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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】コイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/28 20060101AFI20230407BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20230407BHJP
   H02K 3/04 20060101ALI20230407BHJP
   H02K 3/18 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
H01F27/28 147
H01F5/00 D
H01F5/00 F
H02K3/04 E
H02K3/18 P
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020514098
(86)(22)【出願日】2019-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2019015538
(87)【国際公開番号】W WO2019203076
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2018079731
(32)【優先日】2018-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】前田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】玉村 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】菱田 光起
(72)【発明者】
【氏名】河村 清美
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-164654(JP,U)
【文献】特開2010-252611(JP,A)
【文献】実開昭56-164656(JP,U)
【文献】特開平11-098744(JP,A)
【文献】特開2015-228476(JP,A)
【文献】国際公開第2003/041244(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/28
H01F 5/00
H02K 3/04
H02K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が四角形状の導線が螺旋状に巻回されて積層された第1~第nターン(nは3以上の整数)からなるターン列を有するコイルであって、
前記コイルにおける前記第1~第nターンのうちの少なくとも一部の前記導線に他の部分の前記導線と形状が異なる凹部である変形部が設けられており、
前記ターン列の両端部に位置する前記第1及び前記第nターンのそれぞれにおいて、前記ターン列の中央と反対側に位置する外面が前記ターン列と交差する平面に沿って面一状に延び、
前記変形部は、前記コイルの径方向および周方向に垂直な方向であるZ軸方向の前記導線において、前記導線の周方向に切り欠かれた前記凹部を含み
前記コイルの内側の前記凹部の個数は、前記コイルの外側の前記凹部の個数と同じ、またはより多いコイル。
【請求項2】
断面が四角形状の導線が螺旋状に巻回されて積層された第1~第nターン(nは3以上の整数)からなるターン列を有するコイルであって、
前記コイルにおける前記第1~第nターンのうちの少なくとも一部の前記導線に他の部分の前記導線と形状が異なる凹部である変形部が設けられており、
前記ターン列の両端部に位置する前記第1及び前記第nターンのそれぞれにおいて、前記ターン列の中央と反対側に位置する外面が前記ターン列と交差する平面に沿って面一状に延び、
前記変形部は、前記コイルのトップ側または前記コイルのボトム側に設けられた、切り欠かれた前記凹部を含み、
前記コイルの内側の前記凹部の個数は、前記コイルの外側の前記凹部の個数と同じ、またはより多いコイル。
【請求項3】
断面が四角形状の導線が螺旋状に巻回されて積層された第1~第nターン(nは3以上の整数)からなるターン列を有するコイルであって、
前記コイルにおける前記第1~第nターンのうちの少なくとも一部の前記導線に他の部分の前記導線と形状が異なる凹部である変形部が設けられており、
前記ターン列の両端部に位置する前記第1及び前記第nターンのそれぞれにおいて、前記ターン列の中央と反対側に位置する外面が前記ターン列と交差する平面に沿って面一状に延び、
前記変形部は、前記コイルの径方向および周方向に垂直な方向であるZ軸方向の前記導線において、前記導線の周方向に切り欠かれた前記凹部を含み、
前記変形部は、前記導線の内側の前記凹部と前記導線の外側の前記凹部とが、前記Z軸方向に対して同じ位置にないコイル。
【請求項4】
断面が四角形状の導線が螺旋状に巻回されて積層された第1~第nターン(nは3以上の整数)からなるターン列を有するコイルであって、
前記コイルにおける前記第1~第nターンのうちの少なくとも一部の前記導線に他の部分の前記導線と形状が異なる凹部である変形部が設けられており、
前記ターン列の両端部に位置する前記第1及び前記第nターンのそれぞれにおいて、前記ターン列の中央と反対側に位置する外面が前記ターン列と交差する平面に沿って面一状に延び、
前記変形部は、前記コイルのトップ側または前記コイルのボトム側に設けられた、切り欠かれた前記凹部を含み、
前記変形部は、前記導線の内側の前記凹部と前記導線の外側の前記凹部とが、Z軸方向に対して同じ位置にないコイル。
【請求項5】
断面が四角形状の導線が螺旋状に巻回されて積層された第1~第nターン(nは3以上の整数)からなるターン列を有するコイルであって、
前記コイルにおける前記第1~第nターンのうちの少なくとも一部の前記導線に他の部分の前記導線と形状が異なる凹部である変形部が設けられており、
前記ターン列の両端部に位置する前記第1及び前記第nターンのそれぞれにおいて、前記ターン列の中央と反対側に位置する外面が前記ターン列と交差する平面に沿って面一状に延び、
前記変形部は、少なくとも前記第nターンに設けられ、
前記変形部は、前記コイルの径方向内側ほど前記導線の切り欠きが大きくなるコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、断面が四角形状の導線を巻回してなるコイル及びそれを用いたモータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業、車載用途でモータの需要は高まっている。その中で、モータの効率向上及び低コスト化が要望されている。
【0003】
モータの効率向上手法の一つとして、ステータのスロット内に配置されるコイルの渦電流による損失を低減できる。これにより、モータの駆動時に、コイルに流れる電流に起因する損失を抑制できる。
【0004】
コイルの渦電流を低減させる手法として、集合導体における断面が複数の領域で構成される導体が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【0005】
コイルは、スロット内に、ステータに設けられたティースに対して螺旋状に巻回設置されている。通常、外部からの電流供給を受ける、及び外部に電流を供給する度に、コイルに発生する磁界強さは強弱変化する。これに伴い、コイル内には、図10に矢印Aで示すような渦電流が誘起される。図10は、従来のコイル5に発生する渦電流Aの説明図である。コイルのサイズ、コイルの材料の抵抗率、またはコイルの動作条件によっては、コイルの発熱が大きくなる。その発熱による損失が無視できないものとなると、モータとしての効率が低下する等の問題を生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本特許第5309595号公報
【発明の概要】
【0007】
本開示は、上記の事情に鑑みてなされた。本開示の目的は、電機子コイルの通電により界磁用マグネットに誘起される渦電流を減少し、渦電流損による電力損失を減少することができるコイル及びそれを用いたモータを実現することにある。
【0008】
上記の目的を達成するために、本開示のコイルは、断面が四角形状の導線が螺旋状に巻回されて積層された第1~第nターン(nは3以上の整数)からなるターン列を有するコイルであって、コイルにおける第1~第nターンのうちの少なくとも一部の導線に他の部分の導線と形状が異なる凹部である変形部が設けられている。ターン列の両端部に位置する第1及び第nターンのそれぞれにおいて、ターン列の中央と反対側に位置する外面がターン列と交差する平面に沿って面一状に延びている。
【0009】
通常のコイルであると、渦電流はコイルの導線内のティース内部の各軸方向または周方向の導線の各直線内で、渦電流のループが発生する。このループが大きいほど渦電流損は大きくなるが、本開示のコイルの導線部に凹部を設けることにより、導線内に発生する渦電流のループサイズを小さくし、渦電流の損失を低減する効果がある。
【0010】
ティース内部にあり、モータ回転軸であるZ軸方向に長い導線に設けられる凹部は、周方向の双方から設けられる。コイルのトップ側またはコイルのボトム側に有る導線に設けられる凹部は、モータ回転軸であるZ軸方向に設けられる。これらの構成によれば、各コイル軸に発生する渦電流を低減する事が可能となる。更に、これらの1つの軸の導線上に設けられている凹部が複数の場合は、各直線上の導線に交互に凹部を設ける方が、導線内に発生する渦電流のループ長さが小さくなり、好ましい。また、渦電流はティース側、つまり螺旋状に構成されるコイル螺旋回転の中心側に多く発生するため、凹部は螺旋状に構成するコイル内側に多く設けられる方が好ましい。更に、螺旋状に構成されるコイル構造において、モータ回転の軸中心側に多く凹部を設ける方が、効率良く渦電流の低減効果が期待できる。
【0011】
凹部を設けることによって、導線の直線成分に発生する渦電流を分割することになり、渦電流低減効果が生じる。このため、より多くの凹部を設ける方が渦電流損の低下効果が期待できる。しかし、従来の導線に切り込みを入れるため、電流の流れ方向に対して断面積が小さくなる部分が生じる。このため、導線内の抵抗が大きくなり、発生するジュール熱がより大きくなる。そのため、凹部を設けることによる渦電流低減効果と、導線抵抗増加によるジュール熱、との双方のバランスで凹部を設けるのが好ましい。
【0012】
本開示のモータは、ステータコアと、ステータコアから突出したティースと、ティースに巻回された本開示のコイルと、を有するステータとを備えている。
【0013】
この構成によれば、コイルの渦電流損がより少なくなるため、渦電流損による発熱が抑えられ、コイル内損失が減り、モータの効率を高めることができる。
【0014】
本開示によれば、コイルの渦電流損をより少なく出来る。また、高効率のモータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】実施の形態に係るモータを示す上面図である。
図1B】実施の形態に係るモータを示す側面図である。
図1C図1Bにおける1C-1C線での断面図である。
図2】実施の形態に係るコイルを示す斜視図である。
図3】実施の形態に係るコイルを示す側面図である。
図4】実施の形態と比較のためのコイルを示す斜視図である。
図5】実施の形態と比較のためのコイルを示す側面図である。
図6】実施の形態に係るコイルに発生する渦電流の説明図である。
図7A】実施の形態に係るコイルを示す正面図である。
図7B】変形例1に係るコイルを示す正面図である。
図7C】変形例1に係る別のコイルを示す正面図である。
図8A】実施の形態に係るコイルを示す正面図である。
図8B】変形例2に係るコイルを示す正面図である。
図8C】変形例2に係る別のコイルを示す正面図である。
図9A】実施の形態に係るコイルを示す断面図である。
図9B】変形例3に係るコイルを示す断面図である。
図10】従来のコイルに発生する渦電流の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施の形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0017】
(実施の形態)
[モータの構造について]
図1Aは、実施の形態に係るモータ1を示す上面図である。図1Bは、実施の形態に係るモータ1を示す側面図である。図1Cは、図1Bにおける1C-1C線での断面図である。ただし、いずれにおいても、カバーケース等は図示していない。モータ1は、カバーケース(図示せず)の内部に、シャフト2と、ロータ3と、ステータ4と、コイルU11、U22、U32、U41、V12、V21、V31、V42、W11、W22、W32、W41と、バスバー51~54と、を備えている。
【0018】
ここで、シャフト2の長手方向(図1A紙面に対して垂直な方向)をZ軸方向と呼び、これに直交する方向(図1A紙面に対して平行な方向)をX軸方向、Y軸方向と呼ぶことがある。X軸方向とY軸方向は互いに直交する。
【0019】
また、「一体」あるいは「一体化」とは、複数の部品が、ボルト締め、または、かしめ等の機械的に接続されているだけでなく、共有結合、イオン結合、金属結合などの材料結合によって、部品が電気的に接続された1つの物体、または部品全体が溶融などによって材料結合され電気的に接続された1つの物体の状態をいう。
【0020】
シャフト2は内部に、Z軸方向に延びる中空部2aを有している。シャフト2の側面には、複数の貫通孔2bが設けられている。中空部2aはモータ1の内部を冷却するための冷媒Cの通路である。冷媒Cは中空部2a内をZ軸方向に沿って流れており、モータ1の内部で循環して流れている。また、中空部2aを流れる冷媒Cの一部は複数の貫通孔2bから流れ出て、モータ1の中心側から外側、つまりロータ3からステータ4のある方向に向けても流れ、ロータ3及びステータ4を冷却する。
【0021】
ロータ3は、シャフト2の外周に接して設けられている。ロータ3は、ステータ4に対向してN極、S極がシャフト2の外周方向に沿って交互に配置された磁石31を含んでいる。なお、本実施の形態で、ロータ3に用いられる磁石31としてネオジム磁石を使用している。しかし、その材料、形状及び材質については、モータの出力等に応じて適宜変更しうる。
【0022】
ステータ4は、実質的な円環状のステータコア41と、その内周に沿って等間隔に設けられた複数のティース42と、ティース42の間にそれぞれ設けられたスロット43とを有している。ステータ4は、Z軸方向から見て、ロータ3の外側に、ロータ3と一定の間隔を持って離間して配置されている。
【0023】
ステータコア41は、例えば、ケイ素等を含有した電磁鋼板を積層後に打ち抜き加工して形成される。
【0024】
なお、本実施の形態において、ロータ3の磁極数は、ステータ4に対向するN極が5個であり、S極が5個の計10極である。スロット43の数は12個である。しかし、特にこれに限定されるものではなく、その他の磁極数とスロット数との組合せについても適用できる。
【0025】
ステータ4は12個のコイルU11、U22、U32、U41、V12、V21、V31、V42、W11、W22、W32、W41を有している。これらのコイルは所定のティース42に対して装着されて、Z軸方向から見て、所定のスロット43内に配置されている。つまり、コイルU11、U22、U32、U41、V12、V21、V31、V42、W11、W22、W32、W41はティース42に対して集中巻になっている。さらに、コイルU11、U22、U32、U41がバスバー51と、コイルV12、V21、V31、V42はバスバー52と、コイルW11、W22、W32、W41はバスバー53とそれぞれ一体化されて配置されている。
【0026】
ここで、コイルを表わす符号UXY、VXY、WXYのうち、最初の文字はモータ1の各相(本実施の形態の場合は、U相、V相、W相)を表わす。2番目の文字は同相内のコイルの配列順を表わす。3番目の文字はコイルの巻回方向を表わす。本実施の形態では、1は時計回り方向、2は反時計回り方向である。従って、コイルU11は、U相の配列順が1番目のコイルで、巻回方向が時計回り方向であることを表わす。コイルV42は、V相の配列順が4番目のコイルで、巻回方向が反時計回り方向であることを表わす。なお、時計回りとは、モータ1の中心から見て右回りをいい、「反時計回り」とはモータ1の中心から見て左回りをいう。
【0027】
また、厳密には、コイルU11,U41はU相のコイルであり、コイルU22,U32はUバー相(U相コイルと発生する磁界の向きが逆)のコイルである。しかし、以降の説明では、特に断らない限り、U相のコイルと総称する。コイルV12、V21、V31、V42及びコイルW11、W22、W32、W41についても同様に、V相のコイル、W相のコイルとそれぞれ総称する。
【0028】
[コイルの構造について]
図2は、実施の形態に係るコイル5を示す斜視図である。図3は、本実施の形態に係るコイル5を示す側面図である。また、図4は、実施の形態と比較のためのコイル5を示す斜視図である。図5は、実施の形態と比較のためのコイル5を示す側面図である。なお、図3及び図5は、コイル5の周方向側から見た側面図を示している。また、図2及び図3に示す本実施の形態に係るコイル5は、図1Cに示すモータ1のティース42に装着されたコイルU11、U22、U32、U41、V12、V21、V31、V42、W11、W22、W32、W41に適用される。
【0029】
コイル5は、巻回された導線5aと、導線5aの表面に設けられた絶縁皮膜5bと、コイル5の第1ターン及び第10ターンからそれぞれ引出し部5c,5dとを有している。コイル5の第2~第10ターンは平面視で矩形状に巻回され、4つのコイル辺からなる。
【0030】
導線5aは断面が四角形状の導電部材からなる線材である。導線5aは、螺旋状に単層で10ターン巻回されて上下方向に積層されたターン列をなしている。導線5aは、例えば、銅、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、真鍮、鉄、ステンレス鋼(Steel Use Stainless(SUS))等によって形成されている。
【0031】
なお、以降の説明において、引出し部5cの先端から引出し部5dが設けられた位置の下方まで巻回された部分を第1ターンとし、以降の1周ずつ巻回された部分を順に第2~第10ターンと数えることとする。各ターンの始点の取り方は任意に定めることができる。コイル5の第1ターンが設けられた側を「外」、第10ターンが設けられた側を「内」と呼ぶことがある。これは、モータ構造の径方向に対し、モータの外側を「外」とし、モータの中心側を「内」としているためである。
【0032】
絶縁皮膜5bは、コイル5と外部の部材(図示せず)を絶縁するように、導線5aの表面全体に設けられている。例えば、図1A図1Cに示すモータ1において、絶縁皮膜5b及び図示しない絶縁部材、例えば絶縁紙等によって、コイル5とステータコア41及びティース42との間が絶縁される。また、コイル5における隣接するターン間は絶縁皮膜5bによって絶縁されている。絶縁皮膜5bは、例えば、ポリイミド、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン(Poly Ether Ether Ketone(PEEK))、アクリル、アミドイミド、エステルイミド、エナメル、耐熱樹脂等によって形成されている。絶縁皮膜5bの厚みは、数十μm程度、例えば、10μmから50μmの間である。
【0033】
引出し部5c,5dはいずれも導線5aの一部である。引出し部5c,5dは、外部からの電流供給を受けるため、あるいは外部に電流を供給するために、コイル5の側面、言いかえると、導線5aのターン列と交差する平面から外側に延在している。引出し部5c,5dは、外部の部材、例えば、図1A図1Cに示すバスバー51~54のいずれかと接続するために、絶縁皮膜5bが除去されている。なお、絶縁皮膜5bは、引出し部5c,5dの全領域で除去されている必要はなく、例えば、バスバー51~54との接続に必要な部分のみ絶縁皮膜5bが除去されていればよい。
【0034】
ここで、比較のためのコイルの形状と、本実施の形態に係るコイルの形状との違いについて、図面を用いて説明する。
【0035】
図4及び図5に示す、比較のためのコイル5では、各ターンの直線方向の導線内で、図10に示すような渦電流が発生する。発生した渦電流は、ジュール熱となりモータの温度を上昇させモータ効率が低下してしまう。
【0036】
一方、図2及び図3に示すように、本実施の形態のコイル5では、ティース42内部の一部のターンの軸方向の導線に、凹部5e、5fが周方向に設けられている。設けられた凹部5e、5fのサイズは、コイル幅の剛性を損なわない程度に、コイル幅の約1/3程度である。凹部5e、5fは、コイル周方向の双方に交互に設けられている。凹部5e、5fは、コイル周方向の一方向側に設けられても良いが、渦電流のループをより小さくするために、図2及び図3に示す様に一軸内の双方の向きで設けられるのが好ましい。切り欠かれた凹部5e、5fの大きさは、コイル幅の約1/3に限定されるのではなく、導線の剛性低減と、導線内の抵抗増によるジュール熱の増加の懸念事項を除けば、より切り欠き部が大きい方が渦電流の低減効果は高い。
【0037】
図6は、実施の形態に係るコイルに発生する渦電流の説明図である。図2及び図3に示す凹部5e、5fが設置された導線では、図6の矢印Aで示すような渦電流が誘起される。図6に示す渦電流は、従来のコイルに発生する渦電流よりも小さくなる。
【0038】
図2及び図3に示す凹部5e、5fの形状は、四角形である。しかし、この形状は、三角形、台形、円形、逆三角形、逆台形などでも良く、限定されない。更にコーナー部の形状はコイル加工精度に大きく影響するため、R面取り、またはC面取り等が付くなど多角形でも良い。
【0039】
図2及び図3に示す凹部5e、5fの設置は、ティース内部の一部のターンの軸方向の導線であるが、コイルトップ側またはコイルボトム側の導線でも良く、限定されない。
【0040】
凹部は、1以上の自然数個設けられる。例えば辺に1個のみ設置される場合においては、凹部がコイル内側に設けられた場合の方が、渦電流損の低減効果は高い。
【0041】
凹部が2以上の偶数個設置される場合においては、凹部がコイル周方向に同数交互に設置される方が、渦電流損低減効果は高い。これは、コイル周方向に凹部の設置が偏ると、凹部が設置されていないコイル側に渦電流のループが長く発生し、渦電流損低減効果が低くなるためである。
【0042】
凹部が3以上の奇数個設置される場合においては、ティースが有るコイル内側に多く設置された場合の方が、渦電流損の低減効果は高い。この理由は、凹部の設置が1つの場合と同じである。
【0043】
以上のように、本実施の形態のコイル5は、断面が四角形状の導線5aが螺旋状に巻回されて積層された第1~第nターン(nは3以上の整数)からなるターン列を有するコイル5であって、コイル5における第1~第nターンのうちの少なくとも一部の導線5aに他の部分の導線5aと形状が異なる凹部である変形部が設けられている。ターン列の両端部に位置する第1及び第nターンのそれぞれにおいて、ターン列の中央と反対側に位置する外面がターン列と交差する平面に沿って面一状に延びている。
【0044】
これにより、コイル5の渦電流損がより少なくなるため、渦電流損による発熱が抑えられ、コイル5内損失が減り、モータ1の効率を高めることができる。
【0045】
なお、本実施の形態では、コイル5のターン数を10としたが、特にこれに限定されず、他の値であってもよい。すなわち、断面四角形状の導線が螺旋状に巻回されて径方向に積層された第1~第nターン(nは3以上の整数)からなるターン列を有するコイルにおいて、複数のターンのうちの少なくとも一部のターンに凹部が設けられていればよく、nターン全てに凹部が無くても良い。凹部を設置することは、コイル断面積が低下し、コイル導電率増加によりジュール熱が増加する懸念が有る。そのため、より渦電流損の影響を大きく受ける径方向内側の導線に凹部を多く設ける方が、より効果的となる。これら一部のターンに凹部が設置される場合も、コイル剛性の低減と、導線内の抵抗増によるジュール熱の増加との兼ね合いでバランスを考慮し設けるのが好ましい。
【0046】
また、変形部は、少なくとも第nターンに設けられてもよい。
【0047】
また、変形部は、コイルの径方向および周方向に垂直な方向であるZ軸方向の導線において、導線の周方向に切り欠かれた凹部を含んでもよい。
【0048】
また、本実施の形態のモータ1は、ロータ3と、ステータコア41と、ステータコア41から突出したティース42と、ティース42に巻回された本実施の形態のコイル5と、を有するステータ4とを含む。
【0049】
(変形例1)
図7Aは、実施の形態に係るコイル5を示す正面図である。図7Aは、図2及び図3に示すコイル5を、コイル径方向の内側から外側に見た正面図である。変形例1に係るコイル5を比較のため、コイル径方向の内側から外側に見た正面図を、図7B及び図7Cに示す。図7Bは、変形例1に係るコイル5を示す正面図である。図7Cは、変形例1に係る別のコイル5を示す正面図である。なお、説明の便宜上、図7Aにおいて、nターン有る導線のうち、コイル径方向の一番内側の第nターンの導線のみを表し、第nターン以外の導線と、引出し部5cを省略している。図7B及び図7Cは、切り欠いた凹部の有る導線の1軸部分のみを表し、それ以外の螺旋状に形成された部分、第nターン以外の導線、及び引出し部5c、5dを省略している。
【0050】
図7A図7B及び図7Cに示すコイル5は、ティース内部にあるコイル内側の切り欠き部(変形部)である凹部5eと、ティース内部にあるコイル外側の切り欠き部(変形部)である凹部5fとを具備する。
【0051】
図7Aの凹部形状は、実質的な四角形である。この凹部形状は、図7Bに示す実質的な三角形でも、図7Cに示す実質的な半円形でも、または台形でも良い。凹部は、コイル周方向に対し切り欠かれている。
【0052】
図7Aから図7Cに示す凹部は複数ある。その場合は、コイル周方向に対し双方に凹部が有る方が望ましい。コイル径方向内側の凹部5eの個数は、導線外側の凹部5fの個数と同じか1つ多い方が望ましい。図7Aから図7Cに示す凹部が1つのみの場合においては、螺旋状に構成される導線内側に凹部5eが有ることが望ましい。
【0053】
図7Aから図7Cに示す凹部が複数の場合は、導線内側の凹部5eと、導線外側の凹部5fはコイル周方向に対し双方に有り、かつ、Z軸方向に対して同じ位置に無い方が望ましい。
【0054】
以上のように、コイル5の内側の凹部の個数は、コイル5の外側の凹部の個数と同じ、またはより多い方が好ましい。
【0055】
また、変形部は、導線の内側の凹部と導線の外側の凹部とが、Z軸方向に対して同じ位置にない方が好ましい。
【0056】
変形例1では、コイル5のターン数を10としたが、特にこれに限定されず、他の値であってもよい。
【0057】
(変形例2)
図8Aは、実施の形態に係るコイルを示す正面図である。図8Aは、図2及び図3に示すコイル5を、コイル径方向の内側から外側に見た正面図である。変形例2に係るコイル5を比較のため、コイル径方向の内側から外側に見た正面図を、図8B及び図8Cに示す。図8Bは、変形例2に係るコイルを示す正面図である。図8Cは、変形例2に係る別のコイルを示す正面図である。なお、説明の便宜上、図8A図8B及び図8Cにおいて、nターン有る導線のうち、一番内側の第nターンの導線のみを表し、第nターン以外の導線と、引出し部5cを省略している。
【0058】
図8A図2及び図3に示すコイル5の凹部は、導線のZ軸方向にのみ切り欠きが施されている。本変形例で示す図8B及び図8Cでは、コイルのトップ部と、コイルのボトム部に凹部が設置されている。この場合、コイル内部に切り欠かれた凹部を5gとして、コイル外側に切りかかれた凹部を5hとして示す。
【0059】
即ち、図8B及び図8Cに示すコイル5は、ティースのトップ部及びボトム部にあるコイル内側の切り欠き部(変形部)である凹部5gと、ティースのトップ部及びボトム部にあるコイル外側の切り欠き部(変形部)である凹部5hと、を具備する。
【0060】
凹部5e、凹部5f、凹部5g及び凹部5hは全て設置されても良く、いずれかの辺の一部に設置されても良い。図8Cには全ての辺に凹部5e、凹部5f、凹部5g及び凹部5hが設置された例を示す。凹部5e、凹部5f、凹部5g及び凹部5hの場所は限定されない。
【0061】
なお、本変形例では、凹部の個数は各辺に5つまたは3つの場合を示したが、特にこれに限定されず、他の値であっても良い。
【0062】
(変形例3)
図9Aは、実施の形態に係るコイル5を示す断面図である。図9Aは、コイル5を、図1Bに示す1C-1Cの断面、及び図3に示す1C-1Cに切断し、Z軸方向に見た切断面を示す。本変形例に係るコイル5の比較のために図9Bを示す。図9Bは、変形例3に係るコイル5を示す断面図である。なお、説明の便宜上、図9A及び図9Bにおいては、コイル内部にあるティース部の図示を省略している。
【0063】
図9Aに設けられた凹部5eは、第8ターンから第10ターンに設けられている。その切り欠き度合いが全て同じサイズである。本変形例で示す図9Bでは、導線の凹部5eの切り欠き度合いは同じではなく、径方向に内側の導線程大きく切り欠かれている。コイル径方向の内側に発生する渦電流がコイル径方向の外側で発生する渦電流より大きいことから、凹部5eの切り欠きサイズに差異を付けている。更には、図6に示ように、第8ターンから第10ターンについて、凹部5eの切り欠きの無い箇所についても、導線の周方向の幅寸法を狭めて、ティース部との間に隙間5jを形成する。
【0064】
以上のように、変形部は、コイル5の径方向内側ほど導線の切り欠きが大きくなることが好ましい。
【0065】
図9A、及び図9Bに示すように、凹部5eは、コイル5の第8ターンから第10ターンの径方向内側の3個のターンにのみ設置されたが、特にこれに限定されず、他の値であっても良い。本変形例では、コイル5のターン数を10個としたが、特にこれに限定されず、他の値であってもよい。
【0066】
コイル5は鋳造により形成することができる。この方法によれば、断面積の大きい導線を容易に螺旋状の巻回コイルに成形することができる。ただし、鋳造に限られず、他の方法で形成してもよい。例えば、銅、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、鉄、SUS、真鍮などの固体物から削りだしを行ってもよい。また、例えば、個々に成形された部品同士を溶接や接合による部材の一体化により形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本開示に係るコイルは、渦電流の発生を低減することができ、モータまたは電力機器などに適用する上で有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 モータ
2 シャフト
2a 中空部
2b 貫通孔
3 ロータ
4 ステータ
5 コイル
5a 導線
5b 絶縁皮膜
5c 引出し部
5d 引出し部
5e 凹部
5f 凹部
5g 凹部
5h 凹部
5j 隙間
31 磁石
41 ステータコア
42 ティース
43 スロット
51 バスバー
52 バスバー
53 バスバー
54 バスバー
U11、U22、U32、U41、V12、V21、V31、V42、W11、W22、W32、W41 コイル
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10