(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-05
(45)【発行日】2023-04-13
(54)【発明の名称】フィルム、および、多層フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230406BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230406BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230406BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230406BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20230406BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/00 M
B32B27/20 Z
B32B27/36 102
C08K7/00
C08L69/00
(21)【出願番号】P 2023506128
(86)(22)【出願日】2022-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2022039810
【審査請求日】2023-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2021176662
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小坂 恵夢
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特許第6941209(JP,B1)
【文献】国際公開第2015/159813(WO,A1)
【文献】特開2006-277914(JP,A)
【文献】特開2001-243659(JP,A)
【文献】特開2006-176566(JP,A)
【文献】国際公開第2020/031968(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
B32B 1/00-43/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B29C 48/00-48/96
B29D 7/00-7/01
B29K 69:00
B29L 7:00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、層状粘土鉱物を0.005~0.5質量部含むフィルムであって、
前記フィルムの表面粗さSaが10~100nmであり、
前記フィルムの厚みが50~200μmである、フィルム。
【請求項2】
層状粘土鉱物の長辺と短辺の平均値が2.0μm~9.0μmである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
層状粘土鉱物の屈折率が1.55~1.63である、請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
層状粘土鉱物がマイカを含む、請求項1
または2に記載のフィルム。
【請求項5】
前記フィルムのD65光源10°視野の条件におけるヘイズが2%以下である、請求項1
または2に記載のフィルム。
【請求項6】
保護フィルム用基材である、請求項1
または2に記載のフィルム。
【請求項7】
層状粘土鉱物の長辺と短辺の平均値が2.0μm~9.0μmであり、
層状粘土鉱物の屈折率が1.55~1.63であり、
層状粘土鉱物がマイカを含み、
前記フィルムのD65光源10°視野の条件におけるヘイズが2%以下であり、
保護フィルム用基材である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項8】
請求項1
、2または7に記載のフィルムと、他の層を有する多層フィルム。
【請求項9】
前記他の層が粘着層を有する、請求項
8に記載の多層フィルム。
【請求項10】
保護層と、
粘着層と、
基材と、
電極層とをこの順で有する、透明導電性フィルムであって、
前記保護層が、請求項1
、2または7に記載のフィルムである、透明導電性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、および、多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性に優れることに加え、ガラスと比較して加工性、耐衝撃性に優れ、各種用途に使用されている。その一例として、各種フィルムとしての用途が知られており、例えば、特許文献1に記載がある。
【0003】
フィルムには、搬送性の向上や巻きジワ防止の観点から、スタックしない程度の摺動性、さらには、フィルム同士の密着の抑制(アンチブロッキング性)が求められる場合がある。ここで、アンチブロッキングとは、フィルム同士が密着しても容易に剥離できるようにすることをいう。フィルムに摺動性を付与するには、フィルムの表面に微細な凹凸を設けることが考えられる。このようにフィルムの表面に微細な凹凸を設けると、フィルム同士の接触面積が減り、高い摺動性が達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、フィルムは、他の基材と貼り合わせ加熱する場合がある。このようなフィルムは、工業的にはロールトゥロールで製造されることが多いが、この際、表面に微細な凹凸有する、すなわち高い摺動性を有するフィルムは、フィルムの搬送性向上や巻きジワ防止などの観点から好適に用いられている。しかしながら、表面に微細な凹凸を有すると、他の基材と貼り合わせ加熱する際、気泡が発生してしまう場合があることが分かった。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、摺動性に優れ、かつ、他の基材と貼り合わせ加熱の際に気泡の発生を抑制できるフィルム、多層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者らが検討を行った結果、層状粘土鉱物を用い、フィルムの表面粗さSaを所定の範囲に調整することにより上記課題は解決された。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、層状粘土鉱物を0.005~0.5質量部含むフィルムであって、前記フィルムの表面粗さSaが10~100nmであり、前記フィルムの厚みが50~200μmである、フィルム。
<2>層状粘土鉱物の長辺と短辺の平均値が2.0μm~9.0μmである、<1>に記載のフィルム。
<3>層状粘土鉱物の屈折率が1.55~1.63である、<1>または<2>に記載のフィルム。
<4>層状粘土鉱物がマイカを含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載のフィルム。
<5>前記フィルムのD65光源10°視野の条件におけるヘイズが2%以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載のフィルム。
<6>保護フィルム用基材である、<1>~<5>のいずれか1つに記載のフィルム。
<7><1>~<6>のいずれか1つに記載のフィルムと、他の層を有する多層フィルム。
<8>前記他の層が粘着層を有する、<7>に記載の多層フィルム。
<9>保護層と、粘着層と、基材と、電極層とをこの順で有する、透明導電性フィルムであって、前記保護層が、<1>~<6>のいずれか1つに記載のフィルムである、透明導電性フィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、摺動性に優れ、かつ、他の基材と貼り合わせ加熱する際に気泡の発生を抑制できるフィルム、および、多層フィルムを提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の多層フィルムの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さない基(原子団)と共に置換基を有する基(原子団)をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。本明細書では、置換および無置換を記していない表記は、無置換の方が好ましい。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書における「フィルム」とは、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形体をいう。また、本明細書における「フィルム」には、「シート」も含む趣旨である。また、「フィルム」は、単層であっても多層であってもよい。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2021年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0010】
本実施形態のフィルムは、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、層状粘土鉱物を0.005~0.5質量部含み、表面粗さSaが10~100nmであり、厚さが50~200μmであることを特徴とする。
このような構成とすることにより、摺動性に優れ、かつ、他の基材と貼り合わせ加熱する際に気泡の発生を抑制できるフィルム、多層体、保護フィルムを提供可能になる。
【0011】
他の基材と貼り合わせる際に発生する気泡は、フィルム表面の凹凸よって形成される空間に存在する空気に由来すると推測される。一定以上の大きさのある空間には貼り合せた際に空気が入り込む領域が生まれやすく、このような空間が集中すると、その領域が起点となり、空気が集まることで気泡が発生すると推察される。このことから、例えば、小さい凹凸が多く存在している場合、小さい凹凸によって形成される空間には空気が入り込みにくいため、気泡が形成される起点にはなりにくいと考えられる。本実施形態では、空気が集まりにくい表面の凹凸を表す指標として、フィルム表面の凹凸の数、密度、および、その高さ、あるいは深さを総合的に示す指標としてSaを選択し、その数値を精密に検討した。その結果、Saを10~100nmとすることによって、気泡の発生が効果的に抑制されることを見出した。これにより、摺動性に優れ、かつ、気泡の発生が抑制できるフィルムを提供可能となった。
さらに、本実施形態では層状粘土鉱物を用いて凹凸を形成することで、より効果的に摺動性を付与することができる。すなわち、比較的尖った形状の粒子である層状粘土鉱物を用いることで、球状の粒子を用いた場合と比較して、よりシャープな凹凸が形成されやすく、効果的に動摩擦係数が付与され、摺動性がより向上する傾向にある。また、例えば局所的に高い凸部がある場合では摺動性が向上しにくく、フィルム表面全体に適度に凹凸が設けられている必要がある。
以下、本実施形態の詳細について説明する。
【0012】
<表面粗さSa>
本実施形態のフィルムにおいて、Saは10~100nmである。本実施形態のフィルムにおいて、少なくとも一方の表面が前記Saを満たしていればよいが、両面が前記Saを満たしていてもよい。両面が前記Saを満たす場合、一方の面のSaと他方の面のSaは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
Saはフィルム表面の凹凸の数、密度、および、その高さ、あるいは深さを総合的に示す指標である。Saを10~100nmに調整することで摺動性に優れ、かつ、他の基材と貼り合わせる際に気泡の発生を抑制できるフィルムが得られる。
Saは層状粘土鉱物の大きさや添加量、フィルムの厚みを調整することに加え、製造条件などによっても調整することができる。特に、ロールトゥロールでフィルムを製造する場合は、温度、ロールの表面硬さやロールの速度、押し出しの際の吐出量などによって調整できる。なお、Saはこれらの手段の2つ以上の手段を組合せることによって、調整してもよい。
Saは、下限値が20nm以上であることが好ましく、25nm以上であることがより好ましく、27nm以上であることがさらに好ましく、30nm以上であることがより一層好ましく、40nm以上であることがさらに一層好ましく、50nm以上であることが特に一層好ましい。前記下限値以上とすることで、フィルム表面に適度な凹凸を設けることができ、摺動性がより向上する傾向にある。また、前記Saの上限値は90nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、70nm以下であることがさらに好ましく、60nm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、気泡の発生を効果的に抑制することができる。
Saは後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0013】
<フィルムの厚み>
本実施形態のフィルムは、厚みが50~200μmである。厚みを200μm以下にすることで、層状粘土鉱物が表面に露出しやすくなり、摺動性を達成できる。さらに、フィルムの巻取性を向上させることができる。また、厚みを50μm以上とすることで、層状粘土鉱物が表面に露出しすぎず、フィルムの透明性が高くなる効果がある。
本実施形態のフィルムの厚みは、60μm以上であることが好ましく、70μm以上であることがより好ましく、80μmであることがさらに好ましく、90μmであることがより一層好ましい。また、180μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、120μm以下であることがさらに好ましい。
特に、上記厚さのフィルムとしたとき、巻き取り性に優れる。
フィルムの厚さは、任意の5ヶ所の平均値とする。
【0014】
<フィルムの他の特性>
本実施形態のフィルムは、また、少なくとも一方の表面の、二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムに対する動摩擦係数が、2.00以下であることが好ましく、1.80以下であることがより好ましく、1.50以下であることがさらに好ましく、1.20以下であることがより一層好ましく、1.00以下であってもよい。動摩擦係数が2.00以下であることにより、摺動性に優れる傾向にある。下限値は、特に定めるものではないが、例えば、0.10以上であり、さらには、0.20以上、0.30以上、0.40以上、0.50以上であってもよい。
動摩擦係数は、スレッド100mm/分、ロードセル10Nの条件で測定した値であり、具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0015】
本実施形態のフィルムは、D65光源10°視野の条件における全光線透過率が、86.0%以上であることが好ましく、87.0%以上であることがより好ましく、89.0%以上であることがさらに好ましく、90.0%以上であることが一層好ましい。前記光線透過率の上限は100%が理想であるが、95.0%以下であっても十分に要求性能を満たすものである。
全光線透過率は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0016】
本実施形態のフィルムは、D65光源10°視野の条件におけるヘイズが2.0%以下あることが好ましく、1.8%以下であることがより好ましく、1.5%以下であってもよく、1.0%以下であってもよい。下限値については、0%が理想であるが、0.1%以上であっても実用レベルである。
ヘイズは、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0017】
<ポリカーボネート樹脂>
本実施形態のフィルムは、ポリカーボネート樹脂を含む。ポリカーボネート樹脂を用いることにより、透明性に優れたフィルムが得られる。
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂は、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OC(=O)]-単位(Rが、炭化水素基、具体的には、脂肪族基、芳香族基、または、脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されない。本実施形態においては、ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂がより好ましい。このようなポリカーボネート樹脂を用いることにより、より優れた耐熱性と靱性が達成される。本実施形態においては、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂は、全構成単位の90モル%以上がビスフェノール骨格を有する構成単位であることが好ましい。
【0018】
また、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、10,000以上であることが好ましく、より好ましくは、12,000以上であり、さらに好ましくは15,000以上であり、一層好ましくは18,000以上である。前記下限値以上とすることにより、基材の耐久性がより向上する傾向にある。前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)の上限値は、50,000以下であることが好ましく、より好ましくは40,000以下であり、さらに好ましくは30,000以下である。前記上限値以下とすることにより、基材の成形加工性がより向上する傾向にある。
粘度平均分子量(Mv)は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dL/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10-4×Mv0.83、から算出される値を意味する。
2種以上のポリカーボネート樹脂を用いる場合は、混合物の粘度平均分子量とする。
【0019】
前記ポリカーボネート樹脂の屈折率は、1.56以上であることが好ましく、1.58以上であることがより好ましく、また、1.63以下であることが好ましく、1.60以下であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、層状粘土鉱物との屈折率差が小さくなり、透明性が向上する傾向にある。前記上限値以下とすることにより、層状粘土鉱物との屈折率差が小さくなり、透明性が向上する傾向にある。
また、前記ポリカーボネート樹脂と層状粘土鉱物の屈折率の差は、0.05以下であることが好ましく、0.04以下であることがより好ましく、0.03以下であることがさらに好ましく、0.02以下であることがより一層好ましく、0.015であることがさらに一層好ましく、0.012以下であることが特に一層好ましく、0.01以下であることがより特に一層好ましい。屈折率の差は、0であることが理想的である。屈折率の差を小さくすることにより、本実施形態のフィルムの透明性をより向上させることができる。
ポリカーボネート樹脂の屈折率は、JIS K7142A法に従い測定できる。
【0020】
本実施形態のフィルムにおけるポリカーボネート樹脂の含有量は、フィルム全体の95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であってもよい。ポリカーボネート樹脂の含有量の上限値は、ポリカーボネート樹脂と層状粘土鉱物の合計がフィルム全体の100質量%となる値である。
本実施形態のフィルムはポリカーボネート樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0021】
本実施形態におけるポリカーボネート樹脂の第一の実施形態は、式(A-1)で表される構成単位を有しているポリカーボネート樹脂であり、代表例としては、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【化1】
式(A-1)中、X
1は下記構造を表す。式中の*は結合位置を表す。
【化2】
R
5およびR
6は、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
式(A-1)は下記式(A-2)で表されることが好ましい。
【化3】
【0022】
第一の実施形態のポリカーボネート樹脂における、式(A-1)で表される構成単位の含有量は、末端基を除く全構成単位中、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。上限値は特に限定されず、100モル%が式(A-1)で表される構成単位であってもよい。
上記ポリカーボネート樹脂は、他の構成単位を有していてもよい。このような他の構成単位を構成するジヒドロキシ化合物としては、例えば、特開2018-154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0023】
本実施形態におけるポリカーボネート樹脂の第二の実施形態は、式(A-3)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂であり、代表例としては、ビスフェノールAP型ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【化4】
式(A-3)中、R
11~R
14は、それぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~9(好ましくは1~3)のアルキル基、炭素数6~12(好ましくは6~10)のアリール基、炭素数1~5(好ましくは1~3)のアルコキシ基、炭素数2~5(好ましくは2または3)のアルケニル基または炭素数7~17(好ましくは7~11)のアラルキル基を表す。lは0~5の整数(好ましくは0または1、より好ましくは0)を表す。mおよびnはそれぞれ独立に0~4の整数(好ましくは0または1、より好ましくは0)を表す。式中の*は他の構成単位や末端基との結合位置を表す。
【0024】
式(A-3)で表される構成単位は、下記式(A-4)で表される構成単位であることが好ましい。式中の*は他の構成単位や末端基との結合位置を表す。
【化5】
R
11、R
12、R
13、R
14、l、m、nは、式(A-3)で定義したものと同義である。
【0025】
式(A-4)で表される構成単位は、下記式(A-5)で表される構成単位であることが好ましい。式中の*は他の構成単位や末端基との結合位置を表す。
【化6】
【0026】
第二の実施形態のポリカーボネート樹脂における、式(A-3)で表される構成単位の含有量は、末端基を除く全構成単位中、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。上限値は特に限定されず、100モル%が式(A-3)で表される構成単位であってもよい。
上記ポリカーボネート樹脂は、他の構成単位を有していてもよい。他の構成単位としては、上記式(A-1)で表される構成単位、特開2018-154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物由来の構成単位を挙げることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0027】
本実施形態におけるポリカーボネート樹脂の第三の実施形態は、下記式(A-6)で表される構成単位を有しているポリカーボネート樹脂であり、代表例としては、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂およびビスフェノールTMC型ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【化7】
式(A-6)中、R
8は、それぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~9(好ましくは1~3)のアルキル基、炭素数6~12(好ましくは6~10)のアリール基、炭素数1~5(好ましくは1~3)のアルコキシ基、炭素数2~5(好ましくは2または3)のアルケニル基または炭素数7~17(好ましくは7~11)のアラルキル基を表す。qは0~5の整数(好ましくは1~3の整数)を表し、1~3の整数が好ましい。式中の*は他の構成単位や末端基との結合位置を表す。
R
8は、それぞれ独立に、炭素数1~9(好ましくは1~3)のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0028】
式(A-6)で表される構成単位は、下記式(A-7)で表される構成単位であることが好ましい。式中の*は他の構成単位や末端基との結合位置を表す。
【化8】
式(A-7)中、R
8は式(A-6)におけるR
8と同義であり、好ましい範囲も同様である。
また、式(A-6)で表される構成単位の他の好ましい形態としては、qが0であること挙げられる。
【0029】
第三の実施形態のポリカーボネート樹脂における、式(A-6)で表される構成単位の含有量は、末端基を除く全構成単位中、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。上限値は特に限定されず、100モル%が式(A-6)で表される構成単位であってもよい。
上記ポリカーボネート樹脂は、他の構成単位を有していてもよい。他の構成単位としては、上記式(A-1)で表される構成単位、上記式(A-3)で表される構成単位、特開2018-154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物由来の構成単位を挙げることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0030】
本実施形態におけるポリカーボネート樹脂の第四の実施形態は、式(A-8)で表される末端構造を有するポリカーボネート樹脂である。
【化9】
(式(A-8)中、R
21は、炭素数8~36のアルキル基、または、炭素数8~36のアルケニル基を表し、R
22は、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、または、炭素数6~12のアリール基を表し、n2は0~4の整数である。)
【0031】
R21は、炭素数12以上のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、14以上のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましい。また、R21は、炭素数22以下のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、18以下のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましい。R21は、アルキル基であることが好ましい。
R22は、フッ素原子、塩素原子、メチル基、エチル基、または、フェニル基であることが好ましく、フッ素原子、塩素原子またはメチル基であることが好ましい。
n2は、0~2の整数であることが好ましく、0または1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。
【0032】
式(A-8)で表される末端構造は、末端停止剤を用いることによって、ポリカーボネート樹脂に付加することができる。これらの詳細は、特開2019-002023号公報の段落0022~0030の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0033】
第四の実施形態のポリカーボネート樹脂における分子主鎖は、-[O-R-OC(=O)]-単位(Rが、炭化水素基、具体的には、脂肪族基、芳香族基、または、脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されない。第四の実施形態のポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂がより好ましく、上記式(A-1)で表される構成単位を有するポリカーボネート樹脂がさらに好ましく、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂が一層好ましい。このようなポリカーボネート樹脂を用いることにより、より優れた耐熱性と靱性が達成される。ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂は、末端構造を除く全構成単位の90モル%以上がビスフェノール骨格を有する構成単位であることが好ましい。
【0034】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0035】
<層状粘土鉱物>
本実施形態のフィルムは、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、層状粘土鉱物を0.005~0.5質量部の割合で含む。このような構成とすることにより、フィルム表面のSaを適度に調整でき、摺動性が達成され、かつ、他の基材に貼り合わせ加熱した際に発生する気泡を効果的に抑制することができる。さらに、比較的尖った形状の粒子である層状粘土鉱物を用いることで、球状の粒子を用いた場合と比較して、よりシャープな凹凸が形成されやすく、効果的に動摩擦係数が付与され、摺動性がより向上する傾向にある。
本実施形態における層状粘土鉱物とは、ケイ酸マグネシウム層、または、ケイ酸アルミニウム層から形成される層状ケイ酸塩であり、層間に陽イオンが吸着されている。陽イオンは通常、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンなどの金属イオンである。例えば、スメクタイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、バーミキュライト、タルク、バイロフィライト、雲母、マイカ、マガディアイト、アイラライト、カネマイトなどが挙げられ、天然のもの、合成品のいずれも使用できる。本実施形態において、タルク、雲母、マイカが好ましく、タルク、マイカがより好ましく、マイカがさらに好ましい。マイカを用いることで、ポリカーボネート樹脂との屈折率差が小さく、透明性を高めることができる。
前記層状粘土鉱物がマイカである場合、マイカは白マイカおよび金マイカが例示され、白マイカであることが好ましい。
【0036】
前記層状粘土鉱物の長辺と短辺の平均値(A)が2.0μm~9.0μmであることが好ましい。長辺と短辺の平均値(A)は、走査電子顕微鏡で観察した層状粘土鉱物を無作為に100個抽出し、それぞれの粒子について層を形成している面、すなわち最大面積の面の長辺と短辺の平均値(B)を測定し、さらに100個の長辺と短辺の平均値(B)から平均値(A)を算出することにより求める。なお、ここでの「面」とは幾何学的な意味での「面」の他、本発明の技術分野において、層状粘土鉱物の一表面とみなされるものを含む趣旨である。また、長辺とは粒子の面を楕円に近似した際の長径相当の辺であり、短辺とは粒子の面を楕円に近似した時の短径相当の辺である。
前記層状粘土鉱物の長辺と短辺の平均値は2.0μm以上であることが好ましく、2.5μm以上であることがより好ましく、3.0μm以上であることがさらに好ましく、4.0以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることによりフィルムの摺動性をより高める効果がある。また、前記層状粘土鉱物の長辺と短辺の平均値は9.0μm以下であることが好ましく、8.5μm以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、フィルムを他の基材と貼り合せ、加熱した際の気泡の発生をより効果的に抑制することができる。
本実施形態のフィルムは層状粘土鉱物を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、混合物として上記手法で測定した際の長辺と短辺の平均値(A)が上記範囲となることが好ましい。
前記層状粘土鉱物の厚みは、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であってもよく、0.5μm以上であってもよく、1.0μm以上であってもよく、1.5μm以上であってもよい。また9.0μm以下であることが好ましく、7.0μm以下であってもよく、5.0以下であってもよく、3.0以下であってもよく、2.0μm以下であってもよい。
【0037】
前記層状粘土鉱物の屈折率は、1.55~1.63であることが好ましい。これにより、得られるフィルムの透明性が向上する傾向にある。
前記屈折率は、1.56以上であることが好ましく、1.57以上であることがより好ましく、1.58以上であることがさらに層好ましい。また、前記屈折率は、1.62以下であることが好ましく、1.61以下であることがより好ましく、1.60以下であることがさらに好ましく、1.59以下であることがより一層好ましく、1.58以下であることがさらに一層好ましい。
前記屈折率は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0038】
前記層状粘土鉱物の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.005~0.5質量部である。前記下限値以上とすることにより、摺動性を達成することができる。また、前記上限値以下とすることにより、他の基材に貼り合わせ加熱した際に発生する気泡を効果的に抑制することができる。さらに透明性をより向上させることができる。
前記層状粘土鉱物の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.02質量部以上であることがより好ましく、0.03質量部以上であってもよく、0.04質量部以上であってもよい。また、前記層状粘土鉱物の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.40質量部以下であることが好ましく、0.30質量部以下であることがより好ましく、0.20質量部以下であることがらに好ましく、0.10質量部以下であることが一層好ましく、0.08質量部以下であることがより一層好ましい。
【0039】
前記層状粘土鉱物の含有率は、フィルムの総質量に対し、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.02質量%以上であることがさらに好ましく、0.03質量%以上であってもよく、0.04質量%以上であってもよい。また、前記層状粘土鉱物の含有量は、フィルムの総質量に対し、0.40質量%以下であることが好ましく、0.30質量%以下であることがより好ましく、0.20質量%以下であることがらに好ましく、0.10質量%以下であることが一層好ましく、0.08質量%以下であることがより一層好ましい。
本実施形態のフィルムは層状粘土鉱物を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0040】
本実施形態のフィルムは、前記層状粘土鉱物以外の粒子(有機粒子および無機粒子)を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。前記層状粘土鉱物以外の粒子を実質的に含まないことが好ましい。前記層状粘土鉱物以外の粒子を実質的に含まないとは、前記層状粘土鉱物以外の粒子の含有量が、本実施形態で用いる層状粘土鉱物の含有量の10質量%以下であることをいい、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることが一層好ましい。
【0041】
<他の成分>
本実施形態のフィルムは、ポリカーボネート樹脂および層状粘土鉱物に加え、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。具体的には、離型剤、酸化防止剤、エステル交換防止剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、本実施形態のフィルムは、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分を実質的に含まない構成であってもよい。実質的に含まないとは、本実施形態のフィルムに含まれる樹脂成分100質量部のうち、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分の含有量が1質量部未満であることをいう。
【0042】
離型剤の詳細は、特開2017-226848号公報の段落0032、特開2018-199745号公報の段落0056に記載の離型剤を用いることができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
酸化防止剤の詳細は、特開2017-031313号公報の段落0057~0061の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
エステル交換防止剤の詳細は、国際公開第2015/190162号の段落0035~0039、特開2019-002023号公報の段落0037、特開2018-199745号公報の段落0041の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0043】
<フィルムの製造方法>
本実施形態のフィルムの製造方法は公知の製造方法を採用できる。例えば、ポリカーボネート樹脂および層状粘土鉱物、ならびに、必要に応じ配合される他の成分を溶融混練した後、フィルム状に押し出すことが挙げられる。さらに、ロールトゥロールで製造されることが好ましい。
【0044】
<巻取体>
本実施形態のフィルムは、芯材に巻き取った巻取体とすることができる。本実施形態のフィルムは、例えば、引き取り張力が200Nになるように制御し、マスキングフィルムを使用せず、内径3インチの紙管に30m以上巻き取ることができるものとすることができる。
【0045】
<多層フィルム>
本実施形態のフィルムは、単層フィルムであっても、複数の樹脂層で構成される多層フィルムであってもよい。本実施形態のフィルムは、前記フィルムと、少なくとも1層の他の層とを含む、多層フィルムとして用いることができる。前記他の層としては、公知の層を採用できる。
単層フィルムを製造してから、他の層を積層することにより、フィルムの表面の凹凸を適切に維持できる。前記他の層としては、公知の層を採用でき、粘着層が例示される。すなわち、本実施形態のフィルムの利用例の一例として、本実施形態のフィルムと粘着層を有する貼り合わせ用粘着シートが挙げられる。
本実施形態の多層フィルムはハードコート層を有していてもよいし、有していなくてもよい。本実施形態の多層フィルムにおいては、ハードコート層を有さないことが好ましい。本実施形態の多層フィルムにおいては、ハードコート層を有さなくても、摺動性の高いフィルムを達成できる点で価値が高い。
【0046】
<粘着層>
粘着層の種類は、特に制限はないが、アクリル粘着剤、シリコーン粘着剤およびウレタン粘着剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの粘着剤を用いることにより、より高い粘着性と、例えば、プライマー層に対する適度な密着性を実現できる。
また、粘着層は、再剥離性を有していてもよく、再剥離性を有する粘着層は、一度、貼り付け材から剥離させても再度、粘着させることができる。
粘着層の詳細は国際公開第2021/029283号の段落0046~0051の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0047】
アクリル粘着剤は、アクリル系高分子を含む粘着剤であり、具体例として、DIC社製のファインタック(CT-3088、CT-3850、CT-6030、CT-5020、CT-5030)、クイックマスター(SPS-900-IV、クイックマスターSPS-1040NT-25)、および、トーヨーケム社製の粘着剤オリパイン等が挙げられる。
シリコーン粘着剤は、シリコーン系高分子を含む粘着剤であり、具体例として、信越化学工業社製のKR-3700(主剤)とCAT-PL-50T(白金触媒)とにより製造されるポリマー等が挙げられる。
ウレタン粘着剤は、ウレタン系高分子を含む粘着剤であり、具体例として、トーヨーケム社製の粘着剤オリパイン等が挙げられる。
本明細書では、高分子とは、数平均分子量が1000以上の化合物をいい、好ましくは2000以上の化合物を意味する。
【0048】
粘着層としては、上記の他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、特開2017-200975号公報の段落0026~0053に記載の粘着剤層、特開2013-020130号公報の段落0056~0060に記載の粘着層、国際公開第2016/158827号の粘着シート、特開2016-182791号公報の段落の0031~0032の粘着層、特開2015-147837号公報の段落0057~0084のゴム系粘着剤層を採用することもでき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0049】
粘着層の厚みは、特に制限はないが、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、25μm以上であることがさらに好ましく、28μm以上であってもよい。また、粘着層の厚みは、70μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましい。上記範囲内とすることで、より適切な粘着特性および粘着強度が達成される。
【0050】
<プライマー層>
本発明の粘着シートは、上述の通り、プライマー層を有していてもよい。プライマー層は基材層と粘着層の間に設けられており、粘着層と基材層の接着性を高める効果を有する。また、粘着層形成時に使用される溶剤による基材へのケミカルクラックなどを抑制することが可能となる。
プライマー層は、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂を含むことが好ましい。ウレタン(メタ)アクリレート樹脂を用いることにより、より耐熱性に優れた粘着シートが得られる。
プライマー層の詳細は国際公開第2021/029283号の段落0052~0070の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0051】
<粘着シートの製造方法>
粘着シートの製造においては、まず、基材(フィルム)が形成されることが好ましい。
粘着シートは、上述のポリカーボネートを含む基材(フィルム)を用いて、例えば、以下のように、プライマー層形成工程と、粘着層形成工程とを含む製法により製造可能である。
プライマー層形成工程においては、基材の表面上に、プライマー塗料(プライマー液)を塗布し、硬化させて、プライマー層を形成する。
また、粘着層形成工程においては、形成されたプライマー層における、基材と接している側とは反対側の表面上に、粘着剤を塗布して硬化させて粘着層を形成する。
プライマー塗料または粘着剤を硬化させる手法としては、光硬化、および熱硬化などの手法が採用され得る。
【0052】
本実施形態の貼り合わせ用粘着シートは、携帯電話端末、スマートフォン、携帯型電子遊具、携帯情報端末、タブレット機器、モバイルパソコン、ウェアラブル端末などの画像表示装置、液晶テレビ、液晶モニター、デスクトップパソコン、カーナビゲーション、自動車計器など設置型ディスプレイデバイス等の各種素子の構成材料として用いることができる。特に、前記液晶部材の透明導電膜や各種素子の基板材料や保護材料として好適に用いることができる。
本実施形態のフィルムは、より具体的には、マスキングフィルムとして好ましく用いられる。より好ましくは、アンチブロッキングフィルムとして用いられる。また、透明導電性フィルムの保護フィルムとしても好ましく用いられる。特に、保護層と、粘着層と、基材と、電極層とをこの順で有する、透明導電性フィルムであって、基材および保護層の少なくとも一方(好ましくは少なくとも保護層)が、本実施形態のフィルムである、透明導電性フィルムとして好ましく用いられる。透明導電性フィルムとしては、特開2018-152187号公報などの記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
また、上記透明導電性フィルムは、タッチパネルのフィルムセンサー、電子ペーパーや色素増感型太陽電池、タッチセンサー等に用いる透明導電性フィルムとして好ましく用いられる。
【0053】
<用途>
本実施形態のフィルムは、摺動性に優れ、かつ、他の基材と貼り合わせ加熱する際に気泡の発生が抑制できることから、保護フィルム用基材として好ましく用いられる。さらに、本実施形態のフィルムは透明性にも優れることから、保護フィルムが貼りついた状態で、インライン欠点検査が行われるような場合においても好ましく用いることができる。
また本実施形態のフィルムは、上記以外でも、摺動性と気泡発生の抑制が求められる用途のフィルムに好ましく用いられる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0055】
1.原料
ポリカーボネート樹脂
A1:ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂
三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ユーピロンE-2000、粘度平均分子量:27000、屈折率:1.59
【0056】
層状粘土鉱物
B1:Mearlmica SV、マイカ、BASF社製、長辺と短辺の平均値(A):8.0μm、屈折率:1.58
B2:Mearlmica FF、マイカ、BASF社製、長辺と短辺の平均値(A):4.2μm、屈折率:1.58
B3:Mearlmica CF、マイカ、BASF社製、長辺と短辺の平均値(A):21μm、屈折率:1.58
B4:R-11、タルク、松村産業社製、長辺と短辺の平均値(A):2.6μm、屈折率:1.57
有機粒子
C1:テクポリマー SBX-17、スチレン粒子、積水化成品工業社製、数平均粒子径:9.1μm、屈折率:1.59
【0057】
<層状粘土鉱物の長辺と短辺の平均値(A)の測定>
長辺と短辺の平均値(A)は、走査電子顕微鏡で観察した層状粘土鉱物を無作為に100個抽出し、それぞれの粒子について層を形成している面、すなわち最大面積の面の長辺と短辺の平均値(B)を測定し、さらに100個の長辺と短辺の平均値(B)から平均値(A)を算出した。また、長辺とは粒子の最大面積を楕円に近似した際の長径相当の辺であり、短辺とは粒子の最大面積を楕円で近似した際の短径相当の辺である。
【0058】
<層状粘土鉱物の屈折率の測定>
層状粘土鉱物および有機粒子の屈折率はJIS K7142 B法に従い測定した。
屈折計はアタゴ社製の「アッベ屈折計2T」を、顕微鏡はオリンパス社製の「小型測定顕微鏡 STM5-311」を使用した。
【0059】
2.実施例1~3、比較例1~5
<ペレットの製造>
上記に記載した各成分を、それぞれ表1に記載の添加量となるように計量した。表1の各成分は質量部で示している。その後、タンブラーにて10分間混合した後、スクリュー径32mmのベント付二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30α」)により、シリンダー温度300℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。
【0060】
<フィルムの製造>
得られたペレットを用いて、以下の方法でフィルムを製造した。
上記で得られたペレットを、バレル直径32mm、スクリューのL/D=31.5のベント付き二軸押出機(日本製鋼所社製、「TEX30α」)からなるTダイ溶融押出機を用いて、吐出10Kg/h、スクリュー回転数166rpmの条件で溶融状に押し出し、第二ロールで冷却固化し、フィルムを作製した。シリンダー温度・ダイヘッド温度は300℃で行った。
最終的に得られるフィルム厚さの調整は、表1に記載の値となるように、第二ロールのロール速度を変更して行った。
【0061】
用いた第二ロールの詳細は以下の通りである。
・第二ロール:JSW社製、金属剛体ロール(表面:ハードクロム処理)
芯金径:外径250mm×幅600mm
ロール温度:140℃
【0062】
<表面粗さSaの測定>
得られたフィルムの凹凸形状を有する表面について走査型白色干渉顕微鏡を用いてISO25718-2:2012に規定されるSaを測定した。任意の3か所について測定および解析を行い、平均値を採用した。Saの単位はnmで示した。
測定条件は以下の通りとした。
視野:単視野
測定用CCDカメラ:1/3インチ
対物レンズ:×5
観察面積:935.267×701.502μm2
視野サイズ:640×480pixcels
測定モード:waveモード
波長フィルタ:530nmWhite
観察条件
補間条件:完全補間
面補正条件:4次多項式近似
走査型白色干渉顕微鏡は、日立ハイテク社製、「VS1550」を用いた。
【0063】
<全光線透過率およびヘイズの測定>
D65光源10°視野の条件にて、得られたフィルムの全光線透過率(単位:%)、および、ヘイズ(単位:%)を測定した。
測定に際し、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所社製「HM-150」)を用いた。
【0064】
<動摩擦係数の測定>
フィルムの動摩擦係数は、二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムに対する動摩擦係数として測定した。
二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムと上記で得られたフィルムが重なるように設置し、スレッド100mm/分、ロードセル10Nの条件で、前記二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルム上を、得られたフィルムを滑らせて、動摩擦係数を測定した。
摩擦係数測定機は、東洋精機製作所社製(「フリクションテスター」)を用いた。
二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムは、片面マスキングフィルム付きビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂フィルム(三菱ガス化学社製、FE-2000、厚さ100μm品)を用いた。本実施例では、片面マスキングフィルム付きビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂フィルムのマスキングを剥がした面を上面にし、長軸が試験テーブルの長軸に一致するように、テープで試験テーブルの右端に固定し、63mm×63mm、200gのスレッドの下側に、得られたフィルムを貼り付け、ポリカーボネート樹脂フィルムと得られたフィルムが重なるように設置し、上述の通り、得られたフィルムを滑らせて動摩擦係数を測定した。
比較例3~5は、表面に適度な凹凸を形成できず、フィルム同士が貼りついてしまい、動摩擦係数が測定できなかった。
【0065】
<二乗平均平方根粗さRqの測定>
動摩擦係数の測定に用いた二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムの表面粗さの測定は表面粗さ測定機を用いて測定した。
測定機の検出器を「一体型」にして、検出器の駆動部には「標準駆動ユニット」を装着した。ガラス板状にテープでフィルムを固定し、その上で表面粗さ測定機が動かないように設置した。その後、測定条件を規格「JIS B 0601-2001」、測定速度0.5mm/s、カットオフ値0.8、区間数3で測定を行い、二乗平均平方根粗さRqを測定した。二乗平均平方根粗さRqはフィルムの場所を変えて、3回測定して、その平均値とした。
測定機は、ミツトヨ社製、「SJ-210」を用いた。
【0066】
<巻姿の評価>
上記フィルムの製造において、フィルムの厚さが所定の厚さになるように第二ロール速度を調整し、かつ、フィルム巻き取り機の引き取り張力が200Nになるように制御し、マスキングフィルムを使用せず、内径3インチの紙管に30m巻き取った際のフィルム外観を評価した。5人の専門家が評価し多数決とした。
A:皺が発生せず良好な外観で巻取りができた。
B:上記AおよびC以外、例えば、巻き取りは可能だが、スタックが発生し、巻ジワが発生した等であった。
C:紙管に沿って巻くことができなかった。
【0067】
<投影の評価>
得られたフィルムの投影像を高輝度光源で照射することで得た。
具体的には、壁に白い紙を貼り、前記白い紙から120cm離れた位置に高輝度光源を設置し、壁と光源の中間、すなわち壁から60cmの位置に設置したフィルムを照射することで、壁に貼られた白色の紙にフィルムの投影像を得た。
高輝度光源として日本技術センター社製の「S-Light」を用いた。
A:像が鮮明に見える。
B:像がぼやける。
【0068】
<粘着剤の塗工>
実施例1~3で得られたフィルムについて、それぞれ、以下の方法で粘着塗工を行い、粘着シート製造した。
前記の方法で得られたフィルムに後述のシリコーン粘着剤をバーコーターを用いて乾燥塗膜の厚さが30μmになるように塗工し、熱風循環乾燥機(ヤマト科学社製、「DNF611」)にて130℃で1分乾燥し、粘着層を形成した。粘着層はフィルムの第二ロールに接触する面に積層した。 粘着層付フィルムとして適切に機能することを確認した。
【0069】
用いた粘着剤の組成は以下の通りである。
シリコーン粘着剤:X-40-3229、信越化学工業社製、100質量部
触媒:CAT-PL-50T、信越化学工業社製、0.5質量部
希釈溶剤:トルエン、50質量部
【0070】
<加熱後の気泡発生の評価>
得られた粘着シートを、二乗平均平方根粗さが0.093μmのビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂フィルム(三菱ガス化学社製、FE-2000、厚さ100μm)に貼り合わせ、送風定温恒温機(ヤマト科学社製、DKN402)にて140℃で1時間加熱処理を行った。加熱後、フィルムの外観を評価した。5人の専門家が評価し多数決とした。
A:気泡の発生がなかった
B:気泡の発生がフィルムの一部分に確認された
C:気泡が全面に発生した
【0071】
【符号の説明】
【0072】
1:フィルム
2:粘着層
【要約】
摺動性に優れ、かつ、他の基材と貼り合わせ加熱する際に気泡の発生を抑制できるフィルム、多層フィルムの提供。ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、層状粘土鉱物を0.005~0.5質量部含むフィルムであって、フィルムの表面粗さSaが10~100nmであり、フィルムの厚みが50~200μmである、フィルム。