IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シンバイオシス リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-衝撃吸収構造 図1
  • 特許-衝撃吸収構造 図2
  • 特許-衝撃吸収構造 図3a
  • 特許-衝撃吸収構造 図3b
  • 特許-衝撃吸収構造 図3c
  • 特許-衝撃吸収構造 図3d
  • 特許-衝撃吸収構造 図3e
  • 特許-衝撃吸収構造 図4
  • 特許-衝撃吸収構造 図5
  • 特許-衝撃吸収構造 図6
  • 特許-衝撃吸収構造 図7
  • 特許-衝撃吸収構造 図8
  • 特許-衝撃吸収構造 図9
  • 特許-衝撃吸収構造 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-06
(45)【発行日】2023-04-14
(54)【発明の名称】衝撃吸収構造
(51)【国際特許分類】
   F41H 5/04 20060101AFI20230407BHJP
【FI】
F41H5/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020572632
(86)(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 GB2019050673
(87)【国際公開番号】W WO2019175557
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】1803899.2
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】520352104
【氏名又は名称】シンバイオシス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SYNBIOSYS LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】ティアー, ギャレス
【審査官】谷川 啓亮
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0136702(US,A1)
【文献】特表2014-509265(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0226527(US,A1)
【文献】特開2010-210217(JP,A)
【文献】特表2016-526141(JP,A)
【文献】国際公開第2008/105889(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F41H 5/00 - 5/26
B01J 3/00 - 3/08
B32B 27/00 - 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)最初の衝突衝撃波を受けた後、その衝撃波を少なくとも第1衝撃波と当該第1衝撃波から時間的間隔を置いた第2衝撃波とに分離できる衝突受け部材と、
ii)前記衝突受け部材に隣接するエネルギー消散部材とを備え、前記時間的間隔を置いた各衝撃波は、前記衝突受け部材から前記エネルギー消散部材に至る境界面を通過するようになっており、当該エネルギー消散部材は、前記第1衝撃波を経験すると第1相から第2相への第1変位型相変化を示し、後の前記第2衝撃波を経験すると前記第2相から第3相への第2変位型相変化を示し、そして、前記第2衝撃波の後の負荷解除時に前記第3又はそれ以降の相から前記第1相への第3変位型相変化を示す化学元素又は化合物を含み、当該化学元素又は化合物は、それにより、弾性エネルギーが消散されるヒステリシスサイクルを示す、衝撃吸収構造。
【請求項2】
前記化学元素又は化合物は格子構造を有する、請求項1に記載の衝撃吸収構造。
【請求項3】
前記化学元素又は化合物は、方解石、二酸化チタン、シリカ、ケイ酸マグネシウム、ナトリウム、又は鉄である、請求項2に記載の衝撃吸収構造。
【請求項4】
前記衝突受け部材は、マグネシウム、ペリクレース、溶融シリカ、ポリカーボネート、PMMA、アルミニウム、エタノール、空気、又は水である、請求項1から3のいずれか1項に記載の衝撃吸収構造。
【請求項5】
前記衝突受け部材の衝撃インピーダンスは、エネルギー消散部材の衝撃インピーダンスよりも低い、請求項1から4のいずれか1項に記載の衝撃吸収構造。
【請求項6】
前記衝突受け部材の層及びエネルギー消散部材の層により形成された積層体を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の衝撃吸収構造。
【請求項7】
前記化学元素又は化合物の粒子の分布を含む衝突受け部材の基盤を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の衝撃吸収構造。
【請求項8】
前記衝突受け部材及びエネルギー消散部材は、前記衝突受け部材が最初の衝突衝撃波を受けた後、当該最初の衝突衝撃波が前記衝突受け部材と前記エネルギー消散部材との間の境界面で反射された結果として前記第1衝撃波と前記第1衝撃波から時間的間隔を置いた前記第2衝撃波とに分離されるように構成された、請求項6又は7に記載の衝撃吸収構造。
【請求項9】
前記化学元素又は化合物は方解石であり、且つ、前記衝突受け部材はポリカーボネートである、請求項5から8のいずれか1項に記載の衝撃吸収構造。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の衝撃吸収構造を備えた、防護具又は防護ケーシング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の衝撃吸収構造は、衝突中にエネルギーを消散させるように設計された複合材料を備えている。例えば、Kevlar(登録商標)として販売されているアラミド繊維の複合材は、弾道衝突において比較的多量のエネルギーを消散させる能力があることから、弾道衝突に対する防護具に広く用いられている。しかしながら、従来の衝撃吸収構造においては、衝突中に構造体に与えられたエネルギーは、当該構造体の大きな塑性変形と摩擦に基づく内部仕事(侵入型摩擦;interstitial friction)とによって消散する、という問題がある。そのような変形は不可逆的であるため、当該構造は限られた寿命を有し、有限回数の衝突事象の後には交換が必要となる。
【0003】
特定の材料は、弾性荷重の負荷及びその負荷解除時にヒステリシスサイクル(hysteresis cycle)を示し、エネルギーが当該材料内で消散され、且つ、当該材料が元の変形前の状態に戻ることができる。方解石は、そのような材料の一例である。
【0004】
弾性荷重の負荷及びその負荷解除時にエネルギーを消散させる方解石の能力は、負荷サイクル中に材料が複数の変位型相変化を経験することによるものである。変位型相変化は、材料の原子が結晶格子の移動や歪みによって再配列するものであり、したがって、非常に高速で且つ可逆的である。
【0005】
図1に準静水圧荷重の負荷及びその負荷解除下で方解石結晶により示されるヒステリシスサイクルを概略的に示す。図1において、x軸は荷重“P”を表し、y軸は材料内のひずみ“L-L/L”を表す。図1で見られるように、“X”で表示された矢印の方向の負荷の開始時には、方解石は最初の相である相I(図1で“I”と表示)にあり、荷重“A”で“I-II”と表示された最初の相変化が始まり、相I方解石は相II方解石に変わる。“II”と表示された相II方解石に対してさらに荷重が作用すると、荷重“B”に達し、“II-III”と表示された2番目の相変化が始まる。2番目の相変化の間に、相II方解石は相III方解石になる。3番目の相(図1で“III”と表示)にある間に相III方解石が荷重“C”まで負荷され、その後、“Y”と表示された矢印の方向に負荷が解除される。負荷の解除中に荷重“D”に達すると、“III-I”と表示された3番目の相変化が始まり、相III方解石が相I方解石に変わる。その後、相I方解石は、完全に負荷が解除されて、元の変形していない形状に戻る。図1のプロットから分かるように、荷重の負荷及び負荷解除の中で生じる相変化の結果は、弾性エネルギーが消散されるヒステリシスサイクルである。
【0006】
方解石は、その衝撃圧縮について研究されており、衝突中に方解石が相変化するまで該方解石を圧縮する衝撃波が当該方解石の内部に生じうることが観察されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Grady, D. E. (1986). High-Pressure Release-Wave Measurements and Phase Transformation in CaCO3. In Y. M. Gupta (Ed.), Shock Waves in Condensed Matter (pp. 589-593). Spokane, WA: Springer US.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、通常の衝突条件(つまり、衝撃シーケンスが適切に設計されていない場合)では、材料を通過する最初の衝撃により、自動的に方解石が相Iから相IIIに転移し、相Iから相IIへの相変化を迂回する。これは、I-III衝撃波速度がI-II衝撃波速度よりも速いことによる。相IIを迂回した結果を図2の概略的なヒステリシスサイクルにて示す。図示のとおり、“I-III”で表示した相Iから相IIIへの相変化は、負荷時に荷重“A’”と荷重“B’”との間で発生し、相IIIから相Iへの相変化“III-I”は、負荷解除時に当該荷重と略同じ荷重の間で発生する。そのため、消散されるエネルギーは、図1のヒステリシスサイクルの場合と比べて遥かに少なくなる。
【0009】
本発明は、上記の問題を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1の態様によれば、最初の衝突衝撃波を受けた後、その衝撃波を少なくとも第1衝撃波と当該第1衝撃波から時間的間隔を置いた第2衝撃波とに分離できる衝突受け部材と、当該衝突受け部材に隣接するエネルギー消散部材とを備え、上記時間的間隔を置いた各衝撃波は、衝突受け部材からエネルギー消散部材に至る境界面を通過するようになっており、上記エネルギー消散部材は、第1衝撃波を経験すると第1相から第2相への第1変位型相変化を示し、後の第2衝撃波を経験すると第2相から第3相への第2変位型相変化を示し、そして、第2衝撃波の後の負荷解除時に第3又はそれ以降(例えば、第4、第5、第6等)の相から第1相への第3変位型相変化を示す化学元素又は化合物を含み、当該化合物は、それにより、弾性エネルギーが消散されるヒステリシスサイクルを示す、衝撃吸収構造が提供される。
【0011】
言い換えると、上記エネルギー消散部材は、第1相から第2相への第1変位型相変化、第2相から第3相への第2変位型相変化、第3相から第4相、第4相から第5相等、第n相までの可能なそれ以上の任意の数(0を含む)の相変化、及び、第2衝撃波後の負荷解除の際に第n相から第1相への最後の変位型相変化を示す化学元素又は化合物を含む。“第n相”は、第3相、第4相、第5相、第6相等である。
【0012】
本発明は、発射体との衝突に続いて化学元素又は化合物の特定の変位型相変化を連続的に引き起こす衝撃伝播シーケンスが構造内部で発生するよう、衝撃吸収構造を設計できることを認識している。そのような衝撃伝播シーケンスを設計することにより、化合物又は化学元素のヒステリシスサイクルを利用して発射体との衝突で衝撃吸収構造に与えられたエネルギーを消散させることができる。このような衝撃吸収構造は、エネルギーを消散できることに加え、完全なヒステリシスサイクルの後には衝撃を受けていない未変形の元の形状に戻ることができるため、材料が潜在的破損を起こす前に複数のヒステリシスサイクルを許容するものとなる。
【0013】
上記衝撃吸収構造は、特に弾道衝突に適している。この場合の弾道衝突は、発射体が100メートル/秒から300キロメートル/秒の範囲で衝撃吸収構造に衝撃を与えるもの、として定義する。
【0014】
上記化学元素又は化合物は、格子構造を有しうる。化学元素又は化合物は、複数の変位型相変態を示し、弾性的な負荷及びその負荷解除時にエネルギーが消散するヒステリシス曲線を示すものであれば、どのようなものでもよい。化学元素又は化合物は、方解石、二酸化チタン、シリカ、ケイ酸マグネシウム、ナトリウム、又は鉄でありうる。上記衝突受け部材は、マグネシウム、ペリクレース、溶融シリカ、ポリカーボネート、PMMA(ポリ(メチルメタクリレート))、又はアルミニウムでありうる。衝突受け部材は、エタノール、空気、又は水でもよい。
【0015】
上記衝突受け部材の衝撃インピーダンスは、化学元素又は化合物の衝撃インピーダンスよりも低くできる。発射体の衝撃により生成された単一の入射衝撃波をエネルギー消散部材にてヒステリシスを誘発する適切な速度と時間距離を有する2つ以上の衝撃波に分離する衝突受け部材の許容能力は、衝突受け部材の衝撃インピーダンスに依存する。材料の衝撃インピーダンスZは、材料の密度ρと、材料の音速Uとの関数であり、次式で表せる。
Z = ρ
【0016】
ここで、“材料”という用語は、衝突受け部材、及び/又は、化学元素若しくは化合物を指すために用いる。上記衝突受け部材の衝撃インピーダンスは、衝突受け部材に衝撃を与えうる発射体の衝撃インピーダンスよりも低くなるように選択できる。発射体は、銅、アルミニウム、鋼、鉛、炭化タングステン、若しくはタンタルを含むか、又はそれらから構成されていてもよい。
【0017】
上記衝撃吸収構造は、衝突受け部材の1つの層(又は2つ以上の層)及びエネルギー消散部材の1つの層(又は2つ以上の層)によって形成された積層体の形態であってもよい。衝撃吸収構造は、化学元素又は化合物の粒子の分布を含む衝突受け部材の基盤を含んでもよい。その粒子は、ランダムな形状でよく、衝突受け部材の基盤内にランダムに分布/分散してよい。また、衝撃吸収構造は、明確な幾何学的形状の上記化学元素又は化合物の粒子が、明確な幾何学的順序で衝突受け部材の基盤内に分布/分散したレンガやモルタルの構造を持つものでもよい。
【0018】
上記衝突受け部材及びエネルギー消散部材は、衝突受け部材が最初の衝突衝撃波を受けた後、最初の衝突衝撃波が衝突受け部材とエネルギー消散部材との間の境界面で反射された結果として第1衝撃波と当該第1衝撃波から時間的間隔を置いた第2衝撃波とに分離されるように構成できる。上記衝撃吸収構造は、第2衝撃波が最初の衝突衝撃波の反射であり、第2衝撃波が反射して衝突受け部材に戻され、衝突受け部材を通って衝突受け部材と衝突受け部材に衝突した発射体との間の境界面に到達するように構成できる。第2衝撃波は、衝突受け部材と衝突受け部材に衝撃を与えた発射体との間の境界面で反射されうる。そのような反射の後、第2衝撃波は、第1衝撃波と同じ方向に進みうるが、第1衝撃波よりも遅い時間にエネルギー消散部材に入るように第1衝撃波の後ろを進むため、第2衝撃波と第1衝撃波との間に時間的な間隔が生じる。
【0019】
好ましくは、上記の化学元素又は化合物は、方解石である。衝撃伝播シーケンスを適切に設計することにより、方解石を第1衝撃波によって相I方解石から相II方解石に、次いで、第2衝撃波によって相II方解石から相III方解石に変えて常圧へと解放できる。この過程の間、方解石は1立方メートルあたり推定4メガジュールを消散する。これは、例えば、Kevlar(登録商標)で消散されるエネルギーよりも1桁低い値である。但し、Kevlar(登録商標)繊維の靭性は、破壊に対する大きな塑性ひずみ(最大10%)の結果である。これに対して、方解石が受けるひずみは2%以下である。方解石の比較的高速な音速(ポリマー繊維の場合は2キロメートル/秒であるのに対し、方解石の場合は7キロメートル/秒)と相まって、現在の繊維ベースの衝撃吸収構造で達成できるよりもはるかに大きな容量で、且つ、はるかに速くエネルギー消散を達成できる。方解石のエネルギー吸収密度と音速は、方解石が1平方メートルあたり100キロジュール/マイクロ秒のエネルギーを消散できることを意味する。ヒステリシスのメカニズムは、衝撃速度で伝播する基本的な熱力学的プロセスであるため、最大で7キロメートル/秒の速度で移動する発射体に対して効果的である。
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様に係る衝撃吸収構造を備えた防護具又は防護ケーシングも提供される。
【0020】
上記防護具は、建物や、タンク、トラック、飛行機、ヘリコプター、飛行船、船、或いは潜水艦のような乗り物に適用できる。防護具は、建物や乗り物の窓が爆発に耐え、破片を防ぎ、弾丸から守られるよう、それらの窓を保護するものであってもよい。特に建物は、空港、鉄道又はバスの駅、スタジアム、オーディトリアム、外交の及び/又は政府の建物、エネルギー生成サイト、又は、工業団地の一部でもよい。防護具は、軍用と民間用の両用途で使用する個人的防護に係るものでもよい。防護ケーシングは、高エネルギー/爆発性の材料(例えば、爆発物又はロケット推進剤)や高感度性の各種軍需品のためのケーシングであってもよい。
【0021】
勿論、本発明の一態様に関して説明した特徴が本発明の他の態様に組み込まれてもよいことは理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は方解石の準静水圧の負荷及び負荷解除の間に示されるヒステリシスサイクルを概略的に示す。
図2図2は単一衝撃圧縮下における方解石の負荷時及び負荷解除時のヒステリシスサイクルを概略的に示す。
図3a図3aは本発明の第1実施形態に係る衝撃吸収構造に接近する発射体の概略図である。
図3b図3bは衝突受け部材が発射体との衝突を受けた直後の衝撃吸収構造の概略図である。
図3c図3cは図3bに対応するが、その後、第1衝撃波S11がエネルギー消散部材に入った時点に関するものである。
図3d図3dは図3cに対応するが、その後、衝撃波S11がエネルギー消散部材の中をさらに進み、衝撃波S12に接近した時点に関するものである。
図3e図3eは図3dに対応するが、その後、衝撃波S122がエネルギー消散部材の中に入り、衝撃波S11に追従し、それによりヒステリシスサイクルを完成ならしめた時点に関するものである。
図4図4は銅製の発射体との衝突後における衝撃吸収構造を介した衝撃波伝播の概略的な位置-時間プロットを示す。
図5図5は銅製の発射体との衝突後における本発明の第2又は第3実施形態に係る衝撃吸収構造を介した衝撃波伝播の概略的な位置-時間プロットを示す。
図6図6は銅製との発射体との衝突後における本発明の第4実施形態に係る衝撃吸収構造を介した衝撃波伝播の概略的な位置-時間プロットを示す。
図7図7は本発明の第4実施形態に係る防護具を示す。
図8図8は本発明の第5実施形態に係る防護具ケーシングを示す。
図9図9は衝撃吸収構造試験片の概略的な断面図を示す。
図10図10は銅製の発射体との衝突後における衝撃吸収構造を介した衝撃波伝播の他の概略的な位置-時間プロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付の概略図を参照して、本発明の実施形態を単なる例示として説明する。
【0024】
本発明の第1実施形態に係る衝撃吸収構造1を図3aに概略的に示す。衝撃吸収構造1は、方解石層5に隣接するポリカーボネート層3を含む積層体の形態で示されている。その中のポリカーボネート層3は、衝突受け部材として機能し、方解石層5は、エネルギー消散部材として機能する。積層体は、以下でより詳細に説明するように、衝突受け部材が図3aに示す矢印の方向に移動する銅製の発射体7との衝突を受けると、方解石の負荷解除前に相Iから相IIへの相変態と相IIから相IIIへの相変態の両方が連続的に起こり、それにより、図1に対応するヒステリシスサイクルを発生させる衝撃伝播シーケンスが生じるように設計されている。
【0025】
次に、衝撃吸収構造1が発射体7と衝突する際に発生する衝撃伝播シーケンスについて、図3bから図3eを参照して説明する。図3bは、ポリカーボネート層3の表面との衝突時の発射体7を示しており、衝撃波S1がポリカーボネート層3に伝播し、衝撃波S2が衝撃波S1の進行方向とは反対方向を向き発射体7に伝播する様子を示している。そして、図3cに示すように、衝撃波S1は、ポリカーボネート層3と方解石層5との間の境界面に到達し、衝撃波S11と衝撃波S12とに分かれる。衝撃波S11は、相I方解石層5に伝播し、相I方解石層5を通過するときに相Iから相IIへの相変態を起こし、相II方解石52を後に残す。衝撃波S12は、ポリカーボネート/方解石の境界面で反射し、衝撃波S11とは反対方向に進みポリカーボネート層3に戻ってくる。
【0026】
図3dは、衝撃伝播シーケンスにおけるその後の時点、すなわち、衝撃波S12が発射体7とポリカーボネートとの境界面で反射し、今や衝撃波S11と同じ方向に進んでいる様子を示している。衝撃波S12は、ポリカーボネート/方解石の境界面に到達すると、図3eに示すように、衝撃波S121と衝撃波122の2つの成分に分かれる。衝撃波S121は、反射してポリカーボネート層3に戻ってくる。しかし、衝撃波S122は、相II方解石52になっている方解石層5に伝搬し、衝撃波S11に追従する。衝撃波S11から時間的間隔を置いた衝撃波S12は、相II方解石層を通過するときに相IIから相IIIへの相変態を起こし、相III方解石53を後に残す。衝撃波S122は、衝撃波S11よりも速く移動するため、方解石層5が十分に厚ければ、衝撃波S122はやがて衝撃波S11に追いつき、衝撃波S11を捕らえることになる。その後の波の反射と減衰の間に、相III方解石53の負荷が解除され、それにより、相IIIから相Iへの相変態を起こし、衝撃吸収構造1内の方解石は、図1に対応するヒステリシスサイクルを経験することになる。
【0027】
この衝撃伝播シーケンスの特定のタイプが生ずるためには、衝突受け部材(この場合は、ポリカーボネート)の衝撃インピーダンスが、エネルギー消散部材(この場合は、方解石)の衝撃インピーダンスよりも低くなければならず、また、発射体7(この場合は、銅)の衝撃インピーダンスよりも低くなければならない。ヒステリシスサイクルによって吸収されるエネルギーを最大化するためには、衝撃波S11によって、相I方解石を、安定領域で可能な最高圧にある相II方解石に変換する必要がある。
【0028】
さらに、方解石層5の厚さは、最適化できる。図4は、銅製の発射体7との衝突後におけるポリカーボネート及び方解石を介した衝撃波伝播の概略的な位置-時間プロットを示したものであり、時間はマイクロ秒でy軸に表し、位置はミリメートルでx軸に表す。x軸に沿って、“Cu”で表示した領域は銅の発射体7を表し、“Pc”で表示した領域はポリカーボネート衝突受け層3を表し、“I”で表示した領域は相I方解石を表し、“II”で表示した領域は相II方解石を表し、“III”で表示した領域は相III方解石を表す。図4に示すように、銅製の衝突体は、エネルギー吸収構造1と衝突してポリカーボネート層3に衝撃を与え、波S11となって方解石層5に伝播する波S1を生成し、相I方解石から相II方解石への相転移を引き起こす。ポリカーボネート内の反射した衝撃S12は、約0.4マイクロ秒後に、相II方解石から相III方解石への相変態を起こす衝撃S122として方解石に戻される。すでに説明したように、波S122は波S11よりも速いため、時刻t=0.9マイクロ秒でその前方の波S11に追いつく。この場合の最適な方解石の厚さは、550ミリメートルであり、図4においてTと表示された位置で方解石の波S122が波S11と交わるところである。衝撃S122が衝撃S11を追い越すと、衝撃S11は、相I方解石を通過して、図2に示すヒステリシスサイクルにおける相Iから相IIIへの相変態を起こし、エネルギー消散の観点から好ましくない。
【0029】
実際には、最適な厚さを実験的に決定する必要があることを意味する、考慮すべき更なる弾性衝撃がある(例えば、ポリカーボネート/方解石の境界での初期波は、方解石内に2つの波、つまり、方解石I圧縮波と相Iから相IIへの相変態を起こす波とを発生させる)。
【0030】
図4の波の位置と時間の枠は、説明の目的で割り当てたものに過ぎない。実際には、方解石で観察される位置と時間の枠は異なるであろう。図10は、銅製の発射体との衝突によって生じる、260ミリメートルの厚さのポリカーボネート層を有する衝撃吸収構造を介した衝撃波伝播の概略的な位置-時間プロットを新しくしたものである。図10は、方解石で観察される波の位置と時間の枠をより正確に表している。ポリカーボネート内の反射した衝撃S12は、約0.3マイクロ秒後に、相II方解石から相III方解石への相変態を起こす衝撃S122として方解石に戻される。すでに説明したように、波S122は波S11よりも速いため、時刻t=0.98マイクロ秒でその前方の波S11に追いつく。この場合の最適な方解石の厚さは5ミリメートルであり、図10においてTと表示された位置で方解石の波S122が波S11と交わるところである。
【0031】
衝突受け部材がエネルギー消散部材及び発射体の衝撃インピーダンスよりも低い衝撃インピーダンスを有する実施形態を参照して、本発明の説明及び図示を行った。しかしながら、本発明が本明細書に具体的に示されていない種々の異なる形態においても適することは、当業者において理解されるであろう。以下、あくまでも一例として、特定の実現可能な形態について説明する。
【0032】
本発明の第2実施形態によれば、所望のヒステリシスサイクルは、早い弾性波速度、遅い塑性波速度、及び、相転移に関与する適切な圧力を伴う‘弾性先行波(elastic precursor)’(すなわち、主な塑性変形波よりも先を進む純粋な弾性衝撃波)を生成する降伏点を有する衝突受け部材を用いて実現できる。当該構成に対応する概略的な位置-時間のプロットを図5に示す。図5において、矢印“W”は、弾性波/塑性波の分離を示している。
【0033】
本発明の第3実施形態によれば、ランプ生成衝突受け部材が用いられる。一部の材料、例えば、溶融シリカや密度が段階的に変化する材料は、衝撃直後の真の衝撃ではなく、先行‘ランプ’(すなわち、マイクロ秒程度以上の圧力の安定上昇)を生じる。このような衝突受け部材を使用すると、エネルギー消散部材が相変態するのに必要な時間を確保できるため、単一の最適化された衝撃を与えるのと同様の効果がある。当該構成に対応する概略的な位置-時間のプロットを図6に示す。図6において、“V”と表示された矢印は、ランプ先行波(ramp precursor wave)を示している。
【0034】
本発明の第4実施形態に係る防護具100を図7に示す。防護具100は、本発明の第1実施形態に係る衝撃吸収構造1を備えている。当該防護具は、建物や、タンク、トラック、飛行機、ヘリコプター、飛行船、船、或いは潜水艦のような乗り物に使用できる。防護具は、建物や乗り物の窓が爆発に耐え、破片を防ぎ、弾丸から守られるよう、それらの窓を保護するために使用できる。或いは、防護具は、軍用と民間用の両用途で使用する個人的防護のために使用できる。
【0035】
本発明の第5実施形態に係る防護ケーシング200を図8に示す。防護ケーシング200は、本発明の第1実施形態に係る衝撃吸収構造1を備えている。防護ケーシングは、高エネルギー/爆発性の材料(例えば、爆発物又はロケット推進剤)や高感度性の各種軍需品のためのケーシングとして使用できる。
【0036】
前述の説明において、既知の、明白な、或いは予測可能な同等物を有する完全体又はその構成物が言及されている場合には、そのような同等物は、個々に記載されているものとして本明細書に含まれる。本発明の真の範囲を決定するためには、特許請求の範囲を参照すべきであり、本発明の真の範囲は、そのような如何なる同等物も包含するように解釈されるべきである。また、好ましい、有利、好都合などとして説明した本発明の完全体又は特徴は、任意事項であり、独立請求項の範囲を限定しないことは、読者において理解されるであろう。さらに、そのような任意事項の完全体又は特徴については、本発明のいくつかの実施形態では最大限に有益となりうる一方で、他の実施形態では望ましいものではなく欠けたるものかもしれない。
【0037】
<実験>
衝撃試験は、衝撃吸収構造の種々の構成で実施した。平坦を確保するためワイヤーカットし且つ低粘度のエポキシを使用してサボットに取り付けた発射体をライトガスガンで加速した。衝撃吸収構造試験片10の概略的な断面図を図9に示す。この場合の試験に用いた衝撃吸収構造は、衝突受け部材11の層と、比較的厚いPMMAバッキングリング15に接着されたエネルギー消散部材13の層とを含む積層体であった。衝突受け部材11の前面17に発射体を衝突させ、当該衝突中にレーザー干渉計を使用して、図9においてLと表示した位置でエネルギー消散部材13の後面19の表面速度を測定した。表面速度は、フォトニックドップラー速度測定器を使用して取得したものである。最初の衝撃により方解石に加わる圧力は、発射体の衝突速度を測定し、衝突体のユゴニオ(Marshによる測定)と方解石のユゴニオ(AhrensとGradyによる測定)とを比較することにより決定した。これらの文献において、ユゴニオは、対称衝撃、圧力=密度*(衝撃速度)*(粒子速度) ランキン-ユゴニオ跳躍条件(Rankine-Hugoniot jump condition)を使用して測定された。(Grady(既述). Marsh, S.P. (Ed.). (1980). LASL Shock Hugoniot Data (1st ed.). Los Angeles: University of California Press. Ahrens, T. J., & Gregson, V. G. (1964). Shock compression of crystal rocks: Data for quartz, calcite, and plagioclase rocks. J. Geophys. Res., 69(22), 4839-4874)。方解石層内の相変化は、衝撃波の不安定性(後面の粒子速度の不連続性)を観察することによって決定され、各不安定性は相変化に対応し、跳躍のサイズは相に対応する。相変化により引き起こされる速度の不連続性の挙動は、Duvall (Duvall, G., & Graham, R. A. (1977). Phase transitions under shock-wave loading. Reviews of Modern Physics, 49(3), 523-579. http://doi.org/10.1103/RevModPhys.49.523)によって詳細に説明されている。
【0038】
可能な限り一次元に近い条件を確保するためには、発射体の平坦面が衝突受け部材の平坦面に衝突するよう、発射体が飛行中に回転しないようにすることが重要となる。このため、各衝撃吸収構造試験片を銃口の近くに取り付け且つレーザーを用いて銃砲身と垂直を成すようにした。
【0039】
6回の試験を実施した。試験条件を表1に示す。表1は、使用した発射体、積層体の衝突受け部材(I.R.C)、エネルギー消散部材(E.D.C)の材質、及び発射体の衝突速度(メートル/秒[m/s])を示している。表2は、試験結果を示しており、第1衝撃の特性、及び存在する場合には第2衝撃の特性を示している。表2は、第1と第2の衝撃について、方解石内に作用したギガパスカル(GPa)単位の圧力と、衝撃によって引き起こされた方解石の相変化を示している。第1衝撃及び第2衝撃に関し、相Iは相変化が無いことを示し、相IIは相Iから相IIへの相変化を示す。第1衝撃に関する相IIIは、相Iから相IIIへの相変化を示し、第2衝撃に関する相IIIは、第1衝撃で変化した相から相IIIへの相変化を示している。第1衝撃相がIIであり第2衝撃相がIIIである試験2及び試験6のみがエネルギーを吸収する。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10