Bと、溶接ワイヤー抵抗R3A、R3Bとの間の両方の溶接電流回路の中央の接続によって示唆されているように、誘起する。
導電性の接続20のオーム接続抵抗R20は、ここで、可変抵抗として図示されている。何故ならば、このオーム抵抗が、スパッター橋絡のそれぞれの大きさおよび形態に応じて変化可能であるからである。
導電性の接続20の接続抵抗R20が無視可能な程に小さい場合、このことは、基本的に、両方の溶接電流回路の間の短絡が存在することを意味する。基本的に、スパッター橋絡が大きく且つ密になればなる程、同様に導電性の接続20の接続抵抗R20も小さくなる。
【0062】
第1の実施形態に従い、(複式溶接法の開始の前または終了の後、)両方の溶接電流回路の内の1つの溶接電流回路内において、検査パラメータ(例えば、検査電圧Uip)が賦与され、且つ、それぞれの他の溶接電流回路内において、同時に、溶接パラメータPiが、例えばそれぞれの(図示されていない)制御ユニット9iまたは適当な測定装置によって検出される。
通常、両方の溶接電流回路は、互いに電気的に絶縁されており、その理由で、溶接パラメータPiの検出が、予め与えられた検査基準を満たしていないという結果を提供する。(例えば、何故ならば、溶接パラメータPiとしての測定された電圧Uiが、検査基準としての予め与えられた閾値電圧UiSの下方にあるからである。)
ここで、確かに、従って図4内において図示されているように、接触管18A、18Bの間のスパッター橋絡が存在する場合、所定の接続電流I20が導電性の接続20を介してそれぞれに異なる溶接電流回路内へと流れ、このことによって、他の溶接電流回路内における検出された溶接パラメータPiが、影響を及ぼされる。
【0063】
この影響は、予め与えられた検査基準によって認識され得、且つ、このことからスパッター橋絡の存在が推定され得る。例えば、予め与えられた閾値電圧UiSが、検査基準として予め与えられ得、且つ、測定された電圧Uiが、(検出された溶接パラメータPiとして、)予め与えられた閾値電圧UiSに到達、または、を超過した場合、スパッター橋絡が認識され得る。
接続電流I20および検出された溶接パラメータPiの高さおよび経過は、その際、電気的な法則性から与えられ、且つ、基本的に、検査パラメータ(例えば、一定の電圧の形態での検査電圧Uip、時間的に変化する関数、等)の高さおよびタイプ、接続抵抗R20、および、溶接電流回路の実際上の抵抗Riに依存する。導電性の接続20の接続抵抗R20は、その際、基本的に、スパッター橋絡の大きさ、組成、および、構造に依存して生起する。
【0064】
第2の実施形態において、(複式溶接法の実施の間じゅう、)両方の溶接電流回路内において、それぞれ1つの溶接パラメータPiが検出される。
通常、(電気的に互いに絶縁された溶接電流回路において、)検出された溶接パラメータPiは、例えば、図3内において、2つのパルス溶接プロセス溶接電流IA、IBの時間的な経過に基づいて図示されているように、所定の、公知の時間的な経過を、それぞれに実施された溶接プロセスに依存して有している。ここで、溶接トーチ4において、接触管18A、18Bの間のスパッター橋絡が形成された場合、このことによって、溶接電流回路の間の接続抵抗R20を有する導電性の接続20が形成され、このことによって、両方の溶接電流回路が、相互に電気的に影響される。
スパッター橋絡は、図3内において時点tXにおいて示唆されているように、両方の溶接電流回路内において、基本的に、同時に、検出された溶接パラメータPiの変化が生じることによって認識される。ここで、溶接パラメータPiの同時の変化が、言うまでも無く、実施された溶接プロセス自体によって引き起こされていない、そのような変化であるだけであり、これら溶接プロセスの溶接パラメータPiの時間的な経過が、予め与えられている、もしくは、公知であることは、再度コメントされるべきである。
溶接電流回路の間の導電性の接続20に起因する、検出された溶接パラメータPiの同時の変化は、従って、例えば、実施された溶接プロセスに基づいての、溶接パラメータPiの意図的な且つ期待された変化ではなく、この変化が、ただ偶然に同時に起こるだけである。
【0065】
比較的に小さな(基本的に、無視可能な)接続抵抗R20を有する、(基本的に、短絡に相応する)導電性の接続20の際に、両方の溶接電流回路内における、検出された溶接パラメータPi(溶接電流I、溶接電圧U、溶接電力PSi)の変化の高さは、その際、ほぼ同じ大きさである。
スパッター橋絡が、しかしながら、同様にある程度の(無視可能でない)接続抵抗R20を有することも可能であり、この接続抵抗は、溶接電流回路内における検出された溶接パラメータPiの変化の高さが同様に相違していることも可能であること、を誘起する可能性がある(これは、分圧器の公知の法則性から与えられる)。
検出された溶接パラメータPiの変化は、図3内において図示されているように、しかしながら、いずれの場合でも、両方の溶接電流回路内において、同時に生じ、このことによって、スパッター橋絡の存在が認識される。
【0066】
上記された方法は、言うまでも無く、同様に2つより多くの溶接機器A、B、...kを有する溶接装置1、及び/または、1つまたは複数の非消耗電極を有する溶接装置1にも使用され得る。
図1
図2
図3
図4