(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ、表示媒体
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20230407BHJP
B60K 35/00 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
(21)【出願番号】P 2019138132
(22)【出願日】2019-07-26
【審査請求日】2022-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 智明
(72)【発明者】
【氏名】羽田 崇人
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154529(JP,A)
【文献】特開2018-162044(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079230(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038043(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131494(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0303604(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の表示媒体と、
前記表示媒体に投影して反射させた画像によって、ユーザが視認可能な虚像を形成する投影部と、を備え、
前記表示媒体は、
それぞれが湾曲した第1主面と第2主面とを有する湾曲板状の湾曲部と、
前記表示媒体の前記第1主面側に位置する第1平面部と、
前記表示媒体の前記第2主面側に位置する第2平面部と、を有し、
前記第1平面部は、前記表示媒体を垂直に切断する平面である第1切断面において、前記第1主面の接線に平行な第1平面を有し、
前記第2平面部は、前記第1切断面において、前記第2主面の接線に平行な第2平面を有
し、
前記第1平面部は、前記第1主面よりも突出して頂部に前記第1平面を有する第1凸形状、又は、前記第1主面よりも陥入して底部に前記第1平面を有する第1凹形状であり、
前記第2平面部は、前記第2主面よりも突出して頂部に前記第2平面を有する第2凸形状、又は、前記第2主面よりも陥入して底部に前記第2平面を有する第2凹形状である
ヘッドアップディスプレイ。
【請求項2】
前記第1平面における平面度をF1、前記第1凸形状又は第1凹形状における高低差をL1としたとき、F1/L1は、0.01よりも小さく、
前記第2平面における平面度をF2、前記第2凸形状又は第2凹形状における高低差をL2としたとき、F2/L2は、0.01よりも小さい
請求項
1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項3】
前記第1平面及び前記第2平面の少なくとも一方は、円形又は多角形である
請求項
1又は2に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項4】
前記第1切断面において、前記第1平面と、前記第2平面とが成す角θは、0.01°より大きく、かつ、1.00°より小さい
請求項
1~3のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項5】
板状の表示媒体と、
前記表示媒体に投影して反射させた画像によって、ユーザが視認可能な虚像を形成する投影部と、を備え、
前記表示媒体は、
それぞれが湾曲した第1主面と第2主面とを有する湾曲板状の湾曲部と、
前記表示媒体の前記第1主面側に位置する第1平面部と、
前記表示媒体の前記第2主面側に位置する第2平面部と、を有し、
前記第1平面部は、前記表示媒体を垂直に切断する平面である第1切断面において、前記第1主面の接線に平行な第1平面を有し、
前記第2平面部は、前記第1切断面において、前記第2主面の接線に平行な第2平面を有し、
前記第1平面及び前記第2平面の算術平均粗さRaは、いずれも0μmよりも大きく、かつ、25μmよりも小さい
ヘッドアップディスプレイ。
【請求項6】
板状の表示媒体と、
前記表示媒体に投影して反射させた画像によって、ユーザが視認可能な虚像を形成する投影部と、を備え、
前記表示媒体は、
それぞれが湾曲した第1主面と第2主面とを有する湾曲板状の湾曲部と、
前記表示媒体の前記第1主面側に位置する第1平面部と、
前記表示媒体の前記第2主面側に位置する第2平面部と、を有し、
前記第1平面部は、前記表示媒体を垂直に切断する平面である第1切断面において、前記第1主面の接線に平行な第1平面を有し、
前記第2平面部は、前記第1切断面において、前記第2主面の接線に平行な第2平面を有し、 前記第1平面は、前記表示媒体を垂直に切断し、かつ、前記第1切断面と直交する平面である第2切断面において、前記第1主面の接線に平行であり、
前記第2平面は、前記第2切断面において、前記第2主面の接線に平行である
ヘッドアップディスプレイ。
【請求項7】
前記表示媒体は、コンバイナである
請求項
1~6のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項8】
投影部によって投影された画像が反射されることで、ユーザが視認可能な虚像が形成される板状の表示媒体であって、
それぞれが湾曲した第1主面と第2主面とを有する湾曲板状の湾曲部と、
前記表示媒体の前記第1主面側に位置する第1平面部と、
前記表示媒体の前記第2主面側に位置する第2平面部と、を備え、
前記第1平面部は、前記表示媒体を垂直に切断する平面である第1切断面において、前記第1主面の接線に平行な第1平面を有し、
前記第2平面部は、前記第1切断面において、前記第2主面の接線に平行な第2平面を有
し、
前記第1平面部は、前記第1主面よりも突出して頂部に前記第1平面を有する第1凸形状、又は、前記第1主面よりも陥入して底部に前記第1平面を有する第1凹形状であり、
前記第2平面部は、前記第2主面よりも突出して頂部に前記第2平面を有する第2凸形状、又は、前記第2主面よりも陥入して底部に前記第2平面を有する第2凹形状である
表示媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドアップディスプレイ、及び、当該ヘッドアップディスプレイに用いられる表示媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
板状の表示媒体に画像を反射させた反射光により、ユーザに虚像を視認させる車両用の表示装置であるヘッドアップディスプレイ(Head-Up Display、以下、HUDとも表記する)が知られている。さらに、表示媒体の板状における厚みを調整して、板状を構成する両主面のそれぞれにおける画像の反射に基づく2重像の発生を抑制するHUDも知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に開示されたHUDでは、2重像の発生が抑制できず、ユーザが適切に虚像を視認できない場合がある。
【0005】
そこで、本開示は、虚像をユーザにより適切に視認させるためのヘッドアップディスプレイ等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係るヘッドアップディスプレイは、板状の表示媒体と、前記表示媒体に投影して反射させた画像によって、ユーザが視認可能な虚像を形成する投影部と、を備え、前記表示媒体は、それぞれが湾曲した第1主面と第2主面とを有する湾曲板状の湾曲部と、前記表示媒体の前記第1主面側に位置する第1平面部と、前記表示媒体の前記第2主面側に位置する第2平面部と、を有し、前記第1平面部は、前記表示媒体を垂直に切断する平面である第1切断面において、前記第1主面の接線に平行な第1平面を有し、前記第2平面部は、前記第1切断面において、前記第2主面の接線に平行な第2平面を有する。
【0007】
また、本開示の一態様に係る表示媒体は、投影部によって投影された画像が反射されることで、ユーザが視認可能な虚像が形成される板状の表示媒体であって、それぞれが湾曲した第1主面と第2主面とを有する湾曲板状の湾曲部と、前記表示媒体の前記第1主面側に位置する第1平面部と、前記表示媒体の前記第2主面側に位置する第2平面部と、を備え、前記第1平面部は、前記表示媒体を垂直に切断する平面である第1切断面において、前記第1主面の接線に平行な第1平面を有し、前記第2平面部は、前記第1切断面において、前記第2主面の接線に平行な第2平面を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、虚像をユーザにより適切に視認させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、従来のヘッドアップディスプレイに用いられる表示媒体を示す概略図である。
【
図1B】
図1Bは、従来のヘッドアップディスプレイにおいて見られる2重像を説明する図である。
【
図2A】
図2Aは、改善された従来のヘッドアップディスプレイにおける表示媒体を示す概略図である。
【
図2B】
図2Bは、改善された従来のヘッドアップディスプレイにおける2重像の発生の抑制を説明する図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係るヘッドアップディスプレイについて説明する概略図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る表示装置の視距離調整の原理について説明する図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係る表示媒体の第1断面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態に係る表示媒体の第2断面図である。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る表示媒体の作製について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示に至った知見)
HUD等の車両に搭載される表示装置は、車両に関するあらゆる情報を、画像(例えば、数字、文字及び矢印などの図形を含む視覚情報)として当該車両を操作するドライバ等のユーザに対して視認させる装置である。特に、HUDは、例えば、車両のコクピットの前方に設置されるウインドシールド(フロントガラス)やコンバイナを表示媒体として、当該ウインドシールドに画像を投影して反射させることによって、画像を虚像としてユーザに視認させる。この際、ウインドシールドやコンバイナが透光性を有することにより、車両の外側から入射する光は、ウインドシールド越しに見える景色として虚像とともにユーザに視認される。
【0011】
図1Aは、従来のヘッドアップディスプレイに用いられる表示媒体を示す概略図である。
図1Aでは、従来のHUDにおける板状の表示媒体90を、当該表示媒体90に垂直、かつ、ユーザの目40から見た上下方向(紙面の上下方向)に沿う断面で切断した図を示している。また、
図1Aには、便宜上、ユーザに視認される虚像、及び当該虚像を形成するために投影部20から投影される光線を実体として図示している。なお、断面のハッチングは、説明に用いる他の図示と重複するため省略している。また、図中の表示媒体90は、図示された光線が反射される一部のみが図示され、その他は省略されている。
【0012】
図1Aに示すように、従来のHUDでは、投影部20が表示媒体90に投影して反射させた画像によって、ユーザが視認可能な虚像を形成する。ウインドシールドやコンバイナ等の表示媒体90において、投影部20の光源21から複数の反射体23によって入射した光の反射光がユーザの目40に入射するように設計される。しかしながら、表示媒体90は、透光性を有する板状の部材であり、一方の主面91に入射する光は、当該一方の主面91において反射されるとともに、一部が表示媒体の内部に透光する。
【0013】
表示媒体90の内部に透光した光は、表示媒体90の他方の主面92に到達して反射され、一方の主面91から出射される。したがって、表示媒体90における一方の主面91で反射された光と、他方の主面92で反射された光とは、互いにずれてユーザの目40に入射する。このため、HUDに用いられる表示媒体では2重像が発生することがある。
【0014】
図1Bは、従来のヘッドアップディスプレイにおいて見られる2重像を説明する図である。
図1Bは、投影部20から格子状の画像を表示した場合に、ユーザの目40からHUDを見た際に見える虚像を示している。
図1Aにおいて説明したように、ユーザの目40には異なる位置から反射光が入射されるため、形成される虚像は、図中に実線と破線とで示すように、ずれて重なる虚像として視認される。このような虚像のずれが生じると、視認性が低下し、画像が示す情報をユーザが受け取れないといったトラブルが生じ得る。
【0015】
そこで、特許文献1に開示されたHUDでは、このような一方の主面91で反射された光と、他方の主面92で反射された光とのずれを補正するために、表示媒体90の厚みを調整している。
図2Aは、改善された従来のヘッドアップディスプレイにおける表示媒体を示す概略図である。また、
図2Bは、改善された従来のヘッドアップディスプレイにおける2重像の発生の抑制を説明する図である。表示媒体10aの厚みの調整により、一方の主面11aで反射された光と、他方の主面12aで反射された光とが重なってユーザの目40に入射するように、表示媒体10aの一方の主面11aと他方の主面12aとが所定の角度(
図2Aの二点鎖線間の角度)を成すように設計されている。特に、HUDに用いられる表示媒体10aでは、所定の角度にわずかでも誤差が生じてしまうと、2重像が視認可能なレベルで発生してしまう(つまり、誤差感度が非常に高い)。例えば、設計された所定の角度から数分角のずれが生じただけでも2重像が視認されてしまう。
【0016】
これに対して、従来、表示媒体10aを成型するための金型において、基準面を設定し、一方の主面11aを成型する第1金型(例えば、コア側)の角度を測定する。同様に、他方の主面12aを成型する第2金型(例えば、キャビティ側)の角度を測定する。これらの基準面に対する第1金型及び第2金型の角度を用いて、成型される表示媒体10aの一方の主面11aと他方の主面12aとが成す角度を推定し、それぞれの金型を修正することによって推定値と設計値とを一致させる方法が用いられてきた。しかしながら、この方法では、金型の角度を測定してはいるものの、成型後の表示媒体10aを直接測定していない。したがって、例えば、表示媒体10aの成型時に、成型収縮による影響や、第1金型と第2金型との合わせにぶれが生じる等によって、成型後の表示媒体10aにおける所定の角度に誤差が生じることを排除しきれない。つまり、この方法によっても2重像を抑制することは困難である。
【0017】
例えば、成型後の表示媒体10aそのものの所定の角度を測定することができれば、このような所定の角度における物作り誤差を制御することができる。ここで、表示媒体10aの両主面は、いずれも湾曲している。より詳しくは、表示媒体の一方の主面11a及び他方の主面12aは、いずれも自由曲面で構成されている。したがって、これらの主面どうしが所定の角度を成すように表示媒体10aを設計するためには、表示媒体10aの両主面を構成する自由曲面どうしの成す角度を計測できる必要がある。このような自由曲面どうしの成す角度の測定は、やはり困難である。
【0018】
加えて、複数種の車両において、搭載されるHUDを共通化する際、ユーザの目40の位置が車種ごとに異なるため、車種ごとに所定の角度の設計が必要となる。したがって、このような所定の角度の設計は、容易に行えることが望ましい。
【0019】
そこで、本開示では、自由曲面どうしの成す角度を簡易かつ正確に計測し、成型後の表示媒体10(後述する
図3参照)に生じる所定の角度における誤差を制御可能にする。このようにして、表示媒体10を成型することで、HUD100(後述する
図3参照)における虚像をユーザにより適切に視認させることを可能とする。
【0020】
具体的には、本開示におけるHUD100に使用される表示媒体10は、それぞれが湾曲した第1主面(つまり、一方の主面)と第2主面(つまり、他方の主面)とを有する湾曲板状の湾曲部を有する。また、表示媒体10は、表示媒体10の第1主面側に位置し、表示媒体10を垂直に切断する平面である第1切断面において、第1主面の接線に平行な第1平面を有する第1平面部を有する。また、表示媒体10の第2主面側に位置し、第1切断面において、第2主面の接線に平行な第2平面を有する第2平面部を有する。
【0021】
これにより、第1主面に対応して成型される第1平面と、第2主面に対応して成型される第2平面との成す角度が、成型された表示媒体10における所定の角度に対応するため、単純に平面どうしの成す角度を測定するのみで、成型後の表示媒体10における所定の角度を正確に測定できる。
【0022】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の包括的又は具体的な例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、並びに、ステップ及びステップの順序等は、一例であって本開示を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0023】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、各図において縮尺などは必ずしも一致していない。各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0024】
(実施の形態)
[ヘッドアップディスプレイ]
まず、実施の形態におけるHUD100の概要について説明する。
図3は、実施の形態に係るヘッドアップディスプレイについて説明する概略図である。
図3に示すように、本実施の形態におけるHUD100は、車両30に搭載される。具体的には、HUD100は、車両30のダッシュボード31に埋設されるようにして搭載される。HUD100は、表示媒体10と、表示媒体10に投影して反射させた画像によって、ユーザが視認可能な虚像を形成する投影部20と、を備える。なお、図中では、HUD100が埋設されたダッシュボード31内に投影部20が配置されている。
【0025】
投影部から投影された画像は、表示媒体10において反射されてユーザの目40に入射する。前述したように、表示媒体10は、透光性を有するため、車両30のウインドシールド33越しに視認される景色に重畳して投影された画像の虚像をユーザに視認させる。なお、表示媒体10とは、例えばコンバイナであるが、ウインドシールド33であってもよい。以降の実施の形態においては、表示媒体10とはコンバイナであるものとして説明する。
【0026】
表示媒体10は、例えば、透光性を有する樹脂材料を射出成型することで形成された部材の表面をコーティングすることで作製される。表示媒体10の樹脂材料としては、例えば、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、及びポリカーボネート等、透光性を有する樹脂材料であればどのような樹脂材料を用いてもよい。なお、表面のコーティング剤としては、防汚コート剤、ハーフミラーコート剤等が適宜使用される。
【0027】
前述したように、本実施の形態では、2重像の発生を抑制するための、平面部が表示媒体10に備えられている。以下、このような平面部について、
図4、
図5、及び
図6を用いて説明する。
図4は、実施の形態に係る表示媒体10の平面図である。
図4では、板状の表示媒体10に交差する方向(つまりユーザ側)から見た正面図を示している。
図4に示すように、表示媒体10は、車両30にHUD100が設置された際にユーザによって視認される板状の視認部と、HUD100の本体部に表示媒体10が取り付けられる際に使用される取付け部14とを備える。視認部は前述したように両主面が湾曲している。つまり、視認部は、それぞれが湾曲した第1主面と第2主面とを有する湾曲板状の湾曲部13である。
【0028】
図4では、湾曲部13のうち、ユーザ側にあたる第1主面11側が図示されている。表示媒体10は、取付け部14の第1主面側に位置する箇所に第1平面15を有する第1平面部16を備える。また、
図4中では、裏面にあたる第2主面12側にも、同様に取付け部14に位置する箇所に第2平面17(後述する
図5参照)を有する第2平面部18(後述する
図5参照)を備える。本実施の形態における表示媒体10は、表示媒体10の第1主面11及び第2主面12のそれぞれの側に、このような第1平面15及び第2平面17を有する。なお、第1平面15及び第2平面17の形状は円形であるが、四角、六角、十角等の多角形や半円形等であってもよい。第1平面15及び第2平面17の形状に特に限定はない。第1平面15と第2平面17とで形状が一致していなくてもよい。
【0029】
図5は、実施の形態に係る表示媒体の第1断面図である。
図5の(a)は、表示媒体10の全体を
図4に示したv-v線で切断した場合の断面図を示している。また、
図5の(b)は、
図5の(a)における第1平面部16及び第2平面部18が形成された箇所(
図4の取付け部14に対応する箇所)を拡大した図である。
【0030】
図5の(a)に示すように、表示媒体10は、湾曲した第1主面11、及び、第1主面11と背向する湾曲した第2主面12とを有する湾曲部13を備える。また、表示媒体10は、v-v線に沿って表示媒体10を垂直に切断する平面である第1切断面において、第1主面11の接線に平行な第1平面15を有する第1平面部16を備える。つまり、第1平面15は、第1主面11に接する平面である接平面と平行な面である。また、表示媒体10は、第1切断面において、第2主面12の接線に平行な第2平面17を有する第2平面部18を備える。つまり、第2平面17は、第2主面12に接する平面である接平面と平行な面である。なお、例えば、第1主面11の接平面と第2主面の接平面とは、いずれも、各主面どうしの対象関係にある位置で接する平面である。
【0031】
特に、表示媒体10の設計時に、各主面の原点にあたる点の接平面と平行な平面として、第1平面15及び第2平面17を形成してもよい。これによれば、第1平面15及び第2平面17が成す角度が、そのまま表示媒体10の両主面の原点位置における第1主面11及び第2主面12の成す角度として測定できる。なお、第1平面15及び第2平面17は、表示媒体10の各主面の原点にあたる点の接平面と平行な平面でなくてもよい。第1主面11と第1平面15との3次元的な位置関係が明らかであり、かつ、第2主面12と第2平面17との3次元的な位置関係が明らかであればよい。
【0032】
ここで、第1平面15は、第1主面11よりも面外方向に突出して形成される。つまり、第1平面部16は、頂部に第1平面15を有する凸形状(第1凸形状)である。また、同様に、第2平面17は、第2主面12よりも面外方向に突出して形成される。つまり、第2平面部18は、頂部に第2平面17を有する凸形状(第2凸形状)である。これにより、表示媒体10を製造する際の設計を容易にでき、かつ、第1平面15と第2平面17との間に十分な厚みを持たせることができるため、第1平面15及び第2平面17の成す角度を測定する際の制限を減らすことができる。
【0033】
なお、第1平面15は、凹形状の底部に形成されてもよい。具体的には、第1平面15は、第1主面11よりも陥入する凹形状(第1凹形状)の底部に形成されてもよい。また、同様に、第2平面17は、第2主面12よりも陥入する凹形状(第2凹形状)の底部に形成されてもよい。
【0034】
このようにして形成された第1平面15と第2平面17とが、第1切断面において成す角度θは、例えば、0.01°より大きく、かつ、1.00°より小さい。なお、角度θは、0.02°より大きくてもよく、0.03°より大きくてもよく、0,05°より大きくてもよい。また、角度θは、0.80°より小さくてもよく、0.55°より小さくてもよく、0.30°より小さくてもよい。
【0035】
HUD100の製造者、又は、表示媒体10の製造者は、表示媒体10に形成された第1平面15と第2平面17とが成す角度を、三次元測定機、オートコリメータ等、適切な装置を用いて測定する測定ステップを実施する。第1主面11と第1平面15との3次元的な位置関係、及び、第2主面12と第2平面17との3次元的な位置関係が明らかであるため、測定された第1平面15と第2平面17とが成す角度から、第1主面11と第2主面12とが成す角度を算出できる。
【0036】
このようにして算出された第1主面11と第2主面12とが成す角度をもとに、表示媒体10を射出成型する際の第1金型と第2金型との合わせの調整を行うことで、成型される表示媒体10の第1主面11と第2主面12とが成す角度を修正する修正ステップを実施する。
【0037】
図5の(b)に示すように、第1平面部16は、第1凸形状を有する円柱状であり、当該第1凸形状における高低差(つまり、円柱の高さ)をL1としたとき、L1は、例えば10mmよりも小さい。また、第1平面15の平面度をF1としたとき、F1/L1は、0.01よりも小さい。同様に、第2平面部18は、第2凸形状を有する円柱状であり、当該第2凸形状における高低差(つまり、円柱の高さ)をL2としたとき、L2は、例えば10mmよりも小さい。また、第2平面17の平面度をF2としたとき、F2/L2は、0.01よりも小さい。なお、前述したように、第1平面部16が第1凹形状である場合、円柱状の空間が形成されるが、この場合は、円柱状の空間の高さをL1とする。同様に第2平面部18が第2凹形状である場合、円柱状の空間の高さをL2する。
【0038】
これによれば、第1平面部16及び第2平面部18の円柱の高さを十分に短くすることができる。第1平面部16及び第2平面部18が射出成型で成型された際に、硬化後の金型からの抜きにおいて、第1平面部16及び第2平面部18が金型側に残留することによる表示媒体10の破損、及び製品の変形等のトラブルを抑制できる。
【0039】
また、第1平面15及び第2平面17は、滑らかな平面である事が望ましい。したがって、第1平面15及び第2平面17の算術平均粗さRaは、いずれも1.6μmに設定されている。なお、第1平面15及び第2平面17の算術平均粗さRaは、さらに滑らかであってもよいし、粗くてもよい。具体的には、第1平面15及び第2平面17の算術平均粗さRaは、0μmよりも大きく、かつ、25μmよりも小さい値であってもよいし、望ましくは、0.8μm以下であるとよい。
【0040】
Raは、いずれも1.6μmに設定されている。なお、第1平面15及び第2平面17の算術平均粗さRaは、さらに滑らかであってもよいし、粗くてもよい。
【0041】
図6は、実施の形態に係る表示媒体の第2断面図である。
図6は、表示媒体10の全体を
図4に示したvi-vi線で切断した場合の断面図を示している。
【0042】
図6に示すように、第1切断面における第1主面11と第2主面12とが成す所定の角度と同様に、表示媒体10は、第1切断面と直交する第2切断面においても第1主面11と第2主面12とが所定の角度を成していてもよい。したがって、第2切断面においても同様に第1平面部16及び第2平面部18によって所定の角度を算出してもよい。
【0043】
例えば、vi-vi線に沿って表示媒体10を垂直に切断する平面である第2切断面において、第1平面15が第1主面11の接線に平行であり、第2平面17が前記第2主面の接線に平行であってもよい。これによれば、第1主面11と第2主面12とが成す角を第1切断面及び第2切断面の2つの平面によって規定して、ユーザから見た上下方向の虚像のずれ、及び、ユーザから見た左右方向の虚像のずれを低減させて2重像の発生を抑制できる。
【0044】
図7は、実施の形態に係る表示媒体の作製について説明する図である。
図7では、表示媒体10の全体形状を成型するための射出成型後の工程を模式的に表している。なお、
図7では、
図5と同様の第1切断面において切断した場合の表示媒体10、ならびに第1金型50a及び第2金型50bの対応する断面を示している。
【0045】
図7に示すように、表示媒体10は、コア側の第1金型50aとキャビティ側の第2金型50bとの、少なくとも2つの金型を合わせた際に金型内部に形成される空間に、溶融された樹脂材料を圧入することで成型される。このとき、表示媒体10の第1主面11と、第1平面15とが同一の第1金型50aによって一体的に成形され、第2主面12と、第2平面17とが同一の第2金型50bによって一体的に成形されるように金型形状を決定すればよい。これにより、第1主面11と第1平面15との位置関係が、第1金型50aによって規定され、第2主面12と第2平面17との位置関係が、第2金型50bによって規定される。したがって、第1切断面及び第2切断面のそれぞれにおいて算出された第1主面11と第2主面12とが成す角を、金型どうしの合わせの調整により変更できる。よって、虚像をユーザにより適切に視認させる表示媒体10を簡易に作製することができる。
【0046】
[効果等]
以上説明したように、本実施の形態におけるHUD100は、板状の表示媒体10と、表示媒体10に投影して反射させた画像によって、ユーザが視認可能な虚像を形成する投影部20と、を備え、表示媒体10は、それぞれが湾曲した第1主面11と第2主面12とを有する湾曲板状の湾曲部13と、表示媒体10の第1主面11側に位置する第1平面部16と、表示媒体10の第2主面12側に位置する第2平面部18と、を有し、第1平面部16は、表示媒体10を垂直に切断する平面である第1切断面において、第1主面11の接線に平行な第1平面15を有し、第2平面部18は、第1切断面において、第2主面12の接線に平行な第2平面17を有する。
【0047】
これによれば、第1平面15と第2平面17とが成す角度を測定することにより、表示媒体10の第1主面11と第2主面12とが成す角度を算出できる。算出される角度は、作製された表示媒体の実測値に基づくため、成型による収縮の影響も考慮した正確な角度が得られる。したがって、得られた第1主面11と第2主面12とが成す角度をもとに、作製される表示媒体10によって、虚像をユーザにより適切に視認させることができる。
【0048】
また、例えば、第1平面部16は、第1主面11よりも突出して頂部に第1平面15を有する第1凸形状、又は、第1主面11よりも陥入して底部に第1平面15を有する第1凹形状であり、第2平面部18は、第2主面12よりも突出して頂部に第2平面17を有する第2凸形状、又は、第2主面12よりも陥入して底部に第2平面17を有する第2凹形状であってもよい。
【0049】
これによれば、第1平面15及び第2平面17の位置が明確になり、かつ、表示媒体10の形状に依存することなく、第1平面15と第2平面17とが成す角度を測定する際の測定方法に合わせて適切な第1平面15及び第2平面17を形成できる。よって、より正確に第1平面15と第2平面17とが成す角度を測定でき、算出された第1主面11と第2主面12とが成す角度をもとに作製される表示媒体10によって、虚像をユーザにより適切に視認させることができる。
【0050】
また、例えば、第1平面15における平面度をF1、第1凸形状又は第1凹形状における高低差をL1としたとき、F1/L1は、0.01よりも小さく、第2平面17における平面度をF2、第2凸形状又は第2凹形状における高低差をL2としたとき、F2/L2は、0.01よりも小さくてもよい。
【0051】
これによれば、上記の条件を満たす表示媒体は、表示媒体10を成型する際の、金型からの抜きにおける製品の変形等を抑制できる。また、上記の条件を満たす表示媒体は、高い平面度を実現できる。よって、より正確に第1平面15と第2平面17とが成す角度を測定でき、算出された第1主面11と第2主面12とが成す角度をもとに作製される表示媒体10によって、虚像をユーザにより適切に視認させることができる。
【0052】
また、例えば、第1平面15及び第2平面17の少なくとも一方は、円形又は多角形であってもよい。
【0053】
これによれば、第1平面15及び第2平面17の少なくとも一方を円形又は多角形によって実現できる。
【0054】
また、例えば、第1切断面において、第1平面15と、第2平面17とが成す角θは、0.01°より大きく、かつ、1.00°より小さくてもよい。
【0055】
これによれば、第1平面15と第2平面17とが成す角度に応じて表示媒体10の両主面の成す角が増大してしまうため、第1平面15と第2平面17とが成す角θは1.00°より小さいとよい。また、第1平面15と第2平面17とが成す角度が小さすぎると、第1平面15と第2平面17とが成す角θの測定が困難になるため、θは0.01°より大きいとよい。よって、上記の条件を満たす第1平面15及び第2平面17とすることで、第1平面15と第2平面17とが成す角θの測定が容易かつ、表示媒体10の両主面の成す角の増大を抑制できる。
【0056】
また、例えば、第1平面15及び第2平面17の算術平均粗さRaは、いずれも0μmよりも大きく、かつ、25μmよりも小さくてもよい。
【0057】
これによれば、より滑らかな第1平面15及び第2平面17が実現できる。
【0058】
また、例えば、第1平面15は、表示媒体10を垂直に切断し、かつ、第1切断面と直交する平面である第2切断面において、第1主面11の接線に平行であり、第2平面17は、第2切断面において、第2主面12の接線に平行であってもよい。
【0059】
これによれば、ユーザから見た左右方向における2重像の発生を抑制でき、虚像をユーザにより適切に視認させることができる。
【0060】
また、例えば、表示媒体10は、コンバイナであってもよい。
【0061】
これによれば、コンバイナとして表示媒体10を備えるHUDが実現できる。
【0062】
また、本実施の形態における表示媒体10は、投影部20によって投影された画像が反射されることで、ユーザが視認可能な虚像が形成される板状の表示媒体10であって、それぞれが湾曲した第1主面11と第2主面12とを有する湾曲板状の湾曲部13と、表示媒体10の第1主面11側に位置する第1平面部16と、表示媒体10の第2主面12側に位置する第2平面部18と、を備え、第1平面部16は、表示媒体を垂直に切断する平面である第1切断面において、第1主面11の接線に平行な第1平面15を有し、第2平面部18は、第1切断面において、第2主面12の接線に平行な第2平面17を有する。
【0063】
これによれば、第1平面15と第2平面17とが成す角度を測定することにより、表示媒体10の第1主面11と第2主面12とが成す角度を算出できる。算出される角度は、作製された表示媒体の実測値に基づくため、機械誤差等を含まない正確な角度が得られる。したがって、得られた第1主面11と第2主面12とが成す角度をもとに、作製される表示媒体10によって、虚像をユーザにより適切に視認させることができる。
【0064】
(その他の実施の形態)
以上、本開示に係るHUD等について、上記実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、上記の実施の形態に限定されるものではない。例えば、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【0065】
上記実施の形態においては、表示媒体の第1主面と第2主面とが成す角度を算出して表示媒体の作製時に当該角度を利用することについて説明した。例えば、このような正確かつ簡易な第1主面と第2主面とが成す角度の算出を、作製された表示媒体の検品等に用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本開示は、車両に搭載され、各種の情報を示す画像を現実の景色に重畳した虚像としてドライバ等の乗員に視認させるヘッドアップディスプレイに利用できる。
【符号の説明】
【0067】
10、10a、90 表示媒体
11 第1主面
12 第2主面
13 湾曲部
14 取付け部
15 第1平面
16 第1平面部
17 第2平面
18 第2平面部
20 投影部
21 光源
23 反射体
30 車両
31 ダッシュボード
33 ウインドシールド
40 ユーザの目
50a 第1金型
50b 第2金型
11a、91 一方の主面
12a、92 他方の主面