(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】ドレッシング材
(51)【国際特許分類】
A61L 15/24 20060101AFI20230407BHJP
A61F 13/00 20060101ALI20230407BHJP
A61L 15/44 20060101ALI20230407BHJP
A61L 26/00 20060101ALI20230407BHJP
C08L 33/26 20060101ALI20230407BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
A61L15/24 100
A61F13/00 301Z
A61L15/44
A61L26/00
C08L33/26
C08L29/04 C
(21)【出願番号】P 2019152296
(22)【出願日】2019-08-22
【審査請求日】2022-02-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年8月26日 Polymers 2018,10,947
(73)【特許権者】
【識別番号】597139170
【氏名又は名称】学校法人静岡理工科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小土橋 陽平
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 明広
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】Polymer,2019年,175,pp.1-7
【文献】Applied Organometallic Chemistry,2012年,26,pp.390-393
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
A61F
C08L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1Aで表される構造を含む構成単位aと、カチオン性基を含む構成単位bと、を含み、前記式1Aで表される構造及び前記カチオン性基を側鎖に有するポリマーA、
及び、下記式1Bで表される構造を含む構成単位を含むポリマーBを含むドレッシング材。
【化1】
式1A中、R
1は、それぞれ独立に、アルキル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、エーテル結合、又はエステル結合を表し、n1は0~3の整数を表し、R
2は水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、エーテル結合、又はエステル結合を表し、*は結合位置を表す。
式1B中、*は結合位置を表す。
【請求項2】
前記ポリマーAが、主鎖に、下記式2aで表される構成単位又は下記式2bで表される構成単位の少なくとも1つを有する請求項1に記載のドレッシング材。
【化2】
式2a及び式2b中、*は主鎖における隣り合う構成単位との結合位置を表し、**は前記式1Aで表される構造及び前記カチオン性基の内、少なくとも一方を含む側鎖との結合位置を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。
【請求項3】
前記カチオン性基が、アンモニウムカチオン基である請求項1又は請求項2に記載のドレッシング材。
【請求項4】
前記ポリマーAが、下記式3で表される構成単位を含む請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のドレッシング材。
【化3】
式3中、*は主鎖における隣り合う構成単位との結合位置を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。
【請求項5】
前記ポリマーAが構成単位cを更に含み、
前記構成単位cが、長鎖アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、カルボキシ基、アミド基、チオール基、アジド基、ヒドロキシル基及び芳香族化合物から水素原子を1つ除いた基から選ばれる少なくとも1つの官能基を側鎖に有する請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のドレッシング材。
【請求項6】
前記長鎖アルキル基の炭素数が、3~20である請求項5に記載のドレッシング材。
【請求項7】
前記ポリマーAと前記ポリマーBとが結合してなるゲルを含む請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のドレッシング材。
【請求項8】
前記構成単位aに対する前記構成単位bのモル比が、1/99~99/1である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のドレッシング材。
【請求項9】
前記ポリマーBの全質量に対する前記ポリマーAの全質量が、1/99~99/1である請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のドレッシング材。
【請求項10】
創傷被覆に用いられる請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のドレッシング材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ドレッシング材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ビニルアルコール系ポリマーは、良好な安定性を有するポリマーとして知られており、ビニルアルコール系ポリマーを用いた種々の使用用途が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ベンゾオキサボロール構造を含むベンゾオキサボロールポリマーとビニルアルコール樹脂とを混合して両者を可逆的に結合することを特徴とする、ビニルアルコール樹脂機能化方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ビニルアルコール系ポリマーは優れた生体適合性を有していることから、ビニルアルコール系ポリマー(例えば、ポリビニルアルコール(以下PVAともいう))をドレッシング材(創傷被覆材)に用いることで、例えば、創傷部位の化膿等を抑制できる可能性がある。
【0006】
ここで、ビニルアルコール系ポリマー自体には抗菌性がないため、ビニルアルコール系ポリマーに対して抗菌性を付与することが必要であると考えられる。しかし、ビニルアルコール系ポリマーは、安定性が高いために、新たに抗菌性を付与することが通常困難であると想定される。
また、抗菌性が付与されたビニルアルコール系ポリマーを、ドレッシング材として生体に適用する場合、薬剤耐性菌の発生を抑制することが求められる。
【0007】
上記特許文献1に記載の高分子共重合体は、抗菌性を付与することについて考慮されていない。
【0008】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、抗菌性を示すドレッシング材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 下記式1Aで表される構造を含む構成単位aと、カチオン性基を含む構成単位bと、を含み、前記式1Aで表される構造及び前記カチオン性基を側鎖に有するポリマーA、及び、下記式1Bで表される構造を含む構成単位を含むポリマーBを含むドレッシング材。
【0010】
【0011】
式1A中、R1は、それぞれ独立に、アルキル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、エーテル結合、又はエステル結合を表し、n1は0~3の整数を表し、R2は水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、エーテル結合、又はエステル結合を表し、*は結合位置を表す。
式1B中、*は結合位置を表す。
<2> 前記ポリマーAが、主鎖に、下記式2aで表される構成単位又は下記式2bで表される構成単位の少なくとも1つを有する<1>に記載のドレッシング材。
【0012】
【0013】
式2a及び式2b中、*は主鎖における隣り合う構成単位との結合位置を表し、**は前記式1Aで表される構造及び前記カチオン性基の内、少なくとも一方を含む側鎖との結合位置を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。
<3> 前記カチオン性基が、アンモニウムカチオン基である<1>又は<2>に記載のドレッシング材。
<4> 前記ポリマーAが、下記式3で表される構成単位を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載のドレッシング材。
【0014】
【0015】
式3中、*は主鎖における隣り合う構成単位との結合位置を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。
<5> 前記ポリマーAが構成単位cを更に含み、前記構成単位cが、長鎖アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、カルボキシ基、アミド基、チオール基、アジド基、ヒドロキシル基及び芳香族化合物から水素原子を1つ除いた基から選ばれる少なくとも1つの官能基を側鎖に有する<1>~<4>のいずれか1つに記載のドレッシング材。
<6> 前記長鎖アルキル基の炭素数が、3~20である<5>に記載のドレッシング材。
<7> 前記ポリマーAと前記ポリマーBとが結合してなるゲルを含む<1>~<6>のいずれか1つに記載のドレッシング材。
<8> 前記構成単位aに対する前記構成単位bのモル比が、1/99~99/1である<1>~<7>のいずれか1つに記載のドレッシング材。
<9> 前記ポリマーBの全質量に対する前記ポリマーAの全質量が、1/99~99/1である<1>~<8>のいずれか1つに記載のドレッシング材。
<10> 創傷被覆に用いられる<1>~<9>のいずれか1項に記載のドレッシング材。
【発明の効果】
【0016】
本開示の一実施形態によれば、抗菌性を示すドレッシング材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
【0018】
≪ドレッシング材≫
本開示のドレッシング材は、下記式1Aで表される構造を含む構成単位aと、カチオン性基を含む構成単位bと、を含み、前記式1Aで表される構造及び前記カチオン性基を側鎖に有するポリマーA、及び、下記式1Bで表される構造を含む構成単位を含むポリマーBを含む。
【0019】
【0020】
式1A中、R1は、それぞれ独立に、アルキル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、エーテル結合、又はエステル結合を表し、n1は0~3の整数を表し、R2は水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、エーテル結合、又はエステル結合を表し、*は結合位置を表す。
式1B中、*は結合位置を表す。
【0021】
本開示のドレッシング材は、生体適合性が良好な式1Bで表される構造を含む構成単位を含むポリマーB、及び、上記ポリマーBに対して良好な親和性を示す下記式1Aで表される構造を含む構成単位aと、抗菌性を示すカチオン性基を含む構成単位bと、を含むポリマーAを含む。
これによって、本開示のドレッシング材は、抗菌性を示すことができる。
本開示のドレッシング材は、上記ポリマーAと、上記ポリマーBと、が結合されていることが好ましい。これによって、ドレッシング材の安定性をより向上させることができる。
【0022】
上記ポリマーAと上記ポリマーBとの結合について説明する。
上記ポリマーAと上記ポリマーBとの結合は、ポリマーAにおける式1A中のベンゾオキサボロール基と、ポリマーBにおけるヒドロキシ基と、の結合が大きく寄与していると考えられる。
具体的には、例えば、下記式で表される通り、ベンゾオキサボロール基におけるホウ素原子と、式1Bで表される構造を含む構成単位を含むポリマーBにおける2つのヒドロキシ基と、が結合することで、ポリマーAとポリマーBが可逆的に結合すると考えられる。
下記式で表される可逆反応は、中性からアルカリ性条件下において右側(ベンゾオキサボロール基とジオール基とが結合する方向)へ反応が進み、酸性条件下において左側(ベンゾオキサボロール基とジオール基が解離する方向)へ進む。ポリマーAとポリマーBとの結合性を向上させる観点から、中性からアルカリ性条件下において下記式の反応を右側へ進めることが好ましい。
なお、下記式では、例示的にベンゾオキサボロール基とジオール基との反応を示すが、ベンゾオキサボロール基の一部が置換されたベンゾオキサボロール誘導体を用いたとしても、同様の反応が発現する。また、上記ジオール基としては、1,2-ジオール基、1,3-ジオール基等が挙げられる。上記ベンゾオキサボロール誘導体としては、特に制限はないが、例えば、(メタ)アクリルアミド型、(メタ)アクリレート型等を基本骨格とするベンゾオキサボロール誘導体が挙げられる。
【0023】
【0024】
<ポリマーA>
本開示のドレッシング材は、上記式1Aで表される構造を含む構成単位aと、カチオン性基を含む構成単位bと、を含み、前記式1Aで表される構造及び前記カチオン性基を側鎖に有するポリマーAを含む。
【0025】
ポリマーAとしては、上記構成単位a及び上記構成単位b以外に他の構成単位を含んでもよい。
ポリマーAとしては、疎水性溶媒に対する可溶性が高くても低くてもよいが、疎水性溶媒に対する可用性が高いことが好ましい。
ポリマーAの疎水性溶媒に対する可溶性は、ポリマーAを構成するモノマーの主鎖骨格、官能基等を適宜変更することで調整できる。
ポリマーAは、共重合可能なモノマーを重合させることで得ることができる。
上記モノマーとしては、ラジカル重合にて反応が進行する構造を有する化合物を用いることができる。上記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド型のモノマー、(メタ)アクリレート型モノマー、環状型モノマー等が挙げられる。
【0026】
(構成単位a)
ポリマーAは、下記式1Aで表される構造を含む構成単位aを含み、前記式1Aで表される構造を側鎖に有する。
式1Bで表される構造を含む構成単位を含むポリマーB(例えば、ポリビニルアルコール(以下、PVAともいう)等)は安定性が高いため、化学修飾を行うことが通常困難であると考えられる。しかし、本開示のドレッシング材におけるポリマーAは、式1Bで表される構造を含む構成単位を含むポリマーBに対して良好な親和性を示す上記式1Aで表される構造を含む構成単位aを含む。
これによって、下記式1Aで表される構造と、ポリマーBにおける式1Bで表される構造中のOH基との間に相互作用を発生させることができるため、ポリマーAとポリマーBとの親和性を向上させることができる。
その結果、抗菌性を有するポリマーAと、式1Bで表される構造を含む構成単位を含むために生体適合性に優れるポリマーBと、が良好に混ざり合うことができるため、ドレッシング材として良好な安定性を得ることができる。
【0027】
【0028】
式1A中、R1は、それぞれ独立に、アルキル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、エーテル結合、又はエステル結合を表し、n1は0~3の整数を表し、R2は水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、エーテル結合、又はエステル結合を表し、*は結合位置を表す。
R1が複数存在する場合には、複数のR1は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0029】
R1としては、ジオールとの結合及びドレッシング材の形成の観点からは、好ましくはアルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシ基、アミノ基、スルホ基、エーテル結合、又はエステル結合である。
R2としては、ジオールとの結合及びドレッシング材の形成の観点からは、好ましくは水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシ基、アミノ基、スルホ基、エーテル結合、又はエステル結合であり、より好ましくは水素原子である。
ポリマーAの疎水性の抑制、及び、合成の容易性の観点から、R1及びR2中、アルキル基の炭素数は1~10が好ましく、1~3がより好ましい。
【0030】
式1中、n1は0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0031】
ポリマーAにおける構成単位aのモル分率は、特に制限はなく1~99であってもよい。
また、ポリマーAにおける構成単位aのモル分率は、ジオールとの結合及びドレッシング材の形成の観点から5~90であることが好ましく、10~80であることがより好ましい。
なお、モル分率は、核磁気共鳴装置(1H-NMR)を用いて測定する。
【0032】
(構成単位b)
ポリマーAは、カチオン性基を含む構成単位bを含み、前記カチオン性基を側鎖に有する。
本開示のドレッシング材におけるカチオン性基は、静電相互作用によって微生物の細胞膜へ吸着した後に、ドレッシング材全体の疎水性により上記細胞膜を物理的に破壊することができる。
具体的には、まず、本開示におけるカチオン性基によるプラス電荷と、微生物の細胞膜におけるアニオン電荷との静電的な相互作用により、上記カチオン性基が微生物の細胞膜へ吸着する。
次に、ポリマーAの疎水的な主鎖、アルキル基等の疎水性を示す官能基などにより、ポリマーA全体が疎水性を有することによって、微生物の細胞膜が物理的に破壊され得る。以上により、本開示のドレッシング材は抗菌性を示すと考えられる。
抗生物質を用いて抗菌作用を得る場合には、通常、耐性菌の発生が問題となり得る。これは、一般的に抗生物質は特定のたんぱく質等との特異的な相互作用により効果を発揮するためであると考えられる。
しかし、本開示のドレッシング材は、上述の通り細胞膜に対して物理的な破壊を与えることで抗菌性を示すため、耐性菌の発生を抑制することができる。また、抗生物質に対する耐性菌(例えば、多剤耐性黄色ブドウ球菌(MRSA))に対しても抗菌作用を示すと考えられる。
【0033】
上記カチオン性基としては、静電的な相互作用を示すカチオン性基であれば特に制限はなく、例えば、アンモニウムカチオン基、ホスホニウム基、スルホニウム基、グアジニウム基、カチオン性アミノ酸等が挙げられる。
【0034】
上記カチオン性基は、アンモニウムカチオン基、ホスホニウム基、スルホニウム基、グアジニウム基、又はカチオン性アミノ酸であることが好ましい。
カチオン性基がアンモニウムカチオン基、ホスホニウム基、スルホニウム基、グアジニウム基、又はカチオン性アミノ酸である場合、本開示のドレッシング材を生体に対して適用した際に、金属アレルギーの発生をより良好に抑制することができる。また、生体の細胞に対する毒性をより良好に抑制することができる。
上記同様の観点から、上記カチオン性基は、アンモニウムカチオン基又はホスホニウム基、スルホニウム基、グアジニウム基、カチオン性アミノ酸であることが好ましく、アンモニウムカチオン基であることがより好ましい。
【0035】
ポリマーAにおける構成単位bのモル分率は、特に制限はなく1~99であってもよい。
また、ポリマーAにおける構成単位bのモル分率は、抗菌性及びドレッシング材の形成の観点から10~90であることが好ましく、20~80であることがより好ましい。
なお、モル分率は、核磁気共鳴装置(1H-NMR)を用いて測定する。
【0036】
本開示のドレッシング材において、抗菌性の強さ、効果を示すまでの速さは、混合するポリマーAの組成、ポリマーAとポリマーBとの混合比により制御することができる。
本開示のドレッシング材は、前記構成単位aに対する前記構成単位bのモル比が(b/a)、1/99~99/1であることが好ましい。
上記b/aが1/99以上であることで、良好な抗菌性を維持することができる。
また、上記b/aが99/1以下であることで、ポリマーBとの親和性を良好に維持できるため、ドレッシング材として良好な生体適合性を維持することができる。また、生体の細胞に対する毒性をより良好に抑制することができる。
上記同様の観点から、上記b/aは、5/95~99/1であることがより好ましく、5/95~95/5であることがさらに好ましく、40/60~80/20であることが特に好ましい。
なお、b/aは、核磁気共鳴装置(1H-NMR)を用いて測定する。
【0037】
本開示のドレッシング材は、前記ポリマーAが、主鎖に、下記式2aで表される構成単位又は下記式2bで表される構成単位の少なくとも1つを有することが好ましい。
【0038】
【化7】
式2a及び式2b中、*は主鎖における隣り合う構成単位との結合位置を表し、**は前記式1Aで表される構造及び前記カチオン性基の内、少なくとも一方を含む側鎖との結合位置を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル
基を表す。
上記アルキル基としては、メチル基が好ましい。
【0039】
前記ポリマーAが、主鎖に、上記式2aで表される構成単位又は上記式2bで表される構成単位の少なくとも1つを有することで、他の一般的なモノマーともラジカル重合にて共重合することができる。
【0040】
本開示のドレッシング材は、前記ポリマーAが、下記式3で表される構成単位を含むことが好ましい。
【0041】
【化8】
式3中、*は主鎖における隣り合う構成単位との結合位置を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。
上記アルキル基としては、メチル基が好ましい。
【0042】
<他の構成単位c>
ポリマーAは、本開示における効果を阻害しない範囲内で、構成単位a及び構成単位b以外の他の構成単位cを更に含んでいてもよい。
ポリマーA中に構成単位cを含む目的としては、様々な目的が考えられる。
例えば、ポリマーAにおける上記構成単位cの含有量を調整することで、ポリマーAの疎水性を調整してもよい。
【0043】
構成単位cは、官能基を有してもよい。
例えば、構成単位cは、長鎖アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、カルボキシ基、アミド基、チオール基、アジド基、ヒドロキシル基及び芳香族化合物から水素原子を1つ除いた基を有する構成単位等が挙げられる。
【0044】
本開示のドレッシング材は、好ましくは、前記ポリマーAが構成単位cを更に含み、前記構成単位cが、長鎖アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、カルボキシ基、アミド基、チオール基、アジド基、ヒドロキシル基及び芳香族化合物から水素原子を1つ除いた基から選ばれる少なくとも1つの官能基を側鎖に有する。
また、本開示のドレッシング材は、より好ましくは、前記ポリマーAが構成単位cを更に含み、前記構成単位cが、長鎖アルキル基、カルボキシ基、アミド基、チオール基、アジド基及び芳香族化合物から水素原子を1つ除いた基から選ばれる少なくとも1つの官能基を側鎖に有する。
【0045】
本開示のドレッシング材は、ポリマーAの疎水性を向上させる観点から、前記長鎖アルキル基の炭素数が、3~20であることが好ましく、3~10であることがより好ましい。
【0046】
ポリマーAの重量平均分子量としては、特に制限はないが、ポリマーBとの結合性及びドレッシング材の形成性の観点から、1000g/mol~1000000g/molが好ましく、3000g/mol~500000g/molがより好ましく、5000g/mol~200000g/molがさらに好ましい。
なお、重量平均分子量は、溶離液としてテトラヒドロフランを用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって測定し、標準ポリエチレンオキシド/ポリエチレングリコール換算にて求めた。詳細は次のとおりである。
・装置名:GPC(株式会社島津製作所製)
・カラム:SB-802.5HQ 及びSB-804HQ(Shodex、昭和電工株式会社製)
・検出器:RI検出器 RID-20A(株式会社島津製作所製)
・流速:1.0 mL/min
【0047】
ポリマーAの製造方法としては、特に制限はない。例えば、ポリマーAは、モノマーを混合した後、共重合させることで製造してもよい。
また、ポリマーAは、(リビング)ラジカル重合を使用することによって、その構造、組成等を制御することができる。さらに、共重合するモノマーの数や種類により抗菌性やポリマーAとの結合性を制御することもできる。
ポリマーAを製造するための具体的な方法としては、例えば、Y.Kotsuchibashi et al.,ACSMacroLett.2013,2,260-264.、
Y.Kotsuchibashi et al.,J.Phys.Chem.B2015,119,2323-2329.等に記載の方法が挙げられる。
【0048】
<ポリマーB>
本開示のドレッシング材は、下記式1Bで表される構造を含む構成単位を含むポリマーBを含む。
【0049】
【0050】
式1Bで表される構造を含む構成単位を含むポリマーBは、生体適合性に優れる材料であるため、本開示のドレッシング材はポリマーBを含むことで、生体適合性を向上させることができる。
【0051】
式1Bで表される構造を含む構成単位を含むポリマーBとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。
【0052】
ポリマーBの重量平均分子量としては、特に制限はないが、ドレッシング材の形成性の観点から、1000g/mol~3000000g/molが好ましく、5000g/mol~1000000g/molがより好ましく、10000g/mol~500000g/molがさらに好ましい。
なお、重量平均分子量は、上述の方法と同様の方法を用いて測定する。
【0053】
ポリマーBにおける式1Bで表される構造を含む構成単位のモル分率は、1~100であることが好ましく、10~100であることがより好ましく、30~100であることがさらに好ましい。
なお、モル分率は、核磁気共鳴装置(1H-NMR)を用いて測定する。
【0054】
ポリマーBとしては、市販品を用いてもよく、例えば、ポリビニルアルコール(Ardrich社製)、クラレポバール(株式会社クラレ製)、ポバール(日本酢ビ・ポバール株式会社製)等が挙げられる。
【0055】
本開示のドレッシング材において、抗菌性の強さ、効果を示すまでの速さは、混合するポリマーAの組成、ポリマーAとポリマーBとの混合比により制御することができる。
本開示のドレッシング材は、前記ポリマーBの全質量に対する前記ポリマーAの全質量(A/B)が、1/99~99/1であることが好ましい。
上記A/Bが1/99以上であることで、良好な抗菌性を維持することができる。
また、上記A/Bが99/1以下であることで、ドレッシング材として良好な生体適合性を維持することができる。また、生体の細胞に対する毒性をより良好に抑制することができる。
上記同様の観点から、上記A/Bは、10/90~99/1であることがより好ましく、10/90~95/5であることがさらに好ましく、20/80~60/40であることが特に好ましい。
【0056】
本開示のドレッシング材の具体例を以下に示すが、本開示のドレッシング材は以下の具体例には限定されない。なお、下記の具体例におけるnは繰り返し単位の数を表す。
【0057】
【0058】
上記具体例に係る式におけるCOは、上記具体例が共重合体(copolymer)であることを表す。
【0059】
<ドレッシング材の態様>
本開示のドレッシング材の態様としては、特に制限はないが、ゲル、ゾル、フィルム、薄膜等が挙げられる。
上記の中でも、生体への適合性に優れる観点から、本開示のドレッシング材は、ゲルを含むことが好ましい。
上記ゲルは、例えば、前記ポリマーAと前記ポリマーBとが、化学的又は物理的に結合することで形成することができる。
即ち、本開示のドレッシング材は、前記ポリマーAと前記ポリマーBとが結合してなるゲルを含むことが好ましい。
【0060】
本開示のドレッシング材は、上述の通り、前記ポリマーAと前記ポリマーBとの可逆的な結合により構成されるため、ドレッシング材の構造、強度、粘度等は、ポリマーA及びポリマーBの混合比等により制御することができる。
本開示のドレッシング材の態様としては、特に制限はないが、例えば本開示のドレッシング材は基材上に設けられていてもよい。
本開示のドレッシング材の形状としては特に制限はないが、例えば、表面がスムースな形状、表面に溝を有する形状等が挙げられる。
【0061】
<ドレッシング材の用途>
本開示のドレッシング材は、ポリマーAとポリマーBとを含むことで、様々な用途に用いることができる。上記用途としては、例えば、フィルム状の薄膜、カプセル、ナノファイバー等が挙げられる。
また、本開示のドレッシング材は、用途によって、ポリマーA及びポリマーBの濃度、混合比等を適宜調整してもよい。また、上記用途によって、本開示のドレッシング材を成型加工して用いてもよい。
【0062】
本開示のドレッシング材は、創傷被覆に用いられることが好ましい。
本開示のドレッシング材を創傷被覆に用いることによって、創傷部位において、良好な生体適合性を示し、かつ、微生物の増殖を良好に抑制することができる。
本開示のドレッシング材を用いた創傷被覆方法としては、本開示のドレッシング材を創傷に対して塗布する創傷被覆方法であってもよく、本開示のドレッシング材を基材に保持させ、上記基材に保持されたドレッシング材を創傷に対して付与する創傷被覆方法であってもよい。
【0063】
<ドレッシング材の製造方法>
本開示のドレッシング材の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
本開示のドレッシング材は、基本的にポリマーA及びポリマーBを混合することで製造することができる。つまり、本開示のドレッシング材は、非常に簡便かつ低コストで製造することができる。
また、本開示のドレッシング材は、圧縮を行う、又は、溶媒への溶解若しくは熱溶解による型への流し込みを行うことで、容易にその形状を変化させることができる。これによって、ドレッシング材の表面構造をスムースにすること、センチメートルからマイクロ/ナノサイズまでの溝、パターン等を転写すること等が可能である。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0065】
(実施例1)
(ポリマーAの作製)
反応器に、式1Aで表される構造を有する化合物である5-メタクリルアミド-1,2-ベンゾオキサボロール20モル%と、カチオン性基を有する化合物である[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド50モル%と、メタクリル酸30モル%と、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを10mLのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解し、70℃にて、20時間反応させた。全モノマー量は20mmolであり、全モノマーと開始剤とのモル比(全モノマー/開始剤)は200である。メタクリル酸はポリビニルアルコールとの化学架橋による水中安定性のさらなる向上の目的で添加した。
上記反応後、ポリマーAとして下記式で表されるポリマーA-1を得た。
上記で得られるポリマーA-1の分子量は35000g/molである。ポリマーA-1において、前記構成単位aに対する前記構成単位bのモル比が(b/a)は、89/11であった。なお、b/aは核磁気共鳴装置JNM-GSX300(日本電子株式会社製)を用いて測定した。
【0066】
【0067】
上記ポリマーA-1に係る式におけるCOは、上記ポリマーA-1が共重合体(copolymer)であることを表す。
【0068】
(ゲルの作製)
水、又は水/エタノール混合溶媒5mL中に、上記で作製したポリマーA-1を300mg(50質量%となる量)と、ポリビニルアルコール(PVA、Ardrich社製、重量平均分子量:89000g/mol~90000g/mol、ポリマーB)300mg(50質量%となる量)をそれぞれ溶解した。その後、ポリマーA-1及びポリマーBを室温にて数分間混合した後、乾燥させることでゲルフィルムを得た。
【0069】
(実施例2~実施例5)
ポリマーA-1及びポリマーBの添加量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にしてゲルフィルムを得た。
【0070】
(比較例1)
ポリマーA-1の代わりに、式1Aで表される構造を含まないポリ([2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド-メタクリル酸)共重合体を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行ってゲルを得ようと試みた。
その結果、ポリ([2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド-メタクリル酸)共重合体とポリマーBとを良好にブレンドすることができず、安定性を備えるゲルフィルムを得ることができなかった。
【0071】
-評価-
(ゲルのFT-IR測定)
実施例において得られたゲルについて、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR-6100、日本分光株式会社製)を用いて、FT-IR(フーリエ変換赤外分光)測定を行った。
その結果、実施例1~実施例5に係るゲルフィルムについて、ポリマーBのOH基に由来するピークが約3319cm-1に観測された。また、ポリマーA-1のC=O基に由来するピークが約1750cm-1が観測された。つまり、ゲルフィルム中にて、ポリマーA-1及びポリマーBが良好にブレンドされていた。
【0072】
(抗菌性)
各実施例に係るゲルを用いてフィルムを製造し、上記フィルムの抗菌性について以下の方法により評価した。
上記フィルム上に大腸菌等の細菌細胞懸濁液を播種して20分間静置した後、静置後のフィルムにおける細菌細胞に対して染色を行った。そして、以下の評価基準に従い、染色後のフィルムについて抗菌性を評価した。
実施例に係るフィルムにおいて、生細菌の減少及び死細菌の増加が確認され、実施例に係るフィルムは抗菌性を示した。
【0073】
(安定性)
実施例に係るフィルムの安定性について、水中での溶出性試験を行い、以下の評価基準に従って評価した。
具体的には、温度80℃の過剰量の水に、実施例に係るフィルムを3時間浸漬させて、上記フィルムからの成分の溶出を確認した。
なお上記フィルムは、ポリマーA-1のメタクリル酸部位とポリビニルアルコールとの化学架橋により水中での安定性をさらに向上させるため、所定時間加熱した。
~評価基準~
A:フィルムに含まれる成分の溶出が全く確認されなかった。
B:フィルムに含まれる成分の溶出が多少確認されたが、実用上は問題ない程度であった。
C:フィルムに含まれる成分の溶出が確認され、実用上問題となる。
【0074】
【0075】
表1に示す通り、実施例に係るドレッシング材は、良好な安定性を示した。
中でも、ポリマーBの全質量に対するポリマーAの全質量(A/B)が、50/50である実施例1、及び、25/75である実施例2において、特に安定性が優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上詳細に説明したように、本開示によれば、式1Aで表される構造を含む構成単位aとカチオン性基を含む構成単位bとを含むポリマーA、及び、式1Bで表される構造を含む構成単位を含むポリマーBを混合することにより、簡便にドレッシング材を調製することができる。また、本開示によれば、ドレッシング材の抗菌性、その他の物理化学的な性質等を制御することができるため、例えば、既存の抗菌性ドレッシング材においてしばしば見受けられる薬剤耐性菌の発生、金属アレルギーの発生等を抑制することもできる。本開示のドレッシング材は、抗菌性ドレッシング材として広く利用することができる。