(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】脆性材料基板の分断方法
(51)【国際特許分類】
B28D 5/00 20060101AFI20230407BHJP
B26F 3/00 20060101ALI20230407BHJP
C03B 33/033 20060101ALI20230407BHJP
C03B 33/027 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
B28D5/00 Z
B26F3/00 A
C03B33/033
C03B33/027
(21)【出願番号】P 2019138752
(22)【出願日】2019-07-29
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】田村 健太
(72)【発明者】
【氏名】武田 真和
(72)【発明者】
【氏名】市川 克則
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-99804(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/323105(US,A1)
【文献】特開2017-13255(JP,A)
【文献】国際公開第2019/82736(WO,A1)
【文献】特開平5-13570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 5/00
B26F 3/00
C03B 33/033
C03B 33/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ定められた分断予定位置に沿って、脆性材料基板を小サイズ個片と前記小サイズ個片よりもサイズが大きい大サイズ個片とに分断する方法であって、
前記脆性材料基板の一方主面側において、分断後に前記小サイズ個片となる領域と前記大サイズ個片となる全ての領域の周囲に定められた前記分断予定位置に沿ってスクライブラインを形成する、スクライブ工程と、
前記脆性材料基板の他方主面側から少なくとも前記スクライブラインの形成位置の上方位置を含むブレークバー当接位置にてブレークバーを所定の押し込み量にて押し込むことを、全ての前記ブレークバー当接位置に対し行うことで、前記脆性材料基板を前記小サイズ個片と前記大サイズ個片とに分断するブレーク工程と、
を備え、
前記ブレーク工程においては、
(a)前記ブレークバーの刃先角θを50°~90°とし、
(b)前記ブレークバーの刃先先端の曲率半径Rを100μm~300μmとし、
(c)前記押し込み量を60μm~100μmとし、
(d)前記ブレークバーを前記基板に押し込む際の前記ブレークバーの下降速度を10mm/s~100mm/sとする、
ことを特徴とする、脆性材料基板の分断方法。
【請求項2】
請求項1に記載の脆性材料基板の分断方法であって、
前記ブレーク工程においては、一の前記ブレークバー当接位置に対するブレーク動作の完了後、次の前記ブレークバー当接位置に対するブレーク動作を行うための前記基板のシフト送りを、前記ブレークバー当接位置が所定ピッチで配列する方向の一の向きにおいてのみ行う、
ことを特徴とする、脆性材料基板の分断方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の脆性材料基板の分断方法であって、
前記脆性材料基板の上に、分断後に前記小サイズ個片となる領域に設けられた小サイズパターンと前記大サイズ個片となる領域に設けられた大サイズパターンとからなるパターンとが設けられてなり、
前記スクライブ工程においては、前記パターン同士の間から露出する前記脆性材料基板に対して、前記スクライブラインを形成する、
ことを特徴とする、脆性材料基板の分断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性材料基板の分断による個片化に関し、特に、スクライブ処理とブレーク処理により大きさの異なる2種類の個片を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脆性材料基板を複数の箇所で分断して多数の個片(チップ)を得る個片化(チップ化)の方法として、当該基板の一方主面のそれぞれの分断予定位置にあらかじめスクライブラインを形成するスクライブ処理を行ったうえで、他方主面側から当該分断予定位置に対してブレークバーを当接させ、さらに該ブレークバーを押し込むことにより、スクライブラインからクラックを基板厚み方向に伸展させるブレーク処理を行う、という手法が、すでに公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
係る手法は例えば、ガラスウェハを下地基板とし、該下地基板上に樹脂や金属などを用いて所定のデバイス構造を形成してなるデバイス母基板を分断して、デバイスチップ(個片)を得る場合に適用される。すなわち、ガラスウェハ上にデバイス構造パターンを二次元的に繰り返し配置することで作製されたデバイス母基板を、上述したスクライブ処理とブレーク処理により分断することで、多数個のデバイスチップが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したデバイス母基板において、例えばTEGのような、デバイス構造が備わるデバイスチップ用の領域(通常サイズ領域)よりも平面サイズが大きいサイズの領域(大サイズ領域)が、一または複数の箇所に形成される場合がある。そして、このような場合においても、スクライブ処理とブレーク処理により個片化を好適に行って、デバイスチップを得たいというニーズがある。
【0006】
しかしながら、一般に、ブレーク処理に用いられるブレークバーにおける刃先の長さ(刃渡り)は、分断対象物の外周の任意の二点間において分断が行えるよう、分断対象物のサイズよりも大きい。それゆえ、例えば、上述のように大サイズ領域と通常サイズ領域とが混在するデバイス母基板を分断しようとする場合、両領域の配置態様によっては、分断不要な大サイズ領域にもブレークバーが当接してしまうことが起こり得る。係る場合、クラックが大サイズ領域にまで伸展し、さらには当該クラックが他の通常サイズ領域にまで伸展し、本来とは異なる場所にて分断されてしまうという、不具合が発生する可能性がある。
【0007】
分断順序を工夫することでそのようなクラックの発生を抑制する対応も考えられるが、ブレークバーとデバイス母基板との相対移動が煩雑となり、生産性が悪くなるほか、分断箇所の位置ずれが生じる可能性が高くなるため、好ましくない。そもそも、大サイズ領域と通常サイズ領域の配置関係によっては、大サイズ領域へのブレークバーの当接が不可避な場合もある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、脆性材料基板を異なるサイズの個片に好適に分断することができる方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、あらかじめ定められた分断予定位置に沿って、脆性材料基板を小サイズ個片と前記小サイズ個片よりもサイズが大きい大サイズ個片とに分断する方法であって、前記脆性材料基板の一方主面側において、分断後に前記小サイズ個片となる領域と前記大サイズ個片となる全ての領域の周囲に定められた前記分断予定位置に沿ってスクライブラインを形成する、スクライブ工程と、前記脆性材料基板の他方主面側から少なくとも前記スクライブラインの形成位置の上方位置を含むブレークバー当接位置にてブレークバーを所定の押し込み量にて押し込むことを、全ての前記ブレークバー当接位置に対し行うことで、前記脆性材料基板を前記小サイズ個片と前記大サイズ個片とに分断するブレーク工程と、を備え、前記ブレーク工程においては、(a)前記ブレークバーの刃先角θを50°~90°とし、(b)前記ブレークバーの刃先先端の曲率半径Rを100μm~300μmとし、(c)前記押し込み量を60μm~100μmとし、(d)前記ブレークバーを前記基板に押し込む際の前記ブレークバーの下降速度を10mm/s~100mm/sとする、ことを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の脆性材料基板の分断方法であって、前記ブレーク工程においては、一の前記ブレークバー当接位置に対するブレーク動作の完了後、次の前記ブレークバー当接位置に対するブレーク動作を行うための前記基板のシフト送りを、前記ブレークバー当接位置が所定ピッチで配列する方向の一の向きにおいてのみ行う、ことを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の脆性材料基板の分断方法であって、前記脆性材料基板の上に、分断後に前記小サイズ個片となる領域に設けられた小サイズパターンと前記大サイズ個片となる領域に設けられた大サイズパターンとからなるパターンとが設けられてなり、前記スクライブ工程においては、前記パターン同士の間から露出する前記脆性材料基板に対して、前記スクライブラインを形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1ないし請求項3の発明によれば、脆性材料基板を、小サイズの個片と大サイズの個片とに、好適に分断することができる。
【0013】
特に、請求項2の発明によれば、優れた汎用性および生産性にて、脆性材料基板を小サイズの個片と大サイズの個片とに分断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】母基板10のある部分領域REの様子を示す図である。
【
図3】母基板10に対するスクライブ処理の様子を模式的に示す図である。
【
図4】母基板10に対するブレーク処理の様子を模式的に示す図である。
【
図5】ブレーク処理に供される母基板10の部分領域REを下地基板1の側から見た平面図である。
【
図6】母基板10に対しブレーク処理を行っている途中の、部分領域REの様子を示す平面図である。
【
図7】母基板10に対し良好にブレーク処理が行われた後の部分領域REを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<分断対象>
図1は、本実施の形態に係る分断の対象である母基板10の概略平面図である。
図2は、
図1に示す母基板10のある部分領域REの様子を示す図である。
図1においては、母基板10の一方主面内においてオリフラ10fに沿った方向と当該方向に垂直な方向をそれぞれx軸方向、y軸方向とし、当該主面に垂直な方向をz軸方向とする、右手系のxyz座標を付している。以降の図においても、当該座標系に従うものとする。
【0016】
また、
図2(a)は部分領域REの平面図(xy平面図)であり、
図2(b)は、
図2(a)のA-A’断面図(zx断面図)である。
【0017】
図2に示すように、母基板10は、下地基板1の一方主面上に樹脂や金属などからなる1または複数の層にて所定のパターン2が2次元的に配置された構成を有する。換言すれば、母基板10は、一方主面側にパターン2を有する。また、パターン2の設けられていない下地基板1の他方主面は、母基板10の他方主面ともなっている。
【0018】
下地基板1は、平面サイズ(直径)が20cm~30cm程度で厚みが0.1mm~1.0mm程度の脆性材料基板であり、例えばガラスウェハが例示される。
【0019】
パターン2は、所定のサイズの小サイズパターン2aを基本パターンとしつつも、母基板10の一部には、小サイズパターン2aよりも平面サイズが大きい大サイズパターン2bも備わる。大サイズパターン2bは、母基板10の少なくとも1つの箇所において、小サイズパターン2aに囲繞される態様にて配置されてなる。部分領域REは、その様子を例示している。例えば、小サイズパターン2aは所定のデバイス構造をなすパターンであり、大サイズパターン2bはTEGである。係る場合、パターン2の上面には半田ボールが形成されていてもよい。
【0020】
隣り合う個々のパターン2同士は離隔しており、両者の間隙であるストリートSTにおいては、下地基板1が露出している。母基板10においては、ストリートSTとして、小サイズパターン2a同士の間隙である第1ストリートST1と、大サイズパターン2b同士の間隙である第2ストリートST2と、小サイズパターン2aと大サイズパターン2bとの間隙である第3ストリートST3とが存在する。
【0021】
なお、
図2においては図示の簡単のため、小サイズパターン2aと大サイズパターン2bの双方ともに平面視矩形状としているが、実際には、両パターンの形状はその限りではなく、その場合、ストリートSTは、それぞれのパターン2に外接する矩形同士の間隙として観念される。
【0022】
小サイズパターン2aと大サイズパターン2bの双方がとも平面視矩形状であるとする場合、小サイズパターン2aの短辺のサイズは0.5mm~2.0mm程度であり、長辺のサイズは0.5mm~2.0mm程度である。また、大サイズパターン2bの短辺のサイズは1.0mm~4.0mm程度であり、長辺のサイズは1.5mm~6.0mm程度である。
【0023】
また、第1ストリートST1の幅は30μm~100μm程度であり、第2ストリートST2の幅は20μm~200μm程度であり、第3ストリートST3の幅は30μm~200μm程度である。
【0024】
母基板10は、ストリートSTのところにあらかじめ定められた分断予定位置に沿って、個々のパターン2を含む個片に分断される。換言すれば、分断予定位置は、分断後に個片となる全ての領域の周囲に設けられる。
【0025】
なお、母基板10のうち、分断が行われることで小サイズパターン2aを含む個片となる領域を小サイズ個片化領域10aと称し、大サイズパターン2bを含む個片となる領域を大サイズ個片化領域10bと称する。換言すれば、本実施の形態に係る方法において行う母基板10の分断は、当該母基板10を複数の小サイズ個片化領域10aと複数の大サイズ個片化領域10bとに切り分ける処理である。
【0026】
より詳細には、本実施の形態においては、パターン2は互いに直交するx軸方向とy軸方向のそれぞれにおいて繰り返し配置されていることから、母基板10は、x軸方向に沿ったx分断予定位置Pxとy軸方向に沿ったy分断予定位置Pyにて分断される。x分断予定位置Pxおよびy分断予定位置Pyは、第1ストリートST1と第2ストリートST2においてはそれぞれのストリートSTの中央に定められる。
【0027】
また、x分断予定位置Pxのうち、その延在方向に大サイズパターン2bが存在しないものを第1x分断予定位置Px1と称し、大サイズパターン2bが存在するものを第2x分断予定位置Px2と称することとする。同様に、y分断予定位置Pyのうち、その延在方向に大サイズパターン2bが存在しないものを第1y分断予定位置Py1と称し、大サイズパターン2bが存在するものを第2y分断予定位置Py2と称することとする。
【0028】
<分断処理の概要>
次に、本実施の形態において行う分断処理についてその概要を説明する。分断処理は、スクライブ処理とこれに続くブレーク処理とを行うことで実現される。
【0029】
図3は、母基板10に対するスクライブ処理の様子を模式的に示す図である。スクライブ処理は、公知のスクライブ装置100を用いて行うことができる。
【0030】
スクライブ装置100は、スクライブ対象物を水平姿勢にて下方支持可能なステージ101と、外縁部に刃先102eを有する円板状部材であるスクライビングホイール(カッターホイール)102とを、主として備える。スクライビングホイール102は、垂直面内において回転自在な態様にてスクライブ装置100に保持される。
【0031】
より詳細には、スクライビングホイール102は、直径が2mm~3mmの円板状の部材(スクライビングツール)であり、外周面に断面視二等辺三角形状の刃先102eを有する。また、少なくとも刃先102eはダイヤモンドにて形成されてなる。また、刃先102eの角度(刃先角)αは100°~135°であるのが好適である。
【0032】
母基板10が分断対象とされる場合、母基板10は、パターン2が備わる一方主面側を上面(スクライブ対象面)とし、他方主面側をステージ101に対する載置面とする態様にて、ステージ101に載置固定され、位置決めされる。
【0033】
より詳細には、母基板10は、スクライブ処理に先立ち、その他方主面を、あらかじめ略環状のリング(例えばダイシングリング)RGに張設された保持テープ(例えばダイシングテープ)DTに貼付させた状態とされる。そして、係る態様にて母基板10が保持テープDTに貼付されてなる該リングRGがステージ101に載置固定されることで、母基板10がステージ101に載置固定される。
【0034】
また、
図3においては、あるy分断予定位置Pyがスクライブ対象とされるときの様子を示している。
【0035】
y分断予定位置Pyに沿ったスクライブ動作を行う場合、個々のy分断予定位置Pyとスクライビングホイール102の回転面とが並行となるように、母基板10がステージ101に載置固定される。そして、それぞれのy分断予定位置Pyについて、当該y分断予定位置Pyとスクライビングホイール102の回転面とが同一の鉛直面(図面に垂直な面)内に位置するように位置決めがなされたうえで、スクライビングホイール102が、所定の荷重(スクライブ荷重と称する)を印加しつつ、母基板10上において(厳密にはストリートSTにて露出する下地基板1上において)当該y分断予定位置Pyに沿って圧接転動させられる。係る圧接転動は例えば、図示しない駆動機構によりステージ101をスクライビングホイール102に対して相対的に水平移動させることにより実現される。すると、ストリートSTにて露出する下地基板1において、当該y分断予定位置Pyに沿ってスクライブラインが形成される。スクライブラインは、下地基板1の表面から基板の厚さに対して20~50%程度の深さまで垂直クラックが達するように形成されるのが好ましい。係る態様にてスクライブラインを形成する場合、スクライブ速度(スクライビングホイール102をステージ101に対して相対移動させる速度)は、100mm/s~300mm/sであるのが好適である。
【0036】
本実施の形態においては、このような位置決めとスクライビングホイール102の圧接転動の組み合わせであるスクライブ動作を、x軸方向において所定のピッチにて離隔する全てのy分断予定位置Pyに対し、x軸方向の一方端部側から順次に行う。すなわち、一のy分断予定位置Pyに対するスクライブ動作の完了後、次のy分断予定位置Pyに対するスクライブ動作を行うための母基板10のシフト送り(スクライブ処理完了後のy分断予定位置Pyから次にスクライブ処理の対象となるy分断予定位置Pyへのスクライビングホイール102の相対移動)は、x軸方向の一の向きにおいてのみ行われる。
【0037】
x分断予定位置Pxに沿ったスクライブ動作を行う場合も、同様の態様にて行われる。
【0038】
なお、
図2に示す第2x分断予定位置Px2や第2y分断予定位置Py2がスクライブ対象である場合は、その延在方向において大サイズ個片化領域10bが(大サイズパターン2bが)介在する。それゆえ、スクライブ動作の際には、大サイズ個片化領域10bにスクライブラインが形成されることのないよう、第1ストリートST1に定められた第2x分断予定位置Px2または第2y分断予定位置Py2に沿って圧接転動させられていたスクライビングホイール102は、それらに直交する第3ストリートST3に定められた第1y分断予定位置Py1または第1x分断予定位置Px1に到達する直前、または到達した時点で、いったん上昇させられて、大サイズ個片化領域10bの上方でx軸方向またはy軸方向へと移動させられる。そして、その前方の第2x分断予定位置Px2または第2y分断予定位置Py2が設けられてなる箇所で、再び下降させられて、それら第2x分断予定位置Px2または第2y分断予定位置Py2に沿って圧接転動させられる。
【0039】
全ての分断予定位置に対するスクライブ処理が終了した母基板10は続いて、ブレーク処理に供される。
図4は、母基板10に対するブレーク処理の様子を模式的に示す図である。ブレーク処理は、公知のブレーク装置200を用いて行うことができる。
【0040】
ブレーク装置200は、少なくとも表面部分が弾性体からなり、ブレーク対象物を水平姿勢にて下方支持可能な支持体201と、鉛直下方に断面視三角形状の刃先202eを有する板状部材であるブレークバー202とを、主として備える。
【0041】
支持体201としては、例えば、上面が平坦な金属製の部材の当該上面に板状の弾性体を載置固定した構成などが、採用可能である。
【0042】
ブレークバー202は、断面視二等辺三角形状の刃先202eが刃渡り方向に延在するように設けられてなる板状の金属製(例えば超硬合金製)部材である。
図4においては、刃渡り方向が図面に垂直な方向となるように、ブレークバー202を示している。また、一度のブレーク動作によって刃渡り方向全般に渡るブレークを行えるよう、ブレークバー202の刃渡りは、母基板10の平面サイズよりも大きい。
【0043】
図4においては、スクライブ処理によってスクライブラインSLが形成されてなる、あるy分断予定位置Pyが、ブレーク処理の対象とされるときの様子を示している。
【0044】
スクライブ処理後の母基板10は、リングRGに張設された保持テープDTに貼付された状態でブレーク処理に供される。ただし、
図4に示すように、ブレーク処理に際しては、スクライブ処理の際には露出していた一方主面側が保護フィルムPFによって被覆される。保護フィルムは、その端縁部がリングRGに貼付される態様にて、パターン2を被覆する。スクライブ処理後の母基板10は、他方主面側が上方となり、一方主面側が下方となる姿勢にて、換言すれば、リングRG、保持テープDT、および保護フィルムPFともども支持体201上に載置固定される。すなわち、保護フィルムPFが支持体201と接触する態様にて、載置固定される。
【0045】
そして、y分断予定位置Pyに沿ったブレーク動作を行う場合は、個々のy分断予定位置Pyとブレークバー202の刃渡り方向とが並行となるように、母基板10が支持体201に載置固定される。そして、それぞれのy分断予定位置Pyについて、当該y分断予定位置Pyとブレークバー202が同一の鉛直面(図面に垂直な面)内に位置するように位置決めがなされたうえで、ブレークバー202が、矢印AR1にて示すように、当該y分断予定位置Pyに向けて下降させられる。ブレークバー202は、その刃先202eが保持テープDTに当接した後もさらに、所定距離(押し込み量と称される)zだけ押し込まれる。
【0046】
このように、スクライブラインSLを下方に位置させた姿勢の母基板10のy分断予定位置Pyに向けて、ブレークバー202を下降させ、さらに所定の押し込み量にて押し込むと、スクライブラインSLからy分断予定位置に沿って厚み方向に(母基板10の周面に垂直に)クラックが伸展し、上面となっている母基板10の他方主面にまで、より具体的には下地基板1の保持テープDTに対する被貼付面にまで、到達する。
【0047】
ただし、ブレークバー202の刃渡りは母基板10のサイズよりも大きいことから、ブレーク動作の際、ブレークバー202は、下方にスクライブラインが形成されておらず分断不要である大サイズ個片化領域10bにも当接することがある。換言すれば、ブレークバー202の当接位置は、少なくともスクライブラインの形成位置の上方を含むほか、スクライブラインが形成されていない大サイズ個片化領域10bの範囲内をも、含む場合がある。本実施の形態においては、そのような場合において、大サイズ個片化領域10bに不要な分断が生じることのないように、ブレーク動作が行われる。その詳細については後述する。
【0048】
なお、本実施の形態においては、このような位置決めとブレークバー202の下降と組み合わせであるy分断予定位置Pyを対象としたブレーク動作を、x軸方向において所定のピッチにて離隔する全てのブレークバー当接位置に対し、x軸方向の一方端部側から順次に行う。すなわち、一のy分断予定位置Pyを含むブレークバー当接位置に対するブレーク動作の完了後、次のy分断予定位置Pyを含むブレークバー当接位置に対しブレーク動作を行うための母基板10のシフト送り(ブレーク処理完了後のブレークバー当接位置から次にブレーク処理の対象となるブレークバー当接位置へのブレークバー202の相対移動)は、x軸方向の一の向きにおいてのみ行われる。
【0049】
x分断予定位置Pxに沿ったブレーク処理を行う場合も、同様の態様にて行われる。
【0050】
好適にブレーク処理がなされた後の母基板10は、それぞれの小サイズ個片化領域10aと大サイズ個片化領域10bとが隣り合う領域との間で分断されつつも互いに接触した状態で、保持テープDTに保持されている。係る状態の母基板10に対しては、保持テープDTを伸張させることによって隣り合う領域を離隔させるエキスパンド処理が行われる。これにより、それぞれの小サイズ個片化領域10aと大サイズ個片化領域10bとが離隔し、それぞれが個片として得られる。以上により、母基板10が所望のサイズの個片に分断されたことになる。
【0051】
<ブレーク処理の詳細>
図5は、スクライブ処理の終了後、ブレーク処理に供される母基板10の部分領域REを、他方主面側から(パターン2の備わる一方主面とは反対側から)見た平面図である。つまり、
図5は、
図4に示すような姿勢にてブレーク装置200の支持体201上に載置された母基板10を、鉛直上方から見た様子を示している。
【0052】
ただし、
図5においては便宜上、一方主面側に備わるパターン2(小サイズパターン2aおよび大サイズパターン2b)を破線にて示している。
【0053】
さらに、
図5には、スクライブ処理によって当該面側のx分断予定位置Pxに沿って形成されたxスクライブラインSLxとy分断予定位置Pyに沿って形成されたyスクライブラインSLyとを、二点鎖線にて示している。より詳細には、前者のうち第1x分断予定位置Px1に沿って形成されてなるものを第1xスクライブラインSLx1とし、第2x分断予定位置Px2に沿って形成されてなるものを第2xスクライブラインSLx2としている。また、後者のうち第1y分断予定位置Py1に沿って形成されてなるものを第1yスクライブラインSLy1とし、第2y分断予定位置Py2に沿って形成されてなるものを第2yスクライブラインSLy2としている。
【0054】
第1xスクライブラインSLx1と第1yスクライブラインSLy1はそれぞれ、x軸方向およびy軸方向の全般にわたって形成されてなる。一方、第2xスクライブラインSLx2と第2yスクライブラインSLy2はそれぞれ、それらに直交する第1yスクライブラインSLy1および第1xスクライブラインSLx1との交点または第1yスクライブラインSLy1および第1xスクライブラインSLx1と交差する直前の位置が終端部となっている。
図5に示す部分領域REにおいては、第1xスクライブラインSLx1と第2yスクライブラインSLy2との交点I1~I6と、第1yスクライブラインSLy1と第2xスクライブラインSLx2との交点I7~I12が示されている。
【0055】
上述したように、ブレーク動作の際、ブレークバー202は、下方にスクライブラインが形成されておらず分断不要である大サイズ個片化領域10bにも当接する。
図5においては、このような、下方にスクライブラインの存在しないブレークバー202の当接位置を、x軸方向については点線Lxにて、y軸方向については点線Lyにて、示している。例えば、第2xスクライブラインSLx2の形成位置がブレーク処理の対象とされる場合であれば、図面視左右に位置する一対の第2xスクライブラインSLx2の形成位置の上方のみならず、両者の間の点線Lxの位置もが、ブレークバー当接位置となる。
【0056】
また、
図6は、
図5に示した母基板10に対しブレーク処理を行っている途中の、部分領域REの様子を示す平面図である。さらに、
図7は、
図5に示した母基板10に対し良好にブレーク処理が行われた後の部分領域REを示す平面図である。
【0057】
図6は、具体的には、yスクライブラインSLyの形成位置を含むブレークバー当接位置を対象とする(つまりはy分断予定位置Pyを対象とする)ブレーク処理が、図面視左側に位置するyスクライブラインSLyを含むブレークバー当接位置から順に実行されるときの、途中の様子を示している。
図6には、yスクライブラインSLyから伸展したクラックが他方主面にまで伸展した結果として母基板10に形成される分断線DLを、太実線にて示している。
【0058】
まず、第1y分断予定位置Py1において母基板10を分断するべく、第1yスクライブラインSLy1の形成位置を含むブレークバー当接位置を対象にブレーク動作を行う場合は、当然ながら、y軸方向全般にわたって分断線DLが形成されればよい。
図6には、係る態様にて第1y分断予定位置Py1に形成された分断線DLを、(第1)分断線DL1として示している。
【0059】
一方、第2y分断予定位置Py2において母基板10を分断するべく、第2yスクライブラインSLy2の形成位置を含むブレークバー当接位置を対象にブレーク動作を行う場合は、下方に当該スクライブラインが形成されている位置のみならず、形成されてはいない点線Lyの位置にもブレークバー202が当接し、刃渡り方向全般にわたって、所定の押し込み量zにて押し込まれる。
【0060】
それゆえ、本来であれば
図6において(第2)分断線DL2として示すように、分断線DLは第2yスクライブラインSLy2の形成位置のみに形成されるべきところ、第2yスクライブラインSLy2の形成位置からのクラック伸展が、第1xスクライブラインSLx1との交点I1~I6の位置を超えて大サイズ個片化領域10bの方にまで生じてしまい、第2yスクライブラインSLy2の形成位置のみならず大サイズ個片化領域10bにまで至る分断線DLが、形成されてしまうことがある。
図6においては、このような分断線DLを分断線DL2αとして例示している。
【0061】
なお、分断線DL2αは、第2yスクライブラインSLy2の形成位置においては当該スクライブラインに沿って、つまりは刃渡り方向でもある第2y分断予定位置Py2に沿って、形成されたとしても、スクライブラインが形成されていない大サイズ個片化領域10bにおいては必ずしも、刃渡り方向に沿って形成されるとは限らない。
【0062】
本実施の形態においては、ブレーク処理の条件を好適に定めることにより、それぞれのyスクライブラインSLyの形成位置に沿ったブレークを、ブレークバー202のシフト送りをx軸方向の一の向きのみとしつつ連続的に行う場合において、第1yスクライブラインSLy1の形成位置をブレーク当接位置とするブレークを好適に実現し、かつ、第2yスクライブラインSLy2の形成位置を含むブレーク当接位置を対象とするブレークの際にも、大サイズ個片化領域10bを区画する第1xスクライブラインSLx1との交点I1~I6を超えることなく分断線が形成されるようにする。また、xスクライブラインSLxの形成位置に沿ったブレークを、ブレークバー202のシフト送りをy軸方向の一の向きのみとしつつ連続的に行う場合についても同様に、第1xスクライブラインSLx1の形成位置をブレーク当接位置とするブレークを好適に実現し、かつ、第2xスクライブラインSLx2の形成位置を含むブレーク当接位置を対象とするブレークの際にも、大サイズ個片化領域10bを区画する第1yスクライブラインSLy1との交点I7~I12を超えることなく分断線が形成されるようにする。
【0063】
具体的には、以下の条件にてブレーク処理を行うようにする:
(a)刃先202eの角度(刃先角)θ:50°~90°;
(b)刃先202e先端の曲率半径R:100μm~300μm;
(c)押し込み量z:60μm~100μm;
(d)ブレークバー202の下降速度:10mm/s~100mm/s。
【0064】
これらの条件(a)~(d)を満たすことで、母基板10においては、
図7に示すように、第1x分断予定位置Px1および第1y分断予定位置Py1においてはそれらに沿って第1分断線DL1が形成され、第2x分断予定位置Px2および第2y分断予定位置Py2においては、それらに沿う一方で大サイズ個片化領域10bに対しては延在していない第2分断線DL2が形成される。これは、刃先202e先端の曲率半径Rが基板の厚さに対して比較的大きいことにより、基板を横に拡げる力がより大きくなり、ブレークバー202の過度の押し込みによる大サイズ個片化領域10bの変形を抑制することができるためであると考えられる。
【0065】
その後、これら第1分断線DL1と第2分断線DL2とが形成された母基板10に対し上述したエキスパンド処理を行うことで、小サイズパターン2aを含む個片と大サイズパターン2bを含む個片とが得られる。
【0066】
刃先角θや曲率半径Rが上記の範囲よりも小さい場合、および、押し込み量zおよびブレークバー202の下降速度が上記範囲よりも大きい場合、ブレークバー202の押し込みによる大サイズ個片化領域10bの変形が大きく、第2分断線DL2が大サイズ個片化領域10bにまで形成されてしまうことになり、好ましくない。
【0067】
一方、刃先角θや曲率半径Rが上記の範囲よりも大きい場合、および、押し込み量zおよびブレークバー202の下降速度が上記範囲よりも小さい場合、スクライブラインから伸展するクラックが反対面にまで達せず、分断がなされないことになり、好ましくない。
【0068】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、複数の小サイズパターンと複数の大サイズパターンとが混在してなる母基板を、前者を含む小サイズの個片と後者を含む大サイズの個片とに分断する処理を、分断予定位置に沿ったスクライブ処理とこれに続く条件(a)~(d)を満たしたブレーク処理とによって、好適に実現することができる。
【0069】
特に、ブレーク処理に際しては、分断不要な位置にブレークバーを当接させつつも、大サイズの個片に不要な分断を生じさせてしまうことが、好適に抑制される。
【0070】
なお、基板の厚さ及び種類によっては、スクライブ処理の後、大サイズ個片化領域の個片の周囲においてのみ先行してブレーク処理を行うことで、上述のような大サイズ個片化領域の分断を抑制できる対応も考えられる。しかしながら、母基板に対するブレークバーの相対移動動作が煩雑となるほか、位置決め精度が悪くなる可能性があり、生産性という点で本実施の形態に係る手法に劣っている。また、そもそも、母基板における大サイズ個片化領域の配置態様によっては、ある大サイズ個片化領域の周囲に設定された分断予定位置の延長線上に、他の大サイズ個片化領域が存在する場合もあり、そのような場合には、上述のような先行ブレークは行い得ない。
【0071】
これに対し、本実施の形態に係る手法は、母基板における大サイズ領域の配置態様によらず、分断予定位置のシフト送りを一の向きにのみ行いつつも、全ての分断予定位置において好適に分断を行えるので、汎用性および生産性の点で優れているといえる。
【符号の説明】
【0072】
1 下地基板
2 パターン
2a 小サイズパターン
2b 大サイズパターン
10 母基板
10a 小サイズ個片化領域
10b 大サイズ個片化領域
100 スクライブ装置
101 ステージ
102 スクライビングホイール
102e (スクライビングホイールの)刃先
200 ブレーク装置
201 支持体
202 ブレークバー
202e (ブレークバーの)刃先
DL 分断線
DT 保持テープ
PF 保護フィルム
Px x分断予定位置
Py y分断予定位置
RG リング
SL スクライブライン
ST ストリート